説明

金属(水)酸化物被覆金属材料

【課題】環境負荷が小さく、高耐食性で上層に有機樹脂系被膜層を形成する場合には高密着性である被覆層を有する金属材料を提供する。
【解決手段】下記a〜c群から選ばれる2〜4種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む被膜を有する金属(水)酸化物被覆金属材料である。
a群:Ti、Zr、Hf、b群:V、Nb、Ta、c群:Si

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面に関し、特定の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなる被膜を有する金属(水)酸化物被覆金属材料に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄、鉄基合金、亜鉛、亜鉛基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金等からなる金属材料、めっき金属材料は従来から6価クロム酸塩等を用いたクロメートによる防錆処理が広く行われており、さらに耐指紋性、潤滑性等が求められる場合にはこのクロメート皮膜を下地処理としてその上に樹脂系皮膜を形成したり、又、必要に応じて更に各種塗料の上塗り等が行われてきた。
【0003】
近年、環境問題の高まりから、従来施されてきたクロメート処理を省略する動きがある。しかし、クロメート処理層はそれ自身が高い耐食性を有するとともに、上層皮膜との高い塗装密着性を有していることから、このクロメート処理を省略した場合、これらの性能の著しい低下が予想される。こうした性能の低下を回避するために、下地処理の無い有機樹脂系皮膜の検討や、クロメート代替の化成処理皮膜の検討がなされてきたが、これまでの検討で十分な性能を得るには至っていない。
【0004】
下地処理の無い有機樹脂系皮膜の例では、特許文献1には、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリオレフィン樹脂、水分散性シリカ並びにシランカップリング剤を含む組成物を反応させて得られた水性樹脂組成物、チオカルボニル基含有化合物、燐酸イオンとを含有する防錆コーティングが開示されているが、酸価が比較的大きいものを含むため耐アルカリ性が低いという問題がある。特許文献2には、亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板表面に、特定の有機樹脂を複合した樹脂を含有する有機複合被膜を有する有機複合被覆鋼板が開示されているが、架橋が不十分であるため溶剤ラビング試験等では損傷を受けるという問題がある。特許文献3には、金属化合物、水溶性有機樹脂及び酸を含有する水性組成物を塗布して形成した被覆層を有する亜鉛系めっき鋼板が開示されている。しかし、水溶性樹脂中のカルボキシル基量が多いため耐アルカリ性に乏しいという問題がある。特許文献4には、エポキシ樹脂及びグリコールウリル樹脂により形成した有機被膜を有する表面処理金属板が開示されているが、防錆剤を含有しないため耐食性が不十分であるという問題がある。特許文献5には、亜鉛系めっき鋼板又はアルミニウム系めっき鋼板表面に水分散性樹脂と水溶性樹脂の一方又は両方、シランカップリング剤、燐酸とヘキサフルオロ金属酸の一方又は両方を含有する表面処理組成物により形成された表面処理被膜を有する表面処理鋼板が開示されているが、燐酸成分を含む場合は耐アルカリ性が不十分であるという問題、ヘキサフルオロ金属酸を含む場合は耐食性が不十分であるという問題がある。
【0005】
クロメート代替の化成処理被膜の例では燐酸亜鉛処理等の燐酸塩処理がある。しかし、燐酸塩処理は一次防錆処理としては耐食性が劣っており、塗装下地処理としても耐食性が不十分である。また、特許文献6には、酸化物を含有する燐酸、燐酸化合物被膜が、特許文献7には、バナジウム化合物と燐酸や燐酸化合物からなる被膜が開示されているが、燐酸成分を含む場合は耐アルカリ性が不十分であるという問題がある。さらに、特許文献7にはバナジウム化合物とケイ素化合物からなる被膜が開示されているが、耐食性が不十分であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-164182号公報
【特許文献2】特開2001-199003号公報
【特許文献3】特開2001-214283号公報
【特許文献4】特開2003-49281号公報
【特許文献5】特開2003-105555号公報
【特許文献6】特開2004-269921号公報
【特許文献7】特開2006-2171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記現状に鑑み、クロメート皮膜代替技術として使用可能な裸耐食性、有機樹脂系皮膜との密着性を有する、金属表面に金属酸化物、水酸化物の一方又は両方からなる被膜を有する金属(水)酸化物被覆を有する金属材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Siから選ばれる2〜4種の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともTi、Zr、Hfのうち1種以上の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む金属(水)酸化物被膜層を有する場合、優れた裸耐食性が得られるとともに、上層に形成する有機樹脂系皮膜層との密着性にも優れることを見出し、クロメート被膜と同等以上の性能が得られることを見出し、本発明に至った。本発明の趣旨とするところは以下の通りである。
【0009】
