説明

鉄筋コンクリート構造物の剪断補強方法及び鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造

【課題】コンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担するとともに、剪断補強部材の抜けを防止して、鉄筋コンクリート構造物の剪断補強効果を高める。
【解決手段】既設の鉄筋コンクリート構造物であるボックスカルバート20の側壁24の補強面24aに、第1の脚部12aと第2の脚部12bと第1の脚部12aと第2の脚部12bとを連結する連結部12cとを備えたU字形に屈曲した剪断補強部材12を、2本の主鉄筋26a,26bを跨ぐように、かつ、主鉄筋26a,26bに近接して配置することで、第1及び第2の脚部12a,12bによりひび割れに起因する引張り力を分担させるとともに、剪断補強部材12を主鉄筋26a,26bに引っ掛けることで、剪断補強部材12の抜けを防止できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバート構造物などの剪断力が作用する既設の鉄筋コンクリート構造物の補強方法とその補強構造とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、配管用の地下トンネルや地下通路あるいは暗渠等に広く採用されている既成のカルバート構造物に対して、地震等により壁面に作用する剪断力に対する補強の必要性が指摘されている。
カルバート構造物は地中に埋設されていることから、外壁の外側からの補強を行うには周囲を掘り起こさなければならず、工事が大掛かりになってしまうので、外壁の内側の面から外壁を補強する方法が一般に行われている。
図9に示すように、断面が長方形であるボックスカルバート20においては、地山Gに接している外壁21の剪断力に対する補強がなされる部分は主に側壁24であり、同図の符号24aで示す側壁24の内側の面が補強工事を行う側の面(補強面)となる。なお、同図の符号25で示す隔壁(内壁)にも剪断補強を行う場合もある。
【0003】
図10は、従来のボックスカルバート20の剪断補強方法の一例を示す図で、側壁24の補強面24aに、主鉄筋26と配力鉄筋27との間を、補強面24a側から側壁24の内部、すなわち、側壁24の地山Gに接している側の面24bに向かう方向に延長する長穴51を形成し、この長穴51の内部に、剪断補強部材として、表面にリブなどの凹凸の突起を設けた異形鉄筋52を挿入した後、長穴51と異形鉄筋52との間の空隙にセメントモルタルなどの充填材53を充填して異形鉄筋52を長穴51内に定着させて、異形鉄筋52を側壁24のコンクリートに一体化してボックスカルバート20を剪断補強する。
異形鉄筋52は、側壁24の補強面24aにほぼ垂直な方向に挿入されているので、剪断力によりコンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担することができる。したがって、異形鉄筋52を側壁24に所定の間隔で多数本配置することで、ボックスカルバート20の剪断耐久力を向上させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−113673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記異形鉄筋52は直線状の補強部材であるため、コンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担することはできるものの、異形鉄筋52の付着強度を上回る引張り力が作用すると、異形鉄筋52がひび割れで分割された片側のコンクリートから抜け出してしまう、いわゆる鉄筋抜けが生じてしまい、その結果、補強部材としての効力を失ってしまうことがあった。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、コンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担するとともに、剪断補強部材の抜けを防止して、鉄筋コンクリート構造物の剪断補強効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に記載の発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物と、この既設の鉄筋コンクリート構造物の補強面から内部に向かって延長するように形成された補強部材挿入穴と、この補強部材挿入穴の内部に挿入される剪断補強部材と、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填された充填材とを備えた鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、前記剪断補強部材は、U字形もしくはJ字形に屈曲して、当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋の1本もしくは複数本を跨ぐように前記補強部材挿入穴に挿入・固定され、前記剪断補強部材の前記補強部材挿入穴に挿入されている部分を連結している屈曲部が前記補強面よりも内部に埋設されていることを特徴とする。
