説明

鉄を含有しない微量元素製剤

【課題】 体内での鉄貯蔵量が増加していて、鉄を含有する微量元素製剤を投与すると鉄過剰を引き起こす患者に投与するための微量元素製剤の提供。
【解決手段】 鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有する本発明の微量元素製剤によって上記課題が達成される。本発明の微量元素製剤は、多糖類およびその塩並びにグルコン酸およびその塩から選ばれる1種または2種以上を含有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄を含有しない微量元素製剤に関する。より詳細には、本発明は、肝細胞や肝・脾の網内系マクロファージなどにおける貯蔵鉄量が増加していて、鉄過剰症を引き起こす恐れのある患者に対して高カロリー輸液療法などを施す際に、必須微量元素であるマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が不足することに由来する各種欠乏症状を防止するとともに、鉄の過剰摂取に伴う副作用の発生を抑制するための微量元素製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口または経腸による栄養補給が不能または不適な患者に対しては、高カロリー輸液を経静脈にて投与する経静脈高カロリー輸液療法が従来から広く行われている。経静脈高カロリー輸液療法では、一般に、糖質、アミノ酸、塩化ナトリウム、グルコン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸二水素カリウムなどの電解質、ビタミン類などを配合した高カロリー輸液が用いられる。しかし、前記した成分を配合した高カロリー輸液を長期にわたって患者に投与すると、ヒトに必須な微量元素が不足するため、経静脈高カロリー輸液療法では、各種微量成分を配合した微量元素製剤を併用することが行なわれている。経静脈高カロリー輸液療法で用いられる微量元素製剤としては、鉄、マンガン、亜鉛、銅、ヨウ素、セレン、モリブデン、クロムなどを挙げられ、そのうちでも、鉄、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の5種類の微量元素製剤を少なくとも含有する微量元素製剤(例えば、味の素ファルマ社製「エレメンミック」、日本製薬/武田薬品社製「ミネラリン」など)が広く用いられている(例えば、特許文献1の段落[0003]、特許文献2など)。
【0003】
鉄、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する微量元素製剤は、通常、水を媒体とする水性液体の形態で販売されている。
微量元素製剤では、鉄は、一般に塩化第二鉄の水溶液に水酸化アルカリの水溶液を加えて水酸化第二鉄コロイドの形態にされるが、水酸化第二鉄コロイドは粒子がプラスに帯電した疎水コロイドであるために凝集しやすく、pHが3以上になると沈殿する。そのため、塩化第二鉄の水溶液に水酸化アルカリの水溶液を加えて水酸化第二鉄コロイドを生成させる際に、コロイド保護物質としてコンドロイチン硫酸塩を加えて、水酸化第二鉄をコンドロイチン硫酸と配位させて、コンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドの形態にして、鉄を凝集や沈殿することなく微量元素製剤中に安定に含有させている。
【0004】
また、微量元素製剤においてマンガン、亜鉛、銅、ヨウ素などの微量元素は通常イオンの形態になっており、亜鉛イオンは液のpHが6以上になると水不溶性の水酸化亜鉛を生成し不安定になり易く、また銅イオンは液のpHが5以上になると水不溶性の水酸化銅を生成し不安定になり易い。しかし、鉄、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する微量元素製剤では、微量元素製剤中にコンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが含まれていることによって、本来はpH5以上の水溶液中で凝集や沈殿を生じ易い銅イオンや、pH6以上で凝集や沈殿を生じ易い亜鉛イオンの凝集や沈殿が防止されて、鉄、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素がpH4〜10の水性液体中でも、鉄と共に液中に安定に存在するとされている(特許文献1の段落[0010])。
【0005】
微量元素製剤に含まれる微量元素のうち、鉄は、赤血球中のヘモグロビンの成分として利用され、全身への酸素の運搬に機能しているが、その他にも全身の細胞の分裂や増殖、様々な代謝などにも不可欠の成分である。
鉄が不足すると、貧血(鉄欠乏症貧血)、運動機能や認知機能の低下、動悸、息切れ、めまい、集中力の低下、神経過敏、口内炎、肩や首筋のこり、食欲不審、慢性胃炎、爪の変型、便秘、下痢、冷え性などが生じ易くなり、また感染症にかかり易くなり、妊婦は未熟児を出産する場合があり、幼児は言語や運動能力の発達が遅れることがある。
その一方で、生体内で鉄が過剰になると、細胞に対して毒性を示してしまうため、生体内には鉄代謝の精巧な制御機構が働いている。例えば、大部分の鉄はヘモグロビンの構成成分として骨髄での赤血球造血に利用されるが、産生された赤血球は、約120日の寿命を迎えると網内系にて破壊され、ヘモグロビンから回収された鉄は再利用される。生体には鉄を積極的に排泄する機構は存在せず、消化管上皮細胞の脱落などによって鉄が僅かに喪失されるに過ぎない。鉄の喪失量は、成人で通常約1mg/日と少なく、これと同等量が消化管から吸収されるしくみになっている。
【0006】
このように生体には、鉄についての半閉鎖的回路が構築され、鉄の吸収量が消化管で厳密に制御されているため、体内での鉄貯蔵量が過剰になっていることがあり、微量元素製剤として非経口的に鉄を補給する場合は注意を要する。
