説明

金属酸化物膜及び色素増感太陽電池およびその製造方法

本発明は、表面にネットワーク状の溝が形成されている金属酸化物膜、および第一導電層、色素が吸着した上記金属酸化物膜、電解質、第二導電層が順に形成された色素増感太陽電池、およびそれの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、金属酸化物膜、電極、及び金属酸化物と色素、電解質により構成され、金属酸化物上に吸着した色素により太陽光を吸収し電気に変換する色素増感太陽電池に関する。本出願は、特願2002−354729号及び特願2002−354730号の内容をここに組み込むものとする。
【背景技術】
酸化物半導体として利用される酸化チタン、酸化タングステンを始めとした金属酸化物は、近年、光触媒、エレクトロクロミックデバイス、色素増感太陽電池などの太陽電池、など様々な分野で応用され始めている。これらの一例が特開平8−99041号公報や日本国特許第2664194号公報に述べられている。これらはいずれも、単位面積当たりの表面積が大きければ大きいほど、優れた性能が得られる。このため、通常、表面粗さの大きな金属酸化物、または多孔性の金属酸化物が利用される。
多孔性の金属酸化物は、通常、ゾル・ゲル法を応用して溶媒に分散させた金属酸化物微粒子を基板に塗工し、400℃以上の高温で焼成することにより得るか、あるいはコージェライトや活性炭等の多孔性セラミックスを金属アルコキシド水溶液に浸すなどして、用いたい金属酸化物を担持させる等の方法を用いて得られる。
近年では真空プロセスのスパッタリング法を用いて、室温〜300℃程度に加熱した基板上に金属酸化物を結晶成長させ、大きな表面積を得る方法が提案されている。
以上に挙げた方法にはそれぞれ欠点がある。ゾル・ゲル法を利用する場合は高温による焼成が必要である為、紙やプラスチックなどの安価な基板上には形成不可能であり、さらに焼成には昇温、冷却を含めて1時間以上の工程が必要である。また、金属酸化物微粒子が積層した状態で形成されるため、微粒子界面抵抗による電気伝導性の低下が懸念され、電子デバイスとして用いる場合には十分な性能が得られていない。
一方、スパッタリング法による方法では、高密度のプラズマにより結晶成長を促すため、表面粗さを大きくすることによって単位面積当たりの表面積を大きくすることはできる。しかし、空孔を持つような多孔質はとうてい望めないため、その性能向上には限界がある。
太陽電池について述べると、一般に太陽電池として、単結晶シリコン太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、化合物半導体太陽電池などが知られている。しかし、これらは製造コストや原材料コストの抑制が難しく、太陽電池普及の妨げになっていた。こうした中、日本国特許第2664194号公報および日本国特許第2101079号公報に述べられているように、半導体層表面に色素を担持させて構成した電極を用いた色素増感太陽電池が、低コスト、高変換効率という優れた特徴を有していることが知られている。
一般的に知られている色素増感太陽電池は、透明導電膜上に色素が吸着した多孔質の金属酸化物半導体を形成した光電極、及び、導電膜及び/または触媒となる導電膜からなる対向電極、及び電荷輸送層から構成される。色素増感太陽電池は、電荷輸送層を介して光電極及び対向電極を重ねることにより製造される。
多孔質金属酸化物半導体は、通常、チタンアルコキシドなどの水熱合成により10〜50nm程度の酸化チタン微粒子分散ゾルを製造し、これを透明導電膜上に塗布した後、焼成することにより10μm程度の膜厚で製造される。この時の酸化チタン膜の比表面積は100m/g以上とも言われ、その結果、吸着色素量を増大させ、高い発電量が得られている。
しかしながら、以上のように得られた酸化チタン層は、微粒子の積層体である。このため、微粒子間の界面抵抗が高く、十分な導電性が得られていない。これを解消するためにTiCl処理などが試みられているが、扱い難い薬品である上に20時間程度の長時間の処理が必要であるため、安全性、生産性において課題が残る。
また、光吸収性能を十分なものとするため、厚膜にする必要があり、その結果より強い内部応力が発生し、酸化チタン層膜の剥離の原因となる。
これらの問題を解決すべく、すなわち、優れた安全性、生産性で、十分な導電性を有し、かつ薄膜で他の層との膜剥離などのない金属酸化物膜の開発が求められている。優れた比表面積、結晶性を有した金属酸化物膜の開発も求められている。さらに、前記金属酸化物膜を用いることにより、高い変換効率を有する色素増感太陽電池が求められている。
【発明の開示】
本発明は、表面にネットワーク状の溝が形成されている金属酸化物膜である。
本発明は、基板上に少なくとも、第一導電層、表面に色素が吸着した、表面にネットワーク状の溝が形成されている金属酸化物膜、電解質、第二導電層が順に形成された色素増感太陽電池である。
本発明の色素増感太陽電池の製造方法は、基板を用意する工程と、導電層を基板上に形成する工程と、蒸着源表面の垂直方向に対して透明導電層を有する基板を傾けた位置に保持し、前記透明導電層上に真空蒸着により金属酸化物膜を形成し、積層体を得る工程と、
金属酸化物膜上に色素を担持させる工程と、電解質を金属酸化物膜上に形成し電荷輸送層を設ける工程とを、含む。
上記製造方法は、基板及び導電層を含む積層体を用意し、この上に導電性触媒層を形成して、対向電極を得る工程と、導電性触媒層と電荷輸送層を重ね合わせ固定する工程を含むことも好ましい。また、電荷輸送層上に導電性触媒層または導電層を形成する工程を含むことも好ましい。また、積層体を得る工程のあとに、積層体を後処理する工程を含むことも好ましい。なお、本発明の色素増感太陽電池の製造方法においては、いずれかの工程においても、ロールトウロール方式を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図2は、本発明の色素増感太陽電池の一例を示す概略断面図である。
図3は、本発明の金属酸化物膜表面の表面を示した概略平面図である。
図4は、本発明金属酸化物膜の一例を示した概略断面図である。
