説明

針状表面微粒子及びその製造方法

【課題】多数の針状構造を表面に有する金属錯体含有する金属錯含有有機無機複合体微粒子、および該粒子の簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーと金属イオンとからなる金属錯体により、該金属錯体をシリカ内部に含有する微細針状表面の複合微粒子が誘導され、微粒子の表面にナノ次元の針状構造を多数有する針状表面微粒子を実現できる。得られる針状表面微粒子の針状構造および粒子の空間構造は、金属イオン種や金属錯体支持媒体を変化させることで制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーと金属イオンとからなる金属錯体と、シリカとを含有する微粒子であって、その表面が微細な針状構造を有する、針状表面微粒子、及び該針状表面微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体をシリカに固定させた複合材料は、化学反応触媒、電気化学センサー、固体ポリマー電解質などの用途に有効に利用できる。特に、メソポーラスシリカに金属錯体を導入した複合体は、シリカ表面の広い表面積、シリカ内部のナノ空洞での錯体活性点の幅広い分布、基質化合物の速い拡散、触媒担持体の高耐熱性、高耐酸性などの多くの利点が予測されることから、メソポーラスシリカを担持体とする金属錯体固定化技術は多くの注目を集めている(例えば、非特許文献1〜6参照。)。
【0003】
しかし、これら従来の金属錯体とシリカとの複合材料中の金属錯体は、低分子の配位子を有するものに限られており、複合材料中の金属やシリカの含有率を用途に応じて所望の値に調整したり、複合材料中で金属錯体を均一に分布させたりすることが困難である。また、その形状においては、原料として用いるシリカの形状(粉末又は球状)に依存し、それらが微細針状表面の微粒子形状(モルフォロジー)を形成することはない。
【0004】
また、製造方法においては、シリカ骨格にアミノ基、イミノ基などを化学結合で導入し、それに金属イオンを配位結合させる工程により複合体を得るなど、その工程は煩雑であった。
【0005】
【非特許文献1】C.T.Kresge et al.、Nature、1992年、359巻、710〜712頁
【非特許文献2】A.Monnier et al.、Science、1993年、261巻、1299〜1303頁
【非特許文献3】S.A.Davis et al.、Nature、1997年、385巻、420〜423頁
【非特許文献4】T.Kang et al.、J.Mater.Chem.、2004年、14巻、1043〜1049頁
【非特許文献5】B.Lee et al.、Langmuir、2003年、19巻、4246〜4252頁
【非特許文献6】K.Zakir et al.、Adv.Mater.、2002年、14巻、1053〜1056頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーの金属錯体を含有し、表面積が大きく、微細針状表面の微粒子形状を有する金属錯体含有シリカ微粒子、および該微粒子の簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)に金属イオン(b)を添加すると、容易に金属錯体(X)が得られ、水の存在下では該金属錯体(X)が相互に会合した会合体を形成し、該会合体を反応場とする、アルコキシシランを用いたゾルゲル反応によって、微細な針状表面形状を有し、且つシリカ内部に該金属錯体を有する微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と、前記ポリマーと錯体を形成できる金属イオンと、シリカ(Y)とを含有し、粒子表面形状が微細針状である粒子形状を有することを特徴とする針状表面微粒子を提供するものである。
さらに本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)と、シリカ(Y)とを含有し、且つ、微細針状表面の粒子形状を有する針状表面微粒子を提供するものである。
【0009】
さらに本発明は、(1)直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と、金属イオン(b)とを水性媒体に溶解し、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)の会合体を得る工程と、
(2)水の存在下で、前記金属錯体(X)の会合体を反応場とし、アルコキシシランを用いてゾルゲル反応を行う工程、
を有する針状表面微粒子の製造方法をも提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の針状表面微粒子は、微粒子の表面にナノ次元の針状構造を多数有することから、従来の単なる微粒子と比較し、格段にその表面積が拡大している。また、針状表面微粒子内部には、金属イオンの濃縮や還元能力に優れるポリエチレンイミン鎖を含有することから当該ポリエチレンイミン鎖に由来する特性も有する。
【0011】
また、本発明の針状表面微粒子は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーと金属イオンとのポリマー金属錯体が会合体となり、該会合体を足場とするゾルゲル反応で針状構造を有するシリカ粒子を誘導し、該シリカ内部に前記ポリマー金属錯体が取り込まれることで形成されるため、メソポーラスシリカに金属錯体を担持させる方法とは異なり、該金属錯体が均一に分布した微粒子とすることが出来る。得られる針状表面微粒子の針状構造および微粒子の空間構造は、金属イオン種や直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーの構成や形状等を変化させることで容易に制御することができ、そのモルフォロジーは多様にわたるものであり、用途に応じた設計をすることができる。
【0012】
さらに、直鎖状ポリエチレンイミン鎖中のエチレンイミン単位は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などの各種金属イオンと錯体形成可能である基であることから、本発明の針状表面微粒子はこれらの多種多様な金属イオンを含有することができる。即ち金属イオン種によらず、単一な方法で、ポリマー金属錯体を取り込んだシリカ微粒子を得ることができ、複数の金属種を有する微粒子も同様に容易に調整できる。
【0013】
