説明

釣竿とそのグリップの製法

【課題】多孔質材グリップ本体の表面硬化処理における重量増加を可及的に低減させたグリップを有する釣竿を提供する。
【解決手段】グリップは発泡性樹脂材等の多孔質材で形成されたグリップ本体14を具備し、該グリップ本体の表面に開口する多数の空隙の内の95%以上の空隙を、該グリップ本体と同等の硬度か又はより硬度の高い充填部材16で充填し、該充填部材の外側に、グリップ本体よりも硬度の高い合成樹脂材の塗膜18を設け、該塗膜の外側に糸条が巻装されているよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、へら竿等、多孔質材製グリップを具備する釣竿とそのグリップの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
へら竿等、グリップを片手で把持して行う釣りでは、片手で竿のグリップを持ち、グリップを把持した手とは反対側の体側部下方から仕掛けを斜め上方向に放り上げるよう(送り込むよう)にして投擲動作をする。この把持部分であるグリップは、EVA等の発泡性樹脂や天然コルク等の多孔質材のグリップ本体を芯材として有し、グリップに柔らかい感じの把持感を与える。しかし、その多孔質故に表面がもろい。これを補強すべく表面にウレタン樹脂塗膜(と更にエポキシ樹脂塗膜と)を形成し、そうした表面硬化処理を施した上に、糸条を巻装配設して構成する。こうしたグリップを使用した釣竿が下記特許文献1に例示されている。
【特許文献1】特開平9−107851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然しながら、発泡性樹脂材等の多孔質材の表面部には種々の寸法形状の開口した空隙を有しており、硬化目的のウレタン樹脂系等の塗料は、その粘性によって開口した空隙に入り込めるものと入り込めないものとが生じる。このため、グリップ本体表面に設けたウレタン樹脂塗膜の膜下に空隙が残っている場所が多くあり、ここでは表面硬度が下がり、手で握持した際に潰れ易く、所望の硬度を得るためには塗膜を厚めにする必要があり、その分重くなる。片手で操作するへら竿等においては、重量増加は致命的な欠点であり、改善が求められている。
依って解決しようとする課題は、多孔質材グリップ本体の表面硬化処理における重量増加を可及的に低減させたグリップを有する釣竿を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題に鑑みて第1の発明は、グリップは発泡性樹脂材等の多孔質材で形成されたグリップ本体を具備し、該グリップ本体の表面に開口する多数の空隙の内の95%以上の空隙を、該グリップ本体と同等の硬度か又はより硬度の高い充填部材で充填し、該充填部材の外側に、グリップ本体よりも硬度の高い合成樹脂材の塗膜を設け、該塗膜の外側に糸条が巻装されていることを特徴とする釣竿を提供する。
充填部材とは、塗料を含む他、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、シアノアクリレート樹脂系、アクリル樹脂系、等の合成樹脂接着剤、所謂、パテを含む。
【0005】
第2の発明では、釣竿のグリップは発泡性樹脂材等の多孔質材で形成されたグリップ本体を具備し、該グリップ本体の表面に該グリップ本体と同等の硬度か又はより硬度の高い合成樹脂材の塗膜を設けており、該塗膜は、粘性の低い塗料から粘性の高い塗料を順に上に重ね塗りすることを特徴とする釣竿グリップの製法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
第1の発明では、充填部材がグリップ本体表面に開口する多数の空隙の内の95%以上の空隙に充填されているため、従来のように、せいぜい50%止まりの場合と異なり、グリップ表面硬度が向上して潰れ難くなる。従って、その上に塗布する塗膜は薄くでき、軽量化に寄与する。また、糸条の存在のためにグリップを把持した際に滑り難くなる。
【0007】
もし、糸条を糸条直径程度以上の間隔を置いて巻装すれば、手で握持して投擲操作する際の強い滑り止めになるが、握持力によって離隔糸条の夫々の部分がグリップ本体表面に押し付けられる力の集中が発生するため、こうした場合のグリップ本体表面部の硬度不足は握持性不良とグリップ表面部の破損に繋がる。第1の発明では、こうした場合にその作用効果が向上する。
【0008】
第2の発明では、粘性の低い塗料は、グリップ本体表面の開口した空隙の寸法形状が如何なるものでも入り込み易い。従って、順次、粘性の高い塗料を上に重ね塗りすれば従来のような埋まらない空隙を殆ど無くすることができ、それだけ表面の塗膜厚さを厚くする必要が無くなり、軽量化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を添付図面を用いて更に詳細に説明する。図1は本発明に係る釣竿の要部正面図であり、図2は図1の矢視線B−Bによる断面の模式的拡大部分図である。釣竿としてはへら鮒釣用のへら竿を例示している。エポキシ樹脂等の合成樹脂をマトリックスとし、炭素繊維等の強化繊維で強化した繊維強化樹脂製の竿杆10の後部には、EVA等の発泡性樹脂材や天然コルク等の多孔質材製のグリップ本体14を接着固定し、その表面に、充填部材として、このグリップ本体よりも硬質なウレタン樹脂を充填してウレタン樹脂塗膜16を設けている。
