説明

金管楽器用抜差管ストッパ

【課題】抜差管が抜け落ちることを回避でき、且つ、演奏性が損なわれることを抑制することができるようにすること。
【解決手段】ストッパ10は、トランペットTPの第1抜差管N1に設けられた第1トリガーT1と、第3抜差管N3に設けられた第3トリガーT3とに取り付け可能に設けられている。ストッパ10は、第1及び第3トリガーT1,T3にそれぞれ引っ掛け可能な一対の引掛部12,12と、これら引掛部12,12を接続する接続部14とを備えて当該接続部14及び引掛部12,12の少なくとも一方が弾性変形可能に設けられている。接続部14は、線状等の纏まり部を有する形状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランペットやコルネット等の抜差管により管体の長さを変化させる金管楽器用抜差管ストッパに係り、更に詳しくは、抜差管が抜け落ちることを防止することができる金管楽器用抜差管ストッパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金管楽器として一般的に普及しているトランペット(特許文献1参照)においては、図6に示される構造を備えている。同図ではトランペットTPの一部を示しており、当該トランペットTPは、図中左から右に並んで設けられた第1〜第3ピストンバルブB1〜B3と、これら第1〜第3ピストンバルブB1〜B3にそれぞれ設けられた第1〜第3抜差管N1〜N3と、第1抜差管N1に設けられた第1トリガーT1と、第3抜差管N3に設けられた第3トリガーT3とを備えている。第1抜差管N1及び第3抜差管N3は、演奏中、音程調整のために操作可能に設けられている。具体的には、図6の状態から第1トリガーT1と第3トリガーT3とが離れる方向に操作し、第1及び第3抜差管N1、N3をいわゆる抜く操作をしたり、当該抜く操作をした状態から第1トリガーT1と第3トリガーT3とを接近し、第1及び第3抜差管N1、N3をいわゆる入れる操作を行えるようになっており、これらの操作によってトランペットTPの管体の長さが変化して音程を変化可能となっている。
【0003】
従って、第1及び第3抜差管N1、N3は、演奏者等が手を離すと抜け落ちしてしまい、特に、トランペットのケースへの収納時や、トランペットを持っての移動時に、抜け落ちる傾向が強くなる、という不都合がある。そこで、かかる不都合を解消すべく、図6に示されるように、第1及び第3トリガーT1、T3に輪ゴムRGを掛け回すことが行われている。これによれば、第1及び第3抜差管N1、N3が抜け落ちることを回避可能となり、また、輪ゴムRGの伸縮性により当該輪ゴムRGを装着したまま第1及び第3抜差管N1、N3の抜く操作と入れる操作とを行えるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−293575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、輪ゴムRGにあっては、図6中左右方向中間部分で二本のゴムが同図中上下に間隔を開けて位置し易くなる。このため、演奏者がトランペットTPを保持して第1及び第3抜差管N1、N3を操作する際、二本のゴムの隙間に指が入り込んだり、輪ゴムRGに指が引っ掛かったりすることで演奏性を損なう、という不都合を招来する。また、輪ゴムRGにあっては汎用品となるので、そのサイズが大きいと、第1及び第3トリガーT1、T3に掛け回しても張力が作用しない場合がある。この場合、輪ゴムRGが第1及び第3トリガーT1、T3から不用意に外れ易くなって演奏の邪魔になるばかりでなく、第1及び第3抜差管N1、N3の脱落を十分に防止できなくなる、という不都合がある。この一方、輪ゴムRGのサイズが小さいと、張力に抗して指を広げなければならないため、大きな力が必要になり演奏操作に支障がある。更に、輪ゴムRGは、天然ゴム等の素材で加硫しているため、硫化水素や亜硫酸ガスが発生し、銀メッキされたトランペットの表面を黒く変色させる、という不都合を生じる。
【0006】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に基づいて案出されたものであり、その目的は、抜差管が抜け落ちることを回避でき、且つ、演奏性が損なわれることを抑制することができる金管楽器用抜差管ストッパを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、銀メッキされた金管楽器表面の変色を抑制することができる金管楽器用抜差管ストッパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、抜差管により管体の長さを変化させることにより音程変化可能な金管楽器における複数の抜差管に設けられた各トリガーに取り付け可能な金管楽器用抜差管ストッパであって、
