説明

釣り用リールのトルク制限装置

【課題】両軸受リールのトルクリミッタにおいて、回転部材をコンパクト化できるようにする。
【解決手段】トルクリミッタ39は、回転する軸部材であるハンドル軸30とハンドル軸30の外周側に配置される回転部材である第1ギア28との間のトルクを制限する装置である。トルクリミッタ39は、少なくとも一つのピン部材51と、少なくとも一つの付勢部材52と、少なくとも一つの係止凹部53と、を備えている。少なくとも一つのピン部材51は、ハンドル軸30に配置され、第1ギア28に向けて進退可能であり、先端部が丸められる部材である。少なくとも一つの付勢部材52は、ハンドル軸30に配置され、ピン部材51を第1ギア28に向けて付勢する。少なくとも一つの係止凹部53は、ピン部材51の先端部が係合可能に第1ギア28に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク制限装置、特に、釣り用リールの回転する軸部材と前記軸部材の外周側に配置される回転部材との間のトルクを制限する釣り用リールのトルク制限装置に関する。
【背景技術】
【0002】
両軸受リールには、レベルワインド機構と呼ばれる釣り糸案内装置が設けられている。レベルワインド機構は、ハンドル軸の回転が伝達される従動ギア(回転部材の一例)と、従動ギアと一体回転するトラバースカム軸と、トラバースカム軸に噛みあって軸方向に往復移動する釣り糸ガイドと、を有する。トラバースカム軸は、外周面に交差する螺旋状溝を有し、釣り糸ガイドには、螺旋状溝に係合する係合部材が設けられている。この種のレベルワインド機構において、ハンドル軸から従動ギアに伝達されるトルクを制限する技術が従来知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来の釣り用リールのトルク制限装置は、従動ギアに設けられている。従動ドアは、昼間ギアを介してスプール軸と連動して回転する。従動ギアは、トラバースカム軸(軸部材の一例)と一体回転する内側部材と、内側部材に回転自在に支持される外側部材とを有している。トルク制限装置は、内側部材と外側部材との間に配置されたバネ部材を有している。環状のバネ部材は、バネ線材を円形に湾曲して形成され、内側部材に係止されている。バネ部材は外側部材に形成された環状溝に接触している。このバネ部材の付勢力によりトルクを制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許2523134号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のトルク制限装置では、回転部材である従動ギアを内側部材と外側部材とに分割し、内側部材と外側部材との間に配置されたバネ部材によりトルクを制限している。このため、回転部材の径方向の寸法が大きくなり、回転部材をコンパクトにすることができない。
【0006】
本発明の課題は、釣り用リールのトルク制限装置において、回転部材をコンパクト化できるようにするにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明1に係る釣り用リールのトルク制限装置は、釣り用リールの回転する軸部材と軸部材の外周側に配置される回転部材との間のトルクを制限する装置である。トルク制限装置は、少なくとも一つのピン部材と、少なくとも一つの付勢部材と、少なくとも一つの凹部と、を備えている。少なくとも一つのピン部材は、軸部材に配置され、回転部材に向けて進退可能であり、先端部が丸められる部材である。少なくとも一つの付勢部材は、軸部材に配置され、ピン部材を回転部材に向けて付勢する。少なくとも一つの凹部は、ピン部材の先端部が係合可能に回転部材に形成される。
【0008】
このトルク制限装置では、通常はピン部材が付勢部材により回転部材側に付勢された状態で、凹部に先端部が係合する。これにより、軸部材から回転部材または、回転部材から軸部材に回転が伝達される。伝達されるトルクが付勢部材の付勢力に応じて定まる許容トルクを超えると、ピン部材が付勢部材の付勢力に抗して、軸部材の内部に後退し、回転部材と軸部材とが相対回転可能になる。これにより、軸部材と回転部材との間で伝達されるトルクが制限される。ここでは、伝達トルクを制限するためのピン部材及び付勢部材が軸部材に配置され、回転部材には凹部を形成するだけでよいので、回転部材をコンパクト化できる。
【0009】
発明2に係る釣り用リールのトルク制限装置、発明1に記載の装置において、凹部のピン部材の先端部が接触する面は、軸部材の軸芯に対して交差する傾斜面を有する。この場合には、付勢部材により押圧された、ピン部材が凹部の傾斜面に接触すると、傾斜により、回転部材を軸方向に押圧する力が発生する。これにより、回転部材ががたつきにくくなる。
