説明

金属(III)バナデートを含むナノ粒子の合成

本発明は、ナノ粒子の金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェート混合結晶の製造方法であって、反応媒質に可溶性または分散性の反応性バナデート源および任意のホスフェート源と、反応媒質に可溶性または分散性の反応性金属(III)塩との、反応媒質における加熱下での反応を含み、ここで、反応媒質は水およびポリオールを20/80〜90/10の体積比で含む上記の方法、並びにこれによって得られる粒子に関する。この合成は、粒子サイズ分布が狭い金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェートを高収量で提供する。それらのドープされた態様はすぐれたルミネッセンス特性で特徴づけられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、金属(III)バナデートを含むナノ粒子の合成、およびこの合成によって得られうる粒子、特にルミネッセンスランタニドおよび/またはビスマスでドープされた金属バナデートまたは金属バナデート/ホスフェート混合結晶に関する。
【0002】
発明の背景
様々なドープされた希土類金属バナデートがルミネッセンス特性を有することは長い間知られてきた。
【0003】
YVO:Eu3+は、例えば、赤色ルミネッセンス物質として陰極線管またはカラーテレビ(米国特許第3,360,674号)および蛍光灯において工業的に用いられる。その単結晶形は偏光材(polarisator)およびレーザー材料としても用いられてきた(R.A. Fields等, Applied Physical Letters 51, 1885, 1987)。
【0004】
Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたバナジン酸イットリウムのルミネッセンス特性、GdVO:EuおよびLuVO:Euのルミネッセンス特性も文献(Ullmans Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, 第6版、1999, A15巻、Luminescent Materialsおよびその引例を参照)で知られている。別のルミネッセンスバナデートは、例えば、米国特許第6,203,726号から分かる。
【0005】
レーザーの開発において、GdVO:Tm、HoおよびGdVO:Nd結晶は励起源としてダイオードレーザーで用いられてきた(P.J. Morris等, Opt. Commun.,(オランダ)111, 439 (1994)およびP.K. Mukhopadhyay等, National Laser Symposium, CAT, Indore(インド) 49 (1997年2月6〜8日)参照)。GdVO:Bi粉末はコンピューター断層X線写真法におけるシンチレーション物質として提案された(G. Leppert等, Applied Physics A59, 69 (1994))。ユーロピウムでドープされたバナジン酸イットリウムおよびガドリニウムの共ドーピングは、Eu3+放出強度を促進し、同時に励起波長をより長い波長にシフトさせ、それによってUV−Aでの励起が可能になることも文献から知られている(S.Z. Toma等, J. Electrochem. Soc. 114, 9 (1967), pp.953-955; R.K. Datta等, J. Electrochem. Soc. 114, 10 (1967), pp.1058-1063およびB.N. Mahalley等, Applied Physics A 70, 39-45 (2000))。
【0006】
これらのバナデートは、一般に、酸化物出発物質の混合およびそれらの高温での焼成によって製造され、これによってマクロ結晶質物質が得られる。
【0007】
しかしながら、多くの工業的用途では、バナデートの液体媒質(例えば、水性もしくは有機溶媒)または固体媒質(例えば、ポリマー材料)における均質な分散が求められる。マクロ結晶質物質を微結晶質材料に変える場合には、微粉砕およびサイズ選別のような追加工程が必要である。これによって有用な粒子の収量が減少するばかりではなく、例えば、粉砕工程中の機械的摩擦によって、汚染ももたらされる。これらの汚染はまた量子収量(放出光子対吸収光子の比)に負の効果を及ぼす。
【0008】
このため、最近は、ナノ粒子のバナデートを直接合成生成物として得る努力がなされてきた。「ナノ粒子の」とは、直径(非球状粒子では最も長い軸で測定)が1μm未満であることを意味する。これに関連して、直径が30nm未満のナノ粒子を得ることに特に関心がもたれている。なぜなら、それらは媒質に入射する光ともはや相互作用せず、分散が透明になるからである。
【0009】
K. RiwotzkyおよびM. Haase (J. Phys. Chem. B 1998, 102, 10129-10135)は、式YVO:Ln(Ln=Eu、Sm、Dy)のドープされたコロイド状ナノ粒子の湿式化学合成について初めて報告した。その合成は対応する金属硝酸塩およびNaVOで出発し、これらを水に溶解し、オートクレーブ中で1時間200℃で反応させた。しかしながら、この方法ではバナデートナノ粒子のサイズ分布が広くなり、10〜30nmの粒子を単離するために複雑な精製およびサイズ選別工程が必要となる。従って、透析後のナノ結晶質YVO:Euの収量はわずか3%となる。その著者は、5%Eu3+でドープされたバナジン酸イットリウムの場合、水中、室温で15%の量子収量(放出光子対吸収光子の比)を示している。この量子収量はマクロ結晶質物質の量子収量よりかなり低く、これは表面で生じるルミネッセンス消光プロセスに関連するナノ粒子の本質的により高い表面−体積比によるものであった。
【0010】
A. Huignard等はChem. Mater. 2002, 14, pp.2264-2269で、粒子直径が約10nmであるYVO:Euコロイドの合成および特性決定について記載している。その合成は、対応するモル比の硝酸イットリウムおよびユーロピウム並びにクエン酸ナトリウムおよびNaVOの水中での反応によって行われた。60℃、30分の溶液のエージングの後、様々な透析工程が続く。得られたサイズ分布は、RiwotzkyおよびHaaseが得たものより狭いが、37.5%の標準偏差を有し、比較的広かった(平均サイズ8nm、標準偏差3nm)。粒子収量の正確な表示はされていなかった。著者によると、16%の量子収量が、ユーロピウムでドープされたバナジン酸イットリウムについて得られており、x=0.20(20%)のユーロピウム含有量しか有さなかった。著者は、エネルギー伝達を妨げる格子欠陥がこの原因であると考えている。
【0011】
ナノ粒子遷移金属酸化物顔料、例えばCoAl、Cr、ZnCo、(Ti0.85、Ni0.05、Nb0.10)O、α−FeおよびCu(Cr,Fe)Oのジエチレングリコール中、140℃での合成が、C. Feldmann, Advanced Materials, 2001, 13, No.17, pp.1301-1303に記載されている。顔料の平均粒子直径は50〜100nmである。