このように、U字形もしくはJ字形の剪断補強部材を既設鉄筋を跨ぐように配置するようにしたので、既成鉄筋の補強面側については、新たに鉄筋コンクリート部材を作る時と同様に、剪断補強部材を直接もしくはコンクリートを介して既設鉄筋に引っ掛けた形態とすることができる。したがって、本発明の剪断補強部材は、コンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担してひび割れの進展を防止できるとともに、剪断補強部材が既成鉄筋に引っ掛かっているので、剪断補強部材の抜けを防止できるので、鉄筋コンクリート構造物の剪断補強効果を著しく向上させることができる。
なお、剪断補強部材を、既設鉄筋の周囲のコンクリートを介して、既設鉄筋に引っ掛けた場合でも、剪断補強部材と既設鉄筋とが近接していれば、既設鉄筋に直接引っ掛けた場合と同等の剪断補強効果を発揮することができる。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物と、前記既設の鉄筋コンクリート構造物の補強面から内部に向かって延長するように形成された補強部材挿入穴と、この補強部材挿入穴の内部に挿入される剪断補強部材と、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填された充填材とを備えた鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、前記補強面に形成された溝を備え、前記補強部材挿入穴は、補強面側に設けられて当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋のうちの1本の鉄筋から既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第1の脚部挿入穴と、前記1本の鉄筋と平行で、かつ、前記第1の脚部挿入穴とは反対側に配置された鉄筋の前記1本の鉄筋とは反対側に、既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第2の脚部挿入穴とを有し、前記溝は、一端が前記第1の脚部挿入穴に連通し、他端が前記第2の脚部挿入穴に連通し、溝の深さが前記補強面から測った前記既設鉄筋の埋設深さよりも浅く、かつ、前記溝の溝底から前記既設鉄筋までの距離が前記既設鉄筋の径の2倍以下であり、前記剪断補強部材は、前記第1の脚部挿入穴に挿入される第1の脚部と、前記第2の脚部挿入穴に挿入される第2の脚部と、前記溝の溝底に配置されて前記第1の脚部と前記第2の脚部とを連結する連結部とを備えることを特徴とする。
このような構成を採ることにより、剪断補強部材を既設鉄筋に確実に引っ掛けるように配置できるので、鉄筋コンクリート構造物を効果的に剪断補強できる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造において、前記第1の脚部の前記補強面とは反対側の端部と前記第2の脚部の前記補強面とは反対側の端部の少なくとも一方もしくは両方に、当該第1及び第2の脚部の径よりも大きな径を有する定着部材が取付けられていることを特徴とする。
これにより、剪断補強部材を既成鉄筋に引っ掛けた効果に加えて、定着部材がコンクリートに引っ掛かるので、剪断補強部材の抜け防止効果を更に向上させることができる。
請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造において、前記剪断補強部材が1本の剪断補強筋をU字形に屈曲させて形成されることを特徴とする。
これにより、剪断補強部材の作製が容易になるとともに、脚部と連結部との接合部の強度も高くできるので、剪断補強効果を一層向上させることができる。
【0010】
また、請求項5に記載の発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物の補強面から内部に向かって延長するように形成された補強部材挿入穴と、前記補強部材挿入穴の内部に挿入された剪断補強部材と、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填される充填材とを備えた鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、前記補強面に設けられた溝を備え、前記補強部材挿入穴は、補強面側に設けられて当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋のうちの1本の鉄筋から既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