説明

金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料

【課題】本発明の目的は、金属材料上への種々機能、様々な構造上の種々酸化物被膜及び/又は水酸化物被膜の水溶液からの製造方法と、その被膜を有する金属材料を提供することにある。
【解決手段】金属イオンと該金属イオンに対してモル比で4倍以上のフッ素イオンを含む、及び/又は、金属と該金属に対してモル比で4倍以上のフッ素を含有する錯イオンを含む、pH2〜7の処理水溶液中に、金属材料を浸漬することで、あるいは導電性材料を電解することで、該金属材料表面に前記金属イオンを含む金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被膜金属材料の製造方法と、本方法で作製された金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を有することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被膜金属材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々酸化物被膜の製造方法としては、スパッタリング法やCVD法等の気相法とゾルゲル法等の液相法があるが、以下のような制約を有していた。
【0003】
気相法は、気相において基材上に成膜を行うものであり、真空系を得るための高価な設備が必要である。さらに、成膜をするにあたって、あらかじめ基材を加熱するため、その手段も必要となる。また、凹凸や曲面を有する基材に成膜することは困難である。
【0004】
一方、液相法であるゾルゲル法は、塗布後焼成が必要であり、そのため、クラックの発生や基材からの金属の拡散の影響を受ける。また、揮発分があるため、緻密な被膜の形成は困難である。
【0005】
液相法の一つであるフルオロ錯イオン等のフッ素化合物水溶液を用いる液相析出法においては、上記のような真空を得るための高価な設備は必要とせず、基材を高温度に加熱しなくても成膜でき、さらには異形の基材にも薄膜を形成することができる。しかしながら、これらの溶液は腐食性があるため、主に、ガラスや高分子材料、セラミックス等の非金属材料を基材として行われてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これ対して、特開昭64−8296号公報では、金属、合金、半導体基材、等の少なくとも表面の一部に導電性を有する基材表面に、二酸化珪素被膜を製造する方法が提案されている。しかし、基材への影響については、本文中に「該処理液にホウ酸、アルミニウムなどを加えてエッチングされないようにしておくことも可能である」とあるのみで、これでは不十分である。また、新田誠司ら、材料、Vol.43,No.494,pp.1437−1443(1994)では、アルミニウムと基材であるステンレス鋼と接触させて、溶液に浸漬し析出させているが、この液pHでは、基材表面での水素ガス発生反応が激しく、健全な被膜の形成は困難である。
【0007】
本発明の第1の側面では、上記事情に着目し、種々表面形状を有する金属材料に、熱処理することなく、もしくは低温熱処理のみで、従来ではなしえなかった酸化物被膜及び/又は水酸化物を迅速に成膜すること、及び、金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料を提供することを目的とする。
【0008】
また、液相法の一つであるフルオロ錯イオン等のフッ素化合物水溶液を用いる液相析出法においては、特許第2828359号等の実施例に記されているように、成膜には数十時間の長時間を有し、成膜速度が低いことが問題であった。
【0009】
そこで、本発明の第2の側面では、上記事情に着目し、熱処理することなく、もしくは低温熱処理のみで、従来ではなしえなかった酸化物及び/又は水酸化物被膜を導電性材料上に迅速に成膜すること、及び、金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ね、以下のことを見出した。
【0011】
本発明の第1の側面の処理液中では、フッ素イオン、水素イオンの消費、還元により、金属イオンが酸化物及び/又は水酸化物になる反応が進むと考えられる。例えば、金属材料を浸漬した場合、その表面上で局部セルが形成され、金属溶出反応と水素発生反応が起こる。溶出した金属イオンによるフッ素イオンの消費と、水素イオンの還元が起こるので、酸化物及び/又は水酸化物が金属材料表面上に析出する。金属溶出反応と水素還元反応の少なくとも一方は、成膜反応を進める上で必要であるが、金属溶出反応が進みすぎると基材の劣化を引き起こし、同様に、水素発生反応が進みすぎると健全な被膜が形成されない、あるいは析出反応の阻害を引き起こす。このため、これらの反応をある程度抑制し、かつ析出反応が進行する条件を見出す必要がある。例えば、処理液pHが低すぎると、基材を浸漬した場合、金属溶出反応と水素還元反応が激しく起こり、析出物が得られず、かつ基材が腐食していた。
【0012】
以上のように、成膜性を考慮して水素発生反応、金属イオン溶出反応と析出反応を制御すること、すなわち、浴pHを適切な範囲に設定することが重要であることを明らかにした。さらに、基材とそれよりも標準電極電位が低い金属材料を短絡させることで、基材上では水素発生反応、標準電極電位が低い金属材料上では金属溶出反応が起こり、基材金属材料の腐食を抑制することができる。しかしながら、この場合も基材上での水素還元反応による成膜の阻害が起こるため、浴pHを適切な範囲に設定することが重要であることを明らかにした。また、低標準電極電位材を短絡して基材を浸漬させた場合は、単に浸漬させた場合に比して、成膜速度が大きいことを見出した。これは、後者が金属溶出反応から析出反応に移行することで、溶出イオン量が成膜により低減するのに対し、短絡させた場合は、金属溶出反応と析出反応の反応場が独立しているため、金属イオンの溶出が随時進行するためと考えられる。
【0013】
すなわち、本発明の第1の側面は、
