説明

鉄ニトロシル化ヘモグロビンの生成

【課題】罹患率改善調製物である代替の安定かつ生物活性な調製物を生成すること。
【解決手段】亜硝酸塩は、一般に、活性一酸化窒素の除去によりヘモグロビンを酸素化するという現在の考えに反して、脱酸素化ヘモグロビンは、低濃度の無機亜硝酸塩と反応して、非常に安定な鉄ニトロシル化ヘモグロビンを生成し、これは、体内への送達時に、一酸化窒素送達の可能なヘモグロビンに変換され、そして、血管拡張活性および抗血小板活性を提供する。このことは、血液製剤輸液の危険性を改善するための基盤を提供する。本発明は、体内でS−ニトロシル化ヘモグロビンに変換される安定な鉄ニトロシル化ヘモグロビンを調製するための方法であって、脱酸素化ヘモグロビンおよび無機亜硝酸塩を、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンのモル比で反応させて鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成する工程を包含する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立衛星研究所の助成金番号HL52529、HL59130およびHL66179−02ならびに国立科学財団の助成金番号MCB00981228の下で、少なくとも一部は、米国政府の援助によりなされた。米国政府は、本発明の一部の権利を有する。
【0002】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2002年12月12日出願の米国仮特許出願番号60/432,616の利益を主張する。
【0003】
(技術分野)
本明細書中の発明は、輸液の危険性を緩和するための一つの事例に関し、赤血球またはヘモグロビンベースの治療剤を提供するための別の事例に関する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
代用血液、ヘモグロビンおよび赤血球の輸液を受ける患者は、罹患率および/または死亡率が増加することは、公知である。この罹患率および/または死亡率の増加は、一酸化窒素の過剰な除去により血管の狭窄を引き起こした結果と考えられている。S−ニトロシル化ヘモグロビン(SNO−Hb)は、血管拡張剤であることが知られているが、代用血液中または輸液において有効には使用されていない。これは、不安定であり、劣化せずに容易に保存することができないことにかなりの部分が起因する。従って、罹患率改善調製物である代替の安定かつ生物活性な調製物を生成するという動機が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本明細書中で、無機亜硝酸塩が、体内で非常に安定かつ酸素化された鉄ニトロシル化ヘモグロビンの形成を仲介し、血管拡張活性および抗血小板活性を有するSNO−Hbを形成し得る(すなわち、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成するための無機亜硝酸塩反応が、体内への送達時に血管拡張活性および抗血小板活性を与えられ、かつ輸液により増加した罹患および死亡の危険性を緩和し、ヘモグロビンおよび赤血球ベースの治療剤と関連した罹患率を緩和するために機能的である分子を作り出す)こと、ならびに、鉄ニトロシル化ヘモグロビンが、低いヘモグロビン 対 亜硝酸塩の割合で、デオキシヘモグロビンとの亜硝酸塩インキュベーション(ここで、酸素化によりSNO−Hbを生成する)により形成され得ることが発見された。
【0006】
ヘモグロビンは、二個のαサブユニットおよび二個のβサブユニットからなる四量体である。ヒトヘモグロビンでは、各サブユニットは、一つのヘムを含むのに対して、βサブユニットはまた、高い反応性のSH(チオール)を含む基(β−cys93)をも含む。亜硝酸塩は、ヘモグロビンの酸化剤であり、ヘモグロビンとの亜硝酸反応の結果は、硝酸塩への変換によるか、または一酸化窒素生物活性をクエンチするαサブユニット第一鉄ヘムに対する酸化に由来する一酸化窒素(NO)の複合化による、亜硝酸塩の除去であると考えられる。低(生理学的)濃度の亜硝酸塩がオキシヘモグロビンを酸化しないことが、本明細書中で発見された。これは、その代わりに、脱酸素化ヘモグロビンと結合し、ヘモグロビン四量体のヘムβサブユニット上にNOを蓄積し、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成するためであり、酸素化に関しては、NOは、βサブユニットのヘムからβ−cys93のチオールに移動し、SNO−Hbを産生すると考えられる。
【0007】
