説明

金属鍍金糸を含有する複合糸及び経編地

【課題】優れた抗菌性と電磁波シールド性を有する金属鍍金糸を用いながら所望の色相を付与することができる糸又は布帛を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成する糸は可染性糸を用いて編成されたくさり編み糸(3)と、該くさり編み糸(3)に芯糸として挿入され金属鍍金糸(2)から成る複合糸(1)である。この複合糸(1)を用いて作られた布帛又は緯編み製品は抗菌性と電磁波シールド性を有すると共に所望の色相の外観を与えることができる。金属鍍金糸を直接経編地内に配置する場合には、金属鍍金糸(51,52,53,54)を経編地の表面より視覚的に判別できないように挿入すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌性及び電磁波シールド性を有する金属鍍金糸が視覚的に露出しないように可染性糸と複合された複合糸、該複合糸を含有する布帛又は緯編み製品、さらに金属鍍金糸を単独で経編地の一部に用いながら金属鍍金糸が露出しないように配置されている経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
近来生活の質の向上が求められるにつれて、ますます快適な生活環境が求められている。特に我が国の如く高温多湿な国においては各種の菌の繁殖がしやすく、健康な生活を阻害したり、悪臭に悩やまされたりする。そこで下着等を抗菌剤で処理することが広く行われている。
【0003】
一方電子技術の発展に伴い、常時電磁波を漏洩するTV、ワープロ、パソコン等の各種電子機器が職場や家庭に普及し、その結果電磁波の身体に及ぼす障害が問題となっている。
【0004】
抗菌剤としては大きく分けて3種類のタイプのものが用いられている。第1番目のものとしては金属又は金属含有無機系粒子、第2番目のものとしては各種有機化合物、第3番目のものとしてはキチン、キトサン等の動物系高分子化合物がそれぞれ繊維製品への表面付与、繊維自体への含有等によって用いられている。
【0005】
しかし抗菌性は対象とする繊維製品の使用条件、洗濯条件によって異なり、さらに衛生安全性を加えて検討すると全ての繊維製品に対して充分の効果を有する抗菌剤は見出されていない。特に耐久性において優れ、広範囲の用途に使用できる抗菌剤は見出されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方電磁波障害に対する対策としては基本的には電子機器自体を電磁波を漏洩しないようにシールドすることが好ましい。しかし各種の電子機器全てに対して有効な電磁波シールドを行うことは不可能である。そこで電子機器の使用者側に電磁波シールド性を具備した衣服を着用させることが行われている。例えば金属粉を含有したコーティング層を有する布帛から作られ衣服がこの種目的のために用いられている。併しコーティング層を有する布帛から作られた衣服は重たく、且つ衣服用として要望される各種の色彩を付与することは事実上困難である。
【0007】
耐久性を有する抗菌性及び電磁波シールド性を考慮すれば金属含有の繊維が優れている。しかし熱可塑性樹脂に金属粒子を練り込み、溶融紡糸によって得た金属含有繊維では金属粒子は繊維中に埋没するので充分な抗菌性を発揮できない。又高速の溶融紡糸に耐える糸としての金属含有率はせいぜい0.5%程度であり、この程度の含有金属量では抗菌性及び電磁波シールド性を発揮できない。といって銀、銅等の抗菌性及び電磁波シールド性を有する金属100%糸、すなわち針金自体では糸の柔軟性から見て、布帛用糸としては到底使用できない。
【0008】
そこで、表面に銀、銅等の金属層を有する糸、すなわち金属鍍金糸が得られれば抗菌性糸又は電磁波シールド糸として有効である。この種糸としては米国Sauquoit社から銀鍍金ポリアミド糸(商標名、X−Static)が市販されている。この糸の抗菌性及び電磁波シールド性は極めて優れたものである。しかしこの糸自体を単独又は他の合成繊維糸との撚糸として用いた時には別の問題を生ずる。