第3の脚部挿入穴と、前記1本の鉄筋と平行で、かつ、前記第3の脚部挿入穴とは反対側に配置された鉄筋の前記1本の鉄筋とは反対側に、既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第4の脚部挿入穴とを有し、前記第4の脚部挿入穴の穴深さが前記第3の脚部挿入穴の穴深さよりも浅く、前記溝は、一端が前記第3の脚部挿入穴に連通し、他端が前記第4の脚部挿入穴に連通し、前記溝の深さが前記補強面から測った前記既設鉄筋の埋設深さよりも浅く、前記溝の溝底から前記既設鉄筋までの距離が前記既設鉄筋の径の2倍以下であり、前記剪断補強部材は、前記第3の脚部挿入穴に挿入される第3の脚部と、前記第3の脚部の長さよりも短い長さを有し、前記第4の脚部挿入穴に挿入される第4の脚部と、前記第4の脚部挿入穴に挿入される第4の脚部と、前記溝の溝底に配置されて前記第3の脚部と前記第4の脚部とを連結する連結部とを備えることを特徴とする。
このような構成を採ることにより、剪断補強部材が、1本の既設鉄筋を、既設鉄筋の延長方向を除く3方から取り囲む構成となるので、剪断補強部材を既成鉄筋に更に強固に引っ掛けることができる。したがって、剪断補強部材が一層抜け難くなるので、鉄筋コンクリート構造物の剪断補強効果を著しく向上させることができる。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造において、前記第3の脚部の前記補強面とは反対側の端部に、当該第3の脚部の径よりも大きな径を有する定着部材が取付けられていることを特徴とする。
これにより、剪断補強部材を既成鉄筋に引っ掛けた効果に加えて、定着部材がコンクリートに引っ掛かるので、剪断補強部材の抜け防止効果を更に向上させることができる。
請求項7に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造において、前記剪断補強部材が1本の剪断補強筋をJ字形に屈曲させて形成されることを特徴とする。
これにより、剪断補強部材の作製が容易になるとともに、脚部と連結部材との接合部の強度も高くできるので、剪断補強効果を一層向上させることができる。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、前記既設鉄筋が主鉄筋であることを特徴とする。
すなわち、主鉄筋は配力鉄筋よりもコンクリートの表面側に配置されるので、剪断補強部材を主鉄筋に引っ掛けた方が剪断補強部材の拘束する補強範囲が広くなり、より効果的な剪断補強ができる。
【0013】
また、請求項9に記載の発明は、既設の鉄筋コンクリート構造物に補強面から内部に向かって延長する補強部材挿入穴を形成し、この補強部材挿入穴の内部に剪断補強部材を挿入するとともに、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填材を充填して固化し、前記剪断補強部材を前記補強部材挿入穴に固定して前記鉄筋コンクリート構造物を補強する鉄筋コンクリート構造物の剪断補強方法において、前記剪断補強部材として、U字形もしくはJ字形に屈曲させた屈曲補強部材を用い、前記屈曲補強部材を、当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋の1本もしくは複数本を跨ぐように前記鉄筋コンクリート構造物のコンクリート中に挿入して固定するとともに、前記屈曲補強部材の屈曲部を前記補強面よりも内部に埋設することを特徴とする。
これにより、簡単な方法で、剪断補強部材を既設鉄筋に引っ掛けるように配置できるので、鉄筋コンクリート構造物の剪断補強効果を著しく高めることができる。
【0014】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造を示す図である。
【図2】図1の剪断補強構造を補強面側から見た図である。
【図3】本実施の形態1に係る鉄筋コンクリート構造物の剪断補強方法を示す図である。
【図4】本発明による鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造の他の例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造の一例を示す図である。
【図6】本実施の形態2に係る鉄筋コンクリート構造物の剪断補強方法を示す図である。
【図7】鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造の他の例を示す図である。
【図8】鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造の他の例を示す図である。
【図9】ボックスカルバートとその補強面を示す図である。
【図10】従来のボックスカルバートの剪断補強方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
実施の形態1.
