説明

金属錯体

【課題】溶液プロセスに適した金属錯体を含有する発光層を有する発光装置を提供する。
【解決手段】アノード2、カソード5、アノード及びカソードの間に配置される発光層4を含む発光装置であって、発光層は発光化合物を含み、発光化合物は金属錯体及びXを含み、金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子、並びにリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されており、Xはアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属錯体及びその製造方法に関する。本発明は、また、金属錯体の使用、金属錯体を含む発光装置及び発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この10年間、高効率の材料又は高効率の装置構造の開発によって発光装置(LED)の発光効率の改良に関する多大な努力がなされてきた。
【0003】
図1は、典型的なLEDの断面図を示す。この装置はアノード2、カソード5及び前記アノードとカソードの間に位置する発光層4を有する。例えば、アノードはインジウム錫酸化物層であることができる。例えば、カソードはLiAlであり得る。装置に注入された正孔と電子は、発光層で再結合して放射する。装置のさらなる特徴は任意選択の正孔輸送層3である。正孔輸送層は、例えばポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の層であり得る。これは、アノードから注入された正孔が発光層に到達するのを助けるエネルギーレベルをもたらす。
【0004】
公知のLED構造は、カソード5と発光層4の間に位置する電子輸送層も有し得る。これはカソードから放出された電子が発光層に到達するのを助けるエネルギーレベルをもたらす。
【0005】
LEDにおいては、対極の電極から注入された電子と正孔が結合して2つのタイプの励起子を形成する。すなわち、スピン対称3重項とスピン非対称1重項である。1重項からの放射性崩壊(蛍光)は速いが、3重項からの放射崩壊(燐光)はスピン保存の要件から形式的に禁止されている。
【0006】
この数年間、混合によって燐光性材料が発光層に組み込まれる研究がなされてきた。しばしば、燐光性材料は金属錯体であるが、これに限定されない。さらに、金属錯体はときどき蛍光性である。
【0007】
金属錯体は配位子で囲まれた金属イオンを含む。金属錯体中の配位子はいくつかの役割を有することができる。配位子は金属から電子を受け取り発光する「発光」配位子であり得る。あるいは、単に金属のエネルギーレベルに影響を与えるために、配位子は存在し得る。例えば、配位子から発光がある場合、非放射性崩壊経路によってエネルギーが損失するのを防止するために、金属に配位する強い配位子場の配位子を有することが有利である。配位子場の強い一般的配位子は当業者に知られており、CO,PPh3及び負に帯電している炭素原子が金属に結合した配位子がある。N−ドナー配位子も、前述のものより強くはないが強力な配位子場を有する配位子である。
【0008】
強力な配位子場の配位子の効果は、金属錯体から光が放出されるメカニズムの理解によって認識できる。このメカニズムが認識できる発光金属錯体の研究が下記に引用される。Chem.Rev.,1987,87,711−7434は有機金属錯体の発光特性に関するものである。この研究論文は有機金属錯体に共通して見られる励起状態の簡潔な要約を提供する。検討される励起状態は、金属中心軌道から配位子局在軌道への電子遷移を伴う金属−配位子電荷移動(MLCT)状態を含む。したがって、形式的な意味ではこの励起は金属の酸化と配位子の還元をもたらす。これらの遷移は、金属中心の低原子価性と多くの配位子におけるアクセプター軌道の低エネルギー位置のため、有機金属錯体に共通して観察される。配位子局在軌道から金属中心軌道への電子遷移を伴う配位子−金属電荷移動(LMCT)状態についても言及されている。
【0009】
電子発光に関する記事のセクションにおいては、最も感光性の高い無機材料のいくつかとして認識されると言われている金属カルボニル錯体に関するサブセクションが設けられている。例としては、M(CO)6-(M=V,Nb,Ta)及びM(CO)6(M=Cr,Mo,W)が挙げられる。
【0010】
M(CO)5L錯体(M=Mo又はW及びL=ピリジン、3−ブロモピリジン、ピリダジン、ピペリジン、トリメチルホスフィン又はトリクロロホスフィン)のマトリックス分離の研究も報告されているが、これは置換金属カルボニルからの蛍光の最初の報告を提供したと言われているためである。
【0011】
いくつかのMo(CO)5L錯体(L=置換ピリジン配位子)についても言及されており、これは流体の状態で発光することが知られていると言われている。発光は、低位のMLCT励起状態に割り当てられている。
【0012】
この研究論文における他のサブセクションは、ニ窒素錯体、メタロセン、金属イソシアニド、アルケン及びオルトメタル化錯体に関するものである。
【0013】