本明細書中の発明の一実施形態(一番目の実施形態を示す)は、容易にSNOヘモグロビンに変換可能な安定な鉄ニトロシル化ヘモグロビンを調製するための方法に関し、この方法は、低濃度の無機亜硝酸塩をデオキシヘモグロビンと反応させて(1:10〜1:1000のデオキシヘモグロビン 対 亜硝酸塩のモル比)、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成する工程を包含する。この鉄ニトロシル化ヘモグロビンは、安定で、酸素化によりNO送達を可能にするヘモグロビン製剤(例えば、SNO−Hb)を産生するので、非常に好ましい生成物である。
【0008】
本明細書中の発明の別の実施形態(二番目の実施形態を示す)は、罹患および/または死亡の危険性を低下した、血液製剤輸液の必要なヒト患者への血液製剤輸液の方法に関し、この方法は、無機亜硝酸塩と、脱酸素化ヘモグロビンを含む代用血液もしくは赤血球もしくは血液ヘモグロビンまたはこれらの二つ以上の組合せとを、1:10〜1:1000の範囲の脱酸素化ヘモグロビン 対 亜硝酸のモル比でインキュベートし、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含む代用血液または赤血球またはヘモグロビンまたは組合せ製剤を形成する工程、ならびに鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含む製剤をヒト患者内へ輸液する工程を包含する。
【0009】
本明細書中の発明のなお別の実施形態(三番目の実施形態を示す)は、従来の輸液に比べて輸液由来の罹患および/または死亡の危険性の低下した、血液製剤輸液の必要なヒト患者への血液製剤輸液の方法に関し、この方法は、代用血液または赤血球(一時間あたり1〜250cmの速度で)、および無機亜硝酸塩(1分間あたり0.01〜10マイクロモルの速度で)の同時輸液工程を包含する。
【0010】
本明細書中の発明のなお別の実施形態(四番目の実施形態を示す)は、後に使用するための一酸化窒素との混合物中または無機亜硝酸塩の前処理後の保存血液、保存代用血液、保存赤血球、保存ヘモグロビン、または、保存用のこれらの二つ以上の組合せに関し、そして、機能および全ての赤血球細胞を維持するために、一酸化窒素との混合物中または無機亜硝酸塩の前処理後の血液、代用血液、赤血球、血液ヘモグロビン、またはこれらの二つ以上の組合せを含有する保存組成物を含む、後で使用するための輸液のための組成物を提供する方法に関する。
【0011】
本明細書中の発明のなお別の実施形態(五番目の実施形態を示す)は、一酸化窒素治療の必要な患者を処置する方法に関し、この方法は、赤血球または血液ヘモグロビンベースの治療剤を投与する工程を包含し、この治療剤は、脱酸素化ヘモグロビンを含む赤血球または血液ヘモグロビンを無機亜硝酸塩とともに、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンのモル比でインキュベートすることにより入手され、それによって、該治療剤は、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含有する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
体内でS−ニトロシル化ヘモグロビンに変換される安定な鉄ニトロシル化ヘモグロビンを調製するための方法であって、該方法は、脱酸素化ヘモグロビンおよび無機亜硝酸塩を、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンのモル比で反応させて鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成する工程を包含する、方法。
(項目2)
血液製剤輸液の必要なヒト患者への血液製剤輸液の方法であって、該方法は、無機亜硝酸塩と、脱酸素化ヘモグロビンを含む代用血液または赤血球とを、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンの初期モル比で同時インキュベートし、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含有する代用血液または赤血球製剤を形成する工程、ならびに鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含有する製剤を該患者に輸液する工程を包含する、方法。
(項目3)
血液製剤輸液の必要なヒト患者への血液製剤輸液の方法であって、該方法は、代用血液もしくは赤血球、および無機亜硝酸塩を該患者に同時注入する工程であって、該無機亜硝酸塩を、1分間あたり0.01〜10マイクロモルの速度で注入する工程を包含する、方法。
(項目4)
後で使用するための輸液のための組成物を提供する方法であって、該方法は、一酸化窒素との混合物中で、または無機亜硝酸塩前処理後に、機能および全ての赤血球を維持するために、血液、代用血液、赤血球、血液ヘモグロビンまたはこれらの二つ以上の組合せを含有する組成物を保存する工程を包含する、方法。
