説明

釣糸およびその製造方法

【課題】高い視認性と優れた強力特性と同時に兼ね備え、さらには従来技術に比べて容易でかつ安価に製造することができるPVdFモノフィラメントからなる釣糸の提供。
【解決手段】ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、引張強度が600〜760MPa、結節強度が475〜550MPaの強度特性を有すると共に、モノフィラメントの表面粗度が2.5μm〜7.5μmの範囲にあり、かつ濁度計で測定した全光線透過率が90%以下であることを特徴とする釣糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてポリフッ化ビニリデン系樹脂からなり、高い視認性と優れた強度特性を有する釣り糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂(以下、特に指定しない限りPVdF樹脂と言う)からなる合成樹脂モノフィラメントは、強靭性、耐摩耗性、耐候性などに優れており、特に高比重(1.79)であるために水中に沈みやすくて吸水性も殆どなく、さらには魚が掛かった時の感度が高いことから、水産資材用途、特に釣糸として好適に利用されてきた。
【0003】
また、従来の釣りにおいては、浮きの動きによって魚信を捕らえていたが、浮きは視認性に富む反面、風や波や潮流などの影響を受けて動いたり、流されたりすることから、魚信が捕らえにくく、それ故に釣りを難しくしていた。
【0004】
このように釣りの方法が近年多様化したことに伴い、風や波や潮流などの影響を受けやすい浮きを指標とせず、釣糸、特に道糸の動きを指標として魚信を捕らえる方法が採られるようになり、釣糸に視認性が求められるようになった。
【0005】
また近年では、釣糸の動きを利用して、釣糸の先にある仕掛けの位置を変えたり、仕掛けの動きを操作したり、仕掛けにかかった魚の動きを判断したりすることも盛んに行われるようになり、こうした方法にも、釣糸に良好な視認性が求められるようなってきている。
【0006】
そこで、釣糸の視認性を向上させる方法として、例えばPVdF樹脂モノフィラメントを染色することにより、釣り場で目立つ色(例えば、黄色、オレンジ、ピンクなど)を付けて、色のコントラストを強調する方法(例えば、特許文献1参照)などが検討されてきたが、この方法の場合には、無着色の釣糸に比べれば視認性がある程度は良くはなるものの、糸自体が透明であることから、視認性の改良効果は十分であるとはいえなかった。
【0007】
さらにこの問題を解決する技術としては、例えば板状フィラー顔料を含む芯部と透明な鞘部とを有する芯鞘複合モノフィラメントを使用した釣り糸(例えば、特許文献2参照)、および星型断面で2つ以上の中空構造を持つ不透明な芯部と透明な鞘部とを有する芯鞘複合モノフィラメントを使用した釣り糸(例えば、特許文献3参照)などが既に知られている。
【0008】
しかしながら、これらの釣糸は、視認性については良好であるものの、複合糸であることから製造方法が難しく、製造コストも高くなるため、産業上利用するには十分に満足できるものとはいえなかった。また、これらの釣糸は板状フィラーや酸化チタンなどの固体が含まれているため、釣糸として重要な特性である強度、特に結節強度を十分得ることができなかった。
【0009】
一方、種々のポリマーをブレンドして釣糸を不透明にする方法も検討されており、例えばPVdF樹脂にポリオレフィン・アクリル系共重合樹脂を添加したモノフィラメントからなる釣り糸(例えば、特許文献4参照)などが既に知られているが、ポリオレフィン・アクリル系共重合樹脂は特殊なコポリマーであるため、汎用ポリマーとしては使用し難く、またポリオレフィン成分はPVdF樹脂との相溶性が良くないため、ポリオレフィン・アクリル系共重合樹脂が糸中で異物として作用しやすく、得られたモノフィラメントの引張強度が低下するなどの問題があり、やはり釣糸として使用するには必ずしも十分といえるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07−252722号公報
【特許文献2】特開平09−209214号公報
【特許文献3】特開003−253527号公報
【特許文献4】特開2002−227029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0012】
したがって本発明の目的は、高い視認性と優れた強力特性と同時に兼ね備え、さらには従来技術に比べて容易でかつ安価に製造することが出来るPVdF樹脂モノフィラメントからなる釣糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために本発明によれば、PVdF系樹脂を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、引張強度が600〜760MPa、結節強度が475〜550MPaの強度特性を有すると共に、モノフィラメントの表面粗度が2.5μm〜7.5μmの範囲にあり、かつ濁度計で測定した全光線透過率が90%以下であることを特徴とする釣糸が提供される。
