説明

金属錯体、色素増感酸化物半導体電極及び色素増感太陽能電池

【課題】新規な色素を使用し、長波長領域の光に感度を有し、安定かつ変換效率がBlack色素より高い光電変換素子を提供すること。
【解決手段】
上記色素として下記の一般式(1)で表される有機金属色素を使用する。
MLZX (1)
式中、Mは8〜10族金属元素であり、Zはカルボキシル基を1〜3個有する2,2′−6′,2″−テルピリジン誘導体であり、Xはハロゲン原子、シアノ基など、Lは1,3−ブタンジオン誘導体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機金属色素で増感された半導体微粒子的薄膜を有する光電変換素子並びにそれを用いた色素増感酸化物半導体電極及び色素増感太陽電池に関する。更に詳しくは、本発明は高い変換効率を有する1,3−ブタンジオン系色素を利用した金属錯体、色素増感酸化物半導体電極及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー資源として太陽光を利用する太陽電池が注目されている。従来、光エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置として、シリコン結晶太陽電池を用いたシリコン太陽電池が公知である。しかしそれらは製造に要するエネルギー及びコストが高いため、汎用的に使用するのが困難であるという問題点がある。たとえば、シリコン結晶太陽電池は、シリコン単結晶やアモルファスシリコンから主に構成されるが、シリコン単結晶はもちろんのこと、アモルファスシリコンを製造するにあたっては、真空装置やプラズマ発生装置を使用するために、多大なエネルギーを必要とする。そのため、電池を作るのに費やしたエネルギーを回収するには、長期間にわたって発電を続ける必要がある。こうした状況下、増感色素を用いた色素増感太陽電池が広く注目されるようになった(特許文献1〜3)。この色素増感太陽電池は、作製方法の簡便さ、材料コストの低さ等から次世代の太陽電池として期待されている。しかしながら、太陽電池として実用化するためには、更なる変換効率の向上が望まれており、このためには発生電流(短絡電流)の増加とともに開放電圧の増大、更には耐久性の向上が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、長波長領域の光に感度を有し、かつ効率よく電流を取出することができるルテニウム金属錯体、及びそのような錯体を利用した色素増感酸化物半導体電極及び色素増感太陽電池を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一側面によれば、一般式(1)で表される金属錯体が与えられる。
MLZX (1)
上式中:
Mは8〜10族金属元素であり、
X はハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基とチオラート基とからなる群から選択された配位子であり、
Zは下記式(2)で表され、ここにおいてA1、A2及びA3の少なくとも1つはカルボキシル基であるとともに残余のものは水素である配位子であり、
【化1】


Lは下記式(3)で表される1,3−ブタンジオン誘導体であり、
【化2】


ここで、Rは、アルキル基、アルコキシアルキル基、アミノアルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アリール基または水素原子であり、
は置換または無置換3,4−エチレンジオキシチオフェン基、もしくはチオフェンが1〜3個直鎖状に繋がるチオフェン骨格であって、その一側に置換または無置換アルキル基とアルキルフェニル基とハロゲン基とフェノキシアルキルとからなる群から選択された基を有する前記チオフェン骨格である。
ここにおいて、前記式(3)におけるRは炭素数1〜3であるパーフルオロアルキル基であってよい。
また、前記式(3)におけるRがチオフェンが1〜3個直鎖状に繋がるチオフェン骨格を有し、前記チオフェン骨格の一側に炭素数1〜12のアルキル基とアルキルフェニル基(アルキル部分の炭素数1〜12)と末端がハロゲン基を有する炭素数1〜12のアルキル基とからなる群から選択された基を有してよい。
本発明の他の側面によれば、前記金属錯体が導電性表面に形成された酸化物半導体膜に吸着した、色素増感酸化物半導体電極が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、前記色素増感酸化物半導体電極と、対極と、前記色素増感酸化物半導体電極及び前記対極に接触するレドックス電解質とを設けた色素増感太陽電池が与えられる。
【発明の効果】
【0005】
発明の金属錯体は、太陽光エネルギーを高い効率で吸収する色素となり、またこれを利用して高効率の色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の実施例の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、色素増感型太陽電池の金属酸化物半導体を修飾する増感剤について鋭意研究を重ねた結果、ルテニウム等の8〜10族金属元素を中心金属とし、カルボキシル基などの結合基をもつテルピリジン誘導体と1,3−ブタンジオンに化合物を配位子としてもつ錯体は、公知のルテニウム錯体誘導体より広い吸収領域を有し、増感剤として有効であることを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
また、ルテニウム等の錯体の配位子ジケトナートにフェニル基、または種々の置換基を有するフェニル基を導入することにより、最高電子被占軌道エネルギー準位を調整できるため、電解質の酸化還元電位とのエネルギー準位マッチングが取りやすくなることによっても、光電変換効率が向上できる。
【0009】
また、本発明の色素増感型太陽電池は、透明電極と対電極との間に、増感色素が吸着された多孔性半導体層と、電解液を含有するキャリア輸送層とを少なくとも備えている。透明電極及び対電極は、それぞれ通常支持基板上に形成されている。透明電極側の支持基板としては、透明基板が使用される。
【0010】
本発明の色素増感剤は、発明の概要の項に既に示した下記の一般式(1)で表される。
MLZX (1)
【0011】
式中、Mは8〜10族金属元素から選ばれた遷移金属元素であり、Zは発明の概要に既に示した下記の一般式(2)で表される、少なくとも1個のカルボキシル基を有する2,2′−6′,2″−テルピリジン誘導体である。すなわち、A1,A2,A3のうちの少なくとも1つはカルボキシル基であり、残りは水素である。
【0012】
【化3】

