説明

金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法、および基板処理装置

【課題】ゲート絶縁膜を形成する際に、界面準位を低減しつつ、EOTのさらなる低減が実現可能な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法、および基板処理装置を提供すること。
【解決手段】単結晶領域102を有する基板101上に、金属膜であって、該金属膜の酸化物の誘電率が酸化シリコン膜よりも高く、かつ金属膜の酸化物が単結晶領域102とエピタキシャル関係を有する金属膜103を、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しない基板温度で形成する(図1(b))。金属膜103が形成された基板101を、上記界面反応しない基板温度で、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しない酸素分圧の酸素ガス雰囲気に暴露する(図1(c))。酸素ガス雰囲気に暴露された基板103を、上記酸素分圧の酸素ガス雰囲気に保持し、金属膜の酸化物である金属酸化物高誘電体膜が結晶化する基板温度で熱処理する(図1(d)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート絶縁膜を有する半導体素子において用いられる金属酸化物高誘電体膜の製造方法、および基板処理装置に関し、特に、ゲート絶縁膜を有する半導体素子の高集積化と高速化に不可欠な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法、および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲート絶縁膜を有するシリコン系、炭化シリコン系および窒化ガリウム系の半導体素子では、高品質なゲート絶縁膜形成技術の開発が重要な課題となっている。
例えばシリコン系MOSFETにおいては、プロセス上の安定性や絶縁特性に優れた酸化シリコン膜が、長年、ゲート絶縁膜材料として用いられてきた。しかし、近年の素子微細化に伴いゲート絶縁膜の薄層化が進んでおり、ゲート長が100nm以下の素子ではスケーリング則の要請から、ゲート絶縁膜である酸化シリコン膜の厚さは1.5nm以下であることが必要となっている。この様な極薄の絶縁膜を用いると、ゲートバイアス電圧を印加することにより生じるゲートリーク電流が、ソース/ドレイン電流に対して無視できない値となるため、シリコン系MOSFETの高性能化と低消費電力化における大きな問題となっている。
【0003】
そこで、実効的なゲート絶縁膜を薄くし、かつゲートリーク電流をデバイス設計上の許容値内に抑える為に、酸化シリコン膜よりも誘電率が大きな高誘電体材料をゲート絶縁膜に採用することが検討されている。この様な高誘電体膜としては、酸化ハフニウム系や酸化ジルコニウム系の金属酸化物高誘電体材料が多く検討されている(特許文献1参照)。
【0004】
なお、ゲート絶縁膜の種類によらず、ゲート絶縁膜材料が酸化シリコン膜であると仮定して、ゲート容量から逆算して得られる絶縁膜の膜厚を酸化シリコン換算膜厚(EOT:Equivalent−Oxide−Thickness)と呼ぶ。すなわち、絶縁膜と酸化シリコン膜の比誘電率をそれぞれε、εとし、絶縁膜の厚さをdとした時、酸化シリコン換算膜厚dは、式(1)で与えられる。
=d(ε/ε) ・・・(1)
【0005】
式(1)は、εに較べて大きな誘電率εをもった材料を用いれば、絶縁膜が厚くても薄い酸化シリコン膜と同等になりうることを示している。例えば、酸化シリコン膜の比誘電率εは3.9程度であり、ε=39の高誘電体膜を用いれば15nmの厚さにしても1.5nmのEOTになるため、ゲートリーク電流を激減できるということになる。このように、高誘電体膜を用いればゲート長を微細にしてもスケーリング則に則ったゲート絶縁膜容量を保持しつつ、ゲート絶縁膜としてゲートリーク電流を防げる厚さにすることができる。
【0006】
しかしながら、近年検討されている高誘電体膜は非晶質や多結晶構造であるため、シリコン基板上に直接形成した場合にはシリコン基板と高誘電体膜との界面にシリコンのダングリングボンドに起因した高密度の界面準位が形成されることになる。このような高密度の界面準位が形成されると、ゲート絶縁膜下でのキャリアの移動度が低下してしまうため、シリコン系MOSFETの高性能化に対し大きな問題となる。そこで現在は、シリコンとの界面特性が良好で界面準位が少ない酸化シリコン膜を、高誘電体膜とシリコンとの界面領域に形成する方法が主に検討されている。このような界面酸化シリコン膜を用いた場合に、EOTを1.5nm以下に低減しつつ、ゲートリーク電流を許容値内に抑えるためには、界面酸化シリコン膜の膜厚を十分に薄くして、代わりに、高誘電体膜の膜厚を比較的厚く設定することが必要となる。
【0007】
特許文献2には、このような界面酸化シリコン膜を用いる方法でEOTを1.5nm以下とした発明が開示されている。すなわち、特許文献2では、シリコン基板と高誘電体膜との界面における界面酸化シリコン膜の成長を制御・抑制することを目的として、高誘電体膜の成膜工程またはその後の処理工程における酸素分圧および水分圧を1×10−4Torr(約0.013Pa)以下に設定することが開示されている。
【0008】
図10は、特許文献2記載のプロセス工程の一例を示す図である。図10(a)に示すように、その表面を水素原子1002にて終端したシリコン基板1001を処理室に搬送し、シリコン原子の表面拡散と昇華反応とによってデバイス作製領域の平坦化処理を実施する(図10(b)参照)。次いで、処理室中に酸素ガスを導入することで、平坦化処理が施されたシリコン基板1001表面に意図的に原子層レベルの酸化シリコン膜1003を形成し(図10(c))、さらに、電子ビーム蒸着法によりジルコニウム金属原料を酸化シリコン膜1003上に供給してジルコニウム膜1004を形成する(図10(d)参照)。その後、再び処理室中に酸素ガスを導入し、基板温度550℃、酸素分圧1×10−4Torrの条件でジルコニウム膜1004の酸化処理を行い、酸化ジルコニウム膜(高誘電体膜)1005を形成する(図10(e)参照)。その後、ポリシリコンゲート1006の形成、ならびにソース・ドレイン領域1007、1008のイオン注入を実施する(図10(f))。さらに、不図示のドーパントの活性化処理においては、1×10−6Torr以下の高真空下、または、残留酸素分圧ならびに残留水分圧が1×10−6Torr以下の高純度不活性ガス雰囲気で1050℃の熱処理を実施する。
【0009】
このような工程を用いることにより、シリコン基板と高誘電体膜との界面における界面酸化シリコン膜を、予め形成した酸化シリコン膜の膜厚から大幅に増加しないように制御することが可能となる。
【0010】
なお、本明細書において、界面酸化シリコン膜とは、半導体材料と高誘電体膜との界面に形成された酸化シリコン膜のことを意味する。すなわち、上記の例では、予め形成した酸化シリコン膜に加えて、高誘電体膜の成膜工程やその後の処理工程において増加した酸化シリコン膜も界面酸化シリコン膜に含まれる。
【0011】
このように特許文献2に開示された発明は、例えば酸化ジルコニウム膜1005といった高誘電体膜の成膜工程、または該成膜後の処理工程において、酸素分圧および水分圧を低くすることにより、界面酸化シリコン膜の増加量を許容値に収める発明である。
【0012】
また、ゲート絶縁膜を有する炭化シリコン系、窒化ガリウム系の半導体素子においても、近年、高誘電体膜を用いたゲート絶縁膜の開発が行われるようになっている。これらの半導体材料はワイドギャップ半導体材料であるため、より大きなバンドギャップを有し、電子・正孔に対して十分な障壁を確保できる高誘電体膜が必要である。このため、金属酸化物高誘電体材料の中でも最も大きなバンドギャップを有するアルミナ系材料が炭化シリコン系や窒化ガリウム系半導体素子に用いる高誘電体膜として多く検討されている。
【0013】
しかしながら、これらのワイドギャップ半導体上にアルミナ系のゲート絶縁膜を直接形成すると、ワイドギャップ半導体とアルミナ系のゲート絶縁膜との界面に高密度の界面準位が形成されやすくなる。よって、それらの界面領域に界面準位密度を低減しやすい材料を導入することが検討されている。
【0014】
特許文献3には、炭化シリコン系半導体層の表面を熱酸化して薄い酸化シリコン膜を形成し、その上に、アルミナ系のゲート絶縁膜を形成することにより、炭化シリコン系半導体素子の特性を向上させる発明が開示されている。特許文献3において、酸化シリコン膜の膜厚を1nm以下(好ましくは0.3nmから0.9nmの範囲)にすることで、アルミナ系のゲート絶縁膜を直接形成した場合に比べて界面準位密度が低減できることが記載されている。
【0015】
また、特許文献4には、窒化ガリウム系半導体層の表面に薄い窒化シリコン膜を形成し、その上に、アルミナ系のゲート絶縁膜を形成することにより、窒化ガリウム系半導体素子の特性を向上させる発明が開示されている。特許文献4において、窒化シリコン膜の膜厚が0.28nm未満(窒化シリコン膜が形成されていない場合も含む)になると、交流動作時におけるドレイン電流の不安定性が生じて素子特性が低下するが、窒化シリコン膜の膜厚を0.28nmから3nmの範囲にすることで、界面準位密度の低い良好な絶縁膜/半導体界面を形成することができ、交流動作時のドレイン電流の不安定性が生じないことが述べられている。
【0016】
なお、本明細書における界面酸化シリコン膜の定義については既に述べたように、半導体材料と高誘電体膜との界面に形成された酸化シリコン膜のことを意味しており、上記の炭化シリコン系半導体素子の例においては、アルミナ系のゲート絶縁膜と炭化シリコン系半導体層との界面に形成された酸化シリコン膜が界面酸化シリコン膜である。また、半導体材料と高誘電体膜との界面に形成された窒化シリコン膜については、本明細書では、界面窒化シリコン膜と呼ぶことにする。すなわち、上記の窒化ガリウム系半導体素子の例においては、アルミナ系のゲート絶縁膜と窒化ガリウム系半導体層との界面に形成された窒化シリコン膜が界面窒化シリコン膜である。
【0017】
本明細書では更に、高誘電体膜と半導体材料との界面に形成される該半導体材料の酸化膜を、界面酸化膜と呼ぶことにする。例えば、上述したシリコン基板と高誘電体膜との界面に形成された界面酸化シリコン膜や、炭化シリコン系半導体層と高誘電体膜との界面に形成された界面酸化シリコン膜は、それぞれ、界面酸化膜の一形態である。また、高誘電体膜と窒化ガリウム系半導体層との界面に酸化ガリウム膜が形成された場合は、その酸化ガリウム膜も界面酸化膜の一形態として取り扱うこととする。すなわち、半導体材料と高誘電体膜との界面に形成された該半導体材料の酸化膜の総称として、界面酸化膜という用語を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2003−17491号公報
【特許文献2】特開2002−184773号公報
【特許文献3】特開2009−16530号公報
【特許文献4】特許第4479886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、上記のような高誘電体膜を用いたゲート絶縁膜には大きな問題が存在する。
【0020】
特許文献2では、酸化ジルコニウム/酸化シリコン/シリコン基板からなる積層ゲート構造のMOSFETにおいて、EOTが約1.1nmとなることが述べられている。ここで、図10(c)に示す予め形成された酸化シリコン膜1003の初期膜厚は約0.6nmであり、その後の処理工程において、0.2nm未満の膜厚の増加が確認されている。したがって、高誘電体膜を用いたとしても、更に微細化が進み0.6nm以下のEOTが必要になると、界面酸化シリコン膜を用いた従来技術を利用することができなくなるという問題がある。
【0021】
また、上記特許文献2には予め酸化シリコン膜を形成することなく、高誘電体膜を形成することによっても1.5nm以下のEOTを得ることができると述べられているが、0.6nm以下のEOTを得るための具体的手段については述べられていないという問題がある。さらに、特許文献2は、シリコンとの界面の電気的な欠陥準位密度が少ない、すなわち上述のようにシリコンとの界面特性が良好で界面準位が少ない酸化シリコン膜を界面酸化シリコン膜として用いることによって、界面準位の低減を図ることについては開示している。しかしながら、該界面酸化シリコン膜を形成しない場合に界面準位を低減する構成を何ら開示していない。