図5は、本発明の金属酸化物膜の一例を示した概略断面図である。
図6は、本発明の金属酸化物膜の成膜方法を示す概略図である。
図7は、従来の色素増感太陽電池を示した概略断面図である。
図8は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図9は、本発明金属酸化物膜の一例を示した概略断面図である。
図10は、本発明の金属酸化物膜の表面を示した概略平面図である。
図11は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図12は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図13は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図14は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図15は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図16は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
図17は、本発明の金属酸化物膜表面を写したSEM像の画像図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、以上の問題を解決すべく、すなわち、優れた安全性、生産性で、十分な導電性を有し、かつ薄膜で他の層との膜剥離などのない金属酸化物膜、および優れた比表面積、結晶性を有する金属酸化物膜を提供することを課題とする。前記金属酸化物膜を用いることにより、高い変換効率を有する色素増感太陽電池を提供する。
図1は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面を写したSEM像である。表面には、ひび割れ形状のような溝をもつ構造が見られる。金属酸化物膜には、網目状をなす溝に区切られた、複数の島あるいは半島が形成されている。金属膜は、島あるいは半島状にと、溝によって複数に分断されている。島は完全に独立していても、していなくとも良い(一部がつながった半島状になってもよい)。溝はネットワーク状に膜表面に広がっている。この膜は、成膜圧力が0.27Pa、入射角度が45°の条件で形成され、膜厚は5.1μmである。写真の画像倍率は5000倍である。
図2は、本発明の第一、二の態様の色素増感太陽電池の一例を示す概略断面図である。基板1上に透明導電層2が形成されている。透明導電層2上には金属酸化物膜3が形成されている。金属酸化物膜は、横方向(断面)から見ると、膜厚方向に複数の微細な柱を形成したような形状、別の言い方では、ひだ状のような形状をしている。金属酸化物膜3には色素4が担持され、金属酸化物膜3のクラックあるいは溝を満たすように電解質層5が形成されている。その上に形成された導電性触媒層6、透明導電層2、及び基板1が示されている。
図3は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜の表面を示した概略平面図である。溝8により半島または島状の凸部9が隔てられている。凸部9のうち、溝8により隔てられていない直線連続部分7が、60μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは5μm以下、最も好ましくは3μm以下であることがより好ましい。このときの溝の定義は、0.1μm以上の溝を溝8とする。
図4、図5は、本発明の第一、二の態様の、基板1上の透明導電層2の上に金属酸化物膜3を形成した金属酸化物積層体の例を示している。
図6は、蒸着材料50を使用した、入射角40で行われる、基板1上への本発明の金属酸化物膜の成膜方法の一例が示されている。
図7は、従来の色素増感太陽電池を示した概略断面図である。基板1の上に透明導電層2が形成され、その上に、色素4を担持した複数の粒子状の金属酸化物の層3bが設けられ、その上に電解質層5が設けられている。その上に、電荷輸送層6、透明導電層2、及び基板1が設けられている。
図8は、本発明の第二の態様の金属酸化物膜表面を写したSEM像である。表面には、溝により独特の模様が形成されている。厚さ方向に凸部と溝部を有する溝保有構造を有している。膜を上方から見た時、膜は、前記凸部と、互いに連絡する溝、及び/又は連絡しない溝によって、入り組んだ形状となっている。金属酸化物膜の表面には、溝のネットワークが全体的に形成されている。この独特の形状は、SEM写真からも分かるとおり、脳の表面のような、あるいはラメラ状のような、魚の白子のような、あるいは脳の表面のしわのような、独特の形状である。金属酸化膜は、レーザーアニール処理されており、成膜圧力は0.10Pa、入射角度は70°の条件で形成され、膜厚は0.7μmである。写真の画像倍率は25000倍である。
図9は、本発明の第一、および二の態様の金属酸化物膜の一例を示した概略断面図である。基板1上の保護層11上に金属酸化物膜が形成された、金属酸化物積層体10である。
図10は、本発明の第二の態様の金属酸化物膜の表面を示した概略平面図である。溝12と溝以外の金属酸化物膜の部分である凸部13、凸部の幅13aと溝の幅12aが示される。
図11は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.27Pa、入射角度は45°の条件で形成され、膜厚は4.9μmである。写真の画像倍率は10000倍である。
図12は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.27Pa、入射角度は0°の条件で形成され、膜厚は5.8μmである。写真の画像倍率は10000倍である。
図13は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.27Pa、入射角度は45°の条件で形成され、膜厚は2.4μmである。写真の画像倍率は10000倍である。
図14は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.27Pa、入射角度は45°の条件で形成され、膜厚は2.4μmである。写真の画像倍率は5000倍である。
