説明

金属錯体色素

【課題】 高いモル吸光係数を示し、長波長域においても優れた光吸収能を有する金属錯体色素、かかる金属錯体色素により増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子、およびそれからなる光電池を提供する。
【課題手段】 一般式:M(LL1)m1(LL2)m2(X)m3・CI(ただし、Mは金属原子を表し、LL1は金属原子に窒素原子で2座または3座配位できる特定の配位子を表し、LL2は窒素原子で2座または3座配位できる他の配位子を表し、Xはイソチオシアネート基等で配位する1座または2座の配位子を表し、m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLL1は同じでも異なっていてもよく、m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLL2は同じでも異なっていてもよく、m3は0〜2の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよくまたX同士が連結していてもよく、CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。)により表される金属錯体色素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いモル吸光係数を示し、長波長域にも優れた光吸収能を有する金属錯体色素に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電に使用する太陽電池として、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、テルル化カドミウム、セレン化インジウム銅等の化合物からなる太陽電池が実用化もしくは主な研究開発の対象となっているが、家庭用電源等に広く普及させる上では、製造コストが高いこと、原材料の確保が困難であること、エネルギーペイバックタイムが長いこと等の問題点があり、これらを克服する必要がある。一方、大面積化や低価格化を目的として、有機材料を用いた太陽電池も多く提案されてきたが、一般に変換効率が低く、耐久性も悪いという問題があった。
【0003】
このような状況下で、Nature(第353巻,第737〜740頁,1991年)、および米国特許4927721号、WO 94/04497号等に、ルテニウム錯体色素により分光増感された二酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式光電変換素子および太陽電池、ならびにこれを作製するための材料および製造技術が提案された。この湿式光電変換素子の第一の利点は、二酸化チタン等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく用いることができるため安価な光電変換素子を提供できる点であり、第二の利点は、用いる色素の吸収がブロードなため可視光線のほぼすべての波長領域の光を電気に変換できることである。
【0004】
しかしながら公知のルテニウム錯体色素は、可視光線はほぼすべて光電変換しうるものの、700nmより長波長の赤外光はほとんど吸収しないため、赤外域での光電変換能が低いという問題がある。したがってさらに変換効率を上げるために、可視光〜赤外域にわたる広い波長領域で吸収能を有し、高い光電変換能を示す色素の開発が望まれている。
【0005】
また、光電変換素子を太陽電池等へ応用する場合、電解質として溶融塩、ゲル電解質等の擬固体化電解質、またはポリマー電解質、無機半導体等の固体化電解質を用いることが、電池の耐久性の観点から好ましい。その際、光電変換効率を上げるためには、できる限り光電変換素子を薄層化し電解質の抵抗を下げることが好ましいが、公知のルテニウム錯体色素を用いると、モル吸光係数が低いため光吸収率が低下し、光電変換効率の低下を招く。そこで、薄層化しても高いモル吸光係数を示す金属錯体色素の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4927721号明細書
【特許文献2】国際公開第94/04497号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature(第353巻,第737〜740頁,1991年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高いモル吸光係数を示し、長波長域においても優れた光吸収能を有し、かつ半導体微粒子を効率良く増感し得る金属錯体色素、かかる金属錯体色素を用いることにより、湿式電解質のみならず固体または擬固体電解質を用いても高い光電変換効率を示し、かつ耐久性に優れた光電変換素子、およびそれからなる光電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、金属原子に対して窒素原子で2座または3座配位できる特定の配位子を配位させ、さらに必要に応じて、窒素原子で2座または3座配位できる他の配位子、および/またはチオシアネート基やイソチオシアネート基等で配位する1座または2座の配位子を配位させることにより、高いモル吸光係数を示し長波長域においても優れた光吸収能を有する金属錯体色素が得られること、およびかかる金属錯体色素により増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子は、湿式電解質のみならず固体または擬固体電解質を用いても高い光電変換効率を示し、かつ耐久性にも優れており、良好な光電池となることを発見し本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明の金属錯体色素は下記一般式(I):
M(LL1)m1(LL2)m2(X)m3・CI ・・・(I)
(ただし、Mは金属原子を表し、
LL1は下記一般式(II):
【化1】

(ただし、R1およびR2はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に置換基を表し、R5およびR6はそれぞれ独立にアリール基またはヘテロ環基を表し、L1およびL2はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表し、a1およびa2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a1が2以上のときR1は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR2は同じでも異なっていてもよく、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR3は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR4は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b1およびb2が共に1以上のときR3とR4が連結して環を形成してもよく、nは0または1を表す。)により表される2座または3座の配位子であり、
LL2は下記一般式(III):
【化2】

(ただし、Za、ZbおよびZcはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表し、cは0または1を表す。)により表される2座または3座の配位子であり、
Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミドまたはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLL1は同じでも異なっていてもよく、
m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLL2は同じでも異なっていてもよく、
m3は0〜2の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。)により表されることを特徴とする。
【0011】
また光電変換素子は前記金属錯体色素を使用し、光電池は前記光電変換素子を用いることを特徴とする。
【0012】
本発明はまた下記条件を満たすことにより、より高いモル吸光係数を示し、長波長域においても一層優れた光吸収能を有する金属錯体色素により増感した半導体微粒子を含む光電変換素子および光電池が得られる。
【0013】
(1)一般式(I)中のMは4配位または6配位が可能な金属であるのが好ましく、Ru、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、MnまたはZnであるのがより好ましく、Ru、Fe、OsまたはCuであるのが特に好ましく、Ruであるのが最も好ましい。
【0014】
(2)一般式(II)中のR1およびR2はそれぞれ独立にカルボキシル基またはホスホニル基であるのが好ましい。
【0015】
(3)一般式(II)中のR3およびR4はそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アシルオキシ基またはハロゲン原子であるのが好ましい。
【0016】
(4)一般式(II)中のR5およびR6はそれぞれ独立にアリール基であるのが好ましい。
【0017】
(5)一般式(II)中のL1およびL2はそれぞれ独立にエテニレン基、ブタジエニレン基、エチニレン基またはブタジイニレン基であるのが好ましい。
【0018】
(6)一般式(II)中のa1は0または1であるのが好ましく、a2は0〜2の整数であるのが好ましい。特に、nが0のときa2は1または2であるのが好ましく、nが1のときa2は0または1であるのが好ましい。
【0019】
(7)一般式(I)中のLL1は2座配位子であるのが好ましい。
【0020】
(8)一般式(I)中のLL1は下記一般式(IV-1)または(IV-2):
【化3】

(ただし、R1、R2およびR7はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R3、R4、R8、R15およびR16はそれぞれ独立に置換基を表し、R11〜R14はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、R11とR12ならびにR13とR14はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよく、a1、a2およびa3はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a1が2以上のときR1は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR2は同じでも異なっていてもよく、a3が2以上のときR7は同じでも異なっていてもよく、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR3は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR4は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b3は0〜5の整数を表し、b3が2以上のときR8は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、一般式(IV-1)中のb1およびb2が共に1以上のときR3とR4が連結して環を形成してもよく、一般式(IV-2)中のb1およびb3が共に1以上のときR3とR8が連結して環を形成してもよく、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、d1が1以上のときR15はR11および/またはR12と連結して環を形成してもよく、d1が2以上のときR15は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、d2が1以上のときR16はR13および/またはR14と連結して環を形成してもよく、d2が2以上のときR16は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、nは0または1を表す。)により表される2座または3座の配位子であるのが好ましい。
【0021】
(9)一般式(IV-2)中のR7はカルボキシル基またはホスホリル基であるのが好ましく、a3は1または2であるのが好ましい。
【0022】
(10)一般式(IV-2)中のR8はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基またはアシルアミノ基であるのが好ましい。
【0023】
(11)一般式(IV-1)および(IV-2)中のR11〜R14はそれぞれ独立にアルキル基またはアリール基であるのが好ましい。
【0024】
(12)一般式(IV-1)および(IV-2)中のR11〜R14はそれぞれ独立にアルキル基であるのがより好ましい。
【0025】
(13)一般式(IV-1)および(IV-2)中のR11および/またはR12はアルコキシ基が置換したアルキル基であるのが特に好ましい。
【0026】
(14)一般式(III)中のZa、ZbおよびZcにより形成される5または6員環はそれぞれ独立にピリジン環またはイミダゾール環であるのが好ましい。これらの環は単環でも縮環していてもよい。
【0027】
(15)一般式(III)中のcは0であるのが好ましい。すなわちLL2は2座配位子であるのが好ましい。
【0028】
(16)一般式(I)中のLL2は下記一般式(V-1)〜(V-8):
【化4】

(ただし、R21〜R28はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R29〜R36はそれぞれ独立に置換基を表し、R21〜R36は環上のどの位置に結合していてもよく、R37〜R41はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、e1〜e8、e13、e14およびe16はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、e9〜e12およびe15はそれぞれ独立に0〜6の整数を表し、e1〜e8が2以上のとき、R21〜R28はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、e9〜e16が2以上のとき、R29〜R36はそれぞれ同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよい。)のいずれかにより表されるのが好ましく、一般式(V-1)、(V-2)、(V-4)または(V-6)により表されるのがより好ましく、一般式(V-1)または(V-2)により表されるのが特に好ましく、一般式(V-1)により表されるのが最も好ましい。
【0029】
(17)一般式(V-1)〜(V-8)中のR21〜R28はそれぞれ独立にカルボキシル基またはホスホニル基であるのが好ましい。
【0030】
(18)一般式(V-1)〜(V-8)中のR29〜R36はそれぞれ独立にアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アシルアミノ基、アミノ基、アシル基、スルホンアミド基、シアノ基またはハロゲン原子であるのが好ましい。
【0031】
(19)一般式(I)中のm1は1または2であるのが好ましく、1であるのがより好ましい。
【0032】
(20)一般式(I)中のm1が1のとき、m2は1、m3は1または2であるのが好ましい。
【0033】
(21)一般式(I)中のm1が2のとき、m2は0、m3は1または2であるのが好ましい。
【0034】
(22)一般式(I)により表される金属錯体色素は、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基およびホスホニル基のいずれかを少なくとも1個有するのが好ましい。
【0035】
(23)半導体微粒子は酸化チタン微粒子であるのが好ましい。
【0036】
本発明の好ましい実施例による金属錯体色素においては、上記一般式(I)中のMはRuであり、
LL1は上記一般式(II)により表される2座または3座の配位子であり、
LL2は上記一般式(V-1)〜(V-8)のいずれかにより表される2座または3座の配位子であり、
Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミドまたはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
m1は1または2であり、m1が2のときLL1は同じでも異なっていてもよく、
m2は0または1であり、
m3は0〜2の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
m2とm3は同時に0とはならず、
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【0037】
上記の好ましい実施例による金属錯体色素においては、LL1は上記一般式(IV-1)または(IV-2)により表されるのが好ましく、LL2は上記一般式(V-1)により表されるのが好ましい。また、上記一般式(IV-1)および(IV-2)中のR11および/またはR12はアルコキシ基が置換したアルキル基であるのが好ましく、m1が1であり、m2が1であり、m3が1または2であるのが好ましい。該金属錯体色素はカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基およびホスホニル基のいずれかを少なくとも1個有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
以上詳述したように、本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素は可視光〜赤外域にわたって良好な光吸収能を有するために、かかる金属錯体色素を吸着した半導体微粒子を含む光電変換素子は、可視光〜赤外域にわたる広い波長域において高い光電変換特性を示す。かかる光電変換素子からなる光電池は太陽電池として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図2】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図3】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図4】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図5】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図6】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図7】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図8】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図9】本発明の金属錯体色素を用いた光電変換素子の構造を示す部分断面図である。
【図10】本発明の金属錯体色素を用いた基板一体型太陽電池モジュールの構造の一例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[1]金属錯体色素
本発明の金属錯体色素は、下記一般式(I):
M(LL1)m1(LL2)m2(X)m3・CI ・・・(I)
により表される。以下各構成成分について詳述する。
【0041】
(A)金属原子M
Mは金属原子を表す。Mは好ましくは4配位または6配位が可能な金属であり、より好ましくはRu、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、MnまたはZnであり、特に好ましくはRu、Fe、OsまたはCuであり、最も好ましくはRuである。
【0042】
(B)配位子LL1
配位子LL1は、下記一般式(II):
【化5】

