説明

金属錯体及びその製造方法

【課題】 優れたガス分離性能を有する金属錯体を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I);


(式中、R、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子を示し、XはXは共鳴効果で電子供与性を示す置換基を示す。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体によって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、特定のジカルボン酸化合物と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。また、本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、高分子金属錯体が開発されている(非特許文献2参照)。高分子金属錯体は、(1)広い表面積と高い空隙率、(2)高い設計性、(3)外部刺激による動的構造変化、といった特徴を有しており、既存の吸着材にはない吸着特性が期待される。
【0005】
高分子金属錯体を吸蔵材や分離材に適用した例として、イソフタル酸誘導体、2,7−ナフタレンジカルボン酸誘導体または4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸誘導体と金属イオンと該金属イオンに二座配位可能な有機配位子から構成される高分子金属錯体が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、吸着材や吸蔵材としての利用を考えた場合、吸着量の増加が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−247884公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】竹内雍監修、「最新吸着技術便覧」第1版、エヌ・ティー・エス、84−163頁(1999年)
【非特許文献2】S.Kitagawa、Bulletin of Japan Society of Coordination Chemistry、第51巻、13−19頁(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れたガス吸着特性を有する吸着材、従来よりも有効吸蔵量が大きいガス吸蔵材として使用することができる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討し、特定のジカルボン酸化合物と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛及びカドミウムから選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)下記一般式(I);
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子を示し、Xは共鳴効果で電子供与性を示す置換基を示す。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、Mはクロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属イオンを示し、Aはジカルボン酸化合物(I)を示し、Bは二座配位可能な有機配位子を示す)で表される金属錯体。
(2)ジカルボン酸化合物(I)が5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸である(1)記載の金属錯体。
(3)該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である(1)〜(2)記載の金属錯体。
(4)該金属が亜鉛である(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体。
(5)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
(6)該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である(5)記載の吸着材。
(7)(1)〜(4)いずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
(8)該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である(7)記載の吸蔵材。
(9)ジカルボン酸化合物(I)と、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、特定のジカルボン酸化合物と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体を提供することができる。
【0017】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として使用することができる。
【0018】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材としても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図2】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】比較合成例1で得た金属錯体の結晶構造である。
【図4】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】比較合成例2で得た金属錯体の結晶構造である。
【図6】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図7】合成例1、比較合成例1、比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸着等温線を容量法により測定した結果である。
【図8】合成例1、比較合成例1、比較合成例2で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸着等温線を容量法により測定した結果である。
【図9】合成例1、比較合成例1、比較合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素の273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図10】合成例1、比較合成例1、比較合成例2で得た金属錯体について、メタンの273Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に用いる金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる。
【0021】
金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)と、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩及び亜鉛塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ジカルボン酸化合物(I)及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより得ることができる。
【0022】
本発明に用いられるジカルボン酸化合物(I)は下記一般式(I);
【0023】
【化3】