【0010】
発明3に係る釣り用リールのトルク制限装置は、発明1又は2に記載の装置において、ピン部材は、先端部が丸められた頭部と、頭部より小径の軸部とを有する。この場合には、小径の軸部の外周側にコイルバネの形態の付勢部材をコンパクトに配置できる。
【0011】
発明4に係る釣り用リールのトルク制限装置は、発明3に記載の装置において、ピン部材は2本配置される。2本のピン部材は、軸部材の直径に沿い、かつそれぞれの頭部が径方向外方を向くように配置される。付勢部材は、1本配置される。付勢部材は、2つの頭部の間での軸部の外周側に配置されるコイルバネである。
【0012】
この場合には、頭部と小径の軸部との段差を利用して、一つのコイルバネで2本のピン部材を付勢でき、軸部材の直径も小さくすることができる。また、軸部材に直径に沿って貫通孔を形成するだけで、ピン部材と付勢部材とを簡単に収納できる。
【0013】
発明5に係る釣り用リールのトルク制限装置は、発明4に記載の装置において、凹部は、ピン部材の数より多く周方向に間隔を隔てて配置される。この場合には、ピン部材が2本あっても、伝達トルクが小さくなれば回転方向の次の凹部でピン部材を進出させることができる。
【0014】
発明6に係る釣り用リールのトルク制限装置は、発明1から5のいずれかに記載の装置において、回転部材は、両軸受リールのレベルワインド機構のトラバースカム軸にハンドル軸の回転を伝達するギア部材である。この場合には、両軸受リールのギア部材のコンパクト化を図れる。
【0015】
発明7に係る釣り用リールのトルク制限装置は、発明6に記載の装置において、軸部材は、糸繰り出し方向の回転が禁止される両軸受リールのハンドル軸である。この場合には、ハンドル軸に装着されるギア部材のコンパクト化を図れる。
【0016】
発明8に係る釣り用リールのトルク制限装置は、発明6に記載の装置において、軸部材は、トラバースカム軸である。この場合には、トラバースカム軸に装着されるギア部材のコンパクト化を図れる。
【0017】
発明9に係る両軸受リールは、発明1から8のいずれかに記載のトルク制限装置を備えた両軸受リールである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、伝達トルクを制限するためのピン部材及び付勢部材が軸部材に配置され、回転部材には凹部を形成するだけでよいので、回転部材をコンパクト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態が採用された両軸受リールの斜視図。
【図2】そのハンドル装着側の側面図。
【図3】図2の切断線III−IIIによる断面図。
【図4】図2の切断線IV−IVによる断面図。
【図5】第1側カバー側の断面部分図。
【図6】第1ギア装着部分のハンドル軸の断面図。
【図7】図6の切断線VII−VIIによる断面部分図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<両軸受リールの構成>
図1において、本発明の第1実施形態による両軸受リールは、ロープロフィール型のリールである。両軸受リールは、リール本体1と、リール本体1の側方(たとえば左方)に配置されたスプール回転用ハンドル2と、リール本体1の内部に回転自在かつ着脱自在に装着された糸巻用のスプール12とを備えている。ハンドル2のリール本体1側には、ドラグ調整用のドラグ調整部材3が設けられている。
【0021】
ハンドル2は、たとえば金属製の板状のハンドルアーム2aと、ハンドルアーム2aの両端に回転自在に装着された2つの把手部2bとを有するダブルハンドル形のものである。ハンドルアーム2aは、図2に示すように、ナット2dによりハンドル軸30の先端に回転不能に固定されている。このナット2dは、ハンドルアーム2aの外側面にねじ止めされたリテーナ2cにより回り止めされている。
【0022】
リール本体1は、図3及び図4に示すように、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着されフレーム5の両側方を覆う第1側カバー6a及び第2側カバー6bと、フレーム5の側部に着脱自在に装着された軸支持部7と、を有している。第1側カバー6aはハンドル2と逆側に配置され、第2側カバー6bはハンドル2の装着側に配置されている。
【0023】
