説明

金属/繊維強化樹脂複合体およびその製造方法

【課題】 金属板と繊維強化樹脂層とからなる金属/繊維強化樹脂複合材に関し、特に金属板と繊維強化樹脂層との密着性、エネルギー吸収性(耐衝撃性)に優れ、しかも過酷な冷熱試験において剥れやクラック発生等の問題のない金属/繊維強化樹脂複合体を得る。
【解決手段】 シクロオレフィンポリマーの架橋体および炭素繊維を含有する繊維強化樹脂層と、金属板とが一体化してなる金属/繊維強化樹脂複合体を用いる。該金属/繊維強化樹脂複合体は、シクロオレフィンポリマー、架橋剤及び炭素繊維を含んでなる架橋可能なプリプレグを金属板に積層した後に架橋させて製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板と繊維強化樹脂層からなる金属/繊維強化樹脂複合体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、剛直な金属板と、シクロオレフィンポリマー、架橋剤及び炭素繊維を含んでなる繊維強化樹脂層とからなり、金属板と繊維強化樹脂層との密着性、耐衝撃性に優れ、且つ過酷な冷熱試験後にも金属板と繊維強化樹脂層との剥離及びクラックの発生のない金属/繊維強化樹脂複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と繊維強化樹脂とを積層一体化した複合材料は、金属が有する優れた耐衝撃性と繊維強化樹脂が有する優れた軽量性、高力学特性の両方を発現し得る材料として知られている。とくに、軽量性、高強度特性、高エネルギー吸収性が求められる自動車や航空機等の構造体においては、スチール、アルミニウム合金、チタン合金などの金属と炭素繊維強化樹脂とを積層一体化した複合材料が使用されてきている。例えば、金属/繊維強化樹脂複合体から構成されるボンネットは、軽量で高剛性を有すると共に、衝撃時に高いエネルギー吸収特性が発揮できることが知られている。また、車体フレームなどを補強する目的で、金属フレームに繊維強化樹脂を接着一体化したり、あるいは、繊維強化樹脂からなる部品をボルトなどで機械接合するために、金属インサートを一体化するなどの目的により、繊維強化樹脂と金属を一体化することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ボンネット、ルーフ、トランクリッドなどの自動車用水平パネルに好適なアルミニウム合金と繊維強化樹脂とからなる複合材料が提案されている。また、特許文献2には、自動車用のドアパネル、フェンダー、リアハッチパネル等に好適なアルミニウム合金を繊維強化樹脂で補強した複合材料が提案されている。しかしながら、これら自動車などの構造体で使用されるアルミニウム合金等は剛性が高いため、過酷な条件下の、例えば、高温、低温の繰り返しの中で曲げ変形が生じ、繊維強化樹脂層との接着面にかかるせん断応力高くなり金属層と繊維強化樹脂層とが剥れてしまう等の問題が生じている。
【0004】
かかる問題の改善としては、例えば、特許文献3には、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂として繊維強化樹脂層と金属層をエポキシ樹脂、平均粒径3〜10μmの熱可塑性樹脂粒子及びイミダゾールシラン化合物とからなる中間層で接着してなる金属/繊維強化樹脂複合材料が開示されている。しかしながら、本方法では、金属と繊維強化樹脂層との引き剥がし強度は多少向上するが、過酷な温度条件に耐えうるかの冷熱試験等により、金属と繊維強化樹脂層とで剥れ、あるいは繊維強化樹脂層にクラックが発生する等の問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−191962号公報
【特許文献2】特開2001−253371号公報
【特許文献3】特開2006−297927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、金属板と繊維強化樹脂層とからなる金属/繊維強化樹脂複合材に関し、特に金属板と繊維強化樹脂層との密着性、エネルギー吸収性(耐衝撃性)に優れ、しかも過酷な冷熱試験において剥れやクラック発生等の問題のない金属/繊維強化樹脂複合体を得ることを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、繊維強化樹脂層の強化繊維として炭素繊維を用い、マトリックス樹脂をシクロオレフィンポリマーの架橋体とすることで、あるいはシクロオレフィンポリマー、架橋剤及び炭素繊維を含んでなる架橋可能なプリプレグを剛直な金属板に積層し、次いで硬化させることにより密着性と耐衝撃性に優れ、しかも過酷な冷熱試験において金属板と繊維強化樹脂層界面での剥離のない、また繊維強化樹脂層でのクラック発生のない金属/繊維強化樹脂複合体が得られることを見出した。また、金属板表面をシランカップリング処理することにより、特に、架橋剤と反応する反応性基を有するシランカップリング剤で処理することにより金属/繊維強化樹脂複合体の冷熱試験耐性が格段に向上することを見出した。さらに、プリプレグが、シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤とを含んでなる重合性組成物を炭素繊維存在下で重合することにより容易に製造でき、しかも得られるプリプレグを金属板に積層して硬化させることにより、密着性、耐衝撃性、冷熱試験耐性等の特性が格段に優れる金属/繊維強化樹脂複合体が得られることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(11)が提供される。
(1) シクロオレフィンポリマーの架橋体および炭素繊維を含有する繊維強化樹脂層と、金属板とが一体化してなる金属/繊維強化樹脂複合体。
(2) 金属板が、鉄、アルミニウムもしくはチタン、またはそれらを含む合金からなるものである(1)記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
(3) 繊維強化樹脂層が、充填剤を含むものである(1)または(2)に記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
