説明

釣り糸用モノフィラメント及び釣り糸

【課題】高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持ち、釣り糸としての好適な性能を備えた釣り糸用モノフィラメント及びそれからなる釣り糸を提供する。
【解決手段】メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン単独重合体を溶融紡糸してなるモノフィラメントであって、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ曲げ硬さ指数Bhiが9〜13であることを特徴とする釣り糸用モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持ち、釣り糸としての好適な性能を備えた釣り糸用モノフィラメント及びそれからなる釣り糸に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン系樹脂(以下、PVdFと略称する)モノフィラメントは、強靭であること、比重が大きいこと、屈折率が水に近いこと、及び吸水率が低いことなどの有用な特性を備えているため、従来から釣り糸や漁網などの水産資材用途や種々の産業資材用途などに広く使用されている。
【0003】
しかるに、PVdFモノフィラメントは、繊維構造に由来する結晶性や弾性率の高さに起因して、他の合成繊維であるポリアミド系樹脂繊維などに比べ剛直で、直線性に乏しく、糸癖が付きやすいという問題点があった。すなわち、PVdFモノフィラメントを例えば釣り糸に使用した場合には、スプールやリールに巻いた後の巻き癖が付きやすい点が、あるいはハリスとして使用した場合には、針結びなど仕掛けづくりの段階でチヂレが発生しやすい点が、それぞれネックとなっていた。また、PVdFモノフィラメントをルアーラインとしてベイトリールと共に使用した場合には、バックラッシュと呼ばれるラインが絡まる現象が一度起こると、その際糸に付いた折れ癖を基にバックラッシュが頻発してしまうことが問題であった。このように、釣糸が剛直で直線性に乏しく糸癖が付きやすいことは、取扱い性を低下させるばかりか、ルアーや釣り餌の不自然な動きを引き起こすことにもなり、釣果を損なう原因となっていた。
【0004】
かかる問題の解決を目的として、PVdFモノフィラメントの柔軟化が従来から試みられており、そのような技術としては、フッ化ビニリデン系共重合体からなるモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)や、コモノマー成分を1質量%以上含むフッ化ビニリデン系共重合体を含有するPVdF組成物からなるモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)などが既に提案されているが、これらのモノフィラメントは、柔軟にはなるものの、その融点が低いことから、釣り糸として使用した際に摩擦熱による物性低下が起きてしまい、特に耐根ずれ性や結節強度が低下しやすいため、未だに十分満足できるものではなかった。
【0005】
また、高粘度PVdFを用いて極短時間高温緩和熱処理を付すことにより得られる高い結節強度と耐糸よれ性を兼ね備えたPVdFモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)も既に提案されているが、このモノフィラメントの製造方法は高温緩和熱処理を通常の紡糸工程に付与しなければならないばかりか、この熱処理にはグリセリンやシリコーン油などの有機溶媒を使用しなければならないため、産業上および環境面において十分満足できるものではなかった。
【0006】
さらに、PVdFからなる耐久性及び操作性に優れた蓄光テグス及び道糸(例えば、特許文献4参照)も既に提案されているが、このテグスは夜釣りにおける道糸の視認性を向上させるための蓄光テグスに関する発明であり、蓄光性蛍光体を含有することによってPVdFモノフィラメントに柔軟性が付与されてはいるが、ハリスなどの水中糸として使用すると魚を警戒させてしまい釣果を損なう原因となるばかりか、蓄光性蛍光体が糸中で異物として働くため、強度の面においても十分満足できるものではなかった。
【0007】
このように、従来の柔軟な釣り糸用PVdFモノフィラメントは、物性や製造方法などの面で不十分であり、その改良が望まれているのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5−33059号公報
【特許文献2】特開W2002/064867号公報
【特許文献3】特開2005−105483号公報
【特許文献4】特開2006−81543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0010】
したがって本発明の目的は、高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持ち、釣り糸としての好適な性能を備えた釣り糸用モノフィラメント及びそれからなる釣り糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明によれば、メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン単独重合体を溶融紡糸してなるモノフィラメントであって、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ下記式(1)で表される曲げ硬さ指数Bhiが9〜13であることを特徴とする釣り糸用モノフィラメントが提供される。
