説明

金属酸化物触媒、及びその触媒の製造方法、並びにニトリルの製造方法

【課題】 プロピレン、プロパン、イソブテン、イソブタンまたは3級ブタノールをアンモ酸化してアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを高収率で製造するための耐摩耗強度が維持され、精製系の詰まりの原因となるアクロレインやメタクロレインの生成量が少ないアンモ触媒を提供すること。
【解決手段】 金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、シリカ1次粒子の平均直径が5〜55nm未満、好ましくは5〜50nmであるものを少なくとも1種用いて、且つ、シリカ1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールと分子状酸素およびアンモニアと流動層反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に好適に用いられる粒状多孔性アンモ酸化反応用金属酸化物触媒に関する。
更に詳しくは、本発明は、粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる金属酸化物とそれを担持するシリカ担体からなる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、シリカ1次粒子の平均直径が5〜55nm未満であるものを少なくとも1種用いて、且つ、シリカ1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒に関する。
【0002】
本発明の触媒は、目的生成物の収率が高く、また工業的使用に適した極めて高い耐磨耗強度を有し、精製系の詰まりの原因となるアクロレインやメタクロレインの生成量が少ないため、本発明の触媒を用いて流動床反応器でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールのアンモ酸化反応を行うと、高収率で安定的にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造することができ、工業的に有利である。
【背景技術】
【0003】
プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールと分子状酸素およびアンモニアとの反応である、いわゆるアンモ酸化反応によりアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する方法はよく知られており、このアンモ酸化反応に用いられる触媒も多数提案されている。これらは、主に特許文献1に見られるようなモリブデン、ビスマスおよび鉄を含む酸化物触媒系と特許文献2に見られるようなアンチモンおよび鉄を含む酸化物触媒系に対して種々の観点から改良が続けられている。
【0004】
触媒組成に着目した改良が進み、性能向上に寄与してきた一方で、触媒中の粒径分布やシリカの物性に着目した取り組みはあまり公開されていないが、特許文献3では、モリブデン、ビスマス、鉄、コバルトおよびジルコニウムを必須成分とする触媒に対して、また特許文献4では、モリブデン、ビスマスおよびアンチモンを必須成分とする触媒に対して、それぞれ、シリカ含量、平均細孔径、全細孔容積および比表面積を規定したプロピレンのアンモ酸化用の触媒が開示されている。
【0005】
上記2つの特許文献(触媒の物理構造に着目したもの)では、流動床反応器で使用するためのアクリロニトリル製造用触媒に関して物理構造を規定しているが、原料として用いるシリカ原料の1次粒子の粒径分布およびそのばらつきの尺度である標準偏差については何らの開示もない。
一方、特許文献5から特許文献8には触媒の細孔径分布に着目した提案が開示されている。これら特許文献5〜8(触媒の細孔径分布に着目したもの)は、触媒の細孔分布という物理構造に着目してはいるが、原料として用いるシリカ原料の1次粒子の粒径分布及び、そのばらつきの尺度である標準偏差にはなんらの開示もない。
【0006】
また特許文献9と特許文献10と特許文献11は、粒子の平均直径の異なる2種のシリカゾルからなるシリカ原料を用いる焼結低密度触媒の製造法である。
特許文献9では、かさ密度の低いシリカゲル(シリカ担体)の製法として、シリカの1次粒子の平均粒径5〜100nmのものと0.4〜0.8nmのものを混合する技術を開示しているが、シリカの1次粒子の平均粒径には言及しているが、粒径分布のばらつきを表す標準偏差と目的生成物収率、触媒強度との間の関係についてはなんらの開示もない。
【0007】
特許文献10ではシリカの1次粒子の平均粒径が異なるシリカゾルを原料に用いることにより、触媒強度を改善する技術を開示しているが、触媒系はアンチモン化合物、多価金属化合物を必須成分とした触媒系であり、モリブデン、ビスマス及び鉄を必須成分とする触媒系にはなんら言及しておらず、更に原料のシリカの1次粒子の粒径分布のばらつきを表す標準偏差と目的生成物収率、触媒強度との間の関係についてはなんらの開示もない。
【0008】
特許文献11はモリブデンを含む触媒の製造方法で、シリカの1次粒子の平均粒径が異なるシリカゾルを原料に用いることにより、触媒強度、流動性、目的性生物収率の改善、そしてかさ密度が適度に調節されるとしているが、原料シリカの1次粒子の平均直径が2〜45nmと55〜100nmの組合せになっており、平均直径が55〜100nmのような大粒径のシリカゾルを用いている。大粒径のシリカゾルを組み合わせるのは、目的性生物の収率改善には有効であるが触媒強度の十分なものが得られず、更に詰まりの原因になるアクロレインやメタクロレインの副生を増大させてしまう。
【0009】
このように特許文献11では、原料シリカの1次粒子の粒径分布のばらつきを表す標準偏差と目的生成物収率、触媒強度、更に詰まりの原因となるアクロレインやメタクロレイン生成の低減との間の関係についてはなんらの示唆もない。
【0010】
特許文献1〜10に記載のあるこれら従来技術の触媒は、いずれも、目的生成物収率が未だ十分満足できるものではない。また収率が向上するとされている特許文献11においては、平均直径が55〜100nmのような大粒径のシリカゾルを用いているために、触媒の機械的強度の点で工業触媒としてはまだ不十分であり、更に詰まりの原因であるアクロレインやメタクロレインの生成量が多いのが問題である。
【0011】
特許文献10ではアンチモンを主成分とするアクリロニトリル合成用触媒において、平均粒径が異なる2種類のシリカゾルを原料として用いることで機械的強度に優れた触媒が得られるとしている。しかしながら、アンチモンを主成分とする触媒系では平均粒子径の異なる2種類のシリカゾルを原料として用いた触媒は、1種類のシリカゾルを原料として用いた触媒と比べて目的生成物の収率は優位にならない。これに対して本願はアンチモンを含まず、この時、平均粒径の異なる2種類のシリカゾルを用いることなどにより、原料シリカの粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上にすると、アクリロニトリルなどの目的生成物の収率を向上させることができる。
【0012】
特許文献11では大粒径のシリカゾルを組み合わせて、目的生成物の収率改善を示している。シリカの1次平均粒径が55nmを越えるような大粒径のシリカゾルを用いた場合、収率向上に効果があるが、一般に原料シリカの1次粒子の平均粒径が大きければ、それだけ触媒強度は低下するため、1次粒子の平均粒子径が55nmより大きい大粒径のシリカを組合わせた場合、長期の連続運転にわたり触媒が磨耗せず、且つ触媒の飛散が少ないと言ったいわゆる工業的な使用に耐えるに十分な、触媒の機械的強度を実現するのは困難であった。
しかしながら、単に原料シリカの1次粒子の平均粒子径が55nm未満のシリカだけを1種以上用いた場合では、触媒強度は向上するものの、目的生成物の収率が低下していた。
【0013】
更に特許文献11のように50nmより大きなシリカ1次粒子を組合わせた場合、詰まりの原因になるアクロレインの副生を増大させていた。
これまで開示されてきた触媒は、目的生成物収率や触媒の機械的強度すなわち耐磨耗性を大きく改良してきたが、未だ十分満足できるものではない。
【0014】
【特許文献1】特公昭38−17967号公報
【特許文献2】特公昭38−19111号公報
【特許文献3】特公昭57−56373号公報
【特許文献4】特開昭57−75147号公報
【特許文献5】特開昭57−119837号公報
【特許文献6】特開昭58−113141号公報
【特許文献7】特開2003−220334号公報
【特許文献8】WO03/039744号公報
【特許文献9】USP−3,397,153号公報
【特許文献10】特公平2−47264号公報