【0022】
また、上述したように、近年検討されている高誘電体膜は非晶質や多結晶構造であるが、非晶質構造の高誘電体膜はリーク電流を低く抑えられる反面、高い誘電率を得ることが難しくなるため、EOTが0.6nm以下となるシリコン系MOSFETを実現することが困難となる。一方、多結晶構造の高誘電体膜では高い誘電率を得やすくなるが、結晶粒界に起因したリーク電流が大きくシリコン系MOSFETの性能のバラつき要因になるという問題がある。
【0023】
従って、EOTをより小さくする場合、例えばEOTが0.6nm以下となるシリコン系MOSFETにおいては、誘電率の高い酸化ハフニウム系や酸化ジルコニウム系の金属酸化物高誘電体膜を、界面酸化シリコン膜を形成せずに、結晶粒界と界面準位を低減して、直接シリコン基板上に形成する技術の確立が必要である。
【0024】
また、特許文献3や特許文献4では、界面酸化シリコン膜や界面窒化シリコン膜を用いることにより、炭化シリコン系半導体や窒化ガリウム系半導体との界面特性の向上を図っているが、これらの材料はアルミナ系のゲート絶縁膜に比べて誘電率が低いため、ゲート絶縁膜全体のEOTが大きくなる。したがって、これらのワイドギャップ半導体素子の微細化が進むと、十分なゲート絶縁膜容量を確保することが難しくなるという問題がある。
【0025】
そのため、炭化シリコン系や窒化ガリウム系の半導体素子においては、バンドギャップが大きなアルミナ系の金属酸化物高誘電体膜を、界面酸化シリコン膜や界面窒化シリコン膜を形成せずに、界面準位を低減して、直接上記半導体層上に形成する技術の確立が必要である。
【0026】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ゲート絶縁膜を形成する際に、界面準位を低減しつつ、EOTのさらなる低減が実現可能な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法、および基板処理装置を提供することにある。
【0027】
本発明の他の目的は、EOTが0.6nm以下となるシリコン系MOSFETにおいては、界面酸化シリコン膜を形成せずに結晶粒界および/または界面準位を低減できる酸化ハフニウム系や酸化ジルコニウム系の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法、および基板処理装置を提供することである。
【0028】
本発明のさらに他の目的は、炭化シリコン系や窒化ガリウム系半導体素子においては、界面準位を低減しつつ、EOTをより低減可能な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法、および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
このような目的を達成するために、本発明は、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法であって、半導体からなる単結晶領域(以下、単に単結晶領域)が少なくとも表面に形成されている基板上に、金属膜であって、該金属膜の酸化物の誘電率が酸化シリコン膜の誘電率よりも高く、かつ前記金属膜の酸化物が前記単結晶領域とエピタキシャル関係を有する金属膜を、前記単結晶領域と前記金属膜とが界面反応しない基板温度で形成する第一の工程と、前記金属膜が形成された基板を、所定の酸素分圧の酸素ガス雰囲気に曝しながら、該単結晶領域と該金属膜とが界面反応しない基板温度で熱処理することによって前記金属膜を酸化して、前記単結晶領域上に前記金属膜の酸化物からなる金属酸化物高誘電体膜を形成する第二の工程と、前記第二の工程にて前記単結晶領域上に形成された前記金属酸化物高誘電体膜を、該金属酸化物高誘電体膜が結晶化する基板温度まで昇温して熱処理することによって前記基板上に金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成する第三の工程とを有し、前記所定の酸素分圧を、前記金属酸化物高誘電体膜の前記単結晶領域に接する面において、前記酸化により残留した、前記金属膜の一部からなる金属成分をより低減するような分圧に設定することを特徴とする。
【0030】
また、本発明は、単結晶領域が少なくとも表面に形成されている基板上に、金属膜であって、該金属膜の酸化物の誘電率が酸化シリコン膜の誘電率よりも高く、かつ前記金属膜の酸化物が前記単結晶領域とエピタキシャル関係を有する金属膜を形成し、該金属膜を酸化して金属酸化物高誘電体膜を形成し、該金属酸化物高誘電体膜を結晶化して金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成することが可能な基板処理装置であって、前記単結晶領域上に前記金属膜を成膜するための成膜手段と、酸素ガスを供給しながら、前記成膜手段により形成された前記金属膜に対して所定の熱処理を施して、前記金属膜を酸化するための第一の熱処理手段と、前記第一の熱処理手段によって形成された金属酸化物高誘電体膜に対して所定の熱処理を施すための第二の熱処理手段と、前記基板の温度および前記酸素ガスの分圧が所定の値となるように前記第一の熱処理手段を制御する第一の制御手段と、前記基板の温度が所定の値となるように前記第二の熱処理手段を制御する第二の制御手段とを備え、前記成膜手段は、前記金属膜の成膜の際には、前記基板の温度が、前記単結晶領域と前記金属膜とが界面反応しない基板温度になるように構成されており、前記第一の熱処理手段は、前記基板を加熱するための第一の基板加熱手段と、前記酸素の分圧を調整するための分圧調整手段とを有し、前記第一の制御手段は、前記金属膜を酸化して前記金属酸化物高誘電体膜を形成する場合は、前記基板の温度が前記単結晶領域と前記金属膜とが界面反応しない基板温度になるように前記第一の基板加熱手段を制御し、かつ前記酸素ガスの分圧が、前記金属酸化物高誘電体膜の前記単結晶領域に接する面において、前記酸化により残留した、前記金属膜の一部からなる金属成分をより低減するような分圧となるように前記分圧調整手段を制御し、前記第二の熱処理手段は、前記基板を加熱するための第二の基板加熱手段を有し、前記第二の制御手段は、前記金属酸化物高誘電体膜を結晶化する際には、前記基板の温度が前記金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度になるように前記第二の基板加熱手段を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、単結晶領域上に予め界面酸化シリコン膜や界面窒化シリコン膜を形成することなく、該単結晶領域上に金属酸化物高誘電体のエピタキシャル膜を形成しており、さらに、該金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜と単結晶領域との界面において界面酸化膜が形成されていないため、界面準位を低減しつつ、EOTをさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成過程を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の成膜装置の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を構成する金属膜を形成するためのスパッタ装置の概略構成図である。
【図4A】本発明の一実施形態に係る調整された酸素ガス雰囲気で熱処理を行ない金属酸化物高誘電体膜を形成するための熱処理装置の概略構成図である。
【図4B】本発明の一実施形態に係る熱処理を行ない金属酸化物高誘電体膜を結晶化するための熱処理装置の概略構成図である。
【図5A】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5B】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5C】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5D】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5E】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5F】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5G】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図5H】本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る方法で形成した金属酸化物高誘電体膜のXPS ハフニウム4fスペクトルを示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る方法で形成した金属酸化物高誘電体膜のXPS シリコン2pスペクトルを示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る方法で形成した金属酸化物高誘電体膜のX線回折パターンを示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る基板処理装置における制御系の概略構成を示すブロック図である。
【図10】シリコン系MOSFETにおける、従来の積層ゲート構造の作製プロセスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
本発明の特徴は、単結晶領域が少なくとも表面に形成されている基板(少なくとも表面が単結晶領域である基板)上に酸化シリコン膜よりも誘電率が高い金属酸化物高誘電体膜をエピタキシャル成長させる工程において、上記単結晶領域(基板表面)上に、金属膜であって、該金属膜の酸化物(金属酸化物高誘電体膜)の誘電率が酸化シリコン膜の誘電率よりも高く、かつ該酸化物が上記単結晶領域とエピタキシャル関係を有する金属膜を、上記単結晶領域と上記金属膜との界面反応が引き起こされない温度にて形成し、次いで、上記金属膜を調整された酸素ガス雰囲気に曝しながら熱処理することで、上記金属酸化物高誘電体膜を形成し、更に、上記金属酸化物高誘電体膜を該金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度まで昇温して熱処理することにある。このようにして、半導体材料上に、予め界面酸化シリコン膜や界面シリコン窒化膜を形成せずに、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を製造することができ、上記半導体材料と上記金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜との界面における界面酸化膜の形成を抑制することが可能となる。本発明では、金属酸化物高誘電体膜が形成される単結晶領域のダングリングボンドに1対1で対応するように上記金属酸化物高誘電体膜がエピタキシャル成長するので、ダングリングボンドの形成を著しく低減することが可能となり、従来のように界面酸化シリコン膜や界面シリコン窒化膜などを形成しなくても、結晶粒界および/または界面準位を低減することができる。
【0034】
本発明では、上記単結晶領域は、シリコン、ゲルマニウム、炭素、およびガリウムの少なくとも1つを含むことが好ましい。さらに、上記金属膜は、ハフニウム、ジルコニウム、およびアルミニウムの少なくとも1つを含むことが好ましい。ただし、本発明では、基板が有する単結晶領域上に、上記金属膜の酸化により形成される金属酸化物高誘電体のエピタキシャル膜を形成することが重要であるので、上記単結晶領域と上記金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜とがエピタキシャル関係を有するように、単結晶領域に含まれる元素および金属膜に含まれる元素を選択する。
【0035】
図1(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成過程を示している。図1(a)〜(d)において、符号101は基板であり、符号102は単結晶領域である。図1(a)に示す通り、基板101は、該基板101の表面に位置する単結晶領域102を含んでいる。また、符号103は金属膜であり、符号104は酸素ガスであり、符号105および符号107は基板加熱用ヒーターであり、符号108は金属酸化物高誘電体膜であり、符号106は金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜である。以下、図1(a)〜(d)を用いて本実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成方法を詳細に説明する。