【0012】
【数1】

【0013】
ただし、Bhは曲げ硬さ[mN]、φはモノフィラメントの直径[mm]を示す。
【0014】
なお、本発明の釣り糸においては、
前記モノフィラメントの屈曲回復率が79%以上であること、および
前記フッ化ビニリデン単独重合体が、重量平均分子量Mw1を持つフッ化ビニリデン成分(A)70〜30重量%と、Mw1より高い重量平均分子量Mw2をもつフッ化ビニリデン成分(B)30〜70重量%とからなること
が、いずれも好ましい条件であり、これらの条件を適用した場合には、さらに優れた効果の取得を期待することができる。
【0015】
また、本発明の釣り糸は上記釣り糸用モノフィラメントからなることを特徴とし、特にハリスとして適用した場合に最良の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下に説明するとおり、高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持ち、釣り糸としての好適な性能を備えた釣り糸用モノフィラメントを得ることができる。
したがって、本発明の釣り糸用モノフィラメントは、上記の優れた特性を生かして、種々の釣り糸、特にハリスやルアーライン用途に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0018】
まず、本発明の釣り糸用モノフィラメントを構成するフッ化ビニリデン単独重合体について説明する。
【0019】
フッ化ビニリデン単独重合体を用いた釣り糸は、共重合体を用いたものに比べて融点の高いモノフィラメントとなり、摩擦熱に強くなる。その結果、例えば、水中の岩や鋭利な貝殻、コンクリートや朽木などの障害物と糸が接触した際の耐久性、いわゆる耐根ずれ性が向上するばかりか、釣り糸同士または釣り糸と針などを結ぶ時に摩擦熱によって結節部分の強度が弱くなるという問題が起こりにくくなる。したがって、上記の理由からフッ化ビニリデン樹脂の融点は170℃以上であることが好ましい。
【0020】
本発明で用いるフッ化ビニリデン単独重合体には、例えば顔料、染料、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、結晶化抑制剤、及び可塑剤などの各種添加剤を、目的とする性能を阻害しない範囲で、その重合工程、重合後あるいは紡糸直前に添加してもよい。
【0021】
本発明の釣り糸用モノフィラメント(以下、単にモノフィラメントと呼ぶことがある)においては、JIS K 7210(1999)の方法に従って230℃、荷重10kgで測定されたメルトフローレート(以下、MFRという)が1.5〜3.5g/10分、好ましくは1.7〜3.0g/10分のフッ化ビニリデン単独重合体を用いることが重要である。MFRが上記範囲を下回ると、溶融押出の際スクリューにかかる負荷が大きくなりすぎたり、生産性が低下したりするため好ましくない。逆に上記範囲を超えるとモノフィラメントにした際の引張強度が不足するため好ましくない。
【0022】
また、本発明で用いるフッ化ビニリデン単独重合体においては、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0、好ましくは2.0〜2.5であることも重要である。ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を表し、これらの比Mw/Mnは分子量分布の広さを表す指標として一般に用いられているものである。従来、分子量分布Mw/Mnが小さいほど、モノフィラメントの引張強度に優れる傾向が知られていた。しかしながら、分子量分布が上記範囲より小さいと、分子量が揃っているためモノフィラメントとした際に結晶化しやすく、硬いモノフィラメントになってしまうため好ましくない。逆に上記範囲より広い分子量分布Mw/Mnを持つ場合には、結晶化が足りず、モノフィラメントの引張強度が低く使用に適さなくなるため好ましくない。
【0023】
分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0のフッ化ビニリデン単独重合体は、簡便には、異なる平均分子量をもつ少なくとも二種のフッ化ビニリデン単独重合体をそれぞれの重合法により製造して、これらを混合することにより得られる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、重量平均分子量Mw1を持つフッ化ビニリデン成分Aを70〜30重量%と、Mw1より高い重量平均分子量Mw2を持つフッ化ビニリデン成分Bを30〜70重量%、より好ましくは成分Aを50〜30重量%と、成分Bを50〜70重量%とを含有する原料を用いることができる。なお、成分Bの重量平均分子量Mw2は35万以上であることが好ましい。この原料を使用すると、高い重量平均分子量Mw2を持つ成分Bが高い引張強度を維持しつつ、成分Aと混合することによって結晶化を抑制することができるため、硬さが改善され、柔軟なモノフィラメントが得られるのである。