(項目5)
一酸化窒素との混合物中の、または無機亜硝酸塩前処理後の、後で使用するための、保存血液、保存代用血液、保存赤血球、保存血液ヘモグロビンまたはこれらの二つ以上の組合せ。
(項目6)
一酸化窒素治療の必要な患者を処置する方法であって、該方法は、赤血球または血液ヘモグロビンベースの治療剤を該患者に投与する工程を包含し、該治療剤は、脱酸素化ヘモグロビンを含む赤血球または血液ヘモグロビンを、無機亜硝酸塩とともに、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンのモル比でインキュベートすることにより入手され、それによって、該治療剤は鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含有する、方法。
【0012】
血液輸液由来の死亡率は、増加すると考えられ、血液輸液ならびにヘモグロビンおよびエリスロポエチン(ヘモグロビンを増加する)は両方とも、一般に血圧および肺動脈圧を増加し、組織灌流を減少し得ると考えられる。本発明の二番目の実施形態および三番目の実施形態は、この死亡率および後に記載する疾患率を低減する。
【0013】
用語「脱酸素化ヘモグロビン」は、本明細書中で、平均3個未満の酸素を有するヘモグロビン分子を意味して使用される。ヘモグロビンの脱酸素化は、脱酸素化され、より少ない酸素を有するデオキシヘモグロビンを提供する。
【0014】
用語「鉄ニトロシル化ヘモグロビン」は、本明細書中で、ヘモグロビンのβサブユニットのヘム鉄に結合した一酸化窒素を意味して使用される。
【0015】
用語「酸素化」は、本明細書中で、酸素の導入を意味して使用される。
【0016】
用語「血液製剤」は、本明細書中で、赤血球、血液ヘモグロビンまたはこれらの組合せを含有する組成物を意味して使用される。
【0017】
用語「代用血液」は、本明細書中で、ヘモグロビンを含む血液に対する代替物を意味して使用される。
【0018】
用語「インキュベートする」は、本明細書中で、反応に好ましい条件を維持することを意味して使用され、「同時インキュベートする」は、本明細書中で、このような条件下で一つより多い化合物を維持することを意味して使用される。
【0019】
用語「同時輸液」は、本明細書中で、同時に輸液すること、または別の輸液のすぐ前またはすぐ後に輸液を行なうことを意味する。
用語「赤血球または血液ヘモグロブリンベースの治療剤」は、本明細書中で、平均ヘモグロブリンレベルを有意に増加させるのには不十分である(すなわち、平均ヘモグロブリンレベルを少なくとも10%増加させるには不十分である)が、血液中の一酸化窒素レベルを有意に、すなわち少なくとも10%増加させる量の、赤血球または血液ヘモグロブリンを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ブタにおける、一酸化窒素(アスタリスク)、硝酸塩(丸)およびコントロール(四角)についての時間 対 肺胞−動脈勾配のグラフであり、背景実施例2の結果を示している。図1において、ΔAaは、ブタにおける肺胞−動脈勾配を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(詳細な説明)
ここで、本発明の第1の実施形態を参照すると、この実施形態は、血流に導入された場合、SNO−ヘモグロビンに変換する安定な鉄ニトロシル化ヘモグロビンを調製するための方法に関し、その方法は、無機亜硝酸塩をデオキシヘモグロブリンと、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 デオキシヘモグロビン(ヘモグロブリンベースで)のモル比で反応させ、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成する工程を包含する。
【0022】
デオキシヘモグロビンは、ヘモグロビンの脱酸素化または赤血球の脱酸素化(例えば、ヘモグロビンまたは赤血球中に通常存在する酸素の50%未満の酸素が存在するようになるまで、ヘモグロビンまたは赤血球に不活性ガスを撒布すること)によって提供され得る。不活性ガスは、例えば、アルゴンまたは窒素であり得る。この反応は、4℃〜37℃の範囲の温度で容易に実施されて室温で簡便に実施され得るが、体内で(体温で)実施され得る。無機亜硝酸塩は、ヘモグロビンと共に溶媒中に溶け得る任意の無機亜硝酸塩である。無機亜硝酸塩は、例えば、亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウムであり得る。この反応のための溶媒は、ヘモグロビンがその生理学的機能を行うことを不活性化しない任意の溶媒であり得、例えば、HEPESまたは10mmリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)であり得る。鉄ニトロシル化ヘモグロビンは、ヘモグロビンβサブユニットのヘムに対するNO結合を非常に活性な状態で含み、これは、体内で呼吸器系により、SNO−ヘモグロビンに容易に変換される。SNO−ヘモグロビンは、血管拡張作用および抗血小板作用を有し、体内における形成によって、これらの効果に対し機能的になるが、不安定になり、保存で残存しない。従って、第1の実施形態の反応は、体内への送達または体内での形成に際して、血管拡張作用を有し、その結果、代用血液または赤血球の輸液と併用して使用される場合、このような輸液に通常伴う病的状態および死亡の危険性の増加を軽減するために有用である分子を、作製する。
