説明

釣竿用ブランク及びその製法並びに釣竿

【課題】高い剛性が維持されつつ嵌合可能であり、しかも容易に当該嵌合が解除され得る安価な釣竿用ブランクの提供。
【解決手段】この釣竿10は、第1番節13〜元節17を有する。隣り合う各節、例えば第3番節15の後端部36と元上節16の先端部32との間に弾性部材24が介在している。この弾性部材24は、元節17の先端部32に嵌め込まれている。弾性部材24の断面形状は紡錘形であり、内側に滑らかに膨出している。第3番節15の後端部36と元上節16の先端部32とが嵌合すると、弾性部材24は、上記後端部36によって押し潰されて変形する。弾性部材24は、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなり、その硬度は、Hs45〜Hs85に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣竿の構成部品としてのブランク(円筒部材)の構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は、一般的な振出式釣竿の正面図である。
【0003】
同図が示すように、この釣竿1は、5つのブランク2〜6を備えている。この釣竿1は、いわゆるインナーガイドタイプであって、ブランク6に釣糸導入部7及びグリップ8が設けられている。グリップ8に釣用リールが装着されるリールシート9が備えられている。上記各ブランク2〜6は細長円筒状に形成されており、且つテーパ状に形成されている。すなわち、各ブランク2〜6の先端径(同図における左端の外径)は後端径(同図における右端の外径)よりも小さくなっている。ブランク2の外径がもっとも小さく、ブランク3〜ブランク6の順に外径が大きくなっている。ブランク2はブランク3の内部に挿入されており、ブランク2の後端径は、ブランク3の先端部の内径よりも大きくなるように設定されている。なお、ブランク3とブランク4との関係、ブランク4とブランク5との関係及びブランク5とブランク6との関係も、ブランク2とブランク3との関係と同様である。すなわち、各ブランク2〜6は、いわゆる入れ子状に畳まれている。
【0004】
この釣竿1が使用されるときは、各ブランク2〜5がそれぞれ隣り合うブランク3〜ブランク6から引き出され、釣竿1が伸長される。各ブランク2〜5の後端径は、それぞれ隣り合うブランク3〜6の先端部の内径よりも大きいから、各ブランク2〜5の後端部は、それぞれ隣り合うブランク3〜6の先端部の内側に嵌合する。また、納竿時においては、各ブランク同士の嵌合が解除される。釣人は、ブランク5を持ってブランク6の内部に押し込む。これにより、両者の嵌合が解除され、ブランク5がブランク6の内部に収容される。他のブランク2〜4についても同様にそれぞれ隣り合うブランク3〜5の内部に収容される。つまり、釣竿10が縮短される。
【0005】
釣竿1が実釣において快適に使用されるためには、伸長状態において各ブランク2〜6同士の嵌合が確実であり、しかも釣竿1が縮短されるときに上記嵌合が容易に解除される必要がある。このことは、振出タイプの釣竿に限られることではなく、いわゆる並継タイプの釣竿であっても同様に要請されることである。特に、各ブランク2〜5が伸長されたときの各ブランク2〜6同士の固着が防止されるために、従来から様々な方策が提案されている(例えば特許文献1〜特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−67818号公報
【特許文献2】特開2006−67819号公報
【特許文献3】特開2006−67820号公報
【特許文献4】特開平10−290647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の固着防止のための主な方策は、隣り合うブランク同士の間に隙間が形成され、接触面積が低減されることであった(特許文献1及び特許文献2参照)。その一方で、釣竿としてのパワーが発揮されるためには、隣り合うブランク同士が確実に嵌合し、当該嵌合部分が十分な剛性を備えていなければならない。したがって、単にブランク同士の接触面積が小さく設定されれば、釣竿としての性能(典型的には反発力や破壊強度等)が低下してしまうという問題が発生する。
【0008】
また、上記隙間が形成されるために、繊維強化樹脂がブランクの嵌合部分に配設されていた。しかし、繊維強化樹脂は一般に硬い材料であるから、固着防止のために設けられた繊維強化樹脂が隣り合うブランクと固着しやすいという問題もあった。この問題が解決されるために、繊維強化樹脂に代えて弾性塗料をブランクに設ける手段が考えられるが、ブランクの嵌合部分に弾性塗料を塗布する作業は容易ではなく、ブランクの製造コストが上昇してしまうという新たな問題が発生する。
【0009】
