説明

鉄筋コンクリートの脱塩工法

【課題】鉄筋コンクリート構造物の、水平下向き面や垂直面であっても、その形状に応じた施工が可能で、アルカリ骨材反応への影響も少なく、安定した電流密度に設定することができ、通電中の電解質溶液の補充も少なくてすむ脱塩工法を提供し、塩害を受ける環境下にある鉄筋コンクリート構造物に対して効果的で、高pH電解液でも分解しない電解質部材を用いた脱塩工法を提供すること。
【解決手段】塩分を含有する鉄筋コンクリートの表面形状に沿って形成した導電性部材に、水溶性リチウム化合物を含む水溶液を吸水させた高吸水性デンプン類を電解質部材として付着させて、該鉄筋コンクリートと接触させ、鉄筋コンクリートの全部又は一部、並びに導電性部材及び電解質部材を被覆する遮水部材を施し、鉄筋コンクリートの鉄筋を陰極とし、導電性部材を陽極として、両電極に電圧を印加することにより、該塩分を減ずることを特徴とする鉄筋コンクリートの脱塩工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリートの脱塩工法に関するものであり、更に詳しくは、特定の電解質部材を用い、鉄筋コンクリートの鉄筋を陰極として電圧を印加することにより、鉄筋コンクリート内の塩分を減ずる鉄筋コンクリート構造体の脱塩工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造物、プレストレストコンクリート構造物のコンクリートは、アルカリ骨材反応を引き起こす可能性のある骨材を含有している場合があり、また、水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素と反応することによりコンクリートのアルカリ度が低下する場合があり(コンクリートの中性化)、また、海水の飛沫等に含まれる塩分がコンクリート内の鉄筋を腐食する場合があり(塩害)、何れも鉄筋コンクリート構造物の耐久性を低下させるため大きな問題であった。
【0003】
アルカリ骨材反応とは、コンクリート材料として用いる骨材の中に、シリカ成分等の反応性鉱物を多く含有する反応性骨材があり、この反応性骨材と、セメント中のアルカリ成分が反応し、体積膨張を起こす現象であり、アルカリ−シリカ反応とも呼ばれている。
【0004】
コンクリートの中性化とは、セメントの水和反応によって生成された水酸化カルシウムが大気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなる現象であって、コンクリートのpHが通常のpH11〜14より低下する現象である。コンクリートのpHが10以下になると、鋼材の不動態被膜が破壊されて鋼材の腐食が起こる。
【0005】
塩害とは、海水の飛沫、凍結防止剤、細骨材としての海砂等に由来する塩分が、コンクリート中の鉄筋を腐食してコンクリート構造物を劣化させる現象である。
【0006】
そして、アルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の体積膨張、コンクリートの中性化や塩害によるコンクリート内部の鋼材の腐食等によるコンクリート構造物の劣化は、コンクリート内部の鋼材の錆の発生、コンクリートのひび割れの発生、コンクリートの欠落等を引き起こし、強度的にも外見的にも大きな問題となっていた。
【0007】
これら問題の解決のために、特許文献1には、電気化学的手法を応用した塩分除去方法が提案されている。電気化学的手法によるコンクリートの補修工法は、塩分を含有するコンクリートに対して有効であり、コンクリート内部にある鋼材とコンクリート表面に設置した電極との間に、例えばナトリウム又はカリウムの水酸化物等溶液等の電解質溶液を介して直流電流を流すことによって、コンクリート内部の塩分をコンクリート表面の外に取り出すことができる。
【0008】
しかしながら、長期間経過したコンクリートは乾燥しているため、コンクリート内部にはCa(OH)水溶液が極度に減少しており、電流を流すことが困難になる場合がある。そのため、コンクリートに対して、ナトリウムイオンやカリウムイオンを含有する電解質溶液を供給することが必要となるが、それらは直流電流を流すことによってコンクリート中の陰極に引き寄せられて、コンクリート中に浸入したり鉄筋周辺に蓄積したりする。これらは、アルカリ骨材反応を促進するため別の劣化現象を引き起こすことになり、コンクリート構造物の全体的な耐久性を改善するという目的は達成されなかった。
【0009】
これを解決するための技術として、特許文献2には、電解質溶液として水溶性リチウム化合物を含有する溶液を用い、コンクリート内部の鋼材を内部電極とし、コンクリートの表面部に設置した電極を外部電極とし、内部電極と外部電極の間に直流電流を流すコンクリートの再生方法が記載されている。この技術によれば、水溶性リチウム化合物を含有する電解質材料を用いることによって、水溶性リチウム化合物の浸透速度を速めることができ、その結果、脱塩や再アルカリ化という電気化学的処理の時間短縮が可能となり、塩害を受けたコンクリートからの脱塩や、中性化を受けたコンクリートへのアルカリ性の再付与、内部鋼材の不動態被膜の再形成等による鉄筋の防錆効果を高めること等が可能となる。
【0010】