このような、本発明の針状表面微粒子は、固体電解質、固体触媒、ナノ添加剤、ナノ薄膜材料への応用が期待できる。またこれら金属イオンの金属錯体を含有する針状表面微粒子を、熱処理または還元剤で処理することで、金属錯体を金属ナノ粒子に変えることができることから、ナノ金属粒子含有材料としての応用もある。
【0014】
又、本発明の針状表面微粒子の製造方法は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーと、金属イオンとを水性媒体に溶解し、金属錯体の会合体を得る工程と、水の存在下で、前記金属錯体の会合体を反応場とし、アルコキシシランを用いてゾルゲル反応を行う工程からなる、簡便な方法であり、特段の装置を必要としないため、工業的生産にも好適に用いる事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の針状表面微粒子は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と少なくとも一種の金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)と、シリカ(Y)とを含有し、且つ、微細針状表面の粒子形状を有するものである。
【0016】
[直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)]
本発明でいう直鎖状ポリエチレンイミン鎖とは、二級アミンのエチレンイミン単位を主たる構造単位とするポリマー鎖をいう。該鎖中においては、エチレンイミン単位以外の構造単位が存在していてもよいが、ポリマー鎖の一定鎖長が連続的なエチレンイミン単位であることが好ましい。該直鎖状ポリエチレンイミン鎖の長さは、該鎖を有するポリマーが金属イオン(b)と錯化して金属錯体(X)を形成した際に、ポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)の会合体を形成できる範囲であればよく、好適に金属錯体(X)の会合体を形成するためには、該鎖部分のエチレンイミン単位の繰り返し単位数が10以上であることが好ましく、20〜10000の範囲であることが特に好ましい。線状ポリエチレンイミンは熱水中では可溶であるが、室温では結晶化して結晶性会合体として存在する。また、これらの結晶は限られた有機溶媒中にしか溶解しない。この性質は1級、2級、3級アミンから構成される多分岐状ポリエチレンイミンにおける結晶性を持たない性質や水と通常の有機溶媒に完全に溶解する性質とは全く異なる。直鎖状のポリエチレンイミンの場合、分子鎖中の繰り返し単位−CH−CH−NH−間に強い水素結合が生じ、二重らせん、又は、オールトランスジグザグ(all−trans zigzag)のコンホメーションを形成することで結晶化する性質を有するが、多分岐状ポリエチレンイミンの場合、水素結合由来の空間構造を形成しないため、結晶化もしない。本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)も上記直鎖状ポリエチレンイミン鎖の特殊な性質を有するものであり、この性質を利用して得られたものが、本発明の微粒子である。
【0017】
本発明において使用する直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)〔以下、該ポリマーを単にポリマー(a)と略記する。〕は、その構造中に上記直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するものであればよく、ポリマー(a)の構造が線状、星状または櫛状であってもよい。ポリマー(a)は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有することから、水性媒体(ここで、水性媒体とは水または水と水溶性有機溶媒との混合溶媒をいう。)中で、エチレンイミン単位部分が金属イオン(b)と錯化し、金属錯体(X)を与えることができる。
【0018】
また、ポリマー(a)は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖のみからなるものであっても、直鎖状ポリエチレンイミン鎖からなるブロック(以下、ポリエチレンイミンブロックと略記する。)と他のポリマーブロックとのブロックコポリマーからなるものであってもよい。他のポリマーブロックとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピオニルエチレンイミン、ポリアクリルアミドなどの水溶性のポリマーブロック、あるいは、ポリスチレン、ポリオキサゾリン類のポリフェニルオキサゾリン、ポリオクチルオキサゾリン、ポリドデシルオキサゾリン、ポリアクリレート類のポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなどの疎水性のポリマーブロックを挙げることができる。これらのその他のポリマーブロックとのブロックコポリマーとすることで、金属錯体(X)の会合体の形状を調整することができ、その結果、得られる針状表面微粒子の形状や特性の調整が可能となる。
【0019】
ポリマー(a)がブロックコポリマーである場合の該ポリマー(a)中における直鎖状ポリエチレンイミン鎖の割合は、金属錯体(X)の会合体を形成できる範囲であれば良く、より安定な会合体が得られる点から、ポリマー(a)中の直鎖状ポリエチレンイミン鎖の割合が40モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
ポリマー(a)の製造方法としては、特に限定されるものではないが、製造方法が容易である点から、その前駆体となるポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を有するポリマー(以下、前駆体ポリマーと略記する。)を、酸性条件下またはアルカリ条件下で加水分解する方法が好ましい。従って、ポリマー(a)の線状、星状、または櫛状などの形状は、この前駆体ポリマーの形状を制御することで容易に設計することができる。また、重合度や末端構造も、前駆体ポリマーの重合度や末端機能団を制御することで容易に調整できる。さらに、ポリマー(a)が前述のブロックコポリマーである場合には、前駆体ポリマーを直鎖状のポリオキサゾリン骨格と、その他のポリマーブロックとからなるブロックコポリマーとし、該前駆体ポリマー中の直鎖状ポリオキサゾリン骨格を選択的に加水分解し、直鎖状ポリエチレンイミン鎖とすることで得ることができる。
【0021】
前駆体ポリマーは、オキサゾリン類のモノマーを使用して、カチオン型の重合法、あるいは、マクロモノマー法などの合成方法により合成することができ、合成方法や開始剤を適宜選択することにより、線状、星状、あるいは櫛状などの各種形状の前駆体ポリマーを得ることが出来る。
