説明

釣竿用回転式コーティング乾燥機

【課題】回転中にブランクが浮き上がり易く、特に、ブランクが細く軽い場合にはその傾向が顕著であった。業務用の釣竿用回転式コーティング乾燥機ではそのような不都合は無いが、構造が複雑で高価となる上に、操作も容易ではない。
【解決手段】一対の挟持アーム25、25には、それぞれ先端側に前記ブランクに接触して押圧支持する二つの部位を有する「く」の字状挟持部が設けられており、前記「く」の字状挟持部は側方視にて互いに谷側を向けて交差しながら、軸方向に対してそれぞれ斜め姿勢でブランクBを抱え込んで、それぞれの二つの部位が前記ブランクを挟んで対向している。上記の構造は簡易で、操作も従来品と同様に容易でありながら、回転中にブランクが浮き上がることは無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣竿のブランクにリールシートやガイドを装着する際に用いる釣竿用回転式コーティング乾燥機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、釣竿のブランクにリールシートやガイドを装着する際には、ブランクにリールシートやガイドの取付足を当て糸で巻き回して一体にした後に、さらにエポキシ樹脂等のコーティング剤をその上から施して乾燥固化させている。そして、コーティング剤を施す際には、コーティング剤が垂れたりせず、コーティング厚が周面で均一となるように、ブランクを回転させる。
【0003】
非特許文献1は、ブランクを回転させるものであり、フィニッシングモーターとそこでは表記されているが、これは一般の釣り人が使うことを想定している簡易な釣竿用回転式コーティング乾燥機の代表的な市販品である。この釣竿用回転式コーティング乾燥機では、2つの支持スタンドが離間して配置され、一方の支持スタンド側ではブランクの基端部が回転可能に一対の挟持アームの間に挟み込まれて支持され、他方の支持スタンド側ではブランクの中間部が凹部に上側から降ろされ載置されている。一対の挟持アームはモーターの回転軸に連結されており、モーターから回転力を受け取って挟み込んだブランクを回転させるようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】富士工業株式会社のパンフレット 2009年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、非特許文献1の釣竿用回転式コーティング乾燥機では、図10に示すように、回転中に他方の支持スタンド側に載置させた部位が浮き上がり易く、特に、ブランクが細く軽い場合にはその傾向が顕著であった。
業務用の釣竿用回転式コーティング乾燥機ではそのような不都合は無いが、構造が複雑で高価となる上に、操作も容易ではない。
【0006】
それ故、本発明は、一般の釣り人が使い易いように、安価に提供でき、操作も容易とする特徴は維持しながら、上記課題を解決できる釣竿用回転式コーティング乾燥機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、非特許文献1の釣竿用回転式コーティング乾燥機では、図11に示すように、一対の挟持アーム101、103がブランクBを挟み込んだときには、ブランクBが挟持アーム101の挟持部上の●で示す二点の部位と、挟持アーム103の挟持部上の●で示す二点の部位とで押圧支持されることになり、結果として四点支持されることになるが、上面図で示すように、挟持アーム101側の押圧支持部位と、挟持アーム103側の押圧支持部位とはブランクBを挟んで対向しておらず、軸方向にずれている。
そのため、矢印に示すような方向に回転モーメントが働き易くなっており、特に、図12に示すように、ブランクBが細くて軽い場合には、回転中にその方向に外力が加えられることで、回転モーメントが容易に働いて他方の支持スタンド側に載置させた部位を浮き上がられていたことを確認し、さらに一対の挟持アーム101、103の形状に工夫を凝らすことでかかる問題点を解消できることを見出した上で、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の請求項1の発明は、それぞれの挟持部が相対して近接離間する棒状の一対の挟持アームを備え、前記挟持アームに付与されたバネ性により前記挟持部が近接離間する釣竿用回転式コーティング乾燥機において、一対の挟持アームには、それぞれ先端側に前記ブランクに接触して押圧支持する二つの部位を有する「く」の字状挟持部が設けられており、前記「く」の字状挟持部は側方視にて互いに谷側を向けて交差しながら、軸方向に対してそれぞれ斜め姿勢でブランクを抱え込んで、それぞれの二つの部位が前記ブランクを挟んで対向していることを特徴とする釣竿用回転式コーティング乾燥機である。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載した釣竿用回転式コーティング乾燥機において、一対の挟持アームにはそれぞれブランクの軸方向に伸びる押圧部が設けられており、この押圧部を互いに近づく方向に押圧して弾性的に撓ませることでそれぞれの挟持部が互いに離間して開くことを特徴とする釣竿用回転式コーティング乾燥機である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した釣竿用回転式コーティング乾燥機において、一対の挟持アームは同じ形状の2つの部材で構成されていることを特徴とする釣竿用回転式コーティング乾燥機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の釣竿用回転式コーティング乾燥機によれば、モーターの駆動による回転中でも、ブランクの水平姿勢を安定的に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の釣竿用回転式コーティング乾燥機の使用状態を示す斜視図である。
