説明

釣竿の付属具

【課題】 取付足と竿体との固定強度は巻糸層と接着剤層の存在に依存している。従って、従来品のように滑らかに湾曲した傾斜面が形成されていると、傾斜面と巻糸との摩擦抵抗は比較的小さくなり、しかも固定後には楔効果が接着剤層と竿体の間を切り裂くように働いてしまうため、釣竿を過酷な条件下で使用すると、取付足がずれてしまう。
【解決手段】取付足7の足先8に形成された平坦状の傾斜面13は、左右両側の輪郭を画定する2つのエッジ稜線17,19が、側面視で取付足7の上面から竿体3の外周面5に向かって直線状に延びており、外周面5に到達する先端で合流している。エッジ効果などにより巻糸21の移動が阻止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻糸によって竿体の外周面に固定される取付足を有する釣竿の付属具、例えば、導糸環、リールシート、鉤掛け環などの付属具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10に示す従来品の導糸環101や上記した付属具は、取付足103の足先104(即ち、反踵側)に、通常足削り部と呼ばれる、上面が滑らかに湾曲した傾斜面105を切削加工により形成した後、使用される。その際、取付足103の足先104は鋭い楔形状をなしている。
取付足103を竿体107の外周面109に固定する場合には、先ず、巻糸111を竿体107の外周面109に巻き付けて巻糸層113を形成し、次に取付足103の足先104を巻糸層113の端面に接触する様に、外周面109に押し当て、さらに巻糸111を取付足103と竿体107の外周面109に巻き付け、最終的に接着剤を施し固化させて巻糸層113と竿体107及び取付足103とを固定している。
【0003】
【特許文献1】特許2835904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6−101は、従来品の側面図である。この図を例に説明すると、従来品の場合、取付足103と竿体107との固定強度は巻糸層113と接着剤層115,117の存在に依存している。そのため、上記したように滑らかに湾曲した傾斜面105が形成されていると、傾斜面105と巻糸111との摩擦抵抗は逆に小さくなる。しかも、釣竿を過酷な条件下で使用すると、以下のような問題が顕在化する。
【0005】
例えば、取付足103に、竿軸方向に対して前進または後退する方向に応力が負荷されると、図6従来品−101の(2)応力負荷図で示すように、奥側接着剤層117が耐え切れずに竿体107の外周面109から、若しくは取付足103の底面から剥離されてしまい、取付足103はぐらぐらした状態となる。この状態で、さらに前進方向に応力が負荷されると、足先104の楔が接着剤層を剥離するように働いてしまうため、取付足103は容易に前進して表側接着剤層115を切り裂き、終には巻糸層113及び表側接着剤層115を貫通し、即ち突き破ってその上に乗り上げ露出してしまう。そこまで至ると、そこから水が入ったり、露出した金属材が腐食したりするなどして、釣竿の寿命が短くなる。
また、さらに横方向に捻り応力が負荷されると、図7の従来品−101の欄で示すように、足削り部の断面は略蒲鉾形である為、同様に接着剤層を剥離するように働き、容易に横方向にズレてしまう。ズレが大きいと、もはや使用不可となる。
さらに、図6−101(3)曲げ負荷図に示す様に、取付足103の踵から最も遠い部分である足先104と竿体107の外周面109とで画定される段差部118は最も曲げ負荷に弱い箇所であり、そこにくり返し曲げ負荷を受けると、表側樹脂層115にクラックが容易に生ずる。そのクラックが取付足103を構成する金属材にまで至ると、そこから水が入ったり、露出した金属材が腐食したりするなどして、釣竿の寿命が短くなる。
また、従来品では、足削りの面積が大きい為、切削加工をすると摩擦熱が発生し、発熱によって素材表面が変質し、耐蝕性が低下する問題も有った。
更に、傾斜面105を大きく形成した場合、割れ目12にまで、その傾斜面が到達してしまい、取付足7が左右に分離して使用不可となる様なケースも有った。
【0006】
前記した特許文献1では、傾斜面の先端に肉厚が薄い先端巻糸部を設けることで巻糸の迅速な巻き付けを可能としているが、先端巻糸部を設けても、釣竿の使用中に、上記した問題は同様に発生しうる。
【0007】
それ故、本発明は、上記した問題の発生を効果的に回避できる、形状の工夫された傾斜面が形成された取付足を有する付属具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、傾斜面の形状を鋭意研究の結果、上記した固定強度に関する問題だけでなく、従来から認識されていた複数の問題をも同時に解決できる形状を案出するに至ったので、以下に記載する。
