説明

鉄分強化食品

固体カプセルの形態で鉄源生成物を含み、該カプセルがアルギン酸鉄を含んでなるコアと、アルギン酸カルシウムを含んでなる外層を含む鉄分強化食品が提供される。該カプセルは、水和及び乾燥食品の双方の強化に適しており、優れた充填能、並びに保存及び使用の標準的な局所的条件下で良好な安定性を有することを特徴とする。本発明の鉄分強化食品はヒトにおける鉄欠乏の発生を防止し、又は鉄欠乏を低減させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願とのクロスリファレンス)
この出願は、出典明示によりここに援用する2008年11月13日出願の米国仮出願第61/114261号、及び欧州特許出願第08166052.4号の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、鉄分強化食品と、ヒトにおける鉄欠乏の発生を防止するため又は鉄欠乏を低減させるためのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
鉄欠乏(鉄分不足)は、殆どの開発途上国において生じる最も頻繁な欠乏性疾患の一つであり、工業国における主要な欠乏性疾患でもある。ある種の食品における鉄分強化は鉄欠乏の発生を防止する一つの方法である。しかしながら、強化食品が鉄欠乏を低減するのに効果的であるためには、添加される鉄分が十分に生物学的に利用可能でなければならない。
【0004】
適切な鉄分強化剤は多くの要求を満たさなければならない。先ず、それはヒトの体に無害でなければならない。更に、それは中性又はやや酸性の環境下で水不溶性でなければならず、これが良好な貯蔵性を決定する。それは更に人体中において高い吸収性、つまり良好な生物学的利用能(これは、胃腸管中における良好な溶解性を意味する)を有していなければならない。それはまた良好な安定性を有し、化学的に定義でき、再生産可能な形で製造できなければならない。つまりそれは保証された一定で制御可能な性質を有していなければならない。
【0005】
鉄分の生物学的利用能は、その溶解度が依存するその化学的形態と、その吸収を促進するか又は阻害する食物成分の存在の関数である。生物学的利用能は感覚的変化に密接に関連している。水に溶けやすい鉄源、例えば硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、及びクエン酸第二鉄アンモニウムは比較的高い生物学的利用能を呈するが、それらは、食物中の他の成分と反応すると強化製品の変色と味の変化を生じるという不具合がある。フマル酸第一鉄、コハク酸第一鉄、及び鉄サッカラートは水に徐々に溶解するが、胃液のような希酸に直ぐに溶解する。それらは、脂肪酸化及び変色についてのその効果において. 硫酸第一鉄より優れているようであるが、その食物との相互作用は鉄分の吸収を低減しうる。ピロリン酸第二鉄、オルトリン酸第二鉄、及び元素鉄のような難溶性鉄源の貯蔵中の食物との相互作用の欠如は、それらを商業的観点から魅力的な強化剤にしており、多くの幼児用穀類は現在そのような形態の鉄分を含んでいる。しかしながら、これらの鉄源の生物学的利用能は常に低い。
【0006】
よって、一般的な商業的に使用される鉄化合物は水に溶解しすぎて技術的な問題を生じるか又は溶解が困難で人体における吸収性が低いようである。
【0007】
酸化からそれを保護し、その感覚刺激性効果を最小にするために不活性な化合物でカプセル化することによって強化のための安定な生物学的利用能の鉄源を提供するための幾つかの試みがなされている。しかし、水素化大豆油、モノ及びジグリセリド又はエチルセルロースでの幾つかの鉄塩のカプセル化は、鉄塩に対してある保護をもたらすが、ある種の食品の強化には適していないことが分かった(R.F. Hurrell等 "Iron fortification of infant cereals: a proposal for the use of ferrous fumarate or ferrous succinate", Am. J. Clin. Nutr. 1989, vol. 49, pp. 1274を参照)。
【0008】
欧州特許出願公開第1694312号は、アルギン酸ナトリウム層で被覆された一水和硫酸第一鉄粒子を開示している。該粒子を得るために、アルギン酸ナトリウム溶液が攪拌下で固形硫酸第一鉄粒子の表面に噴霧される。アルギネート溶液の微細層が粒子に付着せしめられ、非変性硫酸第一鉄コアを被覆するアルギン酸鉄膜の形成がなされる。水に接触した場合、粒子はゆっくりと溶解し、硫酸第一鉄コアを媒体中に放出する。従って、これらの粒子を、小麦粉や他の穀類のような乾燥食品に導入することができるが、それらはヨーグルト又はジュースのような水を含む食品を強化するのには適していない。
【0009】
また、キレート剤は第一鉄及び第二鉄塩の生物学的利用能を増大させる点にその効果を示している。鉄とEDTAのナトリウム塩の組合せは有望な鉄強化剤と考えられる。EDTAの鉄との結合は、胃酸環境において好まれるが、十二指腸のよりアルカリ性の媒質中では、鉄は他の金属と部分的に交換される。動物及びヒト研究に基づく幾つかの研究では、鉄が、吸収される前に腸管腔においてEDTA錯体から解離するので、高度に調節される経細胞DMT−1経路によって輸送されうることが提案されている。鉄及びEDTAの組合せは、フィチン酸又はポリフェノールのような鉄吸収の他のインヒビターの効果から鉄を保護することがまた報告されている。鉄強化剤としてのその潜在性は、開発途上国で実施された5つの強化治験で確認されている(L. Zhu等“Iron dissociates from the NaFeEDTA complex prior to or during intestinal absorption in rats”, J. Agric. Food Chem. 2006, Vol. 54, 7929-34)。幾つかの単鎖の有機酸、例えば酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、及びフマル酸は、CACO−2細胞を使用するインビトロアッセイにおいて40倍までの鉄化合物の生物学的利用能の増加を示している(S. Salovaara等, “Organic acids influence iron uptake in the human epithelial cell line Caco-2”, J. Agric. Food Chem. 2002, Vol. 50, p. 6233)。提案された作用機序はEDTAのものと類似している。キレート剤は鉄カチオン、Fe(II)又はFe(III)に結合し、塩基性pH又は鉄を捕捉し沈殿させる任意の他の化合物による沈殿がないようにする。ついで、鉄は腸細胞に拡散し得、そこで吸収されうる。
【0010】
食品を強化するための様々な鉄源が既に知られているが、ヒトにおける高い生物学的利用能と強化製品のその貯蔵中の良好な安定性を確保しながら、含水食品に用いることができ、良好な機械的強度を有する食品のための鉄強化剤に対する必要性が尚も存在する。
【発明の概要】
【0011】
本発明者等は、水や弱酸媒体中で可溶性ではないので、食品に添加されると、たとえ含水量が高くとも、得られた鉄分強化食品が変色を被ることがなく、腐ることもないという、改善された物理的性質を備えた生物学的に利用可能な鉄源生成物を見出した。同時に、新しい鉄源生成物は、良好な生物学的な利用能を付与するように(空腹時に1という低いものでありうる)胃のpHで十分に可溶性である。この鉄源生成物は、取り扱いが容易で、良好な機械的強度を備え、常に再生産可能である。
【0012】
よって、本発明の一態様によれば、固体カプセルの形態で鉄源生成物を含み、該カプセルがアルギン酸鉄を含んでなるコアと、アルギン酸カルシウムを含んでなる外層を含む鉄分強化食品が提供される。
本発明の他の態様は、ヒトにおける鉄欠乏の発生を防止し、又は鉄欠乏を低減させるための、上述の鉄分強化食品の使用である。
【発明を実施するための態様】
【0013】
「生物学的利用能」及び「生物が利用可能な」なる用語は、栄養素又は微量栄養素が体によって吸収され利用されうる度合いを意味する。本発明の目的に対して、本発明の鉄分強化食品に使用される固形カプセルの形態で鉄源生成物を調製するために使用される鉄塩は、良好な生物学的利用能を有していなければならず、これは腸管中での良好な溶解性を意味する。従って、ここで使用される「生物が利用可能な鉄塩」、「生物が利用可能な水溶性鉄塩」及び「水溶性鉄塩」なる用語は、水に溶けやすい任意の鉄塩、例えば硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、及びクエン酸第二鉄アンモニウム、並びに水に徐々に溶解するが希酸に直ぐに溶解する任意の鉄塩、例えばフマル酸第一鉄、コハク酸第一鉄、及び鉄サッカラートを意味する。
【0014】
水溶性アルギン酸塩、例えばアルギン酸ナトリウム、カリウム、マグネシウム、又はアンモニウムは、鎖に沿って非規則的でブロック状に配されたβ−D−マンヌロン酸(M)及びα−L−グルロン酸(G)残基の二つのタイプの単量体からなる海の褐藻類からの天然の直鎖状多糖類である。カルボン酸基を有する生体高分子は金属多価イオンと錯体を形成しうる。
【0015】
水溶性鉄塩が水溶性アルギン酸塩に接触することになると、Fe2+又はFe3+のような鉄カチオンとの反応によってアルギン酸塩のカルボン酸基の架橋及びゲル化が生じる。アルギン酸鉄を含むコアがカルシウム塩の水溶液に接触して配されると、(アルギン酸カルシウムを含む外層で被覆されたコアによって形成された)コアが、カルシウムカチオンとのアルギン酸塩の反応によって形成されることが見出されている。この外層は、水又は弱酸に可溶性ではなく、カプセルの機械的強度を増大させながら環境との鉄の接触を回避する。固形カプセルの形態でのこの鉄源生成物は含水食品を強化するために適している。
【0016】
一般的に言えば、固形カプセルの形態の上述の鉄源生成物で強化されるべき食品は、食物又は飲料、特に、遊離の鉄の存在下で酸化、異臭発生、又は変色に感受性である食物又は飲料である。特に、鉄源生成物は、含水食品、例えばヨーグルト、ミルク、ブロス、ソース、ジュース、及び他の飲料、並びに一般的に強化された食品、例えば粉状製品、小麦粉及び他の穀物類及びそれから調製される食品、例えばパン、パスタ及びケーキを強化するために使用できる。本発明に従って強化される適切な食品の更なる例は、肉エマルション、例えばソーセージである。
【0017】
コアを形成する場合、鉄塩の量が全アルギン酸塩単量体との反応に必要なものより多いならば、鉄塩は形成されるゲルに捕捉される。反対に、水溶性アルギン酸塩の量が利用可能な全ての多価カチオンとの反応に必要なものよりも多いならば、水溶性アルギン酸塩は得られるゲルの一部をまた形成する。従って、本発明の第一の態様の実施態様では、コアは少なくとも一種の生物が利用可能な鉄塩を更に含有する。本発明の同態様の他の実施態様では、コアは、少なくとも一種の水溶性アルギン酸塩、例えばアルギン酸ナトリウム、カリウム、マグネシウム、又はアンモニウムを更に含有する。好ましくは、水溶性アルギン酸塩はアルギン酸ナトリウムである。
【0018】
水溶性鉄塩は鉄の生物学的利用能を改善し、よって好ましい。よって、好ましくは、生物が利用可能な鉄塩は、水易溶性鉄塩、例えば硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、及びクエン酸第二鉄アンモニウム、又は水に徐々に溶解するが希酸に直ぐに溶解する鉄塩、例えばフマル酸第一鉄、コハク酸第一鉄、及び鉄サッカラートである。好ましくは、生物が利用可能な鉄塩は、硫酸第一鉄及び鉄サッカラートから選択される。より好ましくは、生物が利用可能な鉄塩は鉄サッカラートである。
【0019】
また、上述のように、キレート剤は第一鉄及び第二鉄塩の生物学的利用能を増大させる効果が示されている。
【0020】
従って、本発明の第一の態様の実施態様では、コアがキレート剤を更に含む。好ましくは、キレート剤は、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、及びシュウ酸、又はその塩、EDTA、及びサッカロースからなる群から選択される。より好ましくは、キレート剤はサッカロースである。本発明に係るアルギン酸カルシウムを含有する外層と共にアルギン酸鉄を含むコアを形成するための第一鉄又は第二鉄塩とキレート剤の組合せは、その胃腸管の外側の環境から隔離可能でありながら鉄の生物学的利用能を改善し、鉄を含む基質の劣化と強化に使用される鉄塩に付随する嫌な味を避ける。上述のように、本発明で使用される水溶性鉄塩には鉄サッカラートが含まれるが、厳密に言えば、それは水酸化第二鉄サッカロース錯体である。鉄塩としての鉄サッカラートの使用は、サッカロースの存在によるキレート剤の利点を含む。
【0021】
上述の鉄源生成物は、(i)少なくとも一種の生物が利用できる水溶性鉄塩と少なくとも一種の水溶性アルギン酸塩を接触させることによりアルギン酸鉄を含むコアを形成する工程と、(ii)0.025Mと溶液の飽和点以下の濃度の間の濃度のカルシウム塩水溶液と接触させる工程と、(iii)得られた固形カプセルを分離する工程を含む方法によって製造される。好ましくは、コアを形成するために使用される少なくとも一種の生物が利用できる鉄塩は鉄サッカラートである。また、好ましくは、コアを形成するために使用される少なくとも一種のアルギン酸塩はアルギン酸ナトリウムである。
【0022】
カプセルを得るために使用されるコアは、少なくとも一種の鉄塩の粒子の表面に少なくとも一種の水溶性アルギン酸塩を付着させることによって形成することができる。鉄塩粒子上にアルギン酸塩膜を付着させるのを可能にする任意の操作を用いることができる。好ましくは、それは、固形物を撹拌するための一般的な装置での攪拌下に維持した鉄塩粒子上に噴霧ノズルを通してアルギン酸塩溶液を噴霧することによって実施される。その温度が制御され、粒子が粒子床を浸透する空気流によって上下に移動し続ける流動床の補助撹拌翼が設けられても又は設けられていなくともよい、傾斜板又は回転ドラムのような装置がこの操作に示される。
【0023】
鉄源生成物は、好ましくは、(i)少なくとも一種の水溶性アルギン酸塩の水溶液中に少なくとも一種の生物が利用できる鉄塩を溶解又は懸濁させてゲルを得ることによってコアを形成し、(ii)0.025Mと溶液の飽和点以下の濃度の間の濃度のカルシウム塩水溶液上に、激しい攪拌下で、得られたゲルをゆっくりと添加し、(iii)得られた固形カプセルを濾過し、水で洗浄することによって調製される。
【0024】
