説明

金属錯体の製造方法及び金属錯体組成物

【課題】目的のピリジンリガンドを有する金属錯体を高収率かつ高純度で合成し、さらに副生物が生成する場合であっても製品利用に適したものとして生成させる製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される金属錯体の製造において、LL及びLLのうち酸性基を含む配位子を導入する工程以降で、共役酸のpKaが3以上の塩基を添加することを特徴とする金属錯体の製造方法。
M(LLm1(LLm2(X)m3・CI ・・・(1)
・Mは金属原子を表し、
・LLは特定の2座の配位子であり、LLは特定の2座の配位子であり、Xは特定の配位子を表し、・m1、m2、m3は特定の整数を表し、CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体の製造方法及び金属錯体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリジンリガンドを有する金属錯体は、有用な材料として様々な分野で利用されている。代表例を挙げれば、色素増感型の太陽電池等の光電変換素子の色材としての利用である(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方、ルテニウム金属錯体の製造方法をみると十分に研究が進んでいる状況ではなく、その合成例を開示したものとして、下記の非特許文献1,2が挙げられる。
非特許文献1では、ルテニウムのジクロロ錯体(Ru(mcphen)Cl)溶液に0.1M NaOHaqを加えて錯体のカルボキシル基を解離させ、その後にNHNCSaqを加えてNCS錯体(Ru(mcphen)NCS)を合成している。ここで、mcphenは、4−カルボキシ−1,10−フェナントロリン(4−carboxy−1,10−phenathroline)を意味する。これにより、相応の収率で目的生成物が得られている。しかし、フェナントロリン以外の配位子の導入に効果があるかは不明であるし、特に疎水性が高い配位子を持つ化合物に対して同様に効果があるかは不明である。また、反応系内に水酸化ナトリウム水溶液に由来する水が入ることにより、目的の錯体の分解が進行し、その副生物が生じる懸念がある。
非特許文献2においては、Ru(bmipy)Cl(ここで、bmipyは2,6−bis(1−methylbenzimidazol−2−yl)pyridineを表す。)へのdcbpy(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)の導入時に、DMF系内にトリエチルアミンを添加する。しかしながら、3座配位子(bmipy)が既に導入され、残り3つの配位が可能なところに2座配位子を導入する本合成例が、その他の態様(例えば2座配位子が導入された後、残り4つの配位が可能なところに2座配位子を導入する合成)に有用な示唆となるかは分からない。また、引き続くNCS基の導入工程では塩基の添加はなく、その効果が十分に活用されていない。このように導入する配位子の価数が異なる点で、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)を添加する特許文献3(ターピリジン配位子)、特許文献4(クオータピリジン配位子)についても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5463057号明細書
【特許文献2】特開2007−73289号公報
【特許文献3】特表2002−512729号公報
【特許文献4】特開2005−190875号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry, 145(2001)117
【非特許文献2】Inorganic Chemistry ,35(1996)4779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献に記載のような方法を応用し、一般的には特定のピリジンリガンドを持つルテニウム等の金属の錯体を合成することはできる。しかしながら、とりわけ高純度の材料を必要とする光電変換素子の色材としての利用を考慮すると、さらに収率を高めることが望ましい。特に、上記金属錯体は精製が容易ではなく、副生物があると、例えばHPLCによる分離等の極めて煩雑な操作が必要となる。微少量であれば対応可能であっても、工業的な規模での生産を考慮すると、そのような操作によらなくても、所望の製品品質に適合するものを調製することが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、目的のピリジンリガンドを有する金属錯体を高収率かつ高純度で合成し、さらに副生物が生成する場合であっても製品利用に適したものとして生成させる製造方法の提供を目的とする。また、本発明は上記製造方法により得ることができる、製品利用に特に適した主成分及び副成分を含有する金属錯体の組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は下記の手段により解決された。
(1)下記一般式(1)で表される金属錯体の製造において、LL及びLLのうち酸性基を含む配位子を導入する工程以降で、共役酸のpKaが3以上の塩基を添加することを特徴とする金属錯体の製造方法。

M(LLm1(LLm2(X)m3・CI ・・・(1)

・Mは金属原子を表し、
・LLは下記一般式(2)により表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)により表される2座の配位子であり、LLとLLは異なる構造を表し、LL及びLLの少なくとも一方は酸性基を有し、
・Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3−ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、またはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
・m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m3は0〜3の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
・CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【化1】

(R101およびR102はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R103およびR104はそれぞれ独立に置換基を表し、R105およびR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基および/またはヘテロ環基を表し、LおよびLはそれぞれ独立にエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表し、a1およびa2はそれぞれ独立に0又は1の整数を表し、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR103は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR104は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b1およびb2が共に1以上のときR103とR104が連結して環を形成してもよく、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表し、d3は0または1を表す。)
【化2】

(Za、Zbはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表す。)
(2)前記LL及びLLの一方を導入する第1工程、LL及びLLのうち他方の酸性基を含む配位子を導入する第2工程を含み、該第2工程で前記塩基を添加することを特徴とする(1)に記載の金属錯体の製造方法。
(3)前記塩基は水を実質的に含有しないかもしくは水を系内で生成しないものであることを特徴とする(1)又は(2)記載の金属錯体の製造方法。
(4)前記塩基がηCH3Iにおいて6.7以下のものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
(5)前記一般式(3)で表わされる配位子が酸性基を有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
(6)前記LLを第1工程で導入し、前記LLを第2工程で導入することを特徴とする(2)〜(5)のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の工程を経て金属錯体を含有する組成物を調製し、この成分を精製せずに適用することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
(8)下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(4)で表わされる化合物とを含有する金属錯体組成物。

M(LLm1(LLm2(X)m3・CI ・・・(1)
M(LLm1(LLm2(Y)(Y)・CI ・・・(4)

・Mは金属原子を表し、
・LLは下記一般式(2)により表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)により表される2座の配位子であり、LLとLLは異なる構造を表し、LL及びLLの少なくとも一方は酸性基を有し、
・Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3−ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、またはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
・m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m2は1又は2の整数を表し、m2が2のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m3は0〜3の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
・CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【化3】

(R101およびR102はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R103およびR104はそれぞれ独立に置換基を表し、R105およびR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基および/またはヘテロ環基を表し、LおよびLはそれぞれ独立にエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表し、a1およびa2はそれぞれ独立に0又は1の整数を表し、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR103は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR104は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b1およびb2が共に1以上のときR103とR104が連結して環を形成してもよく、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表し、d3は0または1を表す。)
【化4】

(Za、Zbはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表す。)
(Yは塩基の共役酸をH−AとするときのAを表す。YはYと同一もしくは、Xと同一である。)
(9)(8)に記載の前記金属錯体組成物に含まれる前記一般式(1)で表わされる化合物及び前記一般式(4)で表わされる化合物を増感色素として適用した光電変換素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、目的のピリジンリガンドを有する金属錯体を高収率かつ高純度で合成し、さらに副生物が生成する場合であっても製品利用に適したものとして生成させることができる。また、本発明の金属錯体組成物は、上記製造方法により得ることができる、製品利用に特に適した主成分及び副成分を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明によって製造される光電変換素子の一実施態様について模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、特定のピリジンリガンドを有する金属錯体の製造において、前記一般式(1)のLL及びLLのうち酸性基を含む配位子を導入する工程以降で、特定の塩基を添加する。ここで、ピリジンリガンドとは、ピリジンの残基に置換基を有する構造をもつ配位子(リガンド)を含む意味である。一般式(1)で表わされる金属錯体については後で詳述し、まず、各リガンドを導入する工程条件の好ましい実施態様について説明する。このとき、リガンドLLが酸性基を有さずリガンドLLが酸性基を有するものとする。また、LLを第1工程で導入し、LLを第2工程で導入するものとする。中心金属はルテニウムとする。本実施形態の反応スキームを下記スキームAに示した。ただし、本発明が本実施態様に限定して解釈されるものでない。
【0012】
【化A】

