説明

金属錯体、発光素子、表示装置

【課題】励起状態でも安定であり、良好な発光特性を有する金属錯体を提供する。
【解決手段】[(MII(M(L)(L2)]及び[(MII(M(L)(L2)]の少なくともいずれかを含む金属錯体。
例えば具体的には下記反応で得られる化合物が例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光特性を有する金属錯体に関する。また、本発明は、この金属錯体を含む発光層を有する発光素子に関する。また、本発明は、この発光素子を備えてなる表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、液晶に代わる発光ディスプレイ(表示装置)として、有機EL素子が注目を集めている。
従来の有機EL素子では、一重項励起状態からの発光(蛍光)が利用されてきた。この場合には、有機EL現象の原理から25%の発光効率が最大となり、非常に発光効率が悪かった。
【0003】
発光効率を上げる方法として、最近特に注目されているのが三重項励起状態から生じるリン光である。
この場合、原理的には100%の発光効率が可能となる。
【0004】
ところで、PtIIイオンにジイミン類やターピリジン及びその誘導体が配位した錯体は、MLCT(metal−to−ligand charge transferの略。金属イオンから配位子への電荷移動)や、MMLCT(metal−metal−to−ligand charge transferの略。金属−金属間相互作用により生じたdσ軌道から配位子への電荷移動)に起因した発光を示すものが多く、これらの化合物の光物理的性質に興味が持たれている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、これらの化合物は、励起状態での安定性が低い、という問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.-W. Lai, C.-M. Che, Topics in Current Chemistry, 2004, 241(Transition Metal and Rare Earth Compounds III), 27-63.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、励起状態でも安定であり、良好な発光特性を有する金属錯体を提供することを目的とする。
また、本発明は、この金属錯体を含む発光層を有する発光素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、この発光素子を備えてなる表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の金属錯体は、以下の組成を含む金属錯体である。
以下の組成(C1)及び(C2)の少なくともいずれかを含む金属錯体。
[(MII(M(L)(L2)] (C1)
[(MII(M(L)(L2)] (C2)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Xは、ハロゲン化物イオンを表す。Lは、下記式(1)で表される構造を表す。
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)中、Rは、置換されていてもよいアルキル基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換されていてもよいアルキル基を表す。
また、L2は、下記式(2)で表される構造を表す。
【0011】
【化2】

