説明

鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造

【課題】 削孔径が小さいにも拘わらず、必要十分な定着性能を有し、特に、材料費及び加工費を低減させると共に、付着力が存在しない箇所を最小限にとどめることが可能な鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を提供する。
【解決手段】 鉄筋コンクリート構造物60の一側から他側へ向かって削孔された補強部材挿入孔10と、補強部材挿入孔10内に挿入するせん断補強部材20と、補強部材挿入孔10内へ充填する充填材30とからなる。補強部材挿入孔10は、鉄筋コンクリート構造物60の他側に位置する主鉄筋40に付帯した配力筋50の手前側まで削孔され、入口側から奥側まで一様の内径を有している。せん断補強部材20は、鉄筋70と、転造加工により鉄筋70の端部に形成された複数の凹凸部を有する定着体80とからなり、奥側の主鉄筋40に付帯した配力筋50の手前側まで挿入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造に関するものであり、特に、既設鉄筋コンクリート構造物の補強工事に適したせん断補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模地震の発生が懸念される中、既設の鉄筋コンクリート構造物に対する耐震補強のニーズが高まっている。既設の鉄筋コンクリート構造物のせん断耐荷力が不足する場合には、主鉄筋と交差する方向に補強鋼材を追加することで、構造物のせん断耐荷力を増加させなければならない。このような補強工事では、せん断補強部材が確実に定着することが必要であると共に、既設構造物の損傷を最小限とし、さらに容易に施工できることが要求される。
【0003】
従来の一般的なせん断補強構造は、半円形のフックからなるせん断定着部材を構造物中に埋め込むようになっている。しかし、このような半円形フック構造は、補強工事において構造物に設けられた挿入孔内に挿入することが困難であった。そこで、鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造が種々提案されている。
【0004】
例えば、せん断力が作用する既設の鉄筋コンクリート構造物に対するせん断補強構造に関する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1に記載された技術は、既設の鉄筋コンクリート構造物と、この鉄筋コンクリート構造物を貫通するように形成した補強部材挿入孔の内部に配設されるせん断補強部材と、補強部材挿入孔に充填されてなる充填材とからなる。この技術において、せん断補強部材は、線材と、この線材の基端部及び先端部にそれぞれ固定された基端定着部材及び先端定着部材とから構成され、かつせん断補強部材の両端が既設の鉄筋コンクリート構造物の主鉄筋と同等の被りコンクリート厚を確保した状態で配置されている。また、補強部材挿入孔は、線材の直径よりも太く、かつ基端定着部材の幅寸法よりも小さい内径の一般部と、補強部材挿入孔の基端部に形成されて、基端定着部材の幅寸法よりも大きい内径の拡幅部とから構成されている。
【0005】
特許文献2に記載された技術は、既設の鉄筋コンクリート構造物と、この鉄筋コンクリート構造物に形成された有底の補強部材挿入孔の内部に配設されるせん断補強部材と、補強部材挿入孔に充填される充填材とからなる。この技術において、せん断補強部材は、線材と、線材の基端部に固定された基端定着部材とから構成されて、かつせん断補強部材の両端が主鉄筋の位置と同じ深さに配置されている。また、補強部材挿入孔は、線材の直径よりも大きく、かつ基端定着部材の外径又は幅よりも小さい内径の一般部と、補強部材挿入孔の基端部に形成されて、基端定着部材の外径又は幅よりも大きい内径の基端拡幅部とから構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3700980号公報
【特許文献2】特許第3668490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の半円形フック構造からなる定着構造は、半円形フックを有しているため、補強工事において構造物に設けられた挿入孔内に半円形フックを挿入できない場合があり、耐震補強工事への適用が難しい。
【0008】
