説明

金属錯体

【課題】耐熱性、耐酸性に優れ、レドックス反応触媒等に有用な金属錯体の提供。
【解決手段】下式等で示される金属錯体。


該錯体に使用される金属としては、遷移金属元素、特に、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体に関し、さらに詳しくは触媒として有用な金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体は、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応、電極反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒として作用し、有機化合物又は高分子化合物の製造に使用されている。また、最近では、金属錯体は、有機EL材料の燐光発光錯体や、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料等、種々の用途に使用されている。
【0003】
特にレドックス反応触媒としては、環状多座配位子を有する金属錯体が高活性、高選択性な触媒能を有することが知られており、例えば、光学活性な環状配位子を有する錯体を触媒に用いて、2−ナフトールのエナンチオ選択的な酸化カップリング反応を行った結果、良好な収率及びエナンチオマー過剰率を与えること(非特許文献1)や、光学活性な環状シッフ塩基型錯体を触媒として用いると、スチレンの不斉シクロプロパン化反応が進行すること(非特許文献2)が報告されている。
【0004】
しかし、これらの金属錯体は、触媒として用いた場合、高温下や強酸の存在下では触媒が不安定となり、活性が低下することがある。
【0005】
【非特許文献1】Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 6008.
【非特許文献2】Org. Biomol. Chem. 2005, 3, 2126.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温下や強酸の存在下においても安定な(即ち、耐熱性、耐酸性に優れる)レドックス反応触媒等に有用な金属錯体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、下記の[1]〜[7]の手段により達成された。
[1]下記式(1)で表される金属錯体。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R100〜R107は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。a及びbは、それぞれ独立に1又は2である。R100とR101、R101とR102、R103とR104、R104とR105、R102とR106、及びR105とR107からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。aが2の場合、2つのR106は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。bが2の場合、2つのR107は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Qは2価の連結基を表す。Y及びYは、それぞれ独立に下記式:
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rαは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、PとPは互いに連結してさらに環を形成していてもよい。Z及びZは、それぞれ独立に下記式:
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Rβは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Mは、周期表記載の遷移金属元素又は典型金属元素を表す。mは1又は2である。mが2の場合、2つのMは同一であっても異なっていてもよい。Xは、対イオン又は中性分子を表す。nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上(通常、10以下)の整数を表す。Xが複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
[2]下記式(2)又は(3)で表される金属錯体であることを特徴とする[1]に記載の金属錯体。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R121〜R130は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R121とR122、R122とR123、R123とR124、R125とR126、R127とR128、R128とR129、及びR129とR130からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。Y及びYは、それぞれ独立に下記式:
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、Rγは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、PとPは互いに連結してさらに環を形成していてもよい。M、X、m及びnは、前記と同じ意味を有する。)
【0019】
【化6】

(式中、R131〜R144は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R131とR132、R132とR133、R133とR134、R134とR135、R135とR136、R136とR137、R138とR139、R139とR140、R140とR141、R141とR142、R142とR143、R143とR144、及びR144とR131からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。c及びdは、それぞれ独立に1又は2である。cが2の場合、2つのR137は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。dが2の場合、2つのR138は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Qは2価の連結基を表す。Z及びZは、それぞれ独立に下記式:
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、Rδは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。M、X、m及びnは、前記と同じ意味を有する。)
【0022】
[3]下記式(4)で表される金属錯体であることを特徴とする[1]に記載の金属錯体。
【0023】
【化8】

【0024】
(式中、R151〜R166は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R151とR152、R152とR153、R153とR154、R154とR155、R155とR156、R156とR157、R158とR159、R160とR161、R161とR162、R162とR163、R163とR164、R164とR165、R165とR166、及びR166とR151からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。M、X、m及びnは、前記と同じ意味を有する。)
【0025】
[4]前記式(4)において、R155及びR162がアルキル基を表し、R158とR159、及びR151とR166が互いに結合し、環を形成している請求項3に記載の金属錯体。
【0026】
[5]前記Mが遷移金属元素である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の金属錯体。
【0027】
[6]前記Mが、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛である[1]〜[4]のいずれか1項に記載の金属錯体。
【0028】
[7][1]〜[6]のいずれか1項に記載の金属錯体を用いてなる触媒。
【発明の効果】
【0029】
本発明の金属錯体は新規な環状多座型配位子を有する金属錯体であり、耐熱性および耐酸性に優れる。従って、該金属錯体は、高温下や強酸の存在下においても、触媒活性の低下が抑制され、汎用性の高い触媒となり得るため、工業的に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の好ましい実施態様について説明する。
本発明の第1の実施形態である、前記式(1)で表される金属錯体について説明する。該金属錯体は、遷移金属元素又は典型金属元素である金属原子Mが、少なくとも6つのヘテロ原子を有する配位子によって、錯体を形成しているものである。また、フェノール基の酸素原子と金属原子を結ぶ結合は配位結合又はイオン結合であり、2つの金属原子がある場合、金属原子間で架橋配位していてもよい。この金属錯体の金属原子Mと配位子の配位状態を一般式(1)において、R100〜R107は水素原子、Qはフェニレン基、Y、Y、Z及びZは−N=であり、P及びPは、Y又はYとそれぞれ隣接する炭素原子とともにピリジン環を形成し、該ピリジン環同士が渡環している場合について、下記式(5)に模式的に示す。
【0031】
【化9】

