金属銀粒子を含む抗菌性の親水性コーティング
本発明は、滑らかな抗菌性親水性コーティングを作製するための配合物に関し、その配合物は、親水性ポリマー;開始剤;金属銀(すなわちAg°)を含んでいる粒子;およびキャリヤー液を含む。本発明はさらに、表面に親水性コーティングを含む物品であって、そのコーティングが硬化親水性ポリマーと金属銀を含んでいる粒子とを含む物品に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、抗菌剤を含む親水性コーティングを作製するための配合物、物品をコーティングするための方法、およびコーティングされた物品、特にカテーテルなどの医療器具に関する。
【0002】
侵襲性の医療器具を用いることによって生じる合併症の非常に深刻なよくある原因の中に、一時的または永続的な埋め込みの結果として生じる感染がある。カテーテルおよび血管装置のような医療用物品を埋め込むかまたは挿入する処置の間に、粘膜または内皮あるいは実にどんな生物学的な対抗面(counter surface)でも損傷することが多く、その結果として微生物感染が起こる。したがって、微生物感染を最小限に抑えようとする場合、潤滑性、潤滑性の持続(乾燥時間(dry−out time))、強靭性(耐摩耗性)ならびに所望の抗微生物性を兼ね備えることが重要である。ヒドロゲルコーティングの潤滑性の消失は、ヒドロゲルが早く乾燥することが原因で起こり得るものであり、早く乾燥すると、潤滑特性(lubricious properties)が失われ、その結果として生物学的対抗面が損傷する。
【0003】
抗菌剤が施された物品(特に医療器具)が幾つかの刊行物に開示されている。有機抗菌剤に加えて、イオン性銀(ionic silver)も抗菌剤として報告されている。例えば、国際公開第02/07002号パンフレットは、銀イオンまたは別の抗菌剤を含む滑らかな抗菌性コーティングを表面に施す方法を記載している。国際公開第02/07002号パンフレットに記載されているコーティングは、最初にポリマー層を表面に施すことによって作製される。その後、ポリマー層は銀が結合できるよう処理される。金属銀を含むコーティングを物品に施すことは開示されておらず、まして金属銀粒子を単独で施すことも、銀の存在下でポリマー層を形成することも開示されていない。
【0004】
米国特許出願公開第2003/0044451号明細書は、熱硬化される、シリコーンとウレタンとを含む柔軟なコーティングを記載している。そのコーティングは抗菌剤(例えば、銀塩)を含んでよいことが記載されている。米国特許出願公開第2003/0044451号明細書は、コーティングに金属銀を与える方法を明らかにしておらず、金属銀を含む滑らかなコーティングも開示されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2001/0051669号明細書は医療用物品の潤滑剤組成物に関するものである。とりわけ、その組成物は、イソシアネート末端プレポリマー、ポリマーおよび薬理学的な添加剤を含む。その添加剤は、銀などの抗菌剤であってよい。コーティング方法は、プレポリマーを熱硬化させることを含む。
【0006】
金属銀でコーティングされた医療器具が、米国特許出願公開第2002/0094322号明細書に開示されている。銀は、基材上の第1の層として施されている。この層は、第2の層(ヒドロゲル)で覆われており、ヒドロゲルはクロルヘキシジンなどの有機抗菌剤を含む。ヒドロゲルは摩擦を減らす働きをする。この方法は、銀を施すコーティングステップと潤滑性を与えるコーティングステップが別々に必要とされるので、やや複雑である。さらに、光開始剤の使用が記載されていない。
【0007】
米国特許出願公開第2003/0198821号明細書では、医療器具上に直接銀を析出させる場合に、析出させるかまたは保持する銀の量を制御するのが困難であることが報告されている。物品の表面からの銀の放出を制御するのが困難であり、正確な持続投与が難しくなることも記載されている。米国特許出願公開第2003/0198821号明細書は、銀塩コロイドを含むプライマー層でシリコーンカテーテルをコーティングすることを提案している。さらに、シランポリマーコーティングが施される。このコーティングステップは熱硬化を伴う。
【0008】
米国特許出願公開第2005/0004525号明細書は、導尿カテーテルとレッグバッグ(leg bag)との間の付属物の接続に関するものである。その付属物は、抗菌性組成物を含んでいるフィルターが存在するスリーブを含む。さらに、スリーブの内部を抗菌性コーティングで被覆してよい。抗菌性組成物はナノサイズの銀粒子を含むことができる。この刊行物は、光開始(photo−initiation)によって硬化される親水性ポリマーを含むコーティングを開示していない。
【0009】
潤滑剤は、表面を滑らかにするため、細胞接着が抑止されるくらいまで存在してよい。すなわち潤滑剤は汚損を減らすのに寄与する。この刊行物は、機械的な意味で滑らかなコーティング、すなわち耐摩耗性が向上していて、挿入時に接触する組織に重大な損傷を引き起こすことなく、物品(特にカテーテル)を患者(例えば血管または尿路)に挿入できるようになっているコーティングを含む物品を扱っていない。
【0010】
市販の銀コーティングされたフォーリーカテーテルがBardexおよびTyco Kendallによって販売されている。以下の例によって示されているように、これらのカテーテルは、濡れた後の潤滑性が望ましくないほど低く、乾燥時間が短く、かつ/または耐摩耗性が低いことが見出された。さらに、潤滑性はカテーテルによって大きく異なることが見出された。銀粒子が存在すると、コーティングが粗くなり、そのために滑らかさが減少すると考えられる。その上、黒鉛炉原子吸光分析(GF−AAS)による、水環境へのイオン性銀の放出を測定する放出試験によると、二重コーティングされたBardexのカテーテルでは検出可能な量の銀は放出されないことが明らかになった。二重コーティングされたTyco Kendallのカテーテルの場合、銀の放出は比較的少ないことが分かった。
【0011】
本発明の1つの目的は、物品に抗菌性コーティングを施すための新規の配合物、そのような配合物で物品をコーティングする新規の方法、および抗菌性コーティングが施された新規の物品をそれぞれ提供することである。
【0012】
さらなる目的は、潤滑性と抗菌活性の両方が好ましくは単一の機能層によって与えられる、そのような配合物、方法、物品をそれぞれ提供することである。
【0013】
さらなる目的は、物品のすべての表面(すなわち内面と外面)のコーティングを可能にする方法を提供することである。
【0014】
さらなる目的は、比較的低温(例えば、室温)で物品をコーティングするのに使用することもできるそのような配合物を提供することである。これは特に、感光性成分を含むコーティングで被覆された物品および/または熱安定性が比較的低い物品、特に、コーティングの熱硬化および/または加熱乾燥に通常用いられる温度でその性質が悪影響を受ける物品にとって望ましいであろう。そのような物品の例として、高温で寸法安定性または機械的安定性が十分でない材料から作られた物品(溶けるかまたは軟らかくなりすぎる物品など)あるいは高温で化学的安定性が十分でない物品(劣化するか、酸化される材料、または熱によって材料中の成分の吹出しが物品の表面に生じるような材料から作られた物品など)がある。
【0015】
さらなる目的は、銀を長期間放出することができ、かつ/または銀を制御された方法で放出することができる、物品をコーティングするための配合物およびコーティングされた物品をそれぞれ提供することである。
【0016】
本発明にしたがって解決されうる1つまたは複数の目的は、説明の残りの部分および/または特許請求の範囲から明らかであろう。
【0017】
このほど、特定の配合物、特に特定の方法で硬化させることができる親水性ポリマーを含む配合物を提供することにより、本発明の根底にある1つまたは複数の目的が達成されることが見出された。
【0018】
したがって、本発明は、抗菌性親水性コーティングを作製するための配合物に関し、その配合物は、親水性ポリマー;光開始剤;金属銀(すなわちAg°)を含んでいる粒子;およびキャリヤー液(carrier liquid)を含む。
【0019】
本発明はさらに、本発明による配合物を物品の少なくとも1つの表面に施し;配合物を電磁放射線にさらして光開始剤を活性化させることによってポリマーを硬化させることを含む、コーティングされた物品を作製するための方法に関する。
【0020】
本発明はさらに、表面に親水性コーティングを含む物品、特に本発明による方法によって得られるコーティングされた物品であって、コーティングが硬化親水性ポリマーと金属銀(Ag°)を含む粒子とを含んでいる、物品に関する。
【0021】
本発明はさらに、医療用途向けの本発明の配合物に関する。特に、配合物は、感染、例えば、カテーテル関連感染(カテーテル関連の尿路感染およびカテーテル関連の血流感染など)の危険を減らすための、あるいは尿路の合併症、心臓血管(cardiovascular vessel)の合併症、腎臓感染、血液感染(敗血症)、尿道損傷、皮膚の損傷、膀胱結石および血尿からなる群から選択される疾患の治療のための組成物(特にコーティング)の製造に使用してよい。
【0022】
本発明はさらに、細菌付着を減少させるかまたは殺菌剤として機能させるために、本発明による配合物または本発明による配合物を硬化させて得られるコーティングを使用することに関する。配合物またはコーティングは、生体外または生体内で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コーティングされたカテーテルからの銀イオンの放出を測定するのに用いる構成の略図である。
【図2】本発明のコーティングされたカテーテルと2種類の市販のカテーテルの摩擦力(friction force)を比較したものである。
【図3】本発明の幾つかのコーティングされたカテーテルの摩擦力を示す。
【図4A】本発明のコーティングされたカテーテルおよび1つの市販のカテーテルの銀放出データを時間の関数として示す。
【図4B】本発明のコーティングされたカテーテルおよび1つの市販のカテーテルの銀放出データを時間の関数として示す。
【図5A】銀を含まないコーティングで被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像を示す。
【図5B】本発明による銀含有コーティングで被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像を示す。
【図6】改良ロビン装置(modified Robbins Device)を略図的に示す。
【図7A】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【図7B】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【図7C】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【図7D】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【0024】
典型的には、本発明の物品では、銀を含む粒子がポリマー中に分散させられている。コーティングを生じさせるのに適した配合物であって、(i)金属銀の粒子の存在によって付与される抗菌活性と(ii)挿入時に、被験者にとって許容できないレベルの不快感も物品がぶつかる組織への損傷も引き起こすことのない、動物(人間を含む)に挿入する際の十分または向上さえした潤滑性(または高い耐摩耗性)の両方が単一層によって提供され;さらに(iii)必要に応じてそのコーティングが、被験者への挿入/埋め込みを容易にする十分長い乾燥時間を有するような、コーティングを生じさせるのに適した配合物を提供できることは意外なことである。そもそも、粒状物質を滑らかなコーティングに含めることは、一般には機械的な潤滑性および/または耐摩耗性にとって不利であると考えられている。
【0025】
光開始を利用してポリマーを硬化させることによってそのようなコーティングを生じさせることができることは特に意外なことである。金属銀は公知の光活性物質であるため、抗菌性がありかつ滑らかな、金属銀を含む有利なコーティングがこのようにして得られることは予想外のことである。
【0026】
本発明者らは、光開始剤を使用してコーティングを施すことは、高温で熱硬化させ、かつ/または乾燥させることができるほど十分な耐熱性のない物質を含む物品を、コーティングすることができるという点で有利であるということに気付いた。
【0027】
本発明者らはさらに、耐熱性がある物品をコーティングする場合も熱硬化/乾燥は不利でありうると考えている。加熱の結果として、物品中の1種または複数種の添加剤(特に、1種または複数種の可塑剤)は物品の表面に、たぶんコーティング中またはコーティング全体にさえ移動し、それによってコーティングの性質に影響を及ぼすことがあり、かつ/または(物品が患者の体内にあるか、または患者の体と接触する場合には)内科的合併症をもたらしうることが予期される。例えば、可塑剤が物品表面に移動する結果として吹出しが起こりうる。配合物はまた、高温にしなくてもコーティングを施すのに使用できるので、本発明の方法ではそのような危険がなくなるか、または少なくとも減少する。
【0028】
さらに、光硬化により、銀を含む粒子の存在下においても良好な潤滑性および/または耐摩耗性を有する有利なポリマー網状組織(特にグラフトおよび/または架橋を含むそのような網状組織)が提供されることが予期される。
【0029】
さらに、本発明の配合物は、先行技術による銀コーティングされた物品(銀を含む市販のカテーテルなど)と比較して、イオン性銀が持続放出される抗菌性コーティングを物品に施すのに適していることが見出された。
【0030】
さらに、実質的にゼロ次放出パターンで(少なくとも、そのような放出に達するのに必要な比較的短い初期期間の後)かなり長期間(例えば、約1000時間以上)にわたってイオン性銀を放出するコーティングを施すことができることが見出された。例えば、本発明のカテーテルでは、コーティングからの銀イオンの放出が始まった後、150時間から2500時間の間の期間、実質的にゼロ次放出を示すことが示されている図4を参照されたい。
【0031】
「ポリマー」という用語は、本明細書では2個以上の反復単位を含む分子に使用されている。特に、それは同じであっても異なっていてもよい2個以上のモノマーから構成されうる。本明細書で使用されるこの用語は、オリゴマーおよびプレポリマーを含む。普通、ポリマーの数平均重量は約500g/mol以上、特に約1000g/mol以上であるが、ポリマーが比較的小さいモノマー単位で構成されており、かつ/または単位の数が比較的少ない場合、モル質量は低くなりうる。ポリマーという用語はオリゴマーを含む。1つまたは幾つかの単位が取り除かれるとその性質が実際に大きく変化する場合、ポリマーはオリゴマーと考えられる。
【0032】
「硬化」という用語は、配合物によって堅いまたは固いコーティングが形成されるように配合物を処理する任意の方法を含む。特に、この用語は、親水性ポリマーがさらに重合するような処理が、グラフトポリマーを形成するようにグラフトによって、および/または架橋ポリマーを形成するように架橋によってもたらされることを含む。
【0033】
慣例に従って、「1つ(a)」の部分または「その(the)」の部分(例えば、1つの化合物、例えば、1つの(親水性)ポリマー、1つの高分子電解質、1つの開始剤)に言及する場合、それは1種または複数種の前記部分を指すことを意味する。
【0034】
本発明との関連においては、カテーテルなどの医療器具の(外側)表面上のコーティングは、(濡れているときに)損傷をもたらすことなく、かつ/または許容できないレベルの痛みを被験者に引き起こすことなく、目的とする身体部分内に挿入できる場合に滑らかであると見なされる。特に、Harland FTS摩擦試験機で測定した場合に、摩擦が20g以下(締め付け力(clamp−force)が300gおよび引張速度が1cm/秒)、好ましくは15g以下であるときに、コーティングは滑らかであると見なされる。手順は実施例に示されているとおりである。
【0035】
「濡れた」という用語は一般に当該技術分野において知られており、広い意味では「水を含む」ことを意味する。特にこの用語は、本明細書においては、滑らかになるように十分な水を含んでいるコーティングを説明するのに用いられる。水濃度に関して言えば、普通は濡れたコーティングは、コーティングの乾燥重量に対して少なくとも10重量%の水、好ましくはコーティングの乾燥重量に対して少なくとも50重量%、より好ましくはコーティングの乾燥重量に対して少なくとも100重量%を含む。例えば、特に本発明の実施態様では、水吸収量として約300〜500重量%の水が実現可能である。
【0036】
本発明との関連においては、乾燥時間とは、(装置が貯蔵/濡れた状態にされていた)湿潤液体から装置を取り出した後にコーティングが滑らかなままの状態である期間である。乾燥時間は、Harland摩擦試験機上でカテーテルが空気(22℃、35%RH)にさらされた時間の関数として摩擦(グラム)を測定することによって求めることができる。乾燥時間は、摩擦が20g以上、あるいはより厳格な試験では15g以上の値に達する時点である。
【0037】
親水性ポリマーとしては、原則として、滑らかな親水性コーティングを得るのに適した任意のポリマーを使用してよい。特に、光開始剤の存在下で重合可能、グラフト化可能(graftable)および/または架橋性であるようなポリマーが適している。
【0038】
一般にそのような親水性ポリマーは、数平均モル質量が約1000〜5000000g/molの範囲であってよい。好ましくは、モル質量は少なくとも20000、より好ましくは少なくとも100000である。モル質量は、2000000以下、特に1300000g/mol以下であるのが有利である。モル質量は、光散乱によって測定された値である。
【0039】
ポリマーは、例えば、プレポリマー、すなわち1つまたは複数の重合可能基、特に1つまたは複数のラジカル重合可能基(1つまたは複数のビニル基など)を含むポリマーであってよい。
【0040】
架橋網状組織(cross−linked network)となるようにするため、分子当たりの反応性基の平均数が1より大きいプレポリマーが特に好適である。好ましくは反応性基の平均数は少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.5、特に少なくとも2.0である。好ましくは基の平均数は64以下、より好ましくは15以下の範囲、特に8以下の範囲、さらに特に7以下である。
