説明

釣用靴、及び靴底

【課題】長期に亘って滑り止めの効果が発揮できると共に、耐久性に優れた釣用靴、及び靴底を提供する。
【解決手段】本発明の釣用靴1は、靴本体2の底面に靴底10を被着しており、靴底10の表面に、長手方向スリット11と横方向スリット13をクロスするように形成する。各スリット11,13は、靴底の側面10bに至ることなく形成されると共に、各スリットによって閉じられた領域が存在しないように形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に魚釣りをする際に使用される釣用靴、及び、そのような釣用靴に対して被着可能な靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渓流釣りや磯釣り等に用いられる釣用靴は、濡れた部分や岩場など、滑り易い部分を歩行した際、滑り難くした構造となっている。例えば、特許文献1に開示されているように、靴底にフェルト製のソール(フェルトソール)を被着したものが知られており、前記フェルトソールの表面(地面と接地する面)に、幅方向及び/又は長手方向に延びる割(スリット)を形成することで、ソール部分を屈曲変形し易くし、足場の悪い所を歩行しても安定性の向上を図るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−238614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したようなフェルトソールを被着した釣用靴は、幅方向及び/又は長手方向に延びる割が靴底の側面に至る領域まで形成されているため、側面の割と割の間の領域(割同士で区画された領域)が、側部に加わる力によって変位し易く破壊される可能性がある。すなわち、上記した割が靴底の周縁から側面に至る領域まで形成されていることで、側面部分が変形し易くなり、岩場などの凹凸を包み込むように変形して高いグリップ力が得られるものの、削れ易く、これにより靴底の周縁部が丸くなってしまい、早期に滑り易くなるという問題がある。
【0005】
また、前記割を、幅方向及び長手方向に格子状に形成すると、割によって囲まれた部分毎(ブロック毎)に変位して滑り止め効果は高いものの、ブロック部分がちぎれ易く、耐久性に欠けるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、長期に亘って滑り止めの効果が発揮できると共に、耐久性に優れた釣用靴、及び靴底を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係る釣用靴は、靴本体の底面に靴底を被着した構成において、前記靴底表面に、長手方向スリットと横方向スリットをクロスするように形成し、前記各スリットは、靴底の側面に至ることなく形成されると共に、各スリットによって閉じられた領域が存在しないように形成されていることを特徴とする。
【0008】
上記した構成の釣用靴によれば、靴底表面に、長手方向スリットと横方向スリットがクロスするように形成されていることで、靴底表面が変形し易くなり、岩場のような凹凸部分を歩行しても、その表面形状に沿って追従し易くなり、滑りが生じ難くなる。この場合、各スリットは、各スリットによって閉じられた領域が存在しないように形成されていることから、体重が加わった際、ブロック単位で変形するようなことはない。このため、靴底表面が変形、破壊したり、ちぎれ等が生じることがなく、耐久性に優れた構造となる。
【0009】
また、表面が滑り易い部分を歩行しても、クロスした長手方向スリットと横方向スリットが変形してグリップ力が増すため、滑りが生じ難くなる。さらに、各スリットは、靴底の側面に至らないように形成されていることから、側部領域に力が加わっても側面部分が大きく変位したり削れて摩耗等することは無く、これにより、側部領域において削れや破壊が生じることがなくなって、長期に亘って滑り抑制効果が得られると共に、耐久性の向上が図れるようになる。
【0010】
なお、上記したような長手方向スリットと横方向スリットが形成された靴底は、それ自体、単体構造として様々なタイプの靴本体の底面に被着することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期に亘って滑り止めの効果が発揮できると共に、耐久性に優れた構造の釣用靴及び靴底が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る釣用靴の一実施形態を示す図。
【図2】図1に示す釣用靴の靴底の裏面図。
【図3】本発明との比較例を示したスリット構造を示す図。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す図であり、靴底の裏面図。
【図5】本発明の第3の実施形態を示す図であり、(a)は靴底の裏面図、(b)は歩行時における靴底の屈曲状態を模式的に示す図。