特に、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や、悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で起こる二次性貧血(ACD:Anemia of Chromic Disease)では、網内系からの鉄の放出が抑制されて鉄の利用が阻害されて貧血となっているため、貧血状態を示しているにも拘わらず体内での貯蔵鉄量が増加していることがあり、経静脈高カロリー輸液療法を長期にわたって行っている二次性貧血の患者にそのような兆候が度々みられる。
体内での貯蔵鉄量が増加している二次性貧血の患者に鉄を非経口的に補給すると、鉄過剰を招くことになる。体内での鉄の過剰蓄積は、肝硬変、糖尿病、青銅肌などの発症の原因となり、悪化すると心不全に至るケースもあり、また鉄過剰症は、酸素分子や過酸化水素分子と反応して活性酸素種発生の原因となることが知られている。
【0007】
血清フェリチンは組織のフェリチンが一部血中に流れ出たものであり、組織、ことに網内系の貯蔵鉄量を反映する。慢性炎症や悪性腫瘍が存在すると、炎症性のサイトカインが過剰に生産され、この影響により、網内系の細胞を中心に鉄が蓄積し、貯蔵鉄量が増加し、このとき、総鉄結合能(TIBC)および血清鉄は基準値以下を示す。経静脈高カロリー輸液療法を長期にわたって行っている二次性貧血の患者に総鉄結合能(TIBC)および血清鉄が基準値以下を示す鉄過剰の兆候が度々みられるが、そのような患者に対しては、鉄の過剰給与を回避しながら、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素などの他の微量元素を補給することが必要である。
しかしながら、鉄の過剰給与を防ぐために、鉄を含有せず、その一方でマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素からなる微量元素を、凝固や沈殿などを生ずることなく、安定した状態で水中に含有している微量元素製剤は従来知られておらず、その開発が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3484689号公報
【特許文献2】特開2002−255830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、体内での鉄貯蔵量が過剰な患者または鉄貯蔵量が過剰になる恐れのある患者に対して、鉄の過剰給与を防ぎながら、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素からなる微量元素を安全に継続して給与することのできる、鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有する微量元素製剤を提供することである。
本発明の目的は、高圧蒸気滅菌を施しても、更に長期間保存しても、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素からなる微量元素が、製剤中に鉄が含まれていないにも拘わらず、凝集や沈殿などを生ずることなく水中に安定に存在する、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、その一方で鉄を含有しない、高温での加熱安定性および経時安定性に優れる微量元素製剤を提供することである。
本発明の目的は、高カロリー輸液製剤に混注しても、微量元素の凝集や沈殿が生じず、微量元素が混注後の液中に安定に存在する、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を提供することである。
本発明の目的は、高カロリー輸液製剤に混注したときに、高カロリー輸液製剤のpHを大きく変化させることのない、高カロリー輸液製剤のpHと同じか又はそれに近いpHを有する、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、マンガン、亜鉛、銅などの微量元素、特に亜鉛および銅などの微量元素は、コンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが含まれていないと水中に安定に存在せず、凝集や沈殿し易いことが従来から広く知られていたが(上記した特許文献1の段落[0010]など)、そのような従来からの常識を覆して、コンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが水中に含まれていなくても、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を凝集や沈殿を生ずることなく水中に安定に含有させ得ることを見出して、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有し、その一方で鉄を含有しない微量元素製剤の開発に成功した。
本発明者は、多糖類およびその塩並びにグルコン酸およびその塩から選ばれる1種または2種以上を安定化剤として用いると、鉄を含有しなくても(すなわちコンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが水中に含まれていなくても)、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を凝集や沈殿を生ずることなく水中に一層安定に含有させることができ、それによってマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない安定な微量元素製剤が得られることを見出した。
さらに、本発明者は、鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素と共に前記安定化剤を含有する当該微量元素製剤は、液のpH変化に強く、pHが変っても沈殿が生じず安定であり、そのため高カロリー輸液療法などで混注して用いるのに適していることを見出した。
