説明

鉄分測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は鉄分測定装置に関し,さらに詳しくは主として火力発電プラントの貫流ボイラ型プラントの系統水中に含まれる鉄分の濃度を測定する鉄分測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】火力発電プラントの高温,高圧化に伴い水質管理基準も厳しいものとなっているが,特に貫流ボイラ型プラントでは各工程ごとに系統水中の全鉄濃度が規定されており,高精度で迅速な全鉄濃度の把握が要請されている。全鉄測定において,最も工数が長くかかる操作はサンプル中の粒子またはコロイド状の鉄を溶解させる段階(前処理)である。鉄分の測定方法はJIS B8224「ボイラの給水及びボイラ水の試験方法」に示されている。この方法はサンプルに塩酸を加えて1/10の体積まで濃縮することにより鉄を溶解させるものであるが,通常この操作だけで30〜60分程度必要である。
【0003】前処理時間を短縮するものとしては特開昭63−201564号公報に記載された方法が知られている。図6は上記公報に記載された鉄分溶解方法である。図において1はサンプル水導入管,2はサンプル水入り口弁,3は送水ポンプ,4は流量計,5は塩酸注入ポンプ,6は塩酸注入管,7は塩酸注入弁,8はサンプル水加熱器,9は冷却器,10は調圧弁,11は弁,12は全鉄検出計,13はプローブ管,14はサンプル水出口管,15はサンプル水出口弁である。
【0004】上記の構成において,サンプル水がサンプル導入管1によって採取され,サンプル水入り口弁2,送水ポンプ3,流量計4から高圧下にあるサンプル水加熱器8に送水される。一方塩酸注入ポンプ5から塩酸注入管6,塩酸注入弁7を介して上記サンプル水に塩酸が1〜10%程度となるよう注入混合されサンプル水加熱器8で100〜150℃に加熱されることにより,上記サンプル中のコロイド及び粒子状の鉄分は従来より大幅に短い滞留時間で溶解される。その後冷却器9で冷却され調圧弁10を介して減圧される。そしてこの液は弁11を経て全鉄検出計12に搬送され,その含有鉄分が測定されブロー管13から排出される。上記の鉄分溶解方法は溶解がチューブ内の流れの中で行われるのでクロマトグラフィやフローインジェクション検出法(FIA)との接続も容易である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記の従来例においては鉄濃度が高い場合やサンプル液の主成分が溶解しにくいマグネタイトの場合は溶解が不完全であり,測定に負の誤差を与える要因となっている。た,冷却器と調節弁(減圧弁)を別々に備えているので部品点数が多くコスト高になるという問題があった。本発明は上記従来技術の問題点を解決するためになされたもので,冷却器と調節弁を一体化し,所定量のサンプル液と第1反応液の混合液を加圧してマイクロ波加熱器で所定の時間加熱し,サンプル液中の粒子状の鉄をほぼ完全に溶解するとともに溶解した鉄を定量可能なFIAで検出することにより粒子状の鉄を含むサンプル液を迅速に定量することが可能で,かつ,低コストな鉄分測定装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する為に本発明は,鉄の粒子を含むサンプル液と,このサンプル液の所定量を取り込んで搬送する搬送液と,この搬送液に第1反応液を注入する第1反応液注入手段と,前記サンプル液を含む搬送液と第1反応液の混合液を加圧すると共に冷却装置として機能する抵抗管と,この抵抗管の前段に設けられ加圧された状態の混合液にマイクロ波を照射して加熱するマイクロ波加熱器と,この加熱された混合液を前記抵抗管を通して冷却し,この冷却された混合液に複数の反応液を加えて順次反応させる反応手段と,この複数回反応させた反応液に含まれる鉄分を検出する鉄分検出手段からなるものである。
【0007】
【作用】搬送液に取り込まれたサンプル液は第1反応液と混合されて加圧される。加圧された混合液はマイクロ波加熱器で加熱されることにより粒子状の鉄が完全に溶解される。鉄が溶解した混合液は複数種の反応液で順次反応され,可視吸光検出器に送られて含有鉄分が検出される。