(1) 金属イオンと該金属イオンに対してモル比で4倍以上のフッ素イオンを含む、及び/又は、金属と該金属に対してモル比で4倍以上のフッ素を含有する錯イオンを含む、pH2〜7の処理水溶液中に、金属材料を浸漬することで、該金属材料表面に前記金属イオンを含む金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(2) 含有する金属イオンが異なる処理水溶液を複数用いて、複数層の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被膜の被膜を形成する前記(1)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(3) 前記処理水溶液が金属イオンを複数含有する前記(1)又は(2)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(4) 前記複数金属イオンの濃度が異なる処理水溶液を複数用いて、濃度傾斜型被膜を形成する前記(1)〜(3)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(5) 前記処理水溶液が、さらにフッ素とは錯体を形成しない及び/又は形成しないように修飾した金属イオンを含有する前記(1)〜(4)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(6) 前記処理水溶液が、フルオロ金属錯化合物を含む水溶液である前記(1)〜(5)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(7) 前記処理水溶液のpHが3〜4である前記(1)〜(6)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法、
(8) 前記金属材料を、該金属材料より標準電極電位が低い金属材料と短絡して前記処理水溶液に浸漬する前記(1)〜(7)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
(9) 金属材料表面に、前記(1)〜(8)に記載の方法で得られる金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を有することを特徴とする被覆金属材料。
(10) 前記金属材料が板厚10μm以上のステンレス鋼板である前記(9)に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆金属材料。
(11) 前記金属材料が鋼板またはめっき鋼板である前記(9)に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆金属材料。
(12) 前記めっき鋼板が亜鉛及び/またはアルミニウムを主とするめっき層を有するめっき鋼板である前記(11)に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆金属材料、にある。
【0014】
また、本発明の第2の側面の処理液中では、フッ素イオンの消費と水素イオンの還元の少なくとも一方の反応により、金属イオンが酸化物及び/又は水酸化物になる反応が進み、金属材料表面上に析出すると考えられる。
【0015】
不溶性材料と、析出させたい基材を、それぞれアノーディック反応、カソーディック反応に制御すれば、基材上で水素イオンの還元反応が起こり、上記反応の進行と界面pH上昇により、金属酸化物及び/又は金属水酸化物の析出が起きる。水素発生反応と界面pH上昇を、成膜を阻害しない範囲で制御することができれば、析出速度を大きくすることができると考えた。フッ素イオンの消費に関しては、より安定なフッ化物を形成するためのホウ素イオンやアルミニウムイオンを処理液中に添加しておいてもよい。その結果、電位を水素ガス発生による析出反応阻害を引き起こさない程度に制御することで、均一な被膜を短時間で形成できることを確認した。さらに、処理液pHが低すぎると、水素還元反応が激しく起こりやすいため、浴pHを適切な範囲に設定することで、電位制御を容易にすることができることを明らかにした。すなわち、水素発生反応を制御することで、析出速度を飛躍的に大きくすることができた。
【0016】
こうして、本発明の第2の側面は、
(13) 金属イオンと該金属イオンに対してモル比で4倍以上のフッ素イオンを含む、及び/又は、金属と該金属に対してモル比で4倍以上のフッ素を含有する錯イオンを含む、pH2〜7の処理水溶液中で、導電性材料を電解することで、該導電性材料表面に前記金属イオンを含む金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法、
(14) 含有する金属イオンが異なる処理水溶液を複数用いて、複数層の金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成する前記(13)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法、
(15) 前記処理水溶液が金属イオンを複数含有する前記(13)又は(14)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法、
(16) 前記複数金属イオンの濃度が異なる処理水溶液を複数用いて、濃度傾斜型被膜を形成する前記(13)〜(15)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法、
(17) 前記処理水溶液が、さらにフッ素とは錯体を形成しない及び/又は形成しないように修飾した金属イオンを含有する前記(13)〜(16)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法、
(18) 前記処理水溶液が、フルオロ金属錯化合物を含む水溶液である前記(13)〜(17)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
(19) 前記処理水溶液のpHが3〜4である前記(13)〜(18)に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法、
(20) 前記導電性材料を電解する方法が、前記導電性材料の導電面と相対向して配設された電極の間に、電解液を充填し、コンダクターロールを導電性材料の導電面に接触させ、前記コンダクターロール側を(−)極、前記電極側を(+)極として電圧印加する前記(13)〜(19)に記載の導電性材料に連続して金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料を製造する方法。
(21) 前記導電性材料を電解する方法が、前記導電性材料の導電面と相対向して前記導電性材料の進行方向に、電極を二系統配設し、前記導電性材料と前記電極群の間に電解液を充填し、前記一方の系統の電極側を(−)極、他方の系統の電極側を(+)極として電圧印加する前記(13)〜(19)に記載の導電性材料に連続して金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料を製造する方法。