少なくとも一対の引掛部と、これら引掛部間で纏まり部を形成して各引掛部を接続する接続部とを備えて当該接続部及び引掛部の少なくとも一方が弾性変形可能に設けられる、という構成を採っている。
【0008】
本発明において、前記引掛部は、ループ状に形成され、
前記接続部は、線状に形成される、という構成を採ることができる。
【0009】
また、前記接続部及び引掛部は、シリコンゴムにより構成されることが好ましい。
【0010】
更に、前記金管楽器はトランペットであって、
前記各トリガーは、トランペットの第1抜差管に設けられた第1トリガーと、第3抜差管に設けられた第3トリガーとである、という構成を採ってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、各トリガーに引掛部をそれぞれ引っ掛けることで、各抜差管が抜け落ちることを防止することができる。しかも、接続部に纏まり部が形成されるので、従来の輪ゴムを用いた場合に比べ、トリガー間に位置する部材が纏まり、接続部に指が引っ掛かり難くなって演奏性を改善することができる。
【0012】
また、引掛部をループ状に形成しつつ、接続部を線状に形成した場合、シンプルな構成としつつ、接続部への指の引っ掛かりをより良く防止でき、且つ、引掛部がトリガーから意図せずに外れることを抑制可能となる。
【0013】
更に、シリコンゴムとしたので、硫化水素等の発生に起因する銀メッキされたトランペット表面の変色を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るストッパ及びトランペットの概略正面図。
【図2】(A)はストッパの拡大正面図、(B)は(A)の平面図。
【図3】トランペットにストッパを取り付けた態様を示す図1と同様の正面図。
【図4】ストッパの他の取り付け態様を示す図1と同様の正面図。
【図5】ストッパの更に他の取り付け態様を示す図1と同様の正面図。
【図6】従来例に係る輪ゴム及びトランペットの概略正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「纏まり部」とは、引掛部間において少なくとも一個所で線状や点状、ブロック状等に纏まって形成される部分を意味し、単一の構造体として形成する場合だけでなく、複数の線状等をなす構造体をクロスさせたり隣り合って配置したりして形成する場合も含む概念として用いる。更に、「線状」とは、所定方向に細長く延びる種々の形状を意味し、例えば、断面が扁平形状となる帯状や、断面が円形や多角形状等となる紐状、帯状になる部分と紐状になる部分とが混在することで長手方向において断面が変化する形状等も含む。
また、本明細書において、特に明示しない限り、「上」、「下」、「左」、「右」は、図1を基準として用いる。
【0016】
図1〜図5において、実施形態に係るストッパ10は、金管楽器としてのトランペットTPに装着可能に設けられる。ここで、本実施形態に用いられるトランペットTPは、前述した図6のトランペットTPと同一構造となるため、同図と同一符号を付し、説明を省略する。
【0017】
前記ストッパ10は、ループ状に形成される一対の引掛部12,12と、これら引掛部12,12を接続する一本の接続部14とを備えて構成されている。ストッパ10は、シリコンゴムを成形材料とし、各引掛部12,12が接続部14に連なるよう、その全体を射出成形等の成形方法により一体成形されている。ストッパ10は、意図的な外力を加えることにより、各引掛部12,12及び接続部14を弾性変形可能に設けられている。
【0018】
左側の引掛部12は、右側の引掛部12と左右対称になる形状に設けられている。各引掛部12、12は、接続部14に連なる二股状部16と、この二股状部16の先端間に連なる半円弧状部17とをそれぞれ備え、無負荷状態で左右方向に長い楕円に近似した開口部12Aを形成している。開口部12Aの最大開口幅、すなわち、図1中左右幅W1は、第1トリガーT1の左右幅W2又は第3トリガーT3の左右幅W3と略同一若しくは小さく設定されている。これにより、引掛部12を変形し、開口部12Aの左右幅W1や開口形状を拡げて当該開口部12A内に第1及び第3トリガーT1,T3を挿入することにより、第1及び第3トリガーT1,T3に各引掛部12をそれぞれ引っ掛け可能となっている。
