説明

金属酸素電池

【課題】正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料を用いると共に、充放電を繰り返しても充放電容量や電池性能の低下を抑制することができる金属酸素電池を提供する。
【解決手段】金属酸素電池1は、酸素を活物質とする正極2と、金属リチウムを活物質とする負極3と、正極2と負極3とに挟持され非水系電解質溶液を含む電解質層4とを備える。正極2は、YMnOからなる酸素貯蔵材料と、非炭素質材料からなる導電助剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸素電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸素を活物質とする正極と、金属を活物質とする負極と、該正極と負極とに挟持された電解質層とを備える金属酸素電池が知られている。
【0003】
前記金属酸素電池では、放電時には、前記負極において金属が酸化されて金属イオンを生成し、生成した金属イオンが前記電解質層を透過して前記正極側に移動する。一方、前記正極では、酸素が還元されて酸素イオンを生成し、生成した酸素イオンが前記金属イオンと結合して金属酸化物が生成する。
【0004】
また、充電時には、前記正極において、前記金属酸化物から金属イオンと酸素イオンとが生成し、生成した酸素イオンは酸化されて酸素となる。一方、前記金属イオンは前記電解質層を透過して前記負極側に移動し、該負極で還元されて金属となる。
【0005】
前記金属酸素電池では、前記金属として金属リチウムを用いると、金属リチウムは理論電圧が高く電気化学当量が大きいことから、大きな容量を得ることができる。また、酸素として空気中の酸素を用いると、電池内に正極活物質を充填する必要がないことから、電池の質量当たりのエネルギー密度を高くすることができる。
【0006】
ところが、空気中の酸素を正極活物質とするために、正極を大気に開放すると、空気中の水分、二酸化炭素等が電池内に侵入し、電解質、負極等が劣化するという問題がある。そこで、前記問題を解決するために、密封ケース内に、受光により酸素を放出する酸素吸蔵材料を含む正極と、金属リチウムからなる負極と、電解質層とを配設すると共に、該酸素吸蔵材料に光を導く光透過部を備える金属酸素電池が知られている(例えば特許文献1参照)。尚、前記金属酸素電池は、前記電解質層に非水系電解質溶液を含んでいる。
【0007】
前記金属酸素電池によれば、前記光透過部を介して前記酸素吸蔵材料に光を導くことにより、該酸素吸蔵材料から酸素を放出させることができ、前記正極を大気に開放することなく、正極活物質としての酸素を得ることができる。従って、空気中の水分、二酸化炭素等が電池内に侵入することによる電解質、負極等の劣化を防止することができる。
【0008】
しかし、前記従来の金属酸素電池は、光線の照射が無いときには酸素の供給が不安定になると共に、密封ケースの他の部分に比較して脆弱である光透過部が破壊されて電解質溶液が漏出する虞がある。そこで、前記金属酸素電池の正極材料として、光線の照射によらず、化学的に酸素を吸蔵、放出し、又は物理的に吸着、脱着することができる酸素貯蔵材料を用いることが考えられる。前記酸素貯蔵材料としては、YMnOを挙げることができる。
【0009】
また、前記金属酸素電池の正極には、前記酸素貯蔵材料と共に、導電助剤が用いられている。前記導電助剤としては、一般に、カーボンブラック等の炭素質材料が用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−230985号公報
【特許文献2】特開2000−208147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料と共に、炭素質材料からなる導電助剤を用いる金属酸素電池では、充放電の繰り返しにより充放電容量が低下したり、該導電助剤の機能が失われて電池性能が低下するという不都合がある。
【0012】
本発明は、かかる不都合を解消して、正極材料としてYMnOからなる酸素貯蔵材料を用いると共に、充放電を繰り返しても充放電容量や電池性能の低下を抑制することができる金属酸素電池を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
正極材料として炭素質材料からなる導電助剤を用いる金属酸素電池では、充放電を繰り返すと、負極から正極に移動したLiイオンが該炭素質材料と反応してLiCOを生成する。ここで、Liイオンと炭素質材料との反応は不可逆であるため、LiCOを生成した分だけ充放電容量に寄与するLiが失われ、充放電容量が低下するものと考えられる。
【0014】