図15は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.27Pa、入射角度は45°の条件で形成され、膜厚は1.4μmである。写真の画像倍率は10000倍である。
図16は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.20Pa、入射角度は45°の条件で形成され、膜厚は6.2μmである。写真の画像倍率は5000倍である。
図17は、本発明の第一の態様の金属酸化物膜表面の一例を写したSEM像の画像図である。膜は、成膜圧力は0.20Pa、入射角度は45°の条件で形成され、膜厚は9.7μmである。写真の画像倍率は1000倍である。
(基板)
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池に使用されうる基板について以下に説明する。
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池では、基板1上に金属酸化物膜3を設けることができる。基板1としては、透明な公知の材料を用いることができる。例えばポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース、ポリイミド等のプラスチックフィルム、あるいはガラスを用いることができる。これらの中でも、ガラス、あるいはポリエチレンテレフタレートを使用することが好ましい。しかしながらこれらの例のみに限定されることはない。図2のような構成の太陽電池とする場合、一方の基板は透明である必要があるが、他方は透明でもそうでなくても良い。基板の厚さは、プラスチックの場合は、10μm以上500μm以下が好ましく、50μm以上200μm以下がより好ましく、100μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。ガラスの場合は、0.1mm以上5mm以下が好ましく、0.5mm以上4mm以下がより好ましく、0.5mm以上2mm以下であることがさらに好ましい。また基板は、光の入射面にして用いる場合、可視光域の透過率が85%以上であって、耐候性に優れ、かつ支持材として耐えうる強度をもつことが好ましい。
このような基板は、必要に応じて表面がコロナ処理、プラズマ処理、薬品処理などによって改質されたものであってもよい。
(保護層)
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池に使用されうる保護層について以下に説明する。
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池では、基板と金属酸化物膜の間に保護層を設けても良い。本発明における保護層としては、酸化珪素、あるいは酸化アルミニウムを用いることができる。それ以外にも、鉄、コバルト、ジルコニウム、あるいはその他の金属酸化物や金属酸窒化物、金属窒化物、金属フッ化物などを用いることができる。また、シリコーン樹脂や含フッ素有機化合物などの高分子化合物を用いることができるが、金属酸化物膜はものにより、光を吸収して光触媒作用を起こすので、この作用に耐えうる物である必要がある。これらの中でも、酸化珪素あるいは酸化アルミニウムを使用することが好ましい。しかしながら保護層はこれらの例に限定されるものではない。保護層を設けることにより、後述する後処理などを行う時に基板を保護することができる。保護層の厚さは1nm以上500nm以下であることが好ましく、5nm以上300nm以下がより好ましく、5nmから150nmであることがさらに好ましい。また保護層は異なる二種類以上の層を積層してもよく、また可視光域の透過率が90%以上であることも好ましい。
(透明導電層)
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池に使用されうる透明導電層について以下に説明する。
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池では、基板と金属酸化物膜の間に透明導電層2を設けることができる。透明導電層2としては、公知の可視光領域の吸収が少なく導電性のある透明導電材料を用いることができるが、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、亜鉛をドープした酸化インジウム(IZO)、フッ素やインジウムやアンチモンなどがドープされた酸化スズ、アルミニウムやガリウムなどをドープした酸化亜鉛等が好ましい。また、銀あるいは銀合金(AgAuCuなど)をITO、TiO、ZnO等で挟んだ3層型透明導電材料も挙げられる。これらの中でも、特にITOまたはフッ素ドープした酸化スズを使用することが好ましい。透明導電層2の形成方法としては真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等の真空成膜プロセスによることができる。しかしこれらの例に限定されることはなく、いかなる成膜方法であっても構わない。透明導電層の厚さは50nm以上1μm以下が好ましくい。条件にもよるが、ITOの場合は100nm以上400nm以下の膜厚が好ましく、フッ素ドープ酸化スズの場合、300nm以上900nm以下が好ましい。透明導電層は、可視光域の透過率が65%以上であることが好ましい。入射光をより効率よく取り込むために表面にテクスチャー構造を有していても良い。なお本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池では、導電層が透明であるのは必須ではなく、透明でない導電層であっても良い。例えば、基板と金属酸化物膜のさらに上部に、たとえば対向電極内などに透明導電層が設けられる場合などは、基板と金属酸化物膜の間に設けられる導伝層は透明であってもなくとも良い。
(金属酸化物膜)
本発明の金属酸化物膜について以下に説明する。
