説明

金属錯体、並びにそれからなる吸蔵材及び分離材

【課題】優れたガス吸蔵性能及びガス分離性能を有する金属錯体の提供。
【解決手段】一般式(I);


(式中、R及びRはそれぞれ、水素、アルキル基、ニトロ基などである。)で表されるジカルボン酸化合物と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオン(例えば、亜鉛イオン)と、二座配位可能な有機配位子となる置換基を有してもよい4,4'−ビピリジル化合物とからなる金属錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法、並びに該金属錯体からなる吸蔵材及び分離材に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材及び分離するための分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0007】
テレフタル酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはテレフタル酸と銅イオンとピラジンとからなる高分子金属錯体であり、混合ガスの分離において、テレフタル酸が有する置換基や二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0008】
テレフタル酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、実施例に記載されているのはテレフタル酸と銅イオンと1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンとからなる高分子金属錯体であり、混合ガスの分離において、テレフタル酸が有する置換基や二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
テレフタル酸と金属イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、混合ガスの分離において、テレフタル酸が有する置換基や二座配位可能な有機配位子が分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0010】
2−ニトロテレフタル酸と銅イオンと4,4’−ビピリジルから構成される高分子金属錯体が知られている(非特許文献3参照)。しかしながら、その構造は二次元シート状であり、本発明の効果発現の必須要件であるジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−109485公報
【特許文献2】特開2001−348361公報
【特許文献3】特開2003−342260公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【非特許文献3】Hong−Yin He、Long−Guan Zhu、SeikWeng Ng、Acta Crystallographica Section E、第61巻、m601〜m602頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、従来よりも有効吸蔵量が大きいガス吸蔵材、或いは従来よりも混合ガスの分離性能が優れるガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I);
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子である(ただし、RとRが同時に水素原子になることはない。)。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、下記一般式(II);
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、RとR、或いはRとRは一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる金属錯体。
(2)ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する(1)に記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子(II)が4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンから選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)該金属イオンが亜鉛イオンである(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
(6)該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である(5)に記載の吸蔵材。
(7)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(8)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(7)に記載の分離材。
(9)該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(7)に記載の分離材。
(10)ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物と、少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0021】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として使用することができる。
【0022】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子(II)が配位して形成されるジャングルジム骨格の模式図である。
【図2】ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造の模式図である。
【図3】本発明の金属錯体の吸脱着に伴う構造変化の模式図である。
【図4】合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図5】合成例1で得た金属錯体の真空乾燥前の粉末X線回折パターンである。
【図6】合成例1で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図7】合成例2で得た金属錯体の真空乾燥前の粉末X線回折パターンである。
【図8】合成例2で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図9】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図10】比較合成例1で得た金属錯体の真空乾燥前の粉末X線回折パターンである。
【図11】比較合成例1で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図12】比較合成例2で得た金属錯体の結晶構造である。
【図13】比較合成例2で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体の結晶構造である。
【図15】比較合成例3で得た金属錯体の真空乾燥後の粉末X線回折パターンである。
【図16】合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図18】合成例2で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図19】比較合成例1で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図20】比較合成例3で得た金属錯体について、エチレンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図21】合成例1、比較合成例1、比較合成例2で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図22】合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図23】比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図24】比較合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる。
【0025】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンとしては、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、鉄イオン、ルテニウムイオン、コバルトイオン、ロジウムイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、亜鉛イオンまたはカドミウムイオンが好ましく、マグネシウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオンまたはカドミウムイオンがより好ましく、亜鉛イオンが特に好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用することが好ましいが、2種以上の金属イオンを含む混合金属錯体であってもよい。また、本発明の金属錯体は、単一の金属イオンからなる金属錯体を2種以上混合して使用することもできる。
【0026】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)及び二座配位可能な有機配位子(II)を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0027】
本発明に用いられるジカルボン酸化合物(I)は下記一般式(I);
【0028】
【化3】

【0029】
で表される。式中、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子である(ただし、RとRが同時に水素原子になることはない。)。
【0030】
上記R及びRを構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としてはメチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0031】
好ましいジカルボン酸化合物(I)としては、2−メチルテレフタル酸、2−メトキシテレフタル酸または2−ニトロテレフタル酸を使用することができ、中でも2−メチルテレフタル酸または2−ニトロテレフタル酸が好ましい。
【0032】
金属錯体の製造に用いる周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩またはカドミウム塩を使用することができ、マグネシウム塩、マンガン塩、コバルト塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩またはカドミウム塩が好ましく、亜鉛塩がより好ましい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(II)は下記一般式(II);
【0033】
【化4】