により表される2座または3座の配位子であり、好ましくは2座配位子である。配位子LL1の数を表すm1は1〜3の整数であり、1または2であるのが好ましく、1であるのがより好ましい。m1が2以上のとき、LL1は同じでも異なっていてもよい。
【0043】
一般式(II)中のR1およびR2はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えば―CONHOH、―CONCH3OH等)、ホスホリル基(例えば―OP(O)(OH)2等)およびホスホニル基(例えば―P(O)(OH)2等)のいずれかを表し、好ましくはカルボキシル基、ホスホリル基またはホスホニル基であり、より好ましくはカルボキシル基またはホスホニル基であり、最も好ましくはカルボキシル基である。R1およびR2はピリジン環上のどの炭素原子に置換してもよい。
【0044】
一般式(II)中のR3およびR4はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基、1-エチルペンチル基、ベンジル基、2-エトキシエチル基、1-カルボキシメチル基等)、
アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、例えばビニル基、アリル基、オレイル基等)、
アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、例えばエチニル基、ブタジイニル基、フェニルエチニル基等)、
シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基等)、
アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26、例えばフェニル基、1-ナフチル基、4-メトキシフェニル基、2-クロロフェニル基、3-メチルフェニル基等)、
ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20、例えば2-ピリジル基、4-ピリジル基、2-イミダゾリル基、2-ベンゾイミダゾリル基、2-チアゾリル基、2-オキサゾリル基等)、
アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、ベンジルオキシ基等)、
アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26、例えばフェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基等)、
アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20、例えばエトキシカルボニル基、2-エチルヘキシルオキシカルボニル基等)、
アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20、例えばアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N−エチルアミノ基、アニリノ基等)、
スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20、例えばN,N-ジメチルスルホンアミド基、N-フェニルスルホンアミド基等)、
アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばアセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、
カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばN,N-ジメチルカルバモイル基、N-フェニルカルバモイル基等)、
アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、
シアノ基、
またはハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基またはシアノ基である。
【0045】
配位子LL1がアルキル基、アルケニル基等を含むとき、それらは直鎖状でも分岐状でもよく置換されていても無置換でもよい。また配位子LL1がアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく置換されていても無置換でもよい。
【0046】
一般式(II)中、R5およびR6はそれぞれ独立にアリール基(好ましくは炭素原子数6〜30、例えばフェニル基、置換フェニル基、ナフチル基、置換ナフチル基等)またはヘテロ環基(好ましくは炭素原子数1〜30、例えば2-チエニル基、2-ピロリル基、2-イミダゾリル基、1-イミダゾリル基、4-ピリジル基、3-インドリル基)であり、好ましくはアリール基であり、より好ましくは1〜3個の電子供与基を有するアリール基である。該電子供与基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基(以上好ましい例はR3およびR4の場合と同様)またはヒドロキシル基であるのが好ましく、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基またはヒドロキシル基であるのがより好ましく、アミノ基であるのが特に好ましい。電子供与基は4位に置換するのが好ましい。R5とR6は同じであっても異なっていてもよいが、
同じであるのが好ましい。
【0047】
一般式(II)中、L1およびL2はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表す。エテニレン基が置換基を有する場合、該置換基はアルキル基であるのが好ましく、メチル基であるのがより好ましい。L1およびL2はそれぞれ独立に炭素原子数2〜6個の共役鎖であるのが好ましく、エテニレン基、ブタジエニレン基、エチニレン基、ブタジイニレン基、メチルエテニレン基またはジメチルエテニレン基であるのがより好ましく、エテニレン基またはブタジエニレン基であるのが特に好ましく、エテニレン基であるのが最も好ましい。L1とL2は同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。なお、共役鎖が炭素―炭素二重結合を含む場合、各二重結合はトランス体であってもシス体であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0048】
一般式(II)中、nは0または1であり、a1およびa2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表す。a1が2以上のときR1は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR2は同じでも異なっていてもよい。a1は0または1であるのが好ましく、a2は0〜2の整数であるのが好ましい。特に、nが0のときa2は1または2であるのが好ましく、nが1のときa2は0または1であるのが好ましい。a1とa2の和は0〜2の整数であるのが好ましい。
【0049】
一般式(II)中、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、0〜2の整数であるのが好ましい。b1が2以上のとき、R3は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよい。b2が2以上のとき、R4は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよい。またb1およびb2が共に1以上のとき、R3とR4が連結して環を形成してもよい。形成する環の好ましい例としてはベンゼン環、ピリジン環、チオフェン環、ピロール環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環等が挙げられる。
【0050】
一般式(II)中、a1とa2の和が1以上のとき、すなわち配位子LL1がカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基およびホスホニル基のいずれかを少なくとも1個有するときは、一般式(I)中のm1は2または3であるのが好ましく、2であるのがより好ましい。
【0051】
配位子LL1は好ましくは下記一般式(IV-1)または(IV-2):
【化6】

により表される。一般式(IV-1)および(IV-2)中、R1〜R4、a1、a2、b1、b2およびnは一般式(II)中のものと同義である。
【0052】
一般式(IV-1)および(IV-2)中、R7はカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基およびホスホニル基のいずれかを表し、好ましくはカルボキシル基またはホスホリル基であり、より好ましくはカルボキシル基である。
【0053】
一般式(IV-1)および(IV-2)中、R8は置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基またはアシルアミノ基(以上好ましい例は上記R3およびR4の場合と同様)であり、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基またはアシルアミノ基である。
【0054】
一般式(IV-1)および(IV-2)中、R11〜R14はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基またはアリール基(以上好ましい例は上記R3およびR4の場合と同様)を表し、好ましくはアルキル基またはアリール基を表し、より好ましくはアルキル基を表す。R11〜R14がアルキル基である場合はさらに置換基を有していてもよく、該置換基としてはアルコキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基またはカルボンアミド基が好ましく、アルコキシ基が特に好ましい。R11とR12ならびにR13とR14はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよく、形成する環としてはピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環等が好ましい。
【0055】
一般式(IV-1)および(IV-2)中、R15およびR16はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基(以上好ましい例は上記R3およびR4の場合と同様)またはヒドロキシル基であり、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、アミノ基またはアシルアミノ基である。
【0056】
一般式(IV-2)中、a3は0〜3の整数を表し、好ましくは0〜2の整数を表す。nが0のときa3は1または2であるのが好ましく、nが1のときa3は0または1であるのが好ましい。a3が2以上のときR7は同じでも異なっていてもよい。
【0057】
一般式(IV-1)および(IV-2)中、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。d1が1以上のときR15はR11および/またはR12と連結して環を形成してもよく、形成される環はピペリジン環またはピロリジン環であるのが好ましい。d1が2以上のときR15は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよい。d2が1以上のときR16はR13および/またはR14と連結して環を形成してもよく、形成される環はピペリジン環またはピロリジン環であるのが好ましい。d2が2以上のときR16は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよい。
【0058】
一般式(IV-2)中、b3は0〜5の整数を表し、好ましくは0〜3の整数を表す。nが0のときb3は1〜3の整数であるのが好ましい。b3が2以上のときR8は同じでも異なっていてもよく、互いに連結して環を形成してもよい。一般式(IV-2)中のb1およびb3が共に1以上のときR3とR8が連結して環を形成してもよい。形成される環としてはベンゼン環、シクロペンタン環およびシクロヘキサン環が好ましい。
【0059】
配位子LL1の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
【化7】

【0061】
【化8】

【0062】
【化9】

【0063】
【化10】

【0064】
【化11】

【0065】
【化12】

【0066】
【化13】

【0067】
【化14】

【0068】
【化15】

【0069】
【化16】

【0070】
【化17】

【0071】
【化18】

【0072】
【化19】

【0073】
【化20】

【0074】
【化21】

【0075】
【化22】

【0076】
【化23】

【0077】
【化24】

【0078】
【化25】

【0079】
【化26】

【0080】
【化27】

【0081】
(C)配位子LL2
一般式(I)中、LL2は2座または3座の配位子を表す。配位子LL2の数を表すm2は0〜2の整数であり、0または1であるのが好ましい。m2が2のときLL2は同じでも異なっていてもよい。
【0082】
配位子LL2は、下記一般式(III):
【化28】

により表される。
【0083】
一般式(III)中、Za、ZbおよびZcはそれぞれ独立に5または6員環を形成しうる非金属原子群を表す。形成される5または6員環は置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。Za、ZbおよびZcは炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子および/またはハロゲン原子で構成されることが好ましく、芳香族環を形成するのが好ましい。5員環の場合はイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環またはトリアゾール環を形成するのが好ましく、6員環の場合はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環またはピラジン環を形成するのが好ましい。なかでもイミダゾール環およびピリジン環がより好ましい。
【0084】
一般式(III)中、cは0または1を表す。cは0であるのが好ましく、すなわちLL2は2座配位子であるのが好ましい。
【0085】
配位子LL2は、下記一般式(V-1)〜(V-8):
【化29】