オルトメタル化錯体の多くの例が室温の溶液中において発光を示したと言われている。例えば、[Ru(bpy)2(NPP)]+の発光スペクトルは、MLCT発光に関連する構造を示すと言われている。いくつかのオルトメタル化Pt(II)錯体も言及され、ここで、発光はMLCT励起状態に割り当て得ると言われている。
【0014】
研究論文は、有機金属錯体における低原子価金属中心及び配位子アクセプターの低エネルギー空軌道のため、低位MLCT励起状態がしばしば観察されることを要約している。励起状態レベルのエネルギー順序と観察される光物理的及び光化学的性質の間には、関連性があるとさらに報告されている。さらに、室温発光の例の多くの数がMLCT励起状態に帰すると言われている。
【0015】
Analytical Chemistry,Vol.63,No.17,September 1,1991,829A〜837Aは、高発光遷移金属錯体、特に白金族金属(Ru,Os,Re,Rh及びIr)を有するものの設計及びその応用に関係する。
【0016】
この論文における表Iには、発光効率によって分類される代表的な金属錯体が掲げられている。こうした系は、2,2’−ビピリジン(bpy)又は1,10−フェナントロリン(phen)のような少なくとも1つのα−ジイミン配位子を含むものに限定されているが、多くの設計規則及び基本原則が他クラスの発光金属錯体に適用できると言われている。
【0017】
この論文においては、遷移金属錯体は部分占有d軌道によって特徴付けられること、及びこれら軌道の順序及び占有がかなりの程度発光特性を決めることが説明されている。
【0018】
代表的な8面体MX66金属錯体(Mは金属であり、Xは1つの部位に配位する配位子である)については、その配位子の8面体結晶場が、5つの縮重d軌道を3重縮重tレベルと2重縮重eレベルに分裂させると説明されている。分裂の大きさは、錯体の発光特性を決める特に重要なパラメーターである結晶場分裂によって与えられ、その規模は配位子及び中心金属イオンの結晶場強度によって決められる。したがって、錯体の発光特性は、配位子、幾何学的構造及び金属イオンを変更することによって制御できる。
【0019】
この論文において述べられている3つのタイプの励起状態がある。すなわち、金属中心のd−d状態、配位子に基づくπ−π*状態、及び電荷移動状態である。
【0020】
電荷移動(CT)状態は有機配位子及び金属の両方を伴う。上記のように、金属−配位子電荷移動(MLCT)は金属軌道から配位子軌道への電子の昇位を伴い、配位子−金属電荷移動(LMCT)は配位子から金属軌道への電子の昇位を伴う。
【0021】
この論文によれば、発光遷移金属錯体の最も重要な設計ルールは、発光は常に最低の励起状態から生じることである。したがって、錯体の発光特性の制御は相対的な状態エネルギー並びに最低励起状態の特質及びエネルギーを制御することによって決まる。この点において、この論文は、金属中心のd−d状態のいずれもが、その熱励起を防止するために発光レベルを十分上回らなければならないが、熱励起が起これば、光化学不安定性及び急速な励起状態の崩壊を招くことになろうと述べている。したがって、より重要な基準の1つは、発光レベルとの競争から最低d−d状態を除くことにある。したがって、望まれる設計目標は、発光MLCT又はπ−π状態からd−d状態を可能な限り熱的に遮断することである。d−d状態のエネルギーの制御は、結晶場分裂に影響を与えるように配位子又は中央金属イオンを変化させることによって達成される。より強い結晶場強度の配位子又は金属はd−d状態エネルギーを上昇させ、結晶場強度はCl<py<<bpy、phen<CN<CO(pyはピリジンを表す)の順で増加する。
【0022】
金属においては、結晶場分裂は周期律表のあるカラムを下がると増加する。CT状態エネルギーは、配位子と金属イオンの酸化/還元の容易さによって影響を受ける。MLCT遷移においては、より還元しやすい配位子及びより酸化しやすい金属がMLCT状態を低くする。
【0023】
π−π*状態エネルギーは配位子自体によって大きく影響される。しかしながら、π−π遷移のエネルギー及び強度は、置換基、芳香環のヘテロ原子又はπ共役の程度を変えることによって変更され得る。
【0024】
Photochemistry And Luminescence Of Cyclometallated Comlexes, Advances in Photochemistry, Volume 17, 1992, p. 1-68は、この分野においても最も注目されたのは、ポリピリジン型系の錯体(原型:Ru(bpy)2+、bpyは2,2’ビピリジン)であったと記載している。
【0025】
シクロメタル化錯体の光化学的及び光物理的特性に対する関心は、この延長であると言われている。
【0026】
この刊行物における表2は、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム及び白金のシクロメタル化錯体及びこれらの配位子の吸収及び発光特性を示す。
【0027】
強配位子場のPPh3配位子を含む金属錯体は、例えば、下記のレニウム錯体を開示する特開2002−173674号公報に開示される。
【0028】
【化1】