【0036】
まず、図1(a)に示したように、少なくとも表面に単結晶領域102が形成された基板101を用意する。なお基板101は、基板全体が単結晶領域102であってもよい。また、フッ化水素酸水溶液などによる基板の洗浄を行なうことで、単結晶領域102の表面に水素終端が形成されていてもよい。単結晶領域102はシリコン、ゲルマニウム、炭素、およびガリウムの少なくとも一つを含んでいる。例えば、単結晶領域102を構成する材料としては、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム、カーボン含有シリコンゲルマニウム、炭化シリコン、窒化ガリウム、窒化アルミニウムガリウムなどがある。
【0037】
第一の工程では、図1(b)に示すように、単結晶領域102が形成された基板101上に金属膜103を形成する。ここで、金属膜103は、ハフニウム、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも一つ以上の元素から選択する。なお、金属膜103の酸化物(金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106)が単結晶領域102とエピタキシャル関係を有するように、単結晶領域102の元素および金属膜103の元素は選択される。
【0038】
金属膜103を形成する際の基板温度は、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しない温度であることが必要である。何故ならば、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応すると、単結晶領域102の結晶情報を失った界面層が形成されやすくなり、後述する第二、第三の工程を経ても金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜が形成されにくくなるからである。例えば、シリコン(001)単結晶基板上に、金属膜としてハフニウム膜またはジルコニウム膜を形成した場合に、ハフニウム/シリコン(001)界面またはジルコニウム/シリコン(001)界面において界面反応が引き起こされると、シリコン(001)単結晶の結晶情報を失った非晶質構造や多結晶構造のハフニウムシリサイド膜またはジルコニウムシリサイド膜が界面層として形成されやすい。また、炭化シリコン(0001)単結晶層や窒化ガリウム(0001)単結晶層上にアルミニウム膜を形成した場合にも、界面反応により非晶質構造や多結晶構造の界面層が形成されやすい。
【0039】
シリコン(001)単結晶基板上に、金属膜としてハフニウム膜またはジルコニウム膜を形成した場合には、界面反応により、部分的にハフニウムシリサイド膜またはジルコニウムシリサイド膜からなるエピタキシャル領域が形成される場合があるが、単一ドメインからなるこれらのエピタキシャル膜を得ることは困難である。このため、これらの膜には、結晶粒界が多く形成されることとなり、第二、第三の工程を経ても結晶粒界の大部分が残留しやすいという問題がある。
【0040】
従って、上記第一の工程では、基板温度を単結晶領域102と金属膜103との界面反応が引き起こされない温度にしつつ、上記金属膜103を形成する。このようにすることで、単結晶領域102と金属膜103との界面部分に該単結晶領域102の結晶情報を失った層の形成を低減することができる。よって、金属膜103はその酸化物が単結晶領域102とエピタキシャル関係を有するように選択されているので、後の第二、第三の工程により金属膜103から形成された金属酸化物を、上記単結晶領域102の結晶情報に基づいて形成されたエピタキシャル膜とすることができる。
【0041】
図1(b)において、基板加熱用ヒーターや基板冷却機構などは図示していないが、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しない温度に保てるのであれば、基板加熱用ヒーターによる基板の加熱や、基板冷却機構による基板の冷却などを行なっても良い。むしろ、それらを用いることで基板の温度を再現性良く一定に保てるのであれば、プロセスの安定性の観点から望ましい構成である。
【0042】
更に、形成する金属膜103の膜厚については特に限定するものではないが、0.5nmから100nm程度とすることが望ましい。0.5nm未満では後述する第三の工程において金属酸化物高誘電体膜108を結晶化することが困難であり、100nm以上では単結晶領域102から金属酸化物高誘電体膜108の表面にかけて、連続的に結晶情報を伝達することが難しくなるため良質なエピタキシャル膜が得られにくい。
【0043】
第二の工程では、図1(c)に示すように、不図示の酸素ガス供給機構から基板101上に酸素ガス104を供給しつつ、第一の基板加熱手段としての基板加熱用ヒーター105により基板101を熱処理して該金属膜103を酸化させる。この酸化により、金属膜103は、金属酸化物高誘電体膜108になる。本工程では、金属膜103が酸化することによって、金属膜103が金属酸化物高誘電体膜108へと変化するまでに所定の時間を要することになる。したがって、本工程における基板温度を、単結晶領域102と金属膜103との界面反応が引き起こされる温度に設定すると、金属酸化物高誘電体膜108が形成される前に、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応することになる。第一の工程と同様に、本工程において単結晶領域102と金属膜103の界面反応が引き起こされると、単結晶領域102の結晶情報を失った界面層が形成されやすくなるため、後述する第三の工程を経ても金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜が形成されにくい。したがって、酸素ガス104を供給する際の基板温度は、第一の工程と同様に単結晶領域102と金属膜103との界面反応が引き起こされない温度であることが必要である。よって、第二の工程においても、基板温度を、単結晶領域102と金属膜103との界面反応が引き起こされない温度に設定する。さらに、基板温度を、金属膜103を酸化して得られる金属酸化物高誘電体膜108が結晶化しない温度に設定する。
【0044】
また、本発明では、第二の工程における金属膜103から金属酸化物高誘電体膜108の形成において、形成された金属酸化物高誘電体膜108の単結晶領域102に接する面において少なくとも、金属膜103からなる金属成分がなるべく残留しない、好ましくは該金属成分が残留しない、さらに好ましくは金属酸化物高誘電体膜108に該金属成分が残留しないことが重要である。よって、第二の工程では、処理室内の酸素ガスの分圧を、少なくとも上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108)に金属膜103の一部からなる金属成分が残留しないような分圧に設定することが必要である。金属酸化物高誘電体膜108に金属膜103の一部からなる金属成分が残留していると、後述する第三の工程において、金属酸化物高誘電体膜108を結晶化させる際に、残留した金属膜103の一部が単結晶領域102と界面反応する恐れがあるためである。
【0045】
なお、本工程における酸素ガスの分圧としては、0.13Pa以上、大気圧未満とすることが望ましい。さらに、0.13Pa以上、100Pa以下が望ましく、最も好適な酸素ガスの分圧は0.13Pa以上、10Pa以下である。
【0046】
0.13Pa以下の酸素分圧では、熱処理時に金属膜103が十分に酸化せず金属酸化物高誘電体膜108に金属膜103の一部からなる金属成分が残留しやすくなる。上述したように、後述する第三の工程において、金属酸化物高誘電体膜108を結晶化させる際には、残留した金属膜103の一部からなる金属成分が単結晶領域102と界面反応する恐れがある。
【0047】
また、大気圧以上の酸素分圧では、金属酸化物高誘電体膜108と単結晶領域102との界面全体に非晶質構造の界面酸化膜が形成されやすくなり、後述する第三の工程を経ても金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106が得られなくなる。したがって、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を得るためには、金属酸化物高誘電体膜108と単結晶領域102との間の界面酸化膜の形成を抑制できる大気圧以下の酸素分圧に設定することが重要である。特に、上述したシリコン系MOSFETの例では、100Pa以下の酸素分圧において、界面酸化膜の形成領域を著しく軽減できるため、結晶性の高い金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を得やすくなる。また、10Pa以下の酸素分圧では、界面酸化膜は形成されなくなるため、より高い結晶性の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を得ることが可能となる。
【0048】
また、金属酸化物高誘電体膜108に金属膜103の一部からなる金属成分が残留しているか否かは、例えば、XPSにおいて金属膜103に対応する金属元素(ジルコニウム、ハフニウムまたはアルミニウム)のスペクトルなどを測定することにより判断することができる。より具体的には、上記の金属元素のスペクトルにおいて、酸化物成分に由来するピークが支配的で、金属成分に由来するピークが明らかなピークとして確認できなければ、金属膜103の一部からなる金属成分が残留していないと見なすことができる。
【0049】
従って、上記第二の工程では、酸素ガス供給機構により基板101上に酸素ガス104を供給しつつ、基板加熱ヒーター105により単結晶領域102と金属膜103との界面反応が引き起こされない温度で熱処理し、上記金属膜103を酸化して金属酸化物高誘電体膜108を形成する。その際、酸素ガス104の分圧を、少なくとも金属酸化物高誘電体膜108の単結晶領域102と接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108)に金属膜103の一部からなる金属成分が残留しないような分圧を設定する。このように酸素分圧を設定することにより、金属酸化物高誘電体膜108への酸化により残留した金属膜103の一部からなる金属成分と単結晶領域102との界面反応を低減することができ、単結晶領域102から金属酸化物高誘電体膜108への結晶情報の伝達を阻害するような界面層の形成を低減することができる。
【0050】
このように、本発明では、第三の工程において金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を形成する際に、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106の前駆体としての金属酸化物高誘電体膜108に単結晶領域102の結晶情報を伝達するために、少なくとも金属酸化物高誘電体膜108の単結晶領域102に接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)において、金属膜103の一部からなる金属成分をなるべく残留させないようにしている。このために、第二の工程における酸素分圧を、上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)に上記金属成分が残留しないような分圧に設定している。
【0051】
