説明

鉄をベースにした触媒組成物及びシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造方法

【課題】 鉄をベースにした触媒組成物及びシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造方法。
【解決手段】 1,3−ブタジエンをシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンに重合させるために、(a)鉄含有化合物、(b)有機マグネシウム化合物及び(c)亜リン酸ジヒドロカルビルエステルからなる触媒組成物が開示される。この開示の触媒組成物を使用することにより、二硫化炭素及びハロゲン化炭化水素等の環境に有害な成分の使用が回避される。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの融解温度は、触媒成分と組成比を変えることにより約100から約190℃迄変えることができる。単一の触媒組成物により融解温度を変えることができるのは、極めて望ましい。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、通常の架橋剤を用いて通常のゴムと架橋することができる、ゴム組成物用のプラスチックまたは添加物として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)鉄含有化合物、(b)有機マグネシウム化合物及び(c)亜リン酸ジヒドロカルビルエステルからなる触媒組成物及び1,3−ブタジエンのシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンへの重合へのこの触媒組成物の使用に関する。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、熱可塑性樹脂であり、残存不飽和結合により通常のゴムと共硬化性である。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、側鎖のビニル基が炭素−炭素結合からなるポリマー主鎖に関して交互に相対して位置する、立体規則性構造を有する熱可塑性樹脂である。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、プラスチックとゴムの性質を併せ持つユニークな材料である。従って、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、多くの用途を有する。例えば、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを用いて、フィルム、繊維及び成形品を製造することができる。また、ゴムとブレンドして、共硬化させることができる。
【0003】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、溶液、エマルジョンまたは懸濁重合により製造される。溶液、エマルジョンまたは懸濁重合により製造されるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、普通約195℃から215℃の範囲内の融解温度を有する。しかしながら、加工性の理由のために、実際上の使用に好適にせしめるように、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、約195℃以下の融解温度を有することが一般に望ましい。
【0004】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造のために、コバルト、チタン、バナジウム、クロム、及びモリブデンをベースとする種々の遷移金属触媒系が従来技術で報告されている(例えば、非特許文献1を参照されたい)。しかしながら、これらの触媒系は、低い触媒活性または劣った立体選択性を有し、またある場合には商品用途に不適な低分子量ポリマーまたは架橋ポリマーを生成するために実用性を有しない。
【0005】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを工業的な規模で製造するのに、コバルト含有化合物をベースにした次の2つの触媒系がよく知られている。(1)コバルトビス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/水/トリフェニルホスフィン(特許文献1、2及び3)、
(2)コバルトトリス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/二硫化炭素(特許文献4〜14)。これらの2つの触媒系もまた重大な難点を有する。
【0006】
コバルトビス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/水/トリフェニルホスフィン系は、極めて低い結晶性を有するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを生成する。加えて、この触媒系は、重合媒体としてハロゲン化炭化水素溶媒中でのみ充分な触媒活性を発現し、ハロゲン化炭化水素は、毒性の問題を起こす。