【0022】
ポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格を形成するモノマーとしては、例えば、メチルオキサゾリン、エチルオキサゾリン、メチルビニルオキサゾリン、フェニルオキサゾリンなどのオキサゾリンモノマー等が挙げられる。
【0023】
重合開始剤としては、分子中に塩化アルキル基、臭化アルキル基、ヨウ化アルキル基、トルエンスルホニルオキシ基、あるいはトリフルオロメチルスルホニルオキシ基などの官能基を有する化合物を使用できる。これら重合開始剤は、多くのアルコール類化合物の水酸基を他の官能基に変換させることで得られる。なかでも、官能基変換として、臭素化、ヨウ素化、トルエンスルホン酸化、およびトリフルオロメチルスルホン酸化されたものは重合開始効率が高いため好ましく、特に臭化アルキル基、トルエンスルホン酸アルキル基としたものが好ましい。
【0024】
また、ポリ(エチレングリコール)の末端ヒドロキシル基を臭素あるいはヨウ素に変換したもの、またはトルエンスルホニル基に変換したものを重合開始剤として使用することもできる。その場合、ポリ(エチレングリコール)の重合度は5〜100の範囲であることが好ましく、10〜50の範囲であれば特に好ましい。
【0025】
また、カチオン開環リビング重合開始能を有する官能基を有し、かつ光による発光機能、エネルギー移動機能、電子移動機能を有するポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、またはピレン骨格のいずれかの骨格を有する色素類は、得られるポリマーに特殊な機能を付与することができ、ひいては、得られる針状表面微粒子にもそれらの特殊な機能を付与することも可能である。
【0026】
線状の前駆体ポリマーは、上記オキサゾリンモノマーを1価または2価の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。このような重合開始剤としては、例えば、塩化メチルベンゼン、臭化メチルベンゼン、ヨウ化メチルベンゼン、トルエンスルホン酸メチルベンゼン、トリフルオロメチルスルホン酸メチルベンゼン、臭化メタン、ヨウ化メタン、トルエンスルホン酸メタンまたはトルエンスルホン酸無水物、トリフルオロメチルスルホン酸無水物、5−(4−ブロモメチルフェニル)−10,15,20−トリ(フェニル)ポルフィリン、またはブロモメチルピレンなどの1価のもの、ジブロモメチルベンゼン、ジヨウ化メチルベンゼン、ジブロモメチルビフェニレン、またはジブロモメチルアゾベンゼンなどの2価のものが挙げられる。また、ポリ(メチルオキサゾリン)、ポリ(エチルオキサゾリン)、または、ポリ(メチルビニルオキサゾリン)などの工業的に使用されている線状のポリオキサゾリンを、そのまま前駆体ポリマーとして使用することもできる。
【0027】
星状の前駆体ポリマーは、上記したようなオキサゾリンモノマーを3価以上の官能基を有する重合開始剤により重合することで得られる。3価以上の重合開始剤としては、例えば、トリブロモメチルベンゼン、などの3価のもの、テトラブロモメチルベンゼン、テトラ(4−クロロメチルフェニル)ポルフィリン、テトラブロモエトキシフタロシアニンなどの4価のもの、ヘキサブロモメチルベンゼン、テトラ(3,5−ジトシリルエチルオキシフェニル)ポルフィリンなどの5価以上のものが挙げられる。
【0028】
櫛状の前駆体ポリマーを得るためには、多価の重合開始基を有する線状のポリマーを用いて、該重合開始基からオキサゾリンモノマーを重合させることで合成することが出来る。例えば、通常のエポキシ樹脂やポリビニルアルコールなどの側鎖にヒドロキシル基を有するポリマーの該ヒドロキシル基を、臭素やヨウ素等でハロゲン化するか、あるいはトルエンスルホニル基に変換させた後、該変換部分を重合開始基として用いることでも得ることができる。
【0029】
また、櫛状の前駆体ポリマーを得る方法として、ポリアミン型重合停止剤を用いることもできる。例えば、一価の重合開始剤を用い、オキサゾリンを重合させ、そのポリオキサゾリンの末端をポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリプロピルアミンなどのポリアミンのアミノ基に結合させることで、櫛状のポリオキサゾリンを得ることができる。
【0030】
上記により得られる前駆体ポリマーのポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格部分の加水分解は、酸性条件下またはアルカリ条件下のいずれの条件下でもよい。
【0031】
酸性条件下での加水分解は、例えば、塩酸水溶液中で前駆体ポリマーを加熱下で攪拌する方法が挙げられ、ポリエチレンイミンユニットが塩酸塩となったポリマーを得ることができる。得られた塩酸塩を過剰のアンモニア水で処理することで、塩基性のポリエチレンイミンユニットを有するポリマーの粉末を得ることができる。用いる塩酸水溶液は、濃塩酸でも、1mol/L程度の水溶液でもよいが、加水分解を効率的に行うには、5mol/Lの塩酸水溶液を用いることが望ましい。また、反応温度は70〜90℃であることが好ましい。
【0032】
アルカリ条件下での加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用い、ポリオキサゾリンユニットをポリエチレンイミンユニットに変換させる方法が挙げられる。アルカリ条件下で反応させた後、反応液を透析膜にて洗浄することで、過剰な水酸化ナトリウムを除去し、ポリエチレンイミンユニットを有するポリマーの粉末を得ることができる。用いる水酸化ナトリウムの濃度は1〜10mol/Lの範囲であればよく、より効率的な反応を行うには3〜5mol/Lの範囲であることが好ましい。また、反応温度は70〜90℃であることが好ましい。
【0033】
酸性条件下またはアルカリ条件下での加水分解における、酸またはアルカリの使用量としては、ポリマー(a)中のオキサゾリン単位に対し、1〜10当量でよく、反応効率の向上と後処理の簡便化のためには、2〜4当量とすることが好ましい。
【0034】
上記加水分解により、前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状の骨格が、直鎖状ポリエチレンイミン鎖となり、該ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーが得られる。
【0035】