上記スキーム中、Xは塩素(原子数は1〜3)及び/又は任意の配位子を表わす。原子数を示していないが、任意の個数であってよい。LL’及びLL’は、それぞれ、LL及びLLをなす化合物を表わす。
【0013】
[第1工程]
反応のために投入するルテニウム原料は特に限定されず、上記スキームAで示したようにRuClを用いてもよい。その他、入手しやすいものとしては、[Ru(p−cymene)clなどが挙げられる。第1工程では、このルテニウム原料を、リガンド化合物LL’とともに溶媒中に混合する。混合の仕方は特に限定されない。混合する量も特に限定されないが、ルテニウム原料中のルテニウム原子1モルに対して、リガンド化合物LL’を0.5〜2モル添加することが好ましく、0.8〜1.5モル添加することがより好ましい。この量が前記下限値以上であると収率の低下や不純物の増加が効果的に抑えられ、前記上限値以下であっても収率の低下や不純物の増加が効果的に抑えられる。
【0014】
この混合液を加熱して上記リガンドの導入反応を進行させるが、このときの温度は特に限定されず、0〜200℃であることが好ましく、30〜180℃であることがより好ましい。本実施形態においては、この加熱を、マイクロ波照射を用いて行うことも好ましく、例えば、WO2004/099128A1号パンフレットに開示の手法を適用することができる。この反応は、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることにより、後述する副生物の原因となる水等の混入を抑制・防止することができる。また、反応は遮光下で行う事が好ましい。特に短波側の波長を遮断する事が好ましく、更に500nm以下の波長を遮断する事がより好ましい。
【0015】
反応基質として適用するリガンド化合物LL’は導入する配位子の構造によって適宜選定すればよい。リガンドLLについては、後で、一般式(1)に関する説明において詳述する。このようなピリジンリガンド化合物の合成は定法によればよく、例えば、上記非特許文献1及び2に記載の情報を参照することができる。
【0016】
第1工程に適用する反応溶媒は特に限定されず、この種の反応に一般的に適用されるものを利用することができる。好ましくは、非プロトン性極性溶媒(DMF、DMAc、NMP、DMEUなどのアミド系の溶媒や、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒など)、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒およびそれらの組合せを挙げることができる。
【0017】
[第2工程]
本実施形態の第2工程においては、第1工程で生成した第1中間体aを含有する反応液に、リガンド化合物LL’を添加する。本実施形態において、このLL’は酸性基を持つ化合物であり、典型的にはピリジン環にカルボン酸基が導入された構造を有する。このリガンド化合物LL’も導入する配位子の構造によって適宜選定すればよく、その配位子については後述する。このようなピリジンリガンド化合物の合成は定法によればよく、例えば、上記非特許文献1及び2に記載の情報を参照することができる。このとき、上記リガンドLL’の導入反応を進行させるために系内を加熱することが好ましく、この加熱に係る好ましい実施態様は前記第1工程で説明したものと同様である。リガンド化合物LL’の添加量は特に限定されないが、前記ルテニウム原料中のルテニウム原子1モルとの関係で示すと、これに対し0.5〜2モル添加することが好ましく、0.8〜1.5モル添加することがより好ましい。この量が前記下限値以上であると収率の低下や不純物の増加が効果的に抑えられ、前記上限値以下であっても収率の低下や不純物の増加が効果的に抑えられ。
【0018】
本実施形態においては、上記リガンド化合物LL’の添加と同時に、塩基を導入することが好ましい。ここで、「同時」とは完全に同時期であることに限定されず、本発明の効果を損ねない範囲で前後していてもよい。好ましくは、上記LL’の導入反応が進行するときに塩基が共存している態様であり、上記加熱のときまでに、塩基の添加が完了していることが好ましい。
【0019】
[塩基]
ここで上記塩基(塩基種と呼ぶことがある)について説明する。本発明において用いられる塩基は、非水系であることが好ましい。非水系とは、反応系内に水を導入もしくは生成させないものであることを指す。水を導入しないものとして水の含有量を抑えたものが好ましく、塩基中の水の存在割合が20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。なお、本明細書において塩基(種)とは、塩基をなす化合物そのものを指す意味でも、これを含有する組成物の意味でも用いる。上記水が含まれる場合とは、水溶液である場合や水和物である場合が挙げられる。一方、水を生成させないものであるときには、塩基中に水酸基を有さないものであることが好ましい。リガンド化合物の酸性基が持つ水素と反応して水を生成させてしまうため、これを避けることが好ましい。
【0020】
塩基(種)の添加量は特に限定されないが、酸性基の数に応じて調整し、例えば酸性基を2つもつリガンド化合物1モルに対して、1〜10モル添加することが好ましく、1.5〜5モル添加することがより好ましい。この量が前記下限値以上であると本発明の効果が十分に発揮され、前記上限値以下であると不純物増加に伴う収率の低下が効果的に抑えられる。
【0021】
本実施形態において用いられる塩基は、pKaが3以上のものであり、4以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましい。この値が前記下限値以上であると酸性基を十分解離させることができるため、目的物の溶解性を向上させ点で好ましい。この上限値は特にないが、16以下であることが好ましく、12以下である事がさらに好ましい。本明細書においてpKaは特にことわらない限り、25℃で測定した値を言い、日本化学会編「化学便覧」(改定5版)などに掲載の値を参照することができる。
【0022】
本実施形態においては、上記塩基の求核性の指標であるnCH3Iが6.7以下であることが好ましく、6.5以下であることがより好ましい。この下限値は特にないが、2以上であることが実際的である。この求核性は高すぎると目的とする配位子の代わりに塩基自体が配位してしまい、上記一般式(4)で表される副生物が増加する傾向があるため、上記の範囲とすることが好ましい。
【0023】
上記nCH3I(求核性パラメーター)は、メタノール中におけるヨウ化メチルと求核剤との間の反応の速度定数から求められ、その定義・考え方は「大学院講義
有機化学 I.分子構造と反応・有機金属化学」(野依良治、柴崎正勝、鈴木啓介、玉尾皓平、中筋一弘、奈良坂紘一 編集、東京化学同人)p203や、「J.Am.Chem.Soc.,89,1827(1967)」(R.G.Pearson、J.Songstad)に詳しく記載があり参照することができる。以下に、各塩基の例とそのpKaおよびnCH3Iの値を示す。
【表A】

【0024】
本実施形態において上記塩基は、酸性基を有するリガンドの導入工程以降で投入されるが、これにより収率良く目的のピリジンリガンドを有する金属錯体を得ることができる。この理由は一部未解明の部分もあるが以下のように説明することができる。酸性基を有するピリジン誘導体は溶媒に対する溶解性が低い。そのため、その配位子の導入工程や、導入以後の工程の反応の速度が遅い。一般的に、同配位子導入工程以降は高温で実施することが多く、目的とする反応が遅い時に中間体が高温下長時間さらされることになるため、分解等の副反応が進行し、純度低下やそれに伴う収率低下となる。これに対し、本発明の製造方法を適用することにより、酸性基を有するピリジン誘導体およびその導入体の溶解性が上がるため、反応速度が向上し、副反応の抑制によって良好な収率が達成されるものと想定される。
なお、塩基性化合物をカルボキシル基を造塩する目的、あるいはエステル体として錯体に導入したカルボキシル基の加水分解のために添加するのとは異なり、本発明においては塩基の添加により中間体等の溶解性が向上することが上記の特有の作用効果につながったと解される。
特に脂溶性置換基を有する一般式(2)で表される配位子を導入する場合、カルボキシル基を有する置換基導入後の中間体の溶解度が低い状態であると、溶解している濃度がアンバランスとなって一般式(2)で表される配位子の導入数の制御が困難となる。そのため、本願特定構造の金属錯体を製造する場合においてその大きな効果が達成されるものと想定される。
【0025】
さらに本実施形態における重要な利点を挙げると、特定の塩基が選定され、かつ水の混在が抑制・防止されたため、上記のように塩基が配位した副生物が生成したとしても、これを利用するアプリケーションにおいて好ましい作用をもつ金属錯体組成物として得ることができる。具体的には、光電変換素子の色素として用いたときが想定され、例えば下記一般式(4)で表わされる金属錯体が生成したときにも、これが主たる成分である一般式(1)で表わされる金属錯体の共吸着剤として作用する。