【0010】
その上により硬質なエポキシ樹脂塗膜18を形成し、そうした表面硬化処理を施した上に、糸条HJ,HJ’を巻装等して配設し、通常、この糸条の上から、糸止め材としてのエポキシ樹脂18’を塗り、糸条を保持固定させる。こうしてグリップ10Gを形成する。12は尻栓である。糸条は間隔を置いて設けてもよいが、緻密に設けてもよい。
グリップ本体の表面処理はこの例に限らず、使用する塗膜樹脂は熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が使用可能である。
【0011】
糸条としては、ナイロン糸や綿糸が使用され、その直径Dは0.2mm≦D≦1mmが好ましい。糸条HJは、竿杆(グリップ)中心軸線Jに平行な軸長方向に対して角度θに傾斜させると共に、隣接糸条間に糸条の直径以上の隙間を設けて巻装し、これらの糸条HJに交差するように他の方向に指向した糸条HJ’を−θの角度に傾斜させ、同様に隙間を設けて巻装している。この2つの角度は必ずしも絶対値が同じ値θでなく、異なっていてもよい。また、例えば、糸条HJを85度、糸条HJ’を65度にして両者を交差させてもよい。ここでは角度θは75度にしている。また、ここでは全ての糸条は同じ直径の糸条を使用しているが、異ならせてもよい。
【0012】
グリップ本体14には多数の空隙が形成されており、種々の大きさのものがある。それらの一部が、グリップ本体表面部に位置し、表面に開口している。従って、それらの開口の大きさや空隙の深さは種々様々である。このため、従来のように、ウレタン樹脂等を単純に塗布しただけでは、その開口した空隙の内の50パーセント程度までが塗料が充填されて塞がるに過ぎない。このため、薄い塗膜ではグリップ本体表面部の充分な硬化が成し得ない。特に、この実施形態例のように、糸条を間隔を置いて巻装した場合は、手による把持によって糸条がグリップ本体表面に押し付けられる力が集中するから、グリップ表層の硬度が問題となる。即ち、空隙が残ったまま塗膜で覆われた部分は押し込まれ易く、へこみ易い。特に、糸条の交差部は線ではなく点として表面部に力を作用させるため、問題が大きい。
そこで本実施形態例では、最初に粘性の低い塗料を塗布し、次により粘性の高い塗料を塗布する。
【0013】
図3に模式的に例示するように、この例では、3つの段階を経て塗膜16を形成している。まず、最も粘性の低い(10〜100cP(センチポアズ)(0.01〜0.1Ns/m))状態のウレタン樹脂塗料を塗布して第1層16Aを形成する。この場合、粘性が低いため、小さな開口や小さな空隙に対しても塗料を流し込むことができるが、空隙の深さや開口状態等に応じて、開口している空隙が塗料で完全に充填されるものとそうでないものとが存在する。
【0014】
次に、これよりも粘性を高めた状態(100〜200cP(0.1〜0.2Ns/m))のウレタン樹脂を塗布し、第2層16Bを形成する。これで充填される空隙もあるが、一部は未だ充填されないで残るものもある。最後に、更に粘性を高めた状態(200〜300cP(0.2〜0.3Ns/m))のウレタン樹脂塗料を塗布して第3層16Cを形成する。これによってグリップ本体表面部に開口していた全ての空隙の内の95%以上が充填される。
【0015】
上記図3の例のように、3回に分けて重ね塗りを行ったからといって、従来の手法に比べて塗膜16が厚くなるわけではない。従来よりも各層16A,16B,16Cは3層合わせても薄くなるように塗布することができる。グリップ本体表面部に所望の硬度を得るべく、従来のウレタン樹脂の平均的な塗膜厚さは0.2〜0.4mm程度にしているが、本願による塗膜厚さtは0.08〜0.10mm程度である。このように、本願では、グリップ本体表面の開口した空隙を樹脂塗料で充填することにより、表層の硬度を従来の硬度と同等にしてグリップ本体表面の塗膜厚さを薄くできる。
【0016】
このウレタン樹脂塗膜16の上に更に設けたエポキシ樹脂塗膜18の存在で、糸条を巻装した後から塗布する糸止め用の同質のエポキシ樹脂の層18’のグリップ本体側への密着性が向上する。また、ウレタン樹脂塗膜に比べて硬度が高いため、薄い膜厚で表面硬度を上げることができる。更には、重ね塗りは3層とは限らず、2層以上であれば層数は限定されない。また、上記ウレタン樹脂層16に代えてエポキシ樹脂を使い、これを上記と同様に、グリップ本体14の表面部に複数回に分けて重ね塗りしてもよい。
【0017】