【0041】
しかし、重合可能基を含まないポリマーも光開始剤の存在下で、特に配合物を光にさらしたときにグラフトの形成によって硬化されうる。
【0042】
好ましい実施態様では、配合物は、ポリ(ラクタム)(特にポリビニルピロリドン);ポリウレタン;アクリル酸およびメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマー;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;マレイン酸無水物をベースにしたコポリマー;ポリエステル;ビニルアミン(vinylamines);ポリエチレンイミン;ポリエチレンオキシド;ポリ(カルボン酸);ポリアミド;ポリ酸無水物;ポリホスファゼン;セルロース誘導体(特にメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)および他の多糖類(特にキトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ゼラチン、キチン、ヘパリン、デキストラン);コンドロイチン硫酸;(ポリ)ペプチド/タンパク質(特にコラーゲン、フィブリン、エラスチン、アルブミン);ポリエステル(特にポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン);およびポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーを含む。好ましくは、配合物は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド(PEO/PEG)およびポリプロピレンオキシドより選択される少なくとも1種のポリマーを含む。
【0043】
特に、コーティングへの細菌の付着を減らすために、配合物またはコーティングは好ましくはポリエチレンオキシドを含む。したがって、そのようなポリマーは、銀イオンの放出に由来する抗菌活性と相まって、さらなる抗菌効果の向上に寄与しうる。
【0044】
特にポリビニルピロリドン(PVP)および同じ部類のポリマーの場合、少なくともK15、さらに特にK30、さらにとりわけK80に相当するモル質量を有するポリマーが好ましい。特に良好な結果は、少なくともK90に相当するモル質量を有するポリマーで達成された。上限に関しては、K120以下、特にK100が好ましい。K値は、Viscotek Y501自動化相対粘度計(automated relative viscometer)のW1307方式の改訂5/2001によって測定可能な値である。このマニュアルは、www.ispcorp.com/products/hairscin/index_3.htmlに見出せるであろう。
【0045】
(乾燥)コーティングにおける親水性ポリマーの濃度は、普通は、乾燥コーティングの全重量に対して少なくとも1重量%、特に少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも10重量%である。普通は、濃度は90重量%以下であるが、その濃度はもっと高くてもよい。好ましくは、濃度は80重量%以下、特に70重量%以下、60重量%以下または50重量%以下である。
【0046】
コーティング中に高分子電解質(さらなる親水性ポリマーであってよい)が存在することが好ましいが、それは乾燥時間に対して有益な影響があるためである。照射時に基を形成できる化合物を使用することは、高分子電解質を含むコーティング、特に高分子電解質と親水性ポリマー(上述のもの)の両方を含むコーティングの滑らかさ/乾燥時間を向上させる上で有利であることが特に見出された。
【0047】
本明細書では、高分子電解質は、構成単位を含む高分子(5から100%の間の構成単位がイオン基またはイオン化可能基、あるいはその両方を含む)から構成されている、線状のもの、分岐のものまたは架橋されたものであってよいポリマーと定義される。構成単位は、反復単位(例えば、モノマー)であってよい。
【0048】
高分子電解質は、好ましくは、光散乱で測定した場合の数平均モル質量が1000〜5000000g/molの範囲である。
【0049】
存在してよいイオン基またはイオン化可能基の例として、アミン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、硫酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基およびホスフェート基がある。
【0050】
好ましくは、高分子電解質は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、マレイン酸、スルホン酸、スチレン酸(styrenic acid)、フマル酸、第四アンモニウム塩およびそれらの混合物および/または誘導体のホモポリマーおよびコポリマー(の塩)からなる群から選択される。
【0051】
存在する場合、高分子電解質の濃度は、普通は1〜90重量%の範囲である。好ましくは、濃度は少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%である。好ましくは、濃度は、50重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。重量パーセントは、コーティングの乾燥重量に対するものである。
【0052】
高分子電解質は好ましくは、本質的にイオン基を含まない親水性ポリマー(PVPまたは上述の他の非イオン性/イオン化可能親水性ポリマーなど)と一緒に存在する。本明細書では、他のポリマーは高分子電解質のための親水性支持網状組織として働くことができる。その利点は、コーティングの安定性が増大することである。特に、高分子電解質がコーティングから漏出する傾向がこのようにして減少する。さらに、2種以上のそのようなポリマーを組み合わせると、潤滑性(特に平滑性)および乾燥時間の両方に関して有利である。
【0053】
高分子電解質と他の親水性ポリマーとの重量比は、好ましくは1:90〜9:1、より好ましくは1:30〜1:1、さらにより好ましくは1:10〜1:5の範囲である。
【0054】
任意選択的に、配合物は架橋剤を含む。架橋剤は、配合物から作製されるコーティングの1つまたは複数の性質に影響を与えうる。特にこれは、銀および/または別の抗菌剤の放出パターンの調節を可能にするポリマー網状組織の形成に寄与しうる。さらに、架橋剤は、コーティング中に残るべき1種または複数種の成分(高分子電解質など)がコーティングから浸出する傾向の減少したコーティングを形成するのに役立ちうる。さらに、物品へのコーティングの付着が向上しうる。
【0055】
架橋剤は、普通は、2つ以上の官能基(ラジカル重合可能な基など)を含む化合物である。そのようなラジカル反応性の重合可能基は、アルケン、アミノ、アミド、スルフヒドリル(SH)、不飽和エステル、不飽和ウレタン、不飽和エーテル、不飽和アミド、およびアルキド/乾燥樹脂からなる群から選択することができる。
【0056】
特に好適なのはビニル基を含む架橋剤である。そのような架橋剤は、一般式G−(CR=CH2)n(式中、Gは、原則として、ビニル基が結合できる任意の部分(特に、1つまたは複数のヘテロ原子を含んでよい任意選択的に置換された任意の炭化水素)であってよく、nはビニル基の数であり、Rは水素であるかまたは置換および非置換の炭化水素(任意選択的に1つまたは複数のヘテロ原子を含む)から選択される基、特に水素またはCH3である)によって表わされうる。
【0057】
本発明の1つの実施態様では、Gは、少なくともn個の官能基を有する多官能性化合物の残基であり、多官能性化合物は、好ましくはポリエーテル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル、ポリ(メタ)アクリロニクス(poly(meth)acrylonics)、ポリオキザゾリン(polyoxazolines)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミンおよび多糖類(セルロース、デンプンなど)(それらのコポリマーを含む)からなる群から選択される。Gは、より好ましくは、少なくとも1個のポリエチレンオキシドおよび/または少なくとも1個のポリプロピレンオキシドを含む、オリゴマーまたはポリマーである。そのようなポリマーはコーティングの汚損の減少に寄与することができ、そのことはコーティングの抗菌性に関して有利でありうる。特に好適なのは、少なくとも1個のウレタン基および少なくとも1個の(メタ)アクリレート基、好ましくはメタクリレート基、すなわちウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはウレタンメタクリレートを含む架橋剤であるが、これはそれらの加水分解安定性が比較的大きいためである。
【0058】
加水分解安定性のゆえに、ウレタン(メタ)アクリレート、特にウレタンメタクリレートの使用により、他の親水性コーティング(すなわち、Ag粒子を含まないもの)でも利点がもたらされる。したがって本発明はまた、親水性ポリマー(好ましくは上に記載した親水性ポリマーの群から選択される親水性ポリマー);光開始剤;ウレタン(メタ)アクリレート(好ましくはウレタンメタクリレート)、およびキャリヤー液を含む配合物に関する。ウレタン(メタ)アクリレートは、少なくとも1個のウレタン基および少なくとも1個の(メタ)アクリレート基を含む任意の分子であってよい。好適なウレタン(メタ)アクリレートは、実施例に示すように、例えば、ポリオール(例えば、ポリエーテルポリオール)を、少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のイソシアネート基とを含む化合物か、あるいはポリイソシアネートおよび少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のヒドロキシル基とを含む化合物と反応させることにより調製できる。
【0059】
架橋剤の濃度は、意図する結果に応じて広い限界範囲内から選択できる。特に、それは、親水性ポリマーと架橋剤の重量比が1:9〜9:1の範囲となるような濃度で存在してよい。
【0060】
金属銀を含む粒子は、金属銀、銀合金粒子、および特定担体(セラミック物質など)上の金属銀から本質的になる粒子から選択してよい。特に、金属銀から本質的になる粒子によって良好な結果が達成された。
【0061】
粒子の大きさは、とりわけ、意図したコーティングの厚さ、所望の潤滑性および/または所望の耐摩耗性に応じて、広い限界範囲内から選択してよい。
【0062】
一般に、粒径は、意図したコーティングの厚さより薄くすべきである。潤滑性および/または耐摩耗性が良好であるには、粒径は好ましくは意図したコーティングの厚さの半分より小さい。明確に表現すると、潤滑性および/または耐摩耗性が良好であるためには、粒径は3μm以下、特に2μm以下、さらに特に1μm、さらにとりわけ500nm以下が好ましい。粒径は、動的光散乱(配合物の場合)および/または走査型電子顕微鏡法(コーティングまたは配合物の場合)で測定できる。
【0063】
さらに、比較的大きな粒径は、特に目的とするコーティングが比較的厚い場合には、硬化の容易さに関して有利であることが予期される。理論に縛られることはないが、所与の量の粒子では、粒子が比較的大きい場合、(硬化に使用される)電磁放射線と粒子との衝突は少なくなると考えられる。
【0064】
比較的大きな粒子の場合、そうした粒子はX線造影化合物として適しているという点でさらに有利でありうる。
【0065】
比較的大きな粒子は、比較的小さな粒子と比べて放出が持続し、かつ/または一定となりうるということがさらに予期される。
【0066】
上記の考慮事項の1つ以上を考えると、粒径の下限は、少なくとも1nm、少なくとも10nm、少なくとも25nm、少なくとも50nmまたは少なくとも100nmであろう。
【0067】
配合物またはコーティングにおける金属銀を含む粒子の濃度は、広い限界範囲内から選択することができる。金属銀の濃度は、乾燥重量に対して約0.5重量%以上であれば、銀が実質的に放出されるのに十分であり、所望される場合には、さらには約30日間以上の期間にわたって実質的に一定の銀が放出されるのに十分である。特に、銀濃度は、乾燥重量に対して少なくとも1重量%、さらに特に少なくとも2重量%、さらにとりわけ少なくとも4重量%であってよい。放出期間を延ばすには、銀が比較的高濃度であるのが特に好ましい。
【0068】
実際的な理由のため、特に光の作用を受けて配合物が効果的に硬化できるようにするために、金属銀を含む粒子の濃度は好ましくは20重量%以下、特に約15重量%以下である。
【0069】
光開始剤としては、原則として、電磁放射線、特に紫外線、可視光線または赤外線(IR light)の存在下で配合物を硬化させるのに適した任意の光開始剤を使用できる。
【0070】
光開始剤が配合物中に存在する濃度でキャリヤー液に可溶性である光開始剤が特に適している。
【0071】
光化学均一結合開裂(ノリッシュI型(Norrish type I)開裂反応など)、または不均一結合開裂(特に、ノリッシュII型(Norrish type II)開裂)を引き起こすことができる光開始剤が特に適している。
【0072】
ノリッシュI型光開始剤により発色団の均一開裂が引き起こされて、重合を開始させる基が直接生成される。ノリッシュII型光開始剤の場合、水素引き抜きによって好適な協力剤(例えば、第三アミン)から間接的に基が生成される。さらに詳細に言うと、フリーラジカル光開始剤は、一般には開始ラジカルが形成される過程にしたがって2つの部類に分けられる。式(1)に示されるように照射時に一分子の結合開裂が起こる化合物は、ノリッシュI型または均一光開始剤と称される。
【化1】
【0073】
官能基の性質およびカルボニル基を基準にした分子内の位置に応じて、切断は、カルボニル基の隣の結合で起こり得るか(α開裂)、β位の結合で起こり得るか(β開裂)あるいは、(C−S結合またはO−O結合のような)特に弱い結合の場合には、離れた位置のどこかで起こり得る。光開始剤分子におけるもっとも重要な切断は、アルキルアリールケトン中のカルボニル基とアルキル残基との間の炭素−炭素結合のα開裂であり、これはノリッシュI型反応として知られている。
【0074】
励起状態の光開始剤が第2分子(共開始剤(coinitiator)COI)と相互作用して、式(2)に示されているようにして二分子反応でラジカルを生成する場合、開始系はII型光開始剤と称される。一般に、II型光開始剤の場合の2つの主な反応経路は、励起状態にある開始剤または光誘起電子移動による水素引き抜きと、その後の切断である。二分子水素引き抜きは、ジアリールケトンの典型的な反応である。光誘起電子移動は、特定の部類の化合物に限定されないより一般的な過程である。
【化2】
【0075】
好適なI型または開裂フリーラジカル光開始剤の例として、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン(methylolbenzoin)および4−ベンゾイル−1,3−ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール(benzylketals)、α,α−ジアルコキシアセトフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド(acylphosphine sulphides)、ハロゲン化アセトフェノン誘導体などがある。市販の好適なI型光開始剤の例として、イルガキュア(Irgacure)2959(2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン)、イルガキュア651(ベンジルジメチルケタールまたは2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタノン、チバ−ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア184(有効分として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、チバ−ガイギー)、ダロキュア(Darocur)1173(有効分として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チバ−ガイギー)、イルガキュア907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、チバ−ガイギー)、イルガキュア369(有効分として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、チバ−ガイギー)、Esacure KIP 150(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}、Fratelli Lamberti)、Esacure KIP 100F(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとのブレンド、Fratelli Lamberti)、Esacure KTO 46(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−ホスフィンオキシドとメチルベンゾフェノン誘導体とのブレンド、Fratelli Lamberti)、アシルホスフィンオキシド(ルシリン(Lucirin)TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、BASF)、イルガキュア819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−ホスフィン−オキシド、チバ−ガイギー)、イルガキュア1700(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシドおよび2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンの25:75%のブレンド、チバ−ガイギー)など)などがある。I型光開始剤の混合物も使用できる。彩色された(例えば、着色)系の場合、ホスフィンオキシド型の光開始剤およびイルガキュア907が好ましい。
【0076】
好ましい光開始剤は、キャリヤー液に可溶であるか、または調節してキャリヤー液に可溶となるようにすることができる。また好ましい光開始剤は、重合体の光開始剤または重合可能な光開始剤である。
【0077】
