説明

金属錯体およびこれを含む燐光有機発光素子

【課題】消光現象を抑えて発光効率を高めることのできる金属錯体、およびこれを含む燐光有機発光素子を提供する。
【解決手段】金属錯体は、遷移金属と該遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)とを含む。該原子団のうち少なくとも1つは4級炭素原子(C−SP)官能基を有する。この4級炭素原子(C−SP)官能基はそれ自身が四面体(tetrahedral)構造をとるため、遷移金属に配位することで立体障害がさらに増加し、ホール輸送効率が向上する。よって高ドーピング濃度条件下で起こる濃度消光現象が回避される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体およびこれを含む有機発光素子に関し、特に金属錯体およびこれを含む燐光有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(organic electroluminescent device)は、有機発光ダイオード(organic light−emitting diode;OLED)とも称される、有機層を活性層とした一種の発光ダイオード(LED)である。有機発光素子は、低動作電圧、高輝度、軽量、広視野角および高コントラスト比などのような優れた特長から、ここ数年の間でフラットパネルディスプレイへの使用が次第に増加しているデバイスである。
【0003】
OLEDは一対の電極およびこれらの電極間に配された発光層を含んでいるのが通常であり、次のような現象により発光するしくみとなっている。つまり、電界が両電極に印加されることで陰極から発光層に電子が注入されると共に陽極から発光層にホールが注入されると、電子とホールが発光層中で結合して励起子(exitons)が生成され、これにより電子とホールの再結合が光として放出される。
【0004】
電子とホールの再結合により生成される励起子は、電子とホールのスピン状態(spin state)に応じて、三重項(triplet)または一重項(singlet)のスピン状態をとり得る。一重項励起子(singlet exiton)からの発光は蛍光(fluorescence)であり、三重項励起子(triplet exiton)からの発光は燐光(phosphorescence)である。燐光の発光効率は蛍光の3倍もあり、この点から、OLEDの発光効率を向上させるためにかかる高効率の燐光材料をより高度に開発していくことが非常に重要となっている。
【0005】
特許文献1には、その発光層がフェナントロリン(phenanthroline;BCP)をホスト材料とし、fac−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(fac−tris(2−phenylpyridine) iridium;Ir(ppy))をゲスト材料(ドーパント)としてドープしてなる燐光有機発光素子が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、その発光層がカルバゾールビフェニル(carbazole biphenyl;CBP)をホスト材料とし、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィン白金(II)(2,3,7,8,12,13,17,18−octaethyl−21H,23H−porphine platinum(II);PtOEP)をゲスト材料としてなる燐光有機発光素子が開示されている。この燐光有機発光素子では、三重項励起子は発光前に十分に長い距離を拡散しなければないが、一部の励起子は陰極(金属電極)まで拡散し、金属電極の影響により消失(quenched)してしまうため、無放射的な励起子の減衰が生じて、発光効率は大幅に低下する。
【0007】
このような陰極(金属電極)を原因とするクエンチング現象の問題を解決するために、ホールブロッキング層を備える燐光有機発光素子が提出されるに至った。このホールブロッキング層は、発光層と陰極との間に配置され、例えばN,N'−ジフェニル−N,N'−ビス−アルファ−ナフチルベンジジン(N,N‘−diphenyl−N,N’−bis−alpha−naphthylbenzidine;NPD)、カルバゾールビフェニル(carbazole biphenyl;CBP)、トリス−8−ヒドロキシキノリンアルミニウム(aluminum tris−8−hydroxyquinoline;Alq)、またはフェナントロリン(phenanthroline;BCP)からなるものである。
【0008】
非特許文献1には、CBPを発光層のホスト材料とし、(2,(2’−ベンゾ[4,5−a]チエニル)ピリジネート−N,C3’)イリジウム(アセチルアセトネート)((2,(2’−benzo[4,5−a]thienyl)pyridinato−N,C3’ )iridium(acetylacetonate);Btp Ir(acac))を発光層のゲスト材料とし、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−フェナントロリン(2,9−dimetyl−4,7−diphenyl−phenanthroline)をホールブロッキング層の材料とする、ホールブロッキング層を備えた燐光有機発光素子が開示されている。
【0009】