フレーム5は、たとえば、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽金属製の部材であり、所定の間隔をあけて互いに対向するように配置された第1側板5a及び第2側板5bと、第1側板5a及び第2側板5bを連結する複数の連結部5cと、を有している。このハンドル装着側と逆側の第1側板5aに軸支持部7が着脱自在に装着されている。第1側板5aには、スプール12が通過可能な円形の開口5dが形成されている。開口5dに、スプール12を開口5d側から取り出すための軸支持部7が、たとえばバヨネット機構23により着脱自在に装着されている。下側の2つの連結部5cには、リールを釣り竿に装着するための前後に長い竿装着脚部4が一体形成されている。
【0024】
第1側カバー6aは、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽金属製の部材であり、第1側板5aの外方を覆っている。第1側カバー6aは、円形の凹部6cを中心部に有している。凹部6cは複数段階に凹んで形成されている。凹部6cの中心部には、円形のつまみ開口6dが形成されている。つまみ開口6dでは、軸支持部7が露出している。第1側カバー6aは、軸支持部7により挟持され、軸支持部7とともにフレーム5に対して着脱自在である。軸支持部7の周囲において、第1側カバー6aの開口6dの内周部には、軸支持部7の非操作時の回り止めと、軸支持部7の操作時の位置決めと、を行うための位置決め機構60が配置されている。
【0025】
第2側カバー6bは、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽金属製の部材であり、フレーム5の第2側板5bにねじ止め固定されている。第2側カバー6bは、スプール軸16の配置部分に設けられたボス部8と、ボス部8の開口を塞ぐ蓋部材9と、が設けられる。ボス部8は、第2側カバー6bに、例えばかしめ固定されている。蓋部材9は、第2側カバー6bにビス止めされている。ボス部8の内径は、後述するピニオンギア32のギア部32aの外径よりわずかに大きく、ギア部32aが内周側に侵入可能である。
【0026】
軸支持部7は、第1側カバー6aを挟持した状態で第1側カバー6aに回動自在に装着されている。したがって、軸支持部7は、第1側カバー6aに対して抜け止めされている。また、図3に示すように、軸支持部7は、バヨネット機構23により第1側板5aに着脱自在に装着されている。バヨネット機構23は、軸支持部7の外周部に周方向に間隔を隔てて配置され径方向外方に突出する板状の複数(たとえば3つ)の突起部23aと、突起部23aに係合するように第1側板5aの開口5dの外側に形成された溝状の複数(たとえば3つ)の係合凹部23bと、を有している。軸支持部7を回してバヨネット機構23により第1側板5aに軸支持部7を装着することにより、第1側カバー6aも第1側板5aに装着される。
【0027】
軸支持部7は、図5に示すように、第1軸受24aが装着される軸受装着部33と、軸受装着部33とで第1側カバー6aを相対回動自在に挟持する着脱操作部34と、を有している。軸受装着部33は、皿状の部材であり、外周部33aが開口5dに嵌合している。また、外周部33aには、外周部33aから径方向外方に突出する、前述したバヨネット機構23の複数の突起部23aがスプール12の軸芯を中心に周方向に間隔を隔てて形成されている。軸受装着部33の中心部には、第1軸受24aを収納する筒状の軸受収納部33bがスプール12に向けて筒状に突出して形成されている。軸受収納部33bには、第1軸受24aが内周面に装着される段付き筒状の装着空間33cが形成されている。装着空間33cの底部33dには、後述するキャスティングコントロール機構22を構成する円板状の第1プレート41aが装着されている。底部33dには後述する制動つまみ42が螺合する雌ねじ部33eが形成されている。軸受装着部33の着脱操作部34と接触する面には、スプール12の軸芯と平行な方向に突出した複数(例えば、2つ)の位置決め凸部33fがスプール軸16の軸芯を中心に周方向に間隔を隔てて形成されている。軸受装着部33の外側面には、軸方向外方に突出する筒状のシール配置部33gが形成されている。
【0028】
着脱操作部34は、図5に示すように、段付き円筒形状の部材であり、図示しないねじ部材により軸受装着部33に固定されている。着脱操作部34は、軸支持部7を着脱操作するためのものである。着脱操作部34の外側面は、第1側カバー6aの外側面より僅かに凹んでいる。着脱操作部34には、直径上に配置される着脱操作用のリブ34aが形成される。リブ34aは、他の部分より径方向内方及び軸方向外方に突出して形成される。着脱操作部34の中心部には、シール配置部33gが突出する開口34bが形成されている。着脱操作部34の軸受装着部33側の壁面には、位置決め凸部33fに係合する複数(例えば、2つ)の位置決め凹部34cが形成されている。
【0029】