ただし、上述のように、上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)に上記金属成分が残留しないように酸素分圧を設定しても、他の成膜条件や成膜環境等によっては、実際に形成された金属酸化物高誘電体膜108において、上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)に上記金属成分が多少残留することもある。本発明では、上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)に上記金属成分を残留させないことを本質とするものではない。本発明では、後述する第三の工程により、単結晶領域102の直上に金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を良好に形成させることが重要であり、このために、単結晶領域102の結晶情報の伝達の阻害因子となる界面層形成の要因となる上記金属成分を、金属酸化物高誘電体膜108と単結晶領域102との界面になるべく存在させないようにすることが本質である。逆に言うと、形成された金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106が許容範囲内の質を有しているのであれば、上記界面において上記金属成分が存在しても良い。従って、許容範囲内であれば、金属酸化物高誘電体膜108と単結晶領域102との界面である、上記接する面に上記金属成分が存在しても良いのである。
【0052】
本発明では、少なくとも上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)に上記金属成分が残留しないような酸素分圧とは、あくまで金属成分が上記接する面(好ましくは、金属酸化物高誘電体膜108全体)に金属成分が残留しないようにすることを目的とした圧力値(設定値)である。よって、該酸素分圧で第二の工程を行った結果として得られる金属酸化物高誘電体膜108の上記接する面に多少の金属成分が残留しても、それが許容範囲内であれば本発明の作用・効果を奏することができる。よって、この場合も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0053】
さらに、第二の工程における酸素分圧を、少なくとも上記接する面(好ましくは金属酸化物高誘電体膜108全体)に上記金属成分が多少は残留するような酸素分圧に設定しても、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を許容範囲内の質で形成できれば、該酸素分圧も本発明の酸素分圧に含まれる。
【0054】
すなわち、本発明では、第二の工程における酸素分圧を、金属酸化物高誘電体膜108の単結晶領域102に接する面において、金属膜103から金属酸化物高誘電体膜108を形成する酸化により残留した、金属膜103の一部からなる金属成分をより低減するような分圧に設定すれば良いのである。
【0055】
なお、上記第一の工程および第二の工程において、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しない基板温度は、単結晶領域102と金属膜103を構成する元素の組み合わせにより適宜設定しなければならない。例えば、シリコン(001)単結晶基板上に形成した、金属膜としてのハフニウム膜やジルコニウム膜は、基板温度が約420℃以上のときに界面反応する。したがって、本発明に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成方法を用いて、酸化ハフニウムエピタキシャル膜または酸化ジルコニウムエピタキシャル膜をシリコン(001)単結晶基板上に形成する場合、上記第一の工程および第二の工程における基板温度は420℃未満とすることが必要である。
【0056】
また、アルミニウム/窒化ガリウム(0001)界面またはアルミニウム/炭化シリコン(0001)界面では、それぞれ約500℃以上および約700℃以上のとき界面反応が引き起こされる。したがって、本発明に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成方法を用いてアルミナエピタキシャル膜を形成する場合、上記第一の工程および第二の工程における基板温度は、窒化ガリウム(0001)単結晶層に対しては500℃未満、炭化シリコン(0001)単結晶層に対しては700℃未満とすることが必要である。
【0057】
さらに、熱処理温度の下限については特に限定するものではないが、熱処理温度が低すぎると、金属膜103の酸化に時間がかかりやすくなるため、望ましくは100℃以上、更に望ましくは150℃以上とすることがよい。
【0058】
次に第三の工程では、図1(d)に示すように、第二の工程にて金属膜103を酸化することにより形成された金属酸化物高誘電体膜108に対し、第二の基板加熱手段としての基板加熱用ヒーター107を用いて基板101をさらに熱処理して、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を形成する。このとき、基板101は、金属酸化物高誘電体膜108が結晶化する基板温度まで昇温されて熱処理されることが必要であり、上記金属酸化物高誘電体膜108が結晶する基板温度まで昇温されなければ、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を得ることはできない。
【0059】
ここで、上記金属酸化物高誘電体膜108が結晶化する基板温度は、金属酸化物高誘電体膜108の種類によって適宜設定しなければならない。例えば、シリコン(001)単結晶基板上に形成した、金属酸化物高誘電体膜としての酸化ハフニウム膜または酸化ジルコニウム膜は、熱処理時の基板温度を420℃以上としなければほとんど結晶化せず、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることが難しい。また、基板温度を600℃以上とすると、酸化ハフニウム膜または酸化ジルコニウム膜の結晶化度を飛躍的に高めることができるため、酸化ハフニウム膜または酸化ジルコニウム膜からなる高品質な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成するためには、600℃以上の基板温度まで昇温して熱処理することが望ましい。すなわち、単結晶領域102としてシリコン(001)を用い、金属膜103としてハフニウム膜またはジルコニウム膜を用いる場合、金属酸化物高誘電体膜108が結晶化する基板温度は、少なくとも420℃以上であり、600℃以上であることが好ましい。
【0060】
さらに、窒化ガリウム(0001)単結晶層や炭化シリコン(0001)単結晶層上に金属酸化物高誘電体膜108としてアルミナ膜を形成した場合は、それぞれ500℃以上および700℃以上の基板温度としなければアルミナ膜はほとんど結晶化せず、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成することが難しい。また、基板温度を750℃以上とすると、アルミナ膜の結晶化度を飛躍的に高めることができるため、アルミナ膜からなる高品質な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成するためには、750℃以上の基板温度で熱処理することが望ましい。
【0061】
このように、第三の工程では、基板温度を金属酸化物高誘電体膜108が結晶化する温度まで昇温するように設定する。
【0062】
なお、図1(d)では、第二の工程で用いた酸素ガス104を図示していないが、酸素ガス104を供給しながら熱処理を行なっても良い。むしろ、酸素ガス104を用いることで金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106に酸素欠損が生じにくくなるため好ましい構成である。
【0063】
この際、不図示の酸素ガスの分圧については、大気圧未満とすることが必要であり、さらに望ましくは、第二の工程で用いた酸素ガス104の分圧と同等か、それ以下の分圧とすることである。酸素分圧を大気圧以上とすると、金属酸化物高誘電体膜108と単結晶領域102との界面全体に非晶質構造の界面酸化膜が形成されて、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106が得られにくくなる、もしくは、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106が得られたとしても、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106と単結晶領域102との界面に非晶質構造の界面酸化膜が形成されてEOTの低減が困難になるため好ましくない。
【0064】
このように、上記第三の工程では、基板加熱ヒーター105により、基板温度を金属酸化物高誘電体膜108が結晶化する温度に設定し、上記金属酸化物高誘電体膜108を結晶化して金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を形成する。
【0065】
以上の工程により、基板101上に形成された単結晶領域102上に良質な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106が形成される。なお、上記の第一、第二、第三の工程のうち、いずれか一つの工程を省くことによっても、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることが不可能となる。例えば、第二の工程を行わない場合には、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応し、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることができない。また、第三の工程を省くと、金属酸化物高誘電体膜が結晶化せず、この場合も、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることができない。したがって、本発明に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成には、上記第一、第二、第三の工程が必要である。
【0066】
すなわち、本発明では、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しないような基板温度で第一の工程を行うことで、金属酸化物高誘電体膜108の前駆体としての金属膜103を単結晶領域102上に直接形成する。そして、単結晶領域102と金属膜103とが界面反応しないような基板温度と、所定の分圧の酸素ガス雰囲気で第二の工程を行う。これにより、上記前駆体としての金属膜103を酸化して、界面酸化膜を形成しない状態で、かつ、単結晶領域102との界面において該単結晶領域102の結晶情報を該単結晶領域102の直上の層に伝達するのを阻害するような層の形成を低減した状態で、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106の前駆体としての金属酸化物高誘電体膜108を形成することができる。さらに、金属酸化物高誘電体膜108が結晶化するような温度まで昇温して第三の工程を行うことで、界面酸化膜を形成しない状態で単結晶領域102上に形成された金属酸化物高誘電体膜108を結晶化し、単結晶領域102の結晶情報に整合するような金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を形成することができる。よって、第一の工程〜第三の工程を行うことで、単結晶領域102上に該単結晶領域102のダングリングボンドと1対1で対応するように金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106を形成することができるのである。
【0067】
このようにして単結晶領域102上に形成される金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜106は、界面準位を抑制する観点から非常に重要である。
【0068】
なお、これらの全工程は、後述の制御部900により自動制御が可能である。
【0069】
図2は、本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の成膜装置の一例の概略構成図である。図中、符号201はロードロック室であり、符号202は基板搬送室であり、符号203はスパッタ室であり、符号204は第一の熱処理室であり、符号209は第二の熱処理室であり、符号205は基板搬送機構であり、符号206、207、208、210はそれぞれゲートバルブである。
【0070】