良好な結果はノリッシュII型開始剤で達成された。特に良好な結果は、ベンゾフェノンで達成された。適切な開始剤のその他の例としては、ヒドロキシメチルフェニルプロパノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、2−メチル−l−4−(メチルチオ)−フェニル−2−モルホリノ−プロパノン−1,1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシル−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ジエトキシフェニルアセトフェノンなどがある。ベンゾイルジアリールホスフィンオキシド光開始剤などのホスフィンオキシド光開始剤型(例えば、BASFのルシリンTPO)を使用してよい。
【0078】
光開始剤の濃度は、開始剤の効率、所望の重合度およびポリマー(すなわち親水性ポリマー、架橋剤(存在する場合)および重合体の高分子電解質(存在する場合))の量に基づいて決定できる。
【0079】
普通は、開始剤の総濃度はポリマーの全重量に対して10重量%以下である。特に乾燥時間が長く、かつ/または潤滑性が高いことが望ましい場合、好ましくは比較的少ない量の光開始剤を使用し、特に5重量%以下の量、さらに特に4重量%以下の量を使用する。特に良好な結果は、約2重量%以下の量、例えば約1重量%の場合に達成された。
【0080】
普通は、濃度はポリマーの重量に対して少なくとも0.1重量%である。物品の表面への接着を向上させ、かつ/または抽出物の量を少なくするためには、比較的高濃度、特にポリマーの重量に対して少なくとも0.5重量%、さらに特に少なくとも1.0重量%が望ましいことがある。
【0081】
金属銀を含む粒子の分散を促進するため、貯蔵安定性を向上させるため、かつ/または粒子からの銀イオンの放出を調節するために、配合物は、1種または複数種の分散助剤、特に銀粒子または銀イオンとの錯体を形成できる1種または複数種の錯化剤を含んでもよい。そうした錯化剤は、単量体または重合体であってよい。
【0082】
好適な錯化剤としては特に、無機錯化剤(ハロゲンイオン、NH3および、特に塩化アンモニウムなどのハロゲンイオンのアンモニウム塩など);および有機酸(クエン酸塩または乳酸塩など)の陰イオン;およびイオン性銀との可逆錯体(reversible complex)を形成できる他の錯化剤(ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドおよびポリビニルピロリドンのようなポリマー、さらに特に上述の錯化剤のいずれかと同じオーダーの錯体生成定数を有する試剤など)がある。濃度は広い範囲から選択でき、特に乾燥重量に対して0.5〜30重量%の範囲から選択できる。特に効果的な濃度は、銀を含む粒子の濃度およびサイズに基づいて決定できる。
【0083】
金属銀に加えて、抗菌性金属塩が本発明の配合物またはコーティングに存在してよい。そのような金属塩は、金属イオンの放出パターンを調節するのに使用できる。特に金属イオン塩は、コーティングされた物品を使用し始めた後の初期の期間に多量の放出を実現するのに使用できる。好適な金属塩としては、特に銀塩、銅塩、金塩および亜鉛塩がある。臭化物およびヨウ化物にも抗菌活性があるので、臭化物塩およびヨウ化物塩が好ましい。濃度は、広い範囲から選択でき、特に乾燥重量に対して0.5〜15重量%の範囲から、さらに特に乾燥重量に対して1〜10重量%の範囲から選択できる。
【0084】
任意選択的に1種または複数種の添加剤が、本発明の配合物またはコーティングに存在してよい。そのような添加剤は、特に酸化防止剤、界面活性剤、紫外線遮断剤(UV−blockers)、安定剤(垂れ防止剤など)、脱色剤(discolourants)、潤滑剤、可塑剤、有機抗菌性化合物、顔料、および染料から選択できる。そのような成分は、当該技術分野(例えば、上に明らかにした先行技術)において知られているものから選択できる。そのような添加剤が存在する場合、その総濃度は、普通、乾燥重量に対して10重量%未満、特に5重量%以下である。
【0085】
好適な酸化防止剤としては、特に抗酸化ビタミン(ビタミンCおよびビタミンEなど)およびフェノール系酸化防止剤がある。
【0086】
界面活性剤は、イオン性(陰イオン性/陽イオン性)、非イオン性または両性の界面活性剤であってよい。イオン性界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩(ドデシル硫酸ナトリウムなど)、コール酸ナトリウム、ビス(2−エチルヘキシル)スルホスクシネートナトリウム塩、第四アンモニウム化合物(臭化セチルトリメチルアンモニウムまたは塩化セチルトリメチルアンモニウム)、ラウリルジメチルアミンオキシド(lauryldimethylamine oxide)、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩およびデオキシコール酸ナトリウムがある。非イオン性界面活性剤の例としては、アルキルポリグルコシド(alkylpolyglucosides)、分岐第二アルコールエトキシレート、オクチルフェノールエトキシレートがある。存在する場合、界面活性剤の濃度は、普通は液相の0.001〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0087】
配合物は、配合物の他の成分を分散または溶解させるのに十分な量だけキャリヤー液をさらに含む。キャリヤー液の濃度は、普通は、組成物の全重量の少なくとも68重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、さらにより好ましくは少なくとも85重量%である。取扱適性(低粘度)を考慮して、かつ/または所望の厚さのコーティングが得られるように組成物の塗布を促進するために、組成物中の溶剤の量は、好ましくは比較的多い。その理由から、全固形分は好ましくは20重量%以下である。
【0088】
キャリヤー液は、単一の溶剤であるかまたは混合物であってよい。これは、ポリマーがその中に溶解できるか、または少なくとも分散できるようなものを選択する。特に親水性ポリマーを十分に溶解または分散させるために、キャリヤー液は極性液体であることが好ましい。特に、液体は、水に溶ける場合には極性であると考えられる。好ましくは、液体は、水および/または水溶性の有機液体、好ましくはアルコール、より好ましくはC1〜C4のアルコール、特にメタノールおよび/またはエタノールを含む。混合物の場合、水と有機溶媒(特に1種または複数種のアルコール)との比は、約25:75〜75:25、特に40:60〜60:40、さらに特に45:55〜55:45の範囲内であってよい。
【0089】
上述したように、本発明はさらに、物品のコーティング方法およびコーティングされた物品に関する。原則として、配合物は、任意の物品に抗菌性コーティングを施すのに使用できる。特に、配合物は、物品をコーティングするのに使用してよく、物品は医療器具である。さらに特に、物品は、被験者の開口部(耳、口、鼻または尿路など)に使用するためのものであってよい。
【0090】
本発明の好ましいコーティングされた物品としては、カテーテル、内視鏡、喉頭鏡、栄養補給または排液または気管内用あるいは食道用のチューブ、ガイドワイヤ、コンドーム、手袋、創傷被覆材、コンタクト・レンズ、埋没物(implants)、体外の血液導管、骨ねじ、膜(例えば、透析、血液フィルター、循環補助装置用)、縫合糸、繊維、フィラメントおよびメッシュがある。
【0091】
本発明は、比較的長い間銀イオンを放出できるコーティングを提供するので、本発明は、体内に留置するような用途、すなわち、カテーテルなどの物品が、被験者の組織および/または体液と比較的長い間(例えば、数時間を超えて、数日間、数週間または数カ月(一時的)または数年(永続的)までの間)接触するような用途で有利に使用されうる。物品は、取り外されるまで、イオン性銀を放出しながら約1カ月以上にわたって使用することさえできる。
【0092】
抗菌性コーティングは、内部表面(チューブのような中空物品の場合)および/または外面に存在してよい。抗菌機能を与えることを考慮すると、体組織および/または体液と直接接触することが意図される少なくとも表面に、金属銀粒子を含む抗菌性の滑らかなコーティングを施すことが好ましい。
【0093】
コーティングする表面は、原則として任意の物質でできていてよく、特に物品の目的に合った満足な性質を有する任意のポリマーでできていてよい。好適なポリマーとしては特に、PVC、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、例えば、テフロン(teflon(登録商標))、ラテックス、シリコーンポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、特に超高分子ポリエチレンなどがある。
【0094】
所望される場合には、抗菌性コーティングの付着性を向上させるために、表面に前処理(例えば、化学的前処理および/または物理的前処理)を施すことができる。物品の表面の材料および親水性ポリマーの特定の組み合わせに適した前処理は、当該技術分野において知られている。前処理の例としては、プラズマ処理、コロナ処理、ガンマ照射、光照射、化学洗浄(chemical washing)、分極化(polarising)および酸化がある。
【0095】
一実施態様では、物品の表面に最初にプライマー層を施し、その上に抗菌性コーティングを施して本発明によるコーティングされた物品を得る。例えば、国際公開第06/056482号パンフレットに記載されているプライマー層、そのプライマー層に関する内容を本明細書に援用する。
【0096】
本発明の配合物の塗布は、自体の方法で実施できる。硬化条件は、光開始剤およびポリマーに関して知られている硬化条件に基づいて決定できるか、またはごく普通に決定できる。
【0097】
一般に、硬化は周囲温度(約25℃)以下で実施してよいが、原則として、物品およびコーティングの機械的性質または別の性質が許容できないほど悪影響を受けない限り、高温(例えば100℃以下、200℃以下または300℃以下)で硬化させることが可能である。高温で硬化させる理由は、物品の表面へのコーティングの付着の改善であろう。
【0098】
電磁放射線の強度および波長は、一般に好まれる光開始剤に基づいてごく普通に選択できる。特に、スペクトルのUV部分、可視部分またはIR部分の好適な波長を使用してよい。
【0099】
これから本発明を以下の実施例を用いて説明する。
【0100】
[実施例1:配合例]
特に本発明の配合物は、特定の通常の範囲内、または好ましい範囲内で以下の成分を含むことができる。個々の成分について、通常および好ましい下限と上限をそれぞれ互いに組み合わせることができ、かつ/または上の説明および/または特許請求の範囲に記載の1つまたは複数の通常および好ましい下限と上限それぞれを組み合わせることができる。
【0101】
【表1】
【0102】
キャリヤー液は、他の原料成分を溶解または分散させるのに適した量だけ存在する。普通、その濃度は、少なくとも68重量%、特に少なくとも80重量%、さらに特に少なくとも85重量%である。
【0103】
[実施例2:架橋剤の合成]
a)PTGL1000(TDI−HEA)2の合成
乾燥した不活性雰囲気において、トルエンジイソシアネート(TDI、アルドリッチ(Aldrich)、純度95%、87.1g、0.5mol)、イルガノックス(Irganox)1035(チバスペシャルティーケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、0.58g、アクリル酸ヒドロキシエチル(HEA)に対して1%(w/w))およびスズ(II)2−エチルヘキサノエート(シグマ(Sigma)、純度95%、0.2g、0.5mol)を1リットルのフラスコ中に入れ、30分間攪拌した。氷浴を用いて反応混合物を0℃まで冷却した。HEA(アルドリッチ、純度96%、58.1g、0.5mol)を30分間滴加し、その後、氷浴を取り外し、混合物が室温まで温まるようにした。3時間後に反応は完了した。ポリ(2−メチル−1,4−ブタンジオール)−alt−ポリ(テトラメチレングリコール)(Hodogaya、Mn1000g/mol、PTGL、250g、0.25mol)を30分間のうちに滴加した。その後、反応混合物を60℃まで加熱し、18時間攪拌した。そうすると、GPC(HEAが完全に使い果たされたことを示す)、IR(NCOに関連したバンドがないことを示した)およびNCO滴定(NCO含量が0.02%(w/w)未満)によって示されるように反応は完了した。
【0104】
b)PEG−ジ(ウレタンメタクリレート);PEG(UMA)2の合成
50.2g(24.6mmol OH)のPEG(Mn2040g/mol;FlukaのBiochemika Ultra)を、0.1gのイルガノックス1035を含んでいるトルエン200mL中で窒素下において共沸蒸留(azeotropically distilled)した。一晩攪拌した後、0.0975gのオクタン酸第一スズ(Mr405.11;アルドリッチ)を窒素下において43℃で加えた。20mLの乾燥トルエン中に8.40gのkarenz MOI(Mr155.17;昭和電工(Showa Denko))を含んだ溶液を、反応混合物へ攪拌しながら40分間のうちに滴加した。43℃においてさらに3.5時間かけて反応混合物を攪拌した後、アリコートを取り、(TFAAを加えて)NMRで転化率を検査した。転化率が良好な場合、反応混合物を真空下で濃縮しておよそ120mLの容積にした。生成物は、ジエチルエーテルで沈澱させてから、濾過することによって回収した。生成物をさらにジエチルエーテルで洗浄し、室温において真空下(400ミリバール)で乾燥させた。
【0105】
[実施例3:プライマー配合物の組成]
プライマー配合物の組成を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
[実施例4〜10:トップコート配合物の組成]
【0108】
【表3】
【0109】
攪拌しながら室温で化合物を溶剤中に溶かした。最初に、銀粒子以外の化合物を溶剤に加えた。望ましくない粒子の沈殿を避けるため、他の化合物が溶解した後で初めて銀ナノ粒子を加えた。
【0110】
[実施例11:PVCカテーテル]
滑らかな抗菌性コーティングで被覆する基材として、被覆されていないPVCチューブを使用した。PVCチューブは、長さが23cm、外径が4.65mm(14Fr)、内径が3.35mmであった。チューブの一方の側を閉じた。
【0111】
[実施例12:被覆および硬化の手順]
ガイドワイヤをチューブ中に挿入してチューブを固定し、それをHarland PCX コーター/175/24のホルダーに取り付けた。チューブは、96%(w/v)エタノール水溶液(メルク)に浸したレンズ用紙(Whatman)で清浄にした。その後、Harlandコーターを用いてその集成体をプライマーおよびトップコート配合物に浸した。
【0112】
Harland PCXコーター/175/24には、Harland Medical システムUVM 400ランプが備わっていた。Harland PCXコーター/175/24のランプの強度は平均60mW/cm2であり、International Light検出器SED005♯989、Input Optic:W♯11521、フィルター:wbs320♯27794を備えたSolatell Sola Sensor 1を用いて測定した。インターネットのwww.intl−light.comで入手可能なInternational LightのIL1400A取扱説明書を利用した。
【0113】
チューブをプライマー配合物中に10秒間浸し、0.3cm/秒の速度で引き揚げ、0.9J/cm2の総線量で15秒間硬化させた。その後チューブをトップコート配合物中に10秒間浸し、1.5cm/秒の速度で引き揚げ、21.6J/cm2の総線量で360秒間硬化させた。室温で一晩乾燥させた後、コーティングを分析した。
【0114】
使用したコーティングパラメーターを表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
[実施例13]
[a)潤滑性および摩耗の試験]
潤滑性および摩耗の試験をHarland FTS5000摩擦試験機(HFT)で実施した。プロトコルを選択した。HFTの設定値については表Bを参照のこと。摩擦試験機パッドは、Harland Medical Systems,P/N102692,FTS5000摩擦試験機バッド(Friction Tester Pads)、0.125*0.5**0.125,60デュロメーターからのものを使用した。その後、「試験実行」の作動時に所望の試験記述(test description)を挿入した。ガイドワイヤをカテーテルに挿入した後、カテーテルをホルダーに取り付けた。カテーテルが1分間だけ脱イオン水中に浸されるように、その装置を所望の位置まで下げて調節した。水でのゼロ調整(zero gauging)後に、「開始」を押してプロトコルを作動させた。終了後にデータを保存した。ホルダーをフォース・ゲージから取り外し、その後でカテーテルをホルダーから取り外した。
【0118】
【表6】
【0119】
[b)乾燥時間の測定。]
乾燥時間は、本明細書では、時間の関数としての、コーティングされたPVCカテーテル上の滑らかなコーティングの潤滑性の保持性と定義する。これは、Harland FTS摩擦試験機(HFT)において摩擦(g)を時間の関数として測定することにより求める。コーティングされたPVCカテーテル中にガイドワイヤを挿入した後、カテーテルをホルダーに取り付けた。カテーテルを脱イオン水中に1分間浸した。カテーテルが付けられたホルダーをフォース・ゲージに入れ、その装置を所望の位置まで軽く押し下げ、潤滑性試験の場合と同じ設定値にしたがってすぐに試験を開始した。測定は、1、2、5、7.5、10、12.5および15分後に実施した。摩擦試験機のパッドは、毎回の測定後に清浄にし、乾燥させた。終了後にデータは保管した。ホルダーをフォース・ゲージから取り外し、その後にカテーテルをホルダーから取り外した。
【0120】
[実施例14:銀イオン放出の定量化]
図1は銀イオン放出の測定に使用した構成の略図を示す。
【0121】
8本の被覆カテーテル(それぞれ12cm)を2mmのガラス棒の上に置いた。棒をガラスフローチャンバー(glass flow chamber)内に挿入し、ガラス栓で所定の位置に固定した。そのチャンバーに10mM リン酸カリウム緩衝液、150mM NaCl、pH7.0(メルクのPBS緩衝液)を満たした。その後、Gilson 307 HPLCポンプを用いて緩衝溶液をフローチャンバーに流した(0.7mL/分)。溶出液は、Lambda Omnicollフラクションコレクターによって回収した(1フラクション当たり60分)。分析のため、フラクションはHNO3(メルクのsuprapur 65%)で酸性にしてpH1にした。試料は、DIN 38406 E18にしたがって黒鉛炉原子吸光分析で分析した。
