説明

金属錯体、その変性物及びそれに有用な化合物

【課題】燃料電池用電極に使用できる酸素還元能が高い電極触媒並びに、その製造に用いる金属錯体および化合物の提供。
【解決手段】下記化合物(C)で代表される化合物および該化合物を配意子としてマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅または白金などの周期表の第4周期から第6周期に属する遷移金属原子または金属イオンを含有する金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体、その変性物及びそれに有用な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、燃料電池用電極触媒に有用であることが知られている。燃料電池用電極触媒としては、1個の大環状化合物からなる配位子又は1個の大環状化合物の残基を有する配位子と、金属原子と、からなる金属錯体を、導電性カーボンに担持させた電極触媒が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−173627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この電極触媒は、酸素還元能が不十分であった。
【0005】
そこで、本発明は、酸素還元能が高い電極触媒、その製造に有用な金属錯体及び化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は第一に、
下記式(1)で表される化合物の残基と、置換基を有していてもよい2価の芳香族基と、からなる化合物であって、該残基の個数が2〜4個であり、該2価の芳香族基の個数が1〜3個であり、該残基と該2価の芳香族基の個数の和が3〜5個である化合物を提供する。
【0007】
【化1】

[式(1)中、Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、下記式:
【0008】
【化2】

(式中、Rαはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。P1は、Y1を含む複素環を形成する原子群であり、P2は、Y2を含む複素環を形成する原子群であり、P3は、Y3を含む複素環を形成する原子群であり、P4は、Y4を含む複素環を形成する原子群である。P5及びP6は、それぞれ独立に、芳香環又は複素環を形成する原子群である。P1、P2、P3及びP4が形成する複素環、並びに、P5及びP6が形成する芳香環及び複素環は、それぞれ置換基を有していてもよい。P1とP2は互いに結合してQとともに環を形成していてもよく、P2とP6は互いに結合して環を形成していてもよく、P6とP4は互いに結合して環を形成していてもよく、P4とP3は互いに結合してQとともに環を形成していてもよく、P3とP5は互いに結合して環を形成していてもよく、P5とP1は互いに結合して環を形成していてもよい。Q1及びQ2は、それぞれ独立に、連結基又は直接結合を表す。Z1及びZ2は、それぞれ独立に、水素原子、又は、下記式:
【0009】
【化3】

(式中、Rβはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。]
【0010】
本発明は第二に、金属原子又は金属イオンと、配位子とを有する金属錯体であって、該配位子が、前記化合物である金属錯体を提供する。
【0011】
本発明は第三に、前記金属錯体と、カーボン担体と、からなる混合物を、加熱することにより得られる変性物を提供する。
【0012】
本発明は第四に、下記(a)及び下記(b)を含む組成物<第一の組成物>、並びに、下記(a’)及び下記(b’)を含む組成物<第二の組成物>を提供する。
<第一の組成物>
(a)前記金属錯体
(b)カーボン担体及び/又は高分子化合物
<第二の組成物>
(a’)前記変性物
(b’)高分子化合物
【0013】
本発明は第五に、前記金属錯体、前記変性物、又は、前記組成物、からなる触媒を提供する。
【0014】
本発明は第六に、前記触媒からなる燃料電池用電極触媒を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の燃料電池用電極触媒は、酸素還元能が高い。また、この燃料電池用電極触媒は、本発明の金属錯体及び化合物を適用することにより、容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の化合物について説明する。
【0017】
本発明の化合物は、前記式(1)で表される化合物の残基と、置換基を有していてもよい2価の芳香族基と、からなる化合物であって、該残基の個数が2〜4個であり、該2価の芳香族基の個数が1〜3個であり、該残基と該2価の芳香族基の個数の和が3〜5個である化合物である。前記式(1)で表される化合物の残基は、前記式(1)で表される化合物における水素原子の一部又は全部を取り除いた原子団からなる基である。前記式(1)で表される化合物の残基は、1価〜4価の基であることが好ましく、1価の残基であることがより好ましい。
【0018】
本発明の化合物は、前記式(1)で表される化合物の残基が1価であり、該残基の個数が2個であり、かつ、2価の芳香族基の個数が1個であることが特に好ましい。
【0019】
本発明の化合物における、前記式(1)で表される化合物の残基と、2価の芳香族基の結合様式を模式的に表すと、例えば、以下のとおりである。
1−A−C1
1−A−A−C1
1−A−C1−A−C1
1−C1−A−C1−C1
(式中、C1は、式(1)で表される化合物の残基を表し、Aは、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。)
【0020】
前記式(1)中、Y1、Y2、Y3及びY4において、Rαで表されるヒドロカルビル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、へキシル基、シクロへキシル基、ノルボニル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、アダマンチル基、ドデシル基、シクロドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の全炭素数1〜50の直鎖状の飽和ヒドロカルビル基又は全炭素数3〜50の分岐状もしくは環状の飽和ヒドロカルビル基が挙げられ、好ましくは、全炭素数1〜8の直鎖状の飽和ヒドロカルビル基又は全炭素数3〜8の分岐状もしくは環状の飽和ヒドロカルビル基である。
【0021】
前記式(1)中、P1、P2、P3及びP4は好ましくは、それぞれ独立に、Y1、Y2、Y3又はY4の各々の隣接位の2個の炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群である。なお、「隣接位の2個の炭素原子」には、Rαに含まれ得る炭素原子は含まれない。
【0022】
前記式(1)中、P1、P2、P3及びP4が形成する複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピペリジン環、モルフォリン環、ピペラジン環、テトラヒドロフラン環、ホスホール環、ホスファベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピロール環、N−アルキルピロール環、フラン環、チオフェン環、チアゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソキノリン環、キナゾリン環が挙げられ、好ましくは、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、N−アルキルピロール環、イミダゾール環であり、更に好ましくは、ピリジン環、ピロール環、イミダゾール環である。また、P1、P2、P3及びP4が形成する複素環は、芳香族複素環であることが好ましく、含窒素芳香族複素環であることがより好ましい。
【0023】
前記式(1)中、P5及びP6は、それぞれ独立に、芳香環又は複素環を形成するために必要な原子群である。
【0024】
前記式(1)中、P5及びP6が形成する複素環としては、前記P1、P2、P3及びP4が形成し得る複素環と同様である。
【0025】
前記式(1)中、P5及びP6が形成する芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環が挙げられ、好ましくは、ベンゼン環である。
【0026】
前記式(1)中、Q1及びQ2で表される直接結合としては、単結合、二重結合が挙げられ、単結合が好ましい。
【0027】
前記式(1)中、Q1及びQ2で表される連結基としては、2価の基、3価の基が挙げられ、以下の式(1−a)〜(1−g)で表される基が好ましく、以下の式(1−a)〜(1−d)で表される基がより好ましく、以下の式(1−a)又は(1−b)で表される基が更に好ましい。
【0028】
【化4】

