説明

鉄塔の腕金メンテナンス方法

【課題】送電線を仮移線することなく、安全に腕金の構造部材を一部交換することができる鉄塔の腕金メンテナンス方法を得ること。
【解決手段】鉄塔1の塔体11から横方向に延びて送電線PLを保持する一対の腕金主材13の先端部分に、ワイヤ51を引っ掛けるための引掛け部材31を固定し(第1の工程)、引掛け部材31と塔体11との間に一対のワイヤ51を掛け渡し(第2の工程)、その際、一対のワイヤ51のそれぞれに、当該一対のワイヤ51の張力を手動調節可能な一対の張力調節装置52を介在させ(第2のサブ工程)、張力調節装置52によってワイヤ51のそれぞれの張力を個々に手動調節しながら、腕金主材13と腕金先端プレート14と腕金吊材15とを固定する締着ボルトを抜き取り(第3の工程)、その後、腕金吊材15及び腕金先端プレート14を交換したならば(第4の工程)、ワイヤ51を張力調節装置52と共に取り外す(第5の工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線を架設する鉄塔における送電線を吊り下げて保持するための腕金をメンテナンスする方法に係り、特に、腕金の構造部材を一部交換する鉄塔の腕金メンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄塔の腕金の強度不足が問題となっている。これは、設計年度による強度計算の違いに基づく。具体的に云うと、昭和40年頃までは、送電線を架設する二つの鉄塔間の高低差が垂直荷重に与える影響を考慮しておらず、それ故、高低差をもって設置される低所側の鉄塔では、垂直荷重に対する裕度がどうしても少なくなってしまうという事情がある。こうしたいわば旧基準に基づき設計施工された鉄塔では、着雪や強風による煽りなどの自然現象の影響を受けて送電線から加えられる垂直荷重が増大すると、最悪の場合、その重みに耐えかねて、腕金が破損してしまうことが予想される。そこで、旧基準に基づいて設計施工された鉄塔においては、その設置場所を考慮し、腕金の強度を補強するためのメンテナンスの必要性が生じている。メンテナンスは、腕金の構造部材を一部交換することにより行なう。
【0003】
腕金の構造部材を一部交換するに際しては、現状設置されている送電線の扱いが問題となる。腕金の構造部材を交換するためにはその交換対象となる構造部材を一旦は取り外さなければならないところ、送電線を吊り下げて保持したままの腕金からその構造部材を取り外してしまうと、強度不足になって、それこそ腕金が破損してしまうからである。そこで、常識的に考えれば、腕金の構造部材を一部交換するに先立ち、送電線を鉄塔の塔体側などに仮に保持させて一時的に退避させる、という工法を採用することになる。このような作業を、ここでは仮移線作業と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−43505公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、送電線の仮移線作業は、手軽にできるような作業ではなく、それ相応の労力、時間、及び費用が発生する。特に問題となるのは、時間がかかることである。鉄塔の腕金の構造部材を一部交換する腕金のメンテナンスに際しては、当然のことながら、送電線による送電を停止して停電状態としなければならない。停電状態は、腕金のメンテナンスに時間がかかればかかるほど長く継続するので、極力、腕金のメンテナンス時間を短縮したいところである。そう考えると、送電線を仮移線することなく腕金をメンテナンスする工法の実現が望まれる。
【0006】
この出願の出願人は、送電線を仮移線することなく腕金をメンテナンスする工法のヒントを求めて、特許の先行技術調査をしてみたところ、特許文献1を見出した。この文献には、鉄塔の腕金をメンテナンスするものではないものの、仮移線作業をすることなく、鉄塔の塔体における腕金取り付け箇所の主柱材を取り替える工法が記載されている。より詳細には、既設の腕金吊材が鉄塔の塔体に連結固定している部分の近傍に縦補強材を取り付け固定した上で、腕金から既設の腕金吊材を取り外し、これに代えて仮腕金吊材を仮に設置する。仮腕金吊材は、仮設した縦補強材と腕金の先端部分との間に掛け渡す。こうして、既設の腕金吊材が取り付けられていた塔体の一部を交換するわけである。特許文献1の段落0020を参照されたい。
