説明

針刺通弁及び中空ボール

【課題】中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを両立する針刺通弁及びこの針挿通弁を備えた中空ボールを提供すること。
【解決手段】中空ボールに装着され、空気注入用の注入針が刺通される刺通孔11を有する針刺通弁1であって、この針刺通弁1はシリコーンオイルを含有するシリコーンゴムで形成され、刺通孔11は、軸線方向に延設され、注入針の外径よりも大きな外径を有する案内穴12と、案内穴12の底部14から軸線方向に沿って連設され、注入針の断面形状に相似する断面形状を有する挿通孔13とを有していることを特徴とする針刺通弁1、並びに、この針挿通弁1を備えた中空ボール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、針刺通弁及び中空ボールに関し、さらに詳しくは、中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを両立する針刺通弁及びこの針挿通弁を備えた中空ボールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、サッカーボール、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、ラグビーボール、テニスボール等の中空ボールは内部空間に空気が充填されている。ところが、時間の経過と共に、及び/又は、使用状態によって、内部空間に充填された空気が外部に漏出することがあるので、空気を内部空間に補充する必要がある。したがって、このような中空ボールは、ポンプ等に接続された、空気を注入するための注入針が刺通される針刺通弁を備えている。
【0003】
このような中空ボールの一例が特許文献1に記載されている。具体的には、特許文献1に記載されている中空ボールは、「熱可塑性エラストマーよりなる2個の中空半球体を融着接合して中空球体に形成したブラダの内面にバルブを接着してなる運動用ボールにおいて、上記バルブが接着される上記ブラダの内面に小孔が形成されるとともに、該小孔の上記ブラダ内面周囲に肉厚部が形成されてなり、上記バルブは、ムシゴムが装着される貫通孔及び上記肉厚部に接着される平坦面を有するエラストマーよりなり、上記貫通孔は、上記ブラダ内面に接着される面側に位置する上記小孔より大きい径を有する大径部と、上記ブラダ内面空間に連通する小径部とからなることを特徴とする運動用ボール」である。
【0004】
ところで、中空ボールに空気を注入する場合に、針刺通弁に注入針を刺通しにくいと針刺通弁が損傷して針刺通弁すなわち中空ボールの密閉性が低下し、その結果、中空ボールから空気が外部に漏出しやすくなることがある。
【0005】
このような問題を回避する1つの方法として、注入針にグリセリン等の潤滑剤を塗布して針刺通弁に挿通する方法が挙げられる。しかし、この方法では空気を注入するたびに注入針に潤滑剤を塗布する必要があり、効率的ではない。
【0006】
一方、潤滑剤が塗布されたスリットを有する針刺通弁を備えた中空ボール等が提案されている。例えば、このような中空ボールを製造する方法として、特許文献2には、「筒形のバルブとバルブ周辺ゴムから構成される送気弁を備えるソフトテニスボールの製造方法において、ボールの製造の際に、ボール本体の内壁の一部に、前記バルブ周辺ゴムを加硫接着し、前記バルブ周辺ゴムの径方向中心部に第1の穴を形成し、かつ、前記バルブの径方向中心部に空気注入器の注入棒を挿入するための第2の穴を形成するとともに、この第2の穴に連なるスリットをカッターの刃先に潤滑剤を塗布した該カッターにより前記バルブの径方向中心部に形成することで該スリットに該潤滑剤を塗布して前記バルブを形成し、前記バルブを前記バルブ周辺ゴムの前記第1の穴に挿入接着することを特徴とする前記製造方法」が記載されている。
【0007】
特許文献2の針刺通弁はスリットに予め潤滑剤が塗布されているが、潤滑剤が徐々に消失して時間の経過と共にその効果が薄れてくることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実登2544929号公報