(式中、Rδは、水素原子又は1価の基を表す。Rδが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0029】
ここで、Rδで表される1価の基としては、例えば、置換基を有していてもよいヒドロカルビル基、置換基を有していてもよい1価の芳香族基が挙げられる。
【0030】
前記ヒドロカルビル基は、前記Rαで表されるヒドロカルビル基と同様である。
【0031】
前記1価の芳香族基としては、例えば、フェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基が挙げられる。
【0032】
前記式(1)中、P1とP2が互いに結合してQとともに環を形成する場合、又は、P4とP3が互いに結合してQとともに環を形成する場合、前記式(1)で表される化合物は、例えば、以下の式(2−a)〜(2−o)で表される構造を有し、好ましくは、以下の式(2−a)、(2−j)〜(2−o)で表される構造を有し、より好ましくは、以下の式(2−a)で表される構造を有する。
【0033】
【化5】

(式中、Rは、水素原子又は炭素数が1〜30のヒドロカルビル基を表す。2個あるRは、同一であっても異なっていてもよい。)
【0034】
ここで、前記Rで表される炭素数が1〜30のヒドロカルビル基としては、前記Rαで表されるヒドロカルビル基と同様であるが、炭素数が1〜8のヒドロカルビル基が好ましい。
【0035】
前記P1、P2、P3及びP4が形成する複素環は、置換基を有していてもよい。この置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲノ基;ヒドロキシ基;カルボキシル基;メルカプト基;スルホン酸基;ニトロ基;ホスホン酸基;炭素数1〜4のアルキル基を有するシリル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、へキシル基、シクロへキシル基、ノルボルニル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、アダマンチル基、ドデシル基、シクロドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の全炭素数1〜50の直鎖、分岐又は環状の飽和ヒドロカルビル基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、シクロへキシルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等の全炭素数1〜50の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基等の全炭素数6〜60の1価の芳香族基が例示され、好ましくは、ハロゲノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、炭素数1〜20の飽和ヒドロカルビル基、全炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルコキシ基、全炭素数6〜30の1価の芳香族基であり、より好ましくは、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、シクロへキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基である。
【0036】
前記式(1)中、Z1及びZ2で表される基において、Rβで表されるヒドロカルビル基は、前記Rαで表されるヒドロカルビル基と同様である。
【0037】
前記式(1)中、P5とZ1とを合わせた構造又はP6とZ2とを合わせた構造としては、以下の式(3−a)〜(3−t)で表される構造が好ましく、以下の式(3−a)〜(3−h)で表される構造がより好ましく、以下の式(3−a)〜(3−d)で表される構造が更に好ましく、以下の式(3−a)又は(3−b)で表される構造が特に好ましい。
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

(式中、Rεは、炭素数1〜10のヒドロカルビル基を表す。Rεが複数存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0040】
前記P5及びP6が形成する芳香環、複素環は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、P1が有していてもよい前記置換基と同様の基が挙げられる。
【0041】
前記式(1)で表される化合物としては、P5で表される原子群とZ1とが一体となって、フェノール構造を形成し、かつ、P6で表される原子群とZ2とが一体となって、フェノール構造を形成した化合物が好ましい。
【0042】
このような化合物としては、金属錯体が安定するので、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0043】
【化8】

[式(2)中、R1は水素原子又は1価の基であり、複数あるR1は、同一であっても異なっていてもよい。R1同士は互いに結合して環を形成してもよい。Q3及びQ4は、それぞれ独立に、下記式:
【0044】
【化9】

〔式中、R2は水素原子又は1価の基を表す。複数あるR2は、同一であっても異なっていてもよい。R2同士は互いに結合して環を形成してもよい。X1は、窒素原子又は3価の基を表す。R3は水素原子又は1価の基を表す。複数あるR3は、同一であっても異なっていてもよい。R3同士は互いに結合して環を形成してもよい。X2は、下記式:
【0045】
【化10】