(4) 金属板と繊維強化樹脂層との剥離強度が10N・mm/mm以上である(1)乃至(3)のいずれかに記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
(5) 乗物用部材である(1)乃至(4)のいずれかに記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
(6) シクロオレフィンポリマー、架橋剤及び炭素繊維を含んでなる架橋可能なプリプレグを金属板に積層した後に架橋させることを特徴とする金属/繊維強化樹脂複合体の製造方法。
(7) 架橋可能なプリプレグが、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒及び架橋剤を含有する重合性組成物を炭素繊維存在下に重合してなるものである(6)記載の製造方法。
(8) 架橋剤がラジカル発生剤である(6)または(7)記載の製造方法。
(9) 前記重合を、前記ラジカル発生剤の1分半減期温度以下の温度で行う(8)記載の製造方法。
(10) 金属板表面がシランカップリング剤で処理されたものである(6)乃至(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11) シランカップリング剤が、架橋剤と反応する反応性基を有するものである(10)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属板と繊維強化樹脂層との密着性、エネルギー吸収性(耐衝撃性)、冷熱試験耐性に優れる金属/繊維強化樹脂複合体を容易に得ることができる。また、本発明の金属/繊維強化樹脂複合体は、金属層と繊維強化樹脂層との密着性、耐衝撃性、及び冷熱試験耐性等に優れるので、自動車や航空機などの乗物用部材、及びスポーツ、土木、建築などの分野において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の金属/繊維強化樹脂複合体は、繊維強化樹脂層と金属板とが一体化され、特に、繊維強化樹脂層の強化繊維が炭素繊維で、マトリックス樹脂がシクロオレフィンポリマーの架橋体であるものを用いることを特徴とする。
【0011】
(シクロオレフィンポリマー)
本発明においては、マトリックス樹脂としてシクロオレフィンポリマーの架橋体を用いることを特徴とする。シクロオレフィンポリマーの架橋体は、シクロオレフィンポリマーを架橋してなるものであれば格別な限定はない。シクロオレフィンポリマーとしては、公知のシクロオレフィンモノマーの重合体を格別な限定がなく用いることができる。具体的には、シクロオレフィンモノマーの開環重合体、シクロオレフィンモノマーの付加重合体、シクロオレフィンモノマーと鎖状オレフィンとの付加共重合体、およびこれらの水素化物が挙げられる。
【0012】
シクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマーおよび単環シクロオレフィンなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーとしては、格別な限定はないが、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの 七環体、及びこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)、並びにエポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基などの極性基を有する誘導体などが挙げられる。
【0013】
単環シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
シクロオレフィンポリマーの分子量は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0015】
本発明に使用されるシクロオレフィンポリマーの架橋体は、上記シクロオレフィンポリマーを架橋したものであり、溶媒に溶解しないことで定義される。一方、未架橋のシクロオレフィンポリマーは、通常は溶媒に溶解する。かかる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素のなどの溶媒から適宜選択される。架橋の方法はラジカル架橋やイオン架橋などの公知の方法をいずれも採用することができ、限定されないが、ラジカル架橋が好ましい。
【0016】
(炭素繊維)
本発明では強化繊維として炭素繊維を用いることを特徴とする。炭素繊維の種類としては、格別な限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種の従来公知の方法で製造される炭素繊維が使用でき、中でも、アクリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)が、機械強度と耐衝撃性等の特性を高度に付与でき好適である。
【0017】
本発明に使用される炭素繊維の強度特性は、格別な限定はなく使用目的に応じて適宜選択される。引張強度としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常0.5〜50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びとしては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。炭素繊維の強度特性がこれらの範囲にあるときに、金属層との密着性、機械強度、耐衝撃性等の特性が高度にバランスされ好適である。
【0018】
本発明に使用される炭素繊維の断面形状は、格別な限定はなく使用目的に応じて適宜選択すればよく、例えば、扁平、円形いずれの形状でもよい。例えば、断面形状が円形であると、樹脂を含浸させる際、フィラメントの再配列が起こりやすくなり、繊維間への樹脂の浸み込みが容易になり、また、繊維束の厚みを薄くすることが可能となるため、ドレープ製に優れたプリプレグを得やすい等の利点がある。