【0032】
本発明の金属錯体を構成する「遷移金属」とは、「化学大辞典」(大木道則他編、平成17年7月1日発行、東京化学同人)1283頁に「遷移元素」として記載されているものと同義であり、不完全なdまたはf亜殻を有する元素を意味する。なお、本発明における遷移金属原子Mは、無電荷であっても、荷電しているイオンであってもよい。また、典型金属原子Mに関しても同様であり、無電荷であっても、荷電しているイオンであってもよい。
【0033】
ここで、遷移金属原子Mについて例示すると、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀が挙げられる。
【0034】
また、典型金属原子Mについて例示すると、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、ガリウム、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン、タリウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマスが挙げられる。
【0035】
前記Mは、好ましくは、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金であり、さらに好ましくはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀であり、特に好ましくは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛であるが、これらのイオンであってもよい。
【0036】
前記式(1)で表される金属錯体は、好ましくは前記式(2)又は(3)で表されるものであり、さらに好ましくは前記式(4)で表されるものである。
【0037】
前記式(1)〜(5)に記載のMは、前記の周期表記載の遷移金属原子から選ばれる金属原子が好適であり、mが2の場合、2つのMは互いに異なっても、同一であってもよい。
【0038】
次に、前記式(1)で表される金属錯体の配位子について説明する。
前記式(1)におけるR100〜R107はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
ここで、置換基を具体的に記載すると、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基を有するシリル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基などの直鎖又は分岐の全炭素数1〜50程度のアルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の炭素数3〜50の環状アルキル基、エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の直鎖、分岐または環状の炭素数2〜50のアルケニル基又はアルキニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、シクロへキシルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などの直鎖、分岐または環状の全炭素数1〜50程度のアルコキシ基、フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基などの全炭素数6〜60程度のアリール基、フェニルメチル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニル−1−プロピル基等の炭素数7〜50のアラルキル基などが例示される。
100〜R107として好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、tert−ブチル基、シクロへキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基に例示される直鎖、分岐又は環状の全炭素数1〜20程度のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基に例示される直鎖又は分岐の全炭素数1〜10程度のアルコキシ基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基などの全炭素数6〜30程度のアリール基であり、さらに好ましくは、クロロ基、ブロモ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、シクロへキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基である。
【0039】
100とR101、R101とR102、R103とR104、R104とR105、R102とR106、及びR105とR107からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。ここで環とは、シクロヘキセン環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、アセナフテン環等の炭化水素環、フラン環、チオフェン環等の複素環が挙げられる。
なお、2つの置換基の組み合わせにより連結して形成された環は、該環にさらに置換基を有していてもよく、これらの置換基としては、前記と同様である。
【0040】
aが2の場合、2つのR106は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。bが2の場合、2つのR107は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。ここで、環としては、シクロプロパン環、シクロプロペン環、シクロブタン環、シクロブテン環等の炭化水素環;ピロリジン環、テトラヒドロフラン環等の複素環が挙げられる。また、これらの環は置換基を有していてもよい。置換基は、前記と同様である。
【0041】
で表される2価の連結基としては、炭素原子、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれた少なくとも1つを含む2価の基が挙げられ、炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基、炭素数2〜40のアリーレン基、−NH−基、−O−基、−S−基、−CO−基、−CO−、−SO−基等の単独又はこれらの組み合わせからなるものである。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、シクロブチレン基等が、アルケニレン基としてはビニレン基、プロペニレン基、ブタジエニレン基等が、アルキニレン基はエチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基等が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラセンジイル基、フェナントレンジイル基、ピリジレン基、ピラジレン基、ピリミジレン基、ピリダジレン基、ピロリレン基、フリレン基、チエニレン基、イミダゾリレン基、ピラゾリレン基、チアゾリレン基、オキサゾリレン基等が挙げられる。該連結基は置換基を有していてもよい。置換基は、前記と同様である。Qで表される2価の連結基は、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜10のアルキレン基と−NH−基、−O−基、−S−基の中から少なくとも1つを組み合わせてなる基、炭素数2〜20のアルケニレン基および炭素数2〜30のアリーレン基であり、さらに好ましくは、炭素数2〜10のアルケニレン基および炭素数2〜20のアリーレン基である。
【0042】
及びYは、それぞれ独立に下記式:
【0043】
【化10】

