説明

金属酸化物膜の製造方法

【課題】本発明は、金属酸化物膜の結晶状態を容易に調製可能な金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解した金属酸化物膜形成用溶液と、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材とを接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、上記金属酸化物膜形成用溶液が、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸を含有することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性や結晶構造の結晶状態を変化させた金属酸化物膜を得ることができる金属酸化物膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属酸化物膜は様々な優れた物性を示すことが知られており、その特性を活かして、透明導電膜、光学薄膜、燃料電池用電解質等、幅広い分野において使用されている。このような金属酸化物膜の製造方法としては、例えば、ゾルゲル法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、印刷法、レーザーアブレーション法等が知られている(例えば特許文献1および2)。
【0003】
一方、このような金属酸化物膜を得る別の方法として、スプレー熱分解法が提案されている。スプレー熱分解法は、金属酸化物膜を構成する金属源を含有した溶液を、高温の基材に噴霧することにより金属酸化物膜を得る方法であり、通常500℃程度に加熱した基材を使用することから、瞬時に溶媒が蒸発し、金属源が熱分解反応を起こすため、短時間かつ簡略化された工程で金属酸化物膜を得ることができるという利点を有する。
【0004】
このようなスプレー熱分解法の研究として、例えば、特許文献3においては、TiO前駆体を含む溶液に過酸化水素又はアルミニウムアセチルアセトナートを添加して原料溶液を調製し、500℃程度に高温保持された基材に上記原料溶液を間歇噴霧することによりTiO前駆体をTiOに熱分解し、基材上に多孔質のTiO薄膜を得る方法を開示している。また、例えば、特許文献4は、特許文献3と同様に熱分解スプレー法により多孔質のTiO薄膜を得る方法であるが、原料溶液に可溶性チタン化合物を加えた溶液を添加することにより、TiO薄膜と基材との密着性向上を図るものであった。
【0005】
このように、スプレー熱分解法は、短時間かつ簡略化された工程で金属酸化物膜を得ることができる方法ではあるものの、得られる金属酸化物膜の結晶性や結晶構造は、材料の金属源の種類等に依存するため、所望の結晶状態を有する金属酸化物膜を得ることができない場合があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−348665号公報
【特許文献2】特開平4−361239号公報
【特許文献3】特開2002−145615号公報
【特許文献4】特開2003−176130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、金属酸化物膜の結晶状態を容易に調製可能な金属酸化物膜の製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解した金属酸化物膜形成用溶液と、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材とを接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、上記金属酸化物膜形成用溶液が、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸を含有することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、金属酸化物膜形成用溶液に酸を添加することにより、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いて得られた金属酸化物膜と比較して、結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができる。すなわち、金属酸化物膜形成用溶液に酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶状態を容易に調製することができる。
【0010】
上記発明においては、上記酸が、HF、HCl、HBr、HNO、HNO、HSOまたはHPOであることが好ましい。金属酸化物膜の結晶状態を効果的に変化させることができるからである。
【0011】
上記発明においては、上記金属酸化物膜形成用溶液が、さらにドーピング金属源を含有することが好ましい。ドーピング金属源を用いることにより、機能性金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0012】
上記発明においては、上記金属源を構成する金属元素が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、WまたはTaであることが好ましい。種々の用途に有用な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、金属酸化物膜の結晶状態を容易に調整することができるという効果を奏する。具体的には、金属酸化物膜の結晶性を高めたり、結晶性を低めて非晶質にしたり、あるいは結晶構造を変化させたりする等の調整を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明の金属酸化物膜の製造方法は、金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解した金属酸化物膜形成用溶液と、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材とを接触させることにより、上記基材上に金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、上記金属酸化物膜形成用溶液が、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸を含有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明によれば、金属酸化物膜形成用溶液に酸を添加することにより、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いて得られた金属酸化物膜と比較して、結晶状態が変化した金属酸化物膜を得ることができる。すなわち、金属酸化物膜形成用溶液に酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶状態を容易に調製することができる。