【図2】図1の第1の実施の形態に係るチャック部側の斜視図である。
【図3】図2のチャック部側の側面図である。
【図4】図2に設けられた挟持アームの斜視図である。
【図5】図2に設けられた挟持アームによるブランクの挟持方法の説明図である。
【図6】図5で太いブランクを挟持した状態を示す、前面図と上面図と側面図である。
【図7】図5で細いブランクを挟持した状態を示す、前面図と上面図と側面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るチャック部を示す斜視図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係るチャック部を示す一部破断上面図である。
【図10】従来品の使用状態の斜視図である。
【図11】図10のチャック部の前面図と上面図と側面図である。
【図12】図10より細いブランクを挟持した状態を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、釣竿用回転式コーティング乾燥機1の構成を説明する。
図1で示す符号3は一方側の支持スタンドを示し、この支持スタンド3は一枚の金属板が屈曲されてベース部とその一端側から立ち上がった支持部5が形成されている。一方の支持スタンド3の支持部には上端から下方に向かってV字状に切り込まれてV字状の凹部7が支持部に形成されている。
【0014】
符号9は他方側の支持スタンドを示し、この支持スタンド9も一枚の金属板が屈曲されてベース部とその一端側から立ち上がった支持部11が形成されている。図2、図3で示すように、この支持部11の裏面側にはモーター13が取り付けられており、そのモーター13の回転軸15は支持部11の連通穴を通って表面側まで突出している。
符号17はチャック部を示し、このチャック部17にはホルダー19が備えられている。ホルダー19は円柱状を為し、その基端側には断面円状の穴が形成されている。その穴が上記したモーター13の表面側に突出した回転軸15に嵌め込まれ、側面から差し込まれたネジ21で回転軸15が押圧されて、チャック部17はモーター13の回転軸15と回転力伝達可能に連結されている。
ホルダー19の先端側には前部から両側部にかけては連続する溝部23が形成されている。そして、この溝部23の底部には2つの細孔がそれぞれ両端部寄りに形成されている。
【0015】
符号25は挟持アームを示し、この挟持アーム25は一本の弾性の金属線材が曲げられて構成されたものであり、棒状を為している。一対の挟持アーム25、25が上記したホルダー19に保持されている。
【0016】
図4で示すように、挟持アーム25には、バネ性を作り出すために基端軸25a側で一回りされて円弧部25bが形成され、さらにその円弧部25bから斜め外方に張り出して張出し部25cが形成されている。
張出し部25cの先方では曲げ返され元の水平姿勢にやや戻されて、押圧部25dが形成されている。
押圧部25dの先方では垂直に近い姿勢まで曲げ起こされた上で、三箇所にわたって曲げられてフック状に擬されている。押圧部25d側の「く」の字状部分が回り込み部25eで、その先方側が「く」の字状挟持部25fになっている。いずれも、先方側に向かって傾斜しているが、特に、「く」の字状挟持部25fは大きく先方側に向かって傾斜している。
【0017】
2つの挟持アーム25を使用することにより部品点数は二点になるが、同じ形状でしかも比較的単純な構造でバネ性を作り出せるので、製造負担は少なくなっている。
「く」の字状挟持部25fはプラスチック製の可撓性チューブ27に通されている。
【0018】
上記した構成の一対の挟持アーム25、25は、ホルダー19の溝部23の底部に形成された2つの細孔にそれぞれの基端軸25a、25aが挿入され固定保持される。
図2、図3に示すように、一対の挟持アーム25、25は、それぞれの円弧部25b、25bが重ね合わされた状態で溝部23内に殆ど収まっており、それぞれの張出し部25c、25cが互いに反対方向外方に張り出している。この状態では、「く」の字状挟持部25f、25fは回転対称で相対しており、側方視では互いに谷側を向けて交差している。
【0019】
次に、釣竿用回転式コーティング乾燥機1の使用方法を説明する。
図1に示すように、ブランクBの中間部を一方側の支持スタンド3のV字状の凹部7に上側から降ろして載置し、ブランクBの基端部をチャック部17に挟持させて、ブランクBを回転可能に保持する。そして、モーター13を駆動させてブランクBに回転させながら、コーティング剤の施工を行う。
【0020】
図5に示すように、ブランクBの基端部をチャック部17に挟持させる際には、一対の挟持アーム25、25のそれぞれの「く」の字状挟持部25f、25fをそれぞれの谷底部である谷曲げ部25gで予め交錯させておく。
その状態では、それぞれの押圧部25d、25dは、互いに平行に近い状態で対向している。親指と人差し指で外方からそれぞれ互いに近づく方向に付勢力に抗して押圧して弾性的に撓ませることで、それぞれの「く」の字状挟持部25f、25fを互いから離して開かせ、ブランクBの挿入空間を作り出す。そして、その空間にブランクBを基端部側から適当な長さ分差し込んだ後に押圧部25d、25dから指を離すことで、「く」の字状挟持部25f、25fをブランクB側に戻して挟持させる。
【0021】
挟持時には、「く」の字状挟持部25f、25fが軸方向に対してそれぞれ斜め姿勢でブランクBを抱え込んだ状態になっており、各「く」の字状挟持部25fが図6、図7中の●で示す四点でブランクBを押圧支持している。