また、特許文献1に記載された技術は、補強部材挿入孔が鉄筋コンクリート構造物を貫通するように形成されているため、このような貫通孔を形成することができない鉄筋コンクリート構造物に適用することができない。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術は、補強部材挿入孔が基端部から先端部まで一様ではない。すなわち、特許文献2に記載されたせん断補強構造では、補強部材挿入孔の基端部が一般部よりも拡幅しているため、削孔作業に手間を要するという不都合がある。
【0010】
そこで、本発明者等は、削孔径を小さくするため、定着体を多段とした定着構造に関する技術を既に開発している。この技術は、高強度鋼材を用いた多段式定着構造であって、鉄筋端部にテーパーネジ加工を施し、継手部を介して定着体を接合したものである。ところが、このような多段式定着構造とすると、高強度鋼材、接続のための継手部、鉄筋端部へのテーパーネジ加工、締め付けの実施(トルク導入)が必要であり、材料費や加工費を削減するために、さらなる工夫が要求されていた。また、定着体に近接して継手部が存在しており、鉄筋コンクリート構造物に対する継手部付近の付着力が低下するといった課題もあった。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、補強工事において、削孔径が小さいにも拘わらず、必要十分な定着性能を有し、特に、材料費及び加工費を低減させると共に、付着力が存在しない箇所を最小限にとどめることが可能な鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を提供することを目的とする。また、半円形フックを適用できない箇所であっても適用することができると共に、適用対象の制約が少なく、さらに、作業が容易な鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造は、鉄筋コンクリート構造物の一側から他側へ向かって削孔された補強部材挿入孔と、補強部材挿入孔内に挿入するせん断補強部材と、補強部材挿入孔内へ充填する充填材とからなる。そして、補強部材挿入孔は、鉄筋コンクリート構造物の他側に位置する主鉄筋に付帯する配力筋の手前側まで削孔されると共に、入口側から奥側まで一様の内径を有している。
【0013】
また、せん断補強部材は、棒状の鋼材からなる本体部と、当該本体部の先端側又は基端側の少なくとも一方に形成した定着体とからなると共に、その先端部が、鉄筋コンクリート構造物の他側に位置する主鉄筋に付帯する配力筋の手前側まで挿入される。また、定着体には、鋼材を転造治具に対して回転させながら、鋼材の端部周面に転造治具を押し当てることにより、鋼材と一体となった複数の凹凸部が形成されている。例えば、それぞれ対向して配置した複数組の転造ローラーを用いて転造を行うことにより、複数の凹部及び凸部が軸方向に対して交互に並んだ平行タイプの定着体とすることができる。
【0014】
また、鋼材を転造治具に対して軸方向に相対的に移動させながら転造を行うことにより、軸方向に沿ってスパイラル状となった凹部及び凸部が形成された定着体とすることが可能である。例えば、それぞれ互い違いに対向して配置した複数組の転造ローラーを用いると共に、鋼材を転造治具に対して軸方向に相対的に移動さて転造を行うことにより、凹部及び凸部が連続してスパイラル状となった定着体を形成することができる。
【0015】
さらに、充填材は、補強部材挿入孔内へのせん断補強部材の挿入前あるいは挿入後のいずれかの時点で、補強部材挿入孔内に注入される。また、補強部材挿入孔は、少なくとも入口側の内壁面に、目粗し処理を施すことが可能である。さらに、せん断補強部材は、少なくとも基端側に防錆処理を施すことが可能である。
【0016】
なお、本発明で使用する鋼材とは、一般的な調質鋼からなる鋼材だけではなく、非調質鋼も含む概念である。一般的な非調質鋼とは、炭素鋼にバナジウムを添加したものである。すなわち、従来の炭素鋼の調質材は、組織が焼き戻しマンテルサイト相となっているのに対して、非調質鋼は、パーライト相及びフェライト相の混合組織の中に微細なバナジウム炭化物が析出することにより、強度が増している。非調質鋼は、調質鋼と比較して靱性で劣る面もあるが劣るが、本発明で使用する鋼材としては、何ら問題がない靱性を有している。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造によれば、鉄筋コンクリート構造物の一側から、他側に位置する主鉄筋に付帯する配力筋の手前側まで、内径が一様である補強部材挿入孔を削孔する。そして、この補強部材挿入孔内にせん断補強部材を挿入すると共に、充填材を注入する。このように、本発明の鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造では、半円形フックを適用できない箇所であっても施工を行うことができる。また、貫通孔を削孔する必要がないので、補強工事の汎用性を高めることができる。さらに、補強部材挿入孔は内径が一様であるため、削孔作業が容易であり、作業効率を高めることができる。