ロードロック室201、基板搬送室202、スパッタ室203、第一の熱処理室204、第二の熱処理室209は、各々独立した不図示の真空排気手段と不図示の大気開放手段を有する真空容器である。また、ロードロック室201、スパッタ室203、第一の熱処理室204、第二の熱処理室209は、それぞれゲートバルブ206、207、208、210を介して基板搬送室202に接続されている。ここで、ゲートバルブ206、207、208、210は、基板搬送を行なうとき以外は常時閉じられているため、ロードロック室201、基板搬送室202、スパッタ室203、第一の熱処理室204、第二の熱処理室209は、上述の独立した不図示の真空排気手段と不図示の大気開放手段とにより、各々独立した圧力状態を有することが可能である。
【0071】
基板搬送機構205は、ロードロック室201と基板搬送室202との間での基板の搬送、スパッタ室203と基板搬送室202との間での基板の搬送、第一の熱処理室204と基板搬送室202との間での基板の搬送、および第二の熱処理室209と基板搬送室202との間での基板の搬送を、それぞれゲートバルブ206、207、208、210が開いた状態で、自動で行なうことができる。
装置内への基板の導入と装置外への基板の排出とは、上述の独立した大気開放手段を用いて大気開放した、ロードロック室201を介して行なう。また、基板搬送室202、スパッタ室203、第一の熱処理室204、第二の熱処理室209は、膜中への不純物の混入を低減するため常時高真空に保たれており、ロードロック室201と基板搬送室202との間での基板の搬送は、ロードロック室201を真空排気手段により排気した状態で行なわれる。
【0072】
以下、図2を参考にしながら、本発明に係る成膜装置を用いて金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成方法を詳細に説明する。なお、図2に示す成膜装置も後述の制御部900により制御可能であることは言うまでもない。
まず表面に単結晶領域が形成された基板を、大気圧状態のロードロック室201に導入し、その後、上述の独立した真空排気手段により、所定の圧力に達するまでロードロック室201の排気を行う。
次に、制御部900からの制御信号により、ゲートバルブ206を開き、基板搬送機構205を用いて、ロードロック室201にて保持された基板を高真空状態に保持された基板搬送室202へ搬送し、その後、ゲートバルブ206を閉じる。次に、制御部900からの制御信号により、ゲートバルブ207を開き、基板搬送機構205を用いて、基板搬送室202にて保持された基板を高真空状態に保持されたスパッタ室203へ搬送し、その後、ゲートバルブ207を閉じる。
【0073】
次に、第一の工程として、スパッタリング室203で、金属酸化物高誘電体膜の前駆体としての金属膜を、スパッタリングにより基板上に形成する。すなわち、制御部900は、スパッタリング室203を制御して、上記金属膜を基板上に形成させる。なお、金属酸化物高誘電体膜の前駆体としての金属膜の形成手段はスパッタリングに限定されるものではなく、金属酸化物高誘電体膜の前駆体としての金属膜を、上記基板と反応することなく形成可能な方法であればよい。
次に、制御部900からの制御信号により、ゲートバルブ207を開き、基板搬送機構205を用いて、スパッタリング室203にて金属膜が形成された基板を高真空状態に保持された基板搬送室202へ搬送し、その後、ゲートバルブ207を閉じる。次に、制御部900からの制御信号により、ゲートバルブ208を開き、基板搬送機構205を用いて、基板搬送室202にて保持された金属膜が形成された基板を、高真空状態に保持された第一の熱処理室204へ搬送し、その後、ゲートバルブ208を閉じる。
【0074】
次に、第二の工程として、第一の熱処理室204で、金属酸化物高誘電体膜を構成する金属膜が形成された基板上に、所定の分圧の酸素ガスを供給する。すなわち、第一の制御手段として機能する制御部900は、第一の熱処理室204を制御して、酸素分圧を所定の分圧に調節し、かつ基板温度が金属膜と単結晶領域とが界面反応しない温度になるように基板の温度を調節して、金属酸化物高誘電体膜を形成する。
次に、制御部900からの制御信号により、ゲートバルブ208を開き、基板搬送機構205を用いて、第一の熱処理室204にて金属酸化物高誘電体膜が形成された基板を高真空状態に保持された基板搬送室202へ搬送し、その後、ゲートバルブ208を閉じる。次に、制御部900からの制御信号により、ゲートバルブ210を開き、基板搬送機構205を用いて、基板搬送室202にて保持された、金属酸化物高誘電体膜が形成された基板を高真空状態に保持された第二の熱処理室209へ搬送し、その後、ゲートバルブ210を閉じる。
【0075】
次に、第三の工程として、第二の熱処理室209で、金属酸化物高誘電体膜が形成された基板を、所定の温度まで昇温して熱処理する。すなわち、第二の制御手段として機能する制御部900は、第二の熱処理室209を制御して、基板温度が第二の工程にて得られた金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度まで昇温されるように基板の温度を調節して、該金属酸化物高誘電体膜を結晶化させ、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成させる。
【0076】
なお、第二の工程および第三の工程は、熱処理のみを目的とした独立した真空容器で行うことに限定されるものではなく、第一の工程で形成した金属膜を、大気に曝すことなく酸化し、かつ、その酸化により形成された金属酸化物高誘電体膜を結晶化できる真空容器で行なわれればよい。すなわち、上述したスパッタリング室203が、酸素の導入機構、酸素の分圧調整機構および基板加熱機構を有していれば、第一の工程から第三の工程までを同一のスパッタリング室203で行うことができる。また、第一の熱処理室204において第二の工程を行い、引き続き、第一の熱処理室204で第三の工程を行なっても良いことはもちろんである。
【0077】
以上の工程により、表面に単結晶領域が形成された基板上に、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成することができる。
【0078】
図3は、本発明の実施に係る金属酸化物高誘電体膜を構成する金属膜を形成するための、スパッタ装置の一例の概略構成図である。図中、符号301は真空容器であり、符号302は基板であり、符号303は基板ホルダーであり、符号304および305はターゲットであり、符号306および307はカソードであり、符号308および309は磁石ユニットである。また、符号310は排気ポンプであり、符号311および312はスパッタ用電源であり、符号313は回転シャッターであり、符号314および315は不活性ガス源、符号316および317はマスフローコントローラーであり、符号318、319、320および321はバルブであり、符号322は回転軸である。
なお、後述の制御部900は、上記図3に示す各構成を統合して制御することができる。
【0079】
真空容器301は、SUSまたはアルミニウム合金などの金属部材を含んで構成され、排気ポンプ310により真空排気が行なわれている。真空容器301の到達圧力は、上記の金属膜を形成する際に混入する不純物を低減するため、1×10−5Pa以下であることが望ましく、さらには5×10−6Pa以下であることが望ましい。
【0080】
基板ホルダー303は、不図示の上下動作制御機構と不図示のホルダー回転動作制御機構とを備えており、上記の金属膜の膜厚分布が均一となるように、基板ホルダー303の高さおよび回転速度を調整することができる。なお、基板ホルダー303の内部には、基板加熱用のヒーター(不図示)または基板冷却用の水路(不図示)を設けることができる。基板加熱用のヒーターを用いる場合、制御900は、該ヒーターを制御して基板ホルダー303上に配置される基板302の温度(基板温度)を制御することができる。
【0081】
回転シャッター313は、ターゲット304および305から放出されるスパッタ粒子を、基板302へ到達させるための開口部と、基板302へ到達することを遮断するための非開口部を有している。ここで回転シャッター313は不図示のシャッター回転動作制御機構を備えた回転軸322に接続されており、このシャッター回転動作制御機構を駆動することで、上述の開口部および非開口部をターゲット304または305へ独立して割り当てることが可能である。例えば、開口部および非開口部を、それぞれターゲット304および305に割り当てた場合は、ターゲット304のみを成膜に用いることができ、開口部をターゲット304および305に同時に割り当てた場合は、ターゲット304および305を同時に成膜に使用することができる。また、非開口部をターゲット304に割り当ててスパッタを行なうことで、ターゲット304から基板302への成膜を遮断し、ターゲット304のプレスパッタを行うことができる。
【0082】
磁石ユニット308および309は、不図示の磁石回転動作制御機構を有しており、マグネトロンスパッタリングを実現するために、カソード306および307の裏面に設置されている。成膜時には、ターゲットのエロージョンを均一にするため、上述の磁石回転制御機構により磁石ユニット308および309を回転させて成膜を行なう。
【0083】
カソード306および307はスパッタ用電源311および312に接続されており、スパッタ用電源311および312から投入された電力は、カソード306および307を介して、ターゲット304および305へ供給される。なお、生産性の観点からはスパッタ用電源311および312として成膜速度の速いDC電源を用いることが望ましいが、RF電源を用いることも可能である。
【0084】
スパッタリングに用いる不活性ガスは、不活性ガス源314および315から供給され、バルブ318、319、320および321とマスフローコントローラー316および317を介して、ターゲット304および305の近傍に導入される。ここで、マスフローコントローラー316および317は、不活性ガス源314および315から供給された不活性ガスの流量を制御するために用いられる。
【0085】
ターゲット304および305は、基板上に形成する金属膜の構成元素を含んでいる。例えば、ターゲット304および305のいずれか一方(もしくは両方)を金属ハフニウムターゲットとしてスパッタリング(もしくは同時スパッタリング)を行うことにより、基板上に金属ハフニウム膜を形成することができる。また、基板上にハフニウム−ジルコニウム合金膜を形成する場合には、ターゲット304および305のいずれか一方、もしくは両方をハフニウム−ジルコニウム合金ターゲットとして用いることができ、さらに、ターゲット304を金属ハフニウムターゲットとし、ターゲット305を金属ジルコニウムターゲットとすることも可能である。前者(ハフニウム−ジルコニウム合金ターゲットを用いる場合)では、一方のターゲットを用いたスパッタリングもしくは両方のターゲットを用いた同時スパッタリングを利用することができる。また、後者(金属ハフニウムターゲットと金属ジルコニウムターゲットを用いる場合)では、同時スパッタリングを利用することができる。なお、ハフニウム−ジルコニウム合金膜を用いた場合は、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜として、酸化ハフニウムジルコニウムエピタキシャル膜が得られることになる。
【0086】
以下に、本発明の実施に係るスパッタ装置を用いて金属酸化物高誘電体膜を構成する金属膜の形成方法の一例について、図3を用いて説明する。
まず、基板ホルダー303に基板302を設置し、その後、基板ホルダー303の高さおよび回転速度を、上述の上下動作制御機構とホルダー回転動作制御機構を駆動させて、基板302上に形成される金属膜の膜厚分布が均一となるように調整する。次に、制御部900がスパッタ装置を制御して、バルブ318および320を開き、不活性ガス源314から供給された不活性ガスを、マスフローコントローラー316により流量を制御して真空容器301に導入する。
【0087】
次に、制御部900がシャッター回転動作制御機構を制御して回転シャッター313を回転させ、回転シャッター313の上述した非開口部を、ハフニウム、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも一つ以上の元素の組み合わせを含むターゲット304に割り当てる。次に、制御部900がスパッタ用電源312を制御することにより、該スパッタ用電源312からカソード306を介してターゲット304に電力を供給することで、ターゲット304と上述の非開口部との間にプラズマを発生させる。発生したプラズマによりターゲット304はプレスパッタされ、放出されたスパッタ粒子は非開口部に付着する。