【0029】
とりわけ、下記に示される型のPPh3配位子を有するタングステン、オスミウム、ニッケル及び白金錯体が知られている。
【0030】
【化2】

【0031】
例えば、Journal of the Chemical Society, Dalton Transactions: Inorganic Chemistry (1972-1999) (1986), (3), 511-15(タングステン)及びZeitschrift fur Anorganische und Allegemeine Chemie (1975),418(1), 45-53(ニッケル)参照。
【0032】
また、次のオスミウム錯体がAdv. Mat. 2002,14, 433により知られている。
【0033】
【化3】

【0034】
次の錯体が欧州特許1353388号明細書に開示されている。
【0035】
【化4】

【0036】
次の錯体が特開2002−203678号に開示されている。
【0037】
【化5】

【0038】
これら錯体におけるPPh3配位子は発光配位子ではない。
【0039】
ダイトピック配位子によって結合された2つの異なるタイプの反応性金属中心から構成される他の錯体は、J. Chem. Soc. Dalton Trans. 2002, 2423-2436に開示されている。この論文においては、トリフェニルホスフィンは有機化学でももっとも多く使用される配位子の1つであり、均一遷移金属触媒で発見されたもっとも一般的な配位子の1つであると述べられている。したがって、この論文は特に発光装置の分野に関するものではなく、触媒としての金属錯体の使用に関するものである。各種のPPh3錯体が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】欧州特許1353388号明細書
【特許文献2】特開2002−203678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
PPh3配位子を有するものを含めた金属錯体に関連する1つの問題は、凝集に関係し、これは3重項のクエンチを導き、励起子移動の効率も減少させる。その上、PPh配位子を有する多くの金属錯体は、溶液処理できない。これは、溶液処理により装置の層をキャスティングできることが利点となる、発光装置の製造の際に問題を生じさせる。他の問題は、別個のホスト材料が使用される場合の金属錯体とホスト材料の相分離に関連する。
【0042】
上記の観点から、その多くがPPh3配位子を含み、発光装置に使用するための公知の金属錯体を改良する必要性が存在することが理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0043】
したがって、本発明の第1の側面は、アノード、カソード、前記アノード及び前記カソードの間に配置される発光層を含む発光装置であって、前記発光層は発光化合物を含み、前記化合物は金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子並びに前記リン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されており、Xはアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする発光装置を提供する。
【0044】
本発明の第2の側面は、前記請求項のいずれか一項に記載の発光装置を製造する方法を提供し、発光層がアノードとカソードの間に配置されるように、アノード、カソード及び発光層を形成する工程を含む。
【0045】
本発明の第3の側面は、発光装置における発光化合物を製造するための反応性化合物を提供し、前記反応性化合物は金属錯体を含み、前記金属錯体は金属(M)及びP(Ars)(R)(R’)を含み、PはMに直接配位されており、Arsはアリール又はヘテロアリール基であり、R及びR’は独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換アルキル、アリール若しくはヘテロアリール基を表し、Arsは1又は2以上の反応基で置換され、前記又は各反応基はトリフレート基、ハロゲン基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基及びボラン基から構成される群から選ばれる。
【0046】
本発明の第4の側面は、本発明の第3の側面に関連して定義される反応性化合物を使用して、発光装置における発光化合物を製造するための方法を提供する。
【0047】
本発明の第5の側面は、発光装置における発光化合物であり、前記化合物は金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されているリン原子並びにリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されている発光化合物であって、Xはアリール又はヘテロアリール基を含み、Arsはアリール又はヘテロアリール基に共役結合していることを特徴とする発光化合物を提供する。
【0048】
本発明の第6の側面は、発光化合物が金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子並びに前記リン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されている発光化合物の使用であって、Xはアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】典型的なLEDの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の第1の側面の装置の発光層に含まれる化合物についてさらに詳細に説明する。
【0051】
場合により、Xはアリール又はヘテロアリール基を含み、Arsは前記アリール又はヘテロアリール基に共役結合している。
【0052】
本発明によれば、官能基Xは非発光配位子上に導入される。これは、Xを発光配位子上に導入する場合に比べて、発光色又は光出力及び発光に関連する他の特性に影響を与えないので有利である。
【0053】
Arsはさらに置換され得る。
【0054】
リン原子はMに直接的に配位されるので、金属錯体はリン含有配位子を含むと理解され得る。リン原子は酸化状態が+3又は+5であり得る。どちらの場合も通常リン原子は、Arsに加えて2つのさらなる基(R及びR’)に結合される。好ましくは、前記2つのさらなる基(R及びR’)は、それぞれ独立してH、ハロゲン基(好ましくはF)又は置換若しくは未置換アルキル(好ましくはCH3)、アリール若しくはヘテロアリール基を含む。
【0055】
1つの態様において、好ましくは、R及びR’の少なくとも1つは置換若しくは未置換アリール又はヘテロアリール基である。より好ましくは、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である。さらに好ましくは、Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である。
【0056】
他の態様において、R及びR’の少なくとも1つはH、ハロゲン基(好ましくはF)又はメチル基である。混雑を回避するために、Xが大きな基であるときはこれらの小さいR及びR’基が好ましい。
【0057】
P(V)の場合、典型的には、リン原子が酸素(P=O)にも結合される。
【0058】
本発明の化合物の場合、Xは金属錯体を効果的に官能化する。したがって、ホスフィン配位子又は他のP(Ars)(R)(R’)含有配位子を含む従来技術で開示された金属錯体を官能化することにより、ホスフィン配位子のフェニル基の1つの上(又は他のP(Ars)(R)(R’)含有配位子の場合、Ar上)へXを導入することによって本発明の化合物を得ることができる。このような錯体は、レニウム、タングステン、白金、パラジウム、銅、クロム、モリブデン、ロジウム、イリジウム、金、ルテニウム及びオスミウム錯体を含む。前記錯体はまた、Mがガリウム、アルミニウム、ベリリウム、亜鉛、水銀又はカドミウムである蛍光錯体を含む。これらは、一般式I〜Xに関連してより詳細に説明される。この一般式において少なくとも1つのLは上記で定義されるようにP(Ars)(R)(R’)を含む。
【0059】
発光層に含まれる本発明の化合物は低分子、オリゴマー、ポリマー又はデンドリマーであることができる。
【0060】
XはArs上の官能基とみなされ得る。この点において、Xの機能は、例えば、全体として化合物の溶解性を改良し、電子輸送を促進し、及び/又は装置における正孔輸送を促進することでもよい。これら機能にとって適切な基は当業者に公知である。例えば、好ましい可溶化基はアルキル及びアルコキシ基を含む。さらに、電子及び/又は正孔輸送のための好ましい基は、2,7−結合9,9二置換フルオレン、p−結合ジアルキルフェニレン、p−結合二置換フェニレン、フェニレンビニレン、2,5−結合ベンゾチアジアゾール、2,5−結合置換ベンゾチアジアゾール、2,5−結合二置換ベンゾチアジアゾール、2,5−結合置換又は未置換チオフェン、置換又は未置換トリアリールアミン及び未置換又は置換カルバゾールから構成される群から選択される基が挙げられる。未置換及び置換カルバゾールが特に好ましい。
【0061】
本発明の第1の側面の第1の態様において、Xはポリマー又はオリゴマーを含む。下記に説明するように、ポリマーは部分的又は完全に共役されていてもよい。
【0062】
第1の態様において、Arsはポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントであり得る。あるいは、Arsはポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部であり得る。この意味において、金属錯体はポリマー又はオリゴマーにおける繰返し単位、側鎖置換基又は末端基であり得る。
【0063】
Arsがポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部であるとき、Arsは2つの場所において主鎖に結合することになるため二官能化されていると見なし得る。
【0064】
【化6】

Arsがポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントであり側鎖置換基を形成する場合、又は末端基を形成する場合、Arsは単官能化されていると考えられてよい。
【0065】
凝集及び相分離のような形態変化に関連する問題は、本発明の第1の態様による化合物で回避される。化合物の制御された構造とは金属錯体の位置及び移動性が空間的に制御されることを意味する。
【0066】
この空間的な制御は、ポリマー又はオリゴマーと金属錯体間の相互作用の制御を可能にする。これは、ポリマー又はオリゴマーと金属錯体の相乗効果により、金属錯体がポリマー又はオリゴマーに共役結合しているときの励起状態における材料のエネルギーレベルをある程度操作可能にする。
【0067】
金属錯体がポリマー又はオリゴマーに共役結合しているとき、これは、WO03/091355(その内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるようにエネルギーレベルの混合を導き得る。エネルギーレベルのこの混合はポリマー又はオリゴマーから配位子へのエネルギー移動を助けることができる。ポリマー又はオリゴマーから有機金属基への電荷輸送も、有機金属化合物及びポリマーの従来技術の混合物に比較して高め得る。
【0068】
一般に、材料中の共役度の増加はその材料の3重項エネルギーレベルを低下させると言うことができる。このように、本化合物の共役度の制御は3重項エネルギーレベルを少なくとも部分的に制御する有益な方法となり得る。この点において、1つの態様において、ポリマー又はオリゴマーの主鎖は部分的に共役し、より好ましくは実質的又はさらには完全に共役している。
【0069】
ポリマー又はオリゴマーの共役度の制御のために、ポリマー又はオリゴマーはアリール又はヘテロアリール繰返し単位、例えば、カルバゾール、トリアリールアミン、フルオレン又はフェニレンビニレン基のようなフェニル基を含むことが好ましい。したがって、1つの実施態様において、Xは、好ましくはカルバゾール、トリアリールアミン、フルオレン又はフェニレン系のポリマーを含む。カルバゾール及びトリアリールアミン系ポリマーが最も好ましい。
【0070】
他の有益なアリール又はヘテロアリール繰返し単位は、置換又は未置換ベンゾチアジアゾール及び置換又は未置換チオフェンである。
【0071】
化合物が発光できるようにそのエネルギーレベルが金属錯体に相補的である(complimentary)限り、いかなるポリマー又はオリゴマーも使用され得る。
【0072】
ポリマー又はオリゴマーは発光装置において機能性になり得る。例えば、ポリマー又はオリゴマーは電子輸送性又は正孔輸送性になり得る。この目的のために、本発明者らはポリマー又はオリゴマーは好ましくは導電体又は半導体、より好ましくは半導体であることを発見した。
【0073】
材料の溶解性を改良するためにポリマー又はオリゴマーが可溶化基を含むことが好ましいことがある。好ましい可溶化基はアルキル及びアルコキシ基を含む。この点において、材料は溶液処理可能であることが好ましい。
【0074】
本発明の第1の側面の第1の態様において、本材料は2以上の金属錯体を含んでもよい。この場合、材料における金属錯体の空間的分離はより重要である。空間的分離は下記により詳細に示される製造方法、又はポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントとなる金属錯体を選択することによって制御され得る。
【0075】
材料の特性をさらに制御する観点から、材料の共役を遮断するためにスペーサー基が使用され得る。したがって、Xは選択的に置換されたC1−C10アルキレン基のような非共役スペーサー基を含んでもよい。アルキレン基は、ポリマー又はオリゴマー及び金属錯体間の距離を制御するのに役立ち、これによって電荷のトラップを改良する。これに関して、アルキル基及びアルキルエーテル基が適切なスペーサー基である。スペーサー基の長さは、ポリマー又はオリゴマー主鎖からの金属錯体の分離をある程度制御するために使用することもできる。したがって、スペーサー基は適切にはCH2基の鎖であり得る。
【0076】
本発明の第1の側面の第2の態様においては、Mはデンドリマーの核に含まれる。したがって、第2の態様は核の一部として金属イオンを有するデンドリマーに関する。
【0077】
デンドリマーの特性によって、デンドリマーは溶液処理にとって理想的になり、金属錯体を溶液処理可能な系に組み込むことが可能になる。WO02/066552(この内容が参照により本明細書に組み込まれる)は適切なデンドリマー構造についてある情報を提供する。
【0078】
デンドリマーは典型的には一般式(XI)を有する。
【0079】
【化7】

【0080】
ここで、核は金属イオン又は金属イオンを含む基を表し、nは1又は2以上の整数を表し、それぞれ同じか異なってもよい各デンドロンは、アリール及び/又はヘテロアリール構造単位を含む少なくとも部分的に共役された構造を表す。
【0081】
好ましいアリール及びヘテロアリール構造単位は次のものである。置換及び未置換カルバゾール、置換及び未置換トリアリールアミン、置換及び未置換フルオレン、置換及び未置換フェニレン、置換及び未置換ベンゾチアジアゾール及び置換又は未置換チオフェンである。
【0082】
次に、発光層の金属錯体に移ると、好ましい錯体は中性である。この目的のため、Mは、非配位アニオンが存在しないように錯体を中性化するために、好ましくは荷電が十分な配位子によって囲まれる。
【0083】
第1又は第2の態様において、適切なArs基はアリール又は5若しくは6員環を含むヘテロアリール基を含む。適切なヘテロアリール基はヘテロアリール環において2以上のヘテロ原子を含むことができる。適切なArs基の例は、フェニル及びピリジルである。
【0084】
上述したように、通常、リン原子は、Arsに加えて、2つの他の基(R及びR’)に結合される。好ましくは、この2つの他の基は、それぞれ独立して、H、ハロゲン基、又は置換若しくは未置換アルキル、アリール又はヘテロアリール基を含む。
【0085】
1つの実施態様において、好ましくは、R及びR’の少なくとも1つは置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である。より好ましくは、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリール又はヘテロアリール基である。よりさらに好ましくは、Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である。
【0086】
他の態様において、R及びR’の少なくとも1つは、H,ハロゲン基(好ましくはF)又はメチル基である。混雑を避けるために、Xが大きい基であるときは、これらの小さなR及びR’基が好ましい。
【0087】
錯体における金属Mについては、適切な金属Mは次のものを含む。
【0088】
セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、タリウム、エルビウム及びネオジウムなどのランタニド金属、及び
d−ブロック金属、特に、その第2及び第3列のもの、即ち、39〜48番及び72〜80番の元素、特に、レニウム、タングステン、白金、パラジウム、銅、クロム、モリブデン、ロジウム、イリジウム、金、ルテニウム及びオスミウム。
【0089】
金属Mについては、好ましい金属は、レニウム、イリジウム、タングステン、オスミウム、白金及び金、最も好ましくは、レニウム及びイリジウムを含む。
【0090】
典型的には、金属錯体は上述したリン含有配位子に加えて、他の配位子(配位基)を含む。
【0091】
もちろん、金属錯体は上記の2以上のリン含有配位子を含んでもよく、その場合各Lは同じか異なり得る。
【0092】
金属錯体における他の配位子(上述したリン含有配位子以外の他のもの)の性質は、Xとの金属錯体の適合性をさらに最適化するために選択し得る。この目的のため、配位子は、1)電子輸送配位子、2)正孔輸送配位子及び3)(半)導電性配位子のカテゴリーから適切に選択され得る。配位子の選択においては、起こり得る立体障害に注意しなければならない。典型的には、好ましい配位子には、共役配位子、2座配位子、及び金属と配位する少なくとも1つの窒素原子を含む配位子が挙げられる。
【0093】
上述したように、PPh3及び実際に他のP(Ars)(R)(R’)を含有する配位子は、通常、発光/電子受容配位子ではない。したがって、その化合物がLEDにおける発光に適するためには、発光配位子も金属錯体中のMに配位すべきである。この目的のため、好ましくは、Mは次の2座発光配位子、
【0094】
【化8】

