説明

針状デバイス、生体成分回収用デバイスおよび生体成分測定システム

【課題】刺すだけで容易に設置可能で、穿刺の際の痛みが小さく、継続して生体成分を測定することができる針状デバイス、生体成分回収用デバイスおよび生体成分測定システムを提供する。
【解決手段】生体成分回収用デバイス12が、針体21と、針体21の側面に設けられた表層膜22と、表層膜22に覆われた導通孔23とを有している。導通孔23は、針体21の末端側の流入口23aから先端側まで伸びて、末端側の排出口23bに循環して戻るよう設けられている。表層膜22は、針体21の先端側に、導通孔23に連通する透析穴24を有している。透析液を貯蔵する透析液タンク13が流入口23aに接続され、送液ポンプ15が透析液を導通孔23に流す。測定手段17が排出口23bから排出された透析液に含まれる生体成分を測定し、排液タンク18が測定後の透析液を貯蔵する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体成分を測定するために使用される針状デバイス、生体成分回収用デバイスおよび生体成分測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体成分は、体の健康状態を知る上で重要な指標であり、一般に、血液や尿、唾液などを用いて、様々な健康状態についての検査が行われている。従来の乳酸やグルコースなどの生体成分を測定する装置として、少量の血液を採取して計測を行うものがある(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
また、従来、脳内や腹部皮下脂肪内の生体成分を回収する方法として、マイクロダイアリシス法が利用されている。この方法は、微細な流路と透析膜とを搭載したプローブを組織に挿入し、浸透圧を利用して必要な生体成分を連続的に回収するものである(例えば、特許文献3参照)。プローブとしては、平型針または中空針などの形が開発されている(例えば、非特許文献1または2参照)。
【0004】
なお、皮下約0.2〜2mmの真皮および皮下2〜4mmの皮下組織に満たされている皮下組織液と血液との間で、血管壁を通して生体成分の交換が行われている。このため、乳酸やグルコースなどの低分子量の生体成分の血液中の濃度は、皮下組織液中の濃度とほぼ平衡状態にあり、それらの間には相関があることが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3978489号公報
【特許文献2】特許第3498105号公報
【特許文献3】特表2006−501912号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jeffrey D. Zahn, et al, “MicrodialysisMicroneedles for Continuous Medical Monitoring”, Biomedical Microdevices, 2005,Vol.7, No.1, p59-69
【非特許文献2】M. Ellmerer, et al, “Continuous measurement ofsubcutaneous lactate concentration during exercise by combining open-flowmicroperfusion and thin-film lactate sensors”, Biosensors & Bioelectronics,1998, Vol.13, p1007-1013
【非特許文献3】伊藤成史, “マイクロバイオセンサを用いた経皮的乳酸濃度計測”, M&BE, 1995, Vol.6, No.4, p275-283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載の血液を採取して生体成分の測定を行うものは、穿刺の際に多少の痛みを伴うという課題があった。また、測定のたびに穿刺して採血する必要があるため、継続して生体成分を測定するのが困難であるという課題もあった。非特許文献1または2に記載のような、マイクロダイアリシス法で従来使用されていたプローブは、設置の際に、手術をしたり、専用の刺入器具を使用したりしなければならず、手間がかかるという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、刺すだけで容易に設置可能で、穿刺の際の痛みが小さく、継続して生体成分を測定することができる針状デバイス、生体成分回収用デバイスおよび生体成分測定システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る針状デバイスは、針体と、前記針体の長さ方向に沿って、前記針体の側面に設けられた表層膜と、前記針体の先端側から末端側に伸びるよう前記表層膜に設けられた導通孔とを、有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る針状デバイスは、その先端から皮膚に刺すことにより、厚さ約0.2mmの表皮を突き抜けて、真皮や皮下組織まで達することができる。