【0009】
すなわち繊維製品、特に衣料製品では所望の色彩に染色されることが必須の条件となる。しかしX−Static(登録商標)糸はその表面は銀色の色彩を有し、従来の天然繊維又は化合繊糸のようには染色できない。又他の合成繊維糸と撚糸した場合にはまだらな染色しかできない。さらに金属が表面に出たまゝでは使用中に金属が摩耗し、抗菌性や電磁波シールド性の長期維持に支障を生ずる。染色上の問題はX−Static(登録商標)糸を織物あるいは編物に通常の方式で混用した場合にも生ずる。
【0010】
本発明の目的は特殊の構造の複合糸にすることによって金属鍍金糸の優れた抗菌性および電磁波シールド性を発揮させながら、所望の染色が可能な糸を提供し、且つこの複合糸を用いた布帛を提供し、さらに金属鍍金糸自体を含有させながら、金属鍍金糸を表面に視覚的に露出させないようにして、所望の抗菌性又は電磁波シールド性を相対的に安価で、且つ安定して維持できると共に、所望の色彩に染色可能な布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は可染性糸を用いて編成されたくさり編み糸と、そのくさり編み糸に芯糸として挿入された挿入糸から成り、挿入糸が少くとも1本の金属鍍金糸を含んで成ることを特徴とする複合糸によって達成される。
【0012】
本発明の複合糸をその構成糸の一部として用いることにより、本発明の布帛又は緯編み製品を得ることができる。
【0013】
金属鍍金糸自体を用いて経編地を得る場合には、金属鍍金糸を経編地の表面より視覚的に判別できないように経編地に挿入糸として挿入すればよい。その際異なる筬によって供給される2種類以上の金属鍍金糸を用い、この2種類以上の金属鍍金糸が経編地内で交叉するように配置すれば、金属鍍金糸の電導性が向上するので、得られた経編地の電磁波シールド性を向上させることができる。
【0014】
金属の中で銀はもっとも抗菌性が優れている。したがって本発明の複合糸中の金属鍍金糸が銀鍍金糸であるとより好ましい。
【0015】
金属鍍金される原糸の糸種は本発明の複合糸が用いられる繊維製品の用途に応じて適宜選定すればよい。
【0016】
原糸のタイプとしてはモノフィラメント、マルチフィラメント又は短繊維から成る紡績糸でもよい。何れの場合においても重量比率で繊維重量に対して20%から40%の金属が鍍金されているとよい。
【0017】
本発明の複合糸を用いて織物、丸編地、経編地の如き布帛又はソックス、ストッキング、セータ等の緯編み製品を作れば、抗菌性又は電磁波シールド性の高い布帛又は製品を提供することができる。その際、布帛、布帛から作られた製品、又は緯編み製品の用途に応じて、本発明の複合糸又は布帛を部分的に使用してもよい。
【0018】
本発明の複合糸は本願と同一の出願人が平成7年10月19日に特願平7−271200号として出願し、平成9年4月28日に特開平9−111624号公報に公開された発明の名称「伸縮性と光沢を有する複合糸」および平成7年10月19日に特願平7−271194号として出願し、平成9年4月28日に特開平9−111623号公報に公開された発明の名称「エンブロイダリーレース用複合ししゅう糸」で用いられた複合糸と同一の構造を有するものである。たゞし前者はくさり編み糸を非伸縮性長繊維糸で編成し、挿入糸に伸縮性糸を用いることにより伸縮性と光沢を有する糸を提供しようとするものであり、後者はくさり編み糸を水を含む溶剤又は熱によって溶解又は分解させることができる非伸縮性糸で編成し、挿入糸に伸縮性糸を用いることによりししゅうする時に糸切れ等の運転上の欠点が無く、且つししゅうした後の処理によってエンブロイダリーレースの模様部分にレース生地に対応した伸縮性を与えようとするものであり、本願発明とは使用する糸種が異ると共にその効果が異り、前述の公知の複合糸は抗菌性及び電磁波シールド性を有せず、又金属鍍金糸を用いることによって生ずる複合糸の染色性を改善する手段を提供していない。