(1)下記a〜c群から選ばれる2種以上の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方(金属(水)酸化物)を含むことを特徴とする金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0010】
a群:Ti、Zr、Hf、b群:V、Nb、Ta、c群:Si
(2)前記被膜がa〜c群から選ばれる3種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含むことを特徴とする前記(1)記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0011】
(3)前記被膜がa〜c群の各群から各々1種ずつ選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなることを特徴とする前記(2)記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0012】
(4)前記被膜がa〜c群から選ばれる2種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含むことを特徴とする前記(1)記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0013】
(5)前記被膜がa〜c群から選ばれる2種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、a群から1種選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方と、b群またはc群から1種選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む被膜を有することを特徴とする前記(4)記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0014】
(6)該被膜の金属換算量が5 〜200mg/m2であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0015】
(7)a群から選ばれる元素の割合が該被膜の金属換算量の25質量%以上であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0016】
(8)該被膜の上層に、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基を含む0.1μm〜3.0μm厚の有機樹脂系被膜を有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0017】
(9)前記金属材料が冷延鋼板または熱延鋼材である前記(1)〜(8)のいずれかに記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0018】
(10)前記金属材料が表面処理金属材料である前記(1)〜(9)のいずれかに記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0019】
(11)前記表面処理金属材料が亜鉛めっき鋼材または亜鉛合金めっき鋼材である前記(10)に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【0020】
(12)前記表面処理金属材料がアルミニウムめっき鋼材またはアルミニウム合金めっき鋼材である前記(10)に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、6価クロムを含有しないため環境負荷が小さく、しかも高耐食性で上層に有機樹脂系皮膜層を形成する場合には該有機皮膜層と高密着性である被覆層を有する金属材料の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0023】
本発明の金属(水)酸化物被覆金属材料は、特定の金属元素の酸化物又は水酸化物の一方又は両方から成る金属(水)酸化物被膜層を有するものである。本件の発明者らが鋭意検討した結果、6価クロムを含有しない被膜であっても6価クロムを含有する被膜いわゆるクロメート被膜と同等以上の特性を発現することを見い出した。すなわち、クロメート被膜の特性はバリヤ性による裸耐食性と溶解析出による自己補修能による加工部耐食性及び上層に形成される有機樹脂層中の極性基との結合による優れた上層皮膜との密着性である。これらの機能(バリア性、自己補修能、極性基との反応性)に着眼してクロムを除く種々金属の酸化物、水酸化物の種々組合せにより得られる性能について試行、検討した結果、これらの性能を発現する被膜を構成する金属元素の金属(水)酸化物に想到した。より詳しくは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Siから選ばれる2〜4種の金属元素の金属(水)酸化物からなり、かつ、前記(水)酸化物に少なくともTi、Zr、Hfのうち1種以上の金属(水)酸化物が含まれる被膜を有することにより優れた裸耐食性を有するとともに、その上層に有機樹脂系皮膜層を形成する場合には該有機皮膜層との高い密着性を持つことを見い出した。
【0024】
また、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Siを、その作用効果からa,b,cの3つの群に分類し、各々の特性を踏まえ、各群の金属元素を適正に組み合わせる事で、優れた皮膜特性が得られることを見い出した。
【0025】
まずa群にはTi、Zr、Hfの3元素が分類される。a群の(水)酸化物が被膜に含まれる場合は、特に平板耐食性が優れるという特性を有することを見出した。これは被膜の疎水性による高バリヤ性が起因していると考えている。a群の中でも他元素に比し耐食性能に優れるZrを用いることがより好適である。