また、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと他のポリマーブロックとのブロックコポリマーを形成する場合には、前駆体ポリマーをポリオキサゾリン類からなる直鎖状のポリマーブロックと、他のポリマーブロックとからなるブロックコポリマーとし、該前駆体ポリマー中のポリオキサゾリン類からなる直鎖状のブロックを選択的に加水分解することで得ることができる。
【0036】
他のポリマーブロックが、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)などの水溶性ポリマーブロックである場合には、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)が、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)やポリ(N−アセチルエチレンイミン)に比べて、有機溶媒への溶解性が高いことを利用してブロックコポリマーを形成することができる。即ち、2−オキサゾリンまたは2−メチル−2−オキサゾリンを、前記した重合開始化合物の存在下でカチオン開環リビング重合した後、得られたリビングポリマーに、さらに2−エチル−2−オキサゾリンを重合させることによって、ポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとからなる前駆体ポリマーを得る。該前駆体ポリマーを水に溶解させ、該水溶液にポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックを溶解する水と非相溶の有機溶媒を混合して攪拌することによりエマルジョンを形成する。該エマルジョンの水相に、酸またはアルカリを添加することによりポリ(N−ホルミルエチレンイミン)ブロックまたはポリ(N−アセチルエチレンイミン)ブロックを優先的に加水分解することにより、直鎖状ポリエチレンイミンブロックと、ポリ(N−プロピオニルエチレンイミン)ブロックとを有するブロックコポリマーを形成できる。
【0037】
ここで使用する重合開始化合物の価数が1および2の場合には、直鎖状のブロックコポリマーとなり、それ以上の価数であれば星型のブロックコポリマーが得られる。また、前駆体ポリマーを多段のブロックコポリマーとすることで、得られるポリマーも多段のブロック構造とすることも可能である。
【0038】
[金属イオン(b)]
本発明で用いる金属イオン(b)は、上記したポリマー(a)中のポリエチレンイミン鎖の有する強い配位能力により該鎖中のエチレンイミン単位と配位結合して金属錯体(X)を形成するものである。該金属錯体(X)は金属イオン(b)がエチレンイミン単位に配位されることにより得られるものであるため、イオン結合等の過程と異なり、金属イオンがカチオンでも、または酸化金属アニオンでも、エチレンイミン単位の配位により錯体を形成する。従って、金属イオン(b)の金属種としては、ポリマー(a)中のエチレンイミン単位と配位結合できるものであれば制限されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、周期表の第12族の金属、周期表第13−16族の半金属、ランタン系金属、ポリオキソメタレート類の金属化合物等が挙げられ、特に、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、周期表第12族の金属、周期表第13−16族の半金属を好ましく使用できる。
【0039】
上記アルカリ金属イオンとしては、Li,Na,K,Cs等のイオンが挙げられる。アルカリ金属イオンの対アニオンとしては、Cl,Br,I,NO,SO,PO,ClO,PF,BF,FCSOなどを好適に用いることができる。
【0040】
アルカリ土類金属イオンとしては、Mg,Ba,Ca等のイオンが挙げられる。
【0041】
遷移金属系イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、または遷移金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MOn−)、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLn−)であっても、錯体形成に好適に用いることができる。なお、本明細書において遷移金属とは、周期表第3族のSc,Y、及び、第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0042】
遷移金属カチオンとしては、下記の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,W,Os,Ir,Pt,Au,Hgの一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO,SO、またはポリオキソメタレート類アニオン、あるいはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、ポリエチレンイミン鎖により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制することで、錯体を調製することが好ましい。
【0043】
また遷移金属アニオンとしては、下記の遷移金属アニオン(MOn−)、例えば、MnO,MoO,ReO,WO,RuO,CoO,CrO,VO,NiO,UO等のアニオンが挙げられる。
【0044】
本発明の金属イオン(b)としては、上記遷移金属アニオンが、ポリマー(a)中のエチレンイミン単位に配位した金属カチオンを介してシリカ中に固定された、ポリオキソメタレート類の金属化合物の形態であってもよい。該ポリオキソメタレート類の具体例としては、遷移金属カチオンと組み合わせられたモリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩類をあげることができる。
【0045】
さらに、下記の金属が含まれたアニオン(MLn−)、例えば、AuCl,PtCl,RhCl,ReF,NiF,CuF,RuCl,InCl等の、金属がハロゲンに配位されたアニオンも錯体形成に好適に用いることができる。
【0046】
また、第12族金属としては、Zn,Cd,Hgを使用できる。
【0047】
また、半金属系イオンとしては、Al,Ga,In,Tl,Ge,Sn,Pb,Sb,Biのイオンが挙げられ、なかでもAl,Ga,In,Sn,Pb,Tlが好ましい。
【0048】
ランタン系金属イオンとしては、例えば、La,Eu,Gd,Yb,Euなどの3価のカチオンが挙げられる。
【0049】
[金属錯体(X)]
本発明における金属錯体(X)は、上記のとおり金属イオン(b)がポリマー(a)中のエチレンイミン単位に配位したものである。該金属錯体(X)は、水の存在下で相互に会合して会合体を形成し、針状表面形状を誘導する。
