説明

鉄またはコバルト触媒によるアリール、アルケンおよびアルキンと銅試薬との炭素−炭素カップリング反応

本発明は、アリール、ヘテロアリール、アルケンまたはアルキンの銅化合物と、適当な離脱基を有するアリール、ヘテロアリール、アルケンまたはアルキン化合物とから出発する炭素−炭素結合形成法に関する。銅化合物は、とりわけ、グリニャールまたはリチウム化合物からのトランスメタル化反応により生成し得る。ハロゲン置換アリール化合物を用いたこれらの化合物のクロスカップリングは、鉄またはコバルト触媒と、適当な溶媒および適当な添加物とを用いて実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリール、ヘテロアリール、アルケンまたはアルキン銅化合物と適当な離脱基を有するアリール、ヘテロアリール、アルケンまたはアルキン化合物とから出発する炭素−炭素結合の形成法に関する。例えばハロゲン置換アリール化合物を用いたこれらの化合物のクロスカップリングは、鉄またはコバルト触媒を利用し、適当な溶媒を用いて実施する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属触媒クロスカップリングは、特に、通常のS2置換が不可能なCsp中心間のC−C結合を形成するための極めて強力な反応である[1]。アリール−アリールクロスカップリングは最も重要な炭素−炭素結合形成法の1つである。この方法で得られる多くの芳香族化合物、特にヘテロ芳香族化合物は、農業および医薬産業だけでなく材料科学にとっても非常に興味深いものである。このためには、最も頻繁には、信頼性が高いパラジウム(0)触媒[1,2]が、大抵の場合、例えば立体障害ホスフィンなどの適切なリガンドの存在下に用いられる[3]。ニッケル(0)錯体も実用的ではあるが、有用性は低いようである[4]。パラジウムは高価であり、ニッケルは毒性があるので、安価で非毒性の触媒が求められている。鉄およびコバルト塩はそのような安価かつ非毒性の代替物である。
【0003】
最近、コーチ(Kochi)の研究[5]に続いて、クロスカップリング反応における鉄触媒クロスカップリングの性能に対して広範囲な研究が行われている[6]。多くのアルキルマグネシウム試薬とアリールハロゲン化物またはアリールスルホン酸塩との間で極めて効率的なクロスカップリングを達成し得るが、触媒を用いた2種のアリール残基間のクロスカップリングは、アリールマグネシウム種のホモカップリング反応がかなり生じるために依然として問題を残しており、現在に至るまでこの問題に対する総合的解決法は見出されていない[6,7]。しかし、この場合、アリールハロゲン化物の脱ハロゲン化も生じる。
【0004】
このために、本発明者らは、アリールマグネシウム種を、不安定なAt錯体を形成する傾向が低い対応有機亜鉛化合物上にトランスメタル化した(transmetalliert)[8]。しかし、種々の反応条件下でアリールハロゲン化物を用いたアリール亜鉛試薬の触媒クロスカップリングは観察できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、アリーレン、アルケンおよびアルキン間の炭素−炭素結合を高収率かつ低コストで形成するための簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、この目的は請求項1により達成された。好ましい実施形態は従属請求項に記載されている。
本発明者らは、他の有機金属化合物種に注目し、極性溶媒または溶媒混合物中触媒量のFeまたはCoの存在下にタイプ1の有機銅化合物[9]を様々な官能基を有するアリールハロゲン化物(3)と反応させると、タイプ4の多官能ビアリール(表1および2)が得られることを発見した。
【0007】
−Ar−Ar−R (4)
タイプ1の有機銅化合物は、官能化アリールマグネシウムハロゲン化物(2)[10]とCuCN・2LiCl[11]とを反応させて製造し得る。本明細書において、用語アリールとは、アリール、ヘテロアリール、アルケンまたはアルキンを意味するものとする。これらの化合物は、単置換または多置換であってよい。本発明の本質的特徴は、特有なアリール、アルケンまたはアルキン特性が反応機構によって利用されるアリール、アルケンまたはアルキン化合物の存在である。
【0008】
本発明の第1態様は、一般式(1):
−Ar−CuZMgY (1)
の化合物または一般式(5):
−Ar−CuZLi (5)
の化合物と、一般式(3):
−Ar−X (3)
の化合物とを、溶媒中CoまたはFe触媒の作用下に反応させて、一般式4:
−Ar−Ar−R (4)
の化合物を製造する方法に関し、上記式中:
Xは、求核置換反応に有用な離脱基であってよく;
Yは、Cl、Br、Iであってよく;
Zは、CN、Cl、Br、I、SCN、NR、SR、PR、アルキル、アルキニルであってよく;