請求項1の発明は、巻糸によって竿体の外周面に固定される取付足を有する釣竿の付属具において、前記取付足の足先には傾斜面が形成されており、前記傾斜面は、左右両側の輪郭を画定する2つのエッジ稜線が、側面視で前記取付足の上面から前記竿体の外周面に向かって直線状に延びており、前記外周面に到達する先端で合流していることを特徴とする釣竿の付属具である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1記載の釣竿の付属具において、傾斜面は平坦状に形成されていることを特徴とする釣竿の付属具である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2記載の釣竿の付属具において、傾斜面の傾斜角度は10〜30°であることを特徴とする釣竿の付属具である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか記載の釣竿の付属具において、傾斜面は切削加工により形成されていることを特徴とする釣竿の付属具である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の釣竿の付属具において、付属具は1枚の板状材から一体的に形成されたものであることを特徴とする釣竿の付属具である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の釣竿の付属具によれば、取付足に形成された傾斜面の特異的な形状により、取付足に巻糸を巻き付ける際の不都合を犠牲にすることなく、取付足と竿体との固定強度が高められている。さらに、クラックの発生防止など、他の効果も同時に奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の第1の実施の形態に係る釣竿の付属具の一例としての導糸環1を、図面に従って説明する。
図1に示すように、導糸環が竿体3の外周面5に取り付けられ固定されている。
上記した導糸環1は、1枚の金属製の平らな板状材から一体的に形成されている。先ずプレス加工により所定のフレーム形状に打ち抜かれ、更に曲げ加工が施されて所定の立体形状に成形されている。
【0015】
この導糸環1では、竿体3の外周面5に、竿軸方向に直列に取付足7,9が取り付けられて固定される。取付足7,9はそれぞれ、上面から見ると先細りの舌辺に似た状をなしている。左右両側の側面は、プレス加工による打ちぬき面がそのまま表出しており、板状材の厚みに略対応した急勾配の壁面11となっている。因みに、符号12は割れ目を示し、この割れ目12は1枚の金属製の平坦的な板状材から無駄なく一体的に形成したが故に生じたものである。
取付足7,9の足先8,10には傾斜面13,15がそれぞれ形成されている。傾斜面13,15の形状的特徴は共通するので、以下、代表して取付足7の傾斜面13について説明する。
【0016】
傾斜面13は略平坦状に形成されており、この傾斜面13は工具を使った切削加工により形成されている。傾斜面13は上面からみると略三角形をなしている。
符号17,19は2つのエッジ稜線を示し、(竿軸方向に対して)傾斜面13の左右両側の輪郭を画定している。
この2つのエッジ稜線17,19は、略左右対称に取付足7の上面からそれぞれ竿体3の外周面5に向かって下方に延びており、外周面5に到達する先端で合流している。
【0017】
図2は取付足7が竿体3の外周面5に載せられた状態を、側面視、即ち横方向から見た図である。この図に示すように、エッジ稜線17は直線状に延びており、しかも取付足7の上方の輪郭をなしている。即ち、取付足7の左右両側部分には、急勾配の壁面11がそのまま残されている。
傾斜面13の傾斜角度(θ)は10〜30°の範囲で任意の値に設定されており、従来の足削部設定の基準から言えば、かなりの急勾配に設定されている。
図3は取付足7が竿体3の外周面5に載せられた状態を、竿軸方向から見た断面図である。この図に示すように、エッジ稜線17,19は外側を向いたエッジ稜線として傾斜面13の左右端部にそれぞれ存在している。
【0018】
図4は固定状態を横方向からみた図であり、図5は固定状態を竿軸方向から見た図である。
取付足7が竿体3の外周面5に載せられ、巻糸21が巻き付けられて巻糸層23が形成され、さらに接着剤が塗布され固化されることで接着剤層25,27が形成され、最終的に取付足7が竿体3の外周面5に固定されたことになる。
接着剤層は、表側接着剤層25が巻糸層23を上から覆うように形成されるだけでなく、奥側接着剤層27が取付足7の底面と竿体3の外周面5との間にも流体状態の段階で浸入し固化して形成される。
【0019】
以下に、導糸環1が備える取付足7の奏する効果を説明する。