【0007】
ところが、以上の説明からもお分かりのように、特許文献1に記載の発明によれば、一切の補強をすることなく、腕金から腕金吊材を取り外している。これでは、前述したように、送電線から加わる荷重に腕金が耐え切れず、破損してしまうことであろう。本出願の出願人は、正に、このような事態の発生を確実に防止することができる安全な工法を模索しているわけである。したがって、特許文献1は、本出願の出願人が着眼する課題に対して、何らヒントを与えるものではない。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、送電線を仮移線することなく、安全に腕金の構造部材を一部交換することができる鉄塔の腕金メンテナンス方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鉄塔の塔体から横方向に延びて先端部で送電線を保持する一対の腕金主材を、これらの腕金主材に腕金先端プレートを介して締着ボルトで締め付け固定された一対の腕金吊材で吊る構造の腕金を補強する方法であって、前記一対の腕金主材の先端部分に当該腕金主材からその両側方向に飛び出させてワイヤを引っ掛けるための引掛け部材を固定する第1の工程と、前記引掛け部材における前記腕金主材の両側方向に飛び出した部分のそれぞれと前記塔体における前記引掛け部材よりも高所に位置する部分との間に一対のワイヤを掛け渡す第2の工程と、前記第2の工程において、一対のワイヤのそれぞれに、当該一対のワイヤの張力を手動調節可能な一対の張力調節装置を介在させる第2のサブ工程と、前記一対の張力調節装置によって前記ワイヤのそれぞれの張力を個々に手動調節し、前記締着ボルトを抜き取る第3の工程と、前記第3の工程に続き、前記腕金吊材と前記腕金先端プレートとのいずれか一方又は両方を交換する第4の工程と、前記第4の工程に続き、前記一対のワイヤを前記一対の張力調節装置と共に取り外す第5の工程と、を備えることによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、引掛け部材に引掛けた一対のワイヤによって腕金の腕金主材を吊って腕金にかかる荷重を支えることができるので、送電線を仮移線することなく、安全に腕金の構造部材を一部交換する作業を行なうことができ、したがって、鉄塔の腕金メンテナンスに際して必要な労力、時間、及び費用を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】鉄塔を正面方向から見た概略的な模式図。
【図2】腕金の先端部の構造を示す斜視図。
【図3】鉄塔の腕金を補強するための想定される従来工法を例示する、鉄塔を正面方向から見た概略的な模式図。
【図4】鉄塔の腕金を補強するための本実施の形態の工法を示す、鉄塔を正面方向から見た概略的な模式図。
【図5】鉄塔の腕金を補強するための本実施の形態の工法として、(a)は最上位の腕金を補強する一例を、(b)は最上位以外の腕金を補強する一例をそれぞれ示す、鉄塔を上空から見た概略的な模式図。
【図6】腕金の先端部に引掛け部材を固定する第1の工程を示す、腕金の先端部の斜視図。
【図7】腕金の先端部に引掛け部材を固定した状態を示す、腕金の先端部の正面図。
【図8】腕金の先端部における各構造部材と締着ボルトとの位置関係を示す、腕金の先端部を側面方向から見た模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、送電線PLを架設する鉄塔1が備える腕金12をメンテナンスする方法であり、特に、腕金12の構造部材を一部交換するメンテナンス方法に関する。
【0013】
1.メンテナンス対象となる構造物
図1は、鉄塔1を正面方向から見た概略的な模式図である。鉄塔1は、地表面Gに設置された塔体11に、複数個の腕金12が固定されたトラス構造体である。腕金12は、塔体11から横方向に延びて先端部で送電線PLを保持する。