およびRは、それぞれ独立に、H;1つ以上のヘテロ原子を含む置換もしくは非置換アリールもしくはヘテロアリール;直鎖、分岐もしくは環式置換もしくは非置換アルキル、アルケニル、アルキニル;またはそれらの誘導体から選択される1つ以上の置換基であってよく;
ArおよびArは、それぞれ独立に、1つ以上のヘテロ原子を含むアリール、縮合アリール、ヘテロアリールもしくは縮合へテロアリール;アルケニルもしくはアルキニル;またはそれらの誘導体であってよい。
【0009】
離脱基Xは、求核置換反応に通常用いられている離脱基を表す。Arと称される基は、さらに、使用可能な場合には、Rの定義を満たす数種の置換基で置換し得る。
本発明の1つの実施形態によれば、反応は、0〜150℃、好ましくは10〜120℃、さらに好ましくは20〜100℃、最も好ましくは25〜80℃の温度で実施する。
【0010】
別の実施形態によれば、触媒は、Fe(III)錯体、Fe(III)塩、Fe(II)錯体、Fe(II)塩、または還元型のFe塩もしくは錯体、好ましくはFe(acac)を含む。
【0011】
鉄化合物としては、任意の鉄(II)もしくは鉄(III)塩または錯体、例えば、FeCl、FeCl、FeBr、FeBr、Fe(OAc)、Fe(OAc)、ならびに他の酸化段階の鉄を含む他の鉄錯体、および鉄が負の酸化段階を有する還元型鉄錯体を用い得る。
【0012】
別の実施形態によれば、触媒はCo(II)またはCo(III)触媒を含む。
別の実施形態によれば、触媒は、CoCl、CoBr、Co(OAc)、Co(Bzac)、CoBrdppe、Co(acac)、およびCo(acac)からなる群から選択され、Co(acac)を用いるのが好ましい。
【0013】
コバルト化合物としては、任意のコバルト酸化段階を有するコバルト塩または錯体に加えて、コバルトが負の酸化段階を有するコバルト錯体も用い得る。
別の実施形態によれば、触媒反応中に、エテンおよび/または1種以上のエテン誘導体、好ましくは電子不足エテン誘導体、特に好ましくは、無水マレイン酸、テトラシアノエチレン、スチレンまたはスチレン誘導体、さらに好ましくは電子不足スチレン誘導体、最も好ましくは4−フルオロスチレンをさらに添加する。
【0014】
別の実施形態によれば、エテンまたはエテン誘導体は、化合物(3)のモル量に基づいて、0〜50モル%、好ましくは1〜30モル%、特に好ましくは5〜25モル%、最も好ましくは10〜20モル%の量で添加する。
【0015】
別の実施形態によれば、触媒反応中に、1種以上の塩、好ましくは、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウムおよび/または、最も好ましくはヨウ化テトラブチルアンモニウムをさらに添加する。
【0016】
別の実施形態によれば、Xは、好ましくは、F、Cl、Br、I、OTf、OTs、N、より好ましくは、ClまたはBr、さらに好ましくはIであってよい。
別の実施形態によれば、Xは、好ましくは、F、Cl、Br、I、OTf、OTs、N、より好ましくは、F、Cl、IまたはOTs、さらに好ましくはBrであってよい。
【0017】
別の実施形態によれば、溶媒としては、極性溶媒または溶媒混合物、好ましくは、エーテル溶媒または溶媒混合物、最も好ましくは、THF、DME、NMP、DMPUおよびDMACからなる群から選択される溶媒または溶媒混合物を用いる。
【0018】
別の実施形態によれば、化合物(1)または(5)は、化合物(3)のモル量に基づいて、0.9〜5のモル比、好ましくは1〜3のモル比、さらに好ましくは1.2〜2.5のモル比で添加する。
【0019】
別の実施形態によれば、ZはCNであるのが好ましい。
別の実施形態によれば、RおよびRは、それぞれ独立に、例えば、B、O、N、S、Se、Pなどの1つ以上のヘテロ原子を含む1種以上の置換もしくは非置換C−C24アリールもしくはC−C24ヘテロアリール;直鎖もしくは分岐置換もしくは非置換C−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル;置換もしくは非置換C−C20シクロアルキル;またはそれらの誘導体であってよい。
【0020】
この新規手順により、アリール−アリールクロスカップリングを実施するための経済的な(Pd触媒反応に比べて3倍も安価な)方法が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
別段の指示がない限り、本明細書で用いる技術および科学用語は、本発明が関連する分野の当業者が理解するのと同じ意味を有するものとする。
【0022】
鉄触媒反応スキーム
CuCN・2LiCl[11]を用いた官能化塩化アリールマグネシウム(2)[10]の反応により製造されたタイプ1有機銅化合物[9]と、様々な官能化アリールハロゲン化物(3)とを、DME:THF(3:2)混合物中触媒量のFe(acac)(10モル%)の存在下に反応させて、タイプ4の多官能ビフェニルを得ることができる(表1および2):
【0023】
【化1】