【0044】
(式中、Rαは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。
【0045】
は、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、PとPは互いに連結してさらに環を形成していてもよい。
とPとしては、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、インドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、キノリン、イソキノリン、シンノリン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン、ベンゾジアジンが挙げられ、好ましくは、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、フラン、チオフェンであり、さらに好ましくは、ピリジン、ピロール、フラン、チオフェンである。
また、PとP骨格が互いに結合して、新たに環を形成してもよく、下記式(1−a)〜(1−i)のいずれかで表される構造をもつものが好ましく、下記式(1−a)〜(1−d)のいずれかで表される構造をもつものがより好ましい。
【0046】
【化11】

【0047】
ここで、Rは水素原子または炭素数が1〜30で表される炭化水素基を表す。
なお、P及びP構造は置換基を有してもよい。置換基としては、前記のR100〜R107についての置換基と同様である。
【0048】
前記式(1)で表される金属錯体は、上記P及びP、Y及びYの具体例で表されるものの中からできる配位子構造をもつものが好ましい。
【0049】
次に、本発明の金属錯体としては、前記式(2)又は(3)で表される金属錯体が好ましい。該配位子は、前記のとおり、少なくとも2つの窒素原子と少なくとも2つの酸素原子を配位原子として有している。また、該配位子は置換基を有していてもよい。置換基は、前記と同様である。
【0050】
前記式(2)で表される金属錯体において、Y及びYは、それぞれ独立に下記式:
【0051】
【化12】

【0052】
(式中、Rγは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群であり、Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群であり、PとPは互いに連結してさらに環を形成していてもよい。PとPの具体例および好ましい環としては、PとPと同様の環が挙げられる。M、X、m及びnは、前記と同じ意味を有する。
【0053】
前記式(2)で表される金属錯体は、以下に示した配位子骨格構造(I)〜(XII)をもつものが好ましい。なお、下記式中、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
【0054】
【化13】

【0055】
前記式(I)〜(XII)では、金属原子は示さず、電荷は省略している。
【0056】
前記式(3)で表される金属錯体において、c及びdは、それぞれ独立に1又は2である。cが2の場合、2つのR137は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。dが2の場合、2つのR138は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Qは2価の連結基を表す。このQで表される2価の連結基は、前記Qで表される2価の連結基と同様である。
【0057】
及びZは、それぞれ独立に下記式:
【0058】
【化14】

【0059】
(式中、Rδは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。M、X、m及びnは、前記と同じ意味を有する。
【0060】
前記式(3)で表される金属錯体は、下記式(XIII)〜(XVIII)のいずれかで表される配位子骨格構造を持つものが好ましい。
【0061】
【化15】

【0062】
前記式(XIII)〜(XVIII)では、金属原子は示さず、電荷は省略している。
【0063】
さらに本発明の金属錯体としては、前記式(4)で表される金属錯体が好ましい。この環は置換基を有していてもよい。前記式(4)におけるR151〜R166はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。置換基は、前記と同様である。
【0064】
前記式(4)において、好ましくはR155及びR162がアルキル基を表し、R158とR159、及びR151とR166が互いに結合し、環を形成している金属錯体である。ここで、アルキル基は全炭素数1〜20程度の直鎖、分岐又は環状のものであり、好ましくはメチル基、エチル基、tert−ブチル基である。また、R158とR159、及びR151とR166が互いに結合し、形成される環は、シクロヘキセン環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、アセナフテン環等の炭化水素環、フラン環、チオフェン環等の複素環であり、好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭化水素環である。これらの環は置換基を有していてもよく、置換基は前記と同様である。
【0065】
上記式(1)〜(4)におけるXは中性分子であるか、対イオンである。該中性分子とは、溶媒和して溶媒和塩を形成する分子、上記式(1)〜(4)における環状配位子以外の配位子が挙げられる。該中性分子を例示すると、水、メタノール、エタノール、n−プロパノ−ル、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサンであり、好ましくは、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンである。これらの中性分子は、1種単独で存在しても2種以上を組み合わせて存在してもよい。
【0066】
また、Xが対イオンである場合、通常、遷移金属原子及び典型金属原子は正の電荷を有するので、これを電気的に中性にする陰イオンが選ばれ、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、チオシアン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオンである。好ましくは、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフェニルホウ酸イオンである。
また、Xが複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよく、中性分子と対イオンが共存する形態でもよい。
nは金属錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表し、好ましくは0〜10の整数、より好ましくは0〜8の整数、特に好ましくは0〜6の整数である。
【0067】
ここで、前記式(1)〜(4)で表される金属錯体の製造方法について説明する。
前記式(1)〜(4)で表される金属錯体は、配位子を形成する下記式(6a)で表される2つのカルボニル基を有するフェノール化合物(以下、「フェノール化合物」と呼ぶ)と、下記式(6b)で表されるジアミン誘導体(以下、「ジアミン化合物」と呼ぶ)とを、遷移金属原子を付与する反応剤(以下、「金属付与剤」と呼ぶ)の存在下で縮合することにより得ることができる。
【0068】
【化16】