(式中、R’は水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。複数あるX2は、同一であっても異なっていてもよい。R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の基を表す。R4とR6は互いに結合して環を形成してもよく、R5とR6は互いに結合して環を形成してもよく、R4とR5とR6は互いに結合して環を形成してもよい。〕
のいずれかで表される2価の基を示す。]
【0046】
前記式(2)中、R1で表される1価の基としては、前記Rδで表される1価の基と同様の基が挙げられる。
【0047】
前記式(2)中、Q3及びQ4で表される2価の基としては、以下の式(4−a)〜(4−j)で表される2価の基が好ましく、以下の式(4−a)、(4−b)、(4−d)、(4−e)、(4−g)〜(4−j)で表される2価の基がより好ましく、以下の式(4−a)、(4−b)、(4−d)、(4−e)、(4−h)、(4−j)で表される2価の基が更に好ましく、以下の式(4−a)、(4−b)、(4−d)、(4−e)で表される2価の基が特に好ましい。
【0048】
【化11】

[式(4−a)〜(4−j)で表される2価の基は、置換基を有していてもよく、該置換基は、P1が有していてもよい前記置換基と同様である。]
【0049】
前記式中、R2で表される1価の基は、Rδで例示した基と同様である。
【0050】
前記式中、X1で表される3価の基としては、メチン基、及び、ヒドロカルビル基で置換されたメチン基が例示される。
【0051】
前記式中、R3で表される1価の基は、Rδで例示した基と同様である。
【0052】
前記式中、R4、R5及びR6で表される1価の基は、Rδで例示した基と同様である。R4とR6は互いに結合して環を形成してもよく、R5とR6は互いに結合して環を形成してもよく、R4とR5とR6は互いに結合して環を形成してもよい。
【0053】
前記式(2)で表される化合物としては、例えば、以下の式(5−a)〜(5−i)で表される化合物が挙げられ、以下の式(5−a)〜(5−i)で表される化合物が好ましく、以下の式(5−a)〜(5−d)で表される化合物がより好ましく、以下の式(5−a)〜(5−c)で表される化合物が更に好ましい。
【0054】
【化12】

【0055】
【化13】

[式(5−a)〜(5−i)で表される化合物は置換基を有していてもよく、該置換基はP1が有していてもよい前記置換基と同様である。]
【0056】
本発明の化合物を構成する2価の芳香族基は、単環又は縮合環である芳香環から水素原子2個を除いた残りの原子団を意味する。
【0057】
本発明の化合物を構成する2価の芳香族基としては、1,4−フェニレン基、2,7−トリフェニレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、1,5−アントリレン基、9,10−アントリレン基、2,7−ピレニレン基、2,7−フェナントレン基、3,8−フェナントロレン基等の全炭素数6〜20の2価の芳香族基が例示されるが、得られる化合物が大気中で安定するので、1,4−フェニレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、1,5−アントリレン基、9,10−アントリレン基、9,10−アントリレン基が好ましい。前記2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい。
【0058】
本発明の化合物としては、合成が容易であるので、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【0059】
【化14】

[式(3)中、R7及びR8は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の基を表す。複数あるR7は、同一であっても異なっていてもよい。R7同士は互いに結合して環を形成してもよい。複数あるR8は、同一であっても異なっていてもよい。R8同士は互いに結合して環を形成してもよい。Q5は、下記式:
【0060】
【化15】

〔式中、R9は、水素原子又は1価の基を表す。複数あるR9は、同一であっても異なっていてもよい。R9同士は互いに結合して環を形成してもよい。X3は、窒素原子又は3価の基を表す。R10は、水素原子又は1価の基を表す。複数あるR10は、同一であっても異なっていてもよい。R10同士は互いに結合して環を形成してもよい。X4は、下記式:
【0061】
【化16】

(式中、R’は、水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。複数あるX4は、同一であっても異なっていてもよい。R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の基を表す。R11とR12とは、互いに結合して環を形成してもよい。〕
のいずれかで表される2価の基を表す。複数あるQ5は、同一であっても異なっていてもよい。Arは、置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。]
【0062】
前記式(3)中、R7、R8、R9、R10、R11及びR12で表される1価の基としては、前記Rδで表される1価の基と同様の基が挙げられる。
【0063】
前記式中、X1で表される3価の基としては、メチン基、及び、ヒドロカルビル基で置換されたメチン基が例示される。
【0064】
前記式(3)中、Arで表される置換基を有していてもよい2価の芳香族基は、前記と同様である。
【0065】
前記式(3)中、Q5で表される2価の基において、R’で表されるヒドロカルビル基は、前記Rαで表されるヒドロカルビル基と同様である。
【0066】
前記式(3)で表される化合物としては、以下の式(I−1)〜(I−11)で表される化合物が好ましく、以下の式(I−1)〜(I−7)で表される化合物がより好ましく、以下の式(I−1)〜(I−4)で表される化合物が更に好ましい。
【0067】
【化17】