【0019】
前記接続部14は、帯状部20と、当該帯状部20の左右両端と各引掛部12、12における二股状部16の基部間に連なるとともに、円柱形の紐状をなす一対の連結部21とを備えて一本の線状をなす纏まり部を形成している。図3に示されるように、接続部14及び各引掛部12,12は、第1及び第3トリガーT1,T3に各引掛部12,12を引っ掛けたときに、当該第1及び第3トリガーT1,T3を接近させる方向の弾力が作用する大きさに設けられている。本実施形態では、図1に示されるように、第1及び第3トリガーT1,T3における各基部の離間距離D1に対し、左右の引掛部12における半円弧状部17内周の離間距離D2が略同一若しくは小さくなるように、接続部14の長さが設定されている。
【0020】
次に、前記ストッパ10の取り付け方法について説明する。
【0021】
ストッパ10をトランペットTPに取り付ける場合、先ず、一方の引掛部12を変形しながら開口部12A内に第1トリガーT1を挿入して引っ掛ける。この状態から、他方の引掛部12を第3トリガーT3側に引っ張り、一方の引掛部12及び接続部14を伸長しながら、他方の引掛部12を変形して開口部12A内に第3トリガーT3を挿入して引っ掛ける。これにより、図3に示されるように、第1及び第3トリガーT1,T3間において、各バルブB1〜B3の正面側に一本の接続部14が位置するよう掛け渡された状態でストッパ10が取り付けられる。このとき、接続部14及び各引掛部12,12の弾力によって第1及び第3トリガーT1,T3が接近する方向の力が加わり、意図的な外力を付与しない限り第1及び第3抜差管N1、N3が抜けたりスライドしたりすることを回避できる。また、ストッパ10が取り付けられた状態で、演奏者が第1及び第3トリガーT1,T3を離間接近することにより、各引掛部12及び接続部14を弾性変形して伸縮し、第1及び第3抜差管N1、N3のいわゆる抜く操作と入れる操作とを行えるようになる(図3中二点鎖線参照)。なお、二つの引掛部12を引っ掛ける順序は、第3トリガーT3が先で、第1トリガーT1を後としてもよい。
【0022】
ところで、前記離間距離D2(図1参照)を前述のように設定したので、図4に示されるように、一方の引掛部12を第1トリガーT1に引っ掛け、他方の引掛部12を第3ピストンバルブB3の底側に引っ掛けることが可能となる。これにより、図3の取り付け状態に比べ、第1トリガーT1を介して第1抜差管N1を抜き差しするための操作力を調整することができる。また、図5に示されるように、ストッパ10を更に一体用意し、当該ストッパ10の引掛部12、12を第3トリガーT3と第1ピストンバルブB1の底側とに引っ掛けてもよく、これにより、第3抜差管N3を抜き差しするための操作力も調整可能となる。
【0023】
また、図3に示されるように、第1及び第3トリガーT1,T3に各引掛部12,12を引っ掛けたときのストッパ10によるテンションは、1.0N以上2.2N以下の範囲内に設定される。このテンションの最小値は、各トリガーT1,T3に指を掛けてストッパ10を伸ばし始め、当該指に抵抗がかかり始めるタイミングの値であり、最大値は、各トリガーT1,T3に指の掛かる範囲で最大に伸ばしきったタイミングでの値である。ここで、例えば、ストッパ10を複数用意し、それらのサイズ等を変更して各ストッパ10によるテンションを変え、これらのストッパ10を選択して用いてもよい。例えば、一のストッパ10のテンションを1.5N以上2.2N以下に設定し、他のストッパ10のテンションを1.0N以上1.5N以下に設定することができる。これにより、図3に示される状態で使用する場合と、図4や図5に示される状態で使用する場合とで異なるテンションのストッパ10を用いたり、輸送時と演奏時とで異なるテンションのストッパ10を用いたりする他、ストッパ10を変更することで演奏者の使用感に対する種々のニーズに対応することが可能となる。
【0024】