【0050】
ポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)形成の際、ポリマー(a)中のエチレンイミン単位と金属イオン(b)とのモル比を5/1〜100/1にすることが望ましいが、針状表面構造を効率的に誘導するには、その比が10/1〜30/1の範囲であることが更に望ましい。
【0051】
また、金属錯体(X)を形成するための金属イオンが一種類であっても、二種類以上を同時に用いても良い。
【0052】
ポリマー(a)と金属イオン(b)とを錯化させる際、その媒体は水だけであっても、または水と溶解しあう有機溶剤が含まれた水性媒体であってもよい。
【0053】
有機溶剤としては、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、THF、DMF、DMSOなど種々の有機溶剤類を挙げることが出来る。
【0054】
上記有機溶剤を用いる場合には、金属錯体(X)の会合体を効率的に調整することが可能である点から、水と有機溶剤との体積比が1/1〜3/1の範囲であることが好ましい。
【0055】
[シリカ(Y)]
本発明の針状表面微粒子中のシリカ(Y)としては、シリカソースであるアルコキシシラン類の加水縮合反応により得られるシリカを使用できる。
【0056】
[針状表面微粒子]
本発明の針状表面微粒子は、上記金属錯体(X)とシリカ(Y)とが複合化されてなるものであり、また、その表面には微細な針状形状が密集した構造を有するものである。
【0057】
本発明の針状表面微粒子は、最大径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜20μmの大きさを有するものであり、その粒子はほぼ単分散性を有する。粒子の形状は円盤状や球状の形状を取ることができる。個々の粒子は、その粒子形状とは別に、表面に微細な針状構造を多数有することを特徴とする。針状構造は、平均太さが数ナノ〜数十ナノ程度の太さであり、好ましくは10〜80nmの太さを基本構造とする。
【0058】
本発明の針状表面微粒子の形状や針状構造の太さなどは、ポリマー(a)の構造の幾何学的な形状や、分子量、ポリマー(a)中に導入できる非エチレンイミン部分、さらにはポリマー(a)と金属イオン(b)との錯体構造、金属イオン種類、金属イオン濃度の等に依存するものであり、使用するポリマー(a)の分子構造、重合度、組成、及びポリマーと金属イオンの錯化における金属種類、金属濃度など各種要素に特に影響される。
【0059】
本発明の針状表面微粒子中におけるシリカ(Y)の含有量としては、特に制限されないが、30〜90質量%、好ましくは20〜80質量%の範囲であると上記各構造を安定して形成できるため好ましい。また、金属イオン(b)の含有量は、各種用途に応じて適宜調整することができるが、0.05〜5質量%である場合には、後述の製造方法によって、効率よく製造できる。
【0060】
本発明の針状表面微粒子は、内部に金属錯体(X)を有することから、この金属錯体(X)の有する特性も有する。例えば、ポリマー(a)中の直鎖状ポリエチレンイミン鎖に由来した金属イオンの濃縮や還元能力、あるいは、ポリマー(a)に機能性物質を組み込むことにより、当該機能性物質の有する機能などが挙げられる。
【0061】
具体的には、このポリマー(a)に蛍光性物質を組み込むことができる。この場合には、例えば、ポルフィリンを中心にした星状ポリエチレンイミンを用いることで、ポルフィリンの残基を針状表面微粒子中に取り込むことが出来る。また、例えば、直鎖状ポリエチレンイミン鎖の側鎖に少量のピレン類、例えば、ピレンアルデヒド(好ましくは、イミンに対し10モル%以下)を反応させたポリマー(a)を用いることで、ピレン残基を針状表面微粒子に取り込むことができる。さらに、ポリマー(a)と、酸性基、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基を有するポルフィリン類、フタロシアニン類、ピレン類など蛍光性染料とを(好ましくは、イミンのモル数に対し0.1モル%以下)少量混合し、ここに金属イオン(b)を混合して、それらの会合体をテンプレートとして得た針状表面微粒子中には、前記蛍光性物質を取り込むことができる。
【0062】
上記のとおり本発明の針状表面微粒子は、微粒子の表面にナノ次元の針状構造を多数有することから、表面積が大きく、又従来の単なる微粒子では得られない各種のナノサイズ効果を発現することが期待できる。また、針状表面微粒子内部には、金属イオンの濃縮や還元能力に優れるポリエチレンイミン鎖を有し、且つ、各種構造制御が可能なポリマーを有することから、当該ポリエチレンイミン鎖に由来する特性も有する。
【0063】
また、本発明の針状表面微粒子は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーと金属イオンとのポリマー金属錯体が、針状構造を有するシリカ粒子を誘導し、該シリカ内部にポリマー金属錯体が取り込まれることで形成される。従って、得られる複合材料の針状構造および粒子の空間構造を、金属イオン種や金属錯体支持媒体を変化させることで制御できる。さらに、金属錯体を形成する直鎖状ポリエチレンイミン鎖が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などの各種金属イオンと錯体形成可能であることから、本発明の針状表面微粒子はこれら金属イオンを含有することができる。
【0064】
このような、本発明の針状表面微粒子は、固体電解質、固体触媒、ナノ添加剤、ナノ薄膜材料への応用が期待できる。またこれら金属イオンの金属錯体を含有する針状表面微粒子を、熱処理または還元剤で処理することで、金属錯体を金属ナノ粒子に変えることができることから、ナノ金属粒子含有材料としての応用もある。
【0065】
[針状表面微粒子の製造方法]
本発明の針状表面微粒子の製造方法は、
(1)直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と、金属イオン(b)とを水性媒体に溶解し、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)の会合体を得る工程と、
(2)水の存在下で、前記金属錯体(X)の会合体を反応場とし、アルコキシシランを用いてゾルゲル反応を行う工程、
を有するものである。
【0066】
前記したポリマー(a)と金属イオン(b)は、ポリマー(a)中の複数のエチレンイミン単位と錯化し、金属錯体(X)を形成する。このとき、1つの金属イオン(b)に対して複数のポリマー分子中のエチレンイミン単位と錯化しても良く、また、単一のポリマ分子内にある複数のエチレンイミン単位と錯化しても良い。