【0007】
コバルトトリス(アセチルアセトネート)/トリエチルアルミニウム/二硫化炭素系では、触媒成分の一つとして二硫化炭素が使用される。その高揮発性、不愉快な臭い、低引火点並びに毒性のために、二硫化炭素は、使用が困難で、危険であり、最小量でも雰囲気中に逃散するのを防止するには、費用のかかる安全対策が必要とされる。更に、この触媒系により製造されるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、200−210℃の
範囲内の極めて高い融解温度を有し、ポリマーを加工するのが困難になる。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの融解温度は、第4の触媒成分として触媒変性剤の使用により低下させることができるが、このような触媒変性剤の存在は、触媒活性及びポリマー収率に対して悪影響を及ぼす。従って、従来技術の先に述べたコバルトをベースにした触媒を工業的に使用するには、多数の制約が必要とされる。
【0008】
鉄(III)アセチルアセトネート/トリエチルアルミニウム等の鉄含有化合物をベース
とした配位触媒系は、先行技術において長い間知られていたが、これらは、1,3−ブタジエンの重合に対して極めて低い触媒活性と劣った立体規則性を有し、ある場合には、オリゴマー、低分子量液状ポリマー、または架橋ポリマーを生成する。それゆえ、従来技術のこれらの鉄をベースとした触媒系は、工業的な有用性を有しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,498,963号
【特許文献2】米国特許第4,182,813号
【特許文献3】日本特許公告44−32426
【特許文献4】米国特許第3,778、424号
【特許文献5】日本特許公告72−19,892
【特許文献6】日本特許公告81−18,127
【特許文献7】日本特許公告74−17,666
【特許文献8】日本特許公告74−17,667
【特許文献9】日本公開公報81−88,408
【特許文献10】日本公開公報81−88,409
【特許文献11】日本公開公報81−88,410
【特許文献12】日本公開公報75−59,480
【特許文献13】日本公開公報75−121,380
【特許文献14】日本公開公報75−121,379
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】L.Porri及びA.Giarrusso、Comprehensive Polymer Science(G.C.Eastmond,A.Ledwith,S.Russo及びP.Sigwait編、Pergamon Press:Oxford,1989)、4巻、53頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術の上述の難点なしに種々の融解温度及びシンジオタクチシチィを有するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを提供することが本発明の目的である。
【0012】
上述のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを効率的に製造する方法を提供することが本発明のもう一つの目的である。
【0013】
上述のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造への使用のための高い触媒活性と立体選択性を有する、多目的で、安価な触媒組成物を提供することが更なる目的である。
【0014】
本発明の他の目的及び本性は、以下に開示される明細書の本文の説明から明白になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
特定の鉄をベースとした触媒組成物を使用することによる1,3−ブタジエンの重合によって、目的のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンが効率的に製造されることが可能であることを見出した。
【0016】
特定すれば、本発明は、1,3−ブタジエンモノマーのシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンへの立体規則性重合において使用できる触媒組成物であって、上記触媒組成物が(a)鉄含有化合物、(b)有機マグネシウム化合物及び(c)亜リン酸ジヒドロカルビルエステルからなるものに関する。
【0017】