のいずれかにより表されるのが好ましく、一般式(V-1)、(V-2)、(V-4)または(V-6)により表されるのがより好ましく、一般式(V-1)または(V-2)により表されるのが特に好ましく、一般式(V-1)により表されるのが最も好ましい。
【0086】
一般式(V-1)〜(V-8)中、R21〜R28はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えば―CONHOH、―CONCH3OH等)、ホスホリル基(例えば―OP(O)(OH)2等)およびホスホニル基(例えば―P(O)(OH)2等)のいずれかを表し、好ましくはカルボキシル基、ホスホリル基またはホスホニル基であり、より好ましくはカルボキシル基またはホスホニル基であり、最も好ましくはカルボキシル基である。
【0087】
一般式(V-1)〜(V-8)中、R29〜R36はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、スルホンアミド基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子(以上好ましい例は上記R3およびR4の場合と同様)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アル BR>Rキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基またはアシルアミノ基である。
【0088】
一般式(V-1)〜(V-8)中、R37〜R41はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基またはアリール基(以上好ましい例は上記R3およびR4の場合と同様)を表す。なお、配位子LL2がアルキル基、アルケニル基等を含むとき、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。また、LL2がアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても無置換でもよい。R37〜R41はそれぞれ独立にアルキル基であるのが好ましく、カルボキシル基を有するアルキル基であるのがより好ましい。
【0089】
一般式(V-1)〜(V-8)中、R21〜R36は環上のどの位置に結合していてもよい。またe1〜e6はそれぞれ独立に0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数を表し、e7およびe8はそれぞれ独立に0〜4の整数、好ましくは0〜3の整数を表す。e9〜e12およびe15はそれぞれ独立に0〜6の整数を表し、e13、e14およびe16はそれぞれ独立に0〜4の整数を表す。e9〜e16はそれぞれ独立に0〜3の整数であるのが好ましい。
【0090】
e1〜e8が2以上のときR21〜R28はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、e9〜e16が2以上のときR29〜R36はそれぞれ同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成していてもよい。
【0091】
配位子LL2の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
【化30】

【0093】
【化31】

【0094】
【化32】

【0095】
【化33】

【0096】
【化34】

【0097】
【化35】

【0098】
【化36】

【0099】
【化37】

【0100】
【化38】

【0101】
【化39】

【0102】
【化40】

【0103】
【化41】

【0104】
【化42】

【0105】
【化43】

【0106】
【化44】

【0107】
(D)配位子X
一般式(I)中、Xは1座または2座の配位子を表す。配位子Xの数を表すm3は0〜2の整数を表し、好ましくは1または2である。Xが1座配位子のときはm3は2であるのが好ましく、Xが2座配位子のときはm3は1であるのが好ましい。m3が2のとき、Xは同じでも異なっていてもよくX同士が連結していてもよい。
【0108】
配位子Xは、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばアセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、サリチル酸基、グリシルオキシ基、N,N-ジメチルグリシルオキシ基、オキザリレン基(―OC(O)C(O)O―)等)、
アシルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばアセチルチオ基、ベンゾイルチオ基等)、
チオアシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばチオアセチルオキシ基(CH3C(S)O―)等)、
チオアシルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばチオアセチルチオ基(CH3C(S)S―)、チオベンゾイルチオ基(PhC(S)S―)等)、
アシルアミノオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばN-メチルベンゾイルアミノオキシ基(PhC(O)N(CH3)O―)、アセチルアミノオキシ基(CH3C(O)NHO―)等)、
チオカルバメート基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばN,N-ジエチルチオカルバメート基等)、
ジチオカルバメート基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばN-フェニルジチオカルバメート基、N,N-ジメチルジチオカルバメート基、N,N-ジエチルジチオカルバメート基、N,N-ジベンジルジチオカルバメート基等)、
チオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばエチルチオカルボネート基等)、
ジチオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばエチルジチオカルボネート基(C2H5OC(S)S―)等)、
トリチオカルボネート基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばエチルトリチオカルボネート基(C2H5SC(S)S−)等)、
アシル基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばアセチル基、ベンゾイル基等)、
チオシアネート基、
イソチオシアネート基、
シアネート基、
イソシアネート基、
シアノ基、
アルキルチオ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばメタンチオ基、エチレンジチオ基等)、
アリールチオ基(好ましくは炭素原子数6〜20、例えばベンゼンチオ基、1,2-フェニレンジチオ基等)、
アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばメトキシ基等)および
アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜20、例えばフェノキシ基、キノリン-8-ヒドロキシル基等)からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいは
ハロゲン原子(好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、
カルボニル(…CO)、
ジアルキルケトン(好ましくは炭素原子数3〜20、例えばアセトン((CH3)2CO…)等)、
1,3-ジケトン(好ましくは炭素原子数3〜20、例えば、アセチルアセトン(CH3C(O…)CH=C(O―)CH3)、トリフルオロアセチルアセトン(CF3C(O…)CH=C(O―)CH3)、ジピバロイルメタン(tC4H9C(O…)CH=C(O―)tC4H9)、ジベンゾイルメタン(PhC(O…)CH=C(O―)Ph)、3-クロロアセチルアセトン(CH3C(O…)CCl=C(O―)CH3)等)、
カルボンアミド(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばCH3N=C(CH3)O―、―OC(=NH)―C(=NH)O―等)、
チオカルボンアミド(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばCH3N=C(CH3)S―等)、または
チオ尿素(好ましくは炭素原子数1〜20、例えばNH(…)=C(S―)NH2、CH3N(…)=C(S―)NHCH3、(CH3)2N―C(S…)N(CH3)2等)からなる配位子を表す。なお、「…」は配位結合を示す。
【0109】
配位子Xは、好ましくはアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、1,3-ジケトンまたはチオ尿素からなる配位子であり、より好ましくはアシルオキシ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基またはアリールチオ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、1,3-ジケトンまたはチオ尿素からなる配位子であり、特に好ましくはジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基およびイソシアネート基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子または1,3-ジケトンからなる配位子であり、最も好ましくは、ジチオカルバメート基、チオシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいは1,3-ジケトンからなる配位子である。なお配位子Xがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基等を含む場合、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。またアリール基、ヘテロ環基、シクロアルキル基等を含む場合、それらは置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。
【0110】
Xが2座配位子のとき、Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいは1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、またはチオ尿素からなる配位子であるのが好ましい。Xが1座配位子のとき、Xはチオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、チオ尿素からなる配位子であるのが好ましい。
【0111】
以下に配位子Xの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に示す構造式は幾つも取りうる共鳴構造のうちの1つの極限構造にすぎず、共有結合(―で示す)と配位結合(…で示す)の区別も形式的なもので、絶対的な区別を表すものではない。
【0112】
【化45】

【0113】
【化46】

【0114】
【化47】

【0115】
【化48】

【0116】
【化49】

【0117】
【化50】

【0118】
一般式(I)中のMがCu、Pd、Pt等、4配位を好む金属の場合はm2は0でありm1が1または2であるのが好ましく、m1が1のときはm3は1または2であるのが好ましく、m1が2のときはm3は0であるのが好ましい。6配位を好む金属の場合は、m1は1または2であることが好ましく、m1が1のときはm2は好ましくは1または2、より好ましくは1であり、m2が1のときはm3は1または2であるのが好ましく、m2が2のときはm3は0であるのが好ましい。m1が2のときはm2は好ましくは0または1、より好ましくは0であり、m2が0のときはm3は0〜2の整数であるのが好ましく、m2が1のときはm3は0であるのが好ましい。m1が3のときはm2およびm3ともに0であるのが好ましい。これらの中で、m1が1であり、m2が1であり、m3が1または2であり、かつLL2が上記一般式(V-1)により表される2座または3座の配位子であるのが特に好ましい。
【0119】
(E)対イオンCI
一般式(I)中のCIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。色素が陽イオンまたは陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を有するかどうかは、色素中の金属、配位子および置換基に依存する。置換基が解離性基を有する場合、解離して負電荷を持ってもよく、この場合にも分子全体の電荷はCIにより中和される。
【0120】
典型的な正の対イオンは無機または有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)、アルカリ金属イオンおよびプロトンである。一方、負の対イオンは無機陰イオンおよび有機陰イオンのいずれでもよく、例えばハロゲン陰イオン(例えばフッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、置換アリールスルホン酸イオン(例えばp-トルエンスルホン酸イオン、p-クロロベンゼンスルホン酸イオン等)、アリールジスルホン酸イオン(例えば1,3-ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5-ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6-ナフタレンジスルホン酸イオン等)、アルキル硫酸イオン(例えばメチル硫酸イオン等)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が挙げられる。さらに電荷均衡対イオンとして、イオン性ポリマーあるいは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよいし、金属錯イオン(例えばビスベンゼン-1,2-ジチオラトニッケル(III)等)も使用可能である。
【0121】
(F)結合基
一般式(I)により表される金属錯体色素は、半導体微粒子の表面に対する適当な結合基(interlocking group)を少なくとも1つ以上有するのが好ましく、1〜6個有するのがより好ましく、1〜4個有するのが特に好ましい。好ましい結合基はカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基(例えば―CONHOH等)、ホスホリル基(例えば―OP(O)(OH)2等)、ホスホニル基(例えば―P(O)(OH)2等)等の酸性基(解離性のプロトンを有する置換基)である。
【0122】
(G)金属錯体色素の具体例
上記金属錯体色素は、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基およびホスホニル基のいずれかを少なくとも1個有するのが好ましい。本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素のうち、特に好ましいものは下記一般式(VI):
Ru(LL1)m1(LL2)m2(X)m3・CI ・・・(VI)
(ただし、LL1は上記一般式(II)により表される2座または3座の配位子であり、好ましくは一般式(IV-1)または(IV-2)により表される配位子であり、
LL2は上記一般式(V-1)〜(V-8)のいずれかにより表される2座または3座の配位子であり、
Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミドまたはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
m1は1または2であり、m1が2のときLL1は同じでも異なっていてもよく、
m2は0または1であり、
m3は0〜2の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
m2とm3は同時に0とはならず、
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。)により表されるルテニウム錯体色素である。また、上記一般式(IV-1)および(IV-2)中のR11および/またはR12はアルコキシ基が置換したアルキル基であるのが好ましく、m1が1であり、m2が1であり、m3が1または2であるのが好ましい。
【0123】
金属錯体色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記具体例における金属錯体色素がプロトン解離性基を有する配位子を含む場合、該配位子は必要に応じて解離しプロトンを放出してもよい。
【0124】
【化51】