【0069】
(式中、R100’〜R107’、Q’は、前記式(1)記載のR100〜R107及びQと同じ意味を有する。)
なお、金属付与剤とは、前記の遷移金属原子Mを有する化合物であり、通常これらの遷移金属を陽イオンとして有する塩が用いられる。
【0070】
前記式(1)で表される金属錯体は、例えば、フェノール化合物と、ジアミン化合物とを、縮合させて配位子を合成した後、該配位子と金属付与剤とを反応させて得ることもできる。
【0071】
前記のフェノール化合物とジアミン化合物とを縮合させた配位子は、さらに水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いて、還元体を合成することができる。該還元体と金属付与剤との反応によっても、前記式(1)で表される金属錯体を得ることができる。
【0072】
前記反応は、反応溶媒の存在下で行ってもよい。反応溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アセトン、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素が挙げられ、これらを2種以上混合してなる反応溶媒を用いてもよいが、適用するフェノール化合物、ジアミン化合物及び金属付与剤が溶解し得るものが好ましい。反応温度としては通常−10〜200℃、好ましくは0〜150℃、特に好ましくは0〜100℃、反応時間としては通常1分〜1週間、好ましくは5分〜24時間、特に好ましくは1時間〜6時間で実施することができる。なお、反応温度および反応時間についても、適用するフェノール化合物、ジアミン化合物及び金属付与剤の種類によって適宜最適化できる。式(1)〜(4)で表される金属錯体の合成反応において、上記の式(6a)で表されるフェノール化合物と、(6b)で表されるジアミン化合物との使用モル比は1:1.5が好ましく、1:1がより好ましい。また、金属付与剤中の金属原子Mの、式(6a)で表されるフェノール化合物に対するモル比は1/1〜2.5/1が好ましい。Xは、式(1)〜(4)で表される金属錯体が、電気的に中性で、配位環境が飽和となるように、金属原子M、配位子となる化合物とともに組み合わせる。
反応後の反応溶液から、生成した金属錯体を単離精製する手段としては、公知の再結晶法、再沈殿法あるいはクロマトグラフィー法から適宜最適な手段を選択して用いることができ、これらの手段を組み合わせてもよい。
なお、前記反応溶媒の種類によっては、生成した金属錯体が析出する場合があり、析出した金属錯体を濾別等で分離し、必要に応じて洗浄操作や乾燥操作を行うことでも、金属錯体を単離精製することもできる。
【0073】
前記式(1)〜(4)で表される金属錯体は、基本骨格に芳香族を持ち、連結基によって金属原子を放出し難い環状多座型構造となっているため、いずれも高度の耐熱性と耐酸性を有し、高温下あるいは強酸の存在下でも錯体構造が比較的安定に維持され、触媒能の低下が小さいと期待される。
とりわけ、該金属錯体は用途として、レドックス触媒等に好適であり、具体的には、過酸化水素の分解触媒、芳香族化合物の酸化重合触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサーなどの用途が挙げられる。また、共役を広げていくことで、有機EL発光材料、有機トランジスタ及び色素増感太陽電池等の有機半導体材料としても用いることが可能と考えられる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、これらはあくまで例示であり、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
[実施例1] (金属錯体(A)の合成)
金属錯体(A)を以下の反応式に従って、フェノール化合物、ジアミン化合物、酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム/エタノール混合溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
なお、以下の実施例1〜10で錯体の原料となる下記フェノール化合物はTetrahedron, 1999, 55, 8377.の記載に準じて合成した。
【0075】
【化17】

