説明

金属錯体

【課題】安定性に優れ、レドックス反応触媒等に有用な金属錯体を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される金属錯体。


(式中、R〜Rは、水素原子又は置換基を表し、RとR、RとR、RとR及び/又はRとRは、互いに結合して環を形成してもよい。Y及びYは、=N−、−S−、−O−等を表す。Pは、YとYの隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、Pは、YとYの隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、PとPが互いにさらに結合して環を形成してもよく、特に、フェナントロリン骨格が好ましい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体に関し、さらに詳しくは触媒として有用な金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応、電極反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒として作用し、有機化合物又は高分子化合物の製造に使用されている。また、最近では有機EL材料の燐光発光錯体として用いられている。さらに、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料等、種々の用途にも使用されている。
【0003】
特にレドックス反応触媒としては、シッフ塩基型金属錯体が高活性、高選択性な触媒能を有していることが知られている。たとえば、非特許文献1では、光学活性なシッフ塩基型錯体を触媒に用いて、スチレンの二重結合を酸化して、不斉シクロプロパン化反応をおこなっており、良好な不斉反応が進行している。また、非特許文献2ではシッフ塩基型金属錯体を用いて、酸素の電解還元による水の生成を行っている。
【0004】
しかしながら、非特許文献1で開示されている金属錯体は、これを触媒として用いた場合、加熱下では触媒が不安定となり、活性が低下する可能性があった。さらに、該触媒は強酸の存在下においても、不安定化する懸念があり、その適用範囲が限定される触媒であった。このように従来開示されている金属錯体は、反応条件によって分解する可能性があった。
【0005】
【非特許文献1】Org. Biomol. Chem., 2005, 3, 2126.
【非特許文献2】Inorg. Chem., 2001,40,1329.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安定性に優れ、レドックス反応触媒等に有用な金属錯体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、下記の(1)〜(7)の手段により達成された。
(1)下記式(1)で表される金属錯体。
【0008】
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、RとR、RとR、RとR及び/又はRとRは、互いに結合して環を形成してもよい。Y及びYは、それぞれ独立に
【0009】
【化2】

(Rαは水素原子または炭素数が1〜4の炭化水素基である。)
を表す。Pは、YとYの隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、Pは、YとYの隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、PとPが互いにさらに結合して環を形成しても良い。Mは周期律表記載の遷移金属元素または典型金属元素を表す。mは1または2を表し、mが2の場合、2つのMは同一でも異なっていても良い。Xは、対イオン又は中性分子であり、nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表し、Xが複数ある場合それらは同一でも異なっていてもよい。Q及びQはそれぞれ独立に芳香族複素環基を表す。)
(2)下記式(2)で表される金属錯体。
【0010】
【化3】

(式中、R〜R18は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、RとR10、RとR、RとR、RとR13、R10とR11、R11とR12、R12とR16、R13とR14、R14とR15、R16とR17、R17とR18の、それぞれの組の2つの置換基は、互いに連結して環を形成してもよい。
Mは周期律表(IUPAC2001年)記載の遷移金属元素または典型金属元素を表す。mは1または2の整数を表し、mが2の場合、2つのMは同一でも異なっていても良い。Xは、対イオン又は中性分子であり、nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表し、Xが複数ある場合それらは同一でも異なっていてもよい。Q及びQはそれぞれ独立に芳香族複素環基を表す。)
(3)前記式(1)及び(2)において、mが2であり、Mが周期律表(IUPAC2001年)記載の第3族〜第9族の遷移金属元素である、前記(1)または(2)に記載の金属錯体。
(4)前記式(1)及び(2)において、mが1である、前記(1)または(2)に記載の金属錯体。
(5)前記式(1)又は(2)で表される金属錯体の残基を有するポリマー。
(6)前記式(1)又は(2)で表される金属錯体の残基を繰り返し単位として有する(5)に記載のポリマー。
【0011】
さらに、本発明は、(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の金属錯体及び/またはポリマーを用いてなる触媒、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属錯体は、安定性(例えば、耐熱性、耐酸性等)に優れ、レドックス反応触媒等に有用である。従って、該金属錯体は、高温下や強酸の存在下においても、触媒活性の低下が抑制され、適用用途の広い触媒となり得るため、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態である、前記式(1)で表される金属錯体について説明する。
該金属錯体は、遷移金属原子元素または典型金属元素である金属原子Mが、4つのヘテロ原子と2つの酸素原子を有する配位子によって、錯体を形成しているものである。また、酸素原子と金属原子を結ぶ結合は配位結合あるいはイオン結合であり、2つの金属原子がある場合、金属原子間で架橋配位していてもよい。ここで、「遷移金属」とは、「化学大辞典」(大木道則他編、平成17年7月1日発行、東京化学同人)1283頁に「遷移元素」として記載されているものと同義であり、不完全なdまたはf亜殻を有する元素を意味する。なお、本発明における遷移金属原子Mとは、無電荷であっても、架電しているイオンであってもよい。また、典型金属原子Mに関しても同様であり、無電荷であっても、荷電しているイオンであっても良い。
【0014】
ここで、遷移金属Mについて具体的に例示すると、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀が挙げられる。
【0015】
また、典型金属について具体的に例示すると、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン、タリウム、鉛、ビスマスが挙げられる。
一般式(1)で表わされる金属錯体は、好ましくは一般式(2)で表わされるものである。
【0016】
前記式(1)及び(2)に記載のMは、mが2の場合、前記の周期表記載の第3族〜第9族の遷移金属原子から選ばれる金属原子が好適であり、2つのMは互いに異なっても、同一であっても良い。
【0017】
上記のmが2つの場合の第3〜9族の遷移金属原子Mは好ましくは、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウムであり、さらに好ましくはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウムであり、特に好ましくは、第4周期の遷移金属であり、具体的にはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルトである。本発明においては前記のように、これらの遷移金属イオンであってもよい。
【0018】
前記式(1)及び(2)に記載のMは、mが1の場合、前記の周期表記載の遷移金属原子及び典型金属原子からなる群から選ばれた1つを表し、好ましくは、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金であり、さらに好ましくは、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金であり、特に好ましくは、第4周期の遷移金属であり、具体的にはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛である。本発明においてMは前記のように、遷移金属及び典型金属のイオンであってもよい。
【0019】
次に、前記式(1)で表される金属錯体の配位子について説明する。前記式(1)におけるR〜Rはそれぞれ独立に水素原子であるか、置換基を表す。
ここで、置換基を具体的に記載すると、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基を有するシリル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、へキシル基、シクロへキシル基、ノルボニル基、ノニル基、シクロノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、アダマンチル基、ドデシル基、シクロドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基などの全炭素数1〜50程度の直鎖、分岐または環状の飽和炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、シクロへキシルオキシ基、ノルボニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などの全炭素数1〜50程度の直鎖、分岐または環状のアルコキシ基、フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基などの全炭素数6〜60程度の芳香族基、などが例示される。
〜Rとして好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、tert−ブチル基、シクロへキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基に例示される全炭素数1〜20程度の炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基に例示される全炭素数1〜10程度の直鎖、分岐のアルコキシ基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基などの全炭素数6〜30程度の芳香族基、及び水素原子である。
さらに好ましくは、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、シクロへキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、及び水素原子である。
【0020】
とR、RとR、RとR、RとRの、それぞれの組の2つの置換基は、互いに連結して環を形成してもよい。
ここで環とは、シクロヘキセン環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、アセナフテン環等の炭化水素環、フラン環、チオフェン環等の芳香族複素環が挙げられる。
なお、2つの置換基の組合わせにより連結して形成された環は、該環にさらに置換基を有していてもよく、これらの置換基としては、前記に例示した置換基と同等のものを挙げることができる。
【0021】
及びYは、それぞれ独立に
【0022】
【化4】

