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金属錯体触媒を用いたニトリル化合物の水和方法
説明

金属錯体触媒を用いたニトリル化合物の水和方法

【課題】ニトリル化合物のアミド化合物への水和反応を効率的に、さらには100℃未満の低温にて行うため、金属錯体からなる触媒を提供する。
【解決手段】化学式(1)で表わされる金属錯体を有効成分とする。なお、化学式(1)中の、金属イオンMは六配位八面体構造をとりうるイオンでFe(III)、Co(III)、Mn(III)、Zn(II)、Ru(II)、Ru(III)から選ばれる。化学式(1)中のl、m、nはそれぞれ、l=0〜3、m=1〜3、n=0〜2からなる炭素骨格を有する。化学式(1)中のR〜R3は直鎖型メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、枝状のイソプロピル基あるいはイソブチル基からなる炭素鎖である。
【化1】




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体触媒を用いたニトリル化合物の水和反応によるアミド化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境浄化という観点から毒性を有するニトリル化合物から比較的低毒性であるアミド化合物への水和反応が注目され、また工業的に有用なアクリルアミドモノマーの生産に天然酵素であるニトリルヒドラターゼが利用されるようになった。例えば特公昭59-37951ではシュードモナス属、特報昭62-91189ではロドコッカス属微生物を用いた方法があげられるが、高い触媒反応速度が期待できる高温度(室温以上)や高濃度の基質ニトリルや生成物アミドの存在下では触媒の失活が著しかった。
【0003】
さらに、特開平11−89575では、比較的高濃度のアクリロニトリル(30重量%)の処理1時間でも活性が維持される酵素の調製が報告されている。また特開2007−61035では比較的高温(40〜45℃)で触媒活性が高いロドコッカス属あるいはゴルドニア属最近から調製できることが報告されている。しかし前者ではアクリロニトリル処理が10℃に限られており温度に対する変化に言及されていないこと、また後者については50℃処理において30%以上の失活が見られるなど、安定性については十分とは言えない。
【0004】
一方、金属錯体触媒を利用したニトリル化合物のアミド化合物への水和反応については、その熱的安定性や高い触媒活性を示すものが報告されている。たとえば特開2005−170821ではルテニウム(Ru)をアルミナに担持した触媒を用いたニトリル化合物の水和反応に関して開示されている(特許文献1)。ここでは実施例1〜18のすべてにおいて100℃以上の反応条件が必要であり、オートクレーブ等の特殊容器を必要とする。また特開2008−88153ではルテニウムを含む金属錯体を触媒として用いることが開示されている(特許文献2)。開示された錯体は高効率で高選択性を示すものであったが、非特許文献1によれば当該錯体は含水率の上昇に伴い失活する傾向にある。
【0005】
このように金属錯体を触媒として用いた先行技術では100℃以上の高温が必要であり、また水と基質濃度比の変化に十分対応できないものが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−170821公報
【特許文献2】特開2008−088153公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Oshiki, H. Yamashita, K. Sawada, M. Utsunomiya, K. Takahashi, and K. Takai, Organometallics, 24(26), 2005, 6287-6290.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、金属錯体を触媒として用いて、ニトリル化合物のアミド化合物への水和反応を効率的に行うことであり、さらには100℃未満の低温にて行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酵素ニトリルヒドラターゼが有する室温付近での反応性と金属錯体触媒が有する安定性とを融合した新たな化合物を用いることにより、上記課題が解決しうることを見出した。すなわち、アミド窒素原子を2つ、硫黄原子を3つ配位したニトリルヒドラターゼ活性中心に類似した構造を有する金属錯体およびその類縁体を用いたニトリル化合物の水和反応である。本発明によれば、以下の方法が提供される。
【0010】
[1] ニトリル化合物を水和しアミド化合物を生成する反応に際し、下記化学式(1)の金属錯体触媒を用いてニトリル化合物をアミド化合物へと水和反応する方法。
【化1】



