金属錯体及びその製造方法
【課題】優れた二酸化炭素分離性能を有する金属錯体を提供する。
【解決手段】周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体。
【解決手段】周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。また、本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材としても好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
動的構造変化高分子金属錯体を吸蔵材や分離材に適用した例として、(1)インターデジテイト型の集積構造を有する金属錯体(特許文献1、特許文献2参照)、(2)二次元格子積層型の集積構造を有する金属錯体(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8参照)、(3)相互貫入型の集積構造を有する金属錯体(特許文献9参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0008】
特許文献6では、[X(CF3SO3)2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとトリフルオロメタンスルホン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
特許文献7では、[NiY2L2]n(式中、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている。しかしながら、実施例に記載されているのはニッケルイオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0010】
特許文献8では、[XY2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、銅イオン以外の金属イオンや4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0011】
二価の金属イオン、前記金属イオンに配位可能な原子を有する二座配位可能な有機配位子、およびハロゲン化二価金属アニオンより構成される三次元構造を有するガス貯蔵可能な有機金属錯体が開示されている(特許文献10参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとヘキサフルオロケイ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロゲルマン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロチタン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとヘキサフルオロジルコン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、銅イオン以外の金属イオンや4,4’−ビピリジル及び1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0012】
銅イオンと、ルイス塩基性アニオンと、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献11参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロヒ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロアンチモン酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとベンゼンスルホン酸イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと4−フェニルピリジンとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、トリフルオロメタンスルホン酸イオンや銅イオン以外の金属イオンが吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−161675公報
【特許文献2】特開2008−247884公報
【特許文献3】特開2003−275531公報
【特許文献4】特開2003−278997公報
【特許文献5】特開2004−74026公報
【特許文献6】特開2005−232033公報
【特許文献7】特開2005−232034公報
【特許文献8】特開2005−232222公報
【特許文献9】特開2003−342260公報
【特許文献10】特開2000−117100公報
【特許文献11】特開2009−208028公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れたガス吸着特性を有する吸着材及び従来よりも混合ガスの分離性能が優れるガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討し、少なくとも1種の金属と、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、Xは同一又は異なってメチレン基または硫黄原子であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、nは1または2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、Mは周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンである。Mが銅イオンの場合にAはトリフルオロメタンスルホン酸イオンであり、Mが銅イオン以外の場合にAはルイス塩基性アニオンから選択される少なくとも1種のアニオンである。Bは該金属イオンに二座配位可能な有機配位子である。)で表される金属錯体。
(2)該二座配位可能な有機配位子が1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される少なくとも1種である(1)に記載の金属錯体。
(3)該金属がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅から選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
(5)該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である(4)に記載の分離材。
(6)(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(7)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(6)に記載の分離材。
(8)該分離材が、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(6)に記載の分離材。
(9)周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を提供することができる。
【0023】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として使用することができる。
【0024】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても使用することができ、特に、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】合成例5で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図6】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図7】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図9】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図10】合成例1、比較合成例1及び比較合成例2で得た金属錯体について、エチレンの195Kにおける吸着等温線を容量法により測定した結果である。
【図11】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図12】合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエチレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図16】合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエチレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】比較合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエチレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子(I)とからなる。