【特許文献11】特開2004−105951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、前記従来技術の欠点を全て解決し、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールのアンモ酸化反応におけるアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造に際して、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを高収率で製造し、また工業的使用に耐えうる十分な耐摩耗強度を有し、反応生成ガスの冷却工程や、その後工程の精製工程での詰まりの原因となる副生物のアクロレインやメタクロレインの生成を低減させることが可能なアンモ酸化反応用金属酸化物流動床触媒を提供することを目的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記課題を解決するため、原料シリカの1次粒子の平均粒径が5〜55nm未満であるものを少なくとも1種以上用いて、且つ、原料シリカの1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であるときに目的生成物の収率を高く維持したまま、触媒強度を向上できることを見出し本発明にいたった。
【0017】
即ち、本発明のひとつの態様によれば、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる金属酸化物とそれを担持するシリカ担体からなる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、1次粒子の平均直径が5〜55nm未満であるシリカ原料を少なくとも1種用いて、且つ、シリカ原料の1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒が提供される。
【0018】
本発明の他の一つの態様によれば、上記触媒が、モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物とを、該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜55nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%であり、該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして、該乾燥触媒前駆体を焼成して、上記触媒を得られることを特徴とする触媒の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の他の一つの態様によれば、上記触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを包含するアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法が提供される。
【0020】
即ち、本発明は下記1)から7)である。
1) プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる金属酸化物とそれを担持するシリカ担体からなる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、1次粒子の平均直径が5〜55nm未満であるシリカ原料を少なくとも1種用いて、且つ、原料シリカ1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【0021】
2) 該金属酸化物が、下記の式(1)で表される前記1)に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
式(1)
Mo12BiaFebCcDdEeFfGgOn
式中、Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐およびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そしてa,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、aは、0.05〜7、bは、0.1〜7、cは、0〜12、dは、0〜5、eは、0〜5、fは、0〜0.2、gは、0.01〜5、そしてnは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
【0022】
3) 該シリカ原料が、その1次粒子の平均粒子直径20〜55nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子径の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%である前記1)または2)に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【0023】
4) 前記1)の触媒が、モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物とを、該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜55nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%であり、該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして、該乾燥触媒前駆体を焼成して得られることを特徴とする触媒の製造方法。
【0024】
5) 該焼成が、前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を150〜430℃の温度範囲で行い、該本焼成を450〜750℃の温度範囲で行う前記4)に記載の方法。
6) 前記1)〜3)のいずれかの触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イゾブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素及びアンモニアと反応させることを特徴とするアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
7) 前記4)または5)の方法で製造した触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを特徴とするアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールのアンモ酸化反応におけるアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造に際して、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを高収率で製造する工業的使用に耐えうる耐磨耗強度を有し、精製系の詰まりの原因となるアクロレインやメタクロレインの生成量が少ないアンモ酸化反応用金属酸化物流動床触媒を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴および好ましい態様を列挙する。
1.プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる金属酸化物とそれを担持するシリカ担体からなる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、1次粒子の平均直径が5〜55nm未満、好ましくは5〜50nmであるシリカ原料を少なくとも1種用いて、且つ、原料シリカ1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【0027】
2. 該金属酸化物が、下記の式(1)で表される前記1.に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
式(1)
Mo12BiaFebCcDdEeFfGgOn
式中、Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐およびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そしてa,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、aは、0.05〜7、bは、0.1〜7、cは、0〜12、dは、0〜5、eは、0〜5、fは、0〜0.2、gは、0.01〜5、そしてnは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
上記触媒は、好ましくはアンチモンを含まない。
【0028】
3.該シリカ原料が、その1次粒子の平均粒子直径が、20〜55nm未満、好ましくは20〜50nmである少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子径の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%である前記1.または2.に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【0029】