【特許文献2】特許第4028910号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを両立する針刺通弁、及び、この針挿通弁を備えた中空ボールを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、中空ボールに装着され、空気注入用の注入針が刺通される刺通孔を有する針刺通弁であって、前記針刺通弁は、シリコーンオイルを含有するシリコーンゴムで形成され、前記刺通孔は、軸線方向に延設され、前記注入針の外径よりも大きな外径を有する案内穴と、前記案内穴の底部から前記軸線方向に沿って連設され、前記注入針の断面形状に相似する断面形状を有する挿通孔とを有していることを特徴とする針刺通弁であり、
請求項2は、前記挿通孔は、中空ボールに装着されたときに軸線に向かって収縮して閉塞することを特徴とする請求項1に記載の針刺通弁であり、
請求項3は、前記挿通孔は、前記軸線方向に沿って実質的に一定の内径を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の針刺通弁であり、
請求項4は、前記挿通孔に代えて、前記軸線方向に垂直な平面において三叉状又は十字状になるように、前記案内穴の底部から前記軸線方向に沿って形成されたスリットを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の針刺通弁であり、
請求項5は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の針刺通弁を備えて成る中空ボールである。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係る針刺通弁は、シリコーンオイルを含有するシリコーンゴムで形成され、かつ、案内穴及び挿通孔を有する刺通孔を備えているから、挿通孔の内面にシリコーンオイルが滲出しており、中空ボールに装着されると挿通孔の内面同士がシリコーンオイルを介して密着して高い気密性を発揮すると共に、挿通孔内部のシリコーンオイルで注入針が挿通孔を滑らかに摺動して容易に刺通する。また、前記挿通孔は、前記断面形状を有しているから、挿通又は刺通された注入針は挿通孔の内面に高度に密着して気密性を損なうことがない。したがって、この発明によれば、中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを両立する針刺通弁を提供することができる。
【0012】
また、この発明に係る中空ボールはこの発明に係る針挿通弁を備えているから、中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを両立する針刺通弁を備えた中空ボールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、この発明に係る針刺通弁の一例である針刺通弁を示す図であり、図1(a)はこの発明に係る針刺通弁の一例である針刺通弁を示す正面図であり、図1(b)はこの発明に係る針刺通弁の一例である針刺通弁を示す上面図である。
【図2】図2は、この発明に係る針刺通弁の別の一例である針刺通弁を示す図であり、図2(a)はこの発明に係る針刺通弁の別の一例である針刺通弁を示す上面図であり、図2(b)はこの発明に係る針刺通弁のまた別の一例である針刺通弁を示す上面図である。
【図3】図3は、この発明に係る中空ボールの一例である中空ボールを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る針刺通弁は、中空ボールに装着されて、空気注入用の注入針が刺通される弁である。この発明に係る針刺通弁が装着される中空ボールは、その内部に空間を有し、この内部空間に空気等の気体が所定の空気圧で充填されるボールであればよく、例えば、スポーツ用ボール、具体的には、サッカーボール、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、ラグビーボール、テニスボール等が挙げられる。この発明に係る針刺通弁は、その一部例えば前記案内穴の開口部が中空ボールの表面に露出するように、中空ボール、特にその内面に装着される。したがって、この発明に係る針刺通弁は中空ボールの針刺通弁と称することができる。