本発明はかかる背景のもとになされたものであって、その主な目的は、高い剛性が維持されつつ嵌合可能であり、しかも容易に当該嵌合が解除され得る安価な構造を備えた釣竿用ブランク及びその製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的が達成されるための釣竿用ブランクは、以下の構成を備える。
【0011】
この釣竿用ブランクは、先端部及び後端部を有し、長手方向に連結されることによって釣竿を構成する釣竿用ブランクであって、上記先端部の内面に内側に滑らかに膨出した弾性部材が配置されている。
【0012】
この構成では、複数の釣竿用ブランクが長手方向に連結され得る。この場合、隣り合う一方の釣竿用ブランクの先端部の内側に、隣り合う他方の釣竿用ブランクの後端部が嵌め合わされる。隣り合う釣竿用ブランクは、いわゆる並継形式で連結されてもよいし、いわゆる振出形式で連結されてもよい。一方の釣竿用ブランクの先端部の内側に弾性部材が配置され、この弾性部材は当該先端部の内側に滑らかに膨出している。したがって、一方の釣竿用ブランクの先端部に他方の釣竿用ブランクの後端部が嵌め合わされると、弾性部材が変形し、その弾性力によって両ブランクが確実に嵌合する。
【0013】
このように、弾性変形した弾性部材を介して隣り合う釣竿用ブランク同士が嵌合するから、釣竿用ブランクの先端部の内径及び後端部の外径が高精度に仕上げられていなくても両釣竿用ブランクは確実に嵌合し、当該嵌合部分の高い剛性が確保される。このため、釣竿用ブランクが簡単な工程で安価に製造され得る。
【0014】
また、上記釣竿用ブランクでは、上記弾性部材の硬度は、Hs45〜Hs85に設定されている。
【0015】
これにより、一方の釣竿用ブランクの先端部の内径と他方の釣竿用ブランクの後端部の外径とのはめあい精度が低い場合であっても、両ブランクが確実に嵌合する。
【0016】
さらに、上記釣竿用ブランクでは、上記弾性部材は、断面形状が紡錘形である部材がリング状に形成されたものからなり、当該弾性部材の外周面が上記内面に嵌め込まれている。
【0017】
この場合、弾性部材が簡単且つ安価に製造され、しかも、この弾性部材を釣竿用ブランクに嵌め込む作業も容易になる。
【0018】
また、上記目的が達成されるため、本発明に係る釣竿用ブランクの製造方法は、次の工程を含む。
【0019】
(1) 請求項1に係る発明の構成及び作用効果
【0020】
請求項1に係る釣竿用ブランクの製造方法は、裁断されたプリプレグがマンドレルに巻き付けられた後に所定温度で焼成される釣竿用ブランクの製造方法において、上記プリプレグが巻き付けられる前に上記マンドレルの所定位置に上記釣竿用ブランクの先端部の内面に内側に滑らかに膨出するように弾性部材が巻き付けられる工程を含む。
【0021】
釣竿用ブランクは、プリプレグがマンドレルに巻き付けられた状態で焼成される。プリプレグがマンドレル43に巻かれるに先立って、弾性部材がマンドレルに巻かれる。焼成後にマンドレルが引き抜かれることにより、先端部の内面に内側に滑らかに膨出する弾性部材が配置される。かかる構造の釣竿用ブランクが長手方向に連結され得る。この場合、隣り合う一方の釣竿用ブランクの先端部の内側に、隣り合う他方の釣竿用ブランクの後端部が嵌め合わされる。隣り合う釣竿用ブランクは、いわゆる並継形式で連結されてもよいし、いわゆる振出形式で連結されてもよい。一方の釣竿用ブランクの先端部の内側に弾性部材が配置され、この弾性部材は当該先端部の内側に滑らかに膨出している。したがって、一方の釣竿用ブランクの先端部に他方の釣竿用ブランクの後端部が嵌め合わされると、弾性部材が変形し、その弾性力によって両ブランクが確実に嵌合する。
【0022】
このように、弾性変形した弾性部材を介して隣り合う釣竿用ブランク同士が嵌合するから、釣竿用ブランクの先端部の内径及び後端部の外径が高精度に仕上げられていなくても両釣竿用ブランクは確実に嵌合し、当該嵌合部分の高い剛性が確保される。このため、釣竿用ブランクが簡単な工程で安価に製造され得る。
【0023】
(2) 請求項2に係る発明の構成及び作用
【0024】
請求項2に係る釣竿用ブランクの製造方法では、上記工程は、リング状に形成された弾性部材が上記マンドレルに嵌め込まれるものである。
【0025】
この構成では、弾性部材を配置する作業がきわめて簡単になる。
【0026】
(3) 請求項3に係る発明の構成及び作用
【0027】
請求項3に係る釣竿用ブランクの製造方法では、上記弾性部材の硬度は、Hs45〜Hs85に設定されている。
【0028】
これにより、一方の釣竿用ブランクの先端部の内径と他方の釣竿用ブランクの後端部の外径とのはめあい精度が低い場合であっても、両ブランクが確実に嵌合する。
【0029】
(4) 請求項4に係る発明の構成
【0030】