【0125】
【化52】

【0126】
【化53】

【0127】
【化54】

【0128】
【化55】

【0129】
【化56】

【0130】
【化57】

【0131】
【化58】

【0132】
【化59】

【0133】
【化60】

【0134】
【化61】

【0135】
【化62】

【0136】
【化63】

【0137】
【化64】

【0138】
【化65】

【0139】
【化66】

【0140】
【化67】

【0141】
【化68】

【0142】
【化69】

【0143】
【化70】

【0144】
【化71】

【0145】
【化72】

【0146】
【化73】

【0147】
【化74】

【0148】
【化75】

【0149】
本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素は、J. Am. Chem. Soc., 121, 4047 (1999)、Can. J. Chem., 75, 318 (1997)、Inorg. Chem., 27, 4007 (1988) 等の文献および文献中に引用された方法を参考にして合成できる。
【0150】
[2]光電変換素子
光電変換素子は、感光層に上記金属錯体色素によって増感された半導体微粒子を有するものである。好ましくは図1に示すように、導電層10、感光層20、電荷移動層30、対極導電層40の順に積層し、前記感光層20を本発明の金属錯色素22によって増感された半導体微粒子21と当該半導体微粒子21の間の空隙に充填された電荷輸送材料23とから構成する。電荷輸送材料23は、電荷移動層30に用いる材料と同じ成分からなる。また光電変換素子に強度を付与するため、導電層10側および/または対極導電層40側に、基板50を設けてもよい。以下本願では、導電層10および任意で設ける基板50からなる層を「導電性支持体」、対極導電層40および任意で設ける基板50からなる層を「対極」と呼ぶ。この光電変換素子を外部回路に接続して仕事をさせるようにしたものが光電池である。なお、図1中の導電層10、対極導電層40、基板50は、それぞれ透明導電層10a、透明対極導電層40a、透明基板50aであってもよい。
【0151】
図1に示す光電変換素子において、金属錯体色素22により増感された半導体微粒子21を含む感光層20に入射した光は色素22等を励起し、励起された色素22等中の高エネルギーの電子が半導体微粒子21の伝導帯に渡され、さらに拡散により導電層10に到達する。このとき色素22等の分子は酸化体となっている。光電池においては、導電層10中の電子が外部回路で仕事をしながら対極導電層40および電荷移動層30を経て色素22等の酸化体に戻り、色素22が再生する。感光層20は負極として働く。それぞれの層の境界(例えば導電層10と感光層20との境界、感光層20と電荷移動層30との境界、電荷移動層30と対極導電層40との境界等)では、各層の構成成分同士が相互に拡散混合していてもよい。以下各層について詳細に説明する。
【0152】
(A)導電性支持体
導電性支持体は、(1)導電層の単層、または(2)導電層および基板の2層からなる。強度や密封性が十分に保たれるような導電層を使用すれば、基板は必ずしも必要でない。
【0153】
(1)の場合、導電層として金属のように十分な強度が得られ、かつ導電性があるものを用いる。
【0154】
(2)の場合、感光層側に導電剤を含む、導電層を有する基板を使用することができる。好ましい導電剤としては金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、または導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。導電層の厚さは0.02〜10μm程度が好ましい。
【0155】
導電性支持体は表面抵抗が低い程よい。好ましい表面抵抗の範囲は100Ω/□以下であり、さらに好ましくは40Ω/□以下である。表面抵抗の下限には特に制限はないが、通常0.1Ω/□程度である。
【0156】
導電性支持体側から光を照射する場合には、導電性支持体は実質的に透明であるのが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であるのが好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0157】
透明導電性支持体としては、ガラスまたはプラスチック等の透明基板の表面に導電性金属酸化物からなる透明導電層を塗布または蒸着等により形成したものが好ましい。なかでもフッ素をドーピングした二酸化スズからなる導電層を低コストのソーダ石灰フロートガラスでできた透明基板上に堆積した導電性ガラスが好ましい。また低コストでフレキシブルな光電変換素子または太陽電池とするには、透明ポリマーフィルムに導電層を設けたものを用いるのがよい。透明ポリマーフィルムの材料としては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオクタチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等がある。十分な透明性を確保するために、導電性金属酸化物の塗布量はガラスまたはプラスチックの支持体1m2当たり0.01〜100gとするのが好ましい。
【0158】
透明導電性支持体の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。金属リードの材質はアルミニウム、銅、銀、金、白金、ニッケル等の金属が好ましく、特にアルミニウムおよび銀が好ましい。金属リードは透明基板に蒸着、スパッタリング等で設置し、その上にフッ素をドープした酸化スズ、またはITO膜からなる透明導電層を設けるのが好ましい。また透明導電層を透明基板に設けた後、透明導電層上に金属リードを設置するのも好ましい。金属リード設置による入射光量の低下は好ましくは10%以内、より好ましくは1〜5%とする。
【0159】
(B)感光層
本発明の金属錯体色素により増感された半導体微粒子を含む感光層において、半導体微粒子はいわゆる感光体として作用し、光を吸収して電荷分離を行い、電子と正孔を生ずる。色素増感された半導体微粒子では、光吸収およびこれによる電子および正孔の発生は主として色素において起こり、半導体微粒子はこの電子を受け取り、伝達する役割を担う。
【0160】
(1)半導体微粒子
半導体微粒子としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体半導体、III-V系化合物半導体、金属のカルコゲニド(例えば酸化物、硫化物、セレン化物等)、またはペロブスカイト構造を有する化合物(例えばチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等)等を使用することができる。
【0161】
好ましい金属のカルコゲニドとして、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブまたはタンタルの酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモンまたはビスマスの硫化物、カドミウムまたは鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の化合物半導体としては亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素または銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物等が挙げられる。
【0162】
光電変換素子に用いる半導体の好ましい具体例は、Si、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2等であり、さらに好ましくはTiO2、ZnO、SnO2、Fe2O3、WO3、Nb2O5、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2またはCuInSe2であり、特に好ましくは、TiO2またはNb2O5であり、最も好ましくはTiO2である。
【0163】
光電変換素子に用いる半導体は単結晶でも多結晶でもよい。変換効率の観点からは単結晶が好ましいが、製造コスト、原材料確保、エネルギーペイバックタイム等の観点からは多結晶が好ましい。
【0164】
半導体微粒子の粒径は一般にnm〜μmのオーダーであるが、投影面積を円に換算したときの直径から求めた一次粒子の平均粒径は5〜200nmであるのが好ましく、8〜100nmがより好ましい。また分散液中の半導体微粒子(二次粒子)の平均粒径は0.01〜100μmが好ましい。
【0165】
粒径分布の異なる2種類以上の微粒子を混合してもよく、この場合小さい粒子の平均サイズは5nm以下であるのが好ましい。入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒径の大きな、例えば300nm程度の半導体粒子を混合してもよい。
【0166】
半導体微粒子の作製法としては、作花済夫の「ゾル−ゲル法の科学」アグネ承風社(1998年)、技術情報協会の「ゾル−ゲル法による薄膜コーティング技術」(1995年)等に記載のゾル−ゲル法、杉本忠夫の「新合成法ゲル−ゾル法による単分散粒子の合成とサイズ形態制御」、まてりあ,第35巻,第9号,1012〜1018頁(1996年)等に記載のゲル−ゾル法が好ましい。またDegussa社が開発した塩化物を酸水素塩中で高温加水分解により酸化物を作製する方法も好ましい。
【0167】
半導体微粒子が酸化チタンの場合、上記ゾル−ゲル法、ゲル−ゾル法、塩化物の酸水素塩中での高温加水分解法はいずれも好ましいが、さらに清野学の「酸化チタン 物性と応用技術」技報堂出版(1997年)に記載の硫酸法および塩素法を用いることもできる。さらにゾル−ゲル法として、バーブらのジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティー,第80巻、第12号、3157〜3171頁(1997年)に記載の方法や、バーンサイドらのケミストリー・オブ・マテリアルズ,第10巻,第9号,2419〜2425頁に記載の方法も好ましい。
【0168】
(2)半導体微粒子層
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布するには、半導体微粒子の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法の他に、前述のゾル−ゲル法等を使用することもできる。光電変換素子の量産化、半導体微粒子液の物性、導電性支持体の融通性等を考慮した場合、湿式の製膜方法が比較的有利である。湿式の製膜方法としては、塗布法、印刷法が代表的である。
【0169】
半導体微粒子の分散液を作製する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他に、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。
【0170】
分散媒としては、水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、またはキレート剤等を分散助剤として用いてもよい。
【0171】
塗布方法としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分にできるものとして、特公昭58-4589号に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機としてスピン法やスプレー法も好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセットおよびグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等が好ましい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を選択する。
【0172】
半導体微粒子の分散液の粘度は半導体微粒子の種類や分散性、使用溶媒種、界面活性剤やバインダー等の添加剤により大きく左右される。高粘度液(例えば0.01〜500Poise)ではエクストルージョン法、キャスト法、スクリーン印刷法等が好ましい。また低粘度液(例えば0.1Poise以下)ではスライドホッパー法、ワイヤーバー法またはスピン法が好ましく、均一な膜にすることが可能である。なおある程度の塗布量があれば低粘度液の場合でもエクストルージョン法による塗布は可能である。このように塗布液の粘度、塗布量、支持体、塗布速度等に応じて、適宜湿式製膜方法を選択すればよい。
【0173】
半導体微粒子の層は単層に限らず、粒径の違った半導体微粒子の分散液を多層塗布したり、種類が異なる半導体微粒子(あるいは異なるバインダー、添加剤)を含有する塗布層を多層塗布したりすることもできる。一度の塗布で膜厚が不足の場合にも多層塗布は有効である。多層塗布には、エクストルージョン法またはスライドホッパー法が適している。また多層塗布をする場合は同時に多層を塗布してもよく、数回から十数回順次重ね塗りしてもよい。さらに順次重ね塗りであればスクリーン印刷法も好ましく使用できる。
【0174】
一般に半導体微粒子層の厚さ(感光層の厚さと同じ)が厚くなるほど単位投影面積当たりの担持色素量が増えるため、光の捕獲率が高くなるが、生成した電子の拡散距離が増すため電荷再結合によるロスも大きくなる。したがって、半導体微粒子層の好ましい厚さは0.1〜100μmである。光電池に用いる場合、半導体微粒子層の厚さは0.5〜30μmが好ましく、1〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m2当たり塗布量は0.1〜200gが好ましく、1〜50gがより好ましい。
【0175】
半導体微粒子を導電性支持体上に塗布した後で半導体微粒子同士を電子的に接触させるとともに、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させるために、加熱処理するのが好ましい。好ましい加熱温度の範囲は40℃以上700℃未満であり、より好ましくは100℃以上600℃以下である。また加熱時間は10分〜10時間程度である。ポリマーフィルムのように融点や軟化点の低い支持体を用いる場合、高温処理は支持体の劣化を招くため、好ましくない。またコストの観点からもできる限り低温であるのが好ましい。低温化は、先に述べた5nm以下の小さい半導体微粒子の併用や鉱酸の存在下での加熱処理等により可能となる。
【0176】
加熱処理後半導体微粒子の表面積を増大させたり、半導体微粒子近傍の純度を高め、色素から半導体粒子への電子注入効率を高める目的で、例えば四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。
【0177】
半導体微粒子は多くの色素を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。このため半導体微粒子の層を支持体上に塗布した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であるのが好ましく、さらに100倍以上であるのが好ましい。この上限は特に制限はないが、通常1000倍程度である。
【0178】
(3)半導体微粒子への金属錯体色素の吸着
半導体微粒子に金属錯体色素を吸着させるには、金属錯体色素の溶液中によく乾燥した半導体微粒子層を有する導電性支持体を浸漬するか、金属錯体色素の溶液を半導体微粒子層に塗布する方法を用いることができる。前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等が使用可能である。なお浸漬法の場合、金属錯体色素の吸着は室温で行ってもよいし、特開平7-249790号に記載されているように加熱還流して行ってもよい。また後者の塗布方法としては、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等があり、印刷方法としては、凸版、オフセット、グラビア、スクリーン印刷等がある。溶媒は、金属錯体色素の溶解性に応じて適宜選択できる。例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、t-ブタノール、ベンジルアルコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ジメチルスルホキシド、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド等)、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、3-メチルオキサゾリジノン、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭酸エステル類(炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等)、ケトン類(アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素(へキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン等)、水やこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0179】
金属錯体色素の溶液の粘度についても、半導体微粒子層の形成時と同様に、高粘度液(例えば0.01〜500Poise)ではエクストルージョン法の他に各種印刷法が適当であり、また低粘度液(例えば0.1Poise以下)ではスライドホッパー法、ワイヤーバー法またはスピン法が適当であり、いずれも均一な膜にすることが可能である。
【0180】
このように金属錯体色素の塗布液の粘度、塗布量、導電性支持体、塗布速度等に応じて、適宜色素の吸着方法を選択すればよい。塗布後の色素吸着に要する時間は、量産化を考えた場合、なるべく短い方がよい。
【0181】
未吸着の金属錯体色素の存在は素子性能の外乱になるため、吸着後速やかに洗浄により除去するのが好ましい。湿式洗浄槽を使い、アセトニトリル等の極性溶剤、アルコール系溶剤のような有機溶媒で洗浄を行うのが好ましい。また色素の吸着量を増大させるため、吸着前に加熱処理を行うのが好ましい。加熱処理後、半導体微粒子表面に水が吸着するのを避けるため、常温に戻さずに40〜80℃の間で素早く色素を吸着させ BR>驍フが好ましい。