【0034】
で表される。式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、RとR、並びに/或いはRとRが一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。
【0035】
上記R、R、R、R、R、R、R及びR10を構成することのできる置換基の内、アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0036】
上記アルケニレン基の炭素数は、2が好ましい。アルケニレン基の炭素数が2の場合、RとR、並びに/或いはRとRはそれらが結合している炭素原子と一緒になって6員環(ベンゼン)を構成する。
【0037】
また、該アルケニレン基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。
【0038】
二座配位可能な有機配位子(II)としては、例えば、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジンまたはジアザピレンを挙げることができ、中でも4,4’−ビピリジルが好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属イオンに対して配位する部位を2箇所持つ中性配位子を意味する。
【0039】
金属錯体を製造するときのジカルボン酸化合物(I)と二座配位可能な有機配位子(II)との混合比率は、ジカルボン酸化合物(I):二座配位可能な有機配位子(II)=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0040】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(II)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(II)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0041】
金属錯体を製造するための混合溶液におけるジカルボン酸化合物(I)のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0042】
金属錯体を製造するための混合溶液における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0043】
金属錯体を製造するための混合溶液における二座配位可能な有機配位子(II)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0044】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0045】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0046】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子(II)が配位して形成されるジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造を有する。ジャングルジム骨格の模式図を図1に、ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造の模式図を図2に示す。
【0047】
本明細書において、「ジャングルジム骨格」とは、ジカルボン酸化合物(I)のカルボキシレートイオンと金属イオンとからなるパドルホイール骨格中の金属イオンのアキシャル位に二座配位可能な有機配位子が配位し、ジカルボン酸化合物(I)と金属イオンとからなる二次元格子状シート間を連結することで形成されるジャングルジム様の三次元構造と定義する。
【0048】
本明細書において、「ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造」とは、二つのジャングルジム骨格が互いの細孔を埋める形で貫入し合った三次元集積構造と定義する。金属錯体が「ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する」ことは、例えば単結晶X線構造解析、粉末X線結晶構造解析などにより確認できる。
【0049】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え(相互作用の強さは物質のLennard−Jonesポテンシャルの大きさに比例)、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高いガス吸蔵性能及び高いガス分離選択性が発現する。吸脱着に伴う構造変化の模式図を図3に示す。本発明では、一般式(I)で表されるジカルボン酸化合物を用いてジャングルジム骨格間の立体反発を制御することで、高い分離性能と吸着量の両立が可能となる。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0050】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0052】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0054】
(1)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をゴニオヘッドにマウントし、単結晶X線回折装置を用いて測定した。
測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社製SMART APEX II Ultra
X線源:MoKα(λ=0.71073Å) 50kV 24mA
集光ミラー:HELIOS multilayer optics for Mo radiation
検出器:APEX II CCD
コリメータ:Φ0.42mm
解析ソフト:SHELX−97
【0055】
(2)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0056】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0057】
(4)混合ガス分離性能の測定
三方コックとセプタムを装着したガラス製10mL二口フラスコを用意し、三方コックの一方の口に別の三方コックを介して100mLのシリンジをチューブで接続した。測定は、二口フラスコに試料を入れ、373K、4.0x10−3Paで3時間乾燥し、吸着水などを除去した後に、フラスコに装着している三方コックを閉じ、続いてシリンジ側の三方コックを通じてシリンジに100mLの混合ガスを導入し、最後にフラスコに装着している三方コックを開き、試料に混合ガスを吸着させた。このとき、吸着量はシリンジの目盛りの減少分から算出し(死容積はあらかじめヘリウムを用いて測定)、ガス組成はガスクロマトグラフィーで分析して算出した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社島津製作所製GC−14B
カラム:ジーエル サイエンス株式会社製WG−100
INJ温度:100℃
DET温度:50℃
カラム温度:50℃
キャリアガス:ヘリウム
注入量:1mL
検出器:TCD
【0058】
<合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、2−ニトロテレフタル酸2.00g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体について単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図4に示す。図4より、本錯体はジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造を形成していることが分かる。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
Triclinic(P−1)
a=11.06(3)Å
b=11.14(3)Å
c=14.23(4)Å
α=94.39(4)°
β=90.62(6)°
γ=97.84(6)°
V=1731(8)Å
Z=2
R=0.2112
Rw=0.4859
【0059】
続いて、析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。その後、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体2.89g(収率87%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。図5と図6の比較から、合成溶媒の吸脱着前後で粉末X線回折パターンが異なるので、本発明の金属錯体は吸脱着に伴い、構造が動的に変化していることが分かる。
【0060】
<合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、2−メチルテレフタル酸1.70g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。図5と図7の比較から、粉末X線回折パターンが同じであるので、合成例1で得られた金属錯体と同様にジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造を形成していることが分かる。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体2.72g(収率89%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。図7と図8の比較から、合成溶媒の吸脱着前後で粉末X線回折パターンが異なるので、本発明の金属錯体は吸脱着に伴い、構造が動的に変化していることが分かる。
【0061】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物2.81g(9.5mmol)、テレフタル酸1.57g(9.5mmol)及び4,4’−ビピリジル0.739g(4.7mmol)を容量比でN,N−ジメチルホルムアミド:エタノール=1:1からなるN,N−ジメチルホルムアミドとエタノールの混合溶媒800mLに溶解させ、363Kで48時間攪拌した。析出した金属錯体について単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図9に示す。図9より、本錯体はジャングルジム骨格が二重に相互貫入した三次元構造を形成していることが分かる。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図10に示す。
Triclinic(P−1)
a=10.880(3)Å
b=10.918(3)Å
c=14.122(4)Å
α=89.335(16)°
β=89.171(17)°
γ=78.380(16)°
V=1643.0(8)Å
Z=2
R=0.0655
Rw=0.1697
【0062】