【0122】
結果を図4に示す。これらは、実施例14で説明した方法で測定した銀イオン放出データを示す(実施例4(■)対 Tyco Kendallの銀フォーリーカテーテル(◆))。
【0123】
Bardexカテーテルの場合、検出限界が0.5ppbの既述の方法では銀イオン放出は検出できなかった。
【0124】
[実施例15:抗菌活性試験]
[a)コーティング面における細菌付着および殺菌力の測定。]
改良ロビン装置(図6)の弁は、2%(w/v)RBS(オランダ国ブレダのOmnilaboのOmni Clean RBS 35)中で5分間超音波処理し、熱水と冷水を流して洗い、メタノール中に浸し、蒸留水を流して洗い、70%(v/v)エタノール水溶液中に浸し、無菌10mMリン酸カリウム緩衝液、150mM NaCl、pH7.0(PBS緩衝液)ですすいだ。カテーテル部分(2cm)(それぞれのカテーテルの2本)を弁に固定した。
【0125】
表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)3399を血液寒天平板で凍結株(frozen stock)から培養した。前培養物を、5mLのトリプトンソイブイヨン培地(tryptone soy broth medium)(Oxoid)中で成長させた。培養物は、200mLのトリプトンソイブイヨン培地で37℃において一晩かけて前培養物から成長させた。細胞は遠心分離(6000g、5分、10℃)によって回収した。それらを無菌PBS緩衝液で2回洗浄し、無菌PBS緩衝液中に再懸濁させて濃度を5×108細胞数/mLにした。
【0126】
カテーテル部分にこの細菌懸濁液20mLを接種した。振盪(60rpm)しながら37℃で2時間経った後、カテーテル部分を無菌PBS緩衝液中に浸して洗浄した。その後、トリプトンソイブイヨン培地を満たした改良ロビン装置にそれらを入れた。実験の間、改良ロビン装置は37℃に維持し、トリプトンソイブイヨン培地を0.4mL/分の流量でそのシステム全体にかん流させた。
【0127】
48時間後にカテーテル部分を改良ロビン装置から取り外し、無菌PBS緩衝液に浸して浮遊細胞を取り除いた。その後、カテーテル部分を弁から取り外し、バイオフィルムを生死判別キット(Live/Dead viability kit)(Molecular Probes)で染色した。染色されたバイオフィルムを、40倍の水浸対物レンズ(water objective)を備えた共焦点レーザー走査顕微鏡(ライカ(Leica)TCS SP2、ライカマイクロシステムズ(Leica Microsystems))によって分析した。
【0128】
結果を図5Aおよび5Bに示す。図5Aは、銀を含まないコーティング(z:22μm)で被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像を示す。PVC表面は、画像の中間部分におけるある程度平らな灰色の帯である。元のカラー画像では、緑色で示されていた(キットの緑色染料で染色したためである)。バイオフィルムはコーティングの上部にある。バイオフィルムは、死滅細菌(画像の下半分の灰色の斑点;元のカラー画像では赤色で示されている)と生存細菌(画像の下半分の白色の斑点;カラー画像の白黒コピーの描出を向上させるためにコントラストを手作業で調節した。カラー画像では生存細菌は緑色で示されていた)の両方を含んでいる。
【0129】
本発明による銀含有コーティング(z:48μm)で被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像。バイオフィルムはコーティングの上にあった。銀を含まないコーティング(図5A)と比較して、付着細菌の量が減っているのが観察できる。しかも、残っている細胞は死滅している。
【0130】
[b)プレート計数(plate counting)実験によるコーティングの殺菌活性(bacteriocidal activity)およびコーティングへの細菌付着の測定。]
[殺菌活性試験:]
大腸菌(Escherichia coli)ATCC 11105を無菌LB培地で凍結株から培養した。細菌懸濁液は濃度が約2.3×1010CFU/mLであった。この濃度は、生体内における初期感染(beginning infection)の典型的な濃度(103〜104CFU/mL)よりもかなり高いという点が注目される。
【0131】
懸濁液を無菌PBS緩衝液で希釈して、最終濃度が2.3×107CFU/mLのものを得た。この細菌懸濁液40mL中で、5cmのコーティングされたカテーテルを200rpmで振盪しながら20℃において24時間保温した。その後で、懸濁液を連続希釈し、LB寒天で満たされたペトリ皿に蒔いた。37℃で一晩培養した後、寒天上に形成された細菌コロニーを数えた。
【0132】
対照実験(カテーテルを保温しなかった細菌懸濁液)、ならびに2本の被覆されていないPVCチューブ、2本の被覆カテーテル(銀を含まず、その他の点では本発明のカテーテルと同じもの)、2本のBardexカテーテルおよび2本のTyco Kendallカテーテルをそれぞれ用いた比較実験。
【0133】
結果を以下の表に示す。
【0134】
【表7】
【0135】
3つの「CFU」欄は、カテーテルの3つのセクションに対応する皿の中のセクションの細胞数を示している。本発明のコーティングされた物品のみが、カテーテルの全長にわたって実質的にすべての細菌を死滅させるのに効果があったことが示されている。銀を含まない滑らかなコーティングおよびBardexのコーティングでは、対照と比較して細菌の実質的な減少がもたらされなかった。Tyco Kendallのコーティングはある程度効果があると思われたが、両方のTyco Kendallカテーテルにおいて、本発明のコーティングされた物品と比べて抗菌活性の非常に大きな変動が観察された。
【0136】
[細菌付着(+殺菌活性)試験:]
大腸菌(Escherichia coli)ATCC 11105を、無菌LB培地で凍結株から培養した。細菌懸濁液は濃度が約2.3×1010CFU/mLであった。この懸濁液を無菌PBS緩衝液で希釈して、最終濃度が2.3×107CFU/mLのものを得た。この細菌懸濁液40mL中で、2本のコーティングされたカテーテル(長さ5cm)を、200rpmで振盪しながら20℃において4時間保温した。その後、カテーテル部分を細菌懸濁液から取り出し、無菌PBS緩衝液に浸して洗浄した。その後、洗浄したカテーテル部分をペトリ皿中のLB寒天上で転がし、カテーテルと一緒に寒天を37℃で一晩保温した。種々の試料について寒天上に形成されたコロニーの量を比較するために写真を作製した。
【0137】
図7A〜Dはそれぞれ、A)実施例4で説明した滑らかなコーティングを含む(銀は含まない)カテーテルで処理したペトリ皿;B)Aと同様だが、但し銀を含む;C)Bardexの銀フォーリーカテーテルで処理したペトリ皿;D)Tyco Kendallの銀フォーリーカテーテルを示す。本発明のコーティングの抗菌活性が、Tyco KendallカテーテルおよびBardexカテーテルよりもずっと優れていることが示されている。事実、後者は、銀を含まないカテーテルと比べて改善されていることを示さなかった。
【0138】
[実施例16:潤滑性と耐摩耗性;本発明にしたがってコーティングされたカテーテル 対 市販のカテーテル]
実施例13aで説明した試験を用いて、実施例4のカテーテルを、BardexおよびTyco Kendallから販売されている市販の銀被覆フォーリーカテーテルと比較した。結果を図2に示す。本発明のカテーテルの初期摩擦力が市販のものより優れているだけでなく、サイクル数が多くても低い摩擦力(したがって、良好な潤滑性)が保持されることも示されている。
【0139】
[実施例17:潤滑性と耐摩耗性(実施例4〜10のコーティングされた物品に関して)]
図3は、実施例13aで説明された方法のサイクル数の関数として摩擦力を示している。サイクル数が多くても良好な潤滑性が保持されていることが示されている。
【0140】
[実施例18:乾燥時間]
以下の表は、本発明の被覆PVCチューブ(実施例4〜10)、Tyco KendallのカテーテルおよびBardexのカテーテルに関して、実施例13bで説明された方法で測定された乾燥時間を示している。
【0141】
【表8】
【0142】
[実施例19:PEG(UMA)2を含むトップコート配合物の加水分解安定性]
PEG(UMA)2を架橋剤として含むトップコート配合物(表3の組成物を参照)を褐色瓶に入れ、50℃で18日間保温した。試料は、0、2、7および18日後に取り出して、HPLC−DAD−MSを用いて分析した。
【0143】
HPLC−DAD−MS手順:試験試料を水に溶解させ(1000〜2000ppm)、HPLCで分離し、ダイオードアレイ検出(DAD)および質量分析(MS)で検出した。HPLC−DAD−MSの指定条件:
− 流量:0.5mL/分
− 移動相:A=0.1%のギ酸、B=アセトニトリル中0.1%のギ酸
− 勾配:t=0分:2%B、t=5分:2%B、t=45分:98%B、t=60分:98%B、t=61分:2%B
− カラム温度:40℃
− 注入量:5μL
− DAD:190〜600nmのスペクトル(増分2nm)を記録し、195、200、210、230および254nmにおけるスペクトルを収集した。
− ES(+)−MS検出:m/z 50〜1500、50V frag、10L/分、50psig neb、350℃、2.5kV。
【0144】
表8では、PEG(UMA)2の量が保温時間との関係で示されており、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG4000DA、国際公開第06/056482A1号パンフレットに記載されたPEG(Mr3500〜4500、FlukaのBiochemika Ultra)合成からのもの)の量と比較されている。
【0145】
【表9】
【0146】
結果では、PEG(UMA)2はPEG4000DAと比べて加水分解安定性が向上していることが分かる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、抗菌剤を含む親水性コーティングを作製するための配合物、物品をコーティングするための方法、およびコーティングされた物品、特にカテーテルなどの医療器具に関する。
【0002】
侵襲性の医療器具を用いることによって生じる合併症の非常に深刻なよくある原因の中に、一時的または永続的な埋め込みの結果として生じる感染がある。カテーテルおよび血管装置のような医療用物品を埋め込むかまたは挿入する処置の間に、粘膜または内皮あるいは実にどんな生物学的な対抗面(counter surface)でも損傷することが多く、その結果として微生物感染が起こる。したがって、微生物感染を最小限に抑えようとする場合、潤滑性、潤滑性の持続(乾燥時間(dry−out time))、強靭性(耐摩耗性)ならびに所望の抗微生物性を兼ね備えることが重要である。ヒドロゲルコーティングの潤滑性の消失は、ヒドロゲルが早く乾燥することが原因で起こり得るものであり、早く乾燥すると、潤滑特性(lubricious properties)が失われ、その結果として生物学的対抗面が損傷する。
【0003】
抗菌剤が施された物品(特に医療器具)が幾つかの刊行物に開示されている。有機抗菌剤に加えて、イオン性銀(ionic silver)も抗菌剤として報告されている。例えば、国際公開第02/07002号パンフレットは、銀イオンまたは別の抗菌剤を含む滑らかな抗菌性コーティングを表面に施す方法を記載している。国際公開第02/07002号パンフレットに記載されているコーティングは、最初にポリマー層を表面に施すことによって作製される。その後、ポリマー層は銀が結合できるよう処理される。金属銀を含むコーティングを物品に施すことは開示されておらず、まして金属銀粒子を単独で施すことも、銀の存在下でポリマー層を形成することも開示されていない。
【0004】
米国特許出願公開第2003/0044451号明細書は、熱硬化される、シリコーンとウレタンとを含む柔軟なコーティングを記載している。そのコーティングは抗菌剤(例えば、銀塩)を含んでよいことが記載されている。米国特許出願公開第2003/0044451号明細書は、コーティングに金属銀を与える方法を明らかにしておらず、金属銀を含む滑らかなコーティングも開示されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2001/0051669号明細書は医療用物品の潤滑剤組成物に関するものである。とりわけ、その組成物は、イソシアネート末端プレポリマー、ポリマーおよび薬理学的な添加剤を含む。その添加剤は、銀などの抗菌剤であってよい。コーティング方法は、プレポリマーを熱硬化させることを含む。
【0006】
金属銀でコーティングされた医療器具が、米国特許出願公開第2002/0094322号明細書に開示されている。銀は、基材上の第1の層として施されている。この層は、第2の層(ヒドロゲル)で覆われており、ヒドロゲルはクロルヘキシジンなどの有機抗菌剤を含む。ヒドロゲルは摩擦を減らす働きをする。この方法は、銀を施すコーティングステップと潤滑性を与えるコーティングステップが別々に必要とされるので、やや複雑である。さらに、光開始剤の使用が記載されていない。
【0007】
米国特許出願公開第2003/0198821号明細書では、医療器具上に直接銀を析出させる場合に、析出させるかまたは保持する銀の量を制御するのが困難であることが報告されている。物品の表面からの銀の放出を制御するのが困難であり、正確な持続投与が難しくなることも記載されている。米国特許出願公開第2003/0198821号明細書は、銀塩コロイドを含むプライマー層でシリコーンカテーテルをコーティングすることを提案している。さらに、シランポリマーコーティングが施される。このコーティングステップは熱硬化を伴う。
【0008】
米国特許出願公開第2005/0004525号明細書は、導尿カテーテルとレッグバッグ(leg bag)との間の付属物の接続に関するものである。その付属物は、抗菌性組成物を含んでいるフィルターが存在するスリーブを含む。さらに、スリーブの内部を抗菌性コーティングで被覆してよい。抗菌性組成物はナノサイズの銀粒子を含むことができる。この刊行物は、光開始(photo−initiation)によって硬化される親水性ポリマーを含むコーティングを開示していない。
【0009】
潤滑剤は、表面を滑らかにするため、細胞接着が抑止されるくらいまで存在してよい。すなわち潤滑剤は汚損を減らすのに寄与する。この刊行物は、機械的な意味で滑らかなコーティング、すなわち耐摩耗性が向上していて、挿入時に接触する組織に重大な損傷を引き起こすことなく、物品(特にカテーテル)を患者(例えば血管または尿路)に挿入できるようになっているコーティングを含む物品を扱っていない。
【0010】
市販の銀コーティングされたフォーリーカテーテルがBardexおよびTyco Kendallによって販売されている。以下の例によって示されているように、これらのカテーテルは、濡れた後の潤滑性が望ましくないほど低く、乾燥時間が短く、かつ/または耐摩耗性が低いことが見出された。さらに、潤滑性はカテーテルによって大きく異なることが見出された。銀粒子が存在すると、コーティングが粗くなり、そのために滑らかさが減少すると考えられる。その上、黒鉛炉原子吸光分析(GF−AAS)による、水環境へのイオン性銀の放出を測定する放出試験によると、二重コーティングされたBardexのカテーテルでは検出可能な量の銀は放出されないことが明らかになった。二重コーティングされたTyco Kendallのカテーテルの場合、銀の放出は比較的少ないことが分かった。
【0011】
本発明の1つの目的は、物品に抗菌性コーティングを施すための新規の配合物、そのような配合物で物品をコーティングする新規の方法、および抗菌性コーティングが施された新規の物品をそれぞれ提供することである。
【0012】
さらなる目的は、潤滑性と抗菌活性の両方が好ましくは単一の機能層によって与えられる、そのような配合物、方法、物品をそれぞれ提供することである。
【0013】
さらなる目的は、物品のすべての表面(すなわち内面と外面)のコーティングを可能にする方法を提供することである。
【0014】
さらなる目的は、比較的低温(例えば、室温)で物品をコーティングするのに使用することもできるそのような配合物を提供することである。これは特に、感光性成分を含むコーティングで被覆された物品および/または熱安定性が比較的低い物品、特に、コーティングの熱硬化および/または加熱乾燥に通常用いられる温度でその性質が悪影響を受ける物品にとって望ましいであろう。そのような物品の例として、高温で寸法安定性または機械的安定性が十分でない材料から作られた物品(溶けるかまたは軟らかくなりすぎる物品など)あるいは高温で化学的安定性が十分でない物品(劣化するか、酸化される材料、または熱によって材料中の成分の吹出しが物品の表面に生じるような材料から作られた物品など)がある。
【0015】
さらなる目的は、銀を長期間放出することができ、かつ/または銀を制御された方法で放出することができる、物品をコーティングするための配合物およびコーティングされた物品をそれぞれ提供することである。
【0016】
本発明にしたがって解決されうる1つまたは複数の目的は、説明の残りの部分および/または特許請求の範囲から明らかであろう。
【0017】
このほど、特定の配合物、特に特定の方法で硬化させることができる親水性ポリマーを含む配合物を提供することにより、本発明の根底にある1つまたは複数の目的が達成されることが見出された。
【0018】
したがって、本発明は、抗菌性親水性コーティングを作製するための配合物に関し、その配合物は、親水性ポリマー;光開始剤;金属銀(すなわちAg°)を含んでいる粒子;およびキャリヤー液(carrier liquid)を含む。
【0019】
本発明はさらに、本発明による配合物を物品の少なくとも1つの表面に施し;配合物を電磁放射線にさらして光開始剤を活性化させることによってポリマーを硬化させることを含む、コーティングされた物品を作製するための方法に関する。
【0020】
本発明はさらに、表面に親水性コーティングを含む物品、特に本発明による方法によって得られるコーティングされた物品であって、コーティングが硬化親水性ポリマーと金属銀(Ag°)を含む粒子とを含んでいる、物品に関する。
【0021】