【0017】
上述したように、従来の方法により得られる金属酸化物膜の結晶状態は、材料の金属源の種類等に依存するため、所望の結晶状態を有する金属酸化物膜を得ることができない場合があった。これに対して、本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液に酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶状態を変化させることができ、目的とする結晶状態を有する金属酸化物膜を得ることができる。なお、この現象の詳細な原理は必ずしも明らかではないが、酸を添加することにより、金属イオンを取り囲む溶媒の状況が変化し、その結果、金属源が熱分解して形成される金属酸化物膜の結晶状態が変化するからであると考えられる。
【0018】
本発明において、「結晶状態」とは、結晶性および結晶構造を意味する。金属酸化物膜の結晶性の観点から考えると、本発明においては、酸を添加することにより、得られる金属酸化物膜の結晶性を高めたり、低めたりすることができる。一方、金属酸化物膜の結晶構造の観点から考えると、本発明においては、酸を添加することにより、結晶構造が変化した金属酸化物膜を得ることができる。例えば、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いると正方晶の金属酸化物膜が得られる場合に、この金属酸化物膜形成用溶液に酸を添加することにより、正方晶および単斜晶の金属酸化物膜が得られる。このように結晶構造が変化することにより、例えば金属酸化物膜の機械的強度を向上させることができる。
【0019】
また、得られる金属酸化物膜の結晶性を高くすることの利点としては、例えば、金属酸化物膜を触媒として用いる場合に、その反応性を向上させることができる点が挙げられる。具体的には、金属酸化物膜が酸化チタン膜である場合は、結晶性を高くすることにより、光触媒機能を向上させることができる。また、例えば後述するYSZ膜は固体酸化物型燃料電池の電解質として有用であるが、YSZ膜等の金属酸化物膜の結晶性を高くすることにより、電解質の酸素イオン伝導率を向上させることができる。さらに、金属酸化物膜の結晶性を高くすることにより、例えば、透明導電膜の電子伝導性を高めたり、圧電素子のエネルギー変換効率を高めたり、無機EL素子の発光効率を高めたりすることができる。
【0020】
従来、金属酸化物膜の結晶性を向上させる方法として、紫外線を照射する方法が用いられてきたが、本発明においては、酸を添加するという簡便な操作で、金属酸化物膜の結晶性を向上させることができる。また、金属酸化物膜の結晶性を向上させる別の手段として、高い温度で金属酸化物膜を形成する方法が考えられるが、本発明においては、酸を添加することにより、比較的低い温度でも金属酸化物膜の結晶性を向上させることができる。
【0021】
一方、得られる金属酸化物膜の結晶性を低くすることの利点としては、例えば、金属酸化物膜をガスバリア層として用いる場合に、そのバリア性を向上させることができる点が挙げられる。また、金属酸化物膜の結晶性を低くすることにより、基材と金属酸化物膜との密着性を向上させることができる。特に、本発明においては、基材として多孔質基材を用いた場合であっても、密着性や凹凸追従性に優れた金属酸化物膜を得ることができる。また、多孔質基材上に結晶性の低い(非晶質の)金属酸化物膜を形成した場合は、例えば、後処理として加熱を行うことにより、金属酸化物膜の結晶性を向上させることも可能である。後処理により結晶性を向上させた場合であっても、密着性や凹凸追従性は充分に維持されると考えられる。このようにして得られた金属酸化物膜は、例えばNOxガス処理用のセルや、酸素富化膜として利用することができる。
【0022】
また、得られる金属酸化物膜の結晶構造を変化させることの利点としては、例えば、金属酸化物膜の機械的強度を向上させることができる点が挙げられる。例えばジルコニウムテトラアセチルアセトナート(Zr(CHCOCHCOCH)を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用いると、正方晶の結晶構造を有する酸化ジルコニウム膜が得られる。これに対して、上記の金属酸化物膜形成用溶液に、さらに塩酸や硝酸を添加した金属酸化物膜形成用溶液を用いると、正方晶および単斜晶の結晶構造を有する酸化ジルコニウム膜が得られる。正方晶の結晶構造から、正方晶および単斜晶の結晶構造に変化させることにより、応力に対する強度が高くなり、機械的強度に優れた酸化ジルコニウム膜を得ることができる。また特に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートは、速い成膜速度で酸化ジルコニウム膜を得ることができるという利点を有している。
【0023】
また、例えば、色素増感型太陽電池の酸化チタン(基材)上に設ける透明導電膜(金属酸化物膜)で考えた場合、アナターゼ型結晶を有する酸化チタン上に、立方晶のITO膜を設けると、格子整合性がうまくとれず、界面に粒界が発生して、電子伝導性が劣るだけでなく、密着性も不十分となる。これに対して、酸化チタンとの界面におけるITOが六方晶ITOであれば、立方晶ITOよりも格子整合性が合い、界面に発生する粒界を減少させることが可能となり、電子伝導性や密着性を向上させることができる。
【0024】
次に、本発明の金属酸化物膜の製造方法について図を用いて説明する。図1は、本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。図1に示すように、本発明の金属酸化物膜の製造方法は、基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、その後、金属源および酸を含有する金属酸化物膜形成用溶液2を、スプレー装置3を用いて噴霧することにより、基材1上に金属酸化物膜を形成する方法である。