図1(a),(b)は、本実施の形態1に関わるボックスカルバート20の補強構造を示す縦断面図で、(b)図は(a)図のA−A断面図(水平断面)である。各図において、11は補強部材挿入穴、12は剪断補強部材、13は充填材、21はボックスカルバート20の外壁である。
外壁21は、天井壁22と床壁23と2枚の側壁24とを備えた断面が長方形枠状をなす鉄筋コンクリート構造物で、地山Gに、図1の紙面の裏側から表側に向かう方向に延長するように埋設されている。また、25は壁22〜24に囲まれた空間を仕切る隔壁、26,27は既成鉄筋で、26が主鉄筋、27が主鉄筋26に直交する方向に配設された配力鉄筋である。
補強部材挿入穴11は、第1の脚部挿入穴11aと、第2の脚部挿入穴11bと、溝11cとを備える。第1及び第2の脚部挿入穴11a,11bは、ボックスカルバート20の側壁24の主鉄筋26と配力鉄筋27との間のコンクリートを、ドリル等の穿孔手段を用いて形成される。第1及び第2の脚部挿入穴11a,11bの延長方向は、側壁24の内側の面である補強面24aから側壁24の地山G側の面(外面)24bに向かう方向に延長する方向、すなわち、補強面24aにほぼ垂直な方向である。
ここで、図1(b)の上側をボックスカルバート20の奥側とし、同図の下側をボックスカルバート20の手前側とする。
第1の脚部挿入穴11aは、主鉄筋26aの奥側に設けられ、第2の脚部挿入穴11bは主鉄筋26aの手前側に配置されている主鉄筋26bの手前側に設けられる。
溝11cは、一端が第1の脚部挿入穴11aに連通し他端が第2の脚部挿入穴11bに連通するように、補強面24aの表面に設けられる。
剪断補強部材12は、補強部材挿入穴11に挿入されるU字形に屈曲した剪断補強筋で、第1の脚部12aと、第2の脚部12bと、第1の脚部12aと第2の脚部12bとを連結する連結部12cとを備える。
充填材13は、モルタルから成り、剪断補強部材12と補強部材挿入穴11との間の空隙に充填される。
【0018】
図2は、図1の剪断補強構造を補強面24a側から見た図で、同図の左側がボックスカルバート20の奥側で右側が手前側である。また、上側が地表側(上側)で下側が地山内部側(下側)である。
本例においては、図1,2に示すように、剪断補強部材12が、補強面24a側の主鉄筋26a,26bを跨ぐように配置されている。すなわち、剪断補強部材12が、第1の脚部12aと連結部12cとから成る奥側屈曲部12pにて主鉄筋26aに引っ掛けられ、第2の脚部12bと連結部12cとから成る手前側屈曲部12qにて主鉄筋26bに引っ掛けられる形態となっている。
これにより、ボックスカルバート20の側壁24に剪断力が作用すると、剪断補強部材12の第1及び第2の脚部12a,27bは、補強面24aにほぼ垂直な方向に延長する剪断補強筋であるので、コンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担する。その結果、側壁24のコンクリートに作用する剪断力を小さくすることができる。
また、剪断補強部材12に大きな引張りが作用した場合でも、本例では、剪断補強部材12が、主鉄筋26aと主鉄筋26bとに引っ掛かっているので、剪断補強部材12がひび割れしたコンクリートから分離する、いわゆる鉄筋抜けを防止できるので、ひび割れの進展を防ぐことができる。
すなわち、剪断補強部材12は、ひび割れに起因する引張り力を分担してひび割れの進展を防止するとともに、剪断補強部材12が、主鉄筋26a,26bに引っ掛かっているので、剪断補強部材12の抜け出しがない。したがって、ボックスカルバート20の剪断補強効果を著しく向上させることができる。
【0019】
本例では、図1(b)に示すように、剪断補強部材12の第1の脚部12aと主鉄筋26aとの距離Aと、第2の脚部12bと主鉄筋26bとの距離Bと、連結部12cと主鉄筋26a,26bとの距離Cとが、主鉄筋26a,26bの径Dの2倍以下となるように、補強部材挿入穴11を形成している。なお、第2の脚部12bと主鉄筋26bとの関係は、第1の脚部12aと主鉄筋26aとの関係と同じであるので、図1では、距離Bについては省略している。
剪断補強部材12は、主鉄筋26a,26bと直接接するように配置することが好ましいが、剪断補強部材12と配力鉄筋27bとの間にコンクリートがあっても、剪断補強部材12と主鉄筋26a,26bの距離が主鉄筋26a,26bの径Cの2倍以下と近接していれば、既設鉄筋に直接引っ掛けた場合と同等の剪断補強効果を発揮することができる。