上記製法により製造された複数の釣竿用ブランクが連結されて釣竿が構成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る釣竿の正面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る釣竿の元上節と第3番節との嵌合構造を示す分解図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る釣竿の元上節の先端部の縦断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る釣竿の元上節の製造工程の一部を模式的に示す図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係る釣竿の元上節の製造工程の一部を模式的に示す図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る釣竿の元上節の製造工程の一部を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施形態に係る釣竿の元上節の製造工程の一部を模式的に示す図である。
【図8】図8は、一般的な振出式釣竿の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0033】
<1.全体構成と特徴点>
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る釣竿の正面図である。
【0035】
この釣竿10は、いわゆるインナーガイドタイプの振出式釣竿である。釣竿10は、釣竿本体11及びグリップ12を備えている。グリップ12は、釣人が釣竿10を把持する部分である。
【0036】
釣竿本体11は、5つの筒状部材13〜17(釣竿用ブランク)から構成されている。各筒状部材13〜17は、それぞれ「節」と称され、釣竿本体11の先端側から順に第1番節13、第2番節14と称される。第4番節16は、特に「元上節」と称され、第5番節17は、特に「元節」と称される。各節13〜17の製造方法については後に詳述される。この釣竿10では、第4番節16(すなわち元上節16)が第5番節17(すなわち元節17)に対して伸縮するズーム機構を搭載している。もっともこのズーム機構は任意的なものであって、当該機構は省略される場合もある。
【0037】
第1番節13は第2番節14の内部に引き出し自在に収容されている。また、第1番節13の先端には、釣糸が導き出されるトップガイド18が設けられている。第1番節13はテーパ状に形成されており、先端部の外径よりも後端部の外径の方が大きくなるように形成されている。そして、第1番節13の後端径は、第2番節14の先端径よりも大きく設定されており、第1番節13が第2番節14から引き出された際に、第1番節13の後端部分が第2番節14の先端部分と嵌合して両者が固定されるようになっている。なお、第2番節14と第3番節15との関係及び第3番節15と元上節16との関係も同様である。第1番節13〜元上節16がそれぞれ隣り合う第2番節14〜元節17から引き出されることによって釣竿本体11が伸長状態となる。
【0038】
第2番節14ないし元節17の先端部にリングR1〜R4が装着されている。このリングR1〜R4は、第2番節14ないし元節17の先端部の剛性を向上させ、隣り合う節の嵌合を確実なものとする。また、第4番節16の先端部分に図示しない釣糸導入孔が設けられており、この釣糸導入孔に釣糸を導くための導入ガイド19が取り付けれている。なお、上記トップガイド18及び導入ガイド19は、既知の構成であるので、その詳しい説明は省略される。
【0039】
元節17は、リールシート20を備えている。リールシート20は、釣用リール(図示せず)を着脱自在に保持するためのものであり、本実施形態では、元節17と一体的に形成されている。リールシート20は、リールが載置される載置面23と、固定フード21及び可動フード22を備えている。リールの脚は、載置面23上に載置され、この脚の一方側が固定フード21に挿入される。可動フード22が矢印30の方向に沿って固定シート21側に移動されると、リールの脚の他方側が可動フード22に挿入される。これにより、リールの脚は、固定フード21及び可動フード22によって挟持され、リールがリールシート20に固定される。同図が示すように、本実施形態では、リールシート20は、上記グリップ12を兼ねており、実釣において釣人がリールシート20を把持して釣竿10及びリールを操作する。
【0040】
本実施形態の特徴とするところは、第2番節14ないし元節17の先端部の構造である。すなわち、第2番節14ないし元節17の先端部に後述のような弾性部材24が備えられており、これにより、釣竿本体11が伸長状態となったときは、隣り合う各節が確実に嵌合し、しかも釣竿本体11が縮短されるときは、隣り合う節同士の嵌合が容易に解除されるようになっている。