【0024】
少なくとも二種のフッ化ビニリデン単独重合体を混合する場合には、粉末状のポリマーを所定の重量比率で混合した後、2軸混練押出機やドウミキサーなどへ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化する方法、またはペレット状のポリマーをドライブレンドする方法などを用いることができる。
【0025】
上記のフッ化ビニリデン単独重合体を用いて溶融紡糸してなる本発明のモノフィラメントには、JIS L1013(1999)8.5.1の方法に従って測定される乾引張強度が650〜1000MPa、好ましくは680〜950MPa、さらに好ましくは700〜900MPaであることが必要である。乾引張強度が上記範囲未満であると直線部の強度が要求される釣り糸としての使用に適さない。また、上記範囲を超える場合には配向、結晶化が進みすぎるため、硬いモノフィラメントとなってしまうため好ましくない。
【0026】
さらに、本発明のモノフィラメントの重要な特徴である柔軟性の指標として、下記式(1)で表される曲げ硬さ指数Bhiが9〜13、好ましくは10〜12.5であることが重要である。
【0027】
【数2】

【0028】
ただし、Bhは曲げ硬さ[mN]、Φはモノフィラメントの直径[mm]を示す。
【0029】
ここで、曲げ硬さ指数Bhiの測定方法を説明する。まず、モノフィラメント試料を温度20℃、相対湿度65%の条件下で24時間以上放置した後、長さ約4cmにカットしたモノフィラメント試料を用意した。水平方向に10mm間隔で2本設置された直径2mmのステンレス棒の下に試料が接触するようにセットし、そのステンレス棒の中央で試料に直径1mmのステンレス製フックを掛け、(株)メネベア製TCM−200型万能引張・圧縮試験機を使用して、ステンレス製フックを速度50mm/分で引き上げ、この時生じる最大応力を曲げ硬さBhとした。そして、この曲げ硬さBh[mN]とモノフィラメントの直径Φ[mm]を用い、曲げ硬さ指数Bhiを算出した。
【0030】
この曲げ硬さ指数が上記範囲を下回る場合には、モノフィラメントのコシがなくなり、絡まりやすくなるなど扱いにくいモノフィラメントとなるばかりか、その結果として折れ癖が発現しやすい釣り糸となってしまうため好ましくない。一方、上記範囲を上回る場合には、モノフィラメントが硬すぎてしまい、スプールやリールなどに綺麗に巻き取ることができないばかりか、糸癖が付きやすく一度ついた癖が元に戻りにくくなるため好ましくない。
【0031】
さらに、本発明のモノフィラメントは、屈曲回復率が79%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。ここで、屈曲回復率の測定方法を説明する。
【0032】
モノフィラメントを交差させた2本1組のループを作り、上方ループを止め金に固定し、下方ループに荷重(繊維の繊度[デニール]の1/2の荷重[g]の重り)を3分間かけることにより、ループの交差点で形成された1対の松葉状に屈曲したサンプルを得る。この屈曲部分を中心に長さ約3cmにカットしてサンプルを採取し、60分間放置した後測定した開角度(θ)から、式:θ/180×100[%]で屈曲回復率を求めた。この屈曲回復率は、釣り糸の糸癖に関する重要な特性であり、屈曲回復率が上記範囲未満では、糸癖が発現しやすく、取り扱い性を低下させたり、釣果を損なったりする好ましくない傾向が招かれることがある。
【0033】
本発明のモノフィラメントは、以下に説明する方法により効率的に製造することができる。
【0034】
上記モノフィラメントを溶融紡糸するに際しては、エクストルダー型紡糸機を用いる通常の条件を採用することができ、ポリマー温度を220〜285℃、押出圧力1〜50MPa、口金口径0.1〜20mm、紡糸速度0.3〜100m/分などの条件を適宜選択することができる。
【0035】
次に、押出機から紡出されたモノフィラメントは、短い気体ゾーンを通過した後、冷却浴内で冷却される。ここでの冷却媒体としては、ポリマーに不活性な液体、通常は水、グリセリンおよびポリエチレングリコールなどが用いられる。
【0036】
冷却固化された複合モノフィラメントは、引き続き1段目の延伸工程に送られるが、延伸および熱固定の雰囲気(浴)としては、温水、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどの加熱した熱媒体浴、熱気体浴および水蒸気浴などが用いられる。
【0037】
延伸工程では1段乃至多段延伸を行うが、好ましい全延伸倍率は、通常は5.0倍以上、好ましくは5.5倍以上である。
【0038】
1段乃至多段延伸後には、必要に応じて延伸歪みを除去することなどを目的として、適度な定長および/または弛緩熱処理を行うこともできる。
【0039】
なお、本発明のモノフィラメントには既存の方法を利用して、紡糸後あるいは紡糸中に着色、染色を行ってもよい。また、モノフィラメントの表面に仕上げ油剤等を付与しても良い。
【0040】