また、本発明者は、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が水中に安定に存在する、鉄を含有しない当該微量元素製剤は、高カロリー輸液のpHと同じかまたは近いpH4.5〜6.5の範囲にしたときにも安定性に優れ、高圧蒸気滅菌しても安定性が失われず、長期保存後も安定性が失われないことを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有する水性液体からなることを特徴とする微量元素製剤である。
そして、本発明は、
(2) マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素をイオンの形態で水性液体中に含有する前記(1)の微量元素製剤;
(3) 安定化剤を含有する前記(1)または(2)の微量元素製剤;
(4) 安定化剤が、多糖類およびその塩並びにグルコン酸およびその塩から選ばれる1種または2種以上である前記(3)の微量元素製剤;および、
(5) 安定化剤を2質量%以下の濃度で含有する前記(1)〜(4)のいずれかの微量元素製剤;
である。
【0012】
さらに、本発明は、
(6) 水性液体1mL中に、マンガンを0.01〜4μmol、亜鉛を0.05〜200μmol、銅を0.01〜20μmolおよびヨウ素を0.01〜11μmolの割合で含有する前記(1)〜(5)のいずれかの微量元素製剤;
(7) pHが4.5〜6.5の範囲にある前記(1)〜(6)のいずれかの微量元素製剤;
(8) マンガン、亜鉛および銅の供給源がこれらの金属の硫酸塩および/または塩酸塩であり、ヨウ素の供給源がヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムである前記(1)〜(7)のいずれかの微量元素製剤;
(9) プレフィルドシリンジの形態になっている前記(1)〜(8)のいずれかの微量元素製剤;および、
(10) 高圧蒸気滅菌されたものである前記した(1)〜(9)のいずれかの微量元素製剤;
である。
【0013】
そして、本発明は、
(11) 貯蔵鉄量の増加を回避する必要のある、経口および経腸による栄養補給が不能で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者用である前記(1)〜(10)のいずれかの微量元素製剤;
(12) 血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者に投与するためのものである前記(1)〜(11)のいずれかの微量元素製剤;および、
(13) 総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に投与するためのものである前記(11)または(12)の微量元素製剤;
である。
【発明の効果】
【0014】
鉄を含有しない本発明の微量元素製剤は、コンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが水中に含まれていないにも拘わらず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が水性液体中に安定に存在しており、高圧蒸気滅菌を施しても、さらには長期間保存しても、微量元素製剤に含まれるマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素からなる微量元素が、製剤凝集や沈殿などを生ずることがなく、高温での加熱安定性および経時安定性に優れている。
本発明の微量元素製剤のうち、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素と共に安定化剤を含有するものは、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を凝集や沈殿を生ずることなく水中に一層安定に含有させることができ、液のpH変化に強く、pHが変っても沈殿が生じず安定であり、そのため高カロリー輸液療法などで混注して用いる際にpHが変っても、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の凝集や沈殿などが生じず、高カロリー輸液療法で使用するのに適している。
本発明の微量元素製剤のうち、pHを4.5〜6.5に調整したものは、高カロリー輸液製剤に混注したときに、高カロリー輸液製剤のpHを大きく変化させることがないため、経静脈高カロリー輸液療法などにおいて高カロリー輸液製剤に混注して用いるのに適している。
本発明の微量元素製剤は、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、その一方で鉄を含有していないために、体内での鉄貯蔵量が過剰な患者または鉄貯蔵量が過剰になる恐れのある患者に安全に投与することができ、特に、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や、悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で起こる二次性貧血を示している患者であって、体内での貯蔵鉄量が増加している患者[例えば、血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者や、血清フェリチン濃度が250ng/mL以上でしかも総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者]に経静脈高カロリー輸液療法を行う際に一緒に投与することによって、体内での鉄過剰を防ぎながら、患者にマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を給与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1で得られた、本発明の微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジをブリスター包装材料にて密封包装した包装体を上方から見た図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた、本発明の微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジをブリスター包装材料にて密封包装した包装体を側面から見た図である。