(Rαは水素原子または炭素数が1〜8、好ましくは1〜4の炭化水素基である。)
【0023】
を表す。Rαで表される一価の炭化水素基は、前述の置換基として例示するものと同様である。P及びPは、それぞれ独立にY及びYの各々の隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群(以下、「P及びP骨格」ともいう。)
である。なお、該隣接位の2つの炭素原子には、Rαに含まれ得る炭素原子は含まれない。複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、N−アルキルピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソキノリン、キナゾリンが挙げられ、好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピロール、フラン、チオフェン、N−アルキルピロールであり、さらに好ましくは、ピリジン、ピロール、フラン、チオフェンである。
また、PとP骨格が互いに結合して、あらたに環を形成しても良く、下記式(1−a)〜(1−i)の構造をもつものが好ましく、より好ましくは、式(1−a)〜(1−d)である。
【0024】
【化5】

ここで、Rは水素原子または炭素数が1〜30で表される炭化水素基を表す。
なお、P及びP骨格は置換基を有しても良く、これらの置換基としては、前記に例示したR〜Rに適用される置換基と同等のものを挙げることができる。
【0025】
また、置換基であるQ及びQは、芳香族複素環基を表す。本発明において芳香族複素環基とは、具体的に、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、トリアゾリル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、シンノリル基、フタラジル基、キナゾリル基、キノキサリル基、ベンゾジアジル基、などを表す。好ましくは、ピリジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基であり、さらに好ましくは、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基である
また、これらの環にさらに置換基を有していても良く、前記に例示したR〜Rと同
等のものを挙げることが出来る。
【0026】
前記式(1)で表される金属錯体は、上記P及びP、Y及びYの具体例で表されるものと、上記Q及びQの具体例で表されるものの中から、組み合わせてできる配位子構造をもつものが好ましい。
【0027】
次に、本発明の金属錯体としては、前記式(2)で表される金属錯体が好ましい。該配位子としては、前記のとおり、少なくとも2つの窒素原子と2つの酸素原子を配位原子として有している。この環は置換基を有していてもよく、前記式(2)におけるR〜R18はそれぞれ独立に水素原子であるか、置換基を表す。
ここで、置換基とは前記式(1)に記載のR〜Rと同様の置換基を持つ。
【0028】
及びQは、芳香族複素環基を表す。芳香族複素環基とは、具体例として、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、トリアゾリル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、シンノリル基、フタラジル基、キナゾリル基、キノキサリル基、ベンゾジアジル基、が挙げられ、好ましくは、ピリジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、インドリル基、ベンゾイミダゾリル基であり、さらに好ましくは、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基である。これらの環のどの部位で結合していても良いが、ヘテロ元素のオルト位またはメタ位で結合している方が好ましい。
また、これらの芳香族複素環基Q及びQは、さらに置換基を有していても良く、これらの置換基としては、前記式(1)に例示したR〜Rに適用される置換基と同等のものを挙げることができる。
【0029】
前記式(2)で表される金属錯体は、上記Q及びQの具体例で表されるものの中から、組み合わせてできる配位子構造をもつものが好ましい。具体的には、以下に示した配位子骨格構造(I)〜(XII)をもつものがさらに好ましい。
【0030】
【化6】