本発明の金属酸化物膜を、第一の態様と第二の態様の金属酸化物膜にわけて説明する。SEM写真からも判断できるように、第一の態様の金属酸化物膜は、表面に網目状の溝を有する金属酸化物膜であり、第二の態様の金属膜は、表面がまるで脳表面のしわのようにも見えるネットワーク状の溝が形成されている。
本発明の金属酸化物膜及び色素増感太陽電池における金属酸化物膜3としては、n型あるいはp型半導体の性質を示す金属酸化物を用いることができる。具体的には亜鉛、ニオブ、錫、チタン、バナジウム、インジウム、タングステン、タンタル、ジルコニウム、モリブデン、マンガン、鉄、銅、ニッケル、イリジウム、ロジウム、クロム、ルテニウムの酸化物があげられる。また、SrTiO、CaTiO、BaTiO、MgTiO、SrNbのようなペロブスカイト、あるいはこれらの複合酸化物、またはこれらの酸化物混合物なども使用することができる。これらの中でも、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンはアナターゼ型の多結晶であることが好ましい。
しかしながら使用されうる金属酸化物は、これらの例のみに限定されない。また、金属酸化物膜自体が多孔質であってもよい。本発明の金属酸化物膜は、断面からみると、厚さ方向に伸びるひだ状あるいは柱状のような形状を持つようにも見える。
本発明の第一の態様の金属酸化物膜について以下に説明する。
本発明の第一の態様の金属酸化物膜3は、図1、図3に示したように、厚さ方向に溝構造を有することに起因する、ひび割れ状の形状を有することを特徴とする。膜には、多くのランダムに形成された溝によって囲まれた、あるいは区切られた、島や半島が形成されている。ここでは、多くの島がネットワーク状の溝で区切られている。島や半島内には微細な溝が形成されていてもよい。このようなランダムな溝構造とすることにより、入射した光の散乱特性が向上し、好ましい特性を与える。
本発明の金属酸化物膜の溝幅は、特に制限するものではないが、導電性、光透過性、光散乱性、電解質との界面面積の最適化を考慮すると3μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下であることが好ましい。なお溝の幅は、溝の長手方向に対して垂直方向に測られる。
また、膜厚は特に制限するものではないが、導電性、光透過性、光散乱性、内部応力、電解質との界面面積の最適化を考慮すると、膜厚10μm以下、好ましくは8μm以下であることが好ましい。また膜厚の下限は、50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは1μm以上であることが好ましい。色素増感として使用される場合は、1μm以上、好ましく3μm以上であることが好ましい。比表面積は、特に制限するものではないが、導電性、光透過性、光散乱性、電解質との界面面積の最適化を考慮すると、好ましくは30m/g以上150m/g以下、より好ましくは50m/g以上120m/g以下、さらに好ましくは60m/g以上110m/g以下であることが好ましい。
本発明の第一の態様の金属酸化物膜3は溝構造を有し、ひび割れ状のような形状を有する特徴をもつ。具体的には図3に示すように、半島または島状の凸部9(溝以外の部分)が溝8により隔てられている。溝により隔てられている凸部9は島状であり、入り組んだ溝8により、金属酸化物層の上部又は全部(溝の中あるいは下に膜が存在しないことを意味する)が隔てられていても良く、また凸部9は半島状であって、溝8によって完全に隔てられていない形状であっても良い。本発明では、膜を形成する複数の柱部分はその高さが一定でないため、膜の高さが低い部分は溝として扱われる。溝はSEM写真により目視で確認できる。本願の金属酸化物膜は、基板あるいは透明導電層上に、膜が存在していない部分が存在してもよい。あるいは、金属酸化物膜の溝部が、膜全体を隔ててなく、金属酸化物膜が連続であってもよい。すなわち、溝部の底部でも連続していて、金属酸化物膜が連続したものであっていてもよい。
本発明の第一の態様では、膜の凸部9のうち、溝8により隔てられていない直線連続部分7(溝に接する凸部のある地点から、直線を引いて溝に到達し途切れるまでの部分)が、60μm以下であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは5μm以下、最もこのましくは好ましくは3μm以下であることが好ましい。60μmより大きくなると、金属酸化物膜の溝により隔てられている半島あるいは島状の凸部分が大きくなり、比表面積が前記した最適範囲からはずれてしまう。また、ランダムな溝構造とならないため、入射した光の散乱特性が低下してしまう。
また、金属酸化物膜の溝以外の部分、すなわち半島あるいは島状の凸部9、の占める割合が、0.1μm以上の溝を溝と判断した場合、面積比で50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、かつ90%以下、さらに好ましくは85%以下であることが好ましい。なお、この時の面積比とは、金属酸化物膜を上から見た場合の面積比である。これはSEM写真等から判断可能である。
また、前記溝は、基板1に対して斜めに形成されていても構わない。また、溝の深さには特に制限はなく、一定でも良いしそうでなくても良い。さらに、金属酸化物膜3は透明導電層2や基板1などの下層の上で図5のように不連続であっても構わない。しかしながら、前記金属酸化物膜の溝部が、金属酸化物膜の層全体(膜厚方向)を隔ててなく、金属酸化物膜が連続であることが好ましい。すなわち、図4のように連続に形成されている方が、透明導電層2や基板1などの下層と電解質の接触が回避できるため、より好ましい。
第二の態様の金属酸化物膜について説明する。
本発明の第二の態様の金属酸化物膜3は、図8に示したような、厚さ方向に存在する溝部と凸部を有し、前記凸部が海綿質状または脳表面状に入り組んだ形状であることを特徴とする。別の言い方で述べると、厚さ方向に溝部と凸部を有し前記凸部が九十九折り状に入り組んだ形状である。膜を上から見た場合、曲がりくねった、不規則な太さの紐状の、あるいは不規則な太さの柱状の金属酸化物からなる凸部13が連なっている。凸部内には微細な溝が形成されていてもよい。これら凸部は、ランダムな幅と長さをもつ空隙からなる溝12により隔てられている。このように空隙が、ランダムな膜厚方向の溝を形成してなる溝構造であることにより、入射した光の散乱特性が向上し、好ましい。