更に、本発明は、触媒として有効な量の上述の触媒組成物の存在下で1,3−ブタジエンを重合させることからなる、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法と触媒組成物を使用することにより、多数の、明確で、極めて有用な利点が実現される。例えば、本発明の方法と触媒組成物を使用することにより、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンが低触媒量で比較的短い重合時間の後に高い収率で製造される。加えて、更に重要なことであるが、本発明の触媒組成物は、従来技術の触媒組成物で通常使用される、高揮発性で、有毒で、可燃性の二硫化炭素を含有しないので、二硫化炭素の使用に伴う毒性、不愉快な臭い、危険性及び出費が省かれる。更に、本発明の方法と触媒組成物は、環境的に好ましい脂肪族及び脂環式炭化水素等の非ハロゲン化溶媒を含む、広範囲の溶媒中で高い触媒活性を示す。加えて、本発明の触媒組成物は、鉄をベースにしており、鉄化合物は、一般に安定、無毒で、かつ安価であり、及び容易に入手できる。更に、本発明の触媒組成物は、第4の触媒成分として触媒変性剤を使用する必要なしで、種々の融解温度を有するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の触媒組成物は、(a)鉄含有化合物、(b)有機マグネシウム化合物及び(c)亜リン酸ジヒドロカルビルエステルの成分からなる。
本発明の触媒組成物の成分(a)として、種々の鉄含有化合物が使用される。芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、または脂環式炭化水素等の炭化水素溶媒に可溶である鉄含有化合物を使用することが一般に有利である。それにも拘わらず、単に、不溶な鉄含有化合物を重合媒体中に懸濁させるだけで、触媒的に活性な種が生成する。従って、溶解性を確保するために、鉄含有化合物に制約を設けるべきではない。
【0020】
本発明の触媒組成物において使用される鉄含有化合物中の鉄は、限定ではないが、0、+2、+3、及び+4の酸化状態を含め種々の酸化状態に存在することができる。鉄が+2の酸化状態に在る2価の鉄含有化合物(第1鉄化合物とも呼ぶ)、及び鉄が+3の酸化状態に在る3価の鉄含有化合物(第2鉄化合物とも呼ぶ)を使用することが好ましい。
【0021】
本発明の触媒組成物に使用することができる、好適なタイプの鉄含有化合物には、限定ではないが、鉄カルボキシレート、鉄β−ジケトネート、鉄アルコキサイドまたはアリールオキサイド、鉄ハライド、鉄プソイドハライド(pseudo−halide)、及び有機鉄化合物が含まれる。
【0022】
好適な鉄カルボキシレートの特定な例の一部には、ギ酸鉄(II)、ギ酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、アクリル酸鉄(II)、アクリル酸鉄(III)、メタアクリル酸鉄(II)、メタアクリル酸鉄(III)、吉草酸鉄(II)、吉草酸鉄(III)、グルコン酸
鉄(II)、グルコン酸鉄(III)、クエン酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)、フマル酸鉄(II)、フマル酸鉄(III)、乳酸鉄(II)、乳酸鉄(III)、マレイン酸鉄(II)、マレイン酸鉄(III)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、2−エチルヘキサノン酸鉄(II)、2−エチルヘキサノン酸鉄(III)、ネオデカン酸鉄(II)、ネオデカン酸鉄(III)、ナフテン酸鉄(II)、ナフテン酸鉄(III)、ステアリン酸鉄(II)、ステアリン酸鉄(III)、オレイン酸鉄(II)、オレイン酸鉄(III)、安息香酸鉄(II)、安息香酸鉄(III)、ピコリン酸鉄(II)、及びピコリン酸鉄(III)がある。
【0023】
好適な鉄β−ジケトネートの特定な例の一部には、鉄(II)アセチルアセトネート、鉄(III)アセチルアセトネート、鉄(II)トリフルオロアセチルアセトネート、鉄(III)トリフルオロアセチルアセトネート、鉄(II)ヘキサフルオロアセチルアセトネート、鉄(III)ヘキサフルオロアセチルアセトネート、鉄(II)ベンゾイルアセチルアセトネート、鉄(III)ベンゾイルアセチルアセトネート、鉄(II)2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート、及び鉄(III)2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネートがある。
【0024】
好適な鉄アルコキサイドまたはアリールオキサイドの特定な例の一部には、鉄(II)メトキサイド、鉄(III)メトキサイド、鉄(II)エトキサイド、鉄(III)エトキサイド、鉄(II)イソプロポキサイド、鉄(III)イソプロポキサイド、鉄(II)2−エチルヘキソキサイド、鉄(III)2−エチルヘキソキサイド、鉄(II)フェノキサイド、鉄(III)フェノキサイド、鉄(II)ノニルフェノキサイド、鉄(III)ノニルフェノキサイド、鉄(II)ナフトキサイド、及び鉄(III)ナフトキサイドがある。
【0025】
好適な鉄ハライドの特定な例の一部には、フッ化鉄(II)、フッ化鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)がある。
【0026】