【0012】
また、ドープされていないバナデートも工業的用途に関心がもたれている。例えば、WO02/072154には、ナノ粒状物質GdVOが、NMRに基づく医学的診断法、例えばコンピューター断層X線写真法における造影剤として利用されることが開示されている。ここに記載されているGdVO合成では、RiwotzkyおよびHaaseの方法が用いられ、従って、同じ欠点がある。
【0013】
従って、本発明の目的は、サイズ選別工程をさらに行うことなく、高収量で狭い粒子サイズ分布をもたらす、金属(III)バナデートを含むナノ粒子の新規な合成法を提供することであった。
【0014】
本発明のさらなる側面では、水およびアルコールばかりでなく、好ましい態様では非プロトン有機媒質にもに容易に溶解することができる金属(III)バナデートを含むナノ粒子をもたらす合成法を提供することが意図される。
【0015】
本発明の別の目的は、水およびアルコールばかりでなく、好ましい態様では非プロトン有機媒質にもに容易に溶解することができる粒子サイズ分布の狭い金属(III)バナデートを含むナノ粒子を提供することである。
【0016】
好ましい態様および技術的目的の別の側面によると、比較的高い量子収量の金属(III)バナデートを含むルミネッセンスナノ粒子がさらに提供されるべきである。
【0017】
さらに好ましい態様および技術的目的の側面によると、より大きな規模で容易に行うことができるナノ粒子の合成法が提供される。
【0018】
他の技術的目的は次の本発明の記載から分かる。
【0019】
発明の概要
上記の技術的目的は、金属(III)バナデートを含むナノ粒子を製造する方法であって、反応媒質に可溶性または分散性の反応性バナデート源と、反応媒質に可溶性または分散性の反応性金属(III)塩との、反応媒質における加熱下での反応を含み、ここで、反応媒質は水および少なくとも1種のポリオールを20/80〜90/10の体積比で含有する上記の方法、並びにこの方法により得られうる金属(III)バナデートによって達成される。
【0020】
前記「金属(III)バナデートを含むナノ粒子」とは、ドープされたもしくはドープされていない金属(III)バナデート、またはドープされたもしくはドープされていない金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶を表す。
【0021】
2番目の場合、上記反応媒質は、反応媒質に可溶性または分散性のホスフェート源も含む。
【0022】
1つの態様によると、この方法は、後に続くオートクレーブおよび/または表面処理における反応を含む。
【0023】
第2の態様によると、本発明の方法はオートクレーブ中で直接行われる。この態様は、より大きな規模の反応を行うのに特に適している。
【0024】
本方法で得られる粒子は、量子収量並びに水および有機媒質中の分散性が高いことを特徴とする。
【0025】
発明の詳しい説明
本発明の方法は、金属(III)バナデートを含むナノ粒子材料の製造に役だつ。
【0026】
用語「ナノ粒子」は、上で説明したように、好ましくは、直径が30nm未満の粒子を意味する。本発明の粒子は球状であるのが好ましい。それらの形が球状でない(例えば、楕円形、針状形)ならば、用語「直径」は粒子の最長軸を意味する。平均直径は、好ましくは1〜25nm、より好ましくは2〜20nm、特に好ましくは5〜15nmである。これは、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)によって測定しうる。平均直径および標準偏差を測定するには、この技術分野で公知の超遠心分離分析(AUZ)も適している。超遠心分離分析の前に、測定結果の誤りを防ぐために、粒子が非凝集状態にあるかどうかをTEMまたはXRD測定によって調べてもよい。
【0027】
本発明の方法は、好ましくは30%未満、特に25%未満の平均値からの標準偏差で表すことができる非常に狭い粒子サイズ分布をもたらす。
【0028】
用語「金属(III)バナデートを含むナノ粒子」は、ドープされたもしくはドープされていない金属(III)バナデート、またはドープされたもしくはドープされていない金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶を包含するものとして理解すべきである。簡略にするために、特に断りがなければ、用語「金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェート」は「金属(III)バナデートを含むナノ粒子」と同義語として以下で用いる。
【0029】
用語「バナデート」はオルトバナデート(VO)およびポリバナデートを含み、前者が好ましい。
【0030】
「混合結晶」とは、金属(III)バナデートおよび金属(III)ホスフェートが互いに溶解している固溶体を意味する。用語「ホスフェート」はオルトホスフェート(PO)およびポリホスフェートを含み、前者が好ましい。
【0031】
混合結晶は化学式
Me(III)V1−x
に適合し、ここで、Meは3価の金属原子であり、0<x<1であり、xは0.2〜0.6であり、特に0.3〜0.5が好ましい。驚いたことに、これらの混合結晶系は、適当にドープされると、対応するバナデートよりもずっと高い量子収量を示すことが分かった。理論に結びつけるつもりはないが、ホスフェートの存在がバナデート(+V)酸化状態を安定化し、それによってルミネッセンス(蛍光)収量が高まると考えられる。ユーロピウムでドープされたバナデート/ホスフェートナノ粒子の量子収量は、例えば、約20モル%に達することができる。ホスフェートの結晶格子への混合から導かれる別の利点は、同じ反応条件(オートクレーブ中での反応、すなわち、「第2の方法の態様」、並びに金属(III)塩対バナデート(およびホスフェート)源のほぼ化学量論比での反応)下で結晶の大きさが、例えば、平均直径が15nmより大である代わりに、5〜15nm、例えば約10nmのように、小さくなることと考えられる。
【0032】
バナデートまたはバナデート/ホスフェートナノ粒子の3価金属原子はどのような金属でもよく、好ましくは13族の金属(Al、Ga、In、Tl)、ビスマスおよび希土類金属、すなわち、Sc、YおよびLa並びにランタニド(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbまたはLu)から選択される。
【0033】
本発明の金属バナデート、または金属バナデート/ホスフェートナノ粒子はドープされたルミネッセンス系であるのが好ましい。ルミネッセンスとは、エネルギーを(例えば、光子、電子線またはX線の形で)吸収し、その後これをより低いエネルギーの輻射線として放出するナノ粒子の性質を特徴づける。用語「ルミネッセンス」は、明細書および請求項全体において「フォトルミネッセンス」の好ましい性質を含む。
【0034】