前記凸部(表面からみた形状が不規則な太さの紐柱状である金属酸化物の凸部分)の幅13aは、導電性、光透過性、光散乱性、電解質との界面面積の最適化を考慮すると、500nm以下、好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下であることが好ましい。また、50nm以上、好ましくは100nm以上であることが好ましい。
前記金属酸化物膜は多結晶構造を有することがこのましい。
記溝の幅12aは、特に制限するものではないが、導電性、光透過性、光散乱性、電解質との界面面積の最適化を考慮すると、1μm以下、好ましくは500nm以下、さらに好ましくは200nm以下であることが好ましい。また5nm以上、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上であることが好ましい。
また、膜厚は特に制限するものではないが、導電性、光透過性、光散乱性、内部応力、電解質との界面面積の最適化を考慮すると、10μm以下であり、8μm以下がさらに好ましく、5μm以下であることがより好ましい。また膜厚の下限は50nm以上であり、100nm以上がさらに好ましく、1μm以上であることがより好ましい
また、比表面積は特に制限するものではないが、導電性、光透過性、光散乱性、電解質との界面面積の最適化を考慮すると、比表面積10m/g以上、好ましくは30m/g以上、より好ましくは50m/g以上である。また150m/g以下、好ましくは120m/g以下、さらに好ましくは100m/g以下であることが好ましい。
また、前記空隙からなる溝8は、基板1に対して斜めに形成されていても構わない。また、溝の深さには特に制限はなく、一定でも良いしそうでなくても良い。
さらに、第二の態様の金属酸化物膜3は透明導電層2や基板1などの下層の上で図5のように不連続であっても構わないが、前記金属酸化物膜の溝部が、層全体を隔ててなく、金属酸化物膜が連続であることが好ましい。すなわち、図4のように連続に形成されている方が、透明導電層2や基板1などの下層と電解質の接触が回避できるため、より好ましい。
また、膜の溝以外の部分である凸部の占める割合は、15nm以上の溝を溝とした場合、50%以上90%以下、さらには60%以上85%以下、より好ましくは65%以上85%以下であることが好ましい。
(本発明の第一と二の態様の金属酸化物膜の形成方法)
本発明の第一と二の態様の金属酸化物膜3の形成方法は、公知の成膜技術により形成することができる。例えば、金属酸化物の成膜には、形成したい金属酸化物に対応する金属、金属酸化物、金属亜酸化物などを蒸着源として、電子ビームやプラズマ銃による加熱を用いた蒸着法、あるいは酸素ガスを導入しながら蒸着を行う反応性蒸着法を用いることができる。
また、厚さ方向に溝構造を有し、網目形状を有した金属酸化物膜とするためには、あるいは溝部と凸部を有し表から見た場合、前記凸部がラメラ状に入り組んだ形状金属酸化物膜とするためには成膜圧力は用いる蒸着源の種類によって異なるが、1×10−2Pa以上1Pa以下、好ましくは5×10−2Pa以上9×10−1Pa以下、より好ましくは8×10−2Pa以上8×10−1Pa以下の範囲で行うことが好ましい。成膜の際に、任意のガスを用いたプラズマやイオン銃、ラジカル銃などでアシストを行ってもよい。また目的の金属酸化物によっては、スパッタリング法、イオンプレーティング、CVDなどの真空成膜法を用いてもよい。
また、斜め方向に蒸着することが好ましい。具体的に基板を蒸着源に対して斜めに傾けて配置し、成膜することができる。
好ましくは基板の法線と蒸着材料が付着してくる方向の角度が、10°以上90以下、好ましくは20°以上80°以下、より好ましくは30°以上70°以下である(図6参照)。本願の各態様の膜の凸部は、基体に対して傾いていてもよい。凸部と、基体に対して直角に交わる直線とで形成する角度は、0°以上45°以下が好ましく、さらに好ましくは2°以上30°以下であり、よりこのましくは5°以上20°以下である。
蒸着される際の基板の温度は、−10℃以上400℃以下、好ましくは0℃以上200℃以下、より好ましくは5℃以上150℃以下である。堆積速度は20Å/S以上が好ましく、40Å/S以上がより好ましく、45Å/S以上がさらに好ましい。
また、本発明では、基板としてプラスチックフィルムを用いた場合には、ロールトゥロール方式で成膜することができる。それにより、高い生産性を得ることができる。なお、ロールトゥロール方式とは、巻きだし側から順次フィルムあるいはフィルム状基体を走行させながら巻き取り側では巻き取る間に、成膜あるいは形成する工程を含む方式である。前記の成膜あるいは形成の際には、一旦フィルムあるいはフィルム状基体を停止させてもよい。
以上で得られた金属酸化物膜3は、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、薬品処理など、任意の方法で表面処理することができる。また、熱による焼成や圧縮機を用いた加圧処理、レーザアニーリングなど、任意の手段を用いて後処理することもできる。
本発明の第二の態様のような形状の金属酸化物膜を得る場合、レーザー照射によるレーザーアニーリング処理を行うことが好ましい。これを行うことにより、処理前と同等の多孔性を保ちながら、結晶化させることができる。また、比較的低温で処理することができるため、プラスチックフィルム基板を用いることができる。
本発明の第一と第二の態様の膜は多数の溝が形成されているため、膜の凸部の側面等にそって色素が効率的に分散でき、かつ吸着がよくなり、したがって優れた効果を示すことができる。また光の散乱が良くなる効果も期待できる。多くの溝部、すなわち多くの柱部をもつ本発明の金属酸化膜の効果は非常にすぐれたものである。
また、本発明の金属酸化物膜表面、すなわち複数の凸部から形成される膜の表面は、均一で平らであっても良いし、要求される条件によってはそうでなくても良い。これらは任意に選択することができる。