【0019】
本発明の複合糸は、可染性糸と、少くとも1本の金属鍍金糸を含む挿入糸をそれぞれ異る糸ガイドを介して経編機の針に供給し、可染性糸用の糸ガイドをくさり編み糸形成モードで往復運動させることによってくさり編み糸を編成し、同時に挿入糸用の糸ガイドを挿入糸形成モードで往復運動させることにより、前記可染性糸のくさり編み糸中に金属鍍金糸が少くとも1本は挿入されている複合糸が得られる。
【0020】
その際くさり編み糸を可染性糸を2本以上用いて編成してもよく、また挿入糸に金属鍍金糸に加えて他の種類の繊維糸を1本以上併用してもよく、これら糸の選択については目的とする複合糸の用途に応じて任意に定めればよい。
【0021】
本発明の複合糸では金属鍍金糸を含む挿入糸を可染性糸から成るくさり編み糸のループで交絡しているので、複合糸の表面に金属鍍金糸が突出することが実質的にない。又目的とする用途に応じて定められる複合糸の太さに応じて金属鍍金糸の太さ、可染性糸の太さ及びくさり編み糸の単位長当りの編目数を適切に選定することにより金属鍍金糸の複合糸表面への露出を防ぐことができ、その結果金属鍍金糸の摩擦による損傷の防止と複合糸の均一な染色が可能になる。
【0022】
しかしながら金属鍍金糸自体は高価な糸であり、さらにこの金属鍍金糸を用いて複合糸を作ればさらに高価な糸となる。そこで特殊の構造の布帛にしてその布帛の一部に金属鍍金糸自体を適切に配置すれば、複合糸を用いるのと同等に抗菌性又は電磁波シールド性を発揮させることができると共に金属鍍金糸を布帛の表面に視覚的に露出させず、その結果金属鍍金糸の耐久性と布帛の均一な染色が可能になるはずであるという着想に基づき、本願の発明者は鋭意研究した。その結果かかる要件の布帛は下記の経編地で達成できることを見出した。
【0023】
本発明による経編地は、2種類以上の糸を用いて成る経編地において、少くとも1種類の糸として金属鍍金糸を用い、且つその金属鍍金糸が経編地の表面より視覚的に判別できないように挿入されていることを特徴とする。金属鍍金糸が挿入糸として配置されていると挿入糸は経編地の他の構成糸と交絡していないので、経編地の経方向又は緯方向に実質的に直線状に延びて配置されることになり、経編地の所定の区域において金属鍍金糸による抗菌効果又は電磁波シールド性を均一にすることができる。又挿入糸であれば経編地の内側に配置することができるので前述の色彩むらや抗菌性の永続性の改善に役立つ。なお電磁波シールド性を要求する分野に用いる時には金属鍍金糸が交叉するように配置すると好ましい。
【0024】
前記経編地がパワーネット等の地組織として用いられるネット経編地であれば、このネット経編地にししゅう糸でししゅうしてエンブロイダリーレースを作り、このエンブロイダリーレースを用いてブラジャー等の婦人用アンダーウエアを作るとよい。こうすることによって抗菌性及び電磁波シールド性が優れたアンダーウエアにすることができる。
【0025】
本発明で用いる金属鍍金糸は静電防止性においても、優れた性能を有する。したがって本発明の複合糸、複合糸を用いて作られた布帛さらに金属鍍金糸を含んで成る経編地は、抗菌性及び電磁波シールド性と併せて静電防止性においても優れた効果を発揮することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の複合糸の一例を示す添付図面に基づいて本発明の複合糸の構成を説明する。図1(A)に開き目のくさり編み糸3に挿入糸2が正掛けで挿入されている複合糸1を示し、図2(A)にくさり編み糸3が図1(A)と同様に開き目であって、挿入糸2aが逆掛けで挿入されている複合糸1aを示し、図3(A)に閉じ目のくさり編み糸13に挿入糸12が正掛けで挿入されている複合糸11を示す。たゞし図1(A)、図2(A)及び図3(A)は共に可染性糸から成るくさり編み糸に金属鍍金糸を含む挿入糸がどのように編成されているかを示す糸構造図であって、編成された後の実際の複合糸では挿入糸が直線状になり、それにともなってくさり編み糸のループの形状は図示の形状とは異るものとなる。