【0088】
次に、制御部900が上述したシャッター回転動作制御機構を駆動して回転シャッター313の開口部をターゲット304に割り当てることで、ターゲットから放出されたスパッタ粒子が基板302へ到達し、上記金属膜の形成が行われる。なお、金属膜の成膜時には、金属膜と単結晶領域が界面反応しない温度となるようにスパッタ装置は構成されている。例えば、基板ホルダー303に基板冷却用の水路を設け、そこに水を流すことで基板を冷却したり、基板ホルダー303にヒーターを設け、制御部900が、ヒーターを制御して金属膜と単結晶領域が界面反応しない温度となるように調整する、などの方法がある。もちろん、金属膜と単結晶領域が界面反応しない温度に基板温度を維持できるのであれば、これらの方法を用いなくともよい。
【0089】
図4Aは、本発明の実施に係る調整された酸素ガス雰囲気で熱処理を行ない金属酸化物高誘電体膜を形成するための熱処理装置の一例の概略構成図である。また、図4Bは、本発明の実施に係る熱処理を行ない金属酸化物高誘電体膜を結晶化するための熱処理装置の一例の概略構成図である。図4A(図4B)において、符号401(4011)は真空容器であり、符号402(4021)は基板であり、符号403(4031)はサセプターであり、符号404(4041)はヒーターであり、符号405および406(4051および4061)は排気ポンプであり、符号407は酸素ガス源であり、符号408はマスフローコントローラーであり、符号409および410はバルブであり、符号411(4111)は処理室であり、符号412(4121)はヒーター室であり、符号413(4131)は支持台である。
なお、後述の制御部900は、上記図4A(図4B)に示す各構成を統合して制御することができる。
【0090】
図4A(図4B)において、基板402(4021)は、支持台413(4131)上に設置されたサセプター403(4031)を介して、ヒーター404(4041)により熱処理することが可能である。ここで、熱処理温度は、ヒーター近傍に設置された不図示の熱電対と不図示の温度制御機構を用いて制御されている。なお、基板402(4021)直上の真空容器401(4011)に設置された不図示のビューイングポートを介して、パイロメーターにより基板温度をモニターすることも可能である。
【0091】
また、真空容器401(4011)は、SUSなどの金属部材を含んでおり、熱処理時の壁面の温度上昇を防ぐため、常時水冷されている。また、真空容器401(4011)は、サセプター403(4031)および支持台413(4131)を介して処理室411(4111)とヒーター室412(4121)とに分離されており、それぞれ排気ポンプ406および405(4061および4051)により真空排気されている。
図4Aにおいて、酸素ガスは、酸素ガス源407より供給され、バルブ409および410とマスフローコントローラー408とを介して、処理室411に導入されている。
【0092】
以下に、本発明の実施に係る調整された酸素ガス雰囲気で熱処理を行ない金属酸化物高誘電体膜を形成する方法の一例について、図4Aを用いて説明する。
まず、金属酸化物高誘電体膜を構成する金属膜が形成された基板402を、真空容器401へ搬送し、サセプター403上に設置する。次に、制御部900が熱処理装置を制御して、バルブ409および410を開き、酸素ガス源407から供給された酸素ガスを、マスフローコントローラー408により流量を制御して処理室411に導入する。このとき、排気ポンプ406と処理室411の間に設置された不図示のコンダクタンスバルブにより排気速度が調整され、処理室411は所定の酸素分圧に設定されている。すなわち、制御部900が、不図示のコンダクタンスバルブを制御することにより、処理室411内を所定の酸素分圧に設定する。次に、制御部900は、上記の酸素ガス雰囲気でヒーター404をオンし、金属膜と単結晶領域が界面反応しない温度となるように、サセプター403および基板402の加熱を行い、金属膜を酸化する。この処理により、基板上402上に金属酸化物高誘電体膜が形成される。
【0093】
なお、本実施形態において、基板402が真空容器401へ搬送された後にヒーター404をオンしているが、金属膜と単結晶領域が界面反応しない温度に基板温度が保たれるのであれば、予めヒーター404を所定の待機温度でオンしておいても良い。このような場合は、ヒーター近傍に設置された不図示の熱電対によるヒーター近傍の温度と、温度基板402の温度との関係を予め調べておき、その関係から、金属膜と単結晶領域が界面反応しない待機温度を求めておくと良い。
【0094】
次に、本発明の実施に係る熱処理を行ない金属酸化物高誘電体膜を結晶化する方法の一例について、図4Bを用いて説明する。
金属膜を酸化することで金属酸化物高誘電体膜が形成された基板4021(図4Aでは402)を、真空容器4011へ搬送し、サセプター4031上に設置する。次に、制御部900は、ヒーター4041をオンし、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度となるように、サセプター4031および基板4021の温度を昇温する。この処理により、基板上4021上に形成された金属酸化物高誘電体膜が結晶化し、これが単結晶領域の結晶情報を引き継ぐことにより、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜が形成される。
【0095】
このように、図4Aおよび図4Bに示した熱処理装置を用いることによって、金属酸化物高誘電体膜を構成する金属膜が酸化し、且つ、基板表面の単結晶領域に対してエピタキシャルに成長した、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることができる。なお、上述したように、本発明では、第二の工程において、金属膜を酸素ガス雰囲気中で熱処理することにより酸化し、その酸化により得られた金属酸化物高誘電体層を、第三の工程において更に熱処理して結晶化させることにより、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ている。したがって、図4Aに示した熱処理装置によって、第二の工程と第三の工程は連続して行なうことが可能であり、必ずしも、図4Bに示した熱処理装置は必要ではない。
【0096】
図5Aから図5Hは、本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成工程を示したタイミングチャートである。図5Aから図5Hにおいて、横軸は時間軸であり、縦軸は熱処理における基板の温度を示している。また、符号t1は、単結晶領域と金属膜とが界面反応しない温度の上限であり、符号t2は、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度の下限を示している。さらに、符号aから符号kは、プロセス工程における時刻を表している。
【0097】
以下に、本発明の一実施形態に係る金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成方法の例について、図5Aから図5Hを用いて説明する。なお、図5A、5B、5Cは、図2に示したような、成膜室(図2ではスパッタ室203)と、第一の熱処理室(図2では第一の熱処理室204)と、第二の熱処理室(図2では第二の熱処理室209)との、3つの処理室を備える金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の成膜装置を用いて処理を行なう場合のタイミングチャートの例である。また、図5D、5E、5F、5Gは、処理室として、成膜室と一つの熱処理室を用いる場合、図5Hは、処理室として、成膜室のみを用いる場合のタイミングチャートの例である。
【0098】
図5Aの例では、まず、時刻a−b間において基板を成膜室に搬送し、時刻b−c間において、金属膜を成膜する。次に、時刻c−dにおいて、金属膜が形成された基板を第一の熱処理室に搬送し、時刻d−eにおいて、基板温度を昇温する。その後、時刻e−f間において、第一の熱処理室に酸素ガスを導入し、上記金属膜の酸化処理を行なう。この処理により、遅くとも時刻fに達するまでに金属酸化物高誘電体膜が形成される。その後、時刻f−g間において、金属酸化物高誘電体膜が形成された基板を第二の熱処理室に搬送し、時刻g−k間において、基板をさらに昇温し、熱処理を行なう。この処理により、遅くとも時刻kに達するまでに金属酸化物高誘電体膜は結晶化して、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜となる。
なお、時刻a−f間の基板温度は、基板上に形成された金属膜と単結晶領域とが界面反応しない温度(すなわち、t1以下)に設定されている。また、時刻j−k間の基板温度は、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度(すわなち、t2以上)に設定されている。
【0099】
さらに、図5Aでは、酸素ガスの導入を時刻e−f間に限定しているが、図5Bの例のように、時刻d−f間において酸素ガスを導入してもよく、図5Cに示すように、時刻g−k間に酸素ガスを導入してもよい。図5Bのようにすることで、昇温中(すなわち、時刻d−e間)に金属膜の酸化が進むため、時刻e−f間を短く設定することが可能となる。ただし、この場合は、昇温速度の再現性が良くないと、膜質の再現性が低下しやすくなるため、注意が必要である。また、図5Cのようにすると、金属酸化物高誘電体膜における酸素欠損を防止しやすくなるというメリットがある。
【0100】
いずれにしても、重要なことは、金属膜の成膜を開始する時刻bから、第一の熱処理室における酸化が完了する時刻fまでの間に、基板温度が単結晶領域と金属膜とが界面反応しない温度(すわわち、t1以下)に保持されていることと、第一の熱処理室における酸化処理が完了する時刻fにおいて、金属膜が酸化して金属酸化物高誘電体膜が形成されている(すなわち、金属酸化物高誘電体膜の単結晶領域との界面において、金属膜の一部からなる金属成分の残留が許容値内である)こと、さらに、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度(すなわち、t2以上)まで昇温して熱処理することである。このようにすることで、良質な金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜が得られるのである。
【0101】
図5Dは、金属膜の酸化と、金属酸化物高誘電体膜の結晶化とを、別個の熱処理室を用いることなく、一つの熱処理室で行なう場合の例であり、まず、時刻a−b間において基板を成膜室に搬送し、時刻b−c間において、金属膜を成膜する。次に、時刻c−dにおいて、金属膜が形成された基板を熱処理室に搬送し、時刻d−eにおいて、基板温度を昇温する。その後、時刻e−f間において、熱処理室に酸素ガスを導入し、上記金属膜の酸化処理を行なう。この処理により、遅くとも時刻fに達するまでに金属酸化物高誘電体膜が形成される。その後、時刻f−i間において、基板をさらに昇温し、熱処理を行なう。この処理により、遅くとも時刻iに達するまでに金属酸化物高誘電体膜は結晶化して、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜となる。
【0102】
なお、時刻a−f間の基板温度は、基板上に形成された金属膜と単結晶領域とが界面反応しない温度(すなわち、t1以下)に設定されている。また、時刻h−i間の基板温度は、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度(すわなち、t2以上)に設定されている。
【0103】