(色素増感太陽電池)
ここでは、本発明の第一の態様と第二の態様の金属酸化物膜を色素増感太陽電池に用いた例で説明する。
本発明の金属酸化物膜を用いた色素増感太陽電池は、少なくとも基板上に、第一導電層、色素が吸着した金属酸化物膜、電解質、第二導電層が順に形成されてなる色素増感太陽電池である。第一と第二の導電層の少なくも一つは透明であることが好ましい。
図2に示すように、本発明の色素増感太陽電池10は、基板1、透明導電層2、金属酸化物膜3、および金属酸化物膜3に担持された色素4、さらには金属酸化物膜3の溝を満たすように形成された電解質層5、導電性触媒層6、透明導電層2、基板1より形成されている。以下、詳細に説明する。
(色素)
本発明における色素4の例として、ルテニウム−トリス、ルテニウム−ビス型の遷移金属錯体、またはフタロシアニンやポルフィリン、シアニジン色素、メロシアニン色素、ローダミン色素などの有機色素が挙げられる。しかしながら本発明で使用できる色素は、これらの例のみに限定されない。これらの色素は、吸光係数が大きくかつ繰り返しの酸化還元に対して安定であることが好ましい。また、上記色素は金属酸化物半導体上に化学的に吸着することが好ましく、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミド基、アミノ基、カルボニル基、ホスフィン基などの官能基を有することが好ましい。
(電解質層)
電解質層5としては、溶媒としてアセトニトリルやプロピレンカーボネートのような極性溶媒を使用しこれに、ヨウ素を包含するヨウ化物、臭化物、キノン錯体、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体、ジシアノキノンジイミン錯体などを溶解させた酸化還元系を含む溶液を用いることができる。また、液漏れの可能性を回避するために、ゲル状電解質やp型半導体を含む固体状電荷輸送材料を用いることがより好ましい。
固体状電荷輸送材料に用いることのできる材料の具体例としては、トリフェニルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミンなどの芳香族アミン化合物、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環炭化水素、アゾベンゼンなどのアゾ化合物、スチルベンなどの芳香環をエチレン結合やアセチレン結合で連結した構造を有する化合物、アミノ基で置換されたヘテロ芳香環化合物、ポルフィリン類、フタロシアン類、キノン類、テトラシアノキノジメタン類、ジシアノキノンジイミン類、テトラシアノエチレン、ビオロ−ゲン類、ジチオール金属錯体などが挙げられる。ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、PEDOTなどの高分子化合物を用いることができる。しかしながらこれらの例のみに限定されるものではない。また、その他固体状電荷輸送材料に用いることのできる材料として、CuI、AgI、TiI、およびその他の金属ヨウ化物、CuBr、CuSCNなどが挙げられる。また、ポリアルキレンエーテルなどの高分子ゲルにヨウ化物、キノン錯体等を抱含させて用いてもよい。これらの材料は、必要に応じて任意に組み合わせて用いることができる。
電解質層5の形成方法としては、マイクログラビアコーティング、ディップコーティング、スクリーンコーティング、スピンコーティング等を用いることができる。固体電解質またはp型半導体を用いる場合には、任意の溶媒を用いた溶液にした後、上記方法を用いて塗工し、基板を任意の温度に加熱して溶媒を蒸発させるなどにより形成する。電解質層の厚さは10μm以下が好ましく、がより好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。また電解質層は導電率が1×10−10S/cm以上が好ましく、1×10−6S/cm以上がより好ましく、1×10−5S/cm以上がさらに好ましい。なお、上記電解質層の厚さとは、導電性触媒層から金属酸化物膜の凸部表面までの距離をいう。図2のAは、電解質層の厚さを示している。本発明では、電解質は金属酸化物膜の凹部にも入りこんでいるが、導電性触媒層から金属酸化物膜の凹部表面までの距離を、電解質層の厚さとはここでは言わない。
(導電性触媒層)
導電性触媒層6としては、任意の導電性材料を用いることができ、白金や金、パラジウム、銀、銅などの金属、もしくは炭素などが挙げられる。また、ポリアニリン、ポリチオフェン、PEDOT、ポリピロールなどの導電性有機材料を用いることができる。これらを形成する際には、透明導電層5と同様の真空成膜法、あるいはこれら材料の微粒子をペーストにしたものをウエットコーティングする方法を用いることができる。
導電性触媒層の厚さは0.1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上200nm以下がより好ましく、5nm以上150nm以下がさらに好ましい。また導電性触媒は、ヨウ素などの酸化還元系を使用する場合、白金、炭素などの酸化能の強い材料を用いる。固体状電荷輸送材料を用いる場合、仕事関数がそれに近い材料を用いることが好ましい。具体的には仕事関数4.5eV以上が好ましい。
(その他の使用について)
本発明の金属酸化物膜3は、電極などに用いることができ、ここでは、色素増感太陽電池に用いた例で説明した。しかしながら、この用途に限定されるものではない。例えばエレクトロクロミックデバイス、ガスセンサ、光触媒膜など様々な用途に用いることができる。
【実施例】
以下、本発明の金属酸化物膜を色素増感太陽電池に応用した例で具体的に説明する。
【実施例1】