(22) 導電性材料表面に、前記(13)〜(21)に記載の方法で作製された金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を有することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料。
(23) 前記導電性材料の電気伝導度が0.1S/cm以上である前記(22)記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料。
(24) 前記金属材料が板厚10μm以上のステンレス鋼板である前記(22)に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料。
(25) 前記金属材料が鋼板またはめっき鋼板である前記(22)に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料。
(26) 前記金属材料が亜鉛及び/またはアルミニウムを主とするめっき層を有するめっき鋼板である前記(25)に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の内容について具体的に説明する。
【0018】
始めに本発明の第1の側面について説明する。
【0019】
金属イオンとそれに対して4倍以上のモル比のフッ素イオンが共存する水溶液、及び/又は、金属とそれに対して4倍以上のモル比のフッ素を含んでなる錯イオンを含む水溶液中では、フッ素イオンが関与した金属イオンと酸化物及び/又は水酸化物との平衡反応である。フッ素イオン、水素イオンの消費、還元により、金属イオンが酸化物及び/又は水酸化物になる反応が進むと考え、処理液pHに着目し、検討した。その結果、処理液pHは2〜7が好ましいことを見出した。より好ましくはpH=3〜4である。処理液pHが2未満では金属イオン溶出反応と水素還元反応が激しく生じるため、基材が腐食したり、水素発生による成膜の阻害が起こり、健全な成膜ができない。一方、7より大きい場合は液が不安定であるし、また、凝集したものが析出する場合があり、密着力が不十分であった。また、基材とそれよりも標準電極電位が低い金属材料を短絡させることで、基材上では水素発生反応、標準電極電位が低い金属材料上では金属溶出反応が起こり、基材金属材料の腐食を抑制することができるが、この場合も上記pH範囲が最適であることを見出した。さらに、基材と短絡金属の組み合わせや温度等の条件にもよるが、単に浸漬した場合に比して、成膜速度をおおよそ5倍以上にすることが可能であった。また、処理液の金属イオンと該金属イオンに対するフッ素イオンのモル比が4倍未満では、析出は見られなかった。塩濃度、温度や基材表面上での水素発生反応抑制・促進を目的とした有機物添加により析出速度制御可能であることも見出した。
【0020】
本発明の第1の側面において用いられる金属イオンとしては、Ti,Si,Zr,Fe,Sn,Ndなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0021】
処理液中の金属イオンの濃度は、金属イオンの種類によって異なるが、その理由は定かではない。
【0022】
本発明の第1の側面において用いられるフッ素イオンは、フッ化水素酸あるいはその塩、例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられ、これらに関しては特に制約はないが、塩を用いる場合はそのカチオン種によって飽和溶解度が異なるため、成膜濃度範囲を考慮して選定しなければならない場合がある。
【0023】
本発明の第1の側面において用いられる、金属とそれに対して4倍以上のモル比のフッ素を含んでなる錯イオンとしては、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸など、あるいはこれらの塩、例えば、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などを用いることができ、これらに関しては特に制約はない。この錯イオンは「金属イオンと該金属イオンに対してモル比4倍以上のフッ素を含有する化合物が少なくとも結合した錯イオン」でもよい。即ち、金属とフッ素以外の元素が錯イオン中に含まれていてもよい。塩を用いる場合はそのカチオン種によって飽和溶解度が異なるため、成膜濃度範囲を考慮して選定しなければならない場合がある。
【0024】
処理液の金属イオンと該金属イオンに対するフッ素イオンのモル比が4倍未満では析出が見られなかった。
【0025】
浴pHの調整は周知の方法でよいが、フッ酸も用いる場合には金属イオンとフッ素イオンの比も変化するので、処理水溶液中の最終的なフッ素イオンの濃度を制御する必要がある。
【0026】
本発明の析出反応のその他の条件は、特に限定されない。反応温度や反応時間は適宜設定すればよい。反応温度を上げれば成膜速度は大きくなる。すなわち、成膜速度を制御することができる。また反応時間により膜厚(成膜量)を制御することができる。
【0027】
本発明の第1の側面で金属材料の表面に形成される金属酸化物及び/又は水酸化物被覆膜の膜厚は、用途により任意に決定される。その範囲は特性発現と経済性により決められる。
【0028】
本発明によれば、従来の酸化物被膜を形成する各種の製法(液相法、気相法)で形成可能な全ての形態の酸化物被膜を形成することができる。例えば、(2)複数の異種の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被膜の被膜を形成すること、(3)処理水溶液が金属イオンを複数含有することにより、複合酸化被膜及び/又は異種酸化物が2次元に分布している被膜を形成すること、(4)複数金属イオンの濃度が異なる処理水溶液を複数用いて濃度傾斜型被膜を形成すること、例えば、2種類の酸化物被膜で、基材との界面側および被膜表面側でそれぞれ主となる酸化物が異なり、その構成比が段階的に変化している被膜を形成すること、(5)処理水溶液がさらにフッ素とは錯体を形成しない及び/又は形成しないように修飾した金属イオンを含有することで、酸化物被膜中に金属や酸化物が微分散している被膜を形成すること、などができる。
【0029】
この発明の第1の側面の対象となる金属材料は、特に限定されないが、例えば、各種金属・合金、各種金属表面処理材等に適用できる。形態も板、箔、線、棒、等をはじめとし、さらにメッシュやエッチングされた表面などの複雑な形状に加工したものも適用できる。
【0030】