【0013】
また、配位子Lはやはり発明の概要の項に既に示した下記式(3)で表される。
【0014】
【化4】

【0015】
ここで、配位子Lは特定の置換基R及び置換基Rを有する1,3−ブタンジオン誘導体である。具体的には置換基Rはアルキル基、アルコキシアルキル基、アミノアルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アリール基または水素原子である。具体的には例えばパーフルオロアルキル基とすることができる。また、置換基Rは置換または無置換3,4−エチレンジオキシチオフェン基、もしくはチオフェンが1〜3個直鎖状に繋がるチオフェン骨格であって、その一側に置換または無置換アルキル基とアルキルフェニル基とハロゲン基とフェノキシアルキルとからなる群から選択された基を有する前記チオフェン骨格である。具体的には例えば、上述のチオフェン骨格の一側の置換基として炭素数1〜12のアルキル基、アルキルフェニル基(アルキル部分の炭素数1〜12)、末端がハロゲン基を有する炭素数1〜12のアルキル基などを使用することができる。
【0016】
なお、以下ではMがRuの場合を例に挙げて説明するが、Ruは単なる例示であり、本発明はMがRu以外の金属も当然包含することに注意されたい。
上記Lの代表的例の具体的な構造を以下に列挙する。なお、当然ながら、Lの構造を以下に列挙したものに限定するものでは全くない。
【0017】
以下にRとして使用できる置換基の例を列挙するが、もちろんRをこれらに限定する意図は一切ない。なお、各置換基の上に付した「I−1」などの記号は直ぐ下に記載した錯体中のRを当該置換基で置換した具体的な錯体、つまり色素を識別するための色素番号であり、例えばこれらの色素を使用した色素増感太陽電池の性能評価をまとめた表1中で使用される。
【0018】
【化5】