【0015】
この発明に係る針刺通弁は、ポンプ等に接続された空気注入用の注入針が刺通される。この発明に係る針刺通弁は挿通孔を有しているから、注入針は通常管体であり、その先端は尖形である必要はなく、平坦な先端面であるのが取扱性及び安全性が高くてよい。装着される中空ボールにもよるが、このような注入針は、その軸線に垂直な断面形状が円形又は楕円形であるのが一般的であり、その外径(長径)は、例えば、1〜4mmである。
【0016】
この発明に係る針刺通弁の一例である針刺通弁1は、図1に示されるように、管状の基体5と基体5の外周面に形成された鍔部8とを有している。
【0017】
基体5は、図1に示されるように、管状体に成形され、その軸線に沿って、好ましくは軸線と同軸となるように、貫通形成された刺通孔11を有している。基体5は、通常、その軸線に垂直な断面形状が円形又は楕円形になっている。基体5は、針刺通弁1が装着される中空ボールの種類、内部空間に充填される空気圧等に応じて適宜の外径(長径)及び軸線長さに調整される。基体5の外径(長径)は、例えば、針刺通弁1がバレーボールに装着される場合には1.5〜10mmに設定され、バスケットボールに装着される場合には1〜9mmに設定される。また、基体5の軸線長さは、例えば、針刺通弁1がバレーボール又はバスケットボール等に装着される場合には20〜40mmに設定される。
【0018】
基体5の刺通孔11は、基体5の軸線方向に貫通形成され、中空ボールに装着されたときに中空ボールの内部空間と中空ボールの外部とを気密に閉塞すると共に、空気注入用の注入針が刺通されて、中空ボールの内部空間と中空ボールの外部とを連通させる。この刺通孔11は、軸線方向に延設され、注入針の外径よりも大きな外径を有する案内穴12と、この案内穴12の底部から軸線方向に沿って連設され、注入針の断面形状に相似する断面形状を有する挿通孔13とを有している。案内穴12は、針刺通弁1が中空ボールに装着されたときに、中空ボールの外部側に形成されており、挿通孔13は中空ボールの内部部側すなわち内部空間側に形成されている。
【0019】
案内穴12は、図1に示されるように、基体5の軸線に沿って穿孔され、底部14を有する有底穴となっている。この案内穴12は、注入針の外径よりも大きな外径を有し、注入針を挿通孔13に案内する。したがって、案内穴12の内径は注入針の外径よりも大きければよく、例えば、注入針の外径に対して101〜300%の内径に設定されている。案内穴12の、軸線に垂直な断面形状は特に限定されないが、注入針の案内確実性等を考慮すると、円形、楕円形又は多角形であるのがよく、注入針の断面形状に相似の形状であるのが好ましく、この例においては円形とされている。案内穴12の底面14は注入針の案内確実性を考慮して注入針の先端が後述する挿通孔13とほぼ同軸となるように、略半球状に形成されている。案内穴12の深さは基体5の軸線長さ等に応じて適宜に設定され、例えば、1〜15mmとされる。
【0020】
挿通孔13は、図1に示されるように、案内穴12の底部14から基体5の反対側の端部まで、軸線方向に沿って、好ましくは案内穴12と同軸に、穿孔されている。すなわち、刺通孔11は基体5の一方の端面に開口する案内穴12と、案内穴12から連接され、基体5の他方の端面に開口する挿通孔13とから構成されている。この挿通孔13は、注入針の断面形状に相似する断面形状を有しており、この例においては、円形の断面形状を有している。挿通孔13の内径は、注入針の外径よりも小さく軸線方向に沿って実質的に一定、好ましくは一定になっており、中空ボールに装着されたときに軸線すなわち中心方向に向かって収縮して閉塞可能な寸法に設定されている。ここで、実質的に一定とは、正確に一定である必要はなく、注入針の挿通を阻害せず、中空ボールに装着された場合に挿通孔13が密閉状態又は閉塞状態になる程度の誤差を有していてもよく、このような誤差としては、例えば、1.5mm以下である。挿通孔13の内径は、例えば、針刺通弁1がバレーボールに装着される場合には、基体5の収縮量は約10%程度であるから、挿通孔13の内径は0.1〜3mmに設定される。このように、挿通孔13は、中空ボールに装着されていない場合には貫通状態にあり、一方、中空ボールに装着された場合には収縮して密閉状態又は閉塞状態になる。特に、挿通孔13の断面形状が前記形状であると、注入針の外周面と挿通孔13の内面との密着性が高くなって、注入針を多数回注入したとしても注入針を挿通したときの気密性に優れる。