フレーム5内には、図3及び図4に示すように、釣り竿と食い違う方向に配置可能な糸巻用のスプール12と、スプール12内に均一に釣り糸を巻くためのレベルワインド機構15と、サミングを行う場合の親指の当てとなる、クラッチ操作部材17とが配置されている。またフレーム5と第2側カバー6bとの間には、ハンドル2からの回転力をスプール12及びレベルワインド機構15に伝えるためのギア機構18と、クラッチ機構13と、クラッチ機構13をオンオフ制御するためのクラッチ制御機構19と、スプール12の糸繰り出し方向の回転を制動するドラグ機構21と、スプール12の回転時の抵抗力を調整するためのキャスティングコントロール機構22とが配置されている。
【0030】
スプール12は、図4に示すように、両側部に皿状のフランジ部12aを有しており、両フランジ部12aの間に筒状の糸巻き胴部12bを有している。また、スプール12は、糸巻き胴部12bの内周側の軸方向の実質的に中央部に一体で形成された筒状のボス部12cを有しており、ボス部12cを貫通するスプール軸16に、たとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。この固定方法はセレーション結合に限定されず、キー結合やスプライン結合等の種々の結合方法を用いることができる。
【0031】
スプール軸16は、第2側板5bを貫通して第2側カバー6bに延びている。スプール12のボス部12cの両側でスプール軸16は第1軸受24a及び第2軸受24bによりリール本体1に回転自在に支持されている。第1軸受24aは軸支持部7に装着され、第2軸受24bは、第2側板5bに装着されている。スプール軸16の第1端面16aおよび第2端面16bは、山形又は円弧状に突出して形成されている。スプール軸16の第1端16a及び第2端16bがキャスティングコントロール機構22に接触可能である。
【0032】
スプール軸16の第2側板5bの貫通部部分にはクラッチ機構13を構成する係合ピン13aが固定されている。係合ピン13aは、直径に沿ってスプール軸16を貫通しており、その両端が径方向に突出している。この両端の突出部分に後述するピニオンギア32の先端(図2右端)が係合可能である。
【0033】
レベルワインド機構15は、図3に示すように、後述するギア機構18の第1ギア28に噛み合う第2ギア25と、トラバースカム軸26と、釣り糸が挿通される釣り糸ガイド27と、を有している。トラバースカム軸26は、交差する螺旋状溝26aが外周面に形成された軸部材である。釣り糸ガイド27は、螺旋状溝26aに係合し、トラバースカム軸26の回転により、スプール12の前方でスプール12と平行に往復移動する。釣り糸ガイド27には釣り糸が挿通可能であり、釣り糸ガイド27の往復移動により、スプール12に釣り糸が均等に巻き付けられる。
【0034】
ギア機構18は、ハンドル軸30と、ハンドル軸30に回転自在に装着されるドライブギア31と、ドライブギア31に噛み合う筒状のピニオンギア32と、ハンドル軸30に装着され、第2ギア25に噛み合う第1ギア28とを有している。ハンドル軸30は、ローラ型のワンウェイクラッチ40により糸繰り出し方向の回転か禁止され、糸巻取方向だけに回転可能である。ワンウェイクラッチ40は、第2側カバー6bに装着される。ハンドル軸30は、基端が第2側板5bに軸受20により回転自在に支持されている。ドライブギア31の奥側(図3左側)にはラチェットホイール36がハンドル軸30に一体回転可能に装着されている。ラチェットホイール36の奥側に第1ギア28が配置される。ハンドル軸30のラチェットホイール36装着部と第1ギア28装着部の間には、大径の当接部30bが形成されている。ドライブギア31には、ドラグ機構21を介してハンドル軸30の回転が伝達される。
【0035】
ピニオンギア32は、図4に示すように、第2側板5bから軸方向外方に延びている。ピニオンギア32は、中心にスプール軸16が貫通する筒状部材である。ピニオンギア32は、スプール軸16に軸方向に移動自在に装着されている。ピニオンギア32は、基端に形成されたギア部32aと、先端に形成され係合ピン13aに係合可能な噛み合い部32bと、ギア部32aと噛み合い部32bとの間に配置されたくびれ部32cと、を有している。ギア部32aにはドライブギア31が噛み合う。噛み合い部32bには、係合ピン13aが係合する。くびれ部32cには、クラッチ制御機構19のクラッチヨーク35が係合する。ピニオンギア32は、図3の中心線Cの上側に示すクラッチオン位置と、下側に示すクラックオフ位置とに、クラッチ操作部材17の操作またはハンドル2の糸巻取方向の回転により移動する。ピニオンギア32は、軸受29により第2側板5bに回転自在かつ軸方向移動自在に支持されている。
