説明

金属酸素電池及びそれに用いる酸素貯蔵材料の製造方法

【課題】正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料を用いると共に、過電圧を低下させることができる金属酸素電池を提供する。
【解決手段】金属酸素電池1は、酸素を活物質とする正極2と、金属リチウムを活物質とする負極3と、正極2と負極3とに挟持された電解質層4とを備える。正極2は、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなる酸素貯蔵材料を含む。前記酸素貯蔵材料はYMnを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸素電池及びそれに用いる酸素貯蔵材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素を活物質とする正極と、金属を活物質とする負極と、該正極と負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池が知られている。
【0003】
前記金属酸素電池では、放電時には、前記負極において金属が酸化されて金属イオンを生成し、生成した金属イオンが前記電解質層を透過して前記正極側に移動する。一方、前記正極では、酸素が還元されて酸素イオンを生成し、生成した酸素イオンが前記金属イオンと結合して金属酸化物が生成する。
【0004】
また、充電時には、前記正極において、前記金属酸化物から金属イオンと酸素イオンとが生成し、生成した酸素イオンは酸化されて酸素となる。一方、前記金属イオンは前記電解質層を透過して前記負極側に移動し、該負極で還元されて金属となる。
【0005】
前記金属酸素電池では、前記金属として金属リチウムを用いると、金属リチウムは理論電圧が高く電気化学当量が大きいことから、大きな容量を得ることができる。また、酸素として空気中の酸素を用いると、電池内に正極活物質を充填する必要がないことから、電池の質量当たりのエネルギー密度を高くすることができる。
【0006】
ところが、空気中の酸素を正極活物質とするために、正極を大気に開放すると、空気中の水分、二酸化炭素等が電池内に侵入し、電解質、負極等が劣化するという問題がある。そこで、前記問題を解決するために、密封ケース内に、受光により酸素を放出する酸素吸蔵材料を含む正極と、金属リチウムからなる負極と、電解質層とを配設すると共に、該酸素吸蔵材料に光を導く光透過部を備える金属酸素電池が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
前記金属酸素電池によれば、前記光透過部を介して前記酸素吸蔵材料に光を導くことにより、該酸素吸蔵材料から酸素を放出させることができ、前記正極を大気に開放することなく、正極活物質としての酸素を得ることができる。従って、空気中の水分、二酸化炭素等が電池内に侵入することによる電解質、負極等の劣化を防止することができる。
【0008】
しかし、前記従来の金属酸素電池は、光線の照射が無いときには酸素の供給が不安定になると共に、光透過部は密封ケースの他の部分に比較して脆弱であるので、該光透過部が破壊されて電解液が漏出する虞がある。そこで、前記金属酸素電池の正極材料として、光線の照射によらず、化学的に酸素を吸蔵、放出し、又は物理的に吸着、脱着することができる酸素貯蔵材料を用いることが考えられる。前記酸素貯蔵材料としては、YMnOを挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−230985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料を用いる金属酸素電池では、過電圧が大きくなり、結果として充放電効率が低下したり高出力が得られないという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料を用いると共に、過電圧を低下させることができる金属酸素電池を提供することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の目的は、前記金属酸素電池に用いる酸素貯蔵材料の製造方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、金属酸素電池の正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料を用いたときに充電過電圧が大きくなる原因について検討した。この結果、YMnOは酸素貯蔵材料としての作用と触媒としての作用とを併せ持つため、触媒としての作用が不十分となり、電極反応が進行しにくいことを知見した。