【0012】
式(2)中、Arは、置換されていてもよいアリール基を表す。X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、又は、置換されていてもよいアリール基を表す。
【0013】
また、前記本発明の金属錯体において、MIIはPtIIであり、MはAgであり、XはClであり、Lはジメチルピラゾール又は3−メチルピラゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンであり、L2はジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンである構成とすることができる。
【0014】
本発明の発光素子は、前記の金属錯体を含む発光層を有することを特徴とする。
本発明の表示装置は、前記発光素子を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上述の本発明の金属錯体によれば、励起状態でも化合物が安定であり、良好な発光特性を有する、新規な金属錯体を提供することができる。
本発明の発光素子によれば、新規な発光素子を提供することができる。
本発明の発光装置によれば、新規な発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す断面図である。
【図2】[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]の分子構造を示すORTEP図である。
【図3】[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]の分子構造を示すORTEP図である。
【図4】[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]の分子構造を示すORTEP図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
まず、本発明の金属錯体について説明する。
本発明の金属錯体は、以下の組成を含む金属錯体である。
以下の組成(C1)及び(C2)の少なくともいずれかを含む金属錯体。
[(MII(M(L)(L2)] (C1)
[(MII(M(L)(L2)] (C2)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Xは、ハロゲン化物イオンを表す。
Lは、前記式(1)で表される構造を表す。そして、前記式(1)中、Rは置換されていてもよいアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換されていてもよいアルキル基を表す。
L2は、前記式(2)で表される構造を表す。そして、前記式(2)中、Arは置換されていてもよいアリール基を表し、X及びXは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、又は、置換されていてもよいアリール基を表す。
【0019】
即ち、本発明の金属錯体は、MII及びMの2種の金属イオン、Xで表されるハロゲン化物イオン、及び、配位子L及びL2を用いて構成される多核金属錯体である。
そして、上記組成(C1)及び組成(C2)の少なくともいずれかを含むので、組成(C1)即ち[(MII(M(L)(L2)]で表される組成と、組成(C2)即ち[(MII(M(L)(L2)]で表される組成との、それぞれ多数ある組成のうちの少なくとも1つの組成を含んでおり、2つ以上の組成を含んでいてもよい。さらにまた、組成(C1)及び組成(C2)の両方を含んでいてもよい。
【0020】
IIは、PtII又はPdIIであり、好ましくはPtIIである。
は、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbであり、Au、Ag、Cuが好ましく、さらに好ましいのはAgである。
はF、Cl、Br、Iであり、好ましくはClである。
【0021】
Lは、前記式(1)で表される構造を表す。
前記式(1)中のRで表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれでもよい。炭素数は通常1〜8程度であり、好ましくは炭素数1〜4である。更に好ましくは、炭素数1である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基が好ましい。更に好ましくは、メチル基が挙げられる。置換されているアルキル基としては、ハロゲン原子で置換されたアルキル基が好ましい。
また、前記式(1)中のR及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は、置換されていてもよいアルキル基を表す。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示される。
,Rで表されるアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれでもよい。炭素数は通常1〜8程度である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
,Rとして好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。更に好ましくは、水素原子、メチル基が挙げられる。
【0022】
また、L2は、前記式(2)で表される構造を表す。
前記式(2)中のArで表される、置換されていてもよいアリール基は、炭素数が通常6〜16程度であり、好ましくは6〜10である。具体的には、フェニル基、C〜Cアルコキシフェニル基(「C〜Cアルコキシ」は、アルコキシ部分の炭素数が1〜4であることを意味する。以下、同様である。)、C〜Cアルキルフェニル基(「C〜Cアルキル」は、アルキル部分の炭素数が1〜4であることを意味する。以下、同様である。)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ペンタフルオロフェニル基等が例示され、C〜Cアルコキシフェニル基、C〜Cアルキルフェニル基が好ましい。ここに、アリール基とは、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた原子団である。ここに芳香族炭化水素としては、縮合環をもつもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものが含まれる。
〜Cアルコキシとして、具体的には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、i−プロピルオキシ、ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ等が例示される。
〜Cアルキルとして、具体的には、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、i−ブチル、t−ブチル等が例示される。
前記式(2)中のX,Xは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、又は、置換されていてもよいアリール基を表す。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が例示される。
置換されていてもよいアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のいずれでもよい。炭素数は通常1〜8程度である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
置換されていてもよいアリール基は、炭素数が通常6〜16程度であり、好ましくは6〜10である。具体的には、フェニル基、C〜Cアルコキシフェニル基、C〜Cアルキルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ペンタフルオロフェニル基等が例示され、C〜Cアルコキシフェニル基、C〜Cアルキルフェニル基が好ましい。ここに、アリール基とは、芳香族炭化水素から、水素原子1個を除いた原子団である。ここに芳香族炭化水素としては、縮合環をもつもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が直接又はビニレン等の基を介して結合したものが含まれる。
〜Cアルコキシとして、具体的には、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、i−プロピルオキシ、ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ等が例示される。
〜Cアルキルとして、具体的には、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、i−ブチル、t−ブチル等が例示される。
及びXとして好ましくは、水素原子、置換されていてもよいアリール基であり、さらに好ましくは、Xが水素原子、Xが置換されていてもよいアリール基である。
【0023】
次に、本発明の金属錯体の合成方法について説明する。
本発明の金属錯体は、ピラゾール化合物(LH及びL2H)を原料として、合成することができる。LHは、下記式(1−1)で表される構造を表し、L2Hは、下記式(2−1)で表される構造を表す。LHのR,R,Rは、前記式(1)で表されるLのR,R,Rと同じである。L2HのAr,X,Xは、前記式(2)で表されるL2のAr,X,Xと同じである。
なお、下記式(1−1)及び式(2−1)は、前記式(1)及び前記式(2)とは、5員環部分の標記が異なっているが、実質的な構成は同等である。また、ここでは、電荷を持たないピラゾール化合物をLH,L2Hと表し、ピラゾール化合物から水素イオンが解離した一価のイオンをL,L2と表すものとする。
【0024】
【化3】