【0027】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子(I)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ルイス塩基性アニオン及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0028】
本発明に用いられる周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩を使用することができ、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩及び銅塩が好ましく、コバルト塩及びニッケル塩がより好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0029】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンとしては、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオンを使用することができ、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが好ましい。アニオンは、2種以上のアニオンを混合して用いても良い。ここで、ルイス塩基性のアニオンとは化学的に安定で還元性や求核性をほとんど示さないアニオンを意味する。
【0030】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンは、金属塩のカウンターアニオンをそのまま使用しても、アルカリ金属塩の形で使用しても良い。
【0031】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は、下記一般式(I);
【0032】
【化3】
【0033】
で表される。式中、Xは同一又は異なってメチレン基(CH2)または硫黄原子(S)であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、nは1または2である。
【0034】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8を構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としては、メチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0035】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン(X=CH2、n=1)、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン(X=CH2、n=2)及び4,4’−ジピリジルスルフィド(X=S、n=1)が好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属に対して配位する原子を2つ以上有する中性配位子を意味する。
【0036】
金属錯体を製造するときのルイス塩基性アニオンと二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、ルイス塩基性アニオン:二座配位可能な有機配位子(I)=1:5〜5:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜3:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0037】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(I)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0038】
金属錯体を製造するための溶媒における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0039】
金属錯体を製造するための溶媒におけるルイス塩基性アニオンのモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0040】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(I)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0041】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0042】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0043】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、金属イオンとそのカウンターアニオンである塩基性アニオンの間の相互作用を制御すること、すなわち、金属イオンと一般式(I)で表される二座配位可能な有機配位子とからなる一次元鎖状構造からなる細孔表面の電荷密度を制御することで、高いガス分離性能が発現する。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0044】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスを選択的に吸着することができるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、エチレン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0048】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度3°/分で走査
し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社製 NEW D8 ADVANCE
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 40mA
ゴニオメーター:水平型ゴニオメーター
検出器:LynxEye
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.6mm
受光スリット=1.5°
散乱スリット=0.6mm
【0049】
(2)吸脱着等温線の測定
ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、2Paで12時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−max
平衡待ち時間:300秒
【0050】
<合成例1>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸コバルト六水和物0.290g(0.85mmol)をアセトニトリル20mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.380g(2.1mmol)のアセトニトリル溶液20mLを30分かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトニトリルで3回洗浄し、目的の金属錯体0.218g(収率37%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0051】
<合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸コバルト六水和物0.299g(1.0mmol)、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.365g(2.0mmol)を容量比で水:エタノール=1:4からなる水とエタノールの混合溶媒25mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム0.850g(5.1mmol)の水溶液10mLを10分かけて滴下した。その後、353Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてエタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体0.346g(収率43%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0052】
<合成例3>
窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸銅3.62g(10mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.73g(収率83%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0053】
<合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物0.290g(1.0mmol)、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.380g(2.1mmol)を容量比で水:エタノール=1:4からなる水とエタノールの混合溶媒25mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、テトラフルオロホウ酸ナトリウム0.550g(5.0mmol)の水溶液10mLを10分かけて滴下した。その後、353Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてエタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体0.289g(収率44%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0054】