ルミネッセンスをもたらす1種または複数の金属原子が適当なホスト格子に組み込まれることで、ルミネッセンス性が得られる。用語「ドーピング」は広く理解されるべきである。ドーピング物質の高い方のモル部は集中消光(concentration quenching)現象をもたらさないようにすべきである。従って、それはホスト格子中のドーピング金属間の距離、およびドーピング物質の種類のようなファクターに依存し、従って、系ごとに変わる。ホスト格子金属(金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェート)は、好ましくは50モル%まで、より好ましくは0.1〜40モル%、さらにより好ましくは0.5〜30モル%、特にこのましくは1〜25モル%の量でドーピング物質に置き換えられるのが好ましい。
【0035】
本発明の好ましい態様によると、バナジン酸イットリウムおよびランタン、特にバナジン酸イットリウム、またはバナジン酸/リン酸イットリウムおよびランタン、特にバナジン酸/リン酸イットリウムがホスト格子として選択され、これがランタニド、インジウム、またはビスマスから選択される1種または複数の金属でドープされる。適したドーピング物質は、例えば、Eu、Tm、Tb、Ho、Er、Dy、Sm、InまたはBiである。特に好ましいのはEuまたはBiでの個々のドーピング、あるいはEuとBiの組み合わせドーピングである。ドーピング物質対としてCeをNd、DyまたはTbと、あるいはErをYbと組み合わせて用いることも知られている。
【0036】
別の好ましい態様では、ランタニドのバナデートまたはバナデート/ホスフェートはホスト格子として別の適当なランタニドおよび/またはビスマスでドープされる。例えば、バナジン酸またはバナジン酸/リン酸のガドリニウム塩をEu、Bi、Tm、HoまたはNdから選択される1種または複数の金属でドープするのが好ましい。EuまたはBiで個々にドープされるか、あるいはEuおよびBiを組み合わせてドープするのが特に好ましい。バナジン酸またはバナジン酸/リン酸のセリウム塩をNd、Dy、TbおよびSmから選択される少なくとも1種のランタニドでドープすることも考えられる。バナジン酸またはバナジン酸/リン酸のエルビウム塩のYbドーピングも可能である。
【0037】
吸収および放出特性に基づいて、当業者は適当な格子/ドーピング物質の組み合わせを決定することができる立場にある。高吸収断面を有するホスト格子金属原子ランタニド、例えばCe、GdまたはYbは、放出スペクトルがドーピング物質の吸収スペクトルと重なるとき、それらのエネルギーをドーピング物質へ伝達し、そしてこのエネルギーをルミネッセンスの形で放出することができる魅力的な選択である。
【0038】
特に好ましい金属(III)バナデートナノ粒子には、BiVO;YVO:Eu;YVO:Bi;YVO:Eu、Bi;Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたYVO;GdVO:Eu;GdVO:Bi;GdVO:Eu、Bi;GdVO:Tm、Ho;GdVO:Nd;または(Y0.82Al0.07La0.06)VO:Eu0.05が含まれる。
【0039】
好ましい金属(III)バナデート/ホスフェートナノ粒子には、BiV1−x;YV1−x:Eu;YV1−x:Bi;YV1−x:Eu、Bi;Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたYV1−x;GdV1−x:Eu;GdV1−x:Bi;GdV1−x:Eu、Bi;GdV1−x:Tm、Ho;GdV1−x:Nd;または(Y0.82Al0.07La0.06)V1−x:Eu0.05が含まれ、ここで、0<x<1、より好ましくは0.2〜0.6、特に0.3〜0.5である
I. バナデートまたはバナデート/ホスフェートナノ粒子の製造法
本発明の方法は、25℃での体積に基づく体積比が20/80〜90/10、より好ましくは30/70〜80/20、さらにより好ましくは35/65〜70/30、特に好ましくは40/60〜60/40の水と1種のポリオールとの混合物中で行われる。意外なことに、ドープされたバナデートまたはドープされたバナデート/ホスフェートのルミネッセンス特性が水の含有量が減少するときにいくらか減少ことも見出した。しかしながら、水の含有量が高すぎると、反応系での生成物の早期沈殿を導くことになる。
【0040】
ポリオールとして、2、3またはそれ以上のヒドロキシル基を有し、そして当該体積比および用いる反応温度で水と十分に混和することができる各有機化合物を用いることができる。ポリオールは元素C、HおよびOのみからなるのが好ましい。適したポリオールの例は、分子量が200以下の有機ジ−もしくはトリヒドロキシ化合物、例えば、グリセロール、エチレングリコールまたはポリエチレングリコール(エチレングリコール単位の好ましい平均数は4以下である)である。他のモノ−もしくはポリアルキレングリコールも反応条件下で水と混和性であるならば用いることができる。
【0041】
本発明の合成は、加熱して、すなわち、室温(25℃)より上の温度で行われる。反応時間が長くなりすぎないように、反応は少なくとも100℃の温度で行うのが好ましい。より高い反応温度は、溶媒の選択により周囲圧で予め決定される。温度が高すぎる(例えば、220℃より上または250℃より上)と、ドープ系の蛍光特性に悪い影響が時々見られる。そのため、好ましい温度は、以下の説明のように選択される工程の変化に依存して、110〜200℃、特に120〜180℃または180〜200℃である。
【0042】
I.1. 方法の第1の態様
本発明による方法の第1の態様によると、反応の間、反応媒質の水の部分を蒸留によって除去することは可能であるが、必要ではない。
【0043】
合成法の第1の態様は圧力を上げて行うことが原則として可能であっても、標準気圧(1バール(100kPa))で行うのが実際には好ましい。反応を行うには120〜180℃の温度が好ましい。
【0044】
上に示した好ましい合成温度の場合、通常は30分〜3時間、好ましくは1〜2時間の反応時間が選択される。
【0045】
本発明の合成に適したバナデート源を決めることは、当業者にとって容易なことである。それは、加えられる金属(III)塩と反応するために反応性、すなわち、十分に可溶性でなければならず、同時に、反応条件下で反応媒質中に可溶性または分散性でなければならない。好ましいバナデート源はバナジン酸アンモニウムおよびアルカリ金属塩、例えば、バナジン酸ナトリウムまたはカリウム、例えば、NaVOまたはNaVO・10HOである。
【0046】
同じことはバナデート/ホスフェート混合結晶に用いられるホスフェート源にも適用される。適したホスフェート源はリン酸アンモニウムおよびアルカリ金属塩、例えば、リン酸ナトリウムまたはカリウム、例えば、KPO・1水和物である。
【0047】
金属源として用いられる金属(III)塩は、バナデート源と反応して不溶性金属(III)バナデートとなるように、あるいは場合によりホスフェート源と反応して不溶性金属(III)バナデート/ホスフェートとなるように、反応条件下で反応媒質に十分に可溶性でなければならないという以外は、さらにどのような制約も受けない。それは、ハロゲニド(例えば、塩化物および臭化物、特に塩化物)、硝酸塩、アルコキシド(アルコキシド単位当たり1〜4個の炭素原子を有する)、酢酸塩およびそれらの水和物から選択されるのが好ましい。希土類金属は塩化物水和物または硝酸塩水和物としてしばしば用いられる。ドープされる系では、一般に金属(III)塩の混合物が用いられ、それらのモル比は生成物中で達成されるホスト格子金属/ドーピング金属のモル比に対応する。