また、前記金属酸素電池では、充放電を繰り返すと、電解質溶液の浸み込みにより該炭素質材料が膨潤し、YMnOからなる酸素貯蔵材料との接触が断たれるために、該導電助剤の機能が失われて電池性能が低下するものと考えられる。
【0015】
そこで、本発明の金属酸素電池は、前記目的を達成するために、酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極と負極とに挟持され非水系電解質溶液を含む電解質層とを備える金属酸素電池において、該正極は、YMnOからなる酸素貯蔵材料と、非炭素質材料からなる導電助剤とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の金属酸素電池では、放電時には、次の式に示すように前記負極において金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成し、生成したリチウムイオンは前記電解質層を透過して正極に移動する。一方、正極においては、前記酸素貯蔵材料から放出又は脱着された酸素が還元されて酸素イオンとなり、前記リチウムイオンと反応して酸化リチウムまたは過酸化リチウムを生成する。そこで、前記負極と正極とを導線で接続することにより、電気エネルギーを取り出すことができる。
【0017】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
また、充電時には、次の式に示すように前記正極において酸化リチウムまたは過酸化リチウムからリチウムイオンと酸素イオンとが生成し、生成したリチウムイオンは前記電解質層を透過して負極に移動する。また、生成した酸素イオンは、そのままで、又は酸化されることにより生成した酸素分子として、前記酸素貯蔵材料に吸蔵又は吸着される。そして、負極では前記リチウムイオンが還元されて、金属リチウムとして析出する。
【0018】
(正極) 2LiO → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li +4e → 4Li
ここで、本発明の金属酸素電池は、前記導電助剤が非炭素質材料からなるので、前記放電時に正極においてLiCOが生成されることがない。従って、本発明の金属酸素電池によれば、充放電を繰り返しても、充放電容量の低下を抑制することができる。
【0019】
また、本発明の金属酸素電池は、前記導電助剤が非炭素質材料からなり、前記電解質層に含まれる前記非水系電解質溶液が該導電助剤に浸み込むことがないので、前記非水系電解質溶液の浸み込みによる前記導電助剤の膨潤を防止することができる。従って、本発明の金属酸素電池によれば、充放電を繰り返しても、前記導電助剤とYMnOからなる前記酸素貯蔵材料との接触を維持して、電池性能の低下を抑制することができる。
【0020】
本発明の金属酸素電池において、前記非炭素質材料は、10−2Ωcm以下の範囲の抵抗率と、1〜100m/gの範囲の比表面積とを備えることが好ましい。前記非炭素質材料は、抵抗率が10−2Ωcmを超えると、導電助剤としてすることが難しくなる。
【0021】
また、前記非炭素質材料は、比表面積が1m/g未満では、YMnOからなる前記酸素貯蔵材料と十分に接触できなくなることがあり、100m/gを超えると多孔質となり、前記非水系電解質溶液の浸み込みにより膨潤しやすくなる。
【0022】
ところで、本発明の金属酸素電池は、前記正極が、YMnOからなる酸素貯蔵材料と、非炭素質材料からなる導電助剤とのみからなるときには、該正極に前記非水系電解質溶液が浸透しにくく、リチウムイオンが伝導されにくくなる。
【0023】
そこで、本発明の金属酸素電池において、前記正極は、繊維状炭素質材料を含むことが好ましい。前記正極は、前記繊維状炭素質材料を含むことにより、その内部に間隙が形成され、前記非水系電解質溶液が浸透しやすくなる。
【0024】
このとき、前記正極は、全体の0.1〜20質量%の範囲の前記繊維状炭素質材料を含むことが好ましい。前記正極における前記繊維状炭素質材料の含有量が0.1質量%未満であるときには、該正極の内部に前記非水系電解質溶液が浸透する間隙を十分に形成できないことがあると共に、電子伝導経路を十分に確保できないことがある。一方、前記正極における前記繊維状炭素質材料の含有量が20質量%を超えると、該繊維状炭素質材料が凝集して、該正極内部に分散させることが難しくなり、さらには正極を形成すること自体が難しくなることがある。また、前記繊維状炭素質材料の含有量が20質量%を超えると、YMnOからなる酸素貯蔵材料に接触して、LiCOを生成する虞がある。
【0025】
また、前記繊維状炭素質材料は導電性を備えることが好ましい。前記繊維状炭素質材料は導電性を備えることにより、前記導電助剤の作用を補助することができる。