(1)固定強度の更なる向上
図4・図5に示す様に、巻糸21が取付足7の傾斜面13と竿体3と両方に掛かっている状態では、巻糸21は傾斜面13上ではその面に載った状態で存在するが、エッジ稜線17,19で急勾配に壁面11側に屈曲されて竿体3の外周面5に到達している。その際、2つのエッジ稜線17,19が巻糸21に対して言わば摩擦結合状態となっており、巻糸層23に対する取付足7の前後方向のズレや移動を阻止している。
また、図4.5に示す様に、傾斜面13の傾斜角度(θ)は大きく、しかも取付足7の側面には急勾配の壁面11が残っているので、即ち取付足7の足先は鋭い楔形状にはなっていないので、応力が負荷されても、表側接着剤層25は簡単には切り裂かれない
【0020】
さらに、図4・5に示す様に、接着剤層25,27は流体状の接着剤を塗布して固化して形成しており、取付足7の壁面11と竿体3の外周面5とで画定される側方段差部28と、取付足7の傾斜面13と竿体3の外周面5とで画定される先方段差部30の段差は図6従来品−101より大きくなっているので、接着剤が塗布されると、表面張力作用により、それぞれの段差部28,30を埋めるように接着剤の大きな溜まり部29,31が形成される。
特に、側方段差部28の段差は大きいので、側方接着剤溜まり部29が大きく形成されることになる。側方接着剤溜まり部29は取付足7の左右両側に形成されるので、取付足7に横方向から捻り応力が負荷されても、左右の側方接着剤溜まり部29が言わば土手として存在しており、取付足7の横方向へのズレを阻止している。
以上の複合的効果により、釣竿の使用時に、導糸環に前後方向や横方向から応力が負荷されても、図6、図7に示すように、本発明品(即ち、導糸環1)に関しては、高い固定強度により、取付足7が竿体3の外周面3に安定的に固定されており、ズレなどが発生することを効果的に防止する。
【0021】
(2)接着剤層のクラックの発生の阻止
図4に示す様に先方段差部30の段差(即ち、傾斜面13の傾斜角度(θ))は従来品101より大きくなっているので、接着剤が塗布されると、表面張力作用により、その段差部30を埋めるように接着剤の大きな先方接着剤溜まり部31が形成されている。
先方段差部30は、取付足7の踵から最も遠い部分と竿体3の外周面5とで画定される部分で、最もくり返し曲げ負荷に弱い箇所であるが、その上には大きい(即ち、厚みのある)先方接着剤溜まり部31が形成されているので、そこにくり返し曲げ負荷を受けても、図6本発明1−(3)曲げ負荷図に示すように、本発明品に関しては、先方接着剤溜まり部31(即ち、表側接着剤層25)にクラックは生じ難く、またクラックが生じても貫通する可能性は殆ど無い。
【0022】
(3)巻糸の巻付け時の作業性
図1に示す様に取付足7の足先8は楔形状になっていない。
足先8から巻糸21で、外周面5に導糸環1を取付ける際、傾斜面13が急勾配だと、特にラッピング圧のコントロールが上手くない初心者では、巻糸21が傾斜面13上にさしかかると、巻糸21が斜面上を滑落し易い問題があった。しかし本発明の場合、2つのエッジ稜線17,19の角が巻糸21に食い付き、言わば摩擦結合されるので、巻糸21の滑落が阻止され、初心者でもスムーズに巻糸21を巻き付けることができる。
特に、傾斜面13の傾斜角度(θ)を大きくすれば、傾斜面13の竿軸方向の長さが短くなるので傾斜面13上での巻糸21の巻回数が少なくなり、巻糸21の滑落の可能性はより低くなる。
さらに、取付足7は楔形状になっていないために、作業者の手や竿体3を傷つける危険性が少なくなる利点もある。
【0023】
(4)傾斜面形成時の作業性など
本発明の場合、図1に示す様に、取付足7に傾斜面13が形成されても壁面11が残されているので、図6、7に示す従来品101より切削面積は小さい。特に、傾斜面13の傾斜角度(θ)を急勾配に設定した場合には切削面積はより小さくなる。従って、加工時間も短縮され、当然ながら切削に伴う発熱による素材の変質は従来品−101より抑えられる。
また、傾斜面13は単純に単一の急勾配の平坦状に形成すればよいので、削りすぎにより図1に示す割れ目12にまで到達するようなことはない。因みに、傾斜面13が割れ目12まで到達すると、取付足7が左右に分かれてしまい、使用不可となる様なケースも発生する。
【0024】
本発明の第2の実施の形態に係る釣竿の付属具の一例としての導糸環33を図8に従って説明する。
この導糸環33の取付足35の上面には、スパイク効果を狙って滑り止め用エンボス加工部37が形成されている。傾斜面39はこのエンボス加工部37を削って形成されている。傾斜面39の形状は第1の実施の形態に係る傾斜面13と同じである。
傾斜面39は傾斜面13と同様に急勾配で形成されており、エンボス加工部37の削り取り面積を最小限に抑えている。