また、非特許文献2にもホールブロッキング層を備えた燐光有機発光素子が開示されている。これは、CBPを発光層のホスト材料、Ir(ppy)を発光層のゲスト材料としており、ホールブロッキング層の材料として2,2',2''−(1,3,5−ベンゼントリイル)トリス− [1−フェニル−1−H−ベンゾイミダゾール](2,2’,2”−(1,3,5−benzenetriyl)tris−[1−phenyl−1−H−benzimidazole];TPBI)、ビス(2−メチル−8−キノリナト)トリフェニルシラノラートアルミニウム(III)(aluminum(III)bis(2−methyl−8−quinolinato)triphenylsilanolate;SAlq)、ビス(2−メチル−8−キノリナト)4−フェノラートアルミニウム(III)(aluminum(III)bis(2−methyl−8−quinolinato)4−phenolate;PAlq)、または、ビス(2−メチル−8−キノリナト)4−フェニルフェノラートアルミニウム(III)(aluminum(III)bis(2−methyl−8−quinolinato)4−phenylphenolate;BAlq)、が挙げられている。
【0010】
先行技術文献の中には、金属錯体をブロッキング層に用いる構成を開示したものもある。例えば特許文献3では、ファク−トリス(1−フェニルピラゾラト−N,C) イリジウム(III)(fac−tris(1−phenylpyrazolato−N,C )iridium(III);Ir(ppz))が電子/励起子ブロッキング材料として用いられている。
【0011】
この文献ではさらに、(2−(4',6'− ジフルオロフェニル)ピリジナト −N,C)(2,4−ペンタンジオナト)白金(II)(platinum(II)(2−(4’6’−difluorophenyl)pyridinato−N,C)(2,4−pentanedionato;FPt)、(2−(4',6'−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C)(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト白金(II)(platinum(II)(2−(4’,6−diflurophenyl)pyridinato−N,C)(2,2,6,6−tetramethyl−3,5−heptanedionato);FPt2)、(2−(4',6'−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C)(6−メチル−2,4−ヘプタンジオナト白金(II)(platinum(II)(2−(4’,6’−difluorophenyl)pyridinato−N,C )(6−methyl−2,4−heptanedionato);FPt3)、(2−(4',6'−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C)(3−エチル−2,4−ペンタンジオナト白金(II)(platinum(II)(2−(4’,6’−difluorophenyl)pyridinato−N,C)(3−ethyl−2,4−pentanedionato;FPt4)、および、イリジウム−ビス(4,6,−F−フェニル−ピリジナト−N,C)−ピコリネート(iridium−bis(4,6−F−phenyl−pyridinato−N,C)−picolinate;FIr(pic))などの金属錯体が発光層のゲスト材料とされている。しかし、これらゲスト材料のドーピング濃度が高くなると、それに伴って励起子間の衝突が増加し自己消光(self−quenching)現象が生じるため、発光効率は低下してしまう。
【0012】
そこで、上述した問題を解決すべく燐光有機発光素子の発光層に用いる新規な材料を開発することが、フラットパネルディスプレイ製造技術分野において重要研究課題となっている。
【0013】
【特許文献1】米国特許第6645645号明細書
【特許文献2】米国特許第6097147号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0175553号明細書
【非特許文献1】安達ら、「高効率の赤色蛍光素子」(High−efficiency red electrophosphorescence device)」、アプライドフィジクス レターズ(Applied Physics Letters)、2001年3月12日、第78巻、第11号、p.1622−1624
【非特許文献2】クウォング(Kwong)ら、「蛍光素子の高操作安定性」(High−operational stability of electrophosphorescent devices)、アプライドフィジクス レターズ(Applied Physics Letters)、2002年、7月1日、第81巻、第1号、p.162−164)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記の問題に鑑みて、本発明の主な目的は、励起子のクエンチング現象を低減して燐光有機発光素子の発光効率を高めることのできる、燐光有機発光素子の発光層材料に適用される金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって本発明は、燐光有機発光素子に用いる金属錯体であって、遷移金属と、前記遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)と、を含み、前記原子団は少なくとも1つの4級炭素原子(C−SP)官能基を有している金属錯体に関する。
【0016】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団が前記遷移金属に結合してなる構造は、下の一般式(I)または(II)で表わされることが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】