M(LLm1(LLm2(Y)(Y)・CI ・・・(4)

ここで、M、LLm1、LLm2、CIは後述する一般式(1)と同義である。ただし、一般式(1)で表わされる化合物と異なるものとして共存していてもよい。Yは塩基の共役酸をH−AとするときのAを表す。YはYと同一もしくは、Xと同一である。Yは、反応で添加する塩基と同一であることが好ましい。すなわち、pKaが3以上のものであり、pKaが4以上でありかつnCH3Iが6.7以下であることが好ましく、pKaが5以上でありかつnCH3Iが6.5以下であることがより好ましい。
上記のような共吸着作用に関する観点から、一般式(4)で表わされる金属錯体の含有量は、一般式(1)で表わされる金属錯体との総量に対し、HPLC面積率で0.05〜20%であることが好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。この量が前記下限値以上であると共存させる効果が顕著になり、前記上限値以下であると色素吸着量低下による性能低下を効果的に抑制することができる。
【0026】
[第3工程]
本実施形態において、引き続く第3工程においては、NCSリガンドを導入する(上記反応スキームA参照)。この時に用いる基質は特に限定されないが、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。このとき、上記リガンドの導入反応を進行させるために系内を加熱することが好ましく、この加熱に係る好ましい実施態様は前記第1工程で説明したものと同様である。上記NCSリガンドをなす化合物の添加量は特に限定されないが、前記ルテニウム原料中のルテニウム原子1モルに対して、2〜100モル添加することが好ましく、5〜50モル添加することがより好ましい。この量が前記下限値以上であると不純物生成量の増加や収率の低下が効果的に抑制され、前記上限値以下であると不純物生成量の増加が抑えられ、余剰分の除去が難しくならず好ましい。
【0027】
本実施形態の製造方法においては、目的の生成物(具体的には前記一般式(1)で表わされる金属錯体)の収率が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。このように高収率であることで、単に生産効率が良いだけではなく、製品製造の原料として適用するときに複雑な精製操作を介さずに高品質のものとしてその生成物を提供することができ産業上の利点が大きい。
【0028】
金属錯体色素の合成方法については、公知の製造方法を参照することができ、例えば、Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry, 145(2001)117、Inorganic Chemistry ,35(1996)4779、WO2004/099128A1、JPA2001-139587、JPA2001-302558、JPA2007-302642、JPA2007-332098、JPB4377148等を参考にすることができる。
【0029】
[色素]
本実施形態で調製される前記一般式(1)で表される金属錯体は、光電変換素子において有用な色素として用いることができる。以下、この金属錯体の好ましい実施形態についてさらに説明する。

M(LLm1(LLm2(X)m3・CI ・・・(1)

【0030】
(金属原子M)
Mは金属原子を表す。Mは好ましくは4配位又は6配位が可能な金属であり、より好ましくはRu、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn又はZnである。特に好ましくは、Ru、Os、Zn又はCuであり、最も好ましくはRuである。
【0031】
(配位子LL
配位子LLは、前記一般式(2)により表される2座の配位子である。配位子LLの数を表すm1は1〜3の整数であり、1であるのがより好ましい。m1が2以上のとき、配位子LLは同じでも異なっていてもよい。なお、配位子LLがフェナントロリン構造を持つものであることはない。また、置換基に関してxxx基というときには、そのxxx基に任意の置換基を有していてもよい。この任意の置換基としては、後述するR103,R104の好ましい置換基が挙げられる。
【0032】
【化5】

【0033】
一般式(2)中のR101及びR102はそれぞれ独立に、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20のヒドロキサム酸基、例えば、−CONHOH、−CONCHOH等)、ホスホリル基(例えば−OP(O)(OH)等)及びホスホニル基(例えば−P(O)(OH)等)が挙げられ、好ましくはカルボキシル基、ホスホニル基であり、より好ましくはカルボキシル基が挙げられる。R101及びR102はピリジン環上のどの炭素原子に置換してもよい。
【0034】
一般式(2)中、R103、R104はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基、例えば、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20のアミノ基、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20のスルホンアミド基、例えば、N,N−ジメチルスルホンアミド、N−フェニルスルホンアミド等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、シアノ基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はシアノ基である。
【0035】
配位子LLがアルキル基、アルケニル基等を含むとき、これらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。また配位子LLがアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても無置換でもよい。
【0036】
一般式(2)中、R105及びR106はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜30の芳香族基、例えば、フェニル、置換フェニル、ナフチル、置換ナフチル等)、又はヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30のヘテロ環基、例えば、2−チエニル、5−2、2‘−ビチエニル、2−ピロリル、2−イミダゾリル、1−イミダゾリル、4−ピリジル、3−インドリル)であり、更に置換基を有していても良い。。R105及びR106が有していてもよい置換基としては、R103及びR106が表す置換基として挙げたものが挙げられる。R105及びR106は好ましくは1〜3個の電子供与基を有するヘテロ環基であり、より好ましくは1〜3個の電子供与基を有するチエニルが挙げられる。該電子供与基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基(以上好ましい例はR103及びR104の場合と同様)又はヒドロキシル基であるのが好ましく、アルキル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基又はヒドロキシル基であるのがより好ましく、アルキル基であるのが特に好ましい。R105とR106は同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。
【0037】
105とR106は、直接ピリジン環に結合していてもよい。R105とR106は、L及びLのどちらか一方又は両方を介してピリジン環に結合していてもよい。
【0038】
ここでL及びLはそれぞれ独立に、エテニレン基及び/又はエチニレン基からなる共役鎖を表す。エテニレン基が置換基を有する場合、該置換基はアルキル基であるのが好ましく、メチルであるのがより好ましい。L及びLはそれぞれ独立に、炭素原子数2〜6個の共役鎖であるのが好ましく、エテニレン、ブタジエニレン、エチニレン、ブタジイニレン、メチルエテニレン又はジメチルエテニレンがより好ましく、エテニレン又はブタジエニレンが特に好ましく、エテニレンが最も好ましい。LとLは同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。なお、共役鎖が炭素−炭素二重結合を含む場合、各二重結合はトランス体であってもシス体であってもよく、これらの混合物であってもよい。
d1およびd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表し、0〜3であることが好ましく、0〜1であることがより好ましい。d1およびd2によりその数が定義される上記連結基は複数ある場合、互いに異なっていても同じであってもよい。
【0039】
d3は0又は1である。
a1及びa2はそれぞれ独立に0又は1の整数を表す。
【0040】
b1及びb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、0〜2の整数であるのが好ましい。b1が2以上のとき、R103は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。b2が2以上のとき、R104は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。またb1及びb2がともに1以上のとき、R103とR104が連結して環を形成していてもよい。形成する環の好ましい例としては、ベンゼン環、ピリジン環、チオフェン環、ピロール環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環等が挙げられる。
【0041】
a1とa2の和が1以上であって、配位子LLが酸性基を少なくとも1個有するときは、一般式(1)中のm1は2又は3であるのが好ましく、2であるのがより好ましい。
【0042】
一般式(1)における配位子LLは、下記一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるものが好ましい。
【0043】
【化6】

