説明

針状体製造方法および針状体

【課題】精度良く形状を調製することの出来る針状体製造方法を提供する。
【解決手段】針状体製造方法は、単結晶シリコン基板10に針状体形状11を形成し、針状体形状が形成された単結晶シリコン基板に結晶異方性ウェットエッチング処理を施す。結晶異方性ウェットエッチングは結晶面によりエッチング速度が異なることが知られており、結晶異方性エッチングを行うことで特定の結晶面のみを表出することが出来る。このため、針状体形状を形成した後に結晶異方性エッチングを行うことで針状体15の形状を結晶面に準拠として調製を行うことが出来、精度良く形状制御を行うことが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状体製造方法および針状体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚上から薬剤を浸透させ体内に薬剤を投与する方法である経皮吸収法は、人体に痛みを与えることなく簡便に薬剤を投与することが出来る方法として用いられているが、薬剤の種類によっては経皮吸収法で投与が困難な薬剤が存在する。これらの薬剤を効率よく体内に吸収させる方法として、ミクロンオーダーの微細な針状体を用いて皮膚を穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、投薬用の特別な機器を用いることなく、簡便に薬剤を皮下投薬することが可能となる(特許文献1参照)。
【0003】
この際に用いる微細な針状体の形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮下に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされ、針状体の直径は数μmから数百μm、針状体の長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数十μmから数百μm程度のものであることが望ましいとされている。
【0004】
より具体的には、最外皮層である角質層を貫通することが求められる。角質層の厚さは人体の部位によっても若干異なるが、平均して20μm程度である。また、角質層の下にはおよそ200μmから350μm程度の厚さの表皮が存在し、さらにその下層には毛細血管が張りめぐる真皮層が存在する。このため、角質層を貫通させ薬液を浸透させるためには少なくとも20μm以上の針が必要となる。また、採血を目的とする針状体を製造する場合には、上記の皮膚の構成から少なくとも350μm以上の高さの針状体が必要となる。
【0005】
また、針状体を構成する材料としては、仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも、人体に悪影響を及ぼさない材料であることが必要であり、この材料としては医療用シリコーン樹脂や、マルトース、デキストラン、キチン、キトサン等の生体適合樹脂が有望視されている(特許文献2参照)。
【0006】
このような微細構造を低コストかつ大量に製造するためには、射出成形法、インプリント法、キャスティング法等に代表される転写成形法が有効であるが、いずれの方法においても成形を行うためには所望の形状を凹凸反転させた原型が必要であり、針状体のようなアスペクト比(構造体の幅に対する高さ、もしくは深さの比率)が高く、先端部の先鋭化が必要である構造体を形成するためには、その製造工程が非常に複雑となる。
【0007】
上述した構造体を形成する方法の一例として、リソグラフィおよびドライエッチング加工を用いた針状体製造方法が提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】米国特許第6,183,434号明細書
【特許文献2】特開2005−21677号公報
【特許文献3】特開2006−341089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、微細構造であるため針状体形状について、精度良く形状を調製するのは困難である。
【0009】
例えば、ドライエッチング中に条件を変更し、形状を調製する場合、ドライエッチングの機構は非常に複雑な為、当該技術に精通した者でも所望する形状に応じた条件出しには多大な時間を要する。
【0010】
そこで、本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、精度良く形状を調製することの出来る針状体製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の本発明は、単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程と、前記針状体形状が形成された前記単結晶シリコン基板に結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程と、を備えたことを特徴とする針状体製造方法である。