【0019】
本発明に使用される炭素繊維の長さは、格別な限定無く使用目的に応じて適宜選択され、短繊維、長繊維のいずれをも用いることができるが、より高い機械強度と強靭性を得たい場合は、繊維の長さが1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは3cm以上、もっとも好ましくは連続繊維とするのがよい。
【0020】
本発明に使用される炭素繊維の形態は、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。これらの中でも、強靭性と耐衝撃性がより高い水準にある繊維強化樹脂を得るためには、繊維が織物、一方向ストランド、ロービング等連続繊維の形態であるのが良い。織物形態としては、従来公知のものが利用でき、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物などの繊維が交錯する織り構造の全てが利用できる。また、織物形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物、3次元織物等も利用できる。
【0021】
本発明に使用される炭素繊維は、織物等で使用する場合は繊維束糸条として利用する。その場合の繊維束糸条1本中のフィラメント数は、格別な限定はないが、1,000〜100,000本、好ましくは2,000〜20,000本、より好ましくは5,000〜15,000の範囲である。
【0022】
これらの炭素繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、繊維強化樹脂層中の炭素繊維含有量が、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲になるように選択される。
【0023】
(繊維強化樹脂層)
本発明に使用される繊維強化樹脂層は、上記強化繊維としての炭素繊維と、マトリックス樹脂としてのシクロオレフィンポリマー架橋体とを含有し、マトリックス樹脂は必要に応じてその他の配合剤が添加されていてもよい。
【0024】
その他の配合剤としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、エラストマー材料、充填剤、老化防止剤、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などを挙げることができる。
【0025】
エラストマー材料としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらのエラストマー材料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その配合量は、シクロオレフィンポリマーの架橋体100重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部の範囲である。エラストマー材料がこの範囲であるときに得られる金属/繊維強化樹脂複合体の靭性を高度に向上させることができ好適である。
【0026】
充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機系充填剤や有機系充填剤のいずれも用いることができが、好適には無機系充填剤である。無機系充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。有機系充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、通常1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。充填剤がこの範囲にあるときに金属/繊維強化樹脂複合体の機械強度、耐熱性、耐薬品性及び冷熱試験耐性等の特性を格段に向上させることができ好適である。
【0027】
老化防止剤としては、一般的に樹脂工業で使用されるものであれば格別な限定なく使うことができるが、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を用いることにより、架橋反応を阻害しないで、得られる繊維強化樹脂層の耐酸化劣化性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。
【0028】
フェノール系老化防止剤としては、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)]、6−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
【0029】
アミン系老化防止剤としては、例えば、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−3,5−ジ−tブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸−ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などが挙げられる。
【0030】
リン系老化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、などが挙げられる。
【0031】
イオウ系老化防止剤は、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどを挙げられる。
【0032】
これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンポリマーの架橋体100重量部に対して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0033】
難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の添加剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0034】