【0014】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、前記目的を達成するために、酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極と負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池において、該正極は、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなる酸素貯蔵材料を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の金属酸素電池では、放電時には、次の式に示すように前記負極において金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成し、生成したリチウムイオンは前記電解質層を透過して正極に移動する。一方、正極においては、前記酸素貯蔵材料から放出又は脱着された酸素が還元されて酸素イオンとなり、前記リチウムイオンと反応して酸化リチウムまたは過酸化リチウムを生成する。そこで、前記負極と正極とを導線で接続することにより、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0016】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
また、充電時には、次の式に示すように前記正極において酸化リチウムまたは過酸化リチウムからリチウムイオンと酸素イオンとが生成し、生成したリチウムイオンは前記電解質層を透過して負極に移動する。また、生成した酸素イオンは、そのままで、又は酸化されることにより生成した酸素分子として、前記酸素貯蔵材料に吸蔵又は吸着される。そして、負極では前記リチウムイオンが還元されて、金属リチウムとして析出する。
【0017】
(正極) 2LiO → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li +4e → 4Li
ここで、本発明の金属酸素電池は、前記正極に、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなる前記酸素貯蔵材料が含まれている。前記酸素貯蔵材料において、YMnOは酸素貯蔵材料としての作用と触媒としての作用とを併せ持つために、前記電極反応における触媒としての作用が不十分となる傾向があるが、Y及びMnが助触媒として作用することにより該電極反応が促進される。従って、本発明の金属酸化電池によれば、過電圧を低下させることができる。
【0018】
また、本発明の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料はYMnを含むことが好ましい。前記酸素貯蔵材料が、前記混晶としてYMnを含む場合、YMnも前記助触媒として作用する。従って、本発明の金属酸素電池は、前記酸素貯蔵材料がYMnを含むことにより、さらに電極反応が促進され、過電圧を低下させることができる。
【0019】
また、本発明の金属酸素電池において、前記正極、前記負極及び前記電解質層は密封ケース内に配設されていることが好ましい。本発明の金属酸素電池では、前記酸素貯蔵材料が化学的に酸素を吸蔵、放出し、又は物理的に吸着、脱着することができる。従って、本発明の金属酸素電池では、前記正極を大気に開放したり、脆弱な光透過部を形成することなく、前記密封ケース内に配設された前記正極で活物質としての酸素を得ることができ、大気中の水分、二酸化炭素による劣化や、光透過部の損傷による電解液漏出の虞がない。
【0020】
また、前記酸素貯蔵材料は、酸素を吸蔵、放出する場合には、酸素との化学結合の生成、解離を伴うが、その表面に酸素を吸着、脱着する場合には単に分子間力のみが作用し、化学結合の生成、解離を伴わない。
【0021】
従って、前記酸素貯蔵材料の表面に対する酸素の吸着、脱着は、該酸素貯蔵材料が酸素を吸蔵、放出する場合に比較して低エネルギーで行われることとなり、電池反応には該酸素貯蔵材料の表面に吸着されている酸素が優先的に用いられる。この結果、反応速度の低下及び過電圧の上昇を抑制することができる。
【0022】
本発明の金属酸素電池に用いる酸素貯蔵材料の製造方法は、酸化イットリウムとマンガン塩と有機酸とをボールミルを用いて混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得る工程と、
前記混合物を800〜1000℃の範囲の温度で、1〜30時間の範囲の時間焼成する工程とを含み、イットリウムマンガン複合酸化物と、酸化イットリウムと、酸化マンガンとの混晶を得ることを特徴とする。
【0023】
本発明の製造方法によれば、イットリウム原料として酸化イットリウムを用いることにより、YMnO、YMn等のイットリウムマンガン複合酸化物と、Y等の酸化イットリウムと、Mn等の酸化マンガンとの混晶を得ることができる。酸化イットリウムに代えて、硝酸イットリウム、酢酸イットリウム等のイットリウム塩を用いたのでは、斜方晶又は六方晶からなるYMnOのみが得られるに過ぎず、前記混晶を得ることができない。
【0024】
前記酸化イットリウムは、マンガン塩及び有機酸とボールミルを用いて混合することにより、複合金属酸化物材料の混合物とされる。前記マンガン塩としては、例えば、硝酸マンガンを用いることができる。また、前記有機酸としては、例えば、リンゴ酸を用いることができる。
【0025】
前記ボールミルを用いて混合すると、酸化イットリウムとマンガン塩とを密接に接触させることができ、前記イットリウムマンガン複合酸化物を含む混晶を得ることができる。ボールミルに代えて乳鉢等の他の手段を用いて混合したのでは、酸化イットリウムとマンガン塩とを密接に接触させることができないので、前記イットリウムマンガン複合酸化物を含まない混晶が得られるに過ぎず、前記イットリウムマンガン複合酸化物を含む混晶を得ることができない。
【0026】