【0025】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態では側支脚用の取付足は単一のものであり、一対の側支脚の先端が左右両側から取付足に移行しているが、一対の側支脚に対応して一対の取付足を設け、それぞれの取付足を竿体の左右両側の外表面に当接させてもよい。例えば、図9に示すような形状の取付足41,43,45を備えたものであっても、それぞれ傾斜面42,44,46を形成すれば、本発明の範囲に含まれる。
【0026】
導糸環用フレームや、リールシート、鈎掛け環等の釣竿用付属具は、現在のところは大部分が金属製の板材フレームからプレス加工等により一体的に形成されているが、本発明は形状に特徴を有するものであるから、別の製法、例えば鋳造、鍛造、ロストワックス、MIM等によるものでもよいし、また、導糸環用フレームを構成するリング保持部等の各部位を2以上の部材により形成してもよい。
いずれにしても、特許請求されている形状等を除いては、従来からあるまたは将来案出される形状や製造を任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る釣竿の付属具によれば、取付足と竿体の固定強度・接着剤層のクラックの発生・巻糸の巻付け時の作業性・傾斜面形成時の作業性などの複数の課題を高いバランスで同時に解決した画期的なものであり、厳しいユーザーの総合的な要求に答えることに成功している。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る釣竿の導糸環の斜視図である。
【図2】図1の導糸環を釣竿に取り付けたときの、竿軸方向に対する側視図である。
【図3】図1の導糸環を釣竿に載置したときの、竿体の横方向に対する図である。
【図4】図1の導糸環を釣竿に最終的に固定したときの、竿軸方向に対する側視図である。
【図5】図1の導糸環を釣竿に最終的に固定したときの、竿体の横方向に対する図である。
【図6】図1の導糸環の奏する効果の説明図である。
【図7】図1の導糸環の奏する効果の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る釣竿の導糸環の斜視図である。
【図9】その他の本発明の実施の形態に係るの斜視図である。
【図10】従来品の釣竿の導糸環の斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1‥‥導糸環 3‥‥竿体
5‥‥外周面 7,9‥‥取付足
8,10‥‥足先
11‥‥壁面 12‥‥割れ目
13,15‥‥傾斜面 17,19‥‥エッジ稜線
21‥‥巻糸 23‥‥巻糸層
25‥‥表側接着剤層 27‥‥奥側接着剤層
28‥‥側方段差部 30‥‥先方段差部
29‥‥側方接着剤溜まり部 31‥‥先方接着剤溜まり部
33‥‥導糸環 35‥‥取付足
37‥‥廻り止めエンボス加工部 39‥‥傾斜面
41,43,45‥‥取付足 42,44,46‥‥傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻糸によって竿体の外周面に固定される取付足を有する釣竿の付属具において、
前記取付足の足先には傾斜面が形成されており、
前記傾斜面は、左右両側の輪郭を画定する2つのエッジ稜線が、側面視で前記取付足の上面から前記竿体の外周面に向かって直線状に延びており、前記外周面に到達する先端で合流していることを特徴とする釣竿の付属具。
【請求項2】
請求項1記載の釣竿の付属具において、傾斜面は平坦状に形成されていることを特徴とする釣竿の付属具。
【請求項3】
請求項2記載の釣竿の付属具において、傾斜面の傾斜角度は10〜30°であることを特徴とする釣竿の付属具。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の釣竿の付属具において、傾斜面は切削加工により形成されていることを特徴とする釣竿の付属具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の釣竿の付属具において、付属具は1枚の板状材から一体的に形成されたものであることを特徴とする釣竿の付属具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−215497(P2007−215497A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40759(P2006−40759)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000237385)富士工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】