【0021】
鍔部8は、図1に示されるように、基体5の軸線方向中央よりも案内穴12側に、基体5の外周面から放射状に膨出する環状に、形成されている。鍔部8は、中空ボール内に設けられた装着体の嵌合凹部に嵌合して、針刺通弁1が中空ボールから容易に脱落しないようにする。したがって、鍔部8は、嵌合凹部と嵌合するように、その形成位置並びに外径及び軸線長さが設定されている。例えば、鍔部8の外径は5〜15mm、軸線長さは3〜6mmである。
【0022】
針刺通弁1は、シリコーンオイルを含有するシリコーンゴムで形成されている。針刺通弁1がこのようなシリコーンゴムで形成されていると、挿通孔13の内面にはシリコーンオイルが滲出して、気密性及び注入針の摺動性の両立に十分に貢献する。
【0023】
シリコーンゴムは、特に限定されず、各種のシリコーンゴムを用いることができ、例えば、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、炭素数1〜6のアルキル基を有するオルガノシリコーンゴム等が挙げられる。
【0024】
シリコーンオイルは、特に限定されず、各種のシリコーンオイルを用いることができ、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等がある。このシリコーンオイルは、シリコーンゴムの表面に適度に滲出する点で、その粘度(25℃)が1〜10mPa・sであるのが好ましく、その数平均分子量が500〜1500であるのが好ましい。なお、数平均分子量はGPCによる標準ポリスチレン換算分子量である。シリコーンゴムは、通常用いられる各種添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、分散剤、発泡剤、加硫剤、老化防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料、着色剤、加工助剤、可塑剤、難燃性向上剤、離型剤等が挙げられる。
【0025】
前記シリコーンゴム及び前記シリコーンオイルの中でも、シリコーンオイルが長期間にわたって適度に滲出する点で、ジメチルシリコーンゴムとジメチルシリコーンオイルとの組み合わせが好ましい。
【0026】
シリコーンオイルを含有するシリコーンゴム及びその成形体である針刺通弁1におけるシリコーンオイルの含有量は、シリコーンゴム(添加剤を含有する場合には添加剤を含む。)100質量部に対して1〜30質量部であるのが好ましく、5〜10質量部であるのが特に好ましい。
【0027】
このシリコーンゴム、すなわち、針刺通弁1は、そのゴム硬度(JIS A)が10〜50°であるのが好ましく、20〜40°であるのが特に好ましい。シリコーンゴムのゴム硬度が前記範囲内にあると、針刺通弁1の挿通孔13を高い気密性で閉塞できる。ゴム硬度(JIS A)の測定方法は、シリコーンゴムを形成するシリコーンゴム組成物を準備する。具体的には、前記シリコーンゴムの組成が分かっている場合にはその組成のシリコーンゴム組成物を準備する。そして準備したシリコーンゴム組成物を用いて厚さ6mm、縦横各12mmの試験片を作成し、この試験片における硬度をタイプAのデュロメータ型さ硬度計を使用し、JIS K 6253に準拠して測定したときの値とする。
【0028】
この針刺通弁1は、シリコーンオイルを含有するシリコーンゴムで形成され、前記刺通孔11を有しているから、高い気密性と空気を滑らかな摺動性とを両立することができる。したがって、グリセリン等の潤滑剤を注入針に塗布しなくても、また、挿通孔13等に潤滑剤を予め塗布しなくても、高い気密性を保持したまま注入針を刺通孔11に容易に刺通することができる。
【0029】