【0026】
また、本発明の金属酸素電池において、前記正極は、YMnOからなる前記酸素貯蔵材料と、非炭素質材料からなる前記導電助剤と、前記繊維状炭素質材料とをボールミルにより混合して得られた混合物からなることが好ましい。前記正極は、前記混合物からなることにより、YMnOからなる前記酸素貯蔵材料の表面が、非炭素質材料からなる前記導電助剤により部分的に被覆され、該酸素貯蔵材料の表面を前記非水系電解質溶液と接触可能な状態とすることができる。また、前記正極内に前記繊維状炭素質材料が分散され、前記非水系電解質溶液が浸透可能な間隙を形成することができる。
【0027】
また、本発明の金属酸素電池において、前記正極、前記負極及び前記電解質層は密封ケース内に配設されていることが好ましい。本発明の金属酸素電池では、前記酸素貯蔵材料が化学的に酸素を吸蔵、放出し、又は物理的に吸着、脱着することができる。従って、本発明の金属酸素電池では、前記正極を大気に開放したり、脆弱な光透過部を形成することなく、前記密封ケース内に配設された前記正極で活物質としての酸素を得ることができ、大気中の水分、二酸化炭素による劣化や、光透過部の損傷による電解質溶液漏出の虞がない。
【0028】
また、前記酸素貯蔵材料は、酸素を吸蔵、放出する場合には、酸素との化学結合の生成、解離を伴うが、その表面に酸素を吸着、脱着する場合には単に分子間力のみが作用し、化学結合の生成、解離を伴わない。
【0029】
従って、前記酸素貯蔵材料の表面に対する酸素の吸着、脱着は、該酸素貯蔵材料が酸素を吸蔵、放出する場合に比較して低エネルギーで行われることとなり、電池反応には該酸素貯蔵材料の表面に吸着されている酸素が優先的に用いられる。この結果、反応速度の低下及び過電圧の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の金属酸素電池の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】本発明の一実施例の金属酸素電池における充放電曲線を示すグラフ。
【図3】本発明の他の実施例の金属酸素電池における充放電曲線を示すグラフ。
【図4】比較例の金属酸素電池における充放電曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の金属酸素電池1は、酸素を活物質とする正極2と、金属リチウムを活物質とする負極3と、正極2と負極3との間に配設され非水系電解質溶液を含む電解質層4とを備え、正極2、負極3及び電解質層4は、ケース5に密封して収容されている。
【0033】
ケース5は、カップ状のケース本体6と、ケース本体6を閉蓋する蓋体7とを備え、ケース本体6と蓋体7との間には絶縁樹脂8が介装されている。また、正極2は蓋体7の天面との間に正極集電体9及び押し付け部材10を備えており、負極3はケース本体6の底面に直接配置されている。尚、金属酸素電池1において、ケース本体6は負極板として、蓋体7は正極板として作用する。
【0034】
金属酸素電池1において、正極2は酸素貯蔵材料と、導電助剤と、結着剤と、繊維状炭素質材料とからなる。
【0035】
前記酸素貯蔵材料はYMnOからなり、酸素を吸蔵又は放出する機能を備えると共に、その表面に酸素を吸着又は脱着することができる。
【0036】
前記導電助剤は、非炭素質材料からなり、このような非炭素質材料として、例えば、金属酸化物、導電性ペロブスカイト酸化物、金属箔等を挙げることができる。前記導電助剤は、例えば、10−2Ωcm以下の範囲の抵抗率と、1〜100m/gの範囲の比表面積とを備えている。
【0037】
前記金属酸化物としては、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化タングステン、酸化チタン等を挙げることができる。また、前記導電性ペロブスカイト酸化物としては、LaNiO、LaCoO等を挙げることができる。また、前記金属箔としては、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔等を挙げることができる。
【0038】
前記結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができる。
【0039】
前記繊維状炭素質材料としては、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)等のそれ自体導電性を備えるものを挙げることができる。正極2は、全体の0.1〜20質量%の範囲で、前記繊維状炭素質材料を含んでいる。
【0040】