この金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の用途としては、ステンレス箔表面に形成したキャパシタ用酸化物触媒電極、種々鋼板の耐食性向上や樹脂/金属間の密着性向上、種々基材上への光触媒能付与、太陽電池、ELディスプレイ、電子ペーパー用基板、等のステンレス箔上に形成させた絶縁性膜、意匠性被膜、金属材料への摺動付与による加工性向上等、数多く挙げられる。
【0031】
次に本発明の第2の側面について説明する。
【0032】
金属イオンとそれに対して4倍以上のモル比のフッ素イオンが共存する水溶液、及び/又は、金属とそれに対して4倍以上のモル比のフッ素でなる錯イオンを含む水溶液中では、フッ素イオンが関与した金属イオンと酸化物及び/又は水酸化物との平衡反応がある。フッ素イオン、水素イオンの消費、還元により、金属イオンが酸化物及び/又は水酸化物になる反応が進むと考えている。析出させたい基材を処理液に浸漬させることだけでは、極めてゆっくりとした析出しか起こらないのに対し、不溶性電極を浸漬して、析出させたい基材に数mV〜数百mVのカソード過電圧を印加すると、析出速度が飛躍的に増大した。この際、基材表面を観察すると、水素ガス発生が見られるものの、極めて均質な被膜形成が起こった。しかしながら、このガス発生を促進すべく、処理液pHをより低くすると、被膜が形成されなかったり、不均一な、あるいは密着力の乏しい被膜しか得られなかった。このことから、処理液pHに着目して検討した結果、処理液pHは2〜7が好ましいことを見出した。より好ましくは3〜4であった。処理液pHが2未満では水素発生による成膜の阻害が起こりやすく、健全な成膜のための電位制御が難しい。一方、7より大きい場合は液が不安定であるし、また凝集したものが析出する場合があり、密着力が不十分であった。また、処理液の金属イオンと該金属イオンに対するフッ素イオンのモル比が4倍未満では、析出が見られなかった。さらに、塩濃度、温度、基材表面上での水素発生反応抑制・促進を目的とした有機物添加により、析出速度制御可能であることも見出した。
【0033】
本発明の第2の側面において用いる金属イオン、フッ素イオン、フッ素を含む錯イオン、pH調整、析出条件、被膜の膜厚などは、第1の側面と同様であることができる。
【0034】
本発明における電解条件は、基材をカソード電解できればよい。詳細は実施例など他に記載した。電流により成膜速度を制御できる。また、電流と時間の積、すなわち電気量で成膜量を制御することができる。電流、電圧の最適値や上限値は酸化物の種類により、濃度により異なる。
【0035】
この発明の第2の側面の対象となる導電性材料は、特に限定されないが、例えば、導電性高分子、導電性セラミックス、各種金属・合金、各種金属表面処理材、等に適用できる。形態も、板、箔、線、棒等を始めとし、さらにメッシュやエッチングされた表面などの複雑な形状に加工されたものにも適用できる。また、基材に導電性があれば成膜可能であるが、導電率が0.1S/cm以上が好ましい。これ未満の導電率では抵抗が大きいため、析出効率が低い。
【0036】
図1に片側の表面に電解マスク(図示せず)が形成され、残る片側の表面が導電性である材料に連続して金属酸化物及び/または金属水酸化物を成膜する設備の構成図を示す。そのような設備は図示したものよりももっと複雑であることは理解できるはずである。
【0037】
主たる構成は、連続して搬送される片側の表面に電解マスクが選択的に形成された導電性材料1の残る片側の導電性材料である表面に接触したコンダクターロール11、12と導電性材料1の導電面と相対向して配設された電極6の間に、電解液3を充填し、コンダクターロール11、12と電極6の間に、コンダクターロール側を(−)極、電極側を(+)極として、直流電源装置7を配置している。直流電源装置7とコンダクターロール11、12の間には、開閉器9が設置されており、この開閉器9を閉にすることにより、コンダクターロール11、12と電極6の間に、電圧を印加する。また、開閉器9を開とすることにより、電圧印加を中断する。
【0038】
また、導電性材料1の搬送ロールとして、電解槽2の入出側には、リンガーロール(図示省略)が設置され、電解液3の槽外への流出を抑制しており、槽内には、シンクロール15、16が設置され、電極6と導電性材料1の距離を一定に保持している。
【0039】
図2に両側の表面が導電性である材料に金属酸化物及び/または金属水酸化物を成膜する設備の構成図を示す。電極が導電性材料1の表裏に相対向して設置されている点を除き、前記図1の説明と同じである。
【0040】
図3に片側の表面に電解マスク(図示せず)が形成され、残る片側の表面が導電体である導電性材料に連続して金属酸化物及び/または金属水酸化物を成膜する設備の構成図を示す。そのような設備は図示したものよりももっと複雑であることは理解できるはずである。
【0041】
主たる構成は連続して搬送される片側の表面に電解マスクが選択的に形成された導電性材料1の導電面と相対向して導電性材料1の進行方向に、電極5、電極6を順次設置し、導電性材料1と電極5、電極6の間に電解液3を充填し、電極5、電極6の間に、電極5側を(−)極、電極6側を(+)極として、直流電源装置7を配置している。直流電源装置7と電極6の間には、開閉器9が配置されており、この開閉器9を閉にすることにより、電極5、電極6の間に電圧を印加している。また、開閉器9を開とすることにより、電圧印加を中断する。また、導電性材料1の搬送ロールとして、電解槽2の入出側には、リンガーロール13、14が設置され、電解液3の槽外への流出を抑制しており、槽内には、シンクロール15、16が設置され、電極5、電極6と導電性材料1の距離を一定に保持している。
【0042】
図4に両側の表面が導電性である材料に金属酸化物及び/または金属水酸化物を成膜する設備の構成図を示す。電極が導電性材料1の表裏に相対向して設置されている点を除き、前記図3の説明と同じである。
【0043】
この金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の用途としては、導電性ゴムやステンレス箔表面に形成したキャパシタ用酸化物触媒電極、種々鋼板の耐食性向上や樹脂/金属間の密着性向上、種々基材上への光触媒能付与、太陽電池、ELディスプレイ、電子ペーパー用基板等のステンレス箔上に形成させた絶縁性膜、意匠性被膜、金属材料への摺動付与による加工性向上、等数多く挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0045】
実施例1
この実施例は本発明の第1の側面を説明するものである。
【0046】
以下の如く、各種処理液を用いて成膜後、析出状態を評価した。基材、処理液、処理条件及び結果などを表1、2に示す。
【0047】