【0008】
【実施例】図1は本発明による鉄分測定装置の一実施例を示す構成図である。図において1aは図示しない液槽から搬送液(例えば純水)を送出する第1ポンプであり,1bは図示しない液槽から第1反応液(例えば1規定の塩酸)を送出する第2ポンプ,1cは図示しない液槽から第2反応液(還元剤;例えば塩酸ヒドロキシルアミン10%溶液)を送出する第3ポンプ,1dは図示しない液槽から発色液(例えばTPTZ(2,4,6−トリ−2−ピリジル−1,3,5−トリアジン)0.001mol/l溶液)を送出する第4ポンプ,1eは図示しない液槽から緩衝液(例えば酢酸アンモニウム50%溶液)を送出する第5ポンプである。
【0009】2はサンプル液を手動で注入する場合に使用する第1切換弁,3はサンプル液を自動的に注入する場合に使用する第2切換弁であり,図は自動で使用する場合を示している。5は耐薬品性があり,高温,高圧に耐えるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の第1反応コイルである。この第1コイル5の後段には絞りとしての抵抗管6が接続されている。この抵抗管は例えば内径0.2mm,長さ5〜10m程度を有するもので冷却管としても機能する。
【0010】7は第1反応コイル5を収納して加熱するマイクロ波加熱器(例えば電子レンジ)であり,この加熱器内にはマグネトロンの自己加熱を防ぐために保護用の水循環チューブ(内径4mm,長さ数m程度…図示せず)が配置されている。上記第1,第2ポンプ(1a,1b),切換弁(2,3)〜抵抗管6までは前処理部4として機能する。
【0011】10aは抵抗管6の後段に配置された第2反応コイルであり,このコイルの前段には第3ポンプ1cからの還元剤が注入される。10bは第2反応コイルの後段に接続された第3反応コイルであり,このコイルの前段には第4ポンプ1dからの発色液が注入される。そして10cは第3反応コイル10bの後段に配置された第反応コイルであり,この第4反応コイルの前段には第5ポンプ1eからの緩衝剤が注入される。15は4反応コイルの後段に配置され鉄分の検出を行う可視吸光検出器である。なお,反応コイル10a,10b,10cは測定値の再現性を向上させるために40℃程度の恒温槽20に収納されている。
【0012】上記の構成において第1ポンプからの純水は第1,第2切換弁の実線の経路を経て第1反応コイル5,抵抗管,第2〜第4反応コイルを通り可視吸光検出器側へ流れており,第2〜第5ポンプからの反応液も所定の量と濃度で注入されている。この時サンプル液は第2切換弁3の矢印Aに注入され実線に沿って流れ計量管3aを介して矢印B方向に排出されている。なお,この時第1反応コイルを通過する混合液は抵抗管6により5〜10kgf/cm2程度に昇圧されている。また,各反応チューブは内径0.5mm,長さ数m程度のETFEチューブとし,各ポンプの吐出量はそれぞれ毎分0.1〜2.0ml程度の適当な量とされる。
【0013】次に所定のタイミングで第2切換弁3が点線で示す経路に切換わると純水は計量管3aを流れていたサンプル液を取り込んで流れる。同時にマイクロ波加熱器7がオンとなり流路を流れる混合液を加熱する。この加熱器7により混合液は100℃以上に加熱されるが上述のように5〜10kgf/cm2程度に加圧されているので沸騰することはない。このマイクロ波での加熱はサンプルが加熱管を通過する時間に合わせて3分程度経ったらオフになるように設定されているがエネルギーがコイルを流れる混合液に十分に作用するのでむらなく加熱することができ,鉄粒子が十分に酸溶解される。
【0014】図2は加熱チューブ(PEEK)として内径0.8mm(外径1.6mm)のチューブを用いた場合の長さと回収率(鉄溶解の程度をJIS法と比較した場合の溶解度合)の関係を示すもので,図によれば加熱管の長さが5m程度であればJIS法で溶解した場合とほぼ同様となっている。従って本実施例では測定時間との兼合いも考慮して加熱管の長さを5m程度とした。なお,この場合サンプルが加熱管を通り抜ける時間は3分弱であり,測定に要する時間は全体で10分程度であった。