アルギン酸鉄を含む内部コアが、少なくとも一種のアルギン酸塩の水溶液中に少なくとも一種の鉄塩を溶解又は懸濁させることによって形成される場合、鉄カチオンによるアルギン酸塩の架橋がコア全体に製造され、これがコア自体を水に溶解し難くく高い機械強度を有するものとする。コアを形成するためには、0.6%(w/w)を越えるアルギン酸ナトリウムの濃度が必要とされる(又は他の水溶性アルギン酸塩が使用される場合は等価な濃度)。よって、好ましくは、少なくとも一種のアルギン酸塩はアルギン酸ナトリウムであり、水溶液中のその濃度は少なくとも0.6%(w/w)である。より低い濃度は粘性溶液を生じるが、固形カプセルの形成には至らない。使用されるアルギン酸塩の濃度の上限は水中におけるその溶解度と得られるアルギン酸塩溶液の粘度によって固定される。
【0025】
コアの製造に使用される鉄塩の濃度は随意に選択することができる。鉄の濃度が低いと鉄分に乏しいカプセルが生じる一方、高い濃度は鉄分の充填量の多いカプセルが得られる。
使用される鉄塩の濃度の上限は水中におけるその溶解度によって固定される。十分に満足できる結果は、1Mまでの濃度範囲で、第一鉄及び第二鉄双方の塩を使用して達成された。アルギン酸塩水溶液との鉄塩の混合は、得られる混合物が非常に粘性になるのを避け又は沈殿物の形成を避けるために激しい攪拌下で実施される。
【0026】
続いて、鉄及びアルギン酸塩のゲルの形態の混合物が、カルシウム塩を含む溶液にゆっくりと添加されて、コアにアルギン酸カルシウムを含む外部層を付与すると、特に良好な機械的強度のカプセルが得られる。0.025Mを越えるカルシウムの最小濃度がカプセルの形成に必要とされる。最大濃度は、それが溶液の飽和点以下の濃度である限り、重要ではない。溶液の飽和点、つまり最大濃度の点は、液体の温度並びに関連する物質の化学的性質に依存することは当業者によって容易に理解されよう。
【0027】
調製中のカルシウムの濃度はカプセル中のカルシウムの最終濃度を調節するために使用することができる。カルシウム塩溶液に鉄/アルギン酸塩カプセルを添加しながら、粉砕装置を使用してカプセルのサイズを低減させることができる。以下の実施例では、研究室規模のホモジナイザーを使用して固形カプセルを砂のようなペーストにした。最後に、得られたカプセルを濾過し、水で十分に洗浄してあらゆる遊離の金属カチオンを除去した。
【0028】
上述の鉄源生成物は、良好な混合を可能にするが、強化される食品に添加された場合にその分離を生ぜず、また最終の強化食品に少なくとも感覚刺激性の影響を有するのに十分に小さい粒子径を有していなければならない。よって、本発明のカプセルの好ましい粒子径は強化される食品に依存するであろう。
【0029】
含水食品を強化するために使用される鉄源生成物の調製方法は、使用される粉砕装置により、得られるカプセルの粒径を制御することを可能にする(粉砕装置が微細になればなほど、カプセルは微細になる)。製造プロセスにおいては、例えば0.1−1mmのオーダーのサイズを有する凝集物のようなカプセルの巨視的な凝集物が形成されうるが、より小さい物もまた少ない数のカプセルの凝集物、又は分離したカプセルに対応して得られる。よって、付加的に、カプセルの粒径分類は、粗いものを除去するために、仕上げ品のスクリーニングを通じて実施することができる。カプセルの製造方法により、僅かに可視できるカプセルを含む非常に微細な粉末を生じせしめることが可能になる。好ましくは、カプセル又は幾らかのカプセルの小さな凝集物の形態でありうる鉄源生成物の平均サイズは、5から20μmの範囲からなるが、但し、更に小さいカプセルを形成することもできる。
【0030】
含水食品を強化するために使用される鉄源生成物を形成するカプセルは、優れた充填能によって特徴付けられる。更に、それらは標準的な貯蔵及び使用条件下で良好な安定性を有している。よって、それらは強化食品の外観、味覚及び品質劣化防止に僅かに影響するだけである。更に、それらは人体に無害であることが証明されている。つまり、経口的に投与されたときに毒性はなく、それらが含む遊離の鉄塩のものよりも更に少ない細胞毒性である。従って、これらのカプセルは、食物基質中で長期間安定であり、それらが胃腸管に入るときに水溶性鉄成分を放出することができるので、食品強化によく適している。
【0031】
カプセル中に存在する鉄及びカルシウムの量は、先ずカプセルを溶解させ、溶液を原子分光定量法に提示することによって得ることができる。カプセル中の高レベルの鉄により、たとえ少量の強化生成物を添加することによってさえ、鉄の所望の吸収を確実にする食品の強化が可能になる。
【0032】
食品を強化するために使用される鉄源生成物は、乾燥食品、例えば小麦粉及び他の穀物類及びそれから調製される食品、例えばパン、パスタ及びケーキと、含水食品、例えばヨーグルト、ミルク、ブロス、ソース、ジュース、及び他の飲料の双方に鉄強化剤として添加することができる。
【0033】
カプセルの水中又は弱酸媒質中における非溶解性と共に特に良好な機械的強度は、鉄源生成物を、ヨーグルトの強化の場合のように、攻撃的な製造プロセス及び/又は食品自体の攻撃的な条件、例えば高含水量及び酸性環境にある食品を強化するのに特に適したものにする。
【0034】
食物担体へのカプセルの導入可能性を、ヨーグルトを使用して試験した。ヨーグルトは、鉄欠乏になる傾向が強い集団群の殆どによってよく受け入れられる。従って、ヨーグルトを強化することは鉄欠乏性貧血と闘う優れた方法であろう。カプセルがヨーグルトに見出しうる悪条件は、可溶性鉄源の存在から環境を保護するカプセルの能力の指標となる。高濃度の鉄で強化された高脂肪食品における問題の一つは脂肪の酸化と悪臭の味の発生である。これは食物の消費者の受け入れを低減させるばかりでなく、その栄養価値を減少させる。
【0035】
以下の実施例に開示されるように、強化ヨーグルトを、本発明のカプセルの形態の鉄源生成物を使用して調製した。鉄カプセルをミルクに添加し、ついで、低温殺菌、ホモジナイズ、及び酵素の導入による発酵を実施した。実施されたアッセイの結果は、最終製品が可視的に(関連した色の変化も外観の変化もない)及び感覚刺激的に(悪臭も金属味も気づかない)非強化ヨーグルトに匹敵していたので、カプセルがヨーグルトの強化に見出される(製造プロセス及び担体自体の性質双方における)困難を克服することができたことを示している。また、本発明の鉄源生成物を含む得られた強化ヨーグルトはその貯蔵中に良好な安定性を有していることが分かった。従って、よりマイルドな担体が容易な課題を呈する。
【0036】
従って、好ましい実施態様では、本発明に係る鉄分強化食品はヨーグルトである。
【0037】
他の好ましい実施態様では、本発明に係る鉄分強化食品はミルクである。
【0038】
他の好ましい実施態様では、本発明に係る鉄分強化食品は飲料である。
【0039】
他の好ましい実施態様では、本発明に係る鉄分強化食品は肉エマルションである。
【0040】
更に好ましい実施態様では、本発明に係る鉄分強化食品はソーセージである。
【0041】
更に、本発明は上述した特定及び好ましい群のあらゆる可能な組み合わせを網羅する。
与えられた範囲、例えば温度、時間、サイズ等は、別の定義を述べない限り、近似値であると考えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1はブランク群(B)及びカプセル摂取群(C)における動物の体重グラムの変化を示す。x軸は日数での時間、y軸はグラムでの重さを表す。
【図2】図2はブランク群(B)及びカプセル摂取群(C)に対する一日及びケージ当たりの食物摂取グラムの変化を示す。
【図3】図3はブランク群(B)及びカプセル摂取群(C)一日及びケージ当たりの水摂取グラムの変化を示す。
【図4】図4は、4種の異なった貯蔵条件における鉄の放出割合(%Fe)を示し、ここで、RT=室温貯蔵、37C=37℃で貯蔵、w=水溶液中での保存、d=溶媒なしの保存である。x軸は月数での時間を表す。
【図5】図5は、上述の4種の異なった貯蔵条件におけるカルシウムの放出割合(%Ca)を示す。x軸は月数での時間を表す。
【図6】図6は、上述の4種の異なった貯蔵条件における半年後及び一ヶ月後の媒質中に放出された金属カチオンの割合(%Fe/%Ca)を示す。
【図7】図7は、(A)アルギン酸鉄を含む内部コアと、アルギン酸カルシウムを含む外層(スラッシュ領域で表される)を有するカプセル、及び(B)双方の金属がアルギン酸マトリックスに均一に分散した粒子の表面に近い領域からの金属の放出を模式的に示す。
【図8】図8は、生物学的利用能のインビボ研究で動物を試験した授乳、貧血誘導及び貧血回復の期間を示す。
【図9】図9は貧血回復期間中の体重増加を示す。日数での時間を水平軸に示し、グラムでの重さを垂直軸に示す。群:M=雄、−=ネガティブコントロール、+=ポジティブコントロール、c=カプセル。
【0043】
本発明の更なる目的、効果及び新規な特徴は、部分的には明細書に記載され、部分的には明細書を検討することにより当業者に明らかになるか又は本発明の実施により知得されうる。次の実施例及び図面は例証のために提供されており、本発明の限定を意図しているものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1−Fe/Caカプセル調製方法
100mLの水中の1.5gのアルギン酸ナトリウムの溶液に7.98gの鉄サッカラート(およそ35%のFe)を溶解させた。抽出漏斗を使用して、アルギン酸ナトリウム/鉄サッカラート混合物を300mLの0.5MのCaCl水溶液に滴下して加えた。滴下して添加する間、形成されたカプセル懸濁液を、実験室用ホモジナイザー(Diax 900, Heidolph Instruments GmbH)を使用して撹拌した。得られた固形カプセルを真空下での濾過によって分離した。カプセルを蒸留水に三回懸濁させて可溶性の塩を除去し、真空下で再び濾過した。30gの湿ったカプセル(カプセル0)を得た。
【0045】
鉄サッカラートの代わりに鉄塩として塩化第二鉄、又は硫酸第一鉄7水和物の何れかを使用して、同じ方法を実施した。述べた3種の異なった鉄塩とまた異なった濃度の3種の主成分(つまり、鉄塩、アルギン酸塩、及びカルシウム塩)の何れか一つを使用して次のカプセルを成功裏に調製した:
カプセル1:鉄サッカラート(35%の鉄)1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル2:鉄サッカラート(35%の鉄)1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 3.0%
カプセル3:鉄サッカラート(35%の鉄)1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル4:鉄サッカラート(35%の鉄)1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 3.0%
カプセル5:FeSO・7HO 1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル6:FeSO・7HO 1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 3.0%
カプセル7:FeSO・7HO 1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル8:FeSO・7HO 1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 3.0%
カプセル9:FeSO・7HO 0.1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル10:FeSO・7HO 0.1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 3.0%
カプセル11:FeSO・7HO 0.1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル12:FeSO・7HO 0.1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 3.0%
カプセル13:FeCl0.1M,CaCl0.1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
カプセル14:FeCl0.1M,CaCl1M,アルギン酸ナトリウム 1.5%
【0046】
得られたカプセルは用いられた鉄塩に応じた色を有していた。カプセルからのカチオンの低い放出によりそれらは無味となる水に懸濁可能となる。
【0047】
実施例2 鉄源生成物の粒径
実施例1において調製されたカプセル(カプセル1−14)のサイズを推定するために、長さを測定するように較正された光学顕微鏡を使用した、全ての場合、カプセルの巨視的凝集物を裸眼でさえ明確に可視でき、殆どが顕微鏡を使用してはっきりと見えた。これらの凝集物は0.1−1mmのオーダーのサイズを有していたが、おそらくは少ない数又はカプセルの凝集物又は分離したカプセルのような更に小さいものも観察できた。
【0048】
カプセル試料の小さいかろうじて可視できる部分を標識した顕微鏡スライドに配した。一滴の水をカプセルに加えた。懸濁液を、金属ナイフの助けをかりて穏やかに撹拌し、カバーガラスを各顕微鏡スライド上に配した。各試料を、20×の対物レンズと10×の接眼レンズを備えた光学顕微鏡(Nikon Eclipse E800, Nikon Corp., Tokio, Japan)を使用して観察した。各試料に対して、個々のカプセル化又はカプセルの最小のクラスターが観察できた領域を選択した。PC操作画像解析器(analySIS3.0, SoftImaging System Corp., Lakewood Co.)に連結したデジタルカメラ(Soft Imaging Systems, Colorview II)を使用してこの領域の写真を撮った。目盛り付きのスケールをサイズ参照のために各画像に重ね合わせた。
【0049】
記録された画像は、カプセルとより小さい凝集物の幾つかのサイズが通常は20μmに近く、ある場合には5μm未満に落ちることを示していた。より大きなカプセルはまたより粗い粉砕装置を使用して得ることができたが、通常はより微細なカプセルが食品強化には好ましい。
【0050】
実施例3 カプセルの特徴付け
0.3gの湿ったカプセルを濃硝酸中で電子レンジにおいて温浸させた。鉄及びカルシウム濃度を、ICP−OES(Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectroscopy)を使用して定量した。
カプセル中の鉄及びカルシウムの量は、分析したカプセルにおけるバッチにかろうじて依存性であった。カプセルの二つのバッチを実施例1(カプセル0)に従って調製した。二つのバッチにおける重さの割合(±標準偏差)として表される鉄及びカルシウムの濃度を以下の表1に示す。