【0095】
又は次の2つの単座発光配位子に追加的に配位される。
【0096】
【化9】

【0097】
金属錯体中の配位子(リン含有配位子以外の)は、単座(L)、2座(L2)又は3座(L3)であり得る。2座及び3座配位子においては、Mに配位されるとき7、6、5又は4員環を形成するように、配位原子が配位子中で結合され得る。6員環が好ましく、5員環が最も好ましい。有益な3座配位子の例は、次のものである。
【0098】
【化10】

ここで、X、X及びXは、N,C,O及びSから独立して選ばれる。好ましくは、X1=X2=X3=N。
【0099】
Mに配位される好ましい基はフェノール基である。
【0100】
【化11】

【0101】
したがって、特に好ましい2座配位子はキノリネートである。
【0102】
f−ブロック金属に適切な他の配位基は、カルボン酸、1,3−ジケトネート、ヒドロキシカルボン酸、アシルフェノール及びイミノアシル基を含むシッフ塩基のような酸素又は窒素ドナー系を含む。公知のように、発光ランタニド金属錯体は、金属イオンの第1の励起状態より高い3重項励起エネルギーレベルを有する感光性基を要求する。発光は金属のf−f遷移から行われ、したがって発光色は金属の選択によって決められる、鋭い発光は、通常狭く、ディスプレイの応用に有益な純粋色の発光をもたらす。
【0103】
d−ブロック金属は、好ましくは、ポルフィリン又は一般式(XII)の2座配位子のような炭素又は窒素ドナーと錯体を形成する。
【0104】
【化12】

ここで、Ar2及びAr3は同じか異なってもよく、選択的に置換されるアリール又はヘテロアリールから独立して選ばれる。Y1及びYは同じか異なってもよく、炭素又は窒素から独立して選ばれる。Ar2及びAr3は共に縮合され得る。Yが炭素でありY1が窒素である、又はY及びY1が共に窒素である配位子が特に好ましい。
【0105】
2座配位子の例は下記に示される。
【0106】
【化13】

Ar2及びAr3の一方又は両方は、1又は2以上の置換基を有してもよい。好ましい置換基は上述した通りである。d−ブロック元素との使用に適切な他の配位子は、ジケトネート、特にアセチルアセトネート(acac)、キノリネート、トリアリールホスフィン及びピリジンを含み、それぞれは置換され得る。
【0107】
Xで官能化できる最も関心の高い化合物は、一般式Iを有する。
【0108】
【化14】

M=イリジウム、レニウム、タングステン、白金又はオスミウム。
A,Bは結合され得る発光配位子である。
【0109】
少なくとも1つのLはP(Ars)(R)(R’)、好ましくはホスフィンを含む。LがP(Ars)(R)(R’)を含まない場合は、好ましくは強配位子場の配位子であり、最も好ましくはカルボニルである。
【0110】
L基は結合され得る。
【0111】
mはMの原子価を満たすのに必要な数である。レニウム(I)、イリジウム(III)、タングステン(0)、オスミウム(II)及び白金(IV)においてmは好ましくは4である。白金(II)においては、mは好ましくは2である。
【0112】
nは0又は整数である。nが整数である場合、対イオン(Z)が存在する。
【0113】
特定の例は次のとおりである。
【0114】
【化15】

Xで官能化できる他の関心高い錯体は、一般式II又はIIIで下記に示されるレニウム錯体を含む。一般式IIIが最も好ましい。
【0115】
【化16】

少なくとも1つのLはP(Ars)(R)(R’)、好ましくはホスフィンを含む。Aは中性の発光配位子である。残りの配位子Lは中性配位子である。レニウムの場合、残りの配位子Lは好ましくは強配位子場の配位子であり、例えば、C=O又はPR3であり、各Rは独立して選択的に置換されるアルキル、アリール又はヘテロアリール基を表す。
【0116】
2又は3以上のL基は結合されることができ、例えば、2つのPR3基は次のものを形成してもよい。
【0117】
【化17】

【0118】
上式において、少なくとも1つのLはP(Ars)(R)(R’)、好ましくはホスフィンを含む。A及びBは選択的に結合されていてもよい中性の発光配位子、例えば、ビピリジル又はフェナントロリンを表す。Lは一般式I又はIIに関して上記で定義した通りである。
【0119】
Xで官能化できるさらに他の関心高い錯体は、一般式IV、V,VI、VII又はVIIIを有するイリジウム錯体を含む。これらの一般式において、少なくとも1つの配位子は上記に定義されるP(Ars)(R)(R’)、好ましくはホスフィンを含む。
【0120】
【化18】

【0121】
【化19】

【0122】
イリジウムについては、一般式IV及びVにおける残りのLに適切な基は、単座、2座又は3座配位子、例えば、ビピリジル、フェナントロリン、トリアリールホスフィンを含む。また、好ましくは残りのLの少なくとも1つは強配位子場の配位子を含む。
【0123】
【化20】

【0124】
少なくとも1つのLは荷電配位子(L’)(例えば、塩化物)である。好ましい態様において、1つの荷電配位子L’があり、これは一般式VIIIに示されるように中性配位子に結合されている(例えば、L−L’=フェニルピリジン)。
【0125】
【化21】