また、図5Dにおいては時刻e−f間にて酸素ガスを導入しているが、図5Eに示すように時刻d−f間にて酸素ガスを導入してもよく、図5Fに示すように時刻e−i間で連続して酸素ガスを導入しても良い。もちろん、図5Eと図5Fとを組み合わせて、時刻d−i間で連続して酸素ガスを導入しても良いことは言うまでもない。さらに、図5D、E、Fでは、時刻e−f間において、基板温度を一定に保持するように設定されているが、これは必ずしも必要ではなく、図5Gに示すように、金属膜の酸化の処理から金属酸化物高誘電体膜の結晶化の処理まで、基板温度を連続的に昇温させても良い。ただし、昇温速度が速いときは金属膜が十分に酸化しない恐れがあるため、酸素ガスの分圧を高めに設定するなどして、金属膜の酸化を促進することが望ましい。また、図5Gのような場合には、基板温度が連続的に変化しているため、第二の工程と第三の工程とを時間的に明確に分離することが困難である。しかしながら、温度t1以下において金属膜の酸化が完了しており、その後、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度t2以上まで昇温し続けているので、実質第二の工程と第三の工程を連続して行なっていることになり、このような場合も、本発明における第一から第三の工程を行なっていると見なすことができる。
【0104】
図5Hは、金属膜の成膜と、該金属膜の酸化と、該金属膜の酸化により得られた金属酸化物高誘電体膜の結晶化とを、別個の処理室を用いることなく、一つの成膜室で行なう場合の例であり、まず、時刻a−b間において基板を成膜室に搬送し、時刻b−c間において、金属膜を成膜する。次いで、時刻c−g間において、酸素ガスを導入しながら基板を昇温して熱処理を行なう。
【0105】
なお、時刻cで酸素ガスを導入した後、基板温度がt1に達するまでの間に金属膜が酸化されて金属酸化物高誘電体膜が形成されている必要があるため、昇温速度が速いときなどは、酸素ガスの分圧を高めに設定するなどして、金属膜の酸化を促進することが望ましい。また、図5Hでは、時刻c−g間で連続して酸素ガスを供給しており、金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の酸素欠損を防止する上で望ましい構成であるが、遅くとも基板温度がt1に達した時点で金属酸化物高誘電体膜が形成されているので、それ以降の酸素ガス供給は必須ではない。
【0106】
以上、図5Aから図5Hのいずれの形成工程においても、金属膜の成膜を開始してから該金属膜の酸化処理が完了するまでの間、単結晶領域と金属膜とが界面反応しない温度になるように基板温度は保持されており、その酸化処理が完了した段階で、金属膜の一部からなる金属成分の残留が許容値内である状態で、金属酸化物高誘電体膜が形成されており、さらに、金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度まで昇温して熱処理を行なっている。このような基板温度の制御を行うことにより、いずれの方法を用いても金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成することが可能となるのである。
【0107】
なお、本発明で得られる金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜は、単結晶領域上にエピタキシャル成長した薄膜であればよく、完全結晶、単結晶、モザイク結晶のいずれの形態であっても構わない。ただし、素子特性の向上において完全結晶が最も望ましく、次いで単結晶が望ましいことは言うまでもない。
【0108】
また、第三の工程における基板温度(すなわち、金属酸化物高誘電体膜を結晶化する温度)の上限については、金属高誘電体エピタキシャル膜と単結晶領域(表面のみが単結晶領域である基板を用いる場合は、その基板を含む)が熱分解温度または融点より低いことが必要である。
【0109】
なお、本発明では、上述からも分かるように、図1に示したプロセスを実行可能な成膜装置、図2に示す成膜装置、図3に示すスパッタリング装置、および図4AおよびBに示す熱処理装置等の基板処理装置によって、第一〜第三の工程の少なくとも一工程を実施することができる。このような基板処理装置は、図9に示す制御部900を内蔵することができる。また、該制御部900を、基板処理装置とは別個に設け、有線接続、無線接続、ネットワーク等によりインターフェースを介して接続するようにしても良い。
【0110】
図9は、本発明の一実施形態に係る基板処理装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
図9において、符号900は基板処理装置(例えば、図1、2、3、4A、4Bに示す装置等)907全体を制御する制御手段としての制御部である。この制御部900は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU901、およびこのCPU901によって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM902を有する。また、制御部900は、CPU901の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM903、およびフラッシュメモリやSRAM等の不揮発性メモリ904などを有する。
【0111】
また、この制御部900には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部905、基板処理装置907の入力・設定状態などをはじめとする種々の表示を行う表示部906(例えば、ディスプレイ)が接続されている。
【0112】
(第一の実施例)
本発明の第一の実施例として、金属酸化物高誘電体膜の一つである酸化ハフニウムをシリコン(001)基板上にエピタキシャル成長させた例について以下に説明する。
【0113】
シリコン(001)基板の表面に形成された自然酸化膜を、フッ化水素酸水溶液で除去し、その後、図2に示した成膜装置を用いて、酸化ハフニウムエピタキシャル膜の形成を行った。図2に示したスパッタリング室203および第一の熱処理室204としては、それぞれ図3に示したスパッタリング装置および図4Aに示した熱処理装置を用い、以下に示す条件で各工程の処理を行なった。なお、本実施例では、第三の工程における熱処理についても第一の熱処理室204(すなわち、図4Aに示した熱処理装置)を用いており、第一から第三の工程にかけて、図5Gと同様のタイミングチャートで表される基板処理を行なった。
(1)第一の工程
・処理装置:スパッタリング装置203
・到達圧力:1.33×10−6Pa
・ターゲット:金属ハフニウムターゲット
・プロセスガス:Arガス
・スパッタリング用電源:DC電源
・プロセス時の投入電力:600W
・プロセス圧力:0.02Pa
・膜厚:2.0nm
(2)第二の工程
・処理装置:第一の熱処理装置204
・到達圧力:6.65×10−7Pa
・プロセスガス:Oガス
・プロセス圧力:1.0Pa
(3)第三の工程
・処理装置:第一の熱処理装置204
・到達圧力:6.65×10−7Pa
・プロセスガス:Oガス
・プロセス圧力:1.0Pa
なお、本実施例において、第一の工程における基板温度は室温であり、第二の工程から第三の工程にかけての基板温度は、室温から750℃まで連続的に昇温させた。
また、第二の工程開始後、基板温度が350℃に達した時点で基板を取り出してXPSで分析したところ、シリコン(001)基板上に形成された膜は、金属ハフニウム成分を含まない酸化ハフニウム膜として得られており、界面におけるハフニウムシリサイド膜またはハフニウムシリケイト膜もほとんど検出されなかった。このことから、本実施例における第二の工程において、シリコン(001)基板上には、金属ハフニウム成分が在留していない金属酸化物高誘電体膜としての酸化ハフニウム膜が形成されており、また、基板の結晶情報を伝達しにくくする金属ハフニウム膜とシリコン(001)基板との界面反応層についても、ほぼ抑制できていることが確認できた。
【0114】
図6および図7は、上記第一から第三の工程における条件でシリコン(001)基板上に形成した酸化ハフニウム膜のXPS測定の結果であり、それぞれ、ハフニウム4fスペクトルおよびシリコン2pスペクトルを示している。なお、測定にはアルミニウムKα線をモノクロメータにより単色化したX線を用いており、表面吸着炭化水素の炭素1sスペクトルを284.4eVとしてチャージアップ補正を行なっている。また、得られた測定データはShirley法によるバックグランド除去を行い、ガウス‐ローレンツ複合関数により波形分離を行なっている。
【0115】
図6に示すように、得られたハフニウム4fスペクトルは化学式HfOで表される酸化ハフニウム成分に由来したハフニウム4f5/2軌道およびハフニウム4f7/2軌道のピークと、HfSiで表されるハフニウムシリケート成分に由来したハフニウム4f5/2軌道およびハフニウム4f7/2軌道のピークとに分離することができた。これらのピークの積分強度を比較すると、ハフニウムシリケート成分の含有量は5.5%程度と少なく、得られた酸化ハフニウム膜は主にHfOの化学結合状態を有していることが確認できた。
【0116】
図7に示すシリコン2pスペクトルには、シリコン基板に由来するピークと、ハフニウムシリケート成分に由来するピークが観測されており、化学式SiOで表される酸化シリコンに由来するピークは観測されないことがわかった。すなわち、本実施例において形成した酸化ハフニウム膜とSi(001)基板との界面には、界面シリコン酸化膜が形成されていないことを示している。
【0117】
図8は、In−Plane配置のX線回折(XRD)を用いて、得られた酸化ハフニウム膜のφスキャン測定を行った結果を示す図である。ここで、In−Plane配置でのφスキャン測定とは、面内配向性、すなわち、基板表面に垂直に形成された格子面が、面内でどの方向を向いているか、を評価する測定方法である。なお、φスキャン測定の実施に際し、検出器の回折位置は、2θ=35.1°に観測される酸化ハフニウムのピーク角度に固定し、φスキャンの測定範囲は−150°から150°までとした。
【0118】
得られたφスキャンプロファイルには、φ=±45°、±135°に、90°間隔でピークが観測されており、このピーク位置は、シリコン<100>方位と一致していることがわかった。このことは、酸化ハフニウム膜の結晶面がシリコン{100}面と平行に配列されていることを意味しており、得られた酸化ハフニウム膜がシリコン(001)基板上にエピタキシャル成長していることを示している。ここで、シリコン<100>方位とは、シリコン[100]方位と、その等価な面方位であるシリコン[010]方位、シリコン[−100]方位、シリコン[0−10]方位を意味し、シリコン{100}面とは、シリコン(100)面と、その等価な格子面であるシリコン(010)面、シリコン(−100)面、シリコン(0−10)面を意味している。
【0119】
なお、XPSで確認されたハフニウムシリケート成分は、エピタキシャル成長した酸化ハフニウム膜とシリコンとの界面領域で、高温での熱処理に伴うシリコン原子の酸化ハフニウム膜中への拡散により生じたものである。このように、酸化ハフニウムエピタキシャル膜の結晶性が大きく損なわれなければ、酸化ハフニウムエピタキシャル膜中にシリコン原子の拡散が生じても構わない。
【0120】
このように、シリコン(001)基板上に金属ハフニウム膜を形成し、その後、酸素ガス雰囲気に晒して熱処理を行なうことにより、HfOの化学結合状態を有する酸化ハフニウムを主成分とし、シリコン(001)基板に対してエピタキシャルに成長した酸化ハフニウムエピタキシャル膜を得ることができた。
【0121】
(第二の実施例)
本発明の第二の実施例として、金属酸化物高誘電体膜の一つである酸化ジルコニウム膜をシリコン(001)基板上に形成した。なお、本実施例では、ターゲット材料を除き、第一の実施例と同様の実験方法・実験条件を用いて金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成を行った。
【0122】
第一の工程で、Arガスおよびジルコニウムターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングにより上記シリコン(001)基板上に金属ジルコニウム膜を形成した。その後、第二の工程と第三の工程において、上記金属ジルコニウム膜上に酸素ガスを導入しながら、室温から750℃まで連続的に基板温度を昇温させたところ、上記シリコン(001)基板上に酸化ジルコニウムを主成分とする金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることができた。
【0123】
(第三の実施例)