双方のバッチにおいて、非常に類似した結果が達成されたばかりでなく、カプセルの優れた充填能もまた観察された。
【0051】
実施例4 カプセルの細胞毒性
鉄塩を含む本発明のカプセルに毒性がないことをチェックするためにインビトロ試験を使用した。試験は、HELA細胞株由来の細胞を、細胞毒性を試験する物質と共にインキュベートすることを含むが、この試験は毒性をチェックする方法として一般的に使用されている。試験された化合物は、カプセル、並びにその主成分:カプセルに使用されている鉄塩 (鉄サッカラート)、及びアルギン酸ナトリウムを別個に含んでいた。HELA増殖培地だけを含んでいたネガティブコントロールをまた調製し、参照増殖として使用した。
【0052】
試験培地は滅菌条件下で調製した。実施例1におけるようにして調製されたカプセル(カプセル0; 実施例3のバッチ2)をオートクレーブ(20分,110℃)で滅菌した。滅菌材料を使用して、72mgのカプセル(カプセル培地)、17mgの鉄サッカラート(鉄塩培地)及び18mgのアルギン酸ナトリウム(アルギン酸塩培地)をそれぞれ50mLのHELA増殖培地に溶解させた。カプセルは不溶性であり懸濁液のままであった。試験培地の各々の1:1、1:10及び1:100希釈物を、次の量のカプセル、鉄塩又はアルギン酸塩培地を新鮮なHELA増殖培地で希釈することにより調製した:
1:1の20μL+0μL新鮮HELA培地
1:10の2μL+18μL新鮮HELA培地
1:100の0.2μL+19.8μL新鮮HELA培地
【0053】
1:1のカプセル及び鉄塩溶液は殆ど同じ濃度の鉄(それぞれ、0.285mgの鉄/ml及び0.297mgの鉄/ml)を有していた。同じものがその1:10及び1:100希釈物に対して有効である。
【0054】
3500のHeLa細胞を二つの96ウェルプレートの36ウェルで培養した:9がコントロールウェルで27が3種の生成物の3通りの濃度の三組であった。100μLまで培地を各ウェルに添加した。細胞を37℃で24時間インキュベートした。20μLの各試験培地及び80μLの新鮮培地を加えた。プレートの一つを24時間インキュベートし、他のものを72時間インキュベートした。EZ4U非放射性細胞増殖及び細胞毒性アッセイ(Biomedica Medizinproducte GmbH)を使用して、24時間及び72時間のインキュベーション後に細胞の生死判別を測定した。
【0055】
結果は、コントロールに対する増殖の割合、つまり生存率パーセントとして表され、これは、試験溶液(カプセル、鉄サッカラート又はアルギン酸ナトリウム)の何れかにおける生存細胞の数を、ネガティブコントロール中の生存細胞の数で割って計算され、パーセントとして表される。以下の表2に示した結果は、カプセル化された鉄の細胞毒性が遊離の鉄のものよりも小さいことを明らかにしている。鉄サッカラートが安全な食物サプリメントであることを考慮すると、カプセル化形態でもそうである。アルギン酸ナトリウムに対しても毒性は観察されなかった。