4.前記1.の触媒が、モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物とを、該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜55nm未満、好ましくは20〜50nmである少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%であり、該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして、該乾燥触媒前駆体を焼成して得られることを特徴とする触媒の製造方法。
【0030】
5.該焼成が前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を150〜430℃の温度範囲で行い、該本焼成を450〜750℃の温度範囲で行う前記4.に記載の方法。
6.前記1.〜3.のいずれかの触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イゾブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素及びアンモニアと反応させることを特徴とするアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
7.前記4.または5.の方法で製造した触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを特徴とするアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の触媒は、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる金属酸化物とそれを担持するシリカ担体からなる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、シリカ1次粒子の平均直径が5〜55nm未満、好ましくは5〜50nmであるものを少なくとも1種用いて、且つ、シリカ1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒である。
【0032】
好ましくは、シリカに担持された金属酸化物が下記の式(1)で示される粒状多孔性アンモ酸化触媒である。
式(1)
Mo12BiaFebCcDdEeFfGgOw
式中:
式中、Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐およびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そしてa,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、aは、0.05〜7、bは、0.1〜7、cは、0〜12、dは、0〜5、eは、0〜5、fは、0〜0.2、gは、0.01〜5、そしてnは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
【0033】
尚、上記式(1)において、Cは好ましくは、Ni、Co、Zn、MnおよびMgよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Eは好ましくは、La、Ce、PrおよびNdよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Gは好ましくは、K、RbおよびCsよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、aは、好ましくは0.1〜3、bは、好ましくは0.1〜3、cは、好ましくは5〜10、eは、好ましくは0.05〜2、gは、好ましくは0.05〜1.0である。
【0034】
また、本発明の触媒の金属酸化物が上記式(1)で表される場合において、金属酸化物が下記の式(2)または式(3)で表されることがさらに好ましい。
式(2)
Mo12(Bi1-iCei)kFelNimQqRrOn
式中:Mo、Bi、Ce、FeおよびNiは、それぞれ、モリブデン、ビスマス、セリウム、鉄およびニッケルを表し、Qはマグネシウムおよび亜鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1個の元素を表し、Rはカリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1個の元素を表し、そしてk、l、m、qおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)とセリウム(Ce)の合計、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、Q、Rおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、k=0.5〜2、l=0.1〜3、m=4〜10、q=0〜3、r=0.01〜0.5、iはビスマスとセリウムの合計に対するセリウムの原子比率を表し、i=0.6〜0.8であり、そしてnは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
【0035】
式(3)
Mo12BihFepNisTtRrXxOn
式中:Moはモリブデンを表し、Biはビスマスを表し、Feは鉄を表し、Niはニッケルを表し、Tはクロムおよびインジウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Rはカリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Xはマンガン、マグネシウム、亜鉛、セリウム、ナトリウムおよびリンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そしてh、p、s、t、r、xおよびnはそれぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、T,R,Xおよび酸素(O)のモリブデン12原子に対する原子比を表し、h=0.1〜3、p=0.1〜3、
s=4〜10、t=0.1〜2、r=0.01〜0.5x=0〜3であり、そしてnは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
上記触媒は好ましくはアンチモンを含まない。
【0036】
本発明の触媒は、金属酸化物とそれを担持するシリカ担体を包含し、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%である。20重量%より少ない場合、十分な触媒強度と、十分な触媒表面積が得られず、工業用触媒として使用に耐えられない。逆に80重量%より大きいと、金属酸化物部分が少なく、反応に有効な結晶相がうまく形成されない。
該触媒のシリカ担体を製造に用いるシリカ原料は、シリカ1次粒子の平均直径が5〜55nm未満、好ましくは5〜50nmであり、1次粒子の平均直径に対する標準偏差が30%以上であることが必要である。1次粒子の平均直径に対する標準偏差が30%より小さいときは、十分な目的性生物の収率が得られない。
【0037】
更には該シリカ担体の製造に用いるシリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が、20〜55nm未満、好ましくは20〜50nmである少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子径の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなるのが望ましい。55nm未満より大きい平均粒子直径のシリカゾル単独もしくは、このシリカゾルと組み合わせると目的性生物の収率は高くなる傾向はみられるが、触媒の強度は低下し、更に副生物であるアクロレインやメタクロレインの生成量が増大する。
【0038】
粒子直径5〜55nm未満の触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90〜100重量%である粒度分布を有する。粒子直径5〜55nmの触媒粒子の量が該触媒の重量に対して90重量%未満になると、粒子直径が5nmより小さい粒子や粒子直径が55nmを越える粒子の量が大きくなり過ぎて、触媒の流動性の悪化とそれに伴う反応成績の悪化が生じる。
【0039】
触媒は工業的使用に適する高い耐磨耗強度を有することが重要である。触媒の耐摩耗強度については、流動接触分解触媒の耐磨耗試験法として知られている“Test Method for Synthetic Fluid Cracking Catalyst”(American Cyanamid Co.Ltd.6/31-4m-1/57)に記載の方法(以下「ACC法」と称する)に準じて磨耗損失として測定を行った。この磨耗損失は以下のように定義される。