(式中、RおよびRは同じまたは異なるアリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、飽和アルキル基または不飽和アルキル基である。Mは遷移金属である。Xは周期表6A族(カルコゲン)元素である。Aリングは窒素原子(N)を含むヘテロ環基またはヘテロアリール基であり、窒素原子(N)を介してMと結合する。)
【0019】
Mがイリジウム(Ir)であることが好ましい。Xが酸素であり、RおよびRが同じまたは異なるアリール基であることが好ましい。
【0020】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団の数が1であり、かつ遷移金属が別の2つの原子団とさらに結合することが好ましい。
その金属錯体が下式で示されるいずれかの構造からなることが好ましい。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団の数が2であり、かつ遷移金属が別の1つの原子団とさらに結合することが好ましい。その金属錯体が下式で示されるいずれかの構造からなることが好ましい。
【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団の数が3であることが好ましい。その金属錯体が下式で示される構造からなることが好ましい。
【0031】
【化11】

【0032】
Aリングが下式で示されるいずれかの構造からなることが好ましい。
【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
【化17】

【0039】
【化18】

【0040】
【化19】

【0041】
【化20】

【0042】
【化21】

【0043】
【化22】

【0044】
【化23】


(式中、R、R、RおよびRは同じまたは異なる官能基であって水素、フッ素、アルキル基またはアリール基である。)
【0045】
また、本発明は、少なくとも、一対の電極と、一対の電極の間に形成される、金属錯体を含んだ有機エレクトロルミネセント層と、を備える燐光有機発光素子であって、金属錯体が、遷移金属と、遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)と、を含み、前記原子団のうち少なくとも1つは4級炭素原子(C−SP)官能基を有している燐光有機発光素子に関する。
【0046】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団が遷移金属に結合してなる構造は、下の一般式(I)または(II)で表わされることが好ましい。
【0047】
【化24】

【0048】
【化25】


(式中、RおよびRは同じまたは異なるアリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、飽和アルキル基または不飽和アルキル基である。Mは遷移金属である。Xは周期表6A族(カルコゲン)元素である。Aリングは窒素原子(N)を含むヘテロ環基またはヘテロアリール基であり、窒素原子(N)を介してMと結合する。)
【0049】
Mがイリジウム(Ir)であることが好ましい。Xが酸素であり、RおよびRが同じまたは異なるアリール基であることが好ましい。4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団の数が1であり、かつ遷移金属が別な2つの原子団とさらに結合することが好ましい。その金属錯体が下式で示されるいずれかの構造からなることが好ましい。
【0050】
【化26】

【0051】
【化27】

【0052】
【化28】

【0053】
【化29】

【0054】
【化30】

【0055】
【化31】

【0056】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団の数が2であり、かつ遷移金属が別の1つの原子団とさらに結合することが好ましい。その金属錯体が下式で示されるいずれかの構造からなることが好ましい。
【0057】
【化32】

【0058】
【化33】

【0059】
4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの原子団の数が3であることが好ましい。その金属錯体が下式で示される構造からなることが好ましい。
【0060】
【化34】