【0025】
なお、本発明において、「金属酸化物膜形成温度」とは、金属源に含まれる金属元素が酸素と結合し、基材上に金属酸化物膜を形成することが可能な温度をいい、金属塩、有機金属化合物といった金属源の種類、溶媒等の金属酸化物膜形成用溶液の組成によって大きく異なるものである。本発明において、このような「金属酸化物膜形成温度」は、以下の方法により測定することができる。すなわち、実際に所望の金属源を含有する金属酸化物膜形成用溶液を用意し、基材の加熱温度を変化させて接触させることにより、金属酸化物膜を形成することができる最低の基材加熱温度を測定する。この最低の基材加熱温度を本発明における「金属酸化物膜形成温度」とすることができる。この際、金属酸化物膜が形成したか否かは、通常、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)より得られた結果から判断し、結晶性のないアモルファス膜の場合は、光電子分光分析装置(V.G.Scientific社製、ESCALAB 200i−XL)より得られた結果から判断するものとする。
【0026】
金属酸化物膜形成温度は、上述したように、用いられる金属源等の種類により異なるものであるが、通常200〜600℃の範囲内である。また、本発明において、基材の加熱温度は、金属酸化物膜形成温度以上の温度であれば特に限定されるものではないが、例えば、金属酸化物膜形成温度+300℃以下、中でも金属酸化物膜形成温度+200℃以下、特に金属酸化物膜形成温度+100℃以下であることが好ましい。基材の加熱温度は、通常300〜600℃の範囲内である。
以下、本発明の金属酸化物膜の製造方法について、各構成毎に詳細に説明する。
【0027】
1.金属酸化物膜形成用溶液
まず、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液について説明する。本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、少なくとも、金属源および酸を含有する。さらに、必要に応じて添加剤等を含有していても良い。
【0028】
(1)金属源
まず、本発明に用いられる金属源について説明する。本発明に用いられる金属源は、通常、金属塩または有機金属化合物である。本発明においては、2種類以上の金属源を併用しても良い。
【0029】
本発明においては、上記金属源が、単独で膜を形成可能な単独膜形成可能金属源であることが好ましい。ここで、「単独膜形成可能金属源」とは、以下に示す試験において所定の基準を満たす金属酸化物膜を与える金属源をいう。すなわち、対象となる1種類の金属源、および溶媒(例えばエタノール、トルエンまたはアセチルアセトンを用いることが好ましい。)からなる金属酸化物膜形成用溶液(濃度0.1mol/l)を用意し、この金属酸化物膜形成用溶液を、超音波ネプライザ等を用いて粒径0.5〜20μm程度の液滴とし、金属酸化物膜形成温度から金属酸化物膜形成温度+100℃の範囲内で加熱した基材と1時間接触させることにより、基材上に金属酸化物膜を形成し、その後、得られた金属酸化物膜を常温まで冷却し、1cm程度の金属酸化物膜の領域を圧力0.2Pa程度でウエス等を用いて拭う試験を行う。その結果、剥離を生じない強度を有する金属酸化物膜を与える金属源を、本発明における「単独膜形成可能金属源」とする。なお、基材としては、実際に金属酸化物膜を形成する際に用いられるものを使用する。また、得られる金属酸化物膜が粉体である場合等は、ウエス等で拭った際に容易に剥離するため、単独膜形成可能金属源には該当しない。
【0030】
金属源を構成する金属元素としては、金属酸化物膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、WおよびTa等を挙げることができ、中でもAl、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、In、Sn、Ce、Laが好ましい。
【0031】
上記金属塩としては、金属酸化物膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、上記金属元素を含む塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩を使用することが好ましい。これらの化合物は汎用品として入手が容易だからである。さらに、上記金属塩としては、具体的には、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、酢酸スカンジウム、四塩化チタン、オキソ硫酸バナジウム、クロム酸アンモニウム、塩化クロム、二クロム酸アンモニウム、酢酸クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化鉄(I)、塩化鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、塩化コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化銅、硝酸銅、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、塩化銀、酢酸銀、塩化インジウム、酢酸インジウム、塩化スズ、酢酸スズ、硫酸スズ、塩化セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、シュウ酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸セリウム、塩化サマリウム、硝酸サマリウム、塩化鉛、酢酸鉛、硝酸鉛、ヨウ化鉛、リン酸鉛、硫酸鉛、塩化ランタン、酢酸ランタン、硝酸ランタン、硝酸ガドリニウム、塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、五塩化ニオブ、りん酸モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、五塩化アンチモン、三塩化アンチモン、三フッ化アンチモン、テルル酸、亜硫酸バリウム、塩化バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、五塩化タンタル、塩化ハフニウム、硫酸ハフニウム等を挙げることができる。
【0032】