【0014】
図2は、腕金12の先端部の構造を示す斜視図である。図1及び図2に示すように、腕金12は、塔体11から横方向、本実施の形態では水平方向に延びる腕金主材13を主体としている。送電線PLは、腕金主材13に吊り下げられた状態で保持されている。送電線PLから大きな荷重が加えられる腕金主材13は、そのままでは強度不足である。そこで、腕金主材13に腕金先端プレート14を介して腕金吊材15を連結固定し、この腕金吊材15で腕金主材13を吊っている。腕金吊材15は、その根元を塔体11に連結固定している。
【0015】
図2に示すように、腕金主材13は、断面L字形をした一対の山形鋼から構成されている。これらの腕金主材13は、根元方向にいくに従って徐々に開拡し、先端部は腕金先端プレート14を挟んで当接している。腕金吊材15も、一対の山形鋼から構成されている。腕金主材13と同様に、腕金吊材15も、根元方向にいくに従って徐々に開拡し、先端部は腕金先端プレート14を挟んで当接している。したがって、一対の腕金主材13と腕金先端プレート14とは、それぞれ位置合わせされた複数個の貫通孔(図示せず)のそれぞれに締着ボルトBを貫通させ、これらの締着ボルトBを締着ナットNで締め付けることで、強固に固定されている。一対の腕金主材13に形成された貫通孔については、図6中に示す予備貫通孔16を参照されたい。同様に、一対の腕金吊材15と腕金先端プレート14も、それぞれ位置合わせされた複数個の貫通孔(図示せず)のそれぞれに締着ボルトBを貫通させ、これらの締着ボルトBを締着ナットNで締め付けることで、強固に固定されている。締着ボルトBは、一対の腕金主材13と腕金先端プレート14、及び、一対の腕金吊材15と腕金先端プレート14とを、水平方向に貫通している。
【0016】
なお、図2中、一対の腕金主材13を垂直方向に貫通する複数個の締着ボルトBと、これらの締着ボルトBを締め付ける締着ナットNとは、送電線PLを吊り下げて保持するための構造物用である。
【0017】
本実施の形態においては、既設の腕金先端プレート14と腕金吊材15とを、より強度に優れた部材に交換することをメンテナンスの目的としている。したがって、これらの腕金先端プレート14及び腕金吊材15は、交換すべき腕金12の構造部材であり、本実施の形態のメンテナンス対象となる。
【0018】
2.想定される従来工法
図3は、鉄塔1を正面方向から見た概略的な模式図であり、鉄塔1の腕金12を補強するための想定される従来工法を例示している。既設の鉄塔1において、送電線PLを吊り下げて保持したままの腕金12からその構造部材を取り外してしまうと、強度不足になり、腕金12が破損してしまうことが予想される。腕金12の構造部材を交換するためには、その交換対象となる構造部材を一旦は取り外さなければならないからである。
【0019】
そこで、常識的に考えると、腕金12の構造部材を一部交換するに先立ち、送電線PLを鉄塔1の塔体11の側などに仮に保持させて一時的に退避させる、という工法の採用が検討される。このような作業を、本実施の形態では仮移線作業と呼ぶ。
【0020】
ところが、送電線の仮移線作業は、手軽にできるような作業ではなく、それ相応の労力、時間、及び費用が発生する。そこで、本実施の形態では、送電線PLを仮移線することなく、安全に腕金12の構造部材を一部交換する腕金メンテナンス方法を提供する。以下、本実施の形態のメンテナンス工法を説明する。
【0021】
3.本実施の形態の工法
図4は、鉄塔1を正面方向から見た概略的な模式図であり、鉄塔1の腕金12を補強するための本実施の形態の工法を示している。図5は、鉄塔1を上空から見た概略的な模式図であり、図5(a)は最上位の腕金12を補強する一例を、図5(b)は最上位以外の腕金12を補強する一例を、それぞれ示している。図4及び図5に示すように、本実施の形態では、一対の腕金主材13の先端部分に、ワイヤ51を引っ掛けるための引掛け部材31を固定し、これらの引掛け部材31と塔体11との間に一対のワイヤ51を掛け渡し、一対のワイヤ51で腕金12にかかる荷重を受けるようにしている。こうすることで、送電線PLを仮移線することなく、安全に腕金12の構造部材を一部交換する作業を行なうことができる。以下、本実施の形態の工法を詳しく述べる。