【0048】
バナデート源またはバナデートおよびホスフェート源との反応に化学量論的に必要な量に基づいてモル過剰の金属(III)塩、すなわち、金属源を用いることが可能である。このモル過剰は例えば、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%である。得られる生成物の分散性はそれによって促進される。さらに、過剰の金属(III)塩を用いることは、粒子サイズをより小さくするのに寄与する。過剰すぎると、経済的に得策ではなく、1つの上限は約100%、特に50%である。
【0049】
しかしながら、経済的な観点から、バナデート源またはバナデートおよびホスフェート源との反応にほぼ化学量論的に必要な量で金属(III)塩、すなわち、金属源を用いることが好ましい。分散性または粒子サイズの点で考えられる利点は、高価な金属(III)塩の損失を埋め合わせるように思えない。
【0050】
反応媒質のpH値は4.0〜7.0が好ましい。必要ならば、対応するようにpH値を調節するために、少量の酸または塩基を加える。
【0051】
本発明の合成では、非常に高い収率(85〜100%)で金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェートが得られ、さらに望ましい狭い粒子サイズ分布も有する。
【0052】
意外なことに、このように製造されたドープされたバナデートまたはバナデート/ホスフェートのルミネッセンス特性は、その後のオートクレーブ処理工程によってさらに改良しうることが分かった。「オートクレーブ処理」は本明細書においては、閉鎖系の圧力下で粒子を加熱することと同じ意味と理解される。
【0053】
反応媒質の水部分を反応の間に蒸留によって除去するならば、オートクレーブ処理媒質の水/ポリオール体積比が反応について前に示したようになる量、好ましくは30/70〜80/20、より好ましくは35/65〜70/30、特に好ましくは40/60〜60/40となる量で水を加えてから、オートクレーブ処理をする。
【0054】
さらに、オートクレーブ処理工程を行う前に反応混合物を冷却するのが好ましい。
【0055】
オートクレーブ処理は不活性物質でできた圧力容器(オートクレーブ)、例えばテフロン(登録商標)のようなPTFEで被覆された鋼オートクレーブ中で行うのが好ましい。温度は、好ましくは110〜240℃、より好ましくは160〜230℃、特に好ましくは180〜220℃である。処理時間は、好ましくは30分〜4時間、より好ましくは1〜3時間、特に好ましくは1〜2時間である。これらの条件下で、オートクレーブの圧力は15〜35バール(1,500kPa〜3,500kPa)である。
【0056】
意外なことに、このオートクレーブ処理はドープされた金属バナデートのルミネッセンス特性をかなり高めることが分かった。ルミネッセンス特性は、例えば、量子収量により判定されうる。温度および圧力が高くなると、格子欠陥がなくなること、従ってより効率的なエネルギー伝達およびエネルギー放出が可能となることが考えられる。
【0057】
I.2 方法の第2の態様
本発明による方法の第2の態様によると、反応は高めた圧力(標準気圧の1バール(100kPa)より高い)のもとで、そして好ましくはオートクレーブのような閉鎖系中で行われる。意外なことに、この態様は、本発明の反応をより大規模に行うために、例えば、粒子サイズ、サイズ分布または量子収量に望ましくない影響を与えることなく、バナデートまたはバナデート/ホスフェート粒子を10〜数百グラム(例えば、200g)オーダーの量で製造するために特に適していることが分かった。
【0058】
従って、この態様は、金属(III)バナデートを含むナノ粒子の製造方法であって、反応媒質に可溶性または分散性の反応性バナデート源と、反応媒質に可溶性または分散性の反応性金属(III)塩を含む反応媒質を高圧下で(および好ましくは閉鎖系で)加熱することを含み、そこで、反応媒質は水および少なくとも1種のポリオールを20/80〜90/10の体積比で含有する方法に関する。
【0059】
上記「金属(III)バナデートを含むナノ粒子」とは、ドープされたまたはドープされていない金属(III)バナデート、またはドープされたまたはドープされていない金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶を表す。
【0060】
第2の場合では、上記反応媒質は反応媒質に可溶性または分散性のホスフェート源も含む。
【0061】
オートクレーブ中での反応は不活性物質でできた圧力容器(オートクレーブ)、例えばテフロン(登録商標)のようなPTFEで被覆された鋼オートクレーブ中で行うのが好ましい。温度は、好ましくは160〜220℃、特に好ましくは180〜220℃である。
【0062】
オートクレーブの圧力は、反応混合物の種類(ポリオールの種類、ポリオール/水の比等)および反応温度のようなファクターによって主に決まる。5〜25バール(500kPa〜2,500kPa)、好ましくは10〜15バール(1,000kPa〜1,500kPa)の圧力を用いることができる。
【0063】
上に示した条件の場合、通常、30分〜4時間、好ましくは1〜3時間、より好ましくは1〜2時間の範囲の反応時間が選択される。
【0064】
当業者は、本発明の方法に適したバナデート源を容易に決定することができる。それは加えられる金属(III)塩と反応するために反応性、すなわち、十分に可溶性でなければならず、同時に、反応条件下で反応媒質中に可溶性または分散性でなければならない。好ましいバナデート源はバナジン酸アンモニウムおよびアルカリ金属塩、例えば、バナジン酸ナトリウムまたはカリウム、例えば、NaVOまたはNaVO・10HOである。
【0065】
同じことはバナデート/ホスフェート混合結晶に用いられるホスフェート源にも適用される。適したホスフェート源はリン酸アンモニウムおよびアルカリ金属塩、例えば、リン酸ナトリウムまたはカリウム、例えば、KPO・1水和物である。
【0066】
金属源として用いられる金属(III)塩は、バナデート源と反応して不溶性金属(III)バナデートとなるあるいは場合によりホスフェート源と反応して不溶性金属(III)バナデート/ホスフェートとなるように、反応条件下で反応媒質に十分に可溶性でなければならないという以外は、さらにどのような制約も受けない。それは、ハロゲニド(例えば、塩化物および臭化物、特に塩化物)、硝酸塩、アルコキシド(アルコキシド単位当たり1〜4個の炭素原子を有する)、酢酸塩およびそれらの水和物から選択されるのが好ましい。希土類金属は塩化物水和物または硝酸塩水和物としてしばしば用いられる。ドープされる系では、しばしば金属(III)塩の混合物が用いられ、それらのモル比は生成物中で達成されるホスト格子金属/ドーピング物質のモル比に対応する。
