説明

金属黒化処理液、当該金属黒化処理液を用いた金属黒化処理方法、当該金属黒化処理方法を用いた黒化処理品

【課題】金属表面に対して、短時間で容易に反射防止性能を有する黒化層を形成することが可能な黒化処理液、当該黒化処理液を用いた黒化処理方法、及び当該黒化処理方法を用いた黒化層の密着性に優れる黒化処理品を提供する。
【解決手段】テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.01〜0.45重量%であり、塩酸濃度が0.05〜8重量%であることを特徴とする、金属黒化処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面を黒化するための処理液、当該処理液を用いた金属表面の黒化処理方法、及び当該黒化処理方法を用いて製造した黒化処理品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ソーラーパネル、ディスプレイ用電磁波遮蔽フィルタ等の部品や日用品に使用される金属には、しばしば金属表面での光の反射を防止することを目的として、金属の表面に黒化層が形成される。
当該黒化層を形成するための黒化処理方法としては、黒ニッケルメッキ、すず−ニッケル合金メッキ、黒クロムメッキなどのメッキ法や、薬品で黒化する化成処理法が挙げられる。
電解メッキ法は電解する必要があり、経済性、薬品の使用量、処理時間などに問題があり、また、電解メッキ法により形成された黒化層は表面が金属光沢を有するため、反射防止性能が不十分なおそれがある。一方、化成処理法は電解する必要がなく、短時間で簡便に行うことができるという長所がある。
【0003】
化成処理に用いる金属黒化処理液としては、例えば、特許文献1に、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.5〜16重量%の範囲内にあり、塩酸濃度が9.5〜36重量%の範囲内にあることを特徴とする銀、銅、金及びこれらの合金を黒化するための金属黒化処理液が開示されている。
特許文献1に開示されている黒化処理液は、宝飾品の金属の黒化処理用であり、一液性で、操作が簡単で、かつ安定である。
【0004】
【特許文献1】特開2006−233327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らは特許文献1に開示されている黒化処理液について検討した結果、得られる黒化処理品の金属−黒化層間の密着性が十分でなく、更に黒化層が厚いために剥離しやすい場合があり、また、樹脂やガラス等の支持体上に直接積層された金属薄膜を処理する場合には、支持体−金属薄膜間の浸食(アンダーカット)が問題となる場合があるという知見を得た。更に、特許文献1に開示されている黒化処理液により形成された黒化層は、用途によっては光沢過剰であり、反射防止性能が不十分な場合がある。また、塩酸の濃度が高いため、作業環境が悪いという問題がある。
また、化成処理にアルカリ水溶液を用いる場合においても同様に、アンダーカットの問題が生じる場合がある。
【0006】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、金属表面に対して、短時間で容易に反射防止性能を有する黒化層を形成することが可能な黒化処理液、当該黒化処理液を用いた黒化処理方法、及び当該黒化処理方法を用いた黒化層の密着性に優れる黒化処理品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定のテルル濃度及び塩酸濃度の金属黒化処理液を用いて金属の表面を処理することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る金属黒化処理液は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.01〜0.45重量%であり、塩酸濃度が0.05〜8重量%であることを特徴とする。
【0008】
上記本発明の金属黒化処理液によれば、テルル濃度及び塩酸濃度が従来の処理液よりも低いため、従来の金属黒化処理液に比べて穏やかな条件で、かつ短時間に金属表面に黒化層を堆積させることができる。
上記本発明の金属黒化処理液を用いることにより、金属表面に黒化層が形成された黒化処理品は、黒化層の厚さが薄く、金属−黒化層間の密着性が高い。また、優れた反射防止性能を発揮する。
【0009】
上記本発明の金属黒化処理液は、更に、硫酸を含み、硫酸濃度が90重量%以下であることが、黒濃度が高い黒化層を形成することができる点から好ましい。
【0010】
本発明に係る金属黒化処理方法は、上記金属黒化処理液に、金属の表面を接触させて黒化層を形成する工程を含むことを特徴とする。
上記本発明の金属黒化処理方法によれば、テルル濃度及び塩酸濃度が従来の処理液よりも低いため、従来の金属黒化処理液に比べて穏やかな条件で黒化層を金属表面に堆積させることができる。
上記本発明の金属黒化処理方法により得られる黒化処理品は、黒化層の厚さが薄く、金属−黒化層間の密着性が高い。また黒化処理面の反射防止性能に優れる。
【0011】