【0041】
なお、本実施形態では、釣竿10はインナーガイドタイプであるが、本発明は、アウターガイドタイプの釣竿や延べ竿にも適用される。また、本実施形態では、釣竿10は振出タイプであるが、本発明は、並継タイプの釣竿にも適用される。なお、「釣竿」とは、釣糸が連結されるものに限定されるものではなく、いわゆる玉の柄その他釣り用として構成された管状体ないし竿体を含んでいる。
【0042】
<2.第4番節(元上節)及び第3番節>
【0043】
図2は、元上節16と第3番節15との嵌合構造を示す分解図である。
【0044】
元上節16は、細長円筒状に形成されており、その長さL4は、1122mmに設定されている。元上節16は、カーボン繊維強化樹脂からなり、その外形形状は、所定のテーパT4を形成している。本実施形態ではT4=2.5/1000に設定されている。元上節16の後端部31の外径D41は、本実施形態では15mmに設定され、元上節16の先端部32の内径d42は、本実施形態では7.9mmに設定されている。元上節16の中間部に貫通孔33が設けられている。本実施形態では、この貫通孔33は、元上節16の外壁を貫通して内部に連通している。この貫通孔33は、元上節16の長手方向に延びており、貫通孔33の幅は、所定寸法に設定されている。なお、この貫通孔33は、本実施形態に係る釣竿10がインナーガイドタイプであるところ、釣糸が釣竿10の内部へ導入されるためのものである。したがって、アウターガイドタイプの釣竿の場合は、この貫通孔33は省略される。
【0045】
図3は、元上節16の先端部31の縦断面図である。
【0046】
同図が示すように、元上節16の先端部31の内側に上記弾性部材24が配設されている。この弾性部材24は、例えばポリウレタン系熱可塑性エラストマーからなる。この弾性部材24の硬度は、Hs45〜Hs85(JIS)に設定され得る。本実施形態では、弾性部材24はリング状に形成されている。弾性部材24の長さC4は、20mmに設定されており、この弾性部材24は、元上節16の先端から距離B4の位置(本実施形態では、25mmの位置)に配置されている。
【0047】
また、弾性部材24の断面形状は、同図が示すように紡錘形に形成されている。そして、この弾性部材24の外周面34が上記先端部31の内壁面35に嵌め込まれている。これにより、弾性部材24は、この内壁面35の内側に滑らかに膨出している。なお、弾性部位24の内径d4は、第3番節15の後端部36の外径D31に対応されており、本実施形態ではd4=7.85mm、D31=15mmに設定されている。
【0048】
一方、図2が示すように、第3番節15も細長円筒状に形成されている。第3番節15の長さL3は、1135mmに設定されている。第3番節15は、カーボン繊維強化樹脂からなり、その外形形状は、所定のテーパT3を形成している。本実施形態ではT3=2.5/1000に設定されている。前述のように、第3番節15の後端部36の外径D31は、本実施形態では8mmに設定されている。第3番節15の先端部37の内径d32は、本実施形態では4.6mmに設定されている。
【0049】
元上節16と同様に(図3参照)、第3番節15の先端部37の内側に弾性部材38が配設されている。この弾性部材38は、上記弾性部材24と同様の材料からなり、リング状に形成されている。弾性部材38の長さC3は、20mmに設定されており、この弾性部材38は、第3番節15の先端から距離B3の位置(本実施形態では、25mmの位置)に配置されている。弾性部材38の断面形状は、弾性部材24と同様に紡錘形に形成されている。そして、上記弾性部材24と同様に(図3参照)、弾性部材38の外周面が上記先端部37の内壁面に嵌め込まれている。これにより、弾性部材38は、第3番節15の内壁面の内側に滑らかに膨出している。なお、弾性部位38の内径d3は、図示されていない第2番節14の後端部の外径D21に対応されており、本実施形態ではd3=4.55mm、D21=4.7mmに設定されている。
【0050】
第2番節14、第1番節13及び元節17も第3番節15と同様に構成されているため、これらの構造についての詳細な説明は省略される。本実施形態において、第n番節の後端部の外径Dn1、先端部の内径dn2、テーパTn、長さLn、弾性部材の長さCn、弾性部材の位置Bn、弾性部材の内径dnは、表1の通りである。
【0051】
【表1】

【0052】