【0061】
Aリングが下式で示されるいずれかの構造からなることが好ましい。
【0062】
【化35】

【0063】
【化36】

【0064】
【化37】

【0065】
【化38】

【0066】
【化39】

【0067】
【化40】

【0068】
【化41】

【0069】
【化42】

【0070】
【化43】

【0071】
【化44】

【0072】
【化45】

【0073】
【化46】


(式中、R、R、RおよびRは同じまたは異なる官能基であって水素、フッ素、アルキル基またはアリール基である。)
【0074】
前記金属錯体が発光層のドーパントとして用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0075】
本発明に係る金属錯体は、4級炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団(moiety)を少なくとも1つ含んでおり、該4級炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団が遷移金属に配位するため、金属錯体の立体障害が増えると共にホール輸送効率が向上し、高濃度ドーピング条件下で生ずる濃度消光現象を回避できることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
本発明では、主に金属錯体を発光層のゲスト材料(ドーパント)として用い、これにより燐光有機発光構造中のキャリア(ホールまたは電子)輸送能を改善する。上述の目的を達成するため、本発明に係る金属錯体は、燐光有機発光素子に用いるものであって、遷移金属と、該遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)とを含み、かつ、少なくとも1つの該原子団が4級炭素原子(C−SP)官能基を有してなる。本発明の好ましい実施例として、4級炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団が遷移金属と結合してなる構造を、次の一般式(I)または(II)によって表わすことができる。
【0077】
【化47】

【0078】
【化48】

【0079】
式中、RおよびRは同じまたは異なるアリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、飽和アルキル基または不飽和アルキル基である。Mは遷移金属である。Xは周期表6A族(カルコゲン)元素である。Aリングは窒素原子(式中のAリング内のN原子)を含むヘテロ環基またはヘテロアリール基であり、かつ窒素原子(式中のAリング内のN原子)を介してMと結合する。
【0080】
以下に、本発明の目的と特徴がより明らかとなるよう、好ましい実施例を挙げ、図面と対応させながら詳細に説明する。
【0081】
従来の燐光ゲスト材料(ドーパント)は、大体が例えば下式で示されるIr(ppy)、IrPQ(acac)およびFlr(pic)など、SP混成炭素原子(C−SP)構造を有する原子団を含んでいる。SP混成炭素原子(C−SP)構造の主な長所は、共役二重結合またはスピン軌道結合の長さを調整することにより燐光材料の発光波長を変えられるという点にある。例として、Ir(ppy)およびIrPQ(acac)は、比較的長い共役二重結合を持つため、これらを波長520〜532nmの燐光を発するものとして用いることができる。また、Flr(pic)は比較的短い共役二重結合を持っており、その燐光の発光波長は470nmである。
【0082】
【化49】

【0083】
【化50】

【0084】
【化51】

【0085】
本発明による燐光有機発光素子の発光層材料となる金属錯体は、その主な特徴の1つが、4級炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団(moiety)を少なくとも1つ含む点にある。かような特徴を持つ本発明では、4級炭素原子(C−SP)が4つの異なる官能基とそれぞれ結合し、こうしてなる4級炭素原子(C−SP)官能基が、その結合した官能基の遷移金属元素への配位を通してさらに遷移金属元素と結合し、よって金属錯体が形成される。この4級炭素原子(C−SP)の電子親和性は結合する官能基によって変わり、かつ、4級炭素原子と結合する官能基もその存在位置によって物理特性が変化するため、4級炭素原子と結合する官能基またはその結合位置を選択する(例えば、電子親和度を選択する)ことで、本発明に係る金属錯体の発光波長を調整することが可能となる。
【0086】
また、4級炭素原子とその結合する官能基とは四面体(tetrahedral)構造を構成することから、該4級炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団が遷移金属に配位することにより金属錯体の立体障害が増え、高濃度ドーピング条件下で生ずる濃度消光現象を回避することができる。
【0087】
ところで、公知技術においては、spiro−FPAは蛍光有機青色発光素子の発光材料として用いられている。下式で示されるspiro−FPAは、スピロビフルオレン(spirobifluorene)を中心として垂直に連結する、同一のアントラセン発光体を同時に2つ有している。スピロビフルオレン中の4級炭素原子は、πスタッキングの影響を抑制し、spiro−FPAの共役二重結合の長さを短くすることができるため、波長450nmの蛍光が放出されることとなる。
【0088】
【化52】