上記骨格構造(III)、(V)、(VI)、(VIII)記載のRは水素原子及び炭素数1〜30の炭化水素基を表す。
上記構造(I)〜(XII)の電荷は省略してある。
【0031】
上記式(1)及び(2)におけるXは中性分子であるか、金属錯体を電気的に中性にする対イオンである。該中性分子とは、溶媒和して溶媒和塩を形成する分子、上記式(1)〜(2)における環状配位子以外の配位子が挙げられる。具体的に、該中性分子を例示すると、水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンである。好ましくは、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンである。
【0032】
また、Xがイオンである場合、通常、遷移金属原子及び典型金属原子は正の架電を有するので、これを電気的に中性にする陰イオンが選ばれ、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン、チオシアン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオンである。好ましくは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフェニルホウ酸イオンである。
また、Xが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよく、中性分子とイオンが共存する形態でもよい。
前記式(2)で表される金属錯体は、具体的には、上記記載の配位子骨格構造(I)〜(XII)及び、上記記載のM及びXの具体例を組み合わせてなるものが好ましいが、特に好ましい金属錯体は、上記記載の配位子骨格構造(I)〜(IV)及び、第4周期の遷移金属原子M及び酢酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオンを組み合わせてできるものである。
【0033】
前記式(1)又は(2)で表される金属錯体の残基を有するポリマーとは、前記式(1)又は(2)で表される金属錯体における水素原子の一部又は全部(通常、1個)を取り除いてなる原子団からなる基を有するポリマーを意味しており、この場合に用いられるポリマーとして、特に制限はないが、導電性高分子、デンドリマー、天然高分子、固体高分子電解質、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレン等を例示することができる。その中でも、導電性高分子、固体高分子電解質が特に好ましい。導電性高分子とは金属的または半金属的な導電性を示す高分子物質の総称である(岩波理化学辞典第5版:1988年発行)。導電性高分子としては、「導電性ポリマー」(吉村進一著、共立出版)や「導電性高分子の最新応用技術」(小林征男監修、シーエムシー出版)に記載されているような、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリパラフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリカルバゾール及びその誘導体、ポリインドール及びその誘導体、ならびに前記導電性高分子の共重合体などを挙げることができる。
固体高分子電解質としては、パーフルオロスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアリーレン、ポリアリーレンエーテルスルホンをスルホン化した高分子などを挙げることができる。
【0034】
前記式(1)又は(2)で表される金属錯体の残基を繰り返し単位として有するポリマーとは、前記式(1)又は(2)で表される金属錯体における水素原子の一部又は全部(通常、2個)を取り除いてなる原子団からなる基を繰り返し単位として有するポリマーを意味しており、例えば、大環状配位子を含む二官能性モノマーを重合することにより生成するものである。
【0035】
次に前記式(1)及び(2)であらわされる金属錯体の合成法について説明する。
前記式(1)及び(2)で表される金属錯体は、まず配位子を有機化学的に合成し、これと金属原子Mを付与する反応剤(以下、「金属付与剤」と呼ぶ)とを反応溶媒中で混合することにより得ることができる。ここで、金属付与剤は、前記記載の金属原子Mと対イオンXの組み合わせからなる金属塩であり、金属原子Mの好ましい具体的例示として、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が挙げられ、対イオンXの好ましい具体的例示として、酢酸イオン、塩化物イオン、硝酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオンが挙げられ、これら金属原子Mと対イオンXの組み合わせからなる金属塩が好ましい。
【0036】
配位子の合成は、非特許文献Tetrahedron.,1999,55,8377.に記載されているように、有機金属反応剤の芳香族複素環化合物への付加反応及び酸化をおこなったのち、ハロゲン化反応、次いで遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応を行うことによって、合成することができる。
また、ハロゲン化された芳香族複素環化合物を用いた多段階のクロスカップリング反応をおこなうことによって合成することも可能である。
【0037】
前記のとおり、本発明の金属錯体は、配位子及び金属付与剤を適当な反応溶媒の存在下で混合させることによって得ることができる。具体的には、反応溶媒としては、水、酢酸、シュウ酸、アンモニア水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1−ブタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジンが挙げられ、これらを2種以上混合してなる反応溶媒を用いてもよいが、配位子及び金属付与剤が溶解し得るものが好ましい。反応温度としては通常−10〜200℃、好ましくは0〜150℃、特に好ましくは0〜100℃であり、また反応時間としては通常1分〜1週間、好ましくは5分〜24時間、特に好ましくは1時間〜12時間で実施することができる。なお、反応温度および反応時間についても、配位子及び金属付与剤の種類によって適宜最適化できる。
反応後の反応溶液から、生成した金属錯体を単離精製する手段としては、公知の再結晶法、再沈殿法あるいはクロマトグラフィー法から適宜最適な手段を選択して用いることができ、これらの手段を組合わせてもよい。
なお、前記反応溶媒の種類によっては、生成した金属錯体が析出する場合があり、析出した金属錯体を濾過等の固液分離手段で分離し、必要に応じて洗浄操作や乾燥操作を行うことによって、金属錯体を単離精製することもできる。
【0038】
前記式(1)及び(2)で表される金属錯体は、その基本骨格が芳香族であるため、いずれも高度の耐熱性と耐酸性を有し、高温下あるいは強酸の存在下でも錯体構造が安定的に維持されるので、2つの金属サイトに係る触媒作用が期待される。
とりわけ、該金属錯体は用途として、レドックス触媒等に好適であり、具体的には、過酸化水素の分解触媒、芳香族化合物の酸化重合触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサーなどの用途が挙げられる。また、共役が広がっていることを利用して、有機EL発光材料、有機トランジスタ及び色素増感太陽電池等の有機半導体材料としても用いることが可能と考えられる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、これらはあくまで例示であり、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。なお、下記例中、Meはメチルを、Etはエチルを、Acはアセチルを、それぞれ示す。
【実施例】
【0039】
[実施例1](金属錯体(A)の合成)
金属錯体(A)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだ2−メトキシエタノールを混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0040】
【化7】