【図3】図3は、実施例5で製造した輸液バッグを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の微量元素製剤は、鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有する水性液体からなる微量元素製剤である。
ここで、前記「水性液体」とは、水を溶媒として用いた水溶液または水分散液をいう。また、「マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有する」とは、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が、水性液体中に、凝集や沈殿を生ずることなく、溶解および/または分散した状態で含有されていることを意味する。
本発明の微量元素製剤が必須成分として含有するマンガンは、体内の様々の酵素の補因子として、糖質や脂質の代謝の促進、骨格の形成の促進、生殖能、免疫能、抗酸化作用などに大きく関わり、また酵素の活性化を促す作用がある。マンガンが不足すると、発育障害、エネルギー代謝の異常、血液凝固能の低下、毛髪の赤色化、糖尿病などを引き起こすことがある。
【0017】
また、本発明の微量元素製剤が必須成分として含有する亜鉛は、体内の様々の酵素の補因子として、糖質や脂質の代謝の促進、骨格の形成の促進、創傷治癒促進、抗酸化作用、細胞分裂の促進などに関与する。亜鉛が不足すると、皮疹、口内炎、舌炎、脱毛、爪変形、下痢、発熱、味覚・嗅覚障害、食欲不振、小児の成長遅延、嗜眠、創傷治癒の遅延などが生じ易くなり、重症化するとうつ状態などの精神異常、免疫能の低下による感染症の反復などが起きることがある。
【0018】
そして、本発明の微量元素製剤が必須成分として含有する銅は、ヘモグロビンと鉄を結びつける働きがあり、造血機能、骨代謝、結合織代謝、抗酸化作用、神経機能、色素調節機能があるとされている。銅が不足すると、貧血、白血球の減少、骨粗鬆症などが生じ易くなる。
【0019】
また、本発明の微量元素製剤が必須成分として含有するヨウ素は、甲状腺の中に入っており、甲状腺ホルモンは神経細胞のナトリウム濃度のバランスを調整し、代謝を促す。ヨウ素が欠乏すると、甲状腺腫や甲状腺機能低下症などが起こり、精神活動の鈍化、疲労、低血圧、子供では体や知能の発育の遅れ、妊娠時の流産や死産の危険性、発育障害、エネルギー代謝の異常、血液凝固能の低下、毛髪の赤色化、糖尿病などを引き起こすことがある。
【0020】
本発明の微量元素製剤では、高圧蒸気滅菌および/または長期保存後でもマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が、凝集や沈殿することなく水中に安定に存在する限りは、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素は、水に溶解していてもよいし、または水中に分散していてもよい。そのうちでも、本発明の微量元素製剤では、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が、マンガンイオン、亜鉛イオン、銅イオンおよびヨウ素イオンの形態で水に溶解しているか、またはイオンコロイドなどを形成して水中に分散していることが、高圧蒸気滅菌および/または長期保存後の安定性などの点から好ましい。
【0021】
本発明の微量元素製剤では、マンガン、亜鉛および銅の供給源がこれらの金属の硫酸塩および/または塩酸塩であり、ヨウ素の供給源がヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムであることが好ましい。具体的には、本発明の微量元素製剤は、硫酸マンガンおよび/または塩化マンガン、硫酸亜鉛および/または塩化亜鉛、硫酸銅および/または塩化銅、並びにヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムを用いて調製することが好ましい。具体的には、例えば、硫酸マンガン五水和物および/または塩化マンガン四水和物と、硫酸亜鉛七水和物および/または塩化亜鉛と、硫酸銅五水和物および/または塩化銅(II)と、ヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムを用いて好ましく調製することができる。
【0022】
本発明の微量元素製剤は、微量元素製剤をなす水性液体1mL中に、マンガンを0.01〜4μmol、亜鉛を0.05〜200μmol、銅を0.01〜20μmolおよびヨウ素を0.01〜11μmolの割合で含有することが好ましく、マンガンを0.02〜4μmol、亜鉛を0.1〜200μmol、銅を0.02〜20μmolおよびヨウ素を0.02〜11μmolの割合で含有することがより好ましく、マンガンを0.05〜2μmol、亜鉛を0.25〜100μmol、銅を0.05〜10μmolおよびヨウ素を0.05〜5.5μmolの割合で含有することが更に好ましい。
一日量としての患者1人当たりの各元素量は、マンガンが0.1〜4μmol、亜鉛が0.5〜200μmol、銅が0.1〜20μmolおよびヨウ素が0.1〜11μmolであることが好ましい。
マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を、微量元素製剤における各微量元素が上記した範囲になるように、また患者1日当たりの給与量が上記した範囲になるようにして、1〜20mLの注射用水に、好ましくは1〜5mLの注射用水に、更に好ましくは1〜2mLの注射用水に、上記したマンガン、亜鉛および銅の硫酸塩および/または塩酸塩並びにヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムを溶解させて本発明の微量元素製剤を調製することが好ましい。
【0023】