【0018】
また、せん断補強部材の先端部が、鉄筋コンクリート構造物の他側に位置する主鉄筋に付帯する配力筋の手前側まで挿入されているので、十分な被り厚を確保して耐久性及び安全性を向上させると共に、高い定着性能を得ることが可能となる。
【0019】
さらに、鋼材端部に直接、転造加工を行って複数の凹凸部を形成した定着体を用いることにより、高強度鋼材、継手部等の材料や、テーパーネジ加工、締め付け等の加工工程が不要となり、大幅なコスト削減を行うことが可能となる。また、転造加工の治具押付力を調整することにより、凹部と凸部とのバランスを調整することができ、要求性能に応じて定着性能を調整することができる。また、転造加工は切削加工と異なり鋼繊維を切断しないため、凹部における強度低下が生じない。さらに、鉄筋等からなる棒状の鋼材と定着体とを接続するための継手部が不要となるため、補強筋の全部位において付着力が低下する箇所がなくなり、補強筋全体としての力学的性能を向上させることができる。
【0020】
また、凹凸部がスパイラル状となった定着体とした場合には、充填材を注入する場合に、充填材がスパイラル状となった凹凸部に沿って定着体の隅々まで進入するので、充填材の充填効果を高めることが可能となる。
【0021】
また、補強部材挿入孔の内壁面に目粗し処理を施すことより、さらに定着性能を高めることができる。また、せん断補強部材の基端側に防錆処理を施すことにより、せん断補強部材の腐食を効果的に防止することができる。この防請処理は、特に、せん断補強部材の基端側において被り厚が小さい場合に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を示す模式図。
【図2】本発明の実施例1に係るせん断補強部材を示す模式図。
【図3】本発明の実施例1に係るせん断補強部材の製造方法を示す模式図。
【図4】本発明の実施例2に係るせん断補強部材を示す模式図。
【図5】本発明の実施例2に係るせん断補強部材の製造方法を示す模式図。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を示す模式図。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造の実施形態を説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を示す模式図である。なお、以下に説明する実施形態では、棒状の鋼材として一般的な異径鉄筋について説明するが、鋼材の材質は特に限定されるものではなく、調質鋼の他に非調質鋼を使用してもよい。
【0024】
<せん断補強構造/第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造は、図1に示すように、鉄筋コンクリート構造物60に削孔された補強部材挿入孔10と、補強部材挿入孔10内に挿入するせん断補強部材20と、補強部材挿入孔10内へ充填する充填材30とからなる。
【0025】
補強部材挿入孔10は、非貫通孔であり、補強対象となる鉄筋コンクリート構造物60の一側から他側へ向かって削孔される。さらに詳しくは、補強部材挿入孔10の先端部は、奥側の配力筋50の手前側に位置している。なお、奥側の配力筋50とは、鉄筋コンクリート構造物60の他側に位置する主鉄筋40に付帯して配筋されている配力筋50のことである。また、補強部材挿入孔10の削孔径は、入口側から奥側まで一様となっている。
【0026】
このように、第1の実施形態に係るせん断補強構造では、基端部から先端部まで一様の径となった補強部材挿入孔10が削孔されており、補強部材挿入孔10の先端部は、奥側の配力筋50の手前側に位置している。この補強部材挿入孔10内において、先端側の定着体80が奥側の配力筋50の手前側に位置し、基端側の定着体80が手前側の主鉄筋40と略同一の位置となるように、せん断補強部材20が挿入されている。これにより、せん断補強部材20の先端側において、被り厚が主鉄筋40の被り厚以上となり、せん断補強部材20の基端側において、被り厚が主鉄筋40の被り厚と略同等となる。また、補強部材挿入孔10内には、せん断補強部材20の挿入前あるいは挿入後のいずれかの時点で、充填材30が充填される。
【0027】