【0036】
第1ギア28は、図4に示すように、トルクリミッタ39(釣り用リールのトルク制限装置の一例)を介してハンドル軸30に連結される。第1ギア28は、図3に示すように、レベルワインド機構15のトラバースカム軸26に装着された第2ギア25に噛み合う。
【0037】
<トルクリミッタの構成>
トルクリミッタ39は、レベルワインド機構15が故障したときに、第1ギア28(回転部材の一例)及び第2ギア25に無理な力が作用しないようにするために設けられている。トルクリミッタ39は、図6及び図7に示すように、ハンドル軸30(軸部材の一例)に配置される一対のピン部材51と、付勢部材52と、少なくとも一つの係止凹部53と、を有する。付勢部材52は、例えばコイルバネであり、一対のピン部材51を第1ギア28に向けて付勢する。係止凹部53は、第1ギア28の内周面に形成されている。この実施形態では、係止凹部53は、周方向に間隔を隔てて4つ設けられている。
【0038】
ハンドル軸30には、ピン部材51を進退自在に装着可能な貫通孔30aが直径方向に貫通して形成されている。ピン部材51は、半球砲弾形状の曲面を有する頭部51aと頭部51aより小径の軸部51bと、を有する。ピン部材51は、貫通孔30aに51内において、頭部51aが係止凹部53に向けて配置される。付勢部材52は、一対のピン部材51の軸部51bの外周側に配置され、一対の頭部51aの間に圧縮状態で配置される。係止凹部53は、第1ギア28の矢符Rで示す糸巻取方向の回転方向下流側に直線的な斜面53aを有し、回転方向上流側に円筒面53bを有する。したがって、通常は、斜面53aをピン部材51が押圧してハンドル軸30の回転が第1ギア28に伝達される。これにより、レベルワインド機構15に異物が挟まったときに、ハンドル2を強く回して、第1ギア28に無理な力が作用すると、ピン部材51が貫通孔30a内に退入し、ハンドル軸30が空転し、第1ギア28が破損しにくくなる。頭部51aと接触する係止凹部53の接触面(斜面53a及び円筒面53b)は、図7に示すように、ハンドル軸30の軸芯に対して交差する傾斜面53cを有している。傾斜面53cは、ドライブギア31側に向かってハンドル軸30の軸芯に徐々に近づくように傾いている。第1ギア28を型成形で製造する場合、金型の抜きテーパを利用して傾斜面53cとしてもよい。これにより、ピン部材51が第1ギア28を押圧するときに、当接部30bに第1ギア28を押圧する力が発生し、回転時に第1ギア28ががたつきにくくなる。
【0039】
クラッチ機構13は、係合ピン13aと、ピニオンギア32の噛み合い部32bとで構成される。クラッチ機構13は、クラッチ操作部材17の操作により、クラッチオン状態と、クラッチオフ状態とをとり得る。クラッチオン状態でハンドル2の回転がスプール12に伝達される。クラッチオフ状態では、スプール12が自由回転可能な状態になる。
【0040】
クラッチ操作部材17は、図1及び図3に示すように、第1側板5aと第2側板5bの間の後部でスプール12の後方に配置されている。フレーム5の第1側板5a及び第2側板5bには長孔(図示せず)が形成されており、クラッチ操作部材17がこの長孔に回転自在に支持されている。このため、クラッチ操作部材17は長孔に沿って上下方向にスライド可能である。
【0041】
クラッチ制御機構19は、クラッチヨーク35を有している。クラッチヨーク35は、スプール軸16の外周側に配置されており、2本のピン(図示せず)によってスプール軸16の軸心と平行に移動可能に支持されている。なお、スプール軸16はクラッチヨーク35に対して相対回転が可能である。すなわち、スプール軸16が回転してもクラッチヨーク35は回転しないようになっている。またクラッチヨーク35はその中央部がピニオンギア32のくびれ部32cに係合して図3左右に移動可能である。クラッチヨーク35は図示しないスプリングによって常に内方(図3左側)のクラッチオン方向に付勢されている。
【0042】
このような構成では、通常状態では、ピニオンギア32は内方のクラッチオン位置に位置しており、ピニオンギア32とスプール軸16の係合ピン13aとが係合してクラッチオン状態となっている。一方、クラッチヨーク35によってピニオンギア32が外方に移動した場合には、ピニオンギア32と係合ピン13aとの係合が外れクラッチオフ状態となる。このときピニオンギア32のギア部32aは,図3の軸芯Cの下側に示すようにボス部8の内周側に配置される。これにより、クラッチオフ状態のときに、ピニオンギア32ががたつきにくくなる。
【0043】