従って、このような実施形態によれば、図3に示されるように、第1及び第3トリガーT1,T3間に跨ってストッパ10が取り付けた場合、これらトリガーT1,T3から手を離しても、第1及び第3抜差管N1、N3が抜け落ちることを回避でき、トランペットTPを持ち運ぶときや、収納するときの取扱性を向上することができる。また、一対の引掛部12,12を接続する接続部14が一本となるので、ストッパ10において、従来の輪ゴムRGのように演奏者の指が入り込む隙間が生じることを抑制でき、楽器を操作する指が引っ掛かることを防ぐことが可能となる。更に、引掛部12における開口部12Aの左右幅W1を各トリガーT1,T3の左右幅W2,W3と略同一若しくは小さく設定したので、これによっても、ストッパ10への指の引っ掛かり防止に寄与できる他、トリガーT1,T3から引掛部12が意に反して外れることを回避することが可能となる。また、ストッパ10がシリコンゴムにより構成されるので、トランペットTP表面が銀メッキされている場合でも、輪ゴムRGのようにトランペットTP表面を変色させることを防止することができる。
【0025】
以上のように、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、前記記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示、説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施形態に対し、形状、位置若しくは配置等に関し、必要に応じて当業者が様々な変更を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0026】
例えば、引掛部12の形状は、第1及び第3トリガーT1,T3に引っ掛け可能な限りにおいて、鉤状としたりC字状としたりしてもよい。但し、実施形態のようなループ状に引掛部12を形成することで、第1及び第3トリガーT1,T3から意図せず外れ難くなる点で有利となる。
【0027】
また、ストッパ10の形成方法は、各引掛部12,12と接続部14とを別々に形成した後、これらを接着等により接続するようにしてもよい。この場合、前記実施形態と同様の作用、効果を奏する限りにおいて、引掛部12及び接続部14の何れか一方だけを弾性変形可能に設けてもよい。
【0028】
更に、接続部14の形状は、引掛部12,12間で纏まり部を有する限りにおいて、球状やブロック状、曲線状に設けてもよい。
【0029】
更に、ストッパ10は、コルネット等、抜差管により管体の長さを変化させることにより音程変化可能な金管楽器に用いてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10・・・ストッパ、12・・・引掛部、14・・・接続部、N1・・・第1抜差管、N3・・・第3抜差管、T1・・・第1トリガー、T3・・・第3トリガー、TP・・・トランペット(金管楽器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜差管により管体の長さを変化させることにより音程変化可能な金管楽器における複数の抜差管に設けられた各トリガーに取り付け可能な金管楽器用抜差管ストッパであって、
少なくとも一対の引掛部と、これら引掛部間で纏まり部を形成して各引掛部を接続する接続部とを備えて当該接続部及び引掛部の少なくとも一方が弾性変形可能に設けられていることを特徴とする金管楽器用抜差管ストッパ。
【請求項2】
前記引掛部は、ループ状に形成され、
前記接続部は、線状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の金管楽器用抜差管ストッパ。
【請求項3】
前記接続部及び引掛部は、シリコンゴムにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の金管楽器用抜差管ストッパ。
【請求項4】
前記金管楽器はトランペットであって、
前記各トリガーは、トランペットの第1抜差管に設けられた第1トリガーと、第3抜差管に設けられた第3トリガーとであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の金管楽器用抜差管ストッパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−114029(P2013−114029A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260045(P2011−260045)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)