糸止め材18’は、通常、厚さを0.02mm〜0.1mmにする。また、ウレタン樹脂塗膜16及び/又はエポキシ樹脂塗膜18等から成る硬質皮膜層よりも柔軟にすべく、糸止め材よりも軟質の粒子を混入させ、糸条の表面にこれら粒子を付着させると把持性が向上して好ましい。
【0018】
図4は、グリップ本体表面に開口した空隙を、塗膜ではなくて充填部材で充填した実施形態例を模式的に図示し、図3に対応する図である。多孔質材グリップ本体14の表面に開口した空隙を充填すべく、充填部材としての、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、シアノアクリレート樹脂系、アクリル樹脂系、等の合成樹脂接着剤(パテ)16’をグリップ本体表面に摺り込む。乾燥後に、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の塗料をその上に塗布して塗膜19を形成してもよいが、この例では、合成樹脂接着剤16’の乾燥後に、その上からサンドペーパー等で研摩し、実質的にグリップ本体表面には合成樹脂接着剤の層は残っておらず、空隙を充填した接着剤16’の表面と、グリップ本体表面の高さは略面一である。接着剤(充填部材)も塗膜も、グリップ本体14よりも高硬度である。しかし、接着材は実質グリップ本体14と同じ硬度でもよい。
【0019】
しかし、合成樹脂接着剤の層が残っていてもよいのであり、何れにしても、上記の如く、サンドペーパー等によって表面荒らしをし、その上に塗膜19を形成すると塗膜の密着性が良くなる。この他、充填部材と合成樹脂塗膜との密着性を向上させるには、互いに同系合成樹脂材を用いればよい。例えば、充填部材にウレタン樹脂系の接着剤を使用し、塗膜19にウレタン樹脂系の塗料を使用する。
【0020】
こうして密着性を向上させると、外側に設けられた糸条から力を受けても、部分的な剥離が発生することなく、糸条の固定力、保持力が安定化し、耐久性に優れたグリップとなる。塗膜19の上に糸条HJ,HJ’を設け、その上から、糸条固定用の合成樹脂塗料層18’を設けることは図3の実施形態例の場合と同じである。
【0021】
上記略面一とは、段差が5/100mm以下である。また、接着材16’がグリップ本体表面にも形成されていてもいなくても、塗膜19の膜厚を均一化すれば、グリップ本体表面領域における皮膜硬度の変化が小さくて硬度が安定し、外側の糸条からの力に対し、塗膜が部分的に潰れたり、破損することも防止できる。この場合の膜厚均一も、膜厚相違が5/100mm以下の場合である。
【0022】
以上の場合において、塗膜を形成する場合は、塗料としては速乾性が好ましい。速乾性塗料を使用することで、塗布された塗膜塗料中に含まれる気泡が表面側に浮き上がることが防止できるため、塗膜表面が隆起せず硬化するので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、へら竿等、多孔質材製グリップを具備する釣竿に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は本発明に係る釣竿の要部正面図である。
【図2】図2は図1の矢視線B−Bによる横断面の模式的拡大部分図である。
【図3】図3は図2のグリップ部の詳細模式図である。
【図4】図4は図3に代わる他の形態例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 竿杆
10G グリップ
14 グリップ本体
16 ウレタン樹脂塗膜(充填部材)
16’ パテ(充填部材)
16A,16B,16C ウレタン樹脂塗膜の各層
18 エポキシ樹脂塗膜
19 塗膜
HJ 一の方向の糸条
HJ’ 他の方向の糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリップは発泡性樹脂材等の多孔質材で形成されたグリップ本体を具備し、
該グリップ本体の表面に開口する多数の空隙の内の95%以上の空隙を、該グリップ本体と同等の硬度か又はより硬度の高い充填部材で充填し、
該充填部材の外側に、グリップ本体よりも硬度の高い合成樹脂材の塗膜を設け、
該塗膜の外側に糸条が巻装されている
ことを特徴とする釣竿。
【請求項2】
釣竿のグリップは発泡性樹脂材等の多孔質材で形成されたグリップ本体を具備し、該グリップ本体の表面に該グリップ本体と同等の硬度か又はより硬度の高い合成樹脂材の塗膜を設けており、該塗膜は、粘性の低い塗料から粘性の高い塗料を順に上に重ね塗りすることを特徴とする釣竿グリップの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−200621(P2010−200621A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46733(P2009−46733)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】