本発明に使用される繊維強化樹脂層の厚みは、使用目的の応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmの範囲である。この範囲であるときに、金属層との密着性、機械強度、靭性の特性が高度にバランスされ好適である。
【0035】
(金属板)
本発明に使用される金属板の材料としては、鉄、ステンレス鋼、および炭素鋼などの鉄またはその合金;アルミニウムまたはその合金;チタンまたはその合金;マグネシウム合金;その他種々の金属及び合金;が用いられる。これらの中でも、鉄、アルミニウムもしくはチタン、またはそれらを含む合金が好ましく、ステンレス鋼、アルミニウム合金およびチタン合金がより好ましく、特にアルミニウム合金やチタン合金が軽量で高強度のため好適である。
【0036】
本発明に使用される金属板の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常0.01〜10mm、好ましくは0.05〜5mm、より好ましくは0.1〜2mmの範囲である。金属板の厚みが過度に薄いと金属の負担できる過重が小さくなりすぎるため好ましくなく、逆に、過度に厚いと曲げ変形時に繊維強化樹脂接着面にかかるせん断応力が高くなりすぎてせん断破壊する懸念がでてくるため好ましくない。
【0037】
本発明の金属/繊維強化樹脂複合体は、上記繊維強化樹脂層と金属板が一体化されてなり、その製造方法について格別な限定はないが、例えば、シクロオレフィンポリマー、架橋剤及び炭素繊維を含んでなる架橋可能なプリプレグを上記特定な金属板に積層した後に架橋させる方法が、容易に製造することができるため好適である。
【0038】
(架橋可能なプリプレグ)
本発明に使用される架橋可能なプリプレグは、前記のシクロオレフィンポリマー、架橋剤及び前記の炭素繊維を必須成分として、必要に応じてその他の配合剤を添加することができる。
【0039】
本発明に使用される架橋剤としては、シクロオレフィンポリマーを架橋できるものであれば格別な制限はないが、ラジカル発生剤が好ましい。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
【0040】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、後述する重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
【0041】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0042】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0043】
本発明に使用される架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分半減期温度は、架橋の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0044】
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンポリマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0045】
本発明に使用される上記プリプレグの製造方法としては、格別な限定はなく、例えば、シクロオレフィンポリマーと架橋剤とを溶媒に溶解して低粘度化し炭素繊維に含浸させた後に脱溶媒させるウェット法、リリースペーパー上に架橋剤を含むシクロオレフィンポリマーをコーティングし、その上に炭素繊維を引き揃え、加熱溶解したシクロオレフィンポリマーをロールあるいはドクターブレード等で加圧含浸させ、その後、放冷するホットメルト法(ドライ法)などが挙げられるが、好適には、シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を含有する重合性組成物を炭素繊維存在下に重合する直接重合法である。直接重合法に用いられるシクロオレフィンモノマーおよび架橋剤は、前記と同様のものが用いられる。
【0046】
本発明に使用される重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーを重合できるものであれば格別な限定はないが、通常はメタセシス重合触媒が用いられる。メタセシス重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合できるものであり、通常遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるため、架橋可能なプリプレグの生産性に優れ、得られるプリプレグの、未反応のモノマーに由来する臭気が少なく作業性に優れる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能である。
【0047】
本発明においては、重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒を用いることが、得られる金属/繊維強化樹脂複合材料の外観、強度、靭性等の特性が高度にバランスされ好適である。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリンやイミダゾリジン構造が好ましく、かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0048】
好ましいルテニウム触媒の例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ環構造を有する化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0049】
これらの重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0050】
重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0051】