【0067】
バナデート源またはバナデートおよびホスフェート源との反応に化学量論的に必要な量に基づいてモル過剰の金属(III)塩、すなわち、金属源を用いることが可能である。このモル過剰は例えば、少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも20%である。得られる生成物の分散性はそれによって促進される。さらに、過剰の金属(III)塩を用いることは、粒子サイズをより小さくするのに寄与する。過剰すぎると、経済的に得策ではなく、1つの上限は約100%、特に50%である。
【0068】
しかしながら、経済的な観点から、バナデート源またはバナデートおよびホスフェート源との反応にほぼ化学量論的に必要な量で金属(III)塩、すなわち、金属源を用いることが好ましい。分散性または粒子サイズの点で考えられる利点は、高価な金属(III)塩の損失を埋め合わせるように思えない。
【0069】
反応媒質のpH値は4.0〜7.0が好ましい。必要ならば、対応するようにpH値を調節するために、少量の酸または塩基を加える。
【0070】
本発明の合成では、非常に高い収率(85〜100%)で金属(III)バナデートが得られ、さらに望ましい狭い粒子サイズ分布を有する。
【0071】
意外なことに、高圧下(および好ましくはオートクレーブのような閉鎖系中)でのドープされたまたはドープされていないバナデートまたはバナデート/ホスフェートの合成を実施することは、その合成はかなり簡略化されているものの、オートクレーブ処理工程を含む第1の態様により得られる粒子と少なくとも同じである好ましい性質を有する粒子となることが見出された。合計の合成時間は本方法の第2の態様によって短くなるので、反応媒質、特に溶媒の熱分解(着色副生成物を伴う)はより少なく、このことは、白色バナデートまたはバナデート/ホスフェート粉末の形成に有利であり、それによって量子収量も増加する。
【0072】
反応は不活性物質でできた圧力容器(オートクレーブ)、例えばテフロン(登録商標)のようなPTFEで被覆された鋼オートクレーブ中で行うのが好ましい。
【0073】
II. 得られる粒子のいくつかの性質およびそれらの表面変性
本発明によって得られる金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェートは、反応媒質中で用いられる水性媒質、ジオールに、および低級アルコール、例えばメタノールまたはエタノールによく分散しうる。これは、反応媒質中で用いられるポリオールが粒子の表面に結合し、そして第2のヒドロキシ基により粒子を親水性にするという事実に起因する。粒子が対応する大きさ(<30nm)であるならば、安定で透明なまたは場合によりまた乳白光を発する分散液が、高濃度でも得られる。
【0074】
本発明による金属バナデートまたはバナデート/ホスフェートを別の有機媒質、とくに非プロトン有機溶媒、例えば塩化メチレン、クロロホルム、トルエンまたはキシレンに分散するのが望ましいならば、合成または後に続く任意のオートクレーブ処理工程の生成物は表面処理される。このためには、ナノ粒子を、有利には高い温度、例えば100〜240℃、特に120〜200℃で、ナノ粒子表面および疎水性分子部分に結合する極性官能基を有する有機溶媒で処理する。この溶媒の炭素原子数の合計は、好ましくは4〜40、より好ましくは6〜20、特に好ましくは8〜16である。官能基は、例えば、ヒドロキシ、カルボン酸(エステル)、アミン、リン酸(エステル)、ホスホン酸(エステル)、ホスフィン酸(エステル)、ホスファン、酸化ホスファン、硫酸(エステル)、スルホン酸(エステル)、チオールまたはスルフィドから選択される。官能基は複数の疎水性基に結合することもできる。疎水性基は、好ましくは、炭化水素残基、例えば脂肪族、芳香族もしくは脂肪族−芳香族残基、例えばアルキル、フェニルまたはベンジルまたはメチル−フェニルである。好ましい例は、6〜20個の炭素原子を有するモノアルキルアミン、例えばドデシルアミン、あるいはトリアルキルホスフェート、例えばトリブチルホスフェート(TBP)またはトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート(TEHP)である。
【0075】
この表面変性の後、本発明の粒子は一般的な有機溶媒に高濃度で分散することができる。この性質はポリマー媒質へのナノ粒子の導入にも利用することができ、ポリマーは適したナノ粒子分散液に溶解され、その後、分散溶媒を蒸発させる。
【0076】
従って、本発明の方法では、ナノ粒子金属(III)バナデートまたはバナデート/ホスフェートが高収率で得られ、これらはいずれも狭い粒子サイズ分布に特徴づけられる。直接合成生成物は、それ以上精製およびサイズ選別工程を行うことなく、適した媒質に組み込むことができる。本発明による金属バナデートまたはバナデート/ホスフェートは水、ジオールおよび低級アルコールに高濃度で分散することができ、そして対応する表面変性後は他の有機溶媒、特に有機非プロトン溶媒、例えばトルエン、キシレン、クロロホルムまたは塩化メチレンにも分散することができる。
【0077】
金属(III)バナデート/ホスフェートの粒子サイズが対応する合成条件下で得られるバナデートと比較していくらか小さいことも有利である。なぜなら、透明分散液がより容易に得られ、そしてすでに低い粒子が分散液から堆積する傾向がさらに減じるというからである。従って、金属(III)ホスフェート/バナデート混合結晶は、どのような分散助剤または特別な分散工程もなしで、約25重量%までの濃度で容易に分散することができることが分かった。この分散液は極めて安定であり、数週間後でも粒子の堆積は見られない。
【0078】
本発明の方法では、特に、第2の方法の態様に従ってまたはオートクレーブ処理工程を続けて行う第1の態様に沿って製造されるならば、ドープされたルミネッセンス金属バナデートまたはバナデート/ホスフェートについて、良好なルミネッセンス特性が得られる。本発明の方法では、Eu+3ドープされた希土類バナデートまたはバナデート/ホスフェートナノ粒子をビスマスでさらに共ドーピングすることが可能であり、これによって紫外線−A輻射線(λ=320〜400nm)で粒子の励起が得られる。ビスマスおよび/またはユーロピウムでドープされたバナデートまたはバナデート/ホスフェートでは、ドーピング度は0.1〜25モル%が好ましく、最もすぐれたルミネッセンス特性は約5モル%のドーピング度で得られる。
【0079】