磨耗損失(%)=B/(C−A)×100
[上記式において、Aは0〜5時間に磨耗逃散した触媒の重量(g)、Bは通常5〜20時間に磨耗逃散した触媒の重量(g)であるが、本発明では、これを5〜120時間に磨耗逃散した触媒の重量(g)とする。Cは試験に供した触媒の重量(g)である。]
触媒の磨耗損失の値は一般的には7%以下であるのが必要であるが、工業的使用で長期間の使用に適するためには、更に5%以下であるのが望ましい。
【0040】
本発明の触媒においては担体としてシリカが用いられる。シリカは他の担体に比べそれ自身不活性であり、目的生成物に対する選択性を減ずることなく、金属酸化物に対し良好なバインド作用を有する。さらに、担持された金属酸化物に、高い耐摩耗性を与えることができるため、本発明の触媒の担体として適切である。シリカ担体の量は、シリカ担体と金属酸化物の合計重量に対して20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%、更に好ましくは40〜60重量%の範囲である。
またチタニア、ジルコニア、錫等の酸化物ゾルをシリカゾルに混合して用いることもできるが、この場合は、これらシリカゾル以外の酸化物ゾルの量は、酸化物基準で担体重量の10重量%以下となる量であることが好ましく、5重量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
使用するシリカゾルの不純物としては、アルミニウムが挙げられる。シリカゾルにおける不純物としてのアルミニウムの量は、好ましくは、珪素100原子当たりアルミニウム0.04原子以下であり、さらに好ましくは、珪素100原子当たりアルミニウム0.02原子以下である。なお、シリカゾルにおけるアルミニウムの量は0でもよいが、珪素100原子当たりアルミニウム0.02原子の値よりも小さい値にしても、触媒の更なる性能向上に寄与することはない。シリカゾルについては、半導体表面の研磨剤、石英ファイバー用原料、触媒の担体原料などの用途の為に極めて純度の高い製品の製法が発表されている。例えば、特開昭60−127216号公報、特開昭61−158810号公報、特開昭63−285112号公報、特開平4−231319号公報、特開平5−85718号公報、特公昭55−10534号公報などに、不純物アルミニウム含量の特に少ないシリカゾルの製法が開示されている。シリカゾル中の不純物としてのアルミニウムの量はICP(inductively coupled plasma)発行分光分析法で測定できる。
【0042】
本発明で担体原料として用いるシリカゾルは、シリカ1次粒子の粒径分布において、平均粒径に対する標準偏差が30%以上のものであり、粒径分布のうち最大の極大値が一つであるものを用いることができる。また別の方法として、シリカの1次粒子の粒径分布において、標準偏差が30%以上に成るように、該シリカ担体の製造に用いるシリカ原料を以下のように組み合わせてもよい。すなわち、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜55nm未満、好ましくは20〜50nmである少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(a)と該少なくとも1種のシリカゾル(b)の合計が100重量%であるように組合わせてもよい。
【0043】
該シリカゾル(b)(シリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル)は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が7〜15nmであることがより好ましい。
原料シリカの1次粒子の粒径分布において、平均粒径に対する標準偏差が30%以下である場合、十分な触媒強度と高い目的生成物の収率が得られない。担体原料となるシリカゾルの平均1次粒子直径は、BET法、電子顕微鏡法など、シリカゾルの1次粒子の粒径分布は電子顕微鏡法など、公知の方法によって求めることができるが、本発明における平均1次粒子直径は、BET法、即ちBET吸着等温式(Brunauer-Emmett-Telleradsorption isotherm)で求めたシリカ1次粒子の平均直径のことである。具体的には、シリカゾルの場合は100〜200℃の温度でゾルの分散媒である水を蒸発させ、粉体とした後に、液体窒素温度で窒素を飽和吸着させ、室温に戻した時の窒素の脱離量より、粉体の比表面積S(m2/g)を算出する。
【0044】
そして、シリカの1次粒子を全て同一直径D(nm)の球形と仮定し、シリカゾル中のシリカ粒子(アモルファスシリカ)の比重(ρ)を2.2とし、1g当たりのシリカ1次粒子の個数をnとすると、直径D(nm)は下記式により求めることができる。
1/ρ=4/3×π×(D×10-7/2)×n
S=4×π×(D×10−9/2)×n
従って、D=6000/(ρ×S)
【0045】
本発明で求めたシリカゾルの1次粒子の粒径分布は電子顕微鏡法で求めた粒径分布のことである。具体的には電子顕微鏡で撮影したシリカゾルの写真から各粒子の直径と個数を求め、統計的に粒径分布を求める。この粒径分布から個々の粒子の直径の値と平均値からのズレ(偏差)を計算し、その2乗の総和を求め、データ数(粒子数)で割ったものを、分散と定義し、この値の平方根を標準偏差として用いられている。
標準偏差=√((各粒子粒径の測定値-粒径平均値) の和)/データ数)
この標準偏差はデータのバラツキの目安であり、値が大きい方が、データがばらついていることを意味している。すなわち平均値からのズレが大きいことを意味している。本発明ではこの標準偏差を1次粒子の平均粒径で割った値を百分率で表した。
【0046】
次に本発明の触媒の製造方法について詳細に説明する。本発明の触媒は、例えば、以下の製造方法によって効率的に製造することができる。即ち:本発明の触媒の製造方法であって、モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物を提供し、該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜55nm未満、好ましくは20〜50nmである少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(a)と該少なくとも1種のシリカゾル(b)の合計が100重量%であり、該水性原料混合物を噴霧乾燥して乾燥触媒前駆体を得、そして該乾燥触媒前駆体を焼成して、本発明の触媒を得る、ことを包含することを特徴とする触媒の製造方法である。
【0047】
この製造方法を詳しく説明する。本発明の触媒の製造方法は、水性原料混合物を提供する第1の工程(原料調合工程)、該水性原料混合物を噴霧乾燥して乾燥触媒前駆体を得る第2の工程(乾燥工程)、そして該乾燥触媒前駆体を焼成する第3の工程(焼成工程)を含む。以下、これらの工程を詳しく説明する。
【0048】
第1工程(原料調合工程)
第1の工程では、触媒原料から触媒原料水性スラリー(水性原料混合物)を得る。モリブデン、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、硼素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、希土類元素、燐、テルル、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムなどの各元素の元素源としては、水または硝酸に可溶なアンモニウム塩、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、有機酸塩、無機酸などを挙げることができる。特にモリブデン、タングステンおよびバナジウムの各元素の元素源としてはアンモニウム塩が、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、希土類元素、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムの各元素の元素源としては、それぞれの硝酸塩が好ましい。
【0049】
これらの触媒原料の中でニオブの元素源などの水に難溶性の原料に関しては、クエン酸、蓚酸、酒石酸および過酸化水素などの水溶性のキレート剤を使うなどして溶解させてから用いるのが好ましい。
なお、難溶性のニオブ酸の溶解性を高めるためには、例えば、日本国特開平11−47598号公報に記載されている様に、ニオブ酸とジカルボン酸(例えば蓚酸)とアンモニアを含む水性混合物であり、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4でアンモニア/ニオブのモル比が2以下であるニオブ酸含有水性混合物として用いることが好ましい。
【0050】