ドラグ機構21は、図4に示すように、ドラグ力を調整操作するためのドラグ調整部材3と、ハンドル軸30に一体回転可能に装着された押圧プレート38と、ハンドル軸30の周囲で第2側カバー6b装着されたワンウェイクラッチ40と、を有している。押圧プレート38は、ワンウェイクラッチ40の内輪40aに一体回転可能に連結されている。ドラグ調整部材3の回転操作によって押圧プレート38をドライブギア31に向けて押圧することにより、押圧プレート38とドライブギア31との間で滑りを生じさせ、ドラグ機構21はスプール12を制動する。ワンウェイクラッチ40は、ドラグ機構21を作動させるために、ハンドル軸30の糸繰り出し方向の回転を禁止する。
【0044】
<キャスティングコントロール機構の構成>
キャスティングコントロール機構22は、図3及び図4に示すように、スプール軸16の両端を挟むように配置された第1プレート41a及び第2プレート41bと、第1プレート41a及び第2プレート41bによるスプール軸16の挟持力を調節するための制動つまみ42と、を有している。
【0045】
図3左側の第1プレート41aは、1枚設けられ、前述したように、軸受装着部33の装着空間33cの底部33dに装着され、スプール軸16の第1端16aに接触可能である。2枚の第2プレート41bは、第2側カバー6bのボス部8内に装着されている。
【0046】
制動つまみ42は、図5に示すように、円形の操作部42a、操作部42aより小径のシール装着部42b、及びシール装着部42bより小径の雄ねじ部42c、を有している。操作部42aは、この実施形態では、円錐台形状である。操作部42aの外周側は、着脱操作部34と操作用の隙間を開けて配置されている。制動つまみ42は、第1側カバー6aの凹部6cに第1側カバー6aの外側面から突出しないように配置されている。この実施形態では、凹部6cに着脱操作部34も配置されているため、着脱操作部34とも隙間をあけて配置されている。シール装着部42bは、環状のシール装着溝42dが形成されている。シール装着溝42dには、Oリング43が装着されている、Oリング43は、シール配置部33gの内周面とシール装着溝42dに接触して配置されている。雄ねじ部42cは、軸受装着部33の雌ねじ部33eに螺合している。雄ねじ部42cは、第1プレート41aに接触可能である。
【0047】
<両軸受リールの操作方法>
通常の状態では、クラッチヨーク35は内方(図3右方)に押されており、これによりピニオンギア32は、係合位置に移動させられている。この状態ではピニオンギア32とスプール軸16の係合ピン13aとが噛み合ってクラッチオン状態となっており、ハンドル2からの回転力は、ハンドル軸30、ドライブギア31、ピニオンギア32及びスプール軸16を介してスプール12に伝達され、スプール12が糸巻き取り方向に回転する。
【0048】
釣りを行う場合には、バックラッシュを抑えるためにキャスティングコントロール機構22で制動力を調整する。キャスティングコントロール機構22で制動力を調整する際には、制動つまみ42を、例えば時計回りに回転させる。すると、制動つまみ42が図5右側に前進し、第1プレート41aと第2プレート41bの間隔が狭くなりスプール軸16への制動力が強くなる。また、逆に制動つまみ42を反時計回りに回転させると制動力が弱くなる。
【0049】
制動力を調整し終わると、クラッチ操作部材17を下方に押す。ここでは、クラッチ操作部材17は、下方の離脱位置に移動する。そしてクラッチ操作部材17の移動により、クラッチヨーク35が外方に移動し、クラッチヨーク35に係合したピニオンギア32も同方向に移動させられる。この結果、ピニオンギア32とスプール軸16の係合ピン13aとの噛み合いが外れ、クラッチオフ状態となる。このクラッチオフ状態では、ハンドル軸30からの回転はスプール12及びスプール軸16に伝達されず、スプール12は自由回転状態になる。クラッチオフ状態にして、第1側カバー6aを握ってパーミングした手の親指でスプール12をサミングしながらスプール軸16が鉛直面に沿うようにリールを傾けて釣り糸を垂らす。すると、仕掛けの重さにより、スプール12が糸繰り出し方向に回転し、釣り糸が繰り出される。
【0050】
ここでは、制動つまみ42がハンドル2装着側と逆側の第1側カバー6aの凹部6cに第1側カバー6aから突出しないように配置される。このため、第1側カバー6a側をパーミングしても、制動つまみ42がてのひらに当たらない。これにより、ハンドル2装着側と逆側でパーミングを行いやすくなる。
【0051】