次に、前記複合金属酸化物材料の混合物を800〜1000℃の範囲の温度で、1〜30時間の範囲の時間焼成することにより、前記イットリウムマンガン複合酸化物と、酸化イットリウムと、酸化マンガンとの混晶を得ることができる。
【0027】
前記焼成温度が800℃未満又は前記焼成時間が1時間未満では、焼成が不十分となり、前記混晶を得ることができない。また、前記焼成温度が1000℃を超えるか、又は前記焼成時間が30時間を超えると、焼成が過剰となって斜方晶又は六方晶のみからなるYMnOのみが得られるに過ぎず、前記混晶を得ることができない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の金属酸素電池の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の正極に用いる酸素貯蔵材料のX線回折パターンを示すグラフ。
【図3】本発明の金属酸素電池における放電曲線を示すグラフ。
【図4】本発明の金属酸素電池の平均電位を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の金属酸素電池1は、酸素を活物質とする正極2と、金属リチウムを活物質とする負極3と、正極2と負極3との間に配設される電解質層4とを備え、正極2、負極3及び電解質層4は、ケース5に密封して収容されている。
【0031】
ケース5は、カップ状のケース本体6と、ケース本体6を閉蓋する蓋体7とを備え、ケース本体6と蓋体7との間には絶縁樹脂8が介装されている。また、正極2は蓋体7の天面との間に正極集電体9を備えており、負極3はケース本体6の底面との間に負極集電体10を備えている。尚、金属酸素電池1において、ケース本体6は負極板として、蓋体7は正極板として作用する。
【0032】
金属酸素電池1において、正極2は酸素貯蔵材料と、導電材料と、結着剤とからなる。
【0033】
前記酸素貯蔵材料は、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなる。YMnOは六方晶構造からなり、酸素を吸蔵又は放出する機能を備え、かつ、その表面に酸素を吸着、脱着することができる。また、YMnOは、正極2の電極反応において触媒としても作用する。一方、Yと、Mnとは、正極2の電極反応において、いずれもYMnOの助触媒として作用する。
【0034】
また、前記酸素貯蔵材料は、前記混晶中にさらにMnO又はYMnを含んでいてもよい。MnO、YMnもまた、正極2の電極反応において、YMnOの助触媒として作用する。
【0035】
前記導電材料としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、メソポーラスカーボン、カーボンファイバー等の炭素材料を挙げることができる。
【0036】
前記結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。
【0037】
次に、電解質層4は、例えば、非水系電解質溶液をセパレータに浸漬させたものであってもよく、固体電解質であってもよい。
【0038】
前記非水系電解質溶液は、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解したものを用いることができる。前記リチウム塩としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。また、前記非水系溶媒としては、例えば、炭酸エステル系溶媒、エーテル系溶媒、イオン液体等を挙げることができる。
【0039】
前記炭酸エステル系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができる。前記炭酸エステル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0040】
前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、ジメチルトリグラム、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。前記エーテル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0041】
前記イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ペリジウム等のカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TTSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミド(BETI)、テトラフルオロボレート、パークロレート、ハロゲンアニオン等のアニオンとの塩を挙げることができる。
【0042】
前記セパレータとしては、例えば、ガラス繊維、ガラス製ペーパー、ポリプロピレン製不織布、ポリイミド製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布、ポリエチレン製多孔フィルム等を挙げることができる。
【0043】
また、前記固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等を挙げることができる。
【0044】