【0056】
実施例5 カプセルの急性毒性
ヒトにおいて予想されるものよりも100倍多い用量でラットにおいて毒性がないかを評価するためにインビボ試験を使用した。ヒトにおける参照用量を70kgのヒトに対してRDI(推奨された毎日の摂取量)の三分の二とした(0.14mgFe/kg体重)。従って、14mgFe/kg体重の用量をラットにおけるこの急性毒性試験で使用した。
【0057】
この試験で使用される鉄カプセルは実施例1(カプセル0;実施例3のバッチ2)におけるようにして製造した。カプセルは生存動物によって消化されることを意味するので、病原性微生物によるカプセルの汚染を避けるために、それらを滅菌条件で製造した。
【0058】
使用される動物は以下に記載の通りである:
− 種及び系統:ラット,スプラーグドーリー(SD),Crl:CD(Charles River Laboratories, Franceから提供)
− 動物の数とタイプ:12匹の雌の未経産及び非妊娠ラット。
− 年齢(処置時):2週齢。
− 体重(処置時):172−193g。
− 組み入れ基準:研究の開始時の平均体重の±20%。
− 群:動物は群中の体重の均一な分布に基づいて2つの群(コントロール及び試験)に分配した。
【0059】
研究のスケジュールは次の通りであった:
− −5日目:ラットが施設に入る。検疫室での検疫の開始。
− −3日目:検疫の終了。順化期間が確定室で開始。
− 0日目:ブランク又は試験溶液の投与。試験の開始。
− 14日目:試験の終了。ペントバルビタールを使用する安楽死及び死体解剖。
【0060】
ラットは検疫室で2日を費やし、更に確定室で順化のために3日を費やした。標準的な飼育(stabulation)条件は、20−24℃、30−70%相対湿度(RH)及び1時間当たり15を越える空気交換であった。温度と湿度は絶えずモニターした。12時間の蛍光光と12時間の暗所の光サイクルを適用した。動物(ケージ当たり2匹)に自由に餌を与え、水を供給した(濾過しUV光を照射した脱灰水道水)。
【0061】
カプセル及びブランクの投与、及び実施された観察は以下に記載する:
投与された体積:2ml/kg体重を一回投与した(研究の0日目)。コントロール群には輸送媒体(蒸留水)のみが投与され、試験群には87mg/mlのカプセル懸濁液(14mg/kg体重の鉄)が投与された。
投与間隔:最初の動物の投与開始と最後のものの終わりの間に経過した時間は45分であった。
死亡率及び罹患率:双方を0日目、投与後5、15、30、90分、2、4、6及び8時間まで毎日、及び14日まで毎日チェックした。
体重:3日以降毎日記録した。0日目に投与前に動物の体重を測定した。
食物及び水摂取:3日目に開始し、週三回(月曜、水曜及び金曜)記録した。
臨床的徴候:投与後5、15、30、90分、2、4、6及び8時間まで、及び更に13日間毎日チェックした。
【0062】
この研究で使用された手順の全ては次の規制に基づき、厳密に従う:ヒトでの使用のための医薬製品に関連した2001/83/ECを修正する2003年6月25日の欧州委員会指令2003/63/EC。手順及び飼育設備は実験に使用される動物の保護のための要件に厳密に一致している:
・欧州委員会指令2003/63/EC
・欧州指令89/609/EEC
・スペインReal Decreto 1201/2005
・FELASAガイド
・OECDドキュメントENV/JM/MONO(2000)7
【0063】
上述のパラメータを各ラットに対してチェックし、ブランク及び補充群を、(適用される場合には)アルファ<0.05でのスチューデントt検定を使用して比較した。自然発症の致死率は何れの動物にも観察されなかった。屠殺の必要性を示す有意な臨床的サインは14日の観察期間中、何れの動物においても観察されなかった。補充群及び非補充群の間で、体重(平均値が6匹の動物での結果から得られている以下の表3を参照;図1)又は水及び食物摂取(平均値が3群の動物(3つのケージ)の結果から得られている以下の表4を参照;それぞれ図2及び図3)の何れについても有意な差は観察されなかった。括弧内の値は標準偏差を示す。巨視的な死後の観察は補充群と非補充群の間で同様であった。