【0023】
ここで、本発明の第2の実施形態を参照すると、この実施形態は、血液製剤を必要とするヒト患者への血液製剤の輸液の方法に関し、この方法は、無機亜硝酸塩および代用血液または赤血球(脱酸素化ヘモグロビンを含む)を、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンの初期モル比で同時インキュベートし、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含む代用血液または赤血球製剤を形成する工程、および鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含有する製剤を患者に輸液する工程を包含する。
【0024】
同時インキュベーションは、好ましくは、例えば、生理食塩水中の無機亜硝酸塩溶液または1μM〜1mMの無機亜硝酸塩を含む他の生理的緩衝液を、脱酸素化ヘモグロビンを含む代用血液または赤血球と、1:10〜1:1000(例えば、1:100〜1:500)の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンの初期モル比で混合し、そして温度を4℃〜37℃(好ましくは体温)に維持して、例えば、10分〜1時間混合することによって実施される。
【0025】
脱酸素化ヘモグロビンを含む代用血液または赤血球を提供するための、代用血液または赤血球の脱酸素化は、例えば、代用血液または赤血球に不活性ガス(例えば、アルゴンまたは窒素)を撒布することによって実施され得る。
【0026】
無機亜硝酸塩は、脱酸素化ヘモグロビンに可溶でありかつ適合し、脱酸素化ヘモグロビンを分解しない、任意の無機亜硝酸塩であり得、亜硝酸ナトリウムまたは亜硝酸カリウムであり得る。
【0027】
同時インキュベーションによって形成された鉄ニトロシル化ヘモグロビンは、体内で呼吸系によって、SNO−ヘモグロビン形態に変換され、これは、血管拡張を引き起こし、従来の血液製剤輸液に伴う血管狭窄に対抗する。
【0028】
血液製剤輸液を必要とする患者は、血液を失ったかもしくは失いつつある患者、または腎機能不全の症例で体の老廃物の除去を必要とする患者、または中毒の症例で血液から有害物質を除去する必要のある患者、または一酸化窒素または酸素の欠陥を伴う任意の疾患(例えば、アンギナまたは脳卒中)を処置するために赤血球またはヘモグロビンを必要とする患者である。
【0029】
輸液は、従来通りの速度で従来通りの時間にわたって実施される。例えば、4時間で1単位未満の代用血液または赤血球を、18ゲージ以上の必要(need)を用いて、例えば、この1ユニットを30分〜2時間の時間で輸液する。
【0030】
代用血液または赤血球製剤の活性を、この製剤をグルタチオンまたは他のチオールと同時インキュベーションすることによって増強し得る。
【0031】
ここで、本明細書中の本発明の第3の実施形態を参照すると、この実施形態は、血液製剤輸液を必要とするヒト患者内に血液製剤を輸液する方法であって、従来の輸液と比較して輸液の死亡または病的状態の危険性を減少した方法に関し、この方法は、1時間あたり1〜1000cmの速度で代用血液または赤血球を、そして1分間あたり0.01〜10μmolの速度(例えば、1分間あたり0.1〜2μmolの速度)で無機亜硝酸塩を、同時注入する工程を包含する。
【0032】
患者は、第2の実施形態についての患者と同一である。
【0033】
無機亜硝酸塩は、第2の実施形態の無機亜硝酸塩と同一であり、そして水溶液の形態(例えば、生理食塩水中またはリン酸緩衝化生理食塩水中、1μM〜1mMの範囲の濃度)で使用される。
【0034】
代用血液または赤血球の輸液は、従来通りに実施され得る。
【0035】
亜硝酸塩溶液の輸液は、1分間あたりの上記のμmolの亜硝酸塩を提供する速度(従来の代用血液および赤血球輸液速度と一致する)で、容易に実施される。
【0036】
第3の実施形態において、第1の実施形態の反応が提供される。何故なら、注入した亜硝酸塩は、非常にPOの低い循環系の中でヘモグロビンに遭遇し、その結果、循環系の中に、脱酸素化ヘモグロビンが現れて鉄ニトロシル化ヘモグロビンが形成され、これは、次に呼吸系によってSNO−ヘモグロビンに変換され、このSNO−ヘモグロビンは、これに伴う血管拡張および抗血小板物質形成を提供するからである。