本発明に使用される重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を必須成分として、必要に応じて、重合調整剤、連鎖移動剤、重合反応遅延剤、架橋助剤、その他の配合剤を添加することができる。その他の配合剤としては、前記と同様のエラストマー材料、充填剤、老化防止剤、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などを挙げることができる。
【0052】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものであり、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤の使用量は、(重合触媒中の金属原子:重合調整剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0053】
連鎖移動剤としては、通常は、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。その具体例としては、例えば、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ジビニルベンゼン、スチルベンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸1−メチル−3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどが挙げられる。
【0054】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その添加量は、シクロオレフィンモノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。連鎖移動剤の添加量がこの範囲であるときに、重合反応率が高く、しかも架橋可能なプリプレグを効率よく得ることができる。連鎖移動剤の添加量が少なすぎると、重合と同時に架橋が進行し、架橋可能なプリプレグとならない場合がある。逆に添加量が多すぎると、架橋が困難になる場合がある。
【0055】
本発明に用いる重合性組成物は、重合反応遅延剤を含有していると、その粘度増加を抑制でき、容易に強化繊維に均一に重合性組成物を含浸できるので、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。
【0056】
これら重合反応遅延剤の中でも、室温以下での重合反応の進行を抑制する効果が大きいので、ホスフィン化合物が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィンおよびビニルジフェニルホスフィンがより好ましい。重合反応遅延剤の量は、(ルテニウム金属原子:重合反応遅延剤)のモル比で、通常、1:0.01〜1:100、好ましくは1:0.1〜1:10、より好ましくは1:0.1〜1:5の範囲である。
【0057】
本発明においては、架橋助剤を配合すると、重合性組成物に多量の無機充填材等を配合した場合も強化繊維への含浸性に優れ、また、金属板との密着性も向上できるため好適である。
【0058】
本発明で使用される架橋助剤としては、一般的に用いられるものを格別な限定なく使用でき、例えば、炭素−炭素不飽和結合を2つ有する2官能性架橋助剤、炭素−炭素不飽和結合を3つ以上有する多官能架橋助剤などを挙げることができる。
【0059】
本発明に使用される架橋助剤の構造は、格別な限定はないが、対称性の高い構造を有する化合物であるときにシクロオレフィンモノマーを含む重合性組成物の炭素繊維への含浸性を高度に改善でき好適である。特に、架橋助剤が、炭化水素で、対称性の高い構造を有するものであるときに重合性組成物の炭素繊維への含浸性、及び硬化して得られる繊維強化樹脂層の機械的強度、強靭性及び耐熱性を高度に改善させ好適である。
【0060】
かかる架橋助剤の具体例としては、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンなどの2官能架橋助剤、トリイソプロペニルベンゼン、トリメタアリルイソシアネートなどの3官能架橋助剤等が挙げられる。中でも、トリイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジイソプロペニルベンゼン、o−ジイソプロペニルベンゼンが好ましく、m−ジイソプロペニルベンゼンがより好ましい。
【0061】
これらの架橋助剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋助剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部、最も好ましくは5〜15重量部である。
【0062】
本発明に使用される重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)をシクロオレフィンモノマと架橋剤に必要に応じてその他の添加剤を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0063】
本発明に使用される架橋可能なプリプレグは、前記重合性組成物を上記炭素繊維存在下に重合して容易に得ることができる。重合方法は特に限定されないが、塊状重合が好ましい。塊状重合により、種々の形状の繊維強化樹脂(プリプレグ)を得ることができる。ここで、「存在下に」とは、炭素繊維と重合性組成物とが接触する状態で重合を行うことをいう。具体的には、炭素繊維が織物である場合には、炭素繊維に重合性組成物を含浸し、次いで塊状重合を行う方法が挙げられる。炭素繊維への重合性組成物の含浸は、支持体上または型内で行うことが好ましい。
【0064】
重合性組成物の炭素繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により炭素繊維に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を炭素繊維に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによってシート状又はフィルム状のプリプレグが得られる。