しかしながら、処理の対象であるコンクリート構造物の表面は水平上向き面だけではなく、垂直面や天井面もあるため、液体である電解質溶液を漏らさずに溜める容器を設けることはできず、そこで、電解質溶液を保持材に吸着又は保持させた状態でコンクリート表面に供給する方法が提案されている(特許文献2)。電解質保持材としては、例えば、パルプ、布、不織布、セルロースファイバー等の繊維状物質若しくはそのシート;ゼオライト、シラスバルーン、発泡ビーズ等の無機・有機の多孔質材料;ポリアクリル酸系有機高分子材料;これらを組み合わせたもの等が知られている。
【0011】
しかしながら、シート状のものは、コンクリート表面に固定するだけで使用可能ではあるが、長期間にわたり電流を流している間、水分の蒸発等の問題、電解質溶液を十分な量保持しておくことができない等の問題点があり殆ど使用されていない。また、繊維状物質や多孔質材料は、コンクリートの表面に電解質溶液とともに吹き付けて保持層を形成できるが、ハンドリングが面倒であり、電解質溶液中の水分の蒸発等の問題もあり、垂直面や天井面では自重で落下する場合があり、電解質溶液を十分な量保持しておくことができない等の問題点もあった。
【0012】
また、ポリアクリル酸系有機高分子材料は、微粉体で扱い難く、継子ができてハンドリングが面倒であるという問題点があった。更には、pH11以上の電解質溶液を用いると架橋が切れる等してゲル状態が保てないため、脱塩という電気化学的処理に好適な高アルカリの電解質溶液に適用できず、すなわち、水溶性リチウム化合物として水酸化リチウムが使用できず、実際は亜硝酸リチウム等、高アルカリ性でないものしか使用できない等の問題点があった。
【0013】
鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上の要求は、ますます高くなってきており、かかる公知技術では不十分であり、更なる改善の余地があった。
【0014】
【特許文献1】特開平2−302384号公報
【特許文献2】特開平7−089773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、鉄筋コンクリート構造物の、水平上向き面、水平下向き面、垂直面等を問わず、複雑な形状の場合でも、その形状に応じた施工が可能で、安定した電流密度に設定することができ、通電中の電解質溶液の補充も少なくてすむ脱塩工法を提供することにある。更には、塩害を受ける環境下にある鉄筋コンクリート構造物に対して効果的で、また、高pHにしても分解を起こさず性状を保つことができる電解質部材を用いた脱塩工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討を行った結果、特定の電解質溶液と特定の保持材を含む電解質部材、並びに遮水部材を用いることにより、前述の課題を解消したコンクリート構造物の脱塩処理が行い得る知見を得て本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、塩分を含有する鉄筋コンクリートの表面形状に沿って形成した導電性部材に、水溶性リチウム化合物を含む水溶液を吸水させた高吸水性デンプン類を電解質部材として付着させて、該鉄筋コンクリートと接触させ、鉄筋コンクリートの全部又は一部、並びに導電性部材及び電解質部材を被覆する遮水部材を施し、鉄筋コンクリートの鉄筋を陰極とし、導電性部材を陽極として、両電極に電圧を印加することにより、該塩分を減ずることを特徴とする鉄筋コンクリートの脱塩工法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えばpHが11を超える電解質溶液中でも電解質部材を構成する保持材のポリマー構造に変化を生じて吸水性能が低下することがない。従って、水酸化リチウム(LiOH)等の高アルカリ性の水溶性リチウム化合物が使用でき、それによって鉄筋の腐食がより防げる。また、保持材としての高吸水性デンプン類の粒子径が比較的大きいためハンドリング性が良く、また水溶液との相容性も良い。
【0019】
更に、後述するように、遮水部材を、図1又は図2のように電解質溶液を囲むようにして設けることによって(以下、「A方式」と略記する)、電解質溶液を吸水させた高吸水性デンプン類は、自重で落下して、空気の巻き込みのない均一でフラットな電解質部材が形成されやすく、また、水分補給が少なくてよいという効果があり、特に、塩害を受ける環境下にある鉄筋コンクリート構造物の脱塩素が効果的にできる。
【0020】
更に、本発明はA方式に好適であるので、特にA方式に適用させることによって、鉄筋コンクリート構造物の表面が、水平上向き面に限らず、水平下向き面、垂直面等であっても適用可能であり、電解質溶液の漏洩がなく、水分の蒸発も小さく、周辺の構造物への負荷を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の具体的形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲内で任意に変形することができる。
【0022】
<電解質部材>
<<水溶性リチウム化合物>>