このようにして製造されたナノ粒子は工業的に様々な用途、例えば、透明な印刷染料、インク、支持体(金属、ポリマー材料等)の被覆、ポリマー材料等に用いることができ、これらは紫外光で励起されるとルミネッセンスを示す。このことは、例えば、書類および銀行券のセキュリティマーキング用に関心がもたれている。ルミネッセンスバナデートまたはバナデート/ホスフェート、特にビスマスおよび/またはユーロピウムでドープされたバナジン酸またはバナジン酸/リン酸ガドリニウムまたはイットリウムの別の応用分野は、テレビスクリーン上の、陰極線管および蛍光灯中の着色ピクセル製造である。さらに、上記のバナデートまたはバナデート/ホスフェートは、偏光材、レーザー材料、シンチレーション物質として用いることができ、あるいはガドリニウム化合物はNMR造影剤として用いることができる。ここで、ドープされたバナジン酸またはバナジン酸/リン酸ガドリニウムは、一方でin vivoにおいてコントラスト材料として用いられるが、それらのルミネッセンス特性によりin vitroにおいても用いることができるので、特に関心がもたれているものである。本発明のナノ粒子は表面積が広いという観点から触媒として用いられることも考えられる。
【0080】
次の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。
【0081】
III. 実施例
【実施例1】
【0082】
YVO:Euナノ粒子の合成
1.44gのYCl・6HO(4.75ミリモル)および92mgのEuCl・6HO(0.25ミリモル)を、40mlのエチレングリコールに約40℃で溶解する。662mgのNaVO(3.6ミリモル)を2mlの水に溶解し、これに18mlのエチレングリコールを混合し、得られた混合物を(Y、Eu)Cl溶液に室温で攪拌しながら加える。添加の間に、溶液は短時間濁るが、すぐに透明な黄色になる。
【0083】
その後、60mlの水を加え、水を蒸留で除去しながら、溶液を約120℃に加熱する。冷却後、わずかに乳白光を発する溶液を同部の水で希釈し(すなわち、2倍の体積にし)、オートクレーブ中で200℃にて2時間加熱する。YVO:Euナノ粒子をアセトンで冷却無色懸濁液から沈殿させ、沈殿を遠心分離し、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥する(収率:85〜90%)。得られる粒子は20%の標準偏差で約8.5nmの平均粒子直径を有していた。粒子サイズおよび標準偏差はベックマン−コールターのオプティマXL−Iを用いて超遠心分離分析により測定した。
【0084】
このようにして得られた粒子の量子収量は10.9%であった。これは、25℃の水中のローダミン6Gに対して、Jobin Yvonのフルオロログ(Fluororog)蛍光分光計でλexc=274nmの励起波長で測定した。
[比較例1] HuignardによるYVO:Euナノ粒子の合成
YVO:Euコロイドの合成は、A. Huignard等, Chem. Mater. 2002, 14, pp.2264-2269の指示に従い、硝酸イットリウムおよびユーロピウム、クエン酸ナトリウム並びにNaVOの水中での反応によって行った。硝酸イットリウムおよび硝酸ユーロピウムの比は、5、10、15および20モル%のEuのドーピング度と一致した。
【0085】
5〜20モル%でドープされたYVO:Euコロイドは、実施例1に示した通りの測定条件(λexc=270nm)下で6.5〜7.7%の量子収量を示した。
【0086】
量子収量を高めるために実施例1で行った通りの、YVO:Euコロイドのオートクレーブ処理は可能でなかった。得られた粒子は褐色であり、粗い結晶として沈殿した。これは粒子を安定化するクエン酸塩シェルの熱による破壊に起因するといえる。
【0087】
この比較実施例から分かるように、熱的に不安定な金属配位化合物、例えばクエン酸塩のようなキレート化剤を用いることは、本発明によると好ましくない。
【実施例2】
【0088】
YVO:Bi、Euナノ粒子の合成
1.36gのYCl・6HO(4.5ミリモル)、92mgのEuCl・6HO(0.25ミリモル)および83mgのBiCl・HO(0.25ミリモル)を、40mlのエチレングリコールに約40℃で溶解する。662mgのNaVO(3.6ミリモル)を2mlの水に溶解し、これに18mlのエチレングリコールを混合し、これを(Y、Eu、Bi)Cl溶液に室温で攪拌しながら加える。添加の間に、溶液は短時間濁るが、すぐに透明で黄色になる。
【0089】
その後、60mlの水を加え、水を蒸留で除去しながら、その溶液を約120℃に加熱する。冷却後、わずかに乳白光を発する溶液を同部の水で希釈し(すなわち、2倍の体積にし)、オートクレーブ中で200℃にて2時間加熱する。YVO:Bi、Euナノ粒子をアセトンで冷却無色懸濁液から沈殿させ、沈殿を遠心分離し、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥する(収率:85〜90%)。
[比較例2] HuignardによるYVO:Bi、Euナノ粒子の合成
A. Huignard等, Chem. Mater. 2002, 14, pp.2264-2269の指示に従ってYVO:Bi、Euコロイドを製造することを試みた。このためには、硝酸イットリウム、ビスマスおよびユーロピウムを実施例2に示されたモル比で水に溶解した。この手順の間に溶液はすでに褐色になった。クエン酸ナトリウムを加えた後、ビスマス塩の沈殿が見られた。同様な結果は、硝酸ビスマスの代わりに塩化ビスマスを用いたときに得られた。ビスマス塩の溶解度の上昇は、エチレングリコールを加えることによってのみ得られた。しかしながら、その場合でも得られた粒子の分散性は満足なものではなかった。格子へのビスマスの組み込みが実質的に生じていなかったことが、蛍光スペクトルからさらに分かった。
【実施例3】
【0090】
GdVO:Bi、Euナノ粒子の合成
1.18gのGdCl・6HO(4.5ミリモル)、92mgのEuCl・6HO(0.25ミリモル)および83mgのBiCl・HO(0.25ミリモル)を、40mlのエチレングリコールに約40℃で溶解する。662mgのNaVO(3.6ミリモル)を2mlの水に溶解し、これに18mlのエチレングリコールを加え、これを(Gd、Eu、Bi)Cl溶液に室温で攪拌しながら加える。添加の間に、溶液は短時間濁るが、すぐに透明で黄色になる。
【0091】
その後、60mlの水を加え、水を蒸留で除去しながら、その溶液を約120℃に加熱する。冷却後、わずかに乳白光を発する溶液を同部の水で希釈し(すなわち、2倍の体積にし)、オートクレーブ中で200℃にて2時間加熱する。GdVO:Bi、Euナノ粒子をアセトンで冷却無色懸濁液から沈殿させ、沈殿を遠心分離し、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥する(収率:85〜90%)。
【0092】
このようにして得られた粒子の量子収量は,λexc=274nmの励起波長で10%またはλexc=320nmの励起波長で9%であった。これは、25℃のイソプロパノール中のローダミン6Gに対して、Jobin Yvonのフルオロログ蛍光分光計で測定した。
【実施例4】
【0093】
YV0.070.3:Bi、Eu(3%、7%)の合成