<合成例5>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物0.290g(1.0mmol)、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.390g(2.1mmol)を容量比で水:エタノール=1:4からなる水とエタノールの混合溶媒25mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、テトラフルオロリン酸ナトリウム0.850g(5.1mmol)の水溶液10mLを10分かけて滴下した。その後、353Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてエタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体0.679g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0055】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体5.99g(収率83%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0056】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム3.68g(20mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した後、吸引濾過により不溶物を除去した。続いて、濾液に1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.71g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。
【0057】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物1.55g(4.5mmol)を水100mLに溶解させ、353Kで1時間攪拌した。続いて、4,4’−ジピリジルジスルフィド2.20g(10mmol)のアセトン溶液100mLを30分かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体2.93g(収率82%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0058】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物1.55g(4.5mmol)を水100mLに溶解させ、353Kで1時間攪拌した。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン1.99g(10mmol)のアセトン溶液100mLを60分かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体2.40g(収率63%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図9に示す。
【0059】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、195Kにおけるエチレンの吸着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0060】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、195Kにおけるエチレンの吸着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0061】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、195Kにおけるエチレンの吸着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0062】
図10より、本発明の金属錯体は低圧領域におけるエチレンの吸着量が多いので、エチレンの吸着材として優れていることは明らかである。
【0063】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0064】
<実施例3>
合成例2で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図12に示す。
【0065】
<実施例4>
合成例3で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図13に示す。
【0066】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図14に示す。
【0067】
図11、図12及び図13と図14の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素を選択的に吸着するので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【0068】
<実施例5>
合成例4で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図15に示す。
【0069】
<実施例6>
合成例5で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図16に示す。
【0070】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図17に示す。
【0071】
図15及び図16と図17の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素の吸着量がエチレンの吸着量の3倍以上あり、二酸化炭素を選択的に吸着するので、エチレンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体に関する。本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。また、本発明の金属錯体は、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材としても好ましく、特に、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として好ましい。
【背景技術】
【0002】
これまで、脱臭、排ガス処理などの分野で種々の吸着材が開発されている。活性炭はその代表例であり、活性炭の優れた吸着性能を利用して、空気浄化、脱硫、脱硝、有害物質除去など各種工業において広く使用されている。近年は半導体製造プロセスなどへ窒素の需要が増大しており、かかる窒素を製造する方法として、分子ふるい炭を使用して圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により空気から窒素を製造する方法が使用されている。また、分子ふるい炭は、メタノール分解ガスからの水素精製など各種ガス分離精製にも応用されている。
【0003】
圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により混合ガスを分離する際には、一般に、分離吸着材として分子ふるい炭やゼオライトなどを使用し、その平衡吸着量または吸着速度の差により分離を行っている。しかしながら、平衡吸着量の差によって混合ガスを分離する場合、これまでの吸着材では除去したいガスのみを選択的に吸着することができないため分離係数が小さくなり、装置の大型化は不可避であった。また、吸着速度の差によって混合ガスを分離する場合、ガスの種類によっては除去したいガスのみを吸着できるが、吸着と脱着を交互に行う必要があり、この場合も装置は依然として大型にならざるを得なかった。
【0004】
一方、より優れた吸着性能を与える吸着材として、外部刺激により動的構造変化を生じる高分子金属錯体が開発されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。この新規な動的構造変化高分子金属錯体をガス吸着材として使用した場合、ある一定の圧力まではガスを吸着しないが、ある一定圧を越えるとガス吸着が始まるという特異な現象が観測されている。また、ガスの種類によって吸着開始圧が異なる現象が観測されている。
【0005】
この現象を、例えば圧力スイング吸着方式のガス分離装置における吸着材に応用した場合、非常に効率良いガス分離が可能となる。また、圧力のスイング幅を狭くすることができ、省エネルギーにも寄与する。さらに、ガス分離装置の小型化にも寄与し得るため、高純度ガスを製品として販売する際のコスト競争力を高めることができることは勿論、自社工場内部で高純度ガスを用いる場合であっても、高純度ガスを必要とする設備に要するコストを削減できるため、結局最終製品の製造コストを削減する効果を有する。