本発明の鉄筋コンクリートの脱塩方法では、水溶性リチウム化合物を含有する電解質溶液を用いて電圧を印加する。一般に、コンクリートのセメントペースト中にある直径10nm〜10μm程度の連通空隙である毛細管空隙は電荷を帯びており、しかも、間隙水が強固に吸着している。そして、コンクリート中の1つの空隙に注目してみると、空隙内にある間隙水は毛細管表面との誘電率の差により正に帯電している。このため、正に帯電しているイオンの自然状態での拡散は、この電位に阻まれて、負に帯電しているイオンに比べるとかなり遅くなる。しかし、本発明のように、電圧を印加する方法においては、電気的なエネルギーによって、正に帯電しているイオンであっても、正に帯電している空隙と空隙の間を速やかに移動することができる。従って、コンクリートに電圧を印加することにより、リチウムイオンをコンクリートの表面から内部にまで浸透させることが可能となる。また、塩害とアルカリ骨材反応の複合劣化に対しては未解明な部分はあるが、リチウムイオンはアルカリ骨材反応を抑制することができる。
【0023】
水溶性リチウム化合物としては、20℃で水に1質量%以上溶解するものであれば特に限定はないが、具体的には、例えば、水酸化リチウム;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;硝酸リチウム、亜硝酸リチウム、塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、リン酸リチウム、硫酸リチウム、亜硫酸リチウム、ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、炭酸リチウム等の無機酸リチウム;酢酸リチウム、ピルビン酸リチウム、修酸リチウム、乳酸リチウム、クエン酸リチウム等の有機酸リチウム;水素化リチウム;水素化リチウムアルミニウム;水素化ホウ素リチウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。なお、結晶水のあるものを用いてもよい。
【0024】
このうち、水酸化リチウム(LiOH)又は炭酸リチウム(Li2CO3)が好ましい。また、本発明において、水溶性リチウム化合物と共に電解質部材を構成する保持材としての高吸水性デンプン類は、他の吸水性の架橋樹脂より、高アルカリ性(pHが11以上)でも比較的変質し難いため、高アルカリ性の水酸化リチウムが特に好ましい。本発明においては、水溶性リチウム化合物として水酸化リチウムが使用できるため、コンクリート内部のpHを、コンクリート中の鋼材の腐食の防止に適した高アルカリ性に保つことができる。また、リチウム含有率の高い水溶液を作ることは、優れた電解質部材を調製する上で重要であるが、水や電解質溶液に対する溶解度・溶解速度の点からも、水酸化リチウム(LiOH)が特に好ましい。電解質溶液は、1水塩(LiOH・H2O)を水に溶解させて好適に得ることができる。
【0025】
水溶性リチウム化合物に併用する形で、本発明の効果を損なわない範囲で上記した水溶性リチウム化合物以外の「他の水溶性塩」を用いることもできる。「他の水溶性塩」としては特に限定はないが、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の、水酸化物;ハロゲン化物;硝酸塩、亜硝酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、修酸塩、乳酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩;炭酸グアニジン、ヒドロキシルアミン、クロルアミン、水酸化テトラアルキルアンモニウム等の窒素化合物等が挙げられる。その中でも、水酸化物、炭酸塩又は亜硝酸塩が特に好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
水溶性リチウム化合物が溶解した電解質溶液のpHは特に限定はないが、アルカリ骨材反応の場合、コンクリートの中性化の場合及び塩害の場合、何れも、コンクリート内部の20℃でのpHが10を下まわると、コンクリート中の鋼材が腐食し始めたりするので、pH10以上が好ましく、pH11以上が特に好ましい。ただし、アルカリ骨材反応と塩害の場合には、コンクリート内部のアルカリ度が十分に高いことも多く、pHが6〜10程度の電解質溶液を用いても、コンクリート内部のpHが10以下に低下するおそれのないときは、pHが6〜10の電解質溶液の使用も可能である。しかし、電解質溶液のpHが10以下に低下すると塩素ガスが発生するという問題があり、本発明においては、保持材として用いる高吸水性デンプン類が高アルカリ性でも変質しないため、上記塩素ガス発生の抑制、コンクリート中の鋼材の腐食の防止を考慮すれば、pH10以上がより好ましく、pH11以上が特に好ましい。
【0027】
本発明において、コンクリート内部の電極を負極に、コンクリート表面の電極を正極にして、直流電圧を印加すると、すなわち直流の電流を流すと、コンクリート表面部に供給された電解質部材中の陽イオンが負極に引き寄せられるように移動して行く。一方、コンクリート中に存在する塩素イオン等の陰イオンはコンクリート表面の正極に引き寄せられ、コンクリート中から除去される。この際の塩素イオン等の陰イオンの移動速度は、陽イオンの移動速度より数倍から数10倍程度大きいので、リチウムイオンがコンクリート内部へ移動すると、塩素イオンは外部へと容易に移動して脱塩が達成される。
【0028】
<<保持材>>
本発明の鉄筋コンクリートの脱塩方法では、水溶性リチウム化合物を含む水溶液を、保持材である高吸水性デンプン類に吸水させたものを電解質部材として用いる。すなわち、水溶性リチウム化合物が溶解した電解質溶液は、保持材に吸収されて電解質部材を形成するが、本発明では、その保持材として高吸水性デンプン類を用いることが必須である。