【化4】

【0025】
まず、本発明の金属錯体を構成するピラゾール化合物(LH及びL2H)の合成について説明する。
これらのピラゾール化合物は、市販の化合物として購入し、使用することができる。また、既知の方法を用いて、又は、既知の方法を組み合わせることによって、合成することができる。
例えば、以下の方法により、ピラゾール化合物を合成することができる。
まず、J.Am.Chem.Soc.,72,1352−1356(1950)に記載の方法により、中間体であるジケトン化合物を得る。
次に、このジケトン化合物と、ヒドラジン又はヒドラジン一水和物とを、Bull.Soc.Chim.,45,877−884(1929)、Chem.Abstr.,24,7541(1930)、Tetrahedron,42,15,4253−4257(1986)、Heterocycles,53,1285(2000)に記載の方法等により、反応させることによって、前記式(1−1)及び式(2−1)で表されるピラゾール化合物を合成することができる。
【0026】
所望のジケトン化合物の合成法は、上述の合成法に限らず合成することができる。例えば、β−不飽和ケトンの酸化反応や、ケトカルボン酸と、アルキルブロマイドのGrignard試薬との反応によっても合成できる。
【0027】
また、ピラゾール化合物は、ジケトン化合物を原料とする上述の方法に限らず、J.Heterocyclic Chem.,35,1377(1998)、Organic Syntheses,39,27−30(1959)、J.Heterocyclic Chem.,21(4),937−943(1984)、J.Am.Chem.Soc.,79,5242−5245(1957)、J.Heterocyclic Chem.,24(1),117−119(1981)、J.Medicinal Chemistry,24(1),117−119(1981)、J.Medicinal Chemistry,20(6),847−850(1977)、J.Heterocyclic Chem.,21(4),937−943(1984)、J.Chem.Soc.,Perkin Transactions1,(23),2901−2907(1973)に記載の方法、又はそれらの方法に準じても、合成することができる。
【0028】
続いて、ピラゾール化合物(LH及びL2H)を使用した、本発明の金属錯体の合成方法の一例を説明する。
【0029】
まず、本発明の金属錯体のうち、組成(C1)即ち[(MII(M(L)(L2)]の金属錯体の合成方法の一例を説明する。
最初に、中間生成物として、単核錯体[MII(L2H)]X(Xはハロゲン化物イオンを表す)を合成する。具体例としては、白金錯体[PtCl2(C2H5CN)2]とdppzHとの反応で得られる単核錯体[PtCl(dppzH)3]Clが挙げられる。この単核錯体は、前記特許文献2において、白金錯体[PtCl2(C2H5CN)2]とdppzHとの反応で得られる白黄色固体として記載されている。
次に、この単核錯体[MII(L2H)]Xに、LH及び塩基を反応させて、[MII(L2)(LH)(L2H)]Xと[MII(L2H)]Xの混合物を得る。
さらに、この混合物に、MBF及び塩基を反応させることによって、組成(C1)即ち[(MII(M(L)(L2)]の金属錯体を得ることができる。
【0030】
次に、本発明の金属錯体のうち、組成(C2)即ち[(MII(M(L)(L2)]の金属錯体の合成方法の一例を説明する。
最初に、中間生成物として、単核錯体[MII(L2)(L2H)](Xはハロゲン化物イオンを表す)を合成する。具体例としては、前記特許文献2において、[PtCl2(C2H5CN)2]とdppzHとの反応で[PtCl(dppz)(dppzH)2]を合成することが開示されている。
次に、LHとアルカリ金属水酸化物とを反応させた後に、この単核錯体[MII(L2)(L2H)]と反応させることにより、[MII(L2)(LH)(L2H)]を得る。
さらに、この[MII(L2)(LH)(L2H)]を、MBFと反応させることによって、組成(C2)即ち[MII(L)(L2)]の金属錯体を得ることができる。
【0031】
本発明の金属錯体の合成方法は、上述した方法に限定されるものではなく、その他の方法で合成してもよい。
【0032】
次に、本発明の金属錯体の用途について説明する。
上述の金属錯体は、有機EL素子等の発光素子の発光層に含有させる発光剤としての用途がある。
なお、上述の金属錯体の用途は、発光剤に限定されない。この他、有機分子やガス分子等のセンサーや制癌剤、或いは、普段は無色透明であるが紫外光照射時のみ発光する塗料等の用途がある。
【0033】
次に、上述の金属錯体を発光層に含有する発光素子について説明する。
本発明の発光素子の一例を示す断面図を、図1に示す。
図1に示す発光素子は、ガラス等の透明な基板1の上に、陽極2が形成され、この陽極2の上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、及び電子注入層7が積層形成され、さらに電子注入層7の上に陰極8が形成された構成である。