前記金属は、イオン化傾向が銅と同等又はそれより大きい金属元素を含んでなることが、黒化処理後、金属表面の黒色外観が良好になり、処理面内で黒色の色調がムラなく安定化し、金属−黒化層の密着性が向上する点から好ましい。
【0012】
本発明の金属黒化処理方法は、前記金属が薄膜である場合において、薄膜の支持体と薄膜との間の密着性に優れる点から特に好ましい。
本発明に係る黒化処理品は、上記金属黒化処理方法を用いて製造したものである。上記本発明の処理方法を用いて製造された黒化処理品は、従来の金属黒化処理方法よりも穏やかな条件で黒化層を堆積させることができるため、黒化層の厚さが薄く、金属−黒化層間の密着性が高い。また、黒化処理面の反射防止性能に優れる。
本発明に係る黒化処理品の黒化層には主に塩化テルルを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、テルル濃度及び塩酸濃度が従来の処理液よりも低いため、従来の金属黒化処理液に比べて穏やかな条件で、かつ短時間に金属表面に黒化層を堆積させることが可能な金属黒化処理液、及び当該黒化処理液を用いた金属黒化処理方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記金属黒化処理液及び金属黒化処理方法を用いて、厚さが薄く、金属−黒化層間の密着性が高く、また、優れた反射防止性能を有する黒化層が金属表面に形成された黒化処理品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.黒化処理液
本発明にかかる金属黒化処理液は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.01〜0.45重量%であり、塩酸濃度が0.05〜8重量%であることを特徴とする。
【0015】
以下、本発明に係る金属黒化処理液について、具体的に説明する。
本発明に係る金属黒化処理液は、テルルが溶解された塩酸溶液であり、このテルルの供給源として、酸化テルルを用いることが好ましい。本発明でテルル供給源として使用される酸化テルルは、TeO2で表すことができる。
本発明の金属黒化処理液(100重量%)中には、テルルは、酸化物換算で、0.01〜0.45重量%の範囲内の量、好ましくは0.05〜0.40重量%の量で含有されている。上記量のテルルを配合する。本発明の処理液は従来の処理液よりもテルル濃度が低いため、黒化層の堆積速度が小さくなり、薄く、金属−黒化層間の密着性が高い黒化層を堆積させることができる。
【0016】
また、本発明では、テルルは塩酸に溶解した状態で処理液中に存在し、大変安定性がよく、金属黒化処理液を長時間放置した場合であっても配合物が析出しにくい。したがって、本発明の金属黒化処理液を一液型の処理剤とすることができる。更に、この一液型金属黒化処理液は、処理金属と接触させた後も、その安定性が低下しないので、繰り返し使用することができる。
テルルの配合量が0.45重量%を超える場合は、黒化層の堆積速度が大きすぎて、金属表面に堆積する黒化層にはひびが入り、黒化層−金属間の密着性が不十分になるおそれがある。一方、テルルの配合量が0.01重量%未満の場合は、黒化層−金属間の密着性は十分だが堆積速度が小さく、処理効率に劣るおそれがある。
本発明の金属黒化処理液に使用される酸化テルルとしては、工業的に提供される酸化テルルを使用することができるが、酸化テルルの純度が高いものを使用することが好ましく、純度99〜100%の酸化テルルを使用することが特に好ましい。
【0017】
酸化テルルを溶解する塩酸水溶液は、通常は35%(以下、単に塩酸とも呼称する。)塩酸に水を配合することにより調製される。この塩酸水溶液中のHCl(塩化水素)濃度は、0.05〜8重量%の範囲内にあり、好ましくは0.1〜2重量%、さらに好ましくは0.3〜1重量%である。このような濃度の塩酸水溶液を使用することにより、上記酸化テルルを完全に溶解することができる。また、処理する金属が支持体に直接積層された金属薄膜の場合には、支持体−金属薄膜間の浸食(アンダーカット)が発生することなく、十分な密着性を有する。
また、上記HCl濃度の黒化処理液によれば、得られる黒化処理品は反射防止性能に優れる。本発明の黒化処理液のほうが、従来のHCl濃度が高い黒化処理液よりも処理後の金属の表面粗さは小さくなり、金属表面の粗面効果による反射防止性能が劣ると推測されたが、実際には本発明の黒化処理液により得られる黒化層の方が反射防止性能に優れている。この原因は明らかではないが、形成された黒化層の形状及び原子配列が異なることに起因するものと推測される。
【0018】
塩酸水溶液中のHCl濃度が8重量%を超える場合は、支持体−金属薄膜間の密着性に劣り、アンダーカットが発生するおそれがある。特に、処理する金属が支持体に直接積層された金属薄膜の場合には、アンダーカットが発生しやすい。また、反射防止性能に劣る場合がある。
また、HCl濃度が0.05重量%未満の場合には酸化テルルを完全に溶解させることができないおそれがあり、その結果、金属表面における黒化層の堆積速度が小さくなり、処理効率に劣る場合がある。
【0019】