【0027】
くさり編み糸を開き目、閉じ目の何れで編成するか、又挿入糸を正掛け、逆掛けの何れで挿入するかは複合糸の用途、用いる糸の種類、又は編成条件に応じて任意に選定すればよい。
【0028】
図1(A)、図2(A)及び図3(A)の何れの複合糸においても、くさり編み糸3,13は3a,13aで示す複合糸1,1a,11の軸線方向に延びる糸部分と、3b,13bで示す湾曲して隣接するループと交絡する糸部分を有し、一方挿入糸2,2a,12はくさり編み糸3,13のループをくぐりながら複合糸1,11の軸線方向に延び、その結果挿入糸2,2a,12は芯糸のようにくさり編み糸3,13の中に包み込まれ且つ交絡している構造となる。そのためにくさり編み糸3,13のループが挿入糸2,2a,12を締付けることになる。その締付の強さと間隔及び得られた複合糸1,1a,11の伸度は製造時におけるくさり編み糸3,13用の可染性糸の送出量を調節することにより、複合糸1,1a,11の用途に応じて自由に変更することができる。
【0029】
図1(B)、図2(B)及び図3(B)は対応する複合糸の編成組織図である。
【0030】
可染性糸としては紡績糸、マルチフィラメント、さらにモノフィラメントを用いることができる。
【0031】
紡績糸としては綿、羊毛、麻等の天然繊維、ビスコース糸の各種の人造繊維の短繊維、各種の合成繊維の短繊維をそれぞれ単独又は混合して紡績した糸を用いることができる。
【0032】
マルチフィラメントとしてはビスコースレーヨン糸、キュポラアンモニウムレーヨン糸、アセテートレーヨン糸あるいは各種合成繊維マルチフィラメント糸を用いることができる。
【0033】
これら可染性糸の糸種及び糸太さは目的とする用途に応じて選定すればよい。
【0034】
金属鍍金糸の金属種としては銀、銅、亜鉛、鉛、錫、アルミニウム、鉄等を用いることができる。高価ではあるが、用途によっては金を用いてもよい。金属鍍金は用いる金属に対応して真空メッキ又は気相メッキで行えばよい。その際金属鍍金される原糸として、例えばポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の各種合成繊維、やガラス繊維等の無機繊維を用いてもよい。
【0035】
金属鍍金糸の太さは本発明の複合糸の用いる用途によって定められるものであり、銀鍍金糸の場合10d〜110d程度のモノフィラメント又はマルチフィラメントが用いられ、この種糸の場合の銀含有率は重量換算で20%〜40%である。
【0036】
挿入糸として金属鍍金糸を他の可染性糸と併用してもよく、この場合の可染性糸はくさり編み糸に用いる可染性糸と同種のものを用いるとよい。
【0037】
複合糸中における金属鍍金糸の比率は複合糸が用いられる製品に要求される抗菌性又は電磁波シールド性の程度を第一義的に考慮の上、前述の金属鍍金糸の耐摩耗性及び染色性を考慮して選定すればよい。
【0038】
一般的傾向として金属鍍金糸の抗菌性は後述の実施例で示すように、極めて高い値を示すので、抗菌性を要する用途の製品に対して必要とする金属鍍金糸の重量は相対的に少量ですむ。したがって製品中での本発明の複合糸の使用形態は例えば数本置きに使用する等余裕のある選択が可能である。
【0039】
次に本発明の抗菌性を有する複合糸を用いた好ましい布帛及び緯編み製品について以下詳述する。
【0040】
前述したように本発明の複合糸は優れた抗菌性を有すると共に、染色した際に他の部分との色彩差を実質的に無くすことができる。したがって織物、経編物、緯編地及びソックス、ストッキング、セータ等から成る緯編み製品の各種タイプの布帛等において各種の形態を自由に選択して複合糸を用いて抗菌性を有する布帛等を提供することができる。