即ち、陽極2と陰極8との間に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7の5層が積層形成された、5層型の発光素子となっている。
【0034】
本発明の発光素子は、上述の5層型の発光素子に限定されない。
この他、5層型の発光素子から電子輸送層を省略した4層型の発光素子であってもよい。また、5層型の発光素子から正孔注入層と電子注入層を省略した3層型の発光素子であってもよい。また、3層型の発光素子の発光層と電子輸送層を兼用して1つの層とする2層型の発光素子であってもよい。また、陽極と陰極の間に発光層のみが形成される単層型であってもよい。
【0035】
本発明の金属錯体を有利に適用し得る発光素子は、本質的に、発光能を有する金属錯体を含んでなる発光素子であって、通常、正電圧を印加する陽極と、負電圧を印加する陰極と、陽極から正孔を注入して輸送する正孔注入/輸送層と、陰極から電子を注入して輸送する電子注入/輸送層と、正孔と電子を再結合させ発光を取り出す発光層とを含んでなる積層型発光素子が重要な適用対象となる。
【0036】
本発明の金属錯体は、顕著な発光能を有するので、発光素子におけるホスト発光剤として極めて有用である。
さらに、この金属錯体は、正孔注入/輸送層用剤、電子注入/輸送層用剤、さらには、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム等の、8−キノリノール類を配位子とする金属錯体を始めとする他のホスト発光剤に微量ドープしてその発光効率や発光スペクトルを改善するためのゲスト発光剤としても機能する。
このことから、これらの材料の単独又は複数が不可欠の要素となる発光素子において、単独で、或いは、ジシアノメチレン(DCM)類、クマリン類、ペリレン類、ルブレン類等の他の発光剤や正孔注入/輸送層用剤及び/又は電子注入/輸送層用剤と組み合わせて、極めて有利に用いることができる。
【0037】
なお、積層型発光素子において、発光剤が正孔注入/輸送能又は電子注入/輸送能を兼備する場合には、それぞれ、正孔注入/輸送層又は電子注入/輸送層を省略することがあり、また、正孔注入/輸送層用剤及び電子注入/輸送層用剤の一方が他方を兼備する場合には、それぞれ、電子注入/輸送層又は正孔注入/輸送層を省略することがある。
【0038】
本発明の金属錯体は、単層型発光素子及び積層型発光素子のいずれにも適用可能である。
発光素子の動作は、本質的に、電子及び正孔を電極から注入する過程、電子及び正孔が固体中を移動する過程、電子及び正孔が再結合し、三重項励起子を生成する過程、そして、その励起子が発光する過程からなり、これらの過程は単層型発光素子及び積層型発光素子のいずれにおいても本質的に異なるところがない。
ただし、単層型発光素子においては、発光剤の分子構造を変えることによってのみ上記4過程の特性を改良し得るのに対して、積層型発光素子においては、各過程において要求される機能を複数の材料に分担させると共に、それぞれの材料を独立して最適化することができることから、一般的には、単層型に構成するより積層型に構成する方が所期の性能を達成し易い。
【0039】
上述の発光素子は、表示装置に用いることができる。即ち、発光素子を構成要素とする表示装置においては、この発光素子の発光層に上述の本発明の金属錯体を含有させることができる。
【0040】
なお、本発明は、上述の発明を実施するための形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0041】
次に、本発明に係る実施例について、具体的に説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
本発明の金属錯体の一種である[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]を合成した。
この金属錯体は、本発明の金属錯体の組成(C1)及び組成(C2)のうちの組成(C1)であり、MIIをPtII、MをAg、XをCl、Lをdmpz、L2をdppzとした構成である。なお、以下、dmpzはジメチルピラゾール(dmpzH)から水素イオンが解離した一価の陰イオンを表し、dppzはジフェニルピラゾール(dppzH)から水素イオンが解離した一価の陰イオンを表すものとする。
【0043】
具体的には、[PtCl(dppzH)3]Cl(301mg,0.33mmol)を含むアセトニトリル溶液40mlに、ジメチルピラゾール(34mg,0.35mmol)を含むアセトニトリル溶液10mlと、トリエチルアミン(32mg,0.32mmol)とを加えて、アルゴン雰囲気下で5時間還流した。
析出した白黄色固体を集め、ヘキサンとメタノールで洗浄した後に、減圧乾燥した。
収量は、180mgであった。
析出した白黄色固体は、反応生成物である[Pt(dppz)(dmpzH)(dppzH)2]Clと、未反応の[PtCl(dppzH)3]Clとの混合物である。
この反応は、下記の化学反応式で表すことができる。
【0044】
【化5】