【0182】
金属錯体色素の全使用量は、導電性支持体の単位表面積(1m2)当たり0.01〜100mmolが好ましい。また色素の半導体微粒子に対する吸着量は、半導体微粒子1g当たり0.01〜1mmolであるのが好ましい。このような金属錯体色素の吸着量とすることにより、半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素が少なすぎると増感効果が不十分となり、また色素が多すぎると、半導体に付着していない色素が浮遊し、増感効果を低減させる原因となる。
【0183】
光電変換の波長域をできるだけ広くするとともに変換効率を上げるため、二種類以上の色素を混合することもできる。この場合、光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素およびその割合を選ぶのが好ましい。具体的には、本発明の金属錯体色素を2種以上併用したり、本発明の金属錯体色素と従来の金属錯体色素および/またはポリメチン色素とを併用することが可能である。
【0184】
会合のような金属錯体色素同士の相互作用を低減する目的で、無色の化合物を半導体微粒子に共吸着させてもよい。共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)等が挙げられる。また紫外線吸収剤を併用することもできる。
【0185】
余分な金属錯体色素の除去を促進する目的で、金属錯体色素を吸着した後にアミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としてはピリジン、4-t-ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0186】
(C)電荷移動層
電荷移動層は金属錯体色素の酸化体に電子を補充する機能を有する層である。電荷移動層に用いることのできる代表的な材料として、酸化還元対を有機溶媒に溶解した液体(電解液)、酸化還元対を有機溶媒に溶解した液体をポリマーマトリクスに含浸したいわゆるゲル電解質、酸化還元対を含有する溶融塩等が挙げられる。さらに固体電解質や正孔(ホール)輸送材料を用いることもできる。
【0187】
光電変換素子で使用する電解液は電解質、溶媒および添加物からなるのが好ましい。電解質としては、(a)I2とヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、CaI2等の金属ヨウ化物、またはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩等)との組み合わせ、(b)Br2と臭化物(LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2等の金属臭化物、またはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物の臭素塩等)との組み合わせ、(c)フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオン等の金属錯体、(d)ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等の硫黄化合物、(e)ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等を用いることができる。なかでも、I2とLiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩とを組み合わせた電解質が好ましい。上記電解質は混合して用いてもよい。また電解質はEP718288、WO95/18456、J. Electrochem. Soc., Vol.143, No.10, 3099 (1996)、Inorg. Chem., 35, 1168〜1178 (1996) 等に記載された室温で溶融状態の塩(溶融塩)を使用することもできる。溶融塩を電解質として使用する場合、溶媒は使用しなくても構わない。
【0188】
好ましい電解質濃度は0.1〜15Mであり、さらに好ましくは0.2〜10Mである。また電解質にヨウ素を添加する場合の好ましいヨウ素の添加濃度は0.01〜0.5Mである。
【0189】
電解質用溶媒としては、低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めるか、あるいはその両方であるために、優れたイオン伝導性を発現できる化合物を使用するのが望ましい。このような溶媒の例として、例えば下記のものが挙げられる。
【0190】
(a)炭酸エステル類
例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等が好ましい。
【0191】
(b)ラクトン類
例えばγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、クロトラクトン、γ-カプロラクトン、δ-バレロラクトン等が好ましい。
【0192】
(c)エーテル類
例えばエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、トリメトキシメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等が好ましい。
【0193】
(d)アルコール類
例えばメタノール、エタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等が好ましい。
【0194】
(e)グリコール類
例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等が好ましい。
【0195】
(f)グリコールエーテル類
例えばエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等が好ましい。
【0196】
(g)テトラヒドロフラン類
例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等が好ましい。
【0197】
(h)ニトリル類
例えばアセトニトリル、グルタロジニトリル、プロピオニトリル、メトキシアセトニトリル、ベンゾニトリル等が好ましい。
【0198】
(i)カルボン酸エステル類
例えばギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等が好ましい。
【0199】
(j)リン酸トリエステル類
例えばリン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が好ましい。
【0200】
(k)複素環化合物類
例えばN-メチルピロリドン、4-メチル-1,3-ジオキサン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-プロパンサルトン、スルホラン等が好ましい。
【0201】
(l)その他
ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ニトロメタン等の非プロトン性有機溶媒、水等が好ましい。
【0202】
これらの中では、炭酸エステル系、ニトリル系、複素環化合物系の溶媒が好ましい。これらの溶媒は必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0203】
また光電変換素子では、J. Am. Ceram. Soc., 80 (12), 3157〜3171 (1997) に記載されているようなt-ブチルピリジンや、2-ピコリン、2,6-ルチジン等の塩基性化合物を添加することもできる。塩基性化合物を添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05〜2Mである。
【0204】
電解質はポリマーやオイルゲル化剤の添加、共存する多官能モノマー類の重合、ポリマーとの架橋反応等の方法により、ゲル化(固体化)させて使用することもできる。ポリマーの添加によりゲル化させる場合は、"Polymer Electrolyte Reviews-1,2"(J. R. MacCaLLumとC. A. Vincentの共編、ELSEIVER APPLIED SCIENCE)に記載された化合物を使用することができるが、特にポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデンを使用するのが好ましい。オイルゲル化剤の添加によりゲル化させる場合は、J. Chem. Soc. Japan, Ind. Chem. Sec., 46, 779 (1943)、J. Am. Chem. Soc., 111, 5542 (1989)、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1993, 390、Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 35, 1949 (1996)、Chem. Lett., 1996, 885、J. Chem. Soc., Chem. Commun., 545 (1997) 等に記載されている化合物を使用することができる。なかでも好ましい化合物は分子構造中にアミド構造を有する化合物である。
【0205】
電解質に共存させた多官能モノマー類の重合によりゲル電解質を形成する場合、多官能モノマー類、重合開始剤、電解質および溶媒から溶液を調製し、キャスト法、塗布法、浸漬法、含浸法等の方法により色素増感半導体微粒子層(感光層20)上に塗布する。図1に示すように、色素増感半導体微粒子21間の空隙にゾル状電解質を充填するとともに、感光層20上にゾル状電解質層を形成し、その後ラジカル重合することによりゲル化させる方法が好ましい。
【0206】
多官能性モノマーはエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物であるのが好ましく、例えばジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が好ましい。
【0207】
ゲル電解質は、上記多官能性モノマー以外に単官能モノマーを含んでいてもよい。単官能モノマーとしては、アクリル酸またはα-アルキルアクリル酸(例えばメタクリル酸等)類から誘導されるエステル類またはアミド類(例えばN-イソプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、N-プロピルアクリレート、N-ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等)、ビニルエステル類(例えば酢酸ビニル)、マレイン酸またはフマル酸から誘導されるエステル類(例えばマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル等)、有機酸塩類(例えばマレイン酸、フマル酸またはp-スチレンスルホン酸のナトリウム塩等)、ニトリル類(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、ジエン類(例えばブタジエン、シクロペンタジエン、イソプレン等)、芳香族ビニル化合物類(例えばスチレン、p-クロルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等)、含窒素複素環を有するビニル化合物類、4級アンモニウム塩を有するビニル化合物類、N-ビニルホルムアミド、N-ビニル-N-メチルホルムアミド、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニリデンフルオライド、ビニリデンクロライド、ビニルアルキルエーテル類(例えばメチルビニルエーテル等)、オレフィン類(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等)、N-フェニルマレイミド等が好ましい。モノマー全量に対する多官能性モノマーの割合は0.5〜70重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは1.0〜50重量%である。
【0208】
上記ゲル電解質用モノマーは、大津隆行・木下雅悦共著の「高分子合成の実験法」(化学同人)や、大津隆行著の「講座重合反応論1ラジカル重合(I)」(化学同人)等に記載された一般的な高分子合成法であるラジカル重合法により重合することができる。ゲル電解質用モノマーのラジカル重合は加熱、光、紫外線、電子線等により、または電気化学的に行うことができるが、特に加熱によりラジカル重合させるのが好ましい。
【0209】
加熱により架橋高分子を形成する場合、好ましい重合開始剤は、例えば2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス(ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキシド等の過酸化物系開始剤等である。重合開始剤の好ましい添加量は、モノマー総量に対して0.01〜20重量%であり、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。
【0210】
ゲル電解質に占めるモノマー類の重量組成範囲は0.5〜70重量%であるのが好ましく、さらに好ましくは1.0〜50重量%である。
【0211】
ポリマーの架橋反応により電解質をゲル化させる場合、架橋性反応基を有するポリマーおよび架橋剤を併用するのが望ましい。好ましい架橋性反応基は、含窒素複素環(例えばピリジン環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサゾール環、トリアゾール環、モルホリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等)であり、また好ましい架橋剤は、窒素原子に対して求電子反応可能な2官能性以上の試薬(例えばハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、スルホン酸エステル、酸無水物、酸クロライド、イソシアネート等)である。
【0212】
電解質の代りに有機および/または無機の正孔輸送材料を使用することもできる。光電変換素子に好ましく用いることのできる有機正孔輸送材料としては、以下のものが挙げられる。
【0213】
(a)芳香族アミン類
N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(4-メトキシフェニル)-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン(J. Hagen et al., Synthetic Metal, 89, 215〜220, (1997) )、2,2',7,7'-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9'-スピロビフルオレン(Nature, Vol. 395, 8 Oct. 1998, pp. 583-585およびWO97/10617)、1,1-ビス[4-(ジ-p-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサンの3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59-194393号)、4,4'-ビス[(N-1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルのように、2個以上の3級アミンを含み、2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に結合した芳香族アミン(特開平5-234681号)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4923774号、特開平4-308688号)、N,N'-ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1'-ビフェニル)-4,4'-ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4764625号)、α,α,α',α'-テトラメチル-α,α'-ビス[4-(ジ-p-トリルアミノ)フェニル]-p-キシレン(特開平3-269084号)、p-フェニレンジアミン誘導体、分子全体が立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4-129271号)、ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4-175395号)、エチレン基で3級芳香族アミン単位を連結した芳香族ジアミン(特開平4-264189号)、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4-290851号)、ベンジルフェニル化合物(特開平4-364153号)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5-25473号)、トリアミン化合物(特開平5-239455号)、ビス(ジピリジルアミノ)ビフェニル(特開平5-320634号)、N,N,N-トリフェニルアミン誘導体(特開平6-1972号)、フェノキザジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7-138562号)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7-252474号)等。
【0214】
(b)オリゴチオフェン化合物
α-オクチルチオフェンおよびα,ω-ジヘキシル-α-オクチルチオフェン(Adv. Mater., Vol. 9, No. 7, 5578 (1997))、ヘキサドデシルドデシチオフェン(Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 34, No. 3, 303-307 (1995))、2,8-ジヘキシルアンスラ[2,3-b:6,7-b']ジチオフェン(JACS, Vol. 120, No. 4, 664-672 (1998))等。
【0215】
(c)導電性高分子