【0026】
b群にはV、Nb、Taの3元素が分類される。b群の(水)酸化物が被膜に含まれる場合は特に加工部耐食性が優れるという特性を有することを見出した。これは湿潤腐食環境下で(水)酸化物が溶解し、加工等により生じた皮膜欠陥部や腐食部を覆う自己修復能によるともの推定している。b群の中でも他元素に比し加工部耐食性に優れるVを用いる事がより好適である。
【0027】
c群にはSiが分類される。c群の(水)酸化物が被膜に含まれる場合は上層の有機樹脂系皮膜層との密着性が特に高いことを見出した。これは、その上に形成される有機樹脂系皮膜層と強固な化学結合を形成するためと推定している。
【0028】
従って、a,b,c群を適時組み合わせる事で、平板耐食性、加工部耐食性、上層皮膜との密着性について、任意に制御する事が可能となる。
【0029】
例えば、a群から選ばれる元素Zrとc群から選ばれる元素Siを組み合わせる事で、耐食性と上塗塗膜との密着性に優れる皮膜の形成が可能で有り、a群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる元素Vを組み合わせる事で、平板耐食性にも加工部耐食性にも優れる皮膜の形成が可能である。そして、a群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる元素V、c群から選ばれる元素Siを組み合わせる事で、平板耐食性、加工部耐食性、上層皮膜との密着性に優れる性能を得ることが出来る。
【0030】
さらに、同群同士の組み合わせにおいても2種以上の元素で構成される皮膜の方が1種の元素で構成される皮膜に比して優れた皮膜特性が得られることも見出している。例えばa群から選ばれる1種の元素で構成される皮膜よりもa群から選ばれる2種以上の元素で構成される皮膜の方が優れた加工部耐食性を有する。同一の群から選ばれる元素同士を組み合わせる事での性能向上メカニズムは定かではないが、同群の元素であっても特性発現する条件や範囲が異なるため、単一元素で構成される皮膜よりも2種以上の組み合わせで構成される皮膜の方が、特性発現条件及び範囲が拡大し、さらには複合的な作用も働くことにより、必ずしも群が得意とする特性に限定されることなく、特性の発現や向上が見られるのではないかと推定している。
【0031】
従って、a群から選ばれる元素をZrとTiの2元素とし、b群から選ばれる元素V、c群から選ばれる元素Siを組み合わせたり、a群から選ばれるTi,Zr,Hfの3元素とb群またはc群の元素を組み合わせたり、a群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる2種類の元素とc群の元素の組み合わせ、或いはa群から選ばれる元素Zrとb群から選ばれる3元素を組み合わせる事などによって、より優れた皮膜性能が発現する。但し、5元素以上の組み合わせでは、元素組み合わせによる性能向上効果は飽和するため、4元素以下の組み合わせにより条件の最適化を検討することで、効率的にかつ必要な皮膜性状を得ることが出来る。
【0032】
これらの金属(水)酸化物を含む被膜は片面あたりの金属換算量で5〜200mg/m2が好ましい。5mg/m2未満の場合、上記特性が不十分な場合がある。200mg/m2超の場合、上記特性が飽和もしくは低下すると共に経済的ではない。
【0033】
a群の被膜中金属濃度比、すなわち被膜を構成する(水)酸化物の金属元素全体に占めるa群の(水)酸化物の金属元素の質量比は25%以上が好ましい。さらに好ましくは50%以上である。25%未満では平板耐食性が不十分な場合がある。この成分はバリヤ性を有し、被膜を構成する基本成分すなわち被膜のマトリックスとして適当であり、したがって上限は他の構成成分による加工部耐食性と上層被膜との密着性の性能によって決まり、平板耐食性だけを求めるのであれば100%となるため性能上の上限は特に定められない。
【0034】
またb群の金属元素の質量比は25%以上75%以下が好ましい。25%未満では加工部耐食性が不十分な場合がある。また、75%超の場合は腐食環境下で被膜が健全な状態で維持されない場合がある。
【0035】
c群の金属元素の質量比は25%以上75%以下が好ましい。25%未満では上層被膜との密着性が不十分な場合がある。また、75%超の場合は耐食性が不十分な場合がある。
【0036】
上層に有機樹脂系被膜を施す場合、該上層皮膜との密着性は上述の被膜層と直接接する有機樹脂系被膜との接着によるため、有機樹脂系被膜は単層、複数層のどちらでもよい。また、有機層の膜厚も制限されるものではないが、0.1〜3μmが好ましい。0.1μm未満では被覆が不完全な場合があり、特性が不足する。3μm超の場合は特性が飽和し経済的ではない。
【0037】
有機樹脂系被膜の種類は特に限定するものではない。例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコンポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂あるいはこれらの変成樹脂等の樹脂成分をブチル化メラミン、メチル化メラミン、ブチルメチル混合メラミン、尿素樹脂、イソシアネート、天然ゴムやこれらの混合系の架橋剤成分により架橋させたもの、あるいは電子線硬化型、紫外線硬化型のもの等やさらには適宜官能基を付与したものが挙げられる。耐食性向上を目的としたシリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物粒子、着色顔料、染料、シリカ等の光沢調整剤、表面平滑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤、燐酸化合物などの防錆剤、酸化防止剤、カーボンブラック粉末等の添加剤を含んでもよい。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。但し、地球環境に配慮したものを選択することが望ましい。また、有機樹脂系被膜層の形成方法も特に限定されず、塗装、電着塗装、塗布、ラミネート等で良い。また、本願発明の金属(水)酸化物被覆は、従来、クロメート皮膜を下地に有していた有機樹脂系被覆や、下地処理無しの有機樹脂系被覆との組み合わせにおいても、良好な性能を発現し、問題なく使用することができる。