【0044】
上記一般式(4−1)〜(4−3)中、R101〜R104、a1、a2、b1、b2及びd3は一般式(2)におけるものと同義である。
【0045】
一般式(4−2)中、R107は酸性基を表し、好ましくはカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基及びホスホニル基であり、より好ましくはカルボキシル基又はホスホリル基であり、特に好ましくはカルボキシル基である。
【0046】
一般式(4−2)中、R108は置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基又はアシルアミノ基(以上好ましい例は、一般式(2)における上記R103及びR104の場合と同様)であり、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基又はアシルアミノ基である。
【0047】
一般式(4−1)及び(4−2)中、R121〜R124はそれぞれ独立に、水素、アルキル基、アルケニル基又はアリール基を表す。R121〜R124の好ましい例は、一般式(2)における上記R103及びR104の好ましい例と同様である。R121〜R124はさらに好ましくは、アルキル基又はアリール基であり、より好ましくはアルキル基である。R121〜R124がアルキル基である場合はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としてはアルコキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基又はカルボンアミド基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。R121とR122ならびにR123とR124はそれぞれ互いに連結して環を形成していてもよい。形成する環としてはピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、又はモルホリン環等が好ましい。
【0048】
一般式(4−1)〜(4−3)中、R125、R126、R127及びR128はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基(以上好ましい例は上記一般式(2)におけるR103の場合と同様である。)又はヒドロキシル基であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基又はアシルアミノ基であり、特に好ましくはアルキル基、アルキニル基である。
【0049】
一般式(4−2)中、a3は0〜3の整数を表し、好ましくは0〜2の整数を表す。d3が0のときa3は1又は2であるのが好ましく、d3が1のときa3は0又は1であるのが好ましい。a3が2以上のときR107は同じでも異なっていてもよい。
【0050】
一般式(4−1)及び(4−2)中、d1及びd2はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。d1が1以上のときR125は、R121及びR122のどちらか一方又は両方と連結して環を形成していてもよい。形成される環はピペリジン環又はピロリジン環であるのが好ましい。d1が2以上のときR125は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。d2が1以上のときR126は、R123及びR124のどちらか一方又は両方と連結して環を形成していてもよい
形成される環はピペリジン環又はピロリジン環であるのが好ましい。d2が2以上のときR126は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0051】
(配位子LL
一般式(1)中、配位子LLは2座の配位子を表す。配位子LLの数を表すm2は0〜2の整数であり、0又は1であるのが好ましい。m2が2のとき配位子LLは同じでも異なっていてもよい。
【0052】
配位子LLは、下記一般式(3)で表される2座の配位子である。
【0053】
【化7】

一般式(3)中、Za、Zbはそれぞれ独立に、5員環又は6員環を形成しうる非金属原子群を表す。形成される5員環又は6員環は置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。ただし、一般式(3)で表される配位子がフェナントロリン構造を有するものであることはない。
【0054】
Za、Zbには、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子を有する5員環又は6員環であることが好ましく、5員環又は6員環には、水素原子やハロゲン原子を有していてもよい。Za、Zb又はZcは芳香族環であることが好ましい。5員環の場合はイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環又はトリアゾール環を形成するのが好ましく、6員環の場合はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環を形成するのが好ましい。なかでもイミダゾール環又はピリジン環がより好ましい。
【0055】
配位子LLは、下記一般式(3−1)〜(3−5)のいずれかにより表されるのが好ましく、一般式3−1、3−2、3−4により表されるのがより好ましく、一般式3−1、3−2により表されるのがより好ましく、一般式3−1により表されるのが特に好ましい。
【0056】
【化8】

なお、一般式(3−1)〜(3−5)中の置換基RXXXは図示の都合上1つの環上に置換したように描写しているが、その環上にあっても、または図示されたものとは異なる環状に置換していてもよい。
【0057】
一般式(3−1)〜(3−5)中、R151〜R155はそれぞれ独立に酸性基を表す。R151〜R155は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20のヒドロキサム酸基、例えば−CONHOH、−CONCHOH等)、ホスホリル基(例えば−OP(O)(OH)等)又はホスホニル基(例えば−P(O)(OH)等)を表す。R151〜R158は、好ましくはカルボキシル基、ホスホリル基又はホスホニル基等、さらに好ましくはカルボキシル基又はホスホニル基であり、より好ましくはカルボキシル基である。
【0058】
一般式(3−1)〜(3−5)中、R161〜R165はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、スルホンアミド基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子(以上好ましい例は、一般式(2)におけるR103及びR104の場合と同様)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基又はアシルアミノ基である。
【0059】
一般式(3−1)〜(3−5)中、R171、R172はそれぞれ独立に水素原子、脂肪族基、芳香族基、炭素原子で結合するヘテロ環基を表し。好ましくは、脂肪族基、芳香族基であり、より好ましくはカルボキシル基を有する脂肪族基である。配位子LLがアルキル基、アルケニル基等を含むとき、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。また、配位子LLがアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても無置換でもよい。
【0060】
一般式(3−1)〜(3−5)中、R15X〜R16Xは環上のどの位置に結合していてもよい。またe1〜e5はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、好ましくは1〜2の整数を表す。e9〜e11はそれぞれ独立に0〜6の整数を表し、e13、e14はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。e9〜e11、e13、e14はそれぞれ独立に0〜3の整数であるのが好ましい。
【0061】
e1〜e5が2以上のとき、R15Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、e9〜e11、e13、e14が2以上のとき、R15X、R16Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0062】
(配位子X)
一般式(1)中、配位子Xは1座又は2座の配位子を表す。配位子Xの数を表すm3は0〜3の整数を表し、m3は好ましくは1又は2である。配位子Xが1座の配位子のとき、m3は2であるのが好ましく、配位子Xが2座配位子のとき、m3は1であるのが好ましい。m3が2のとき、配位子Xは同じでも異なっていてもよく、配位子X同士が連結していてもよい。
【0063】
配位子Xは、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ、サリチル酸、グリシルオキシ、N,N−ジメチルグリシルオキシ、オキザリレン(−OC(O)C(O)O−)等)、アシルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルチオ基、例えば、アセチルチオ、ベンゾイルチオ等)、チオアシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオアシルオキシ基、例えば、チオアセチルオキシ基(CHC(S)O−)等))、チオアシルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオアシルチオ基、例えば、チオアセチルチオ(CHC(S)S−)、チオベンゾイルチオ(PhC(S)S−)等))、アシルアミノオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノオキシ基、例えば、N−メチルベンゾイルアミノオキシ(PhC(O)N(CH)O−)、アセチルアミノオキシ(CHC(O)NHO−)等))、チオカルバメート基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオカルバメート基、例えば、N,N−ジエチルチオカルバメート等)、ジチオカルバメート基(好ましくは炭素原子数1〜20のジチオカルバメート基、例えば、N−フェニルジチオカルバメート、N,N−ジメチルジチオカルバメート、N,N−ジエチルジチオカルバメート、N,N−ジベンジルジチオカルバメート等)、チオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20のチオカルボネート基、例えば、エチルチオカルボネート等)、ジチオカルボネート(好ましくは炭素原子数1〜20のジチオカルボネート、例えば、エチルジチオカルボネート(COC(S)S−)等)、トリチオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20のトリチオカルボネート基、例えば、エチルトリチオカルボネート(CSC(S)S−)等)、アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシル基、例えば、アセチル、ベンゾイル等)、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキルチオ基、例えばメタンチオ、エチレンジチオ等)、アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20のアリールチオ基、例えば、ベンゼンチオ、1,2−フェニレンジチオ等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えばメトキシ等)及びアリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20のアリールオキシ基、例えばフェノキシ、キノリン−8−ヒドロキシル等)からなる群から選ばれた基で配位された1座又は2座の配位子、もしくはハロゲン原子(好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、カルボニル(…CO)、ジアルキルケトン(好ましくは炭素原子数3〜20のジアルキルケトン、例えばアセトン((CHCO…)等)、1,3−ジケトン(好ましくは炭素原子数3〜20の1,3−ジケトン、例えば、アセチルアセトン(CHC(O…)CH=C(O−)CH)、トリフルオロアセチルアセトン(CFC(O…)CH=C(O−)CH)、ジピバロイルメタン(tCC(O…)CH=C(O−)t−C)、ジベンゾイルメタン(PhC(O…)CH=C(O−)Ph)、3−クロロアセチルアセトン(CHC(O…)CCl=C(O−)CH)等)、カルボンアミド(好ましくは炭素原子数1〜20のカルボンアミド、例えば、CHN=C(CH)O−、−OC(=NH)−C(=NH)O−等)、チオカルボンアミド(好ましくは炭素原子数1〜20のチオカルボンアミド、例えば、CHN=C(CH)S−等)、又はチオ尿素(好ましくは炭素原子数1〜20のチオ尿素、例えば、NH(…)=C(S−)NH、CHN(…)=C(S−)NHCH、(CHN−C(S…)N(CH等)からなる配位子を表す。なお、「…」は配位結合を示す。
【0064】
配位子Xは、好ましくはアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、1,3−ジケトン又はチオ尿素からなる配位子であり、より好ましくはアシルオキシ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基又はアリールチオ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、1,3−ジケトン又はチオ尿素からなる配位子であり、特に好ましくはジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基及びイソシアネート基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子又は1,3−ジケトンからなる配位子であり、最も好ましくは、ジチオカルバメート基、チオシアネート基及びイソチオシアネート基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいは1,3−ジケトンからなる配位子である。なお配位子Xがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基等を含む場合、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。またアリール基、ヘテロ環基、シクロアルキル基等を含む場合、それらは置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。
【0065】
配位子Xが2座配位子のとき、配位子Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいは1,3−ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、又はチオ尿素からなる配位子であるのが好ましい。配位子Xが1座配位子のとき、配位子Xはチオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、チオ尿素からなる配位子であるのが好ましい。
【0066】
(対イオンCI)
一般式(2)中のCIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。一般に、色素が陽イオン又は陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を有するかどうかは、色素中の金属、配位子及び置換基に依存する。
【0067】
置換基が解離性基を有することなどにより、一般式(2)の色素は解離して負電荷を持ってもよい。この場合、一般式(2)の色素全体の電荷は対イオンCIにより電気的に中性とされる。
【0068】
対イオンCIが正の対イオンの場合、例えば、対イオンCIは、無機又は有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)、アルカリ金属イオン又はプロトンである。
【0069】
対イオンCIが負の対イオンの場合、例えば、対イオンCIは、無機陰イオンでも有機陰イオンでもよい。例えば、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、置換アリールスルホン酸イオン(例えばp−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン等)、アリールジスルホン酸イオン(例えば1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオン等)、アルキル硫酸イオン(例えばメチル硫酸イオン等)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が挙げられる。さらに電荷均衡対イオンとして、イオン性ポリマーあるいは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよく、金属錯イオン(例えばビスベンゼン−1,2−ジチオラトニッケル(III)等)も使用可能である。
【0070】
(結合基)
一般式(1)で表される構造を有する色素は、半導体微粒子の表面に対する適当な結合基(interlocking group)を少なくとも1つ以上有するのが好ましい。この結合基を色素中に1〜6個有するのがより好ましく、1〜4個有するのが特に好ましい。カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(例えば−CONHOH等)、ホスホリル基(例えば−OP(O)(OH)等)、ホスホニル基(例えば−P(O)(OH)等)等の酸性基(解離性のプロトンを有する置換基)を色素中に有することが好ましい。
【0071】
一般式(1)で表される色素は、溶液中における極大吸収波長が500〜700nmの範囲であることが好ましく、500〜650nmの範囲であることがより好ましい。
【0072】
一般式(1)で表される色素は、特開2001−291534号公報を参考に、従来の方法で調製することができる。
【0073】
本発明で用いる一般式(1)で表される構造を有する色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記具体例における色素がプロトン解離性基を有する配位子を含む場合、該配位子は必要に応じて解離しプロトンを放出してもよい。
【0074】
【化9】