【0014】
なお、本発明の釣り糸においては、
前記モノフィラメントには着色が施されていること、
前記モノフィラメントには長手方向に一定間隔で着色部と非着色部とが交互に繰り返し施されていること
がいずれも好ましい条件であり、これらの条件を満たした場合には、さらに優れた効果を期待することができる。
【0015】
また、本発明の釣糸の製造方法は、PVdF系樹脂からなるモノフィラメントを溶融紡糸するに際して、一段目の延伸工程において、式J=d/(T×t)で表される延伸熱量指数Jが0.5〜2.0μm/(℃・s)の範囲を満たすように延伸処理を施すことを特徴とする。
【0016】
但し、上記式中のdはモノフィラメントの直径(μm)、Tは一段目の延伸温度(℃)、tは一段目の延伸浴を通過するモノフィラメントの通過時間(s)をそれぞれ示す。
【発明の効果】
【0017】
本発明の釣糸は、高い視認性と優れた強力特性とを同時に兼ね備え、さらには従来技術に比べて容易でかつ安価に製造することができ、ルアーラインや道糸に使用した場合は極めて有用であり、これらの特性を遺憾なく発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の釣糸について詳細に説明する。
【0019】
本発明の釣糸は、PVdF樹脂を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、引張強度が600〜760MPa、結節強度が475〜550MPaの強度特性を有すると共に、モノフィラメントの表面粗度が2.5μm〜7.5μmの範囲にあり、かつ濁度計で測定した全光線透過率が90%以下であることを特徴とするものである。
【0020】
まず、本発明で使用するPVDF樹脂とは、フッ化ビニリデン単位を含む重合体であり、例えばフッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデンを構成単位として70重量%以上含有する共重合体やこれら重合体の混合物が挙げられる。
【0021】
また、フッ化ビニリデン単位との共重合モノマーとしては、4フッ化エチレン、6フッ化プロピレン、3フッ化エチレン、3フッ化塩化エチレン、フッ化ビニルなどが挙げられ、これらの少なくとも1種類を使用することができる。
【0022】
本発明の釣糸において、PVdF樹脂を溶融紡糸して得られるモノフィラメントは、引張強度が600〜760MPa、結節強度が475〜550MPaの強度特性を有することが必要であり、さらには引張強度が650〜760MPa、結節強度が500〜550MPaであることが好ましい。
【0023】
これは、引張強度が上記範囲を下回ると、直線部の強度が低いために、釣り糸に適用しにくくなり、逆に引張強度が上記範囲を上回ると、繊維表層部のポリマーが高配向化するため結節強度が低下しやすくなるからである。
【0024】
また、結節強度が上記範囲を下回ると、糸同士または糸と仕掛け金具との結び目が弱くなるために、釣り糸に適用しにくくなり、逆に上記範囲を上回る結節強度を得ることは、引張強度との関係上、技術的に難しくなるからである。
【0025】
また、本発明の釣糸においては、モノフィラメントの表面全体に大小さまざまな凹凸が規則的にまたは不規則的に形成されていることが必要であり、これを表面粗度で表すと、その数値が2.5μm〜7.5μmの範囲にあることが必要であり、さらには3.0μm〜7.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0026】
これは、釣糸の表面粗度が上記範囲を下回ると、光の乱反射が十分に生じにくくなるため視認性が得られ難くなり、逆に上記範囲を上回ると、強度低下、特に結節強度が低下しやすくなる。
【0027】
さらに本発明の釣糸は、濁度計にて測定した全光線透過率が90%以下であることが必要であり、さらには全光線透過率が85%以下であることが好ましい。これは、全光線透過率が90%以上であると不透明性が不足し、十分な視認性が得られにくくなるからである。
【0028】
本発明の釣糸となるPVdF樹脂モノフィラメントは、一般的に知られている溶融紡糸によって得られるが、優れた強力特性を有し、表面に大小さまざまな凹凸を形成することで高い視認性を有するPVdF樹脂モノフィラメントを得るためには、一段目の延伸工程において、一段目の延伸浴温度(T)が使用したポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点マイナス5〜20℃、さらに好ましくはマイナス5〜15℃の範囲でありかつ、式J=d/(T×t)で表される延伸熱量指数Jが0.5〜2.0μm/(℃・s)、さらに好ましくは1.0〜1.5μm/(℃・s)の範囲を満たすように、延伸処理を施すことが必要である。