このとき、針体の先端側から末端側に伸びるよう設けられた導通孔を利用することにより、皮下組織液中の生体成分を回収したり、測定したりすることができる。乳酸やグルコースなどの低分子量の生体成分は、血液中の濃度と皮下組織液中の濃度とがほぼ平衡状態にあり、それらの間には相関があるため、皮下組織液中の生体成分を測定することにより、血液中の生体成分を測定するのと同様の結果が得られる。このように、本発明に係る針状デバイスは、刺すだけで容易に設置可能であり、どこにでも刺して生体成分を測定することができる。
【0011】
また、針体に、太さが0.2mm程度の鍼灸用の針などの、径が小さい針を利用することにより、穿刺の際の痛みを小さくすることができる。また、径が小さい針を利用することにより、刺したまま日常の諸活動や行動を行っても、針状デバイスが破損したり、出血したりせず、装着感、違和感も極めて小さい。このため、日常の諸活動や行動中でも継続して生体成分を測定することができる。
【0012】
導通孔が表層膜に覆われて設けられており、針体を直接加工する必要がないため、製造が容易で、導通孔を所望の構造に加工しやすい。表層膜は、導通孔を任意に加工できるよう、レーザーアブレーション等により微小加工が可能なポリイミドなどの素材から成ることが好ましい。
本発明に係る針状デバイスは、以下に示すように、生体成分を測定するために、様々な方法で使用することができる。
【0013】
本発明に係る生体成分回収用デバイスは、透析を利用して生体成分を回収するための生体成分回収用デバイスであって、本発明に係る針状デバイスを有し、前記導通孔は、前記針体の末端側に流入口と排出口とを有し、前記流入口から前記針体の先端側まで伸びて前記排出口に循環して戻るよう設けられ、前記表層膜は、前記針体の先端側に、前記生体成分を通過可能に前記導通孔に連通するよう設けられた1または複数の透析穴を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る生体成分回収用デバイスは、透析穴が真皮や皮下組織に位置するよう、先端部を皮膚に刺して使用される。皮膚に刺した状態で、流入口から針体の先端側まで伸びて排出口に循環して戻るよう設けられた導通孔に、透析液を循環させる。これにより、浸透圧を利用して、皮下組織液中の生体成分を、透析穴を通して導通孔内の透析液中に回収することができる。
【0015】
本発明に係る生体成分回収用デバイスは、皮膚に刺す深さを抑えるために、透析穴ができるだけ針体の先端に近い位置に設けられていることが好ましい。透析穴は、分子量の大きいタンパク質等が導通孔に入り込まないよう、測定対象の生体成分の大きさに応じた大きさに形成されていることが好ましい。本発明に係る生体成分回収用デバイスは、導通孔の針体の先端側に、表層膜を貫通して設けられた貫通口を有し、その貫通口を覆うよう設けられた半透膜を有していてもよい。この場合、半透膜に形成されている穴が、透析穴を成している。
【0016】
本発明に係る生体成分測定システムは、本発明に係る生体成分回収用デバイスと、透析液を貯蔵し、前記流入口に接続された透析液タンクと、前記透析液タンクの前記透析液を前記流入口から前記導通孔に流すための送液ポンプと、前記導通孔を通って前記排出口から排出された前記透析液に含まれる前記生体成分を測定可能に設けられた測定手段と、前記測定手段で測定された後の前記透析液を貯蔵する排液タンクとを、有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る生体成分測定システムは、透析液タンクに貯蔵された透析液を、送液ポンプにより流入口から導通孔に流すことにより、導通孔に透析液を循環させることができる。この循環により生体成分が透析液中に回収されるため、排出口から排出された透析液に含まれる生体成分を測定手段で測定することにより、皮下組織液中に含まれると考えられる生体成分を測定することができる。また、送液ポンプで透析液を連続して送り続けることにより、測定手段で生体成分を継続的または間欠的に測定することができ、生体成分の経時的な変化を測定することができる。測定後の透析液は、排液タンクに貯蔵して回収し、廃棄することができる。
【0018】