【0022】
≪第1の工程≫
図6は、腕金12の先端部の斜視図であり、腕金12の先端部に引掛け部材31を固定する第1の工程を示している。図6に示すように、一対の腕金主材13の先端部分に、ワイヤ51を引っ掛けるための引掛け部材31を固定する。引掛け部材31は、腕金主材13からその両側方向に水平に飛び出させた形態で固定する。
【0023】
引掛け部材31は、腕金主材13の両側方に飛び出す二つの部分が一体に繋がった山形鋼である。同様に山形鋼である一対の腕金主材13には、腕金先端プレート14との締着部分よりも根元方向にずれた位置に、複数個の予備貫通孔16が形成されている。そこで、引掛け部材31には、一対の腕金主材13に形成された予備貫通孔16に位置合わせして、一対の長孔32を形成しておく。これらの長孔32は、引掛け部材31の長手方向に沿って長い形状である。こうすることで、一対の腕金主材13の下面に引掛け部材31を接合させて腕金主材13の側の予備貫通孔16と引掛け部材31の側の長孔32とを位置合わせし、この状態で両者に締着ボルトBを貫通させて締着ナットNで締め付ければ、引掛け部材31を一対の腕金主材13に強固に固定することができる。この際、引掛け部材31の側では長孔32を採用しているので、腕金主材13に形成された予備貫通孔16との位置合わせが容易となる。
【0024】
図7は、腕金12の先端部の正面図であり、腕金12の先端部に引掛け部材31を固定した状態を示している。図7に示すように、引掛け部材31は、腕金先端プレート14との締着部分よりも一対の腕金主材13の根元方向にずれた部分であって、これらの腕金主材13の下面側に固定されている。
【0025】
≪第2の工程≫
第1の工程に続く第2の工程では、一対の引掛け部材31に一対のワイヤ51を引掛けて腕金12を吊る。一対のワイヤ51を掛け渡す位置は、引掛け部材31における腕金主材13の両側方向に飛び出した部分のそれぞれと、塔体11における引掛け部材31よりも高所に位置する部分との間の部分である。
【0026】
図5(a)に示すように、最上位の腕金12を吊るワイヤ51は、塔体11の頂部か頂部よりもやや下の部分に連結される。塔体11の頂部は、一点に収束するように尖った形状をしているので、引掛け部材31の両側に引掛けられた一対のワイヤ51も、必然的に一点に収束するよう塔体11に向かうに従い対向間隔を狭める。これに対して、図5(b)に示すように、最上位以外の腕金12を吊るワイヤ51は、トラス構造をなす塔体11の水平方向に延びる辺の何処にも連結可能である。このため、引掛け部材31の両側に引掛けられた一対のワイヤ51は、ほぼ平行にも、塔体11に向かうに従いむしろ対向間隔を拡げるようにも、自由に配置することができる。
【0027】
≪第2のサブ工程≫
第2の工程では、引掛け部材31と塔体11との間に一対のワイヤ51を掛け渡すに際して、これらのワイヤ51のそれぞれに、その張力を手動調節可能な一対の張力調節装置52を介在させる。張力調節装置52としては、例えば、ヒッパラー(登録商標)やレバーブロック(登録商標)を用いることができる。これらの機器は、手動でハンドル(図示せず)を回転させると、二つの作用点を近接させることができ、この際、手動操作力を倍力して作用点に伝える。そこで、二つの作用点にワイヤ51を連結する形態でワイヤ51に介在配置すれば、ハンドルの手動操作によってワイヤ51の張力を調節することが可能となる。
【0028】
≪第3の工程≫
第2の工程に続く第3の工程では、張力調節装置52によってワイヤ51のそれぞれの張力を個々に手動調節しながら、一対の腕金主材13と腕金先端プレート14、一対の腕金吊材15と腕金先端プレート14とをそれぞれ固定する締着ボルトBを抜き取る。
【0029】