【0089】
さらに、4級炭素原子が構成する四面体構造はspiro−FPAに比較的高い熱安定性とガラス転移温度(Tg)を同時に持たせて、結晶化しにくくすると共に、ホールが輸送され易くする。しかし、4級炭素原子を有する上述のようなフルオレンは、高分子材料へ応用されることがほとんどであり、目下のところ燐光発光材料にはあまり使用されていない。
【0090】
本発明が提供する金属錯体は、燐光有機発光素子の発光層材料、特に、発光層のゲスト材料(ドーパント)として使用することができる。当該金属錯体は、遷移金属と、該遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)とを含んでなり、該原子団のうち少なくとも1つは4級炭素原子(C−SP)官能基を有していなければならない。本発明の好ましい実施例によると、4級炭素原子(C−SP)官能基を有する該原子団が遷移金属と結合してなる構造は、次の一般式(I)または(II)によって表わされ得る。
【0091】
【化53】

【0092】
【化54】

【0093】
式中、RおよびRは同じまたは異なるアリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、飽和アルキル基または不飽和アルキル基であって、アリール基であるのが好ましい。Mは遷移金属であり、イリジウム(Ir)であるのが好ましい。Xは周期表6A族(カルコゲン)元素であり、例えば、酸素、硫黄、セレンまたはテルルである。Aリングは窒素原子(式中のAリング内のN原子)を含むヘテロ環基またはヘテロアリール基であり、かつ窒素原子(N)を介してMと結合する。この条件を満足するAリングの構造の例を以下に幾つか挙げるが、本発明を限定する意図はない。
【0094】
【化55】

【0095】
【化56】

【0096】
【化57】

【0097】
【化58】

【0098】
【化59】

【0099】
【化60】

【0100】
【化61】

【0101】
【化62】

【0102】
【化63】

【0103】
【化64】

【0104】
【化65】

【0105】
【化66】

【0106】
式中、R、R、RおよびRは同じまたは異なる官能基であって、水素、フッ素、アルキル基、フルオロアルキル基またはアリール基とすることができる。
【0107】
表1及び表2に、本発明による一般式(I)または(II)の構造を備えた新規な金属錯体の実施例がいくつか示してある。表中に各々の化学構造が詳細に記載してあるので、それらが有する原子団、ならびに、R、R、R、R、R、R、XおよびAリングによって表わされる各置換基が明らかとなるはずである。さらにそれらの発光波長(nm)も記している。
【0108】
【表1】

【0109】
【表2】

【0110】
表1及び表2からわかるように、本発明の好ましい実施例による金属錯体は、4価混成炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団を1つ含んでおり、これがさらに別の2つの原子団と結合してなるものであり得る。例えば表中の金属錯体A、B、C、D、EおよびFがそのような例である。また、本発明のいくつかの好ましい実施例では、金属錯体は、4価混成炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団を2つ含んでおり、これらがさらに別の1つの原子団と結合してなるものであり得る。例えば表中の金属錯体GおよびIがそのような例である。本発明のまた別の好ましい実施例では、金属錯体は、4価混成炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団を3つ含んでなるものであり得る。例えば表中の金属錯体Hがそのような例である。
【0111】
(金属錯体の調製)
以下に、表1中の金属錯体B、D、GおよびIの合成スキームを例として示すことで、その調製法を説明する。
【0112】
金属錯体Bの合成スキーム
【0113】
【化67】