【0068】
【化18】

【0069】
【化19】

[式(I−1)〜(I−11)で表される化合物は置換基を有していてもよく、該置換基は、P1が有していてもよい置換基と同様である。]
【0070】
本発明の化合物は、例えば、Tetrahedron.,1999,55,8377.に記載のとおり、有機金属反応剤の複素環式化合物への付加反応及び酸化反応を行い、ハロゲン化反応、次いで遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応によって前駆体を合成した後、アルデヒドで閉環反応させることにより合成できる。また、本発明の化合物は、末端にピロリル基を有する化合物に、アルデヒドを加えて、ピロリル基をメチレン基と結合させることによっても合成できる。
【0071】
本発明の化合物のうち、式(3)で表される化合物を一例として合成方法を説明する。式(3)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物と、下記式(5)で表されるアルデヒドとの反応によって合成することが好ましい(以下の反応スキームを参照)。
【0072】
【化20】

[式中、R7、R8、Q5及びArは、前記と同じ意味を有する。]
【0073】
前記反応は、適切な溶媒に、原料を溶解させ、酸を触媒とすることにより行うことができる。ここで、酸自体を前記溶媒として用いてもよい。
【0074】
前記酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0075】
酸自体を溶媒として用いる場合には、前記酸としては、前記有機酸が好ましい。
【0076】
前記溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、メタノール、エタノール及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0077】
前記反応の温度は、通常、0℃〜250℃であり、好ましくは0℃〜200℃であり、特に好ましくは0℃〜160℃である。
【0078】
前記反応の時間は、通常、1分間〜1週間であり、好ましくは5分間〜100時間であり、特に好ましくは1時間〜72時間である。
【0079】
反応温度及び反応時間は、酸、溶媒の組み合わせにより調整することができる。
【0080】
前記反応では、一般に入手が容易な、酸素、p−クロラニル、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン等の酸化剤を添加することができる。
【0081】
次に、本発明の金属錯体について説明する。
本発明の金属錯体は、金属原子又は金属イオンと、配位子とを有する金属錯体であって、該配位子が、前記化合物である金属錯体である。
【0082】
本発明の金属錯体において、前記金属原子又は金属イオンの個数は、通常、1〜4個であり、2〜4個が好ましい。
【0083】
本発明の金属錯体において、前記金属原子又は金属イオンは、配位子である前記化合物中のヘテロ原子に結合(通常、配位結合)している。ここで、前記金属原子及び金属イオンが合計2個以上である場合には、本発明の金属錯体は、1つの金属原子又は金属イオンと他の金属原子又は金属イオンとを架橋配位子がつないでいる架橋錯体であってもよい。ヘテロ原子が酸素原子であり、金属原子及び金属イオンが合計2個である架橋錯体における、金属原子と酸素原子の部分構造について以下に例示する。
【0084】
【化21】

(式中、Mは、金属原子又は金属イオンを表す。2つのMは、同一であっても異なっていてもよい。)
【0085】
前記金属原子又は金属イオンにおける金属は、遷移金属と典型金属とに分類できる。本明細書において、「遷移金属」とは、不完全なd殻又はf亜殻を有する元素を意味する。
【0086】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネシウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀が挙げられる。
【0087】
典型金属としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン、タリウム、鉛、ビスマスが挙げられる。
【0088】
これらの金属の中でも、触媒性能が良好となるので、第4周期から第6周期に属する遷移金属が好ましく、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金がより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、白金が更に好ましく、鉄、コバルト、銅が特に好ましい。
【0089】
本発明の金属錯体は、中性分子、及び/又は、金属錯体を電気的に中性にする対イオンを有していてもよい。
【0090】
前記中性分子としては、溶媒和して溶媒和塩を形成する分子であって、前記化合物(例えば、前記式(3)で表される化合物)以外の化合物が挙げられ、具体的には、水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン等である。好ましくは、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンである。なお、本発明の金属錯体において、中性分子は、1個のみ存在していても2個以上存在していてもよい。
【0091】
前記金属錯体が錯イオンである場合、該金属錯体と錯塩を形成する対イオンは、該金属錯体を電気的に中性にする陽イオン又は陰イオンが選ばれる。
錯イオンが正に帯電している場合、対イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、チオシアン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン等が挙げられ、好ましくは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフェニルホウ酸イオンである。なお、対イオンが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。また、中性分子とイオンとが共存していてもよい。
錯イオンが負に帯電している場合、対イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオン;テトラフェニルホスホニウムイオン等のテトラアリールホスホニウムイオンが挙げられ、好ましくは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、より好ましくは、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオンであり、更に好ましくは、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオンである。
【0092】
本発明の金属錯体としては、例えば、以下の式(6−aa)〜(6−ll)で表される化合物が挙げられ、具体的には、以下の式(6−a)〜(6−f)で表される化合物が挙げられる。
【0093】
【化22】

【0094】
【化23】

【0095】
【化24】

[式(6−aa)〜(6−ll)中、Mは、金属原子又は金属イオンを表し、複数あるMは、同一であっても異なっていてもよい。なお、これらの化合物は置換基を有していてもよく、該置換基は、P1が有していてもよい置換基と同様である。また、前述の通り、これらの化合物は、対イオン及び/又は中性分子を有していてもよい。]
【0096】
【化25】