図8は、腕金12の先端部を側面方向から見た模式図であり、腕金12の先端部における各構造部材と締着ボルトBとの位置関係を示している。図8中は、ALで示すのは、締着ナットNと共に各部を締着する締着ボルトBを貫通させる図示しない貫通孔(図2、図6参照)の貫通軸線である。一対の腕金主材13と腕金先端プレート14とを固定する締着ボルトBを取り外すには、これらの三つの部材にそれぞれ形成されている一つの締着ボルトBを貫通させる貫通孔が、ずれなく一直線上に揃っている必要がある。同様に、腕金先端プレート14と一対の腕金吊材15とを固定する締着ボルトBを取り外すには、これらの三つの部材にそれぞれ形成されている一つの締着ボルトBを貫通させる三つの貫通孔が、ずれなく一直線上に揃っている必要がある。いずれも、貫通軸線ALが一直線をなしていなければならないわけである。第3の工程は、このような各部の貫通孔間のずれをなくすための作業として、張力調節装置52によってワイヤ51のそれぞれの張力を個々に手動調節する。
【0030】
つまり、一対の腕金主材13と腕金先端プレート14、一対の腕金吊材15と腕金先端プレート14とをそれぞれ固定する締着ボルトBは、これらの各部を全て水平方向に貫通している。このため、一方のワイヤ51の張力ともう一方のワイヤ51の張力とが均衡すれば、一つの締着ボルトBを貫通させる三つの貫通孔は、一直線上に揃う。ここでいう均衡というのは、左右に振り分けられた一対のワイヤ51の張力が同一になるということを意味しているわけではなく、一つの締着ボルトBを貫通させる三つの貫通孔が一直線上に揃うように、一方のワイヤ51の張力が釣り合うことを意味している。例えば、左側の腕金主材13にかかる荷重の方が右側の腕金主材13にかかる荷重よりも大きい場合、左側のワイヤ51の張力の方が右側のワイヤ51の張力よりも大きくならなければ、一対のワイヤ51の張力は均衡しない。
【0031】
第3の工程では、締着ナットNを緩め、一対の腕金主材13と腕金先端プレート14、一対の腕金吊材15と腕金先端プレート14とのそれぞれから締着ボルトBを抜く作業を試み、外れない場合には、張力調節装置52で一対のワイヤ51のそれぞれの張力を調節し、再び、締着ボルトBを抜く作業を試みる。これを繰り返すことで、最終的に、締着ボルトBを全て抜き取ることができる。
【0032】
≪第4の工程≫
第3の工程に続く第4の工程では、腕金吊材15及び腕金先端プレート14を、より強度に優れた部材と交換する。より高い剛性を持った腕金吊材15及び腕金先端プレート14をセットし、各部の貫通孔(図示せず)に締着ボルトBを貫通させて締着ナットNで締め込み、各部を元通りに強固に固定するわけである。
【0033】
≪第5の工程≫
第4の工程に続く第5の工程では、一対のワイヤ51を一対の張力調節装置52と共に取り外す。
【0034】
≪第6の工程≫
第5の工程に続く第6の工程では、引掛け部材31を腕金主材13から取り外す。こうして、腕金12の構造部材を一部交換するメンテナンス作業が全て完了する。
【0035】
4.本実施の形態の工法の作用効果
本実施の形態によれば、引掛け部材31に引掛けた一対のワイヤ51によって腕金12の腕金主材13を吊り、腕金12にかかる荷重を支えることができる。これにより、送電線PLを仮移線することなく、安全に腕金12の構造部材を一部交換する作業を行なうことができる。その結果、鉄塔1の腕金12のメンテナンスに際して必要な労力、時間、及び費用を大幅に削減することができる。具体的に云うと、本出願人の試算によれば、送電線PLを仮移線する場合との比較で、40%程度、作業時間、つまり作業に要する所要日数を短縮することができる。費用に関しては、各種の事情が伴うために一概には云えないが、所要日数の短縮に伴う大幅な節約効果が得られることは明々白々であろう。労力に関しても、その削減効果を定量化して述べることは困難であるが、送電線PLの仮移線が不要という一点のみをとらえても、大幅な削減効果が得られることは想像に難くない。
【0036】
本実施の形態において特筆すべきは、送電線PLを仮移線することなく、腕金先端プレート14の交換が可能であるという点である。このことは、送電線PLを仮設する鉄塔1のメンテナンスに関わる当業者にとって、前代未聞のことである。これを実現しているのは、一対の腕金主材13に引掛け部材31を固定し、この引掛け部材31に一対のワイヤ51を掛け渡すという工法である。