【0029】
但し、上記式中のdはモノフィラメントの直径(μm)、Tは一段目の延伸温度(℃)、tは一段目の延伸浴を通過するモノフィラメントの通過時間(s)をそれぞれ示す。
【0030】
つまり、使用したPVDF樹脂の融点マイナス5℃より高い温度で一段目延伸しようとすると、延伸浴中で糸が溶断してしまいPVDFモノフィラメントが得られなくなり、逆に使用したPVDF樹脂の融点マイナス20℃より低い温度で一段目延伸しようとすると、PVdF樹脂モノフィラメントの表面を荒らす効果が得られにくくなり、不透明感性が不足して十分な視認性が得られ難くなるばかりか、延伸倍率を高くすると糸切れしてしまいやはりPVDFモノフィラメントが得られなくなる。
【0031】
また、一般に発泡傷や擦過傷などによってモノフィラメントの表面が荒らされると強度低下を招くが、本発明のように、一段目の延伸工程において、延伸熱量指数Jが上記範囲を満たすように延伸処理を施すと、強力特定を保持しながら表面を荒らすことができるのである。
【0032】
そして、延伸熱量指数Jの値が上記範囲を下回るように延伸処理を行なうと、PVdF樹脂モノフィラメントの引張り強力が低下しやすくなって、釣糸として十分な強力特性を保持できなくなり、逆に上記範囲を上回るように延伸処理を行なうと、PVdF樹脂モノフィラメントの表面を荒らす効果が得られにくくなり、不透明感性が不足して十分な視認性が得られ難くなる。
【0033】
なお、本発明の釣糸においては、一段目の延伸工程でPVdF樹脂モノフィラメントの表面を荒らした後、熱気体浴中で、全延伸倍率5.5〜7.0倍、好ましくは6.0〜6.5倍になるように多段延伸を施すと、さらに強力特性の高い釣糸が得られる。
【0034】
また、延伸されたPVdF樹脂モノフィラメントは、延伸歪みの除去を目的として、適宜定長および/または弛緩熱処理を行なってもよい。
【0035】
なお、本発明においては、既存の着色・染色方法を利用して、PVdF樹脂モノフィラメント全体を黄色、オレンジ、ピンクなどの色に着色してもよく、PVdF樹脂モノフィラメントの長手方向に着色部と非着色部とを交互に繰り返し施しても良く、さらには、PVdF樹脂モノフィラメントの長手方向に複数色を交互に着色しても良く、こうすることで色のコントラストがより一層強調されて視認性がさらに向上する。
【0036】
また、本発明の釣り糸の断面形状は、必ずしも円形断面だけに限定はされず、その目的に応じて、三角断面、四角断面などの多角形断面や多葉断面などの異形断面であってもよく、さらにはPVdF樹脂モノフィラメント同士を撚り合わせたり、単糸に縒りを掛けたりするなどの2次加工を施したものであってもよい。
【0037】
さらに、本発明の釣糸の直径についても特に限定はされないが、釣り糸としては通常0.05mm〜1mmが好ましく、視認性や強度特性の点から言えば、さらに0.1mm〜0.7mmが好ましい。
【0038】
こうして得られたPVdF樹脂モノフィラメントを釣糸として使用した場合には、従来のPVdF樹脂モノフィラメントからなる釣糸に比べて高い視認性と優れた強度特性を有し、従来技術のような板状フィラー、酸化チタン、さらにはポリオレフィン・アクリル系共重合樹脂などを使用せずとも、容易でかつ安価に製造することができることから、ルアーラインや道糸に使用した場合は極めて有用であり、これらの特性を遺憾なく発揮する。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の釣糸となるPVdF樹脂モノフィラメントを実施例に基づいて説明するが、PVdF樹脂モノフィラメントの各物性測定と釣り糸の評価は以下の方法に準じて行った。
【0040】
[引張強度および結節強度]
JIS L1013の規定に準じて測定した。すなわち、綛状に取った試料を20℃、65%RHの温湿度調整室内で24時間放置した後、オリエンテック社製”テンシロン”RTM500型引張試験機を用いて、糸長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で測定し、切断強力(N)を繊度(dtex)で割返して引張強度(cN/dtex)を求めた。
【0041】
[直径]
デジタルマイクロメーター(MITUTOMO製)でのPVdF樹脂モノフィラメントの直径をランダムに5点測定しその平均値で表示した。
【0042】
[表面粗度]
キーエンス社製「デジタルマイクロスコープVHX−500F」を用いて糸の表面を700倍に拡大して3Dモードで撮影を行い、その画像をプロファイルモードでPVdF樹脂モノフィラメントの繊維軸に平行して302.5μmの範囲の糸表面の凹凸を測定し、高低差が一番大きいところの差を求めて、これを表面粗度とした。
【0043】
[全光線透過率]