まず、窒素雰囲気下において、1.388gの配位子と1.245gの酢酸コバルト4水和物を含んだ2−メトキシエタノール200ml溶液を500mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら2時間攪拌し、褐色固体が生成した。この、固体を濾取し、さらに2−メトキシエタノール20mlで洗浄、乾燥することで金属錯体(A)を得た(収量1.532g)。得られた金属錯体(A)の赤外線(IR)吸収スペクトルを図1に示す。
元素分析値(%):計算値(C4950Coとして);C,62.56;H,5.36;N,5.96;Co, 12.53.実測値:C,62.12;H,5.07;N,6.03;Co, 12.74であった。ESI−MS[M−OAc]:805.0
【0041】
[実施例2](金属錯体(B)の合成)
金属錯体(B)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだエタノールを混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0042】
【化8】

まず、窒素雰囲気下において、0.315gの該配位子と0.124gの酢酸コバルト4水和物を含んだ50mlのエタノールを100mlのナスフラスコに入れ、80℃にて1時間攪拌した。生成した褐色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(B)を得た(収量0.270g)。
元素分析値(%):計算値(C4240CoNとして);C,69.70; H,5.57; N, 7.74; 実測値:C,70.01;H,5.80;N,7.56であった。ESI−MS[M・]:687.1
【0043】
[実施例3](金属錯体(C)の合成)
金属錯体(C)を以下の反応式に従って、配位子を含んだエタノール溶液と酢酸鉄を含んだメタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0044】
【化9】

まず、窒素雰囲気下において、0.126gの配位子を含んだエタノール10ml溶液と0.078gの酢酸鉄を含んだメタノール5ml溶液を50mlのナスフラスコに入れ、80℃に加熱しながら3時間攪拌したところ、褐色固体が析出した。この固体を濾取し、さらにメタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(C)を得た(収量0.075g)。元素分析値(%):計算値(C4850Feとして);C,62.49;H,5.46;N,6.07. 実測値:C,59.93;H,5.29;N,5.70であった。
【0045】
[実施例4](金属錯体(D)の合成)
金属錯体(D)を以下の反応式に従って、配位子を含んだクロロホルム溶液と塩化マンガン4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0046】
【化10】

まず、窒素雰囲気下において、0.126gの配位子を含んだクロロホルム2ml溶液と0.089gの塩化マンガン4水和物を含んだエタノール6ml溶液を25mlのナスフラスコに入れ、80℃に加熱しながら3時間攪拌したところ、黄色固体が析出した。この、固体を濾取し、さらにクロロホルムとエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(D)を得た(収量0.092g)。元素分析値(%):計算値(C4240Mnとして);C,59.66;H,4.77;N,6.63. 実測値:C,58.26;H,4.58;N,6.33であった。FD−MS[M・]:808.0
【0047】
[実施例5](金属錯体(E)の合成)
金属錯体(E)を以下の反応式に従って、配位子を含んだエタノール溶液と酢酸マンガン4水和物を含んだメタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0048】
【化11】

まず、窒素雰囲気下において、0.100gの配位子を含んだエタノール10ml溶液と0.042gの酢酸マンガン4水和物を含んだメタノール2.5ml溶液を25mlのナスフラスコに入れ、80℃に加熱しながら5時間攪拌した。得られた溶液を、飽和酢酸アンモニウム水溶液20mlに滴下して、1時間攪拌した。析出した固体を濾過、乾燥することで金属錯体(E)を得た(収量0.029g)。ESI−MS[M・]:683.1
【0049】
[実施例6](金属錯体(F)の合成)
金属錯体(F)を以下の反応式に従って、配位子と2−エチルヘキサン酸コバルトを含んだクロロホルム溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0050】
【化12】

窒素雰囲気下において、0.077gの配位子と0.239gの2−エチルヘキサン酸コバルト(65wt%ミネラルオイル溶液)を含んだクロロホルム5mlを25mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら9時間攪拌した。この溶液を、ジエチルエーテル50mlの三角フラスコに滴下した。析出した固体を濾取し、さらにジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(F)を得た(収量0.146g)。ESI−MS[M・]:1032.2。
元素分析値(%):計算値(C5866Coとして);C,67.43;H,6.44;N,5.42.実測値:C,66.97;H,6.21;N,5.27であった。
【0051】
[実施例7](金属錯体(G)の合成)
金属錯体(G)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸ニッケル4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0052】
【化13】

窒素雰囲気下において、0.250gの配位子と0.100gの酢酸ニッケル4水和物を含んだ30mlのエタノールを50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて2時間攪拌した。生成した橙色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(G)を得た(収量0.242g)。元素分析値(%):Calcd for C4236NiO;C,73.38;H,5.28;N,8.15.Found:C,72.42;H,5.27;N,7.96.ESI−MS[M・]:687.1.
【0053】
[実施例8](金属錯体(H)の合成)
金属錯体(H)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸銅1水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0054】
【化14】

窒素雰囲気下において、0.315gの配位子と0.100gの酢酸銅1水和物を含んだ30mlのエタノールを50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて2時間攪拌した。生成した黄土色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(H)を得た(収量0.250g)。元素分析値(%):Calcd for C4236CuN;C,72.87;H,5.24;N,8.09.Found:C,72.22;H,5.37;N,7.77.ESI−MS[M・]:692.1.
【0055】
[実施例9](金属錯体(I)の合成)
金属錯体(I)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸鉄を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0056】
【化15】

窒素雰囲気下において、0.440gの配位子と0.120gの酢酸鉄を含んだ30mlのエタノールを50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて2時間攪拌した。生成した橙色沈殿を濾取してエタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(I)を得た(収量0.380g)。元素分析値(%):Calcd for C4236FeN;C,73.68;H,5.30;N,8.18.Found:C,72.20;H,5.42;N,7.85.ESI−MS[M・]:684.0.
【0057】
[実施例10](金属錯体(J)の合成)
金属錯体(J)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸ニッケルを含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0058】
【化16】