【0020】
次に、本発明によるボックスカルバート20の剪断補強方法について説明する。
まず、図3に示すように、ドリルなどの穿孔手段を用いて側壁24に第1の脚部挿入穴11aと第2の脚部挿入穴11bとを形成する。このとき、第1の脚部挿入穴11aと主鉄筋26aとの距離aと、第2の脚部挿入穴11bと主鉄筋26aの手前側の主鉄筋26bとの距離bとが、主鉄筋26a,26bの径Dの2倍以下となるような位置に、第1及び第2の脚部挿入穴11a,11bを形成する。
次に、補強面24aに、第1の脚部挿入穴11aと第2の脚部挿入穴11bとを連通する溝12cを形成する。溝11cの深さtは、補強面24aから測った主鉄筋26aの表面までの距離Tと同じかそれよりも浅い。深さtとしては、溝11cの溝底から主鉄筋26a,26bまでの距離cが主鉄筋26a,26bの径Dの2倍以下となるような深さとすることが好ましい。
補強部材挿入穴11の形成後には、図4(a),(b)に示すように、剪断補強部材12を補強部材挿入穴11に挿入し、剪断補強部材12と補強部材挿入穴11との間の空隙にモルタルから成る充填材13を充填する。
これにより、補強部材挿入穴11に剪断補強部材12を挿入固定したときに、剪断補強部材12を、主鉄筋26a,26bとの距離が主鉄筋26a,26bの径Dの2倍以下であるように近接して配置することができるので、剪断補強部材12を主鉄筋26aと主鉄筋26bとに確実に引っ掛けることができる。
なお、充填材13の充填は剪断補強部材12の挿入前に行ってもよい。例えば、充填材13を補強部材挿入穴11に充填し、充填材13の硬化前に剪断補強部材12を挿入してもよい。
【0021】
このように、本実施の形態1では、既設の鉄筋コンクリート構造物であるボックスカルバート20の側壁24の補強面24aに、第1の脚部12aと第2の脚部12bと第1の脚部12aと第2の脚部12bとを連結する連結部12cとを備えたU字形に屈曲した剪断補強部材12を、2本の主鉄筋26a,26bを跨ぐように、かつ、主鉄筋26a,26bに近接して配置することで、第1及び第2の脚部12a,12bによりひび割れに起因する引張り力を分担させるようにするとともに、剪断補強部材12を主鉄筋26a,26bに引っ掛かるようすることで、剪断補強部材12の抜けを防止できるようにしたので、十分な剪断補強効果を得ることができるとともに、ひび割れの進展を確実に防止することができる。したがって、ボックスカルバート20の剪断補強効果を著しく向上させることができる。
【0022】
なお、前記実施の形態1では、ボックスカルバート20の側壁24を剪断補強する場合について説明したが、隔壁25や天井壁22や床壁23についても同様に補強できる。
また、本発明は、ボックスカルバート20のような地中構造物に限らず、橋脚や柱などの既存の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強にも適用可能である。
また、前記例では、U字状の剪断補強部材12を主鉄筋26a,26bに引っ掛けたが、図5に示すように、U字状の剪断補強部材12Zを、配力鉄筋27a,27bを跨ぐように配設することで、U字状の剪断補強部材12Zを配力鉄筋27a,27bに引っ掛けるようにしてもよい。
なお、鉄筋コンクリート構造物においては、主鉄筋の方が配力鉄筋よりも外側にあるので、主鉄筋に引っ掛けた方が剪断補強部材が拘束する補強範囲(補強幅)が広くとれるので、剪断補強部材をどちらか一方に引っ掛けるとすれば、本例のように、主鉄筋に引っ掛ける方が好ましい。また、一般に、主鉄筋の方が配力鉄筋よりも太いかあるいは数が多いので、この点からも、主鉄筋に引っ掛ける方が好ましい。
【0023】
また、剪断補強部材12を主鉄筋26a,26bに引っ掛け、剪断補強部材12Zを配力鉄筋27a,27bに引っ掛けてボックスカルバート20の側壁24を補強してもよいが、主鉄筋26a,26bの内側には配力鉄筋27a,27bが配置されているので、剪断補強部材12から伝わる引張り力を主鉄筋26a,26bと配力鉄筋27a,27bとで受け止めることができる。したがって、剪断補強部材12を主鉄筋26a,26bに引っ掛けるだけでも、ボックスカルバート20を十分に剪断補強できる。