正極2は、前記酸素貯蔵材料と、前記導電助剤と、前記結着剤と、前記繊維状炭素質材料とを、ボールミルにより混合してなる混合物により形成される。
【0041】
このようにすることにより、正極2では、前記酸素貯蔵材料としてのYMnO粒子の表面が、前記非炭素質材料からなる前記導電助剤により部分的に被覆され、該酸素貯蔵材料の表面を前記非水系電解質溶液と接触可能な状態とすることができる。また、正極2では、前記導電助剤により部分的に被覆されたYMnO粒子が、前記結着剤により相互に結着されると共に、該YMnO粒子間に分散された前記繊維状炭素質材料により、前記非水系電解質溶液が浸透可能な間隙が形成されている。
【0042】
このとき、まず、前記酸素貯蔵材料としてのYMnO粒子と前記非炭素質材料からなる前記導電助剤とを混合し、YMnO粒子の表面が前記非炭素質材料からなる前記導電助剤により部分的に被覆された状態とした後、前記結着剤と、前記繊維状炭素質材料と混合することが好ましい。このようにすることにより、YMnO粒子と前記繊維状炭素質材料との接触を防止して、LiCOの生成を妨げることができる。
【0043】
次に、電解質層4は、前記非水系電解質溶液がセパレータに浸漬されて形成されている。前記非水系電解質溶液は、例えば、リチウム塩を非水系溶媒に溶解したものを用いることができる。前記リチウム塩としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩等を挙げることができる。また、前記非水系溶媒としては、例えば、炭酸エステル系溶媒、エーテル系溶媒、イオン液体等を挙げることができる。
【0044】
前記炭酸エステル系溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができる。前記炭酸エステル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0045】
前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、ジメチルトリグラム、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。前記エーテル系溶媒は2種以上混合して用いることもできる。
【0046】
前記イオン液体としては、例えば、イミダゾリウム、アンモニウム、ピリジニウム、ペリジウム等のカチオンと、ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(TTSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミド(BETI)、テトラフルオロボレート、パークロレート、ハロゲンアニオン等のアニオンとの塩を挙げることができる。
【0047】
前記セパレータとしては、例えば、ガラス繊維、ガラス製ペーパー、ポリプロピレン製不織布、ポリイミド製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布、ポリエチレン製多孔フィルム等を挙げることができる。
【0048】
次に、集電体9としては、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銅等のメッシュからなるものを挙げることができる。また、押し付け部材10としては、ステンレス鋼等からなるものを挙げることができる。
【0049】
本実施形態の金属酸素電池1では、放電時には次の式に示すように、負極3において、金属リチウムが酸化されてリチウムイオンと電子とが生成する。生成したリチウムイオンは、正極2に移動し、前記酸素貯蔵材料から供給される酸素の還元により生成した酸素イオンと反応し、酸化リチウム又は過酸化リチウムを生成する。
【0050】
(負極) 4Li → 4Li +4e
(正極) O + 4e → 2O2−
4Li + 2O2− → 2Li
2Li + 2O2− → Li
一方、充電時には次の式に示すように、正極2において、酸化リチウム又は過酸化リチウムからリチウムイオンと酸素イオンとが生成する。生成したリチウムイオンは負極3に移動し、負極3で還元されることにより金属リチウムとして析出する。
【0051】
(正極) 2LiO → 4Li + 2O2−
Li → 2Li + 2O2−
(負極) 4Li +4e → 4Li
このとき、正極2は、前記導電助剤が非炭素質材料からなるので、前記放電時に正極においてリチウムイオンの不可逆反応によりLiCOが生成されることがない。従って、本実施形態の金属酸素電池1によれば、充放電を繰り返しても、リチウムが前記不可逆反応により失われることがなく、充放電容量の低下を抑制することができる。
【0052】