なお、化学式(1)中の金属イオンMは六配位八面体構造をとりうるイオンでFe(III)、Co(III)、Mn(III)、Zn(II)、Ru(II)、Ru(III)から選ばれる。化学式(1)中のl、m、nはそれぞれ、l=0〜3、m=1〜3、n=0〜2からなる炭素骨格を有する。化学式(1)中のR〜R3は直鎖型のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、枝状のイソプロピル基あるいはイソブチル基からなる炭素鎖である。
【0011】
[2] 前記錯体が溶解した状態で、前記ニトリル化合物と水の存在比にかかわらず水和反応する前記[1]に記載の方法。
【0012】
[3] 前記錯体を溶解した状態で、反応温度が10℃以上100℃未満である前記[1]または[2]に記載の方法。
【0013】
[4] 反応温度が20〜50℃である前記[3]に記載の方法。
【0014】
[5] 前記ニトリル化合物が脂肪族もしくは芳香族ニトリルから選ばれる、前記[1]〜[4]に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、金属錯体はニトリルヒドラターゼの活性中心に類似した配位環境を与えるため、他の金属錯体に比べて置換反応が比較的早く生じ、100℃未満の低温において反応性を示すため、簡便な設備でニトリルの水和反応を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に用いる触媒のIRスペクトルである。
【図2】本発明の触媒を用いて、各種アミドへ変換する際の触媒回転数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
化学式(1)に示された触媒は脱プロトンしたアミド窒素原子とチオールあるいはチオエーテル型の硫黄原子を有する金属錯体であり、金属イオンMには六配位八面体構造をとりうるイオンであればどのようなものでもよい。好ましくはFe(III)、Co(III)、Mn(III)、Zn(II)など高原子価の金属イオンであり、より好ましくはRu(II)、Ru(III)である。ここで挙げる金属錯体触媒の調製は、赤外分光法によるアミドカルボニル骨格由来の吸収バンドの1638 cm-1(配位子のアミドカルボニル伸縮振動)から1570cm-1への低振動数シフト、ならびにNH伸縮振動および変角振動由来の吸収バンドの消失により判断できる。
【0019】
化学式(1)の触媒はl=0〜3、m=1〜3、n=0〜2からなる炭素骨格を有し、好ましくはl=1,2、m=1,2、n=1,2、より好ましくはl=1、m=1、n=1である。R〜R3は直鎖型メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、あるいは枝状のイソプロピル基あるいはイソブチル基などからなる炭素鎖であり、好ましくはメチル基、エチル基、より好ましくはメチル基である。またR’〜R’は水素原子あるいはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基からなる直鎖型炭化水素であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、より好ましくはメチル基である。
【0020】
化学式(1)に示された金属錯体触媒が正電荷を有する場合、塩化物イオン、臭化イオン、よう化物イオン等のハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、塩素酸イオン等のハロゲン化オキソ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン等のホウ酸系アニオン、ヘキサフルオロリン酸等のリン酸系アニオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン、炭酸イオンの少なくとも1つの負電荷を有するイオンをその対イオンとして有する。
【0021】
触媒は直接溶媒に溶解して基質および水を添加する、もしくは溶媒を用いずに基質あるいは水を直接溶媒として用いて反応を行う。反応溶媒はメタノール、エタノール等のアルコール類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドのうち少なくとも1つあるいはこれらを混合して用いることができる。
【0022】
また、触媒は吸着材に吸着させて溶媒に懸濁した状態で用いることもできる。吸着材には、シリカゲル、アルミナ、陽イオン交換樹脂があげられる。溶媒は段落0021に記載の溶媒を単独あるいは2種類以上を混合して用いるかあるいは基質であるニトリルや水あるいはその混合溶媒を直接用いる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
(触媒の調製)
触媒の調製の確認は元素分析、IRスペクトルを用いて行った。特開2007−117782号公報記載の実施例1に従ってトリチオール型化合物をあらかじめ合成した。トリチオール型配位子3.6g(11.1 mmol)を脱水エタノールに溶解し、脱気条件下で0.765g(33.3 mmol)の金属ナトリウムと反応させた。次いでヨウ化メチル3.08 ml(49.9 mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。エタノールと未反応のヨウ化メチルを減圧濃縮により除去し得られた白色粉末を酢酸エチルに溶解した。この溶液を15%炭酸ナトリウム、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した。溶媒を減圧除去したのちにカラムクロマトグラフィーを用いて目的配位子を分離した。アルゴン雰囲気中で配位子0.23g(0.63 mmol)を脱水エタノールに溶解し、さらにナトリウムメトキシド0.081g(1.5 mmol)を加えて30分間撹拌した。その後304 mg(0.63 mmol)の [RuCl2(dmso)4]を加え、40Cで18時間撹拌した。溶媒を減圧濃縮により除去し、脱水ジクロロメタンに懸濁してろ過したろ液を再び減圧濃縮により溶媒を除去した。得られたオレンジ色の粉末結晶はアセトンとジエチルエーテルで洗浄することにより、目的物を黄色固体として得た(錯体1)。元素分析値が理論値とほぼ一致したこと、IRスペクトルにおいて配位子のC=O振動由来の吸収バンドが低振動数シフトし、NH伸縮振動ならびに変角振動由来の吸収バンドの消失が見られた(図1)ことから、触媒の合成を確認した。なお、M=Ru(II), n=0, l=1,m=1,R〜R=CH,R‘〜R’=CH,については非特許文献2に報告がある。