本発明の触媒の製造に用いるシリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20nm〜55nm未満、好ましくは5〜50nmである少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該少なくとも1種のシリカゾル(a)と該少なくとも1種のシリカゾル(b)の合計が100重量%である。
【0051】
触媒原料水性スラリー(水性原料混合物)の調製は、シリカ原料であるシリカゾルに水に溶解させたモリブデンおよびタングステンなどのアンモニウム塩を加え、次に、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、希土類元素、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムなどの各元素の元素源の硝酸塩を水または硝酸水溶液に溶解させた溶液を加えることによって行なうことができる。シリカ原料の一部としてヒュームドシリカを用いる場合や、燐を含有する触媒を調製する際には、予め水にヒュームドシリカを懸濁させたものをシリカゾルと混合してシリカ混合液を得、さらに燐酸を該シリカ混合液に加える。このようにして、水性原料混合物を調製することができる。その際、上記の添加の順序を変えることもできる。また水に難溶性の上記の元素源に関しては、前記したような可溶化処理を行い、適宜加えることができる。
【0052】
第2工程(乾燥工程)
第2の工程では、上記の第1の工程で得られた該水性原料混合物を噴霧乾燥して球状の乾燥粒子(乾燥触媒前駆体)を得る。水性原料混合物の噴霧は、工業的に通常用いられる遠心方式、二流体ノズル方式および高圧ノズル方式等の方法によって行うことができるが、特に遠心方式で行うことが望ましい。乾燥のための熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることが望ましい。乾燥機入口の温度は100〜400℃、好ましくは150〜300℃である。乾燥機出口の温度は100〜170℃、好ましくは120℃〜150℃である。
【0053】
第3工程(焼成工程)
第3の工程では、第2の工程で得られた乾燥粒子(乾燥触媒前駆体)を焼成することで、シリカが焼結し担体となり、且つ、金属酸化物がシリカ担体に担持した状態になることにより所望の触媒を得る。乾燥触媒前駆体の焼成は、所望によりまず、酸素を含む雰囲気下(例えば空気雰囲気下)、150〜430℃で30分〜10時間の前段焼成(任意である)を行い、その後、酸素を含む雰囲気下(例えば空気雰囲気下)、450〜750℃、好ましくは500〜700℃の温度範囲で1〜20時間本焼成を行う。
【0054】
この前段焼成は、アンモニウム塩である原料と硝酸塩である原料に由来する硝酸アンモニウムを燃焼させるために行う。このとき、燃焼が爆発的に起こると触媒粒子の形状に歪みが生じたり、触媒粒子自体に割れが生じて、流動性や耐磨耗強度に支障を生じる恐れがあるため、比較的低温でゆっくり燃焼させる。なお、焼成は回転炉、トンネル炉、マッフル炉等の焼成炉を用いて行うことができる。
【0055】
焼成終了後の触媒の粒度分布については以下のようにして測定する。粒度分布とは、或る範囲の粒子径を有する触媒粒子の全触媒粒子に対する重量百分率のことである。本発明における粒度分布は以下のように測定する。目開き5μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)の上に目開き200μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)を乗せ、一番下に受器を取り付け、最上段に触媒サンプルを導入し、振動させることにより、目開き5μmの篩に残った触媒を得、その量を導入触媒量で割り返して100を掛けた値(%)を得る。本発明の触媒においては、この値が90〜100(%)である。
【0056】
本発明の優れた触媒は、このように簡便な方法で得ることができる。こうして得られた本発明の触媒を用いて、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることによりアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造することができる。反応は、流動床反応器で実施される。原料のプロピレン、イソブテン、3級ブタノールおよびアンモニアは、必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのものを使用することができる。
【0057】
また、分子状酸素源としては、通常空気を用いるのが好ましいが、酸素を空気と混合するなどして酸素濃度を高めたガスを用いることもできる。原料ガスの組成として、プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールに対するアンモニアと分子状酸素のモル比は、(プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノール)/アンモニア/分子状酸素=1/0.8〜1.4/1.4〜2.4、好ましくは1/0.9〜1.3/1.6〜2.2の範囲である。また、反応温度は350〜550℃、好ましくは400〜500℃の範囲である。反応圧力は常圧〜0.3MPaの範囲で行うことができる。原料ガスと触媒との接触時間は0.5〜20(sec・g/cc)、好ましくは1〜10(sec・g/cc)である。
【0058】
本発明において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)×P/0.10
式中、Wは触媒の量(g)、Fは標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、Tは反応温度(℃)、そしてPは反応圧力(MPa)を表す。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明を、実施例と比較例によって更に詳細に説明する。
全ての実施例および比較例において調製した触媒につき、篩を用いて粒度分布の測定を行った。具体的には、目開き5μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)の上に目開き200μmの篩(米国、バックビーミヤーズ社製)を乗せ、一番下に受器を取り付け、最上段に触媒サンプルを導入し、振動させることにより、目開き5μmの篩に残った触媒を得、その量を導入触媒量で割り返して100を掛けた値をそのサンプルの粒度分布とした。その結果何れの触媒についても、粒子直径5〜200μmの触媒粒子の量は触媒の重量に対して100重量%であった。
【0060】
なお、実施例および比較例において、反応成績を表すために用いた転化率およびアクリロニトリル収率は、次式で定義される。
転化率(%)=(反応したプロピレンのモル数)/(供給したプロピレンのモル数)
*100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給した
プロピレンのモル数)*100
【0061】
また、反応装置は内径25mmのパイレックス(登録商標)ガラス製流動層反応管を用い、反応圧力Pは0.15Mpa、充填触媒量Wは40〜60g、全供給ガス量Fは250〜450Ncc/sec(標準状態(0℃、1atmに換算))で、反応温度Tは430℃で行った。接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)*273/(273+T)*P/0.1

式中、
Wは触媒の量(g)、
Fは標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、
Tは反応温度(℃)、そして
Pは反応圧力(MPa)を表す。
【0062】
原料混合ガスの組成は、次のとおりであった。
プロピレン/アンモニア/空気=1/1.25/8.0〜10.0(分子状酸素換算で1.6〜2.0)
触媒の耐磨耗強度を評価するめに、ACC法に準じて磨耗損失を測定した。この磨耗損失は以下のように定義される。
磨耗損失(%)=B/(C−A)×100
上記式において、Aは0〜5時間後に磨耗逃散した触媒の重量(g)、Bは5〜120時間に磨耗逃散した触媒の重量(g)であり、Cは試験に供した触媒の重量(g)ある。
触媒の磨耗損失の値は一般的には7%以下であるのが必要であるが、工業的使用で長期間の使用に適するためには、更に5%以下であるのが望ましい。
【0063】
[実施例1]
組成がMo12Bi0.45Ce0.90Fe1.7Ni2.0Co3.0Mg2.00.09Rb0.04で表される酸化物を、50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