【0029】
「高吸水性デンプン類」とは、水を吸収して内部に保持する能力が高いデンプン類をいう。高吸水性デンプン類としては、かかるものであれば特に限定はないが、デンプン及び/又はデンプン誘導体を架橋させたデンプンゲルであることが、水を吸収して内部に保持する能力が特に高く、後述する遮水部材との組み合わせで自重により落下し難く、また、高アルカリ性でも架橋が切断されないため、コンクリート中の鋼材の腐食を抑制できる高アルカリ性の電解質溶液が使用できる点で好ましい。「デンプン及び/又はデンプン誘導体を架橋させたデンプンゲル」等の高吸水性デンプン類は、1gの乾燥品が30g以上の水を吸収するものであることが好ましい。より好ましくは50g以上、特に好ましくは70g以上の水を吸収するものである。
【0030】
高吸水性デンプン類としては、特開2003−048997号公報に記載のものを好適に用いることができる。しかし、例えば、アルカリ性の水溶液又は塩分を含んだ水溶液中でも架橋が破壊される等してポリマー構造に変化を生じて吸水性能が低下し難いものであれば、これらに限定されるものではない。
【0031】
上記デンプンとしては特に限定はなく、トウモロコシ、コメ、ジャガイモ、タピオカ、サツマイモ等から得られるものが好適に用いられる。また、その分子量も特に限定はされない。
【0032】
上記デンプン誘導体としては、架橋してゲル状になり易く、高吸水性のゲルを形成するものであれば特に限定はないが、カルボキシメチルデンプン(以下、「CMS」と略記する場合がある)等が特に好ましい。CMSの場合、カルボキシメチル基の平均置換度は、グルコースの水酸基3個中、0.05個から2個のものが、水に対する溶解性、ゲル化のし易さ等の点から特に好ましい。
【0033】
CMSとデンプンのブレンド比(デンプン質量/CMS質量)は、1/5〜5/1が好ましく、1/3〜3/1がより好ましく、1/2〜2/1が特に好ましく、1/1.5〜1.5/1が更に好ましい。デンプン単独で、電磁波又は電子線の照射を行った場合、分解が起き粘度低下を引き起こすが、CMSと混合して照射を行うと、デンプン自身も架橋反応を起こし、CMS単独の照射よりもゲル分率が高く、高吸水性ゲルが得られる。CMSが少な過ぎると架橋反応が起こり難い場合があり、一方、CMSが多過ぎても架橋反応が起こり難かったり、価格的に不利になったりする場合がある。
【0034】
デンプン及び/又はデンプン誘導体を架橋させたデンプンゲルの製造方法は特に限定はないが、デンプン及び/又はデンプン誘導体に水を添加してペースト状態にし、そこに電磁波又は電子線を照射する製造方法が好ましい。
【0035】
以下、デンプンと、デンプン誘導体としてCMSとを用いた場合の特に好ましいデンプンゲルの製造方法を示すが、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。CMSは10質量%以上の水溶液のとき、電磁波又は電子線を照射すると橋かけ反応が起き、高吸水性ゲルになる。20質量%〜60質量%のCMS水溶液(ペースト状)に照射することが好ましい。60質量%より高濃度では水が均一に分散しないため架橋が起きにくい場合がある。デンプンを併用する場合でも、CMSとデンプンの全濃度が20質量%〜60質量%の状態で架橋させることが好ましい。
【0036】
まず、CMSとデンプンを前記ブレンド比の範囲となるようブレンドし、更に所望の濃度になるように水を添加して、これらを溶解することができる温度で良く混ぜることにより濃厚液を調製する。次に、このようにして得られたデンプンとCMSを含む濃厚液に、電磁波又は電子線を照射することによって架橋させることによってゲルが得られる。ここで、電磁波としてはγ線又はX線が好ましい。γ線は、工業的生産性の点でコバルト60からのものが好ましい。電子線としては加速器からのものが好ましい。電子加速器は厚物の照射ができる加速電圧1MeV以上の中エネルギーから高エネルギー電子加速器が特に好ましい。線量は0.1〜1000kGyであることが好ましい。
【0037】
照射後得られたゲルを凍結乾燥し、例えば50℃真空乾燥器中で恒量になるまで乾燥する。乾燥した試料を、例えば200メッシュのステンレス篩に入れ、多量の水に浸漬する。架橋していない溶解成分は水側に移るため、ゲルのみが篩上に残る。ゲルを包含したステンレス篩をメタノール中に浸漬し、その後乾燥する。
【0038】
本発明の鉄筋コンクリートの脱塩方法において、上記高吸水性デンプン類は、ゲル分率が大きく、水の吸収量が著しく大きい。従って、保持材として、パルプ等の繊維状物質若しくはそのシート、ゼオライト等の多孔質材料、ポリアクリル酸系有機高分子材料等に比較して、多くの水を保持でき、電解質溶液の漏洩がなく、水分の蒸発も少ないため、長期間の通電が必要な鉄筋コンクリートの脱塩に好適である。
【0039】
また、ポリアクリル酸系有機高分子材料のように高アルカリ性(pHが11以上)で架橋が切れて吸水能力が著しく低下する等の変質が起こらないので、高アルカリ性の電解質溶液をそれに吸収させることが可能となる。そして、高アルカリ性の電解質溶液が使用できることにより、鉄筋等の腐食を防止できる等の効果を奏することができる。