なお、析出状態評価は、成膜したまま及び90°折り曲げ後の状態を目視により観察し、剥離がなければ○、剥離していれば×とした。さらに、走査型電子顕微鏡による表面状態評価を5000倍で観察し、任意に選択した4箇所のうち、2箇所以上でクラックがあれば×、1箇所あれば○、なければ◎とした。必要に応じて、断面観察を行い、被膜構造を観察した。
【0048】
以下において、成膜させたい基材を金属材料Aとし、金属材料Aより標準電極電位が低い金属を金属材料Bと称する。
[実験No.1〜6]
処理液は、チタンイオンとフッ素イオンのモル比が1:1、1:2、1:3、1:4、1:5及び1:6の0.1Mの塩化チタンとフッ化水素アンモニウムの混合水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを3に調整した。基材の金属材料Aにはアルミニウムを用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.7〜13]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材の金属材料Aにはアルミニウムを用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。また、pH3に調整したものについては、50℃、80℃の浴温でも行った。
[実験No.14〜18]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材の金属材料Aにはアルミニウムを用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.19〜24]
処理液は、チタンイオンとフッ素イオンのモル比が1:1、1:2、1:3、1:4、1:5及び1:6の0.1Mの塩化チタンとフッ化水素アンモニウムの混合水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを3に調整した。基材の金属材料Aにはステンレス鋼(SUS304)を、金属材料Bにはアルミニウムを用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.25〜29]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材の金属材料Aにはステンレス鋼(SUS304)を、金属材料Bにはアルミニウムを用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.30〜34]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材の金属材料Aにはステンレス鋼(SUS304)を、金属材料Bにはアルミニウムを用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.35]
1層目の処理液は、pHを3に調整した0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で2.5分間行い、水洗し、風乾した。2層目の処理液は、pHを3に調整した0.1Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を用いた。上記同様、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で2.5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.36]
1層目の処理液は、pHを3に調整した0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で1分間行い、水洗し、風乾した。2、3、4、5層目の処理液は、それぞれpHを3に調整した、0.08Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.02Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、0.06Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.04Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、0.04Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.06Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、及び、0.02Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.08Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を用いた。上記同様、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で1分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.37]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に1wt%の塩化亜鉛を添加、溶解させた後、pHを3に調整した処理液を用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.38]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に1wt%の塩化金を添加、溶解させた後、pHを3に調整した処理液を用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.39]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に1wt%の塩化パラジウムを添加、溶解させた後、pHを3に調整した処理液を用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.40]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)によりフッ素イオンとの反応に対してマスキングしたEDTA−セリウム錯体水溶液を添加したものを処理液として用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、金属材料Bには亜鉛を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し風乾した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