【0037】
ここで、本明細書中の本発明の第4の実施形態を参照すると、この実施形態は、後で使用するために一酸化窒素と混合されたかまたは無機亜硝酸塩前処理された後の、保存全血、保存代用血液、保存赤血球、保存血液ヘモグロビンまたはこれらの組み合わせ、および後の使用のための輸液用の組成物を提供する方法に関し、この方法は、一酸化窒素と混合されたかまたは無機亜硝酸塩前処理後の、全血、代用血液、赤血球、血液ヘモグロビンまたはこれらの2以上の組み合わせを含有する組成物を保存し、機能および全ての赤血球を維持する工程を包含する。この前処理は、第2の実施形態のインキュベーションに相当して呼ばれ、これは、無機亜硝酸塩を、全血、代用血液、赤血球、血液ヘモグロビンまたはこれらの2以上の組み合わせと共に、1:10〜1:1000の範囲の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンのモル比でインキュベートし、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含む組成物を形成する工程を包含する。インキュベーション条件および無機亜硝酸塩は、第2の実施形態に記載のインキュベーション条件および無機亜硝酸塩である。保存は、従来と同一条件下であり得、同一の保存薬を用い得る。現在、クエン酸−リン酸−デキストロース−アデニンと共に保存された全血または赤血球は、35日間保存され得、そして赤血球は、アデニン−生理食塩水保存溶液が添加された場合、42日間保存され得る。本明細書中で、本発明は、これらの保存期間を、少なくとも10%延長し得る。
【0038】
ここで、本明細書中の本発明の第5の実施形態を参照すると、この実施形態は、一酸化炭素治療を必要とする患者を処置する方法に関し、この方法は、この患者に、赤血球または血液ヘモグロビンベースの治療剤を投与する工程を包含し、この治療剤は、脱酸素化ヘモグロビンを含む赤血球または血液ヘモグロビンを無機亜硝酸塩と共に、1:10〜1:1000の範囲内の亜硝酸塩 対 脱酸素化ヘモグロビンのモル比でインキュベートすることによって得られ、その結果、この治療剤は、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含有する。インキュベーション条件および無機亜硝酸塩は、第2の実施形態に記載のインキュベーション条件および無機亜硝酸塩である。この処理は、一酸化窒素を赤血球成分のそれぞれに満たす。ここで留意すべきは、NOは、赤血球の酸素送達能力および膜機能を改善することが公知であることである。本明細書中本発明の第5の実施形態の投与は、例えば、虚血(例えば、心筋虚血)を処置するために使用され得る。
【0039】
本発明についての裏づけおよび要素は、「NO interaction with oxidized hemes in human hemoglobin:routes to SNO−hemoglobin formation with preferential reactivity within the β−subunits」と題された原稿において提供され、これは、米国仮特許出願第60/432,616号の一部であり、この出願の全体は、本明細書中で参考として援用される。この原稿は、無機亜硝酸塩が、一酸化炭素をヘムに固定し、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを形成するために使用され得、鉄ニトロシル化ヘモグロビンが、呼吸系によって酸素化されてSNO−ヘモグロビンを形成することにより、身体への送達の際の血管拡張作用を有することを示す。
【0040】
本明細書中で、本発明は、以下の背景実施例によって支持され、かつ、以下の作業実施例によって示される。
【実施例】
【0041】
(背景実施例1)
鉄ヘムと一酸化窒素との間の反応についてのモデルとして、ヒトメトヘモグロビンの還元性ニトロシル化を試験した。100mM HEPESまたは10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)中のメトヘモグロビン溶液は、ヒトメトヘモグロビンA(Apex Bioscience,NC)およびHEPESまたはリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)からGow,A.J.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96,9027(1999)に記載されるように調製した。還元性ニトロシル化反応を、亜硝酸ナトリウムがメタヘモグロビン溶液に0.05〜0.75までわずかに変化する[NO]/[ヘム]のモル比で添加することにより行った([NO]は、このメタヘモグロビン溶液中のこの添加されたNOの最初の濃度である)。溶液を、アリコートの添加後すぐにボルテックスすることにより混合した。このタンパク質濃度を、全ての実験において75μMより多くで保持し、二量体へのヘモグロビンの分離を避けかつ理想的な溶液を維持するために250μMより低く保持した。SNO−ヘモグロビンを、反応生成物であると決定した。