【0012】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の針状体製造方法であって、単結晶シリコン基板は、基板表面の結晶面がSi{100}面である単結晶シリコン基板であり、単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程にあたり、針状体形状は基板表面に対し略垂直の方向に屹立するように形成することを特徴とする針状体製造方法である。
【0013】
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の針状体製造方法であって、結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程より以前に、単結晶シリコン基板に針状体形状を支持する凸部の台座を形成することを特徴とする針状体製造方法である。
【0014】
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の針状体製造方法を用いて製造された針状体を原版とした複製版を形成し、前記複製版を用いて転写加工成形を行うことを特徴とした針状体製造方法である。
【0015】
請求項5に記載の本発明は、単結晶シリコン基板と、前記単結晶シリコン基板上に形成された針状体形状と、前記単結晶シリコン基板と前記針状体形状の根元との境界部に前記針状体形状の先端部の傾斜角とは異なる傾斜角を持つ根元斜面と、を備え前記根元斜面の結晶面はSi{111}面であることを特徴とする針状体である。
【0016】
請求項6に記載の本発明は、請求項5に記載の針状体であって、単結晶シリコン基板は、針状体形状を支持する凸部の台座を備えた単結晶シリコン基板であり、前記凸部の台座は、凸部の台座の外縁部がSi{111}面により面取りされていることを特徴とする針状体である。
【0017】
請求項7に記載の本発明は、請求項5に記載の針状体を転写加工成形することにより形成された針状体であって、根元斜面の傾斜角度は略54.7度であることを特徴とする針状体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の針状体製造方法は、単結晶シリコン基板に針状体形状を形成し、針状体形状が形成された単結晶シリコン基板に結晶異方性ウェットエッチング処理を施す。結晶異方性ウェットエッチングは結晶面によりエッチング速度が異なることが知られており、結晶異方性エッチングを行うことで特定の結晶面のみを表出することが出来る。このため、針状体形状を形成した後に結晶異方性エッチングを行うことで針状体の形状を結晶面に準拠として調製を行うことが出来、精度良く形状制御を行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の針状体製造方法の実施の一例について、説明を行う。
【0020】
<単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程>
まず、単結晶シリコン基板上に、針状体形状を形成する。
針状体形状の形成方法は、公知の技術を用いて形成して良いが、機械加工やエッチング加工、リソグラフィ加工の様に同一構造の針状体をアレイ状に一括形成出来る方法が好ましい。
このとき、形成する針状体形状は針状体用途に応じて適宜設計される。例えば、針状体形状がアレイ状に配列された針状体であってもよい。ここで、「アレイ状」とは、各単位針状体が規則的に並んでいる状態を示すものであり、例えば、碁盤目状、蜂の巣状(ハニカム構造)、同心円状などのパターンを含むものとする。
【0021】
<結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程>
次に、針状体形状が形成された単結晶シリコン基板に結晶異方性ウェットエッチング処理を施す。結晶異方性ウェットエッチング処理は適宜公知の方法を用いてよい。
また、結晶異方性ウェットエッチング溶液は、シリコンに対して有効なKOH溶液やTMAH溶液を用いるのが好ましい。KOH溶液やTMAH溶液を用いたシリコンのエッチングでは、Si{111}面が他の面に対して、極端にエッチングレートが遅いために、エッチングの進行と共にSi{111}面が析出する。
【0022】
また、単結晶シリコン基板は、基板表面の結晶面がSi{100}面である単結晶シリコン基板であり、単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程にあたり、針状体形状は基板表面に対し略垂直の方向に屹立するように形成することが好ましい。
基板表面垂直方向および針状体形状の斜面垂直方向は、結晶異方性ウェットエッチングにより、エッチングされながら後退していく。このため、「基板表面の結晶面がSi{100}面である単結晶シリコン基板であり、単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程にあたり、針状体形状は基板表面に対し略垂直の方向に屹立するように形成すること」により、単結晶シリコン基板と針状体形状の根元との境界部に根元斜面としてSi{111}面が析出する。ここで、基板面がSi{100}面の場合、根元斜面は基板面に対して54.7度の面角度である。