【図6】本発明の第4の実施形態を示す図であり、靴底の裏面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る釣用靴、及び靴底の実施形態について添付図面を参照して具体的に説明する。
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態を示す図であり、図1は、釣用靴の全体構成を示す図、図2は、図1に示す釣用靴の靴底の裏面図である。
【0014】
本実施形態の釣用靴1は、ショートブーツタイプとして構成されており、釣り人の足部を覆う靴本体2と、靴本体2の裏面(底面)に対して接着、縫着等によって被着(固定)される靴底10とを備えて構成されている。なお、釣用靴として、ショートブーツタイプ以外にも、ロングブーツタイプや短靴タイプ(運動靴タイプ)に適用しても良い。
【0015】
前記靴本体2は、ゴム等の素材で一体形成されており、前記靴底10は、滑り難く屈曲性に優れた素材、例えば、フェルト等の繊維素材、或いは、ゴム(合成ゴム)、ウレタン、EVA等の合成樹脂によって一体形成されている。前記靴本体2については、特定の形状や素材に限定されることはないが、例えば、合成樹脂や繊維材などを組み合わせて縫製する等、適宜変形することができ、防水性を有する構造であることが望ましい。また、靴底10は、所定の肉厚Tを有しており、靴本体2に対して予め被着されたものであっても良いし、単体として製造、販売等され、様々な靴本体の裏面に被着される構成であっても良い。
【0016】
前記靴本体2と靴底10の被着方法や、両者の間の具体的な接合構造については特に限定されるものではなく、靴本体2の内部に中敷(インナーソール)やクッション材などが介在されていても良い。また、靴底10には、後述するようなスリット(長手方向スリットと幅方向スリット)が形成されるが、その肉厚Tは、十分なクッション性と耐久性が確保できるように、例えば、フェルトソールを被着したものであれば、フェルトソール部分で10〜25mmのものであれば良い。また、このようなフェルトソールにスリットを形成する場合、各スリットは、効果的な滑り止めと耐久性が確保できるように、肉厚Tに対して50〜100%の深さで形成されていれば良い。
【0017】
前記靴底10の表面(底面)10aには、長手方向スリット11と横方向スリット13がクロスするように形成されている。この場合、長手方向スリットとは、靴底10の長手方向(中心軸線)Xに沿った方向を意味しており、横方向スリットとは、長手方向Xに対して直交する方向Yを意味している。なお、両スリットのクロス状態は、両スリットが直交する状態でX方向又はY方向に対して傾斜(±30°以内)しても良いし、又は、それぞれのスリットが直交することなくX方向又はY方向に対し僅かに傾斜(±30°以内)していても良い。
【0018】
このような長手方向スリット11と横方向スリット13は、互いにクロスするように形成されるが、靴底表面に形成される全てのスリットがクロスしていなくても良い。すなわち、部分的に交差することのない長手方向スリットや横方向スリット等が存在していても良い。
【0019】
また、上記した各スリット11,13は、靴底10の側面10bに至ることなく形成されている。すなわち、各スリット11,13は、所定の深さで形成されるが、その切り込みは、靴底10の側面10bには露出しないように形成されている。
【0020】
さらに、上記した各スリット11,13は、1つの長手方向スリット11に対して複数の横方向スリットが交差したり、1つの横方向スリット13に対して複数の長手方向スリットが交差していても良いが、各スリット11,13によって閉じられた領域が存在しないように形成されている。具体的には、図3に示すように、長手方向スリット11Aと横方向スリット13Aによって、閉じられた領域(斜線で示すような各スリットで囲まれた領域)Aが存在しないように形成されている。
【0021】
本実施形態では、図1及び図2に示すように、長手方向スリット11と横方向スリット13は、1箇所でクロスした「+」形状となっており、このような「+」形状に形成されたスリット群が底面10aに一定間隔おいて点在するように形成されている。
【0022】
上記のように形成される靴底10を被着した釣用靴1によれば、靴底の表面に、長手方向スリット11と横方向スリット13がクロスするように点在して形成されていることで、靴底表面全体が変形し易くなり、岩場のような凹凸部分を歩行しても、その表面形状に沿って追従し易くなり、滑りが生じ難くなる。この場合、各スリット11,13は、各スリットによって閉じられた領域が存在しないように形成されていることから、体重が加わった際、ブロック単位で変形することはない。したがって、靴底表面が変形、破壊したり、ちぎれ等が生じることがなく、耐久性に優れた構造となる。
【0023】