【0041】
図4に本発明の複合糸を用いた布帛の一例として6コースネット経編地の組織図を示す。
【0042】
【数1】

【0043】
図5に金属鍍金糸を直接挿入糸として用いた本発明の経編地の一例の組織図を示す。図5で示す経編地では可染性糸41,42,43,44,45が図示の組織で編成される。この編地に金属鍍金糸51,52,53,54が単純に左右に振られ乍ら経編地の長手方向に延びて挿入されている。
【0044】
図5の組織図を図1〜図3に示す複合糸の図と比較すると判るように、図5の経編地は複合糸をウエール方向に並べて、その上で隣接する複合糸を可染性糸で連結してネット経編地にしたものともいえる。
【0045】
このような組織で金属鍍金糸が挿入されているので経編地表面には視覚的に金属鍍金糸は露出しない。特に可染性糸をカチオン染料を用いて染色した時に金属鍍金糸をより目立たないようにさせることができる。
【0046】
図6に特に電磁波シールド性を要求する場合に好んで用いられる金属鍍金糸を直接挿入糸として用いた本発明の経編地の他の一例の組織図を示す。
【0047】
図中細い実線の61,63,65で示す糸は同一筬で供給される可染性糸であり、細い実線の62,64,66で示す糸は他の同一筬で供給される可染性糸であり、可染性糸61,63,65は可染性糸62,64,66と図示の如く鏡面対称に編成されてネット経編地を形成する。図中太い実線の71,73,75で示す糸は同一筬で供給される金属鍍金糸であり、太い破線の72,74,76で示す糸は他の同一の筬で供給される金属鍍金糸であり、金属鍍金糸71,73,75は金属鍍金糸72,74,76と共に図示の如く可染性糸で編成されたネット経編地に挿入されている。
【0048】
本発明の経編地の中で図6で一例で示す経編地の特徴は、図6で71,73,75で示すグループの金属鍍金糸が72,74,76で示す他のグループの金属鍍金糸と経編地中で交叉している点にある。前述のように金属鍍金糸は表面に金属が鍍金されているので、隣接する金属鍍金糸が交叉して配置されることにより、経編地中の実質的に全ての金属鍍金糸が電気的に連結されていることにより、その結果電磁波シールド性が一段と向上することになる。
【0049】
又図6で明らかなように、可染性糸で編成されたネット経編地の全ての編目に金属鍍金糸が重なるように挿入されているので、図6の経編地では金属鍍金糸が視覚的に露出することがなく、さらに所定のネット経編地に対して最大限に金属鍍金糸が配置されているので電磁波シールド性を高めることができる。なお金属鍍金糸は抗菌性を有するので図6に示す経編地を抗菌性を必要とする用途に用いることもできる。
【0050】
図7に本発明の複合糸を挿入糸として用いた本発明の経編地の1例の組織図を示す。
【0051】
図中、細い実線で示す糸81〜86は同一筬で供給される可染性糸であり、それぞれのウエールで鎖編みに編成される。細い破線で示す糸91,96は他の同一筬で供給される弾性糸であり、それぞれのウエールで左右に振られながら可染性糸の鎖編みに挿入されている。図中太い破線で示す糸A1〜A3、及び太い実線で示す糸B1〜B3はそれぞれ異る筬によって図示の如く挿入されている本発明の複合糸である。この経編地では弾性糸91〜96が用いられているのでウエール方向に伸縮性を有する。又それぞれのウエール方向に延びる鎖編みの可染性糸を連結するために複合糸が用いられており、このように金属鍍金糸を芯糸として有する複合糸が大量に配置されているので、金属鍍金糸が視覚的に露出しない状態で旦つ良好な電磁波シールド性を発揮させることができる。
【0052】