【0126】
【化22】

【0127】
Xで官能化できる好ましいオスミウム錯体は、一般式IXを有するもの、及び一般式IV〜VIIIにおける上記イリジウム錯体に類似する他の錯体である。
【0128】
【化23】

【0129】
上述のように、金属錯体は燐光性又は蛍光性でもよい。
【0130】
Xの導入により本発明の錯体を得るために官能化できる公知の蛍光性錯体の例は、前述したIr及びOs錯体のAl類縁物質、特に次のものを含む。
【0131】
【化24】

上式において、L及びL’は上記のいずれかで定義したとおりである。
【0132】
好ましくは、AlについてはL’−Lは、キノリネート、特に、8−キノリネート、すなわち下記のものである。
【0133】
【化25】

【0134】
ベリリウム、ガリウム水銀、カドミウム及び亜鉛は蛍光性錯体を形成する他の金属である。したがって、本発明の他の蛍光性錯体はこれら金属を含むことができる。
【0135】
一般式IV〜Xにおいて、少なくとも1つの配位子は金属から電荷を受け入れることができ、MLCTによって発光することができなければならない。
【0136】
発光は蛍光又は燐光のいずれでもよい。好ましくは、発光は燐光である。
【0137】
化合物は発光層において他の材料と任意選択で混合されることができる。化合物は発光層においてホスト材料と共に存在することが望ましいことがある。
【0138】
1つの好ましい態様において、化合物は発光層においてホスト材料と共に混合される。
【0139】
ホスト材料はまた電荷輸送特性を有することができる。正孔輸送ホスト材料は、次の一般式を有する選択的に置換された正孔輸送アリールアミンのようなものが特に好ましい。
【0140】
【化26】

ここで、Arはフェニル又は次のような選択的に置換された芳香族基であり、または
【0141】
【化27】

【0142】
Ar6,Ar7、Ar8及びAr9は選択的に置換された芳香族又は複素環式芳香族基である(Shi et al (Kodak) US5,554,450. Van Slyke et al, US5,061,569. So et al (Motorola) US 5,853,905 (1997))。Arは好ましくはビフェニルである。Ar6、Ar7、Ar8及びAr9の少なくとも2つは、チオール基、又は反応性不飽和炭素−炭素結合含有基のどちらかに結合され得る。Ar6とAr7及び/又はAr8とAr9は、選択的に結合し合って、例えば、Nが、例えば次のカルバゾール単位の一部を形成するようにN含有環を形成する。
【0143】
【化28】