【0040】
更に、保持材として高吸水性デンプン類を用いると、陽極であるため電気的腐食が激しい導電性部材の導線の線径を小さくでき、作業性が向上しコスト的にも有利になる。
【0041】
また、保持材として高吸水性デンプン類を用いると、適度な流動性が得られ、重力等による自己充填性が良好であるため、後述するA方式に特に好適に使用される。
【0042】
また、土壌中の微生物により分解されるため環境負荷が小さく、分解後は肥料として活用できるので資源循環型の材料でもある。脱塩処理後の電解質部材には薬品類が含まれているため適切な処理が必要ではあるが、本発明の脱塩工法の施工現場では、作業中に高吸水性デンプン類がこぼれたり、飛散したりするので、その点で環境負荷が小さい高吸水性デンプン類は有利である。
【0043】
電解質溶液の保持材としては、上記の高吸水性デンプン類以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の水溶性ポリマーや水膨潤性架橋ポリマーを併用することもできる。これらは保持材全体に対して、好ましくは0質量%〜20質量%、より好ましくは0質量%〜10質量%の範囲で、高吸水性デンプン類と共に用いられる。
【0044】
<<電解質部材中の配合比>>
水溶性リチウム化合物と水の配合比は、その溶解度に応じて決められるが、飽和水溶液に近いものが好ましい。水溶性リチウム化合物が少な過ぎると、電解質溶液に含まれるリチウムイオンの量が少なくなり、通電に十分な電解質溶液にならない場合があり、一方、水溶性リチウム化合物が多過ぎると、過剰な水溶性リチウム化合物等が沈殿して無駄になる。特に、上記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムの場合又は水酸化リチウムを含有する場合には、水酸化リチウムが少な過ぎると、pHが10を下回るので、前記した問題が生じる場合がある。
【0045】
水溶性リチウム化合物と高吸水性デンプン類との配合比は特に限定はないが、高吸水性デンプン類100質量部に対して、水溶性リチウム化合物を30質量部〜300質量部が好ましく、50質量部〜200質量部がより好ましく、60質量部〜150質量部が特に好ましい。水溶性リチウム化合物が少な過ぎても、逆に、高吸水性デンプン類が少な過ぎても、本発明の前記効果を得ることができない場合がある。
【0046】
水溶性リチウム化合物水溶液を調製しておき、それを高吸水性デンプン類に含浸させて電解質部材を調製する場合には、上記したように、水溶性リチウム化合物と水の配合比は飽和水溶液の配合比に近いものが好ましいので、水溶性リチウム化合物と高吸水性デンプン類の配合比は、水溶性リチウム化合物水溶液と高吸水性デンプン類の配合比によって決まる。水溶性リチウム化合物水溶液が少な過ぎると、水が少ないことになるので、電解質部材等投入部から投入できるような作業性が得られなくなる場合がある。一方、水溶性リチウム化合物水溶液が多過ぎると、高吸水性デンプン類を用いるメリットがなくなる場合がある。
【0047】
高吸水性デンプン類1質量部に対して、水を3質量部〜30質量部加えて電解質部材とすることが好ましく、水を4質量部〜20質量部加えることがより好ましく、6質量部〜15質量部加えることが特に好ましい。水が少な過ぎると、高吸水性デンプン類の流動性がなくなる場合があり、一方、多過ぎると、高吸水性デンプン類を用いる本発明の効果がなくなる場合がある。
【0048】
<<電解質部材中のその他の添加剤>>
電解質部材中にはその他の添加剤を加えることができる。その他の添加剤としては、防腐剤、無機系の増粘剤等が挙げられる。その他の添加剤は本発明の効果が得られる範囲で用いられる。
【0049】
<遮水部材>
遮水部材は、鉄筋コンクリートの全部又は一部、並びに導電性部材及び電解質部材を被覆するように施工される。遮水部材は、電解質部材が自重で落ちないように保護する、電解質部材が常に鉄筋コンクリート表面及び導電性部材に接しているように保持する、風雨等から保護する、水分の蒸発を防ぐ等のために設置される。遮水部材はシート状であることが上記のために好ましく、その材質は特に限定はないが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマーが好ましい。遮水部材で囲まれた部分の上部付近には、電解質部材、水、pH調節用の水溶液等を投入する電解質部材等投入部を設けることが好ましい。また、導電性部材が突き出るようにしておくことが好ましい。更に、通電開始直後には電気分解により、導電性部材(陽極側)からは酸素が発生するが、発生した酸素を逃がすようにしておくことが好ましい。
【0050】
<脱塩工法の構造>
本発明の鉄筋コンクリートの脱塩工法においては、鉄筋コンクリートの表面形状に沿って形成した導電性部材に上記電解質部材を付着させて該鉄筋コンクリートと接触させ、更に、遮水部材を施し、鉄筋コンクリートの鉄筋を陰極とし、導電性部材を陽極として、電圧を印加する。
【0051】
本発明の鉄筋コンクリートの脱塩工法は、A方式、パネル取付方式、ボンディング方式の何れにも適用可能である。「A方式」とは、遮水部材を図1又は図2のように電解質溶液を囲むようにして設けることによって、電解質部材を自重で落下させて閉じ込める方式をいう。前記したように、電解質溶液を吸水させた高吸水性デンプン類を用いた本発明の脱塩方式は、A方式に特に好適に使用されるが、パネル取付方式やボンディング方式にも使用することができ、その場合には、電解質溶液の蒸発速度を遅くする効果がある。