【0114】
金属錯体Dの合成スキーム
【0115】
【化68】

【0116】
金属錯体Gの合成スキーム
【0117】
【化69】

【0118】
金属錯体Iの合成スキーム
【0119】
【化70】

【0120】
(燐光有機発光素子)
図1を参照されたい。本発明の好ましい1実施例による燐光有機エレクトロルミネセント発光素子(phosphorescent organic electroluminescent device)100は、透明基板110を備える。基板110の上は陽極120で、該陽極の材質はITOである。陽極120の上は順番にホール注入層130およびホール輸送層140となっている。該ホール注入層の材質は銅フタロシアニン(CuPC)、厚さは1500Åである。本発明の別な好ましい実施例として、該ホール注入層の材質を、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン/ポリ(スチレンスルホネート)(poly(3,4−ethylenedioxythiophene)/poly(styrene sulfonate);PEDOT:PSS)、または、テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン(tetrafluoro−tetracyanoquinodimethane;F4−TCNQ)としてもよい。
【0121】
そして、該ホール輸送層の材質は例えば(N, N'−ジ(ナフチレン−1−イル)−N, N'−ジフタルベンジジン(N,N’−di(naphthalene−1−yl)−N,N’−diphthalbenzidine;NPB)とすることができ、厚さは約200Åである。該ホール輸送層140の上は発光層150となっており、該発光層のホスト材料は4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(4,4’−bis(carbazol−9−yl)biphenyl;CBP)、ゲスト材料は金属錯体Eであり、厚さは約300Åである。ゲスト材料のドーピング濃度は3%、5%、7%および10%にそれぞれ調整される。発光層150上にはホールブロッキング層160が形成され、該ホールブロッキング層の材質はビス(2−メチル−8−キノリナト)4−フェニルフェノラトアルミニウム(III)(aluminum(III)bis(2−methyl−8−qinolinato)4−phenylphenolate;BAlq)、厚さは150Åである。
【0122】
ホールブロッキング層160の上は電子輸送層170であり、該電子輸送層の材質はトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(aluminum tris(8−hydroxyquinoline);Alq)、厚さは約300Åである。電子輸送層170の上は電子注入層180であり、該電子注入層の材質はフッ化リチウム、厚さは約10Åである、電子注入層の上は陰極190となっており、該陰極の材質はアルミニウムである。
かかる燐光有機発光素子のパフォーマンスについて試験した結果が図2から図4に示してある。これらの図により、金属錯体Eのドーピング量がそれぞれ異なる各燐光有機発光素子の光電特性が比較される。図2は電流密度と発光効率(efficiency)との関係図、図3は電流密度と電流効率(yield)との関係図、図4は動作電圧と輝度との関係図、である。これらの図からわかるように、金属錯体Eのドーピング量が10%のときに、最高の電流効率(8.8cd/A)と発光効率(4.51m/W)が得られ、かつ動作電圧7.7Vで輝度が1000cd/mにも達した。また、CIE(国際照明委員会)色度座標は(0.32、0.56)であった。
【0123】
以上から知り得るように、本発明によれば、金属錯体のドーピング量が10%まで上がったときにも、燐光有機発光素子の発光効率と電流効率は依然ドーピング量の増加に伴って上昇している。従来の燐光ゲスト材料では、そのドーピング量が5%を超えれば深刻な濃度消光現象が起こってしまうが、これとは対照的に、本発明に係る金属錯体は、4級炭素原子(C−SP)官能基を有する原子団を含んでおり、錯体の立体障害が増えてホール輸送効率が向上するので、ドーピング濃度が10%に達しても濃度増加に伴う濃度消光現象は依然生じない。
【0124】
以上、本発明を好ましい実施例により説明したが、本発明がこれらに限定されることはなく、当業者であれば本発明の精神と範囲内において変更や修正を加えることができる。したがって、本発明の範囲は、添付した特許請求の範囲の記載が基準となる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明に係る燐光有機発光素子の好ましい1実施例の断面構造図である。
【図2】本発明に係る燐光有機発光素子の電流密度と発光効率との関係図である。
【図3】本発明に係る燐光有機発光素子の電流密度と電流効率との関係図である。
【図4】本発明に係る燐光有機発光素子の動作電圧と輝度との関係図である。
【符号の説明】
【0126】
100 燐光有機発光素子
110 基板
120 陽極
130 ホール注入層
140 ホール輸送層
150 発光層
160 ホールブロッキング層
170 電子輸送層
180 電子注入層
190 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐光有機発光素子に用いる金属錯体であって、
遷移金属と、
前記遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)と、を含み、
前記原子団のうち少なくとも1つは4級炭素原子(C−SP)官能基を有している金属錯体。
【請求項2】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団が前記遷移金属に結合してなる構造は、下の一般式(I)または(II)で表わされる請求項1に記載の金属錯体。
【化1】