【0006】
動的構造変化高分子金属錯体を吸蔵材や分離材に適用した例として、(1)インターデジテイト型の集積構造を有する金属錯体(特許文献1、特許文献2参照)、(2)二次元格子積層型の集積構造を有する金属錯体(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8参照)、(3)相互貫入型の集積構造を有する金属錯体(特許文献9参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、さらなる装置小型化によるコスト削減が求められているのが現状であり、これを達成するために分離性能のさらなる向上が求められている。
【0008】
特許文献6では、[X(CF3SO3)2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとトリフルオロメタンスルホン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0009】
特許文献7では、[NiY2L2]n(式中、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている。しかしながら、実施例に記載されているのはニッケルイオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0010】
特許文献8では、[XY2L2]n(式中、Xは2価の遷移金属イオン、Yは対イオン、Lは有機配位子である。)の単位構造を有する高分子金属錯体が開示されている。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、銅イオン以外の金属イオンや4,4’−ビピリジル以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0011】
二価の金属イオン、前記金属イオンに配位可能な原子を有する二座配位可能な有機配位子、およびハロゲン化二価金属アニオンより構成される三次元構造を有するガス貯蔵可能な有機金属錯体が開示されている(特許文献10参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとヘキサフルオロケイ酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロゲルマン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロチタン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとヘキサフルオロジルコン酸イオンと4,4’−ビピリジルとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、銅イオン以外の金属イオンや4,4’−ビピリジル及び1,4−ビス(4−ピリジル)ベンゼン以外の二座配位可能な有機配位子が吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【0012】
銅イオンと、ルイス塩基性アニオンと、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる高分子金属錯体が開示されている(特許文献11参照)。しかしながら、実施例に記載されているのは銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,3−ビス(4−ピリジル)プロパンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロヒ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとヘキサフルオロアンチモン酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体、銅イオンとベンゼンスルホン酸イオンとテトラフルオロホウ酸イオンと1,2−ビス(4−ピリジル)エタンとからなる高分子金属錯体及び銅イオンとヘキサフルオロリン酸イオンと4−フェニルピリジンとからなる高分子金属錯体であり、ガスの吸着、混合ガスの分離において、トリフルオロメタンスルホン酸イオンや銅イオン以外の金属イオンが吸着性能、分離性能に与える効果については何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−161675公報
【特許文献2】特開2008−247884公報
【特許文献3】特開2003−275531公報
【特許文献4】特開2003−278997公報
【特許文献5】特開2004−74026公報
【特許文献6】特開2005−232033公報
【特許文献7】特開2005−232034公報
【特許文献8】特開2005−232222公報
【特許文献9】特開2003−342260公報
【特許文献10】特開2000−117100公報
【特許文献11】特開2009−208028公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】植村一広、北川進、未来材料、第2巻、44〜51頁(2002年)
【非特許文献2】松田亮太郎、北川進、ペトロテック、第26巻、97〜104頁(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、従来よりも優れたガス吸着特性を有する吸着材及び従来よりも混合ガスの分離性能が優れるガス分離材として使用できる金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討し、少なくとも1種の金属と、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体により、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1)周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、Xは同一又は異なってメチレン基または硫黄原子であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、nは1または2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【0020】
【化2】
【0021】
(式中、Mは周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンである。Mが銅イオンの場合にAはトリフルオロメタンスルホン酸イオンであり、Mが銅イオン以外の場合にAはルイス塩基性アニオンから選択される少なくとも1種のアニオンである。Bは該金属イオンに二座配位可能な有機配位子である。)で表される金属錯体。
(2)該二座配位可能な有機配位子が1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される少なくとも1種である(1)に記載の金属錯体。
(3)該金属がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅から選択される少なくとも1種である(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
(5)該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である(4)に記載の分離材。
(6)(1)〜(3)いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
(7)該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である(6)に記載の分離材。
(8)該分離材が、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である(6)に記載の分離材。
(9)周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、(1)に記載の金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とからなる金属錯体を提供することができる。
【0023】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として使用することができる。
【0024】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスの分離性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても使用することができ、特に、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンなどの分離材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図2】合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図3】合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図4】合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図5】合成例5で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図6】比較合成例1で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図7】比較合成例2で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図8】比較合成例3で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図9】比較合成例4で得た金属錯体の粉末X線回折パターンである。
