説明

金錯体及びそれを含む医薬組成物

【課題】
強い抗腫瘍活性があり、投与量がより少量で効果がある新規金錯体及びそれを含む医薬組成物を提供する。
【解決手段】
立体構造式【化11】


で示される(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする金錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規金錯体及びそれを有効成分とする医薬組成物、特に悪性腫瘍治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金錯体は下式オーラノフィン[I]が抗リューマチ薬として用いられている。また、この化合物[I]は抗腫瘍作用が認められている(非特許文献1参照)。
【0003】
また、同様に白金錯体としてシスプラチン[II]、カルボプラチン[III]、オキザリプラチン[IV]などが抗がん剤として開発され、治療に用いられてきた(例えば、非特許文献2−非特許文献4参照)。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Med. Chem. 1986 29, 218-223
【非特許文献2】Nature, 1969 222 385-386
【非特許文献3】Cancer Treat Reviews 1985 12 21-33
【非特許文献4】Cancer Letters 1985 27 135-143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シスプラチンは腎毒性、血液毒性、消化器毒性、神経毒性といった副作用が多いという問題があった。そこで、シスプラチンの腎毒性を軽減し、水溶性を増加するものとしてカルボプラチンが開発されたが、カルボプラチンは高価でありながら、その抗腫瘍効果は必ずしも満足のいくものではなかった。
【0007】
これらは抗腫瘍活性を呈する一方、所定の抗腫瘍活性を奏するためには、それに対応する予め定められた所与量を投与する必要があり、このため副作用を有するという欠点がある。
【0008】
本発明の目的は(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする金錯体であって、より強い抗腫瘍活性があり、投与量がより少量で効果があり、そのため副作用が軽減された新規金錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明は、下記立体構造式(A)で表わされる光学活性な(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする新規金錯体である。
【0010】
【化2】

【0011】
本発明は、一般式(A)で表わされる光学活性な(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする新規金錯体のうち、式(B)で表わされる塩素化金錯体である。
【0012】
【化3】

【0013】
本発明は、上記の金錯体及び塩素化金錯体を有効成分として含有する医薬組成物である。
【0014】
本発明は、上記の金錯体及び塩素化金錯体を有効成分として含有する悪性腫瘍治療剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規金錯体は、がん細胞であるヒト直腸がん細胞CaR-1に対して強い細胞増殖阻害作用が見られ、かつ正常細胞であるヒト胎児腎細胞HEK293に対しての毒性がほとんど見られなかった。したがって強い抗腫瘍活性があり、かつ副作用が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の(化合物1)をがん細胞(CaR-1)へ作用させた場合の阻害率(%)を示すグラフである。
【図2】本発明の(化合物1)を正常細胞(HEK293)へ作用させた場合の阻害率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の金錯体及びそれを含む悪性腫瘍治療剤を、その実施の形態について説明する。
【0018】
本発明にかかわるスピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンは立体化学上シス、シス-、シス、トランス-、トランス、トランス- の3つの立体異性体が存在する。しかしながら、トランス、トランス- 体は立体的に分子内での金との錯体形成は不可能であり、好ましくはシス、シス-、シス、トランス- 体である。特に好ましくはシス、シス- 体である。この化合物には(R,R,R)体と(S,S,S)体の二つの鏡像体が存在する。しかしながら(S,S,S)体から合成した金錯体は(R,R,R)体から合成した金錯体(B)に比較し抗腫瘍活性が弱く、したがって、(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子とする金錯体を提供する本発明を完成するに到った。
【0019】
本化合物(B)は下記一般式で示される反応(I)の方法により容易に合成される。
【0020】
【化4】

【0021】
(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン(A)は公知の方法(A.C.C. ChanらTetrahedoron. Lett., 2004, 45, 7379)、例えば反応(II)で示した方法で合成できる。すなわち、対応する(S,R,S)-trans,trans -スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジオール(C)から3段階で合成できる。
【0022】
【化5】

【0023】
ここでMsClはメタンスルホニルクロライド(CHSOCl)を表す。
【0024】
(S,R,S)-trans,trans -スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジオール(C)は公知の方法(A.C.C. ChanらTetrahedoron. Lett., 2004, 45, 7379)、すなわちスピロ[4,4]-ノナン-1,6-ジオン(F)を既知の光学活性な(R)-CBS(G)を触媒として用いてボランで還元することにより合成できる。
【0025】
【化6】

【0026】
(R)-CBS触媒(G)は次式反応(IV)による公知の方法(E. J. Corey, R. K. Bakshi, S. Shibata J. Am. Chem. Soc., 1987, 109, 5551)で合成できる。
【0027】
【化7】

【0028】
原料であるスピロ[4,4]ノナン-1,6-ジオン(F)は(H)から次式反応(V)による公知の方法(J.A. Nieman, B.A. Keay, Synthetic Comm., 1999, 29, 3929)で合成できる。
【0029】
【化8】