【0019】
I−1
【化6】

【0020】
I−2
【化7】

【0021】
I−3
【化8】

【0022】
I−4
【化9】

【0023】
I−5
【化10】

【0024】
I−6
【化11】

【0025】
I−7
【化12】

【0026】
I−8
【化13】

【0027】
I−9
【化14】

【0028】
I−10
【化15】

【0029】
I−11
【化16】

【0030】
I−12
【化17】

【0031】
I−13
【化18】

【0032】
I−14
【化19】

【0033】
I−15
【化20】

【0034】
I−16
【化21】

【0035】
I−17
【化22】

【0036】
I−18
【化23】

【0037】
I−19
【化24】

【0038】
I−20
【化25】

【0039】
I−21
【化26】

【0040】
I−22
【化27】

【0041】
I−23
【化28】

【0042】
I−24
【化29】

【0043】
I−25
【化30】

【0044】
I−26
【化31】

【0045】
I−27
【化32】

【0046】
I−28
【化33】

【0047】
I−29
【化34】

【0048】
I−30
【化35】

【0049】
I−31
【化36】

【0050】
既に述べたように、導電性表面に形成した酸化物半導体膜に上述の金属錯体を吸着させた色素増感酸化物半導体電極が与えられる。更に、この電極を使用した色素増感太陽電池も与えられる。
以下では、本発明の色素増感太陽電池の各構成要素について説明する。
本発明の色素増感太陽電池は、導電性支持体上に、前記色素増感酸化物半導体電極と、キャリア輸送層と、対電極とが順次積層されて構成され、色素増感酸化物半導体電極には、色素増感剤として上述の錯体が担持されている。
【0051】
(導電性支持体について)
本発明で用いられる導電性支持体としては、金属のように支持体自体が導電性を有するもの、またその表面に導電層を有するガラス、プラスチック等の支持体を利用することができる。後者の場合、導電層の好ましい導電材料としては、金、白金、銀、銅、アルミニウム、インジウム等の金属、導電性カーボン、もしくはインジウム錫複合酸化物、酸化錫にフッ素をドープしたもの等があり、これらの導電材料を用いて導電層を支持体上に通常の方法で形成することができる。これらの導電層の膜厚は0、02〜5μm程度が好ましい。導電性支持体としては表面抵抗が低い程良く、表面抵抗は40Ω/□以下であることが好ましい。導電性支持体を受光面とする場合、透明であることが好ましい。また、導電性支持体の膜厚は、光電変換効層(光電極)に適当な強度を付与することができるものであれば特に限定されない。これらの点及び機械的な強度を考慮にいれると、酸化錫にフッ素をドープしたものからなる導電層をソーダ石灰フロートガラスからなる透明性基板上に積層したものを代表的な支持体として使用できる。
またコストや柔軟性等を考慮する場合には、透明ポリマーシート上に上記導電層を設けたものを用いたものでもよい。透明ポリマーシートとしては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC),ポリアリレート(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、フェノキシ樹脂等がある。
また、透明導電性基板の抵抗を下げるために金属リード線を加えてもよい。金属リード線の材質としては、白金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ニッケル等がこのましい。金属リード線は透明基板にスパッタ、蒸着等で設置し、その上に酸化錫、ITO等の透明導電膜を設けてもよい。なお、この場合、金属リード線を設けることにより、入射光量の若干の低下を招くので注意が必要である。
【0052】
(色素増感酸化物半導体電極について)
本発明における色素増感酸化物半導体電極は、通常、導電性支持体上に酸化物半導体層を形成し、これに上述した本発明のRu等の金属錯体である有機色素を吸着させることにより得られる。
酸化物半導体層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用してよい。具体的には、これらに限定するものではないが、次のいずれかの方法を用いることができる。
(1)酸化物半導体の微粒子を含有する懸濁液を導電性支持体上に塗布し、乾燥および焼成して酸化物半導体層を形成する方法。
(2)ゾルゲル法、電気化学的な酸化還元反応を利用した方法などにより、導電性支持体上に酸化物半導体層を形成する方法。
【0053】
酸化物半導体としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、酸化鉄(Fe)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム(CdS)、硫化鉛(PbS)、硫化亜鉛(CdS)、リン化インジウム(InP)、銅−インジウムの硫化物(CuInS)などが使用できる。
その中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ニオブが好ましく、酸化チタンがより好ましい。
また、本発明における酸化物半導体としては、上記のものから1種または2種以上を選択することができる。
また、これらの酸化物半導体は、単結晶、多結晶のいずれでも良いが、安定性、結晶成長の困難さ、製造コスト等の観点から、多結晶の方が好ましい。特に微粉末(ナノからマイクロスケール)の多結晶半導体がより好ましい。また、2種類以上の粒子サイズの異なる粒子を混合して用いてもよい。この場合、各粒子の材料は同一でも異なっていてもよい。異なる粒子サイズの平均粒径の比率は10倍以上の差がある方が良く、粒径の大きいもの(例えば100〜500nm)は、入射光の光捕捉率を上げる目的で、粒径の小さいもの(例えば5〜50nm)は、吸着点をより多くし色素吸着を良くする目的で混合して用いてもよい。特に半導体化合物が異なる場合、吸着作用の強い半導体の方を小粒径にした方が効果的である。
【0054】
最も好ましい半導体微粒子の形態である酸化チタンの作製については、各種文献等に記載されている方法に準じて行うことができる。例えばDegussa社が開発した塩化物を高温加水分解により得る方法が適している。本発明に使用される酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの各種の狭義の酸化チタン、ならびに、水酸化チタン、含水酸化チタン等を包含する。
アナターゼ型とルチル型の2種類の結晶は、その製法や熱履歴により何れの形も取り得るが、これらの混合体が一般的である。特に、本発明の有機色素の増感に関しては、アナターゼ型の含有率の高いものが好ましく、その割合は80%以上が好ましい。なお、アナターゼ型はルチル型より光吸収の長波端波長が短く、紫外光による光電変換の低下を起こす度合いが小さい。
【0055】
本発明において、酸化物半導体に色素を吸着させる方法としては、特に限定するものではなく、公知の方法を適宜使用することができる。例えば、本発明の錯体を有機溶剤に溶解して色素増感剤溶液を調整し、得られた色素増感剤溶液に透明導電膜上の酸化物半導体層を浸漬する方法、得られた色素増感剤溶液を酸化物半導体層表面に塗布する方法などがある。前者においてはデイプ法、ローラ法、エヤーナイフ法などが適用でき、後者においてはワイヤーバー法、アプリケーション法、スピン法、スプレー法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法などが適用できる。なお、色素増感剤の吸着に先立って、加熱処理などの酸化物半導体層の表面を活性化するための処理を必要に応じて行なってもよい。
【0056】
色素増感剤の溶媒は、色素を溶解するものであればよく、従来から公知の溶媒を用いることができる。また、溶媒は、通常使用される方法に従って精製された溶媒、また溶媒の使用に先立って、必要に応じて蒸留および/または乾燥を行ない、より純度の高い溶媒であることが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、1種または2種それ以上の疎水性溶媒、非プロトン性溶媒、疎水性かつ非プロトン性の溶媒またはそれらの混合物などがある。色素増感剤溶液中の色素増感剤の濃度は、使用する色素増感剤、溶媒の種類、色素吸着工程により適宜調整することができ、例えば、1×10−5モル/リットル以上、好ましくは5×10−5〜1×10−2モル/リットル程度としてよい。ここで、疎水性溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル等のエステル類等、ならびにそれらの組合せた混合溶媒等がある。非プロトン性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の窒素化合物類、二硫化炭素、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物類、ヘキサメチルホスホルアミド等のリン化合物類、ならびにそれらの組み合せがある。