【図10】合成例1、比較合成例1及び比較合成例2で得た金属錯体について、エチレンの195Kにおける吸着等温線を容量法により測定した結果である。
【図11】合成例1で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図12】合成例2で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図13】合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図14】比較合成例3で得た金属錯体について、二酸化炭素及びメタンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図15】合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエチレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図16】合成例5で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエチレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【図17】比較合成例4で得た金属錯体について、二酸化炭素及びエチレンの195Kにおける吸脱着等温線を容量法により測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子(I)とからなる。
【0027】
本発明の金属錯体は、周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属に二座配位可能な有機配位子(I)とを、常圧下、溶媒中で数時間から数日間反応させ、析出させて製造することができる。例えば、金属塩の水溶液または有機溶媒溶液と、ルイス塩基性アニオン及び二座配位可能な有機配位子を含有する有機溶媒溶液とを、常圧下で混合して反応させることにより本発明の金属錯体を得ることができる。
【0028】
本発明に用いられる周期表の2族及び7〜12族に属する金属の塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩、鉄塩、ルテニウム塩、コバルト塩、ロジウム塩、ニッケル塩、パラジウム塩、銅塩、亜鉛塩及びカドミウム塩を使用することができ、マンガン塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩及び銅塩が好ましく、コバルト塩及びニッケル塩がより好ましい。金属塩は、単一の金属塩を使用することが好ましいが、2種以上の金属塩を混合して用いてもよい。また、これらの金属塩としては、酢酸塩、ギ酸塩などの有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩を使用することができる。
【0029】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンとしては、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオンを使用することができ、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが好ましい。アニオンは、2種以上のアニオンを混合して用いても良い。ここで、ルイス塩基性のアニオンとは化学的に安定で還元性や求核性をほとんど示さないアニオンを意味する。
【0030】
本発明に用いられるルイス塩基性アニオンは、金属塩のカウンターアニオンをそのまま使用しても、アルカリ金属塩の形で使用しても良い。
【0031】
本発明に用いられる二座配位可能な有機配位子(I)は、下記一般式(I);
【0032】
【化3】
【0033】
で表される。式中、Xは同一又は異なってメチレン基(CH2)または硫黄原子(S)であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、nは1または2である。
【0034】
上記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8を構成することのできる置換基の内、アルキル基またはアルコキシ基の炭素原子数は1〜5が好ましい。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖または分岐を有するアルキル基が、アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基が、アシロキシ基の例としては、アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基が、アルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基が、モノアルキルアミノ基の例としては、メチルアミノ基が、ジアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基が、アシルアミノ基の例としては、アセチルアミノ基が、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が、それぞれ挙げられる。また、該アルキル基等が有していてもよい置換基の例としては、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基,n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基など)、アミノ基、モノアルキルアミノ基(メチルアミノ基など)、ジアルキルアミノ基(ジメチルアミノ基など)、ホルミル基、エポキシ基、アシロキシ基(アセトキシ基、n−プロパノイルオキシ基、n−ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基など)、カルボン酸無水物基(−CO−O−CO−R基)(Rは炭素数1〜5のアルキル基である)などが挙げられる。アルキル基の置換基の数は、1〜3個が好ましく、1個がより好ましい。
【0035】
二座配位可能な有機配位子(I)としては、例えば、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン(X=CH2、n=1)、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン(X=CH2、n=2)及び4,4’−ジピリジルスルフィド(X=S、n=1)が好ましい。ここで、二座配位可能な有機配位子とは非共有電子対で金属に対して配位する原子を2つ以上有する中性配位子を意味する。
【0036】
金属錯体を製造するときのルイス塩基性アニオンと二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、ルイス塩基性アニオン:二座配位可能な有機配位子(I)=1:5〜5:1のモル比の範囲内が好ましく、1:3〜3:1のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下し、副反応も増えるために好ましくない。
【0037】
金属錯体を製造するときの金属塩と二座配位可能な有機配位子(I)の混合比率は、金属塩:二座配位可能な有機配位子(I)=3:1〜1:3のモル比の範囲内が好ましく、2:1〜1:2のモル比の範囲内がより好ましい。これ以外の範囲では目的とする金属錯体の収率が低下し、また、未反応の原料が残留して得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0038】
金属錯体を製造するための溶媒における金属塩のモル濃度は、0.005〜5.0mol/Lが好ましく、0.01〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では未反応の金属塩が残留し、得られた金属錯体の精製が困難になる。
【0039】
金属錯体を製造するための溶媒におけるルイス塩基性アニオンのモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0040】
金属錯体を製造するための溶媒における二座配位可能な有機配位子(I)のモル濃度は、0.001〜5.0mol/Lが好ましく、0.005〜2.0mol/Lがより好ましい。これより低い濃度で反応を行っても目的とする金属錯体は得られるが、収率が低下するため好ましくない。また、これより高い濃度では溶解性が低下し、反応が円滑に進行しない。
【0041】
金属錯体の製造に用いる溶媒としては、有機溶媒、水またはそれらの混合溶媒を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、水またはこれらの混合溶媒を使用することができる。反応温度としては、253〜423Kが好ましい。