【0030】
ここで合成したジアミン(A)を反応式(I)に用いれば目的とする金錯体が合成できる。
【0031】
本発明の金錯体の有効量を含む医薬組成物を臨床において投与する場合、経口又は非経口により投与される。その剤形は、錠剤、糖衣錠、丸剤、カプセル剤、散剤、トローチ剤、液剤、坐剤、注射剤などを包含し、これらは医薬上許容される賦形剤を配合して製造される。
【0032】
本発明の医薬組成物は非経口用製剤として調製されることが望ましい。賦形剤としては、次のようなものを例示することができる。乳糖、ショ糖、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール、ばれいしょでんぷん、アミロペクチン、その他各種でんぷん、セルローズ誘導体(例えば、カルボキシメチルセルローズ、ハイドロキシエチルセルローズ、など)、ゼラチン、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールワックス、アラビアゴム、タルク、二酸化チタン、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油などの植物油、パラフィン油、中性脂肪基剤、エタノール、プロピレングリコール、生理食塩水、滅菌水、グリセリン、着色剤、調味剤、濃厚剤、安定剤、等張剤、緩衝剤など、およびその他医薬上許容される賦形剤。
【0033】
本発明の治療剤は、本発明の金錯体を0.001〜85重量%、好ましくは0.005〜60重量%含有することができる。
【0034】
本発明の治療剤の投与量は、主として症状により左右されるが、1日成人体重あたり0.005〜200mg、好ましくは0.01〜50mgである。
【0035】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明する。
【0036】
実施例1
200mlの丸底フラスコにテトラクロロ金(III)酸カリウム(KAuCl)2.74g(7mmol)を入れ水30mlに溶かす。次いで(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン1.08g(7mmol)を蒸留水70mlに溶かした溶液を加えると直ちに結晶が析出してくる。加え終わった後、約1時間室温で攪拌する。ろ過し、ろ過物を蒸留水で洗い、乾燥する。Au(III)((R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン)トリ塩素化物が1.91g得られた。収率59.6%。
【0037】
元素分析(C18ClAuとして)
計算値(%)C:23.62 H:3.96 N:6.12 Cl:23.24 Au:43.05
実測値(%)C:22.9 H:3.8 N:5.7 Cl:22.8 Au:43.9
MS (FAB) m/z 155 (C18+H), 421(C18ClAu)
IR(KBr) cm−1:3165, 956, 2877, 1556, 1446
以上の結果から本化合物は(化合物1)で示される化学構造を持っていることが確かめられた。
【0038】
【化9】

【0039】
比較例1
200mlの丸底フラスコにテトラクロロ金(III)酸カリウム(KAuCl)2.74g(7mmol)を入れ水30mlに溶かす。次いで(S,S,S)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン1.08g(7mmol)を蒸留水70mlに溶かした溶液を加えると直ちに結晶が析出してくる。加え終わった後、約1時間室温で攪拌する。ろ過し、ろ過物を蒸留水で洗い、乾燥する。Au(III)((S,S,S)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミン)トリ塩素化物が2.20g得られた。収率68.7%。
【0040】
IRの結果、実施例1で合成した化合物のIRと一致した。したがって実施例1で合成した(化合物1)の鏡像体(化合物2)と決定した。
【0041】
【化10】

【0042】
実施例2
<薬剤効果試験>
化合物1(RG薬剤と略称)の溶液は、RG薬剤をDMSO(ジメチルスルホキシド)に8mg/mlの濃度で溶解することにより調製した。
【0043】
試験は、がん細胞としてCaR-1(ヒト直腸がん細胞)を、正常細胞としてHEK293(ヒト胎児腎細胞)を用いて行った。
【0044】
これらの細胞は10%血清添加の各培養培地に懸濁し、96ウェルプレートに分注した。その後37℃、5%COの中で一晩培養した。RG薬剤の溶液を培養培地にて種々の濃度に調製し、あらかじめ細胞を播いておいたプレートに分注した。さらに3日間、37℃、5%COの中で培養した。
【0045】
薬剤添加後の細胞の増殖は、薬剤添加後1〜3日目にMTS法(Promega社製細胞増殖試験用キットCell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay)により測定した。
【0046】
測定したMTS値より、細胞増殖の阻害率(%)を以下の式で求めた。
【0047】
阻害率(%)=(1-薬剤添加群のMTS値/薬剤未添加群MTS値)×100
上記式で求められた値は、細胞増殖阻害率を表すため、数値が高いほど薬剤効果が高いことになる。その値が50(%)以上のものを薬剤効果があるものとした。結果を以下に示す。
【0048】
グラフのX軸は薬剤添加後の日数を表す。Y軸は細胞増殖阻害率(%)を表す。すなわち、上記式により求められた値である。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
0(%)以下の値を示したものは、薬剤未添加群よりも薬剤添加群のMTS値が高かった(=細胞数が多かった)ことが原因であり、細胞増殖阻害は起きていないと考えられる。
【0052】
上記表より、CaR-1細胞において薬効が認められ、かつHEK293細胞においての毒性は低いと判断された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上の説明のように本発明の金錯体は強い抗腫瘍活性を有し、かつ毒性が低く、悪性腫瘍治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式立体構造式(A)で示される(R,R,R)-cis,cis-スピロ[4,4]ノナン-1,6-ジアミンを配位子として有する金錯体。
【化11】

【請求項2】
前記金錯体は式(B)で示される塩素化金錯体であることを特徴とする請求項1記載の金錯体。
【化12】

【請求項3】
請求項1又は2に記載の金錯体を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の金錯体を有効成分として含有する悪性腫瘍治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−163407(P2010−163407A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9306(P2009−9306)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(500194946)ユニーテック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】