第1番節13が第2番節14の後端部から挿入され、第2番節14が第3番節15の後端部から挿入され、第3番節15が元上節16の後端部から挿入され、最後に元上節16が元節17の後端部から挿入される。すなわち、各節13〜17がいわゆる入れ子状に嵌め合わされ、長手方向に連結される(図1参照)。ただし、元上節16が元節17に挿入される前に、上記導入ガイド19が元上節16に取り付けられる。また、第1番節13の先端にトップガイド18が設けられ、元節17の後端に尻栓39が取り付けられる。トップガイド18、導入ガイド19及び尻栓39は既知の構造を有するため、これらの詳しい説明は省略される。
【0053】
本実施形態では、釣竿10が上記ズーム機構を搭載しているので、元上節16の中間部に元節17の先端を保持する保持部40が設けられている。図1では、元上節16が元節17に対して縮短している。上記保持部40は、元上節16を拡径することにより構成され、元節17の先端部と嵌合している。また、尻栓39は、元上節16の後端部を囲繞支持する支持部(不図示)を備えており、元上節16が元節17に対して縮短した状態で元上節16の後端部が尻栓39に嵌合支持されている。元上節16が元節17に対して伸長するときは、元上節16が尻栓39から抜けると共に上記保持部と元節17との嵌合が解除される。
【0054】
<3.ブランクの製造方法>
【0055】
図4ないし図7は、元上節16の製造工程を模式的に示す図である。
【0056】
元上節16は、プリプレグがマンドレルの周囲に巻き付けられ焼成(硬化)された後に、マンドレルが引き抜かれることにより製造され、次の工程を含んでいる。すなわち、(1) カッティング工程、(2) 弾性材挿入工程、(3) 貼合工程、(4) ローリング工程、(5) テーピング工程、(6) 焼成工程、(7) 脱芯工程、(8) テープ除去工程及び(9) 仕上・裁断工程を経て元上節16が製造される。
【0057】
(1) カッティング工程
【0058】
プリプレグは、炭素繊維に樹脂が含浸されたシートである。樹脂は、エポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)が例示される。炭素繊維の引張弾性率によって第4番節16の機械的強度が決定される。図4(a)が示すように、このプリプレグ41が所定の寸法に裁断され、クロスパターン42が形成される。クロスパターン42の寸法、形状は、第4番節16の長さ、太さ、アクション等に応じて決定される。
【0059】
(2) 弾性材挿入工程
【0060】
同図(b)が示すように、上記弾性部材24がマンドレル43に嵌め込まれる。本実施形態では、弾性部材24は予めリング状に形成されている。したがって、弾性部材24はマンドレル43の先端から嵌め込まれ、所定位置で固定される。ただし、弾性部材24が帯状に形成されており、マンドレル43に巻き付けられるものであってもよい。
【0061】
(3) 貼合工程及び(4) ローリング工程
【0062】
図5(a)が示すように、クロスパーターン42がマンドレル43に対して位置決めされる。このとき、たとえばアイロン等が使用され、その熱によってクロスパターン42の縁部44がマンドレル43に貼り付けられる。そして、マンドレル43の周囲にクロスパターン42が完全に巻き付けられる。このとき、マンドレル43が回転され、クロスパターン42が巻き取られる。
【0063】
(5) テーピング工程
【0064】
同図(b)が示すように、クロスパターン42がマンドレル43から剥がれないように、テープ45が巻き付けられる。このテープ45は、例えばポリプロピレンからなり、クロスパターン42及びマンドレル43を締め付けるように巻かれる。
【0065】
(6) 焼成工程
【0066】
図6(a)が示すように、管状に形成されテーピングされたクロスパターン42が、マンドレル43と共に炉46に入れられる。この炉は典型的には電気オーブンであり、クロスパターン42は、例えば140℃の雰囲気で120分間加熱される。これにより、プリプレグに41に含まれている樹脂が硬化し、引張強度、曲げ強度に優れた軽量のブランクが形成される。
【0067】
(7) 脱芯工程
【0068】
焼成工程が終了すると、同図(b)が示すように、マンドレル43がブランク47から引き抜かれる。このとき、マンドレル43に嵌め込まれていた上記弾性部材24は、ブランク47側に固定される。詳述すると、弾性部材24は前述のように熱可塑性を備えており、一方、プリプレグ41に含まれる樹脂は熱硬化性を備えていることから、図4(b)が示すようにマンドレル43に弾性部材24が設けられた状態で炉46内で加熱されると、プリプレグ41は硬化してブランク47が形成されると共に、このブランク47内に配置された弾性部材24は軟化する。そして、その状態でマンドレル43が引き抜かれると、図3が示すように、弾性部材24はマンドレル43に引きずられ、その断面の形状が紡錘形に変形する。その結果、この弾性部材24は、ブランク47の内側に滑らかに膨出することになる。なお、弾性部材24が帯状に形成され、これがマンドレル43に巻き付けられた場合であっても、弾性部材24は同様に変形する。