この発明に係る針刺通弁の別の一例である針刺通弁2は、図2(a)に示されるように、管状の基体6と基体6の外周面に形成された鍔部8とを有している。この針刺通弁2は、挿通孔13に代えて三叉状のスリット16を有していること以外は針刺通弁1と基本的に同様である。したがって、三叉状のスリット16は、案内穴12の底部14から基体6の反対側の端面まで刺通孔11の軸線方向に沿って形成されている。このスリット16は、前記軸線方向に垂直な平面において、隣接するスリットで形成される中心角が約120°となるように、3方向に放射状に延在している。このときの各スリットにおける放射方向の延在長さは挿通される注入針の外径等に応じて適宜に設定され、例えば、0.25〜2.5mmである。このスリット16は、図2(a)に示されるように、針刺通弁1と異なり、中空ボールに装着されていない状態においても閉塞された状態となっている。この針刺通弁2は、針刺通弁1と比較すると、注入針の摺動性にやや劣るもののスリット16が常時閉塞した状態にあるのでスリット16内に滲出したシリコーンオイルが長期間にわたって存在するので摺動耐久性に優れる。したがって、特に摺動耐久性に着目するのであれば針刺通弁2が好適に採用される。
【0030】
この発明に係る針刺通弁のめた別の一例である針刺通弁3は、図2(b)に示されるように、管状の基体7と基体7の外周面に形成された鍔部8とを有している。この針刺通弁3は、挿通孔13に代えて十字状のスリット17を有していること以外は針刺通弁1と基本的に同様であり、スリットの形状が異なること以外は針刺通弁2と基本的に同様である。このスリット17は、前記軸線方向に垂直な平面において、隣接するスリットで形成される中心角が約90°となるように、4方向に放射状に延在している。
【0031】
この発明に係る針刺通弁を製造する方法を、針刺通弁1を例に挙げて、説明する。針刺通弁1は、例えば、シリコーンゴムを形成するシリコーンゴム組成物を所定形状に成形して、製造することできる。準備するシリコーンゴム組成物は、前記シリコーンゴムを形成するゴム前駆体、前記シリコーンオイル、所望により各種の前記添加剤を含有する。ゴム前駆体としては、例えば、ポリオルガノシロキサン、ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。シリコーンゴム組成物におけるシリコーンオイルの含有量はシリコーンゴム組成物100質量部に対して1〜30質量部であるのが好ましく、5〜10質量部であるのが特に好ましい。シリコーンゴム組成物の中でも、ジメチルシリコーンゴムとジメチルシリコーンオイルとを含有するシリコーンゴム組成物であるのが好ましい。
【0032】
準備したシリコーンゴム組成物を、例えば、各種成形方法で所定形状に成形する。例えば、金型を用いた射出成形、圧縮成形等が好適に採用される。このようにして針刺通弁を製造することができる。なお、スリット16及び17を有する針刺通弁2及び3は成形した後にカッター等を用いてスリット16及び17を後から形成することができる。
【0033】
この発明に係る中空ボールは、この発明に係る針挿通弁を備えている。この発明に係る中空ボールは、球状に形成された球殻と、この球殻に設けられた弁装着部と、この弁装着部に装着された針挿通弁とを有している。球殻は、1層構造でも複層構造でもよく、中空ボールの用途に応じて適宜に層構造が選択される。複層の球殻を構成する層として、例えば、球殻の強度を補強する補強層、表皮層等が挙げられる。弁装着部は、球殻の内側に接着等によって設けられ、針挿通弁を自身の収納空間に収納する。したがって、弁装着部は管状の中空筐体になっている。この弁装着部において、通常その収納空間は径方向の寸法が針挿通弁よりも小さくなっており、針挿通弁はこの収納空間に径方向に圧縮された状態で、かつ収納凹部に形成された場合に針挿通弁の鍔部が嵌合した状態で、収納される。このように収納空間に収納されることによって針挿通弁、特に挿通孔及びスリットは高い密接状態を維持する。この発明に係る中空ボールは、この発明に係る針挿通弁以外は公知の構成を適宜に採用することができ、例えば、特許文献1の構成を採用できる。この発明に係る中空ボールにおける針挿通弁以外の構成は、中空ボールの種類、例えば、サッカーボール、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、ラグビーボール、テニスボール等に応じて、適宜の構成とされる。
【0034】