【0025】
【非特許文献2】和田昂, 猪股智彦, 舩橋靖博, 小澤智宏, 増田秀樹、日本化学会第91春季年会講演予稿集(2011)
【0026】
(アセトニトリルおよびプロピオニトリルとの反応性と水和反応)
アルゴン雰囲気において上記錯体1として1.0 mmolをジクロロメタンに溶解し、10等量(10.0 mmol)のアセトニトリルあるいはプロピオニトリルを入れた。室温において紫外可視吸収スペクトル測定を行ったところ、400〜500nm付近に変化が表れたことから、ニトリル分子が錯体1に配位していたジメチルスルホキシド分子と交換したことが分かる。
【0027】
嫌気条件下、0.002 mmolの錯体1をpH10.2(0.1M NaHCO3/ NaOHバッファー溶液)1.9 mlに溶解した。ここにニトリル0.9 ml(アセトニトリル:1.9 mmol、プロピオニトリル:1.4 mmol)を混合し、50℃で撹拌した。本条件下において錯体:基質:水のモル比は、1:1000:50000である。24時間ごとにガスクロマトグラフィーを用いて反応を追跡した。約一週間の間ほぼ直線的に生成物濃度が上昇したことから、錯体が分解せず触媒機能を有している(図2)。一週間後の触媒回転数はアセトニトリル系で41、プロピオニトリル系では24であった。
【0028】
(アクリロニトリルとの反応性と水和反応)
アルゴン雰囲気において上記錯体1として1.0 mmolをジクロロメタンに溶解し、錯体1に対して1,10,100等量のアクリロニトリルを添加した。室温において紫外可視吸収スペクトル測定を行ったところ、350〜550nm付近に大きく変化が現れたことから、ニトリルが錯体1に配位していたジメチルスルホキシド分子と交換したことが分かる。
【0029】
嫌気条件下、0.002 mmolの錯体1をpH10.2(0.1M NaHCO3/ NaOHバッファー溶液)1.9 mlに溶解した。ここにアクリロニトリル0.9 ml(1.5 mmol)を混合し、室温で撹拌した。本条件下において錯体:基質:水のモル比は、1:1000:50000である。24時間ごとにガスクロマトグラフィーを用いて反応を追跡した。約一週間の間ほぼ直線的に生成物濃度が上昇したことから、錯体が分解せず触媒機能を有している(図2)。一週間後の触媒回転数は144であった。
【0030】
また、段落0029に記載された錯体1の濃度条件下で、pH10.2のバッファー溶液とアクリロニトリルの体積混合比を10:10、1:19(バッファー:アクリロニトリル)として室温で撹拌した。一週間後の触媒回転数は、それぞれ436、103であった。いずれの場合も段落0029の場合と同様、約一週間の間ほぼ直線的に触媒回転数が増加したことから、触媒の失活はみられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法は、ニトリル化合物のアミド化合物への水和反応に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル化合物を水和しアミド化合物を生成する反応に際し、下記化学式(1)の金属錯体触媒を用いてニトリル化合物をアミド化合物へと水和反応する方法。
【化1】



(化学式(1)中の金属イオンMは六配位八面体構造をとりうるイオンでFe(III)、Co(III)、Mn(III)、Zn(II)、Ru(II)、Ru(III)から選ばれる。化学式中のl、m、nはそれぞれ、l=0〜3、m=1〜3、n=0〜2からなる炭素骨格を有する。化学式中のR〜R3は直鎖型メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、枝状のイソプロピル基あるいはイソブチル基からなる炭素鎖である。)
【請求項2】
前記錯体が溶解した状態で、前記ニトリル化合物と水の存在比にかかわらず水和反応する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記錯体を溶解した状態で、反応温度が10℃以上100℃未満である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応温度が20〜50℃である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ニトリル化合物が脂肪族もしくは芳香族ニトリルから選ばれる、請求項1〜4のいずれか一に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53111(P2013−53111A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193415(P2011−193415)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会 第91春季年会(2011年)講演予稿集(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】