【0057】
色素増感剤の酸化物半導体層への吸着方法において、酸化物半導体層を色素溶液へ浸漬する方法では、酸化物半導体層を収容することができる適当な容器に色素溶液を充填し、その溶液に酸化物半導体層の全体を浸漬するか、または酸化物半導体層の所望の部分のみを浸漬して、所定の時間保持するのが好ましい。この際の条件は、使用する色素増感剤、溶媒の種類、溶液の濃度等に応じて適宜調節することができる。例えば、雰囲気および溶液の温度は室温、圧力は大気圧下であるのが好ましいが、これらは適宜変更してもよい。浸漬時間は、例えば5分〜96時間程度としてもよい。浸漬は、1回でもよいし、複数回行なってもよい。
さらに、酸化物半導体層を色素溶液へ浸漬する方法または酸化物半導体層に色素溶液を塗布する方法では、浸漬または塗布の工程の後、適宜乾燥を行なってもよい。このような方法により酸化物半導体に吸着された色素増感剤は、光エネルギーにより電子を酸化物半導体に注入する光増感剤として機能する。
【0058】
なお、色素増感剤の吸着量が少ないと増感効果が不十分になり、逆に吸着量が多いと酸化物半導体に吸着していない色素が浮遊して、これが増感効果を減じ、光電変換効率の低下(素子機能の乱れ)をもたらす原因となるので好ましくない。
上記のことから、未吸着の有機色素を洗浄により速やかに除去するのが好ましい。洗浄溶剤としては、有機色素の溶解性が比較的低く、かつ比較的乾燥しやすい、アセトンなどの溶剤が好ましい。また、洗浄は加熱状態で行うのが好ましい。
また、洗浄により余分な色素を除去した後、色素の吸着状態をより安定にするために、酸化物半導体微粒子の表面を有機塩基性化合物で処理して、未反応色素の除去を促進してもよい。有機塩基性化合物としては、ピリジン、キノリンなどの誘導体が挙げられる。これらの化合物が液体の場合にはそのまま用いてもよいが、固体の場合には溶剤、好ましくは色素増感剤溶液と同一の溶剤に溶解して用いてもよい。
【0059】
(キャリア輸送層について)
キャリア輸送層は、電子、ホール、イオンを輸送できる導電性材料を有する。このような導電性材料としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、トリフェニルアミンなどのホール輸送材料、テトラニトロフロレノンなどの電子輸送材料、ポリチオフェン、ポリピロールなどの導電性ポリマー、液体電解質、高分子電解質などのイオン導電体、ヨウ化銅、チオシアン酸銅などの無機P型半導体が挙げられる。
上記の導電性材料の中でも、イオン導電体が好ましく、さらには酸化還元性電解質を含む液体電解質が特に好ましい。このような酸化還元性電解質としては、一般に、電池や太陽電池などにおいて使用することができるものであれば特に限定されない。具体的には、I/I3−系、Br2−/Br3−系、Fe2+/Fe3+系、キノン/ハイドロキノン系等の酸化還元種を含有させたものなどがある。例えば、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)などの金属ヨウ化物とヨウ素(I2)の組み合わせ、テトラエチルアンモニウムアイオダイド(TEAI)、テトラプロピルアンモニウムアイオダイド(TPAI)、テトラブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)、テトラヘキシルアンモニウムアイオダイド(THAI)などのテトラアルキルアンモニウム塩とヨウ素の組み合わせ、並びに臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム(CaBr)などの金属臭化物と臭素の組み合わせが好ましく、これらの中でもLiIとIの組み合わせが特に好ましい。
【0060】
キャリア輸送層の導電性材料として液体電解質を使用する場合、その溶剤としては、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、アセトニトリルなどのニトリル化合物、エタノールなどのアルコール類、その他、水や非プロトン極性物質などを使用することができるが、これらの中でも、カーボネート化合物やニトリル化合物が特に好ましい。また、これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0061】
液体電解質へ添加剤を添加してもよいが、そのようなものとしては例えば、従来から用いられているt−ブチルピリジン(TBP)などの含窒素芳香族化合物、あるいはジメチルプロピルイミダゾールアイオダイド(DMPII)、メチルプロピルイミダゾールアイオダイド(MPII)、エチルメチルイミダゾールアイオダイド(EMII)、エチルイミダゾールアイオダイド(EII)、ヘキシルメチルイミダゾールアイオダイド(HMII)などのイミダゾール塩を使用できる。
また、液体電解質中の電解質濃度は、0.1〜1.5モル/リットルの範囲が好ましく、特に0.1〜0.7モル/リットルの範囲が好ましい。
【0062】
あるいはキャリア輸送層の導電性材料を高分子電解質とする場合、そのような高分子電解質は酸化還元種を溶解あるいは酸化還元種を構成する少なくとも1つの物質と結合することができる固体状の物質である。例を挙げれば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンサクシネート、ポリ−β−プロピオラクトン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンスルフィドなどの高分子化合物またはそれらの架橋体、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアルキレンオキサイドなどの高分子官能基に、ポリエーテルセグメントまたはオリゴアルキレンオキサイド構造を側鎖として付加したものまたはそれらの共重合体などを使用できる。その中でも特にオリゴアルキレンオキサイド構造を側鎖として有するものやポリエーテルセグメントを側鎖として有するものが好ましい。
前記固体中に酸化還元種を含有させるには、例えば、高分子化合物となるモノマーと酸化還元種とを共存させて重合する方法、高分子化合物などの固体を必要に応じて溶媒に溶解し、次いで、前記の酸化還元種を加える方法等を用いることができる。酸化還元種の含有量は、必要とするイオン伝導性能に応じて、適宜選定することができる。
また色素増感酸化物半導体電極との接触を防止するためには、スペーサーを用いるのがよい。これらスペーサーとしてはポリエチレン等の高分子フイルムが用いられる。このフイルムの膜厚は10〜50μm程度が適当である。
【0063】
(対電極について)
対電極は、色素増感酸化物半導体電極とともに一対の電極を構成し得るものであり、導電膜に形成することができる。この導電膜は透明でもよいし、不透明であってもよい。この導電膜としては、例えば、N型またはP型の元素半導体(例えば、シリコン、ゲルマニウム等)、または化合物半導体(例えば、GaAs、InP、ZnSe、CsS等)、金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属、チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属、ITO、SnO、CuI、ZnO等の透明導電材料からなる膜を使用できる。これらの導電膜は通常の方法で形成でき、その膜厚は0.1〜5μm程度が適当である。なお、対電極は、色素増感太陽電池を支持し得る支持基板または保護層上に形成されていることが好ましい。支持基板や保護層としては、色素増感太陽電池の基板として使用することができる透明または不透明の基板等を使用することができる。具体的には、スパッタ、塩化白金酸の熱分解、電着などの方法によって導電膜が被覆された支持基板上に白金膜を形成させたもの等が使用できる。この場合の白金膜の膜厚はたとえば1〜1000nm程度としてよい。