【0024】
で表される。式中、R、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子を示し、Xは共鳴効果で電子供与性を示す置換基を示す。
【0025】
上記アルキル基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。該アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0026】
上記置換基Xとしては、アミノ基、アミド基、アルコキシ基、アルキルチオ基またはハロゲン原子が挙げられる。アミノ基の例としては、アミノ基(NH)、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基が、アミド基の例としては、アセチルアミノ基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。
【0027】
ジカルボン酸化合物(I)としては、5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸が好ましい。
【0028】
ジカルボン酸化合物と二座配位可能な有機配位子との混合比率は、ジカルボン酸化合物:二座配位可能な有機配位子=1:5〜8:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜6:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0029】
金属塩と二座配位可能な有機配位子の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0030】
ジカルボン酸化合物のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0031】
二座配位可能な有機配位子のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0032】
金属塩としては、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩から選択される金属塩を使用することができ、マンガン塩、ニッケル塩、銅塩、亜鉛塩、カドミウム塩が好ましい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機酸塩を使用することができる。金属塩のモル濃度は、0.01〜5.0mol/Lが好ましく、0.05〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0033】
溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0034】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0035】
以上のようにして得られる本発明の金属錯体は、ジカルボン酸化合物(I)の置換基Xが細孔内部に露出した構造をとる。その結果、細孔表面の電荷密度が向上し、優れた吸着特性を示す。
【0036】
前記の吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0038】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの吸蔵性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを吸蔵するための吸蔵材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0040】
(1)単結晶X線結晶構造解析
得られた単結晶をゴニオヘッドにマウントし、単結晶X線回折装置を用いて測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製R−AXIS RAPID II
X線源:MoKα(λ=0.71073Å) 40kV 30mA
集光ミラー:VariMax
検出器:イメージングプレート
コリメータ:Φ0.8mm
解析ソフト:CrystalStructure 3.8
【0041】
(2)粉末X線回折パターンの測定
粉末X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=2〜50°の範囲を走査速度1°/分で走査し、対称反射法で測定した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:株式会社リガク製RINT2400
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 200mA
ゴニオメーター:縦型ゴニオメーター
検出器:シンチレーションカウンター
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.5°
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5°
【0042】
(3)吸脱着等温線の測定
高圧ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、50Paで10時間乾燥し、吸着水などを除去した。測定条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−HP
平衡待ち時間:500秒
【0043】
合成例1:
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸3.54g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、亜鉛:5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸:4,4’−ビピリジル=2:2:1であった。また、結晶構造を図1に示す。図1より、本錯体はc軸方向(紙面に垂直)に対して一次元細孔を有しており、N,N−ジメチルアミノ基が細孔内部に露出した構造をとっていることが分かる。
Tetragonal(I4mm)
a=32.6334(8)Å
b=32.6334(8)Å
c=9.2110(7)Å
α=90.000°
β=90.000°
γ=90.000°
V=9809.1(8)Å
Z=8
R=0.1244
Rw=0.3692
吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体5.19g(収率88%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0044】
比較合成例1:
窒素雰囲気下、硝酸カドミウム四水和物5.18g(17mmol)、5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸3.54g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、カドミウム:5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸:4,4’−ビピリジル=1:1:1であった。また、結晶構造を図3に示す。図3より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
Triclinic(P−1)
a=9.29(5)Å
b=10.06(6)Å
c=10.38(3)Å
α=77.1(4)°
β=71.0(3)°
γ=80.7(4)°
V=889(7)Å
Z=2
R=0.2017
Rw=0.4739
吸引濾過の後、エタノールで3回洗浄し、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.25g(収率81%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0045】
比較合成例2:
窒素雰囲気下、硝酸亜鉛六水和物5.00g(17mmol)、イソフタル酸2.80g(17mmol)及び4,4’−ビピリジル2.65g(17mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド200mLに溶解させ、393Kで24時間攪拌した。得られた結晶について、単結晶X線構造解析を行った結果を以下に示す。本錯体の骨格の組成は、亜鉛:イソフタル酸:4,4’−ビピリジル=1:1:1であった。また、結晶構造を図5に示す。図5より、本錯体はインターデジテイト型構造を形成していることが分かる。
Monoclinic(P2/c)
a=10.082(5)Å
b=11.384(5)Å
c=15.744(8)Å
α=90.00°
β=103.917(8)°
γ=90.00°
V=1753.9(14)Å
Z=2
R=0.0600
Rw=0.1368
吸引濾過の後、373K、50Paで8時間乾燥し、目的の金属錯体6.35g(収率98%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0046】
実施例1:
合成例1で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸着等温線を測定した。結果を図7に示す。
【0047】
比較例1:
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸着等温線を測定した。結果を図7に示す。
【0048】
比較例2:
比較合成例2で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸着等温線を測定した。結果を図7に示す。
【0049】
図7より、本発明の金属錯体が二酸化炭素の吸着材として優れていることは明らかである。
【0050】
実施例2:
合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸着等温線を測定した。結果を図8に示す。
【0051】
比較例3:
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸着等温線を測定した。結果を図8に示す。
【0052】
比較例4:
比較合成例2で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸着等温線を測定した。結果を図8に示す。
【0053】
図8より、本発明の金属錯体がメタンの吸着材として優れていることは明らかである。
【0054】
実施例3:
合成例1で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線を測定した。結果を図9に示す。
【0055】
比較例5:
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線を測定した。結果を図9に示す。
【0056】
比較例6:
比較合成例2で得た金属錯体について、273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線を測定した。結果を図9に示す。
【0057】
図9より、本発明の金属錯体が二酸化炭素の吸蔵材として優れていることは明らかである。
【0058】
実施例4:
合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0059】
比較例7:
比較合成例1で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0060】
比較例8:
比較合成例2で得た金属錯体について、273Kにおけるメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0061】
図10より、本発明の金属錯体がメタンの吸蔵材として優れていることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】

(式中、R、R及びRはそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基もしくはハロゲン原子を示し、Xは共鳴効果で電子供与性を示す置換基を示す。)で表されるジカルボン酸化合物(I)と、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属と、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【化2】

(式中、Mはクロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属イオンを示し、Aはジカルボン酸化合物(I)を示し、Bは二座配位可能な有機配位子を示す)で表される金属錯体。
【請求項2】
ジカルボン酸化合物(I)が5−(N,N−ジメチルアミノ)イソフタル酸である請求項1記載の金属錯体。
【請求項3】
該二座配位可能な有機配位子が1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピラジン、2,5−ジメチルピラジン、4,4’−ビピリジル、2,2’−ジメチル−4,4’−ビピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エチン、1,4−ビス(4−ピリジル)ブタジイン、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン、3,6−ジ(4−ピリジル)−1,2,4,5−テトラジン、2,2’−ビ−1,6−ナフチリジン、フェナジン、ジアザピレン、トランス−1,2−ビス(4−ピリジル)エテン、4,4’−アゾピリジン、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,2−ビス(4−ピリジル)−グリコール及びN−(4−ピリジル)イソニコチンアミドから選択される少なくとも1種である請求項1記載の金属錯体。
【請求項4】
該金属が亜鉛である請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
【請求項6】
該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である請求項6記載の吸着材。
【請求項7】
請求項1〜4いずれかに記載の金属錯体からなる吸蔵材。
【請求項8】
該吸蔵材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸蔵するための吸蔵材である請求項6記載の吸蔵材。
【請求項9】
ジカルボン酸化合物(I)と、クロム塩、モリブデン塩、タングステン塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩及び亜鉛塩から選択される少なくとも1種の金属塩と、該金属に二座配位可能な有機配位子とを溶媒中で反応させ、析出させる金属錯体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−37794(P2011−37794A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188542(P2009−188542)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】