【0015】図3はサンプル導入量と検出器15でのピーク高さの関係を示すもので,図によれば検出器の出力は500μl程度を境として飽和している。このことからサンプルの導入量は500μlとした。
【0016】図4(イ),(ロ)は本発明の構成を用いて2種類の実サンプルを測定した結果を示すもので,サンプルA,B共に再現性よく測定されている。図5は本発明の装置で測定した全鉄の測定結果とJIS法との相関を示す図である。相関係数は0.98と良好であった。
【0017】
【発明の効果】以上実施例とともに具体的に説明した様に本発明によれば,鉄の粒子を含むサンプル液の所定量を取り込んで搬送する搬送液と,この搬送液に第1反応液を注入する第1反応液注入手段と,サンプル液を含む搬送液と第1反応液の混合液を加圧すると共に冷却装置として機能する抵抗管と,この抵抗管の前段に設けられ加圧された状態の混合液にマイクロ波を照射して加熱するマイクロ波加熱器と,加熱された混合液を抵抗管を通して冷却し,この冷却された混合液に複数の反応液を加えて順次反応させる反応手段と,複数回反応させた反応液に含まれる鉄分を検出する鉄分検出手段を設けたので,サンプル液中の粒子状の鉄をほぼ完全に溶解するとともに溶解した鉄を定量可能なFIAで検出することにより粒子状の鉄を含むサンプル液を迅速に定量することが可能で,かつ,低コストな鉄分測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の鉄分測定装置の一実施例を示す構成説明図である。
【図2】加熱チューブの長さと回収率(鉄溶解の程度をJIS法と比較した場合の溶解度合)の関係を示す図である。
【図3】サンプル導入量と検出器の出力のピーク高さの関係を示す図である。
【図4】本発明の構成を用いて2種類の実サンプルを測定した結果を示す図である。
【図5】全鉄の測定結果とJIS法との相関を示す図である。
【図6】従来の鉄分測定装置の一実施例を示す構成説明図である。
【符号の説明】
1a〜1d 第1〜第5ポンプ
2 第1切換弁
3 第切換弁
2a,3a 計量管
4 前処理部
5 第1反応コイル
6 抵抗管(絞り)
7 マイクロ波加熱器
10a〜10c 第2〜第4反応コイル
15 可視吸光検出器
20 恒温槽
.

【特許請求の範囲】
【請求項1】鉄の粒子を含むサンプル液と,このサンプル液の所定量を取り込んで搬送する搬送液と,この搬送液に第1反応液を注入する第1反応液注入手段と,前記サンプル液を含む搬送液と第1反応液の混合液を加圧すると共に冷却装置として機能する抵抗管と,この抵抗管の前段に設けられ加圧された状態の混合液にマイクロ波を照射して加熱するマイクロ波加熱器と,この加熱された混合液を前記抵抗管を通して冷却し,この冷却された混合液に複数の反応液を加えて順次反応させる反応手段と,この複数回反応させた反応液に含まれる鉄分を検出する鉄分検出手段からなることを特徴とする鉄分測定装置。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図5】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【特許番号】特許第3237312号(P3237312)
【登録日】平成13年10月5日(2001.10.5)
【発行日】平成13年12月10日(2001.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−150185
【出願日】平成5年6月22日(1993.6.22)
【公開番号】特開平7−20113
【公開日】平成7年1月24日(1995.1.24)
【審査請求日】平成11年8月23日(1999.8.23)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【参考文献】
【文献】特開 昭58−218649(JP,A)
【文献】特開 平3−248060(JP,A)
【文献】特開 平4−122836(JP,A)