また、釣り糸の繰り出し後に当たりがあると、ハンドル2を糸巻取方向に回転させる。すると、第1ギア28から第2ギア25に回転が伝達され、レベルワインド機構15の釣り糸ガイド27がスプール12の前方でスプール軸方向に往復移動する。これにより、釣り糸がスプール12に均等に巻き付けられる。レベルワインド機構15の作動時に、トラバースカム軸26に異物が付着するなどの要因により、釣り糸ガイド27が移動不能になることがある。この場合、無理にハンドル2を回すと、第1ギア28と第2ギア25との間に大きなトルクが作用する。第1ギア28に許容トルクを超えるトルクが作用すると、ピン部材51が付勢部材52の付勢力に抗して、貫通孔30aの内部に後退し、ハンドル軸30が第1ギア28に対して回転する。これにより、ハンドル軸30から第1ギア28に伝達されるトルクが制限される。ここでは、伝達トルクを制限するためのピン部材51及び付勢部材52がハンドル軸30に配置され、第1ギア28には係止凹部53を形成するだけでよいので、第1ギア28をコンパクト化できる。
【0052】
<特徴>
上記実施形態は、下記のように表現可能である。
【0053】
(A)トルク制限装置であるトルクリミッタ39は、回転する軸部材であるハンドル軸30とハンドル軸30の外周側に配置される回転部材である第1ギア28との間のトルクを制限する装置である。トルクリミッタ39は、少なくとも一つのピン部材51と、少なくとも一つの付勢部材52と、少なくとも一つの係止凹部53と、を備えている。少なくとも一つのピン部材51は、ハンドル軸30に配置され、第1ギア28に向けて進退可能であり、先端部が丸められる部材である。少なくとも一つの付勢部材52は、ハンドル軸30に配置され、ピン部材51を第1ギア28に向けて付勢する。少なくとも一つの係止凹部53は、ピン部材51の先端部が係合可能に第1ギア28に形成される。
【0054】
このトルクリミッタ39では、通常はピン部材51が付勢部材52により第1ギア28側に付勢された状態で、係止凹部53にピン部材51の先端部(頭部51a)が係合する。これにより、ハンドル軸30から第1ギア28または、第1ギア28からハンドル軸30に回転が伝達される。伝達されるトルクが付勢部材52の付勢力に応じて定まる許容トルクを超えると、ピン部材51が付勢部材52の付勢力に抗して、ハンドル軸30の貫通孔30aの内部に後退し、第1ギア28とハンドル軸30とが相対回転可能になる。これにより、伝達されるトルクが制限される。ここでは、伝達トルクを制限するためのピン部材51及び付勢部材52がハンドル軸30に配置され、第1ギア28には係止凹部53を形成するだけでよいので、第1ギア28をコンパクト化できる。
【0055】
(B)トルクリミッタ39において、係止凹部53のピン部材51の先端部が接触する面は、ハンドル軸30の軸芯に対して交差する傾斜面53cを有する。この場合には、付勢部材52により押圧された、ピン部材51が係止凹部53の傾斜面53cに接触すると、傾斜により、第1ギア28を軸方向に押圧する力が発生する。これにより、第1ギア28ががたつきにくくなる。
【0056】
(C)トルクリミッタ39において、ピン部材51は、先端部が丸められた頭部51aと、頭部51aより小径の軸部51bとを有する。この場合には、小径の軸部51bの外周側にコイルバネの形態の付勢部材52をコンパクトに配置できる。
【0057】
(D)トルクリミッタ39において、ピン部材51は2本配置される。2本のピン部材51は、ハンドル軸30の直径に沿い、かつそれぞれの頭部51aが径方向外方を向くように配置される。付勢部材52は、1本配置される。付勢部材52は、2つの頭部51aの間での軸部51bの外周側に配置されるコイルバネである。
【0058】
この場合には、頭部51aと小径の軸部51bとの段差を利用して、一つのコイルバネで2本のピン部材51を付勢でき、ハンドル軸30の直径も小さくすることができる。また、ハンドル軸30に直径に沿って貫通孔30aを形成するだけで、ピン部材51と付勢部材52とを簡単に収納できる。
【0059】
(E)トルクリミッタ39において、係止凹部53は、ピン部材51の数より多く周方向に間隔を隔てて配置される。この場合には、ピン部材51が2本あっても、伝達トルクが小さくなれば回転方向の次の係止凹部53でピン部材51を進出させることができる。
【0060】
(F)トルクリミッタ39において、回転部材は、レベルワインド機構のトラバースカム軸にハンドル軸の回転を伝達するギア部材である。この場合にはレベルワインド機構のトラバースカム軸に回転を伝達する第1ギア28又は第2ギア25のコンパクト化を図れる。
【0061】
(G)軸部材は、糸繰り出し方向の回転が禁止される両軸受リールのハンドル軸30である。この場合には、ハンドル軸30に装着される第1ギア28のコンパクト化を図れる。
【0062】
(H)軸部材は、トラバースカム軸26である。この場合には、トラバースカム軸26に装着される第2ギア25のコンパクト化を図れる。