【0042】
結晶性の良い金属錯体は、純度が高くて吸着性能が良い。反応が終了したことはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーにより原料の残存量を定量することにより確認することができる。反応終了後、得られた混合液を吸引濾過に付して沈殿物を集め、有機溶媒による洗浄後、373K程度で数時間真空乾燥することにより、本発明の金属錯体を得ることができる。
【0043】
本発明の金属錯体における三次元構造は、合成後の結晶においても変化できるため、その変化に伴って、細孔の構造や大きさも変化する。この構造が変化する条件は、吸着される物質の種類、吸着圧力、吸着温度に依存する。すなわち、細孔表面と物質の相互作用の差に加え、吸着する物質により構造変化の程度が異なるため、高い選択性が発現する。本発明では、金属イオンとそのカウンターアニオンである塩基性アニオンの間の相互作用を制御すること、すなわち、金属イオンと一般式(I)で表される二座配位可能な有機配位子とからなる一次元鎖状構造からなる細孔表面の電荷密度を制御することで、高いガス分離性能が発現する。吸着された物質が脱着した後は、元の構造に戻るので、細孔の大きさも元に戻る。
【0044】
前記の選択吸着メカニズムは推定ではあるが、例え前記メカニズムに従っていない場合でも、本発明で規定する要件を満足するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
本発明の金属錯体は、各種ガスの吸着性能に優れているので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを吸着するための吸着材として好ましい。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の金属錯体は、各種ガスを選択的に吸着することができるので、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気または有機蒸気などを分離するための分離材としても好ましく、特に、メタン中の二酸化炭素、エチレン中の二酸化炭素、水素中の二酸化炭素、窒素中の二酸化炭素、メタン中のエタンまたは空気中のメタンなどを、圧力スイング吸着法や温度スイング吸着法により分離するのに適している。有機蒸気とは、常温、常圧で液体状の有機物質の気化ガスを意味する。このような有機物質としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;トリメチルアミンなどのアミン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類;炭素数5〜16の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;塩化メチル、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
【0048】
(1)粉末X線回折パターンの測定
X線回折装置を用いて、回折角(2θ)=5〜50°の範囲を走査速度3°/分で走査
し、対称反射法で測定した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社製 NEW D8 ADVANCE
X線源:CuKα(λ=1.5418Å) 40kV 40mA
ゴニオメーター:水平型ゴニオメーター
検出器:LynxEye
ステップ幅:0.02°
スリット:発散スリット=0.6mm
受光スリット=1.5°
散乱スリット=0.6mm
【0049】
(2)吸脱着等温線の測定
ガス吸着量測定装置を用いて容量法で測定を行った。このとき、測定に先立って試料を373K、2Paで12時間乾燥し、吸着水などを除去した。分析条件の詳細を以下に示す。
<分析条件>
装置:日本ベル株式会社製BELSORP−max
平衡待ち時間:300秒
【0050】
<合成例1>
窒素雰囲気下、テトラフルオロホウ酸コバルト六水和物0.290g(0.85mmol)をアセトニトリル20mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.380g(2.1mmol)のアセトニトリル溶液20mLを30分かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトニトリルで3回洗浄し、目的の金属錯体0.218g(収率37%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0051】
<合成例2>
窒素雰囲気下、硝酸コバルト六水和物0.299g(1.0mmol)、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.365g(2.0mmol)を容量比で水:エタノール=1:4からなる水とエタノールの混合溶媒25mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム0.850g(5.1mmol)の水溶液10mLを10分かけて滴下した。その後、353Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてエタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体0.346g(収率43%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図2に示す。
【0052】
<合成例3>
窒素雰囲気下、トリフルオロメタンスルホン酸銅3.62g(10mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.73g(収率83%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0053】
<合成例4>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物0.290g(1.0mmol)、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.380g(2.1mmol)を容量比で水:エタノール=1:4からなる水とエタノールの混合溶媒25mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、テトラフルオロホウ酸ナトリウム0.550g(5.0mmol)の水溶液10mLを10分かけて滴下した。その後、353Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてエタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体0.289g(収率44%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図4に示す。
【0054】
<合成例5>
窒素雰囲気下、硝酸ニッケル六水和物0.290g(1.0mmol)、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン0.390g(2.1mmol)を容量比で水:エタノール=1:4からなる水とエタノールの混合溶媒25mLに溶解させ、353Kで30分攪拌した。続いて、テトラフルオロリン酸ナトリウム0.850g(5.1mmol)の水溶液10mLを10分かけて滴下した。その後、353Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてエタノールで3回洗浄し、目的の金属錯体0.679g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図5に示す。
【0055】
<比較合成例1>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した。続いて、1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体5.99g(収率83%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図6に示す。
【0056】
<比較合成例2>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物3.45g(10mmol)及びヘキサフルオロリン酸カリウム3.68g(20mmol)を水200mLに溶解させ、298Kで30分攪拌した後、吸引濾過により不溶物を除去した。続いて、濾液に1,2−ビス(4−ピリジル)エタン3.69g(20mmol)のアセトン溶液200mLを1時間かけて滴下した。その後、298Kで1時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、アセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体6.71g(収率80%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図7に示す。
【0057】