なお理想的に高い値の電磁波シールド性を達成するためには、金属板又は金属箔で電磁波発生源を囲むのが良い。しかし衣料品の如く物理的に柔軟性を有し、且つ通気性又は吸湿性を要求される用途分野では、板状又は箔状のものは使用に耐えない。したがって衣料品の場合は孔の大きさに大小はあるが、何等かの形で布面の上下を貫通する孔が存在することになる。電磁波シールド性に関してはこの孔の存在が電磁波シールド性を低下させる原因となる。逆に言えば用途に応じて要求される電磁波シールド性を充足できる程度の大きさの孔に留めながら、且つ衣料品として要求される物性さらに外観を充足するようにすることが要求される。かかる観点から見た電磁波シールド性に関する布帛の孔の大きさは、経編地についての本発明の発明者の知見によれば、約3mm以下であり、約2mm以下であると好ましい。
【実施例】
【0053】
以下実施例に基づき本発明を詳述する。
実施例1
実施例1においては本発明の複合糸を用いて編成した経編地について抗菌性と静電防止性を調べた。
米国Sauquoit社製銀鍍金糸(X−Static商標)のタイプ30XS10(素材ポリアミドマルチフィラメント30d/10f、鍍金後のデニール40d)を挿入糸とし、旭化成アクリルマルチフィラメント、ピュ一ロン(商標名)をくさり編み糸として本発明の複合糸を得た。この複合糸を糸31,33とし、糸11,12,13及び糸21,22,23としてポリアミドフィラメントを用いて図4に示すネット経編地(12コース−完全組織)を編成した。経編地中の銀鍍金糸の重量比率は2%であった。
得られたネット経編地を下記条件で染色した。
ポリアミドマルチフィラメントを酸性染料で2時間、ピューロンをカネオン染料で2時間2浴染でウインスを用いて染色し、その後洗浄乾燥した。
染色布を観察したところ銀鍍金糸が露出することなく均一に染色されていた。
【0054】
得られた染色布に対して下記抗菌性試験を行った。
・試料は得られた染色布から5点採取した
・抗菌効果測定法 シェークフラスコ法準拠
・使用菌種 Klebsiella pneumoniae
・試験結果
減菌率(%)
空試験 4.9
無加工生地(ナイロン標準白布) 10.8
本発明のネット経編地 99.8〜99.9
抗菌性試験において抗菌に有効な数値は減菌率で見た試験片と無加工生地の数値の差が26%以上である場合である。この標準に対して本発明の経編地の実施例は極めて良好な値であり、この事は本発明の金属鍍金糸から成る複合糸が抗菌性に対して優れた効果を示すことを証したものであると共に、ネット経編地としては複合糸の使用比率もさらに低くすること(結果としてより低価格にした上で実効のある経編地にすること)ができることを示す。
【0055】
実施例の染色布に対して静電防止性の評価を行った。
実施例の染色布から3点の試料を採取し、比較例として銀鍍金糸を含まないナイロンレースを用い、静電気の半減期の測定と摩擦帯電電荷量の測定を行った。得られた結果を下記に示す。
試料1 試料2 試料3 ナイロン
レース
半減期(秒) 1.0 1.0 1.0 17.4
摩擦帯電電荷量 0.05 0.13 0.09 3.20
上記結果からも判るように本発明の複合糸を用いた経編地の静電防止性は比較例に比し格段に優れている。
なお静電防止性の良い製品、特に金属鍍金糸は直接肌に触れるとかぶれを生ずるという説があり、又蓄電を起こすので赤外線などにあたると、やけどをするという説がある。しかし本発明品(複合糸及び金属鍍金糸を含む経編地)では金属鍍金糸が肌に直接触れることがないので、上述の傷害を生ずる恐れはほとんどない。
実施例2
実施例2では金属鍍金糸を直接挿入糸として用いた本発明の経編地について電磁波シールド性を調べた。
すなわち図6に示す経編地を28Gの経編機を用いて、可染性糸61〜66としてポリアミドマルチフィラメント40d/10fを用い、金属鍍金糸として米国Sauquoit社製銀鍍金糸(X−Static商標)のタイプ30XS10(素材ポリアミドマルチフィラメント30d/10f、鍍金後のデニール40d)を用いて編成した。得られた経編地の目付は約60g/m2であり、経編地中の金属鍍金糸の重量は約20%、すなわち12g/m2であり、編地中の最大の孔の大きさは約3mmであった。
【0056】