【0064】
上述の結果から、致死率の欠如又は任意の関連臨床的徴候のため、試験された生成物は急性毒性を生じさせず、14mg/kg体重の等価な鉄用量で8週齢の雌のスプラーグドーリーに経口的に投与されたとき毒性ではないと結論付けることができる。
【0065】
実施例6 カプセルの安定性
貯蔵中におけるその充填物の放出を避けるカプセルの能力を、カプセルが補充される異なった培地に見出すことができるものに近い異なった条件で試験した。カプセルを4つの群に分け、各群を異なった条件にした:
1.室温(RT)、水溶液で貯蔵
2.室温、固形カプセルで貯蔵
3.37℃、水溶液で貯蔵
4.37℃、固形カプセルで貯蔵
【0066】
含水量に関する二つの異なった条件、つまり液体食品又は高含水量の食品、及び乾燥食品又は低含水量の食品の、カプセルがおそらく直面しそうな二つの極端な環境をシミュレートするために選択した。食品又は食品サプリメントは通常は室温又はそれ以下で保存され、温度が高くなればなるほど、環境がより攻撃的になるので、実験は室温で行った。より高い温度もまた低い温度でのより長い時間を推定し、カプセルが遭遇する可能性が高いものよりも厳しい条件におけるカプセルの作用をシミュレートするために選択した。
【0067】
使用した鉄カプセルは実施例1(カプセル0;実施例3のバッチ2)におけるようにして製造した。実験に使用したプラスチック又はガラス材料からの任意の鉄微量分は、濃塩酸又は硝酸の10&(v/v)溶液中にそれを一晩沈めておき、大量のミリQ水で5−6回すすぐことにより除去した。二つの試料及びブランクを、約120mgのカプセルを量り(ブランクを除く)、15mLの蒸留水を加える(「固形カプセル」実験を除く)ことによって滅菌条件で各分析に対して調製した。各試料は0、0.5又は1ヶ月の間、室温又は37℃に密封して保持した。0、0.5又は1ヶ月後、15mLの蒸留水を「固形カプセル」試料に加えた。ついで、分析した全ての試料を濾過して固形物を除去し、放出された鉄及びカルシウムを、ICP−AOSを使用して上清において定量した。
【0068】
カプセルからの鉄及びカルシウムの放出を、カプセルの安定性の指標として使用した。放出される鉄分が少ないと、カプセル内に充填物を維持し、環境が鉄によって変性されるのと鉄が環境によって捕捉されるのを共に防ぐカプセルの能力が良好である。4通りの異なった貯蔵条件における鉄の放出(二つの試料の平均値)を以下の表6に示す(図4もまた参照のこと)。括弧内の値は標準偏差を示す。
【0069】

【0070】
上に示されたカプセルからの鉄充填物の放出の値から、カプセルの安定性が優れていることが分かる。最も厳しい条件では、わずか1.5%未満のカプセル化鉄が放出されるだけである。異なった条件における放出速度を比較することにより、水の存在と貯蔵温度が如何にカプセルの安定性に影響を及ぼすかが分かる。4つの群における傾向はかなりはっきりしている。温度の上昇(おおよそ20−25℃の室温の代わりに37℃)は、カプセルと接触する水が多くなるので、放出速度を増加させる。過去の結果から、カプセルに水を加えるか又は高い水活性を有する環境にそれらを維持する効果は、室温から37℃までの温度の上昇よりも鉄の放出速度に対して強い効果を有していることがまた分かる。水溶液中及び37℃にカプセルを維持して達成される良好な放出速度は、温度がより現実的なものまで低下されたときには更に改善される。室温において、最大の放出速度は最初の月の後にわずか0.5410%±0.0050である。カプセルの性能は、それらが低水活性環境下で室温に維持されるならば、優れたものに近くなる:鉄放出が最初の二週間では検出されず(鉄放出は0.017%以下であった)、充填物のわずか0.037%±0.011だけが一ヶ月の貯蔵後に環境中に失われた。
【0071】
以下の表7(また図5を参照)に見られるように、放出されるカルシウムの量については結果は些か異なっている。括弧内の値は標準偏差を示す。
【0072】

【0073】
環境中に放出されるカルシウムの画分は、鉄のものの10倍より多く、金属を内部に維持するカプセルの能力はカルシウムに対してよりも鉄に対して更に良好であることを示している。カルシウムの放出は、最もおそらくはカプセルが時間と共に劣化するが、カルシウムが鉄よりもよりアクセス可能であるので、カルシウムが最初に環境中に放出されることを示している。カプセルが鉄だけを使用して調製されたならば、環境中に放出されるのは鉄であってカルシウムではない。
【0074】
実施例7 カプセルの構造
二つの異なった金属カチオン、鉄及びカルシウムを使用するカプセルの調製は、単独のアルギン酸塩ポリマーによってもたらされるものよりも余分な保護層をカプセルに提供するように選択された。カプセルの調製中に金属カチオンが添加される順はまたアルギン酸鉄を含有する(つまり鉄に富む)内部コアと、アルギン酸カルシウムを含む(つまり、カルシウムに富む)外層の形成に好都合なように特に選択される。これにより、カプセルがその貯蔵又は取扱い中に摩滅したら、カルシウムに富む領域が回りの媒質に放出され、アルギン酸鉄を含むコアからの鉄の放出を遅延させる。
【0075】
カプセル安定性研究において得られたデータから分かるように、試験された全ての条件において、放出されるカルシウムの画分は鉄の画分よりも更に大きい(表6及び7及び図6を参照)。この事実は、アルギン酸鉄を含有する内部コアと、アルギン酸カルシウムを含む外層を有する提案されたカプセル構造と完全に一致している。カプセルからの金属の放出は、その成分の化学的可溶化又はカプセルの物理的な摩耗によるものである。双方の場合、最初に放出されるのはカプセルの表面に近い領域である。図7(A)に示されるように、カプセルはカルシウムよりも鉄に富むので(7.93%Fe対1.23%Ca)、カルシウムの殆どはカプセルの表面の近くに位置していなければならず、鉄の殆どはそれから離れて位置していなければならない。図7(B)に示されるように、カプセル中の双方の金属の分布が完全に均一であるならば、カプセルのものに非常に近いか又は等しい放出鉄/カルシウム比を有し、1に近い放出Fe%/放出Ca%を有することが期待される。観察される比は、このモデルによって予測される比よりも23倍以上小さい。よって、鉄に富む内部領域とカルシウムに富む外側シェルを有するカプセルの層構造を実証する。
【0076】
実施例8 生物学的利用能−溶解度試験
Feの吸収は腸管内で起こる。胃のpHは、それが保持する食物の量に応じて日を通じて変化する。総括すると、それはむしろ酸性である。空の胃では、pHは1と低く、十分な食事後に5近くまで上昇する。
【0077】
ヒトに対する完全な生物学的利用能試験は非常に複雑で時間を要するので、本発明に係る鉄源生成物の生物学的利用能は、人工の胃環境中の溶解度を参照として使用して最初に評価した。
【0078】
鉄カプセルの生物学的利用能は充填物を放出するその能力に依存する。カプセルが安定でその内容物を放出させることなく腸管に耐えるならば、カプセルが腸に吸収されるには大きすぎるので、鉄の生物学的利用能はゼロに近い。一方、カプセルが胃腸管を通過する間に不安定化されるならば、充填物は、腸に吸収される可溶性鉄塩として放出され、カプセル化された鉄に対して高い生物学的利用能をもたらす。酸消化中における充填物放出を推定するために実施されたインビトロ実験は、胃のpHに近いpH=2で塩酸によって消化された後にカプセルからの鉄の放出を同定することを目的とする。
【0079】
10mLのエッペンドルフ管において、実施例1におけるようにして調製された10mgの鉄サッカラートカプセル(カプセル1)を秤量し、ついで、9mLの水を加えた。エッペンドルフ管を手で激しく撹拌して、カプセルの再懸濁化を容易にした。カプセルの殆どは容易に再懸濁化したが、幾らかのカプセルの大きな凝集物は管の底に残っていた。一滴の懸濁液を観察のために顕微鏡スライドに配した。カプセル、並びに幾らかの大きな凝集物は100×の倍率を使用して可視できた(Olympus CH-2, 10×接眼、10×対物)。エッペンドルフ管に、1mLの水中0.1MのHClを加え、それを激しく撹拌した。酸懸濁物の第二滴を顕微鏡スライドにまた配し、先のものと比較した。二つの液滴間に大きな差は観察されなかった。酸消化の30分後、一滴のカプセルを顕微鏡スライド上に配した。顕微鏡で観察する前に、一滴の1MのNaOHを最初の液滴と接触させて配し、混合物を顕微鏡下で観察した。NaOHがカプセル懸濁液に拡散したので、カプセルの溶解は殆ど瞬時であった。
【0080】
新鮮なカプセルの小さい試料を清潔な顕微鏡スライド上に配した。1MのNaOH滴をカプセルの上部に配した。カプセルの構造に変化は観察できず、それらが観察された時間(液滴が蒸発して捕捉されたカプセルと共にNaOH沈殿物を残すまで)カプセルは安定なままであった。
【0081】
放出実験は2つの相からなる。第一相では、カプセルをおよそpH2の酸性媒質中に懸濁させる。このpHは胃に見出されるpHに近い。100×の倍率で観察された二つの顕微鏡写真によって明らかにされているように、そのような条件下では、カプセルの構造に可視できる変化は観察できなかった。蒸留水又は0.01MのHCl中にカプセルを懸濁させたときのこの変化の欠如は、これらの溶液中に予想される化学種を考慮すると、驚くべきことではない。蒸留水中では、カプセルは安定しており、アルギン酸鉄及びアルギン酸カルシウムの沈殿物を形成する。アルギン酸塩との鉄及びカルシウムの相互作用は、アルギン酸塩ポリマー中のカルボキシレート基(−COO)の存在のために強い。アルギン酸のpKa(pKa>4)以下の懸濁液を酸性化すると、カルボキシレート基(−COO)をカルボキシル基(−COOH)に転化させ、これがカチオンとの更に弱い相互作用を有している。これは、カプセルの充填物の放出を生じる重要な工程である。アルギン酸塩の非プロトン化形態(−COO)は水に比較的可溶性であるが、プロトン化形態は不溶性である。これは、次の反応スキームに示されるように、化学的に異なっても、ポリマーマトリックスが不溶性で残るので、可視化できる変化の欠如を説明する:

【0082】
アルギン酸塩をアルギン酸に転化させた後、塩基性媒質にアルギン酸を溶解させることによって、金属の放出が、間接的に測定される。カチオンが放出された場合、残るものは、可溶性の鉄及び塩化カルシウム及び不溶性のアルギン酸である。媒質を例えば1MのNaOHで塩基性化すると、アルギン酸沈殿物を溶解する。この迅速な溶解は、アルギン酸がアルギン酸ナトリウムに転化して戻ることによって説明される。鉄とカルシウムは余りに低い濃度で存在するので、アルギン酸塩の形態では可溶性であるアルギン酸ナトリウムと沈殿物を形成できない。
【0083】
他方、カチオンがアルギン酸塩マトリックスに尚も結合している場合、塩基性化はアルギン酸をアルギン酸塩に転化させ、これは鉄及びカルシウムに結合したときに不溶性である。よって、未消化のカプセルで実施されたカプセルの塩基性化は、カプセル中に存在するカルボキシル基は既にカルボキシレート(−COO)の形態であり、双方のカチオン、つまり鉄及びカルシウムと強く相互作用するので、それらを未変化のまま残すであろう。1MのNaOHに懸濁された未消化のカプセルの小さい画分をまた顕微鏡下で写真を撮ったが、画像は経時的に変化しないままであり、これが、予想されるように、未消化で1MのNaOH中に維持される場合、カプセルが安定であることを明らかにしている。
【0084】
この実験を使用して観察される金属の間接的な放出は、胃に入った後、酸性pHが不溶性カプセルを不溶性アルギン酸及び可溶性カルシウム及び鉄塩に転化させることを明らかにしている。可溶性鉄塩は高い生物学的利用能を有しているので、これらのカプセルの予想される生物学的利用能はまた高い。従って、これらのカプセルは、それらが食物マトリックス中で長い期間、安定しており、それらが胃腸管に入るときに金属を放出することができるので、食物強化によく適している。
【0085】
実施例9 生物学的利用能−インビボ試験
この生物学的利用能研究は、マイクロカプセル化した鉄の生物学的利用能を硫酸第一鉄のものと比較することを目的とする。硫酸第一鉄は、それが標準的な鉄の生物学的利用能の研究に一般的に使用されているばかりでなく、高い生物学的利用能を有しているので、ポジティブコントロールとして選択した。
【0086】
3種の異なった鉄源を使用して貧血ラットの鉄充足能を測定する研究を設計した:
− ネガティブコントロール群:鉄を添加していない鉄が不足している基本的食餌
− ポジティブコントロール群:可溶性硫酸第一鉄からの10ppmの鉄で強化された鉄が不足している基本的食餌
− 試験群:鉄マイクロカプセル(カプセル化鉄サッカラート)からの10ppmの鉄で強化された鉄が不足している基本的食餌
【0087】
3種の食餌は、鉄を添加しない(2−6ppmのFeを有していると報告されている)実験用齧歯類のためのAIN−93G食餌の推奨に基づいて処方した。基本的食餌をネガティブコントロールとして使用した。ポジティブコントロール食餌は、50mg/kgのFeSO・7HOを使用して10ppmのFeを基本的食餌に補填することによって調製した。試験食餌は、125mg/kgのマイクロカプセル化鉄(鉄サッカラートの形態でマイクロカプセル中に7.93%w/wのFe)を使用して10ppmのFeを基本的食餌に補填することによって調製した。食餌と脱イオン水を研究を通して自由に投与した。
【0088】
4匹の同腹仔由来の異なった40匹の スプラーグドーリーラット(20匹の雄、20匹の雌)を使用した。ラットを21日齢(0日目、研究の開始)で離乳させ、ステンレス鋼製ケージに無作為に分けた。同性の二匹の動物を各ケージに割り当てた。動物は制御された環境で飼育した(20−22℃、30−50%TH、光サイクル:08:00時−20:00時)。
【0089】
貧血を3群の動物において誘発させ、これらに、図8に示すように研究の最初の22日(雌)又は23日(雄)中に鉄を含まない基本的食餌を与えた。貧血誘発期間後に、3群の食餌を次のものに変えた:
−ネガティブコントロール:3匹の雄及び3匹の雌のケージ(6+6動物)。この群には鉄を補填しない基本的食餌を与え続けた。
−ポジティブコントロール:3匹の雄及び3匹の雌のケージ(6+6動物)。この群には硫酸第一鉄の形態の10ppmのFeで強化した基本的食餌を与えた。
−試験群:4匹の雄及び4匹の雌のケージ(8+8動物)。この群にはマイクロカプセル化鉄(カプセル化鉄サッカラート)の形態の10ppmのFeで強化した基本的食餌を与えた。
【0090】
動物は2週間の間(14日)貧血から回復させた。この期間後に、それらを吸入イソフルレン(誘導用量:3%、維持用量:1.5−2%)で麻酔し、心臓内穿刺を通して血液を抽出して安楽死させた。動物は手順を通して周期的に体重を測定した。消費された食物の量をまた測定した。
【0091】
回復期間中の体重の変化を表8及び9に示す(また図9を参照)。


【0092】
結果は、3種の異なった群間に明確な差があることを示しており、強化群にはより大きなまた同様の体重増加があり、基本的な食餌の群は他の2種の群よりかなり低いものとなっている。統計的には、貧血回復期間中の二種の強化群間には有意な差は存在しなかった。他方、2種の強化群(ポジティブコントロール及び試験群)の何れの体重もネガティブコントロールの体重よりは有意に高かった。
【0093】
飼料効率が研究される場合、同じイメージが現れる。飼料効率は、