本発明の第三の実施例として、金属酸化物高誘電体膜の一つであるアルミナ膜を、6H−構造の炭化シリコン(0001)基板上にエピタキシャル成長した(0001)配向の窒化アルミニウムガリウム膜上に形成した。なお、窒化アルミニウムガリウム膜の下地層は、窒化ガリウム膜である。また、本実施例では、ターゲット材料と基板(基板上に形成した半導体膜も含む)材料、および第三の工程にて最終的に到達させた基板温度を除いて、第一の実施例と同様の実験方法・実験条件を用いて金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成を行った。
【0124】
第一の工程で、Arガスおよびアルミニウムターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングにより上記窒化アルミニウムガリウムエピタキシャル膜上に金属アルミニウム膜を形成し、その後、第二の工程と第三の工程において、上記金属アルミニウム膜上に酸素ガスを導入しながら、室温から1000℃まで連続的に基板温度を昇温させたところ、上記窒化アルミニウムガリウムエピタキシャル膜上に化学式Alで表されるアルミナを主成分とする金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることができた。
【0125】
(第四の実施例)
本発明の第四の実施例として、金属酸化物高誘電体膜の一つであるアルミナ膜を、4H−構造の炭化シリコン(0001)単結晶層上に形成した。なお、本実施例では、基板(基板表面の単結晶領域も含む)材料を除き、第三の実施例と同様の実験方法・実験条件を用いて金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の形成を行った。
【0126】
第一の工程で、Arガスおよびアルミニウムターゲットを用いたマグネトロンスパッタリングにより上記4H−構造の炭化シリコン(0001)単結晶層上に金属アルミニウム膜を形成し、その後、第二の工程と第三の工程において、上記金属アルミニウム膜上に酸素ガスを導入しながら、室温から1000℃まで連続的に基板温度を昇温させたところ、上記4H−構造の炭化シリコン(0001)単結晶層上に化学式Alで表されるアルミナを主成分とする金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を得ることができた。
【0127】
(その他の実施形態)
前述した実施形態の制御部900の機能を実現するように前述した実施形態の構成を動作させるプログラムを記憶媒体に記憶させ、該記憶媒体に記憶されたプログラムをコードとして読み出し、コンピュータにおいて実行する処理方法も上述の実施形態の範疇に含まれる。即ちコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も実施例の範囲に含まれる。また、前述のコンピュータプログラムが記憶された記憶媒体はもちろんそのコンピュータプログラム自体も上述の実施形態に含まれる。
【0128】
かかる記憶媒体としてはたとえばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD―ROM、磁気テープ、不揮発性メモリカード、ROMを用いることができる。
【0129】
また前述の記憶媒体に記憶されたプログラム単体で処理を実行しているものに限らず、他のソフトウエア、拡張ボードの機能と共同して、OS上で動作し前述の実施形態の動作を実行するものも前述した実施形態の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0130】
101 基板
102 単結晶領域
103 金属膜
104 酸素ガス
105 ヒーター
106 金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜
108 金属酸化物高誘電体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる単結晶領域が少なくとも表面に形成されている基板上に、金属膜であって、該金属膜の酸化物の誘電率が酸化シリコン膜の誘電率よりも高く、かつ前記金属膜の酸化物が前記単結晶領域とエピタキシャル関係を有する金属膜を、前記単結晶領域と前記金属膜とが界面反応しない基板温度で形成する第一の工程と、
前記金属膜が形成された基板を、所定の酸素分圧の酸素ガス雰囲気に曝しながら、該単結晶領域と該金属膜とが界面反応しない基板温度で熱処理することによって前記金属膜を酸化して、前記単結晶領域上に前記金属膜の酸化物からなる金属酸化物高誘電体膜を形成する第二の工程と、
前記第二の工程にて前記単結晶領域上に形成された前記金属酸化物高誘電体膜を、該金属酸化物高誘電体膜が結晶化する基板温度まで昇温して熱処理することによって前記基板上に金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成する第三の工程と
を有し、
前記所定の酸素分圧を、前記金属酸化物高誘電体膜の前記単結晶領域に接する面において、前記酸化により残留した、前記金属膜の一部からなる金属成分をより低減するような分圧に設定することを特徴とする金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項2】
前記所定の酸素分圧を、前記金属膜の一部からなる金属成分が少なくとも前記面に残留しないような分圧に設定することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項3】
前記単結晶領域は、シリコン、ゲルマニウム、炭素、およびガリウムの少なくとも1つの元素を含む単結晶領域であり、
前記金属膜は、ハフニウム、ジルコニウム、およびアルミニウムの少なくとも1つの元素を含む金属膜であり、
前記単結晶領域と金属酸化物高誘電体膜とがエピタキシャル関係を有するように、前記単結晶領域に含まれる元素および前記金属膜に含まれる元素は選択されていることを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項4】
前記第二の工程および前記第三の工程における前記酸素分圧は、大気圧未満、かつ0.13Pa以上であることを特徴とする請求項3に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項5】
前記第二の工程および前記第三の工程における酸素ガスの分圧が100Pa以下、かつ0.13Pa以上であることを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項6】
前記第二の工程および前記第三の工程における酸素ガスの分圧が10Pa以下、かつ0.13Pa以上であることを特徴とする請求項4に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項7】
前記単結晶領域が炭化シリコンであり、
前記金属膜がアルミニウムであり、
前記第一の工程および前記第二の工程における前記基板温度が、700℃未満に設定されていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項8】
前記単結晶領域が窒化ガリウムまたは窒化アルミニウムガリウムであり、
前記金属膜がアルミニウムであり、
前記第一の工程および前記第二の工程における前記基板温度が、500℃未満に設定されていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項9】
前記単結晶領域がシリコンを含有する材料であり、
前記金属膜がハフニウム、ジルコニウム、またはハフニウムとジルコニウムとの合金であり
前記第一の工程および前記第二の工程における前記基板温度が、420℃未満に設定されていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項10】
前記第三の工程における前記熱処理の温度が420℃以上に設定されていることを特徴とする請求項2乃至6、9のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項11】
前記第三の工程における前記熱処理の温度が600℃以上に設定されていることを特徴とする請求項2乃至6、9のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項12】
前記第三の工程における前記熱処理の温度が750℃以上に設定されていることを特徴とする請求項7または8に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項13】
前記第一の工程における前記金属膜が、ハフニウム、ジルコニウム、アルミニウムの少なくとも一つ以上の元素の組み合わせからなるターゲットをスパッタリングすることにより形成されることを特徴とする請求項2乃至12のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法。
【請求項14】
単結晶領域が少なくとも表面に形成されている基板上に、金属膜であって、該金属膜の酸化物の誘電率が酸化シリコン膜の誘電率よりも高く、かつ前記金属膜の酸化物が前記単結晶領域とエピタキシャル関係を有する金属膜を形成し、該金属膜を酸化して金属酸化物高誘電体膜を形成し、該金属酸化物高誘電体膜を結晶化して金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜を形成することが可能な基板処理装置であって、
前記単結晶領域上に前記金属膜を成膜するための成膜手段と、
酸素ガスを供給しながら、前記成膜手段により形成された前記金属膜に対して所定の熱処理を施して、前記金属膜を酸化するための第一の熱処理手段と、
前記第一の熱処理手段によって形成された金属酸化物高誘電体膜に対して所定の熱処理を施すための第二の熱処理手段と、
前記基板の温度および前記酸素ガスの分圧が所定の値となるように前記第一の熱処理手段を制御する第一の制御手段と、
前記基板の温度が所定の値となるように前記第二の熱処理手段を制御する第二の制御手段とを備え、
前記成膜手段は、前記金属膜の成膜の際には、前記基板の温度が、前記単結晶領域と前記金属膜とが界面反応しない基板温度になるように構成されており、
前記第一の熱処理手段は、
前記基板を加熱するための第一の基板加熱手段と、
前記酸素の分圧を調整するための分圧調整手段とを有し、
前記第一の制御手段は、前記金属膜を酸化して前記金属酸化物高誘電体膜を形成する場合は、前記基板の温度が前記単結晶領域と前記金属膜とが界面反応しない基板温度になるように前記第一の基板加熱手段を制御し、かつ前記酸素ガスの分圧が、前記金属酸化物高誘電体膜の前記単結晶領域に接する面において、前記酸化により残留した、前記金属膜の一部からなる金属成分をより低減するような分圧となるように前記分圧調整手段を制御し、
前記第二の熱処理手段は、
前記基板を加熱するための第二の基板加熱手段を有し、
前記第二の制御手段は、前記金属酸化物高誘電体膜を結晶化する際には、前記基板の温度が前記金属酸化物高誘電体膜が結晶化する温度になるように前記第二の基板加熱手段を制御することを特徴とする基板処理装置。
【請求項15】
前記第一の制御手段は、前記酸素ガスの分圧が前記金属膜の一部からなる金属成分が少なくとも前記面に残留しないような分圧となるように前記分圧調整手段を制御することを特徴とする請求項14に記載の基板処理装置。
【請求項16】
前記成膜手段は、スパッタリング装置であり、
前記第一の熱処理手段および第二の熱処理手段は、前記スパッタリング装置とは別個に設けられた熱処理装置であることを特徴とする請求項14または15に記載の基板処理装置。
【請求項17】
前記成膜手段による前記成膜と前記第一の熱処理手段による前記熱処理と前記第二の熱処理手段による前記熱処理とは、同一の真空容器にて行われることを特徴とする請求項14または15に記載の基板処理装置。
【請求項18】
コンピュータに請求項1乃至13のいずれか1項に記載の金属酸化物高誘電体エピタキシャル膜の製造方法を実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項19】
コンピュータにより読み出し可能なプログラムを格納した記憶媒体であって、請求項18記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−12675(P2013−12675A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145820(P2011−145820)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】