上記有機金属化合物としては、金属酸化物膜を形成可能なものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、アセチルアセトナート系錯体を挙げることができる。上記アセチルアセトナート系錯体としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、鉄(III)アセチルアセトナート、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、銅(II)アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)、クロム(III)アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、セリウムアセチルアセトナート、ランタンアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート、モリブデニルアセチルアセトナート、パラジウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。
【0033】
アセチルアセトナート系錯体以外の有機金属化合物としては、例えば、マグネシウムジエトキシド、カルシウムジ(メトキシエトキシド)、グルコン酸カルシウム一水和物、クエン酸カルシウム四水和物、サリチル酸カルシウム二水和物、チタンラクテート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、ブチルチタネートダイマー、チタニウムビス(エチルヘキソキシ)ビス(2−エチル−3−ヒドロキシヘキソキシド)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトアセテート)、チタンペロキソクエン酸アンモニウム四水和物、ジシクロペンタジエニル鉄(II)、乳酸鉄(II)三水和物、銅(II)ジピバロイルメタナート、エチルアセト酢酸銅(II)、乳酸亜鉛三水和物、サリチル酸亜鉛三水和物、ステアリン酸亜鉛、ストロンチウムジピバロイルメタナート、イットリウムジピバロイルメタナート、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウム(IV)エトキシド、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、2−エチルヘキサン酸インジウム(III)、テトラエチルすず、酸化ジブチルすず(IV)、トリシクロヘキシルすず(IV)ヒドロキシド、トリ(メトキシエトキシ)ランタン、ペンタイソプロポキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、タンタル(V)エトキシド、クエン酸鉛(II)三水和物、シクロヘキサン酪酸鉛、トリフルオロメタンスルホン酸ガリウム(III)、ストロンチウムジピバロイルメタナート等を挙げることができる。
【0034】
また、本発明においては、上記金属源が、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源であることが好ましい。結晶状態が変化した酸化ジルコニウム膜を得ることができるからである。上記ジルコニウム含有金属源としては、ジルコニウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、ジルコニウム元素を含有する金属塩であっても良く、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、ジルコニウム元素を含有する有機金属化合物であることが好ましい。特に本発明においては、ジルコニウム含有金属源がジルコニウムアセチルアセトネートであることが好ましい。
【0035】
金属酸化物膜形成用溶液における金属源の濃度としては、特に限定されるものではないが、例えば0.001〜1mol/lの範囲内、中でも0.01〜0.5mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲内にあれば、比較的短時間で金属酸化物膜を形成することができるからである。
【0036】
また、本発明においては、金属酸化物膜のドーピングを目的としたドーピング金属源を添加することも可能である。ドーピング金属源を用いることにより、機能性金属酸化物膜を得ることができる。
【0037】
上記ドーピング金属源の種類は、目的とする金属酸化物膜の種類に応じて適宜選択することが好ましい。例えば固体酸化物型燃料電池の電解質として有用なイットリア安定化ジルコニア膜(YSZ膜)を得る場合は、ジルコニウム元素を有する金属源の他に、ドーピング金属源としてイットリウム元素を有する金属源を用いる。イットリウム元素を有する金属源としては、具体的には、硝酸イットリウム・六水和物等を挙げることができる。すなわち、本発明においては、上記金属源が、ジルコニウム元素を含有するジルコニウム含有金属源と、イットリウム元素を含有するイットリウム含有金属源との組み合わせであることが好ましい。結晶状態が変化したYSZ膜を得ることができるからである。なお、ジルコニウム含有金属については、上記の内容と同様である。上記イットリウム含有金属源としては、イットリウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、イットリウム元素を含有する金属塩であっても良く、イットリウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、イットリウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。特に本発明においては、イットリウム含有金属源が硝酸イットリウムであることが好ましい。金属酸化物膜形成用溶液に含まれる、ジルコニウム含有金属源およびイットリウム含有金属源の割合は、所望のYSZを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム含有金属源を100とした場合に、モル換算で、イットリウム含有金属源が、3〜30の範囲内、中でも5〜20の範囲内であることが好ましい。
【0038】