【0038】
本発明に適用できる金属材料、めっき金属材料の金属種、製造方法は特に限定されない。また、形状も板、線、管など特に限定されない。例えば、冷延鋼板、熱延鋼材、ステンレス鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛合金めっき鋼材、溶融亜鉛めっき鋼材、溶融亜鉛合金めっき鋼材、溶融アルミニウムめっき鋼材、溶融アルミニウム合金めっき鋼材、電気ニッケルめっき鋼材、電気錫めっき鋼材等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
金属材料としては電気亜鉛めっき鋼板(付着量:20g/m2)、溶融亜鉛めっき鋼板(付着量:60g/m2)、溶融アルミニウムめっき鋼板(Al-Si合金、6mass%Si、付着量:60g/m2)を使用した。これらに対して、アセトン中で超音波脱脂処理を施した後、実験に供した。金属(水)酸化物の付与は液相析出法によった。
【0041】
液相析出法の処理液としては表1、2に示すようにヘキサフルオロジルコン酸アンモニウム、硝酸ジルコニル、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、硫酸バナジル、ヘキサニオブ酸アンモニウム、フッ化タンタル酸カリウム、ヘキサケイ酸アンモニウム、酸化ハフニウム(IV)をフッ化水素酸に溶かしアンモニア水でpH調製したものを所定濃度になるように混合して作製した。
【0042】
脱脂処理まで行った基材を処理液へ浸漬または浸漬後電解し、金属酸化物又は金属水酸化物を成膜した。
【0043】
電解による金属酸化物及び金属水酸化物の成膜は、処理液中で電流密度を50〜100mA/cm2に制御して常温でカソード電解を0.1〜10秒間行い、成膜後に水洗し乾燥した。浸漬による金属酸化物及び金属酸化物の成膜は、常温で1〜10分間浸漬し、成膜後に水洗し乾燥した。
【0044】
得られた被膜はX線光電子分光法と蛍光X線法により、金属酸化物及び金属水酸化物の生成及び成膜量を確認した。
【0045】
比較例として、塗布型クロメート処理を行った。還元率40%のクロム酸にシリカ(スノーテックスO、日産化学工業社製)をクロム酸/シリカ=1/3(固形分質量比)となるように加えた処理剤を用い、バーコーターにて基材に塗布し板温60℃で乾燥した。
【0046】
一部の水準については更に有機被覆処理を行った。
【0047】
有機樹脂系被膜は水性樹脂を用いて形成した。水性エポキシ樹脂(旭電化工業(株)製、アデカレジンEMO436FS-12)、水性フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、PR-NPK-261)、水性ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、ファインテックES-650)、水性ポリウレタン樹脂(旭電化工業(株)製、アデカボンタイターHUX320)、水性アクリル樹脂(日本エヌエスシー(株)、カネビノールKD-5)、水性ポリオレフィン樹脂(東邦化学工業(株)製、HYTEC S-3121)の固形分濃度が20質量%になるように調整してバーコーターで乾燥膜厚1μmになるように塗布し、熱風乾燥炉を用い到達板温150℃で乾燥させた後、水冷した。また、水性ポリウレタン樹脂については固形分濃度を変えて乾燥膜厚を0.05〜4μmに変化させた。また、水性エポキシ樹脂にシリカ粒子(日産化学工業(株)製、スノーテックス-O)、水性ポリウレタン樹脂にシリカ粒子(日産化学工業(株)製、スノーテックス-N)を樹脂固形分100質量%に対し30質量%含有させたものを固形分濃度が20質量%になるように調整してバーコーターで乾燥膜厚1μmになるように塗布し、熱風乾燥炉を用い到達板温150℃で乾燥させた後、水冷した。
【0048】
得られた供試材のうち、金属酸化物及び金属水酸化物の成膜のみを行った供試材については付着量測定と裸耐食性(平板部、加工部)評価を行った。又、一部の水準については被膜組成の定量も行った。
【0049】
有機被覆処理まで行った供試材については付着量、有機被膜厚の測定と裸耐食性(平板部、加工部)、被膜密着性を評価した。
【0050】
評価以下の方法で行った。
【0051】
(1)耐食性(平板部)
平板部の裸耐食性は試験板のエッジ、裏面をテープシールし、SST(JIS−Z−2371)試験を行った。120時間後の白錆発生状況を観察し、白錆発生面積%で評価した。エッジ、裏面をテープシールし、SST(JIS-Z-2371)試験を行った。120時間後の白錆発生状況を確認し、以下に示す評価基準により評点付けを行い、評点3以上を合格とした。
【0052】
10:白錆発生なし
9:白錆1%未満
8:白錆1%以上3%未満
7:白錆3%以上5%未満
6:白錆5%以上7%未満
5:白錆7%以上10%未満
4:白錆10%以上15%未満
3:白錆15%以上20%未満
2:白錆20%以上30%未満
1:白錆30%以上
(2)耐食性(加工部)
加工部の耐食性は、試験板にエリクセンテスターにて6mm押し出し加工を施した後、試験板のエッジ、裏面をテープシールし、SST(JIS-Z-2371)試験を行った。120時間後の加工白錆発生状況を確認し、以下に示す評価基準により評点付けを行い、評点3以上を合格とした。