この発明に係る中空ボールを図面を参酌して具体的に説明する。この発明に係る中空ボールの一例である中空ボール70は、図3に示されるように、球状に形成された球殻71と、この球殻71に設けられた弁装着部72と、この弁装着部72に装着された、この発明に係る針挿通弁、例えば、針挿通弁1とを有している。球殻71は、基層71aと補強層71bと表皮層71cとからなる3層構造になっている。基層71aは空気非透過性のゴム、例えば、ブチルゴム等で中空状に形成されている。補強層71bはナイロン等の繊維を基層71aの外周面上に巻き付けてなる層であり、表皮層71cは天然皮革又は合成皮革で形成されている。この球殻71は空気が充填される内部空間73を画成する。弁装着部72は、図3に示されるように、基層71aの内側に接着された管状の中空筐体であり、その内部に、鍔部8を嵌合凹部に嵌合させることで針挿通弁1を径方向に圧縮して収納する収納空間72aを有している。
【0035】
この発明に係る中空ボールは、この発明に係る針挿通弁を備えているから、中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを有している。したがって、この発明によれば、中空ボールの空気圧を保つための高い気密性と空気を注入する際の注入針の滑らかな摺動性とを高い水準で両立する中空ボールを提供するという目的を達成できる。
【0036】
この発明に係る針刺通弁及び中空ボールは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、針刺通弁1〜3はいずれも基体5〜7と鍔部8とを備えているが、この発明において、針刺通弁は鍔部に代えて他の係合手段を備えていなくてもよく、基体のみを備えていてもよい。
【0037】
前記刺通孔11は案内穴12と挿通孔13又はスリット16若しくは17とを有しているが、この発明において、刺通孔は、挿通孔又はスリットのみを有していてもよく、また、案内穴と挿通孔又はスリットと挿通孔又はスリットにおける案内穴の反対側に形成された大径穴とを有していてもよい。
【0038】
前記挿通孔13は断面形状が円形になっているが、この発明において、挿通孔はその内面から放射状に切り込まれた複数のスリットを有していてもよい。この場合において、複数のスリットは、例えば、挿通孔の軸線方向に垂直な平面において、挿通孔の周方向に等間隔に3本又は4本形成されているのが好ましい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
ジメチルシリコーンオイルを含有するシリコーンゴム組成物を準備した。なお、このシリコーンゴム組成物におけるシリコーンオイルの含有量は前記範囲内にある。
【0040】
挿通孔13を有する刺通孔11を形成可能な金型に準備したシリコーンゴム組成物を注入し、成形温度175℃で10分間成形して、図1に示される針刺通弁1を製造した。この針刺通弁1のゴム硬度は40°で以下の寸法を有していた。
基体5:軸線長さ27mm、外径7mm
鍔部8:軸線長さ5mm、外径10mm
案内穴12:深さ10mm、内径2.5mm、底部14の曲率半径R1.25mm
挿通穴13:軸線長さ17mm、内径0.5mm
【0041】
(実施例2)
前記金型に代えて案内孔12のみを形成可能な金型を用いて前記シリコーンゴム組成物を成形し、次いで、三叉状のスリット16をカッターで形成したこと以外は、実施例1と基本的に同様にして図2(a)に示される針刺通弁2を製造した。この針刺通弁2は以下の寸法を有していた。
基体5:軸線長さ27mm、外径7mm
鍔部8:軸線長さ5mm、外径10mm
案内穴12:深さ10mm、内径2.5mm、底部14の曲率半径R1.25mm
スリット16:軸線長さ17mm、放射方向の延在長さ0.75mm
【0042】
(実施例3)
三叉状のスリット16に代えて十字状のスリット17をカッターで形成したこと以外は、実施例2と基本的に同様にして図2(b)に示される針刺通弁3を製造した。この針刺通弁3は以下の寸法を有していた。
基体5:軸線長さ27mm、外径7mm
鍔部8:軸線長さ5mm、外径10mm
案内穴12:深さ10mm、内径2.5mm、底部14の曲率半径R1.25mm
スリット17:軸線長さ17mm、放射方向の延在長さ0.75mm
【0043】
(比較例1)