また、本発明においては、上記金属源が、インジウム元素を含有するインジウム含有金属源と、スズ元素を含有するスズ含有金属源との組み合わせであることが好ましい。結晶状態が変化したITO膜を得ることができるからである。なお、上記インジウム含有金属源としては、インジウム元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、インジウム元素を含有する金属塩であっても良く、インジウム元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、インジウム元素を含有する金属塩であることが好ましい。特に本発明においては、インジウム含有金属源が塩化インジウムであることが好ましい。一方、上記スズ含有金属源としては、スズ元素を含有するものであれば特に限定されるものではなく、上述したように、スズ元素を含有する金属塩であっても良く、スズ元素を含有する有機金属化合物であっても良いが、中でも、スズ元素を含有する金属塩であることが好ましい。特に本発明においては、スズ含有金属源が塩化スズであることが好ましい。
【0039】
(2)酸
次に、本発明に用いられる酸について説明する。本発明に用いられる酸は、得られる金属酸化物膜の結晶状態を変化させるものである。
【0040】
上記酸の種類としては、金属酸化物膜の結晶状態を変化させることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、HF、HCl、HBr、HNO、HNO、HSOおよびHPO等を挙げることができ、中でも、HClおよびHNOが好ましい。本発明においては、2種類以上の酸を併用しても良い。
【0041】
金属酸化物膜形成用溶液に含まれる酸の濃度としては、例えば0.001mol/l以上、中でも0.01〜1mol/lの範囲内、特に0.05〜0.5mol/lの範囲内であることが好ましい。濃度が上記範囲に満たない場合は、金属酸化物膜の結晶状態が変化しない可能性があり、濃度が上記範囲を超える場合は、金属源等と反応し、所望の金属酸化物膜が得られない可能性があるからである。
【0042】
本発明においては、金属酸化物膜形成用溶液を塗布する直前に、酸を添加することが好ましい。金属源および酸の副反応を抑制することができるからである。
【0043】
(3)溶媒
本発明に用いられる溶媒は、上述した金属源等を溶解することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール;トルエン;アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類;アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類;およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。なお、原料(金属源)との相性によっては、例えば、メタノールのみを用いた方が、成膜速度が速い場合や、アセチルアセトンを混合した方が成膜速度が速い場合がある。そのため、より好ましくは水、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、アセチルアセトンまたはこれらの混合溶媒が好ましい。また、溶媒の全部または一部として、上記ジケトン類および上記ケトエステル類の少なくとも一方を用いることが好ましい。成膜性が向上するからである。
【0044】
(4)添加剤
また、本発明に用いられる金属酸化物膜形成用溶液は、セラミックス微粒子および界面活性剤等の添加剤を含有していても良い。
【0045】
上記セラミックス微粒子を用いることにより、上記セラミックス微粒子を取り囲むように金属酸化物膜が形成され、異種セラミックスの混合膜を得ることや金属酸化物膜の体積増加を図ることができる。なお、上記セラミックス微粒子の含有量は、使用する部材の特徴に合わせて適宜選択されることが好ましい。
【0046】
上記セラミックス微粒子の種類としては、例えばITO、アルミニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、珪素酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、セリウム酸化物、カルシウム酸化物、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸バリウム等を挙げることができる。
【0047】
また、上記界面活性剤は、上記金属酸化物膜形成用溶液と上記基材表面との界面に作用するものである。上記界面活性剤を用いることにより、金属酸化物膜形成用溶液と基材表面との接触面積を向上させることができ、均一な金属酸化物膜を得ることができる。特に、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧により接触させる場合、上記界面活性剤の効果により、金属酸化物膜形成用溶液の液滴と基材表面とを充分に接触させることができるため、好適に使用される。なお、上記界面活性剤の使用量は、使用する金属源等に合わせて適宜選択して使用することが好ましい。
【0048】
上記界面活性剤の種類としては、例えば、サーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノール504、サーフィノールGA、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104PPM、サーフィノール104E、サーフィノール104PA等のサーフィノールシリーズ(以上、全て日信化学工業(株)社製)、NIKKOL AM301、NIKKOL AM313ON(以上、全て日光ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0049】
2.基材
次に、本発明に用いられる基材について説明する。本発明に用いられる基材の材料としては、上記加熱温度に対する耐熱性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、例えばガラス、SUS、金属板、セラミック基材、耐熱性プラスチック等を挙げることができ、中でもガラス、SUS、金属板、セラミック基材を使用することが好ましい。汎用性があり、充分な耐熱性を有しているからである。
【0050】
また、本発明に用いられる基材は、例えば、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、穴が開いているもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものであっても良い。中でも、平滑な表面を有するもの、微細構造部を有するもの、溝が刻まれているもの、多孔質であるもの、多孔質膜を備えたものが好適に使用される。