16.6重量%濃度の硝酸405.2gに42.5gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、77.3gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、134.5gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、114.4gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、171.1gの硝酸コバルト〔Co(NO・6HO〕、100.2gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕、1.77gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.14gの硝酸ルビジウム〔RbNO〕を溶解させた液をシリカ1次粒子の平均粒子直径が22nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル1666.7gに加え、最後に水827.5gに413.8gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下350℃で1時間の前焼成の後、空気雰囲気下580℃で2時間本焼成して触媒を得た。
【0064】
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は21nm、標準偏差は9.5nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は45%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.3(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクロレイン収率は0.8%、アクリロニトリル収率は83.8%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は4.7%となり5%より小さい値となった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。
【0065】
[実施例2]
金属組成がMo12Bi0.45Ce0.90Fe1.7Ni2.0Co3.0Mg2.00.09Rb0.04で表される金属酸化物を、50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
シリカ1次粒子の平均直径が44nmの30重量%のSiOを含むシリカゾル833.3gとシリカ1次粒子の平均直径が12nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル833.3gを混合してシリカ原料を得た。16.6重量%の硝酸405.1gに42.5gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、77.3gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、134.5gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、114.4gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、100.2gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕、1.77gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.14gの硝酸ルビジウム〔RbNO〕を溶解させて得られた液を、上記シリカ原料に加え、最後に水827.5gに413.8gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で空気雰囲気下350℃で1時間の前焼成の後、空気雰囲気下590℃で2時間本焼成して触媒を得た。
【0066】
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は29nm、標準偏差は16.8nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は58%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.9(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.0%、アクロレイン収率0.6%、アクリロニトリル収率は84.1%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失は4.9%となり、5%より小さい値となった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。
【0067】
[比較例1]
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径12nmの30重量%シリカゾルのみを1666.7g使用すること、および本焼成温度が590℃であること以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は12nm、標準偏差は3.1nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は26%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.8(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクロレイン収率0.7%、アクリロニトリル収率は82.2%であった。
【0068】
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失は2.9%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失(%))、及び、反応結果を表2に示す。アクリロニトリル収率は82.2%と低い値にとどまった。
【0069】
[比較例2]
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径86nmの30重量%シリカゾルのみを1666.7g使用すること、および本焼成温度が550℃であること以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は86nm、標準偏差は20.6nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は24%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.0(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.0%、アクロレイン1.5%、アクリロニトリル収率は84.6%であった。
得られた触媒50gをACC法による耐摩耗性試験に掛けたところ、5時間目から20時間目に摩耗飛散した触媒量は既に7.3%と大きいので、それ以上は測定しなかった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度、及び反応結果を表2に示す。詰まりの原因物質であるアクロレイン収率は1.5%と高く、耐磨耗性試験結果は7%以上となり工業用としての使用には耐えられない。
【0070】
[実施例3]
金属組成がMo12Bi0.6Ce0.75Fe1.7Ni5.0Mg2.00.09Rb0.04で表される金属酸化物を、50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
シリカ1次粒子の平均直径が44nmの30重量%のSiO2を含むシリカゾル833.3gとシリカ1次粒子の平均直径が12nmの30重量%のSiO2を含む水性シリカゾル833.3gを混合してシリカ原料を得た。16.6重量%の硝酸404.6gに56.2gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、62.9gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、132.7gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、280.9gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、99.0gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕、1.76gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.14gの硝酸ルビジウム〔RbNO〕を溶解させて得られた液を、上記シリカ原料に加え、最後に水824.4gに409.3gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。
【0071】