【0024】
この反応は25〜80℃で進行する。有機銅試薬(1)を用いると、ホモカップリング度は著しく低下し、容易にクロスカップリングが生じる。芳香族求電子3の離脱基のタイプも重要である(表1)。したがって、PhCu(CN)MgCl(1a)と2−ヨードベンゾフェノン(3a)との反応は25℃で30分以内に完了する。Fe(acac)不在下では、30分後に観察されるビフェニル4aは5%未満であり、48時間の反応時間後にも、約54%の転化率しか観察されない(表1のエントリー1)。対応臭化物(2−ブロモベンゾフェノン;エントリー2)も迅速に反応するが、30分後の転化率はわずか86%に過ぎない。18時間の反応時間でも転化率にわずかな改善(93%)が見られるに過ぎない。同様に、2−クロロベンゾフェノンも完全な転化をもたらさない(30分後に75%、18時間後でも77%に過ぎない)。トリフレート置換基(X=OTf)を用いると、著しく遅い反応が観察される。2−クロロベンゾフェノンが反応し得るという事実は、この反応機構がハロゲン−銅交換反応を伴わないことを示唆している。鉄触媒不在下には、2−クロロベンゾフェノンに関して何の反応も観察されなかった。
【0025】
興味深いことには、アリール銅化合物とアリールハロゲン化物との反応に関して、本発明者らは、ヨウ化アリールが基質として臭化アリールまたは塩化アリールより不適であるアルキルマグネシウム化合物とのFe(III)触媒反応に比べて逆の反応性を観察した[7]。次いで、本発明者らは、この反応の使用範囲を調べ、官能基に関する顕著な化学選択性および適合性を発見した。PhCu(CN)MgCl(1a)と2−ヨードベンゾフェノン(3a)との反応は特に高速(30分)であり、対応ケトン4aは収率93%で単離し得る(表2のエントリー1)。4−ヨードベンゾフェノン(3b)は25℃で4時間以内に反応し、所望のケトン4bを80%の量で生成する(エントリー2)。ひときわ目立つのは、2−ヨードフェニルメチルケトン(3c)などのメチルケトンが、メチルケトンの競合脱プロトン化またはカルボニル官能基への付加を伴わずに、鉄触媒クロスカップリングを受けることである。オルトまたはパラ位置にエステル基を有する官能化アリールマグネシウム試薬、例えば1b、1cまたは1dも、数時間内にクロスカップリングを受け、予想生成物4d〜fを収率68〜86%で生成する(エントリー4〜6)。このようにして、立体障害官能化2,2′−置換ビフェニル4dが収率75%で製造される(エントリー4)。また、例えば1eなどの電子供与性基を有するグリニャール試薬もよく反応し、ケトン4gを76%の量で生成する(エントリー7)。例えば、シアニド(3e)、アミド(3f)またはケトン(3b)などの電子求引性基を有する種々のパラ置換ヨウ化アリールは、穏やかなクロスカップリング反応で反応し、生成物4h〜jを50〜70%の量で生成する(エントリー8〜10)。驚くべきことには、銅試薬1fは、トリフレート基を有する場合、エチル−2−ヨードベンゾエート3gと反応して、ビフェニル4k
を62%の量で生成する(エントリー11)。本発明者らは、ヨウ化アリール上に電子吸引性置換基が存在すると、クロスカップリングが促進され、電子供与性置換基は反応を大幅に減速させることを発見した。したがって、4−ヨードアニソールは、80℃で12時間後に低い転化率しかもたらさない。本発明者らはさらに、Fe(acac)(10モル%)の存在下における2、3および4置換エチルヨードベンゾエート(3g〜i)とPhCu(CN)MgClとのクロスカップリングの反応速度を比較した(スキーム2)。興味深いことには、オルトおよびパラ置換ヨードベンゾエート3gおよび3iは、完全転化するまで5倍も長い反応時間を示すメタ置換エステル3hとは対照的にはるかに速く反応する。これは、クロスカップリングにおける最も遅いステップがベンゾエート3g〜iの触媒活性種の求核攻撃であることを示唆し得る。本発明者らは、置換ヨードエステル3g〜iを用いてPdおよびNi触媒クロスカップリングを実施し、Pd触媒の場合には、パラ−ヨードエステル3iが3gおよび3hよりはるかに高速で反応するが、Ni触媒の場合には、メタ−ヨードエステル3hが最も高速で反応することを発見した。これらの結果は、Ni、PdおよびFe触媒クロスカップリング反応機構が、置換基の電子的効果および立体効果により異なる影響を受けるために非常に異なることを示唆している。
【0026】
【化2】