【0076】
窒素雰囲気下において0.199gの酢酸コバルト4水和物と0.213gのフェノール化合物を含んだ、5mlのクロロホルムと5mlのエタノールの混合溶液を50mlのナスフラスコに入れ、60℃にて攪拌した。この溶液に0.043gのo−フェニレンジアミンを含んだ5mlエタノール溶液を徐々に添加した。得られた混合物を3時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで複核金属錯体(A)を得た(収量0.109g:収率28%)。元素分析値(%):計算値C4541ClCo;C,56.41;H,4.31;N,5.85.実測値:C,58.28;H,4.81;N,5.85.
ESI−MS:779.0([M−CHCOO]
【0077】
[実施例2] (金属錯体(B)の合成)
金属錯体(B)を以下の反応式に従って、フェノール化合物、ジアミン化合物、酢酸マンガン4水和物を含んだクロロホルム/エタノール混合溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0078】
【化18】

【0079】
窒素雰囲気下において0.221gの酢酸マンガン4水和物と0.213gのフェノール化合物を含んだ、10mlのクロロホルムと5mlのエタノールの混合溶液を50mlのナスフラスコに入れ、60℃にて攪拌した。この溶液に0.043gのo−フェニレンジアミンを含んだ5mlエタノール溶液を徐々に添加した。得られた混合物を3時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで複核金属錯体(B)を得た(収量0.166g:収率44%)。
ESI−MS:771.0([M−CHCOO]
【0080】
[実施例3] (金属錯体(C)の合成)
金属錯体(C)を以下の反応式に従って、フェノール化合物、ジアミン化合物、酢酸銅1水和物を含んだクロロホルム/メタノール混合溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0081】
【化19】

【0082】
窒素雰囲気下において、0.200gの酢酸銅1水和物と0.213gのフェノール化合物を100mlの二口フラスコに入れ、0.065gのo−フェニレンジアミンを含んだ30mlのメタノール溶液を加えた。得られた混合物を3時間還流することによって、茶褐色固体が生成した。得られた溶液を濃縮乾固し、ジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで複核金属錯体(C)を得た(収量0.370g)。
ESI−MS:789.0([M−CHCOO]
【0083】
[実施例4] (金属錯体(D)の合成)
金属錯体(D)を以下の反応式に従って、フェノール化合物、ジアミン化合物、酢酸鉄を含んだクロロホルム/メタノール混合溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0084】
【化20】

【0085】
窒素雰囲気下において、0.213gのフェノール化合物と0.174gの酢酸鉄を100mlの二口フラスコに入れ、20mlのクロロホルムと0.065gのo−フェニレンジアミンを含んだ10mlのメタノール溶液を加えた。この溶液を3時間還流することで茶褐色沈殿が生成した。得られた懸濁液を濃縮乾固し、ジエチルエーテルで洗浄、乾燥することで金属錯体(D)を得た(収量0.344g)。
ESI−MS:690.2([M+MeOH]
【0086】
[実施例5] (金属錯体(E)の合成)
金属錯体(E)を以下の反応式に従って、フェノール化合物、ジアミン化合物、酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム/メタノール混合溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0087】
【化21】

【0088】
窒素雰囲気下において、0.249gの酢酸コバルト4水和物、0.213gのフェノール化合物及び0.079gの2、3−ジアミノナフタレンを100mlの二口フラスコに入れ、20mlのクロロホルムと10mlのメタノールを加えた。この溶液を3時間還流したところ、濃褐色沈殿が生成した。この溶液を濃縮し、一晩冷蔵庫に放置した後、沈殿を濾取し、洗浄及び乾燥することによって複核金属錯体(E)を得た(収量0.282g:収率79%)。
ESI−MS:829.1([M−CHCOO]
【0089】
[実施例6] (金属錯体(F)の合成)
金属錯体(F)を以下の反応式に従って、フェノール化合物、ジアミン化合物、酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム/メタノール混合溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0090】
【化22】

【0091】
窒素雰囲気下において、0.213gのフェノール化合物と0.224gの酢酸コバルト4水和物を50ml二口フラスコに入れた。0.085gの(1R,2R)−(+)ジフェニル−1,2−エチレンジアミンを含んだメタノール溶液10mlとクロロホルム10mlを入れ、3時間還流することによって褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することによって、金属錯体(F)を得た(収量0.448g)。
ESI−MS:883.1([M−CHCOO]
【0092】
[実施例7] (金属錯体(G)の合成)
金属錯体(G)をまず、フェノール化合物とジアミン化合物を反応させて、配位子前駆体を合成した後、酢酸ニッケル4水和物を含んだメタノール溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0093】
【化23】