【0045】
次に、[Pt(dppz)(dmpzH)(dppzH)2]Clと[PtCl(dppzH)3]Clとの混合物(107mg)を含むアセトニトリル溶液30mlに、AgBF4(82mg,0.42mmol)を含むアセトニトリル溶液10mlと、トリエチルアミン(22mg,0.21mmol)とを加えて、3時間攪拌した。
反応溶液を半分程度まで濃縮することにより、析出した白色固体を集め、メタノールで洗浄した後に、減圧乾燥した。収量は、41mg(収率34%)であった。
この反応は、下記化学反応式で表すことができる。
【0046】
【化6】

【0047】
得られた白色固体を、クロロホルムに溶解してAgClを濾別した後、クロロホルム/メタノールから再結晶を行った。
この化合物は、UV光照射下、固体状態で強くオレンジ色に発光した。
また、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、アセトン、アセトニトリルに可溶であり、メタノール、ヘキサンに難溶であった。
【0048】
生成物について、FAB−MS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FAB-MS:m/z=2268.1 [M+H]+
【0049】
得られた金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表1に示す。
【0050】
【表1】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0051】
この金属錯体[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]の単位格子は、独立な分子を2分子含む。このうちの1つの分子の構造を、図2のORTEP図に示す。
図2に示すように、[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]には、2つのPt原子が含まれており、片側のPt原子には、3つのdppz配位子と1つの塩化物イオンが、もう一方のPt原子には3つのdppz配位子と1つのdmpz配位子が配位している。2つのPt原子は、互いの配位平面が重なるように近づき、分子内に含まれる4つのAg原子は、各々のPt原子に配位したdppz配位子間、または、dppz配位子と塩化物イオンの間に存在する。
[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]において、Pt−Cl距離は2.329(4)Å及び2.349(4)Åであり、Ag−Cl距離は2.459(4)Å及び2.452(4)Åであり、Pt・・・Pt距離は5.2347(7)Å及び5.1066(7)Åであり、Pt・・・Ag距離は3.093(1)Å〜3.580(1)Åの範囲にあり、Ag・・・Ag距離は2.954(2)Å〜4.645(2)Åの範囲にある。
【0052】
次に、[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]の発光特性について説明する。
[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]の固体状態の発光量子収率と発光寿命を測定した。発光減衰曲線は、二成分指数関数(I(t)=A1exp(-t/τ1)+A2exp(-t/τ2))で解析を行った。
ここで、I(t)はある時間tにおける発光強度であり、tは時間であり、τは発光寿命であり、Aはそれぞれの寿命(τ1又はτ2)をもった成分(1又は2)の寄与の割合(A1+A2=1.0)を表す。
発光量子収率Φ及び発光寿命τ(τ1及びτ2)の測定結果を、表2に示す。表2中、λmaxは発光強度が最大である波長を示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2より、[Pt2Ag4Cl(dmpz)(dppz)6]の発光寿命は、他のPt2Ag4錯体と同様に比較的長く、励起三重項状態からの発光であると考えられる。
【0055】
(実施例2)
本発明の金属錯体の一種である[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]を合成した。
この金属錯体は、本発明の金属錯体の組成(C1)及び組成(C2)のうちの組成(C2)であり、MIIをPtII、MをAg、Lをdmpz、L2をdppzとした構成である。
【0056】
まず、中間原料として、単核錯体[Pt(dppz)2(dmpzH)(dppzH)]を合成して、この単核錯体を用いて、[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]を合成した。
具体的には、3,5−ジメチルピラゾール(68mg,0.71mmol)を含むメタノール溶液5mlに、等モル量のKOHを含むメタノール溶液5mlを加えて攪拌した。
得られた溶液をエバポレーターで乾固した後に、[PtCl(dppz)(dppzH)2](577mg,0.65mmol)を含むアセトニトリル溶液40mlを加え、アルゴン雰囲気下で24時間還流した。
反応後の溶液を半分程度まで濃縮した後に、析出した白色固体を濾別した。さらに、少量のアセトニトリルとヘキサンで洗浄した後に、減圧乾燥した。
このようにして、単核錯体[Pt(dppz)2(dmpzH)(dppzH)]を得た。収量は、248mg(収率37%)であった。
この反応は、下記の化学反応式で表すことができる。下記の化学反応式中、Kは、KOH中のカリウムイオンである。
【0057】
【化7】

【0058】
得られた白色固体を、クロロホルム/メタノールから再結晶を行い、クロロホルム分子を含む結晶を得た。
この化合物は、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、アセトンに可溶であり、メタノール、ヘキサンに難溶であった。
【0059】
さらに、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表3に示す。なお、得られた単核錯体[Pt(dppz)2(dmpzH)(dppzH)]・CHCl3の組成は、C5143PtClである。
【0060】
【表3】