【0027】
複素環式化合物もこのクロスカップリング反応に適していることが判明した。したがって、銅試薬1gおよび1hを、標準条件下に、ヨウ化物3fおよび3eと反応させると、官能化インドール4oおよびピリジン4pがそれぞれ収率85%および57%で得られる(スキーム3)。
【0028】
【化3】

【0029】
ヘテロアリールと、対応有機マグネシウム化合物から製造したアリール銅化合物との鉄触媒クロスカップリングは、官能化ヨウ化アリールを使うと都合良く進行する。この点において、電子不足求核ヨウ化物は、はるかに容易にクロスカップリングを受ける。
【0030】
コバルト触媒反応スキーム
以下の実施例で明らかなように、Co塩も触媒として使用し得る。
【0031】
【化4】

【0032】
官能化アリールまたはヘテロアリールマグネシウム化合物と官能化アリールまたはヘテロアリールハロゲン化物とのアリール−アリールカップリングにおける重要なステップは、銅上へのアリールマグネシウム化合物(R−ArMgCl)のトランスメタル化反応により、R−ArCu(CN)MgXタイプの銅オルガニルを得るステップである。トランスメタル化用銅源としては、銅塩CuCNの他に、銅塩CuCl、CuBr、CuI、CuSCNなども用い得る。
【0033】
この反応は、THF、DMEと極性共溶媒とからなる溶媒混合物中で実施する。そのような目的には、NMP、DMPUだけでなくDMACも用いられる。
この反応のさらに重要な要素は、ヨウ化テトラブチルアンモニウムなどの塩と、4−フルオロスチレンなどの電子不足スチレン誘導体とを添加することである。ヨウ化テトラブチルアンモニウムの他に、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化カリウムまたはヨウ化リチウムも使用し得る。
【0034】
触媒はコバルト塩によって代表される。この点において、Co(acac)が最も適切であると判明した。しかし、この反応は、CoCl、CoBr、Co(OAc)、Co(Bzac)、CoBrdppeまたはCo(acac)でも触媒される。
【0035】
官能化有機銅化合物のカップリングパートナーは官能化アリールハロゲン化物である。このためには、ヨウ化物、臭化物、特に塩化物を用い得る。この点に関して最も重要なのは臭化物と塩化物である。というのは、臭化物と塩化物は一般にヨウ化物より安価であり、したがって、工業的用途にとって興味深いからである。
【0036】
すでに本明細書に記載した臭化アリールおよび塩化アリールとアリール銅化合物および
アリールマグネシウム化合物それぞれとのクロスカップリング反応法を用いて、フッ化アリールとトシレート(OTs)も反応させ得る。しかし、これらの反応には3当量のアリール銅化合物が必要である。
【0037】
【化5】

【0038】
2、3、4、5、6−ペンタフルオロベンゾフェノン5hを用いると、2つのクロスカップリング反応を同時に実施し得る。したがって、スキーム4から分かるように、6当量の銅試薬が必要である。
【0039】
【化6】