好適な鉄プソイドハライドの特定な例の一部には、シアン化鉄(II)、シアン化鉄(III)、シアン酸鉄(II)、シアン酸鉄(III)、チオシアン酸鉄(II)、チオシアン酸鉄(III)、アジ化鉄(II)、アジ化鉄(III)、フェロシアン化鉄(III)(プルシアンブルーとも呼ばれる)がある。
【0027】
ここで使用されるように、「有機鉄化合物」という語は、少なくとも一つの鉄−炭素共有結合を含む鉄化合物を指す。好適な有機鉄化合物の特定な例の一部には、ビスシクロペンタジエニル鉄(II)(フェロセンとも呼ばれる)、ビスペンタメチルシクロペンタジエニル鉄(II)(デカメチルフェロセンとも呼ばれる)、ビス(ペンタジエニル)鉄(II)、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)鉄(II)、ビス(アリル)ジカルボニル鉄(II)、(シクロペンタジエニル)(ペンタジエニル)鉄(II)、テトラ(1−ノルボニル)鉄(IV)、(トリメチレンメタン)トリカルボニル鉄(II)、ビス(ブタジエン)カルボニル鉄(0)、(ブタジエン)トリカルボニル鉄(0)、及びビス(シクロオクタテトラエン)鉄(0)がある。
【0028】
本発明の触媒組成物の成分(b)は、有機マグネシウム化合物である。ここで使用されるように、「有機マグネシウム化合物」という語は、少なくとも一つのマグネシウム−炭素共有結合を含むマグネシウム化合物を指す。炭化水素重合媒体に可溶である有機マグネシウム化合物を使用することが一般に有利である。本発明の触媒組成物に使用することができる2つの好ましい種類の有機マグネシウム化合物は、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物とグリニヤール形のヒドロカルビルマグネシウムハライドである。
【0029】
ジヒドロカルビルマグネシウム化合物は、一般式MgRにより表される。式中、同一の、あるいは異なる各々のRは、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、アラアル
キル、アルカリールまたはアリル基であり、各々のRは、好ましくは1、またはこのような基を形成する適当な最小数の炭素原子(しばしば3または6)から20個迄の炭素原子を含む。好適なジヒドロカルビルマグネシウム化合物の特定な例の一部には、ジエチルマグネシウム、ジ−n−プロピルマグネシウム、ジイソプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジフェニルマグネシウム、及びジベンジルマグネシウムがある。入手し易さと溶解性によって、ジブチルマグネシウムが特に好ましい。
【0030】
グリニヤール形のヒドロカルビルマグネシウムハライドは、一般式MgRXにより表される。式中、Rは、上で例示されたヒドロカルビル基であり、Xは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素である。好適なジヒドロカルビルマグネシウム化合物の特定な例の一部には、メチルマグネシウムクロライド、メチルマグネシウムブロマイド、メチルマグネシウムアイオダイド、エチルマグネシウムクロライド、エチルマグネシウムブロマイド、ブチルマグネシウムクロライド、ブチルマグネシウムブロマイド、フェニルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムブロマイド、及びベンジルマグネシウムクロライドがある。
【0031】
更に、本発明の触媒組成物は、式
【0032】
【化1】

【0033】
のケト−エノール互変異性構造により表される亜リン酸ジヒドロカルビルエステルである、成分(c)を含む。式中、同一の、あるいは異なるR及びRは、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラアルキル、アルカリールまたはアリル基から選ばれるヒドロカルビル基であり、各々のRは、好ましくは1、またはこのような基を形成する適当な最小数の炭素原子(しばしば3または6)から、20個迄の炭素原子を含む。亜リン酸ジヒドロカルビルエステルは、主にケト互変異性体(左側に示される)として存在し、エノール互変異性体(右側に示される)は、従の種である。この2つの互変異性体のいずれか一つまたはそれらの混合物は、本発明の触媒組成物の成分(c)として使用することができる。上述の互変異性平衡の平衡定数は、温度、RとRのタイプ、溶媒のタイプ等の因子に依存する。双方の互変異性体は、水素結合によりダイマー、トリマーまたはオリゴマーに会合している。
【0034】