【0067】
この金属錯体(X)は水の存在下で集合化し会合体を形成する。これは、線状ポリエチレンイミンが、熱水中では溶解し均一溶液になるものの、室温近傍では結晶化する性質を利用したものである。即ち、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)は、水の存在下では、室温近傍で分子間力による集合体を形成する傾向を有することから、該ポリマー(a)と金属イオン(b)を均一に溶解した熱水を冷却すると、金属錯体(X)となったまま、集合化が進み、会合体となって、ポリマー(a)、金属イオン(b)の種類や濃度等に依存する一定のモルフォロジーを発現することになり、これが次工程(ゾルゲル反応)でのテンプレートの働きをする。
【0068】
また、金属錯体(X)の会合体には不可避的にブラシのようにフリーなポリエチレンイミンの鎖が多数存在する。これらのブラシの鎖はシリカソースを引き寄せる足場であり、同時にシリカソースを重合させる触媒の働きをする。
【0069】
ここで、この金属錯体会合体表面でアルコキシシランの加水縮合反応を進行させることにより、該金属錯体会合体表面がシリカで被覆され、即ち、金属錯体を内部に含有する、金属錯体会合体とシリカとの複合体微粒子となる。この際に金属錯体会合体の形状がシリカに複写されることにより、該金属錯体会合体により複合体微粒子表面に、微細な針状表面形状が誘導されることになる。従って、金属錯体の会合体の形状を制御することによって、得られる針状表面微粒子の形状を制御することが出来、また、該微粒子中の金属イオンやシリカの含有量を容易に調整可能で、且つ、該微粒子中の金属イオンやシリカの均一な分布を達成することが出来る。
【0070】
以下、本発明の製造方法を詳述する。
まず、1番目の工程として、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と、金属イオン(b)とを水性媒体に溶解し、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)の会合体を形成させる。ここで、使用できる直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)は、前述のポリマー(a)と同様である。
【0071】
ポリエチレンイミン鎖はエチレンイミンを繰り返し単位として持ち、その単位はエチレンジアミンと同様、金属イオンと強く配位するため、金属イオンと錯体を形成する。ポリエチレンイミン鎖と錯体を形成できる金属イオンは、元素周期表の全金属に広がる。従って、ポリマー(a)と金属イオン(b)を水性媒体中で混合すると、金属錯体(X)を形成できる。
【0072】
上記ポリマー(a)は、水の存在下で結晶性を発現しやすく、ポリマー(a)だけの場合は結晶を形成する傾向がある。そこに、金属イオン(b)が存在すると、ポリマーの結晶成長が乱れ、金属イオン(b)とポリマー(a)のエチレンイミン単位とが錯体を形成して金属錯体(X)となる。この金属錯体(X)において、金属イオンはポリマー相互間の架橋剤としての働きをし、結果的には、ポリマーの単独結晶とは異なる金属錯体(X)の会合体を誘発し、それに一定のモルフォロジーが生じる。
【0073】
従来広く使用されてきたポリエチレンイミンは、環状エチレンイミンの開環重合により得られる分岐状ポリマーであり、その構造単位中には一級アミン、二級アミン、三級アミンが存在する。従って、分岐状ポリエチレンイミンは水溶性であるが、結晶性は持たないため、分岐状ポリエチレンイミンを用いた場合は、金属イオンとの錯体が形成しても、それがあるモルフォロジーに発現することができない。
【0074】
これに対し、本発明においては、直鎖状のポリエチレンイミン鎖を有することから、上記のとおり金属錯体(X)の会合体を形成する。ポリマー構造が線状、星状、または櫛状などの構造であっても、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーであれば、金属錯体(X)の会合体が得られる。
【0075】
また、金属錯体(X)は、ポリマー(a)と金属イオン(b)とを水中にて撹拌することで調製できる。好ましくは、まずポリマー(a)を水性媒体中に分散させ、該分散液を加熱することにより、ポリマー(a)が溶解した透明な水溶液を得る。次いで、加熱状態のポリマー(a)の水溶液に金属イオン(b)を加えて攪拌し、それを室温まで冷却する。この過程において金属錯体(X)の会合体も同時に得られる。
【0076】
上記ポリマー分散液の加熱温度は100℃以下が好ましく、60〜95℃の範囲であることがより好ましい。加熱状態の混合液を室温に冷やすには、混合液が入った容器を空気雰囲気での自然冷却でもよく、それを冷水や氷水にて冷却させてもよい。室温(25℃)まで温度を低下させる過程を一定時間に一定温度までのような段階的な制御法も適用できる。このような温度低下過程により、金属錯体(X)の会合体のモルフォロジーを変化させることが可能である。
【0077】
また、ポリマー分散液中のポリマー(a)の含有量は、上記金属錯体(X)の会合体が得られる範囲であれば特に限定されないが、0.01〜20質量%の範囲であることが好ましく、安定形状の金属錯体(X)の会合体が得られる点から0.1〜10質量%の範囲がさらに好ましい。このように、本発明においては、ポリマー(a)を使用すると、ごく少量のポリマー濃度でも上記の会合体を形成することができる。
【0078】
金属錯体(X)の会合体を形成する際、ポリマー(a)中のエチレンイミン単位と金属イオン(b)との比を、エチレンイミン単位/金属イオンで表されるモル比で5/1〜100/1の範囲にすることが好ましく、針状の表面構造を効率的に誘導するには、その比が10/1〜50/1の範囲であることがより好ましい。使用する金属イオンは一種類であっても、二種類以上を同時に用いてもよい。
【0079】
また、使用する水性媒体は、水又は水と有機溶媒との混合溶媒であるが、有機溶剤としては、水と相溶する有機溶剤を使用でき、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの種々の有機溶剤類を挙げることができる。有機溶剤を用いる場合、水と有機溶剤との体積比(水/有機溶剤)は1/1〜3/1の範囲であることが好ましい。
【0080】
本発明の製造方法では、上述の工程に引き続き、(2)水の存在下で、前記金属錯体(X)の会合体を反応場とし、アルコキシシランを用いてゾルゲル反応を行う。
【0081】