【0075】
【化10】

【0076】
[光電変換素子]
光電変換素子の好ましい実施態様を、図1の模式的断面図を参照して説明する。
図1に示すように、光電変換素子10は、導電性支持体1、導電性支持体1上にその順序で配された、感光体層2、電荷移動体層3、及び対極4からなる。上記導電性支持体1と感光体層2とにより受光電極5を構成している。その感光体層2は半導体微粒子22と増感色素(以下、単に、色素ともいう。)21とを有している。増感色素21はその少なくとも一部において半導体微粒子22に吸着している(増感色素21は吸着平衡状態になっており、一部電荷移動体層3に存在していてもよい。)。電荷移動体層3は、例えば正孔(ホール)を輸送する正孔輸送層として機能する。感光体層2が形成された導電性支持体1は、光電変換素子10において作用電極として機能する。この光電変換素子10を外部回路6で仕事をさせるようにして、光電気化学電池100として作動させることができる。
【0077】
上記受光電極5は、導電性支持体1及び導電性支持体1上に塗設される増感色素21の吸着した半導体微粒子22の感光体層2(半導体膜)よりなる電極である。感光体層2(半導体膜)に入射した光は色素を励起する。励起色素はエネルギーの高い電子を有している。そこでこの電子が増感色素21から半導体微粒子22の伝導帯に渡され、さらに拡散によって導電性支持体1に到達する。このとき増感色素21の分子は酸化体となっている。電極上の電子が外部回路6で仕事をしながら酸化体に戻ることにより、光電気化学電池100として作用する。この際、受光電極5はこの電池の負極として働く。
【0078】
上記感光体層2は、後述の色素が吸着された半導体微粒子22の層からなる多孔質半導体層で構成されている。この色素は一部電解質中に解離したもの等があってもよい。感光体層2は目的に応じて設計され、多層構造からなる。
【0079】
上述したように感光体層2には、特定の色素が吸着した半導体微粒子22を含むことから、受光感度が高く、光電気化学電池100として使用する場合に、高い光電変換効率を得ることができ、さらに高い耐久性を有する。
【0080】
(電荷移動体)
本発明の光電変換素子10に用いられる電解質組成物には、酸化還元対として、例えばヨウ素とヨウ化物(例えばヨウ化リチウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム等)との組み合わせ、アルキルビオローゲン(例えばメチルビオローゲンクロリド、ヘキシルビオローゲンブロミド、ベンジルビオローゲンテトラフルオロボレート)とその還元体との組み合わせ、ポリヒドロキシベンゼン類(例えばハイドロキノン、ナフトハイドロキノン等)とその酸化体との組み合わせ、2価と3価の鉄錯体(例えば赤血塩と黄血塩)の組み合わせ等が挙げられる。これらのうちヨウ素とヨウ化物との組み合わせが好ましい。
【0081】
ヨウ素塩のカチオンは5員環又は6員環の含窒素芳香族カチオンであるのが好ましい。特に、一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩でない場合は、再公表WO95/18456号公報、特開平8−259543号公報、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等のヨウ素塩を併用するのが好ましい。
【0082】
本発明の光電変換素子10に使用される電解質組成物中には、ヘテロ環4級塩化合物と共にヨウ素を含有するのが好ましい。ヨウ素の含有量は電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0083】
本発明の光電変換素子10に用いられる電解質組成物は溶媒を含んでいてもよい。電解質組成物中の溶媒含有量は組成物全体の50質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以下であるのが特に好ましい。
【0084】
溶媒としては低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めることができるか、又はその両方であるために優れたイオン伝導性を発現できるものが好ましい。このような溶媒としてカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン等)、エーテル化合物(ジオキサン、ジエチルエーテル等)、鎖状エーテル類(エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ビスシアノエチルエーテル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等、ラクトン・スルトン・スルチン等の環状エステル類)、非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルフォラン等)、水、特開2002−110262記載の含水電解液、特開2000−36332号公報、特開2000−243134号公報、及び再公表WO/00−54361号公報記載の電解質溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は二種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
また、本発明の電解質としては、正孔導体物質を含む電荷輸送層を用いても良い。正孔導体物質として、9,9’−スピロビフルオレン誘導体などを用いることができる。
【0086】
また、電極層、感光体層(光電変換層)、電荷移動体層(ホール輸送層)、伝導層、対極層を順次に積層することができる。p型半導体として機能するホール輸送材料をホール輸送層として用いることができる。好ましいホール輸送層としては、例えば無機系又は有機系のホール輸送材料を用いることができる。無機系ホール輸送材料としては、CuI、CuO,NiO等が挙げられる。また、有機系ホール輸送材料としては、高分子系と低分子系のものが挙げられ、高分子系のものとしては、例えばポリビニルカルバゾール、ポリアミン、有機ポリシラン等が挙げられる。また、低分子系のものとしては、例えばトリフェニルアミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、フェナミン誘導体等が挙げられる。この中でも有機ポリシランは、従来の炭素系高分子と異なり、主鎖のSiに沿って非局化されたσ電子が光伝導に寄与し、高いホール移動度を有するため、好ましい(Phys. Rev. B, 35, 2818(1987))。
【0087】
(導電性支持体)
図1に示すように、本発明の光電変換素子には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子の分散液を導電性支持体に塗布・乾燥後、本発明の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。
【0088】
導電性支持体1としては、金属のように支持体そのものに導電性があるものか、又は表面に導電膜層を有するガラスや高分子材料を使用することができる。導電性支持体1は実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、80%以上が特に好ましい。導電性支持体1としては、ガラスや高分子材料に導電性の金属酸化物を塗設したものを使用することができる。このときの導電性の金属酸化物の塗布量は、ガラスや高分子材料の支持体1m2当たり、0.1〜100gが好ましい。透明導電性支持体を用いる場合、光は支持体側から入射させることが好ましい。好ましく使用される高分子材料の一例として、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等を挙げることができる。導電性支持体1上には、表面に光マネージメント機能を施してもよく、例えば、特開2003−123859記載の高屈折膜及び低屈性率の酸化物膜を交互に積層した反射防止膜、特開2002−260746記載のライトガイド機能が上げられる。
【0089】
この他にも、金属支持体も好ましく使用することができる。その一例としては、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、金、銀を挙げることができる。これらの金属は合金であってもよい。さらに好ましくは、チタン、アルミニウム、銅が好ましく、特に好ましくは、チタンやアルミニウムである。
【0090】
(半導体微粒子)
図1に示すように、本発明の光電変換素子10には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子22の分散液を前記導電性支持体1に塗布・乾燥後、上述の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。
【0091】
半導体微粒子22としては、好ましくは金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)又はペロブスカイトの微粒子が用いられる。金属のカルコゲニドとしては、好ましくはチタン、スズ、亜鉛、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、もしくはタンタルの酸化物、硫化カドミウム、セレン化カドミウム等が挙げられる。ペロブスカイトとしては、好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム等が挙げられる。これらのうち酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステンが特に好ましい。