得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で空気雰囲気下350℃で1時間の前焼成の後、空気雰囲気下580℃で2時間本焼成して触媒を得た。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は28nm、標準偏差は12.6nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は45%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.8(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.0%、アクロレイン収率0.6%、アクリロニトリル収率は84.3%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失は4.9%であり、5%より小さい値となった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。
【0072】
[比較例3]
シリカ1次粒子の平均粒子直径が86nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル833.3gと1次粒子の平均直径が12nmの30重量%のSiOを含むシリカゾル833.3gとを混合してシリカ原料を得ること、及び本焼成温度が590℃であること以外は実施例3と同様にして触媒を調製した。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は49nm、標準偏差は34.3nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は70%になった。
【0073】
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.7(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.2%、アクロレイン収率は1.1%、アクリロニトリル収率は84.1%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は5.6%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。アクリロニトリル収率は高い値が得られたが、詰まりの原因になるアクロレインの生成が多く、且つ、耐磨耗性試験の結果が5%を越えており、工業的使用で長期間の使用に適さない。
【0074】
[比較例4]
シリカ1次粒子の平均粒子直径が86nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル1250.0gと1次粒子の平均直径が12nmの30重量%のSiOを含むシリカゾル416.7gとを混合してシリカ原料を得ること、及び本焼成温度が570℃であること以外は実施例3と同様にして触媒を調製した。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は69nm、標準偏差は38.0nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は55%になった。
【0075】
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.1(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクロレイン収率は1.1%、アクリロニトリル収率は84.0%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は14.9%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。アクリロニトリル収率は高い値が得られたが、詰まりの原因になるアクロレインの生成が多く、且つ、耐磨耗性試験の結果が5%を越えており、工業的使用で長期間の使用に適さない。
【0076】
[実施例4]
金属組成がMo12Bi0.3Pr0.13Nd0.47Fe1.9Ni5.4Zn2.10.08Cs0.05で表される金属酸化物を、50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
シリカ1次粒子の平均粒子直径が44nmの30重量%のSiOを含む水性シリカゾル833.3gとシリカ1次粒子の平均粒子直径が12nmの30重量%のSiO2を含む水性シリカゾル833.3gを混合してシリカ原料を得た。16.6重量%の硝酸402.8gに27.8gの硝酸ビスマス〔Bi(NO・5HO〕、5.78gの硝酸プラセオジム〔Pr(NO〕、39.2gの硝酸ネオジム〔Nd(NO・6HO〕、147.5gの硝酸鉄〔Fe(NO・9HO〕、302.9gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、120.0gの硝酸亜鉛〔Zn(NO・6HO〕、1.55gの硝酸カリウム〔KNO〕および1.87gの硝酸セシウム〔CsNO〕を溶解させて得られた液を、上記シリカ原料に加え、最後に水811.6gに402.9gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧化は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下350℃で1時間の前段焼成の後、空気雰囲気下580℃で2時間本焼成して触媒を得た。
【0077】
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は28nm、標準偏差は15.7nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は56%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.0(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.0%、アクロレイン収率は0.7%、アクリロニトリル収率は84.0%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は4.8%となり、5%より小さい値となった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す
【0078】
[比較例5]
シリカ原料であるシリカゾルとしてシリカ1次粒子の平均粒子直径4nmの20重量%のSiO2を含むシリカゾルのみ2500.0g使用すること、および本焼成温度が610℃であること以外は実施例4と同様にして触媒を調製した。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は4nm、標準偏差は2.0nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は50%になった。
【0079】
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.9(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクロレイン収率0.7%、アクリロニトリル収率は82.0%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は1.6%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。アクリロニトリル収率は82.0%と低い値にとどまった。
【0080】
[実施例5]
金属組成がMo12Bi0.3Ce0.3Cr0.2In0.2Fe1.1Ni6.2Mg2.50.2で表される金属酸化物を、35重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
シリカ1次粒子の平均粒子直径が22nmの30重量%のSiO2を含む水性シリカゾル833.3gとシリカ1次粒子の平均粒子直径が12nmの30重量%のSiO2を含む水性シリカゾル833.3gを混合してシリカ原料を得た。
16.6重量%の硝酸417.4gに37.3gの硝酸ビスマス〔Bi(NO33・5H2O〕、33.9gの硝酸セリウム〔Ce(NO・6HO〕、20.6gの硝酸クロム〔Cr(NO・9H2O〕、18.3gの硝酸インジウム、114.4gの硝酸鉄〔Fe(NO・9H2O〕、466.0gの硝酸ニッケル〔Ni(NO・6HO〕、164.6gの硝酸マグネシウム〔Mg(NO・6HO〕および5.2gの硝酸カリウム〔KNO〕を溶解させて得られた液を、上記シリカ原料に加え、最後に水1087.5gに543.8gのパラモリブデン酸アンモニウム〔(NHMo24・4HO〕を溶解させた液を加えて、水性原料混合物を得た。
【0081】