【実施例】
【0064】
下記スキームにより、中間体の化合物を得た(非特許文献1)。
[合成例1]
【0065】
【化37】

【0066】
化合物1(5mmol)を無水酢酸(25ml)に溶解後、リン酸5〜10滴を加え、50〜60℃で約20時間撹拌した。反応終了後、ジクロロメタンならびに水を加えた。有機層を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた殘渣をカラムクロマトグラフィーにより精製して化合物2を得た(n=1,2,3の場合、夫々2a,2b,2cのように、化合物を表す数字の後ろにa,b,cを付加する。以下同様)。
【0067】
化合物2a:(収率(以下Yと称する):85%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):2.50(3H),6.91(1H),7.15(1H),7.30(1H)
化合物2b:(Y:80%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):2.55(3H),7.06(1H),7.17(1H),7.32−7.33(2H),7.58(1H).
化合物2c:(Y:56.5%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):2.60(3H),7.08(1H),7.18(1H),7.33−7.35(2H),7.45−7.48(2H),7.68(1H).
【0068】
化合物2(20mmol)を脱水THF(25ml)に溶解後、30分間撹拌及び氷水浴冷却を行い、NaH(30mmol(油中に濃度60%))を加え、室温で約8〜10時間撹拌した。反応終了後、1N塩酸を加えて(PH<1)ジクロロメタンで抽出し、有機層を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた残渣を、減圧蒸留により精製して化合物3を得た。
【0069】
化合物3a:(Y:72.3%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):6.48(1H),7.21(1H),7.76(1H),7.84(1H)
化合物3b:(Y:64.8%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):6.50(1H),7.23(1H),7.78(1H),7.88(1H),
8.58(1H),8.62(1H)
化合物3c:(Y:45.9%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):6.52(1H),7.23(1H),7.80(1H),7.90(1H),
8.60(1H),8.65(1H),8.90(1H),9.02(1H)
【0070】
[合成例2]
【0071】
【化38】

【0072】
化合物1(50mmol)を無水THF(15ml)に溶解後、−78℃に冷却し,n−ブチルリチウム(ヘキサン溶液、約1.6mol/L)20分間かけて滴下した。滴下終了後、−30℃にて約30分間攪拌し、その後室温まで反応温度を上昇させ、再度1時間撹拌し、1−ブロモオクタン(40mmol)を0℃にて約10分間滴下した。滴下終了後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を水洗した後、溶媒を減圧留去して得られた茶褐色の油を力ラムクロマトグラフィーにより精製して、化合物4を得た。
【0073】
化合物4a:(Y:80.6%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.88(t,3H),1.28(m,10H),1.67(m,2H),2.81,(m,2H),6.77(H),6.91(H),7.09(H)
化合物4b:(Y:75.03%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.90(t,3H),1.30(m,10H),1.68(2H),2.98,(m,2H),6.75(1H),6.98(1H),7.05(1H),7.10(1H),7.23(1H)
化合物4c:(Y:65.11%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.91(t,3H),1.35(m,10H),1.69(2H),2.90,(m,2H),6.71(H),7.01(1H),7.09(H),7.13(H)7.20(H),7.22(H),7.30(H)
【0074】
化合物5を化合物2と同じ合成方法を用いて合成した。
【0075】
化合物5a:(Y:68.9%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.91(t,3H),1.2−1.45(m,10H),1.68(m,2H),2.53(s,3H),2.85(2H),7.21(H),7.62(H)
化合物5b:(Y:62.8%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.92(t,3H),1.2−1.45(m,10H),1.68(m,2H),2.55(s,3H),2.87(2H),7.25(H),7.66(H)
化合物5c:(Y:57.3%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.92(t,3H),1.3−1.48(m,10H),1.69(m,2H),2.56(s,3H),2.88(2H),7.28(H),7.66(H)
【0076】
化合物6を化合物3と同じ合成方法を用いて合成した。