尚、上記のような塩酸水溶液の他に、任意の無機酸及び有機酸を添加してもよい。
上記本発明の金属黒化処理液は、無機酸として硫酸を含有し、当該硫酸濃度が90重量%以下であることが、黒濃度が高い黒化層を形成することができる点から好ましい。
硫酸濃度が90重量%を超える場合、処理する金属が支持体に直接積層された金属薄膜の場合には、支持体−金属薄膜間の密着性に劣り、アンダーカットが発生するおそれがある。
上記硫酸濃度は、更に10〜45重量%、特に15〜30重量%であることが、処理時間を短くすることができ、また得られる黒化層の黒濃度に優れる点から好ましい。
【0020】
無機酸としては、上記硫酸の他、硝酸、リン酸等を用いることができる。また、有機酸としては、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、蓚酸、安息香酸等の有機カルボン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸等を用いることができる。本発明の金属黒化処理液に上記塩酸及び硫酸以外の無機酸及び有機酸を含有させる場合は、必要に応じて0〜90重量%程度含有させることができる。
また、本発明の金属黒化処理液には、テルルの溶解性を高めるための第三成分を添加してもよい。
【0021】
本発明の金属黒化処理液は、塩酸と水とを混合して塩酸水溶液を調製し、この塩酸水溶液に酸化テルルを配合して、酸化テルルを塩酸水溶液に完全に溶解させることにより調製することができる。
【0022】
2.黒化処理方法
本発明に係る黒化処理方法は、上記金属黒化処理液に、金属の表面を接触させて黒化層を形成する工程を含むことを特徴とする。
上記本発明の金属黒化処理方法によれば、テルル濃度及び塩酸濃度が従来の処理液よりも低く、従来の金属黒化処理液に比べて穏やかな条件で黒化層を金属表面に堆積させることができる。
上記本発明の金属黒化処理方法により得られる黒化処理品は、黒化層の厚さが薄く、金属−黒化層間の密着性が高い。また、黒化処理面の反射防止性能に優れる。
【0023】
(被処理金属表面)
本発明の黒化処理方法は、カメラ、ソーラーパネル、電磁波遮蔽フィルタ等の部品や日用品に使用される金属の表面を処理して黒化層を形成し、当該金属表面に優れた反射防止性能を付与する。
上記金属は特に限定されるものではなく、金属に含まれる元素の種類は1種類でも2種類以上でもよいが、上記金属が、イオン化傾向が銅と同等又はそれより大きい金属元素を含んでなることが、黒化処理後の金属表面の黒色外観が良好になり、処理面内で黒色の色調がムラなく安定化し、金属−黒化層の密着性を向上させる点から好ましい。
【0024】
イオン化傾向が銅と同等又はそれより大きい金属元素には、Fe、Sn、Ni、Zn、Pb、Cu、Mg、Al、Cd、Co、Cr等が挙げられるが、その中でもFe、Sn、Ni、Zn、Pb、Cuが好ましく、特にSn、Ni、Cuが、上記黒色外観、色調、密着性の他、耐食性、導電性の点から好ましい。
【0025】
上記金属が2種類以上からなる合金としては、例えば真鍮(黄銅)が挙げられ、特にCuを70〜80重量%、Znを20〜30重量%配合した真鍮を好ましく用いることができる。
【0026】
本発明の黒化処理方法における金属表面を有する被処理体は金属そのものであってもよいし、支持体上に金属薄膜を積層した積層体であってもよい。また、被処理体の形状は特に限定されるものではなく、任意の3次元形状を有するものであってもよいし、支持体上に金属薄膜を積層した平板状のものであってもよい。
本発明の黒化処理方法は、前記金属が支持体に直接積層された厚さ0.1〜5.0μm程度の金属薄膜である場合において、黒化処理中に金属薄膜−支持体間の侵食(アンダーカット)が発生せず、黒化処理品の金属薄膜−支持体間の密着性に優れる点から特に有効である。
【0027】
尚、上記支持体の材質及び形状は、少なくとも機械的強度が弱い金属薄膜を補強することができ、本発明で使用する黒化処理液に対して腐食性を有していないものであればよく、黒化処理品の用途に応じて適当なものを選択して用いることができる。また、支持体−金属間は任意の接着剤を介して接着積層された金属薄膜の場合も、直接積層された金属薄膜と同様にアンダーカットが発生せず、密着性が優れる点から有効である。
【0028】
(接触)
上記金属黒化処理液と金属とが接触することによって、金属の表面に主に塩化テルル(TeCl)からなる黒化層を形成することができる。接触中は、例えば金属として銅を使用する場合、接触界面で下記溶解反応(i)〜(iii)、及び下記析出反応(iv)〜(viii)が起きていることが予想される。
【0029】
TeO+4HCl → Te4+ + 4Cl + 2HO (i)
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
Te4+ + 2Cl + 2e → TeCl (iv)
Te4+ + 4e → Te (v)
Te4+ + 4Cl → TeCl (vi)
Cu2+ + 2Cl → CuCl (vii)
Cu + Cl → CuCl (viii)
【0033】