実施例2
この実施例は本発明の第2の側面を説明するものである。
【0053】
以下の如く、各種処理液を用いて成膜後、析出状態を評価した。基材、処理液、処理条件及び結果などを表3、4に示す。
【0054】
なお、析出状態評価は、成膜まま及び90°折り曲げ後の状態を目視により観察し、剥離がなければ○、剥離していれば×とした。さらに、走査型電子顕微鏡による表面状態評価を5000倍で観察し、任意に選択した4箇所のうち、2箇所以上でクラックがあれば×、1箇所あれば○、なければ◎とした。析出前後の質量測定を行い、その差を析出面積で除して、単位面積当りの析出量を算出した。必要に応じて、断面観察を行い、被膜構造を観察した。
[実験No.101〜106]
処理液は、チタンイオンとフッ素イオンのモル比が1:1、1:2、1:3、1:4、1:5及び1:6の0.1Mの塩化チタンとフッ化水素アンモニウムの混合水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを3に調整した。基材には導電性ゴムを、電極材料には白金を用いた。電解による成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した(なお、表3参照)。
[実験No.107〜113]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材には導電性ゴムを、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。また、pH3に調整したものについては、50℃、80℃の浴温でも行った。
[実験No.114〜118]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材には導電性ゴムを、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.119〜124]
処理液は、チタンイオンとフッ素イオンのモル比が1:1、1:2、1:3、1:4、1:5及び1:6の0.1Mの塩化チタンとフッ化水素アンモニウムの混合水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを3に調整した。基材にはステンレス鋼(SUS304)を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.125〜129]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材にはステンレス鋼(SUS304)を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.130〜134]
処理液は、0.1Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を用い、フッ酸やアンモニア水でpHを1、3、5、7及び9に調整した。基材にはステンレス鋼(SUS304)を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.135]
1層目の処理液は、pHを3に調整した0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用いた。基材には純鉄を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で2.5分間行い、水洗し、風乾した。2層目の処理液は、pHを3に調整した0.1Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を用いた。成膜は、それぞれ室温で2.5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.136]
1層目の処理液は、pHを3に調整した0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を用いた。基材には純鉄を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で1分間行い、水洗し、風乾した。2、3、4及び5層目の処理液は、それぞれpHを3に調整した、0.08Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.02Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、0.06Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.04Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、0.04Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.06Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、及び、0.02Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウムと0.08Mヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液を用いた。成膜は、それぞれ室温で1分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.137]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に1wt%の塩化亜鉛を添加、溶解させた後、pHを3に調整した処理液を用いた。基材には純鉄を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.138]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に1wt%の塩化金を添加、溶解させた後、pHを3に調整した処理液を用いた。基材には純鉄を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.139]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に1wt%の塩化パラジウムを添加、溶解させた後、pHを3に調整した処理液を用いた。基材には純鉄を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.140]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液のpHを3に調整した処理液を用いた。基材には並質ガラスを用いた。成膜は室温で5時間行い、成膜後、水洗し、風乾した。