【0037】
本実施の形態の工法は、その他、次のような作用効果を有する。
(1)引掛け部材31は、腕金主材13と腕金先端プレート14との締着部分よりも腕金主材13の根元方向にずれた部分に固定されている。このため、腕金先端プレート14及び腕金吊材15を交換する第3の工程及び第4の工程の作業に際して、ワイヤ51が作業の邪魔にならず、その作業性を良好にすることができる。
【0038】
(2)引掛け部材31は、腕金主材13の両側方に飛び出す二つの部分が一体に繋がった鋼材であり、鋼材として山形鋼が採用されている。しかも、引掛け部材31は、一対の腕金主材13の下部に固定され、下方から腕金12を支える。このため、大げさな材料を用いることなく充分な強度をもって腕金12を支えることができ、作業性と安全性と経済性とを調和させることができる。
【0039】
5.変形例
(1)本実施の形態に工法において必要なことは、腕金主材13を一対のワイヤ51で吊って支えることができる位置に引掛け部材31を固定することであって、この条件を満たす限り、引掛け部材31は、腕金主材13そのものに固定されるばかりでなく、腕金主材13に固定された別部材に固定されてもよい。
【0040】
(2)本実施の形態においては、引掛け部材31を、腕金主材13と腕金先端プレート14との締着部分よりも腕金主材13の根元方向にずれた部分に固定したが、必ずしもこの位置に限定する必要はない。腕金主材13と腕金先端プレート14との締着部分に引掛け部材31を固定するようにしてもよい。
【0041】
(3)本実施の形態においては、引掛け部材31として、腕金主材13の両側方に飛び出す二つの部分が一体に繋がった鋼材を用いたが、本実施の形態の工法を実施するうえで、これは必ずしも必須事項ではない。腕金主材13を一対のワイヤ51で吊って支えることができる程度以上の強度を維持できるのであれば、引掛け部材31における腕金主材13の両側方に飛び出す二つの部分は、分離した別部材によって構成されてもよく、あるいは、分離した別部材を連結して一体的にした部材によって構成されてもよい。
【0042】
(4)本実施の形態においては、引掛け部材31をなす鋼材として山形鋼を採用したが、必ずしも山形鋼に限定する必要はない。例えば、断面矩形形状をした鋼材などでもよい。引掛け部材31に求められる強度は、一対のワイヤ51を引掛けて腕金主材13を吊って支えることができる程度以上の強度である。
【0043】
(5)本実施の形態においては、一対の腕金主材13の下部に引掛け部材31を固定し、下方から腕金12を支えるようにしたが、必ずしもこの構成に限定する必要はない。腕金主材13を一対のワイヤ51で吊って支えることができる程度以上の強度を維持できるのであれば、腕金主材13に対する引掛け部材31の配置位置は何処でもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 鉄塔
11 塔体
12 腕金
13 腕金主材
14 腕金先端プレート
15 腕金吊材
31 引掛け部材
51 ワイヤ
52 張力調節装置
B 締着ボルト
PL 送電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔の塔体から横方向に延びて先端部で送電線を保持する一対の腕金主材を、これらの腕金主材に腕金先端プレートを介して締着ボルトで締め付け固定された一対の腕金吊材で吊る構造の腕金を補強する方法であって、
前記一対の腕金主材の先端部分に当該腕金主材からその両側方向に飛び出させてワイヤを引っ掛けるための引掛け部材を固定する第1の工程と、
前記引掛け部材における前記腕金主材の両側方向に飛び出した部分のそれぞれと前記塔体における前記引掛け部材よりも高所に位置する部分との間に一対のワイヤを掛け渡す第2の工程と、
前記第2の工程において、一対のワイヤのそれぞれに、当該一対のワイヤの張力を手動調節可能な一対の張力調節装置を介在させる第2のサブ工程と、
前記一対の張力調節装置によって前記ワイヤのそれぞれの張力を個々に手動調節し、前記締着ボルトを抜き取る第3の工程と、