[式(6−a)〜(6−f)で表される化合物は置換基を有していてもよく、該置換基は、P1が有していてもよい置換基と同様である。また、これらの化合物は、前述の通り、対イオン及び/又は中性分子を有していてもよい。]
【0097】
次に、本発明の金属錯体の合成方法について説明する。
本発明の金属錯体は、例えば、本発明の化合物を有機化学的に合成した後、得られた化合物を、金属原子を付与する反応剤(以下、「金属付与剤」と言う。)と混合し、反応させることにより得られる。反応させる金属付与剤の量は、目的とする金属錯体に応じて調節すればよいが、通常、配位子に対して過剰量であることが好ましい。
【0098】
前記金属付与剤としては、例えば、前記金属の酢酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ物、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、過塩素酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、テトラフェニルホウ酸塩が挙げられ、酢酸塩が好ましい。前記酢酸塩としては、例えば、酢酸コバルト(II)、酢酸鉄(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、酢酸ニッケル(II)、酢酸銅(II)、酢酸亜鉛(II)が挙げられ、酢酸コバルト(II)、酢酸鉄(II)、酢酸銅(II)が好ましい。
【0099】
前記金属付与剤は、水和物であってもよく、例えば、酢酸コバルト(II)4水和物、酢酸マンガン(II)4水和物、酢酸マンガン(III)2水和物、酢酸ニッケル(II)4水和物、酢酸銅(II)1水和物、酢酸亜鉛(II)2水和物が挙げられる。
【0100】
前記反応は、溶媒(即ち、反応溶媒)の存在下で行うことが好ましい。
【0101】
前記溶媒としては、例えば、水、酢酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジンが挙げられる。
【0102】
これらの溶媒は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよいが、本発明の化合物及び金属付与剤が溶解する溶媒が好ましい。
【0103】
前記反応の温度は、通常、−10℃〜200℃であり、好ましくは0℃〜150℃であり、特に好ましくは0℃〜100℃である。
【0104】
前記反応の時間は、通常、1分間〜1週間であり、好ましくは5分間〜24時間であり、特に好ましくは1時間〜12時間である。
【0105】
反応温度及び反応時間は、本発明の化合物及び金属付与剤の種類によって、調整することができる。
【0106】
反応完了後に生成した金属錯体を反応溶液から単離精製するには、公知の再結晶法、再沈殿法、クロマトグラフィー法等の手段を単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0107】
なお、前記溶媒の種類によっては、生成した金属錯体が析出することがあり、析出した金属錯体を濾別等で分離し、必要に応じて洗浄したり、乾燥させたりすることにより、金属錯体を単離精製することができる。
【0108】
次に、本発明の変性物について説明する。
本発明の変性物は、前記金属錯体と、カーボン担体と、からなる混合物を、加熱することにより得られる。こうして、本発明の金属錯体を変性物とすることにより、水への溶解性をより低くすることができる。なお、金属錯体、カーボン担体は、いずれも、1種ずつ単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0109】
前記カーボン担体としては、例えば、ノーリット、ケッチェンブラック、バルカン、ブラックパール、アセチレンブラック等のカーボン粒子、C60やC70等のフラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボン繊維が挙げられ、好ましくは、ケッチェンブラック、バルカン、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンであり、より好ましくは、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノチューブであり、更に好ましくは、ケッチェンブラック、バルカンである。
【0110】
前記混合物において、金属錯体とカーボン担体との混合比率は、金属錯体とカーボン担体との合計質量に対し、金属錯体の含有量が、5〜70質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましく、15〜50質量%であることが特に好ましい。
【0111】
前記加熱を行う前には、前処理として、15℃〜200℃の温度で前記混合物を6時間以上乾燥させることが好ましい。この前処理には、真空乾燥機等を用いることができる。
【0112】
前記加熱を行う際の雰囲気としては、例えば、水素、ヘリウム、窒素、アンモニア、酸素、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、アセトニトリル、及びこれらの混合ガスが挙げられ、水素、ヘリウム、窒素、アンモニア、酸素、ネオン、アルゴン、及びこれらの混合ガスが好ましく、水素、窒素、アンモニア、アルゴン、及びこれらの混合ガスがより好ましい。
【0113】
前記加熱の温度は、下限が、通常、600℃であり、好ましくは700℃であり、より好ましくは800℃である。上限は、通常、1200℃であり、好ましくは1100℃であり、より好ましくは1000℃である。
【0114】
前記加熱の時間は、前記加熱を行う際の雰囲気、温度等により調整すればよい。
前記加熱の工程では、前記ガスを密閉した状態又は通気させた状態において、室温から徐々に温度を上昇させ、目的とする温度に到達した後、すぐに降温してもよいが、目的とする温度に到達した後、温度を保持することで、徐々に金属錯体を加熱することが、耐久性をより向上させることができるために好ましい。前記温度を保持する時間は、通常、10分〜100時間であり、好ましくは30分〜40時間であり、より好ましくは1〜10時間であり、更に好ましくは1〜3時間である。
【0115】
前記加熱は、オーブン、ファーネス、IHホットプレート等の装置で行うことができる。
【0116】
前記加熱は、加熱前後の質量減少率(即ち、加熱前の混合物の質量に対する、加熱後に得られる変性物の質量の減少率)が、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、特に好ましくは15%以上となるまで行えばよい。また、質量減少率の上限は、好ましくは50%、より好ましくは40%、特に好ましくは30%である。
【0117】
また、前記加熱後の変性物は炭素含有率が高いと安定性が良好であるので、この炭素含有率が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上となるように前記加熱を行う。
【0118】
本発明の金属錯体及び変性物は、そのまま単独で用いてもよいが、その他の成分と併用して組成物として用いてもよい。ここで、その他の成分としては、前記カーボン担体、高分子化合物が挙げられる。本発明の第一の組成物は、前記金属錯体と、カーボン担体及び/又は高分子化合物とを含むものであり、好ましくは、前記金属錯体と、カーボン担体及び/又は高分子化合物とから実質的になるものである。本発明の第二の組成物は、前記変性物と、高分子化合物とを含むものであり、好ましくは、前記変性物と、高分子化合物とから実質的になるものである。また、本発明の第一の組成物及び本発明の第二の組成物(以下、これらを総称して「本発明の組成物」と言うことがある。)は、通常、固形分である。なお、本発明の組成物において、各成分は、それぞれ一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0119】
本発明の第一の組成物において、カーボン担体の含有量は、本発明の金属錯体100質量部に対して、通常、100質量部〜10000質量部であり、好ましくは、200質量部〜600質量部である。
本発明の第一の組成物において、高分子化合物の含有量は、本発明の金属錯体100質量部に対して、通常、50質量部〜500質量部であり、好ましくは、100質量部〜300質量部である。
【0120】
本発明の第二の組成物において、高分子化合物の含有量は、本発明の変性物100質量部に対して、通常、10質量部〜200質量部であり、好ましくは、20質量部〜100質量部である。
【0121】
前記高分子化合物としては、ナフィオン(登録商標)、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリベンズイミダゾール、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリピリジン、及び、これら重合体に、スルホン酸基が導入された化合物が好ましい。
【0122】
次に、本発明の金属錯体、変性物及び組成物(以下、「本発明の金属錯体等」と言う。
)の有用性について説明する。
【0123】
本発明の金属錯体等は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒(レドックス触媒)として作用し、有機合成に使用されるほか、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料、エレクトロルミネッセンス材料等の用途にも用いることができる。
【0124】
本発明の金属錯体等は、レドックス触媒として用いられることが好ましく、具体的には、過酸化水素の分解触媒、芳香族化合物の酸化重合触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサー等である。
【0125】
特に、水を伴う反応において、水溶性の金属錯体等は流出し易いが、本発明の金属錯体等は、連結しているため水に溶けにくく、その結果、流出が抑制される。
【0126】
また、本発明の金属錯体等は、有機EL素子の発光材料、有機トランジスタ及び色素増感太陽電池等の有機半導体材料としても有用である。
【実施例】
【0127】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0128】
<実施例1>
・化合物(A)の合成
【0129】
【化26】