<比較合成例3>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物1.55g(4.5mmol)を水100mLに溶解させ、353Kで1時間攪拌した。続いて、4,4’−ジピリジルジスルフィド2.20g(10mmol)のアセトン溶液100mLを30分かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体2.93g(収率82%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図8に示す。
【0058】
<比較合成例4>
窒素雰囲気下、ヘキサフルオロホウ酸銅六水和物1.55g(4.5mmol)を水100mLに溶解させ、353Kで1時間攪拌した。続いて、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン1.99g(10mmol)のアセトン溶液100mLを60分かけて滴下した。その後、353Kで3時間攪拌した。析出した金属錯体を吸引濾過により回収した後、水で3回、続いてアセトンで3回洗浄し、目的の金属錯体2.40g(収率63%)を得た。得られた金属錯体の粉末X線回折パターンを図9に示す。
【0059】
<実施例1>
合成例1で得た金属錯体について、195Kにおけるエチレンの吸着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0060】
<比較例1>
比較合成例1で得た金属錯体について、195Kにおけるエチレンの吸着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0061】
<比較例2>
比較合成例2で得た金属錯体について、195Kにおけるエチレンの吸着等温線を測定した。結果を図10に示す。
【0062】
図10より、本発明の金属錯体は低圧領域におけるエチレンの吸着量が多いので、エチレンの吸着材として優れていることは明らかである。
【0063】
<実施例2>
合成例1で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図11に示す。
【0064】
<実施例3>
合成例2で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図12に示す。
【0065】
<実施例4>
合成例3で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図13に示す。
【0066】
<比較例3>
比較合成例3で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とメタンの吸脱着等温線を測定した。結果を図14に示す。
【0067】
図11、図12及び図13と図14の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素を選択的に吸着するので、メタンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【0068】
<実施例5>
合成例4で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図15に示す。
【0069】
<実施例6>
合成例5で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図16に示す。
【0070】
<比較例4>
比較合成例4で得た金属錯体について、195Kにおける二酸化炭素とエチレンの吸脱着等温線を測定した。結果を図17に示す。
【0071】
図15及び図16と図17の比較より、本発明の金属錯体は二酸化炭素の吸着量がエチレンの吸着量の3倍以上あり、二酸化炭素を選択的に吸着するので、エチレンと二酸化炭素の分離材として優れていることは明らかである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、Xは同一又は異なってメチレン基または硫黄原子であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、nは1または2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【化2】
(式中、Mは周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンである。Mが銅イオンの場合にAはトリフルオロメタンスルホン酸イオンであり、Mが銅イオン以外の場合にAはルイス塩基性アニオンから選択される少なくとも1種のアニオンである。Bは該金属イオンに二座配位可能な有機配位子である。)で表される金属錯体。
【請求項2】
該二座配位可能な有機配位子が1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該金属がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅から選択される少なくとも1種である請求項1または2いずれかに記載の金属錯体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
【請求項5】
該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である請求項4に記載の吸着材。
【請求項6】
請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項7】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項6に記載の分離材。
【請求項8】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項6に記載の分離材。
【請求項9】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項1】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、下記一般式(I);
【化1】
(式中、Xは同一又は異なってメチレン基または硫黄原子であり、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、アルコキシ基、ホルミル基、アシロキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、nは1または2である。)で表される該金属イオンに二座配位可能な有機配位子とからなる金属錯体であって、その組成が
【化2】
(式中、Mは周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンである。Mが銅イオンの場合にAはトリフルオロメタンスルホン酸イオンであり、Mが銅イオン以外の場合にAはルイス塩基性アニオンから選択される少なくとも1種のアニオンである。Bは該金属イオンに二座配位可能な有機配位子である。)で表される金属錯体。
【請求項2】
該二座配位可能な有機配位子が1,2−ビス(4−ピリジル)エタン、1,3−ビス(4−ピリジル)プロパン及び4,4’−ジピリジルスルフィドから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
該金属がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅から選択される少なくとも1種である請求項1または2いずれかに記載の金属錯体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体からなる吸着材。
【請求項5】
該吸着材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を吸着するための吸着材である請求項4に記載の吸着材。
【請求項6】
請求項1〜3いずれかに記載の金属錯体からなる分離材。
【請求項7】
該分離材が、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1〜4の炭化水素、希ガス、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、シロキサン、水蒸気または有機蒸気を分離するための分離材である請求項6に記載の分離材。
【請求項8】
該分離材が、メタンと二酸化炭素、エチレンと二酸化炭素、水素と二酸化炭素、窒素と二酸化炭素、メタンとエタンまたは空気とメタンを分離するための分離材である請求項6に記載の分離材。
【請求項9】
周期表の2族及び7〜12族に属する金属から選択される少なくとも1種の金属イオンと、ルイス塩基性アニオンと、該金属イオンに二座配位可能な有機配位子(I)とを溶媒中で反応させ、金属錯体を析出させる、請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−20956(P2012−20956A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159362(P2010−159362)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構『グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発』「副生ガス高効率分離・精製プロセス基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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