よって、先端部と根元部で異なる傾斜角を持ち、先端部は穿刺能の高い傾斜を保持したままで、強度の高い針状体を好適に製造することが出来る。
従来技術では、針状体の先端部から根元部までの傾斜角が常に一定で構成されており、穿刺能の高い先端傾斜角を根元まで継続した形状では、針状体のようなアスペクト比の高い構造では穿刺に耐え得る強度が低下する。逆に穿刺に耐え得るだけの傾斜を根元部に持たせ、その傾斜を先端部まで継続すると穿刺能が低下する恐れがある。
【0023】
また、結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程より以前に、単結晶シリコン基板に針状体形状を支持する凸部の台座を形成することが好ましい(図2(a))。
結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程より以前に、凸部の台座を形成した場合、該凸部の台座は結晶異方性エッチングにより、外縁部にSi{111}面が析出する(図2(b))。このため、凸部の台座の外縁部に析出したSi{111}面は、外形の面取りの効果を果たす。
このように、凸部の台座の外縁部が面取りされることにより、人体に針状体の穿刺を行う際に、皮膚への刺激を緩和できるという効果を奏する。
また、本針状体を原版として転写による複製を行う際に、上記面取り形状が転写時にかかる応力を緩和する役割を果たし、複製版の破損を抑制するという効果を奏する。
【0024】
以上より、本発明の針状体の製造方法を実施することが出来る。なお、本発明の針状体の製造方法は上記実施の形態に限定されず、各工程において類推することのできる他の公知の方法をも含むものとする。
【0025】
<転写加工成形>
また、本発明の針状体製造方法を用いて製造された針状体を原版とした複製版を形成し、前記複製版を用いて転写加工成形を行ってもよい。
以下、具体的に、転写加工成形について説明を行う。
【0026】
まず、上述の方法によって形成された針状体を版型として、版型上に充填層を形成し、充填層を針状体版型から剥離する事で凹型の複製版を形成する。一体成形された機械的強度の高い複製版を作製することにより、同一の複製版で多量の針状体を製造することが出来るため、生産コストを低くし、生産性を高めることが可能となる。
【0027】
このとき、充填層の材料としては、特に制限されず、複製版として機能するだけの形状追従性、後述する転写加工成形における転写製、耐久性および離型性を考慮した材質を選択することが出来る。例えば、充填層としてニッケル、熱硬化性のシリコーン樹脂などを用いても良い。ニッケルを選択した場合、充填層の形成方法としては、メッキ法、PVD法、CVD法などが挙げられる。
【0028】
また、充填層と針状体の剥離方法としては、物理的な剥離力による剥離または選択性エッチング法などを用いることが出来る。
【0029】
次に、複製版に針状体材料を充填する。
針状体材料は特に制限されない。また、針状体材料の充填方法についての制限は無いが、生産性の観点から、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法およびキャスティング法を好適に用いることが出来る。
【0030】
次に、針状体材料を複製版から離型し、転写成形された針状体を得る。
このとき、複製版の剥離性を向上させるために、針状体材料の充填前に、複製版の表面上に離型効果を増すための離型層を形成してもよい。
離型層としては、例えば広く知られているフッ素系の樹脂を用いることが出来る。
また、離型層の形成方法としては、PVD法、CVD法、スピンコート法、ディップコート法等の薄膜形成手法を好適に用いることができる。
【0031】
本発明の針状体製造方法を用いて製造された針状体を転写加工成形することにより形成された針状体の根元斜面の傾斜角度は略54.7度である。ここで、略54.7度の略とは±2度を誤差の範囲とすることをいう。一般的に転写加工成形を行うと充填材料の収縮などにより、±2度程度の変動が起こる。
【実施例】
【0032】
<実施例1>
まず、基板として、基板表面の結晶面がSi{100}面である厚さ525μmの単結晶シリコン基板10を用意した(図1(a))。
【0033】
次に、傾斜角が80度のダイジングブレードを用い、単結晶シリコン基板を碁盤目状に研削加工を行った(図1(b))。
このとき、研削加工によって形成される針状体形状11の上部平面を一辺の長さが10μmの正方形状とした。また、加工深さは250μmとした。
【0034】
次に、針状体形状11が形成された単結晶シリコン基板10にウェットエッチング溶液13を用いて、結晶異方性ウェットエッチング処理を施した(図1(c))。ウェットエッチング溶液13には90℃に加熱した24%KOH溶液を用いた。また、単結晶シリコン基板10をウェットエッチング溶液13の中に4分間浸漬した。