【0065】
含浸を型内で行う場合は、型内に炭素繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込み、次いで重合を行う。この方法によれば、任意の形状のプリプレグを得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とするプリプレグの形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し、該型内で重合を行うことにより、シート状又はフィルム状のプリプレグを得ることができる。
【0066】
重合性組成物は従来のエポキシ樹脂等と比較して低粘度であり、炭素繊維に対する含浸性に優れるので、重合で得られる樹脂を炭素繊維材に均一に含浸させることができる。
【0067】
また、塊状重合を行う場合には、重合性組成物は反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないので、炭素繊維に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気やフクレ等も生じない。特に、炭素繊維は、その表面で重合反応を阻害することがなく、予備乾燥等が不要であるので、本発明の製造方法は生産性に優れる。さらに、重合で得られる樹脂は未反応のモノマーの含有量が少なく、臭気が少なく、また耐熱性が優れる。
【0068】
炭素繊維がチョップなどの短繊維である場合には、炭素繊維を重合性組成物に混合し、次いで塊状重合を行う方法が挙げられる。炭素繊維は、モノマー液と触媒液を混合する前にモノマー液及び/又は触媒液に添加してもよいし、モノマー液と触媒液とを混合した後に添加してもよい。塊状重合の方法としては、上記と同様に型内で塊状重合を行う方法が挙げられる。また、短繊維と長繊維からなる織物とを併用し、炭素繊維の短繊維を含む重合性組成物を、上記と同様に長繊維からなる織物に含浸させてから重合してもよい。
【0069】
上記いずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であり、また、前記架橋剤がラジカル発生剤を用いる場合は、通常ラジカル発生剤の1分半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。重合組成物をこの範囲温度に加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
【0070】
かくして得られる本発明に使用されるプリプレグの炭素繊維量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲である。
【0071】
本発明に使用されるプリプレグの厚みは、使用目的の応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmの範囲である。この範囲であるときに、積層する金属層形状への追従が容易になり、また機械強度やエネルギー吸収等の特性が充分に発揮され好適である。
【0072】
本発明に使用されるプリプレグの揮発成分量は、200℃×1時間で揮発される量で、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタ付きが発生し操作性が悪くなり、また、架橋後の繊維強化樹脂層にボイドが発生し機械強度が低下したり、ブリードや耐熱性の低下等の問題が生じるおそれがある。かかる揮発成分量が少なく且つボイドの少ないプリプレグは、前記の直接重合法によって容易に得ることができる。ウェット法では、揮発成分及びボイドともに多量に残存する場合がある。また、ホットメルト法でも多量のボイド量が残存する場合がある。
【0073】
(金属/繊維強化樹脂複合体)
本発明の金属/繊維強化樹脂複合体は、上記プリプレグを前記金属板に積層した後、架橋させて得ることができる。
【0074】
本発明に使用される金属板は、その表面をシランカップリング剤処理をすることが、冷熱試験耐性がより向上するため好適である。シランカップリング剤としては、工業的に一般に使用されているものを用いることができるが、好適には、前記架橋剤と反応する反応性基を有するシランカップリング剤が用いられる。架橋剤と反応する反応性基としては格別な限定はないが、ビニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基などが挙げられ、ビニル基が好適に用いられる。
【0075】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、アリルトリメトキシシラン、3−ブテニルトリメトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、N−β−(N−(ビニルベンジル)アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩、アリルトリクロロシラン、アリルメチルジクロロシラン、スチリルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシランなどのビニル基を有するシランカップリング剤;β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、δ−メタクリロキシブチルトリメトキシシランなどのメタクリロイル基を有するシランカップリング剤;γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリロイル基を有するシランカップリング剤;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのメルカプト基を有するシランカップリング剤;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するシランカップリング剤;などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0076】