【0094】
窒素雰囲気下において、加熱還流管と滴下ロートを備えた200ml三口フラスコに0.270gのKCO及び0.020gのn−BuNBrを加えた後、水10ml、エタノール40ml及びジアミン化合物60μlを加えた。滴下ロートでフェノール化合物0.300gを含んだ40mlのクロロホルム溶液をゆっくり滴下した後、該混合物を85℃で3時間攪拌した。室温冷却後、水50mlを加え、分液ロートを用いて有機層を分離・抽出し、有機層をさらに50ml×2の水で洗浄した。有機層にNaSOを加え、一晩乾燥した後、揮発成分を除去し、配位子前駆体を橙色膠状物質として得た(0.270g)。
窒素雰囲気下において0.040gの酢酸ニッケル4水和物と配位子前駆体0.050gを含んだ、10mlのメタノールの混合溶液を50mlのナスフラスコに入れ、50℃にて該混合物を2時間攪拌した。この溶液を室温まで冷却後、溶媒留去することによって、複核金属錯体(G)を橙色粉末として得た(0.075g:収率87%)。
ESI−MS:772.1([M−CHCOO]
【0095】
[実施例8] (金属錯体(H)の合成)
金属錯体(H)をまず、フェノール化合物とジアミン化合物を反応させて、配位子前駆体を合成した後、酢酸コバルト4水和物を含んだクロロホルム溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0096】
【化24】

【0097】
窒素雰囲気下において0.040gの酢酸コバルト4水和物と実施例7と同様の配位子前駆体0.050gを含んだ、10mlのクロロホルムの混合溶液を50mlのナスフラスコに入れ、該混合物を2時間還流した。この溶液を室温まで冷却後、溶媒留去することによって、複核金属錯体(H)を得た(0.055g:収率80%)。
ESI−MS:774.1([M−CHCOO]
【0098】
[実施例9] (金属錯体(I)の合成)
まず、フェノール化合物とジアミン化合物を反応させて、配位子前駆体を合成した後、水素化ホウ素ナトリウムで処理し、その還元体を得た。金属錯体(I)は該還元体と塩化ニッケル6水和物を含んだメタノール溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0099】
【化25】

【0100】
窒素雰囲気下において、0.100gのフェノール化合物を含んだ10mlのクロロホルム溶液と20μlのジアミン化合物を含んだ10mlのエタノール溶液を混合し、4時間加熱還流した。室温冷却後、揮発成分を留去し、残渣にエタノール10mlを加えた。該エタノール溶液を0℃で保持し、0.085gの水素化ホウ素ナトリウムを加え、80℃で2時間攪拌した。室温冷却後、30mlの水を加え、50ml×2のクロロホルムを用いて抽出し、NaSOでクロロホルム溶液を乾燥した後、揮発成分を留去し、還元体を薄黄色粉末として得た(0.070g、収率65%)。
ESI−MS:575.3([M+H]
【0101】
【化26】

【0102】
窒素雰囲気下において0.020gの塩化ニッケル6水和物と還元体0.050gを含んだ、5mlのメタノールの混合溶液を50mlのナスフラスコに入れ、トリエチルアミンを10μl加え、該混合物を3時間室温で攪拌した。この溶液を溶媒留去することによって、複核金属錯体(I)を得た(0.025g:収率79%)。
ESI−MS:344.1([M−2Cl]2+
【0103】
[実施例10] (金属錯体(J)の合成)
まず、フェノール化合物とジアミン化合物を反応させて、配位子前駆体を合成した後、水素化ホウ素ナトリウムで処理し、その還元体を得た。金属錯体(J)は該還元体と塩化ニッケル6水和物を含んだメタノール溶液中で、混合・反応させることにより合成した。
【0104】
【化27】

窒素雰囲気下において、0.100gのフェノール化合物を含んだ10mlのクロロホルム溶液と20μlのジアミン化合物を含んだ10mlのメタノール溶液を混合し、3時間加熱還流した。室温冷却後、揮発成分を留去し、残渣にメタノール10mlを加えた。該メタノール溶液を0℃で保持し、40mgの水素化ホウ素ナトリウムを加え、80℃で2時間攪拌した。室温冷却後、30mlの水を加え、50ml×2のクロロホルムを用いて抽出し、NaSOでクロロホルム溶液を乾燥後、揮発成分を留去し、還元体を薄黄色粉末として得た(85mg、収率75%)。
ESI−MS:604.3([M+H]
【0105】
【化28】