【0051】
3.基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法
次に、本発明における基材と金属酸化物膜形成用溶液との接触方法について説明する。上記接触方法としては、上述した金属酸化物膜形成用溶液と上述した基材とを接触させる方法であれば特に限定されるものではないが、金属酸化物膜形成用溶液および基材を接触させた際に、基材の温度を低下させない方法であることが好ましい。基材の温度が低下すると成膜反応が起こらず所望の金属酸化物膜を得ることができない可能性があるからである。このような基材の温度を低下させない方法としては、例えば、金属酸化物膜形成用溶液を液滴として基材に接触させる方法等が挙げられ、中でも上記液滴の径が小さいことが好ましい。上記液滴の径が小さければ、金属酸化物膜形成用溶液の溶媒が瞬時に蒸発し、基材温度の低下をより抑制することができ、さらに液滴の径が小さいことで、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0052】
このような径が小さい金属酸化物膜形成用溶液の液滴を基材に接触させる方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法等が挙げられる。
【0053】
上記金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法は、例えばスプレー装置等を用いて噴霧する方法等が挙げられる。上記スプレー装置等を用いて噴霧する場合、液滴の径は、通常0.01〜1000μmの範囲内、中でも0.1〜300μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0054】
また、上記スプレー装置の噴射ガスとしては、金属酸化物膜の形成を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素等を挙げることができ、中でも不活性な気体である窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましい。また、上記噴射ガスの噴射量としては、例えば、0.1〜50l/minの範囲内、中でも1〜20l/minの範囲内であることが好ましい。また、上記スプレー装置は固定されていているもの、可動式のもの、回転によって上記溶液を噴射させるもの、圧力によって上記溶液のみを噴射させるもの等であっても良い。このようなスプレー装置としては、一般的に用いられるスプレー装置を用いることができ、例えばハンドスプレー(スプレーガンNo.8012、アズワン社製)、超音波ネプライザー(NE−U17、オムロン社製)等を用いることができる。
【0055】
また、金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法においては、液滴の径は、通常0.01〜300μmの範囲内、中でも0.1〜100μmの範囲内であることが好ましい。液滴の径が上記範囲内にあれば、基材温度の低下を抑制することができ、均一な金属酸化物膜を得ることができるからである。
【0056】
また、基材の加熱方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、オーブン、焼成炉、赤外線ランプ、熱風送風機等の加熱方法を挙げることができ、中でも基材温度を上記温度に保持しながら上記金属酸化物膜形成用溶液に接触できる方法が好ましく、具体的にはホットプレート等を使用することが好ましい。
【0057】
次に、上述した接触方法について図面を用いて具体的に説明する。上述した金属酸化物膜形成用溶液を噴霧することにより基材に接触させる方法としては、例えば、ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法、固定された基材上に噴霧する方法、パイプのような流路に噴霧する方法等が挙げられる。
【0058】
上記ローラーによって基材を連続的に移動させ噴霧する方法としては、例えば、図2に示すように、基材1を、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱したローラー4〜6を用いて連続的に移動させ、スプレー装置3により金属酸化物膜形成用溶液2を噴霧し金属酸化物膜を形成する方法等を挙げることができる。この方法は、連続的に金属酸化物膜を形成することができるという利点を有する。
【0059】
また、上記固定された基材上に噴霧する方法としては、例えば、図1に示すように、基材1を金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱し、この基材1に対して、スプレー装置3を用いて金属酸化物膜形成用溶液2を噴霧することにより、金属酸化物膜を形成する方法等を挙げることができる。
【0060】
また、上述した金属酸化物膜形成用溶液をミスト状にした空間の中に基材を通過させる方法としては、例えば、図3に示すように、金属酸化物膜形成用溶液2をミスト状にした空間に、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱された基材1を通過させることにより金属酸化物膜を形成する方法等を挙げることができる。
【0061】
4.その他
また、本発明の金属酸化物膜の製造方法においては、上述した接触方法等により得られた金属酸化物膜の洗浄を行っても良い。上記金属酸化物膜の洗浄は、金属酸化物膜の表面等に存在する不純物を取り除くために行われるものであって、例えば、金属酸化物膜形成用溶液に使用した溶媒を用いて洗浄する方法等を挙げることができる。また、本発明においては、金属酸化物膜の作製中または作製後に、紫外線の照射を行っても良い。紫外線を照射することにより、例えば金属酸化物膜の結晶性を向上させることができる。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0064】
[参考例1]
<ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを用いたZrO膜の作製>
本参考例においては、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有し、かつ、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いて、ZrO膜を作製した。本参考例の結果と、後述する実施例1−1および実施例1−2の結果とを比較することにより、結晶状態の変化について確認した。