YCl・6HO(2.731g、9ミリモル)、BiCl・HO(100mg、0.3ミリモル)およびEuCl・6HO(257mg、0.7ミリモル)を、57mlのエチレングリコールに溶解した。第2のフラスコで、NaVO(1.283g、7ミリモル)およびKPO・HO(692mg、3ミリモル)を4モルのHOに溶解し、次にこれに43mlのエチレングリコールを加えた。得られた溶液を、激しく攪拌しながら、上記の金属塩溶液に室温で徐々に加える。その後、100mlの水を加え、得られた透明な黄色反応溶液をオートクレーブに移す。オートクレーブ処理(p=約15バール(1,500kPa))は200℃で2時間行う。冷却後、300mlのアセトンを懸濁液に加え、得られた沈殿を遠心分離し、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥する。収量:2.037g(理論値の99%)。
【実施例5】
【0094】
YV0.070.3:Bi、Dy(3%、0.5%)の合成
YCl・6HO(2.927g、9.65ミリモル)、BiCl・HO(102mg、0.3ミリモル)およびDyCl・6HO(18mg、0.05ミリモル)を、57mlのエチレングリコールに溶解した。第2のフラスコで、NaVO(1.283g、7ミリモル)およびKPO・HO(692mg、3ミリモル)を4モルのHOに溶解し、次にこれに43mlのエチレングリコールを加えた。得られた溶液を、激しく攪拌しながら、上記の金属塩溶液に室温で徐々に加える。その後、100mlの水を加え、得られた透明な黄色反応溶液をオートクレーブに移す。オートクレーブ処理(p=約15バール(1,500kPa))は200℃で2時間行う。冷却後、300mlのアセトンを懸濁液に加え、得られた沈殿を遠心分離し、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥する。収量:1.891g(理論値の94%)。
【実施例6】
【0095】
GdVO:Eu(5%)の合成
GdCl・6HO(108.76g、486.4ミリモル)およびEuCl・6HO(9.38g、25.6ミリモル)を、2.16Lのエチレングリコールに溶解した。第2のフラスコで、NaVO(94.16g、512ミリモル)を270mlのHOに溶解し、次にこれに1.1Lのエチレングリコールを加えた。得られた溶液を、激しく攪拌しながら、上記の金属塩溶液に室温で徐々に加える。その後、2Lの水を加え、得られた透明な黄色反応溶液を10Lオートクレーブに移す。オートクレーブ処理(p=約7バール(約700kPa))は165℃で4時間行う。冷却後、6Lのアセトンを懸濁液に加え、得られた沈殿を遠心分離し、アセトンで2回洗浄し、真空乾燥する。収量:135.59g(定量的)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属(III)バナデートを含むナノ粒子の製造方法であって、反応媒質に可溶性または分散性の反応性バナデート源と、反応媒質に可溶性または分散性の反応性金属(III)塩との、反応媒質における加熱下での反応を含み、反応媒質が水および少なくとも1種のポリオールを20/80〜90/10の体積比で含有することを特徴とする上記の方法。
【請求項2】
金属(III)バナデートを含むナノ粒子が、場合によりドープされている金属(III)バナデートナノ粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属(III)バナデートを含むナノ粒子が場合によりドープされている金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶ナノ粒子であり、反応媒質が、反応媒質に可溶性または分散性の反応性ホスフェート源をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標準気圧で行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
温度が120〜180℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ナノ粒子金属(III)バナデートがその後オートクレーブ処理される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
オートクレーブ処理が160〜240℃の温度および15〜35バールの圧力で30分〜3時間行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応が標準気圧(1バール)より上で、好ましくは閉鎖系で行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
温度が180〜200℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリオールがグリセロール並びにモノ−およびポリエチレングリコールから選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応媒質が水およびポリオールを40/60〜60/40の体積比で含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
反応時間が30分〜3時間、好ましくは1〜2時間である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
合成と請求項6または7で定義される任意のその後のオートクレーブ処理との後に得られるナノ粒子が、それらが当該ナノ粒子の表面および疎水性分子部分に結合する極性官能基を有する有機化合物で処理される表面変性を受ける、請求項1〜5または8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項で定義される方法により得られうる金属(III)バナデートを含むナノ粒子。
【請求項15】
場合によりドープされている金属(III)バナデートである、請求項14に記載のナノ粒子。
【請求項16】
場合によりドープされている金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶である、請求項14に記載のナノ粒子。
【請求項17】
次式
Me(III)V1−x
(式中、Me(III)は少なくとも1種のドーピング金属原子によって一部置き換えられていてもよい3価の金属原子であり、0<x<1である)の請求項16に記載のナノ粒子。
【請求項18】
xが0.3〜0.5である、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項19】
30nm未満の直径を有し、その平均値からの標準偏差が30%未満、特に25%未満である、請求項14〜18のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項20】
金属が、主な13族の元素、ビスマスまたは希土類金属から選択され、それが、ランタニド(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbまたはLu)、インジウムおよびビスマスから選択される1種または複数のルミネッセンスをもたらす金属でドープされることができる、請求項14〜19のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項21】