窒素雰囲気下において、0.200gの配位子と0.250gの酢酸ニッケル4水和物を含んだエタノール30ml溶液を50mLのナスフラスコに100℃に加熱しながら2時間攪拌したところ、橙色固体が析出した。この固体を濾取し、エタノールとジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(J)を得た(収量0.276g)。元素分析値(%):C4642Niとして、計算値:C,63.93;H,4.90;N,6.07.実測値:C,63.22;H,5.02;N,6.43.
【0059】
[実施例11](金属錯体(K)の合成)
金属錯体(K)を以下の反応式に従って、配位子を含んだクロロホルム溶液と硝酸コバルト6水和物を含んだメタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0060】
【化17】

窒素雰囲気下において、0.096gの配位子と0.082gの硝酸コバルト6水和物を含んだクロロホルム2mlとメタノール5mlの混合溶液を100mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら7時間攪拌し、黄色固体が生成した。この固体を濾取し、さらにメタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(K)を得た(収量0.036g)。ESI−MS[M−NO:808.0。
【0061】
[実施例12](金属錯体(L)の合成)
金属錯体(L)を以下の反応式に従って、金属錯体(B)を含んだクロロホルム/エタノール混合溶液と塩化銅を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。
【0062】
【化18】

窒素雰囲気下において、0.066gの金属錯体(B)を含んだクロロホルム1mlとエタノール2mlの混合溶液を25mlのナスフラスコに入れ、0.013の塩化銅(II)を含んだエタノール4mlを滴下した。この溶液を80℃に加熱しながら3時間攪拌した。析出した固体を濾取し、さらにエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(L)を得た(収量0.054g)。ESI−MS[M−Cl] :787.0。
【0063】
[実施例13](金属錯体(M)の合成)
金属錯体(M)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0064】
【化19】

窒素雰囲気下において、0.303gの配位子と0.125gの酢酸コバルト4水和物を100mlの二口フラスコに入れ、50mlのエタノールを加えた。この溶液を3時間還流することにより、黄土色固体が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(M)を得た(収量0.242g)。ESI−MS[M+H] :664.2。
得られた金属錯体(M)の赤外線(IR)の吸収スペクトルを図2に示す。
【0065】
[実施例14](金属錯体(N)の合成)
金属錯体(N)を以下の反応式に従って、配位子と酢酸コバルト4水和物を含んだエタノール溶液を混合・反応させることにより合成した。錯体の原料となる下記配位子はTetrahedron.,1999,55,8377に基づき合成した。
【0066】
【化20】

窒素雰囲気下において、0.303gの配位子と0.324gの酢酸コバルト4水和物を100mlの二口フラスコに入れ、20mlのエタノールと20mlのクロロホルム混合溶液を加えた。この溶液を3時間還流することにより、黄土色固体が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(N)を得た(収量0.133g)。ESI−MS[M−OAc] :781.0。得られた金属錯体(N)の赤外線(IR)吸収スペクトルを図3に示す。
【0067】
金属錯体(Q)を以下の反応式に従い、化合物(O)、配位子(P)を経由して合成した。
[合成例1](化合物(O)の合成)
【0068】
【化21】

アルゴン雰囲気下で、3.945gの2,9−ジ(3’−ブロモ−5’−tert−ブチル−2’−メトキシフェニル)−1,10−フェナントロリン、3.165gの1−N−Boc−ピロール−2−ボロン酸、0.138gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム、0.247gの2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル、5.527gのリン酸カリウムを200mLのジオキサンと20mLの水の混合溶媒に溶解し、60℃にて6時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得る。これを、シリカゲルカラムを用いて精製し、化合物(O)を得た。H−NMR(300MHz, CDCl)δ1.34(s, 18H), 1.37(s, 18H), 3.30(s, 6H), 6.21(m, 2H), 6.27(m, 2H), 7.37(m, 2H), 7.41(s, 2H), 7.82(s, 2H), 8.00(s, 2H), 8.19(d, J=8.6Hz, 2H), 8.27(d, J=8.6Hz, 2H).
【0069】
[合成例2](配位子(P)の合成)
【化22】

窒素雰囲気下で0.904gの化合物(O)を10mLの無水ジクロロメタンに溶解させる。ジクロロメタン溶液を−78℃に冷却しながら、8.8mLの三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液)をゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌させた後、室温まで攪拌させながら放置した。3時間後、反応溶液を0℃まで冷却させ、飽和NaHCO水溶液を加えたのち、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮した。得られた褐色の残渣を、シリカゲルカラムで精製し、配位子(P)を得た。H−NMR(300MHz, CDCl)δ1.40(s, 18H), 6.25(m, 2H), 6.44(m, 2H), 6.74(m, 2H), 7.84(s, 2H), 7.89(s, 2H), 7.92(s, 2H), 8.35(d, J=8.4Hz, 2H), 8.46(d, J=8.4Hz, 2H), 10.61(s, 2H), 15.88(s, 2H).
【0070】
[実施例15](金属錯体(Q)の合成)
【化23】

窒素雰囲気下において、0.100gの配位子(P)と0.040gの酢酸コバルト4水和物を含んだ20mlのArで脱気したアセトニトリル溶液を、100mlの二口フラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液にトリエチルアミンを45μl滴下し、3時間還流した。この溶液を濃縮し、冷却した後、メンブレンフィルターで濾取し、乾燥することで金属錯体(Q)を得た(収量0.098g)。ESI−MS[M・]:663.1。
【0071】
金属錯体(T)を以下の反応式に従い、化合物(R)、配位子(S)を経由して合成した。
[合成例3](化合物(R)の合成)
【0072】
【化24】