せん断補強部材20は、本体部として機能する鉄筋70と、当該鉄筋70の先端側又は基端側の少なくとも一方に形成された定着体80とからなる。すなわち、せん断補強部材20は、鉄筋70の先端側及び基端側の双方に形成してもよいし、鉄筋70の先端側あるいは基端側のいずれか一方のみに形成してもよいが、特に鉄筋70の先端側及び基端側の双方に定着体80を形成することにより、強固な定着性能を発揮することができる。後に詳述するが、本発明の定着体80には、転造加工により鉄筋70の先端部に複数の凹凸部(凹部81及び凸部82)が形成されている。また、上述した補強部材挿入孔10の削孔状態に対応させて、せん断補強部材20の先端部は、奥側の配力筋50の手前側まで挿入される。
【0028】
充填材30は、せん断補強部材20が挿入された補強部材挿入孔10を充填するための部材であり、注入時期は、補強部材挿入孔10内へせん断補強部材20を挿入する前、あるいは挿入した後のいずれの時点であってもよい。充填材30としては、モルタルや樹脂系の接着剤を使用することができる。
【0029】
<せん断補強部材/実施例1>
次に、本発明に係るせん断補強部材の具体的な実施例を説明する。
実施例1のせん断補強部材20は、図2に示すように、本体部として機能する鉄筋70と、鉄筋70の両端部に設けた定着体80とからなる。この定着体80は、図2及び図3に示すように、鉄筋70を転造ローラー90に対して相対的に回転させながら、鉄筋70の端部周面に転造ローラー90を押し当てることにより、鉄筋70と一体となった複数の凹凸部(凹部81及び凸部82)が形成される。
【0030】
実施例1のせん断補強部材20では、鉄筋70の直径よりも小さな直径を有する凹部81と、鉄筋70の直径よりも大きな直径を有する凸部82とが、鉄筋70の軸方向に対して交互に並んでいる。すなわち、第1の実施形態では、鉄筋70の軸方向に対して凸部82が平行に並んだ平行タイプの定着体80となっている。凹凸部(凹部81及び凸部82)を形成するための転造加工は、従来より公知のものであり、ここでは特に説明を行わないが、転造加工は切削加工と異なり鋼繊維を切断しないため、凹部81においても強度が低下することがない。
【0031】
凹部81の軸方向の長さ及び直径、凸部82の軸方向の長さ及び直径は、施工対象となる鉄筋コンクリート構造物60の状態に応じて適宜変更して実施することができる。すなわち、転造ローラー90の幅を調整することにより、凹部81及び凸部82の軸方向の長さを調整することができ、鉄筋70に対する転造ローラー90の押付強度を調整することにより、凹部81及び凸部82の直径を調整することができる。また、定着体80の最大直径(凸部82の直径)は、鉄筋70の直径の1〜1.5倍に設定することが好ましく、これにより、従来の技術と比較して削孔径を小さなものとすることができる。
【0032】
実施例1のせん断補強部材20は、定着体80の最大直径(凸部82の直径)が、鉄筋70の直径の1.3倍程度となっているため、補強部材挿入孔10の基端側に拡幅部を設ける必要がない。また、継手部が存在しないため定着性能が向上し、従来のせん断補強構造と同様の定着性能を得ることができる。
【0033】
<せん断補強部材/実施例2>
図4は、実施例2のせん断補強部材を示す模式図である。また、図5は、実施例2のせん断補強部材の製造方法を示す模式図である。
【0034】
実施例2のせん断補強部材120は、図4及び図5に示すように、鉄筋70を転造ローラー190に対して相対的に回転させながら、鉄筋70の端部周面に転造ローラー190を押し当てることにより、鉄筋70と一体となった複数の凹凸部(凹部181及び凸部182)が形成される。この際、鉄筋70を転造ローラー190に対して軸方向に相対的に移動させながら転造を行うことにより、軸方向に沿ってスパイラル状となった凹凸部(凹部181及び凸部182)が形成される。
【0035】
実施例2のせん断補強部材120は、鉄筋70の直径よりも小さな直径を有する凹部181に対して、鉄筋70の直径よりも大きな直径を有する凸部182がスパイラル状に形成されている。すなわち、第2の実施形態では、鉄筋70の軸方向に対して凸部182がスパイラル状となったスパイラルタイプの定着体180となっている。上述したように、凹凸部(凹部181及び凸部182)を形成するための転造加工は、従来より公知のものであり、転造加工は切削加工と異なり鋼繊維を切断しないため、凹部181においても強度が低下することがない。
【0036】