析出が予想される化合物の色は、TeClが黒色、Teが銀灰色〜灰色、TeClが黄色、CuClが白色、CuClが褐黄色である。黒化層の色調から、黒化層には主にTeClが含まれていると推定されるが、条件によってはTe、TeCl、CuCl、CuClのうち少なくとも一つが含まれる。更に空気中では、これらが酸化した化合物、即ちTeO、CuO、CuO、或いはCuTe、CuTe及びこれらの酸化物なども含まれる可能性がある。
【0034】
上記金属黒化処理液と金属との接触方法は特に限定されないが、例えば、ディッピング(浸漬)、カーテンコート、掛け流しなどの方法で、金属表面と接触する。
本発明における黒化処理液と金属表面との接触温度は常温でよく、好ましくは10〜40℃の範囲内の温度である。このように本発明の黒化処理液は、特に加熱する必要がなく、常温で金属表面と接触させることにより、金属の表面を安定に黒化処理することができる。
【0035】
上記のような温度条件において、金属と黒化処理液との接触時間は、通常15分以下、好ましくは1秒〜2分、特に好ましくは5秒〜30秒である。このように本発明の金属黒化処理方法によれば、非常に短時間で金属の表面を黒化することができる。
なお、接触温度及び接触時間は上記範囲に限定されるものではなく、金属黒化処理液の濃度及び金属元素の組成に応じて、変更することができる。
【0036】
上記本発明の黒化処理により形成される黒化層は、主に塩化テルル(TeCl)からなる。黒化層の詳細については、3.黒化処理品において説明する。
【0037】
3.黒化処理品
本発明に係る黒化処理品は、上記金属黒化処理方法を用いて製造したものである。
上記本発明の処理方法を用いて製造された黒化処理品は、従来の金属黒化処理方法よりも穏やかな条件で黒化層を堆積させることができるため、黒化層の厚さが薄く、金属−黒化層間の密着性が高く、黒化処理面の反射防止性能に優れる。
【0038】
(黒化層)
黒化層は、外光を吸収させて金属表面の反射を防止することを目的として、上記金属黒化処理方法により金属の表面に形成される層であり、主に塩化テルル(TeCl)からなる。
本発明の黒化処理品は、黒化層が金属の表面に積層されることにより、優れた反射防止性能を有する。この黒化層は典型的には一般的な膜状であるが、必ずしも連続する膜に限定されるものではなく、島状に分散した二次元配置を持つ不連続膜であってもよい。
【0039】
金属表面に積層される黒化層は主に塩化テルル(TeCl)からなり、その色は通常黒色であるが、黒色には限定されず、反射防止機能を十分発揮できる暗色であればよい。黒化層の厚みは0.05〜1μmの範囲内であることが好ましい。
上記範囲を超える場合には、黒化層の強度及び密着性が不十分なおそれがあり、上記範囲未満の場合には、黒濃度や反射防止性能が不十分なおそれがある。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
〔性能評価方法〕
下記、各実施例及び比較例に対して、以下の点を評価した。
【0041】
(1)金属板の黒化層の外観及び金属−黒化層間の密着性評価
下記実施例及び比較例の黒化処理を行った金属板(ハルセル板)について、黒濃度の確認のため目視にて黒濃度及び反射防止性能の点から黒化層の外観を確認した。反射防止性能については、蛍光灯を映り込ませ、光沢の程度を確認した。
また、実施例及び比較例の黒化処理を行い、1日放置したハルセル板の表面に、黒化層の表面に粘着テープ(ニチバン社製、商品名「CT405AP−18」)を貼り、更に剥離した後の外観を目視にて確認し、金属−黒化層間の密着性を評価した。評価基準は下記の通りである。
【0042】
[外観(黒濃度)評価基準]
○:黒色外観。
△:グレー外観。
×:黒色層の堆積が認められない。
【0043】
[外観(反射防止性能)評価基準]
○:半光沢〜光沢なし。
△:光沢あり。
×:黒色層の堆積が認められない。
【0044】
[金属−黒化層間の密着性評価基準]
○:下地の金属が目視で確認されない。
×:下地の金属が目視で確認できる。
【0045】
(2)金属/PETフィルム積層体のエッチング性(金属−PETフィルム間の密着性)評価
下記実施例及び比較例の黒化処理を行った金属/PETフィルム積層体について、金属−PETフィルム間の密着性の確認のため、黒化層の外観を目視にて確認した。外観上問題が認められない積層体については、1日放置した後に、(1)と同様に黒化層表面に粘着テープを貼り、更に剥離した後の外観を目視で確認し、金属−PETフィルム間の密着性を評価した。
【0046】
[金属−PETフィルム間の密着性評価基準]
○:粘着テープを剥離した後に金属層側から見て、PETフィルムが目視で確認されない。
×:粘着テープを剥離した後に金属層側から見て、PETフィルムが目視で確認できる。
【0047】
<実施例1>