好適な亜リン酸ジヒドロカルビルエステルの特定な例の一部には、亜リン酸ジメチルエステル、亜リン酸ジエチルエステル、亜リン酸ジブチルエステル、亜リン酸ジヘキシルエステル、亜リン酸ジオクチルエステル、亜リン酸ジデシルエステル、亜リン酸ジドデシルエステル、亜リン酸ジオクタデシルエステル、亜リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステル、亜リン酸ジイソプロピルエステル、亜リン酸ビス(3,3−ジメチル−2−ブチル)エステル、亜リン酸ビス(2,4−ジメチル−3−ペンチル)エステル、亜リン酸ジ−t−ブチルエステル、亜リン酸ビス(2−エチルヘキシル)エステル、亜リン酸ジネオペンチルエステル、亜リン酸ビス(シクロプロピルメチル)エステル、亜リン酸ビス(シクロブチルメチル)エステル、亜リン酸ビス(シクロペンチルメチル)エステル、亜リン酸ビス(シクロヘキシルメチル)エステル、亜リン酸ジシクロブチルエステル、亜リン酸ジシクロペンチルエステル、亜リン酸ジシクロヘキシルエステル、亜リン酸ジメンチルエステル、亜リン酸ジフェニルエステル、亜リン酸ジナフチルエステル、亜リン酸ジベンジルエステル、亜リン酸ビス(1−ナフチルメチル)エステル、亜リン酸ジアリ
ルエステル、亜リン酸ジメチルアリルエステル、亜リン酸ジクロチルエステル、亜リン酸エチルブチルエステル、亜リン酸メチルヘキシルエステル、亜リン酸メチルネオペンチルエステル、亜リン酸メチルフェニルエステル、亜リン酸メチルシクロヘキシルエステル、亜リン酸メチルベンジルエステルなどがある。上記の亜リン酸ジヒドロカルビルエステルの混合物も使用される。
【0035】
本発明の触媒組成物は、主成分として上述の3つの成分(a)、(b)、及び(c)を含む。3つの成分(a)、(b)、及び(c)に加えて、当業界で公知である、他の有機金属化合物等の他の触媒成分も、所望であれば添加することができる。
【0036】
本発明の触媒組成物は、広範囲の触媒全濃度と触媒組成比にわたって極めて高い触媒活性を有する。3つの成分(a)、(b)、及び(c)は、明らかに相互作用して、活性な触媒種を形成する。従って、いずれか一つの触媒成分の最適濃度は、他の2つの触媒成分の濃度に依存する。重合は、広範囲な触媒全濃度と触媒組成比にわたって起こるが、最も好ましい性質を有するポリマーは、更に狭い範囲の触媒濃度と触媒組成比のなかで得られる。
【0037】
本発明の触媒組成物中の鉄含有化合物に対する有機マグネシウム化合物のモル比(Mg/Fe)は、約1:1から約100:1まで変えることができる。しかしながら、Mg/Feのモル比の更に好ましい範囲は、約2:1から約50:1であり、最も好ましい範囲は、約4:1から約20:1である。鉄含有化合物に対する亜リン酸ジヒドロカルビルエステルのモル比(P/Fe)は、約0.5:1から約50:1まで変えることができ、好ましい範囲は、約1:1から約25:1であり、最も好ましい範囲は、約2:1から約10:1である。
【0038】
重合反応物中の全触媒濃度は、成分の純度、所望の重合速度と転換率、重合温度、などの因子に依存する。従って、特定の全触媒濃度は、触媒として有効な量の各触媒成分を使用すべきであるということを述べること以外に、定義として示すことができない。一般に、使用される鉄含有化合物の量は、1,3−ブタジエン100g当り約0.01から約2ミリモル迄変えることができ、更に好ましい範囲は、1,3−ブタジエン100g当り約0.02から約1.0ミリモルであり、最も好ましい範囲は、約0.05から約0.5ミリモルである。所望の性質を有するポリマーを生成する特定の触媒濃度と触媒成分比は、本発明の教示を説明するために述べられた実施例において例示されよう。
【0039】
本発明の3つの触媒成分は、いくつかの異なる方法で重合系中に導入される。触媒は、モノマー溶媒混合物に3つの触媒成分を段階的あるいは連続的に添加することにより、系内で生成される。触媒成分を段階的に添加するシーケンスは、決定的ではないが、成分は、好ましくは有機マグネシウム化合物、鉄含有化合物、最後に亜リン酸ジヒドロカルビルエステルのシーケンスで添加される。あるいは、3つの触媒成分を、重合系外で適当な温度(例えば、約−20℃から約80℃迄)で予備混合し、得られる混合物を重合系に添加してもよい。加えて、3つの触媒成分を、重合すべきモノマー/溶媒混合物の主な部分に加える前に、少量の1,3−ブタジエンの存在下適当な温度で(例えば、約−20℃から約80℃迄)で予備混合してもよい。触媒の予備生成に使用される1,3−ブタジエンモノマーの量は、鉄含有化合物のモル当り、約1から約500モルの範囲であり、好ましくは鉄含有化合物のモル当り、約4から約50モルである。加えて、3つの触媒成分は、また、2段階の手順を用いて重合系に導入される。この手順には、最初に鉄含有化合物と有機マグネシウム化合物を、上述のように、少量の1,3−ブタジエンの存在下適当な温度で(例えば、約−20℃から約80℃迄)反応させることが含まれる。次に、得られる反応混合物と亜リン酸ジヒドロカルビルエステルがモノマー/溶媒混合物の主な部分に、段階的あるいは連続的に添加される。更に、別な2段階の手順も使用される。これには、最
初に鉄含有化合物と有機マグネシウム化合物を反応させて、鉄錯体を形成させ、続いて得られる鉄錯体と有機マグネシウム化合物をモノマー/溶媒混合物に段階的あるいは連続的に添加することが含まれる。
【0040】