本発明はさらに、医療用途向けの本発明の配合物に関する。特に、配合物は、感染、例えば、カテーテル関連感染(カテーテル関連の尿路感染およびカテーテル関連の血流感染など)の危険を減らすための、あるいは尿路の合併症、心臓血管(cardiovascular vessel)の合併症、腎臓感染、血液感染(敗血症)、尿道損傷、皮膚の損傷、膀胱結石および血尿からなる群から選択される疾患の治療のための組成物(特にコーティング)の製造に使用してよい。
【0022】
本発明はさらに、細菌付着を減少させるかまたは殺菌剤として機能させるために、本発明による配合物または本発明による配合物を硬化させて得られるコーティングを使用することに関する。配合物またはコーティングは、生体外または生体内で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コーティングされたカテーテルからの銀イオンの放出を測定するのに用いる構成の略図である。
【図2】本発明のコーティングされたカテーテルと2種類の市販のカテーテルの摩擦力(friction force)を比較したものである。
【図3】本発明の幾つかのコーティングされたカテーテルの摩擦力を示す。
【図4A】本発明のコーティングされたカテーテルおよび1つの市販のカテーテルの銀放出データを時間の関数として示す。
【図4B】本発明のコーティングされたカテーテルおよび1つの市販のカテーテルの銀放出データを時間の関数として示す。
【図5A】銀を含まないコーティングで被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像を示す。
【図5B】本発明による銀含有コーティングで被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像を示す。
【図6】改良ロビン装置(modified Robbins Device)を略図的に示す。
【図7A】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【図7B】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【図7C】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【図7D】本発明によるコーティングの抗菌活性を、銀を含まないコーティングおよび銀を含んでいる2種類の市販のコーティングと比較して示した写真である。
【0024】
典型的には、本発明の物品では、銀を含む粒子がポリマー中に分散させられている。コーティングを生じさせるのに適した配合物であって、(i)金属銀の粒子の存在によって付与される抗菌活性と(ii)挿入時に、被験者にとって許容できないレベルの不快感も物品がぶつかる組織への損傷も引き起こすことのない、動物(人間を含む)に挿入する際の十分または向上さえした潤滑性(または高い耐摩耗性)の両方が単一層によって提供され;さらに(iii)必要に応じてそのコーティングが、被験者への挿入/埋め込みを容易にする十分長い乾燥時間を有するような、コーティングを生じさせるのに適した配合物を提供できることは意外なことである。そもそも、粒状物質を滑らかなコーティングに含めることは、一般には機械的な潤滑性および/または耐摩耗性にとって不利であると考えられている。
【0025】
光開始を利用してポリマーを硬化させることによってそのようなコーティングを生じさせることができることは特に意外なことである。金属銀は公知の光活性物質であるため、抗菌性がありかつ滑らかな、金属銀を含む有利なコーティングがこのようにして得られることは予想外のことである。
【0026】
本発明者らは、光開始剤を使用してコーティングを施すことは、高温で熱硬化させ、かつ/または乾燥させることができるほど十分な耐熱性のない物質を含む物品を、コーティングすることができるという点で有利であるということに気付いた。
【0027】
本発明者らはさらに、耐熱性がある物品をコーティングする場合も熱硬化/乾燥は不利でありうると考えている。加熱の結果として、物品中の1種または複数種の添加剤(特に、1種または複数種の可塑剤)は物品の表面に、たぶんコーティング中またはコーティング全体にさえ移動し、それによってコーティングの性質に影響を及ぼすことがあり、かつ/または(物品が患者の体内にあるか、または患者の体と接触する場合には)内科的合併症をもたらしうることが予期される。例えば、可塑剤が物品表面に移動する結果として吹出しが起こりうる。配合物はまた、高温にしなくてもコーティングを施すのに使用できるので、本発明の方法ではそのような危険がなくなるか、または少なくとも減少する。
【0028】
さらに、光硬化により、銀を含む粒子の存在下においても良好な潤滑性および/または耐摩耗性を有する有利なポリマー網状組織(特にグラフトおよび/または架橋を含むそのような網状組織)が提供されることが予期される。
【0029】
さらに、本発明の配合物は、先行技術による銀コーティングされた物品(銀を含む市販のカテーテルなど)と比較して、イオン性銀が持続放出される抗菌性コーティングを物品に施すのに適していることが見出された。
【0030】
さらに、実質的にゼロ次放出パターンで(少なくとも、そのような放出に達するのに必要な比較的短い初期期間の後)かなり長期間(例えば、約1000時間以上)にわたってイオン性銀を放出するコーティングを施すことができることが見出された。例えば、本発明のカテーテルでは、コーティングからの銀イオンの放出が始まった後、150時間から2500時間の間の期間、実質的にゼロ次放出を示すことが示されている図4を参照されたい。
【0031】
「ポリマー」という用語は、本明細書では2個以上の反復単位を含む分子に使用されている。特に、それは同じであっても異なっていてもよい2個以上のモノマーから構成されうる。本明細書で使用されるこの用語は、オリゴマーおよびプレポリマーを含む。普通、ポリマーの数平均重量は約500g/mol以上、特に約1000g/mol以上であるが、ポリマーが比較的小さいモノマー単位で構成されており、かつ/または単位の数が比較的少ない場合、モル質量は低くなりうる。ポリマーという用語はオリゴマーを含む。1つまたは幾つかの単位が取り除かれるとその性質が実際に大きく変化する場合、ポリマーはオリゴマーと考えられる。
【0032】
「硬化」という用語は、配合物によって堅いまたは固いコーティングが形成されるように配合物を処理する任意の方法を含む。特に、この用語は、親水性ポリマーがさらに重合するような処理が、グラフトポリマーを形成するようにグラフトによって、および/または架橋ポリマーを形成するように架橋によってもたらされることを含む。
【0033】
慣例に従って、「1つ(a)」の部分または「その(the)」の部分(例えば、1つの化合物、例えば、1つの(親水性)ポリマー、1つの高分子電解質、1つの開始剤)に言及する場合、それは1種または複数種の前記部分を指すことを意味する。
【0034】
本発明との関連においては、カテーテルなどの医療器具の(外側)表面上のコーティングは、(濡れているときに)損傷をもたらすことなく、かつ/または許容できないレベルの痛みを被験者に引き起こすことなく、目的とする身体部分内に挿入できる場合に滑らかであると見なされる。特に、Harland FTS摩擦試験機で測定した場合に、摩擦が20g以下(締め付け力(clamp−force)が300gおよび引張速度が1cm/秒)、好ましくは15g以下であるときに、コーティングは滑らかであると見なされる。手順は実施例に示されているとおりである。
【0035】
「濡れた」という用語は一般に当該技術分野において知られており、広い意味では「水を含む」ことを意味する。特にこの用語は、本明細書においては、滑らかになるように十分な水を含んでいるコーティングを説明するのに用いられる。水濃度に関して言えば、普通は濡れたコーティングは、コーティングの乾燥重量に対して少なくとも10重量%の水、好ましくはコーティングの乾燥重量に対して少なくとも50重量%、より好ましくはコーティングの乾燥重量に対して少なくとも100重量%を含む。例えば、特に本発明の実施態様では、水吸収量として約300〜500重量%の水が実現可能である。
【0036】
本発明との関連においては、乾燥時間とは、(装置が貯蔵/濡れた状態にされていた)湿潤液体から装置を取り出した後にコーティングが滑らかなままの状態である期間である。乾燥時間は、Harland摩擦試験機上でカテーテルが空気(22℃、35%RH)にさらされた時間の関数として摩擦(グラム)を測定することによって求めることができる。乾燥時間は、摩擦が20g以上、あるいはより厳格な試験では15g以上の値に達する時点である。
【0037】
親水性ポリマーとしては、原則として、滑らかな親水性コーティングを得るのに適した任意のポリマーを使用してよい。特に、光開始剤の存在下で重合可能、グラフト化可能(graftable)および/または架橋性であるようなポリマーが適している。
【0038】
一般にそのような親水性ポリマーは、数平均モル質量が約1000〜5000000g/molの範囲であってよい。好ましくは、モル質量は少なくとも20000、より好ましくは少なくとも100000である。モル質量は、2000000以下、特に1300000g/mol以下であるのが有利である。モル質量は、光散乱によって測定された値である。
【0039】
ポリマーは、例えば、プレポリマー、すなわち1つまたは複数の重合可能基、特に1つまたは複数のラジカル重合可能基(1つまたは複数のビニル基など)を含むポリマーであってよい。
【0040】
架橋網状組織(cross−linked network)となるようにするため、分子当たりの反応性基の平均数が1より大きいプレポリマーが特に好適である。好ましくは反応性基の平均数は少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.5、特に少なくとも2.0である。好ましくは基の平均数は64以下、より好ましくは15以下の範囲、特に8以下の範囲、さらに特に7以下である。
【0041】
しかし、重合可能基を含まないポリマーも光開始剤の存在下で、特に配合物を光にさらしたときにグラフトの形成によって硬化されうる。
【0042】
好ましい実施態様では、配合物は、ポリ(ラクタム)(特にポリビニルピロリドン);ポリウレタン;アクリル酸およびメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマー;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;マレイン酸無水物をベースにしたコポリマー;ポリエステル;ビニルアミン(vinylamines);ポリエチレンイミン;ポリエチレンオキシド;ポリ(カルボン酸);ポリアミド;ポリ酸無水物;ポリホスファゼン;セルロース誘導体(特にメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)および他の多糖類(特にキトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ゼラチン、キチン、ヘパリン、デキストラン);コンドロイチン硫酸;(ポリ)ペプチド/タンパク質(特にコラーゲン、フィブリン、エラスチン、アルブミン);ポリエステル(特にポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン);およびポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくとも1種の親水性ポリマーを含む。好ましくは、配合物は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド(PEO/PEG)およびポリプロピレンオキシドより選択される少なくとも1種のポリマーを含む。
【0043】
特に、コーティングへの細菌の付着を減らすために、配合物またはコーティングは好ましくはポリエチレンオキシドを含む。したがって、そのようなポリマーは、銀イオンの放出に由来する抗菌活性と相まって、さらなる抗菌効果の向上に寄与しうる。
【0044】
特にポリビニルピロリドン(PVP)および同じ部類のポリマーの場合、少なくともK15、さらに特にK30、さらにとりわけK80に相当するモル質量を有するポリマーが好ましい。特に良好な結果は、少なくともK90に相当するモル質量を有するポリマーで達成された。上限に関しては、K120以下、特にK100が好ましい。K値は、Viscotek Y501自動化相対粘度計(automated relative viscometer)のW1307方式の改訂5/2001によって測定可能な値である。このマニュアルは、www.ispcorp.com/products/hairscin/index_3.htmlに見出せるであろう。
【0045】
(乾燥)コーティングにおける親水性ポリマーの濃度は、普通は、乾燥コーティングの全重量に対して少なくとも1重量%、特に少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも10重量%である。普通は、濃度は90重量%以下であるが、その濃度はもっと高くてもよい。好ましくは、濃度は80重量%以下、特に70重量%以下、60重量%以下または50重量%以下である。
【0046】
コーティング中に高分子電解質(さらなる親水性ポリマーであってよい)が存在することが好ましいが、それは乾燥時間に対して有益な影響があるためである。照射時に基を形成できる化合物を使用することは、高分子電解質を含むコーティング、特に高分子電解質と親水性ポリマー(上述のもの)の両方を含むコーティングの滑らかさ/乾燥時間を向上させる上で有利であることが特に見出された。
【0047】
本明細書では、高分子電解質は、構成単位を含む高分子(5から100%の間の構成単位がイオン基またはイオン化可能基、あるいはその両方を含む)から構成されている、線状のもの、分岐のものまたは架橋されたものであってよいポリマーと定義される。構成単位は、反復単位(例えば、モノマー)であってよい。
【0048】
高分子電解質は、好ましくは、光散乱で測定した場合の数平均モル質量が1000〜5000000g/molの範囲である。
【0049】
存在してよいイオン基またはイオン化可能基の例として、アミン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、硫酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基およびホスフェート基がある。
【0050】
好ましくは、高分子電解質は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、マレイン酸、スルホン酸、スチレン酸(styrenic acid)、フマル酸、第四アンモニウム塩およびそれらの混合物および/または誘導体のホモポリマーおよびコポリマー(の塩)からなる群から選択される。
【0051】
存在する場合、高分子電解質の濃度は、普通は1〜90重量%の範囲である。好ましくは、濃度は少なくとも5重量%、特に少なくとも10重量%である。好ましくは、濃度は、50重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。重量パーセントは、コーティングの乾燥重量に対するものである。
【0052】
高分子電解質は好ましくは、本質的にイオン基を含まない親水性ポリマー(PVPまたは上述の他の非イオン性/イオン化可能親水性ポリマーなど)と一緒に存在する。本明細書では、他のポリマーは高分子電解質のための親水性支持網状組織として働くことができる。その利点は、コーティングの安定性が増大することである。特に、高分子電解質がコーティングから漏出する傾向がこのようにして減少する。さらに、2種以上のそのようなポリマーを組み合わせると、潤滑性(特に平滑性)および乾燥時間の両方に関して有利である。
【0053】
高分子電解質と他の親水性ポリマーとの重量比は、好ましくは1:90〜9:1、より好ましくは1:30〜1:1、さらにより好ましくは1:10〜1:5の範囲である。
【0054】
任意選択的に、配合物は架橋剤を含む。架橋剤は、配合物から作製されるコーティングの1つまたは複数の性質に影響を与えうる。特にこれは、銀および/または別の抗菌剤の放出パターンの調節を可能にするポリマー網状組織の形成に寄与しうる。さらに、架橋剤は、コーティング中に残るべき1種または複数種の成分(高分子電解質など)がコーティングから浸出する傾向の減少したコーティングを形成するのに役立ちうる。さらに、物品へのコーティングの付着が向上しうる。
【0055】
架橋剤は、普通は、2つ以上の官能基(ラジカル重合可能な基など)を含む化合物である。そのようなラジカル反応性の重合可能基は、アルケン、アミノ、アミド、スルフヒドリル(SH)、不飽和エステル、不飽和ウレタン、不飽和エーテル、不飽和アミド、およびアルキド/乾燥樹脂からなる群から選択することができる。
【0056】
特に好適なのはビニル基を含む架橋剤である。そのような架橋剤は、一般式G−(CR=CH2)n(式中、Gは、原則として、ビニル基が結合できる任意の部分(特に、1つまたは複数のヘテロ原子を含んでよい任意選択的に置換された任意の炭化水素)であってよく、nはビニル基の数であり、Rは水素であるかまたは置換および非置換の炭化水素(任意選択的に1つまたは複数のヘテロ原子を含む)から選択される基、特に水素またはCH3である)によって表わされうる。
【0057】
本発明の1つの実施態様では、Gは、少なくともn個の官能基を有する多官能性化合物の残基であり、多官能性化合物は、好ましくはポリエーテル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリエポキシド、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル、ポリ(メタ)アクリロニクス(poly(meth)acrylonics)、ポリオキザゾリン(polyoxazolines)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミンおよび多糖類(セルロース、デンプンなど)(それらのコポリマーを含む)からなる群から選択される。Gは、より好ましくは、少なくとも1個のポリエチレンオキシドおよび/または少なくとも1個のポリプロピレンオキシドを含む、オリゴマーまたはポリマーである。そのようなポリマーはコーティングの汚損の減少に寄与することができ、そのことはコーティングの抗菌性に関して有利でありうる。特に好適なのは、少なくとも1個のウレタン基および少なくとも1個の(メタ)アクリレート基、好ましくはメタクリレート基、すなわちウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはウレタンメタクリレートを含む架橋剤であるが、これはそれらの加水分解安定性が比較的大きいためである。