透析液は、皮下組織液との間で透析を行うことができ、回収した生体成分を分析可能であれば、いかなる成分から成っていてもよい。透析液は、例えば生理食塩水から成っている。測定手段は、測定対象の生体成分を測定可能であればよく、例えば、乳酸やグルコースを測定する場合には、それぞれを測定可能な酵素センサから成っていてもよい。測定手段は、後で測定結果を回収して解析を行えるよう、測定結果を記憶する記憶部を有していてもよい。本発明に係る生体成分測定システムは、測定手段を交換することにより、様々な種類の生体成分を測定することができる。また、測定手段を複数設けることにより、一度に複数種類の生体成分を測定することができる。測定手段で測定した結果を表示する表示手段を有していてもよい。
【0019】
本発明に係る生体成分測定システムおよび生体成分回収用デバイスで、生体成分は、例えば乳酸、グルコース、アルコール、水分、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのイオン、ホルモン成分など、透析により回収可能な生体成分であれば、いかなるものであってもよい。例えば、測定対象の生体成分が乳酸から成る場合には、乳酸濃度との相関が強い運動強度を測定することができる。
【0020】
本発明に係る針状デバイスで、前記導通孔は1対から成り、それぞれ光を通過可能に構成され、前記針体の先端側に開口を有していてもよい。また、この場合、本発明に係る生体成分測定システムは、本発明に係る針状デバイスと、前記針体の末端側から一方の導通孔に光を通す発光手段と、前記針体の末端側で他方の導通孔を通る光を測定する光測定手段とを、有していてもよい。これらの場合、発光手段から発して真皮や皮下組織を通った光を、光測定手段で測定することができる。この測定結果を利用して、真皮や皮下組織中の生体成分の分析を行うことができる。
【0021】
本発明に係る生体成分測定システムは、一方の面に粘着剤層を有する貼付シートを有し、前記針状デバイスは、先端部が前記粘着剤層から突出するよう前記貼付シートに取り付けられ、前記針状デバイス以外の部品は、前記貼付シートの他方の面側に取り付けられていてもよい。この場合、全ての構成要素を貼付シートに一体化することができる。貼付シートを皮膚に貼ることにより、針状デバイスを皮膚に刺した状態で固定することができる。また、貼付シートを貼った状態で、生体成分の測定や分析を行うことができる。これにより、日常の諸活動や行動中でも、外れることなく、継続して生体成分を測定することができる。構成要素を小型化することにより、貼付シートを貼った状態でも気にならず、装着感、違和感が極めて小さく、手軽に生体成分の測定を行うことができる。針状デバイスが生体成分回収用デバイスから成る場合、透析液タンク、送液ポンプ、測定手段および排液タンクが、貼付シートの他方の面側に取り付けられる。また、導通孔に光を通して真皮や皮下組織を通った光を測定する場合、発光手段および光測定手段が、貼付シートの他方の面側に取り付けられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、刺すだけで容易に設置可能で、穿刺の際の痛みが小さく、継続して生体成分を測定することができる針状デバイス、生体成分回収用デバイスおよび生体成分測定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の生体成分測定システムの使用状態を示す(a)ブロック図、(b)生体成分回収用デバイスの先端部の一部拡大断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の生体成分測定システムを示す(a)使用状態の斜視図、(b)斜視図、(c)A−A’線断面図である。
【図3】図2に示す生体成分測定システムの生体成分回収用デバイスの製造工程を示す横断面図である。
【図4】本発明の実施の形態の生体成分測定システムの、生体成分回収用デバイスの変形例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態の生体成分測定システムの、生体成分回収用デバイスの回収機能を確認する実験態様を示す概略側面図である。
【図6】図5に示す実験により得られた、回収された透析液の乳酸濃度(回収液乳酸濃度)と標準液乳酸濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図6は、本発明の実施の形態の針状デバイス、生体成分回収用デバイスおよび生体成分測定システムを示している。
図1および図2に示すように、生体成分測定システム10は、貼付シート11と生体成分回収用デバイス12と透析液タンク13と送水チューブ14と送液ポンプ15と排水チューブ16と測定手段(測定部、センサ)17と排液タンク(廃液タンク)18とを有している。
【0025】
図2に示すように、貼付シート11は、矩形状の両端が円弧状に形成された細長い形状を成し、市販の絆創膏と同じ程度の大きさを有している。貼付シート11は、一方の面に粘着剤層11aを有しており、粘着剤層11aで皮膚の表面に貼付可能になっている。
【0026】