架橋させる方法としては、常法に従えはよく、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、前記架橋剤の架橋の起こる温度であり、ラジカル発生剤を用いた場合は、該ラジカル発生剤の1分半減期温度以上、好ましくは1分半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分半減期温度より10℃以上高い温度である。通常は、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。プレス圧力としては、通常0.1〜20MPa、好ましくは1〜10MPa、より好ましくは2〜5MPaである。また、熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0077】
かくして得られる本発明の金属/繊維強化樹脂複合体の金属層と繊維強化層との剥離強度は、使用目的に応じて適宜選択されるが、各種構造部材に用いる場合には、通常10N・mm・mm以上である。
【0078】
本発明の金属/繊維強化樹脂複合体は、機械強度、エネルギー吸収性、引き剥がし強度及び冷熱試験耐性に優れるので、例えば、OAやAV機器、自動車や鉄道などの乗物用部材、航空機内装部品などをはじめとして、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に用いられる。具体的の用途としては、例えば、釣竿、ゴルフクラブ用シャフト、テニスラケット、スキーストック等のスポーツ用途;ディスプレイ、FDDキャリッジ、シャーシ、HDD、MO、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、ポータブルMD、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの電気・電子機器;電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、アイロン、ヘアドライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、掃除機、トイレタリー用品、レザーディスク、コンパクトディスク、照明、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサーなどのオフィスオートメーション機器および家電機器;アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ドライブシャフト、ホイール、ホイールカバー、フェンダー、ドアミラー、ルームミラー、フェシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、トランクフード、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スピラーおよび各種モジュールなどの自動車部品;ランディングギアポッド、ウイングレッド、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリングなどの航空機部品およびパネルなどの建材などが挙げられる。これらの中でも、自動車や航空機などの乗物用部材として特に好適である。
【実施例】
【0079】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0080】
実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1)揮発成分量:プリプレグの中央部分を一部切り取り、200℃×1時間で揮発する成分量をガスクロマトグラフィーで測定した。全重量中の揮発成分量で表示した。
【0081】
(2)密着性:ASTM D1781−76に従い、クライミングドラムピール法により金属層と繊維強化樹脂層との剥離強度を評価し、下記基準で判断した。
◎:10N・mm/mmの剥離トルクで剥離しない
×:10N・mm/mmの剥離トルクで剥離する
【0082】
(3)耐衝撃性:特開2005−161852号公報に記載される方法に準じて、金属/繊維強化樹脂複合体の試験片(100mm×100mm)に45gのゴルフボールを50m/秒の速度で20,000回衝突させた後、試験片を衝突箇所を中心に切断し、その断面を観察して下記基準で評価した。
◎:クラックが見られない
×:クラックが発生している
【0083】
(4)冷熱試験耐性:金属/繊維強化樹脂複合体の試験片(100mm×100mm)に対し−65℃、150℃の冷熱試験200サイクルを行なった後のサンプルを観察し、下記基準で判断した。
◎:金属層と繊維強化樹脂層の剥離及びクラックともに認められない
△:金属層と繊維強化樹脂層の剥離、あるいはクラックのいずれか一方が認められる
×:金属層と繊維強化樹脂層の剥離及びクラックの両方とも認められる
【0084】
実施例1
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、ジシクロペンタジエン(DCP)100部、連鎖移動剤としてアリルメタクリレート0.74部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部、架橋助剤としてm−ジイソプロペニルベンゼン20部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1.0部、充填材としてシリカ(アドマファイン社製,平均粒径0.5μm)100部を混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mlの割合で加えて撹拌して重合性組成物を調製した。
【0085】