BiVO;YVO:Eu;YVO:Bi;YVO:Eu、Bi;Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたYVO;GdVO:Eu;GdVO:Bi;GdVO:Eu、Bi;GdVO:Tm、Ho;GdVO:Nd;または(Y0.82Al0.07La0.06)VO:Eu0.05から選択される、請求項15に記載のナノ粒子。
【請求項22】
BiV1−x;YV1−x:Eu;YV1−x:Bi;YV1−x:Eu、Bi;Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたYV1−x;GdV1−x:Eu;GdV1−x:Bi;GdV1−x:Eu、Bi;GdV1−x:Tm、Ho;GdV1−x:Nd;または(Y0.82Al0.07La0.06)V1−x:Eu0.05から選択され、ここで、0<x<1、より好ましくは0.2〜0.6、特に0.3〜0.5である、請求項16に記載のナノ粒子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属(III)バナデートを含み直径が30nm未満のナノ粒子の製造方法であって、反応媒質に可溶性または分散性の反応性バナデート源と、反応媒質に可溶性または分散性の反応性金属(III)塩との、反応媒質における加熱下での反応を含み、反応媒質が水および少なくとも1種のポリオールを20/80〜90/10の体積比で含有することを特徴とする上記の方法。
【請求項2】
金属(III)バナデートを含むナノ粒子が、場合によりドープされている金属(III)バナデートナノ粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属(III)バナデートを含むナノ粒子が場合によりドープされている金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶ナノ粒子であり、反応媒質が、反応媒質に可溶性または分散性の反応性ホスフェート源をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
標準気圧で行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
温度が120〜180℃である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ナノ粒子金属(III)バナデートがその後オートクレーブ処理される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
オートクレーブ処理が160〜240℃の温度および15〜35バールの圧力で30分〜3時間行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
反応が標準気圧(1バール)より上で、好ましくは閉鎖系で行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
温度が180〜200℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ポリオールがグリセロール並びにモノ−およびポリエチレングリコールから選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応媒質が水およびポリオールを40/60〜60/40の体積比で含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
反応時間が30分〜3時間、好ましくは1〜2時間である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項で定義される方法により得られうる金属(III)バナデートを含むナノ粒子であって、ポリオールが当該ナノ粒子の表面に結合しているナノ粒子。
【請求項14】
場合によりドープされている金属(III)バナデートである請求項13に記載のナノ粒子。
【請求項15】
場合によりドープされていてる金属(III)バナデート/ホスフェート混合結晶である、請求項13に記載のナノ粒子。
【請求項16】
次式
Me(III)V1−x
(式中、Me(III)は少なくとも1種のドーピング金属原子によって一部置き換えられていてもよい3価の金属原子であり、0<x<1である)の、請求項15に記載のナノ粒子。
【請求項17】
xが0.3〜0.5である、請求項16に記載のナノ粒子。
【請求項18】
30nm未満の直径を有し、その平均値からの標準偏差が30%未満、特に25%未満である、請求項13〜17のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項19】
金属が主な13族の元素、ビスマスまたは希土類金属から選択され、それが、ランタニド(Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbまたはLu)、インジウムおよびビスマスから選択される1種または複数のルミネッセンスをもたらす金属でドープされることができる、請求項13〜18のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項20】
BiVO;YVO:Eu;YVO:Bi;YVO:Eu、Bi;Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたYVO;GdVO:Eu;GdVO:Bi;GdVO:Eu、Bi;GdVO:Tm、Ho;GdVO:Nd;または(Y0.82Al0.07La0.06)VO:Eu0.05から選択される、請求項14に記載のナノ粒子。
【請求項21】
BiV1−x;YV1−x:Eu;YV1−x:Bi;YV1−x:Eu、Bi;Tm、Tb、Ho、Er、Dy、SmまたはInでドープされたYV1−x;GdV1−x:Eu;GdV1−x:Bi;GdV1−x:Eu、Bi;GdV1−x:Tm、Ho;GdV1−x:Nd;または(Y0.82Al0.07La0.06)V1−x:Eu0.05から選択され、ここで、0<x<1、より好ましくは0.2〜0.6、特に0.3〜0.5である、請求項15に記載のナノ粒子。
【請求項22】
ナノ粒子の表面および疎水性分子部分に結合する極性官能基を有する有機化合物での処理による表面変性のための、請求項13〜21のいずれか1項に記載のナノ粒子の使用。

【公表番号】特表2006−524623(P2006−524623A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505304(P2006−505304)
【出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004488
【国際公開番号】WO2004/096714
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(504103548)ナノソリューションズ・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】