続いて、析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、メタノールで3回洗浄を行った。その後、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体2.75g(収率95%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図11に示す。図10と図11の比較から、合成溶媒の吸脱着前後で粉末X線回折パターンが異なるので、本発明の金属錯体は吸脱着に伴い、構造が動的に変化していることが分かる。
【0063】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−ニトロイソフタル酸3.59g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体について単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図12に示す。図12より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
Triclinic(P−1)
a=10.043(10)Å
b=10.100(9)Å
c=10.651(10)Å
α=77.326(11)°
β=66.246(10)°
γ=80.507(10)°
V=961.2(16)Å
Z=2
R=0.0649
Rw=0.1459
【0064】
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.34g(収率73%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図13に示す。
【0065】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−メチルイソフタル酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。析出した金属錯体について単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。また、結晶構造を図14に示す。図14より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
monoclinic(P12/c1)
a=10.03483(18)Å
b=11.4054(2)Å
c=16.7529(3)Å
α=90.0000°
β=103.0720(7)°
γ=90.0000°
V=1867.71(6)Å
Z=1
R=0.0525
Rw=0.1381
【0066】
析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、エタノールで3回洗浄した。続いて、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.09g(収率90%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図15に示す。
【0067】
<実施例1>
合成例2で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線を測定した。結果を図16に示す。
【0068】
<比較例1>
比較合成例3で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線を測定した。結果を図17に示す。
【0069】
図16と図17の比較より、本発明の金属錯体は0.1〜1.0MPaの圧力範囲における二酸化炭素の有効吸蔵量が多く、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、二酸化炭素の吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0070】
<実施例2>
合成例2で得た金属錯体について、273Kにおけるエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図18に示す。
【0071】
<比較例2>
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図19に示す。
【0072】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、273Kにおけるエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図20に示す。
【0073】
図18と図19〜20より、本発明の金属錯体は0.1〜1.0MPaの圧力範囲におけるエチレンの有効吸蔵量が多く、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、エチレンの吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0074】
<実施例3>
合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図21に示す。
【0075】
<比較例4>
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図21に示す。
【0076】
<比較例5>
比較合成例2で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図21に示す。
【0077】
図21より、本発明の金属錯体は0.1〜1.0MPaの圧力範囲での有効吸蔵量が多く、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、メタンの吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0078】
<実施例4>
合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=25:75からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0079】
<実施例5>
合成例2で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=25:75からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
<比較例6>
比較合成例1で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=25:75からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
<比較例7>
比較合成例2で得た金属錯体について、容量比でメタン:二酸化炭素=25:75からなるメタンと二酸化炭素の混合ガスを用い、273K、0.1MPaにおける分離性能を測定した。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1より、本発明の金属錯体は高い二酸化炭素選択吸着能を有するので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。本明細書において、「CO選択率」とは、吸着した全ガス中に占める二酸化炭素の割合と定義する。
【0084】
<実施例6>
合成例2で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図22に示す。
【0085】
<比較例8>
比較合成例1で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図23に示す。
【0086】
<比較例9>
比較合成例3で得た金属錯体について、メタン及びエタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果を図24に示す。
【0087】
図22と図23〜24の比較より、本発明の金属錯体はエタンを選択的に吸着し、かつその脱着を0.1MPa(常圧)で行うことができ、0.1MPa以下に減圧する必要がないため、再生に要するエネルギーが少なくて済む。そのため、エタンとメタンの分離材として優れていることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】


(式中、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子である(ただし、RとRが同時に水素原子になることはない。)。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属のイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンと、下記一般式(II);
【化2】


(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子であるか、RとR、並びに/或いはRとRは一緒になって置換基を有していてもよいアルケニレン基を形成してもよい。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とからなる金属錯体。
【請求項2】
ジャングルジム骨格が二重に相互貫入した構造を有する請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該二座配位可能な有機配位子(II)が4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン及びジアザピレンから選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
該金属イオンが亜鉛イオンである請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
【請求項6】
該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である請求項5に記載の吸蔵材。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項8】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項7に記載の分離材。
【請求項9】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項7に記載の分離材。
【請求項10】
ジカルボン酸化合物(I)と、周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(II)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190256(P2011−190256A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36256(P2011−36256)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】