また、金属酸素電池1では、前記導電助剤が非炭素質材料からなり、前記非水系電解質溶液が該導電助剤に浸み込むことがないので、前記非水系電解質溶液の浸み込みによる前記導電助剤の膨潤を防止することができる。従って、金属酸素電池1によれば、充放電を繰り返しても、前記導電助剤とYMnOからなる前記酸素貯蔵材料との接触が維持され、電池性能の低下を抑制することができる。
【0053】
また、金属酸素電池1では、前記繊維状炭素質材料を含むことにより、その内部に間隙が形成され、該間隙に前記非水系電解質溶液が浸透する。従って、前記非水系電解質溶液により伝導されるリチウムイオンとYMnOからなる前記酸素貯蔵材料との接触が妨げられることがない。
【0054】
さらに、金属酸素電池1では、前記放電時又は充電時に、前記酸素貯蔵材料は、酸素の吸蔵、放出には化学結合の生成、解離を伴うが、その表面における酸素の吸着、脱着は、分子間力に相当するエネルギーのみで行うことができる。従って、正極2における電池反応には、前記酸素貯蔵材料の表面において吸着、脱着される酸素が優先的に用いられることとなり、反応速度の低下及び過電圧の上昇を抑制することができる。
【0055】
次に、実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0056】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、硝酸イットリウム5水和物と、硝酸マンガン6水和物と、リンゴ酸とを、1:1:6のモル比となるようにして、粉砕混合し、複合金属酸化物材料の混合物を得た。次に、得られた複合金属酸化物材料の混合物を250℃の温度で30分間反応させた後、さらに、300℃の温度で30分間、350℃の温度で1時間反応させた。
【0057】
次に、反応生成物の混合物を粉砕混合した後、1000℃の温度で1時間焼成して複合金属酸化物を得た。得られた複合金属酸化物は、X線回折パターンにより、化学式YMnOで表される複合金属酸化物であることが確認された。
【0058】
次に、本実施例で得られたYMnO40質量部と、導電助剤としての酸化インジウムスズ(シグマ−アルドリッチ社製)45質量部と、繊維状炭素質材料としての気相法炭素繊維(昭和電工株式会社製)5質量部と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製)10質量部とをボールミルで混合し、正極混合物を得た。前記ボールミルは、内容積45mlの遊星式ボールミルであり、直径10mmのジルコニアボール10個、直径5mmのジルコニアボール20個により、混合を行う。
【0059】
そして、得られた正極混合物をアルミニウムメッシュからなる正極集電体9に5MPaの圧力で圧着し、直径15mm、厚さ0.5mmの正極2を形成した。
【0060】
次に、内径15mmの有底円筒状のSUS製ケース本体6の内部に、直径15mm、厚さ0.1mmの金属リチウム箔(本城金属株式会社製)からなる負極3を直接配置した。
【0061】
次に、負極3上に、直径15mmの不織布(タピルス株式会社製)からなるセパレータを重ね合わせた。次に、前記セパレータ上に、前記のようにして得られた正極2、正極集電体9及び押し付け部材10を、正極2が該セパレータに接するように重ね合わせた。次に、前記セパレータに非水系電解質溶液を注入し、電解質層4を形成した。
【0062】
前記非水系電解質溶液としては、エチレンカーボネートと、ジエチルカーボネートとを30:70の質量比で混合した混合溶液に、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットルの濃度で溶解した溶液(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0063】
次に、ケース本体6に収容された負極3、電解質層4、正極2、正極集電体9、押し付け部材10からなる積層体を、内径15mmの有底円筒状のSUS製蓋体7で閉蓋した。このとき、ケース本体6と蓋体7との間に、外径32mm、内径30mm、厚さ5mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるリング状の絶縁樹脂8を配設することにより、図1に示す金属酸素電池1を得た。
【0064】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を電気化学測定装置(東方技研株式会社製)に装着し、負極3と正極2との間に、0.05mA/cmの電流を印加し、セル電圧が2.0Vになるまで放電し、セル電圧が4.3〜4.5Vになるまで充電した。前記充放電操作を1サイクルとして、7サイクルの充放電を繰り返した。
【0065】