さらに、本発明のモノフィラメントの外形状については、必ずしも円形断面だけに限定されるものではなく、三角断面、四角断面および多葉断面などの任意の形状を取ることができ、またモノフィラメントを複数本で撚る、単糸に縒りを掛けるなどの2次加工したものを除外するものではない。
【0041】
以上説明したように、本発明のモノフィラメントは、メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン単独重合体を溶融紡糸してなり、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ曲げ硬さ指数Bhiが9〜13であることから、従来のフッ化ビニリデン系樹脂からなるモノフィラメントに比べて、高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持ち、釣り糸としての好適な性能を備えている。
【0042】
したがって、本発明のモノフィラメントは、上記の優れた特性を生かして、種々の釣り糸、特にハリスやルアーライン用途に極めて有用である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、実施例におけるモノフィラメントの評価は以下の方法に準じて行った。
【0044】
[メルトフローレート(MFR)]
JIS K 7210(1999)に準じて、230℃、荷重10kgで測定した。
【0045】
[重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)]
日本分光社のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置「GPC−900」を用い、カラムに昭和電工社製の「Sodex KD−806M」、プレカラムに「Sodex KD−G」、溶媒にNMPを使用し、温度40℃、流量10mL/分にて、GPC法によりポリスチレン換算分子量として測定した。サンプルとしては、原則モノフィラメントを使用した。
【0046】
[乾引張強度・乾結節強度]
JIS L 1013(2008)8.5.1および8.6.1に準じ、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/minにて測定した。
【0047】
[曲げ硬さ指数]
モノフィラメント試料を温度20℃、相対湿度65%の条件下で24時間以上放置した後、長さ約4cmにカットしたモノフィラメント試料を用意した。水平方向に10mm間隔で2本設置された直径2mmのステンレス棒の下に試料が接触するようにセットし、そのステンレス棒の中央で試料に直径1mmのステンレス製フックを掛け、(株)メネベア製「TCM−200型万能引張・圧縮試験機」を使用して、ステンレス製フックを速度50mm/分で引き上げ、この時生じる最大応力を曲げ硬さBhとした。そして、この曲げ硬さBh[mN]とモノフィラメントの直径Φ[mm]を用い、下記式(1)にて曲げ硬さ指数Bhiを算出した。
【0048】
【数3】

【0049】
[屈曲回復率]
モノフィラメントから交差させた2本1組のループを作り、上方ループを止め金に固定し、下方ループに荷重(繊維の繊度[デニール]の1/2の荷重[g]の重り)を3分間かけることにより、ループの交差点で形成された1対の松葉状に屈曲したサンプルを得る。この屈曲部分を中心に長さ約3cmにカットしてサンプルを採取し、60分間放置した後測定した開角度(θ)から、式:θ/180×100[%]で屈曲回復率を求めた。なお、繊維の繊度[デニール]は9000m当りの糸の重さを表す(1デニール=1g/9000m)。測定回数は4回とし、その平均値で示した。数値が大きいほど屈曲回復性が優れている。
【0050】
[耐根ずれ性]
一辺が10mm角の四角断面ステンレス棒からなる擦過棒8本を、直径130mm、長さ240mmの回転枠の外周に、平行かつ等間隔で取付けた装置を用いた。長さ400mmの釣糸(モノフィラメント)の一端に釣糸の単位断面積[mm]当り3kgの重りを取り付け、その他端をスライドシャフトに接続する。この状態とした釣糸を、上記6本の擦過棒の角部に接触するようにして、上記回転枠に懸下する。そして、釣糸に水をシャワリングしつつ、上記スライドシャフトをトラバースすることにより、釣糸に対し幅20mm、片道60秒の速度の往復移動を与えながら、上記回転枠を250rpmの回転速度で重り方向に60秒間回転させる。この処理後の釣糸を採取して、その引張強力をJIS L1013の規定に準じて測定し、処理前の引張強力に対する強力保持率[%]を算出する。強力保持率が高いほど耐根ずれ性が優れていることを意味する。
【0051】
[樹脂の融点]
セイコー電子工業製「DSC22」を使い、モノフィラメントサンプルを5.00mgセットし、昇温速度10℃/分で常温から300℃まで昇温させ(1stラン)、5分間保持した後、常温まで戻し、再び昇温速度10℃/分で常温から300℃まで昇温させた(2ndラン)。そして、2ndランの吸熱ピークから樹脂の融点をそれぞれ求めた。
【0052】
[実釣評価]
複数の釣り人にハリスとして実釣評価してもらい、次の三段階で評価結果を表した。
◎…強度・柔軟性・耐根ずれ性の全てに満足でき、釣りに適する。
○…強度・柔軟性・耐根ずれ性のいずれかに問題はあるが、釣りは可能である。