[実験No.141]
0.1Mヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液に、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)によりフッ素イオンとの反応に対してマスキングしたEDTA−セリウム錯体水溶液を添加したものを処理液として用いた。基材の金属材料Aには純鉄を、電極材料には白金を用いた。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し風乾した。
【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
実施例3
[実験No.201〜228]
各種めっき鋼板を基材として、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液をそれぞれ用いて浸漬により成膜した。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し風乾した。(表5)
[実験No.301〜321]
各種めっき鋼板を基材として、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液をそれぞれ用いて白金を対極としたカソード電解により成膜した。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し風乾した。(表6)
[実験No.401〜421]
各種めっき鋼板を基材として、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液をそれぞれ用いてアルミニウムを対極としたカソード電解により成膜した。成膜は室温で5分間行い、成膜後、水洗し風乾した。(表7)
一次塗料密着性は、バーコーターを用いてメラミンアルキッド樹脂塗料(関西ペイント(株)製、アミラック#1000)を乾燥膜厚30μmになるように塗布し、炉温130℃で20分間焼き付けた。次に、一晩放置した後、7mmのエリクセン加工を施した。その加工部に粘着テープ(ニチバン(株):商品名セロテープ(登録商標))を張り付け、速やかに斜め45°の方向に引っ張って剥離させて、剥離面積率により、以下の評価を行った。
【0059】
○:剥離面積率 5%未満
△:剥離面積率 5%以上、50%未満
×:剥離面積率 50%以上
二次塗料密着性は一次塗料密着性と同様、メラミンアルキッド塗料を塗装し、一晩放置した後、沸騰水に30分浸漬した。その後、7mmのエリクセン加工を施し、その加工部に粘着テープ(ニチバン(株):商品名セロテープ(登録商標))を張り付け、速やかに斜め45°の方向に引っ張って剥離させて、剥離面積率により、以下の評価を行った。
【0060】
○:剥離面積率 10%未満
△:剥離面積率 10%以上、60%未満
×:剥離面積率 60%以上
平板耐食性はJIS Z 2371に記載されている塩水噴霧試験方法に準じて、雰囲気温度35℃で、5%のNaCl水溶液を試験板に吹き付け、240時間後の白錆発生率により、以下の評価をした。
【0061】
○:白錆発生率 10%未満
△:白錆発生率 10%以上、30%未満
×:白錆発生率 30%以上
加工部耐食性は7mmのエリクセン加工を施し、JIS Z 2371に記載されている塩水噴霧試験方法に準じて、雰囲気温度35℃で、5%のNaCl水溶液を試験板に吹き付け、72時間後の加工部に於ける白錆発生率により、以下の評価をした。
【0062】
○:白錆発生率 10%未満
△:白錆発生率 10%以上、30%未満
×:白錆発生率 30%以上
【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
【表9】

【0066】
実施例4
[実験No.501〜520]
ステンレス鋼板、純鉄を基材として、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液、ヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム水溶液をそれぞれ用いて図1〜4に示す電解設備で成膜した。(表8)
なお、析出状態評価は実施例1、2と同様の方法で行った。
【0067】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0068】
以上述べたように、本発明の水溶液からの金属材料上への酸化物被膜及び/又は水酸化物被膜の製造方法は、耐食性や絶縁性を始めとする種々機能、様々な構造の種々(水)酸化物被膜を、簡便な設備で、迅速に作製でき、また、この(水)酸化物被膜を有する金属材料は、各種用途に適用することができるため、その工業的意義は大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は直接電解/片面被覆の設備の構成図である。
【図2】図2は直接電解/両面被覆の設備の構成図である。
【図3】図3は間接電解/片面被覆の設備の構成図である。
【図4】図4は間接電解/両面被覆の設備の構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと該金属イオンに対してモル比で4倍以上のフッ素イオンを含む及び/又は金属と該金属に対してモル比で4倍以上のフッ素を含有する錯イオンを含むpH2〜7の処理水溶液中に、金属材料を浸漬することで、該金属材料表面に前記金属イオンを含む金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項2】
含有する金属イオンが異なる処理水溶液を複数用いて、複数層の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被膜の被膜を形成する請求項1記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項3】
前記処理水溶液が金属イオンを複数含有する請求項1又は2記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項4】
前記複数金属イオンの濃度が異なる処理水溶液を複数用いて濃度傾斜型被膜を形成する請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項5】