【0069】
(8) テープ除去工程及び(9) 仕上・裁断工程
【0070】
図7(a)が示すように、焼成されたブランク47からテープ45が取り外される。なお、参照符合48は、いわゆるスパインを示す線であり、このブランク47の背骨を構成している。その後、ブランク47の所定位置に釣糸導入孔49が設けられ、所定の長さに切断される。この釣糸導入孔49が上記貫通孔33(図2参照)である。また、ブランク47の表面が研磨され、所要の塗装が施された後、上記導入ガイド19及びリングR3が取り付けられ、元上節17が完成する。
【0071】
なお、他の節についても同様の要領で製造される。ただし、第1番節13の場合は、仕上・裁断工程において、ブランクの先端にトップガイド18が取り付けられる。また、元節17の場合は、ブランクの後端に尻栓39が取り付けれる。各節13〜17の組み立ては、前述の通りである。
【0072】
<4.釣竿の使用について>
【0073】
前述の方法によって製造された第1番節13ないし元節17が前述のように入れ子状に嵌め合わされることによって釣竿10が組み立てられる。隣り合う節同士(例えば元上節16と第3番節15)は、図3が示すように嵌合する。すなわち、元上節16の先端部32の内側に第3番節15の後端部36が嵌め合わされる。この釣竿10は振出タイプであるから、第3番節15が元上節16から矢印50の方向に引き出されることにより、上記先端部32と後端部36とが嵌合する。なお、元上節16と第3番節15とがいわゆる並継形式で連結されてもよいことは勿論である。
【0074】
元上節16の先端部32の内側に弾性部材24が配置され、この弾性部材24が内側に滑らかに膨出している。したがって、元上節16の先端部32の内側に第3番節15の後端部36が嵌め合わされると、当該後端部36によって弾性部材24が押し潰されるように弾性変形し、その弾性力によって当該後端部36と上記先端部32とが確実に嵌合する。その結果、元上節16の先端部32の内径及び第3番節15の後端部36の外径が高精度に仕上げられていなくても、元上節16と第3番節15とが確実に嵌合し、この嵌合部分の高い剛性が確保される。
【0075】
前述のように、第2番節14、第3番節15、元節17のそれぞれの先端部に上記弾性部材38等が配置されているから、釣竿10が伸長されたときは、隣り合う節同士は、上記元上節16及び第3番節15と同様に嵌合する。したがって、各節13〜17の先端部及び後端部の寸法が高精度に仕上げられていなくても、釣竿10は、所望のアクションを発揮できる。言い換えれば、各節13〜17が簡単な加工、工程にて安価に製造され、釣竿10の製造コストは、当該釣竿10の性能を維持したまま低減され得る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、釣竿用ブランクに適用され得る。
【符号の説明】
【0077】
10・・・釣竿
13・・・第1番節
14・・・第2番節
15・・・第3番節
16・・・元上節
17・・・元節
24・・・弾性部材
32・・・先端部
35・・・内周面
36・・・後端部
38・・・弾性部材
41・・・プリプレグ
42・・・クロスパターン
43・・・マンドレル
47・・・ブランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裁断されたプリプレグがマンドレルに巻き付けられた後に所定温度で焼成される釣竿用ブランクの製造方法において、
上記プリプレグが巻き付けられる前に上記マンドレルの所定位置に上記釣竿用ブランクの先端部の内面に内側に滑らかに膨出するように弾性部材が巻き付けられる工程を含む釣竿用ブランクの製造方法。
【請求項2】
上記工程は、リング状に形成された弾性部材が上記マンドレルに嵌め込まれるものである請求項1に記載の釣竿用ブランクの製造方法。
【請求項3】
上記弾性部材の硬度は、Hs45〜Hs85に設定されている請求項1又は2に記載の釣竿用ブランクの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の釣竿用ブランクの製造方法により製造された釣竿。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−231800(P2012−231800A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187918(P2012−187918)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2008−123173(P2008−123173)の分割
【原出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】