【0077】
化合物6a:(Y:54.6%)H−NMR(CDClTMS/ppm):0.95(t,3H),1.25−1.47(m,10H),1.71(m,2H),6.53(1H),7.23(H),7.66(H)
化合物6b:(Y:42.5%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.96(t,3H),1.30−1.52(m,10H),1.72(m,2H),6.58(1H),7.27(H),7.69(H)
化合物6c:(Y:18.3%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.96(t,3H),1.30−1.55(m,10H),1.73(m,2H),6.58(1H),7.29(H),7.70(H)
【0078】
[合成例3]
下記スキームにより、色素(つまり、本発明の錯体の実施例)の化合物10を得た。
【0079】
【化39】


【化40】


【化41】

【0080】
[化合物10a(X=H)の合成](非特許文献2,3)
トリクロロ(4,4′,4″−トリメトキシカルボニル−2,2′;2″、6−テルピリジン)ルテニウム(II)化合物7のメタノールの溶液に4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チオフェン)−1,3−ブタンジオン6a(X=H)2当量とトリブチルアミンを加え加熱環流させることにより、2−テノイルトリフルオロ−1,3−ブタンジオンクロロ(4,4′,4″−トリメトキシカルボニル−2,2′;2″、6−テルピリジン)ルテニウム(II)を得た。メタノール溶媒をエバポレータで留去した後、ジメチルホルムアミドを加え、トリブチルアミンと3当量のチオシアン化カリウムの水溶液を加えて加熱した。さらに、トリブチルアミンを少々添加して、16時間加熱環流した。反応混合溶媒をエバポレータで留去し、残留固形物を希塩酸で酸性化した後、約1時間撹拌し、生成した固体を濾別し、水洗、乾燥することにより、目的とする錯体を得た。粗製品をシリカゲル力ラムクロマトグラフィーにより精製して化合物10a(X=H)を得た。
【0081】
化合物10a(X=H):(Y:42.5%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.78(24H),1.15(16H),1.41(16H),2.93(16H),7.80(1H),8.11(1H),8.12(2H),8.64(2H),8.79(1H),8.81(2H),9.48(1H),9.52(2H)
【0082】
[化合物10a(X=C17)の合成]
化合物10a(X=H)と同様の操作を行い、化合物10a(X=C17)を得た。
【0083】
化合物10a(X=C17):(Y:36.8%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.78(24H),0.88(3H),1.15(16H),1.28(m,10H),1.41(16H),1.67(2H),2.81(2H),2.93(16H),7.80(1H),8.11(1H),8.12(2H),8.64(2H),8.79(1H),8.81(2H),9.48(1H),9.52(2H)
【0084】
[化合物10b(X=H)の合成]
化合物10a(X=H)と同様の操作を行い、化合物10b(X=H)を得た。
【0085】
化合物10b(X=H):(Y:37,3%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.79(24H),1.15(16H),1.42(16H),
2.94(16H),7.86(1H),8.09(1H),8.12(2H),8.65(1H),8.70(1H),8.72(1H),8.78(1H),8.81(2H),9.48(1H),9.52(2H)
【0086】
[化合物10b(X=C17)の合成]
化合物10a(X=H)と同様の操作を行い、化合物10b(X=C17)を得た。
【0087】
化合物10b(X=C17):(Y:33.4%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.79(24H),0.89(3H),1.15(16H),1.29(m,10H)1.42(16H),1.68(2H),2.83(2H),2.94(16H),7.86(1H),8.09(1H),8.12(2H),8.65(1H),8.70(1H),8.72(1H),8.78(1H),8.81(2H),9.48(1H),9.52(2H)
【0088】
[化合物10c(X=H)の合成]
化合物10a(X=H)と同様の操作を行い、化合物10c(X=H)を得た。
【0089】
化合物10c(X=H):(Y:32.2%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.80(24H),1.15(16H),1.42(16H),2.94(16H),7.88(1H),8.10(1H),8.13(2H),8.661H),8.72(1H),8.75(1H),8.77(2H),8.78(1H),8.84(2H),9.49(1H),9.53(2H)
【0090】
[化合物10c(X=C17)の合成]
化合物10a(X=H)と同様の操作を行い、化合物10c(X=C17)を得た。
【0091】
化合物10c(X=C17):(Y:30.1%)H−NMR(CDCl,TMS/ppm):0.80(24H),0.89(3H),1.15(16H),1.23(m,10H),1.42(16H),1.68(2H),2.84(2H),2.94(16H),7.88(1H),8.10(1H),8.13(2H),8.661H),8.72(1H),8.75(1H),8.77(2H),8.78(1H),8.84(2H),9.49(1H),9.53(2H)
【0092】
[太陽電池の作製]
色素増感太陽電池の作製に当たっては、上で説明した増感色素を導電性ガラス表面に塗布した二酸化チタン多孔質膜に吸着させることにより、可視光応答の電極を構成する。導電性ガラス表面に白金を蒸着した対電極の間に電解質溶液をはさみ光電変換素子、すなわち太陽電池を作製する。
【0093】
上述したところの本発明の色素増感太陽電池を、図1に基づき以下により具体的に説明する。
図1に示した色素増感太陽電池は、電気伝導性基板8、電気伝導性基板8上に形成され、光増感色素が吸着した多孔質光起電力層3、対向電極9、多孔質光起電力層3と対向電極9との間に充填されたホール輸送層4、太陽電池の横側をシールする漏洩防止剤7を設けた構造を有している。電気伝導基板8は支持基板1と透明導電性膜2とを有している。基板1に使用される材料は特に限定するものではないが、多種多様の透明材料を用いることができ、好ましくはガラスが使用できる。透明導電性膜2として使用される材料もまた特に限定するものではないが、フッ素をドープした酸化錫(SnO:F)、アンチモンをドープした酸化亜鉛(ZnO:Sb)、錫をドープした酸化インジウム(In:Sn)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(ZnO:Al)、ガリウムをドープした酸化亜鉛(ZnO:Ga)等、透明で電気導電性を有する酸化物を電極として使用することが好ましい。基板1上に透明導電性膜2を形成する方法としては、構成材料を用いる真空蒸着法、スパッタ法、CVD(化学気相堆積)法、PVD(物理気相堆積)法、ゾル−ゲル材料を用いる塗布法等を使用することができる。