これにより、Si{111}面が選択的に表出し、針状体形状の根元に針状体形状の先端部の傾斜角とは異なる傾斜角を持つ根元斜面が形成された(図1(d))。
【0035】
以上の工程より、先端角が20度であり、基板から30μmの高さまでは、基板との為す角が54.7度で、30μmから250μmの高さまでは、基板とのなす角度が10度の針状体15が形成できた(図1(e))。
【0036】
<実施例2>
実施例1で作製した針状体を原版とし、転写加工成形を行った。
【0037】
まず、実施例1で作製した針状体に充填層としてニッケルを電鋳法で形成した。メッキ浴にはスルファミン酸ニッケル溶液を用いた。60%スルファミン酸溶液を用い、浴温は45℃として5時間のメッキ処理により充填層を形成した。
【0038】
次に、原版である単結晶シリコンからなる針状体に、25%KOH溶液を用いて80℃で4時間溶解処理を施し、複製版を作製した。
【0039】
次に、複製版に対し、インプリント法を用いて針状体の作製を行った。
充填する針状体材料として、ポリカーボネート樹脂を用いた。
【0040】
以上より、ポリカーボネート樹脂から成る針状体を製造できた。形状が転写されたポリカーボネ−ト製の針状体において、根元斜面は略54.7度であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の針状体製造方法は、錐形状の3次元構造パターンを形成することが求められる広範な分野に利用することが期待される。
前記広範な分野としては、例えば、半導体デバイス、光学素子、配線回路、データストレージメディア(ハードディスク、光学メディアなど)、医療用部材(分析検査用チップ、マイクロニードルなど)、化粧品用途マイクローニードル、バイオデバイス(バイオセンサ、細胞培養基板など)、精密検査機器用部材(検査プローブ、試料保持部材など)、ディスプレイパネル、パネル部材、エネルギーデバイス(太陽電池、燃料電池など)、マイクロ流路、マイクロリアクタ、MEMSデバイスなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の針状体製造方法一実施形態における概略断面工程図である。
【図2】本発明の針状体製造方法一実施形態における概略断面工程図である。
【符号の説明】
【0043】
10……単結晶シリコン基板
11……針状体形状
12……凸部の台座
13……ウェットエッチング溶液
14……Si{111}面
15……針状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程と、
前記針状体形状が形成された前記単結晶シリコン基板に結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程と、を備えたこと
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の針状体製造方法であって、
単結晶シリコン基板は、基板表面の結晶面がSi{100}面である単結晶シリコン基板であり、
単結晶シリコン基板に針状体形状を形成する工程にあたり、針状体形状は基板表面に対し略垂直の方向に屹立するように形成すること
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の針状体製造方法であって、
結晶異方性ウェットエッチング処理を施す工程より以前に、
単結晶シリコン基板に針状体形状を支持する凸部の台座を形成すること
を特徴とする針状体製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の針状体製造方法を用いて製造された針状体を原版とした複製版を形成し、前記複製版を用いて転写加工成形を行うこと
を特徴とした針状体製造方法。
【請求項5】
単結晶シリコン基板と、
前記単結晶シリコン基板上に形成された針状体形状と、
前記単結晶シリコン基板と前記針状体形状の根元との境界部に前記針状体形状の先端部の傾斜角とは異なる傾斜角を持つ根元斜面と、を備え
前記根元斜面の結晶面はSi{111}面であること
を特徴とする針状体。
【請求項6】
請求項5に記載の針状体であって、
単結晶シリコン基板は、針状体形状を支持する凸部の台座を備えた単結晶シリコン基板であり、
前記凸部の台座は、凸部の台座の外縁部がSi{111}面により面取りされていること
を特徴とする針状体。
【請求項7】
請求項5に記載の針状体を転写加工成形することにより形成された針状体であって、
根元斜面の傾斜角度は略54.7度であること
を特徴とする針状体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−46722(P2010−46722A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210522(P2008−210522)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】