【0144】
ホスト材料は、代わりに電子輸送特性を有することができる。電子輸送ホスト材料の例は、アゾール、ジアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、ベンゾキサゾール、ベンズアゾール及びフェナントロリンであり、これらはそれぞれ選択的に置換されることができる。特に好ましい置換基はアリール基、特に、フェニルオキサジアゾール、特にアリール置換オキサジアゾールである。これらホスト材料は低分子の形で存在してもよく、又はポリマーの繰返し単位、特に、ポリマー主鎖に位置する繰返し単位又はポリマー主鎖からのペンダント置換基として供給されてもよい。電子輸送ホスト材料の特定の例は、3−フェニル−4−(1−ナフチル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール及び2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−フェナントロリンを含む。
【0145】
ホスト材料は双極性、すなわち、正孔及び電子を輸送できてもよい。適切な双極性材料は好ましくは少なくとも2つのカルバゾール単位(Shirota, J. Mater. Chem., 2000. 10, 1-25)を含む。1つの好ましい化合物においては、上記のAr6及びAr7並びにAr8及びAr9の両方はカルバゾール環を形成するために結合し、Ar5はフェニルである。あるいは、双極性ホスト材料は正孔輸送セグメント及び電子輸送セグメントを含む材料であり得る。そのような材料の例としては、正孔輸送がポリマー主鎖内に位置するトリアリールアミン繰返し単位により供給され、電子輸送がポリマー主鎖内の共役ポリフルオレン鎖により供給される、国際公開00/55927号パンフレットに開示されるような、正孔輸送セグメント及び電子輸送セグメントを含むポリマーである。あるいは、正孔輸送及び電子輸送特性は共役又は非共役ポリマー主鎖からのペンダント繰返し単位により供給されてもよい。
【0146】
「低分子」ホストの特定の例は、CBPとして知られる4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)ビフェニル)、及びIkai et al. (Appl. Phys. Lett., 79 no. 2, 2001, 156)に開示されるTCTAとして知られる(4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン)、並びにMTDATAとして知られるトリス−4−(N−3−メチルフェニル−N−フェニル)フェニルアミンのようなトリールアミンを含む。
【0147】
ホモポリマー及びコポリマーはホストとして使用してもよく、正孔輸送層に関して上記したポリフルオレン、ポリスピロフルオレン、ポリインデノフルオレン又はポリフェニレンのような選択的に置換されたポリアリーレンを含む。
【0148】
従来技術において開示されるホストポリマーの特定の例は、例えば、Appl. Phys. Lett. 2000, 77(15), 2280に開示されているポリ(ビニルカルバゾール)、Synth. Met. 2001, 116, 379, Phys. Rev. B 2001, 63, 235206及びAppl. Phys. Lett. 2003, 82(7), 1006に開示されるポリフルオレン、Adv. Mater. 1999, 11(4), 285に開示されるポリ[4−(N−4−ビニルベンジルオキシエチル,N−メチルアミノ)−N−(2,5−ジ−tert−ブチルフェニルナプタルイミド]、J. Mater. Chem. 2003, 13, 50-55におけるポリ(パラ−フェニレン)、J. Chem. Phys. (2003), 118 (6), 2853-2864に開示されるfac−トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)及び2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金(II)両方のホストとしてポリ[9,9’−ジ−n−ヘキシル−2,7−フルオレン−alt−1,4−(2,5−ジ−n−へキシルオキシ)フェニレン]、Mat. Res. Symp. Spring Meeting 2003 Book of Abstracts, Heeger, p. 214におけるジオクチルフルオレン及びジシアノ−ベンゼンのランダムコポリマーホストを含み、フルオレン繰返し単位とフェニレン繰返し単位のABコポリマーは、Mat. Res. Soc. Symp. Proc. 708, 2002, 131に開示されている。
【0149】
ホスト材料中の化合物の濃度は薄膜が高い電子発光効率を有するような濃度とすべきである。発光化合物の濃度が高すぎると、発光のクエンチが生じ得る。濃度範囲は0.01〜49wt%であり、より好ましくは0.5〜10wt%、最も好ましくは1−3wt%とするのが通常適当である。
【0150】
第1の側面においては、図1を参照すると、本発明の有機発光ダイオードは、基板1、アノード2(好ましくは、インジウム錫酸化物)、有機正孔注入材料の層3、電子発光層4及びカソード5を含み得る。
【0151】
図1に示されるように、本発明のLEDにおいて、通常、アノードは基板上に供給される。光学装置は湿気と酸素に敏感な傾向がある。したがって、基板は、好ましくは、湿気と酸素の装置への侵入の防止について良好なバリヤー特性を有する。基板は、一般的にガラスであるが、特に、装置の柔軟性が必要な場合は他の基板が使用され得る。例えば、プラスチック・バリヤー交互層の基板を開示する米国6268695号明細書にあるようなプラスチック、又は欧州特許0949850に開示されるような薄いガラスとプラスチックのラミネートを含むことができる。
【0152】
必須ではないが、アノードから発光層への正孔の注入を促進するので、アノードと発光層の間に正孔注入層が存在することも望ましい。有機正孔注入材料の例は、欧州特許0901176号明細書及び欧州特許0947123号明細書に開示されるポリ(スチレンスルホネート)のような適当な対イオンを有するポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)、又は米国5723873号明細書及び米国5798170号明細書に開示されるようなポリアニリンを含む。
【0153】
半導体材料を含む電荷輸送層(図示しない)を供給することもできる。正孔輸送層はアノードと発光層の間に供給され得、電子輸送層はカソードと発光層の間に供給され得る。
【0154】
カソードは、電子が効率的に装置に注入されるように選択され、したがってアルミニウム層のような単一の導電材料を含んでもよい。あるいは、それは複数の金属、例えば、国際公開98/10621号パンフレットに開示されるようなカルシウムとアルミニウムの2層を有することができる。例えば、国際公開00/48258号パンフレットに開示されるように、電子注入を促進するためにフッ化リチウムのような誘電材料の薄膜層を発光層とカソードの間に任意選択で供給してもよい。
【0155】
装置は、湿気と酸素の侵入を防止するために好ましくは封止材で封止される。適切な封止材は、ガラスシート、例えば国際公開01/81649号明細書に開示されるようなポリマーと誘電体との交互積層体などの適切なバリヤー特性を有する薄膜、又は国際公開01/19142号明細書に開示されるような選択的に乾燥剤を有する密封容器を含む。
【0156】
実用的な装置において、電極の少なくとも1つは光が放射されるように半透明である。アノードが透明である場合、典型的にはインジウム錫酸化物を含む。透明カソードの例は例えば、GB2348316に開示されている。
【0157】
本発明の第2の側面は、第1の側面に関して定義したような発光装置の製造方法を提供する。この方法は、発光層がアノードとカソードの間に位置するようにアノード、カソード及び発光層を形成する工程を含む。好ましくは、発光層は溶液処理によって形成される。適切な技術は当業者によく知られている。
【0158】
発光層に含まれる発光化合物の製造に関して、この化合物は本発明の第3の側面に関して定義した中間反応性化合物を介して製造され得る。
【0159】
したがって、本発明の第3の側面は、発光装置における発光化合物を製造するための反応性化合物を提供する。言い換えると、本発明の第3の側面は、本発明の第5の側面に関連して上記に定義した発光化合物を製造するための反応性化合物を提供する。反応性化合物は金属錯体を含む。金属錯体は金属M及びP(Ars)(R)(R’)を含み、PはMに直接配位されており、Arsはアリール又はヘテロアリール基であり、R及びR’は本発明の第1の側面に関して上記に定義した通りであり、Arsは1又は2以上の(好ましくは1又は2)の反応基で置換されており、ここで前記又は各反応基(Y,Y’)は、トリフレート基、ハロゲン基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基及びボラン基から構成される群から選択される。好ましくは、前記又は各反応基は臭素である。
【0160】
したがって、第3の側面の反応性化合物は一般式XII又はXIIIで示される構造を有してもよく、ここでArs、R及びR’は上記で定義された通りであり、R2は金属(M)及び配位している配位子を表し、PはMに直接配位される。Y及びY’は上記で定義される反応基である。
【0161】
【化29】

【0162】
第3の側面の中間反応性化合物は、例えば、下記の合成方法に従って製造できる。
【0163】
【化30】

【0164】
ジフェニルホスフィン塩化物と1,4−ジブロモベンゼンとの反応による反応性ホスフィン(4−ブロモフェニル)ジフェニルホスフィンの合成を開示するOrganic Syntheses (1969), 49, 66-9についても引用し得る。
【0165】
次いで、本発明の第3の側面の中間反応性化合物を形成するために、上記ホスフィンが金属錯体に組み入れられ得る。
【0166】
当業者に知られるように、示されたホスフィンを金属錯体中に組み込む通常の方法は不安定結合を有する前駆体錯体の利用である。ホスフィンはπアクセプター配位子が加えられる前又はこの後に加えられ得る。他の方法は、配位子の酸化的又は還元的付加、配位子の光化学的若しくは化学的置換を利用する。
【0167】
本発明の第3の側面の中間反応性化合物を製造するための一般的な合成方法は下記に示されるとおりである。
【0168】
【化31】