図1(b)に示すように、生体成分回収用デバイス12は、針状デバイスから成り、細長い針体21と、表層膜22と導通孔23と複数の透析穴24とを有している。針体21は、先端部の径が小さくて短い市販の鍼灸用の円皮鍼から成っている。なお、具体的な一例では、針体21は、先端部の太さが約0.2〜0.26mm、長さが約0.3〜1.8mmである。
【0027】
表層膜22は、ポリイミド製で、針体21の先端部から末端部まで、針体21の長さ方向に沿って、針体21の側面を覆うよう設けられている。なお、表層膜22は、針体21の刺入性が保たれるのであれば、針体21の針先を覆っていてもよい。導通孔23は、針体21の先端側から末端側に伸びるよう、表層膜22に設けられている。導通孔23は、表層膜22の針体21側の面に形成されている。導通孔23は、針体21の末端側に流入口23aと排出口23bとを有し、流入口23aから針体21の先端側まで伸びて排出口23bに循環して戻るよう設けられている。各透析穴24は、表層膜22の針体21の先端側に、外部と導通孔23とを連通するよう設けられている。各透析穴24は、測定対象の生体成分を通過可能な大きさに形成されている。
【0028】
図3に示すように、生体成分回収用デバイス12の表層膜22、導通孔23および各透析穴24は、例えば、以下のようにして形成される。まず、図3(a)に示すように、針体21に、表層膜22として、厚さ約20μmのポリイミド(polyimide)膜を電着する。次に、図3(b)に示すように、レーザーアブレーション(波長355nm)でポリイミド膜に、導通孔23となる流路部分(幅50μm)を作製する。図3(c)に示すように、その流路部分に犠牲層として銅(Cu)を電解めっきし、図3(d)に示すように、その上に、透析膜となるポリイミド膜を薄く電着する。図3(e)に示すように、その透析膜に、レーザーアブレーションを用いて約φ10μmの透析穴24を作製し、図3(f)に示すように、銅の犠牲層をエッチング除去して導通孔23を作製する。
【0029】
図2(b)および(c)に示すように、生体成分回収用デバイス12は、その先端部が粘着剤層11aから突出するよう、円環部分を貼付シート11の粘着剤層11aとは反対の面に貼り付けて、貼付シート11に取り付けられている。
【0030】
図1(a)、図2(b)および(c)に示すように、透析液タンク13は、透析液を貯蔵可能に構成され、貼付シート11の粘着剤層11aとは反対側の面の一方の端部に取り付けられている。送水チューブ14は、ポリエチレンチューブから成り、導通孔23の流入口23aと透析液タンク13とを接続するよう設けられている。送液ポンプ15は、透析液タンク13に内蔵され、透析液タンク13の透析液を、送水チューブ14を通して流入口23aから導通孔23に流すよう構成されている。
【0031】
排水チューブ16は、ポリエチレンチューブから成り、導通孔23の排出口23bと排液タンク18とを接続するよう設けられている。測定手段17は、測定対象の生体成分を測定可能な酵素センサから成っている。測定手段17は、貼付シート11の粘着剤層11aとは反対側の面の中央部に取り付けられている。測定手段17は、排水チューブ16を流れる透析液に含まれる生体成分を測定可能に設けられている。排液タンク18は、測定手段17で測定された後の透析液を、排水チューブ16から受けて貯蔵するよう構成されている。排液タンク18は、貼付シート11の粘着剤層11aとは反対側の面の他方の端部に取り付けられている。
【0032】
次に、作用について説明する。
生体成分測定システム10は、透析を利用して生体成分を回収して測定を行うことができる。図1および図2に示すように、生体成分測定システム10は、表皮1を貫通して透析穴24が真皮2や皮下組織に位置するよう、生体成分回収用デバイス12の先端部を皮膚に刺して使用される。貼付シート11を皮膚に貼ることにより、生体成分回収用デバイス12を皮膚に刺した状態で固定することができる。皮膚に刺した状態で、透析液タンク13に貯蔵された透析液を、送液ポンプ15により流入口23aから導通孔23に流すことにより、導通孔23に透析液を循環させることができる。この循環により、浸透圧を利用して、皮下組織液中の生体成分を、透析穴24を通して導通孔23の内側の透析液中に回収することができる。これにより、排出口23bから排出された透析液に含まれる生体成分を測定手段17で測定することで、皮下組織液中に含まれると考えられる生体成分を測定することができる。
【0033】
このように、生体成分測定システム10は、生体成分回収用デバイス12を刺すだけで容易に設置可能であり、どこにでも刺して生体成分を測定することができる。また、送液ポンプ15で透析液を連続して送り続けることにより、測定手段17で生体成分を継続的または間欠的に測定することができ、生体成分の経時的な変化を測定することができる。測定後の透析液は、排液タンク18に貯蔵して回収し、廃棄することができる。