【0040】
臭化物および塩化物を用いてカップリング反応を完全かつ迅速に実施するためには、極
性共溶媒、塩およびスチレン誘導体ならびにコバルト塩の使用が必須である。これらを添加しないと、完全な反応が生じないか、生じても、数分または数時間ではなく数日を要するであろう。
【実施例1】
【0041】
4′−シアノビフェニル−4−カルボン酸エチルエステル(4h)の合成:
磁気攪拌子およびセプタムを備えた25mlのシュレンク管に、エチル−4−ヨードベンゾエート(855mg、3.10mmol)を入れ、DME(5ml)を加え、該溶液を−20℃に冷却する。その後、iPrMgCl(3.3ml、3.0mmol、THF中0.90M)を添加する。反応混合物をこの温度で15分攪拌し、次いで、CuCN・2LiCl溶液(2.8ml、2.8mmol、THF中1M)を加える。反応混合物をさらに10分攪拌する。DME(3ml)に溶かした4−ヨードベンゾニトリル(229mg、1.00mmol)およびFe(acac)(35mg、0.10mmol)の溶液を一度に加え、次いで、反応混合物を3時間80℃に加熱する。飽和NHCl(水性)を加えて反応を停止させ、CHCl(3×40ml)で抽出する。合わせた有機相を飽和NHCl(水性)/NH(9:1)(50ml)および飽和NaCl(水性)(50ml)で洗浄し、NaSOで脱水し、濾過し、減圧下に溶媒を留去する。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル=9:1)にかけて精製し、無色固体(181mg、72%)として4hを得た。
【実施例2】
【0042】
さまざまな離脱基Xを用いて達成された反応速度
実施例1の実験プロトコルに従い、さまざまな置換基を有するベンゾフェノンを用いて反応を実施した。適切な2位置換基を、同置換基によって達成された転化率と合わせて表1にリストする。
【0043】
【表1】

【実施例3】
【0044】
Fe触媒条件下の反応
実施例1の実験プロトコルに従い、表2に示すすべての化合物を合成した。表2に示されているような適切な抽出物1および2を反応させて対応する生成物4を得た。反応収率を表の最終列にリストする。
【0045】

【表2】


【実施例4】
【0046】
1,1′−ビフェニル−2−カルボン酸エチルエステルの合成:
磁気攪拌子およびセプタムを備えた25mlのシュレンク管に、DME(5.0ml)を入れ、PhMgCl(1.42ml、1.70mmol、THF中1.2M)およびCuCN・2LiCl溶液(1.90ml、1.90mmol、THF中1M)を加え、該溶液を室温で約10分攪拌する。その後、DMPU(2.0ml)、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(1.11g、3.00mmol)、4−フルオロスチレン(25mg、0.21mmol)、2−ブロモ安息香酸エチルエステル(229mg、1.00mmol)およびDME(1.0ml)中のCo(acac)(25.8mg、0.10mmol)の溶液を加える。得られた懸濁液を15分間80℃に加熱する。反応混合物を飽和NHCl(水性)/NH(4:1)(2×50ml)で抽出し、合わせた有機相をジエチルエーテル(3×50ml)で抽出、合わせた有機相を飽和NaCl(水性)(50ml)で洗浄する。その後、NaSOで脱水し、濾過し、減圧下に溶媒を留去する。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル=19:1)にかけて精製し、無色溶液(165mg、73%)として生成物を得た。
【実施例5】
【0047】
2′−(4−メトキシベンゾイル)−ビフェニル−4−カルボニトリル(7g)の合成:
磁気攪拌子およびセプタムを備えた25mlのシュレンクフラスコに、iPrMgCl・LiCl(2.63ml、3.15mmol、THF中1.2M)を入れた。該溶液を−20℃に冷却し、4−ブロモベンゾニトリル(544mg、2.99mmol)を加えた。その後、反応混合物を0℃に温め、この温度で2時間攪拌した。次いで、CuCN/2LiCl溶液(3.2ml、3.2mmol、THF中1M)を添加した。10分後、DME(6.0ml)、DMPU(2.0ml)、BuNI(370mg、1.00mmol)、4−フルオロスチレン(25mg、0.20mmol)、Co(acac)(19.3mg、0.075mmol)および(2−フルオロフェニル)(4−メトキシフェニル)メタノン(230mg、1.00mmol)を加えた。反応混合物を室温で0.25時間攪拌し、ついで、飽和NHCl(水性)/NH混合物(9:1)(50ml)でクエンチした。有機相を再度飽和NHCl(水性)/NH混合物(9:1)(50ml)で洗浄し、合わせた水性相をEtOAc(3×40ml)で抽出した。合わせた有機相を飽和NaCl溶液(50ml)で洗浄し、MgSOで脱水し、同乾燥剤から濾過し、溶媒を真空濃縮した。シリカ上のカラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル=4:1)にかけて精製し、無色固体(271mg、0.87mmol、87%、融点:120.8〜122.9℃)として7gを得た。
【実施例6】
【0048】
Co触媒条件下の反応
上記実施例5の実験プロトコルに従い、表3にリストするすべての生成物7を製造し得る。このために、表3に記載の適切な抽出物5および6ならびに条件を、実施例5のプロトコル中で使用しなければならない。表3の右列に収率を示す。
【0049】