【0022】
図6は、太いブランクBを挟持した状態を示す。この状態では、上面図や側面図に現れるように、側方視で、一方側の「く」の字状挟持部25fの●aと他方側の「く」の字状挟持部25fの●cはブランクBを挟んで対向している。また、一方側の「く」の字状挟持部25fの●b、と他方側の「く」の字状挟持部25fの●dは水平支持されたブランクBを挟んで上下方向で対向している。
したがって、図10、図11に示す従来品とは異なり、回転モーメントが働き難くなっている。
【0023】
図7は、細いブランクBを挟持した状態を示す。この状態でも、上面図や側面図に現れるように、側方視で、一方側の「く」の字状挟持部25fの●aと他方側の「く」の字状挟持部25fの●cはブランクBを挟んで対向している。また、一方側の「く」の字状挟持部25fの●b、と他方側の「く」の字状挟持部25fの●dは水平支持されたブランクBを挟んで上下方向で対向している。
したがって、図10、図11に示す従来品とは異なり、回転モーメントが働き難くなっている。
【0024】
本発明の第2の実施の形態に係る挟持アーム29を、図8に従って説明する。
この挟持アーム29には、押圧部25dに相当する部分が無く、張出し部25cが回り込み部25eに連続している。この挟持アーム29をホルダーに取付ける場合には張出し部25cと回り込み部25eの境界乃至その付近を押圧して字状挟持部25f、25fを開かせることになる。
【0025】
本発明の第3の実施の形態に係るチャック部31を、図9に従って説明する。
このチャック部31では、挟持アーム33、33は一本の線材により構成されており、途中で交差している。ホルダー35は外側コイルバネ37により受口39が進退自在に付勢されており、この中に挟持アーム33、33を繋ぐ基端部が押し込まれている。基端部側は内側コイルバネ41により外方に開くように付勢されており、受口39を基端側に押し戻すことにより、挟持アーム33の予め付勢されている張出し部25cが内方に張出すようになっている。
【0026】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の具体的構成が上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨から外れない範囲での設計変更があっても本発明に含まれる。
例えば、挟持アームを構成する細材は、必要なバネ性を作りだせるものであれば、どのようなものでもよい。
また本発明の釣竿用回転式コーティング乾燥機は、チャック部の挟持アームの形状に特徴を有するものであり、ブランクを回転しながら保持でき、コーティング剤の施工を行えるものである限り、その余の構成は、例えば支持スタンド等はどのようなものでもよい。
いずれにしても、特許請求されている形状等を除いては、従来からあるまたは将来案出される形状や製造を任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る釣竿用回転式コーティング乾燥機の挟持アームは従来品の挟持アームと曲げ方を変えただけなので、部品点数も従来品と同様に少なくて済む。
【符号の説明】
【0028】
1‥‥釣竿用回転式コーティング乾燥機
3‥‥支持スタンド 5‥‥支持部
7‥‥凹部7 9‥‥支持スタンド
11‥‥支持部 13‥‥モーター
15‥‥回転軸
17‥‥チャック部(第1の実施の形態)
19‥‥ホルダー 21‥‥ネジ
23‥‥溝部 25‥‥挟持アーム
25a‥‥基端軸 25b‥‥円弧部
25c‥‥張出し部 25d‥‥押圧部
25e‥‥回り込み部 25f‥‥「く」の字状挟持部
27‥‥可撓性チューブ
29‥‥挟持アーム(第2の実施の形態)
31‥‥チャック部(第3の実施の形態)
33‥‥挟持アーム 35‥‥ホルダー
37‥‥外側コイルバネ 39‥‥‥受口
41‥‥内側コイルバネ
B‥‥ブランク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの挟持部が相対して近接離間する棒状の一対の挟持アームを備え、前記挟持アームに付与されたバネ性により前記挟持部が近接離間する釣竿用回転式コーティング乾燥機において、
一対の挟持アームには、それぞれ先端側に前記ブランクに接触して押圧支持する二つの部位を有する「く」の字状挟持部が設けられており、
前記「く」の字状挟持部は側方視にて互いに谷側を向けて交差しながら、軸方向に対してそれぞれ斜め姿勢でブランクを抱え込んで、それぞれの二つの部位が前記ブランクを挟んで対向していることを特徴とする釣竿用回転式コーティング乾燥機。
【請求項2】
請求項1に記載した釣竿用回転式コーティング乾燥機において、
一対の挟持アームにはそれぞれブランクの軸方向に伸びる押圧部が設けられており、この押圧部を互いに近づく方向に押圧して弾性的に撓ませることでそれぞれの挟持部が互いに離間して開くことを特徴とする釣竿用回転式コーティング乾燥機。
【請求項3】
請求項1または2に記載した釣竿用回転式コーティング乾燥機において、
一対の挟持アームは同じ形状の2つの部材で構成されていることを特徴とする釣竿用回転式コーティング乾燥機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−157309(P2012−157309A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20366(P2011−20366)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000237385)富士工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】