前記第3の工程に続き、前記腕金吊材を交換する第4の工程と、
前記第4の工程に続き、前記一対のワイヤを前記一対の張力調節装置と共に取り外す第5の工程と、
を備えることを特徴とする鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項2】
鉄塔の塔体から横方向に延びて先端部で送電線を保持する一対の腕金主材を、これらの腕金主材に腕金先端プレートを介して締着ボルトで締め付け固定された一対の腕金吊材で吊る構造の腕金を補強する方法であって、
前記一対の腕金主材の先端部分に当該腕金主材からその両側方向に飛び出させてワイヤを引っ掛けるための引掛け部材を固定する第1の工程と、
前記引掛け部材における前記腕金主材の両側方向に飛び出した部分のそれぞれと前記塔体における前記引掛け部材よりも高所に位置する部分との間に一対のワイヤを掛け渡す第2の工程と、
前記第2の工程において、一対のワイヤのそれぞれに、当該一対のワイヤの張力を手動調節可能な一対の張力調節装置を介在させる第2のサブ工程と、
前記一対の張力調節装置によって前記ワイヤのそれぞれの張力を個々に手動調節し、前記締着ボルトを抜き取る第3の工程と、
前記第3の工程に続き、前記腕金先端プレートを交換する第4の工程と、
前記第4の工程に続き、前記一対のワイヤを前記一対の張力調節装置と共に取り外す第5の工程と、
を備えることを特徴とする鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項3】
前記第4の工程は、前記腕金吊材の交換作業も含んでいる、ことを特徴とする請求項2に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、前記引掛け部材を、前記一対の腕金主材と前記腕金先端プレートとの締着部分よりも前記一対の腕金主材の根元方向にずれた部分に固定する、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項5】
前記引掛け部材は、前記腕金主材の両側方に飛び出す二つの部分が一体に繋がった鋼材である、ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項6】
前記引掛け部材は、山形鋼である、ことを特徴とする請求項5に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項7】
前記第1の工程において、前記引掛け部材を、前記一対の腕金主材の下部に固定する、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項8】
前記締着ボルトは、前記一対の腕金主材とこれらの腕金主材の間に挟まれた前記腕金先端プレートとを水平方向に貫通している、ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項9】
前記締着ボルトは、前記一対の腕金吊材とこれらの腕金吊材の間に挟まれた前記腕金先端プレートとを水平方向に貫通している、ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一に記載の鉄塔の腕金メンテナンス方法。
【請求項10】
前記引掛け部材を取り外す第6の工程を備える、ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一に記載の鉄塔の腕金のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251318(P2012−251318A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123059(P2011−123059)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(591020412)佐藤建設工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】