本発明の微量元素製剤は、安定化剤を含有してもまたは含有していなくてもよいが、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を凝集や沈殿などを生ずることなく水性液体中により安定に溶解または分散させるために安定化剤を含有していることが好ましい。
本発明では、安定化剤として、多糖類およびその塩並びにグルコン酸およびその塩から選ばれる1種または2種以上が好ましく用いられる。グルコン酸塩としてはグルコン酸ナトリウムおよびグルコン酸カルシウム等が挙げられる。安定化剤として好ましく用いられる多糖類およびその塩の具体例としては、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カラギーナンなどを挙げることができる。そのうちでも、コンドロイチン硫酸ナトリウムが特に好ましく用いられる。
【0024】
本発明の微量元素製剤における安定化剤の濃度は、微量元素製剤の質量に基づいて2質量%以下であることが好ましく、0.1〜1質量%であることがより好ましい。安定化剤の濃度が高過ぎると粘度が上昇する恐れがある。
【0025】
本発明の微量元素製剤のpHは、微量元素製剤中にマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が凝集や沈殿などを生ずることなく安定に含有されているかぎりは特に制限されないが、微量元素製剤中でのマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の安定性、特に、銅の安定性、本発明の微量元素製剤を経静脈高カロリー輸液療法において糖含有液、アミノ酸含有液、総合ビタミン剤液などに混合した後のマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の安定性や混合液のpHを経静脈輸液に適したpHに維持できるなどの点から、本発明の微量元素製剤のpHは4.5〜6.5であることが好ましく、5.0〜6.0であることがより好ましい。
【0026】
本発明の微量元素製剤は、微量元素製剤中に含まれるマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の安定性が損なわれない限り、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素と共に、必要に応じて、例えばクロム、セレン、モリブデンなど、その他の微量元素の1種または2種以上を含有することができる。
【0027】
本発明の微量元素製剤の製造方法は特に制限されず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が水に安定に溶解または分散した水性液体を得ることのできる製造方法のいずれもが採用できる。
限定されるものではないが、本発明の微量元素製剤は、例えば、上記したコンドロイチン硫酸やその他の多糖類およびそれらの塩並びにグルコン酸およびその塩から選ばれる1種または2種以上の安定化剤を水に溶解し、これにマンガン、亜鉛および銅の塩酸塩および/または硫酸塩とヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムを溶解することによって製造することができる。前記した安定化剤を添加して得られる本発明の微量元素製剤は、pH変化に強く、pHが変ってもマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の沈殿が生じないか、生じにくい。
また、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する微量元素製剤のpHを5.2以下にした場合には、前記した安定化剤を添加せずに、マンガン、亜鉛および銅の塩酸塩および/または硫酸塩とヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムを水に溶解することで、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素が水中にイオン状で安定に存在する微量元素製剤を得ることができる。
【0028】
本発明の微量元素製剤は容器に封入して保存、流通、販売される。本発明の微量元素製剤を封入する容器はガラス容器であっても、またはプラスチック容器であってもいずれでもよい。プラスチック容器としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)などのポリオレフィン製の容器、ポリカーボネート製の容器などを挙げることができる。
また、容器の形態は特に制限されず、例えば、アンプル、バイアル、シリンジに充填したいわゆるプレフィルドシリンジ、さらには糖電解質配合輸液剤、糖電解質アミノ酸配合輸液剤、糖電解質アミノ酸総合ビタミン配合輸液剤などの輸液剤を収容した輸液バックに本発明の微量元素製剤を封入するための別の室を設けて複室バッグ化したものなどを挙げることができる。
【0029】
そのうちでも、本発明の微量元素製剤は、シリンジに予め充填してプレフィルドシリンジの形態にしておくことが、使用時の簡便性、迅速性、安全性などの点から好ましい。
シリンジは、外筒と、当該外筒内に液密に摺動可能に設けられたガスケットと、当該外筒の先端開口部を封止するキャップを備え、シリンジにおける外筒とガスケットとキャップとで形成された内部空間に本発明の微量元素製剤が充填される。
シリンジの外筒は、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)などのポリオレフィン、ポリカーボネートなどから形成することができる。また、ガスケットは、スチレン系エラストマーやオレフィン系エラストマーなどのエラストマー、ブチルゴム、イソプレンゴムなどのゴムから形成することができる。
【0030】
マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない本発明の微量元素製剤は、体内での貯蔵鉄量が増加していて鉄過剰になっているかまたは鉄過剰になる恐れのある患者に、高カロリー輸液剤を経静脈にて非経口投与する際に、上記した1日当たりの給与量で高カロリー輸液剤中に混注して、常法に従って投与される。それによって、体内での貯蔵鉄量が増加していて鉄過剰になっているかまたは鉄過剰になる恐れのある患者への更なる鉄の投与を防ぎながら、患者におけるマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の欠乏を防いで、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素の欠乏によって生ずる上記したような種々の症状が発生するのを防いだり、当該症状を軽減することができる。
【0031】
特に、鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する本発明の微量元素製剤は、血清フェリチン濃度が250ng/mL以上である貯蔵鉄量が過剰な患者に、経静脈高カロリー輸液療法によって高カロリー輸液剤を投与する際に、高カロリー輸液剤に混注して患者に投与するための微量元素製剤として好ましく用いられる。
さらに、本発明の微量元素製剤は、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症性疾患や、悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で体内での貯蔵鉄量が増加していて血清フェリチン濃度が250ng/mL以上になっており、その一方で総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に経静脈高カロリー輸液療法によって高カロリー輸液剤を投与する際に、高カロリー輸液剤に混注して患者に投与するための微量元素製剤として好ましく用いられる。
ここで、本明細書における「血清フェリチン濃度」は化学発光免疫測定法またはラテックス凝集法で測定される血清フェリチン濃度をいう。
また、本明細書における「総鉄結合能(TIBC)」は比色法または競合性蛋白結合分析法(CPBA)で測定される総鉄結合能(TIBC)をいう。
さらに、本明細書における「血清鉄濃度」は、比色法で測定される血清鉄濃度をいう。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0033】
《実施例1》
(1) コンドロイチン硫酸ナトリウム4.887gを注射用水600mLに溶解し、これに塩化マンガン0.099g、硫酸亜鉛七水和物8.625g、硫酸銅0.624gおよびヨウ化カリウム0.083gを加えて溶解させ、次いで水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを5.7に調整した後、注射用水を加えて全量を1Lにした。
(2) 上記(1)で得られた溶液を、エラストマー製ガスケットで密栓したポリプロピレン製シリンジに2mLずつ充填し、常法に従って高圧蒸気滅菌を行い、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジを製造した。
(3) 上記(2)で得られたプレフィルドシリンジをポリプロピレン製ブリスター包装材料にて密封包装して、図1(上面図)および図2(側面図)に示すプレフィルドシリンジの包装体を得た。図1および図2において、1はマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジを示し、2はポリプロピレン製ブリスター包装材料を示す。
【0034】
《実施例2》
実施例1の(1)において、コンドロイチン硫酸ナトリウムの量を9.774gとした以外は実施例1の(1)〜(3)と同様に行って、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジの包装体を得た。
【0035】
《実施例3》
実施例1の(1)において、コンドロイチン硫酸ナトリウムの量を2.444gとした以外は実施例1の(1)〜(3)と同様に行って、鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジの包装体を得た。
【0036】
《実施例4》
(1) 注射用水600mLに塩化マンガン0.099g、硫酸亜鉛七水和物8.625g、硫酸銅0.624gおよびヨウ化カリウム0.083gを加えて溶解させた後、pHの調整を行わずに、注射用水を加えて全量を1Lにした。
(2) 上記(1)で得られた溶液を、実施例1の(2)で使用したのと同じシリンジに2mLずつ充填し、実施例1の(2)と同様に高圧蒸気滅菌を行って、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジを製造した。
(3) 上記(2)で得られたプレフィルドシリンジを実施例1の(3)で使用したのと同じポリプロピレン製ブリスター包装材料にて密封包装して、プレフィルドシリンジの包装体を得た。
【0037】
《試験例1》
上記の実施例1〜4で得られたマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を充填したプレフィルドシリンジを、60℃で3週間保存し、1週間ごとに外観を目視により観察すると共に、pHを測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0038】
【表1】

【0039】
上記の表1の結果にみるように、実施例1〜4で得られたマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する微量元素製剤は、鉄を含有しておらず、そのためコンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが微量元素製剤中に含まれていないにも拘わらず、高圧蒸気滅菌処理を施した後に、更には60℃で3週間保存した後に、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素などの凝集や沈殿が生じておらず、澄明な液状を保っており、高温での加熱安定性及び長期安定性に優れている。