前記酸化物系固体電解質としては、例えば、リチウム、ランタン、ジルコニウムの複合酸化物であるLiLaZr12、リチウム、アルミニウム、ケイ素、チタン、ゲルマニウム、リンを主成分とするガラスセラミックス等を挙げることができる。前記LiLaZr12は、リチウム、ランタン、ジルコニウムの一部を、それぞれストロンチウム、バリウム、銀、イットリウム、鉛、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、ニオブ等の他の金属で置換されたものであってもよい。
【0045】
次に、集電体9,10としては、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銅等のメッシュからなるものを挙げることができる。
【0046】
本実施形態の金属酸素電池1では、放電時には次の式に示すように、負極3において、金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成する。生成したリチウムイオンは、正極2に移動し、前記酸素貯蔵材料から供給される酸素の還元により生成した酸素イオンと反応し、酸化リチウム又は過酸化リチウムを生成する。
【0047】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
一方、充電時には次の式に示すように、正極2において、酸化リチウム又は過酸化リチウムからリチウムイオンと酸素イオンとが生成する。生成したリチウムイオンは負極3に移動し、負極3で還元されることにより金属リチウムとして析出する。
【0048】
(正極) 2LiO → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li +4e → 4Li
このとき、正極2は、前記酸素貯蔵材料が前記混晶からなるので、前記電極反応においてYMnOが触媒として作用すると共に、Y及びMnが助触媒として作用する。従って、金属酸化電池1によれば、YMnOのみが触媒として作用する場合に比較して該電極反応が促進され、過電圧を低下させることができる。
【0049】
また、正極2は、前記混晶がMnO、YMnを含む場合には、MnO、YMnもまた、前記電極反応において、YMnOの助触媒として作用するので、さらに該電極反応が促進され、過電圧を低下させることができる。
【0050】
また、前記酸素貯蔵材料に含まれるYMnOは、酸素を吸蔵又は放出する機能を備えると共に、その表面に酸素を吸着、脱着することができる。前記放電時又は充電時に、前記YMnOは、酸素の吸蔵、放出には化学結合の生成、解離を伴うが、その表面における酸素の吸着、脱着は、分子間力に相当するエネルギーのみで行うことができる。従って、正極2における電池反応には、前記酸素貯蔵材料の表面において吸着、脱着される酸素が優先的に用いられることとなり、反応速度の低下及び過電圧の上昇を抑制することができる。
【0051】
また、前記酸素貯蔵材料において、前記混晶を構成する各酸化物はいずれもY又はMnを含んでいる。従って、前記混晶は、各酸化物の表面状態が不均一でありながら、崩れることがなく、効果的に触媒作用を向上させることができる。
【0052】
次に、前記酸素貯蔵材料の製造方法について、説明する。
【0053】
本実施形態の製造方法では、まず、酸化イットリウムと、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、所定のモル比となるようにして混合した後、純水を加え、回転式ボールミルを用いて粉砕、混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得る。
【0054】
酸化イットリウムと硝酸マンガン6水和物とのモル比は、目的とするイットリウムマンガン複合酸化物の組成に応じて、酸化イットリウム:硝酸マンガン6水和物=1:1〜2の範囲で調整することができる。また、酸化イットリウムとリンゴ酸とのモル比は、酸化イットリウム:リンゴ酸=1:1〜20の範囲で調整することができ、例えば酸化イットリウム:リンゴ酸=1:6とすることができる。
【0055】
前記回転式ボールミルによる粉砕は、例えば100〜1000rpmの回転数で、0.5〜10時間行うことにより、酸化イットリウムと硝酸マンガン6水和物とを密接に接触させることができる。この結果、得られた混合物を後述のようにして焼成することにより、イットリウムマンガン複合酸化物と、酸化イットリウムと、酸化マンガンとの混晶を得ることができる。
【0056】
次に、複合金属酸化物材料の混合物を焼成する。前記焼成は、まず、前記混合物を150〜400℃の範囲の温度、例えば250〜350℃の範囲の温度で、1〜10時間、例えば2時間、一次焼成する。前記一次焼成はさらに複数の温度、時間に分割して行うようにしてもよい。
【0057】
次に、前記一次焼成で得られた生成物を、さらに800〜1000℃の範囲の温度、例えば1000℃の範囲の温度で、1〜30時間、例えば1時間、二次焼成する。この結果、YMnO、YMn等のイットリウムマンガン複合酸化物と、Y等の酸化イットリウムと、Mn等の酸化マンガンとの混晶からなる酸素貯蔵材料を得ることができる。
【0058】