得られた経編地の電磁波シールド性をKEC法による電磁波シールド効果測定法に基づいて、1〜1000MHZについて測定した。20℃、40%RHの試験室内で、10mmの間隔で配置した発信部と受信部の間に試料の経編地を配置し、経編地の上方から入射エネルギを経編地に照射し、経編地の下方で電磁波シールド効果を測定した。
【0057】
得られた結果を下記の表1に示す。
表1
周波数(MHZ) 100 200 300 500 700 1000
電界シールド効果(dB) 22.5 22.7 23.1 24.5 26.0 25.5
電界シールド遮蔽率(%) 92.5 92.7 93.0 94.0 95.0 94.7
磁界シールド効果(dB) 3.6 7.0 9.1 11.6 12.8 12.5
磁界シールド遮蔽率(%) 33.9 55.3 64.9 73.7 77.1 76.3
表1中の電界シールド効果については図8でグラフで示す。
表1及び図8で明らかなように、図6に示す隣接する金属鍍金糸が互いに交叉するように挿入によって配置された本発明の経編地では1〜1000MHZの範囲で電界シールド効果がほゞ一定に保たれている。これは隣接する金属鍍金糸が交叉して配置されていることに基づくものと思われる。
実施例3
実施例3では、本発明の複合糸を挿入糸として用いたネット経編地にししゅう糸をししゅうした編地の電磁波シールド性を調べた。
すなわち図7に示す経編地を、20Gの経編機を用いて、可染性糸81〜86としてポリアミドマルチフィラメント30d/10fを用い、弾性糸91〜96としてポリウレタン糸140dを芯糸としてポリアミドマルチフィラメント50d/fの巻付けたカバーリング糸を用い、複合糸A1〜A3及びB1〜B3としてボリアミドマルチフィラメント70d/24fから成る鎖編糸に前述の米国Sauquoit社製銀鍍金糸(X−Static商標)のタイプ30XS10(素材ポリアミドマルチフィラメント30d/10f、鍍金後のデニール40d)を挿入して得た糸を用いて得た。得られた経編地の目付は210g/m2、経編地中の金属鍍金糸の重量は約12%、すなわち25g/m2であり、経地中の最大の孔の大きさは約2mmであった。
得られた経編地にポリアミドマルチフィラメント140d/3本から成るししゅう糸を用いてm2当り85gのししゅうを行った。このししゅう後の経編地に対して実施例2と同様にKEC法による電磁波シールド性の測定を行った。
【0058】
得られた結果を下記の表2に示す。
表2
周波数(MHZ) 100 200 300 500 700 1000
電界シールド効果(dB) 40.7 33.8 26.3 17.2 11.2 4.2
電界シールド遮蔽率(%) 99.1 98.0 95.2 86.2 72.5 38.3
磁界シールド効果(dB) 2.3 4.1 4.9 5.4 5.4 11.5
磁界シールド遮蔽率(%) 23.3 37.6 43.1 46.3 46.3 73.4
表2中の電界シールド効果については図9でグラフで示す。
表2及び図9で明らかなように図7に示す本発明の複合糸を用いた経編地では周波数200MHZより高周波になると電力シールド効果が減少する。これは金属鍍金糸が可染性糸から成る鎖編糸によって互いに接触不能に隔離されており、そのために経編地の金属鍍金糸が互いに電気的に連結されないために生ずるものと解される。但し実施例2に比して周波数100MHZ以下において電磁波シールド性が高いのは、経編地中の金属鍍金糸の量が約25g/m2と実施例1の場合の約2倍であり、且つ孔の大きさが小さいことによるものと解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の複合糸及びその複合糸を用いた布帛及び緯編み製品は金属鍍金糸を含有しているので優れた抗菌効果及び電磁波シールド性を発揮し、且つ糸表面が可染性糸から成るくさり編み糸で構成されているので通常の可染性糸並みの色彩を発揮することができる。又本発明による経編地は金属鍍金糸が経編地内にかくれるように挿入されているので、経編地の表面を通常の可染性糸の編地並にすることができ、且つ経編地内にほゞ均一に複合糸を配置することができ、結果として相対的に安価で抗菌性及び電磁波シールド性に優れた製品を作ることができる。又これら本発明の製品は静電防止性も併せ有する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の複合糸の1例を示す図であって、図1(A)は糸の構造を示す図、図1(B)は編成組織図である。