中央に17mm四方の角孔を設けた台紙にPVdF樹脂モノフィラメントを横一列に隙間なく並べてテープで固定し、測定試料を作製した。この測定試料を日本電色工業社製の濁度計NDH2000にセットして全光線透過率を測定した。
【0044】
[視認性]
複数の釣り人に実釣評価してもらい、次の二段階で評価した。
○…釣り場で十分視認可能であった、
×…釣り場で視認不可能であった。
【0045】
[実釣テスト]
実際に10人の釣り人に本発明の釣り糸を用いてへら鮒釣りをしてもらい、釣行時の使用感など、下記の規準で判定してもらった。
○・・・大きな魚も問題なく釣り上げることが出来た、
×・・・魚を掛かった時に道糸が切れて魚を釣り逃がしてしまった。
【0046】
[実施例1]
PVdF樹脂ペレット(ダイキン社製 VP835:融点=176℃)をエクストルダー型紡糸機に供給し、260℃の紡糸温度で溶融混練して、紡糸口金からポリマー溶融物を紡出した。
【0047】
そして、このポリマー溶融物を20℃のポリエチレングリコール液中で冷却固化して未延伸糸とし、さらにこの未延伸糸を延伸浴温度162℃のポリエチレングリコール浴中で、4.5倍の一段目延伸を行った。なお、この時の延伸浴通過時間は0.76秒、延伸熱量指数Jは1.79μm/(℃・s)とした。
【0048】
次に、155℃のポリエチレングリコール浴中で0.95倍の中間熱処理を行い、さらに、180℃の乾熱浴中で全延伸倍率が6.4倍となるように二段目延伸を行なった後、引き続いて155℃の乾熱浴中で0.90倍の熱処理を施し、直径約0.22mmのPVDF樹脂モノフィラメントを得た。
【0049】
[実施例2]
実施例1で得られたPVDF樹脂モノフィラメント全体に、共役型カチオン染料(BASF社製BasacrylBrilliantRedBG)を2.5重量%配合した染液を塗布し、150℃の乾熱浴中で処理倍率1.00倍のキュアリングを行なった後、余分な染料を洗い落として直径0.22mmの着色PVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0050】
[実施例3]
実施例1で得られたPVD樹脂Fモノフィラメントの長手方向に、500mm間隔で染色部分と非染色部分とが現れるように、染色部分に共役型カチオン染料(BASF社製BasacrylBrilliantRedBG)を2.5重量%配合した染液を塗布し、150℃の乾熱浴で処理倍率1.00倍のキュアリングを行なった後、余分な染料を洗い落として直径0.22mmの部分染色PVdFモノフィラメントを得た。
【0051】
[実施例4]
一段目の延伸浴の浴長を伸ばすことにより、延伸浴通過時間を稼ぎ、延伸熱量指数Jを表1に示したように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で直径0.22mmのPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0052】
[比較例1]
一段目の延伸浴の浴長を短くすることにより、延伸浴通過時間を短くして、延伸熱量指数Jを表1に示したように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で直径0.22mmのPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0053】
[比較例2]
一段目の延伸浴の浴長を伸ばすことにより、延伸浴通過時間を稼ぎ、延伸熱量指数Jを表1に示したように変化させた以外は、実施例1と同様の方法で直径約0.22mmのPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0054】
[比較例3]
比較例1で得られたPVDFモノフィラメント全体に、共役型カチオン染料(BASF社製BasacrylBrilliantRedBG)を2.5重量%配合した染液を塗布し、150℃の乾熱浴で処理倍率1.00倍でキュアリング後余分な染料を洗い落として直径0.22mmの着色PVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0055】
[比較例4]
一段目の延伸温度を使用したPVDF樹脂の融点マイナス5℃より高い温度に設定した以外は、実施例1と同様の方法で直径約0.22mmのPVdF樹脂モノフィラメントを得ようと試みたが、一段目延伸浴内で糸が溶断してしまいモノフィラメントを得ることが出来なかった。
【0056】
[比較例5]
一段目の延伸温度を使用したPVDF樹脂の融点マイナス20℃より低い温度に設定した以外は、実施例1と同様の方法で直径約0.22mmのPVdF樹脂モノフィラメントを得ようと試みたが、一段目延伸浴内で糸が切れてしまいモノフィラメントを得ることが出来なかった。
【0057】
[比較例6]