【0042】
(背景実施例2)
一酸化窒素(NO)または亜硝酸ナトリウムを、室温で15分間、約5mMの脱酸素化赤血球ヘム濃度で緩衝化生理食塩水中に濃縮脱酸素化赤血球と共に1:250(NOまたはNO/ヘモグロビン)のモル比でインキュベートした。
【0043】
この赤血球の脱酸素化を、アルゴンを用いて脱ガス化することにより実施した。
【0044】
脱酸素化赤血球を伴うNOまたはNOのインキュベーションから生じる生成物の直接の測定は、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含む生成物を示す。代用血液(Hct 30)および50ccの代用血液から構成される生じた生成物を、総1ユニット(200cc)の代用血液を4回に対して分けてブタへ輸液した。各注射の後、インビボでの肺胞−動脈勾配における変化が、30分間続き、そしてコントロール、NOインキュベーションおよびNOインキュベーションの4回の注射についての平均を、プロットし、そして結果を、図1に示す(各点においてn=4)。ネガティブの値は、ブタの酸素化における改善を反映する。図1に示すように、NOおよび亜硝酸塩処理された脱酸素化赤血球は、わずかに肺機能を損傷したコントロールの赤血球と比較した場合肺機能における改善を生じた(5分の点を参照)。一酸化窒素および亜硝酸塩についての10分の点についてコントロールと比較した(p<0.01)。
【0045】
(実施例I)
亜硝酸塩との反応を、オキシヘモグロビン溶液(ヘム中約4mM)と亜硝酸ナトリウムとを約100:1(ヘム:亜硝酸)のモル比で混合することにより行った。この溶液を、数分間〜数時間室温に静置させ、次いでアルゴンを噴霧することにより脱酸素化した。サンプルを、生成物の特徴付けのために脱酸素化の直前および直後に回収した。脱酸素化前後のこの生成物は、脱酸素化後の生成物が、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含む点で異なる。反応後の生成物の酸化を、過剰量のフェリシアン化カリウムを用いて約2mMの溶液中で実施した。その結果は、SNO−ヘモグロビンの生成であった。
【0046】
(実施例II)
亜硝酸ナトリウムを、濃縮脱酸素化赤血球と共に室温で、15分間インキュベートした。この生成物は、鉄ニトロシル化ヘモグロビンを含むことを示した。
【0047】
重篤な冠状動脈性疾患を有する67歳の男性は、自動車事故にあい、そのために輸液を必要とする。彼のヘマトクリットは、24である。彼は、2ユニットの血液を与えられ、そして彼の血圧は、10mmHgに上がる。この患者は、胸の痛みを経験する。さらなる輸液が、継続する失血のために促される。上の段落で記載されるように亜硝酸塩で前処理された赤血球を、血圧の増加を伴うことなく与えそして胸部の痛みを解消する。この亜硝酸塩で前処理された赤血球を、現在認められているよりも10%長く保存剤と供に貯蔵したとしても同じ結果を得た。
【0048】
(実施例III)
同一のシナリオを、実施例IIにおけるように示すが、リン酸緩衝化生理食塩水中の亜硝酸ナトリウム溶液の注入を、一分あたり1μMで開始した後、赤血球の輸液を副作用なく与える。
【0049】
(実施例IV)
アンギナを有し、かつヘマトクリット40を有する75歳男性は、100ccの亜硝酸塩前処理された赤血球(実施例IIに記載されるように前処理される)の注入を受け、この注入は、彼の血液の酸素運搬能力を変化させないが、それにもかかわらず、アンギナを解消しない。
(変更物)
変更物は、当業者に明白である。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲により規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【公開番号】特開2010−120971(P2010−120971A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39447(P2010−39447)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【分割の表示】特願2004−560325(P2004−560325)の分割
【原出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(507189666)デューク ユニバーシティ (25)
【出願人】(505220479)モンタナ ステイト ユニバーシティ−ボーズマン (2)
【Fターム(参考)】