×…強度・柔軟性・耐根ずれ性のいずれかに重大な問題があり、釣りを続けることができなくなった、もしくは釣りに適さなかった。
【0053】
[実施例1]
フッ化ビニリデン単独重合体としてA成分(SolveySolexis製、「Solef(登録商標)1013」、Mw1=340000)50重量%と、B成分(SolveySolexis製、「Solef(登録商標)1015」、Mw2=480000)50重量%とを用い、粉末状の両ポリマーを混合した後、2軸混練押出機へ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化して、MFR=2.0g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.41の原料を得た。この原料をエクストルダー型紡糸機で紡糸温度260℃にて溶融し、直径2.0mmの口金を通してモノフィラメントを紡出した。このモノフィラメントを、口金直下に設けた温度300℃に加熱された雰囲気長150mmの空間を通過させた後、直ちに20℃のポリエチレングリコール液中で冷却した。
【0054】
次に、この未延伸糸を165℃のポリエチレングリコール浴中で5.8倍に一段目延伸し、引き続いて155℃の乾熱浴中に処理倍率0.9倍で通過させ熱処理を施すことにより、直径0.205mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0055】
[実施例2]
フッ化ビニリデン単独重合体としてA成分(「Solef(登録商標)1013」)30重量%とB成分(「Solef(登録商標)1015」)70重量%とを用い、粉末状の両ポリマーを混合した後、2軸混練押出機へ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化して、MFR=1.7g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.33の原料を得た。この原料を使用し、口金直径を1.3mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.128mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0056】
[実施例3]
フッ化ビニリデン単独重合体として「Solef(登録商標)1013」を樹脂ペレット化して、MFR=3.0g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.27の原料を得た。この原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.380mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0057】
[実施例4]
フッ化ビニリデン単独重合体として「Solef(登録商標)6013」の樹脂ペレット(MFR=2.9g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.20)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.205mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0058】
[比較例1]
フッ化ビニリデン単独重合体としてペレット状のダイキン工業製、「ネオフロンVP832」を使用した。この原料はMFR=3.5g/10分、分子量分布Mw/Mn=1.84であった。この原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.205mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0059】
[比較例2]
フッ化ビニリデン単独重合体として「Solef(登録商標)1012」、「Solef(登録商標)1013」,「Solef(登録商標)1015」を、それぞれ30重量%、30重量%、40重量%用い、粉末状のポリマーを混合した後、2軸混練押出機へ供給し、加熱下で混練したものを樹脂ペレット化して、MFR=3.5g/10分、分子量分布Mw/Mn=3.24の原料を得た。この原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.205mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0060】
[比較例3]
フッ化ビニリデン単独重合体として粉末の「Solef(登録商標)1015」をペレット化し、使用を試みたが、溶融粘度が高すぎてペレット化ができず、紡糸不可であった。この粉末原料はMFR=0.7g/10分、分子量分布Mw/Mn=1.95、融点173℃であった。
【0061】
[比較例4]
フッ化ビニリデン単独重合体としてペレット化された「Solef(登録商標)1012」を使用した。この原料はMFR=5.0g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.68であった。この原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.261mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0062】