【表3】



【実施例7】
【0050】
(E)−1−(ヘキシ−1−エニル)−4−メトキシベンゼンの合成
【0051】
【化7】

【0052】
磁気攪拌子およびセプタムを備えた25mlのシュレンク管に、DME(5ml)中の4−メトキシフェニルグリニャール(3.75ml、3.00mmol、THF中0.8M)を入れ、該溶液を−20℃に冷却、次いで、CuCN/2LiCl溶液(2.8ml、2.8mmol、THF中1M)を加える。反応混合物を10分攪拌する。その後、DME(3ml)に溶かした4−ヨードヘキセン(210mg、1.00mmol)およびFe(acac)(35mg、0.10mmol)の溶液を一度に加え、次いで、反応混合物を3時間80℃に加熱する。飽和NHCl(水性)を加えて反応を停止させ、CHCl(3×40ml)で抽出する。合わせた有機相を飽和NHCl(水性)/NH混合物(9:1)(50ml)および飽和NaCl(水性)(50ml)で洗浄し、NaSOで脱水し、濾過し、減圧下に溶媒を留去する。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル=19:1)にかけて精製し、無色油状物(118mg、62%)として(E)−1−(ヘキシ−1−エニル)−4−メトキシベンゼンを得た。
H−NMR(300MHz、CDCl、25℃):δ=7.19(d、J=8.7Hz、2H)、6.75(d、J=8.7Hz、2H)、6.24(d、J=15.4Hz、1H)、6.04−5.94(m、1H)、3.70(s、3H)、2.00(q、J=6.8Hz、2H)、1.41−1.24(m、5H)、0.84(t、J=7.7H
z、3H)。
13C−NMR(75MHz、CDCl、25℃):δ=158.58、130.82、129.01、126.93、113.88、55.23、32.67、31.66、22.24、13.93。
MS(70eV、EI):m/z(%):190(37)[M]、147(100)、134(10)、115(11)、103(5)、91(14)、77(4)、65(2)。
1318OのHRMS(190.1358):測定値:190.1337。
【実施例8】
【0053】
(Z)−エチル−3−(4−メトキシフェニル)ブト−2−エノエートの合成
【0054】
【化8】

【0055】
磁気攪拌子およびセプタムを備えた25mlのシュレンク管に、DME(5ml)中の4−メトキシフェニルグリニャール(3.75ml、3.00mmol、THF中0.8M)を入れ、該溶液を−20℃に冷却、次いで、CuCN/2LiCl溶液(2.8ml、2.8mmol、THF中1M)を加える。反応混合物を10分攪拌する。その後、DME(3ml)に溶かした(Z)−エチル−3−ヨードブト−2−エノエート(240mg、1.00mmol)およびFe(acac)(35mg、0.10mmol)の溶液を一度に加え、次いで、反応混合物を3時間80℃に加熱する。飽和NHCl(水性)を加えて反応を停止させ、CHCl(3×40ml)で抽出する。合わせた有機相を飽和NHCl(水性)/NH(9:1)(50ml)および飽和NaCl(水性)(50ml)で洗浄し、NaSOで脱水し、濾過し、減圧下に溶媒を留去する。カラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジエチルエーテル=19:1)にかけて精製し、無色油状物(128mg、58%)として(Z)−エチル−3−(4−メトキシフェニル)ブト−2−エノエートを得た。
H−NMR(300MHz、CDCl、25℃):δ=7.35(d、J=8.6Hz、2H)、6.79(d、J=8.6Hz、2H)、6.02(q、J=1.2Hz、1H)、4.12(q、J=7.0Hz、2H)、3.75(s、3H)、2.46(d、J=1.3Hz、3H)、1.22(t、J=7.2Hz、3H)。
13C−NMR(75MHz、CDCl、25℃):δ=167.01、160.37、154.79、134.24、127.57、115.24、113.75、59.62、55.21、17.55、14.28。
MS(70eV、EI):m/z(%):220(95)[M]、191(10)、175(100)、148(57)、132(10)、115(15)、91(13)、77(10)。
1316のHRMS(220.1099):測定値:220.1088。
【0056】