一段目の延伸温度を使用したPVDF樹脂の融点マイナス20℃より低い温度に設定し、浴長を長くして延伸熱量指数Jを稼いだ以外は、実施例1と同様の方法で直径約0.22mmのPVdF樹脂モノフィラメントを得た。
【0058】
以上、得られたPVdF樹脂モノフィラメントの物性測定結果およびこれをへら鮒用道糸として用いた場合の実釣評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果から明らかなように、本発明の釣り糸(実施例1〜4)は、高い視認性と優れた強度特性とを同時に兼ね備えており、釣り糸として従来のものよりも優れていることが分かる。
【0061】
一方、延伸浴長を変化させて一段目延伸時の延伸熱量指数Jが本発明で規定する範囲より大きくなった釣糸(比較例1)は、一段延伸時の熱量が不足することから、結節強度が低くなり、実釣テストにおいては使用感が悪くなるばかりか、一段目の延伸時にPVdF樹脂モノフィラメントの表面を荒らす効果が得られないことから、表面粗度が小さくなって、実釣テストにおいて視認性が悪くなってしまった。
【0062】
また、延伸浴長を変化させて一段目の延伸時の延伸熱量指数Jが本発明で規定する範囲よりも小さくなった釣糸(比較例2)は、一段目の延伸時の熱量がかかりすぎるため、引張強度が低くなり、さらにPVdF樹脂モノフィラメントの表面を荒らす効果が高くなりすぎることから結節強度までもが低くなり、実釣テストにおけて使用感が悪くなってしまった。
【0063】
さらに、表面の荒れが少なく視認性の劣るPVdF樹脂モノフィラメントに染色を施した釣糸(比較例3)は、釣り場との色のコントラストにより視認性がやや改善されたものの、透明な糸であるために天候によっては見えにくいことがあった。
【0064】
一段目の延伸温度を使用したPVDF樹脂の融点マイナス5℃より高い温度に設定した場合(比較例4)は、一段目延伸浴の温度が高すぎることから、一段目延伸浴内で糸が溶断してしまい延伸モノフィラメントを得ることができなかった。
【0065】
一方、一段目の延伸温度を使用したPVDF樹脂の融点マイナス20℃より低い温度に設定した場合(比較例5)は、一段目延伸浴温度が不足し、延伸時に糸が切れてしまい延伸モノフィラメントを得ることができなかった。
【0066】
さらに、一段目の延伸温度を使用したPVDF樹脂の融点マイナス20℃より低い温度に設定し浴長を長くして延伸熱量指数Jを稼いだ釣糸(比較例6)は、トータル的な一段延伸時の熱量は足りているため糸切れはしなかったが、一段目延伸時の絶対温度が不足することから結節強度が低くなり、実釣テストにおいては使用感が悪くなるばかりか、一段目の延伸時にPVdF樹脂モノフィラメントの表面を荒らす効果が得られないことから、表面粗度が小さくなって、実釣テストにおいて視認性が悪くなってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明の釣糸は、従来のPVdF樹脂モノフィラメントからなる釣糸に比べて高い視認性と優れた強度特性を有し、従来技術に比べて容易でかつ安価に製造できることから、特にルアーラインや道糸として使用すると、その性能を遺憾なく発揮できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を溶融紡糸して得られるモノフィラメントからなり、引張強度が600〜760MPa、結節強度が475〜550MPaの強度特性を有すると共に、モノフィラメントの表面粗度が2.5μm〜7.5μmの範囲にあり、かつ濁度計で測定した全光線透過率が90%以下であることを特徴とする釣糸。
【請求項2】
前記モノフィラメントには着色が施されていることを特徴とする請求項1に記載の釣糸。
【請求項3】
前記モノフィラメントにはその長手方向に一定間隔で着色部と非着色部とが交互に繰り返し施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の釣糸。
【請求項4】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなるモノフィラメントを溶融紡糸するに際して、一段目の延伸工程において、式J=d/(T×t)で表される延伸熱量指数Jが0.5〜2.0μm/(℃・s)の範囲を満たすように延伸処理を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の釣糸の製造方法。
但し、上記式中のdはモノフィラメントの直径(μm)、Tは一段目の延伸温度(℃)、tは一段目の延伸浴を通過するモノフィラメントの通過時間(s)をそれぞれ示す。

【公開番号】特開2012−100551(P2012−100551A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249667(P2010−249667)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】