なお、ボックスカルバート20に作用する剪断力がさらに大きくなると、曲げ圧縮側のコンクリートが圧壊して主鉄筋26a,26bが座屈する可能性があるが、剪断補強部材12を主鉄筋26a,26bに引っ掛けておけば、主鉄筋26a,26bが座屈を防ぐことができる。
【0024】
また、前記例では、U字状の剪断補強部材12を、2本の主鉄筋26a,26bを跨ぐように配設したが、3本以上の主鉄筋26を跨ぐように配設してもよい。但し、U字状の剪断補強部材12が跨ぐ主鉄筋26の本数が多くなると、連結部12cの長さが長くなり、その結果、主鉄筋26a,26bへの引っ掛け効果が低減するので、剪断補強効果を有効に発揮させるためには、U字状の剪断補強部材12が跨ぐ主鉄筋26の本数を4本以下にすることが好ましい。
なお、U字状の剪断補強部材12は、第1及び第2の脚部12a,12bを構成する剪断補強筋と、連結部12cを構成する剪断補強筋と溶接等で接合して作製してもよいが、本例のように、1本の剪断補強筋をU字形に屈曲させて形成する方が製造上は容易である。
【0025】
実施の形態2.
前記実施の形態1では、1本のU字形の剪断補強部材12を複数の主鉄筋26a,26bに引っ掛ける構成としたが、図6(a),(b)に示すように、剪断補強部材として、J字形の剪断補強部材32を用い、このJ字形の剪断補強部材32を1本の主鉄筋26に引っ掛ける構成にしてもよい。
J字形の剪断補強部材32は、第3の脚部32aと、第4の脚部32bと、第3の脚部32aと第4の脚部32bとを連結する連結部32cとを備える。第3の脚部32aは主鉄筋26の奥側に挿入される脚部で、第4の脚部32bは主鉄筋26の手前側に挿入される脚部である。第4の脚部32bは第3の脚部32aの長さよりも短い長さを有する。第4の脚部32bの長さとして、補強面24a側の主鉄筋26の位置よりも内部まで延長していればよい。
また、J字形の剪断補強部材32を挿入するための補強部材挿入穴31は、第3の脚部32aを挿入するための第3の脚部挿入穴31aと、第4の脚部32bを挿入するための第4の脚部挿入穴31bと、補強面24aの表面に設けられて一端が第3の脚部挿入穴31aに連通し他端が第4の脚部挿入穴31bに連通する溝31cとを備える。
【0026】
本例においては、J字形の剪断補強部材32を1本の主鉄筋26に引っ掛けたような形態とした。具体的には、第3の脚部32aの補強面24a側と連結部32cと第2の脚部32bとから成る折り返し屈曲部32rにて、J字形の剪断補強部材32を1本の主鉄筋26に引っ掛ける。
J字形の剪断補強部材32では、長い方の脚部である第3の脚部32aで側壁24のコンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担してボックスカルバート20の側壁24を剪断補強する。
なお、第3の脚部挿入穴31aを主鉄筋26の手前側に形成し、第4の脚部挿入穴31bを主鉄筋26の奥側に形成して、長い方の脚部である第3の脚部32aを主鉄筋26の手前側に配置し、短い方の脚部である第4の脚部32bを奥側に配置してもよい。
また、J字形の剪断補強部材32では、1本の主鉄筋26を、主鉄筋26の延長方向を除く3方から取り囲んでいるので、主鉄筋26への引っ掛かりが更に強固になる。したがって、剪断補強部材32は、実施の形態1の剪断補強部材12よりも抜け難くなるので、ボックスカルバート20の剪断補強効果を著しく向上させることができる。
なお、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、剪断補強部材32の第3の脚部32aと主鉄筋26との距離と、第4の脚部32bと主鉄筋26との距離と、連結部32cと主鉄筋26との距離とが、それぞれ、主鉄筋26の径の2倍以下となるように、補強部材挿入穴31を形成することはいうまでもない。
【0027】
なお、図7(a)に示すように、U字形の剪断補強部材12の主鉄筋26a,26b近傍に位置する箇所である連結部12c,奥側屈曲部12p,手前側屈曲部12qや第1及び第2の脚部12a,12bの外面24b側に予め防錆処理を施しておけば、剪断補強部材12と側壁24のコンクリートとを更に強固に一体化することができるので、剪断補強部材12の抜け出し防止効果を更に向上させることができる。
J字形の剪断補強部材12Zの場合にも、図7(b)に示すように、剪断補強部材12Zの主鉄筋26近傍に位置する箇所である折り返し屈曲部32rに予め防錆処理を施しておけば、剪断補強部材32と側壁24のコンクリートとを更に強固に一体化できるので、剪断補強効果を更に向上させることができる。