(式中、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。)
【0130】
アルゴン雰囲気下、3.945gの2,9−ビス(3’−ブロモ−5’−tert−ブチル−2’−メトキシフェニル)−1,10−フェナントロリン、3.165gの1−N−Boc−ピロール−2−ボロン酸、0.138gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム(Pd2(dba)3)、0.247gの2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル、及び、5.527gのリン酸カリウムを、200mLのジオキサンと20mLの水との混合溶媒に溶解させ、60℃にて6時間攪拌した。反応終了後、反応液を放冷してから、蒸留水及びクロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮したところ、黒い残留物を得た。この残留物を、シリカゲルカラムを用いて精製することにより、化合物(A)を得た。
【0131】
1H−NMR(300MHz,CDCl3) δ(ppm)=1.34(s,18H),1.37(s,18H),3.30(s,6H),6.21(m,2H),6.27(m,2H),7.37(m,2H),7.41(s,2H),7.82(s,2H),8.00(s,2H),8.19(d,J=8.6Hz,2H),8.27(d,J=8.6Hz,2H).
【0132】
・化合物(B)の合成
【0133】
【化27】

【0134】
窒素雰囲気下で、0.904gの化合物(A)を10mLのジクロロメタンに溶解させた。ジクロロメタン溶液を−78℃に冷却しながら、8.8mLの三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液)をゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌した後、室温になるまで攪拌を継続しつつ放置した。3時間後、反応液を0℃まで冷却させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた後、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮したところ、褐色の残留物が得られた。この残留物を、シリカゲルカラムで精製することにより、化合物(B)を得た。
【0135】
1H−NMR(300MHz,CDCl3) δ(ppm)=1.40(s,18H),6.25(m,2H),6.44(m,2H),6.74(m,2H),7.84(s,2H),7.89(s,2H),7.92(s,2H),8.35(d,J=8.4Hz,2H),8.46(d,J=8.4Hz,2H),10.61(s,2H),15.88(s,2H).
【0136】
・化合物(C)の合成
【0137】
【化28】

【0138】
窒素雰囲気下、0.121gの化合物(B)と0.013gのテレフタルアルデヒドとを30mLのジクロロメタンに溶解させた。これに、トリフルオロ酢酸1滴加えた後、室温で24時間攪拌した。その後、0.050gのクロラニルを加え、24時間攪拌した。その後、反応液を濃縮して得られた黒い残渣を、クロロホルム、メタノールの順番で洗浄することにより、化合物(C)を得た。
【0139】
ESI−MS[M+H]+:1307.5
【0140】
<実施例2>(金属錯体(D)の合成)
【0141】
【化29】