【0052】
上記の遮水部材としては、A方式においては、図1や図2に示したようなシート状のものが用いられ、パネル取付方式においては、シート状ではなくプラスチック平板が用いられ、コンクリート表面をプール状に囲って電解質溶液を溜める方式であるボンディング方式においては、プール状に囲う堰状のものが用いられる。
【0053】
本発明の脱塩工法を、その施工に関し、A方式を例にとり模式的に示した図1及び図2を用いて説明する。鉄筋11を内部に有する鉄筋コンクリート10が本発明の脱塩工法の対象である。本発明において「鉄筋コンクリート」とは、実際に鉄を用いたもののみならず、PC鋼材等を用いたものもその中に含まれる。鉄筋コンクリート10に埋設されている鉄筋11、PC鋼材、その他コンクリートに埋め込んだリード線等は、直流電源18の陰極12につながれている。
【0054】
一方、鉄筋コンクリート10の表面形状に沿って、導電性部材13が形成され、導電性部材13は直流電源18の陽極17につながれている。導電性部材13は陽極であるため、電気的な腐食作用が働く。本発明の脱塩工法では、導電性部材13を構成する導線の材質に特に限定はないが、電流を流す期間が比較的長いため、普通の鉄筋・金網等も使用可能ではあるが、電気的な腐食作用によりコンクリート表面に多量の赤錆が付着するため、これを除去するには多大な労力とコストがかかること、また、資源の再利用等を考えると、通電しても腐食し難いものが好ましい。具体的には、例えば、チタン、チタン合金、白金等が挙げられる。また、チタン、チタン合金、白金等でメッキされた金属;炭素繊維、炭素棒等の炭素材料;導電性を有する有機高分子等が挙げられる。チタン、チタン合金、白金、炭素材料、有機高分子等は電気的な腐食に対して安定であるためより好ましい。導電性を有する有機高分子の体積電気抵抗率は、10Ω・cm以下が好ましく、10Ω・cm以下がより好ましく、10Ω・cm以下が特に好ましい。
【0055】
上記導電性部材13は網目状のものであることが、電流が隅々まで通じて脱塩処理の効果が得られる点で好ましい。また、網状であれば、鉄筋コンクリート10の表面形状に沿って、形状を変えられるので施工が容易となる。更に、導電性部材13は、導線が200mm以下の間隔で組まれた網目状のものであることが、脱塩処理の効果がより得られる点でより好ましい。特に好ましい導線の間隔は150mm以下であり、100mm〜50mmが更に好ましい。導電性部材13を構成する導線の線径(断面の直径)は特に限定はないが、例えば導線の材質がチタンの場合、電食を考慮した十分な線径としては、5mm〜10mmが好ましい。ただし、保持材として高吸水性デンプン類を用いた場合、セルロースファイバーに電解質溶液を浸み込ませて吹き付けた場合に比較して、陽極である導電性部材13が通電による損傷を受け難いので、導電性部材13を構成する導線の線径を細く設定できて好適である。本発明の場合、2mm〜8mmが好ましく、2mm〜5mmが特に好ましい。
【0056】
導電性部材13の全体形状は図1に示すように平面状でもよいし、図2に示すように、鉄筋コンクリート10の構造体の形状に沿って曲がっていてもよい。鉄筋コンクリート10の表面から導電性部材13までの距離は特に限定はないが、10mm〜100mmが好ましく、20mm〜50mmが特に好ましい。
【0057】
遮水部材15は、鉄筋コンクリート10の全部又は一部、並びに導電性部材13及び電解質部材14を被覆するように施されている。遮水部材15としては、A方式においてはシート状のものが用いられ、パネル取付方式においてはプラスチック平板が用いられる。
【0058】
遮水部材15はシート状であることが電解質部材14を被覆するために好ましい。シート状の遮水部材15は、鉄筋コンクリート10の表面に接着剤等で固定するだけで使用することが可能であり、電解質溶液の蒸発を遅くすることが可能となる。また、シート状であれば、鉄筋コンクリート10の表面形状に関わりなく使用することができる。遮水部材15は、水溶性リチウム化合物の水溶液を吸水させた高吸水性デンプン類を鉄筋コンクリート10の表面に保持するだけでなく、電解質溶液の蒸発を遅くし、また雨水等の浸入も防ぐことができる。電解質部材14の厚さ、すなわちコンクリート表面から遮水部材15までの距離は特に限定はないが、30mm〜100mmが好ましく、40mm〜80mmが特に好ましい。
【0059】
遮水部材15で囲まれた部分の上部付近には電解質部材等投入部16を設けることが好ましく、そこから電解質部材14、水、pH調節用の水溶液等を投入する。また、電解質部材等投入部16からは導電性部材が突き出るようにしておくことが好ましく(図示せず)、通電により陽極側である導電性部材13から発生した酸素を逃がすようにしておくことが好ましい。
【0060】
本発明で使用する陰極12としては、鉄筋コンクリート10に埋設されている鉄筋やPC鋼材を使用する。また、これにPC鋼材等を接続することもでき、コンクリート内に埋め込んだリード線等を使用することも可能である。
【0061】
<脱塩方法>