【0092】
半導体には伝導に関わるキャリアーが電子であるn型とキャリアーが正孔であるp型が存在するが、本発明の素子ではn型を用いることが変換効率の点で好ましい。n型半導体には、不純物準位をもたず伝導帯電子と価電子帯正孔によるキャリアーの濃度が等しい固有半導体(例えば真性半導体)の他に、不純物に由来する構造欠陥により電子キャリアー濃度の高いn型半導体が存在する。本発明で好ましく用いられるn型の無機半導体は、TiO、TiSrO、ZnO、Nb、SnO、WO、Si、CdS、CdSe、V、ZnS、ZnSe、SnSe、KTaO、FeS、PbS、InP、GaAs、CuInS、CuInSeなどである。これらのうち最も好ましいn型半導体はTiO、ZnO、SnO、WO、ならびにNbである。また、これらの半導体の複数を複合させた半導体材料も好ましく用いられる。
【0093】
半導体微粒子22の粒径は、半導体微粒子分散液の粘度を高く保つ目的で、一次粒子の平均粒径が2nm以上50nm以下であることが好ましく、また一次粒子の平均粒径が2nm以上30nm以下の超微粒子であることがより好ましい。粒径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよく、この場合小さい粒子の平均サイズは5nm以下であるのが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、上記の超微粒子に対して平均粒径が50nmを越える大きな粒子を、低含率で添加、又は別層塗布することもできる。この場合、大粒子の含率は、平均粒径が50nm以下の粒子の質量の50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。上記の目的で添加混合する大粒子の平均粒径は、100nm以上が好ましく、250nm以上がより好ましい。上記のように平均粒径を制御することでヘイズ率を60%以上とすることができる。
【0094】
(半導体微粒子分散液)
本発明においては、半導体微粒子以外の固形分の含量が、半導体微粒子分散液全体の10質量%以下よりなる半導体微粒子分散液を前記導電性支持体1に塗布し、適度に加熱することにより、多孔質半導体微粒子塗布層を得ることができる。
【0095】
半導体微粒子分散液を作製する方法としては、前述のゾル・ゲル法の他に、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法、微粒子に超音波などを照射して超微粒子に粉砕する方法、又はミルや乳鉢などを使って機械的に粉砕しすり潰す方法、等が挙げられる。分散溶媒としては、水及び各種の有機溶媒のうちの一つ以上を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,シトロネロール,ターピネオールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0096】
半導体微粒子層全体の好ましい厚さは0.1μm〜100μmである。半導体微粒子層の厚さはさらに1μm〜30μmが好ましく、2μm〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m当りの担持量は0.5g〜400gが好ましく、5g〜100gがより好ましい。なお、上記微粒子分散液を塗布して製膜する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜適用すればよい。
【0097】
なお、半導体微粒子22の支持体1m当たりの塗布量は0.5g〜500g、さらには5g〜100gが好ましい。
【0098】
半導体微粒子22に増感色素21を吸着させるには、溶液と本発明にかかる色素よりなる色素吸着用色素溶液の中に、よく乾燥した半導体微粒子22を長時間浸漬するのが好ましい。色素吸着用色素溶液に使用される溶液は、本発明にかかる増感色素21が溶解できる溶液なら特に制限なく使用することができる。例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、t-ブタノール、アセトニトリル、アセトン、n−ブタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを使用することができる。その中でも、エタノール、トルエンを好ましく使用することができる。
【0099】
増感色素21の使用量は、全体で、支持体1m当たり0.01ミリモル〜100ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1ミリモル〜50ミリモル、特に好ましくは0.1ミリモル〜10ミリモルである。この場合、本発明にかかる増感色素21の使用量は5モル%以上とすることが好ましい。
【0100】
また、増感色素21の半導体微粒子22に対する吸着量は半導体微粒子1gに対して0.001ミリモル〜1ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5ミリモルである。
【0101】
このような色素量とすることによって、半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素量が少ないと増感効果が不十分となり、色素量が多すぎると、半導体に付着していない色素が浮遊し増感効果を低減させる原因となる。
【0102】
対極4は、光電気化学電池の正極として働くものである。対極4は、通常前述の導電性支持体1と同義であるが、強度が十分に保たれるような構成では対極の支持体は必ずしも必要でない。ただし、支持体を有する方が密閉性の点で有利である。対極4の材料としては、白金、カーボン、導電性ポリマー、などがあげられる。好ましい例としては、白金、カーボン、導電性ポリマーが挙げられる。
【0103】
対極4の構造としては、集電効果が高い構造が好ましい。好ましい例としては、特開平10−505192号公報などが挙げられる。
【0104】
受光電極5は、入射光の利用率を高めるなどのためにタンデム型にしても良い。好ましいタンデム型の構成例としては、特開2000−90989、特開2002−90989号公報等に記載の例が挙げられる。
【0105】
受光電極5の層内部で光散乱、反射を効率的に行う光マネージメント機能を設けてもよい。好ましくは、特開2002−93476号公報に記載のものが挙げられる。
【0106】
導電性支持体1と多孔質半導体微粒子層の間には、電解液と電極が直接接触することによる逆電流を防止する為、短絡防止層を形成することが好ましい。好ましい例としては、特開平06−507999号公報等が挙げられる。
【0107】
受光電極5と対極4の接触を防ぐ為に、スペーサーやセパレータを用いることが好ましい。好ましい例としては、特開2001−283941号公報が挙げられる。
【0108】
セル、モジュールの封止法としては、ポリイソブチレン系熱硬化樹脂、ノボラック樹脂、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂、ガラスフリット、アルミナにアルミニウムアルコキシドを用いる方法、低融点ガラスペーストをレーザー溶融する方法などが好ましい。ガラスフリットを用いる場合、粉末ガラスをバインダーとなるアクリル樹脂に混合したものでもよい。
【実施例】
【0109】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
<実施例1−1>
4,4’−ビス{2−[5−(1−ヘプチニル)−2−チエニル]ビニル}−2,2’−ビピリジン(1.38g、2.45mmol)とジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)二量体(0.747g、1.22mmol)のDMF100ml溶液をマイクロ波(200W)、窒素暗雰囲気下、60℃で10分間加熱した。続いて2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(0.6g、2.46mmol)および塩基種:酢酸ナトリウム無水和物(1g、12.19mmol)を添加し、150℃で10分間加熱した。温度を100℃に冷却し、チオシアン酸アンモニウム(8g)を加え、120℃で10分間反応させた。温度を室温まで下げ、DMFを真空留去した。水500mlを残留物に添加し、30分間浸漬した。不溶物を集め、水とジエチルエーテルで洗浄した。粗生成物をTBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノールに溶解し、メタノールを流出液として、SephadexLH−20(商品名、Pharmacia Fine Chemicals社製)のカラムで精製した。主層の生成物を回収濃縮し、硝酸0.2Mを添加して沈殿物を得た。この生成物を集め、室温で真空乾燥後、一般式(1)で表される構造を有する前記例示色素Ru−7(1.46g、収率=47.4%、HPLC純度=98.6area%)を得た。
【0111】
【化B】