また、表面が滑り易い部分を歩行しても、クロスした長手方向スリットと横方向スリットが変形してグリップ力が増すため、滑りが生じ難くなる。さらに、各スリット11,13は、靴底10の側面10bに至らないように形成されていることから、側部領域に力が加わっても側面領域が大きく変位したり削れて摩耗等することは無く、これにより、側部領域において、削れや破壊が生じることがなくなり、長期に亘って滑り抑制効果が得られると共に、耐久性の向上が図れるようになる。
【0024】
なお、上記したようなクロスする各スリット11,13は、図2で示すように、靴底10の周縁10cから所定の間隔をおいて形成することが好ましい。すなわち、上記したように、各スリットを側面10bに形成しない(露出させない)ようにすることで、側部領域に力が加わっても側面領域が大きく変位したり削れることはなくなるが、好ましくは、裏面の外周領域R(ドットを付した領域)にスリットを形成しないようにすることで、靴底裏面の周縁の硬度が維持されるようになる。このため、特に岩場等では、歩行時にバランスを崩しても、踏ん張り易くなり、滑りが生じ難くなる。具体的に、スリット11,13を形成する領域については、側面10bに露出させないものであれば良いが、靴底裏面の周縁硬度が十分に確保できるように、周縁10cからその距離Lが5mm以上離れていることが好ましい。
【0025】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
図4は、本発明の第2の実施形態を示す図であり、靴底部分の裏面図である。
【0026】
本実施形態では、実際に釣用靴を履いた際、その足裏の拇指球部A1、及び小指球部A2に対応する部分の靴底に、スリット11,13のクロス部分が位置するように形成している。この場合、クロスするスリットは、上記した実施形態と同様、靴底に多数形成されていても良く、その内の一部が、上記拇指球部A1、及び小指球部A2に対応するように形成されていても良い。
【0027】
通常、釣場における岩、砂があるところ(凹凸面)や滑り易い場所では、歩行するときに足裏の感覚が重要である。具体的には、拇指球部、小指球部、踵部にかかる荷重バランスを調整して足裏のどの位置に重心を位置させるかで、安定した姿勢となるようになっている。
上記のように、靴底10の拇指球部A1、及び小指球部A2に対応する部分に、スリット11,13のクロス部分を位置させることで、拇指球部及び小指球部の足底が、石や砂の凹凸に沿って変形し易くなり、このような凹凸を包み込むような状態、或いは、凹凸に沿うような状態で適正な位置に重心を位置させることが可能となり、より滑り難くすることが可能となる。
【0028】
また、スリット11,13については、複数個所でクロスするように構成しても良い。例えば、本実施形態のように、長手方向スリット11に対して、中央でクロスする横方向スリット13を形成すると共に、その両側に短い長さの横方向スリット13aをクロスさせたり、横方向スリット13に対して、中央でクロスする長手方向スリット11を形成すると共に、その両側に短い長さの長手方向スリット11aをクロスさせるようにしても良い。このように、長いスリット11,13、及び短いスリット11a,13aを組み合わせてクロスさせることで、スリットを形成した周辺領域を変形させ易くすることが可能となる。特に、図に示すように、中心で長いスリット11,13同士をクロスさせ、端部側で短いスリット11a,13aをクロスさせることで、中心領域を変形させ易くすることが可能となる。すなわち、このような構成のスリットを靴底10の拇指球部A1、及び小指球部A2に対応する部分に形成することで、より効果的に滑り難い構成とすることが可能となる。
【0029】
図5は、本発明の第3の実施形態を示す図であり、(a)は靴底の裏面図、(b)は歩行時における靴底の屈曲状態を模式的に示す図である。
本実施形態では、長手方向に所定間隔をおいて横方向スリット13,13b〜13gを形成し、それぞれの横方向スリットに、複数の長手方向スリット11,11b〜1dをクロスするように形成している。なお、図面では、後述する範囲R1に形成される横方向スリットを符号13で示し、その両サイドに形成される横方向スリットを13b,13c…で示し、中央位置に形成される長手方向スリットを符号11で示し、その両サイドに形成される長手方向スリットを11b,11c…で示してある。
【0030】
そして、このように、靴底10に複数の長手方向スリットを形成する場合、中央部領域に形成されているスリット11の長さを、側縁領域に形成されているスリット11b,11c,11dよりも長く形成することが好ましい。
このような構成によれば、長手方向の中心領域(中心軸)が変形し易くなり、足底の中心軸で石や岩等を受け易く、無理な姿勢でも安定して歩行することが可能となる。
【0031】
なお、上記したように、長手方向スリットを複数形成する場合、靴底全体を考慮して中心軸領域が最も変形し易い状態になっていれば良く、側縁領域に、部分的に長い長手方向スリットが形成されていても良い。
【0032】
また、このような構成では、拇指球部A1、及び小指球部A2が位置する長手方向の範囲R1内に、横方向スリット13を形成しておくことが好ましい。