【0094】
多孔質光起電力層3として用いられる多孔質半導体層の材料は、n型半導体であれば特に限定するものではない。好ましくは、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、酸化インジウム(In)、酸化ニオブ(Nb)のような酸化物半導体が好ましい。酸化物半導体は高性能太陽電池が得られる大面積が可能な点で好ましい。好ましくは、その酸化物半導体の粒子径が1から200nm、より好ましくは1以上50nm以下である。また、その酸化物半導体は比面積が5から100m/gであることが好ましい。その酸化物半導体は導電性表面に固定でき、少なくとも200nmの膜厚、好ましくは1000から20000nmの膜厚を有する多孔質性膜を形成する。
【0095】
本発明に基づく色素増感半導体電極は、適当な通常の手法により基板の導電性表面に本発明である先に記載した金属錯体を固定して得られる酸化物半導体の層または膜として形成される。導電性表面上への酸化物半導体の固定は、酸化物半導体を含む分散媒体またはスラリー状液体に浸漬、またはそれらを用いて塗布し、乾燥後焼成することにより行われる。表面活性剤、ポリエチレングリコールのような膨潤剤および適当な添加物を含む水溶性媒体は、通常、前出の分散媒体やスラリー状液体として用いることができる。焼成は通常300から900℃、好ましくは400から600℃で行う。
【0096】
金属錯体を以下のように半導体層に固定する。金属錯体をメタノール、エタノール、アセトニトリル、ノルマル−ブタノール、ターシャル−ブタノールまたはジメチルホルムアミド等の適当な溶媒に溶解する。上記に記載の半導体電極に、浸漬や塗布等の適当な方法にて溶液を浸みこませる。好ましくは、金属錯体を含む溶液を酸化物半導体の多孔質層の奥深くに浸みこませる。半導体電極にトラップされたガスを除去するため、真空中高温で処理することが好ましい。金属錯体は好ましくは酸化物半導体表面で単分子層を形成させる。
【0097】
対向電極9は基板5と対向電極層6から構成される。基板5に用いる材料は、基板1と同様に特に限定されるものではないし、多種多様の透明材料を用いることができ、好ましくはガラスを使用する。対向電極層6の材料もまた特に限定するものではないが、白金膜、炭素薄膜、フッ素をドープした酸化錫(SnO:F)、アンチモンをドープした酸化錫(Sn:Sb)、錫をドープした酸化インジウム(In:Sn)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(ZnO:Al)、及びガリウムをドープした酸化亜鉛(ZnO:Ga)からなる群から選ばれた一つまたは複数の積層膜であり、好ましくはこれらの複合膜である。対向電極層6は対向電極から電解質に電子伝達することを容易にすることが役割である。対向電極膜6の形成法としては、電極材料を成分として真空蒸着法、スパッタ法、CVD(化学気相堆積)法、PVD(物理気相堆積)法等を用いて基板5の上に対向電極膜6を形成してもよいし、ゾル−ゲル法による塗布によっても形成される。透明電極や電解質を透過した光を反射するように対向電極を追加加工してもよい。更に、TiO層、色素、電解質を保護して長期安定性を確保するため、基板の外側をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、また好ましくはポリカーボネート等のプラスチックで覆ってもよい。
【0098】
本発明ではホール輸送層4としてホールまたはイオンを用いる。ここで、ホール輸送層は電気導電性基板8の上に形成され、光増感色素を吸着させた多孔質半導体電極と対向電極9上の電子を輸送する材料である基板との間に充填されている。たとえば、ホール輸送材料としてはポリビニルカルバゾールを、電子輸送材料としてはテトラニトロフルオレノンを、電気伝導性高分子としてはポリピロールを、電解質の電気伝導材料としては高分子電解質を使用できる。
【0099】
液体電解質(レドックス電解質)の酸化還元対の例としては、I/I、Br/Brやキノン/ハイドロキノン対がある。たとえば、ヨウ化リチウムとヨウ素を使ってもよい。電解質の溶媒としては、アセトニトリルまたはプロピレンカーボネートの様に大量の電解質を溶解できる電気化学的に不活性な溶媒を使用できる。
【0100】
セルサイズ0.25cmの太陽電池を上記の電極と対極を用いて作製した。ここで、対極は白金電極であり、導電性ガラス基板上に白金を真空蒸着して形成した。白金層は20nmの膜厚とした。上記の2つの電極間を満たす電解液として、I/Iの酸化還元対を適用し、電解液は0.5Mの4−t−ブチルピリジン、0.1Mのヨウ化リチウム、0.6Mの1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム及び0.1Mのヨウ素を溶質としてアセトニトリルに溶解させた。
【0101】
このようにして作製した光電変換素子性能はソーラーシュミレーター(AM1.5,100mWcm−2)を用いて評価した。室温に電流−電圧特性測定し,得られた短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、及び形状因子(F.F.)を求め、これらから光電変換効率(η)を求めた。
本発明による代表的な色素及びBlack色素(Black dye)を用いたセル特性を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
上の表から判るように、本発明の実施例の錯体を使用すると、何れの場合にもBlack色素よりも大きな短絡電流が得られた。これは、これらの錯体の吸収する光の波長域がBlack色素よりも長波長側まで伸びており、これによる光吸収量の増大が短絡電流の増大に寄与していることを示している。これにより、最終的には光電変換効率がBlack色素よりも高くなるという効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の金属錯体は太陽光エネルギーを高い效率で吸収する色素となり、またこれを利用して高効率の色素増感太陽電池を提供できる。
【符号の説明】
【0105】
1 支持基板
2 透明導電性膜
3 多孔質光起電力層
4 ホール輸送層
5 基板
6 対向電極層
7 漏洩防止剤
8 電気導電性基板
9 対向電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0106】
【特許文献1】特開2003-212851
【特許文献2】US 6,664,462 B2
【特許文献3】特開2005-120042
【非特許文献】
【0107】
【非特許文献1】European Journal of Organic Chemistry 2004, 4003-4013
【非特許文献2】Chemistry of Materials 2006, 18, 5178-5185
【非特許文献3】Applied Physics Express 3 (2010) 06230-1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される金属錯体。
MLZX (1)
上式中:
Mは8〜10族金属元素であり、
Xはハロゲン原子、シアノ基、チオシアノ基とチオラート基とからなる群から選択された配位子であり、
Zは下記式(2)で表され、ここにおいてA1、A2及びA3の少なくとも1つはカルボキシル基であるとともに残余のものは水素である配位子であり、
【化1】