金属黒化処理液として、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸0.45重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に銅板((株)山本鍍金試験器製、商品名「ハルセル陰極板 銅板 B−60−P05」)、及びCuスパッタ処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡製、商品名「A4300」)のCuスパッタ層上に、硫酸銅めっき(1.5A/dm、6.7分間、25℃)により2μmの銅層を堆積させた積層体(以下、Cu/PETフィルム積層体と呼称する)を15分間浸漬し、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
【0048】
<実施例2>
金属黒化処理液として、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸0.45重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例1と同様の銅板を30秒間、Cu/PETフィルム積層体を2分間浸漬し、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性、及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
図1(A)に、黒化処理を施した銅板の、密着性評価後の黒化層の表面、及び密着性評価に用いた粘着テープを撮影した写真を示す。また、図2(B)に、実施例2の黒化処理を施したCu/PETフィルム積層体の銅表面の、密着性評価後の黒化層の表面を撮影した写真を示す。銅板表面及び積層体の銅表面に堆積した黒化層の剥離は認められず、粘着テープへの黒化層の付着も認められなかった。
【0049】
<実施例3>
金属黒化処理液として、二酸化テルル0.5重量%(テルル濃度として0.4重量%)、塩酸0.45重量%、硫酸15重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例1と同様の銅板及びCu/PETフィルム積層体を1分間浸漬し、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性、及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
【0050】
<実施例4>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.02重量%(テルル濃度として0.016重量%)、塩酸0.45重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性、及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
【0051】
<実施例5>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸5.0重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性、及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
【0052】
<実施例6>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸0.1重量%、硫酸25重量%の水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性、及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
【0053】
<実施例7>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸0.45重量%、硫酸75重量%の水溶液(温度:25℃)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
外観、金属−黒化層間の密着性、及び金属−PETフィルム間密着性の評価結果はいずれも良好だった。
【0054】
<比較例1>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.5重量%(テルル濃度として0.4重量%)、塩酸9.5重量%、酢酸0.5重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例2と同様の銅板を30秒間、Cu/PETフィルム積層体を2分間浸漬したこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
銅板表面の黒化層は水洗により一部剥離し、外観及び金属−黒化層間の密着性が不十分だった。また、金属−PETフィルム間密着性は、下地PETが観察され、不十分だった。
図2(A)に、比較例1の黒化処理を施した銅板表面の黒化層の、密着性評価後の黒化層の表面、及び密着性評価に用いた粘着テープを撮影した写真を示す。銅板表面に堆積した黒化層の剥離が認められ、粘着テープへの黒化層の付着が認められた。
また、図2(B)に、比較例1の黒化処理を施したCu/PETフィルム積層体の黒化層側の表面を撮影した写真を示す。銅表面に堆積した黒化層は、水洗工程において剥離した。
【0055】