【0058】
加水分解安定性のゆえに、ウレタン(メタ)アクリレート、特にウレタンメタクリレートの使用により、他の親水性コーティング(すなわち、Ag粒子を含まないもの)でも利点がもたらされる。したがって本発明はまた、親水性ポリマー(好ましくは上に記載した親水性ポリマーの群から選択される親水性ポリマー);光開始剤;ウレタン(メタ)アクリレート(好ましくはウレタンメタクリレート)、およびキャリヤー液を含む配合物に関する。ウレタン(メタ)アクリレートは、少なくとも1個のウレタン基および少なくとも1個の(メタ)アクリレート基を含む任意の分子であってよい。好適なウレタン(メタ)アクリレートは、実施例に示すように、例えば、ポリオール(例えば、ポリエーテルポリオール)を、少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のイソシアネート基とを含む化合物か、あるいはポリイソシアネートおよび少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のヒドロキシル基とを含む化合物と反応させることにより調製できる。
【0059】
架橋剤の濃度は、意図する結果に応じて広い限界範囲内から選択できる。特に、それは、親水性ポリマーと架橋剤の重量比が1:9〜9:1の範囲となるような濃度で存在してよい。
【0060】
金属銀を含む粒子は、金属銀、銀合金粒子、および特定担体(セラミック物質など)上の金属銀から本質的になる粒子から選択してよい。特に、金属銀から本質的になる粒子によって良好な結果が達成された。
【0061】
粒子の大きさは、とりわけ、意図したコーティングの厚さ、所望の潤滑性および/または所望の耐摩耗性に応じて、広い限界範囲内から選択してよい。
【0062】
一般に、粒径は、意図したコーティングの厚さより薄くすべきである。潤滑性および/または耐摩耗性が良好であるには、粒径は好ましくは意図したコーティングの厚さの半分より小さい。明確に表現すると、潤滑性および/または耐摩耗性が良好であるためには、粒径は3μm以下、特に2μm以下、さらに特に1μm、さらにとりわけ500nm以下が好ましい。粒径は、動的光散乱(配合物の場合)および/または走査型電子顕微鏡法(コーティングまたは配合物の場合)で測定できる。
【0063】
さらに、比較的大きな粒径は、特に目的とするコーティングが比較的厚い場合には、硬化の容易さに関して有利であることが予期される。理論に縛られることはないが、所与の量の粒子では、粒子が比較的大きい場合、(硬化に使用される)電磁放射線と粒子との衝突は少なくなると考えられる。
【0064】
比較的大きな粒子の場合、そうした粒子はX線造影化合物として適しているという点でさらに有利でありうる。
【0065】
比較的大きな粒子は、比較的小さな粒子と比べて放出が持続し、かつ/または一定となりうるということがさらに予期される。
【0066】
上記の考慮事項の1つ以上を考えると、粒径の下限は、少なくとも1nm、少なくとも10nm、少なくとも25nm、少なくとも50nmまたは少なくとも100nmであろう。
【0067】
配合物またはコーティングにおける金属銀を含む粒子の濃度は、広い限界範囲内から選択することができる。金属銀の濃度は、乾燥重量に対して約0.5重量%以上であれば、銀が実質的に放出されるのに十分であり、所望される場合には、さらには約30日間以上の期間にわたって実質的に一定の銀が放出されるのに十分である。特に、銀濃度は、乾燥重量に対して少なくとも1重量%、さらに特に少なくとも2重量%、さらにとりわけ少なくとも4重量%であってよい。放出期間を延ばすには、銀が比較的高濃度であるのが特に好ましい。
【0068】
実際的な理由のため、特に光の作用を受けて配合物が効果的に硬化できるようにするために、金属銀を含む粒子の濃度は好ましくは20重量%以下、特に約15重量%以下である。
【0069】
光開始剤としては、原則として、電磁放射線、特に紫外線、可視光線または赤外線(IR light)の存在下で配合物を硬化させるのに適した任意の光開始剤を使用できる。
【0070】
光開始剤が配合物中に存在する濃度でキャリヤー液に可溶性である光開始剤が特に適している。
【0071】
光化学均一結合開裂(ノリッシュI型(Norrish type I)開裂反応など)、または不均一結合開裂(特に、ノリッシュII型(Norrish type II)開裂)を引き起こすことができる光開始剤が特に適している。
【0072】
ノリッシュI型光開始剤により発色団の均一開裂が引き起こされて、重合を開始させる基が直接生成される。ノリッシュII型光開始剤の場合、水素引き抜きによって好適な協力剤(例えば、第三アミン)から間接的に基が生成される。さらに詳細に言うと、フリーラジカル光開始剤は、一般には開始ラジカルが形成される過程にしたがって2つの部類に分けられる。式(1)に示されるように照射時に一分子の結合開裂が起こる化合物は、ノリッシュI型または均一光開始剤と称される。
【化1】
【0073】
官能基の性質およびカルボニル基を基準にした分子内の位置に応じて、切断は、カルボニル基の隣の結合で起こり得るか(α開裂)、β位の結合で起こり得るか(β開裂)あるいは、(C−S結合またはO−O結合のような)特に弱い結合の場合には、離れた位置のどこかで起こり得る。光開始剤分子におけるもっとも重要な切断は、アルキルアリールケトン中のカルボニル基とアルキル残基との間の炭素−炭素結合のα開裂であり、これはノリッシュI型反応として知られている。
【0074】
励起状態の光開始剤が第2分子(共開始剤(coinitiator)COI)と相互作用して、式(2)に示されているようにして二分子反応でラジカルを生成する場合、開始系はII型光開始剤と称される。一般に、II型光開始剤の場合の2つの主な反応経路は、励起状態にある開始剤または光誘起電子移動による水素引き抜きと、その後の切断である。二分子水素引き抜きは、ジアリールケトンの典型的な反応である。光誘起電子移動は、特定の部類の化合物に限定されないより一般的な過程である。
【化2】
【0075】
好適なI型または開裂フリーラジカル光開始剤の例として、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン(methylolbenzoin)および4−ベンゾイル−1,3−ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール(benzylketals)、α,α−ジアルコキシアセトフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、アシルホスフィンスルフィド(acylphosphine sulphides)、ハロゲン化アセトフェノン誘導体などがある。市販の好適なI型光開始剤の例として、イルガキュア(Irgacure)2959(2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン)、イルガキュア651(ベンジルジメチルケタールまたは2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタノン、チバ−ガイギー(Ciba−Geigy))、イルガキュア184(有効分として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、チバ−ガイギー)、ダロキュア(Darocur)1173(有効分として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チバ−ガイギー)、イルガキュア907(2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、チバ−ガイギー)、イルガキュア369(有効分として2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタン−1−オン、チバ−ガイギー)、Esacure KIP 150(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}、Fratelli Lamberti)、Esacure KIP 100F(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンとのブレンド、Fratelli Lamberti)、Esacure KTO 46(ポリ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパン−1−オン}と2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−ホスフィンオキシドとメチルベンゾフェノン誘導体とのブレンド、Fratelli Lamberti)、アシルホスフィンオキシド(ルシリン(Lucirin)TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、BASF)、イルガキュア819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−ホスフィン−オキシド、チバ−ガイギー)、イルガキュア1700(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシドおよび2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンの25:75%のブレンド、チバ−ガイギー)など)などがある。I型光開始剤の混合物も使用できる。彩色された(例えば、着色)系の場合、ホスフィンオキシド型の光開始剤およびイルガキュア907が好ましい。
【0076】
好ましい光開始剤は、キャリヤー液に可溶であるか、または調節してキャリヤー液に可溶となるようにすることができる。また好ましい光開始剤は、重合体の光開始剤または重合可能な光開始剤である。
【0077】
良好な結果はノリッシュII型開始剤で達成された。特に良好な結果は、ベンゾフェノンで達成された。適切な開始剤のその他の例としては、ヒドロキシメチルフェニルプロパノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、2−メチル−l−4−(メチルチオ)−フェニル−2−モルホリノ−プロパノン−1,1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシル−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、ジエトキシフェニルアセトフェノンなどがある。ベンゾイルジアリールホスフィンオキシド光開始剤などのホスフィンオキシド光開始剤型(例えば、BASFのルシリンTPO)を使用してよい。
【0078】
光開始剤の濃度は、開始剤の効率、所望の重合度およびポリマー(すなわち親水性ポリマー、架橋剤(存在する場合)および重合体の高分子電解質(存在する場合))の量に基づいて決定できる。
【0079】
普通は、開始剤の総濃度はポリマーの全重量に対して10重量%以下である。特に乾燥時間が長く、かつ/または潤滑性が高いことが望ましい場合、好ましくは比較的少ない量の光開始剤を使用し、特に5重量%以下の量、さらに特に4重量%以下の量を使用する。特に良好な結果は、約2重量%以下の量、例えば約1重量%の場合に達成された。
【0080】
普通は、濃度はポリマーの重量に対して少なくとも0.1重量%である。物品の表面への接着を向上させ、かつ/または抽出物の量を少なくするためには、比較的高濃度、特にポリマーの重量に対して少なくとも0.5重量%、さらに特に少なくとも1.0重量%が望ましいことがある。
【0081】
金属銀を含む粒子の分散を促進するため、貯蔵安定性を向上させるため、かつ/または粒子からの銀イオンの放出を調節するために、配合物は、1種または複数種の分散助剤、特に銀粒子または銀イオンとの錯体を形成できる1種または複数種の錯化剤を含んでもよい。そうした錯化剤は、単量体または重合体であってよい。
【0082】
好適な錯化剤としては特に、無機錯化剤(ハロゲンイオン、NH3および、特に塩化アンモニウムなどのハロゲンイオンのアンモニウム塩など);および有機酸(クエン酸塩または乳酸塩など)の陰イオン;およびイオン性銀との可逆錯体(reversible complex)を形成できる他の錯化剤(ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドおよびポリビニルピロリドンのようなポリマー、さらに特に上述の錯化剤のいずれかと同じオーダーの錯体生成定数を有する試剤など)がある。濃度は広い範囲から選択でき、特に乾燥重量に対して0.5〜30重量%の範囲から選択できる。特に効果的な濃度は、銀を含む粒子の濃度およびサイズに基づいて決定できる。
【0083】
金属銀に加えて、抗菌性金属塩が本発明の配合物またはコーティングに存在してよい。そのような金属塩は、金属イオンの放出パターンを調節するのに使用できる。特に金属イオン塩は、コーティングされた物品を使用し始めた後の初期の期間に多量の放出を実現するのに使用できる。好適な金属塩としては、特に銀塩、銅塩、金塩および亜鉛塩がある。臭化物およびヨウ化物にも抗菌活性があるので、臭化物塩およびヨウ化物塩が好ましい。濃度は、広い範囲から選択でき、特に乾燥重量に対して0.5〜15重量%の範囲から、さらに特に乾燥重量に対して1〜10重量%の範囲から選択できる。
【0084】
任意選択的に1種または複数種の添加剤が、本発明の配合物またはコーティングに存在してよい。そのような添加剤は、特に酸化防止剤、界面活性剤、紫外線遮断剤(UV−blockers)、安定剤(垂れ防止剤など)、脱色剤(discolourants)、潤滑剤、可塑剤、有機抗菌性化合物、顔料、および染料から選択できる。そのような成分は、当該技術分野(例えば、上に明らかにした先行技術)において知られているものから選択できる。そのような添加剤が存在する場合、その総濃度は、普通、乾燥重量に対して10重量%未満、特に5重量%以下である。
【0085】
好適な酸化防止剤としては、特に抗酸化ビタミン(ビタミンCおよびビタミンEなど)およびフェノール系酸化防止剤がある。
【0086】
界面活性剤は、イオン性(陰イオン性/陽イオン性)、非イオン性または両性の界面活性剤であってよい。イオン性界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩(ドデシル硫酸ナトリウムなど)、コール酸ナトリウム、ビス(2−エチルヘキシル)スルホスクシネートナトリウム塩、第四アンモニウム化合物(臭化セチルトリメチルアンモニウムまたは塩化セチルトリメチルアンモニウム)、ラウリルジメチルアミンオキシド(lauryldimethylamine oxide)、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩およびデオキシコール酸ナトリウムがある。非イオン性界面活性剤の例としては、アルキルポリグルコシド(alkylpolyglucosides)、分岐第二アルコールエトキシレート、オクチルフェノールエトキシレートがある。存在する場合、界面活性剤の濃度は、普通は液相の0.001〜1重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0087】
配合物は、配合物の他の成分を分散または溶解させるのに十分な量だけキャリヤー液をさらに含む。キャリヤー液の濃度は、普通は、組成物の全重量の少なくとも68重量%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも80重量%、さらにより好ましくは少なくとも85重量%である。取扱適性(低粘度)を考慮して、かつ/または所望の厚さのコーティングが得られるように組成物の塗布を促進するために、組成物中の溶剤の量は、好ましくは比較的多い。その理由から、全固形分は好ましくは20重量%以下である。
【0088】
キャリヤー液は、単一の溶剤であるかまたは混合物であってよい。これは、ポリマーがその中に溶解できるか、または少なくとも分散できるようなものを選択する。特に親水性ポリマーを十分に溶解または分散させるために、キャリヤー液は極性液体であることが好ましい。特に、液体は、水に溶ける場合には極性であると考えられる。好ましくは、液体は、水および/または水溶性の有機液体、好ましくはアルコール、より好ましくはC1〜C4のアルコール、特にメタノールおよび/またはエタノールを含む。混合物の場合、水と有機溶媒(特に1種または複数種のアルコール)との比は、約25:75〜75:25、特に40:60〜60:40、さらに特に45:55〜55:45の範囲内であってよい。
【0089】
上述したように、本発明はさらに、物品のコーティング方法およびコーティングされた物品に関する。原則として、配合物は、任意の物品に抗菌性コーティングを施すのに使用できる。特に、配合物は、物品をコーティングするのに使用してよく、物品は医療器具である。さらに特に、物品は、被験者の開口部(耳、口、鼻または尿路など)に使用するためのものであってよい。
【0090】
本発明の好ましいコーティングされた物品としては、カテーテル、内視鏡、喉頭鏡、栄養補給または排液または気管内用あるいは食道用のチューブ、ガイドワイヤ、コンドーム、手袋、創傷被覆材、コンタクト・レンズ、埋没物(implants)、体外の血液導管、骨ねじ、膜(例えば、透析、血液フィルター、循環補助装置用)、縫合糸、繊維、フィラメントおよびメッシュがある。
【0091】
本発明は、比較的長い間銀イオンを放出できるコーティングを提供するので、本発明は、体内に留置するような用途、すなわち、カテーテルなどの物品が、被験者の組織および/または体液と比較的長い間(例えば、数時間を超えて、数日間、数週間または数カ月(一時的)または数年(永続的)までの間)接触するような用途で有利に使用されうる。物品は、取り外されるまで、イオン性銀を放出しながら約1カ月以上にわたって使用することさえできる。
【0092】
抗菌性コーティングは、内部表面(チューブのような中空物品の場合)および/または外面に存在してよい。抗菌機能を与えることを考慮すると、体組織および/または体液と直接接触することが意図される少なくとも表面に、金属銀粒子を含む抗菌性の滑らかなコーティングを施すことが好ましい。
【0093】
コーティングする表面は、原則として任意の物質でできていてよく、特に物品の目的に合った満足な性質を有する任意のポリマーでできていてよい。好適なポリマーとしては特に、PVC、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、例えば、テフロン(teflon(登録商標))、ラテックス、シリコーンポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、特に超高分子ポリエチレンなどがある。