【0065】
まず、基材として、シリコンウェハを用意した。次に、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナート(関東化学社製)、溶媒としてエタノール50重量%およびトルエン50重量%の混合溶媒、結晶状態改質材として塩酸を用意した。その後、混合溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを0.1mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液を得た。
【0066】
次に、上記基材(シリコンウェハ)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0067】
得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図4(a)に示すようなピークが得られ、正方晶のZrO膜が形成されていることが確認された。
【0068】
[実施例1−1]
<ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸を用いたZrO膜の作製>
本実施例においては、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有し、かつ、硝酸を添加した金属酸化物膜形成用溶液を用いて、ZrO膜を作製した。
【0069】
参考例1で用いた金属酸化物膜形成用溶液に、さらに硝酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液を得た。この金属酸化物膜形成用溶液を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、金属酸化物膜を得た。
【0070】
得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図4(b)に示すようなピークが得られ、正方晶および単斜晶のZrO膜が形成されていることが確認された。これらの結果から、硝酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶構造が主に変化することが確認できた。
【0071】
[実施例1−2]
<ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび塩酸を用いたZrO膜の作製>
本実施例においては、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナートを含有し、かつ、塩酸を添加した金属酸化物膜形成用溶液を用いて、ZrO膜を作製した。
【0072】
参考例1で用いた金属酸化物膜形成用溶液に、さらに塩酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液を得た。この金属酸化物膜形成用溶液を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、金属酸化物膜を得た。
【0073】
得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図4(c)に示すようなピークが得られ、正方晶および単斜晶のZrO膜が形成されていることが確認された。これらの結果から、塩酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶構造が主に変化することが確認できた。
【0074】
[参考例2]
<ジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸イットリウムを用いたYSZ膜の作製>
本参考例においては、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸イットリウムを含有し、かつ、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いて、YSZ膜を作製した。本参考例の結果と、後述する実施例2の結果とを比較することにより、結晶状態の変化について確認した。
【0075】
まず、基材として、シリコンウェハを用意した。次に、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナート(関東化学社製)、硝酸イットリウム(関東化学社製)、溶媒としてエタノール、結晶状態改質材として硝酸を用意した。その後、溶媒に、ジルコニウムテトラアセチルアセトナートを0.1mol/l、硝酸イットリウムを0.02mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液を得た。
【0076】
次に、上記基材(シリコンウェハ)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、基材上に金属酸化物膜を得た。
【0077】
得られた金属酸化物膜を、SEM(日立製作所製、S‐4500)を用いて観察したところ、膜厚は480nmであった。また、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図5(a)に示すようなピークが得られ、YSZ膜が形成されていることが確認された。
【0078】
[実施例2]
<ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、硝酸イットリウムおよび塩酸を用いたYSZ膜の作製>
本実施例においては、金属源としてジルコニウムテトラアセチルアセトナートおよび硝酸イットリウムを含有し、かつ、塩酸を添加した金属酸化物膜形成用溶液を用いて、YSZ膜を作製した。
【0079】
参考例2で用いた金属酸化物膜形成用溶液に、さらに塩酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.005mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液を得た。この金属酸化物膜形成用溶液を用いたこと以外は、参考例2と同様にして、金属酸化物膜を得た。
【0080】