本発明の脱塩方法における電流密度及び通電期間は特に限定はないが、土木学会編「電気化学的防食工法 設計施工指針(案)」の通り、約1A/m前後、約8週間前後の通電が最も好ましい。電流密度が小さすぎたり通電期間が短すぎると脱塩の効果が得られない場合があり、一方、電流密度が大きすぎたり通電期間が長すぎると、鉄筋コンクリートの内部にある鋼材の付着強度低下や水素脆性等の問題が起こる場合があり、また危険性も増大しコスト的にも無駄となる場合がある。また、事前に対象となる鉄筋コンクリート構造物に含まれる塩化物イオン濃度の調査を行い、通電条件の設定をすることが好ましい。
【0062】
本発明において、コンクリート内部の鉄筋等を負極に、コンクリート表面の電極を正極にして直流を流すと、電解質部材中の陽イオンがコンクリート内部に移動して行き、コンクリート中に存在する塩素イオン等の陰イオンはコンクリート表面に移動してコンクリート中から除去される。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
実施例1
<鉄筋コンクリートの作製>
表1に記載したように、普通ポルトランドセメント(Nセメント)360質量部、細骨材(海砂と砕砂)820質量部、粗骨材(砕石)896質量部、水道水180質量部、混和剤(高性能AE減水剤)2.92質量部、及び塩化ナトリウム15質量部をミキサーで十分に練り混ぜた。なお、塩化ナトリウムは、水道水に溶かして、コンクリート1mあたり外割りで15kgとなるように添加した。
【0065】
型枠にて、800mm×800mm×1480mmの鉄筋コンクリート柱を成形した。材令7日で脱型して、28日まではプラスチックシートで覆って養生した。試験体の中央部に、長さ方向に沿って、コンクリート部分の一部を2箇所で削り取り、鉄筋を露出させた。これに家庭用125V−15Aの裸リード線を接続して陰極とした。
【0066】
【表1】

表1の中、混和剤だけは計量後水に投入したため、水180kgの中には混和剤の質量も含まれている。
【0067】
<導電性部材の設置>
一方、鉄筋コンクリートの脱塩施工部に対して、導電性部材として、線径3mmのチタン製の導線を140mmの間隔で正方形に組んだ金網を用い、それをコンクリート表面から30mmの間隙をあけるように、プラスチックスペーサを介して鉄筋コンクリート表面に沿ってセットした。チタン製の金網は、網を形成する導線を延長して、下記する電解質部材等投入部16から遮水部材15の外に出し、リード線を接続して、陽極側の直流電源に接続した。なお、チタン製の金網は、鉄筋コンクリート表面の、800mm×1250mm(=1m)の部分にセットしたので、その部分が脱塩の対象となる。
【0068】
<遮水部材の設置>
次いで、チタン製の金網を塩化ビニルのシート状の遮水部材で包み、遮水部材の端部をコンクリート表面に接着剤で接着した。更に、上部に電解質部材等投入部16を設けた。
【0069】
<電解質部材の調製と注入>
水溶性リチウム化合物として水酸化リチウム1水塩(LiOH・H2O)5kgを、水道水50kgに加えて溶解させた。この電解質溶液のpHは11.54であった。ここに、高吸水性デンプン類として、デンプンとCMSを架橋させたデンプンゲル(日本原子力研究開発機構製「ハイドロゲル」)5kgを加え混合した。
【0070】
上記で得られた電解質部材を、電解質部材等投入部16から、遮水部材で囲まれた部分の中にポンプで注入した。こうして、導電性部材としてのチタン製の金網を電解質部材で包み、その電解質部材がコンクリートに接触しており、更に、全体が遮水部材で包み込まれた容器を作製した。電解質部材の厚さ、すなわちコンクリート表面から遮水部材までの距離は、場所によって多少異なるが、約50mmとした。
【0071】
<通電による脱塩>
導電性部材13(チタン製の金網)を陽極とし、鉄筋11を陰極とし、その間に鉄筋コンクリート表面の表面積に対して1A/mの直流電流を8週間流した。この時、電流値が一定に保持できるように、自動制御によって電流を制御した。また、常に電解質部材のpHを10以上に保つように、また、蒸発した水分の補給のために、上記電解質溶液を適宜追加した。
【0072】
実施例2
実施例1において、塩化ナトリウム15質量部を塩化ナトリウム7質量部に代えた以外は実施例1と同様に実験を行った。
【0073】
<評価方法>
脱塩処理後(8週間通電後)に、導電性部材(陽極)である金網を設置したコンクリート面の鉄筋に最も近いコンクリート部から試料を採取した。この試料を「脱塩試料」と略記する。また、脱塩処理(通電)をしていないコンクリートから試料を採取した。この試料を「未脱塩試料」と略記する。
【0074】
それぞれの塩素イオン量、リチウムイオン量及びナトリウムイオン量を測定した。塩素イオン量は、JCI−SC4「硬化コンクリート中に含まれる塩分の分析方法」、リチウムイオン及びナトリウムイオンは、JIS R5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」によった。
【0075】
<評価結果1>
実施例1において、未脱塩試料の塩素イオン量は0.392質量%であった。この塩素イオン量は、コンクリート1mあたり、8.88kg含有されていることが分かった。一方、実施例1の脱塩試料の塩素イオン量は0.111質量%であった。上記と同様に換算すると、コンクリート1mあたり、2.51kg含有されていることが分かった。
【0076】