Lは下記式(3)で表される1,3−ブタンジオン誘導体であり、
【化2】


ここで、Rは、アルキル基、アルコキシアルキル基、アミノアルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アリール基または水素原子であり、
は置換または無置換3,4−エチレンジオキシチオフェン基、もしくはチオフェンが1〜3個直鎖状に繋がるチオフェン骨格であって、その一側に置換または無置換アルキル基とアルキルフェニル基とハロゲン基とフェノキシアルキルとからなる群から選択された基を有する前記チオフェン骨格である。
【請求項2】
前記式(3)におけるRが炭素数1〜3であるパーフルオロアルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
前記式(3)におけるRがチオフェンが1〜3個直鎖状に繋がるチオフェン骨格を有し、前記チオフェン骨格の一側に炭素数1〜12のアルキル基とアルキルフェニル基(アルキル部分の炭素数1〜12)と末端がハロゲン基を有する炭素数1〜12のアルキル基とからなる群から選択された基を有する、請求項1または請求項2に記載の金属錯体。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の金属錯体が導電性表面に形成された酸化物半導体膜に吸着した、色素増感酸化物半導体電極。
【請求項5】
請求項4に記載の色素増感酸化物半導体電極と、対極と、前記色素増感酸化物半導体電極及び前記対極に接触するレドックス電解質とを設けた色素増感太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−119195(P2012−119195A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268761(P2010−268761)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】