上記したように金属錯体(X)は、水の存在下では集合して会合体を形成している。ここに、通常のゾルゲル反応において使用できる溶媒にシリカソース(アルコキシシラン)を溶解した溶液を加えると、室温下で該アルコキシシランの加水縮合が進行する。
【0082】
用いる事ができるアルコキシシランとしては、3価以上のアルコキシシランであることが好ましく、テトラアルコキシシラン類、アルキルトリアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0083】
前記テトラアルコキシシラン類としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
【0084】
アルキルトリアルコキシシラン類としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシアンなどが挙げられる。
【0085】
本発明の針状表面微粒子を与える上記加水縮合反応(ゾルゲル反応)は、水及び金属錯体(X)の会合体の存在下で進行するが、その反応は連続相である水中では起こらず、金属錯体(X)の会合体の表面で進行する。従って、ゾルゲル反応は金属錯体(X)の会合体が溶解することがなければ、反応条件は任意である。
【0086】
金属錯体(X)の会合体を不溶とするためには、加水縮合反応の際、親水性の有機溶媒を含む水性媒体を使用する場合には、水性媒体中、水が20%以上の体積量であることが好ましく、それが40%以上であればさらに好ましい。
【0087】
加水縮合反応においては、ポリエチレンイミンのモノマー単位であるエチレンイミン単位の量に対し、シリカソースであるアルコキシシランの量を過剰とすれば好適に針状表面微粒子を形成できる。過剰の度合いとしては、エチレンイミン単位に対し2〜1000倍当量の範囲であることが好ましい。
【0088】
加水縮合反応の時間は適宜調整すればよく、1分から数日まで様々であるが、アルコキシシランの反応活性が高いメトキシシラン類の場合は、反応時間は1分〜24時間でよく、反応効率を上げることから、反応時間を30分〜5時間に設定すればさらに好適である。また、反応活性が低い、エトキシシラン類、ブトキシシラン類の場合は、反応時間として24時間以上であることが好ましく、その時間を一週間程度とすることもできる。
【0089】
本発明の針状表面微粒子は、多様な形状の粒子であり、かつその表面に微細な針状構造を有するが、その形状および構造は金属錯体(X)の会合体に由来するものである。従って、加水縮合反応前に、まず水中または水性媒体中で金属錯体(X)の会合体の会合状態を制御することにより針状表面微粒子の形状と構造を制御できる。水中または水性媒体中での金属錯体(X)の会合体の調製は上記した通りである。
【0090】
針状表面微粒子中のシリカ(Y)の含有量は、反応条件などにより一定の幅で変化するが、特にシリカ(Y)の含有量はゾルゲル反応の際用いたポリマー(a)の量、すなわち金属錯体(X)を形成するポリマー(a)の濃度の増加に伴って増加する。また、加水縮合反応時間を長くする事によってもシリカ含有量を高めることが可能であり、これらを制御することにより、所望の微粒子が得られる。
【0091】
上記のとおり、本発明の製造方法は、きわめて容易な工程で迅速に針状表面微粒子を得ることができる。さらに、得られる微粒子は単分散性にも優れるものである。
【実施例】
【0092】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0093】
[走査電子顕微鏡による形状分析]
単離乾燥した試料をガラススライドに乗せ、それをキーエンス社製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0094】
[ICPによるシリカ中金属含有量測定]
単離乾燥した試料を精秤し、マイクロウェーブ試料分解装置にて分解処理した。その分解液に超純水を加え、その液中の金属量をPerkin Elmer社製Optima 3300DVにて測定し、金属含有量を計算した。
【0095】
合成例1
<線状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販の線状ポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50,000,平均重合度5,000、Aldrich社製)3gを、5Mの塩酸水溶液15mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0096】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー会合体粉末を濾過し、そのポリマー会合体粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は2.2g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0097】
実施例1〜5
<針状表面微粒子の作成>
上記で得られたL−PEI粉末を一定量秤量し、それを蒸留水中に分散させ、濃度が1%となるL−PEI分散液を作成した。これら分散液をオイルバスにて、90℃に加熱し、完全透明なL−PEI水溶液を得た。得られたL−PEI水溶液に、表1に示した金属イオン種〔実施例1:Cu(II)硝酸塩、実施例2:Mn(II)硝酸塩、実施例3:Al(III)硝酸塩、実施例4:Eu(III)塩酸塩、実施例5:Zr(IV)硝酸塩〕の金属塩化合物を、各々L−PEIのエチレンイミン単位のモル数の1/20モル数に相当する量加えた後、その溶液を室温に24時間放置し、L−PEI金属錯体溶液を得た。
【0098】
得られたL−PEI金属錯体溶液(1mL)に、テトラメトキシシラン(TMOS)とエタノールとの混合液(体積比1/1)1mLを加え、室温で1時間反応させた(ポリマー中のエチレンイミン単位に対するTMOSの使用割合は、40倍当量である)。生成した固形物を遠心分離器にて取り出し、エタノール−遠心分離の工程を3回繰り返し、L−PEI金属錯体とシリカとの複合体粉末を得た。得られた粉末の外観および金属含有量・シリカ含有量は表1のとおりであった。また、これらの粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図1〜10に示したように、いずれも粒子状態で、それらの粒子表面全体は微細針状構造を有する針状表面微粒子であることが観測された。
【0099】
【表1】

【0100】
(比較例)