【0034】
生体成分測定システム10は、全ての構成要素が貼付シート11に一体化されており、貼付シート11を貼った状態で、生体成分の測定を行うことができる。これにより、日常の諸活動や行動中でも、外れることなく、継続して生体成分を測定することができる。全ての構成要素が絆創膏の大きさに収まるよう小型化されているため、貼付シート11を貼った状態でも気にならず、装着感、違和感が極めて小さく、手軽に生体成分の測定を行うことができる。
【0035】
生体成分測定システム10は、測定手段17を、測定対象の生体成分が異なるものに交換することにより、様々な種類の生体成分を測定することができる。また、測定手段17を複数設けることにより、一度に複数種類の生体成分を測定することができる。測定対象の生体成分は、例えば乳酸、グルコース、アルコール、水分、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのイオン、ホルモン成分など、透析により回収可能な生体成分であれば、いかなるものであってもよい。例えば、測定対象の生体成分が乳酸から成る場合には、乳酸濃度との相関が強い運動強度を測定することができる。
【0036】
生体成分測定システム10は、針体21に鍼灸用の針を利用しているため、穿刺の際の痛みを小さくすることができる。また、径が小さい針を利用しているため、刺したまま日常の諸活動や行動を行っても、生体成分回収用デバイス12が破損したり、出血したりせず、装着感、違和感も極めて小さい。導通孔23が表層膜22に設けられており、針体21を直接加工する必要がないため、製造が容易で、導通孔23を所望の構造に加工しやすい。
【0037】
なお、透析液は、皮下組織液との間で透析を行うことができ、回収した生体成分を分析可能であれば、いかなる成分から成っていてもよい。分子量の大きいタンパク質等が導通孔23に入り込むと、導通孔23が詰まったり、乳酸等の生体成分の代謝が起こったり、測定手段17の酵素電極にタンパク質等が付着して連続測定が行えなくなったりするため、透析穴24は、測定対象の低分子量の生体成分が通過し、タンパク質等が通過しない、数十ナノメートル程度の径を有していることが好ましい。
【0038】
また、図4に示すように、生体成分回収用デバイス12は、針体21が、直径0.2mmの細長い鍼灸針(例えば、セイリン株式会社製の鍼)から成っていてもよい。この場合にも、穿刺の際の痛みが小さく、出血しにくい。生体成分測定システム10は、例えば、測定手段17で測定した結果に応じて色が変化したり、測定値を表示したりする表示手段を有していてもよい。
【0039】
また、生体成分測定システム10は、貼付シート11を使用して一体化されていなくてもよく、透析液タンク13や送液ポンプ15、排液タンク(廃液タンク)18がシリンジなどを利用して構成されていてもよい。このような場合であっても、生体成分回収用デバイス12を用いることにより、生体成分を回収して測定を行うことができる。生体成分測定システム10は、針体21または表層膜22に、電位を測定するための電極パターンが形成されていてもよい。この場合、神経電位や筋電位と生体成分測定とを組み合わせることができる。
【0040】
また、生体成分測定システム10は、針状デバイスが生体成分回収用デバイス12ではなく、光測定用のデバイスから成っており、導通孔23が1対から成り、それぞれ光を通過可能に構成され、針体21の先端側に開口を有しており、針体21の末端側から一方の導通孔23に光を通す発光手段と、針体21の末端側で他方の導通孔23を通る光を測定する光測定手段とを、有していてもよい。これらの場合、発光手段から発して真皮2や皮下組織を通った光を、光測定手段で測定することができる。この測定結果を利用して、スペクトル解析等を行うことにより、真皮2や皮下組織中の生体成分の分析を行うことができる。各導通孔23は、光を効率良く通すよう、例えば、内部にSiOを充填したSiO光導波路から成っていてもよい。
【実施例1】
【0041】
図5に示すように、生体成分回収用デバイス12の回収機能を確認するために、リン酸緩衝液に乳酸を混ぜた標準液(乳酸標準液)を作製し、それを用いて乳酸が回収できるかどうかの確認実験を行った。図4に示す生体成分回収用デバイス12を用い、測定対象の生体成分を乳酸とし、測定手段17として乳酸を測定可能な酵素センサを用いた。また、透析液として、生理食塩水を用いた。
【0042】
実験では、まず、透析穴24が標準液の内部に配置されるよう、生体成分回収用デバイス12の先端部を標準液に浸した。次に、透析液をシリンジポンプから流入口23aを通して導通孔23に供給し、導通孔23に透析液を循環させ、導通孔23を循環した透析液を、排出口23bから回収シリンジに回収した。このとき、導通孔23の排出口23bの側を回収シリンジで陰圧にすることにより、透析液をより集めやすくした。