ここで、表中の各項目は、左から、Calc.が計算値を示し、foundが分析値を示し、Δがこれらの差(分析値−計算値)を示している。
【0061】
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3436(br),3062(s),2923(w),2849(w),1946(w),1882(w),1602(m),1581(m),1472(m),754(s),693(s)
また、H NMRスペクトルの測定結果は、下記表4の通りである。
【0062】
【表4】

ここで、表中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、Shapeがピークの形状を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Assignがピークの帰属を示す。Shapeについては、sはsinglet、dはdoublet、ddはdouble doublet、mはmultipletを示す。
【0063】
さらにまた、FAB−MS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FAB-MS:m/z=950.4 [M]+
【0064】
続いて、中間原料である単核錯体[Pt(dppz)2(dmpzH)(dppzH)]を用いて、金属錯体[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]を合成した。
具体的には、[Pt(dppz)2(dmpzH)(dppzH)](105mg,0.12mmol)を含むアセトニトリル溶液20mlに、AgBF4(45mg,0.23mmol)を含むアセトニトリル溶液10mlとトリエチルアミン(23mg,0.23mmol)とを加えて、3時間攪拌した。
反応溶液を半分程度まで濃縮することにより析出した白色固体を集めて、メタノールで洗浄した後に、減圧乾燥した。
得られた白色固体をクロロホルムに溶かしてAgClを濾別した後に、クロロホルム/メタノールから再結晶を行った。収量は、26.4mg(収率26%)であった。
この反応は、下記の化学反応式で表すことができる。
【0065】
【化8】

【0066】
この化合物は、UV光照射下、固体状態で強く黄緑色に発光した。
また、この化合物は、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、アセトン、アセトニトリルに可溶であり、メタノール、ヘキサンに難溶であった。
【0067】
さらに、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表5に示す。なお、金属錯体[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]の組成は、C10080Ag16Ptである。
【0068】
【表5】

ここで、表中の各項目は、左から、Calc.が計算値を示し、foundが分析値を示し、Δがこれらの差(分析値−計算値)を示している。
【0069】
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3428(br),3060(w),2918(w),1604(w),1534(w),1473(s),1404(w),1338(w),1156(w),1092(w),754(s),694(s)
また、H NMRスペクトルの測定結果は、下記表6の通りである。
【0070】
【表6】

ここで、表中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、Shapeがピークの形状を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Assignがピークの帰属を示す。Shapeについては、sはsinglet、dはdoublet、mはmultipletを示す。
【0071】
さらにまた、FAB−MS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FAB-MS:m/z=2327.2 [M]+
【0072】
得られた金属錯体の構造について説明する。
得られた金属錯体について、単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データを表7に示す。
【0073】
【表7】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0074】
また、この金属錯体の分子の構造を、図3のORTEP図に示す。
図3に示すように、[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]には、2つのPt原子が含まれており、各々のPt原子には、3つのdppz配位子と1つのdmpz配位子がそれぞれ配位している。2つのPt原子は、互いの配位平面が重なるように近づいている。分子内に含まれる4つのAg原子は、各々のPt原子に配位した3組のdppz配位子間及び1組のdmpz配位子間に存在する。
[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]において、Pt・・・Pt距離は5.100(1)Åであり、Pt・・・Ag距離は3.345(2)Å〜3.582(2)Åの範囲にあり、Ag・・・Ag距離は3.158(2)Å〜4.725(2)Åの範囲にある。
【0075】
次に、[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]の発光特性について説明する。
[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]のジクロロメタン中及び固体状態の発光寿命を測定した。ジクロロメタン中の発光減衰曲線は、単一指数関数で解析を行った。固体状態の発光減衰曲線は、前述した二成分指数関数で解析を行った。
発光寿命τ(τ1及びτ2)の測定結果を、表8に示す。表8中、λmaxは発光強度が最大である波長を示す。
【0076】
【表8】