前記処理水溶液が、さらにフッ素とは錯体を形成しない及び/又は形成しないように修飾した金属イオンを含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項6】
前記処理水溶液が、フルオロ金属錯化合物を含む水溶液である請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項7】
前記処理水溶液のpHが3〜4である請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項8】
前記金属材料を、該金属材料より標準電極電位が低い金属材料と短絡して、前記処理水溶液に浸漬する請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料の製造方法。
【請求項9】
金属材料表面に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で得られる金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を有することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆金属材料。
【請求項10】
前記金属材料が板厚10μm以上のステンレス鋼板である請求項9に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆金属材料。
【請求項11】
前記金属材料が鋼板またはめっき鋼板である請求項9に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆金属材料。
【請求項12】
前記めっき鋼板が亜鉛及び/またはアルミニウムを主とするめっき層を有するめっき鋼板である請求項11に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆金属材料。
【請求項13】
金属イオンと該金属イオンに対してモル比で4倍以上のフッ素イオンを含む及び/又は金属と該金属に対してモル比で4倍以上のフッ素を含有する錯イオンを含むpH2〜7の処理水溶液中で、導電性材料を電解することで、該導電性材料表面に前記金属イオンを含む金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項14】
含有する金属イオンが異なる処理水溶液を複数用いて、複数層の金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を形成する請求項13記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項15】
前記処理水溶液が金属イオンを複数含有する請求項13又は14記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項16】
前記複数金属イオンの濃度が異なる処理水溶液を複数用いて、濃度傾斜型被膜を形成する請求項13〜15のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項17】
前記処理水溶液が、さらにフッ素とは錯体を形成しない及び/又は形成しないように修飾した金属イオンを含有する請求項13〜16のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項18】
前記処理水溶液が、フルオロ金属錯化合物を含む水溶液である請求項13〜17のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項19】
前記処理水溶液のpHが3〜4である請求項13〜18のいずれか1項に記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料の製造方法。
【請求項20】
前記導電性材料を電解する方法が、前記導電性材料の導電面と相対向して配設された電極の間に、電解液を充填し、コンダクターロールを導電性材料の導電面に接触させ、前記コンダクターロール側を(−)極、前記電極側を(+)極として電圧印加する請求項13〜19のいずれか1項に記載の導電性材料に連続して金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料を製造する方法。
【請求項21】
前記導電性材料を電解する方法が、前記導電性材料の導電面と相対向して前記導電性材料の進行方向に、電極を二系統配設し、前記導電性材料と前記電極群の間に電解液を充填し、前記一方の系統の電極側を(−)極、他方の系統の電極側を(+)極として電圧印加する請求項13〜19のいずれか1項に記載の導電性材料に連続して金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料を製造する方法。
【請求項22】
導電性材料表面に、請求項13〜21のいずれか1項に記載の方法で作製された金属酸化物及び/又は金属水酸化物の被膜を有することを特徴とする金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料。
【請求項23】
前記導電性材料の電気伝導度が0.1S/cm以上である請求項22記載の金属酸化物及び/又は金属水酸化物被覆導電性材料。
【請求項24】
前記金属材料が板厚10μm以上のステンレス鋼板である請求項22に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料。
【請求項25】
前記金属材料が鋼板またはめっき鋼板である請求項22に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料。
【請求項26】
前記金属材料が亜鉛及び/またはアルミニウムを主とするめっき層を有するめっき鋼板である請求項25に記載の金属酸化物及び/または金属水酸化物被覆導電性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−214758(P2008−214758A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110762(P2008−110762)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【分割の表示】特願2003−549591(P2003−549591)の分割
【原出願日】平成14年12月3日(2002.12.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】