【0043】
透析液を10分間流した後、回収された透析液の乳酸濃度を、市販の血中乳酸濃度センサ(製品名「ラクテート・プロ」、アークレイ株式会社製)を用いて測定した。標準液の乳酸濃度は、リン酸緩衝液のみの0mmol/リットル、安静時の血中乳酸濃度の目安である1mmol/リットル、運動時の血中乳酸濃度の目安の6mmol/リットルの3種類を用いた。
【0044】
回収された各透析液の乳酸濃度の測定値と、各標準液を市販の血中乳酸濃度センサで測定したときの乳酸濃度との関係を、図6に示す。図6に示すように、回収された各透析液の乳酸濃度と各標準液の乳酸濃度とはほぼ同じ値を示しており、生体成分回収用デバイス12により乳酸が回収できていることが確認された。
【実施例2】
【0045】
生体成分回収用デバイス12を皮下に刺入した状態で運動が可能かどうかを確認するために、マウスを用いて実験を行った。生体成分回収用デバイス12として、図4に示すものを用いた。マウスの背部の毛を一部剃毛し、そこに生体成分回収用デバイス12を刺入した。その後、テープで生体成分回収用デバイス12をマウスに固定し、マウスにトレッドミル(15m/min)で15分間の運動を行わせた。運動終了後、生体成分回収用デバイス12の表層膜22などが破損していないか、および、マウスの皮膚に影響がないかを確認した。
【0046】
その結果、マウスの運動後であっても、表層膜22の破損等は認められず、マウスの刺入部分の皮膚にも出血等は認められなかった。このことから、生体成分回収用デバイス12を刺したまま運動等を行っても、針体21や表層膜22などが破損したり、出血したりしにくいことが確認された。
【符号の説明】
【0047】
1 表皮
2 真皮
10 生体成分測定システム
11 貼付シート
11a 粘着剤層
12 生体成分回収用デバイス
21 針体
22 表層膜
23 導通孔
23a 流入口
23b 排出口
24 透析穴
13 透析液タンク
14 送水チューブ
15 送液ポンプ
16 排水チューブ
17 測定手段
18 排液タンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
針体と、
前記針体の長さ方向に沿って、前記針体の側面に設けられた表層膜と、
前記針体の先端側から末端側に伸びるよう前記表層膜に設けられた導通孔とを、
有することを特徴とする針状デバイス。
【請求項2】
透析を利用して生体成分を回収するための生体成分回収用デバイスであって、
請求項1記載の針状デバイスを有し、
前記導通孔は、前記針体の末端側に流入口と排出口とを有し、前記流入口から前記針体の先端側まで伸びて前記排出口に循環して戻るよう設けられ、
前記表層膜は、前記針体の先端側に、前記生体成分を通過可能に前記導通孔に連通するよう設けられた1または複数の透析穴を有することを
特徴とする生体成分回収用デバイス。
【請求項3】
請求項2記載の生体成分回収用デバイスと、
透析液を貯蔵し、前記流入口に接続された透析液タンクと、
前記透析液タンクの前記透析液を前記流入口から前記導通孔に流すための送液ポンプと、
前記導通孔を通って前記排出口から排出された前記透析液に含まれる前記生体成分を測定可能に設けられた測定手段と、
前記測定手段で測定された後の前記透析液を貯蔵する排液タンクとを、
有することを特徴とする生体成分測定システム。
【請求項4】
前記導通孔は1対から成り、それぞれ光を通過可能に構成され、前記針体の先端側に開口を有していることを特徴とする請求項1記載の針状デバイス。
【請求項5】
請求項4記載の針状デバイスと、
前記針体の末端側から一方の導通孔に光を通す発光手段と、
前記針体の末端側で他方の導通孔を通る光を測定する光測定手段とを、
有することを特徴とする生体成分測定システム。
【請求項6】
一方の面に粘着剤層を有する貼付シートを有し、
前記針状デバイスは、先端部が前記粘着剤層から突出するよう前記貼付シートに取り付けられ、
前記針状デバイス以外の部品は、前記貼付シートの他方の面側に取り付けられていることを
特徴とする請求項3または5記載の生体成分測定システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−66531(P2013−66531A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205813(P2011−205813)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、株式会社インテリジェント・コスモス研究機構 委託研究「先進予防型健康社会創生クラスター構想(時空を超えたユビキタスな健康管理環境技術の確立」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】