【0063】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0064】
(a)前記実施形態では、軸部材としてハンドル軸30を、回転部材として第1ギア28を例示したが、本発明はこれに限定されない。軸部材としてスプール軸およびトラバースカム軸であってもよい。とくに、特許文献1のようにスプール軸から中間ギアを介してトラバースカム軸に回転を伝達する場合には、スプール軸より太いトラバースカム軸にピン部材を設けてもよい。
【0065】
(b)前記実施形態では、手動の両軸受リールを例に説明したが、電動の両軸受リールにも本発明を適用できる。また、ハンドルが糸繰り出し方向に回転する両軸受リールにも本発明を適用できる。さらに、右ハンドルの両軸受リールを例に説明したが、左ハンドルの両軸受リールにも本発明を適用できる。
【0066】
(c)前記実施形態では、係止凹部53の接触面として斜面53aと円筒面53bとを設けたが、いずれか一方で接触面を構成してもよい。例えば、係止凹部の両側を斜面にしてもよく、また係止凹部の両側を円筒面にしてもよい。この場合、斜面53aを係止凹部53の両側に形成すれば、滑り出しのトルクを低く、かつ滑り時の回転を滑らかにできる。円筒面53bを係止凹部の両側に形成すれば滑り出しのトルクを高くでき、かつ釣り人に節度感を与える事で滑っていることが認識されやすい。また、左ハンドルの両軸受リールと右ハンドルの両軸受リールとで、第1ギア28を共用化できる。
【符号の説明】
【0067】
15 レベルワインド機構
26 トラバースカム軸
28 第1ギア
30 ハンドル軸
39 トルクリミッタ
51 ピン部材
51a 頭部
51b 軸部
52 付勢部材
53 係止凹部
53c 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り用リールの回転する軸部材と前記軸部材の外周側に配置される回転部材との間のトルクを制限する釣り用リールのトルク制限装置であって、
前記軸部材に配置され、回転部材に向けて進退可能であり、先端部が丸められる少なくとも一つのピン部材と、
前記軸部材に配置され、前記ピン部材を前記回転部材に向けて付勢する少なくとも一つの付勢部材と、
前記ピン部材の前記先端部が係合可能に前記回転部材に形成される少なくとも一つの凹部と、
を備える釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項2】
前記凹部の前記ピン部材の前記先端部が接触する面は、前記軸部材の軸芯に対して交差する傾斜面を有する、請求項1に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項3】
前記ピン部材は、前記先端部が丸められた頭部と、前記頭部より小径の軸部とを有する、請求項1又は2に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項4】
前記ピン部材は2本配置され、前記2本のピン部材は、前記軸部材の直径に沿い、かつそれぞれの前記頭部が径方向外方を向くように配置され、
前記付勢部材は、1本配置され、2つの前記頭部の間での前記軸部の外周側に配置されるコイルバネである、請求項3に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項5】
前記凹部は、前記ピン部材の数より多く周方向に間隔を隔てて配置される、請求項4に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項6】
前記回転部材は、レベルワインド機構のトラバースカム軸に前記ハンドル軸の回転を伝達するギア部材である、請求項1から5のいずれか1項に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項7】
前記軸部材は、糸繰り出し方向の回転が禁止される両軸受リールのハンドル軸である、請求項6に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項8】
前記軸部材は、前記トラバースカム軸である、請求項6に記載の釣り用リールのトルク制限装置。
【請求項9】
請求項1から8に記載の釣り用リールのトルク制限装置を備えた両軸受リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−70652(P2013−70652A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211082(P2011−211082)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】