アルゴン雰囲気下で、0.662gの2,9−ジ(3’−ブロモ−5’−tert−ブチル−2’−メトキシフェニル)−1,10−フェナントロリン、0.320gの2−チエニルボロン酸、0.090gのトリス(ベンジリデンアセトン)ジパラジウム、0.160gの2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル、0.920gのリン酸カリウムを30mLのジオキサンと5mLの水の混合溶媒に溶解し、80℃にて12時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得る。これを、シリカゲルカラムを用いて精製したのち、再結晶により化合物(R)を得た。H−NMR(300MHz, CDCl)δ1.42(s, 18H), 3.48(s, 6H), 7.12(dd, 2H), 7.38(d, J=5.0 Hz, 2H), 7.52(d, J=2.9 Hz, 2H), 7.73(s, 2H), 7.87(s, 2H), 7.98(s, 2H), 8.28(d, J=8.6Hz, 2H), 8.30(d, J=8.6Hz, 2H).
【0073】
[合成例4](配位子(S)の合成)
【化25】

窒素雰囲気下で0.134gの化合物(R)を5mLの酢酸に溶解させる。48%臭化水素酸0.337gを滴下し、120℃で攪拌させた。20時間後、反応溶液を0℃まで冷却させ、水を加えたのち、クロロホルムを加えて抽出し、有機層を濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルカラムで精製し、配位子(S)を得た。H−NMR(300MHz, CDCl)δ1.40(s, 18H), 6.25(m, 2H), 6.44(m, 2H), 6.74(m, 2H), 7.84(s, 2H), 7.89(s, 2H), 7.92(s, 2H), 8.35(d, J=8.4Hz, 2H), 8.46(d, J=8.4Hz, 2H), 10.61(s, 2H), 15.88(s, 2H).
【0074】
[実施例16](金属錯体(T)の合成)
【化26】

窒素雰囲気下において、0.062gの配位子(S)と0.025gの酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム2mlとエタノール6mlの混合溶液を25mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら2時間攪拌し、褐色固体が生成した。この固体を濾取し、さらにエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(T)を得た(収量0.034g)。ESI−MS[M・]:697.0。
【0075】
金属錯体(W)を以下の反応式に従い、化合物(U)、配位子(V)を経由して合成した。
[合成例5](化合物(U)の合成)
【0076】
【化27】

アルゴン雰囲気下で、0.132gの2,9−ジ(3’−ブロモ−5’−tert−ブチル−2’−メトキシフェニル)−1,10−フェナントロリン、0.061gの3−ピリジルボロン酸、0.046gのテトラキス(トリフェニルホスフィノ)パラジウム、0.111gの炭酸カリウムを5mLのジオキサンと0.5mLの水の混合溶媒に溶解し、100℃にて9時間攪拌した。反応終了後、放冷して蒸留水、クロロホルムを加えて、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮して、黒い残渣を得る。これを、シリカゲルカラムを用いて精製し化合物(U)を得た。
【0077】
[合成例6](配位子(V)の合成)
【化28】

窒素雰囲気下で0.110gの化合物(U)を3mLの無水ジクロロメタンに溶解させた。ジクロロメタン溶液をドライアイス/アセトンバスで−78℃に冷却しながら、1.3mLの三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液)をゆっくり滴下した。滴下後、10分間そのまま攪拌させた後、ドライアイス/アセトンバスを取り除き、室温まで攪拌させながら放置した。4時間後、飽和NaHCO水溶液を加えて中和し、クロロホルムを加えて3回抽出した。得られた有機層を濃縮して、得られた残渣を精製し、配位子(V)を得た。H−NMR(300MHz, CDCl)δ1.47(s, 18H), 7.44(t,J=6.2Hz,2H), 7.55(s, 2H), 7.95(s, 2H), 8.16(s, 2H), 8.40(d, J=8.3Hz, 2H), 8.53(d, J=8.3Hz, 2H), 8.67(d, J=7.5Hz, 2H), 9.47(s, 2H), 9.79(d, J=2.8Hz, 2H), 15.36(s, 2H).
【0078】
[実施例17](金属錯体(W)の合成)
【化29】

窒素雰囲気下において、0.096gの配位子(V)と0.037gの酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム10mlとエタノール4mlの混合溶液を100mlのナスフラスコに入れ、60℃に加熱しながら6時間攪拌し、褐色固体が生成した。この固体を濾取し、さらにエタノールで洗浄、乾燥することで金属錯体(W)を得た(収量0.040g)。ESI−MS[M・]:687.1。得られた金属錯体(W)の赤外線(IR)吸収スペクトルを図4に示す。
【0079】
[比較例1](金属錯体(X)の合成)
金属錯体(X)を以下の反応式に従って合成した。
【0080】
【化30】

まず、窒素雰囲気下において0.476gの塩化コバルト6水和物と0.412gの4−tert−ブチル−2,6−ジホルミルフェノールを含んだ10mlエタノール溶液を50mlのナスフラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液に0.216gのo−フェニレンジアミンを含んだ5mlエタノール溶液を徐々に添加した。上記混合物を2時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(X)を得た(収量0.465g)。元素分析値(%):計算値 (C3638ClCoとして);C,55.47;H,4.91;N,7.19.実測値:C,56.34;H,4.83;N,7.23であった。
【0081】
[比較例2](金属錯体(Y)の合成)
下記の反応式に示す金属錯体(Y)をAustralian Journal of Chemistry,23,2225(1970)に記載の方法に従い合成した。
【0082】
【化31】