【0077】
表8より、[Pt2Ag4(dmpz)2(dppz)6]の発光寿命は、他のPt2Ag4錯体と同様に比較的長く、励起三重項状態からの発光であると考えられる。
【0078】
(実施例3)
本発明の金属錯体の一種である[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]を合成した。
この金属錯体は、本発明の金属錯体の組成(C1)及び組成(C2)のうちの組成(C2)であり、MIIをPtII、MをAg、Lを3-Mepz、L2をdppzとした構成である。なお、以下、3-Mepzは、3−メチルピラゾール(3-MepzH)から水素イオンが解離した一価の陰イオンを表すものとする。
【0079】
まず、中間原料として、単核錯体[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]を合成して、この単核錯体を用いて、[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]を合成した。
具体的には、3−メチルピラゾール(54mg,0.35mmol)を含むメタノール溶液5mlに、等モル量のKOHを含むメタノール溶液5mlを加えて攪拌した。
得られた溶液を乾固した後に、[PtCl(dppz)(dppzH)2](288mg,0.33mmol)を含むアセトニトリル溶液40mlを加え、アルゴン雰囲気下で24時間還流した。
反応後の溶液を半分程度まで濃縮することにより、析出した白色固体を集めた。さらに、少量のアセトニトリルとヘキサンで洗浄した後に、減圧乾燥した。
このようにして、単核錯体[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]を得た。収量は、212mg(収率35%)であった。
この反応は、下記の化学反応式で表すことができる。下記の化学反応式中、Kは、KOH中のカリウムイオンである。
【0080】
【化9】

【0081】
得られた白色固体を、クロロホルム/ヘキサンから再結晶を行った。
この化合物は、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、アセトンに可溶であり、メタノール、ヘキサンに難溶であった。
【0082】
さらに、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表9に示す。なお、単核錯体[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]の組成は、C4940Ptである。
【0083】
【表9】

ここで、表中の各項目は、左から、Calc.が計算値を示し、foundが分析値を示し、Δがこれらの差(分析値−計算値)を示している。
【0084】
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3374(w),3061(w),2923(w),2852(w),2657(w),1945(w),1869(w),1799(w),1746(w),1603(w),1572(w),1462(m),1274(w),1212(w),1147(w),1071(w),989(w),909(w),835(w),754(s),691(s)
また、H NMRスペクトルの測定結果は、下記表10の通りである。
【0085】
【表10】

ここで、表中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、Shapeがピークの形状を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Assignがピークの帰属を示す。Shapeについては、sはsinglet、dはdoublet、tはtriplet、mはmultipletを示す。
【0086】
なお、再結晶で片方の幾何異性体のみを析出させることは難しく、2種類の結晶の混合物として得られる。
この混合物のH NMRスペクトルの3-Mepzのメチル基のプロトン比から、異性体比を計算した結果、15%程度の幾何異性体(メチル基に近い側のN原子で配位した異性体)が含まれている。
【0087】
さらにまた、FAB−MS法により、生成物の質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FAB-MS:m/z=936.3 [M+H]+
【0088】
得られた単核錯体の構造について説明する。
単核錯体[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]の2種類の幾何異性体のうち、主成分の単結晶X線構造解析により分子構造を決定した。その結晶学的データは表11に示す通りであり、この化合物の分子構造は図4のORTEP図に示す通りである。
【0089】
【表11】

ここで、表中の各項目は、上から、組成、式量、測定温度、測定波長(MoKα線=0.7107Å)、晶系、空間群、格子定数(a,b,c,α,β,γ)、格子体積、Z値、密度、線吸収係数、独立な反射の数、データ数とパラメータ数、最終R値、全反射を用いた場合のR値、GOF値である。
【0090】
対陰イオンが結晶中に存在しないので、この錯体は分子性化合物である。水素原子以外の原子を異方性温度因子で精密化した後の差フーリエ合成より、3-MepzのN原子と、そのトランス位のdppzのN原子にプロトンが付加していることがわかった。
【0091】
図4に示すように、[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]は、Pt原子にdppz配位子が2つ、dppzH配位子が1つ、3-MepzH配位子が1つ配位した平面四配位構造をとっている。dppzH配位子とdppz配位子、及びdppz配位子と3-MepzH配位子の間に、それぞれ水素結合が存在している。
【0092】
続いて、中間原料である単核錯体[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)]を用いて、金属錯体[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]を合成した。
具体的には、2種類の幾何異性体を含む[Pt(dppz)2(dppzH)(3-MepzH)](107mg,0.12mmol)を含むアセトニトリル溶液20mlに、AgBF4(45mg,0.23mmol)を含むアセトニトリル溶液10mlを加えて、室温で3時間攪拌した。
反応溶液を半分程度濃縮することにより析出した白色固体を集めて、少量のアセトニトリルとメタノールで洗浄した後に、減圧乾燥した。
得られた白色固体をクロロホルムに溶かしてAgClを濾別した後に、クロロホルム/メタノールから再結晶を行った。収量は、114mg(収率85%)であった。
この反応は、下記の化学反応式で表すことができる。
【0093】
【化10】