また、実施例1〜4の微量元素製剤のうちでも、実施例1〜3の微量元素製剤は安定化剤(コンドロイチン硫酸ナトリウム)を含有していることにより、3週間後におけるpHの変化が少なく、安定性により優れている。
一方、安定化剤を含有していない実施例4で得られた微量元素製剤は、安定化剤を含有する実施例1〜3の微量元素製剤に比べてpHの変化が大きく、60℃1週間でpH5以下となり、pH4.6前後で安定する。
【0040】
《試験例2》
(i) 下記の(a)〜(c)の試験を行って、微量元素製剤の色調および濁りおよび沈殿の有無を目視にて観察した。
(a)実施例1〜4で得られた微量元素製剤の各4mLに、水1Lに塩酸0.1molを加えて調製した塩酸水溶液を0.5mL添加する試験。
(b)実施例1〜4で得られた微量元素製剤の各4mLに、水1Lに水酸化ナトリウム0.1molを加えて調製した水酸化ナトリウム水溶液を1滴添加する試験。
(c)実施例1〜4で得られた微量元素製剤の各4mLに、水1Lに水酸化ナトリウム0.1molを加えて調製した水酸化ナトリウム水溶液を0.5mL添加する試験。
(ii) 上記(a)〜(c)の試験結果を下記の表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
上記の表2の結果にみるように、実施例1〜3のマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有する微量元素製剤は、鉄を含有しておらず、そのためコンドロイチン硫酸を保護コロイドとする水酸化第二鉄コロイドが微量元素製剤中に含まれていないにも拘わらず、安定化剤(コンドロイチン硫酸ナトリウム)を含有していることにより、酸またはアルカリを添加して液のpHを変化させても沈殿物を生じず、pHの変化に対して非常に安定である。
一方、実施例4のマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤は、安定化剤を含有していないことにより、pHが変化すると沈殿物を生じた。
上記の結果から、本発明の微量元素製剤は、高カロリー輸液製剤に混注して使用することが多いことから、製剤と混合してpHが変化しても不溶物が発生しないようにするため、安定化剤を含有することが望ましいことがわかる。
【0043】
《実施例5》
(1)輸液バッグ用の袋状容器の作製:
ポリプロピレンとスチレン系エラストマーのブレンド樹脂をインフレーション成形により、シート肉厚約300μmの円筒状[折れ径(横幅210mm)]に成形したシート状筒状体を準備した。
そして、図3に示すように、シート状筒状体の一方の開口する端部を、排出口3の取付部を除きヒートシールしてシール部4を形成し、同様に開口する他端を、脂溶性ビタミン含有水性製剤を充填した薬剤容器5および微量元素製剤を充填した薬剤容器6の取付部を除いてヒートシールした。
また、シート状筒状体の縦方向の中央部より下辺側となる位置にて液体収納部を区分するとともに剥離可能な弱シール部を備える仕切部7をヒートシールにより作製して、輸液バッグ用の袋状容器を作製した。
【0044】
(2)ビタミンB1およびブドウ糖を含有する水性製剤の調製:
ブドウ糖120gと電解質[L−乳酸ナトリウム液6.724g(L−乳酸ナトリウムとして3.362g)、グルコン酸カルシウム1.906g、塩化ナトリウム1.169g、酢酸カリウム1.168g、燐酸二水素カリウム1.100g、塩化マグネシウム1.017g、塩化カリウム0.746g]を約60℃に加温した注射用蒸留水500mlに溶解し、室温まで冷却した。冷却された混合液に、塩酸チアミン(ビタミンB1)1.5mg、塩酸ピリドキシン2mg、ニコチン酸アミド20mgを加え溶解した。次いで希塩酸およびコハク酸を用いてpH4.5に調製し、注射用蒸留水にて全量を700mlにし、0.22μmのメンブランフィルターで濾過して、ビタミンB1とブドウ糖を含有する水性製剤を調製した。
【0045】
(3)アミノ酸含有水性製剤の調製:
L−イソロイシン1.700g、L−ロイシン2.700g、リンゴ酸リジン2.305g、L−メチオニン0.780g、L−フェニルアラニン1.540g、L−トレオニン0.960g、L−トリプトファン0.320g、L−バリン1.800g、L−チロシン0.100g、L−アルギニン2.220g、L−ヒスチジン0.940g、L−アラニン1.720g、L−アスパラギン酸0.100g、L−グルタミン酸0.100g、グリシン1.100g、L−プロリン1.280gおよびL−セリン0.840gを約80℃の注射用蒸留水150mlに溶解し、室温まで冷却した。冷却された混合液に亜硫酸リジン0.108gおよびリンゴ酸システイン0.310gを加え、さらにアスコルビン酸50mg、リン酸リボフラビンナトリウム2.54mg、パンテノール7.02mgを加えて溶解した。次いでクエン酸およびコハク酸を用いてpH6.5に調製し、注射用蒸留水にて全量を200mlにし、0.22μmのメンブランフィルターで濾過してアミノ酸含有水性製剤を調製した。
【0046】
(4)脂溶性ビタミン水性製剤の調製および薬剤容器への充填:
(i) 脂溶性ビタミン(パルミチン酸レチノール1650IU、エルゴカルシフェロール5μg、酢酸トコフェロール7.5mg、フィトナジオン1mg)を所定量のポリソルベート80(日光ケミカルズ株式会社製「TO−10M」)、ポリソルベート20(日光ケミカルズ株式会社製「TL−10」)およびD−ソルビトールの混合物中に約70℃で加温溶解した(A液)。
(ii) 別に、0.1N水酸化ナトリウム水溶液で約pH8に調整した注射用水(所定量の60%量)に葉酸0.2mg、ビオチン0.05mg、ビタミンB12の5μgを約70℃で加温溶解した(B液)。
(iii) A液にB液を撹拌しながら徐々に添加したのち、クエン酸または水酸化ナトリウムを用いてpH6.0に調整した後、全量を3.0mlにし、メンブランフィルター(孔径0.22μm)を用いて濾過して脂溶性ビタミン含有水性製剤を調製した。