次に、実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0059】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、酸化イットリウムと、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:1:6のモル比となるようにして混合した後、純水を加え、回転式ボールミルを用い100rpmで10時間粉砕、混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得た。次に、得られた複合金属酸化物材料の混合物を250℃の温度で30分間反応させた後、さらに、300℃の温度で30分間、350℃の温度で1時間反応させた。次に、反応生成物の混合物を粉砕混合した後、1000℃の温度で1時間焼成して複合金属酸化物を得た。
【0060】
次に、得られた複合金属酸化物のX線回折パターンを、X線回折装置(BrukerAXS社製)により測定した。測定条件は、管電圧50kV、管電流150mA、ディフラクトメーター4°/分、計測範囲(2θ)10〜90°の範囲とした。結果を図2(a)に示す。
【0061】
図2(a)から、本実施例で得られた複合金属酸化物は、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなり、YMnOは六方晶構造を備え、Yと、MnとはC−希土構造を備えることが判明した。
【0062】
次に、酸素貯蔵材料としての前記複合金属酸化物と、導電材料としてのケッチェンブラック(株式会社ライオン製)と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製)とを、40:50:10の質量比で混合し、正極混合物を得た。そして、得られた正極混合物をAlメッシュからなる正極集電体9に5MPaの圧力で圧着し、直径15mm、厚さ1mmの正極2を形成した。
【0063】
次に、内径15mmの有底円筒状のSUS製ケース本体6の内部に、直径15mmの銅メッシュからなる負極集電体10を配置し、負極集電体10上に、直径15mm、厚さ0.1mmの金属リチウムからなる負極3を重ね合わせた。
【0064】
次に、負極3上に、直径15mmのガラス繊維(日本板硝子株式会社製)からなるセパレータを重ね合わせた。次に、前記セパレータ上に、前記のようにして得られた正極2及び正極集電体9を、正極2が該セパレータに接するように重ね合わせた。次に、前記セパレータに非水系電解質溶液を注入し、電解質層4を形成した。
【0065】
前記非水系電解質溶液としては、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートとを70:30の質量比で混合した混合溶液に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0066】
次に、ケース本体6に収容された負極集電体10、負極3、電解質層4、正極2、正極集電体9からなる積層体を、内径15mmの有底円筒状のSUS製蓋体7で閉蓋した。このとき、ケース本体6と蓋体7との間に、外径32mm、内径30mm、厚さ5mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるリング状の絶縁樹脂8を配設することにより、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0067】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0068】
〔実施例2〕
本実施例では、酸化イットリウムと、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:2:6のモル比となるようにして混合した以外は、実施例1と全く同一にして複合金属酸化物を得た。
【0069】
次に、得られた複合金属酸化物のX線回折パターンを、実施例1と全く同一にして測定した。結果を図2(b)に示す。
【0070】
図2(b)から、本実施例で得られた複合金属酸化物は、YMnOと、Yと、Mnと、YMnとの混晶からなり、YMnOは六方晶構造を備え、Yと、MnとはC−希土構造を備え、YMnは斜方晶構造を備えることが判明した。
【0071】
次に、酸素貯蔵材料として本実施例で得られた前記複合金属酸化物を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0072】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0073】
〔比較例1〕
本比較例では、酸化イットリウムに代えて硝酸イットリウム5水和物を用い、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:1:6のモル比となるようにして混合した以外は、実施例1と全く同一にして複合金属酸化物を得た。
【0074】
次に、得られた複合金属酸化物のX線回折パターンを、実施例1と全く同一にして測定した。結果を図2(c)に示す。
【0075】
図2(c)から、本比較例で得られた複合金属酸化物は、六方晶構造のYMnOのみからなることが判明した。
【0076】
次に、酸素貯蔵材料として本比較例で得られた前記複合金属酸化物を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0077】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0078】