また、図8(a)に示すように、剪断補強部材12の第1及び第2の脚部12a,12bの補強面24aとは反対側(外面24b側)の端部に、それぞれ、第1及び第2の脚部12a,12bの径よりも大きな径を有する定着部材12mを取付けておけば、剪断補強部材12のコンクリートへの定着強度が向上するので、剪断補強効果を更に向上させることができる。
剪断補強部材32の場合には、図8(b)に示すように、長い方の脚部である第3の脚部32aの外面24b側の端部に定着部材32mを取付けておけばよい。
【0028】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、コンクリート内に発生するひび割れに起因する引張り力を分担してひび割れの進展を防止できるとともに、剪断補強部材の抜けを防止できるので、鉄筋コンクリート構造物の剪断補強効果を著しく向上させることができる。
【符号の説明】
【0030】
11 補強部材挿入穴、11a 第1の脚部挿入穴、11b 第2の脚部挿入穴、
11c 溝、12 剪断補強部材、12a 第1の脚部、12b 第2の脚部、
12c 連結部、13 充填材、
20 ボックスカルバート、21 外壁、22 天井壁、23 床壁、24 側壁、
25 隔壁、26,26a,26b 主鉄筋、27,27a,27b 配力鉄筋、
G 地山。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の鉄筋コンクリート構造物と、この既設の鉄筋コンクリート構造物の補強面から内部に向かって延長するように形成された補強部材挿入穴と、この補強部材挿入穴の内部に挿入される剪断補強部材と、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填された充填材とを備えた鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、
前記剪断補強部材は、U字形もしくはJ字形に屈曲して、当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋の1本もしくは複数本を跨ぐように前記補強部材挿入穴に挿入・固定され、
前記剪断補強部材の前記補強部材挿入穴に挿入されている部分を連結している屈曲部が前記補強面よりも内部に埋設されていることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項2】
既設の鉄筋コンクリート構造物の補強面から内部に向かって延長するように形成された補強部材挿入穴と、前記補強部材挿入穴の内部に挿入された剪断補強部材と、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填される充填材とを備えた鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、
前記補強面に形成された溝を備え、
前記補強部材挿入穴は、
補強面側に設けられて当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋のうちの1本の鉄筋から既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第1の脚部挿入穴と、
前記1本の鉄筋と平行で、かつ、前記第1の脚部挿入穴とは反対側に配置された鉄筋の前記1本の鉄筋とは反対側に、既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第2の脚部挿入穴とを有し、
前記溝は、一端が前記第1の脚部挿入穴に連通し、他端が前記第2の脚部挿入穴に連通し、溝の深さが前記補強面から測った前記既設鉄筋の埋設深さよりも浅く、かつ、前記溝の溝底から前記既設鉄筋までの距離が前記既設鉄筋の径の2倍以下であり、
前記剪断補強部材は、
前記第1の脚部挿入穴に挿入される第1の脚部と、
前記第2の脚部挿入穴に挿入される第2の脚部と、
前記溝の溝底に配置されて前記第1の脚部と前記第2の脚部とを連結する連結部とを備えることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項3】