【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
−Ar−CuZMgY (1)
の化合物または一般式(5):
−Ar−CuZLi (5)
の化合物と、一般式(3)
−Ar−X (3)
の化合物とを、溶媒中、CoまたはFe触媒の作用下に反応させて、一般式4:
−Ar−Ar−R (4)
の化合物を製造する方法であって、
上記式中、
Xは、求核置換反応に有用な離脱基であってよく;
Yは、Cl、Br、Iであってよく;
Zは、CN、Cl、Br、I、SCN、NR、SR、PR、アルキル、アルキニルであってよく;
およびRは、それぞれ独立に、H;1つ以上のヘテロ原子を含む置換もしくは非置換アリールもしくはヘテロアリール;直鎖、分岐もしくは環式置換もしくは非置換アルキル、アルケニル、アルキニル;またはそれらの誘導体から選択される1つ以上の置換基であってよく;
ArおよびArは、それぞれ独立に、アリール、縮合アリール、1つ以上のヘテロ原子を含むヘテロアリールもしくは縮合へテロアリール;アルケニルもしくはアルキニル;またはそれらの誘導体であってよい、方法。
【請求項2】
反応は、0〜150℃、好ましくは10〜120℃、さらに好ましくは20〜100℃、最も好ましくは25〜80℃の温度で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒は、Fe(III)錯体、Fe(III)塩、Fe(II)錯体、Fe(II)塩、または還元型のFe塩もしくは錯体、好ましくはFe(acac)を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
触媒は、Co(II)もしくはCo(III)触媒または還元型のCo塩もしくは錯体を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
触媒は、CoCl、CoBr、Co(OAc)、Co(Bzac)、CoBrdppe、Co(acac)、およびCo(acac)からなる群から選択され、Co(acac)を用いるのが好ましい、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
触媒反応中に、エテンまたは1種以上のエテン誘導体のうち少なくともいずれか一方、好ましくは電子不足エテン誘導体、特に好ましくは、無水マレイン酸、テトラシアノエチレン、スチレンまたはスチレン誘導体、さらに好ましくは電子不足スチレン誘導体、最も好ましくは4−フルオロスチレンをさらに添加する、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
エテンまたはエテン誘導体は、化合物(3)のモル量に基づいて、0〜50モル%、好ましくは1〜30モル%、特に好ましくは5〜25モル%、最も好ましくは10〜20モル%の量で添加する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
触媒反応中に、1種以上の塩、好ましくは、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウムおよび/または、最も好ましくはヨウ化テトラブチルアンモニウムをさらに添加する、請求項4〜6のいずれか1項に記
載の方法。
【請求項9】
Xは、好ましくは、F、Cl、Br、I、OTf、OTs、N、より好ましくは、ClまたはBr、さらに好ましくはIであってよい、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
Xは、好ましくは、F、Cl、Br、I、OTf、OTs、N、より好ましくは、F、Cl、IまたはOTs、さらに好ましくはBrであってよい、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
溶媒として、極性溶媒または溶媒混合物、好ましくは、エーテル溶媒または溶媒混合物、最も好ましくは、THF、DME、NMP、DMPUおよびDMACからなる群から選択される溶媒または溶媒混合物を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
化合物(1)または(5)は、化合物(3)のモル量に基づいて、0.9〜5のモル比、好ましくは1〜3のモル比、さらに好ましくは1.2〜2.5のモル比で添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ZはCNであるのが好ましい、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
およびRは、それぞれ独立に、例えば、B、O、N、S、Se、Pなどの1つ以上のヘテロ原子を含む置換もしくは非置換C−C24アリールもしくはC−C24ヘテロアリール;直鎖もしくは分岐置換もしくは非置換C−C20アルキル、C−C20アルケニル、C−C20アルキニル;置換もしくは非置換C−C20シクロアルキル;またはそれらの誘導体であってよい、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−515845(P2008−515845A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535120(P2007−535120)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010936
【国際公開番号】WO2006/040131
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(503236289)
【Fターム(参考)】