【化2】


(式中、RおよびRは同じまたは異なるアリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、飽和アルキル基または不飽和アルキル基である。Mは遷移金属である。Xは周期表6A族(カルコゲン)元素である。Aリングは窒素原子(N)を含むヘテロ環基またはヘテロアリール基であり、窒素原子(N)を介してMと結合する。)
【請求項3】
Mがイリジウム(Ir)である請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項4】
が酸素であり、RおよびRが同じまたは異なるアリール基である請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団の数が1であり、かつ前記遷移金属が別の2つの原子団とさらに結合する請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項6】
下式で示されるいずれかの構造からなる請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】

【請求項7】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団の数が2であり、かつ前記遷移金属が別な1つの原子団とさらに結合する請求項1または請求項2に記載の金属錯体。
【請求項8】
下式で示されるいずれかの構造からなる請求項7記載の金属錯体。
【化9】


【化10】

【請求項9】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団の数が3である請求項1または請求項2に記載の金属錯体。
【請求項10】
下式で示される構造からなる請求項9記載の金属錯体。
【化11】

【請求項11】
Aリングが下式で示されるいずれかの構造からなる請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の金属錯体。
【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】

【化17】


【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】

【化23】


(式中、R、R、RおよびRは同じまたは異なる官能基であって水素、フッ素、アルキル基またはアリール基である。)
【請求項12】
少なくとも一対の電極と、
前記一対の電極の間に形成される、金属錯体を含んだ有機エレクトロルミネセント層とを備える燐光有機発光素子であって、
前記金属錯体が、
遷移金属と、
前記遷移金属に結合する複数の原子団(moiety)と、を含み、
前記原子団のうち少なくとも1つは4級炭素原子(C−SP)官能基を有している燐光有機発光素子。
【請求項13】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団が前記遷移金属に結合してなる構造は、下の一般式(I)または(II)で表わされる請求項12記載の燐光有機発光素子。
【化24】


【化25】


(式中、RおよびRは同じまたは異なるアリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ環基、飽和アルキル基または不飽和アルキル基である。Mは遷移金属である。Xは周期表6A族(カルコゲン)元素である。Aリングは窒素原子(N)を含むヘテロ環基またはヘテロアリール基であり、窒素原子(N)を介してMと結合する。)
【請求項14】
Mがイリジウム(Ir)である請求項13記載の燐光有機発光素子。
【請求項15】
が酸素であり、RおよびRが同じまたは異なるアリール基である請求項13または請求項14に記載の燐光有機発光素子。
【請求項16】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団の数が1であり、かつ前記遷移金属が別の2つの原子団とさらに結合する請求項12ないし請求項15のいずれか一項に記載の燐光有機発光素子。
【請求項17】
前記金属錯体が下式で示されるいずれかの構造からなる請求項12ないし請求項16のいずれか一項に記載の燐光有機発光素子。
【化26】


【化27】


【化28】


【化29】


【化30】


【化31】

【請求項18】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団の数が2であり、かつ前記遷移金属が別な1つの原子団とさらに結合する請求項12または請求項13に記載の燐光有機発光素子。
【請求項19】
前記金属錯体が下式で示されるいずれかの構造からなる請求項18記載の燐光有機発光素子。
【化32】


【化33】

【請求項20】
前記4級炭素原子(C−SP)官能基を有する少なくとも1つの前記原子団の数が3である請求項12または請求項13に記載の燐光有機発光素子。
【請求項21】
前記金属錯体が下式で示される構造からなる請求項12、請求項13、請求項20のいずれか一項に記載の燐光有機発光素子。
【化34】

【請求項22】
Aリングが下式で示されるいずれかの構造からなる請求項12ないし請求項21記載のいずれか一項に記載の燐光有機発光素子。
【化35】


【化36】


【化37】


【化38】


【化39】


【化40】


【化41】


【化42】


【化43】


【化44】


【化45】


【化46】


(式中、R、R、RおよびRは同じまたは異なる官能基であって水素、フッ素、アルキル基またはアリール基である。)
【請求項23】
前記金属錯体が発光層のドーパントとして用いられる請求項12、請求項17、請求項19、請求項21のいずれか一項に記載の燐光有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−307210(P2006−307210A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103025(P2006−103025)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(501358079)友達光電股▲ふん▼有限公司 (220)
【Fターム(参考)】