〔比較例2〕
本比較例では、酸化イットリウムに代えて硝酸イットリウム5水和物を用い、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:2:6のモル比となるようにして混合した以外は、実施例1と全く同一にして複合金属酸化物を得た。
【0079】
次に、得られた複合金属酸化物のX線回折パターンを、実施例1と全く同一にして測定したところ、本比較例で得られた複合金属酸化物は、斜方晶構造構造のYMnのみからなることが判明した。
【0080】
次に、酸素貯蔵材料として本比較例で得られた前記複合金属酸化物を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0081】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0082】
〔比較例3〕
本比較例では、酸素貯蔵材料として、Mn(和光純薬工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0083】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0084】
〔比較例4〕
本比較例では、酸素貯蔵材料として、Y(第一稀元素化学工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0085】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0086】
〔比較例5〕
本比較例では、比較例1で得られたYMnOと、比較例2で得られたYMnと、比較例3で用いたものと同一のMnと、比較例4で用いたものと同一のYとを、1:1:1:1のモル比として、乳鉢で10分間混合し、酸素貯蔵材料を得た。本比較例で得られた酸素貯蔵材料は、YMnOと、YMnと、Mnと、Yとの単なる混合物であり、混晶を形成してはいない。
【0087】
次に、本比較例で得られた前記酸素貯蔵材料を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0088】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.1mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電した。このときのセル電圧と放電容量との関係を図3に示す。また、このときの平均電位を図4に示す。
【0089】
図3から、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなり、YMnOは六方晶構造を備え、Yと、MnとはC−希土構造を備える酸素貯蔵材料を用いる実施例1の金属酸素電池1及び、前記混晶がさらに斜方晶構造のYMnを含む酸素貯蔵材料を用いる実施例2の金属酸素電池1によれば、六方晶構造のYMnOのみからなる酸素貯蔵材料を用いる比較例1、斜方晶構造のYMnのみからなる酸素貯蔵材料を用いる比較例2、Mnのみからなる酸素貯蔵材料を用いる比較例3、Yのみからなる酸素貯蔵材料を用いる比較例4、YMnO、YMn、Mn、Yの単なる混合物からなる酸素貯蔵材料を用いる比較例5の各金属酸素電池1に比較して、放電容量が増加しており、過電圧が低くなっていることが明らかである。
【0090】
また、図4から、実施例1及び実施例2の金属酸素電池1によれば、比較例1〜5の金属酸素電池1に比較して、平均電位が高くなっていることが明らかである。
【符号の説明】
【0091】
1…金属酸素電池、 2…正極、 3…負極、 4…電解質層、 5…ケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極と負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池において、
該正極は、YMnOと、Yと、Mnとの混晶からなる酸素貯蔵材料を含むことを特徴とする金属酸素電池。
【請求項2】
請求項1記載の金属酸素電池において、前記酸素貯蔵材料はYMnを含むことを特徴とする金属酸素電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の金属酸素電池において、前記正極、前記負極及び前記電解質層は密封ケース内に配設されていることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項4】
酸化イットリウムとマンガン塩と有機酸とをボールミルを用いて混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得る工程と、
前記混合物を800〜1000℃の範囲の温度で、1〜30時間の範囲の時間焼成する工程とを含み、
イットリウムマンガン複合酸化物と、酸化イットリウムと、酸化マンガンとの混晶を得ることを特徴とする酸素貯蔵材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−16385(P2013−16385A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149134(P2011−149134)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】