<比較例2>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.48重量%(テルル濃度として重量0.384%)、塩酸0.45重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例2と同様の銅板を1分間、Cu/PETフィルム積層体を2分間浸漬したこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
銅板表面の黒化層は水洗により一部剥離し、外観及び金属−黒化層間の密着性が不十分だった。また、エッチング性評価は、水洗後も下地PETが観察されなかったが、テープを用いた密着性評価を行ったところ、金属−PETフィルム間の密着性が不十分であった。
【0056】
<比較例3>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.008重量%(テルル濃度として0.0064重量%)、塩酸0.45重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例2と同様の銅板を1分間、Cu/PETフィルム積層体を2分間浸漬したこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層の堆積を試みた。
銅板及びCu/PETフィルム積層体の銅表面への黒化層の堆積が認められなかった。
【0057】
<比較例4>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸8.5重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例2と同様の銅板を1分間、Cu/PETフィルム積層体を2分間浸漬したこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
銅板表面の黒化層は、金属−黒化層間の密着性は良好だったが、グレーの外観であり反射防止性能は不十分だった。また、金属−PETフィルム間の密着性は良好だった。
【0058】
<比較例5>
実施例2の処理液の代わりに、二酸化テルル0.25重量%(テルル濃度として0.2重量%)、塩酸0.04重量%、硫酸20重量%の水溶液(温度:25℃)を用い、当該処理液に実施例2と同様の銅板を1分間、Cu/PETフィルム積層体を2分間浸漬したこと以外は実施例2と同様にして、銅板表面及びCu/PETフィルム積層体の銅表面に黒化層を堆積させ、更に水洗を行った。
銅板表面の黒化層は、金属−黒化層間の密着性は良好だったが、黒色表面に色ムラが認められた。また、エッチング性評価は、金属−PETフィルム間に一部剥離が認められ、密着性が不十分だった。
【0059】
表1に、実施例及び比較例で得られた黒化処理物の性能評価結果をまとめて示す。
【0060】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(A)実施例2の黒化処理を施した銅板の、密着性評価後の黒化層の表面、及び密着性評価に用いた粘着テープを撮影した写真である。 (B)実施例2の黒化処理を施したCu/PETフィルム積層体の銅表面の、密着性評価後の黒化層の表面を撮影した写真である。
【図2】(A)比較例1の黒化処理を施した銅板表面の黒化層の、密着性評価後の黒化層の表面を撮影した写真である。 (B)比較例1の黒化処理を施したCu/PETフィルム積層体の黒化層側の表面を撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルルが溶解された塩酸溶液であり、該塩酸溶液中におけるテルルの濃度(酸化物換算濃度)が0.01〜0.45重量%であり、塩酸濃度が0.05〜8重量%であることを特徴とする金属黒化処理液。
【請求項2】
更に、硫酸を含み、硫酸濃度が90重量%以下である、請求項1に記載の金属黒化処理液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属黒化処理液に、金属の表面を接触させて黒化層を形成する工程を含むことを特徴とする金属黒化処理方法。
【請求項4】
前記金属が、イオン化傾向が銅と同等又はそれより大きい金属元素を含む、請求項3に記載の金属黒化処理方法。
【請求項5】
前記金属が薄膜である、請求項3乃至4のいずれかに記載の金属黒化処理方法。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれかに記載の金属黒化処理方法を用いて製造した黒化処理品。
【請求項7】
塩化テルルを含んでなる黒化層を有する、請求項6に記載の黒化処理品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−144225(P2008−144225A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332032(P2006−332032)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000120386)荏原ユージライト株式会社 (48)
【Fターム(参考)】