ポリピロール(K. Murakoshi et al., Chem. Lett., 1997, p. 471)、ポリアセチレンおよびその誘導体、ポリ(p-フェニレン)およびその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)およびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリトルイジンおよびその誘導体等(それぞれ「Handbook of Organic Conductive Molecules and Polymers」, Vol.1〜4(NALWA著、WILEY出版)に記載)。
【0216】
有機正孔(ホール)輸送材料に、Nature, Vol.395, 8 Oct. 583〜585 (1998)に記載されているように、ドーパントレベルをコントロールするためにトリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネートのようなカチオンラジカルを含有する化合物を添加したり、酸化物半導体表面のポテンシャル制御(空間電荷層の補償)を行うためにLi[(CF3SO2)2N]のような塩を添加してもよい。
【0217】
有機正孔輸送材料は真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができる。また正孔輸送材料を電解液の替わりに使用するときは、短絡防止のためElectorochim. Acta, 40, 643-652 (1995) に記載されているスプレーパイロリシス等の手法を用いて、二酸化チタン薄層を下塗り層として塗設するのが好ましい。
【0218】
無機固体化合物を電解質の代わりに使用する場合、ヨウ化銅(p-CuI)(J. Phys. D:Appl. Phys., 31, 1492-1496 (1998))、チオシアン化銅(Thin Solid Films, 261, 307-310 (1995)、J. Appl. Phys., 80 (8), 15 October 1996, 4749-4754、Chem. Mater., 10, 1501-1509, (1998)、SemiCond. Sci. Technol., 10, 1689-1693)等を、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解メッキ法等の手法により電極内部に導入することができる。
【0219】
電荷移動層を形成するには以下の2通りの方法を利用できる。1つは、色素増感した半導体微粒子層の上にスペーサーを介して対極を貼り合わせておき、両者の開放端を電解質溶液に浸漬することにより、半導体微粒子層内および半導体微粒子層と対極との空隙に電解質溶液を浸透させる方法である。もう1つは、半導体微粒子層に電解質溶液を塗布することにより、半導体微粒子層内に電解質溶液を浸透させるとともに、半導体微粒子層上に電荷移動層を形成し、最後に対極を設ける方法である。
【0220】
前者の場合、半導体微粒子層と対極との空隙に電解質溶液を浸透させる方法として、毛管現象を利用する常圧法と、半導体微粒子層と対極との上部開放端(電解質溶液に浸漬していない方の開放端)から吸い上げる減圧法がある。
【0221】
後者の場合、湿式の電荷移動層のときには未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置を施す。またゲル電解質の場合には、湿式で塗布して重合等の方法により固体化した後に対極を設けてもよいし、対極を設けた後に固体化してもよい。電解液の他に湿式有機正孔輸送材料やゲル電解質の層を形成する方法としては、半導体微粒子層の形成や色素吸着の場合と同様に、浸漬法、ローラ法、ディップ法、エアーナイフ法、エクストルージョン法、スライドホッパー法、ワイヤーバー法、スピン法、スプレー法、キャスト法、各種印刷法等を利用できる。固体電解質や固体の正孔(ホール)輸送材料の場合には、真空蒸着法やCVD法等のドライ成膜処理で電荷移動層を形成し、その後対極を設けてもよい。
【0222】
固体化できない電解液や湿式の正孔輸送材料の場合には塗布後速やかにエッジ部分を封止するのが好ましく、また固体化可能な正孔輸送材料の場合には湿式付与により正孔輸送層を膜形成した後、例えば光重合や熱ラジカル重合等の方法により固体化するのが好ましい。このように膜付与方式は電解液物性や工程条件により適宜選択すればよい。
【0223】
なお、電荷移動層中の水分量は10,000ppm以下が好ましく、さらに好ましくは2,000ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以下である。
【0224】
(D)対極
対極は、光電変換素子を光電池としたとき、光電池の正極として作用するものである。対極は前記の導電性支持体と同様に、導電性材料からなる対極導電層の単層構造でもよいし、対極導電層と支持基板から構成されていてもよい。対極導電層に用いる導電材としては、金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)等が挙げられる。対極の好ましい支持基板の例は、ガラスおよびプラスチックであり、これに上記の導電材を塗布または蒸着して用いる。対極導電層の厚さは特に制限されないが、3nm〜10μmが好ましい。対極導電層が金属製である場合は、その厚さは好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは5nm〜3μmの範囲である。
【0225】
導電性支持体と対極のいずれか一方または両方から光を照射してよいので、感光層に光が到達するためには、導電性支持体と対極の少なくとも一方が実質的に透明であればよい。発電効率の向上の観点からは、導電性支持体を透明にして、光を導電性支持体側から入射させるのが好ましい。この場合対極は光を反射する性質を有するのが好ましい。このような対極としては、金属または導電性の酸化物を蒸着したガラスまたはプラスチック、あるいは金属薄膜を使用できる。
【0226】
対極支持体を設ける手順としては、(イ)電荷移動層を形成した後でその上に設ける場合と、(ロ)色素増感半導体微粒子の層の上にスペーサーを介して対極を配置した後でその空隙に電解質溶液を充填する場合の2通りある。(イ)の場合、電荷移動層上に直接導電材を塗布、メッキまたは蒸着(PVD、CVD)するか、導電層を有する基板の導電層側を貼り付ける。また(ロ)の場合、色素増感半導体微粒子層の上にスペーサーを介して対極を組み立てて固定し、得られた組立体の開放端を電解質溶液に浸漬し、毛細管現象または減圧を利用して色素増感半導体微粒子層と対極との空隙に電解質溶液を浸透させる。なお、このとき電解質が高分子電解質の場合等は必要に応じて加熱等により架橋させる。また、導電性支持体の場合と同様に、特に対極が透明の場合には、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いるのが好ましい。なお、好ましい金属リードの材質および設置方法、金属リード設置による入射光量の低下等は導電性支持体の場合と同じである。
【0227】
(E)その他の層
電極として作用する導電性支持体および対極の一方または両方に、保護層、反射防止層等の機能性層を設けてもよい。このような機能性層を多層に形成する場合、同時多層塗布法や逐次塗布法を利用できるが、生産性の観点からは同時多層塗布法が好ましい。同時多層塗布法では、生産性および塗膜の均一性を考えた場合、スライドホッパー法やエクストルージョン法が適している。これらの機能性層の形成には、その材質に応じて蒸着法や貼り付け法等を用いることができる。
【0228】
(F)光電変換素子の内部構造の具体例
上述のように、光電変換素子の内部構造は目的に合わせ様々な形態が可能である。大きく2つに分ければ、両面から光の入射が可能な構造と、片面からのみ可能な構造が可能である。図2〜図9に好ましい光電変換素子の内部構造を例示する。
【0229】
図2は、透明導電層10aと透明対極導電層40aとの間に、感光層20と、電荷移動層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造となっている。図3は、透明基板50a上に一部金属リード11を設け、さらに透明導電層10aを設け、下塗り層60、感光層20、電荷移動層30および対極導電層40をこの順で設け、さらに支持基板50を配置したものであり、導電層側から光が入射する構造となっている。図4は、支持基板50上に導電層10を有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30と透明対極導電層40aとを設け、一部に金属リード11を設けた透明基板50aを、金属リード11側を内側にして配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図5は、2つの透明基板50a上にそれぞれ一部金属リード11を設け、各々透明導電層10aまたは透明対極導電層40aを設けたものの間に下塗り層60と感光層20と電荷移動層30とを介在させたものであり、両面から光が入射する構造である。図6は、透明基板50a上に透明導電層10aを有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30および対極導電層40を設け、この上に支持基板50を配置したものであり導電層側から光が入射する構造である。図7は、支持基板50上に導電層10を有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30および透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、対極側から光が入射する構造である。図8は、透明基板50a上に透明導電層10aを有し、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに電荷移動層30および透明対極導電層40aを設け、この上に透明基板50aを配置したものであり、両面から光が入射する構造となっている。図9は、支持基板50上に導電層10を設け、下塗り層60を介して感光層20を設け、さらに固体の電荷移動層30を設け、この上に一部対極導電層40または金属リード11を有するものであり、対極側から光が入射する構造となっている。
【0230】
[3]光電池
光電池は、上記光電変換素子を外部回路で仕事をさせるようにしたものである。電荷移動層がイオン伝導性電解質の場合は光電気化学電池(photoelectrochemical cell)の1種として特徴づけられる。光電池は構成物の劣化や内容物の揮散を防止するために、側面をポリマーや接着剤等で密封するのが好ましい。導電性支持体および対極にリードを介して接続される外部回路自体は公知のものでよい。
【0231】
[4]色素増感型太陽電池
光電変換素子をいわゆる太陽電池に適用する場合、そのセル内部の構造は基本的に上述した光電変換素子の構造と同じである。以下、光電変換素子を用いた太陽電池のモジュール構造について説明する。
【0232】
色素増感型太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的には同様のモジュール構造をとりうる。太陽電池モジュールは、一般的には金属、セラミック等の支持基板の上にセルが構成され、その上を充填樹脂や保護ガラス等で覆い、支持基板の反対側から光を取り込む構造をとるが、支持基板に強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを構成してその透明の支持基板側から光を取り込む構造とすることも可能である。具体的には、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ、ポッティングタイプと呼ばれるモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池などで用いられる基板一体型モジュール構造等が知られている。色素増感型太陽電池も使用目的や使用場所および環境により、適宜これらのモジュール構造を選択できる。
【0233】
代表的なスーパーストレートタイプあるいはサブストレートタイプのモジュールは、片側または両側が透明で反射防止処理を施された支持基板の間に一定間隔にセルが配置され、隣り合うセル同士が金属リードまたはフレキシブル配線等によって接続され、外縁部に集電電極が配置されており、発生した電力を外部に取り出される構造となっている。基板とセルの間には、セルの保護や集電効率向上のため、目的に応じエチレンビニルアセテート(EVA)等様々な種類のプラスチック材料をフィルムまたは充填樹脂の形で用いてもよい。また、外部からの衝撃が少ないところなど表面を硬い素材で覆う必要のない場所において使用する場合には、表面保護層を透明プラスチックフィルムで構成し、または上記充填樹脂を硬化させることによって保護機能を付与し、片側の支持基板をなくすことが可能である。支持基板の周囲は、内部の密封およびモジュールの剛性を確保するため金属製のフレームでサンドイッチ状に固定し、支持基板とフレームの間は封止材料で密封シールする。また、セルそのものや支持基板、充填材料および封止材料に可撓性の素材を用いれば、曲面の上に太陽電池を構成することもできる。
【0234】
スーパーストレートタイプの太陽電池モジュールは、例えば、基板供給装置から送り出されたフロント基板をベルトコンベヤ等で搬送しながら、その上にセルを封止材料−セル間接続用リード線、背面封止材料等と共に順次積層した後、背面基板または背面カバーを乗せ、外縁部にフレームをセットして作製することができる。
【0235】
一方、サブストレートタイプの場合、基板供給装置から送り出された支持基板をベルトコンベヤ等で搬送しながら、その上にセルをセル間接続用リード線、封止材料等と共に順次積層した後、フロントカバーを乗せ、周縁部にフレームをセットして作製することができる。
【0236】
光電変換素子を基板一体型モジュール化した構造の一例を図10に示す。図10は、透明な基板50aの一方の面上に透明な導電層10aを有し、この上にさらに色素吸着TiO2を含有した感光層20、固体の電荷移動層30および金属対極導電層40を設けたセルがモジュール化されており、基板50aの他方の面には反射防止層70が設けられている構造を表す。このような構造とする場合、入射光の利用効率を高めるために、感光層20の面積比率(光の入射面である基板50a側から見たときの面積比率)を大きくした方が好ましい。
【0237】
図10に示した構造のモジュールの場合、基板上に透明導電層、感光層、電荷移動層、対極等が立体的かつ一定間隔で配列されるように、選択メッキ、選択エッチング、CVD、PVD等の半導体プロセス技術、あるいはパターン塗布または広幅塗布後のレーザースクライビング、プラズマCVM(Solar Energy Materials and Solar Cells, 48, p 373-381等に記載)、研削等の機械的手法等によりパターニングすることで所望のモジュール構造を得ることができる。
【0238】
以下にその他の部材や工程について詳述する。
【0239】
封止材料としては、耐候性付与、電気絶縁性付与、集光効率向上、セル保護性(耐衝撃性)向上等の目的に応じ液状EVA(エチレンビニルアセテート)、フィルム状EVA、フッ化ビニリデン共重合体とアクリル樹脂の混合物等、様々な材料が使用可能である。モジュール外縁と周縁を囲むフレームとの間は、耐候性および防湿性が高い封止材料を用いるのが好ましい。また、透明フィラーを封止材料に混入して強度や光透過率を上げることができる。
【0240】
封止材料をセル上に固定するときは、材料の物性に合った方法を用いる。フィルム状の材料の場合はロール加圧後加熱密着、真空加圧後加熱密着等、液またはペースト状の材料の場合はロールコート、バーコート、スプレーコート、スクリーン印刷等の様々な方法が可能である。
【0241】
支持基板としてPET、PEN等の可撓性素材を用いる場合は、ロール状の支持体を繰り出してその上にセルを構成した後、上記の方法で連続して封止層を積層することができ、生産性が高い。
【0242】
発電効率を上げるために、モジュールの光取り込み側の基板(一般的には強化ガラス)の表面に反射防止処理を施してもよい。反射防止処理方法としては、反射防止膜をラミネートする方法、反射防止層をコーティングする方法等がある。
【0243】
また、セルの表面をグルービング、テクスチャリング等の方法で処理することによって、入射した光の利用効率を高めることが可能である。
【0244】
発電効率を上げるためには、光を損失なくモジュール内に取り込むことが最重要であるが、光電変換層を透過してその内側まで到達した光を反射させて光電変換層側に効率良く戻すことも重要である。光の反射率を高める方法としては、支持基板面を鏡面研磨した後、AgやAl等を蒸着またはメッキする方法、セルの最下層にAl-Mg、Al-Ti等の合金層を反射層として設ける方法、アニール処理によって最下層にテクスチャー構造を作る方法等がある。
【0245】
また、発電効率を上げるためにはセル間接続抵抗を小さくすることが、内部電圧降下を抑える意味で重要である。セル同士を接続する方法としては、ワイヤーボンディング、導電性フレキシブルシートによる接続が一般的であるが、導電性粘着テープや導電性接着剤を用いてセルを固定すると同時に電気的に接続する方法、導電性ホットメルトを所望の位置にパターン塗布する方法等もある。
【0246】
ポリマーフィルム等のフレキシブル支持体を用いた太陽電池の場合、ロール状の支持体を送り出しながら前述の方法によって順次セルを形成し、所望のサイズに切断した後、周縁部をフレキシブルで防湿性のある素材でシールすることにより電池本体を作製できる。また、Solar Energy Materials and Solar Cells, 48, p383-391記載の「SCAF」と呼ばれるモジュール構造とすることもできる。さらに、フレキシブル支持体を用いた太陽電池は曲面ガラス等に接着固定して使用することもできる。
【0247】
以上詳述したように、使用目的や使用環境に合わせて様々な形状・機能を持つ太陽電池を製作することができる。
【実施例】
【0248】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0249】
実施例1
金属錯体色素の合成
以下、一般式(I)により表される金属錯体色素D-1、D-82、D-2、D-85、D-45およびD-92の合成方法を示す。
【0250】
【化76】