【0142】
窒素雰囲気下において、0.047gの化合物(C)と0.018gの酢酸コバルト4水和物を含んだ3mLのメタノールと3mLのクロロホルムとの混合溶液を、80℃に加熱しながら、5時間攪拌した。得られた溶液を濃縮して乾燥させることにより固化したところ、緑色固体が得られた。これを水で洗浄することにより、金属錯体(D)を得た。
【0143】
ESI−MS[M−2(CH3COO)]2+:768.2
【0144】
<実施例3>(組成物(E)の調製)
金属錯体(D)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン製)とを1:4の質量比で混合し、得られた混合物を、メタノール中、室温にて攪拌した後、室温にて200Paの減圧下で12時間乾燥させることにより、組成物(E)を調製した。
【0145】
<実施例4>(変性物(F)の調製)
組成物(E)を、管状炉を用いて、窒素雰囲気下において800℃で2時間加熱することにより、変性物(F)を得た。加熱前後の質量減少率、及び、変性物(F)の炭素含有率を表1に示す。なお、加熱に用いた管状炉及び加熱条件を以下に示す。
【0146】
・管状炉:プログラム制御開閉式管状炉EPKRO−14R、いすゞ製作所
・加熱条件
雰囲気:窒素ガスフロー(200ml/分)
昇温速度及び降温速度:200℃/時間
【0147】
【表1】

【0148】
<比較例1>
【0149】
【化30】

【0150】
窒素雰囲気下で、0.061gの化合物(B)と0.012gのベンズアルデヒドを5mLのプロピオン酸に溶解させ、140℃で7時間加熱した。その後、プロピオン酸を留去して、得られた黒い残渣をシリカゲルカラムで精製して、化合物(G)を得た。
【0151】
1H-NMR(300MHz, CDCl3) δ(ppm)=1.49(s, 18H), 6.69(d, J=4.8Hz ,2H), 7.01(d, J=4.8Hz, 2H), 7.57(m, 5H), 7.90(s, 4H), 8.02(s, 2H), 8.31(d, J=8.1Hz, 2H), 8.47(d, J=8.1Hz, 2H).
【0152】
【化31】

【0153】
窒素雰囲気下において、0.045gの化合物(G)と、0.040gの酢酸コバルト4水和物を含んだ3mLのメタノールと、3mLのクロロホルムとの混合液を、80℃に加熱しながら5時間攪拌した。得られた溶液を濃縮して乾燥させることにより固化したところ、青色固体が得られた。この青色固体を水で洗浄することにより、金属錯体(H)を得た。
【0154】
ESI−MS[M+・]:866.0
【0155】
なお、金属錯体(H)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン製)とを1:4の質量比で混合し、得られた混合物を、メタノール中、室温にて攪拌した後、室温にて200Paの減圧下で12時間乾燥させることにより、比較組成物(I)を調製した。
【0156】
次いで、実施例4において、組成物(E)を比較組成物(I)に変えた以外は、実施例4と同様にして、比較変性物(J)を得た。
【0157】
<評価>
(回転リングディスク電極による酸素還元能の評価)
電極には、ディスク部がグラッシーカーボン(直径4.0mm)、リング部が白金(リング内径5.0mm、リング外径7.0mm)とするリングディスク電極を用いた。組成物(E)、変性物(F)、比較組成物(I)又は比較変性物(J)を2mg入れたサンプル瓶へ、蒸留水0.6mL、エタノール0.4mL及びナフィオン溶液(Aldrich製、5質量%溶液)20μLを加えた後、超音波で30分間、分散させた。得られた懸濁液4.44μLを前記電極のディスク部に滴下した後、室温にて一晩乾燥させることにより測定用電極を作製した。こうして作製した電極を回転させることにより、その時の酸素還元反応の電流値を測定した。測定は室温において窒素雰囲気下及び酸素雰囲気下で行った。酸素雰囲気下での測定で得られた電流値から、窒素雰囲気下での測定で得られた電流値を引いた値を酸素還元の電流値とし、この電流値をディスク部表面積で割った値を電流密度とした。酸素雰囲気下での0.4V(vs RHE)の電位における電流密度を表2に示す。なお、測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
【0158】
測定装置
ビー・エー・エス株式会社製
RRDE−2回転リングディスク電極装置
ALSモデル701Cデュアル電気化学アナライザー
測定条件
セル溶液:0.05モル/L硫酸水溶液(酸素飽和)
溶液温度:25℃
参照電極:銀/塩化銀電極(飽和KCl)
カウンター電極:白金ワイヤー
掃引速度:5mV/s
電極回転速度:2400rpm
【0159】
【表2】

【0160】
実施例で調製した組成物(E)は、比較例で調製した比較組成物(I)に比べて、電流密度が高いことから、酸素還元能が高い。
実施例で調製した変性物(F)は、比較例で調製した比較変性物(J)に比べて、電流密度が高いことから、酸素還元能が高い。
【0161】
<評価>
[溶解性試験]
金属錯体(D)、及び金属錯体(H)をそれぞれ1mg取ってバイアルに入れた後、水1mlを加え、攪拌した。1時間後、金属錯体(D)は溶解しなかったが、金属錯体(H)は一部溶解し、水が薄い青色になった。
【0162】
したがって、連結した化合物を配位子に持つ金属錯体(D)は、耐水溶性があることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物の残基と、置換基を有していてもよい2価の芳香族基と、からなる化合物であって、該残基の個数が2〜4個であり、該2価の芳香族基の個数が1〜3個であり、該残基と該2価の芳香族基の個数の和が3〜5個である化合物。
【化1】