[比較例5]
原料樹脂にフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体である「Solef(登録商標)11010」を使用した。この原料はMFR=70.2g/10分、分子量分布Mw/Mn=2.75であった。この原料を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、直径0.205mmのモノフィラメントを得た。このモノフィラメントからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0063】
[比較例6]
フッ化ビニリデン単独重合体としてダイキン製、「VP−830」を使用した。この原料はMFR=4.4g/10分、分子量分布Mw/Mn=1.87であった。この原料90重量%に対し、根本特殊化学製「N夜光ルミナーバGLL300FFS」(SrAl・Eu,Dy)を10重量%含有させた混合物を、エクストルダー型紡糸機で紡糸温度260℃にて溶融し、直径2.5mmの口金を通してモノフィラメントを紡出した。これ以外は、実施例1と同様にして、直径0.285mmのモノフィラメントを得た。
引き続き、高い強度を得ることを目的に、モノフィラメントに高温短時間熱処理を加えた。このモノフィラメントが巻き取られた状態で、70℃の乾燥機中に24時間放置して予備乾燥し、モノフィラメントの水分率を0.03%に調整した。そして、予備乾燥したモノフィラメントを巻き具から引き出しながら、710℃で0.1秒間、高温短時間熱処理を行った。
【0064】
これらのモノフィラメントおよびそれらからなる釣り糸の特性を表1に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、本発明の釣り糸は高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持っており、特にハリスやルアーラインとして使用した場合に従来のものに比べて優れている。
【0067】
一方、分子量分布の狭い原料を使用した釣糸(比較例1)は、引張強力には優れるものの、柔軟性が十分とはいえず、硬さの点で満足できるものではなかった。分子量分布の広い原料を使用した釣糸(比較例2)は、柔軟性があるものの、引張強力が不十分であり、実釣に耐えなかった。また、メルトフローレート(MFR)が低い原料を使用した釣糸(比較例3)は紡糸不可であり、MFRが高い原料を使用した釣糸(比較例4)は、引張強度不足により実釣に耐えなかった。共重合樹脂を使用した釣糸(比較例5)は、引張強力が不足するとともに対根ずれ性の点でも満足できるものではなく、実釣に耐えなかった。MFRが低く分子量分布が狭い原料樹脂を使用し、かつ蓄光性蛍光体を含む釣糸(比較例6)は、強力不足、耐根ずれ性不足に加え、魚に警戒心を与えてしまい、釣果を著しく損なう結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明の釣り糸は、従来のフッ化ビニリデン系樹脂からなるモノフィラメントに比べて、高強度、柔軟性及び耐根ずれ性を併せ持ち、釣り糸としての好適な性能を備えていることから、これらの優れた特性を生かして、種々の釣り糸、特にハリスやルアーライン用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(230℃、10kg)が1.5〜3.5g/10分、分子量分布Mw/Mnが2.0〜3.0であるフッ化ビニリデン単独重合体を溶融紡糸してなるモノフィラメントであって、乾引張強度が650〜1000MPa、かつ下記式(1)で表される曲げ硬さ指数Bhiが9〜13であることを特徴とする釣り糸用モノフィラメント。
【数1】

ただし、Bhは曲げ硬さ[mN]、φはモノフィラメントの直径[mm]を示す。
【請求項2】
前記モノフィラメントの屈曲回復率が79%以上であることを特徴とする請求項1に記載の釣り糸用モノフィラメント。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン単独重合体が、重量平均分子量Mw1を持つフッ化ビニリデン成分(A)70〜30重量%と、Mw1より高い重量平均分子量Mw2をもつフッ化ビニリデン成分(B)30〜70重量%とからなることを特徴とする請求項1または2に記載の釣り糸用モノフィラメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の釣り糸用モノフィラメントからなることを特徴とする釣り糸。
【請求項5】
ハリスであることを特徴とする請求項4に記載の釣り糸。

【公開番号】特開2011−160762(P2011−160762A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29818(P2010−29818)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】