【図2】本発明の複合糸の他の1例を示す図であって、図2(A)は糸の構造を示す図、図2(B)は編成組織図である。
【図3】本発明の複合糸のさらに他の1例を示す図であって、図3(A)は糸の構造を示す図、図3(B)は編成組織図である。
【図4】本発明の複合糸を用いた経編地の1例を示すネット経編地の組織図である。
【図5】金属鍍金糸を直接挿入糸として用いた本発明の経編地の1例を示す組織図である。
【図6】金属鍍金糸を直接挿入糸として用いて電磁波シールド性の改善を目的とした本発明の経編地の他の1例を示す組織図である。
【図7】本発明の複合糸を挿入糸として用いて電磁波シールド性の改善を目的とした本発明の経編地の1例を示す組織図である。
【図8】本発明の金属鍍金糸が直接挿入糸として配置されている経編地の電磁波シールド性を示すグラフである。
【図9】本発明の複合糸を含んで成る経編地の電磁波シールド性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1,1a,11 複合糸
2,2a,12 金属鍍金糸を含んで成る挿入糸
3,13 可染性糸から成るくさり編み糸
11,12,13 同一のガイドバーから供給される糸
21,22,23 他の同一のガイドバーから供給される糸
31,33 本発明の複合糸
41,42,43,44 可染性糸
51,52,53,54 金属鍍金糸
61,63,65 同一筬で供給される可染性糸
62,64,66 他の同一筬で供給される可染性糸
71,73,75 同一筬で供給される金属鍍金糸
72,74,76 他の同一筬で供給される金属鍍金糸
81〜86 同一筬で供給される可染性糸
91〜96 弾性糸
A1〜A3 複合糸
B1〜B3 複合糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の糸を用いて成る経編地において、少くとも1種類の糸として金属鍍金糸を用い、該金属鍍金糸が経編地の表面より視覚的に判別できないように挿入されていることを特徴とする経編地。
【請求項2】
異なる筬によって供給される2種類以上の金属鍍金糸を含んで成り、該2種類以上の金属鍍金糸が経編地内で交叉するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の経編地。
【請求項3】
前記2種類以上の糸がカチオン染料により染色されている請求項1または2に記載の経編地。
【請求項4】
前記経編地の全ての編目に前記金属鍍金糸が重なるように挿入されている請求項1から3のいずれか一項に記載の経編地。
【請求項5】
前記2種類以上の糸のうちの少なくとも一つが弾性糸である請求項1から4のいずれか一項に記載の経編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−257633(P2006−257633A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184375(P2006−184375)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【分割の表示】特願平11−555192の分割
【原出願日】平成11年4月28日(1999.4.28)
【出願人】(593202704)株式会社ファスター (2)
【Fターム(参考)】