【0169】
【化32】

【0170】
前述したように、次いで、本発明の第1の側面の装置の発光層に使用される発光化合物を形成するために、これら反応性化合物(例えば、一般式XII又はXIIIを有する反応性化合物)はデンドリマー構造及び/又はポリマーに組み込まれ得る。したがって、本発明の第4の側面は、本発明の第1の側面に関して定義した発光装置の発光層の使用に適する化合物を製造する方法における、本発明の第3の側面に関して定義した反応性化合物の使用を提供する。
【0171】
本発明の第4の側面に移ると、本発明の発光化合物は公知のスズキ重合によって有利に製造できる。概略的には、この方法は、触媒の存在下の反応混合物中において、ボロン酸、ボロン酸エステル(好ましくは、C1−C6)、ボラン(好ましくは、C1−C6)基から選ばれる少なくとも2つの反応基を有するモノマーと、ジハライド若しくはジトリフレート官能性モノマーとを、又は1つの反応性ボロン酸、ボロン酸エステル(好ましくはC1−C6)、ボラン(好ましくはC1−C6)基及び1つの反応性トリフレート若しくはハライド官能基を有するモノマーを互いに重合させる工程を含む。この方法は米国特許5,777,070号明細書に記載されており、また、この誘導体は国際公開00/53656に記載されている。他の方法は、Macromolecules, 31 1099-1103 (1998)に開示されるヤマモト重合であり、全てのモノマーは反応性ハロゲン基を備えている。これら文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0172】
大まかに言って、金属錯体は、末端キャップ基の一部又はモノマー残基の一部として本化合物中に最終的に含まれ得ることは上記の方法から明らかであろう。これら2つの種類の方法内においては、金属錯体は、反応混合物に最初に加えられるとき末端キャップ試薬又はモノマー中に存在することができる。あるいは、終端されたポリマー又はオリゴマーが形成された後又は形成され始めた後(すなわち、反応中)に導入されてもよい。適当な方法は、化合物中の金属錯体の望ましい性質、位置及び割合によって選択し得る。
【0173】
本発明の第5の側面は、発光装置における発光化合物を提供し、前記化合物は金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子並びにリン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換され、Xはアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする。本発明の第5の側面においては、第5の側面の化合物においてXはアリール又はヘテロアリール基を含み、Arは前記アリール又はヘテロアリール基に共役結合している限り、前記化合物は、本発明の第1の側面の発光装置における発光化合物に関して前述したいずれかの好ましい特徴を有することができる。
【0174】
本発明の第6の側面は、発光化合物の使用を提供し、前記化合物は金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子を含み、アリール又はヘテロアリール基Arsはリン原子に直接結合され、ArsはXで置換され、Xはアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする。本発明の第6の側面においては、前記化合物は、本発明の第1の側面の発光装置における発光化合物に関して前述したいずれかの好ましい特徴を有することができる。
【符号の説明】
【0175】
1 基板
2 アノード
3 正孔輸送層
4 発光層
5 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソード、前記アノード及び前記カソードの間に配置される発光層を含む発光装置であり、
前記発光層は発光化合物を含み、前記化合物は金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子並びに前記リン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されている発光装置であって、Xはアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
Arsは前記アリール又はヘテロアリール基に共役結合している、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
Xがポリマー又はオリゴマーを含む請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
Arsはポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントである、請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
Arsはポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部である請求項3に記載の発光装置。
【請求項6】
Mはデンドリマーの核中に含まれる請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項7】
Arsはフェニル基である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記リン原子はさらにR及び選択的にR’に結合され、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項8に記載の発光装置。
【請求項10】
Mがレニウム又はイリジウムである請求項1ないし9のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項11】
前記発光層が前記アノードと前記カソードの間に配置されるように、前記アノード、前記カソード及び前記発光層を形成する工程を含む、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の発光装置を製造する方法。
【請求項12】
前記発光層が溶液プロセスによって形成される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
発光装置における発光化合物を製造するための反応性化合物であって、前記反応性化合物は金属錯体を含み、前記金属錯体は金属(M)及びP(Ars)(R)(R’)を含み、ここでPはMに直接配位されており、Arsはアリール又はヘテロアリール基であり、R及びR’は独立して、H、ハロゲン基又は置換若しくは未置換のアルキル、アリール若しくはヘテロアリール基であり、Arsは1又は2以上の反応基で置換され、前記又は各反応基はトリフレート基、ハロゲン基、ボロン酸基、ボロン酸エステル基及びボラン基から構成される群から選ばれる反応性化合物。
【請求項14】
Arsはフェニル基である請求項13に記載の反応性化合物。
【請求項15】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項13又は14に記載の反応性化合物。
【請求項16】
前記又は各反応基は臭素である請求項13ないし15のいずれか一項に記載の反応性化合物。
【請求項17】
発光装置の発光化合物を製造する方法における、請求項13ないし16のいずれか一項に記載の反応性化合物の使用。
【請求項18】
発光装置における発光化合物であり、前記化合物は金属錯体及びXを含み、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子並びに前記リン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されている発光化合物であって、Xはアリール又はヘテロアリール基を含み、Arsは前記アリール又はヘテロアリール基に共役結合していることを特徴とする発光化合物。
【請求項19】
Xがポリマー又はオリゴマーを含む請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
Arsはポリマー又はオリゴマーの主鎖からのペンダントである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
Arsはポリマー又はオリゴマーの主鎖の一部である請求項19に記載の化合物。
【請求項22】
Mはデンドリマーの核中に含まれる請求項18に記載の化合物。
【請求項23】
Arsはフェニル基である請求項18ないし22のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項24】
前記リン原子はさらにR及び選択的にR’に結合され、R及びR’はそれぞれ独立して置換又は未置換アリール又はヘテロアリール基である、請求項18ないし23のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項25】
Rは置換又は未置換フェニル基であり、R’は独立して置換又は未置換フェニル基である、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
Mがレニウム又はイリジウムである請求項18ないし25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項27】
金属錯体及びXを含む化合物の使用であり、前記金属錯体は金属(M)及びMに直接配位されるリン原子並びに前記リン原子に直接結合されるアリール又はヘテロアリール基Arsを含み、ArsはXで置換されている使用であって、Xは発光のためにアリール又はヘテロアリール基を含むことを特徴とする使用。
【請求項28】
前記化合物は請求項18ないし26のいずれか一項に定義された通りである、請求項27に記載の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2011−238936(P2011−238936A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128082(P2011−128082)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2007−514075(P2007−514075)の分割
【原出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(506061668)サメイション株式会社 (51)
【復代理人】
【識別番号】100156915
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 奈月
【Fターム(参考)】