図2の層構成の色素増感太腸電池を次のように作製した。基板1としてガラス(Corning7059、0.5mm厚)を使用し、この上に透明導電層2としてインジウム錫酸化物(ITO)を真空スパッタリング法により形成した。得られた透明導電性基板の温度は40℃に保持し、真空蒸着法により、金属酸化物膜3としての酸化チタン膜を透明導電性基板上に、酸素ガスを導入しながら、7μmの膜厚で形成した。この時の成膜圧力は2×10−1Paで、基板は蒸着源から垂直方向に対して60°傾けた。で、堆積速度は85Å/Sあった。さらに、得られた積層体を、電熱炉を用いて450℃で30分間焼成した。このとき、BET多点法で測定した金属酸化物膜のみの比表面積は55m/gであった。表面像をSEMによって観察したところ、得られた金属酸化物膜は、無数の入り組んだ溝が存在する、表面から見るとひび割れ状である形状であった。この時の溝幅は10nmから200nmであった。金属酸化物膜の凸部9で溝により隔てられていない直線連続部分は一番長いところで3.2μmであった。溝以外の部分が占める面積の割合は、82%であった。得られた積層体を、ビス(4,4−ジカルボキシ−2,2−ビピリジル)ジチオシアネートルテニウムのエタノール溶液に浸漬することにより、色素4として、ビス(4,4−ジカルボキシ−2,2−ビピリジル)ジチオシアネートルテニウムを担持させた。この後、エタノール洗浄、及び乾燥を行った。以下の操作を乾燥アルゴン雰囲気下で行った。電解質層(電荷輸送層)5として0.4MのTPAI(テトラプロピルアンモニウムヨーダイド)、0.05MのI、メトキシアセトニトリルからなる電解質を金属酸化物膜3上に形成した。
更に、対向電極として上記と同様にして形成した基板1、透明導電層2よりなる積層体を用意し、この上にスパッタリング法により成膜した白金を導電性触媒層6として形成することにより対向電極を作製した。
導電性触媒層6と電荷輸送層5を重ね合わせるように固定した後、側面をエポキシ系接着剤で封止することにより色素増感太陽電池を作成した。以上で得られた色素増感太陽電池の電流−電圧特性を測定したところ、Air Mass 1.5、100mW/cmの擬似太陽光を用いた時、短絡電流密度Jsc=21mA/cm、開放電圧Voc=0.74V、フィルファクターFF=0.70で光電変換効率はη=10.9%であった。
なおAir Massとは太陽光スペクトルを表現する定義である。(入射角θの時、Air Mass mであるとすると、m=1/sinθである。たとえば、Air Mass0=宇宙空間、Air Mass2=地表に対して45°で入射する太陽光である。)
比較例1
図7の層構成をもつ色素増感太陽電池を次のように作製した。基板1としてガラス(Corning7059、0.5mm厚)を使用し、この上に透明導電層2としてインジウム錫酸化物(ITO)を真空スパッタリング法により形成した。得られた透明導電性基板上に、金属酸化物膜3として酸化チタンをゾル・ゲル法により、7μmの膜厚で形成した。用いた酸化チタンゲルは、チタンテトラプロポキシドを水熱合成することによって得た。さらに、得られた積層体を、電熱炉を用いて450℃で30分間焼成した。このとき、BET多点法で測定した金属酸化物膜のみの比表面積は105m/gであった。表面像をSEMによって観察したところ、粒径20nm程度の酸化チタンの微粒子が積層されていた。得られた積層体を、ビス(4,4−ジカルボキシ−2,2−ビピリジル)ジチオシアネートルテニウムのエタノール溶液に浸漬することにより、色素4として、ビス(4,4−ジカルボキシ−2,2−ビピリジル)ジチオシアネートルテニウムを担持させた。この後、エタノール洗浄、及び乾燥を行った。以下の操作を乾燥アルゴン雰囲気下で行った。電荷輸送層5として0.4MのTPAI(テトラプロピルアンモニウムヨーダイド)、0.05MのI、メトキシアセトニトリルからなる電解質を金属酸化物の膜3b上に形成した。
更に、対向電極として上記と同様にして形成した基板1、透明導電層2よりなる積層体を用意した。この上にスパッタリング法により成膜した白金を導電性触媒層6として形成することにより対向電極を作製した。この導電性触媒層6と電荷輸送層5を重ね合わせるように固定した。この後、側面をエポキシ系接着剤で封止することにより色素増感太陽電池を作成した。以上で得られた色素増感太陽電池の電流−電圧特性を測定したところ、Air Mass 1.5、100mW/cmの擬似太陽光を用いた時、短絡電流密度Jsc=15mA/cm、開放電圧Voc=0.75V、フィルファクターFF=0.71で光電変換効率はη=8.0%であった。
酸化チタン層の膜厚を同じにした場合、実施例1の構造を用いた方が高い光電変換効率が得られた。
【実施例2】
図2の層構成をもつ色素増感太陽電池を次のように作製した。基板1としてガラス(Corning7059、0.5mm厚)を使用し、この上に透明導電層2としてインジウム錫酸化物(ITO)を真空スパッタリング法により形成した。得られた透明導電性基板上に、酸化チタン膜を形成した。酸化チタン膜は、酸素ガスを導入して酸化チタンを蒸発させる反応性真空蒸着法を用いて、膜厚250nmで成膜した。この時の成膜圧力は1×10−1Paであった。また、基板温度は40℃、入射角は70°、堆積速度は45Å/Sであった。さらに酸化チタンの表面からKrFエキシマレーザを20mJ/cm、150pps(pulse per second)、3秒の条件で照射することにより、ひだ状構造を有する酸化チタン膜を得た。得られた酸化チタンのX線回折を行ったところアナターゼ型の多結晶であった。またBET多点法で測定した比表面積は82m/gであった。表面像をSEMによって観察したところ、酸化チタン骨格の幅は50〜200nmで、酸化チタン骨格に囲まれた空間の幅は5nm〜100nmであった。
得られた積層体を、ビス(4,4−ジカルボキシ−2,2−ビピリジル)ジチオシアネートルテニウム・2テトラブチルアンモニウムのエタノール溶液に浸漬することにより、色素4として、ビス(4,4−ジカルボキシ−2,2−ビピリジル)ジチオシアネートルテニウム・2テトラブチルアンモニウムを担持させた。この後、エタノール洗浄、及び乾燥を行った。以下の操作を乾燥アルゴン雰囲気下で行った。電荷輸送層6として0.4MのTPAI(テトラプロピルアンモニウムヨーダイド)、0.05MのI、メトキシアセトニトリルからなる電解質を金属酸化物膜3上に形成した。
更に、対向電極として上記と同様にして形成した基板1、透明導電層2よりなる積層体を用意し、この上にスパッタリング法により成膜した白金を導電性触媒層6として形成することにより対向電極を作製した。