触媒溶液を重合系外で作製する場合には、触媒成分溶液に使用できる有機溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素、及び2つ以上の上述の炭化水素の混合物から選ばれる。好ましくは、有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン及びシクロヘキサンから選ばれる少なくとも一つからなる。
【0041】
上述したように、(a)、(b)、及び(c)の3つの触媒成分を含む鉄をベースにした本発明の触媒組成物は、シンジオタクチック1,2−ブタジエンの製造に対して極めて高い触媒活性を有する。そのために、本発明は、更に上述の鉄をベースにした触媒組成物を使用して、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを製造する方法を提供する。
【0042】
本発明の方法によるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造は、前出の3つの触媒成分a)、(b)、及び(c)からなる鉄をベースにした触媒組成物の存在下で1,3−ブタジエンモノマーを重合させることにより実施される。上述のように、本発明の触媒組成物の3つの成分を1,3−ブタジエンモノマーと接触させる多様な方法が使用できる。
【0043】
本発明の方法によると、1,3−ブタジエンモノマーの重合は、溶媒を使用しないバルク重合により行なわれることもある。バルク重合は、凝縮した液相中あるいは気相中で行うことができる。
【0044】
あるいは、更に通常には、本発明の方法による1,3−ブタジエンモノマーの重合は、希釈剤として溶媒中で行われる。このような場合には、重合される1,3−ブタジエンモノマーと生成されたポリマーの双方が重合媒体中に可溶である、溶液重合が使用される。あるいは、生成されたポリマーが不溶である溶媒を選ぶことにより懸濁重合が使用される。双方の場合、通常、触媒成分溶液中に含有される有機溶媒に追加する有機溶媒の量が重合系に添加される。追加する有機溶媒は、触媒成分溶液中に含有される有機溶媒と同じあるいは異なる。通常、重合反応を触媒するのに使用される触媒組成物に関して不活性である有機溶媒を選ぶのが望ましい。希釈剤として使用できる好適なタイプの有機溶媒には、限定ではないが、脂肪族、脂環式、及び芳香族炭化水素がある。好適な脂肪族溶媒の代表例の一部には、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、イソペンタン、イソヘプタン、イソヘキサン、イソオクタン、2,2−ジメチルブタン、石油エーテル、ケロシン、石油スピリットなどがある。好適な脂環式溶媒の代表例の一部には、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどがある。好適な芳香族溶媒の代表例の一部には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メシチレンなどがある。上述の炭化水素の市販の混合物も使用することができる。環境的な理由から、脂肪族及び脂環式の溶媒が極めて好ましい。
【0045】
重合される1,3−ブタジエンモノマーの濃度は、特別な範囲に限定されない。しかしながら、一般に、重合の初めに重合媒体中に存在する1,3−ブタジエンモノマーの濃度は、約3%から約80重量%の範囲であるが、更に好ましい範囲は、約5%から約50重量%であり、最も好ましい範囲は、約10%から約30重量%である。
【0046】
本発明の方法により1,3−ブタジエンの重合を行うのに当り、製造するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの分子量をコントロールするために分子量調節剤が使用されることもある。結果として、この重合系の範囲は、極高分子量ポリマーから低分子量ポ
リマーにわたるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造に使用できるように、拡張することができる。使用することができる好適なタイプの分子量調節剤には、限定ではないが、アレン及び1,2−ブタジエン等の集積ジオレフィン、1,6−オクタジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、3,7−ジメチル1,6−オクタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、4−ビニルシクロヘキセン、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,2−ジビニルシクロヘキサン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、及び1,2,4−トリビニルシクロヘキサン等の非共役ジオレフィン、アセチレン、メチルアセチレン及びビニルアセチレン等のアセチレン類、及びこれらの混合物がある。使用される分子量調節剤の量は、重合で使用される1,3−ブタジエンモノマーの100重量部当りの部(phm)で表して、約0.01から約10phmの範囲、好ましくは約0.02から約2phmの範囲、最も好ましくは約0.05から約1phmの範囲である。加えて、得られるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン生成物の分子量は、水素の存在下で1,3−ブタジエンモノマーの重合を行うことによっても有効にコントロールされる。この場合には、水素の分圧は、ほぼ約0.01から約50気圧の範囲内で適当に選ばれる。