【0251】
【化77】

【0252】
【化78】

【0253】
【化79】

【0254】
(A)D-1の合成
8ml(0.057mol)のジイソプロピルアミンを乾燥テトラヒドロフラン(THF)16mlに溶解し、窒素雰囲気下、反応液を0℃に保ちながら35.2ml(0.056mol)のn-ブチルリチウムヘキサン溶液(濃度1.6mol/l)を滴下し、0℃で20分間攪拌してLDAを調製した。この反応液に4.0g(0.0217mol)の4,4'-ジメチルビピリジン1を乾燥THF80mlに溶解してなる溶液を、反応液を0℃に保ちながら滴下し、0℃で75分間攪拌した。次に7.64g(0.0432mol)のアルデヒド2を乾燥THF80mlに溶解してなる溶液を反応液を0度に保ちながら滴下し、0℃で75分間、室温で5時間攪拌した。得られた溶液にメタノール8mlを加え、続いて水80mlを加え、析出した結晶をろ別、水洗し、ベンゼンから再結晶してアルコール3の結晶6.9gを得た(収率66%)。
【0255】
6.76g(14mmol)のアルコール3を10%硫酸水溶液170mlに溶解し、90℃で2時間攪拌した。この水溶液を冷却後、水酸化ナトリウム水溶液(濃度1mol/l)で中和し、塩化メチレンを用いて3回抽出し、水洗した。得られた塩化メチレン溶液を硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮し、塩化メチレン−メタノール混合溶媒に分散し、ろ別してビス(ジメチルアミノスチリル)ビピリジン4の黄色結晶5.3gを得た(収率85%)。
【0256】
0.97g(2mmol)のルテニウム錯体5および0.9gのビス(ジメチルアミノスチリル)ビピリジン4をクロロホルム20mlに溶解し、4時間還流した。減圧濃縮後、アセトン−ジエチルエーテル混合液を加え、生じた結晶をろ別し、エーテルで洗浄して1.54gのルテニウム錯体6を得た(収率99%)。なお、ルテニウム錯体5はJ. Chem. Soc., Dalton, 1973, 204 に記載の方法を参考に合成した。
【0257】
0.155g(0.2mmol)のルテニウム錯体6および0.0324g(0.4mmol)のチオシアン酸ナトリウムをDMF30mlおよび水10mlの混合溶媒に溶解し、窒素雰囲気下、暗所にて2時間還流した。次いで反応液に0.045g(0.2mmol)のビピリジン-4,4'-ジカルボン酸7を加え6時間還流した。得られた溶液を濃縮し、メタノールに分散、ろ別して金属錯体色素D-1の結晶0.046gを得た(収率50%)。なお、構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0258】
(B)D-82の合成
0.1257g(0.2mmol)のルテニウム錯体8、および0.179gの上記のようにして得たビス(ジメチルアミノスチリル)ビピリジン4を、エタノール10mlおよび水10mlの混合溶液に溶解し、窒素雰囲気下、暗所にて10時間還流した。この溶液を濃縮後、メタノールに溶解してセファデックスLH-20カラム(展開溶媒:メタノール)にて精製し、0.12gの金属錯体色素D-82を得た(収率46%)。なお、構造はNMRスペクトルにより確認した。また、ルテニウム錯体8はJ. Chem. Soc., Dalton, 1973, 204に記載の方法を参考に合成した。
【0259】
(C)D-2の合成
アルデヒド2に代えて等モルのアルデヒド9を用いたこと以外は上記アルコール3の合成と同様に、アルコール10を合成した。アルコール3に代えてこのアルコール10を用いたこと以外は上記金属錯体色素D-1の合成と同様に、金属錯体色素D-2を合成した。なお、構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0260】
(D)D-85の合成
アルコール3に代えてアルコール10を用いたこと以外は上記金属錯体色素D-82の合成と同様に、金属錯体色素D-85を合成した。なお、構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0261】
(E)D-45の合成
6.76g(50mmol)の2-アセチル-4-ピコリン11、6.76g(50mmol)のアセチルアニリン12および0.5mlの20%水酸化ナトリウム水溶液をエタノール300mlに溶解し、窒素雰囲気下、10時間還流した。得られた溶液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/4)にて精製してジメチルピリジルキノリン13の結晶7.7gを得た(収率66%)。なお、2-アセチル-4-ピコリン11はJ. Am. Chem. Soc., 119, 5609 (1997) に記載の方法により合成した。
【0262】
4,4'-ジメチルビピリジン1に代えて等モルのジメチルピリジル
キノリン13を用いたこと以外は上記アルコール3の合成と同様に、アルコール14を合成した。アルコール3に代えてこのアルコール14を用いたこと以外は上記金属錯体色素D-1の合成と同様に、金属錯体色素D-45を合成した。なお、構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0263】
(F)D-92の合成
アルコール3に代えてアルコール14を用いたこと以外は上記金属錯体色素D-82の合成と同様に、金属錯体色素D-92を合成した。なお、構造はNMRスペクトルにより確認した。
【0264】
(G)他の金属錯体色素の合成
上記以外の、一般式(I)により表される金属錯体色素も各配位子の具体例を適宜組み合わせることにより、上記合成例と同様に合成することができる。なお、各配位子は市販品を容易に入手可能であるか、またはJ. Am. Chem. Soc., 121, 4047 (1999) 、Can. J. Chem., 75, 318 (1997) 、Inorg. Chem., 27, 4007 (1988) 等の文献もしくはこれらの引用文献を参考に合成することができる。
【0265】
実施例2
吸収スペクトルの測定
一般式(I)により表される金属錯体色素D-1、D-2、D-45、D-82、D-85およびD-92、ならびに比較色素1および比較色素2について、メタノール中での吸収スペクトルを測定した。極大吸収波長の測定結果を表1に示す。
【0266】
【表1】