三叉状のスリット16に代えて1本の一字状のスリットをカッターで形成したこと以外は、実施例2と基本的に同様にして比較例1の針刺通弁を製造した。この針刺通弁は以下の寸法を有していた。
基体5:軸線長さ27mm、外径7mm
鍔部8:軸線長さ5mm、外径10mm
案内穴12:深さ10mm、内径2.5mm、底部14の曲率半径R1.25mm
スリット:軸線長さ17mm、切込長さ1.5mm
【0044】
(中空ボールの製造)
製造した実施例1〜3及び比較例1の針刺通弁を用いて、図3に示される中空ボールを製造した。すなわち、ブチルゴムで中空状に形成された基層71aと、基層71aの外周面上にナイロンを巻き付けてなる補強層71bと、補強層71bの外周面に天然皮革を貼着してなる表皮層71cとを有する球殻71の弁装着部72に製造した針刺通弁を装着して、中空ボールを製造した。各中空ボールの中空内部の内圧を300hPaに調整した。
【0045】
(注入針の摺動性)
このようにして製造した各中空ボールの針刺通弁に、引張試験機(商品名「テンシロン万能材料試験機」、型番:RTM−100、株式会社エー・アンド・デイ製)の測定端子に取り付けた、空気注入用の注入針を模した金属棒(外径1.5mm)を、針挿通弁を貫通するまで圧入した後に抜脱した。圧入及び抜脱時それぞれに生じた最大応力を引張試験機で測定した。この測定を50回行って応力の算術平均値を求めた。その結果、実施例1は7.2N、実施例2は8.0N、実施例3は7.8Nであったのに対して、比較例1は10.2Nであり、摺動性が極めて悪かった。
【0046】
(気密性)
製造した各中空ボールの針刺通弁に、空気注入用の注入針を模した金属棒(外径1.5mm)が針挿通弁を貫通するまで圧入した後に抜脱する挿脱操作を1サイクルとして、連続50サイクルの挿脱操作を繰り返し行った。50サイクルの挿脱操作が終了した後に、「ダイヤル式ボール内圧計」(商品名「デジタル圧力計」、株式会社モルテン製)を用いて各中空ボールの内圧を測定した。その結果、実施例1は260hPa、実施例2は250hPa及び実施例3は240hPaであったのに対して、比較例1は190hPaであり、気密性が著しく低かった。
【符号の説明】
【0047】
1、2、3 針刺通弁
5、6、7 基体
8 鍔部
11 刺通孔
12 案内穴
13 挿通孔
14 底部
16、17 スリット
70 中空ボール
71 球殻
71a 基層
71b 補強層
71c 表皮層
72 弁装着部
72a 鍔収容部
73 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空ボールに装着され、空気注入用の注入針が刺通される刺通孔を有する針刺通弁であって、
前記針刺通弁は、シリコーンオイルを含有するシリコーンゴムで形成され、
前記刺通孔は、軸線方向に延設され、前記注入針の外径よりも大きな外径を有する案内穴と、前記案内穴の底部から前記軸線方向に沿って連設され、前記注入針の断面形状に相似する断面形状を有する挿通孔とを有していることを特徴とする針刺通弁。
【請求項2】
前記挿通孔は、中空ボールに装着されたときに軸線に向かって収縮して閉塞することを特徴とする請求項1に記載の針刺通弁。
【請求項3】
前記挿通孔は、前記軸線方向に沿って実質的に一定の内径を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の針刺通弁。
【請求項4】
前記挿通孔に代えて、前記軸線方向に垂直な平面において三叉状又は十字状になるように、前記案内穴の底部から前記軸線方向に沿って形成されたスリットを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の針刺通弁。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の針刺通弁を備えて成る中空ボール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−90842(P2012−90842A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241726(P2010−241726)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)