次いで、得られた重合性組成物100部をポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75μm)の上に流延し、その上に一方向に配列させた炭素繊維(連続繊維平織、繊維目付量:190g/m、繊維引張強度4,900MPa、繊維引張弾性率:294GPa)を敷いて、さらにその上に上記重合性組成物80部を流延し、その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムを被せ、ローラーを用いて重合性組成物を炭素繊維に含浸させた。次いで、これを150℃に熱した加熱炉中で、1分間加熱し、重合性組成物を塊状重合させて、厚さ0.13mmのプリプレグを得た。プリプレグの炭素繊維割合は70重量%、、揮発成分は0.7%であった。
【0086】
このプリプレグを100mm角の大きさに切り出し、ポリエチレンナフタレートフィルムを剥離した後、それを6枚重ね、その6枚積層体の両表面にチタン合金板(Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn,厚さ0.13mm:プリプレグと接触する面を、#800のサンディングペーパーにより研磨した後アセトン洗浄を行ったもの)を積層後、熱プレスにて、3MPa、200℃で15分間加熱圧着し金属/繊維強化樹脂複合体を作製した。この金属/繊維強化樹脂複合体の密着性、耐衝撃性、及び冷熱試験耐性を評価し、その結果を表1に示した。
【0087】
実施例2
チタン合金板を、アセトン洗浄後、シランカップリング剤(p−スチリルトリメトキシシラン;信越化学工業社製、製品名KBM−1403)で処理したものを用いる以外は実施例1と同様に行い各特性を評価しその結果を表1に示した。
【0088】
実施例3
重合性組成物にポリブタジエン20部を添加した以外は実施例1と同様に行い各特性を評価しその結果を表1に示した。
【0089】
比較例1
エピコート1005F(2官能ビスフェノール型樹脂、エポキシ当量950〜1050)20部、エピコート828(2官能ビスフェノール型樹脂、エポキシ当量176〜180)80部、硬化剤としてジシアンジアミド5部、および硬化促進剤として1,1”−4(メチル−m−フェニレン)ビス(3,3”ジメチルウレア)4.2部からなるエポキシ樹脂組成物をリバースロールコーターを用いて離型紙上に薄く均一に塗布して樹脂フィルムを作製した。次にシート上に一方向に配列させた炭素繊維(繊維目付量:190g/m、繊維引張強度4,900MPa、繊維引張弾性率:294GPa)に該樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱、加圧することによりエポキシ樹脂組成物を含浸させ、一方向プリプレグを作製した。プリプレグの炭素繊維含有量は70重量%に調整した。
【0090】
次いで、作製したプリプレグを0°方向に6層積層後、その6層積層体の両表面にチタン合金板(Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn,厚さ0.13mm:プリプレグと接触する面を、#800のサンディングペーパーにより研磨した後アセトン洗浄を行ったもの)を積層し、熱プレス機を用いて温度150℃、成形圧力981KPaで2時間の圧縮成形を行った。脱型後、得られた金属/繊維強化樹脂複合体の各特性を評価しその結果を表1に示した。
【0091】
【表1】

【0092】
表1の結果から、本発明の金属/繊維強化樹脂複合体は、いずれも密着性、耐衝撃性、冷熱試験耐性のいずれにも優れることがわかる(実施例1〜3)。一方、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を用いたものは、密着性は高いものの、耐衝撃性および冷熱試験耐性に劣ることがわかった(比較例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンポリマーの架橋体および炭素繊維を含有する繊維強化樹脂層と、金属板とが一体化してなる金属/繊維強化樹脂複合体。
【請求項2】
金属板が、鉄、アルミニウムもしくはチタン、またはそれらを含む合金からなるものである請求項1記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
【請求項3】
繊維強化樹脂層が、充填剤を含むものである請求項1または2に記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
【請求項4】
金属板と繊維強化樹脂層との剥離強度が10N・mm/mm以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
【請求項5】
乗物用部材である請求項1乃至4のいずれかに記載の金属/繊維強化樹脂複合体。
【請求項6】
シクロオレフィンポリマー、架橋剤及び炭素繊維を含んでなる架橋可能なプリプレグを金属板に積層した後に架橋させることを特徴とする金属/繊維強化樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
架橋可能なプリプレグが、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒及び架橋剤を含有する重合性組成物を炭素繊維存在下に重合してなるものである請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
架橋剤がラジカル発生剤である請求項6または7記載の製造方法。
【請求項9】
前記重合を、前記ラジカル発生剤の1分半減期温度以下の温度で行う請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
金属板表面がシランカップリング剤で処理されたものである請求項6乃至9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
シランカップリング剤が、架橋剤と反応する反応性基を有するものである請求項10記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−37002(P2011−37002A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324032(P2007−324032)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】