【0267】
表1より、本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素の極大吸収波長は、いずれも比較色素1および比較色素2より長波長化かつブロード化していることがわかる。したがって、一般式(I)により表される金属錯体色素を光電池に用いると、より長波長の光まで分光増感して光電流に変換できるため大変好ましい。さらに、金属錯体色素D-1、D-82のモル吸光係数はそれぞれ53000、56000であり、比較色素1(モル吸光係数:14000)と比較して3〜4倍大きい。よって一般式(I)により表される金属錯体色素を用いた光電池は、電極薄層化の際の光吸収率の低下が少なく、光電変換効率の点で有利であることが期待される。
【0268】
実施例3
二酸化チタン分散液の調製
内側をテフロン(登録商標)コーティングした内容積200mlのステンレス製容器に二酸化チタン(日本アエロジル(株)製、Degussa P-25)15g、水45g、分散剤(アルドリッチ社製、Triton X-100)1g、直径0.5mmのジルコニアビーズ(ニッカトー社製)30gを入れ、サンドグラインダーミル(アイメックス社製)を用いて1500rpmで2時間分散処理した。得られた分散液からジルコニアビーズをろ過により除去した。得られた分散液中の二酸化チタン微粒子の平均粒径は2.5μmであった。なお粒径はMALVERN社製のマスターサイザーにて測定した。
【0269】
実施例4
色素を吸着したTiO2電極の作製
フッ素をドープした酸化スズ層を有する導電性ガラス(旭硝子(株)製TCOガラス-Uを20mm×20mmの大きさに切断加工したもの、表面抵抗約30Ω/□)の導電面側にガラス棒を用いて上記分散液を塗布した(半導体微粒子の塗布量3g/m2)。その際、導電面側の一部(端から3mm)に粘着テープを張ってスペーサーとし、粘着テープが両端に来るようにガラスを並べて一度に8枚ずつ塗布した。塗布後、粘着テープを剥離し、室温で1日間風乾した。次にこのガラスを電気炉(ヤマト科学(株)製マッフル炉FP-32型)に入れ、450℃にて30分間焼成し、TiO2電極を得た。この電極を取り出し冷却した後、本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素、および比較色素それぞれのメタノール溶液(いずれも3×10-4mol/l)に15時間浸漬した。また、場合により色素のメタノール溶液にケノデオキシコール酸を4×10-3mol/lの濃度となるように加えた。色素の染着したTiO2電極を4-t-ブチルピリジンに15分間浸漬した後、エタノールで洗浄し自然乾燥した。得られた感光層の厚さは1.8μmであった。
【0270】
実施例5
光電池の作製
上述のようにして作製した色素増感TiO2電極基板(20mm×20mm)をこれと同じ大きさの白金蒸着ガラスと重ね合わせた。次に、両ガラスの隙間に毛細管現象を利用して電解液(3-メトキシプロピオニトリルに電解質として1-メチル-3-ヘキシルイミダゾリウムのヨウ素塩(0.65mol/l)およびヨウ素(0.05mol/l)を加えたもの)をしみこませ、TiO2電極中に導入して光電池を得た。本実施例により、図1に示すように、導電性ガラスからなる導電性支持体層(ガラスの透明基板50a上に導電層10aが設層されたもの)、色素増感TiO2の感光層20、上記電解液からなる電荷移動層30、白金からなる対極導電層40およびガラスの透明基板50aを順に積層しエポキシ系封止剤で封止された光電池が作製された。
【0271】
実施例6
湿式電解液系での光電変換波長と光電変換効率の測定
上記のようにして得られた光電池の400〜800nmにおける光電変換効率を、オプテル社製のIPCE(Incident Photon to Current Conversion Efficiency)測定装置によって測定した。各金属錯体色素を用いた光電池の、800nmにおける光電変換効率(IPCE)および400〜800nmにおける光電変換効率の極大値(IPCE max)を表2にまとめて示す。なおIPCE測定は室温で行った。
【0272】
【表2】

【0273】
表2より、比較色素1は800nmの光に対する吸収能を有さないため比較色素1を用いた光電池は光電変換能を示さないのに対し、本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素を用いた光電池はいずれも良好な光電変換効率を示し、特にエチレンオキシ基を有する色素を用いることにより一層優れた光電変換効率が得られることがわかる。また、ケノデオキシコール酸の添加により光電変換効率が向上することが確認された。比較色素1はモル吸光係数が低いために1.8μmの電極では光吸収率が低くIPCEが低いのに対し、本発明の金属錯体色素は高いモル吸光係数を示すため、薄層化した電極においても高いIPCEを示す。
【0274】
実施例7
溶融塩電解質系での光電変換効率の測定
電荷輸送材料として下記の塩E-1およびE-2からなる溶融塩系電解質(E-1/E-2=7/3)を用いて上記実施例5と同様に光電池を作製し、IPCE測定温度を50℃に変更したこと以外は上記実施例6と全く同様に400〜800nmにおける光電変換効率の極大値(IPCE max)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0275】
【表3】

【0276】
表3より、本発明の一般式(I)により表される金属錯体色素を用いた光電池は、溶融塩系電解質を用いた場合にも良好な光電変換効率を示し、エチレンオキシ基を有する色素を用いた光電池の光電変換効率が特に高いことがわかる。
【符号の説明】
【0277】
10・・・導電層
10a ・・・透明導電層
11・・・金属リード
20・・・感光層
21・・・半導体微粒子
22・・・金属錯体色素
23・・・電荷輸送材料
30・・・電荷移動層
40・・・対極導電層
40a ・・・透明対極導電層
50・・・基板
50a ・・・透明基板
60・・・下塗り層
70・・・反射防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
M(LL1)m1(LL2)m2(X)m3・CI ・・・(I)
(ただし、MはRuを表し、
LL1は下記一般式(II):
【化1】



(ただし、R1およびR2はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に置換基を表し、R5およびR6はそれぞれ独立にアリール基またはヘテロ環基を表し、L1およびL2はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のエテニレン基および/またはエチニレン基からなる共役鎖を表し、a1およびa2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a1が2以上のときR1は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR2は同じでも異なっていてもよく、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR3は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR4は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b1およびb2が共に1以上のときR3とR4が連結して環を形成してもよく、nは0または1を表す。)により表される2座または3座の配位子であり、
LL2は下記一般式(V-1)〜(V-8):
【化2】



(ただし、R21〜R28はそれぞれ独立にカルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、ヒドロキサム酸基、ホスホリル基またはホスホニル基を表し、R29〜R36はそれぞれ独立に置換基を表し、R21〜R36は環上のどの位置に結合していてもよく、R37〜R41はそれぞれ独立に水素、アルキル基、アルケニル基またはアリール基を表し、e1〜e8、e13、e14およびe16はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、e9〜e12およびe15はそれぞれ独立に0〜6の整数を表し、e1〜e8が2以上のとき、R21〜R28はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、e9〜e16が2以上のとき、R29〜R36はそれぞれ同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよい。)のいずれかにより表される2座または3座の配位子であり、
Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座または2座の配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、1,3-ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミドまたはチオ尿素からなる1座または2座の配位子を表し、
m1は1〜3の整数を表し、m1が2以上のときLL1は同じでも異なっていてもよく、
m2は0〜2の整数を表し、m2が2のときLL2は同じでも異なっていてもよく、
m3は0〜2の整数を表し、m3が2のときXは同じでも異なっていてもよく、またX同士が連結していてもよく、
CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。)により表され、カルボキシル基およびホスホニル基のいずれか少なくとも1個有する金属錯体色素。
【請求項2】
請求項1に記載の金属錯体色素において、一般式(II)中のR5およびR6がそれぞれ独立に炭素原子数6〜30のアリール基又は炭素原子数1〜30のヘテロ環基であることを特徴とする金属錯体色素。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属錯体色素において、一般式(II)中のR5およびR6がそれぞれ独立にフェニル基、置換フェニル基、ナフチル基、置換ナフチル基、2−チエニル基、2-ピロリル基、2−イミダゾリル基、1−イミダゾリル基、4−ピリジル基、又は3−インドリル基であることを特徴とする金属錯体色素。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属錯体色素において、前記LL1が下記一般式(IV-1)または(IV-2):
【化3】



(ただし、R1、R2およびR7はカルボキシル基を表し、R3、R4、R8、R15およびR16はそれぞれ独立に置換基を表し、R11〜R14はそれぞれ独立にアルキル基またはアリール基を表し、R11とR12ならびにR13とR14はそれぞれ互いに連結して環を形成してもよく、a1、a2およびa3はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、a1が2以上のときR1は同じでも異なっていてもよく、a2が2以上のときR2は同じでも異なっていてもよく、a3が2以上のときR7は同じでも異なっていてもよく、b1およびb2はそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、b1が2以上のときR3は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b2が2以上のときR4は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、b3は0〜5の整数を表し、b3が2以上のときR8は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、一般式(IV-1)中のb1およびb2が共に1以上のときR3とR4が連結して環を形成してもよく、一般式(IV-2)中のb1およびb3が共に1以上のときR3とR8が連結して環を形成してもよく、d1およびd2はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、d1が1以上のときR15はR11および/またはR12と連結して環を形成してもよく、d1が2以上のときR15は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、d2が1以上のときR16はR13および/またはR14と連結して環を形成してもよく、d2が2以上のときR16は同じでも異なっていてもよく互いに連結して環を形成してもよく、nは0または1を表す。)により表される2座または3座の配位子であることを特徴とする金属錯体色素。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属錯体色素において、一般式(V-1)〜(V-8)中のR21〜R28がそれぞれ独立にカルボキシル基またはホスホニル基を表すことを特徴とする金属錯体色素。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の金属錯体色素において、一般式(IV-1)および(IV-2)中のR11および/またはR12が、アルコキシ基が置換したアルキル基であることを特徴とする金属錯体色素。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の金属錯体色素において、一般式(I)中のm1が1であり、m2が1であり、m3が1または2であり、LL2が前記一般式(V-1)により表される2座または3座の配位子であることを特徴とする金属錯体色素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−21165(P2012−21165A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220491(P2011−220491)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【分割の表示】特願2000−183816(P2000−183816)の分割
【原出願日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】