【0094】
所望される場合には、抗菌性コーティングの付着性を向上させるために、表面に前処理(例えば、化学的前処理および/または物理的前処理)を施すことができる。物品の表面の材料および親水性ポリマーの特定の組み合わせに適した前処理は、当該技術分野において知られている。前処理の例としては、プラズマ処理、コロナ処理、ガンマ照射、光照射、化学洗浄(chemical washing)、分極化(polarising)および酸化がある。
【0095】
一実施態様では、物品の表面に最初にプライマー層を施し、その上に抗菌性コーティングを施して本発明によるコーティングされた物品を得る。例えば、国際公開第06/056482号パンフレットに記載されているプライマー層、そのプライマー層に関する内容を本明細書に援用する。
【0096】
本発明の配合物の塗布は、自体の方法で実施できる。硬化条件は、光開始剤およびポリマーに関して知られている硬化条件に基づいて決定できるか、またはごく普通に決定できる。
【0097】
一般に、硬化は周囲温度(約25℃)以下で実施してよいが、原則として、物品およびコーティングの機械的性質または別の性質が許容できないほど悪影響を受けない限り、高温(例えば100℃以下、200℃以下または300℃以下)で硬化させることが可能である。高温で硬化させる理由は、物品の表面へのコーティングの付着の改善であろう。
【0098】
電磁放射線の強度および波長は、一般に好まれる光開始剤に基づいてごく普通に選択できる。特に、スペクトルのUV部分、可視部分またはIR部分の好適な波長を使用してよい。
【0099】
これから本発明を以下の実施例を用いて説明する。
【0100】
[実施例1:配合例]
特に本発明の配合物は、特定の通常の範囲内、または好ましい範囲内で以下の成分を含むことができる。個々の成分について、通常および好ましい下限と上限をそれぞれ互いに組み合わせることができ、かつ/または上の説明および/または特許請求の範囲に記載の1つまたは複数の通常および好ましい下限と上限それぞれを組み合わせることができる。
【0101】
【表1】
【0102】
キャリヤー液は、他の原料成分を溶解または分散させるのに適した量だけ存在する。普通、その濃度は、少なくとも68重量%、特に少なくとも80重量%、さらに特に少なくとも85重量%である。
【0103】
[実施例2:架橋剤の合成]
a)PTGL1000(TDI−HEA)2の合成
乾燥した不活性雰囲気において、トルエンジイソシアネート(TDI、アルドリッチ(Aldrich)、純度95%、87.1g、0.5mol)、イルガノックス(Irganox)1035(チバスペシャルティーケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、0.58g、アクリル酸ヒドロキシエチル(HEA)に対して1%(w/w))およびスズ(II)2−エチルヘキサノエート(シグマ(Sigma)、純度95%、0.2g、0.5mol)を1リットルのフラスコ中に入れ、30分間攪拌した。氷浴を用いて反応混合物を0℃まで冷却した。HEA(アルドリッチ、純度96%、58.1g、0.5mol)を30分間滴加し、その後、氷浴を取り外し、混合物が室温まで温まるようにした。3時間後に反応は完了した。ポリ(2−メチル−1,4−ブタンジオール)−alt−ポリ(テトラメチレングリコール)(Hodogaya、Mn1000g/mol、PTGL、250g、0.25mol)を30分間のうちに滴加した。その後、反応混合物を60℃まで加熱し、18時間攪拌した。そうすると、GPC(HEAが完全に使い果たされたことを示す)、IR(NCOに関連したバンドがないことを示した)およびNCO滴定(NCO含量が0.02%(w/w)未満)によって示されるように反応は完了した。
【0104】
b)PEG−ジ(ウレタンメタクリレート);PEG(UMA)2の合成
50.2g(24.6mmol OH)のPEG(Mn2040g/mol;FlukaのBiochemika Ultra)を、0.1gのイルガノックス1035を含んでいるトルエン200mL中で窒素下において共沸蒸留(azeotropically distilled)した。一晩攪拌した後、0.0975gのオクタン酸第一スズ(Mr405.11;アルドリッチ)を窒素下において43℃で加えた。20mLの乾燥トルエン中に8.40gのkarenz MOI(Mr155.17;昭和電工(Showa Denko))を含んだ溶液を、反応混合物へ攪拌しながら40分間のうちに滴加した。43℃においてさらに3.5時間かけて反応混合物を攪拌した後、アリコートを取り、(TFAAを加えて)NMRで転化率を検査した。転化率が良好な場合、反応混合物を真空下で濃縮しておよそ120mLの容積にした。生成物は、ジエチルエーテルで沈澱させてから、濾過することによって回収した。生成物をさらにジエチルエーテルで洗浄し、室温において真空下(400ミリバール)で乾燥させた。
【0105】
[実施例3:プライマー配合物の組成]
プライマー配合物の組成を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
[実施例4〜10:トップコート配合物の組成]
【0108】
【表3】
【0109】
攪拌しながら室温で化合物を溶剤中に溶かした。最初に、銀粒子以外の化合物を溶剤に加えた。望ましくない粒子の沈殿を避けるため、他の化合物が溶解した後で初めて銀ナノ粒子を加えた。
【0110】
[実施例11:PVCカテーテル]
滑らかな抗菌性コーティングで被覆する基材として、被覆されていないPVCチューブを使用した。PVCチューブは、長さが23cm、外径が4.65mm(14Fr)、内径が3.35mmであった。チューブの一方の側を閉じた。
【0111】
[実施例12:被覆および硬化の手順]
ガイドワイヤをチューブ中に挿入してチューブを固定し、それをHarland PCX コーター/175/24のホルダーに取り付けた。チューブは、96%(w/v)エタノール水溶液(メルク)に浸したレンズ用紙(Whatman)で清浄にした。その後、Harlandコーターを用いてその集成体をプライマーおよびトップコート配合物に浸した。
【0112】
Harland PCXコーター/175/24には、Harland Medical システムUVM 400ランプが備わっていた。Harland PCXコーター/175/24のランプの強度は平均60mW/cm2であり、International Light検出器SED005♯989、Input Optic:W♯11521、フィルター:wbs320♯27794を備えたSolatell Sola Sensor 1を用いて測定した。インターネットのwww.intl−light.comで入手可能なInternational LightのIL1400A取扱説明書を利用した。
【0113】
チューブをプライマー配合物中に10秒間浸し、0.3cm/秒の速度で引き揚げ、0.9J/cm2の総線量で15秒間硬化させた。その後チューブをトップコート配合物中に10秒間浸し、1.5cm/秒の速度で引き揚げ、21.6J/cm2の総線量で360秒間硬化させた。室温で一晩乾燥させた後、コーティングを分析した。
【0114】
使用したコーティングパラメーターを表4に示す。
【0115】
【表4】
【0116】
【表5】
【0117】
[実施例13]
[a)潤滑性および摩耗の試験]
潤滑性および摩耗の試験をHarland FTS5000摩擦試験機(HFT)で実施した。プロトコルを選択した。HFTの設定値については表Bを参照のこと。摩擦試験機パッドは、Harland Medical Systems,P/N102692,FTS5000摩擦試験機バッド(Friction Tester Pads)、0.125*0.5**0.125,60デュロメーターからのものを使用した。その後、「試験実行」の作動時に所望の試験記述(test description)を挿入した。ガイドワイヤをカテーテルに挿入した後、カテーテルをホルダーに取り付けた。カテーテルが1分間だけ脱イオン水中に浸されるように、その装置を所望の位置まで下げて調節した。水でのゼロ調整(zero gauging)後に、「開始」を押してプロトコルを作動させた。終了後にデータを保存した。ホルダーをフォース・ゲージから取り外し、その後でカテーテルをホルダーから取り外した。
【0118】
【表6】
【0119】
[b)乾燥時間の測定。]
乾燥時間は、本明細書では、時間の関数としての、コーティングされたPVCカテーテル上の滑らかなコーティングの潤滑性の保持性と定義する。これは、Harland FTS摩擦試験機(HFT)において摩擦(g)を時間の関数として測定することにより求める。コーティングされたPVCカテーテル中にガイドワイヤを挿入した後、カテーテルをホルダーに取り付けた。カテーテルを脱イオン水中に1分間浸した。カテーテルが付けられたホルダーをフォース・ゲージに入れ、その装置を所望の位置まで軽く押し下げ、潤滑性試験の場合と同じ設定値にしたがってすぐに試験を開始した。測定は、1、2、5、7.5、10、12.5および15分後に実施した。摩擦試験機のパッドは、毎回の測定後に清浄にし、乾燥させた。終了後にデータは保管した。ホルダーをフォース・ゲージから取り外し、その後にカテーテルをホルダーから取り外した。
【0120】
[実施例14:銀イオン放出の定量化]
図1は銀イオン放出の測定に使用した構成の略図を示す。
【0121】
8本の被覆カテーテル(それぞれ12cm)を2mmのガラス棒の上に置いた。棒をガラスフローチャンバー(glass flow chamber)内に挿入し、ガラス栓で所定の位置に固定した。そのチャンバーに10mM リン酸カリウム緩衝液、150mM NaCl、pH7.0(メルクのPBS緩衝液)を満たした。その後、Gilson 307 HPLCポンプを用いて緩衝溶液をフローチャンバーに流した(0.7mL/分)。溶出液は、Lambda Omnicollフラクションコレクターによって回収した(1フラクション当たり60分)。分析のため、フラクションはHNO3(メルクのsuprapur 65%)で酸性にしてpH1にした。試料は、DIN 38406 E18にしたがって黒鉛炉原子吸光分析で分析した。
【0122】
結果を図4に示す。これらは、実施例14で説明した方法で測定した銀イオン放出データを示す(実施例4(■)対 Tyco Kendallの銀フォーリーカテーテル(◆))。
【0123】
Bardexカテーテルの場合、検出限界が0.5ppbの既述の方法では銀イオン放出は検出できなかった。
【0124】
[実施例15:抗菌活性試験]
[a)コーティング面における細菌付着および殺菌力の測定。]
改良ロビン装置(図6)の弁は、2%(w/v)RBS(オランダ国ブレダのOmnilaboのOmni Clean RBS 35)中で5分間超音波処理し、熱水と冷水を流して洗い、メタノール中に浸し、蒸留水を流して洗い、70%(v/v)エタノール水溶液中に浸し、無菌10mMリン酸カリウム緩衝液、150mM NaCl、pH7.0(PBS緩衝液)ですすいだ。カテーテル部分(2cm)(それぞれのカテーテルの2本)を弁に固定した。
【0125】
表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)3399を血液寒天平板で凍結株(frozen stock)から培養した。前培養物を、5mLのトリプトンソイブイヨン培地(tryptone soy broth medium)(Oxoid)中で成長させた。培養物は、200mLのトリプトンソイブイヨン培地で37℃において一晩かけて前培養物から成長させた。細胞は遠心分離(6000g、5分、10℃)によって回収した。それらを無菌PBS緩衝液で2回洗浄し、無菌PBS緩衝液中に再懸濁させて濃度を5×108細胞数/mLにした。
【0126】
カテーテル部分にこの細菌懸濁液20mLを接種した。振盪(60rpm)しながら37℃で2時間経った後、カテーテル部分を無菌PBS緩衝液中に浸して洗浄した。その後、トリプトンソイブイヨン培地を満たした改良ロビン装置にそれらを入れた。実験の間、改良ロビン装置は37℃に維持し、トリプトンソイブイヨン培地を0.4mL/分の流量でそのシステム全体にかん流させた。
【0127】
48時間後にカテーテル部分を改良ロビン装置から取り外し、無菌PBS緩衝液に浸して浮遊細胞を取り除いた。その後、カテーテル部分を弁から取り外し、バイオフィルムを生死判別キット(Live/Dead viability kit)(Molecular Probes)で染色した。染色されたバイオフィルムを、40倍の水浸対物レンズ(water objective)を備えた共焦点レーザー走査顕微鏡(ライカ(Leica)TCS SP2、ライカマイクロシステムズ(Leica Microsystems))によって分析した。
【0128】
結果を図5Aおよび5Bに示す。図5Aは、銀を含まないコーティング(z:22μm)で被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像を示す。PVC表面は、画像の中間部分におけるある程度平らな灰色の帯である。元のカラー画像では、緑色で示されていた(キットの緑色染料で染色したためである)。バイオフィルムはコーティングの上部にある。バイオフィルムは、死滅細菌(画像の下半分の灰色の斑点;元のカラー画像では赤色で示されている)と生存細菌(画像の下半分の白色の斑点;カラー画像の白黒コピーの描出を向上させるためにコントラストを手作業で調節した。カラー画像では生存細菌は緑色で示されていた)の両方を含んでいる。
【0129】
本発明による銀含有コーティング(z:48μm)で被覆されたPVCチューブ上の2日間経った後の表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)3399バイオフィルムの(xy平面の)CSLM画像。バイオフィルムはコーティングの上にあった。銀を含まないコーティング(図5A)と比較して、付着細菌の量が減っているのが観察できる。しかも、残っている細胞は死滅している。
【0130】
[b)プレート計数(plate counting)実験によるコーティングの殺菌活性(bacteriocidal activity)およびコーティングへの細菌付着の測定。]
[殺菌活性試験:]
大腸菌(Escherichia coli)ATCC 11105を無菌LB培地で凍結株から培養した。細菌懸濁液は濃度が約2.3×1010CFU/mLであった。この濃度は、生体内における初期感染(beginning infection)の典型的な濃度(103〜104CFU/mL)よりもかなり高いという点が注目される。
【0131】
懸濁液を無菌PBS緩衝液で希釈して、最終濃度が2.3×107CFU/mLのものを得た。この細菌懸濁液40mL中で、5cmのコーティングされたカテーテルを200rpmで振盪しながら20℃において24時間保温した。その後で、懸濁液を連続希釈し、LB寒天で満たされたペトリ皿に蒔いた。37℃で一晩培養した後、寒天上に形成された細菌コロニーを数えた。
【0132】
対照実験(カテーテルを保温しなかった細菌懸濁液)、ならびに2本の被覆されていないPVCチューブ、2本の被覆カテーテル(銀を含まず、その他の点では本発明のカテーテルと同じもの)、2本のBardexカテーテルおよび2本のTyco Kendallカテーテルをそれぞれ用いた比較実験。
【0133】
結果を以下の表に示す。
【0134】
【表7】
【0135】
3つの「CFU」欄は、カテーテルの3つのセクションに対応する皿の中のセクションの細胞数を示している。本発明のコーティングされた物品のみが、カテーテルの全長にわたって実質的にすべての細菌を死滅させるのに効果があったことが示されている。銀を含まない滑らかなコーティングおよびBardexのコーティングでは、対照と比較して細菌の実質的な減少がもたらされなかった。Tyco Kendallのコーティングはある程度効果があると思われたが、両方のTyco Kendallカテーテルにおいて、本発明のコーティングされた物品と比べて抗菌活性の非常に大きな変動が観察された。
【0136】
[細菌付着(+殺菌活性)試験:]
大腸菌(Escherichia coli)ATCC 11105を、無菌LB培地で凍結株から培養した。細菌懸濁液は濃度が約2.3×1010CFU/mLであった。この懸濁液を無菌PBS緩衝液で希釈して、最終濃度が2.3×107CFU/mLのものを得た。この細菌懸濁液40mL中で、2本のコーティングされたカテーテル(長さ5cm)を、200rpmで振盪しながら20℃において4時間保温した。その後、カテーテル部分を細菌懸濁液から取り出し、無菌PBS緩衝液に浸して洗浄した。その後、洗浄したカテーテル部分をペトリ皿中のLB寒天上で転がし、カテーテルと一緒に寒天を37℃で一晩保温した。種々の試料について寒天上に形成されたコロニーの量を比較するために写真を作製した。
【0137】
図7A〜Dはそれぞれ、A)実施例4で説明した滑らかなコーティングを含む(銀は含まない)カテーテルで処理したペトリ皿;B)Aと同様だが、但し銀を含む;C)Bardexの銀フォーリーカテーテルで処理したペトリ皿;D)Tyco Kendallの銀フォーリーカテーテルを示す。本発明のコーティングの抗菌活性が、Tyco KendallカテーテルおよびBardexカテーテルよりもずっと優れていることが示されている。事実、後者は、銀を含まないカテーテルと比べて改善されていることを示さなかった。
【0138】
[実施例16:潤滑性と耐摩耗性;本発明にしたがってコーティングされたカテーテル 対 市販のカテーテル]
実施例13aで説明した試験を用いて、実施例4のカテーテルを、BardexおよびTyco Kendallから販売されている市販の銀被覆フォーリーカテーテルと比較した。結果を図2に示す。本発明のカテーテルの初期摩擦力が市販のものより優れているだけでなく、サイクル数が多くても低い摩擦力(したがって、良好な潤滑性)が保持されることも示されている。
【0139】
[実施例17:潤滑性と耐摩耗性(実施例4〜10のコーティングされた物品に関して)]
図3は、実施例13aで説明された方法のサイクル数の関数として摩擦力を示している。サイクル数が多くても良好な潤滑性が保持されていることが示されている。
【0140】
[実施例18:乾燥時間]
以下の表は、本発明の被覆PVCチューブ(実施例4〜10)、Tyco KendallのカテーテルおよびBardexのカテーテルに関して、実施例13bで説明された方法で測定された乾燥時間を示している。
【0141】
【表8】
【0142】
[実施例19:PEG(UMA)2を含むトップコート配合物の加水分解安定性]