まず、窒素雰囲気下において1.9gの塩化コバルト6水和物と1.31gの4―メチル−2,6−ジホルミルフェノールを含んだ50mlメタノール溶液を100mlのナスフラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液に0.59gの1,3−プロパンジアミンを含んだ20mlメタノールを徐々に添加した。上記混合物を3時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(Y)を得た(収量1.75g)。元素分析値(%):計算値(C2634ClCoとして);C,47.65;H,5.23;N,8.55.実測値:C,46.64;H,5.02;N,8.58であった。
【0083】
[比較例3](金属錯体(Z)の合成)
下記の反応式に示す金属錯体(Z)をBulletin of Chemical Society of Japan, 68, 1105,(1995).に記載の方法に準じて合成した。
【0084】
【化32】

0.33gの4−メチル−2,6−ジホルミルフェノールと0.49gの酢酸マンガン4水和物を含んだ10mlのメタノールを50mlのナスフラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液に0.15gの1,3−プロパンジアミンを含んだ5mlメタノールを徐々に添加した。上記混合物を1時間攪拌後、黄色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、メタノールで洗浄後、真空乾燥することで金属錯体(Z)を得た(収量0.25g)。元素分析値(%):計算値(C2832Mnとして);C,53.34;H,5.12;N,8.89.実測値:C,53.07;H,5.12;N,8.72であった。
【0085】
[比較例4](金属錯体(AA)の合成)
金属錯体(AA)を以下の反応式に従って、シッフ塩基配位子を含んだクロロホルムと酢酸コバルト4水和物を含んだエタノールを混合、反応させることにより合成した。錯体の原料となるシッフ塩基配位子及び金属錯体(AA)をA Chemistry, European Journal,1999, 5,1460記載の方法に従い合成した。
【0086】
【化33】

窒素雰囲気下において0.303gのo−フェニレンジアミンと1.00gの4−tert−ブチル−2−ホルミルフェノールを含んだ10mlエタノール溶液を50mlのナスフラスコに入れ、80℃にて3時間攪拌した。析出した橙色沈殿を濾過し、洗浄及び乾燥をおこない、シッフ塩基配位子を得た。(収量0.838g)。H―NMR;δ:12.83(s,2H), 8,64(s,2H), 7.41(d,8.7Hz,2H), 7.36−7.32(m,4H), 7.25−7.21(m,4H), 6.99(d:8.7Hz,2H), 1.32(s,18H)。
続いて、金属錯体(AA)を前記シッフ塩基配位子を含んだクロロホルムと酢酸コバルト4水和物を含んだエタノールを混合、反応させることにより合成した。
【0087】
【化34】

0.214gの前記シッフ塩基配位子を含んだ3mlのクロロホルム溶液の入った25mlナスフラスコへ0.125gの酢酸コバルト4水和物を含んだ7mlのエタノールを攪拌しながら加え、室温下で6時間攪拌した。析出した褐色沈殿を濾過してエタノールで洗浄した後、真空乾燥させて金属錯体(AA)を得た。(収量0.138g)。元素分析値(%):Calcd for C2834CoN;C,64.49;H,6.57;N,5.37.Found:C,64.92;H,6.13;N,5.06.ESI−MS[M・]:485.1。
【0088】
[実施例24](金属錯体(A)の耐酸性試験)
(1)本発明の金属錯体(A)について、硫酸を用いた酸への耐性試験を行った。金属錯体(A)を、7.90mg取り、メタノール36mLに溶解させた。溶液を9.0mL取り、1M硫酸水溶液1.0mLを加えた。速やかに攪拌した後、0.3mL採取し10倍に希釈した溶液をセルに入れて蓋を閉め、60℃に加熱した。分光光度計(Varian社製、Cary5E)を用いて、溶液の紫外可視吸収の経時変化を観察した。359nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表1に示す。この結果から、本発明の金属錯体(A)は、酸存在下でも吸光度の減少は実質的に認められず、安定性に優れたものであることが判明した。
【0089】
【表1】

【0090】
[実施例25](金属錯体(B)の耐酸性試験)
金属錯体(A)を金属錯体(B)に置き換えて、上記と同様の操作を行い、UV吸収の経時変化を観察した。444nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表2に示す。この結果から、本発明の金属錯体(B)は、酸存在下でも吸光度の減少は実質的に認められず、安定性に優れたものであることが判明した。
【0091】
【表2】

【0092】
[実施例26](金属錯体(D)の耐酸性試験)
金属錯体(A)を金属錯体(D)に置き換えて、上記と同様の操作を行い、UV吸収の経時変化を観察した。441nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表3に示す。この結果から、本発明の金属錯体(D)は、酸存在下でも吸光度の減少は実質的に認められず、安定性に優れたものであることが判明した。
【0093】
【表3】

【0094】
[実施例27](金属錯体(I)の耐酸性試験)
金属錯体(A)を金属錯体(I)に置き換えて、上記と同様の操作を行い、UV吸収の経時変化を観察した。547nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表4に示す。この結果から、本発明の金属錯体(I)は、酸存在下でも吸光度の減少は実質的に認められず、安定性に優れたものであることが判明した。
【0095】
【表4】

【0096】
[比較例5]
比較のため、金属錯体(A)を比較例の金属錯体(X)に置き換えて、上記と同様の操作を行い、UV吸収の経時変化を観察した。455nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表5に示す。比較例の金属錯体(X)は、酸存在下で経時的に吸光度が大幅に減少しており、錯体が分解していることが示される。
【0097】
【表5】