得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、入口温度約250℃、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧化装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で空気雰囲気下350℃で1時間の前段焼成の後、空気雰囲気下580℃で2時間本焼成して触媒を得た。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は18nm、標準偏差は6.1nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は34%になった。
得られた触媒50gを用いて、接触時間4.1(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.1%、アクロレイン収率は0.7%、アクリロニトリル収率は84.5%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は3.5%であった。触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す
【0082】
[比較例6]
組成がW0.2Mo0.5Te1.4CuFe11Sb25で表される酸化物を、50重量%のシリカに担持した触媒を次のようにして調製した。
硝酸(比重1.38)0.53Lと純水0.66Lを混合して、これに電解鉄粉68.4gを少しずつ加える。そしてこれが完全に溶解したことを確認する。
上記硝酸鉄溶液に硝酸銅〔Cu(NO・3HO〕107.5gを加え溶解させる。この鉄、銅硫酸溶液に、シリカの1次粒子の平均直径が13nmの20重量%のSiO2を含むシリカゾル1003gとシリカ1次粒子の平均直径が16nmの20重量%のSiO2を含むシリカゾル979gを混合したシリカ原料を順次加えた。
【0083】
三酸化アンチモン〔Sb〕405gを上記溶液に加える。15%アンモニア水を少しずつ加え、pHを2に調整する。このスラリーを加熱し、95℃4時間加熱する。パラタングステン酸アンモニウム〔5(NH4)2O・12WO・5HO〕5.8g、パラモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4HO〕9.8gおよびテルル酸〔HTeO〕35.8gをとり、これらを純水500mlに溶解する。この液をさきに調製したスラリーに加え、よく攪拌して水性原料を得た。
【0084】
得られた水性原料混合物を並流式の噴霧乾燥器に送り、出口温度約140℃で乾燥させた。該水性原料混合物の噴霧は、乾燥器上部中央に設置された皿型回転子を備えた噴霧装置を用いて行った。得られた粉体(乾燥触媒前駆体)は、電気炉で、空気雰囲気下200℃で4時間、450℃で4時間の前焼成の後、空気雰囲気下780℃で4時間本焼成して触媒を得た。
原料のシリカゾルの電子顕微鏡写真より、粒径分布を求めると、1次粒子の平均粒子直径は15nm、標準偏差は4.8nmであったことから、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は32%になった。
【0085】
得られた触媒50gを用いて、接触時間3.9(sec・g/cc)でプロピレンのアンモ酸化反応を行ったところ、反応開始から24時間後の転化率は99.2%、アクロレインの収率は1.3%、アクリロニトリル収率は82.8%であった。
得られた触媒50gをACC法に準じた耐摩耗性試験に掛けたところ、磨耗損失(%)は4.9%であった。
【0086】
触媒の組成と製造条件を表1に示す。触媒の細孔分布と耐磨耗強度(磨耗損失)(%))、及び反応結果を表2に示す。
アンチモンを主成分とする触媒系では2種類のシリカ原料の組合わせにより、シリカ1次粒子の粒径分布において、平均粒子直径に対する標準偏差の割合は30%以上であったが、アクリロニトリル収率は低かった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと流動床反応器内で反応させてアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルを製造する際に用いる金属酸化物とそれを担持するシリカ担体からなる粒状多孔性アンモ酸化触媒であって、該シリカ担体の量が該金属酸化物と該シリカ担体の合計重量に対して20〜80重量%であり、該金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄、バナジウム、テルルおよびニオブよりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含み、且つ、該触媒のシリカ担体の製造に用いるシリカ原料が、1次粒子の平均直径が5〜55nm未満であるシリカ原料を少なくとも1種用いて、且つ、原料シリカ1次粒子の粒径分布において、平均直径に対する標準偏差が30%以上であることを特徴とする粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【請求項2】
該金属酸化物が、下記の式(1)で表される請求項1に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
式(1)
Mo12BiaFebCcDdEeFfGgOn
式中、Cは、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Dは、クロム、タングステン、バナジウム、ニオブ、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、燐およびテルルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Eは、希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Fは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Gは、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、そしてa,b,c,d,e,f,gおよびnは、それぞれ、ビスマス(Bi)、鉄(Fe)、C、D、E、F、Gおよび酸素(O)のモリブデン(Mo)12原子に対する原子比を表し、
aは、0.05〜7、
bは、0.1〜7、
cは、0〜12、
dは、0〜5、
eは、0〜5、
fは、0〜0.2、
gは、0.01〜5、そして
nは酸素以外の構成元素の原子価を満足する酸素原子の数である。
【請求項3】
該シリカ原料が、その1次粒子の平均粒子直径20〜55nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子径の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%である請求項1または2に記載の粒状多孔性アンモ酸化触媒。
【請求項4】
請求項1の触媒が、モリブデン化合物、ビスマス化合物、鉄化合物、バナジウム化合物、テルル化合物およびニオブ化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物およびシリカ原料を含む水性原料混合物とを、該シリカ原料は、シリカ1次粒子の平均粒子直径が20〜55nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(a)40〜100重量%とシリカ1次粒子の平均粒子直径が5nm〜20nm未満である少なくとも1種のシリカゾル(b)60〜0重量%からなり、該シリカゾル(a)と該シリカゾル(b)の合計が100重量%であり、該水性原料混合物を噴霧乾燥して、乾燥触媒前駆体を得、そして、該乾燥触媒前駆体を焼成して得られることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項5】
該焼成が、前段焼成と本焼成からなり、該前段焼成を150〜430℃の温度範囲で行い、該本焼成を450〜750℃の温度範囲で行う請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかの触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イゾブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素及びアンモニアと反応させることを特徴とするアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。
【請求項7】
請求項4または5の方法で製造した触媒を用いる流動床反応器内でプロピレン、イソブテンまたは3級ブタノールを分子状酸素およびアンモニアと反応させることを特徴とするアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2006−61888(P2006−61888A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250536(P2004−250536)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】