導電性触媒層6と電荷輸送層5を重ね合わせるように固定した後、側面をエポキシ系接着剤で封止し、色素増感太陽電池を作成した。以上で得られた色素増感太陽電池の電流−電圧特性を測定したところ、Air Mass 1.5、100mW/cmの擬似太陽光を用いた時、短絡電流密度Jsc=18.6mA/cm、開放電圧Voc=0.83V、フィルファクターFF=0.66で光電変換効率はη=10.2%であった。
比較例2
図7の層構成をもつ色素増感太陽電池を次のように作製した。基板1としてガラス(Corning7059、0.5mm厚)を使用し、この上に透明導電層2としてインジウム錫酸化物(ITO)を真空スパッタリング法により形成した。得られた透明導電性基板上に、金属酸化物の膜3bを、酸化チタンを酸化チタンゾルペーストにして塗工し、乾燥し、450℃で、30分焼成することにより、10.5μmの厚さで形成した。このとき、BET多点法で測定した金属酸化物膜のみの比表面積は118m/gであった。得られた積層体に対し、色素4、電解質層5、及び対向電極を、実施例2と同様にして設け、あるいは作製した。導電性触媒層6と電解質層5を重ね合わせるように固定した後、側面をエポキシ系接着剤で封止することにより色素増感太陽電池を作成した。以上で得られた色素増感太陽電池の電流−電圧特性を測定したところ、Air Mass 1.5、100mW/cmの擬似太陽光を用いた時、短絡電流密度Jsc=16.0mA/cm、開放電圧Voc=0.83V、フィルファクターFF=0.67で光電変換効率はη=8.9%であった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、優れた安全性、生産性で、十分な導電性を有し、かつ薄膜で膜剥離などのない金属酸化物電極とすることができる。また、この金属酸化物電極を用いることにより高い変換効率を有する色素増感太陽電池を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にネットワーク状の溝が形成されている金属酸化物膜。
【請求項2】
請求項1の金属酸化物膜であって、前記溝によって形成された島状部分及び半島状部を有し、島状部分及び半島の溝により隔てられていない直線連続部分が60μm以下である。
【請求項3】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、前記金属酸化物膜の溝の幅が1μm以下である。
【請求項4】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、前記金属酸化物膜の溝部以外の部分が占める割合が、0.1μm以上の溝を溝とした場合、面積比で50%以上90%以下である。
【請求項5】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、前記金属酸化物膜が、溝部の底部でも連続した膜である。
【請求項6】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、前期金属酸化物膜の膜厚が、10μm以下である。
【請求項7】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、前期金属酸化物膜の比表面積が、30m/g以上である。
【請求項8】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、膜の溝以外の部分である凸部の幅が、500nm以下である。
【請求項9】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、前記金属酸化物膜が多結晶構造を有する。
【請求項10】
請求項1に記載の金属酸化物膜であって、レーザーアニール処理されている膜である。
【請求項11】
基板上に少なくとも、第一導電層、表面に色素が吸着した、表面にネットワーク状の溝が形成されている金属酸化物膜、電解質、第二導電層が順に形成されてなる色素増感太陽電池。
【請求項12】
請求項11に記載の色素増感太陽電池であって、第一導電層と第二導電層の少なくとも一つが透明導電層である。
【請求項13】
基板を用意する工程と、
導電層を基板上に形成する工程と、
蒸着源表面の垂直方向に対して透明導電層を有する基板を傾けた位置に保持し、前記透明導電層上に真空蒸着により金属酸化物膜を形成し、積層体を得る工程と、
金属酸化物膜上に色素を担持させる工程と、
電解質を金属酸化物膜上に形成し電荷輸送層を設ける工程と、
を含むことを特徴とする、色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、基板及び導電層を含む積層体を用意し、この上に導電性触媒層を形成して、対向電極を得る工程と、導電性触媒層と電荷輸送層を重ね合わせ固定する工程を含む。
【請求項15】
請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、電荷輸送層上に導電性触媒層または導電層を形成する工程を含む。
【請求項16】
請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、積層体を得る工程のあとに、得られた積層体を後処理する工程を含み、前期後処理がレーザーアニール処理である。
【請求項17】
請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、金属酸化物膜を形成し積層体を得る工程が、成膜圧力が1×10−2Pa〜1Paである。
【請求項18】
請求項13に記載の色素増感太陽電池の製造方法であって、いずれかの工程に、ロールトウロール方式を用いる。

【国際公開番号】WO2004/053196
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558431(P2004−558431)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015663
【国際出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】