前記第1の脚部の前記補強面とは反対側の端部と前記第2の脚部の前記補強面とは反対側の端部の少なくとも一方もしくは両方に、当該第1及び第2の脚部の径よりも大きな径を有する定着部材が取付けられていることを特徴とする請求項2に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項4】
前記剪断補強部材は、1本の剪断補強筋をU字形に屈曲させて形成されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項5】
既設の鉄筋コンクリート構造物の補強面から内部に向かって延長するように形成された補強部材挿入穴と、前記補強部材挿入穴の内部に挿入された剪断補強部材と、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填される充填材とを備えた鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造であって、
前記補強面に設けられた溝を備え、
前記補強部材挿入穴は、
補強面側に設けられて当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋のうちの1本の鉄筋から既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第3の脚部挿入穴と、
前記1本の鉄筋と平行で、かつ、前記第3の脚部挿入穴とは反対側に配置された鉄筋の前記1本の鉄筋とは反対側に、既設鉄筋の径の2倍以下離隔して形成された第4の脚部挿入穴とを有し、
前記第4の脚部挿入穴の穴深さが前記第3の脚部挿入穴の穴深さよりも浅く、
前記溝は、一端が前記第3の脚部挿入穴に連通し、他端が前記第4の脚部挿入穴に連通し、前記溝の深さが前記補強面から測った前記既設鉄筋の埋設深さよりも浅く、
前記溝の溝底から前記既設鉄筋までの距離が前記既設鉄筋の径の2倍以下であり、
前記剪断補強部材は、
前記第3の脚部挿入穴に挿入される第3の脚部と、
前記第3の脚部の長さよりも短い長さを有し、前記第4の脚部挿入穴に挿入される第4の脚部と、
前記溝の溝底に配置されて前記第3の脚部と前記第4の脚部とを連結する連結部とを備えることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項6】
前記第3の脚部の前記補強面とは反対側の端部に、当該第3の脚部の径よりも大きな径を有する定着部材が取付けられていることを特徴とする請求項5に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項7】
前記剪断補強部材は、1本の剪断補強筋をJ字形に屈曲させて形成されることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項8】
前記既設鉄筋が主鉄筋であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の鉄筋コンクリート構造物の剪断補強構造。
【請求項9】
既設の鉄筋コンクリート構造物に補強面から内部に向かって延長する補強部材挿入穴を形成し、この補強部材挿入穴の内部に剪断補強部材を挿入するとともに、前記剪断補強部材と前記補強部材挿入穴との間の空隙に充填材を充填して固化し、前記剪断補強部材を前記補強部材挿入穴に固定して前記鉄筋コンクリート構造物を補強する鉄筋コンクリート構造物の剪断補強方法において、
前記剪断補強部材として、U字形もしくはJ字形に屈曲させた屈曲補強部材を用い、
前記屈曲補強部材を、当該鉄筋コンクリート構造物の既設鉄筋の1本もしくは複数本を跨ぐように前記鉄筋コンクリート構造物のコンクリート中に挿入して固定するとともに、
前記屈曲補強部材の屈曲部を前記補強面よりも内部に埋設することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の剪断補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−214284(P2011−214284A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82251(P2010−82251)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】