(iv) 上記(iii)で得られた脂溶性ビタミン含有水性製剤を、薬剤収納部と操作部および両者間に設けられた破断可能部を備えるポリプロピレン製の薬剤容器(容量4ml)に充填し、薬剤収納部の開口部に蓋部材を取り付けて超音波シールして、脂溶性ビタミン含有水性製剤を充填した薬剤容器5を製造した。
【0047】
(5)微量元素製剤の薬剤容器への充填:
実施例1で得られたマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有しない微量元素製剤を、上記(4)で使用したのと同じポリプロピレン製の薬剤容器(容量4ml)に充填し、薬剤収納部の開口部に蓋部材を取り付けて超音波シールして、微量元素製剤を充填した薬剤容器6を製造した。
【0048】
(6)輸液バッグの製造および包装:
(i) 上記(1)で作製した輸液バッグ用の袋状容器の第1室(I)に上記(2)で調製したビタミンB1およびブドウ糖を含有する水性製剤700mlを充填し、開口部に排出口3を挿入しヒートシールして固定し、開口部を密封した。
(ii) 上記(1)で作製した輸液バッグ用の袋状容器の第2室(II)に上記(3)で調製したアミノ酸含有水性製剤を充填し、開口部に上記(4)で製造した脂溶性ビタミン含有水性製剤を充填した薬剤容器5と、上記(5)で製造した微量元素製剤を充填した薬剤容器6を図3に示す位置で挿入しヒートシールして固定し、開口部を密封して輸液バッグAを製造した。
(iii) 上記(ii)で得られた輸液バッグを、常法に従い高圧蒸気滅菌した後、脱酸素剤と共にアルミ蒸着フィルムを用いて包装した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の本発明の微量元素製剤は、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を含有し、鉄を含有せず、しかも高圧蒸気滅菌を施しても、さらには長期間保存しても、微量元素製剤に含まれるマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素からなる微量元素が、製剤凝集や沈殿などを生ずることがなく安定性に優れており、更にはpHが変化しても沈殿が生じないので、体内での鉄貯蔵量が過剰な患者または鉄貯蔵量が過剰になる恐れのある患者に安全に投与することができ、特に、慢性炎症性疾患や悪性腫瘍などの慢性疾患が原因で起こる二次性貧血を示している患者であって、体内での貯蔵鉄量が増加している患者に経静脈高カロリー輸液療法を行う際に高カロリー輸液剤に混注して一緒に投与することによって、体内での鉄過剰を防ぎながら、患者にマンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を給与することができる。
【符号の説明】
【0050】
A 輸液バッグ
(I) 第1室
(II) 第2室
1 プレフィルドシリンジ
2 ポリプロピレン製ブリスター包装材料
3 排出口
4 シール部
5 脂溶性ビタミン含有水性製剤を充填した薬剤容器
6 微量元素製剤を充填した薬剤容器
7 剥離可能な弱シール部を備える仕切部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を含有せず、マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素を安定に含有する水性液体からなることを特徴とする微量元素製剤。
【請求項2】
マンガン、亜鉛、銅およびヨウ素をイオンの形態で水性液体中に含有する請求項1に記載の微量元素。
【請求項3】
安定化剤を含有する請求項1または2に記載の微量元素製剤。
【請求項4】
安定化剤が、多糖類およびその塩並びにグルコン酸およびその塩から選ばれる1種または2種以上である請求項3に記載の微量元素製剤。
【請求項5】
安定化剤を2質量%以下の濃度で含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項6】
水性液体1mL中に、マンガンを0.01〜4μmol、亜鉛を0.05〜200μmol、銅を0.01〜20μmolおよびヨウ素を0.01〜11μmolの割合で含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項7】
pHが4.5〜6.5の範囲にある請求項1〜6のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項8】
マンガン、亜鉛および銅の供給源がこれらの金属の硫酸塩および/または塩酸塩であり、ヨウ素の供給源がヨウ化カリウムおよび/またはヨウ化ナトリウムである請求項1〜7のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項9】
プレフィルドシリンジの形態になっている請求項1〜8のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項10】
高圧蒸気滅菌されたものである請求項1〜9のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項11】
貯蔵鉄量の増加を回避する必要のある、経口および経腸による栄養補給が不能で高カロリー静脈栄養に頼らざるを得ない患者用である請求項1〜10のいずれかに記載の微量元素製剤。
【請求項12】
血清フェリチン濃度が250ng/mL以上の患者に投与するためのものである請求項1〜11のいずれか1項に記載の微量元素製剤。
【請求項13】
総鉄結合能(TIBC)が250μg/dL以下で且つ血清鉄濃度が40μg/dL以下である二次性貧血の患者に投与するためのものである請求項11または12に記載の微量元素製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153082(P2011−153082A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14018(P2010−14018)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】