[式(1)中、Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立に、下記式:
【化2】

(式中、Rαはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。P1は、Y1を含む複素環を形成する原子群であり、P2は、Y2を含む複素環を形成する原子群であり、P3は、Y3を含む複素環を形成する原子群であり、P4は、Y4を含む複素環を形成する原子群である。P5及びP6は、それぞれ独立に、芳香環又は複素環を形成する原子群である。P1、P2、P3及びP4が形成する複素環、並びに、P5及びP6が形成する芳香環及び複素環は、それぞれ置換基を有していてもよい。P1とP2は互いに結合してQとともに環を形成していてもよく、P2とP6は互いに結合して環を形成していてもよく、P6とP4は互いに結合して環を形成していてもよく、P4とP3は互いに結合してQとともに環を形成していてもよく、P3とP5は互いに結合して環を形成していてもよく、P5とP1は互いに結合して環を形成していてもよい。Q1及びQ2は、それぞれ独立に、連結基又は直接結合を表す。Z1及びZ2は、それぞれ独立に、水素原子、又は、下記式:
【化3】

(式中、Rβはそれぞれ独立に水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。]
【請求項2】
前記式(1)において、P5で表される原子群とZ1とが一体となって、フェノール構造を形成し、かつ、P6で表される原子群とZ2とが一体となって、フェノール構造を形成した、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1)において、P1が形成する複素環、P2が形成する複素環、P3が形成する複素環、及びP4が形成する複素環が、芳香族複素環である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記式(1)において、P1が形成する芳香族複素環、P2が形成する芳香族複素環、P3が形成する芳香族複素環、及びP4が形成する芳香族複素環が、含窒素芳香族複素環である請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である請求項1に記載の化合物。
【化4】

[式(2)中、R1は水素原子又は1価の基であり、複数あるR1は、同一であっても異なっていてもよい。R1同士は互いに結合して環を形成してもよい。Q3及びQ4は、それぞれ独立に、下記式:
【化5】

〔式中、R2は水素原子又は1価の基を表す。複数あるR2は、同一であっても異なっていてもよい。R2同士は互いに結合して環を形成してもよい。X1は、窒素原子又は3価の基を表す。R3は水素原子又は1価の基を表す。複数あるR3は、同一であっても異なっていてもよい。R3同士は互いに結合して環を形成してもよい。X2は、下記式:
【化6】

(式中、R’は水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。複数あるX2は、同一であっても異なっていてもよい。
4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の基を表す。R4とR6は互いに結合して環を形成していてもよく、R5とR6は互いに結合して環を形成していてもよく、R4とR5とR6は互いに結合して環を形成してもよい。〕
のいずれかで表される2価の基を示す。]
【請求項6】
下記式(3)で表される請求項1に記載の化合物。
【化7】

[式(3)中、R7及びR8は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の基を表す。複数あるR7は、同一であっても異なっていてもよい。R7同士は互いに結合して環を形成してもよい。複数あるR8は、同一であっても異なっていてもよい。R8同士は互いに結合して環を形成してもよい。Q5は、下記式:
【化8】

〔式中、R9は、水素原子又は1価の基を表す。複数あるR9は、同一であっても異なっていてもよい。R9同士は互いに結合して環を形成してもよい。X3は、窒素原子又は3価の基を表す。R10は、水素原子又は1価の基を表す。複数あるR10は、同一であっても異なっていてもよい。R10同士は互いに結合して環を形成してもよい。X4は、下記式:
【化9】

(式中、R’は、水素原子又はヒドロカルビル基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。複数あるX4は、同一であっても異なっていてもよい。R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子又は1価の基を表す。R11とR12とは、互いに結合して環を形成してもよい。〕
のいずれかで表される2価の基を表す。複数あるQ5は、同一であっても異なっていてもよい。Arは置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。]
【請求項7】
金属原子又は金属イオンと、配位子とを有する金属錯体であって、該配位子が、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化合物である金属錯体。
【請求項8】
前記金属原子又は金属イオンにおける金属が、周期表の第4周期から第6周期に属する遷移金属である請求項7に記載の金属錯体。
【請求項9】
前記金属原子又は金属イオンにおける金属が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は白金である請求項8に記載の金属錯体。
【請求項10】
前記金属原子又は前記金属イオンの個数が1〜4個である請求項7〜9のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の金属錯体と、カーボン担体と、からなる混合物を、加熱することにより得られる変性物。
【請求項12】
前記加熱の温度が600℃〜1200℃である請求項11に記載の変性物。
【請求項13】
下記(a)及び下記(b)を含む組成物。
(a)請求項7〜10のいずれか一項に記載の金属錯体
(b)カーボン担体及び/又は高分子化合物
【請求項14】
下記(a’)及び下記(b’)を含む組成物。
(a’)請求項11又は12に記載の変性物
(b’)高分子化合物
【請求項15】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の金属錯体、請求項11若しくは12に記載の変性物、又は、請求項13若しくは14に記載の組成物、からなる触媒。
【請求項16】
請求項15に記載の触媒からなる燃料電池用電極触媒。

【公開番号】特開2012−82190(P2012−82190A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188353(P2011−188353)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】