【0098】
[実施例28](錯体の耐熱性試験)
金属錯体(A)、(B)、(D)及び(L)について、熱重量/示差熱分析装置(セイコーインスツル社製、EXSTAR−6300)を用いて、それぞれの金属錯体について、40〜800℃の範囲で熱処理した際の質量変化(TGA)を測定し、測定に供した初期質量との比率から質量減少率を求めた。測定条件は窒素雰囲気下、40〜800℃(昇温速度10℃/min)であり、熱処理にはアルミナ皿を使用した。800℃における質量減少率を表6に示す。
【0099】
[比較例6]
比較のため、実施例28において、金属錯体(A)を、金属錯体(X)、(Y)、(Z)、(AA)又は(AB)に置き換えて、熱重量/示差熱分析装置(セイコーインスツル社製、EXSTAR−6300)を用いて、実施例28と同様の実験をおこなった。質量減少率を表6に示す。なお、上記金属錯体(AB)は、比較例として、実施例28における金属錯体(A)をN,N’−ジサリチラルエチレンジアミン鉄(II)錯体(TCI社製)に置き換えたものである。
【0100】
表6より、本発明の金属錯体(A)、(B)、(D)及び(L)を、それぞれ比較例の同種及び同核数の金属錯体と比較すると、どれも質量減少率が比較例より小さく、耐熱性に優れることが判明した。
【0101】
【表6】

【0102】
[実施例29](金属錯体(D)の過酸化水素分解試験)
金属錯体(D)3.4mg(約8μmol(1金属原子当り))を2口フラスコに量り取り、ここに溶媒として酒石酸/酒石酸ナトリウム緩衝溶液(1.00ml(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0))とエチレングリコール(1.00ml)を加え攪拌した。これを触媒混合溶液として用いた。
【0103】
この触媒混合溶液の入った2口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.20ml(2.28mmol))をシリンジで加え、80℃下20分間、過酸化水素分解反応を行った。発生する酸素をガスビュレットにより測定し、分解した過酸化水素を定量した。
分解された過酸化水素量は、該過酸化水素分解試験で発生する酸素を含む気体体積から求めた。下式により、実測の発生気体体積値vは水蒸気圧を考慮した0℃,101325Pa(760mmHg)下の気体体積Vに換算した。
結果を図5に示す。本発明の金属錯体(D)は、後述のブランク試験と比較して、発生気体体積量が高く、過酸化水素分解に係る触媒効果を確認した。
【0104】
【数1】

(式中、P:大気圧(mmHg)、p:水の蒸気圧(mmHg)、t:温度(℃)、v:実測の発生気体体積(ml)、V:0℃、101325Pa(760mmHg)下の気体体積(ml)を示す。)
【0105】
[ブランク試験]
2口フラスコに溶媒として酒石酸水溶液/酒石酸ナトリウム緩衝溶液1.00ml(0.20mol/l酒石酸水溶液と0.10mol/l酒石酸ナトリウム水溶液から調製、pH4.0)とエチレングリコール1.00mlを加えた。この2口フラスコの一方の口にセプタムを取り付け、もう一方の口をガスビュレットへ連結した。このフラスコを80℃下5分間攪拌した後、過酸化水素水溶液(11.4mol/l、0.200ml(2.28mmol))を加え、80℃下20分間、発生する気体をガスビュレットにより定量した。
本ブランク試験は、溶液中に溶存している空気等が主に検出されるものと考えられる。
【0106】
[比較例7](金属錯体(Z)の過酸化水素分解試験)
実施例29の金属錯体(D)を金属錯体(Z)に変更した以外は、実施例29と同等の試験を行った。結果を図5に、実施例29と併せて示す。
発生気体体積はブランク実験と差異がなく、過酸化水素分解の触媒効果は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】金属錯体(A)のIR吸収スペクトルを示す。
【図2】金属錯体(M)のIR吸収スペクトルを示す。
【図3】金属錯体(N)のIR吸収スペクトルを示す。
【図4】金属錯体(W)のIR吸収スペクトルを示す。
【図5】実施例29及び比較例7の過酸化水素分解試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される金属錯体。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、RとR、RとR、RとR及び/又はRとRは、互いに結合して環を形成してもよい。Y及びYは、それぞれ独立に
【化2】

(Rαは水素原子または炭素数が1〜4の炭化水素基である。)
を表す。Pは、YとYの隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、Pは、YとYの隣接位の2つの炭素原子と一体となって複素環を形成するために必要な原子群であり、PとPが互いにさらに結合して環を形成しても良い。Mは周期律表記載の遷移金属元素または典型金属元素を表す。mは1または2を表し、mが2の場合、2つのMは同一でも異なっていても良い。Xは、対イオン又は中性分子であり、nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表し、Xが複数ある場合それらは同一でも異なっていてもよい。Q及びQはそれぞれ独立に芳香族複素環基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される金属錯体。
【化3】

(式中、R〜R18は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、RとR10、RとR、RとR、RとR13、R10とR11、R11とR12、R12とR16、R13とR14、R14とR15、R16とR17、R17とR18の、それぞれの組の2つの置換基は、互いに連結して環を形成してもよい。
Mは周期律表記載の遷移金属元素または典型金属元素を表す。mは1または2の整数を表し、mが2の場合、2つのMは同一でも異なっていても良い。Xは、対イオン又は中性分子であり、nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表し、Xが複数ある場合それらは同一でも異なっていてもよい。Q及びQはそれぞれ独立に芳香族複素環基を表す。)
【請求項3】
前記式(1)又は(2)において、mが2であり、Mが周期律表記載の第3族〜第9族の遷移金属元素である、請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項4】
前記式(1)又は(2)において、mが1である請求項1または2に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記式(1)又は(2)で表される金属錯体の残基を有するポリマー。
【請求項6】
前記式(1)又は(2)で表される金属錯体の残基を繰り返し単位として有する請求項5に記載のポリマー。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の金属錯体及び/またはポリマーを用いてなる触媒。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−255106(P2008−255106A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58581(P2008−58581)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】