実施例2において、未脱塩試料の塩素イオン量は0.184質量%であった。上記と同様に換算すると、コンクリート1mあたり、4.16kg含有されていることが分かった。一方、実施例2の脱塩試料の塩素イオン量は0.051質量%であった。上記と同様に換算すると、コンクリート1mあたり、1.15kg含有されていることが分かった。
【0077】
実施例1、実施例2の何れでも、本発明の脱塩工法によって、約28%にまで塩素イオン量が減少していた。通電中、コンクリート垂直面から自重で落下することもなく、電解質溶液の漏洩がなく、蒸発も極めて少なかったため、電解質溶液の補充は少量で済んだ。pHが11を超える「水酸化リチウムを溶解した電解質溶液」であったが、保持材として用いた高吸水性デンプン類は、架橋が切れることもなく、吸水性能が低下することもなく、最初のゲル状態を保った。また、高吸水性デンプン類は継子にもならずハンドリング性が良かった。
【0078】
また、塩化ナトリウムを含有させたコンクリートで脱塩の効果が認められたことから、特に、塩害を受ける環境下にある鉄筋コンクリート構造物の脱塩に有効であることが分かった。実施例1及び実施例2のように、塩化ナトリウムを故意に多量に内部にまで含有させたコンクリートにおいてすら、Clイオン換算で、コンクリート1mあたり2.51kg(実施例1)、1.15kg(実施例2)にまで減少できた。土木学会による腐食発生限界濃度の標準値は、Clイオンに換算して、コンクリート1mあたり1.2kgである。実施例1でも、電流密度の値を上げたり、通電期間を延長したりすれば、コンクリート1mあたり1.2kg以下にできることは明らかである。
【0079】
<評価結果2>
実施例1において、脱塩試料のLi/Na(モル比)は0.811であった。これより、水酸化リチウム(LiOH・HO)水溶液を用いると、アルカリ骨材反応が起こる可能性のあるコンクリートに本発明の脱塩工法を適用しても問題がないことが分かった。
【0080】
<評価結果3>
水酸化リチウム(LiOH・HO)水溶液を含浸させたセルロースファイバーをコンクリート表面に吹き付ける従来の方法では、本発明の前記効果が得られなかった。しかも、セルロースファイバーは極めて嵩高く、これに溶液を含浸させることは、極めて大変な作業であった。更に、実施例1、2と同様、電流密度を1A/mに保ち直流電流を8週間流そうとしたところ、通電開始後、842時間(約5.0週間)で、電食により、導電性部材として用いた線径3mmのチタン製の導線2本のうち1本の支柱が破断し、1298時間(7.7週間)後には残りの支柱も破断した。一方、実施例1、2では、同じ導電性部材が何等の損傷も受けていなかった。これより、高吸水性デンプン類を用いると、導電性部材(陽極材)の線径を小さくでき、作業性やコストが有利になることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
鉄筋やPC鋼材を補強材とする鉄筋コンクリート構造物、プレストレストコンクリート構造物のコンクリートは、塩素イオンを含有することによる塩害等の問題があったが、本発明の脱塩工法を用いると、これを除去して補修することが可能であるため、コンクリートの耐久性向上に広く利用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の脱塩方法における施工例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の脱塩方法における別の施工例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0083】
10:鉄筋コンクリート
11:鉄筋
12:陰極
13:導電性部材
14:電解質溶液と保持材を含む電解質部材
15:遮水部材
16:電解質部材等投入部
17:陽極
18:直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分を含有する鉄筋コンクリートの表面形状に沿って形成した導電性部材に、水溶性リチウム化合物を含む水溶液を吸水させた高吸水性デンプン類を電解質部材として付着させて、該鉄筋コンクリートと接触させ、鉄筋コンクリートの全部又は一部、並びに導電性部材及び電解質部材を被覆する遮水部材を施し、鉄筋コンクリートの鉄筋を陰極とし、導電性部材を陽極として、両電極に電圧を印加することにより、該塩分を減ずることを特徴とする鉄筋コンクリートの脱塩工法。
【請求項2】
上記水溶性リチウム化合物が水酸化リチウムである請求項1に記載の脱塩工法。
【請求項3】
上記高吸水性デンプン類が、デンプン及び/又はデンプン誘導体を架橋させたデンプンゲルである請求項1又は請求項2に記載の脱塩工法。
【請求項4】
上記遮水部材がシート状のものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の脱塩工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−126728(P2009−126728A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300905(P2007−300905)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000225083)敦賀セメント株式会社 (2)
【Fターム(参考)】