【0106】
窒素雰囲気下において0.020gの塩化ニッケル6水和物と還元体0.050gを含んだ、5mlのメタノールの混合溶液を50mlのナスフラスコに入れ、トリエチルアミンを10μl加え、該混合物を3時間室温で攪拌した。この溶液を溶媒留去することによって、複核金属錯体(J)を得た(0.030g:収率90%)。
ESI−MS:358.6([M−2Cl]
【0107】
上記実施例で得られた金属錯体(A)、(B)、(C)、(D)、(E)及び(H)のIRスペクトルを図1〜6に示した。
[比較例1] (金属錯体(K)の合成)
金属錯体(K)を以下の反応式に従って合成した。
【0108】
【化29】

【0109】
まず、窒素雰囲気下において0.476gの塩化コバルト6水和物と0.412gの4−tert−ブチル−2,6−ジホルミルフェノールを含んだ10mlエタノール溶液を50mlのナスフラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液に0.216gのo−フェニレンジアミンを含んだ5mlエタノール溶液を徐々に添加した。上記混合物を2時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(K)を得た(収量0.465g:収率63%)。
元素分析値(%):計算値(C3638ClCoとして);C,55.47;H,4.91;N,7.19.実測値:C,56.34;H,4.83;N,7.23.
【0110】
[比較例2] (金属錯体(L)の合成)
下記の反応式に示す金属錯体(L)をAus. J. Chem. 1970, 23, 2225.に記載の方法に従い合成した。
【0111】
【化30】

【0112】
まず、窒素雰囲気下において1.9gの塩化コバルト6水和物と1.31gの4―メチル−2,6−ジホルミルフェノールを含んだ50mlメタノール溶液を100mlのナスフラスコに入れ、室温にて攪拌した。この溶液に0.59gの1,3−プロパンジアミンを含んだ20mlメタノールを徐々に添加した。上記混合物を3時間還流することにより茶褐色沈殿が生成した。この沈殿を濾取し、乾燥することで金属錯体(L)を得た(収量1.75g:収率74%)。
元素分析値(%):計算値(C2634l2Coとして);C,47.65;H,5.23;N,8.55.実測値:C,46.64;H,5.02;N,8.58.
【0113】
[試験例1] (錯体の耐酸性試験)
実施例1の金属錯体(A)について、硫酸を用いた酸への耐性試験を行った。金属錯体(A)を、7.90mg取り、メタノール36mLに溶解させた。溶液を9.0mL取り、1M硫酸水溶液1.0mLを加えた。速やかに攪拌した後、0.3mL採取し10倍に希釈した溶液をセルに入れて蓋を閉め、60℃に加熱した。分光光度計(Varian社製、Cary5E)を用いて、溶液の紫外可視吸収の経時変化を観察した。445nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
実施例1の金属錯体(A)を実施例8の金属錯体(H)に置き換えて、上記と同様の操作を行い、紫外可視吸収の経時変化を観察した。437nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
比較のため、実施例1の金属錯体(A)を比較例1の金属錯体(K)に置き換えて、上記と同様の操作を行い、UV吸収の経時変化を観察した。455nmの波長での吸光度及び滴下直後からの吸光度比を表3に示す。比較例1の金属錯体(K)は、金属錯体(A)及び(H)よりも酸存在下で経時的に吸光度が大幅に減少しており、分解の度合いが大きいことが示される。
【0118】
【表3】

【0119】
比較例2の金属錯体(L)について、同様に硫酸を用いた酸への耐性試験を行った。金属錯体(L)を2.84 mg取り、メタノール20 mLに溶解させた。溶液を9.0 mL取り、1M硫酸水溶液1.0 mLを加えた。速やかに攪拌した後、0.3 mL採取し10倍に希釈した溶液をセルに入れ、紫外可視分光光度計(日本分光製、V−530)を用いて、室温における紫外可視吸収の経時変化を観察した。371nmの波長での吸光度を表4に示す。比較例2の金属錯体(L)は室温にもかかわらず、60℃における酸存在下の金属錯体(A)及び(H)よりも吸光度が大幅に減少しており、酸に対する分解の度合いが大きいと認められる。
【0120】
【表4】