のように定義され、食物が体組織に如何に良好に転換されるかに関する。貧血回復期間中の3群の計算された飼料効率を表10に示す。括弧内の値は標準偏差を示す。

【0094】
雄又は雌群において、差異はネガティブコントロールと補充群の何れかとの間でのみ有意であり、補充群間では有意ではない。従って、硫酸第一鉄と鉄マイクロカプセル間の差は統計的には有意ではないが、ネガティブコントロールと鉄マイクロカプセル間では統計的に有意であると結論づけることができる。従って、マイクロカプセル化鉄の生物学的利用能は、硫酸第一鉄のものと同様に違いないが、可溶性鉄塩の欠点の多くを伴わない。
【0095】
実施例10 強化ヨーグルト
食物担体としてのヨーグルトへの本発明のカプセルの形態の鉄源生成物の導入を試験した。ヨーグルトにそれらを導入してカプセルを試験することは次の理由から選択した:
− ヨーグルトのpHは酸性であり、先行技術に既に開示されたカプセルの形態の鉄源生成物を破壊するのに十分に攻撃的である。それはカプセルの内容物を放出しヨーグルトを台無しにする。
− ヨーグルトは、高い含水量を有しており、これはまた既に知られている他の鉄源生成物の攻撃的な媒質である。
− 鉄は脂肪の酸化を促進し、これが食物の悪臭味を増加させる。ヨーグルトでは、その内容物の3%近くが脂肪であり得、これは、強化剤の鉄成分と直接接触される場合、基質の多くが酸化されることを意味する。
【0096】
強化ヨーグルトを、実施例1におけるようにして調製したカプセル(カプセル0;実施例3のバッチ1)を使用して調製した。第2バッチのヨーグルトは鉄カプセルを添加しないで調製し、コントロールとして使用した。
ヨーグルトの調製は次のプロセスに従って行った:
1. 粉乳をそれが完全に溶解するまで攪拌下で加え、2.5−3%の脂肪とすることによる、25Lのミルクのコンディショニング及び標準化。
2. 連続攪拌下での50gの鉄カプセルの添加及び分散(コントロールヨーグルトを除く)
3. 95℃で90秒間、低温殺菌
4. 180kg/cmでの均質化
5. 45℃での酵素の導入
6. ヨーグルトのpHが4.7−4.8に達するまで4時間44℃で発酵
7. 1.5ヶ月までの4.5度でのヨーグルトの保存
【0097】
強化ヨーグルトの製造目的の一つは、金属味の欠如を評価し、強化ヨーグルトをコントロールヨーグルトと視覚的に比較することである。ヨーグルトの味を5名の非訓練男性パネルによって検査したところ、その誰もが強化ヨーグルトにおいて僅かでさえ金属味を検出することはできなかったが、ヨーグルトの分析では42.5±4.1ppmの鉄があることが明らかになった。強化及びコントロールヨーグルトの視覚的比較をまた実施し、強化ヨーグルトのほんの僅かに暗い色が検出できた。僅かな変色は非常に暗い鉄塩の使用によるものであり、ヨーグルトが隣り合わせて配された場合にだけ分かるであろう。
【0098】
実施例11 ヨーグルト中のカプセルの安定性
本発明のカプセルの形態の鉄源生成物を用いて製造されたヨーグルト、及びコントロールヨーグルト(鉄カプセルを添加しないもの)について、貯蔵条件を通常よりも厳しいものにする脂質酸化を試験した。ヨーグルトをその有効期間の150%で、つまり一ヶ月の確立された半減期より半月後に分析した。この延長した貯蔵後、酸敗臭レベルをガスクロマトグラフィーを使用して評価した。ヘキサナールは、脂質の酸化産物の一つであるので、酸敗臭の一般的に使用されているマーカーである。微量のヘキサナールを検出するヒトの能力はかなり高く、ヘキサナールレベルが約10ppm(100万分の1、mg/kg担体)より上ならば酸敗臭を感知できる。検出可能な酸敗臭を有していないか又はヒトの検出閾値より十分に低いヘキサナールレベルを有するという目標に到達するために、GC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析)を使用してヨーグルトを分析した。この方法は、ヒトの検出閾値以下の大きさのほぼ3桁多い50ppb(10億分の1,ng/kg)まで微量ヘキサナールを定量することができる。
【0099】
ヨーグルトの調製は実施例10におけるようにして行った。ついで、微量ヘキサナールの検出において、GC/MSによるヨーグルトの分析を実施した。
【0100】
分析した双方の飼料が、10ppm(100万分の1、ng/g)に近い酸敗臭の閾値より十分に低い50ppb以下のヘキサナールレベルであった。従って、カプセルは可溶性鉄源からのヨーグルトの脂肪を単離しその酸化を避ける良い方法である。
【0101】
実施例12 強化肉調製物及び安定性
食物担体へのマイクロカプセルの可能な導入は、シチメンチョウ肉ソーセージ、及び肉エマルション、例えばフランクフルトソーセージを使用して試験した。これらの試料中の鉄の存在は、マイクロカプセルから鉄が放出された場合、その脂肪の酸化を生じうる。
鉄分強化フランクフルトソーセージの調製では、次の成分リストを使用した:豚ロース(40%);ベーコン(20%);添加剤、スパイス及び香味料の混合物(paymfurt ST−1800,Carinsa Group;3.4%);植物性タンパク質(paymprotein ST−91,Carinsa Group;3%);塩(1.5%);水/氷(27.3%);スモークアロマ(0.2%);及びポテトスターチ(5%)。
鉄マイクロカプセル(1g/最終kg)をpaymfurt ST−1800と共に加えた。
【0102】
フランクフルトソーセージを調製するために従った方法は次の通りであった:
1. 全ての成分を切り、肉を微細なペーストにする。氷を使用して肉が加熱されるのを防止する。
2. 容器(プラスチック袋)にエマルジョンを詰め込む。
3. 75℃で45分ボイラーで料理する。
4. 真空パックし、4℃で保存する。
【0103】
鉄分強化シチメンチョウソーセージの調製では、次のリストの成分及び相対量を使用した:シチメンチョウ胸部(69%);水(24%);添加剤及び香味料の混合物(CarinsaフォーミュラCMA−1251#1;6%);コーンスターチ(1%)。鉄マイクロカプセル(1g/最終kg)を、CarinsaフォーミュラCMA−1251#1と共に加えた。
【0104】
次のプロトコルを使用してソーセージを調製した:
1. 水をコーンスターチ及びCarinsaフォーミュラCMA−1251#1と混合することによりブラインを調製する。
2. 肉を切る。
3. 切った肉をブラインと真空下で混合し、それを24時間漬け込む。
4. 微細なペーストが得られるまで肉の一部を切ることによって微細なペーストを調製する。
5. 容器(プラスチック袋)に肉を詰め込む。
3. 72℃で内部温度が72℃に達するまでボイラーで料理する。
4. 真空パックし、4℃で保存する。
【0105】
試料中の鉄の量を、電子レンジ中で濃HNOで試料を消化した後に、ICP−OES(誘導結合プラズマ発光分析)を使用して定量した。ppm(100万分の1、mg/kg)として表した定量の結果を表11に示す。括弧内の値はパーセントとしての標準偏差を示す。

【0106】
脂肪の酸化を避けるマイクロカプセルの能力を、試料中に存在するヘキサナールの量を定量することによって試験した。ヘキサナールは、脂肪の主要な酸化産物の一つであるので、脂肪の酸化の一般的に使用されているマーカーである。その濃度を、ソーセージの有効期間の始めと終わり(0日目及び60日目)に測定し、鉄を強化した試料(>100ppmのFe)及び鉄を強化した試料(〜10ppmのFe)の間で比較する。試料はその有効期間中、冷蔵庫に保っており、分析がなされるまで、−80℃で凍結させた。ヘキサナールをHS−GC−MS(HeadSpace−ガスクロマトグラフィー−質量分析)によって定量した。ヘキサナールppm(mg/kg)として表す結果を表12に示す。括弧内の値はパーセントとしての標準偏差を示す。

【0107】
0日目でのこれらの結果の比較は、ヘキサナールの量は鉄を含む使用において明らかに高いように思われるが、統計的にはヘキサナールの量は異なっているとみなすことができないことを明らかにしている。従って、マイクロカプセルは、ソーセージの製造における最も攻撃的な工程中において、つまりその料理において、鉄の存在による脂肪の酸化を防止するのに効果的である。同じことが、試料を2ヶ月間維持した有効期間の終わりにおける結果に対してもしかりである。鉄を強化した試料、添加した鉄を含まないものの結果の差は、統計的には有意ではない。更に、同じ試料を有効期間の最初と終わりに比較した場合、差はまた有意ではない。従って、 鉄マイクロカプセルの形態での鉄の存在は試験された肉の酸化速度を有意には変えることはないと結論づけることができる。
【0108】
実施例13 均質化に対するマイクロカプセルの耐性
多くの食品、特に酪農食品の製造における重要な工程の一つは均質化工程であり、そこでは、液体又は懸濁液が高剪断応力を受ける。その結果、懸濁液中の粒子、例えば脂肪球が破壊され、懸濁液を更により均質なものにする。この剪断応力は、マイクロカプセルを破壊し、その内容物(鉄)を上清に放出し、よって保護を無駄なものにする。
【0109】
どの程度マイクロカプセルの均質化がその内容物を上清に放出するかを試験するために、10.38ppmのマイクロカプセル化Feを含む7.9Lの懸濁液を、7.9Lの脱イオン水と1.025gのマイクロカプセルを使用して調製した。試料を十分に攪拌し、20MPaと100MPaの間の圧力に設定した一工程ホモジナイザーに連続的に供給した。100mLの試料を、圧力を所望値に設定し、系を安定化させた後に、集めた。選択された圧は、20MPa、35MPa、50MPa及び100MPaであった。均質化後、各試料をクローズドレシピエントに8日未攪拌のまま放置した。分析の直前に、試料を精密濾過した(0.45μmフィルター)。濃HNOを各精密濾過試料に加えて0.5%(v/v)の最終濃度を得て、懸濁液中の鉄を安定化させた。酸性化された上清中の鉄は、ICP−OESを使用して定量した。
【0110】
上清中の鉄の量及び異なった均質化圧力下でのマイクロカプセルから放出された鉄の対応量を以下の表13に示す。0MPaで均質化されたとマークされている試料は均質化されておらず、20(ブランク)とマークされているものは20MPaで均質化されたが、脱イオン水のみを含んでいた。