【0053】
10:白錆発生なし
9:白錆1%未満
8:白錆1%以上3%未満
7:白錆3%以上5%未満
6:白錆5%以上7%未満
5:白錆7%以上10%未満
4:白錆10%以上15%未満
3:白錆15%以上20%未満
2:白錆20%以上30%未満
1:白錆30%以上
(3)被膜密着性
被膜密着性は、試験板にエリクセンテスターにて8mm押し出し加工を施した後、押し出し部にセロハン(登録商標)テープ(ニチバン製)を貼り、強制剥離した。試験板をメチルバイオレット染色液に浸漬し、被膜状態を観察し、被膜の残存率に応じて評点10(剥離なし)〜1(完全剥離)を与えた。評点7以上を合格とした。
【0054】
表2〜7(実験No.1〜67)の結果より、本願発明による酸化物、水酸化物被覆層を有する供試材は優れた耐食性能を示し、比較材のクロメート処理鋼板と遜色ない性能を有していることが判る。
【0055】
表8〜11(実験No.68〜115)からは該被膜層の上層に有機樹脂系皮膜層を形成した場合であり、該有機皮膜層との高い密着性と優れた耐食性能を示し、クロメート処理ベースの有機被覆材と同等以上の性能を有していることが確認された。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
【表10】

【0066】
【表11】

【0067】
【表12】

【0068】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記a〜c群から選ばれる2種以上の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方(金属(水)酸化物)からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む被膜を有することを特徴とする金属(水)酸化物被覆金属材料。
a群:Ti、Zr、Hf、
b群:V、Nb、Ta、
c群:Si
【請求項2】
前記被膜がa〜c群から選ばれる3種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含むことを特徴とする請求項1記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項3】
前記被膜がa〜c群の各群から各々1種ずつ選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなることを特徴とする請求項2記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項4】
前記被膜がa〜c群から選ばれる2種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、少なくともa群から1種以上選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含むことを特徴とする請求項1記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項5】
前記被膜がa〜c群から選ばれる2種の金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方からなり、a群から1種選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方と、b群またはc群から1種選ばれる金属元素の酸化物、水酸化物の一方又は両方を含む被膜を有することを特徴とする請求項4記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項6】
該被膜の金属換算量が5 〜200mg/m2であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項7】
a群から選ばれる元素の割合が該被膜の金属換算量の25質量%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項8】
該被膜の上層に、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基を含む0.1μm〜3.0μm厚の有機樹脂系被膜を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項9】
前記金属材料が冷延鋼板または熱延鋼材である請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項10】
前記金属材料が表面処理金属材料である請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項11】
前記表面処理金属材料が亜鉛めっき鋼材または亜鉛合金めっき鋼材である請求項10に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。
【請求項12】
前記表面処理金属材料がアルミニウムめっき鋼材またはアルミニウム合金めっき鋼材である請求項10に記載の金属(水)酸化物被覆金属材料。

【公開番号】特開2012−149352(P2012−149352A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104756(P2012−104756)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【分割の表示】特願2008−155876(P2008−155876)の分割
【原出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】