このときの各サイクルのセル電圧と充放電容量との関係を図2に示す。尚、図中の番号はサイクル数を示す。
【0066】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で得られたYMnO5質量部と、導電助剤としての酸化インジウムスズ(シグマ−アルドリッチ社製)80質量部と、繊維状炭素質材料としての気相法炭素繊維(昭和電工株式会社製)5質量部と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製)10質量部とを混合して、正極混合物を得た以外は、実施例1と全く同一にして金属酸素電池1を製造した。
【0067】
次に、本実施例で得られた金属酸素電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、7サイクルの充放電を繰り返した。
【0068】
このときの各サイクルのセル電圧と充放電容量との関係を図3に示す。尚、図中の番号はサイクル数を示す。
【0069】
〔比較例〕
本比較例では、実施例1で得られた得られたYMnO40質量部と、導電助剤としてのケッチェンブラック(ライオン株式会社製)50質量部と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製)10質量部とを混合して、正極混合物を得た以外は、実施例1と全く同一にして金属酸素電池1を製造した。
【0070】
次に、本比較例で得られた金属酸素電池1を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、4サイクルの充放電を繰り返した。
【0071】
このときの各サイクルのセル電圧と充放電容量との関係を図4に示す。尚、図中の番号はサイクル数を示す。
【0072】
図2、図3から、正極2における導電助剤として、非炭素質材料である酸化インジウムスズを用い、さらに正極2に繊維状炭素質材料である気相法炭素繊維を含む実施例の金属酸素電池1によれば、充放電を7サイクルまで繰り返しても充放電容量が低下せず、当初の電池性能を保持することができることが明らかである。
【0073】
これに対して、図4から、正極2における導電助剤として炭素質材料であるケッチェンブラックを用いる比較例の金属酸素電池1によれば、充放電を3サイクルを繰り返すと、充放電容量が低下し、当初の電池性能を保持することができないことが明らかである。
【符号の説明】
【0074】
1…金属酸素電池、 2…正極、 3…負極、 4…電解質層、 5…ケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を活物質とする正極と、金属リチウムを活物質とする負極と、該正極と負極とに挟持され非水系電解質溶液を含む電解質層とを備える金属酸素電池において、
該正極は、YMnOからなる酸素貯蔵材料と、非炭素質材料からなる導電助剤とを含むことを特徴とする金属酸素電池。
【請求項2】
請求項1記載の金属酸素電池において、前記非炭素質材料は、10−2Ωcm以下の範囲の抵抗率と、1〜100m/gの範囲の比表面積とを備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の金属酸素電池において、前記正極は、繊維状炭素質材料を含むことを特徴とする金属酸素電池。
【請求項4】
請求項3記載の金属酸素電池において、前記正極は、全体の0.1〜20質量%の範囲の前記繊維状炭素質材料を含むことを特徴とする金属酸素電池。
【請求項5】
請求項3又は請求項4記載の金属酸素電池において、前記繊維状炭素質材料は導電性を備えることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれか1項記載の金属酸素電池において、前記正極は、YMnOからなる前記酸素貯蔵材料と、非炭素質材料からなる前記導電助剤と、前記繊維状炭素質材料とをボールミルにより混合して得られた混合物からなることを特徴とする金属酸素電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の金属酸素電池において、前記正極、前記負極及び前記電解質層は密封ケース内に配設されていることを特徴とする金属酸素電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−16422(P2013−16422A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149992(P2011−149992)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】