【0111】
先の結果から分かるように、均質化までのマイクロカプセルの安定性は優れている。最も高い圧力を使用してさえ、マイクロカプセルからほんの僅かな量の全鉄が放出さえるだけである。
【0112】
実施例14 強化ミルク調製物及び安定性
食品担体としてのミルクへの本発明のカプセルの形態の鉄源生成物の導入を試験した。ミルクにそれらを導入してカプセルを試験することは次の理由から選択した:
− ミルクは液体食品であり、既に知られている他の鉄源の放出を容易にする。鉄の存在は、ミルク中に存在する脂肪を酸化させ悪臭味を残すので、脱脂粉乳に対して全ミルクの強化はより困難なものにする。
− 液体であるので、容器の底に沈殿する傾向があるので、ミルクは固形食品では容易に強化できない。
【0113】
地元の酪農家から得た全乳を冷蔵庫に保っておいた(処理されるまで4℃)。35gの湿潤マイクロカプセル(75%湿度)を600mLの蒸留水に分散させた。50Lのミルクを鉄を添加しないで加工し、50Lのミルクを600mLのマイクロカプセル懸濁液と混合した。双方のタイプのミルクに対して、1g/LのE−339を加えた。最初に鉄を添加しない50Lのミルクで、後で鉄マイクロカプセルを添加した50Lのミルクで、(a)ミルクを徐々に加熱し、それが75℃に達したときに二工程のホモジナイザー(第一工程では18MPa、第二工程では4MPa)を使用して均質化し;(b)ミルクが90℃に達したときに、その温度で1分間放置し;(c)ミルクを135℃で15秒間、超高温処理(UHT)し;及び(d)ミルクを室温まで冷却し、非殺菌の0.5Lのガラス瓶に瓶詰めした。
【0114】
瓶詰め後、双方のミルクを試験したが、如何なるものが検出できた場合でも、金属味は検出されなかった。ミルクを微生物学的に駄目にすることを防ぐために、121℃で15分間、オートクレーブ処理した。冷却後、ミルクを4℃で保存した。有効期間(1ヶ月)の終了時に、ミルク中に存在するヘキサナールを定量した。
【0115】
有効期間のはじめと終わりにミルクの物理的外観を視覚でチェックした。微量の沈殿も観察できなかったが、鉄強化ミルクの僅かに暗い色が識別できた。ミルクの味と臭いを製造後にチェックした。何れのミルクにも悪臭も金属臭又は味も感知できなかった。実際、味又は臭いの差は、鉄分強化ミルクと未強化ミルクの間には見いだせなかった。悪臭又は味の欠如は、有効期間の終わりで双方の種類のミルクにおいて定量されたヘキサナール濃度に完全に一致する;ヘキサナールは試料中に検出できなかったので、存在しているとすれば、10μg/L以下の濃度であろう。
【0116】
実施例15 酢酸カルシウムを使用するマイクロカプセルの製造
マイクロカプセルを調製するために使用された高濃度のカルシウムは、使用された塩が塩化カルシウムである場合、腐食の問題を生じうる。理由は、塩化物アニオンが、工業的容器、配管及び攪拌機において一般的に使用されている材料である鋼に対して非常に攻撃的であるためである。これらの問題を避けるため、塩化物アニオンがマイクロカプセルの製造において何ら役割を持たないことを利用して、所定のバッチのマイクロカプセルを、他のカルシウム塩、特に酢酸カルシウムを使用して調製した。
【0117】
水に極端に可溶性である塩化カルシウムとは対照的に、酢酸カルシウムはあまり可溶性ではなく、カルシウムの5Mの濃度を達成できなかった。代わりに、より低い濃度を使用した(1.8M)。
【0118】
マイクロカプセルを調製するために使用したプロトコルは、塩化カルシウムを用いてカプセルを調製するために使用したものと殆ど変わってない:
100mL水中1.5gのアルギン酸ナトリウムの溶液中に、16gの鉄サッカラート(およそ35%Fe)を溶解させた。抽出漏斗を使用して、アルギン酸ナトリウム/鉄サッカラート混合物を、70mLの1.8MのCa(AcO)2溶液に滴下して加えた。滴下して添加する間、形成されたカプセル懸濁液を、実験室用ホモジナイザー(Diax 900, Heidolph Instruments GmbH)を使用して撹拌した。得られた固形カプセルを真空下での濾過によって分離した。カプセルを蒸留水に三回懸濁させて可溶性の塩を除去し、真空下で再び濾過した。35.6gの湿ったカプセルを得た。
【0119】
Fe及びCa含有量を、実施例3の方法に従って測定した。カプセルの安定性は、実施例6の方法に従って、0日目にFe及びCa放出量を測定することによって決定した。湿度%及び固形残留物%は次のプロセスによって測定した:
1. ガラスビーカーの重さを計る(重量empty
2. ベーカー中に約1gのマイクロカプセルを計る。ベーカーの重さを再び計る(重量wet)。
3. 110−120℃のオーブン中に2時間、ビーカーを配する。
4. 乾燥マイクロカプセルを含むビーカーを室温まで30分かけて冷却させる。
5. マイクロカプセルを含むビーカーを再び計る。(重量dry)
6. 重量が一定になるまで乾燥/冷却/計量を繰り返す。
7. 湿潤度を

として計算する。
【0120】
得られた結果は、次の通りである:
− Fe含有量:15.0%のFe(w/w)湿潤マイクロカプセル、45.4%のFe(w/w)乾燥マイクロカプセル
− Ca含有量:0.6%のCa(w/w)湿潤マイクロカプセル、1.9%のCa(w/w)乾燥マイクロカプセル
− 湿潤量:66.9%の湿潤量(33.1%の乾燥残留物)
− Fe及びCa放出:0.2%の放出Fe及び8.2%の放出Ca
【0121】
実施例16 耐熱性
食品用のマイクロカプセルの適合性を、食品の調理又は殺菌に使用される高い温度がマイクロカプセル内の充填物(鉄)を保持するその能力に影響を及ぼすかどうかを調べることによって更に試験した。
【0122】
1gのマイクロカプセルを二つの計量したガラスビーカーの各々において計量した。125℃に設定したオーブンにおいて、試料の一つを30分間保ち、他方を180分間オーブンに入れたままとした。カプセルが室温まで冷却した後、各ビーカーを再び計量した。40mgの乾燥マイクロカプセルを100mLの脱イオン水に懸濁させ、懸濁液を手で攪拌した。1mLの各懸濁液を9mLの脱イオン水で10mLに希釈した。試料を濾過して懸濁液中の固形分を取り除いた。ついで、50μlの濃硝酸を各試料に加えて、懸濁液中の鉄を安定化させ、放出された鉄及びカルシウムを定量するために試料をICP−OESに提示した。
【0123】
濾過の直前のマイクロカプセル懸濁液は11ppmのFe全濃度を有していた。濾過後の上清は、マイクロカプセルから放出された鉄のみを含んでおり、これをICP−OESによって定量し、次の結果を得た:
30分,125℃:0.04ppmのFe
180分,125℃:0.03ppmのFe
【0124】
双方の場合、マイクロカプセル中に存在する鉄の1%未満が、マイクロカプセルを加熱することによる影響でそれらから放出された。従って、マイクロカプセルは、食品に一般的に見出されるもの(125℃で3時間)よりも更により攻撃的な処理後でさえ、安定であるとみなすことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体カプセルの形態で鉄源生成物を含み、該カプセルがアルギン酸鉄を含んでなるコアと、アルギン酸カルシウムを含んでなる外層を含む鉄分強化食品。
【請求項2】
コアが少なくとも一種の生物が利用可能な鉄塩を更に含有する請求項1に記載の鉄分強化食品。
【請求項3】
少なくとも一種の生物が利用可能な鉄塩が鉄サッカラートである請求項2に記載の鉄分強化食品。
【請求項4】
コアがアルギン酸ナトリウムを更に含有する請求項1に記載の鉄分強化食品。
【請求項5】
コアがキレート剤を更に含有する請求項1から4の何れか一項に記載の鉄分強化食品。
【請求項6】
キレート剤がサッカロースである請求項5に記載の鉄分強化食品。
【請求項7】
ヨーグルトである請求項1から6の何れか一項に記載の鉄分強化食品。
【請求項8】
ミルクである請求項1から6の何れか一項に記載の鉄分強化食品。
【請求項9】
飲料である請求項1から6の何れか一項に記載の鉄分強化食品。
【請求項10】
肉エマルションである請求項1から6の何れか一項に記載の鉄分強化食品。
【請求項11】
ソーセージである請求項1から6の何れか一項に記載の鉄分強化食品。
【請求項12】
ヒトにおける鉄欠乏の発生を防止し、又は鉄欠乏を低減させるための、請求項1から11の何れか一項に記載の鉄分強化食品の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−504947(P2012−504947A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530484(P2011−530484)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063059
【国際公開番号】WO2010/040789
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511083949)エービー−バイオティクス,エセ.ア. (2)
【Fターム(参考)】