得られた金属酸化物膜をSEM観察(日立製作所製、S‐4500)を用いて観察したところ、膜厚は520nmであった。また、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図5(b)に示すようなピークが得られ、結晶性の高いYSZ膜が形成されていることが確認された。これらの結果から、塩酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶性が向上することが確認できた。
【0081】
[参考例3]
<塩化インジウムおよび塩化スズを用いたITO膜の作製>
本参考例においては、金属源として塩化インジウムおよび塩化スズを含有し、かつ、酸を添加していない金属酸化物膜形成用溶液を用いて、ITO膜を作製した。本参考例の結果と、後述する実施例3の結果とを比較することにより、結晶状態の変化について確認した。
【0082】
まず、基材として、スライドガラスを用意した。次に、金属源として塩化インジウム(III)四水和物(関東化学社製)、塩化スズ(II)二水和物(関東化学社製)、溶媒としてメタノール50重量%、アセト酢酸エチル50重量%の混合溶媒、結晶状態改質材として硝酸を用意した。その後、混合溶媒に、塩化インジウム(III)四水和物を0.1mol/l、塩化スズ(II)二水和物を0.005mol/lとなるように溶解させ、100mlの金属酸化物膜形成用溶液を得た。
【0083】
次に、上記基材(スライドガラス)をホットプレート(アズワン社製)で500℃に加熱し、この基材に対し、上記金属酸化物膜形成用溶液を超音波ネプライザ(オムロン社製)にて100mlスプレーし、各基材上に金属酸化物膜を得た。
【0084】
得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図6(a)に示すようなピークが得られ、立方晶のITO膜が形成されていることが確認された。
【0085】
[実施例3]
<塩化インジウム、塩化スズおよび硝酸を用いたITO膜の作製>
本実施例においては、金属源として塩化インジウムおよび塩化スズを含有し、かつ、硝酸を添加した金属酸化物膜形成用溶液を用いて、ITO膜を作製した。
【0086】
参考例3で用いた金属酸化物膜形成用溶液に、さらに硝酸(1mol/l水溶液、関東化学社製)を0.01mol/lとなるように溶解させ、金属酸化物膜形成用溶液を得た。この金属酸化物膜形成用溶液を用いたこと以外は、参考例3と同様にして、金属酸化物膜を得た。
【0087】
得られた金属酸化物膜を、X線回折装置(リガク製、RINT−1500)を用いて測定したところ、図6(b)に示すようなピークが得られ、六方晶および立方晶からなるITO膜が形成されていることが確認された。これらの結果から、硝酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶構造が主に変化することが確認できた。
【0088】
[参考例4]
本参考例においては、基材として、スライドガラスの代わりに、多孔質酸化チタン基材を用いたこと以外は、参考例3と同様にして金属酸化物膜(ITO膜)を得た。
得られた金属酸化物膜を、SEM(日立製作所製、S‐4500)を用いて観察したところ、図7(a)に示すように、柱状結晶が得られ、界面に粒界がはっきりと確認された。
【0089】
[実施例4]
本実施例においては、基材として、スライドガラスの代わりに、多孔質酸化チタン基材を用いたこと以外は、実施例3と同様にして金属酸化物膜(ITO膜)を得た。
得られた金属酸化物膜を、SEM(日立製作所製、S‐4500)を用いて観察したところ、図7(b)に示すように、界面に粒界がない膜が確認された。参考例4および実施例4の結果から、硝酸を添加することにより、金属酸化物膜の結晶状態が変化することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の金属酸化物膜の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図3】本発明の金属酸化物膜の製造方法の他の例を示す説明図である。
【図4】参考例1、実施例1−1および実施例1−2のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図5】参考例2および実施例2のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図6】参考例3および実施例3のX線回折測定の結果を示すグラフである。
【図7】参考例4および実施例4のSEM写真である。
【符号の説明】
【0091】
1 … 基材
2 … 金属酸化物膜形成用溶液
3 … スプレー装置
4、5、6 … ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属源として金属塩または有機金属化合物が溶解した金属酸化物膜形成用溶液と、金属酸化物膜形成温度以上の温度まで加熱した基材とを接触させることにより、前記基材上に金属酸化物膜を得る金属酸化物膜の製造方法であって、
前記金属酸化物膜形成用溶液が、金属酸化物膜の結晶状態を変化させる酸を含有することを特徴とする金属酸化物膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸が、HF、HCl、HBr、HNO、HNO、HSOまたはHPOであることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項3】
前記金属酸化物膜形成用溶液が、さらにドーピング金属源を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属酸化物膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属源を構成する金属元素が、Mg、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、In、Sn、Ce、Sm、Pb、La、Hf、Sc、Gd、Ca、Cr、Ga、Sr、Nb、Mo、Pd、Sb、Te、Ba、WまたはTaであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の金属酸化物膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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