このような位置に横方向スリット13を形成しておくことで、図(b)に示すように(分かりやすくするためデフォルメして示す)、歩行時において、特に足底の変形が必要な部位を変形させることができ、歩行性の向上が図れると共に、石、岩等の凹凸表面への足底変形の追従性が向上し、滑り難く安定して歩行することが可能となる。また、前記範囲R1内に形成される横方向スリット13については、靴底で屈曲し易いように、長さを最も長く形成しておくことが好ましい。
【0033】
図6は、本発明の第4の実施形態を示す図であり、靴底部分の裏面図である。
本実施形態では、長手方向に所定間隔をおいて形成されている横方向スリット13,13b〜13mに対し、それぞれ複数の長手方向スリット11,11bをクロスするように形成すると共に、上記した実施形態と同様、拇指球部A1、及び小指球部A2が位置する長手方向の範囲R1内に横方向スリット13を形成し、この横方向スリット13の長さを、それ以外の領域に形成されている横方向スリット13b〜13mよりも長くしている。
【0034】
このように構成することで、上記した範囲R1における屈曲性(変形量)を大きくすることが可能となり、より歩行性の向上、及び滑り難く安定した歩行をすることが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
本発明では、靴底裏面に形成されるスリットの構成に特徴があり、それ以外の部分については、適宜変形することが可能である。例えば、靴底の構成や材質については特に限定されることは無く、部分的に硬質部や軟質部が形成されていたり、凹凸(スパイクピンも含む)が形成されていても良い。また、形成されるスリットの幅についても、適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 釣用靴
2 靴本体
10 靴底
11,11a〜11d 長手方向スリット
13,13a〜13m 横方向スリット
A1 拇指球部
A2 小指球部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴本体の底面に靴底を被着した釣用靴において、
前記靴底表面に、長手方向スリットと横方向スリットをクロスするように形成し、
前記各スリットは、靴底の側面に至ることなく形成されると共に、各スリットによって閉じられた領域が存在しないように形成されることを特徴とする釣用靴。
【請求項2】
前記各スリットは、靴底の周縁から5mm以上離れた領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の釣用靴。
【請求項3】
前記長手方向スリットと横方向スリットがクロスした部分は、靴底の拇指球部、及び小指球部に対応して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣用靴。
【請求項4】
前記長手方向スリットは、中央部領域に形成されている部分の長さが、側縁領域に形成されている部分の長さよりも長く形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の釣用靴。
【請求項5】
前記横方向スリットは、拇指球と小指球を含む領域に形成されているものが、それ以外の領域に形成されているものよりも長いことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣用靴。
【請求項6】
靴本体の底面に被着される靴底であって、
前記靴底表面に、長手方向スリットと横方向スリットをクロスするように形成し、
前記各スリットは、靴底の側面に至ることなく形成されると共に、各スリットによって閉じられた領域が存在しないように形成されることを特徴とする靴底。
【請求項7】
前記各スリットは、靴底の周縁から5mm以上離れた領域に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の靴底。
【請求項8】
前記長手方向スリットと横方向スリットがクロスした部分は、靴底の拇指球部、及び小指球部に対応して形成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の釣用靴。
【請求項9】
前記長手方向スリットは、中央部領域に形成されている部分の長さが、側縁領域に形成されている部分の長さよりも長く形成されていることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の靴底。
【請求項10】
前記横方向スリットは、拇指球と小指球を含む領域に形成されているものが、それ以外の領域に形成されているものよりも長いことを特徴とする請求項6から9のいずれか1項に記載の靴底。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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