PEG(UMA)2を架橋剤として含むトップコート配合物(表3の組成物を参照)を褐色瓶に入れ、50℃で18日間保温した。試料は、0、2、7および18日後に取り出して、HPLC−DAD−MSを用いて分析した。
【0143】
HPLC−DAD−MS手順:試験試料を水に溶解させ(1000〜2000ppm)、HPLCで分離し、ダイオードアレイ検出(DAD)および質量分析(MS)で検出した。HPLC−DAD−MSの指定条件:
− 流量:0.5mL/分
− 移動相:A=0.1%のギ酸、B=アセトニトリル中0.1%のギ酸
− 勾配:t=0分:2%B、t=5分:2%B、t=45分:98%B、t=60分:98%B、t=61分:2%B
− カラム温度:40℃
− 注入量:5μL
− DAD:190〜600nmのスペクトル(増分2nm)を記録し、195、200、210、230および254nmにおけるスペクトルを収集した。
− ES(+)−MS検出:m/z 50〜1500、50V frag、10L/分、50psig neb、350℃、2.5kV。
【0144】
表8では、PEG(UMA)2の量が保温時間との関係で示されており、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG4000DA、国際公開第06/056482A1号パンフレットに記載されたPEG(Mr3500〜4500、FlukaのBiochemika Ultra)合成からのもの)の量と比較されている。
【0145】
【表9】
【0146】
結果では、PEG(UMA)2はPEG4000DAと比べて加水分解安定性が向上していることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性親水性コーティングを作製するための配合物であって、親水性ポリマー;光開始剤;金属銀(すなわちAg°)を含んでいる粒子;およびキャリヤー液を含む、配合物。
【請求項2】
前記粒子が、1nm〜3μmの範囲、好ましくは10nm〜1000nmの範囲の数平均直径を有する、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記銀粒子の分散助剤、好ましくは銀イオンとの錯体を形成することができる錯化剤、より好ましくはハロゲンイオン、有機酸および重合体錯化剤からなる群から選択される錯化剤を含む、請求項1または2に記載の配合物。
【請求項4】
抗菌性金属塩、好ましくは銀塩、銅塩、金塩、亜鉛塩から選択される抗菌性金属塩をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項5】
金属銀の量が前記配合物の乾燥重量に対して0.5〜20重量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項6】
前記親水性ポリマーが光開始時に架橋可能またはグラフト化可能である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項7】
前記親水性ポリマーが、ポリ(ラクタム)(特にポリビニルピロリドン);ポリウレタン;アクリル酸およびメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマー;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;マレイン酸無水物をベースにしたコポリマー;ポリエステル;ビニルアミン;ポリエチレンミン;ポリエチレンオキシド;ポリ(カルボン酸);ポリアミド;ポリ酸無水物;ポリホスファゼン;セルロース誘導体(特にメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)および他の多糖類(特にキトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ゼラチン、キチン、ヘパリン、デキストラン);コンドロイチン硫酸;(ポリ)ペプチド/タンパク質(特にコラーゲン、フィブリン、エラスチン、アルブミン);ポリエステル(特にポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン);およびポリヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項8】
高分子電解質、好ましくは、アミン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、硫酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基およびホスフェート基からなる群から選択される少なくとも1種のイオン化された基またはイオン化可能な基を含む高分子電解質、好ましくは、アクリル酸(その塩を含む)、メタクリル酸(その塩を含む)、アクリルアミド(その塩を含む)、マレイン酸(その塩を含む)、スルホン酸(その塩を含む)、第四アンモニウム塩およびそれらの混合物および/または誘導体のホモポリマーおよびコポリマーからなる群から選択される高分子電解質を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項9】
架橋剤、好ましくは、式G−(CR=CH2)n(式中、Gは、原則として、ビニル基が結合できる任意の部分(特に、1つまたは複数のヘテロ原子を含んでよい任意選択的に置換された任意の炭化水素)であってよく、nはビニル基の数であり、Rは水素または置換および非置換の炭化水素(任意選択的に1つまたは複数のヘテロ原子を含む)から選択される基、特に水素またはCH3である)によって表わされる架橋剤を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項10】
前記架橋剤がウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはウレタンメタクリレートである、請求項9に記載の配合物。
【請求項11】
酸化防止剤、界面活性剤、紫外線遮断剤、安定剤(垂れ防止剤など)、脱色剤、潤滑剤、可塑剤、有機抗菌性化合物、顔料および染料から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項12】
前記液体キャリヤーが極性液体、好ましくは、水、水溶性アルコールおよびそれらのいずれかを含む混合物からなる群から選択される極性液体である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項13】
親水性ポリマー(好ましくは請求項7に記載された群から選択される親水性ポリマー);光開始剤;ウレタン(メタ)アクリレート(好ましくはウレタンメタクリレート)、およびキャリヤー液を含む、配合物。
【請求項14】
前記ウレタン(メタ)アクリレートが、少なくとも1種のポリオール(例えば、ポリエーテルポリオール)を、少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のイソシアネート基とを含む化合物か、あるいはポリイソシアネートおよび少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のヒドロキシル基とを含む化合物と反応させることによって調製される、請求項13に記載の配合物。
【請求項15】
− 前記親水性ポリマー、
− 前記光開始剤、
− (存在する場合)前記分散助剤
− (存在する場合)前記架橋剤を
キャリヤー液中に溶解または分散させ;
その後に前記銀粒子を分散させる
ことを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物を調製する方法。
【請求項16】
− 請求項1〜14のいずれか一項に記載の配合物を前記物品の少なくとも1つの表面に施すことと;
− 前記配合物を電磁放射線にさらして前記光開始剤を活性化させることによって前記配合物を硬化させることと
を含む、コーティングされた物品を作製するための方法。
【請求項17】
表面に親水性コーティングを含む物品、特に請求項16に記載の方法によって得られるコーティングされた物品であって、前記コーティングが硬化親水性ポリマーと金属銀(Ag°)を含んでいる粒子とを含む、物品。
【請求項18】
前記硬化ポリマーが架橋ポリマーまたはグラフト化ポリマーである、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
濡れているときに前記コーティングが滑らかである、請求項16または17に記載の物品。
【請求項20】
前記物品が医療器具、好ましくは、カテーテル、内視鏡、喉頭鏡、栄養補給または排液または気管内用のチューブ、ガイドワイヤ、コンドーム、手袋、創傷被覆材、コンタクト・レンズ、埋没物、体外血液導管、骨ねじ、膜(例えば、透析、血液フィルター、循環補助装置用)、縫合糸、繊維、フィラメントおよびメッシュから選択される医療器具である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の物品。
【請求項21】
医療用途向けの、請求項1〜14のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項22】
尿路の合併症、心血管の合併症、腎臓感染、血液感染(敗血症)、尿道損傷、皮膚の損傷、膀胱結石および血尿からなる群から選択される疾患の治療用、または感染を防ぐための組成物(特にコーティング)の製造における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物の使用。
【請求項23】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物の、または請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物を硬化させて得られるコーティングの、抗菌剤としての使用。
【請求項1】
抗菌性親水性コーティングを作製するための配合物であって、親水性ポリマー;光開始剤;金属銀(すなわちAg°)を含んでいる粒子;およびキャリヤー液を含む、配合物。
【請求項2】
前記粒子が、1nm〜3μmの範囲、好ましくは10nm〜1000nmの範囲の数平均直径を有する、請求項1に記載の配合物。
【請求項3】
前記銀粒子の分散助剤、好ましくは銀イオンとの錯体を形成することができる錯化剤、より好ましくはハロゲンイオン、有機酸および重合体錯化剤からなる群から選択される錯化剤を含む、請求項1または2に記載の配合物。
【請求項4】
抗菌性金属塩、好ましくは銀塩、銅塩、金塩、亜鉛塩から選択される抗菌性金属塩をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項5】
金属銀の量が前記配合物の乾燥重量に対して0.5〜20重量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項6】
前記親水性ポリマーが光開始時に架橋可能またはグラフト化可能である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項7】
前記親水性ポリマーが、ポリ(ラクタム)(特にポリビニルピロリドン);ポリウレタン;アクリル酸およびメタクリル酸のホモポリマーおよびコポリマー;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;マレイン酸無水物をベースにしたコポリマー;ポリエステル;ビニルアミン;ポリエチレンミン;ポリエチレンオキシド;ポリ(カルボン酸);ポリアミド;ポリ酸無水物;ポリホスファゼン;セルロース誘導体(特にメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)および他の多糖類(特にキトサン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ゼラチン、キチン、ヘパリン、デキストラン);コンドロイチン硫酸;(ポリ)ペプチド/タンパク質(特にコラーゲン、フィブリン、エラスチン、アルブミン);ポリエステル(特にポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン);およびポリヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項8】
高分子電解質、好ましくは、アミン基、アンモニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基、カルボン酸基、カルボキシレート基、スルホン酸基、硫酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基およびホスフェート基からなる群から選択される少なくとも1種のイオン化された基またはイオン化可能な基を含む高分子電解質、好ましくは、アクリル酸(その塩を含む)、メタクリル酸(その塩を含む)、アクリルアミド(その塩を含む)、マレイン酸(その塩を含む)、スルホン酸(その塩を含む)、第四アンモニウム塩およびそれらの混合物および/または誘導体のホモポリマーおよびコポリマーからなる群から選択される高分子電解質を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項9】
架橋剤、好ましくは、式G−(CR=CH2)n(式中、Gは、原則として、ビニル基が結合できる任意の部分(特に、1つまたは複数のヘテロ原子を含んでよい任意選択的に置換された任意の炭化水素)であってよく、nはビニル基の数であり、Rは水素または置換および非置換の炭化水素(任意選択的に1つまたは複数のヘテロ原子を含む)から選択される基、特に水素またはCH3である)によって表わされる架橋剤を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項10】
前記架橋剤がウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはウレタンメタクリレートである、請求項9に記載の配合物。
【請求項11】
酸化防止剤、界面活性剤、紫外線遮断剤、安定剤(垂れ防止剤など)、脱色剤、潤滑剤、可塑剤、有機抗菌性化合物、顔料および染料から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項12】
前記液体キャリヤーが極性液体、好ましくは、水、水溶性アルコールおよびそれらのいずれかを含む混合物からなる群から選択される極性液体である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項13】
親水性ポリマー(好ましくは請求項7に記載された群から選択される親水性ポリマー);光開始剤;ウレタン(メタ)アクリレート(好ましくはウレタンメタクリレート)、およびキャリヤー液を含む、配合物。
【請求項14】
前記ウレタン(メタ)アクリレートが、少なくとも1種のポリオール(例えば、ポリエーテルポリオール)を、少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のイソシアネート基とを含む化合物か、あるいはポリイソシアネートおよび少なくとも1個の(メタ)アクリレート基と少なくとも1個のヒドロキシル基とを含む化合物と反応させることによって調製される、請求項13に記載の配合物。
【請求項15】
− 前記親水性ポリマー、
− 前記光開始剤、
− (存在する場合)前記分散助剤
− (存在する場合)前記架橋剤を
キャリヤー液中に溶解または分散させ;
その後に前記銀粒子を分散させる
ことを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物を調製する方法。
【請求項16】
− 請求項1〜14のいずれか一項に記載の配合物を前記物品の少なくとも1つの表面に施すことと;
− 前記配合物を電磁放射線にさらして前記光開始剤を活性化させることによって前記配合物を硬化させることと
を含む、コーティングされた物品を作製するための方法。
【請求項17】
表面に親水性コーティングを含む物品、特に請求項16に記載の方法によって得られるコーティングされた物品であって、前記コーティングが硬化親水性ポリマーと金属銀(Ag°)を含んでいる粒子とを含む、物品。
【請求項18】
前記硬化ポリマーが架橋ポリマーまたはグラフト化ポリマーである、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
濡れているときに前記コーティングが滑らかである、請求項16または17に記載の物品。
【請求項20】
前記物品が医療器具、好ましくは、カテーテル、内視鏡、喉頭鏡、栄養補給または排液または気管内用のチューブ、ガイドワイヤ、コンドーム、手袋、創傷被覆材、コンタクト・レンズ、埋没物、体外血液導管、骨ねじ、膜(例えば、透析、血液フィルター、循環補助装置用)、縫合糸、繊維、フィラメントおよびメッシュから選択される医療器具である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の物品。
【請求項21】
医療用途向けの、請求項1〜14のいずれか一項に記載の配合物。
【請求項22】
尿路の合併症、心血管の合併症、腎臓感染、血液感染(敗血症)、尿道損傷、皮膚の損傷、膀胱結石および血尿からなる群から選択される疾患の治療用、または感染を防ぐための組成物(特にコーティング)の製造における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物の使用。
【請求項23】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物の、または請求項1〜12のいずれか一項に記載の配合物を硬化させて得られるコーティングの、抗菌剤としての使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【公表番号】特表2010−503737(P2010−503737A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527744(P2009−527744)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007995
【国際公開番号】WO2008/031601
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/007995
【国際公開番号】WO2008/031601
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】
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