【0121】
[試験例2] (錯体の耐熱性試験)
(1)実施例1の金属錯体(A)、(E)及び(H)について、熱重量/示差熱分析装置(セイコーインスツル社製、EXSTAR−6300)を用いて、それぞれの金属錯体について、40〜800℃の範囲で熱処理した際の質量変化(TGA)を測定し、測定に供した初期質量との比率から質量減少率を求めた。測定条件は窒素雰囲気下、40〜800℃(昇温速度10℃/min)であり、熱処理にはアルミナ皿を使用した。800℃における質量減少率を表5に示す。
(2)比較のため金属錯体(A)、(E)及び(H)を比較例2の金属錯体(L)に置き換え、上記と同様に熱質量/示差熱分析装置(セイコーインスツル社製、EXSTAR−6300)を用いて、実験をおこなった。
質量変化率を表5に示す。
【0122】
表5より、本発明の金属錯体(A)、(E)及び(H)を、比較例の金属錯体(L)と比較すると、質量減少率が比較例より小さく、耐熱性に優れると認められる。
【0123】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】金属錯体(A)のIR吸収スペクトルである。
【図2】金属錯体(B)のIR吸収スペクトルである。
【図3】金属錯体(C)のIR吸収スペクトルである。
【図4】金属錯体(D)のIR吸収スペクトルである。
【図5】金属錯体(E)のIR吸収スペクトルである。
【図6】金属錯体(H)のIR吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される金属錯体。
【化1】

(式中、R100〜R107は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。a及びbは、それぞれ独立に1又は2である。R100とR101、R101とR102、R103とR104、R104とR105、R102とR106、及びR105とR107からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。aが2の場合、2つのR106は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。bが2の場合、2つのR107は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Qは2価の連結基を表す。Y及びYは、それぞれ独立に下記式:
【化2】

(式中、Rαは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、PとPは互いに連結してさらに環を形成していてもよい。Z及びZは、それぞれ独立に下記式:
【化3】

(式中、Rβは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Mは、周期表記載の遷移金属元素又は典型金属元素を表す。mは1又は2である。mが2の場合、2つのMは同一であっても異なっていてもよい。Xは、対イオン又は中性分子を表す。nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表す。Xが複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
下記式(2)又は(3)で表される金属錯体であることを特徴とする請求項1に記載の金属錯体。
【化4】

(式中、R121〜R130は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R121とR122、R122とR123、R123とR124、R125とR126、R127とR128、R128とR129、及びR129とR130からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。Y及びYは、それぞれ独立に下記式:
【化5】

(式中、Rγは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、Pは、Yとともに芳香族複素環を形成するために必要な原子群を表し、PとPは互いに連結してさらに環を形成していてもよい。Mは、周期表記載の遷移金属元素又は典型金属元素を表す。mは1又は2である。mが2の場合、2つのMは同一であっても異なっていてもよい。Xは、対イオン又は中性分子を表す。nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表す。Xが複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)
【化6】

(式中、R131〜R144は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R131とR132、R132とR133、R133とR134、R134とR135、R135とR136、R136とR137、R138とR139、R139とR140、R140とR141、R141とR142、R142とR143、R143とR144、及びR144とR131からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。c及びdは、それぞれ独立に1又は2である。cが2の場合、2つのR137は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。dが2の場合、2つのR138は同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。Qは2価の連結基を表す。Z及びZは、それぞれ独立に下記式:
【化7】

(式中、Rδは、水素原子又は炭素数が1〜4の炭化水素基を表す。)
のいずれかで表される基を表す。Mは、周期表記載の遷移金属元素又は典型金属元素を表す。mは1又は2である。mが2の場合、2つのMは同一であっても異なっていてもよい。Xは、対イオン又は中性分子を表す。nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表す。Xが複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
下記式(4)で表される金属錯体であることを特徴とする請求項1に記載の金属錯体。
【化8】

(式中、R151〜R166は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R151とR152、R152とR153、R153とR154、R154とR155、R155とR156、R156とR157、R158とR159、R160とR161、R161とR162、R162とR163、R163とR164、R164とR165、R165とR166、及びR166とR151からなる群から選ばれる一種以上は、互いに結合して環を形成してもよい。Mは、周期表記載の遷移金属元素又は典型金属元素を表す。mは1又は2である。mが2の場合、2つのMは同一であっても異なっていてもよい。Xは、対イオン又は中性分子を表す。nは、錯体中にあるXの個数であり、0以上の整数を表す。Xが複数ある場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記式(4)において、R155及びR162がアルキル基を表し、R158とR159、及びR151とR166が互いに結合し、環を形成している請求項3に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記Mが遷移金属元素である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項6】
前記Mが、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛である請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属錯体を用いてなる触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−57366(P2009−57366A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150824(P2008−150824)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】