実施例と同様にして作成した、L−PEI溶液1mL中に、テトラメトキシシラン(TMSO)とエタノールの1/1(体積比)の混合液1mLを加え、軽く一分間かき混ぜた後、そのまま40分放置した。その後、過剰なアセトンで洗浄し、それを円心分離器にて3回洗浄を行った。固形物を回収し、室温で乾燥し、シリカとL−PEIとの複合体粉末を得た。得られた粉末のSEM観察では、図11に示したとおり、複合体は粒子ではなく、繊維状バンドルであり、針状構造は一切現れなかった。これより、針状構造の複合体粒子を得るには、実施例のように、金属イオンとポリマーとからなる金属錯体が必須であることが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の針状表面微粒子は、固体電解質、固体触媒、ナノ添加剤、ナノ薄膜材料への応用が期待できる。またこれら金属イオンの金属錯体を含有する針状表面微粒子を、熱処理または還元剤で処理することで、金属錯体を金属ナノ粒子に変えることができることから、ナノ金属含有材料としての応用もできる。
【0102】
又、本発明の針状表面微粒子の製造方法は、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーと、金属イオンとを水性媒体に溶解し、金属錯体の会合体を得る工程と、水の存在下で、前記金属錯体の会合体を反応場とし、アルコキシシランを用いてゾルゲル反応を行う工程からなる、簡便な方法であり、特段の装置を必要としないため、工業的生産にも好適に用いる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1で得られた針状表面微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1で得られた針状表面微粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得られた針状表面微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例2で得られた針状表面微粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例3で得られた針状表面微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例3で得られた針状表面微粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例4で得られた針状表面微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例4で得られた針状表面微粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例5で得られた針状表面微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例5で得られた針状表面微粒子の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】比較例で得られた複合体の走査型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と、前記ポリマーと錯体を形成できる金属イオンと、シリカ(Y)とを含有し、粒子表面形状が微細針状である粒子形状を有することを特徴とする針状表面微粒子。
【請求項2】
前記直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と前記金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)をさらに含有する請求項1記載の針状表面微粒子。
【請求項3】
前記直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)はブロックポリマーであり、その中のポリエチレンイミン鎖の割合が、モノマーのモル数割合として40モル%以上である請求項1記載の針状表面微粒子。
【請求項4】
最大径が1〜20μmの範囲にある請求項1記載の針状表面微粒子。
【請求項5】
微粒子中のシリカ(Y)の含有率が30〜90質量%の範囲にある請求項1記載の針状表面微粒子。
【請求項6】
微粒子中の金属イオン(b)の含有率が0.05〜5質量%の範囲にある請求項1〜4のいずれか1項記載の針状表面微粒子。
【請求項7】
(1)直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と、金属イオン(b)とを水性媒体に溶解し、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と金属イオン(b)とからなる金属錯体(X)の会合体を得る工程と、
(2)水の存在下で、前記金属錯体(X)の会合体を反応場とし、アルコキシシランを用いてゾルゲル反応を行う工程、
とを有することを特徴とする針状表面微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記アルコキシシランが、3価以上のアルコキシシランである請求項7記載の針状表面微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)において、前記直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)と金属イオン(b)との使用割合が、該ポリマー(a)中のエチレンイミン単位/金属イオンで表されるモル比で5/1〜100/1の範囲にある請求項7記載の針状表面微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記工程(1)が、まず、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)を水性媒体中に0.01〜20質量%の範囲で分散させ、加熱溶解させた後、金属イオン(b)を加えて攪拌し、冷却する工程からなるものである請求項7記載の針状表面微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)において前記アルコキシシランの使用割合が、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー(a)中のエチレンイミン単位に対して2〜1000倍当量の範囲にある請求項7〜10の何れか1項記載の針状表面微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−51056(P2007−51056A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198026(P2006−198026)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】