【0112】
<実施例1−2>
4,4’−ビス{2−[5−(1−ヘプチニル)−2−チエニル]ビニル}−2,2’−ビピリジン(1.38g、2.45mmol)とジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)二量体(0.747g、1.22mmol)のDMF100ml溶液をマイクロ波(200W)、窒素暗雰囲気下、60℃で10分間加熱した。続いて2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(0.6g、2.46mmol)および塩基種:水酸化ナトリウム(0.197g、4.92mmol)を添加し、150℃で10分間加熱した。温度を100℃に冷却し、チオシアン酸アンモニウム(8g)を加え、120℃で10分間反応させた。温度を室温まで下げ、DMFを真空留去した水500mlを残留物に添加し、30分間浸漬した。不溶物を集め、水とジエチルエーテルで洗浄した。粗生成物をTBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノールに溶解し、メタノールを流出液として、SephadexLH−20(商品名、Pharmacia Fine Chemicals社製)のカラムで精製した。主層の生成物を回収濃縮し、硝酸0.2Mを添加して沈殿物を得た。この生成物を集め、室温で真空乾燥後、一般式(1)で表される構造を有する前記例示色素Ru−7(1.24g、収率=40.3%、HPLC純度=98.2area%)を得た。
塩基種を変えた以外同様にして行った実施例を下記表1にまとめて記載する。
【0113】
【化C】

【0114】
<実施例2−1>
黄色灯下、4,4’−ビス(5−ヘキシル−2−チエニル)−2,2’−ビピリジン(0.865g、1.77mmol)と六塩化オスミウム二アンモニウム(0.384g、0.87mmol)をエチレングリコー20ml溶解し、窒素雰囲気下170℃で3時間攪拌をした。その後室温まで冷却し、次亜硫酸ナトリウム(0.4g、2.2mmol)の水溶液20mlを加えて攪拌を行った。 析出した沈殿物をろ別し、水およびジエチルエーテルで良く洗浄後、遮光下、真空乾燥を行った(オスミウムジクロロ体、0.75g)。
遮光・窒素雰囲気下、エタノール30ml中にトリエチルアミン(0.269g、2.65mmol)と、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(0.213g、0.87mmol)、オスミウムジクロロ体(0.939g、0.74mmol)を添加し、6時間加熱還流を行った。ヘキサフルオロ燐酸アンモニウム(0.3g、1.8mmol)を水5mlに溶解した溶液を添加して冷却した。その後、エタノールを減圧留去し、0.25Mヘキサフルオロ燐酸を加えて系内のpHを2以下とし、0℃で20時間静置した。析出した結晶をろ別し、ヘキサフルオロ燐酸でpH1.5に調整した水溶液およびジエチルエーテルで洗浄した。粗生成物をTBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノールに溶解し、メタノールを流出液として、SephadexLH−20(商品名、Pharmacia Fine Chemicals社製)のカラムで精製した。主層の生成物を回収濃縮し、硝酸0.2Mを添加して沈殿物を得た。この生成物を集め、室温で真空乾燥後、一般式(1)で表される構造を有する前記例示色素Os−2(0.527g、収率=40.1%、HPLC純度=97.2area%)を得た。
【0115】
【化11】