【0047】
本発明の方法によれば、1,3−ブタジエンモノマーの重合は、バッチプロセスとして、半連続的なベース、あるいは連続的なベースで行われる。いずれの場合においても、望ましくは、重合は、窒素、アルゴンまたはヘリウム等の不活性な保護ガスを用いて、中程度あるいは激しい攪拌と共に、無酸素条件下で行われる。本発明の実施において使用される重合温度は、−10℃以下等の低温から100℃以上等の高温迄広く変えられ、好ましい温度範囲は、約20℃から約90℃である。重合熱は、外部冷却、1,3−ブタジエンモノマーまたは溶媒の蒸発による冷却、あるいは2つの方法の組み合わせにより除去される。本発明の実施において使用される重合圧力も広く変えられ、好ましい圧力範囲は、約1気圧から約10気圧である。
【0048】
本発明の重合反応は、所望の転換率に達したら、重合系に公知の重合停止剤を添加することにより触媒系を不活性化して停止され、引き続き、共役ジエンポリマーの製造において通常使用され、当業者に公知であるような脱溶媒と乾燥の通常のステップが行われる。通常、触媒系を不活性化するのに使用される重合停止剤は、限定ではないが、アルコール、カルボン酸、無機酸、及び水あるいはこれらの混合物を含む、プロトン性化合物である。停止剤の添加と同時、あるいは前、あるいは後に抗酸化剤等の2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールが添加される。使用される抗酸化剤の量は、通常、ポリマー生成物の0.2%から1重量%の範囲である。重合反応を停止したならば、メタノール、エタノール、またはイソプロパノール等のアルコールによる沈殿、溶媒及び未反応の1,3−ブタジエンモノマーのスチーム蒸留とそれに続く濾過によって、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン生成物が重合混合物から単離される。次に、一般に、生成物は、一定の真空下で約25℃から約100℃(好ましくは約60℃)の範囲の温度で乾燥される。
【0049】
本発明の触媒組成物を使用するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、触媒成分と成分比に依存する種々の融解温度を有する。望ましくは、融解温度は、約100から約190℃、更に望ましくは約110から約180℃、好ましくは約120から約170℃迄変わる。1,2−結合の含量は、望ましくは約70から約90%である。シンジオタクチシティは、望ましくは約60から約80%である。
【0050】
本発明の触媒組成物を使用して製造されるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、多くの用途を有する。性質を改良するために、種々のゴムとブレンドすることができる。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、特にタイヤにおいて、エラストマーのグリーン強度を改善するために、種々のゴムとブレンドすることができる。タイヤの支
持用カーカス(補強用カーカス)は、特に、タイヤの形成及び加硫手順時に変形を受けやすい。この理由のために、タイヤの支持用カーカスに使用される、ゴム組成物中へのシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの包含は、この変形を防止し、あるいは最小にするのに特に有用である。加えて、タイヤトレッド組成物中へのシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの包含は、タイヤの熱の発生を低減させ、磨耗特性を改善する。シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン製品は、また、食品用フィルムの製造において、また各種の成形用途において有用である。
【0051】
本発明の実施は、次の実施例を参照することにより更に例示されるが、これは本発明の範囲を制約すると考えられるべきでない。実施例中の部及びパーセントは、特記しない限り重量による。
【実施例】
【0052】
実施例1