凹部181の軸方向の長さ及び直径、凸部182の軸方向の長さ及び直径、鉄筋70に対するスパイラルの角度は、施工対象となる鉄筋コンクリート構造物60の状態に応じて適宜変更して実施することができる。すなわち、転造ローラー190の幅を調整することにより、凹部181及び凸部182の軸方向の長さを調整することができ、鉄筋70に対する転造ローラー190の押付強度を調整することにより、凹部181及び凸部182の直径を調整することができる。さらに、転造ローラー190に対する鉄筋70の移動速度を調整することにより、鉄筋70に対するスパイラルの角度を調整することができる。また、定着体180の最大直径(凸部182の直径)は、鉄筋70の直径の1〜1.5倍に設定することが好ましく、これにより、従来の技術と比較して削孔径を小さなものとすることができる。
【0037】
実施例2のせん断補強部材120は、定着体180の最大直径(凸部182の直径)が、鉄筋70の直径の1.3倍程度となっているため、補強部材挿入孔10の基端側に拡幅部を設ける必要がない。また、継手部が存在しないため定着性能が向上し、従来のせん断補強構造と同様の定着性能を得ることができる。
【0038】
<せん断補強構造/第2の実施形態>
図6は、本発明の第2の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を示す模式図である。
第2の実施形態に係るせん断補強構造は、図6に示すように、補強部材挿入孔10の入口側の内壁面に、目粗し処理が施されて粗面200が形成されている点に特徴がある。なお、目粗し処理は、ショットブラスト、ウォータジェット等、公知の方法を用いることができる。
【0039】
このように、第2の実施形態では、補強部材挿入孔10の入口側の内壁面が粗面200となっているため、補強部材挿入孔10の基端側に定着体80を挿入するための拡幅部を設ける必要がない。すなわち、補強部材挿入孔10の内径が一様であり、せん断補強部材20の先端側にのみ定着体80を形成した場合であっても、補強部材挿入孔10の入口側の内壁面を粗面200とすることにより定着性能が向上し、従来のせん断補強構造と同様の定着性能を得ることができる。
【0040】
なお、図6に示す例では、実施例1と同様のせん断補強部材20を用いると共に、せん断補強部材20の先端側にのみ定着体80を形成しているが、せん断補強部材20の基端側にのみ定着体80を形成してもよいし、せん断補強部材20の先端側及び基端側の双方に定着体80を形成してもよいし、実施例2と同様のせん断補強部材120を用いてもよい。
【0041】
<せん断補強構造/第3の実施形態>
図7は、本発明の第3の実施形態に係る鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造を示す模式図である。
第3の実施形態に係るせん断補強構造は、図7に示すように、せん断補強部材20の基端側の被り厚を確保できない場合に好適に用いられるもので、せん断補強部材20の基端側に防錆処理が施されている点に特徴がある。
【0042】
第3の実施形態に係るせん断補強構造では、補強部材挿入孔10が奥側の配力筋50の手前側まで削孔されており、せん断補強部材20の先端部は、奥側の配力筋50の手前側に位置する。したがって、せん断補強部材20の先端側では、十分な被り厚を確保することができる。
【0043】
一方、補強部材挿入孔10の手前側では、せん断補強構造として十分な定着性能を確保するため、せん断補強部材20の基端部が手前側の主鉄筋40の位置よりも手前側に位置する場合も考えられる。この場合には、せん断補強部材20の基端において被り厚が減少するため、せん断補強部材20に錆が発生するおそれがある。このため、第3の実施形態に係るせん断補強構造では、せん断補強部材20の基端側に防錆処理を施すことにより、せん断補強部材20の腐食を防止している。防錆処理は、例えば、せん断補強部材20の外面にエポキシ樹脂を塗布して、エポキシ樹脂層300を形成すればよい。
【0044】
なお、図7に示す例では、実施例1と同様のせん断補強部材20を用いると共に、せん断補強部材20の先端側にのみ定着体80を形成しているが、せん断補強部材20の基端側にのみ定着体80を形成してもよいし、せん断補強部材20の先端側及び基端側の双方に定着体80を形成してもよいし、実施例2と同様のせん断補強部材120を用いてもよい。
【0045】
<他の実施形態>
本発明の鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。例えば、各実施形態を適宜組み合わせてもよい。また、施工対象となる鉄筋コンクリート構造物の構成や状態、予定する補強強度等、種々の要因に応じて最適な定着体の構成を選択して実施することができる。
【0046】
<従来技術との比較>