【0116】
<比較例1>
4,4’−ビス{2−[5−(1−ヘプチニル)−2−チエニル]ビニル}−2,2’−ビピリジン(1.38g、2.45mmol)とジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)二量体(0.747g、1.22mmol)のDMF100ml溶液をマイクロ波(200W)、窒素暗雰囲気下、60℃で10分間加熱した。続いて2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(0.6g、2.46mmol)を添加し、150℃で10分間加熱した。温度を100℃に冷却し、チオシアン酸アンモニウム(8g)を加え、120℃で10分間反応させた。温度を室温まで下げ、DMFを真空留去した。水500mlを残留物に添加し、30分間浸漬した。不溶物を集め、水とジエチルエーテルで洗浄した。粗生成物をTBAOH(水酸化テトラブチルアンモニウム)と共にメタノールに溶解し、メタノールを流出液として、SephadexLH−20(商品名、Pharmacia Fine Chemicals社製)のカラムで精製した。主層の生成物を回収濃縮し、硝酸0.2Mを添加して沈殿物を得た。この生成物を集め、室温で真空乾燥後、一般式(1)で表される構造を有する前記例示色素Ru−7(1.02g、収率=33.1%、HPLC純度=88.3area%)を得た。
【0117】
<副生物の同定>
実施例1−1における副生物:Ru(LL1)(LL2)(CH3COO)(NCS)(ここで、LL1は4,4’−ビス{2−[5−(1−ヘプチニル)−2−チエニル]ビニル}−2,2’−ビピリジン、LL2は2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸を表す。)についてHPLC/MSにより確認した。その結果は下記のとおりであった。
Mass実測値(m/z) ; M:1023.1735/
Mass計算値(m/z) ; M:1023.1732(C51H47N5O6RuS3
この結果より、反応で添加した塩基を配位子として含む化合物を含有する金属錯体組成物であることが分かる。
【0118】
<電池特性の評価>
1.二酸化チタン分散液の調製
内側をフッ素樹脂コーティングした内容積200mlのステンレス製容器に二酸化チタン微粒子(日本アエロジル(株)製,Degussa P−25)15g、水45g、分散剤(アルドリッチ社製、Triron X−100)1g、直径0.5mmのジルコニアビーズ(ニッカトー社製)30gを入れ、サンドグラインダーミル(アイメックス社製)を用いて1500rpmで2時間分散処理した。得られた分散液からジルコニアビーズを濾別した。得られた分散液中の二酸化チタン微粒子の平均粒径は2.5μmであった。なお粒径はMALVERN社製のマスターサイザー(商品名)により測定した。
【0119】
2.色素を吸着した酸化チタン微粒子層(電極A)の作製
フッ素をドープした酸化スズを被覆した20mm×20mmの導電性ガラス板(旭ガラス(株)製,TCOガラス−U,表面抵抗:約30Ω/m)を準備し、その導電層側の両端(端から3mmの幅の部分)にスペーサー用粘着テープを張った後で、導電層上にガラス棒を用いて上記分散液を塗布した。分散液の塗布後、粘着テープを剥離し、室温で1日間風乾した。次にこの半導体塗布ガラス板を電気炉(ヤマト科学(株)製マッフル炉FP−32型)に入れ、450℃で30分間焼成した。半導体塗布ガラス板を取り出し冷却した後、表1に示す塩基種を用いて作製した色素のエタノール溶液(濃度:3×10−4mol/L)に40℃で3時間浸漬した。色素が吸着した半導体塗布ガラス板を4−tert−ブチルピリジンに15分間浸漬した後、エタノールで洗浄し、自然乾燥させて、色素を吸着した酸化チタン微粒子層(電極A)を得た。電極Aの色素増感酸化チタン微粒子層の厚さは10μmであり、酸化チタン微粒子の塗布量は20g/mであった。また色素の吸着量は、その種類に応じて0.1〜10mmol/mの範囲内であった。
【0120】
3.色素増感太陽電池の作製
上述のように作製した色素増感電極A(20mm×20mm)をこれと同じ大きさの白金蒸着ガラスと重ね合わせた。次に、両ガラスの隙間に毛細管現象を利用して電解質組成物を染み込ませ、電解質を酸化チタン電極中に導入した。これにより、図1に示すように、導電性ガラスからなる導電性支持体1(ガラスの透明基板上に導電層が設層されたもの)、感光体2、電荷移動体3、白金からなる対極4及びガラスの透明基板(図示せず)を順に積層し、エピコート828((商品名)、ジャパンエポキシレジン社製)、硬化剤及びプラスチックペーストからなる樹脂組成物中に直径25μmのガラス球体がほぼ均一に分散された封止剤
で封止した色素増感太陽電池を作製した。ただし、電解質組成物の粘度が高く毛細管現象を利用して電解質組成物を染み込ませることが困難な場合は、電解質組成物を50℃に加温し、これを酸化チタン電極に塗布した後、この電極を減圧下に置き電解質組成物が十分浸透し電極中の空気が抜けた後、白金蒸着ガラス(対極)を重ね合わせて同様に色素増感太陽電池を作製した。
【0121】
色素を変更して上述の工程を行い、色素増感太陽電池を作製した。各色素増感太陽電池に用いた電解質組成物としては、下記のヘテロ環4級塩化合物を98質量%及びヨウ素を2質量%含有するものを用いた。
【化12】

【0122】
4.光電変換効率の測定
500Wのキセノンランプ(ウシオ電気(株)製)の光をAM1.5フィルター(Oriel社製)及びシャープカットフィルター(Kenko L−37)を通すことにより紫外線を含まない模擬太陽光を発生させた。この光の強度は70mW/cmであった。この模擬太陽光を、50℃で色素増感太陽電池に照射し、発生した電気を電流電圧測定装置(ケースレーSMU238型)で測定した。また、85℃で1000時間暗所保存後の変換効率の低下率も測定した。これらの結果を表1に示す。
なお、電池特性のFresh性能は、6%以上のものを◎、5%以上6%未満のものを○、3%以上5%未満のものを△、3%未満のものを×として評価した。暗所保存後の変換効率の低下率は、15%未満のものを◎、15%以上25%未満のものを○、25%以上35%未満のものを△、35%以上のものを×として評価した。
【0123】
【表1】

【0124】
以上の結果より、本発明の製造方法によれば、収率及び純度良く目的の金属錯体化合物を得ることができる。そして、その調製原料を光電変換素子用色材として用いたとき、電池特性において極めて良好な性能を発揮することが分かる。
【符号の説明】
【0125】
1 導電性支持体
2 感光体層
21 増感色素
22 半導体微粒子
3 電荷移動体層
4 対極
5 受光電極
6 外部回路
10 光電変換素子
100 光電気化学電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される金属錯体の製造において、LL及びLLのうち酸性基を含む配位子を導入する工程以降で、共役酸のpKaが3以上の塩基を添加することを特徴とする金属錯体の製造方法。

M(LLm1(LLm2(X)m3・CI ・・・(1)

・Mは金属原子を表し、
・LLは下記一般式(2)で表わされるにより表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表わされるにより表される2座の配位子であり、LLとLLは異なる構造を表し、LL及びLLの少なくとも一方は酸性基を有し、
・Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3−ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、またはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
・m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m3は0〜3の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
・CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【化1】

(R101およびR102はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R103およびR104はそれぞれ独立に置換基を表し、R105およびR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基および/またはヘテロ環基を表し、LおよびLはそれぞれ独立にエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表し、a1およびa2はそれぞれ独立に0又は1の整数を表し、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR103は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR104は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b1およびb2が共に1以上のときR103とR104が連結して環を形成してもよく、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表し、d3は0または1を表す。)
【化2】

(Za、Zbはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表す。)
【請求項2】
前記LL及びLLの一方を導入する第1工程、LL及びLLのうち他方の酸性基を含む配位子を導入する第2工程を含み、該第2工程で前記塩基を添加することを特徴とする請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項3】
前記塩基は水を実質的に含有しないかもしくは水を系内で生成しないものであることを特徴とする請求項1又は2記載の金属錯体の製造方法。
【請求項4】
前記塩基がηCH3Iにおいて6.7以下のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(3)で表わされる配位子が酸性基を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項6】
前記LLを第1工程で導入し、前記LLを第2工程で導入することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の工程を経て金属錯体を含有する組成物を調製し、この成分を精製せずに適用することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(4)で表わされる化合物とを含有する金属錯体組成物。

M(LLm1(LLm2(X)m3・CI ・・・(1)
M(LLm1(LLm2(Y)(Y)・CI ・・・(4)

・Mは金属原子を表し、
・LLは下記一般式(2)で表わされるにより表される2座の配位子であり、LLは下記一般式(3)で表わされるにより表される2座の配位子であり、LLとLLは異なる構造を表し、LL及びLLの少なくとも一方は酸性基を有し、
・Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3−ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、またはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
・m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m2は1又は2の整数を表し、m2が2のときLLは同じでも異なっていてもよく、
・m3は0〜3の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
・CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【化3】

(R101およびR102はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R103およびR104はそれぞれ独立に置換基を表し、R105およびR106はそれぞれ独立にアルキル基、アリール基および/またはヘテロ環基を表し、LおよびLはそれぞれ独立にエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表し、a1およびa2はそれぞれ独立に0又は1の整数を表し、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR103は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR104は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b1およびb2が共に1以上のときR103とR104が連結して環を形成してもよく、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜5の整数を表し、d3は0または1を表す。)
【化4】

(Za、Zbはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表す。)
(Yは塩基の共役酸をH−AとするときのAを表す。YはYと同一もしくは、Xと同一である。)
【請求項9】
請求項8に記載の前記金属錯体組成物に含まれる前記一般式(1)で表わされる化合物及び前記一般式(4)で表わされる化合物を増感色素として適用した光電変換素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−188401(P2012−188401A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54306(P2011−54306)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】