【0094】
2種類の幾何異性体を含む単核錯体を原料に用いてAgBF4と反応させているため、最終生成物である混合金属錯体[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]では、さらに異性体の数が増加する。
【0095】
再結晶を行うと、2種類の板状結晶と2種類の針状結晶が析出した。板状結晶、針状結晶とも、それぞれ、結晶溶媒を含むものと含まないものの2種類が析出し、発光特性が微妙に異なる。
固体状態でUV光を照射すると、板状結晶は2種類とも黄色に強く発光した。また、結晶溶媒を含まない針状結晶は固体状態で緑色に発光し、結晶溶媒を含む針状結晶は黄緑色に発光した。
予備的なX線構造解析を行った結果、結晶溶媒を含む板状結晶の結晶中には、上の反応式に記載した構造の錯体分子が含まれることが分かった。他の3種類の結晶は、結晶性が悪く、詳細な構造は決定できなかった。
【0096】
得られた生成物は、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトニトリル、アセトンに可溶であり、メタノール、ヘキサンに難溶であった。
【0097】
さらに、元素分析、IRスペクトル及びH NMRスペクトルにより、生成物の同定を行った。
生成物の元素分析を行った結果を、計算値と比較して、表12に示す。なお、金属錯体[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]の組成は、C9876Ag16Ptである。
【0098】
【表12】

ここで、表中の各項目は、左から、Calc.が計算値を示し、foundが分析値を示し、Δがこれらの差(分析値−計算値)を示している。
【0099】
IRスペクトルの測定結果は、次の通りである。
IR(KBr):3446(Br),3061(w),2923(w),2854(w),2362(m),1604(w),1473(s),754(s),694(s)
また、H NMRスペクトルの測定結果は、下記表13の通りである。
【0100】
【表13】

ここで、表中の各項目は、左から、δがピークの化学シフト(ppm)を示し、Shapeがピークの形状を示し、Int.がピーク強度(相対値)を示し、Jが結合定数(Hz)を示し、Assignがピークの帰属を示す。Shapeについては、sはsinglet、dはdoublet、mはmultipletを示す。
【0101】
さらにまた、FAB−MS法により質量分析を行った。結果は、次の通りである。
FAB-MS:m/z=2299.2 [M]+
【0102】
次に、[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]の発光特性について説明する。
[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]のジクロロメタン中及び固体状態の発光寿命を測定した。結晶溶媒を含まない針状結晶のジクロロメタン中の発光減衰曲線のみ、単一指数関数で解析を行った。それ以外の結晶のジクロロメタン中及び全ての結晶の固体状態の発光減衰曲線は、前述した二成分指数関数で解析を行った。
発光寿命τ(τ1及びτ2)の測定結果を、表14に示す。表14中、λmaxは発光強度が最大である波長を示す。
【0103】
【表14】

【0104】
表14より、[Pt2Ag4(dppz)6(3-Mepz)2]の発光寿命は、他のPt2Ag4錯体と同様に比較的長く、励起三重項状態からの発光であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
以上の通り、本発明に係る金属錯体は、発光素子、表示装置の製造に有用な材料として、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0106】
1 基板、2 陽極、3 正孔注入層、4 正孔輸送層、5 発光層、6 電子輸送層、7 電子注入層、8 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成(C1)又は(C2)の少なくともいずれかを含む金属錯体。
[(MII(M(L)(L2)] (C1)
[(MII(M(L)(L2)] (C2)
ここで、MIIは、PtII又はPdIIを表す。Mは、Au、Ag、Cu、Hg、Tl又はPbを表す。Xはハロゲン化物イオンを表す。Lは、下記式(1)で表される構造を表す。
【化1】


(式中Rは、置換されていてもよいアルキル基を表し、R,Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、置換されていてもよいアルキル基を表す。)
L2は、下記式(2)で表される構造を表す。
【化2】


(式中、Arは、置換されていてもよいアリール基を表し、X,Xはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、又は、置換されていてもよいアリール基を表す。)
【請求項2】
前記MIIはPtIIであり、前記MはAgであり、前記XはClであり、前記Lはジメチルピラゾール又は3−メチルピラゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンであり、前記L2はジフェニルピラゾールから水素イオンが解離した一価の陰イオンである、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属錯体を含む発光層を有する発光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の発光素子を備えてなる表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−190180(P2011−190180A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54999(P2010−54999)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】