乾燥器で乾燥した1リットルのガラス瓶を自己シール性ゴムライナーと孔明き金属キャップで栓をし、乾燥窒素流で掃気した。瓶を、66gのヘキサンと27.2重量%の1,3−ブタジエンを含有する184gの1,3−ブタジエン/ヘキサンのブレンドで充填した。瓶に、(1)0.60ミリモルのジブチルマグネシウム、(2)0.10ミリモルの鉄(III)アセチルアセトナート、(3)0.50ミリモルのビス(2−エチルヘキシル)亜リン酸エステルの触媒成分を、この順序で添加した。50℃に維持した水浴中で瓶を5時間転がした。0.5gの2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを含有する10mlのイソプロパノールの添加により重合を停止させた。重合混合物を3リットルのイソプロパノール中に添加した。ポリマーを濾過により単離し、真空下60℃で恒量迄乾燥した。ポリマーの収量は、48.0g(96%)であった。示差走査熱分析(DSC)により測定されるように、ポリマーは、163℃の融解温度を有していた。ポリマーのH及び13C核磁気共鳴(NMR)分析により、80.3%の1,2−結合の含量と、70.6%のシンジオタクチシティが示された。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定されるように、ポリマーは、468,000の重量平均分子量(M)、215,000の数量平均分子量(M)及び2.2の多分散度インデックス(M/M)を有していた。モノマー充填量、触媒成分量及び得られたシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの性質を表Iに要約した。
【0053】
実施例2−6
実施例2−6においては、表Iに示すように、触媒比を変えたことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。各実施例におけるモノマー充填量、触媒成分量及び得られたシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの性質を表Iに要約した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例7−10
実施例7−10においては、亜リン酸ビス(2−エチルヘキシル)エステルを亜リン酸ジネオペンチルエステルに置き換え、表IIに示すように、触媒比を変えたことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。各実施例におけるモノマー充填量、触媒成分量及び得られたシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの性質を表IIに要約した。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例11−14
実施例11−14においては、分子量調節剤としての1,2−ブタジエンの有用性を示すために、一連の重合実験を行った。触媒成分の添加前に、1,3−ブタジエンモノマー溶液を入れた重合瓶に種々の量の1,2−ブタジエンを添加したことを除いて、手順は、実施例1に述べたものと基本的に同一である。各実施例におけるモノマー充填量、1,2−ブタジエン量、触媒成分量及び得られたシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの性質を表IIIに要約した。
【0058】
【表3】

【0059】
上記の実施例では、特定の方法、材料及び実施の形態を引用して本発明を述べたが、添付のクレームに示された本発明にクレームされた範囲内に入る、種々の変更及び変形がなされることは当業者には明白であろう。従って、本発明は、開示された特定物に限定されずに、クレームの範囲のすべての同等物迄拡がる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2価鉄化合物、
(b)ジブチルマグネシウム及び
(c)ビス(2−エチルヘキシル)亜リン酸エステル又は亜リン酸ジネオペンチルエステルからなり、
2価鉄化合物対ジブチルマグネシウムのモル比が1:4乃至1:8であり、2価鉄化合物対ビス(2−エチルヘキシル)亜リン酸エステル又は亜リン酸ジネオペンチルエステルのモル比が1:2乃至1:5であることを特徴とする重合用触媒組成物。
【請求項2】
(a)2価鉄化合物、
(b)ジブチルマグネシウム及び
(c)ビス(2−エチルヘキシル)亜リン酸エステル又は亜リン酸ジネオペンチルエステルからなり、
2価鉄化合物対ジブチルマグネシウムのモル比が1:4乃至1:8であり、2価鉄化合物対ビス(2−エチルヘキシル)亜リン酸エステル又は亜リン酸ジネオペンチルエステルのモル比が1:2乃至1:5である触媒組成物の、触媒として有効量の、存在下で1,3−ブタジエンを重合させることを特徴とするシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの製造方法。
【請求項3】
分子量調節剤として0.1乃至0.3phmの1,2−ブタジエンを使用する請求項2に記載の方法。

【公開番号】特開2013−14779(P2013−14779A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−204676(P2012−204676)
【出願日】平成24年9月18日(2012.9.18)
【分割の表示】特願2009−55233(P2009−55233)の分割
【原出願日】平成11年10月13日(1999.10.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】