以上説明したように、従来のせん断補強構造は、鉄筋端部と、定着体の芯材端部にテーパーネジ加工を施し、継手部を介して鉄筋と定着体とを接続するようになっている。このような従来の定着構造では、定着体における付着力は大きいが、継手部の箇所では付着力が極めて弱いか、殆どなかった。なお、鉄筋の箇所では、定着体と比較して付着力が弱いものの、付着力は存在している。
【0047】
これに対して、本発明のせん断補強構造は、定着体において大きな付着力を発揮することができると共に、鉄筋(棒状の鋼材)の箇所においても、定着体と比較して付着力が弱いものの、付着力は存在している。すなわち、本発明の定着構造では、付着力が極めて弱い部分や殆どない部分が存在しないので、設計における要求性能に応じた十分な定着性能を発揮することができる。
【0048】
また、本発明のせん断補強構造では、鋼材の端部に、鋼材直径の1.3倍程度の直径を有する定着体を形成しているため、定着体を挿入するための挿入孔の径を小さくすることができる。このため、補強部材挿入孔の基端側に拡幅部を設けることなく、一様の内径を有する補強部材挿入孔とすることができるので、削孔作業が容易であり、作業効率を高めることができる。また、補強部材挿入孔の径が小さく一様であるため、充填材の使用量を低減することができる。さらに、補強部材挿入孔内に目粗し処理を施すことにより、基端側に定着部材を設けない場合であっても、せん断補強構造として十分な定着性能を引き出すことができる。なお、本発明は、鋼材の材料を特に限定するものではなく、一般的な鋼材を用いた鉄筋だけではなく、ステンレス鉄筋を用いることもできる。さらに、調質鋼だけではなく、非調質鋼を用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 補強部材挿入孔
20、120 せん断補強部材
30 充填材
40 主鉄筋
50 配力筋
60 鉄筋コンクリート構造物
70、170 鉄筋
80、180 定着体
81、181 凹部
82、182 凸部
90、190 転造ローラー
200 粗面
300 エポキシ樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物の一側から他側へ向かって削孔された補強部材挿入孔と、前記補強部材挿入孔内に挿入するせん断補強部材と、前記補強部材挿入孔内へ充填する充填材とからなり、
前記補強部材挿入孔は、鉄筋コンクリート構造物の他側に位置する主鉄筋に付帯する配力筋の手前側まで削孔されると共に、入口側から奥側まで一様の内径を有し、
前記せん断補強部材は、棒状の鋼材からなる本体部と、当該本体部の先端側又は基端側の少なくとも一方に設けた定着体とからなると共に、その先端部が、鉄筋コンクリート構造物の他側に位置する主鉄筋に付帯する配力筋の手前側まで挿入され、
前記定着体は、前記鋼材を転造治具に対して回転させながら、前記鋼材の端部周面に前記転造治具を押し当てることにより、前記鋼材と一体となった複数の凹凸部が形成されており、
前記充填材は、前記補強部材挿入孔内への前記せん断補強部材の挿入前あるいは挿入後のいずれかの時点で、前記補強部材挿入孔内に注入される、
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造。
【請求項2】
前記定着体は、前記鋼材を前記転造治具に対して軸方向に相対的に移動させながら転造を行うことにより、軸方向に沿ってスパイラル状となった凹凸部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造。
【請求項3】
前記補強部材挿入孔は、少なくとも入口側の内壁面に、目粗し処理が施されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造。
【請求項4】
前記せん断補強部材は、少なくとも基端側に防錆処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉄筋コンクリート構造物のせん断補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−140796(P2011−140796A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1721(P2010−1721)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(592155832)ユニタイト株式会社 (17)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】